1: 2016/08/23(火) 22:29:07.96 ID:unarPioj.net
凛「ライブ、盛り上がったにゃ!」

にこ「すごい熱気だったわね」

花陽「衣装が汗を吸って、とても重たいです~」

希「せやったら、早く脱いじゃおう!」

花陽「きゃあ! 希ちゃん、急にスカート脱がさないで!」

絵里「そうね、はやく着替えましょう。ほかのグループもこの楽屋を使うでしょうから」

真姫「海未、背中のチャック外してもらえる?」

海未「ええ。私のもお願いします」

穂乃果「あ、ことりちゃん、制汗剤新しいの買ったんだ」

ことり「うん。暑いからいいかなって。穂乃果ちゃんも使う?」

3: 2016/08/23(火) 22:30:36.56 ID:unarPioj.net
絵里「――無事に終わったわね、遠征ライブ」

穂乃果「うん、はじめて来る場所だったから不安だったけど」

凛「大成功だったにゃ」

ことり「来てよかったよね、真姫ちゃん」

真姫「どうして私にいうの?」

海未「最初反対していたからでしょうか?」

真姫「だって、急な依頼だったんだもの」

真姫「練習時間もあまりとれなかったし、東京から遠い会場だったから不安しかなかったし」

にこ「最後は、プロモーターさんに拝み倒されてしょうがなく参加って感じだったけど」

希「まあ、結果オーライってとこやん」

4: 2016/08/23(火) 22:31:42.54 ID:unarPioj.net
花陽「とっても疲れました。はやくホテルで休みたいです」

絵里「みんな着替え終わったし、そろそろ出ましょうか」

にこ「ホテルってどんな感じかしらね」

希「プロモーターさんの口ぶりだと、けっこういいところを用意してくれたみたいよ」

穂乃果「夕食はホテルのレストランを予約してくれたって」

凛「夜景のみえるレストランらしいにゃ」

ことり「わあ、すてき!」

海未「なんだか申し訳ないですね」

花陽「楽しみです。白米はおいしいでしょうか?」

真姫「もう、花陽はそればっかり」


――トントン

5: 2016/08/23(火) 22:33:41.76 ID:unarPioj.net
絵里「はい、どうぞ」


――カチャ

プロモーター「きょうはお疲れ様でした、あの――」

絵里「きょうは呼んでいただいてありがとうございました」

にこ「夏の終わりにいい思い出ができました」

プロモーター「人気のスクールアイドルにご参加いただけて、私どもも大変うれしく思っています。――それでお話が」

凛「地元のアイドルの子たちと共演できてたのしかったにゃ」

花陽「うん、どのグループも個性があって――」

プロモーター「え、ええ……」(汗ダラダラ)

海未「あの、どうかしましたか? なにかいいたいことが?」


プロモーター「――――」(平身低頭し、額を床に押しつける)

全員「――!?」

7: 2016/08/23(火) 22:35:36.33 ID:unarPioj.net
穂乃果「どうしたんですか!?」

絵里「とつぜん土下座するなんて!?」

真姫「なんなの!?」

ことり「どういう……」

海未「わけを話してもらえますか?」


プロモーター「すみません……。こちらの手違いでして。あの、誠心誠意対応させていただくつもりではありますが――」

にこ「だから、なんなの!?」


プロモーター「はい……」

プロモーター「実は……」

穂乃果「実は……?」

14: 2016/08/23(火) 23:00:32.38 ID:unarPioj.net
プロモーター「ホテルのお部屋をご用意することができませんでした」


にこ「――はぁ!?」

真姫「なによそれ!?」

凛「レストランも!?」


プロモーター「予約したものと思っていたのですが、されていなかったんです」

プロモーター「スタッフの手違いでした。本当に申し訳ありません」

ことり「そんな……困ります!」

プロモーター「本当に申し訳ありません」


海未「代わりの宿は……!?」

プロモーター「観光シーズンですので、どこも満室で」

希「そんなこといわれても、うちらどうしたらええの?」

16: 2016/08/23(火) 23:03:38.03 ID:unarPioj.net
プロモーター「泊まれる場所は確保しました。……代わりになるかはわからないのですが」

花陽「そんなことより、ごはんは!?」

真姫「それはいいから!」


絵里「……代わりというのは?」

海未「はっきりいって下さい!」

プロモーター「え、え、駅前のまんが喫茶です……」

穂乃果「二十四時間営業系の……?」

プロモーター「はい……」

全員(絶句……)


