550: ◆zvY2y1UzWw 2014/06/30(月) 00:06:56.45 ID:1Ls41AtI0
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです
前回はコチラ
投下しまー
551: 2014/06/30(月) 00:08:08.57 ID:1Ls41AtI0
死の事実は様々な理由で人の身や心について回る。愛する者を失う事、それは二度と出会えないという事。
余りにも重すぎるその死が与える重さから、人は目を背けるか乗り越えるしかない。
どんな人間も普通ならば己の死の事実と向き合う事など無い。
ありえるならば、それはきっと既に人間ではないのだろう。
霊としてか、不死としてか…とにかく、人から外れた存在として。
肉体は心に影響を与え、魂は肉体を動かし、心は魂を揺さぶる。
そのバランスが整っているのかすら怪しい存在。それも、確かに悩みを抱く事はあったのだった。
余りにも重すぎるその死が与える重さから、人は目を背けるか乗り越えるしかない。
どんな人間も普通ならば己の死の事実と向き合う事など無い。
ありえるならば、それはきっと既に人間ではないのだろう。
霊としてか、不死としてか…とにかく、人から外れた存在として。
肉体は心に影響を与え、魂は肉体を動かし、心は魂を揺さぶる。
そのバランスが整っているのかすら怪しい存在。それも、確かに悩みを抱く事はあったのだった。
----------------------------------------
それは、なんでもないようなとある日のこと。
それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。
~中略~
「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。
552: 2014/06/30(月) 00:09:57.49 ID:1Ls41AtI0
―――
――
絶対に忘れることの無いだろう記憶がある。
あり得ない筈の方向から響くブレーキの音。
私は無我夢中で突き飛ばしていた。
生きて欲しいという身勝手な思いが頭の中を埋め尽くす。
自分の事を考える余裕も、それが正しいのか考える時間もなかった。
目覚めた時、私は全く別の存在になっていた。
間違いなく多田李衣菜はもう死んだ。ロックも死んだし私も死んだ。
…なら、私は。
――
―――
――
絶対に忘れることの無いだろう記憶がある。
あり得ない筈の方向から響くブレーキの音。
私は無我夢中で突き飛ばしていた。
生きて欲しいという身勝手な思いが頭の中を埋め尽くす。
自分の事を考える余裕も、それが正しいのか考える時間もなかった。
目覚めた時、私は全く別の存在になっていた。
間違いなく多田李衣菜はもう死んだ。ロックも死んだし私も死んだ。
…なら、私は。
――
―――
553: 2014/06/30(月) 00:12:57.35 ID:1Ls41AtI0
カフェ・マルメターノ閉店後、ワインバーも開かれず、唯一明かりがついているキッチンに響いているのは低速のハンドミキサーの音だけだった。
大きなボウルの中で、白い生クリームが波打つ。
「…っと」
泡立てられた生クリームはシロップが塗られたスポンジケーキに塗られ、フルーツと共に慣れた手つきで丁寧に巻かれた。
それを繰り返し何本か完成した者を冷蔵庫に入れるとボウル等を片づけ始める。
その時、扉の向こうで話し声が聞こえてきた。電話で誰かとLPが喋っているのだと察した時に、扉が開かれた。
「…こんな遅くまでご苦労さん」
「あ、LPさんもお疲れさまでした。めずらしいですね、キッチンに来るなんて」
「いつも思うが…仕込みの後、一人で帰る時があるのは何でなんだ?」
いつもは夏樹に迎えに来てもらっているが、たまに李衣菜はそれを断って一人で帰る。今日はそういう日だった。
「大丈夫ですよ?そこまで遠いというわけでもないですし、たまには一人で歩くのもロックな気分になりますし、それに…」
エプロンと帽子を脱ぎ、たたみながら李衣菜はその後の言葉を考えていなかったのか数秒だけ考えた。
「ロールケーキは一晩寝かせて、クリームの水分をスポンジに移さなきゃ…生地はしっとりしないしクリームもドロドロになっちゃいます」
「ははは、そうか。慣れたな李衣菜も」
論点が変わったのは意図的だろうか。…あまり追及はせずに流す。
大きなボウルの中で、白い生クリームが波打つ。
「…っと」
泡立てられた生クリームはシロップが塗られたスポンジケーキに塗られ、フルーツと共に慣れた手つきで丁寧に巻かれた。
それを繰り返し何本か完成した者を冷蔵庫に入れるとボウル等を片づけ始める。
その時、扉の向こうで話し声が聞こえてきた。電話で誰かとLPが喋っているのだと察した時に、扉が開かれた。
「…こんな遅くまでご苦労さん」
「あ、LPさんもお疲れさまでした。めずらしいですね、キッチンに来るなんて」
「いつも思うが…仕込みの後、一人で帰る時があるのは何でなんだ?」
いつもは夏樹に迎えに来てもらっているが、たまに李衣菜はそれを断って一人で帰る。今日はそういう日だった。
