942: ◆BPxI0ldYJ. 2014/08/21(木) 15:53:22.19 ID:MmUahvQ/0


モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


前回はコチラ




  戦闘痕の目立つ建物の影に、肩を落として立ち尽くす人影が一つ。

 その場にヒーロー、またはGDFにそれなり知識を持つ人間が居たならば、それがシンデレラ1に所属する人間、もっと言えば有浦柑奈であると認めることができただろう。

 衣服の隙間から鋼を覗かせるその背中は、どういうわけかひどく頼りなかった。

「帰ったら駄目なとかな……」

 力無く無線機を起動しながら溜め息混じりの弱々しい声を吸い込ませる。

 その声から活力は感じられず、少なくとも方言を隠すことを放棄するくらいには落胆していた。

『だ、だめだよっ…命令だし』

 咎めるような響子の声も、語尾に近づくにつれて語気が弱くなっていく。いまいち否定しきれない、とでも言うように。

 ──まるで命令じゃなかったら帰ってそうな口振り。

 …と考えかけた直後、それがひどく卑屈な考えだと気付くと、途端に自分がひどく矮小に感じられた。

 無論、彼女が普段からこういった思考回路を有している訳では無い。

「ばってん、そがん事言っても…」
「……どう考えてもオイ達役に立ってなか…」

 と、後ろ目に戦闘痕を精査しながら自嘲する。

 目立った破壊がなされた痕跡こそ無いものの、所々に見られるそれはそこで戦闘が行われた事を雄弁に語っている。
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それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

~中略~

「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。



943: 2014/08/21(木) 15:54:27.92 ID:MmUahvQ/0
 有浦柑奈が戦闘音と悲鳴を聞きつけ、この場所を訪れたのはつい先ほどの事。しかし既に此処はもぬけの殻。
 つまり、彼女が駆けつけるまでに事態は収束していたと考えるのが妥当である。

 此処だけではなく、響子が駆け付けた屋上でも似たような事があった。

 あちらはクルエルハッターとラプトルバンディットが関与しているらしいことが判ってはいるが、それでも彼女が一足遅かった事に変わりはない。

 所々で確認されるカース達にしても、それぞれ居るヒーローがその場で対処してくれている。
 それこそ、シンデレラ1の出る幕が無いくらいに。

「こがん物騒な物置いてラブとピース重点にしたかー…」

 ともすれば、やる気が空回りするばかりの彼女の口からそんな愚痴が出てくるのは、無理のないことだったのかも知れなかった。

 帰るわけにいかないのは重々承知。
 だからこそ愚痴ぐらいは許して欲しい。というのが彼女の言い分である。

『うーん、もう少し人を回したりしてくれたら、ちょっとは楽になるんでしょうか?』

「どーなんやろうね…」
「回ってこんね、……来ない、かもわからんよ?」

『え?』

944: 2014/08/21(木) 15:55:59.67 ID:MmUahvQ/0
「ヒーロー同盟的にはあんまいGDFに関与して欲しゅうなかやろうし」

『それは?』

『…真っ正面から宣戦布告されちゃったらしいしね、私もそう思う』

「まぁ、GDFも黙ってられなかけんこそ、オイ達がここに居るんやろうばってんね…」
「一番当たり障りの無か関与の仕方が”警備”やったと思おる」

『へー……』

『でも、GDFがこれ以上関わってこない保証もないけどね』
『それこそキュクロプスとか……ケトスが出撃してもおかしくないと思う』

『ケトス!!?』
「っ」

 突然大きくなった驚愕の声に、ほか二人の耳へ不意に強い刺激が走る。

 ケトスと言えば228mm榴弾砲を初めとした過剰火力の権化のような攻撃機だ。知る者がその名前を聞けば、驚愕が口に出るのも無理はないだろう……

 ……至近距離からの大音量が耳に痛くなかったと言えば嘘になるが。

『…ま、まあ、実際に動くかどうかは…偉い人が決めることだから、可能性の話だけどね』
「案外、ヒーロー同盟も気にせんかも知れんし」

945: 2014/08/21(木) 15:57:05.02 ID:MmUahvQ/0
『…………なんか』

「ん?」

『柑奈ちゃんが頭の良いことを話してると違和感が』
「流石に傷つくよ?」

『あぁあ、むむ…ここは私がお詫びに一発…』
「ええよ、気持ちだけで」

 美羽だけがテンションを維持していられるのは、そういう性格だからだろうか。
 無線機から鳴る明朗な声を聞いていると、なんだか自分の情けなさが浮き彫りにされるような気がする。

「負けていられんねぇ…」

 誰に言うでもない呟きは無線の先には届かず、風に紛れたノイズとなって電子に消えた。

『…?何か……』

 美羽に負けじと気を保とうとして、気を切り替えるために自らの頬を一発叩く。
 あまり強く殴る度胸は無かったが、それでも儀式としては十分。陰鬱とした気分を強く鼻息に乗せて追い出し「……何でもないですよ!」と幾分か持ち直した声を無線機を投げかける。

 役に立たないからどうした。
 出る幕が無いから何だ。
 別に戦うために来たわけじゃあ無いんだ。
 それに、もしもがあったらどうする?

