852: ◆zvY2y1UzWw 2014/08/19(火) 00:20:18.14 ID:YmRmlKlS0


モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


前回はコチラ


 なつきち誕生日おめ!ということでメダルSRが出てくる事を願いながら書いた誕生日SS投下ですよ

853: 2014/08/19(火) 00:22:21.50 ID:YmRmlKlS0
夏樹「…」

今日は眠れない夜だった。理由もなく、ただ眠れない。今日はそんな日だった。もしかしたら覚えていないだけで嫌な夢でも見たのかもしれない。

眠気が全く来ないし、こんな夜中に何かをするということも思いつかなかった。

奈緒もきらりも李衣菜もすっかり眠ってしまっている。(李衣菜はどちらかといえばスリープモードだが)

…少し気分を変えようと、物音をたてないように寝室から抜け出した。

夏樹「…あぁ、もう19日か」

暗いリビングのカレンダーを見てそういえば日付が変わって今日は誕生日だという事を思い出した。

今年もまたパーティでもするのだろう…誕生日はそんな日だ。

ソファに横になり、カーテンの隙間から見える月を見る。

視界には窓越しの空しか映らない。一つの視界で、何も考えないで空を見ているだけ。

クーラーのスイッチが入ってないこの部屋は少し暑いが、気にする程でもない。

夏樹「…」

…何故か、何も考えていない思考とは裏腹に、脳はいろんな記憶を掘り起こしていた。
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それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

~中略~

「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。



854: 2014/08/19(火) 00:23:12.98 ID:YmRmlKlS0
――

今の瞳は宙を漂う球体の機械で、瞳があった場所にはそれらを人間の脳で操る為の機械が埋め込まれている。

脳の演算処理機能拡張、視覚ユニットコントロール、穴…ポータル形成。それが脳と繋げられたこの『瞳』の機能だ。

改造された日から、少し頭の回転が良くなったことは自覚している。頭にコンピューターを埋め込まれたようなモノだから、仕方ないのかもしれない。

…様々な機能を詰め込まれたこの体は、研究員にとっての『成功作』だったらしい。

そしてその成功作を逃がさないように、一つの『失敗作』が利用された。

穴に飛び込めばあの研究所の外にだって行けるはずの体は、とても簡単な方法でどこに行くこともできなくなった。

李衣菜との友情を利用された。ただそれだけの事ではあるが、あまりにもえげつない。

お互いにとってお互いが人質にされたようなものだったのだから。

…李衣菜は親友だ。そして相棒だと思っている。李衣菜も同じ思いだと思うのは自惚れではない筈だ。

855: 2014/08/19(火) 00:27:32.47 ID:YmRmlKlS0
出会いは、とても単純でありながら偶然だった。そもそも通っている学校が違ったのだから、本当に巡り会わせというものだったのだろう。

家から逃げたくて一人で上京して通う事になった高校で自分は少し浮いた存在だったが、あまり気にしていなかった。

家から逃げたのは自分らしく生きることを認めない親と喧嘩になったからだ。髪もピアスも趣味さえも、もっと女らしくしろと言う。

だから逃げ出した先で自分を曲げることは絶対にしなかった。自分が自分の思うままに自分らしく生きるための道を選んだ。

偏差値はそれなりに上、そして校則が厳しくない高校を選んだのだ、親も文句を言う事は無い。…逆に学費を払うと聞いたときは耳を疑った。

あれは諦めだったのだろうか。それとも認めてくれたのだろうか。…今はもう分からない。

生活費とさらに趣味の為の資金を稼ぐためのバイトが少々大変だったが、それくらいは全く苦にならない。自由であることは素晴らしいと思えた。

バイクのメンテナンスの為に行った近くのガレージで美世や拓海と仲良くなり、それなりに楽しく生活していた。

それでもロックが共通の趣味な友人は居ないまま過ごしていたある日、行きつけのCDショップで彼女と出会った。

856: 2014/08/19(火) 00:29:05.05 ID:YmRmlKlS0
いつも通りどんなCDが出ているかをチェックしていた時、CDを取る手が重なった。お互いに手をひっこめて向き合う。