「大丈夫ですよ?そこまで遠いというわけでもないですし、たまには一人で歩くのもロックな気分になりますし、それに…」
エプロンと帽子を脱ぎ、たたみながら李衣菜はその後の言葉を考えていなかったのか数秒だけ考えた。
「ロールケーキは一晩寝かせて、クリームの水分をスポンジに移さなきゃ…生地はしっとりしないしクリームもドロドロになっちゃいます」
「ははは、そうか。慣れたな李衣菜も」
論点が変わったのは意図的だろうか。…あまり追及はせずに流す。
554: 2014/06/30(月) 00:14:11.11 ID:1Ls41AtI0
「んー…クリーム舐めます?」
「遠慮しておく」
「…そうですか」
壊さないように丁寧に、使われた調理器具が洗われていく。
「座っていてもいいんですよ?」
「そうするよ」
言われるがままにLPはキッチンのテーブルの近くの椅子に座る。
「すぐ片づけも終わっちゃいますけどね。……でもLPさん、何か私に話したい事でもあるんじゃないですか?」
「ああ…よくわかったな」
「勘です。LPさんって特別な時以外は過干渉はしないタイプですし」
「…そうか、俺もわかりやすくなったもんだなぁ」
「そういう訳じゃないと思いますけどね」
水を止め、拭き終えると李衣菜はLPに向き合った。淡々と、事実からできる推測を言う。
「あの…装置の話ですよね?久々の全身検査の時に見つかった…とかで。電話してたのはその技術者の人とかだったり」
隠していたことを気まずく思うような演技ができる程、李衣菜は器用ではなかった。
表情が上手くできないのだから仕方ないと、自分に言い訳をしながらLPの返事を待つ事しか出来ない。
「遠慮しておく」
「…そうですか」
壊さないように丁寧に、使われた調理器具が洗われていく。
「座っていてもいいんですよ?」
「そうするよ」
言われるがままにLPはキッチンのテーブルの近くの椅子に座る。
「すぐ片づけも終わっちゃいますけどね。……でもLPさん、何か私に話したい事でもあるんじゃないですか?」
「ああ…よくわかったな」
「勘です。LPさんって特別な時以外は過干渉はしないタイプですし」
「…そうか、俺もわかりやすくなったもんだなぁ」
「そういう訳じゃないと思いますけどね」
水を止め、拭き終えると李衣菜はLPに向き合った。淡々と、事実からできる推測を言う。
「あの…装置の話ですよね?久々の全身検査の時に見つかった…とかで。電話してたのはその技術者の人とかだったり」
隠していたことを気まずく思うような演技ができる程、李衣菜は器用ではなかった。
表情が上手くできないのだから仕方ないと、自分に言い訳をしながらLPの返事を待つ事しか出来ない。
555: 2014/06/30(月) 00:16:46.83 ID:1Ls41AtI0
「…脳付近の検査の結果、感情制御装置は壊れていたと報告された。ちなみに摘出とそれに伴う電圧調整はもう終わっている」
「…」
「なあ、答えてくれ。いつからだ」
「…あの日ですよ、祟り場現象が起きたあの日」
「何故…報告しなかったんだ」
「故障しても動けたので問題ないと思った…って言っても嘘ってばれちゃいますよね」
向き合っていた李衣菜が、無表情に近い表情で困ったように頬をかいた。
「…壊れてからも、なかなか上手く笑えないんですよ。祟り場が終わってから、思ったより変わらなかったんです」
「あはは…おかしいですよね。もう戻ってるのに、祟り場が終わったらまた笑えない。こんなの…おかしいじゃないですか」
「…私は、『昔の私ならこう思うだろうな』って考えて行動していたんです。そしたら、どんどん『私』は『私』じゃなくなってきて」
「だから、装置が壊れてもずっと…装置が無いのに笑えないままです。私は『私の心』を無くしちゃったんですよ」
感情制御装置は脳に組み込まれていた。感情を脳が発してもそれを自分で知覚できなくなるその装置は、感情そのものを衰退させる。
痛覚や味覚等の感覚すら失い、激しい衝撃を感じにくくなり、自分の心がわからなくなる。さらに李衣菜は演じ続けた結果、自分を見失った。
魂と心がバラバラになり、それを異常と感知できないまま、心の事を忘れたまま時間が過ぎていた。
感情があり、過去のように振る舞えていた祟り場と言う環境が異常だったのだ。あの時の李衣菜に、今の李衣菜は戻りたくても戻れない。
死人は生者に戻れない。李衣菜自身もそう思っている。
「…」
「なあ、答えてくれ。いつからだ」
「…あの日ですよ、祟り場現象が起きたあの日」
「何故…報告しなかったんだ」
「故障しても動けたので問題ないと思った…って言っても嘘ってばれちゃいますよね」
向き合っていた李衣菜が、無表情に近い表情で困ったように頬をかいた。
「…壊れてからも、なかなか上手く笑えないんですよ。祟り場が終わってから、思ったより変わらなかったんです」
「あはは…おかしいですよね。もう戻ってるのに、祟り場が終わったらまた笑えない。こんなの…おかしいじゃないですか」
「…私は、『昔の私ならこう思うだろうな』って考えて行動していたんです。そしたら、どんどん『私』は『私』じゃなくなってきて」
「だから、装置が壊れてもずっと…装置が無いのに笑えないままです。私は『私の心』を無くしちゃったんですよ」
