591: 2012/12/11(火) 08:06:41.64 ID:RdsXdwnK0


シリーズ:モバP「冬の過ごし方」


前回:【モバマス】桃華「寒い日の過ごし方」


最初から:【モバマス】愛梨「冬の過ごし方」



楓さん

楓「無理を言って済みません。」

P「いえ、いいんですよ。そろそろ一人で過ごすには寂しい季節ですから。」

ごとり、とプロデューサーの手から、テーブルの上にコンビニの袋が置かれた。
ぱっくりと開いた口から覗くのは、アルコール類ばかり。
我ながら良くもまぁ買い込んだものだと、思う。
だけど、仕方がない。今日はこのお酒でないと意味が無いのだ。

楓「今、こたつを入れますから、どうぞ好きな所に座って下さい。」

P「それじゃ、失礼しますね。しかし、寒くなりましたね。もう、こたつがないと辛いです。」

楓「ええ。ですから、おこたの準備は、おこたっていません。」

渾身の出来だったはずなのに、彼の口からは、あははと乾いた笑いしか発せられなかった。
改良の余地ありなのかしら?
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592: 2012/12/11(火) 08:10:50.67 ID:RdsXdwnK0
P「今更ですけど、良いんですか? 今の時間なら、お酒の美味しいお店もまだやっているでしょうに。」

楓「あら、私が男の人と二人で飲んでいたって、週刊誌に載っても知りませんよ?」

P「アイドルが男を部屋に連れ込んだって方が、記者は大好きでしょうよ。」

まぁ、それこそ今更な話ですけどね。
そう言って、彼は、はぁ、と一つ息を溢す。

楓「良いじゃないですか。今日は記念日です。」

P「まぁ、偶には悪くないですね。」

小気味の良い音とともに、プルタブが開く。
部屋に、甘い梅酒の匂いが広がる。それだけで、幸せな気持ちになった。

P「それじゃあ、乾杯しますか。」

それはプロデューサーも同じだったようで、既に頬が緩んでいる。
軽く掲げた腕を、にこにこと見ている様子からは、いつもの凛々しさは全く感じられない。
そのあどけない表情が子供みたいで、少し、可笑しかった。

593: 2012/12/11(火) 08:14:46.64 ID:RdsXdwnK0
楓「いいですけど、何にです?」

そう言うと、彼はちょっと困ったような顔をした。
今日は、二人が出会って丁度一年の日なのだ。
流石に、ただ杯をぶつけるだけでは、味気なさ過ぎるというもの。

P「えっと、そうですね……。なら――二人の出会いに。」

楓「はい、二人の出会いに。」

「「乾杯。」」

こつんと、缶と缶が音を立てた。
誰かとお酒を飲むのは、やっぱり良いものだ。
一人では出せない音色に、そんなことを思った。

594: 2012/12/11(火) 08:18:35.23 ID:RdsXdwnK0
楓「それにしても、Pさんって、意外と気障なんですね。」

P「仕方ないじゃないですか。他に浮かばなかったんですよ。」

先程の乾杯を思い出したのか、プロデューサーは照れくさそうに頬を掻く。
それに、と彼は言葉を続けた。

P「男なんて、見栄の塊みたいなものですから。格好つけて生きていかないといけないんですよ。」

楓「ええ、いつも格好良いです。Pさんは。」

P「お世辞でも、楓さんみたいに綺麗な人に言われると嬉しいですね。」

楓「お世辞じゃ、ないですよ。私、もう26です。アイドル始めた時だって25でした。
  普通なら、こんなおばさんがやっていけるような世界じゃないんです。アイドルって。」

P「そんなことはありませんよ。楓さんは充分に魅力的です。」

楓「いつも、Pさんがそうやって励ましてくれたから、一年間アイドルを続けることができたんです。
  こんなおばさんの為に走り回って、お仕事を取ってきてくれたから、ステージに立つことができたんです。」

P「楓さんなら、当然の結果だっただけですよ。貴女の放つ輝きは、目を背けられるようなものじゃないです。
  俺がしたことだって、プロデューサーにとっての責務ですから。俺じゃなくても一緒だったと思いますよ。」

楓「Pさんが言うのなら、そうなのかもしれません。でも、私にとってのプロデューサーは、Pさんだけです。
  他の誰でもなく、貴方です。私を、スポットライトまでエスコートしてくれたのは、紛れもなくPさんです。」

595: 2012/12/11(火) 08:23:29.73 ID:RdsXdwnK0
楓「だから、ねぇPさん。私にとってPさんは、格好良くて、頼り甲斐のある素敵な男の人なんですよ?」

そんな素敵な男の人は、目に見えて狼狽していた。
金魚みたいに口をぱくぱくしている。
格好つけるのは、こういう時こそでしょうと思いながらお酒を口に含む。
うん、やっぱり美味しい。
これなら、今日の目的は達成できた。

P「そういえば、今日は日本酒じゃないんですね。本当に、コンビニなんかのお酒で良かったんですか?」

あせあせと、どう考えても苦し紛れな言葉がPさんから漏れる。
もう少し、気の利いた言葉を返してくれてもいいじゃないと減点一つ。
……例え、減点がいくつになったとしても、私の気持ちは変わらないのだけれど。

596: 2012/12/11(火) 08:29:17.18 ID:RdsXdwnK0
楓「今日、このお酒を飲みたかったのは、ちょっと確かめたいことがあったからなんです。」

P「確かめたいこと、ですか?」

楓「はい。」

P「何ですか、それって?」

楓「それは――」

正直に答えたら、Pさんはどんな顔をするのかしら。
さっきみたいに狼狽えた、彼の新たな一面を見るのもとても心惹かれるのだけれど。
もう少し、察しの悪さを治して貰うことにしましょう。

607: 2012/12/11(火) 09:05:40.43 ID:RdsXdwnK0

楓「秘密、です。宿題にしますから、考えて来て下さい。
  ヒントは、お店じゃなくて今、こうして二人で向かい合っていることです。」

そう言ってやると、うんうんとプロデューサーは唸り始める。
問題を出した私が言うのもなんだけれど……。
女性と二人きりだというのに、思考がそっちにいってしまうのはどうなのでしょう。
宿題は、持ち帰ってするものと再び減点。

611: 2012/12/11(火) 09:10:45.01 ID:RdsXdwnK0
ねぇ、Pさん。質の良いお酒は当然、美味しいです。
でも、例え質が劣っていても、美味しいお酒の飲み方だってあるんです。


好きな人と飲むお酒は、どこでだって、どんなに質が悪くたって、それはそれは本当に美味しいものなんですよ。

だから、早く宿題を解いて下さいね。

でないと私、もっとおばさんになってしまうから……。


おしまい

612: 2012/12/11(火) 09:12:05.88 ID:KEpXhQj+0
楓さん大人可愛い乙です―



次回:
【モバマス】泰葉・あずき「寒い日の過ごし方」



引用: モバP「寒い日の過ごし方」