プロモーター「その……お食事場所は用意させていただきましたので……」

花陽「それを聞いて安心しました」

にこ「どこがよ!」

20: 2016/08/23(火) 23:12:10.53 ID:unarPioj.net
店員「ありがとうございましたっ!」

海未「いえ、どういたしまして」

真姫「海未、いちいち礼を返さなくていいから」


花陽「あー、おなかいっぱいですっ」

凛「ごはんいっぱいたべられてよかったね、かよちん」

にこ「食事はおおむね満足だったわ。これから、まんが喫茶に宿泊ってのが鬱だけどー」


絵里「はあ、宿のせいで一気に残念な遠征になってしまったわね……」

希「まあ、ご飯は美味しかったから堪忍しろ、えりち」

花陽「和洋折衷の味でとてもよかったです!」

穂乃果「ほんとう、穂乃果食べ過ぎちゃって……うわあっー!」

21: 2016/08/23(火) 23:16:50.13 ID:unarPioj.net
海未「――穂乃果!」

ことり「――穂乃果ちゃん!」

絵里「どうしたの!?」


穂乃果「ごめん……よろけちゃって」

穂乃果「ありがとう、海未ちゃん、ことりちゃん」

海未「暗いところなので気をつけて歩いてください」


ことり「確かに、あかりが乏しいね、ここ」

真姫「繁華街なのにずいぶんさびれているわね」

凛「店がほとんどが閉まっているにゃ」

にこ「暗いのは苦手。まんが喫茶に急ぎましょう」

22: 2016/08/23(火) 23:19:24.24 ID:unarPioj.net
凛「……なんかくさいにゃ……」

海未「どこかからすえた臭いがしますね……」

希「シャワールームのほうから漂ってくる」

真姫「きっと地下階に無理やりシャワールームをつくったものだから、臭いがこもっているのね」

にこ「きっつ。これじゃ、落ち着いて漫画なんかよんでられないわよ」

穂乃果「あ、あそこ受付だよ」


店員「いらっしゃいませ。ご予約の九名様ですか?」

絵里「はい」

店員「こちらへどうぞ。お席までご案内しますので」

23: 2016/08/23(火) 23:21:21.79 ID:unarPioj.net
店員「お席は、こちらになります」


にこ「ちょっとなによ、これ。ただの床じゃない!」

真姫「ここに雑魚寝しろっていうの!?」

希「それも六畳分ぐらいしかないやん。九人で寝たらかなり窮屈」

店員「すみませんが、観光シーズンのため、臨時のお席になります」


穂乃果「あの、パーティションが見当たらないんですけど……」

店員「臨時のお席になりますので、ございません」

海未「寝ている間、ほかのお客さんから顔をみられてしまうのですが!?」

店員「気になるようでしたら、自力でお隠しください」

海未「そ、そんな……」

24: 2016/08/23(火) 23:24:12.73 ID:unarPioj.net
店員「また、こちらの区画は漫画棚が設置されていますので、夜間消灯はいたしません」

ことり「それじゃ、眠れない……」


店員「インターネットやテレビは敷設されておりませんので、ご利用いただけません」

にこ「それは別にいいけど」


店員「――以上の条件で、ご了承いただけますか?」

真姫「これはちょっと……」

海未「知らないひとたちに寝顔をみられるなんて……いやです、いやです」

希「でも、ほかに行くところもないし……」

穂乃果「しょうがない……のかなあ」

花陽「パーティションぐらいは……」

店員「重ねていいますが、急遽用意した席ですので、そういうものはありません」

25: 2016/08/23(火) 23:25:54.14 ID:unarPioj.net
絵里「そとに案内板がありましたよね? ふたつほど貸していただけないでしょうか」

絵里「毛布を渡して使えば、パーティションの代わりになる」


凛「さすが絵里ちゃん、賢いにゃ!」

穂乃果「おお! それでいこう!」


店員「それはできません。案内板は必要なんですから」

凛「そこをなんとか」


店員「あのねえ、こちらもお客さんのために急いで用意したんですよ?」

店員「ワガママおしゃるなら、利用いただけなくて結構ですから」


真姫「そんないいかたはないんじゃない?」

にこ「感じ悪いわね……」

絵里「じゃあ、結構です! ご利用いたしませんから!」

26: 2016/08/23(火) 23:28:03.87 ID:unarPioj.net
希「――と、タンカ切って出てきちゃったわけだけど」

凛「絵里ちゃん、どこかあてはあるにゃ?」

絵里「こ、これからどうにかするわ」


にこ「ネットで、この辺のホテルの予約状況を調べてみても、やっぱり空きはないわね」

穂乃果「真姫ちゃん、お金のちからでなんとかならない?」

真姫「ならないわよ!」


花陽「となり町まで行って、旅館をさがすというのはどうでしょうか?」

海未「もう新幹線の最終が出てしまったところです」

ことり「在来線しか残ってない……」


希「それもベッドタウンっぽいところにしか止まらない列車ばっかりやね」

穂乃果「見知らぬ街で……こんなことになるなんて」

27: 2016/08/23(火) 23:31:38.19 ID:unarPioj.net
にこ「さては貧乏神にでもとりつかれているのかしら、わたしたち」

希「大丈夫やよ。うちらはなんも取り付いてへん」


凛「希ちゃんはスピリチュアルだからみえるんだよね」

希「そう、うちにはわかる」

希「貧乏神がついているのはにこっちだけや」

にこ「なんですって!?」


真姫「それはともかく、これからどうするつもり?」

海未「いざとなれば、どこかで野宿するしかないでしょう」


花陽「野宿!?」

真姫「私、絶対に無理」

28: 2016/08/23(火) 23:33:34.34 ID:unarPioj.net
絵里「こうなったら、残るは根気よ! ホテル一軒一軒あたってキャンセルがないか聞くわ」

真姫「電話でいいじゃない、そんなの」


海未「絵里に賛成です」

海未「こういう場合、電話よりも直接訪れたほうが誠意が伝わり、いい対応を引き出しやすいのです」


凛「ほんとかにゃ?」

ことり「もし部屋がなかったら……」

にこ「むだに疲れるだけね」


絵里「その可能性は考えないで。野宿確定よりマシでしょ?」

希「善は急げ。だれか、さっそく一番近くのホテル検索してくれん?」


穂乃果「待って、向こうにホテルの看板が見えるよ!」

43: 2016/08/24(水) 20:23:44.88 ID:zodhjpAX.net
穂乃果「ほら! 高架線の向こう。看板が光っている」


にこ「本当。行ってみる? 高架下沿いに歩けばすぐ着きそうよ」

絵里「そうしましょう。まずはあそこからね」



凛「――まだ着かないにゃ?」

希「近くにみえても遠いものやね」


花陽「このへんの道も暗いね。ちょっと怖い……」

凛「どこかで犬が遠吠えしているにゃ……」


にこ「泊まれる保証もないのに、こんな夜道を歩くなんて」

海未「もう少しでホテルです。がんばりましょう」

44: 2016/08/24(水) 20:26:34.88 ID:zodhjpAX.net
穂乃果「やっと着いたあ」

にこ「おもったより大きいじゃない。いち、に、さん……八階まである?」

絵里「いいえ、よく見て。九階よ」


希「――――――!!」

絵里「九階はどこも消灯しているからみえなかったのね」


真姫「なんだか陰気なホテル……」

花陽「中途半端に古い感じだね」

にこ「ほんとうに営業しているのかしら」


絵里「当然でしょ。ロビーにもちゃんとあかりが点いているわ」

海未「とにかく中にはいりましょう」


凛「あれ? 希ちゃん、どうかした?」

希「――ううん。なんでもない」

希「気のせい……よね」

46: 2016/08/24(水) 20:27:55.93 ID:zodhjpAX.net
ことり「ロビーには普通にお客さんがいるね」

にこ「なんだか安心するわね」


花陽「あれ、カウンターに受付の人がいません」

穂乃果「呼び鈴があるよ」


凛(ピンポンピンポンピンポーン)

海未「凛、連打してはいけません」


希「…………」

花陽「…………」

穂乃果「誰もこないね……」


凛(ピンポンピンポンピンポーン)