感情制御装置は脳に組み込まれていた。感情を脳が発してもそれを自分で知覚できなくなるその装置は、感情そのものを衰退させる。
痛覚や味覚等の感覚すら失い、激しい衝撃を感じにくくなり、自分の心がわからなくなる。さらに李衣菜は演じ続けた結果、自分を見失った。
魂と心がバラバラになり、それを異常と感知できないまま、心の事を忘れたまま時間が過ぎていた。
感情があり、過去のように振る舞えていた祟り場と言う環境が異常だったのだ。あの時の李衣菜に、今の李衣菜は戻りたくても戻れない。
死人は生者に戻れない。李衣菜自身もそう思っている。
556: 2014/06/30(月) 00:18:29.03 ID:1Ls41AtI0
ぎこちない笑顔で、李衣菜は確かに笑っていた。…LPはそれを悲しい微笑みだと思った。
李衣菜もそれを知ったうえで、ぎこちない笑顔のままLPに向き合っていた。
「…李衣菜、そう考えている奴を俺は壊れているなんて思えない」
「…」
LP立ち上がり、少しだけ眉が下がり困ったような表情になった李衣菜の頭にポンと手を置いた。
「少しだけ話しを聞いてくれるか?」
「え…はい、問題ありませんけど…」
「…俺は、この姿になる前の李衣菜を知らない。俺の知り合いでは夏樹だけだな、知っているのは。だから無神経な言葉かもしれんが…」
「…」
「…変化する事を恐れていないか?前の李衣菜のままでいようとし続けるのは、変化したくないからじゃないのか?」
「変化…」
「どんな者も、変化する。それは心や体だったり、周囲の環境だったりする。奈緒だってきらりだって夏樹だって、みんな少しづつ変わっていた」
「でも私は、できません…変われない…だって、もう死んでるから」
LPの言葉を聞きたくなくて耳に両手を当てそうになった。誤魔化すように指に触れたボルトを撫でる。
李衣菜もそれを知ったうえで、ぎこちない笑顔のままLPに向き合っていた。
「…李衣菜、そう考えている奴を俺は壊れているなんて思えない」
「…」
LP立ち上がり、少しだけ眉が下がり困ったような表情になった李衣菜の頭にポンと手を置いた。
「少しだけ話しを聞いてくれるか?」
「え…はい、問題ありませんけど…」
「…俺は、この姿になる前の李衣菜を知らない。俺の知り合いでは夏樹だけだな、知っているのは。だから無神経な言葉かもしれんが…」
「…」
「…変化する事を恐れていないか?前の李衣菜のままでいようとし続けるのは、変化したくないからじゃないのか?」
「変化…」
「どんな者も、変化する。それは心や体だったり、周囲の環境だったりする。奈緒だってきらりだって夏樹だって、みんな少しづつ変わっていた」
「でも私は、できません…変われない…だって、もう死んでるから」
LPの言葉を聞きたくなくて耳に両手を当てそうになった。誤魔化すように指に触れたボルトを撫でる。
557: 2014/06/30(月) 00:21:38.09 ID:1Ls41AtI0
「『死』という言葉に囚われるな。…李衣菜はそうやって悩むことが出来る。例えお前が演技だと言っても、これだけは事実だと思う」
「…その言葉、信じていいんですよね」
「…ゴメンな、こういう事、もっと早く言えばよかったのにな」
「謝らないでください。答えてください。…信じて、いいんですか?」
「ああ、死体でもロボットでもない。そうやって悩めるなら、きっと笑えるようになるはずなんだ、上手く顔に出せなくても…心の底からな」
「本当に、いいんですか?」
俯きそうになった顔を、まっすぐLPに向ける。怖いと思っているのかもしれない自分に負けたくなかった。
「少し遅くなったが、今まで常時起動型だった為に取り外せなかったあの装置をやっと取り外せたんだ。…リハビリを始めよう」
「リハビリ?」
わしゃわしゃと髪の毛が乱れるくらいにLPは李衣菜の頭を撫でた。
「もう自分の体の事で不安になるな。お前は俺達の仲間だ。李衣菜を否定したりしない。だから落ち着いて、しっかりと自分の心を見つけることが出来ればまた笑えるさ」
「…心を」
心、ココロ。何故だろう、キーワードを入力されたように、どこかのロックが外れたような不思議な感覚がした。
「…その言葉、信じていいんですよね」
「…ゴメンな、こういう事、もっと早く言えばよかったのにな」
「謝らないでください。答えてください。…信じて、いいんですか?」
「ああ、死体でもロボットでもない。そうやって悩めるなら、きっと笑えるようになるはずなんだ、上手く顔に出せなくても…心の底からな」
「本当に、いいんですか?」
俯きそうになった顔を、まっすぐLPに向ける。怖いと思っているのかもしれない自分に負けたくなかった。
「少し遅くなったが、今まで常時起動型だった為に取り外せなかったあの装置をやっと取り外せたんだ。…リハビリを始めよう」
「リハビリ?」
わしゃわしゃと髪の毛が乱れるくらいにLPは李衣菜の頭を撫でた。
「もう自分の体の事で不安になるな。お前は俺達の仲間だ。李衣菜を否定したりしない。だから落ち着いて、しっかりと自分の心を見つけることが出来ればまた笑えるさ」
「…心を」
心、ココロ。何故だろう、キーワードを入力されたように、どこかのロックが外れたような不思議な感覚がした。