その相手こそ、李衣菜だった。

李衣菜「わわっ、すみませんっ!」

夏樹「っ…と、ゴメン…ん?」

慌てて手をひっこめた時に引っ掛かったのか、音楽プレイヤーとヘッドホンの接続が外れてしまったらしく、李衣菜の聞いていた音楽が漏れてしまった。

李衣菜「?…あっ!?ごごごご、ごめんなさいっ!?」

夏樹「…なぁ、その曲って…」

李衣菜「ふぇ?」

夏樹はその音楽にとても聞き覚えがあったから、目の前で慌ててプレイヤーのスイッチを切る彼女と会話がしたくなった。

回りにロックについて話せる人が居なかったから、少し年が近くて話せそうな人がいたのが嬉しかったのかもしれない。

857: 2014/08/19(火) 00:30:21.07 ID:YmRmlKlS0
…まぁ、李衣菜はロックについて全く知らない…所謂に「にわか」だったが、夏樹はそれでもよかった。

ロックに魂を揺さぶられ、それが好きと言える。仲間のように感じたのだ。知識なんてものは後からいくらでもついてくる。

李衣菜も、自分と年が近くそれでいて自分より遥かにロックな夏樹に惹かれ、憧れた。

お互いに人見知りをしない性格だったのもあり、いつの間にか互いの自宅に行くほどには仲が深まっていた。

夏樹はギターやおすすめの曲を教えたり、時折妙な暴走をする李衣菜に付き合ったり。それに李衣菜と共にいる事で改めて発見することもあった。

李衣菜がロックを好きなのは本当の事。彼女も自分と同じロックに魅せられた。積み重ねた時間が違うだけ。

だから波長が合ったのかもしれない。

858: 2014/08/19(火) 00:30:56.29 ID:YmRmlKlS0
そしてある夏の夜。それが運命の日だった。

859: 2014/08/19(火) 00:32:33.40 ID:YmRmlKlS0
李衣菜「ねぇねぇなつきち!凄かったよね!超ロックだった!!」

夏樹「はいはい、何回それ言うんだよ…確かに興奮したよ。まだアタシの熱も冷めないし」

李衣菜「うん!やっぱり行ってみて良かったねロックフェス!夜遅くまで外出できるようにお母さんを説得するの。すごく大変だったけど…」

夏樹「最後は折れてくれてよかったな。だりーはこれが初めて見る生バンド演奏だったんだろ?」

李衣菜「うん!ドラムがドドンってきて、ギターが頭にズギューンって入ってきて、みんなで盛り上がって…とにかくすごかった!」

夏樹「だな、次はもっと盛り上がるぜ。フェスに来る人はみんなそう思ってるさ」

李衣菜「うん!よくわからないけど、確かに次ももっと盛り上がりたい!」

二人でロックバンドの屋外フェスを見に行った帰り、飲み物でも飲もうかと自販機の近くにバイクを停めていた。

860: 2014/08/19(火) 00:34:38.86 ID:YmRmlKlS0
李衣菜「私もいつかああいう舞台に立って思い切りロックしてみたいなぁ…!ロックスターみたいに!」

夏樹「おいおい、まだギターも碌にできないのに随分と気が早いな…」

李衣菜「それはえっと…そ、そうだ!アイドル!アイドルみたいにボーカル専門って感じの…ダメ?」

夏樹「…まぁアイドルも嫌いじゃないし、ロックアイドルって結構イケる気がするけど…だりーはギターの練習だな」

李衣菜「はーい、ギター&ボーカルのリーナ目指して頑張りまーす!…頑張るよ、うん!!」

夏樹「はは、アタシだってベースも練習し始めたんだ、一緒にやればイケるって。上手く行かない時もあるだろうけどさ」

李衣菜「…なつきちがベースで、私がギター…ボーカルも!ツーピースバンドだよ、カッコいい!」

夏樹「ツーピースなら、ギターとベースじゃなくてギター二つの方がいいんじゃないか?」

李衣菜「あれ?そうなの?」

夏樹「ベースとドラムは一緒にいるもんだよ。片方だけじゃ物足りないのさ」

李衣菜「うーん…じゃあやっぱりいっぱい仲間がいた方がいいかなぁ…あ、でもなつきちと一緒ってなんかいいね、舞台の上ですごく絵になる気がする」

夏樹「そうか?そういうのはちょっとよくわかんないけど…」

李衣菜「でも、やっぱりドラムもベースもギターも欲しいよねーあとキーボード?」

そんな会話をしていた時だった。

861: 2014/08/19(火) 00:38:17.20 ID:YmRmlKlS0
―バチッ、バチバチバチッ

李衣菜「?」

―オオオオオオオオオオオオオ!