海未「凛、連打してはいけません」

47: 2016/08/24(水) 20:29:54.76 ID:zodhjpAX.net
絵里「すみませーん!」

穂乃果「だれかいませんかー!」

にこ「もう、受付係はなにしているのかしら?」


海未「あ、廊下の奥から誰かきますよ」

凛「モップ片手に走って来るにゃ」


穂乃果「掃除していたのかな?」

真姫「明らかにスタッフ足りてない感じじゃない」


受付係「はあはあ。たいへんお待たせしてすみません。ご予約のお客様でしょうか?」

絵里「いえ……」

海未「私たち、実は――」

49: 2016/08/24(水) 20:32:09.02 ID:zodhjpAX.net
受付係「――そういうことでしたか」

受付係「申し訳ありませんが、お部屋は満室になっておりますので……」

凛「満室にゃ……」


受付係「観光シーズンですので……」

にこ「はいはい、観光シーズンね」


絵里「九人でも一部屋あれば十分なんです。空きはないでしょうか?」

受付係「ですから申し上げたとおり、満室なんです。ご理解ください」

希「ほなら引き返そうか?」


穂乃果「あのー、いいですか?」

受付係「はい?」

50: 2016/08/24(水) 20:33:46.97 ID:zodhjpAX.net
穂乃果「奥の壁に掛かっているボードですけど、これって各階の見取り図ですよね」

穂乃果「これには利用されている部屋とされてない部屋が赤丸と白丸で明示されている、そうですよね?」

受付係「…………」


穂乃果「これによると、最上階の九階は空いているんじゃないですか、全室?」

凛「あー、あの全部消灯してたとこにゃ」


受付係「誰のしわざだよ、九階は表示するなってあれほど……」(小声)


真姫「……穂乃果ってたまにすごく鋭いわね」

海未「みょうに観察力を発揮するときがあるんです」


受付係「すみませんが、最上階は利用できない決まりでして……」

絵里「どうしてですか? 空いているのならどこでもいいのですが」


受付係「しかし……」

支配人「――どうした、なにか問題でもあったのか?」

受付係「あ、支配人」

51: 2016/08/24(水) 20:36:37.14 ID:zodhjpAX.net
支配人「――なるほど、お客様はそういう事情なのですね」

絵里「はい」


支配人「でしたら、至急お部屋を用意しましょう」

受付係「ダメです、九階は……!」

穂乃果「?」


支配人「女の子ばかり路頭に迷わせるわけにはいかないだろう。特別にあけなさい」

受付係「しかし……」

支配人「命令だ。お連れしなさい」

受付係「はい……」


花陽「なんだか泊まれそう……?」

にこ「期待できるわね!」

52: 2016/08/24(水) 20:38:01.81 ID:zodhjpAX.net
受付係「――お部屋をご用意いたしますので、少々お待ち下さい」

穂乃果「やったあ!」

凛「泊まれるにゃ!」


ことり「はあ、これでひと安心だね」

絵里「なんとかなってよかったわ」

希「…………そうやね」


海未「すみません」

支配人「はい、なんでしょう?」

海未「九階は普段利用されていないようですが、理由は?」


支配人「それは……」

穂乃果「それは?」

53: 2016/08/24(水) 20:40:15.94 ID:zodhjpAX.net
支配人「経営上の判断です。打ち明けますと、当ホテルは、平日はあまり利用されるかたがおりません」