558: 2014/06/30(月) 00:23:10.48 ID:1Ls41AtI0
「ほら、取りあえず今日は早く帰るんだ。送るぞ」
LPは李衣菜の手を引いて、キッチンから駐車場まで歩き出した。
「いつもは送ったりしないのに…」
「…忘れてるんじゃないか?ほら、今日の日付は?」
「6月30日………えっと……そうだ、今日は…私の…」
思わず立ち止まる。本当にすっかり忘れていた。今や年齢は享年と書くはずの身だ。誕生日が来てもどうリアクションすればいいのかわからない。
「…夏樹達、もう準備が終わってる頃だろうしな。一緒に帰るなら一緒に準備したんだろうが」
またわしゃわしゃと頭を撫でるLPの腕を李衣菜が力を込めずにつかむ。
「…LPさんって、たまにお父さんみたいに思えちゃいますね」
「そうか?まだ未婚なんだがなぁ…」
「お相手見つからないんですか?」
「こういう仕事してると…なかなかなぁ。こっちの事にも理解がある人だといいんだが…」
「管理局にLPさんに興味持ってそうな女の人っていないんですか?」
「少なくとも俺なんかに興味をもつ女は見たことが無いな………女は」
「…そうでしたね」
遠い目で空を見上げたLPに、李衣菜は何も言えなかった。
LPは李衣菜の手を引いて、キッチンから駐車場まで歩き出した。
「いつもは送ったりしないのに…」
「…忘れてるんじゃないか?ほら、今日の日付は?」
「6月30日………えっと……そうだ、今日は…私の…」
思わず立ち止まる。本当にすっかり忘れていた。今や年齢は享年と書くはずの身だ。誕生日が来てもどうリアクションすればいいのかわからない。
「…夏樹達、もう準備が終わってる頃だろうしな。一緒に帰るなら一緒に準備したんだろうが」
またわしゃわしゃと頭を撫でるLPの腕を李衣菜が力を込めずにつかむ。
「…LPさんって、たまにお父さんみたいに思えちゃいますね」
「そうか?まだ未婚なんだがなぁ…」
「お相手見つからないんですか?」
「こういう仕事してると…なかなかなぁ。こっちの事にも理解がある人だといいんだが…」
「管理局にLPさんに興味持ってそうな女の人っていないんですか?」
「少なくとも俺なんかに興味をもつ女は見たことが無いな………女は」
「…そうでしたね」
遠い目で空を見上げたLPに、李衣菜は何も言えなかった。
559: 2014/06/30(月) 00:24:23.51 ID:1Ls41AtI0
こころ、ココロ、心。李衣菜は繰り返し脳内でリピートを続ける。
さっきの謎の感覚が忘れられなくて、続けてしまうのだ。
乗せられた車の中、それを繰り返し続けて…無意識に瞳を閉じていた。
「…李衣菜?」
「…」
「…寝れたんだな、初めて見たよ」
「…」
「俺が、ああいう役目を請け負って…よかったのか」
「…?」
眠くなったわけではないが、そうせずにはいられない。言葉を理解する気にもなれない。
少しずつLPの声も聞こえなくなっていく。深く、深く…水の中へ沈んでいくように感じた。
さっきの謎の感覚が忘れられなくて、続けてしまうのだ。
乗せられた車の中、それを繰り返し続けて…無意識に瞳を閉じていた。
「…李衣菜?」
「…」
「…寝れたんだな、初めて見たよ」
「…」
「俺が、ああいう役目を請け負って…よかったのか」
「…?」
眠くなったわけではないが、そうせずにはいられない。言葉を理解する気にもなれない。
少しずつLPの声も聞こえなくなっていく。深く、深く…水の中へ沈んでいくように感じた。
560: 2014/06/30(月) 00:25:41.90 ID:1Ls41AtI0
―
――
―
『―ザザッ――ザザザ』
「…なに?」
閉じたはずの瞳はノイズで目を覚ました。美しい黄昏時の空とどこまでも広がる草原が瞳に映る。
東の空と西の空に二つの太陽が同じ空模様。どちらが東でどちらが西なのかはさっぱり分からない。
東は『彼は誰』、そして西が『誰そ彼』。登る太陽と沈む太陽がどちらも停止してしまった世界。
夢を、かなり久々に見たのかもしれない。そもそも夢を見たのはいつ以来だったか。
ボーっとしていると、少し遠くに空と同じ色の服を着た少女が立っていたのを見つけた。
黄昏時は『誰そ彼』という語源を持つ通り、人の顔などよく分からないものだ。
(…会いに行かなくちゃ)
だから李衣菜はそれが誰なのか、全く分からなかった。だが…行かなければならないと思った。
こんなに広い草原で、見失ってはいけない気がした。
――
―
『―ザザッ――ザザザ』
「…なに?」
閉じたはずの瞳はノイズで目を覚ました。美しい黄昏時の空とどこまでも広がる草原が瞳に映る。
東の空と西の空に二つの太陽が同じ空模様。どちらが東でどちらが西なのかはさっぱり分からない。
東は『彼は誰』、そして西が『誰そ彼』。登る太陽と沈む太陽がどちらも停止してしまった世界。
夢を、かなり久々に見たのかもしれない。そもそも夢を見たのはいつ以来だったか。
ボーっとしていると、少し遠くに空と同じ色の服を着た少女が立っていたのを見つけた。
黄昏時は『誰そ彼』という語源を持つ通り、人の顔などよく分からないものだ。
(…会いに行かなくちゃ)
だから李衣菜はそれが誰なのか、全く分からなかった。だが…行かなければならないと思った。