夏樹「!?」

不意に聞こえた大きな音に振り返って眩しい光に視界を奪われる。

それがトラックだと気付いた時にはもう何もかも遅かった。

来た方向がさっきまで何もなかった筈の空間で、運転席に誰も見えない。…そんな事にしか思考が働かなかった。

李衣菜「っダメ!!」

夏樹「…!」

ドンっと、突き飛ばされる。

無我夢中で自分を突き飛ばした李衣菜に手を伸ばしても届くことは無くて。

突き飛ばされたままゆっくりと時間が流れるような感覚に襲われる。

トラックの真正面に居る李衣菜は、あとコンマ数秒でトラックとぶつかる。

夏樹「だりいいいいいいい!」

自分の事を考える余裕なんてなかった。今のこの状況への疑問を解く時間も無かった。

だた、自分を助けようとして突き飛ばした馬鹿な親友の名を叫んだ。

862: 2014/08/19(火) 00:43:22.38 ID:YmRmlKlS0
そして無慈悲な事に非力な少女が突き飛ばした程度で人1人をトラックの幅から完全に出すことは叶わず…

…夏樹の記憶はここで途絶える。目を覚ました時、その瞳と四肢はもう失われていた。

手足を失った真っ暗な世界で、あれは事故。研究の失敗による事故だと聞かされた。

空間を歪め、歪みと歪みを綺麗な形にして繋げる事。それがコンピューターでは不完全な結果にしかならないと。

――

863: 2014/08/19(火) 00:45:33.91 ID:YmRmlKlS0
「なつきち…?大丈夫?」

その声で少し眠りかけていた意識が戻ってくる。

意識をはっきりさせると夏樹を見下ろすように、李衣菜が顔を覗かせていた。

夏樹「うおっ…なんだ、だりーか。大丈夫も何も、ただ眠れないから外を見てただけだって。ちょっと眠りかけていたけど」

思わず起き上って横になっていたソファに座る。外を見ていた視覚ユニットも自分のすぐそばまで戻した。

李衣菜「あ、そうだったんだ。ならよかった…えっと、誕生日おめでとう、なつきち!」

夏樹「おう。ありがとうな!…珍しく夜に起きてこっちまで来たのはそれが言いたかったからか?」

李衣菜がわざわざ充電しながらのスリープモードを解除してまで起きるのは珍しい事だ。朝になるまで起きない事がほとんどなのに。

李衣菜「うん。なつきちが動いたの感知しちゃって。今日誕生日だし、どうせなら一番最初に言おうと思ったんだ」

真横に座り、微笑みながら李衣菜はそう言う。最近笑顔が少しずつ自然なものに戻ってきているのを夏樹は知っている。

…その頬に、なんとなく手を伸ばしていた。

864: 2014/08/19(火) 00:46:50.01 ID:YmRmlKlS0
李衣菜「…どうしたのなつきち?」

夏樹「いや、なんとなく…肌、綺麗になったなと思ってさ」

李衣菜「…縫合の跡、最近消えてきたんだ。キュアイスの効果が地味に効いてきたみたいでねー…ここまでだと思ってなかったけど」

夏樹「そっか…なぁ、ちょっと…見せてもらっていいか?」

李衣菜「…いいよ?私は気にしないから」

返事を聞いて頬に伸ばしていた夏樹の手がゆっくりと降りていく。

李衣菜「?」

指が首をなぞり、視覚ユニットが少しずつ近づいている。…感覚は無いけれど、くすぐったいような感じがする。

865: 2014/08/19(火) 00:48:38.06 ID:YmRmlKlS0
そのまま指がパジャマの襟に引っかかると、器用に片手でボタンを外す。流石にこれは動揺した。

李衣菜「っ!?…!?!?ななななつきち、私達そういうのはその、早いって言うかもう遅いって言うか…!」

夏樹「…まだ残ってるのか」

李衣菜「…あれ?」

指で示したのは胸の上の傷跡。治りつつある今でも残っているそれはとても小さな火傷のようだった。

それに気づいた李衣菜も、それが示す意味を悟る。

李衣菜「なつきち、なんで…」

夏樹「アタシがだりーを撃った跡だ」

李衣菜「…違う、脅されて撃たされた跡だよ」

夏樹「どっちにしろ事実は変わらないさ。…はじめて人間に向けて引き金を引いたのが、だりーだったんだ」

李衣菜「…」

夏樹「時々思うんだよ、アタシは…役に」

李衣菜「せりゃっ!」

夏樹「!?」

その言葉を遮るように、李衣菜は無理やり夏樹を押し倒した。

866: 2014/08/19(火) 00:49:53.03 ID:YmRmlKlS0
李衣菜の体温は慣れていなければゾッとするほど低い。密着されても暑苦しくないのだが、それでもいきなり押し倒されたら動揺する。