支配人「空き部屋を少しでも減らしたい。商売上、空室率は少ないほうがいいんですよ。そこで九階は利用禁止にしています」

支配人「……あまりお客様にお聞かせする話ではないのですが」


海未「そういうことでしたか」

穂乃果「よくわからないんですけど、わかりました」

凛「凛も、わかりましたにゃ」

真姫「本当にわかっているの?」


海未「立ち入ったことを聞いてすみません」

支配人「いいんです。さて、準備ができたようですよ」


案内係「エレベーターへどうぞ。ご案内します」

56: 2016/08/24(水) 20:57:20.53 ID:zodhjpAX.net
>>55
あってもよかったかなと

57: 2016/08/24(水) 20:58:26.11 ID:zodhjpAX.net
ことり「すごい……」

にこ「なんだかこの九階だけ雰囲気が違う感じね……」

凛「ここだけ高級ホテルみたい……」


花陽「真姫ちゃん、エレベーターホールにグランドピアノがあるよ」

真姫「これスタインウェイ……」

穂乃果「ホルスタイン?」


ことり「それ牛……」

絵里「けっこうな年代物ね。ただの置物にするにはかなりの贅沢品よ」

真姫「……後でさわらせてもらってもいいですか?」


案内係「夜も遅くなってきましたので、音をおさえて弾いていただけるのなら」

真姫「当然です。ありがとうございます」

59: 2016/08/24(水) 20:59:19.58 ID:zodhjpAX.net
海未「利用禁止のフロアなのに、ピアノには埃ひとつありませんね!」

案内係「そこはホテルマンとしての職業意識というやつでして、毎日全フロアを清掃しているんです」


にこ「普段使ってないところにそこまでするの!?」

真姫「これだけのピアノのがあるのに利用禁止だなんて……」


絵里「――希?」

希「…………」


凛「希ちゃん、どうしたにゃ?」

にこ「ちょっと、顔が青いわよ」

希「なんだか……疲れが出てきたみたいや」


絵里「さっきから様子がおかしかったものね。早く休みましょう」

案内係「ではお部屋まで急ぎましょう」

60: 2016/08/24(水) 21:01:01.03 ID:zodhjpAX.net
にこ「これだけ立派な階に私たちだけってのもなんか心細いわね」


ことり「この階には何部屋ぐらいあるんですか?」

案内係「十二部屋です。ほかの階は十六部屋あるんですが、スペースを広く取っていますので、そのぶん部屋数は少なくなっています」


凛「部屋って広いの? もしかして、凛たちが泊まるのはスイートルーム!?」

案内係「スイートルームというと大げさですが、広い分料金は高めに設定しておりました」


穂乃果「どうしよう! 穂乃果たちそんなにお金持ってたっけ?」

案内係「ご安心下さい。支配人からは通常の料金での宿泊とするようにいわれてますので」

穂乃果「よかった~」

にこ「支配人さんがいいひとでよかったわ!」


海未「……うーん」

ことり「海未ちゃん、どうかした?」

海未「あ、いいえ。なんでもありません」

61: 2016/08/24(水) 21:02:06.33 ID:zodhjpAX.net
案内係「お部屋はこちらにです。三部屋でのご利用になります」

絵里「部屋割りはどうしようかしら?」

穂乃果「夜更かししたいひと!」

凛「はい!」

にこ「はい!」

絵里「まずは一組」

希「うちは、はやく寝たいかな」

花陽「花陽も……」

絵里「私もそうね」

海未「それでは、ことりと真姫は私と」

ことり「うん」

真姫「わかったわ」

案内係「では、なにかありましたらお呼びください」

62: 2016/08/24(水) 21:02:51.44 ID:zodhjpAX.net
絵里「部屋のなかも豪華……」

海未「ベッドが四つもあって、その分スペースも広めにとられていますね」


凛「ベッドがふかふか! これなら気分よく寝れそうにゃ!」

花陽「バスルームだってふたりで入れそうな広さです!」

真姫「たしかにスイートってほどじゃないけど、贅沢な感じの部屋ね」


ことり「みてみて、ベランダもあるよ」

穂乃果「あはは……夜景は……あんまりきれいじゃないね……」


にこ「うわ、大きな人物画が飾ってあるわ。いくらぐらいするのかしら?」

凛「このひと、にこちゃんにそっくり」

にこ「どこがよ!」

63: 2016/08/24(水) 21:04:52.47 ID:zodhjpAX.net
希「…………してください」

希「…………うちらのことはどうか…………見逃して」

希「…………お願い…………」


絵里「希ったら、部屋のすみでなにしているの? また、お祈り?」

希「えりち……ううん、なんでもないよ」


穂乃果「ご案内のペーパーがある。ええと、三階大浴場は深夜1時まで。二階売店は深夜0時まで」

凛「まだ売店やってるにゃ。いきたい! いこうよ、みんなで」

にこ「そうねえ。喉もかわいたし」


希「うちは遠慮しておく。疲れたし部屋に戻るわ」

絵里「ごめんなさい、私も希と行くわ」

穂乃果「そう、残念」

64: 2016/08/24(水) 21:06:04.21 ID:zodhjpAX.net
希「ねえ、にこっち、穂乃果ちゃん、凛ちゃん」

穂乃果「なあに?」

凛「なあに、希ちゃん」


希「きょうは遅くまで起きるらしいけど、あんまり騒がないほうがいいで」

にこ「当たり前でしょ。ちゃんと節度は守るわよ」


希「そういうことやなしに、きょうはにこっちたちも疲れとるし、体にさわらんように」

にこ「わかった、わかった」


希「真姫ちゃんも、あんまり熱上げてピアノ弾かんようにな」

真姫「ええ。もちろんよ」

希「よかった。夢中になりすぎちゃうところがあるからね、真姫ちゃんも」

65: 2016/08/24(水) 21:06:42.78 ID:zodhjpAX.net
凛「なんだか、希ちゃん、お母さんみたいだにゃ」

希「うふふ。じゃあ、寝ようか、えりち」

絵里「そうね、行きましょうか」


凛「えー、かよちんも行っちゃうの?」

花陽「ごめんね、凛ちゃん」


真姫「私も行くわ」

ことり「おやすみなさい、穂乃果ちゃん」

海未「夜更かししすぎないように注意してください」


穂乃果「ことりちゃんと海未ちゃんと真姫ちゃんもいなくなっちゃった」

にこ「もう、こうなったら私たちだけで遊び倒すわよ!」

凛・穂乃果「おー!」

84: 2016/08/25(木) 18:43:16.51 ID:8pYQJoX+.net
自主的保守

87: 2016/08/25(木) 21:34:57.51 ID:8pYQJoX+.net
かく

88: 2016/08/25(木) 21:36:00.93 ID:8pYQJoX+.net
――ポロロロン

真姫(まさかチューニングまでされているなんてね)

真姫(さすがスタインウェイ。洗練された音……)


真姫(鍵盤の重みも指に馴染むよう。フレーズがなめらかに出てくるわ)

真姫(いつまでも弾き続けていたい……)


――パチ


真姫「え――!?」


真姫(拍手?)

真姫「だれ? 凛?」


真姫(――うしろにはだれもいない?)

90: 2016/08/25(木) 21:37:16.24 ID:8pYQJoX+.net
真姫(そら耳かな……)

真姫(私、疲れているのかしら)


――ポロン

真姫「…………」

真姫(なんだか不気味……)


真姫(静まり返っていて、ひとの気配がまったくしない)

真姫(この階にはわたしたちしかいないんだから当然か……)

真姫(にこちゃんが『心細い』っていったのもわかるわ)


真姫(そろそろ部屋に戻ろうかな)


真姫(――誰か近づいてくる)

91: 2016/08/25(木) 21:38:45.73 ID:8pYQJoX+.net
穂乃果「あ、真姫ちゃん」

にこ「真姫ちゃんったらさっそくピアノ弾いてる」

真姫「穂乃果、凛、にこちゃん……」


真姫(なるほど、穂乃果たちだったのね。さっきの音も)


凛「一曲弾いてみてほしいにゃ」


真姫「なにいっているのよ、さっき弾いたでしょ」

穂乃果「え?」

にこ「わたしたちは聞いてないわよ?」


真姫「えっ……」

真姫(確かに、弱音ペダルを踏んでたから音はそんなに響かないか……)


真姫(じゃあ、さっきの拍手の音は……気のせい?)