こんなに広い草原で、見失ってはいけない気がした。
561: 2014/06/30(月) 00:26:27.32 ID:1Ls41AtI0
草原を駆ける。とにかく速く、全力で。魂が、走れと己に命令しているようだ。
『ザザザッ――ザザザ』
ノイズがどんどん大きくなる。耳障りな音を無視して、ただひたすら走る。
あの時から変わっていない、両の瞳がこちらを見つめている。ヘッドホンを耳から外し、少女はこちらに手を伸ばした。
変わらない心。前を向いて、一直線だったあの日のまま。今の李衣菜に、その心は眩しすぎるような気がした。
いったいどれほどの時間、魂と心が切り離されていたのだろうか。
ずっと、心は感情を発していた。だが死という現実と、あの装置が魂と心をバラバラにしてしまっていた。
ずっと心を見失ったまま、向き合おうと思う事もできずにいた。思ってしまえば、見つけてしまえばこんなにも簡単な事だったのに。
黄昏色の心が伸ばした腕を李衣菜が静かに手を掴む。
オレンジ色の炎が、李衣菜の体を包み込んだ。
『ザザザッ――ザザザ』
ノイズがどんどん大きくなる。耳障りな音を無視して、ただひたすら走る。
あの時から変わっていない、両の瞳がこちらを見つめている。ヘッドホンを耳から外し、少女はこちらに手を伸ばした。
変わらない心。前を向いて、一直線だったあの日のまま。今の李衣菜に、その心は眩しすぎるような気がした。
いったいどれほどの時間、魂と心が切り離されていたのだろうか。
ずっと、心は感情を発していた。だが死という現実と、あの装置が魂と心をバラバラにしてしまっていた。
ずっと心を見失ったまま、向き合おうと思う事もできずにいた。思ってしまえば、見つけてしまえばこんなにも簡単な事だったのに。
黄昏色の心が伸ばした腕を李衣菜が静かに手を掴む。
オレンジ色の炎が、李衣菜の体を包み込んだ。
562: 2014/06/30(月) 00:29:21.22 ID:1Ls41AtI0
炎は全く熱く無いし、身体が燃えることも無い。炎はただ一つだけ、李衣菜の右目の眼帯を消滅させた。
縫合された糸も焼き払われ、瞳の中に埋め込まれた機械が自動的に開く。その機械が守るように中に収納していたのはこの空と同じ色の宝石。
その輝きは、魂の輝きだった。
その瞳の中の宝石に吸い込まれるように、心は李衣菜の中へ溶けていく。
ノイズはもう、聞こえなくなっていた。
それと同時に胸の辺りが暖かいような、そんな感覚を感じている。
「……私、やっと、やっと。生きてた頃に戻れたのかな…」
膝から崩れ落ち、涙が出なくとも泣いてしまう。
行動する魂と、感情を発する心がバラバラになって長かったのだ。感情を封じられていた分、今まで溜まっていた悲しみや喜びが溢れる。
いかに生前の自分が感情豊かだったのかと、これでもかという程痛感した。
心に戸惑いと不安が溢れてくるが、それよりも喜びの方がはるかに大きい。
今まで悩んでいたことに、理解できなくて困惑していた事に、全て答えを得た。
自分が思っていたよりも、自分は思い切りがある人間だったようだ。
縫合された糸も焼き払われ、瞳の中に埋め込まれた機械が自動的に開く。その機械が守るように中に収納していたのはこの空と同じ色の宝石。
その輝きは、魂の輝きだった。
その瞳の中の宝石に吸い込まれるように、心は李衣菜の中へ溶けていく。
ノイズはもう、聞こえなくなっていた。
それと同時に胸の辺りが暖かいような、そんな感覚を感じている。
「……私、やっと、やっと。生きてた頃に戻れたのかな…」
膝から崩れ落ち、涙が出なくとも泣いてしまう。
行動する魂と、感情を発する心がバラバラになって長かったのだ。感情を封じられていた分、今まで溜まっていた悲しみや喜びが溢れる。
いかに生前の自分が感情豊かだったのかと、これでもかという程痛感した。
心に戸惑いと不安が溢れてくるが、それよりも喜びの方がはるかに大きい。
今まで悩んでいたことに、理解できなくて困惑していた事に、全て答えを得た。
自分が思っていたよりも、自分は思い切りがある人間だったようだ。
563: 2014/06/30(月) 00:30:24.08 ID:1Ls41AtI0
――精神に異常感知
――感情制御装置・エラー ×
――原因のhあいzYowおOkOnAいm@S ×
――hAいSyうtUWおkaいSiSIまs ×
――エラー!エラー!エラー!
「…っ」
頭の中にバグの起こった文字の列が通り過ぎる。それは今の李衣菜にとってあまりにも不快だった。
「LPさん、変わっても…いいよね。良いんだよね」
こういう事が前にも起きた気がする。確か…何等か理由で一時的な故障を起こした時だ。理由は思い出せない。
オレンジ色の草原に、空から無数の標識が突き刺さる。
進入禁止、通行止め、制限速度0…
そして自分の内側から問いかける声。
『行くの?』
その光景は李衣菜を留めておこうとしているようにも見えた。そして聞こえる言葉は、李衣菜の心を折ろうとしているように感じた。
――感情制御装置・エラー ×
――原因のhあいzYowおOkOnAいm@S ×
――hAいSyうtUWおkaいSiSIまs ×
――エラー!エラー!エラー!