夏樹「ちょっ…!?」

李衣菜「さっきのお返しだよ、もう…」

夏樹「人の話を遮ってやることがそれか!?」

李衣菜「なつきちだってセクハラしたもん!」

夏樹「あっ、ゴメン」

李衣菜「やっぱり自覚なかったんだね…」

力の差故に、夏樹は抜け出せない。無理やり突破する方法はあるが、今は使わない。

こんなに密着して話したのはいつ以来だろう。昔は李衣菜を後ろに乗せてバイクで二人乗りもしたのに、その時の温もりをもう感じることはできない。

いつの間にか、押し倒されるというよりは李衣菜を抱くような姿勢になっていた。

こんなに近いのに、どこか遠く感じるのは、生氏の壁があるからだろうか。

867: 2014/08/19(火) 00:51:56.96 ID:YmRmlKlS0
夏樹「だりー」

李衣菜「なぁに?」

胸元に顔を埋める李衣菜には心臓のリズムが聞こえてしまっているのだろうか。流石にそれは少し恥ずかしいけれど、伝えたい事があった。

夏樹「また…ロックフェス行けたら、行こうか」

李衣菜「うん、絶対行きたい。なつきちと一緒にバンドもやりたい」

夏樹「…覚えてたんだな、それ」

あれがある意味最期の会話だ。だからこそ覚えていたと思うべきか。

李衣菜「夢だからね、今でも。…奈緒ときらりとかもメンバーに入れたら楽しそうじゃない?」

夏樹「そうだなぁ…それにセッションしたあの祟り場の時はいろいろ大変だったし、もっとデカイ舞台を夢見ても良いだろ?」

李衣菜「大きな舞台…いけるかな、私達。一応特殊部隊でしょ?」

夏樹「平和な世界になったら、必ずなれるさ。そうじゃなくても、今のままでも方法や手段はあるだろ。特殊部隊だからって歌っちゃダメって事は無いだろうし」

李衣菜「だよね!」

868: 2014/08/19(火) 00:53:41.08 ID:YmRmlKlS0
夏樹「ははっ、だりーもいろいろ上手くなってるし…あー…」

だんだん夏樹の声が小さくなっていく。

李衣菜「眠そうだね、まぁ時間が時間だし…疲れてるんじゃない?ちゃんと休まなきゃだめだよ」

夏樹「…あー、そーする…悩みすぎるとどうしても疲れんだよなぁ…やっぱ性に合わないか…」

李衣菜「ロックとは…振り返らない事さ!ってね」

そんな事を言いながら李衣菜が立ち上がる。返事が無いので振り返ると、既に夏樹は視覚ユニットはとっくの昔に回収し、もう眠っていた。

李衣菜「なつきち?…もう寝ちゃってるよ!早いなぁ…風邪引いたらどうするの。今日はなつきちが主役の日なのに」

出来る限り優しく夏樹を背負うと、李衣菜は寝室へ向かう。

その表情はどちらも穏やかだった。

869: 2014/08/19(火) 00:54:47.33 ID:YmRmlKlS0
オマケ ―究極生命体は見た

奈緒「喉乾いた…夏樹も李衣菜も台所かなぁ…ん?リビングにいる…?」

奈緒「なにしてるんだろう…」コソコソ

 夏樹『ちょっ…!』

 李衣菜『さっきのお返しだよ、もう…』

奈緒「」

奈緒(ほああああ!?なつきがりーなに、おしたおされて…うわ、わわわわわわわ…)

奈緒(…あたしは何も見なかった)スタコラサッサ

――この後滅茶苦茶寝れなかった

870: 2014/08/19(火) 00:56:12.79 ID:YmRmlKlS0
以上です。安定のシリアスで百合になる病である
誕生日おめでとうなつきち!メダルSRは一枚引けました!!(なお底だった模様)
この話と何の関係もないけど、なつきちは黒い水着似合うよね…

二度目だけどメダルとかアイチャレのせいでネタが浮かんだから仕方ない

871: 2014/08/19(火) 01:39:48.13 ID:AgtYF+8N0
乙ー

なつきち誕生日おめでとー
そして、最後の奈緒w

引用: モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」 part10