92: 2016/08/25(木) 21:43:48.02 ID:8pYQJoX+.net
凛「凛たちはこれから二階の売店に行くところなんだけど、真姫ちゃんも一緒にくるにゃ?」

穂乃果「おやつとかジュースとかいっぱい買うよ!」


真姫「いえ、私はもう部屋に戻るわ」

穂乃果「そうなんだ、おやすみなさい」

真姫「おやすみ。売店でお酒とか買っちゃダメよ」


にこ「飲酒なんてぜったいにしないわよ。私がついているんだから」

真姫「だから心配なのよ」

にこ「なんですって?」

真姫「冗談。おやすみなさい」


にこ「はいはい、おやすみなさい」

凛「おやすみ真姫ちゃん!」

93: 2016/08/25(木) 21:44:46.82 ID:8pYQJoX+.net
真姫「ただいま」

ことり「おかえり、真姫ちゃん」


海未「ピアノはどうでしたか?」

真姫「とてもよかったわ。チューニングもされていて、普段使われていないのがうそみたい」


海未「そうですよね……」

ことり「…………」


真姫(なにか変ね。海未に……ことりも)

真姫「ねえ海未、なにか考えている?」


海未「はい。さっきことりとも話していたんですが」

海未「なにか不自然だなと」

真姫「不自然? なにが不自然なわけ?」

94: 2016/08/25(木) 21:47:17.64 ID:8pYQJoX+.net
海未「この階を利用禁止にする理由がまったく分からないんです」

真姫「支配人さんがいっていたでしょ、空室率を下げるためだって……」


海未「しかし、利用禁止にするには、この階は特徴的すぎるんです」

真姫「特徴的?」


海未「見てください、この部屋の調度品の数々。美術品も多く飾られています」

海未「高級志向で、明らかに上等なお客さんを当て込んでいます」


ことり「真姫ちゃんもグランドピアノの豪華さをみてきたよね?」

真姫「それは――そうね」


海未「部屋数もほかの階より少ないという話ですが、空室率を下げるならほかの階を利用禁止にしたほうがいい」

95: 2016/08/25(木) 21:48:48.78 ID:8pYQJoX+.net
海未「部屋数の母数をなるべく少なくしたほうが、空室率を下げるのには役立ちますから」


ことり「あと、いまは観光シーズンだっていうのにどうして開放していないのかな? 繁盛期に閉鎖したままなんて」

真姫「確かに」


海未「そういうわけで、この階を使っていないというのはどうも不自然な気がするんです」

ことり「ホテルのひとたちも、なにか隠しているみたい……」


真姫「だとしたら、この階が利用禁止なのはなぜなのかしら?」

海未「それは……分かりませんが」


真姫「なんだか頭痛くなってきちゃった……」

ことり「真姫ちゃん大丈夫?」


真姫「……もう休みましょう。私も疲れているみたいなの」

海未「はい……。ちょっと気になっただけですので」

96: 2016/08/25(木) 21:51:21.11 ID:8pYQJoX+.net
希「――――」

絵里「希ったら相当疲れていたのね」

花陽「部屋に着くなりすぐ眠っちゃったね」


絵里「私たちも寝ましょうか。シャワーの順番はどうする?」

花陽「はやく寝たいし、バスルームも広いから一緒にはいろうか?」

絵里「そうね、そうしようかしら」


ちゃぷ……


花陽「ふう……」

絵里「広いバスタブで心地いいわね」

花陽「本当、ふたりで足を広げてもまだ余裕です」

花陽「お湯がバラのにおい。すてきです……」

97: 2016/08/25(木) 21:55:50.13 ID:8pYQJoX+.net
絵里「本当。薔薇ジャムのロシアンティーにつかっているようで楽しいわ」

花陽「……」

花陽「あははは」


絵里「な、なに? 私なにか変なこといった?」

花陽「ううん、でも、面白い発想だなあと思って」


絵里「もう、からかわないでよ、花陽」(顔真っ赤)

絵里「希じゃないんだから……」

花陽「ごめんごめん。それにしてもよかったね、無事に宿に泊まれることができて」


絵里「本当ね。まんが喫茶から出てきた時はどうなることかと思ったわ」

絵里「こうして湯船に浸かるなんて――――」


花陽「……絵里ちゃん?」

絵里「静かに」

99: 2016/08/25(木) 21:58:02.07 ID:8pYQJoX+.net
絵里「なにか聞こえない?」

花陽「えっ?」

花陽「…………」


――トン

花陽「本当だ」

花陽「……かすかに聞こえる。誰かが部屋のドアをノックしている」


絵里「誰かしら?」

花陽「凛ちゃんかな?」


――トン

花陽「ドアのところに入浴中のお札下げてくるの忘れちゃったね、そういえば」

絵里「気になるわね。ちょっとみてくる」

絵里(シャワーカーテンを開け、バスタオルを体に巻く)

100: 2016/08/25(木) 21:59:48.00 ID:8pYQJoX+.net
――トン

絵里「はい」

――トン

絵里「どなたですか?」

――トン

絵里(ほんとうに、誰なのかしら?)

絵里(おそるおそる覗き穴をのぞく)

絵里(廊下にはだれもいない)

絵里(毛足のながい赤い絨毯と、純白の壁が見えるばかり……)


花陽「おかえり絵里ちゃん、だれだったの?」

ざぶん

絵里「だれもいなかった」

101: 2016/08/25(木) 22:01:19.64 ID:8pYQJoX+.net
花陽「だれもいなかったの?」

花陽「…………」

絵里「…………」


花陽「凛ちゃんたちのいたずら……?」

絵里「よく考えたら、ついさっき売店まで降りていったみたいじゃない」


花陽「じゃあ、海未ちゃんたちが……」

絵里「まさか」


花陽「……絵里ちゃん」

絵里「なにかしら」


花陽「こんや同じベッドで寝てもらってもいい?」

絵里「ええ。私からもぜひ……」

102: 2016/08/25(木) 22:03:12.57 ID:8pYQJoX+.net
にこ「このメンツだと説教臭いのがいなくていいわね~」

穂乃果「海未ちゃんがいたらいまごろ、『早く寝なさい』って怒っているところだよ」


凛「チョコさきいか食べるにゃ?」

穂乃果「やったー!」

にこ「いただくわ」


穂乃果「いっぱい遊んだね。夜更かしして、深夜番組見て、お菓子を食べて……」

凛「定番の枕投げをまだしてないにゃ」

にこ「それはやめておきましょ。さすがにうるさくしちゃうわ。右どなりの部屋は海未、左どなりは絵里がいるんだから」


穂乃果「そうだね。枕投げはやめておこう」

にこ「じゃあ、これ食べたら、歯をみがいて寝……」


穂乃果(おもむろに枕を投げる)

にこ「ぐえっ! 穂乃果、あんたね~」

103: 2016/08/25(木) 22:04:16.10 ID:8pYQJoX+.net
穂乃果「やったあ。にこちゃんの顔面に命中したっ」

凛「穂乃果ちゃん、不意打ちはよくないにゃ。枕投げは合図してから投げるのが礼儀にゃ」

凛(おもむろに枕を投げる)