「…っ」
頭の中にバグの起こった文字の列が通り過ぎる。それは今の李衣菜にとってあまりにも不快だった。
「LPさん、変わっても…いいよね。良いんだよね」
こういう事が前にも起きた気がする。確か…何等か理由で一時的な故障を起こした時だ。理由は思い出せない。
オレンジ色の草原に、空から無数の標識が突き刺さる。
進入禁止、通行止め、制限速度0…
そして自分の内側から問いかける声。
『行くの?』
その光景は李衣菜を留めておこうとしているようにも見えた。そして聞こえる言葉は、李衣菜の心を折ろうとしているように感じた。
564: 2014/06/30(月) 00:31:48.38 ID:1Ls41AtI0
取り戻したのに、失うわけにはいかない。だから言葉を放つ。
「私は…帰るよ。このまま、私のまま…!」
『怪物なのに、人間の心を持って帰るつもりなんだ?』
「…」
『死体の癖に、ゾンビの癖に?…機械みたいに生きていた方が幸せだと思わないの…?』
自分の声が問いかけてくる。人ではない自分に心が耐えきれるのか、聞いてくる。
「…大丈夫だよ。二度目の人生、全部を平和の為に使うから。幸せじゃなくたっていい」
「それに、怪物だとしても、ゾンビだとしても…私を受け入れてくれるみんながいる。それだけでいい。なつきちや、きらりや、奈緒やLPさんたちが私を受け入れてくれた」
「今までの私と、これからの私は違うかもしれないけど…それでも、みんなは大丈夫だと思う」
『…ねぇ、それは勝手な思い込みじゃない?みんなが裏切ったら…なつきちが私の事嫌いになったら、怖いよ』
「…思い込み?ううん、絶対に違うよ。みんなが信じてくれたから、みんなを信じていたから私はここにいるんだ」
「私がこのチームが好きなのは、なつきちだけじゃない、みんなが一緒だから。…今度こそ、絶対に無くしたくないものだから…」
『そんな生き方辛いだけだよ。何も考えないで、ただ人のように振る舞い続ければいいよ。今更『私』に戻っても、役立たずになっちゃうよ』
『役立たずなんて嫌だよ…体なんてもう人間じゃないんだよ。なら心が人間であり続ける理由なんてないでしょ?ねぇ…』
悲しそうに、怯える声。これが自分自身の恐怖だ。変わってしまって、役立たずになることを恐れている。
「ロックにも人生にも、大事なのは魂と心…思いなんだよ!…だから…辛いなんて思いたくない!」
「壊れるまで生き続ける!動ける限界まで!思考できる限界まで!私の存在がどんなに世界から見て醜くても!世界の常識から外れていても!」
「それが私の、多田李衣菜のロックだから!!」
心の声は、その勢いだけの非論理的な言葉をまるで待っていたかのように悲しい言葉を止めた。
『…そっか、ロックか…うん、ロックだね』
「すっごくロックでしょ!」
『…本当に。…こうやって喋ってるだけで幸せになってる』
「そうだね、幸せ…だから行くよ。…いろいろ無くしちゃった第二の人生だけど…やっと心を取り戻せたんだもん、もったいないよ」
風が吹いて草原を揺らす。標識はもう無くなっていた。
「私は…帰るよ。このまま、私のまま…!」
『怪物なのに、人間の心を持って帰るつもりなんだ?』
「…」
『死体の癖に、ゾンビの癖に?…機械みたいに生きていた方が幸せだと思わないの…?』
自分の声が問いかけてくる。人ではない自分に心が耐えきれるのか、聞いてくる。
「…大丈夫だよ。二度目の人生、全部を平和の為に使うから。幸せじゃなくたっていい」
「それに、怪物だとしても、ゾンビだとしても…私を受け入れてくれるみんながいる。それだけでいい。なつきちや、きらりや、奈緒やLPさんたちが私を受け入れてくれた」
「今までの私と、これからの私は違うかもしれないけど…それでも、みんなは大丈夫だと思う」
『…ねぇ、それは勝手な思い込みじゃない?みんなが裏切ったら…なつきちが私の事嫌いになったら、怖いよ』
「…思い込み?ううん、絶対に違うよ。みんなが信じてくれたから、みんなを信じていたから私はここにいるんだ」
「私がこのチームが好きなのは、なつきちだけじゃない、みんなが一緒だから。…今度こそ、絶対に無くしたくないものだから…」
『そんな生き方辛いだけだよ。何も考えないで、ただ人のように振る舞い続ければいいよ。今更『私』に戻っても、役立たずになっちゃうよ』
『役立たずなんて嫌だよ…体なんてもう人間じゃないんだよ。なら心が人間であり続ける理由なんてないでしょ?ねぇ…』
悲しそうに、怯える声。これが自分自身の恐怖だ。変わってしまって、役立たずになることを恐れている。
「ロックにも人生にも、大事なのは魂と心…思いなんだよ!…だから…辛いなんて思いたくない!」
「壊れるまで生き続ける!動ける限界まで!思考できる限界まで!私の存在がどんなに世界から見て醜くても!世界の常識から外れていても!」
「それが私の、多田李衣菜のロックだから!!」
心の声は、その勢いだけの非論理的な言葉をまるで待っていたかのように悲しい言葉を止めた。
『…そっか、ロックか…うん、ロックだね』
「すっごくロックでしょ!」
『…本当に。…こうやって喋ってるだけで幸せになってる』
「そうだね、幸せ…だから行くよ。…いろいろ無くしちゃった第二の人生だけど…やっと心を取り戻せたんだもん、もったいないよ」
風が吹いて草原を揺らす。標識はもう無くなっていた。
565: 2014/06/30(月) 00:33:11.13 ID:1Ls41AtI0
『心、いつでも置いてっていいからね』
「ねぇ…今のを聞いてそれを言うの?」
『しなきゃいけない時もあるよ。私はそれができる』
「…普通はできないでしょ」
『普通じゃないからね。…心の避難場所だよ。何も考えたく無くなったら、心だけここに置いてくればいいから』