にこ「ぐえっ! なにするのよ凛! アンタたちゆるさないわよ!」

穂乃果「うわあ! にこちゃんが怒った」


にこ「えいやっ!」(勢いよく枕を投げる)

穂乃果「ひょい!」

凛「ひょい!」


にこ「よけるんじゃないわよ! 当たりなさい!」

穂乃果「にこちゃん、それじゃ当たらないよ~」


凛「えいっ!」

にこ「ぐえっ!」

104: 2016/08/25(木) 22:05:36.71 ID:8pYQJoX+.net
にこ「絶対に許さないんだから!」

にこ「くらいなさい、全力枕アタック!」

にこ「とぅ! ――あ、あれ」


凛「あっ!」

穂乃果「絵が……!」

にこ「絵に……当たっちゃった……」


(絵は壁からはずれ、床に落ちる)

(ガシャン。額縁が割れ、絨毯のうえに透明な破片が散乱する)


にこ「やってしまったわ……」

穂乃果「ど、どうしよう」

凛「ホテルのひとに怒られちゃう……」

105: 2016/08/25(木) 22:06:44.52 ID:8pYQJoX+.net
にこ「私のせいね……」

穂乃果「にこちゃん……」


にこ「あーあ、弁償しなきゃね。こういうのって十万円ぐらいするのよね……」

穂乃果「うそっ!」


にこ「あんたたちはいいわ。ちょっとロビーまでいってくる」

穂乃果「穂乃果もいくよ。はじめたのは穂乃果だから」


にこ「……いいのよ。私がちょっとはしゃぎ過ぎちゃっただけだから」

穂乃果「そんなことないよ。ねえ凛ちゃん、凛ちゃんも一緒に行こう!」

凛「…………」


穂乃果「凛ちゃん……?」

穂乃果「凛ちゃん、顔が真っ青だよ」


にこ「どうしたのよ凛、なぜ壁のほうを指さしているの?」

凛「……みて……」

106: 2016/08/25(木) 22:07:58.50 ID:8pYQJoX+.net
にこ「どうしたっていうのよ?」

穂乃果「壁に、なにが……」


にこ「!!!」

穂乃果「う……うわ」

凛「…………」


にこ「な、なんなのよこれえ!」

凛「知らない……知らない」


にこ「これ……御札よね。魔除けの」

穂乃果「なんで……なんでこんなに」


(絵がかかっていた壁には、まんべんなく御札が貼り付けてあった)


穂乃果「絵の後ろにこんなものが……」

穂乃果「――あ!」


(突然、絵の中の人物がほほえんだ。床に落ちた絵の中の人物が。穂乃果に向けて)

107: 2016/08/25(木) 22:09:38.66 ID:8pYQJoX+.net
穂乃果「――――はっ!」

穂乃果「ゆ……夢?」


穂乃果(消灯されていて、部屋は真っ暗。三人とも浴衣で就寝している)

凛「すやすや……」

にこ「すやすや……」


穂乃果(そうだ。穂乃果たち枕投げはせずに寝ることにして……)

穂乃果(――よかったあああ。夢だ!)


穂乃果(壁に掛かっている絵もそのまま)

穂乃果(……弁償しなくていい!)



穂乃果(…………)

穂乃果(あの絵の後ろには……なにもないよね?)


穂乃果(とてもいま、確かめる勇気なんてない)

穂乃果「ううっ。まだ夜中の二時なのに、眠れなくなっちゃったよお」

109: 2016/08/25(木) 22:11:11.65 ID:8pYQJoX+.net
海未「――――」

ことり「海未ちゃん、海未ちゃん」


海未「――――」

ことり「起きて、海未ちゃん」


海未「――――」

海未「ことり……?」


ことり「よかった、起きてくれた」


海未(眠い目をこすり、枕元のデジタル時計をみる)

海未「どうしたのですか、起きるにはちょっと早いと思うのですが」


ことり「変なの……」

海未「変……? なにが変なのです?」

ことり「真姫ちゃんがいないの」

110: 2016/08/25(木) 22:11:37.81 ID:8pYQJoX+.net
つづく

128: 2016/08/26(金) 22:01:13.28 ID:DV4OcY1e.net
海未「真姫が?」

(海未は電灯をつけた。真姫のベッドはもぬけの殻。折り目よくタオルケットが敷かれている)


海未「トイレではないのですか?」

ことり「トイレにはいなかった……」


海未「売店にでも出たんでしょうか? いや、この時間なら閉まっていますね」

ことり「……ことりみちゃったの」

海未「見た? なにをみたのです?」


ことり「物音がして……目が覚めて……」

ことり「誰かが外に出て行くのを」

海未「それが真姫だったというんですか?」


ことり「多分」

海未「多分?」

ことり「だって、外に出て行った人影は……二人分あったから」

129: 2016/08/26(金) 22:02:09.61 ID:DV4OcY1e.net
海未「……この部屋にいたのは私と真姫とことりの三人……」

ことり「…………鍵はかかっていたし、誰もなかに入れなかったはずなんだけど」


海未「誰かが電話で真姫を起こしてなかに入り、ふたりで出て行ったとか?」

ことり「どこに?」


海未「……みんなに真姫がきていないか聞いてみます」

ことり「待って、ことりも一緒に」



(部屋を出る。廊下は重い苦しい沈黙が漂っている)


海未「…………」

ことり「どっちの部屋から行く?」

海未「そうですね――」


――ガチャ

130: 2016/08/26(金) 22:03:45.30 ID:DV4OcY1e.net
ことり「穂乃果ちゃん」

海未「穂乃果、起きていたのですか」

穂乃果「ちょっと……眠れなくて」


穂乃果「それにしても、さっきからどうしたの?」

海未「さっきから、というと?」


穂乃果「さっきも戸を開け閉めする音がして、だれかが外にでていった」

穂乃果「真姫ちゃんかな?」

海未「穂乃果、戸を開け閉めする音、というのは何回聞こえましたか」


穂乃果「えーと、二回だよ。さっきと、海未ちゃんたちが出てきた時」


海未(だれかが部屋に入ってきて、真姫を連れて出ていった。そして次にわたしたちが出てきた)


海未(それなら都合三回、開閉音がしていないとおかしい)

海未(その人物は……どうやって私たちの部屋に入ってきたのでしょうか?)

131: 2016/08/26(金) 22:04:23.00 ID:DV4OcY1e.net
にこ「こんな遅くにどうしたのよ~」

凛「穂乃果ちゃんたちうるさいにゃ~」


ことり「にこちゃん、凛ちゃん」

海未「一応聞きますが、三人の部屋に真姫はきていませんか?」


凛「真姫ちゃん?」

にこ「真姫はきてないわよ?」


絵里「――なんの騒ぎ?」

花陽「ねむいよお~」

穂乃果「あ、絵里ちゃんたちも起きてきちゃった」


海未「真姫がいないのです。絵里たちの部屋には?」

絵里「……?」


花陽「きていないけど」

海未「そんな……では、真姫はどこへ?」

132: 2016/08/26(金) 22:04:59.84 ID:DV4OcY1e.net
希「みんなで真姫ちゃんを探しに行こう」

海未「希……」

絵里「もう体調はいいの?」


花陽「このホテル、なにかおかしいです」

絵里「そうね……さっきもノックする音だけ聞こえて」

にこ「う、うそ」

穂乃果「穂乃果もとても怖い夢みちゃった」


希「とにかく探しに行こう」

希「――真姫ちゃん、無事だとええんやけど」


にこ「な、なんなのよ。希ったらなにか知っているの?」


希「あとで話すわ――」

133: 2016/08/26(金) 22:05:47.78 ID:DV4OcY1e.net
真姫(これは私の夢……)


真姫(コンサートホールのステージ上で、ピアノを弾いている)

真姫(スタインウェイのグランドピアノ。とてもすてきな音色)


(――パチパチパチパチ。各席から割れんばかりの拍手が送られる)


真姫(客席は満席。みんな満面の笑みをうかべている)

真姫(不思議なひとたち。そろいの白衣みたいな服を身に付けている)



少女「ねえ、ピアノ終わっちゃったの?」

真姫「えっ。うん」

少女「もっと聞きたい。もっと聞きたいよ」

134: 2016/08/26(金) 22:07:00.13 ID:DV4OcY1e.net
真姫(十歳ぐらいの、髪の長い女の子)

真姫(この子は……?)


真姫(そうだ、さっき気づいたら枕元にこの子が立っていて)

真姫(そして、手を引かれてきたんだ……)


少女「もっと聞きたい。もっと聞きたいよ」

真姫「ピアノ、好きなの?」

少女「うん、大好き」


少女「おねえちゃんの弾くピアノはとっても好き」

少女「もっと聞きたい。もっと聞きたいよ」


真姫(ピアノでここまで求められるなんて初めてかも。悪い気はしないわね)

真姫「いいわよ。じゃあ、次は……」


少女「来て、おねえちゃん」

135: 2016/08/26(金) 22:07:34.66 ID:DV4OcY1e.net
真姫「えっ。ちょっと、ピアノは?」


少女「こっちにもっといいピアノがあるの」

少女「だから来て、おねえちゃん」


真姫(すごい力……引っ張られる……)

真姫(いたいいたい)


真姫「ね、ねえ。どこに行くの?」

少女「もっと素敵なところ」


(ステージを離れると、薄暗い廊下が続いていた)


真姫「素敵なところってどこ?」


少女(笑う)

136: 2016/08/26(金) 22:08:28.21 ID:DV4OcY1e.net
穂乃果「なんだろう、この廊下。すごく空気が重い……」

凛「さっきとは雰囲気がちがう……なんだか怖い」


絵里「離れないようにして、よりそって歩きましょう」

ことり「あ、希ちゃん!」

海未「ダメです、ひとりで走り出したりしては!」


希「――いた」

希「真姫ちゃんが、あそこに」

穂乃果「あっ!」


(エレベーターホール。グランドピアノにもたれかかるように真姫が倒れていた)

穂乃果「真姫ちゃん――――」

穂乃果「――――――」

137: 2016/08/26(金) 22:09:58.99 ID:DV4OcY1e.net
真姫「――――」

真姫「――――あれ、私?」


にこ「よかった……目覚めたのね、真姫ちゃん」

真姫「にこちゃん、それからみんなも?」

真姫「ここは……」


穂乃果「穂乃果たちの部屋だよ。真姫ちゃんがピアノの前で倒れていたから連れてきたの」

真姫「ピアノの前で……? なんでそんなところにいたのかしら?」


絵里「どうやら真姫はあそこに連れていかれたみたいなの」

真姫「そんな、誰が私を……?」


真姫「…………」

真姫「夢でならみたわ。……小さな女の子が」

138: 2016/08/26(金) 22:10:28.15 ID:DV4OcY1e.net
真姫「小さな女の子が私の枕元に立っていて」

真姫「私の手を引いてコンサート会場まで連れていてく夢」


希「その女の子というのは……髪の長い女の子だった……?」

真姫「そうよ!」

真姫「――希、どうしてそれを!?」


花陽「あ……ああ」(ブルブルと震えだす)

ことり「かよちゃん……」(ぎゅっと抱きしめる)


希「…………」

真姫「な、なに? なんなの!?」


海未「みんなもみたんです、その女の子を」

真姫「――――」

139: 2016/08/26(金) 22:11:23.53 ID:DV4OcY1e.net
絵里「その子はピアノによりかかる真姫のとなりに立っていたわ」

海未「ゆらゆらとしていて、まるでかげろうのようでした」


穂乃果「穂乃果たちが来たのに気がつくと……」

穂乃果「その女の子はふっと消えた……」

穂乃果「霧が晴れたみたいに、そこにはなにもいなくなった」


穂乃果「……」

真姫「ちょっと穂乃果、どうして突然、絵なんか外しているの?」


穂乃果「夢だと思ってたけど、夢じゃなかった」

穂乃果「真姫ちゃんもみてよ、これ」


真姫「……!」

真姫「……絵の後ろの壁に……御札が」


穂乃果「やっぱり、なにかおかしいよこのホテル」

140: 2016/08/26(金) 22:12:20.98 ID:DV4OcY1e.net
(夜が明けると同時に、μ'は部屋を後にした)


(チェックアウトしにカウンターに行くと、きのうの受付係と支配人がいた)