「…うん、覚えておくよ」
李衣菜が響く『自分』の声と会話しながら草原を歩く。
心があっては精神攻撃などには弱くなる可能性がある。だからこそ、心を切り離す必要が出てくる時もあると李衣菜自身も理解していた。
『自分』の声はきっと前向きになれず、かといって後ろ向きにもなりきれない、臆病なまま惰性で生きている自分の声。
自問自答。自分の心で自分の魂に問いかける。
「私、笑えるようになりたいんだ」
『できると思う?』
「上手く笑えなくても、心から笑えるよ。今なら」
『…人間関係ってさ…歌と一緒だね、上手さよりも心が大事なの』
「…心が今まで離れてた私に言っちゃうんだ」
『これからは心、ちゃんとあるんだから…あー…、時間だ』
「え?」
『これからは、一緒だからね』
李衣菜の頭上に無数の流れ星が輝き流れていく。それと同時に李衣菜の意識は精神世界から切り離された。
「ねぇ…今のを聞いてそれを言うの?」
『しなきゃいけない時もあるよ。私はそれができる』
「…普通はできないでしょ」
『普通じゃないからね。…心の避難場所だよ。何も考えたく無くなったら、心だけここに置いてくればいいから』
「…うん、覚えておくよ」
李衣菜が響く『自分』の声と会話しながら草原を歩く。
心があっては精神攻撃などには弱くなる可能性がある。だからこそ、心を切り離す必要が出てくる時もあると李衣菜自身も理解していた。
『自分』の声はきっと前向きになれず、かといって後ろ向きにもなりきれない、臆病なまま惰性で生きている自分の声。
自問自答。自分の心で自分の魂に問いかける。
「私、笑えるようになりたいんだ」
『できると思う?』
「上手く笑えなくても、心から笑えるよ。今なら」
『…人間関係ってさ…歌と一緒だね、上手さよりも心が大事なの』
「…心が今まで離れてた私に言っちゃうんだ」
『これからは心、ちゃんとあるんだから…あー…、時間だ』
「え?」
『これからは、一緒だからね』
李衣菜の頭上に無数の流れ星が輝き流れていく。それと同時に李衣菜の意識は精神世界から切り離された。
566: 2014/06/30(月) 00:34:46.97 ID:1Ls41AtI0
目覚めるとまだ車の中だった。それほど時間は経過していないようだ。
「…李衣菜、起きたのか」
「ぐぁう…ふがー…んんー」
ずれていたことに気付き、喉の装置を素早く戻す。
「はい、大丈夫ですよ!」
「誕生日祝いが終わったら、しっかり休めよ」
「…了解です」
少しだけ、会話が途切れる。
その途切れた時間に言葉を刻むように、李衣菜は空気を震わせた。
「その…えっと…ありがとうございました」
「…何のことだ?」
「LPさんが言ってくれた言葉のおかげで、今の私、ちょっと幸せだから」
「そうか、もう…大丈夫なんだな」
何かを隠してそうなLPに、李衣菜は何も聞かなかった。
「はい!多田李衣菜、完全復活です!」
「…李衣菜、起きたのか」
「ぐぁう…ふがー…んんー」
ずれていたことに気付き、喉の装置を素早く戻す。
「はい、大丈夫ですよ!」
「誕生日祝いが終わったら、しっかり休めよ」
「…了解です」
少しだけ、会話が途切れる。
その途切れた時間に言葉を刻むように、李衣菜は空気を震わせた。
「その…えっと…ありがとうございました」
「…何のことだ?」
「LPさんが言ってくれた言葉のおかげで、今の私、ちょっと幸せだから」
「そうか、もう…大丈夫なんだな」
何かを隠してそうなLPに、李衣菜は何も聞かなかった。
「はい!多田李衣菜、完全復活です!」
567: 2014/06/30(月) 00:36:17.20 ID:1Ls41AtI0
―――
――
彼のギタリスト、スティーヴィー・レイ・ヴォーンは言ったはずだ。『死とは、人が変化することだ』と。
間違いなく多田李衣菜はもう死んだ。ロックも死んだし私も死んだ。
一度死んで生まれ変わったと言えば聞こえばいいけれど、とても世間から良い目で見られないような方法だった。
でも…私は幸せだと思いたい。私を人間として扱ってくれるみんながいるから。
思考も、できる事も、姿も…変わってしまったかもしれないけれど、その変化を受け入れようって思えたんだ。
例え変わってしまっても、心は変わってないとやっと実感できたから。
私は、死んでも変わり続けて、結局は私のままであり続けているんだ。
――
――――
――
彼のギタリスト、スティーヴィー・レイ・ヴォーンは言ったはずだ。『死とは、人が変化することだ』と。
間違いなく多田李衣菜はもう死んだ。ロックも死んだし私も死んだ。
一度死んで生まれ変わったと言えば聞こえばいいけれど、とても世間から良い目で見られないような方法だった。
でも…私は幸せだと思いたい。私を人間として扱ってくれるみんながいるから。
思考も、できる事も、姿も…変わってしまったかもしれないけれど、その変化を受け入れようって思えたんだ。
例え変わってしまっても、心は変わってないとやっと実感できたから。
私は、死んでも変わり続けて、結局は私のままであり続けているんだ。
――
――――
568: 2014/06/30(月) 00:39:07.33 ID:1Ls41AtI0
隠れ家にたどり着いて、ドアノブに手をかける前に扉が開かれ、きらりにガシッと掴まれ中に引き込まれる。
「李衣菜ちゃーんお帰りー!!…きらり、準備して待ってたゆ☆」
「もう準備は終わってるからなー。…あ、やばっ!プレゼントまだ二階に置きっぱなしだった、取ってくる!」
「きらりもー!」
「おいおい、よりによってそれかー…」
きらりと奈緒が二階へ駆けていくのをチラリと見ながら夏樹は李衣菜に向かい合った。