支配人「お早いお帰りですね。ゆうべはゆっくりお休みになれましたか?」

絵里「……」


支配人「お客様?」

絵里「このホテル……なんなんですか?」


支配人「は?」

受付係「…………」


海未「なにか知っているんですね」

支配人「すみません、いったいなにが?」

141: 2016/08/26(金) 22:13:23.10 ID:DV4OcY1e.net
絵里「知っていたんでしょう?」

凛「とぼけてもむだにゃ!」


支配人「ひょっとしてこのホテルに関するウワサのことですか?」

真姫「ウワサ?」


支配人「あんなのはね、デマなんです。同業他社の流したデマだ。あなたたちはやつらの仲間ですか?」

ことり「へんないいがかりやめてください!」


受付係「……あんたたちの見たものがすべてですよ」

希「ここでなにがあったかだけでも教えてくれへん?」


受付係「事故があったとしかいえない。いう義務もないですから」

142: 2016/08/26(金) 22:13:55.59 ID:DV4OcY1e.net
(ホテルの従業員にはいくら質問を投げかけてもなしのつぶてで、これ以上知りようがなかった)

(μ'sの面々は帰路につく)


希「帰りなんやけど、どこかお寺でおはらいしてもらわん?」

真姫「……そうね」

絵里「異存はないわ」


希「反対してもぜったいに連れて行くで」

海未「希、どうしたんですか、そんない勢い込んで……」


希「うちにはみえてしまったの」

希「――あの時。エレベーターホールでみたのは、小さい女の子の霊だけじゃなかった」

にこ「ちょ、ちょっと待ってどういうこと!?」

143: 2016/08/26(金) 22:16:51.95 ID:DV4OcY1e.net
希「ホールだけやない。みんなの部屋にも、廊下にも……」


希「フロアを埋め尽くさんばかりの霊がいた」

凛「ひ……」


にこ「なにも感じなかったけど!?」

穂乃果「穂乃果たち、幽霊だらけの場所で寝泊まりしていたってこと?」

花陽「う、うそですよね……?」


希「うちにはみえていた」


希「霊はみんな白い服を着ていた……そろいの衣装みたいやった」

真姫「白い服……夢でみたひとたち……」

144: 2016/08/26(金) 22:17:29.78 ID:DV4OcY1e.net
穂乃果「もしかして、ホテルに入る時もなにか……みていた?」

ことり「あのときも、希ちゃんの様子がおかしかった……」


希「そうや」

希「――ホテルを上にながめたとき、窓に霊がうつっているのがみえた」


希「ちょうどうちらの泊まった九階の窓や。フロアのすべての窓に……まんべんなく霊のすがたがあった……」

絵里「うそ……うそよ」


にこ「どうしていってくれなかったのよ!」

希「ほかに場所もないし、おとなしくしていれば霊もおそってこないと思ったから」


希「幽霊さんにもお願いしたんや。うちらをおそわないでって」

希「それなのに……こんなことになってしまって……」


凛「ぜったい……ぜったいおはらいしてもらうにゃ」

145: 2016/08/26(金) 22:18:14.49 ID:DV4OcY1e.net
(穂乃果たちは、近くの神社でおはらいをうけた)

(いまは、東京へ戻る新幹線のなかにいる――)


にこ「あったわよ……あのホテルの話」

にこ「噂話の集まるネット掲示版の過去ログをみたら、ばっちりあったわ」




――X県Y市Zにある、とあるホテルのウワサ。

そこでは、あるワンフロアをまるごと使用禁止にしている。

二十年ほど前にある恐ろしい事件が起こったからだ。

狂信的なカルト教団の信者たちが、そのフロアを借りきり、集団自殺をしたのだ。

信者らは歌を歌い、儀式めいた雰囲気のなかで一斉に手首を切った。

このことは当時センセーショナルに報じられたが、やがて歴史の闇のなかに消えていった。

146: 2016/08/26(金) 22:18:47.40 ID:DV4OcY1e.net
真姫(あの小さな女の子は、巻き込まれたひとり……?)

真姫(きっと両親が信者で、望まない自殺をさせられたとか)


にこ「――事件から数日後に一度は九階の利用を再開していた」

にこ「――そのころ、幽霊の目撃例が多発した」


にこ「――夜起きると枕元に男が立っていた――ノックされたので開けてみたら誰もいない」

絵里「――!」

花陽「ドンピシャです……」


にこ「――廊下を大勢のひとが歩いている音がする――空いているはずのとなり部屋から演説のような声が聞こえてくる――など」

にこ「――霊は教団の修業服である白い服を着ていたという」


にこ「――あまりに目撃例が相次いだため、ホテル側はやむなくフロアを閉鎖した」

147: 2016/08/26(金) 22:19:17.96 ID:DV4OcY1e.net
凛「とんでもないホテルだったにゃ……」


ことり「空室率のはなしはうそだったのかな」

海未「そう考えるのが妥当でしょう」


絵里「今回でひとつ学んだわ」

穂乃果「どんなこと?」


絵里「とび込みの仕事を受けるのはぜったいにやめましょう」

花陽「そこなの?」


にこ「それと、希の調子が悪くなったらなにかいるから気をつける」

希「うちは鉱山のカナリアかなにかなん?」

穂乃果「頼れるレーダーってところだね」

148: 2016/08/26(金) 22:20:20.23 ID:DV4OcY1e.net
真姫(どうやら女の子に関するウワサはないのね……)


真姫(あの子は音楽が好きだった)

真姫(あそこで私がピアノを弾いていたから姿を現したんだ)

真姫(もし供養になるのなら、いつかあの子のことを思ってピアノを弾こう)


希「みんな、きょうのことは忘れるようにするんやで」

凛「どうして?」

希「霊というものは思われると引き寄せられるもんなんや。だから完全に忘れるのが一番」


真姫(……やっぱりやめよう)


真姫(でも……スタインウェイを聞くたびに思い出しちゃうんだろうな、あの子のこと……)


真姫(夢でみた笑い顔がまだ頭にこびりついていて……ああ、目を閉じると)



――終わり

149: 2016/08/26(金) 22:23:00.15 ID:/VEX06k3.net
オワラナイパーティー、ハジメヨウ?

151: 2016/08/26(金) 22:37:31.81 ID:vs2fVIKz.net
おつおつ
良かったよ

引用: 【SS】μ'sが遠征先のホテルで・・・・・・【怪談】