「だりー、お帰り。…誕生日おめでとう、こんな時間になっちまったけどな」
「…ありがとう、なつきち。…えへへっ、なんか他にいろいろ言おうとしたことあったのに、吹き飛んじゃった」
「なんだよ、何が言いたかったんだっての……」
李衣菜の返事を聞き一瞬だけ、ほんの一瞬だけではあるが、夏樹の表情が変わった気がした。
多分、分かってくれた。少なくとも李衣菜はそう思えた。
「んー…言わなくていい事、かな?」
だからそう答えた。信じているから、そう言えた。
「…なぁ、だりー」
「なぁに、なつきち?」
「なんか、ヘンだと思うかもしれないけどさ…おかえり」
「…うん、ただいま!」
まだうまく笑えないけれど、きっともう大丈夫。
未来永劫変わらない私は、もういない。
「李衣菜ちゃーんお帰りー!!…きらり、準備して待ってたゆ☆」
「もう準備は終わってるからなー。…あ、やばっ!プレゼントまだ二階に置きっぱなしだった、取ってくる!」
「きらりもー!」
「おいおい、よりによってそれかー…」
きらりと奈緒が二階へ駆けていくのをチラリと見ながら夏樹は李衣菜に向かい合った。
「だりー、お帰り。…誕生日おめでとう、こんな時間になっちまったけどな」
「…ありがとう、なつきち。…えへへっ、なんか他にいろいろ言おうとしたことあったのに、吹き飛んじゃった」
「なんだよ、何が言いたかったんだっての……」
李衣菜の返事を聞き一瞬だけ、ほんの一瞬だけではあるが、夏樹の表情が変わった気がした。
多分、分かってくれた。少なくとも李衣菜はそう思えた。
「んー…言わなくていい事、かな?」
だからそう答えた。信じているから、そう言えた。
「…なぁ、だりー」
「なぁに、なつきち?」
「なんか、ヘンだと思うかもしれないけどさ…おかえり」
「…うん、ただいま!」
まだうまく笑えないけれど、きっともう大丈夫。
未来永劫変わらない私は、もういない。
569: 2014/06/30(月) 00:40:20.11 ID:1Ls41AtI0
―おまけ・二階
「これ…いつ一階に下りればいいかな、なんか入りづらい空気なんだけど」
「うっきゃー☆らぶらぶ~」
「なっ!?いやいや、あの二人女同士だしっ……で、でもぶっちゃけ性別での分類ってよく分かんないしなぁ…うーん」
「あー…リーダーちゃんまだ入ってこれてないの、ずっと玄関の外にいるみたーい」
「LPさん…」
「これ…いつ一階に下りればいいかな、なんか入りづらい空気なんだけど」
「うっきゃー☆らぶらぶ~」
「なっ!?いやいや、あの二人女同士だしっ……で、でもぶっちゃけ性別での分類ってよく分かんないしなぁ…うーん」
「あー…リーダーちゃんまだ入ってこれてないの、ずっと玄関の外にいるみたーい」
「LPさん…」
570: 2014/06/30(月) 00:41:32.38 ID:1Ls41AtI0
・黄昏石
右目に埋め込まれている機械によって保護されている黄昏の様なグラデーションの宝石。李衣菜の魂を封じ込めてあるらしい。
この宝石を取り除かれたり破壊されたら、李衣菜は肉体を失う事になる。
今までは魂だけで心が欠けていたが、ついに心と魂を一体化させる事に成功した。
・李衣菜の精神世界
死と機械的な生の間で揺れ続ける李衣菜の精神を象徴した世界。どこまでも広がるグラデーションが特徴。
ずっと李衣菜の魂と心は分断され続けており、その心はずっとこの世界にいた。
『心』をキーワードに李衣菜の魂が精神世界に迷い込み、ついに一体化に成功。正常な感情を取り戻すことに成功した。
その経緯からか、通常ならば肉体と魂以上に魂と心を切り離すことは容易ではない筈なのだが、李衣菜は自らの意思で心を魂と分離させることが可能となった。
右目に埋め込まれている機械によって保護されている黄昏の様なグラデーションの宝石。李衣菜の魂を封じ込めてあるらしい。
この宝石を取り除かれたり破壊されたら、李衣菜は肉体を失う事になる。
今までは魂だけで心が欠けていたが、ついに心と魂を一体化させる事に成功した。
・李衣菜の精神世界
死と機械的な生の間で揺れ続ける李衣菜の精神を象徴した世界。どこまでも広がるグラデーションが特徴。
ずっと李衣菜の魂と心は分断され続けており、その心はずっとこの世界にいた。
『心』をキーワードに李衣菜の魂が精神世界に迷い込み、ついに一体化に成功。正常な感情を取り戻すことに成功した。
その経緯からか、通常ならば肉体と魂以上に魂と心を切り離すことは容易ではない筈なのだが、李衣菜は自らの意思で心を魂と分離させることが可能となった。
571: 2014/06/30(月) 00:42:51.32 ID:1Ls41AtI0
以上です。だりーな、誕生日おめでとー!
いつか感情を取り戻そうと思っていたらいつの間にか一年以上…時の流れは早い
精神世界のイメージは主にTwilight Skyから。名曲だと思います。
キービジュアルの李衣菜も可愛かったので満足(あと奈緒加蓮の距離が誰よりも近くて幸せ)
いつか感情を取り戻そうと思っていたらいつの間にか一年以上…時の流れは早い
精神世界のイメージは主にTwilight Skyから。名曲だと思います。
キービジュアルの李衣菜も可愛かったので満足(あと奈緒加蓮の距離が誰よりも近くて幸せ)
572: 2014/06/30(月) 01:33:57.87 ID:yJ5CJUit0
乙ー
だりーな誕生日おめでとう!
魂と心が一緒になってよかったね!
そして、LPェ…
だりーな誕生日おめでとう!
魂と心が一緒になってよかったね!
そして、LPェ…
【次回に続く・・・】
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