 そうだ、卑屈になってる暇はない。

 固め直した気合いを足に込めて一歩踏み出す。意気込みと共に再び歩き出そうとすると、その決意に応えるように、どこからか甲高い悲鳴が鳴り響いた。

946: 2014/08/21(木) 15:57:50.42 ID:MmUahvQ/0
「み゛ぃ゛ぃ───ッ!?」
「っ!」

 思うよりも早く、駆け出していた。
 音源はそう遠い距離では無く、異能の者が全力で踏み込めば五秒とかからずその原因を認めることができる。

 頭の中に居る何かが、柑奈の心に戦意を掻き立てる。衝動のようにこみ上げるそれは、柑奈の拳を無意識の内に握りしめさせた。 

 背後に背負ったギターケースが暴れながら柑奈の体を追従する。高速で飛ぶように駆けながら、眼前に見定めた目標──泥に身を固めたカースに向かい、左足を踏み込んで、その身を弾丸のように飛翔させた。
 強まった大気の圧力に顔が歪み、呼吸が押し込められる。景色が先刻に倍する速度で流れ行き、視界に広がる真っ黒な泥との相対距離が一気に近付いた瞬間を見計らって、腰にだめに構えた右拳にフォース・フィールドを纏わせて振り抜く。
 俄かに発光するフィールドが空中に光の軌跡を描き、泥へ打ち込まれた一本の楔となって食い込んだ。

「コノヤぉエ゛エ゛エ゛アア゛アア゛ウア゛ッ!!」

 速度を乗せて、弱点を正確に狙い澄ました一閃は、泥を掻き進んで核を破壊。恨み言の如き叫び声をそのまま断末魔に転じさせる。

947: 2014/08/21(木) 15:58:57.61 ID:MmUahvQ/0
 ───次っ!

 衝動の如き敵意と覇気を視線に乗せて、飛び散る泥と核の破片が埋め尽くす視界の中に次の敵の影を探る。
 右前方に位置していた泥の塊を認識するとこのまま飛びかかりたくなる気にもなったが、空中の不安定な姿勢のままでは叶うことではない。
 やりきれなさに歯噛みしながら、消滅する寸前の泥を蹴って後方に飛び下がるのが精々だった。

 仲間の断末魔を聞き、漸く外敵の存在を認識したカースが、辛うじて頭部と判る部位を柑奈へ振り向ける。
 彼等に仲間意識という物があったかは判らないが、憤っているらしい叫声を上げながらその全身からおぞましい触手を顕現させた。

「…テメェェェェッ!?ブチ◆□テヤロウカァッ!」

 間違っても放送コードには乗せられなさそうな、およそ品性の見て取れない発言に思わず眉をひそめる。
 敵を睨む瞳に憤りが宿った時には、次の手を考えるまでもなく前のめりに飛び出していた。

 相対する色欲のカースから無数の触手が展開される。
 ある数本は進行方向を遮るように、ある数本は側面から絡め取るように、ある数本は足をすくうように。
 空中に敷かれた網を思わせて襲い来る触手の全てを回避することは困難だろう。
 ならば弾くか、斬るか、逃げるか、捻るか───

 ──柑奈は防ぐ。
 足先に慣性を乗せたまま体を倒して、地面を抉りながらスライドする。同時に上方にフォースフィールド展開すると、その上から柑奈を捉えようとした触手が薄橙のフィールドの表面を滑った。途中何本かが柑奈に引っかかったが、二、三本程度の力などたかが知れていた。
 速度の乗った重量物を止めるには至らず、包囲網を潜り抜け、触手を置き去りにした柑奈の体は、数秒ともなくカースの下方へ滑り込む。
 自らの体を影が覆ったのを頃合いに、無心で泥の体を蹴り上げた。

948: 2014/08/21(木) 15:59:41.28 ID:MmUahvQ/0
「ギャアッ!?」

 蹴撃の衝点で鳴った鈍い水音と共に黒い泥が放射線状に撒き散らされて、柑奈の体と芝のある地面を汚す。
 だからと言って核が露出するよな事は無く、依然として泥に覆われたままだったが───

 ───次いで、起き上がる勢いを乗せて放たれた貫手を防御するにはあまりにも薄かった。
寸秒遅れて柑奈に追い付いたカースの触手が肢体に絡み付くが、既に遅い。
 柑奈の掌の中には、もう桃色の核の質量が在ったのだから。

 触手が体を縛り上げるよりも先に体を捻らせ、核を一気に引き抜く。力の源を取り上げられたカースの触手は氏んだように硬直して、水分を失った泥のように崩れ落ちた。

 勝った。

 背後でパラパラと落ちる泥の残骸が、その感覚を確かなものとする。

 このカースの命運はまさしく彼女の手の中だ。

949: 2014/08/21(木) 16:00:26.30 ID:MmUahvQ/0
「ラブとピースを乱す輩は、この私が……」

 目を閉じて余韻に浸りながら、誰に聞かせるでもなく、穿って見れば自己陶酔とも取れる台詞を吐き出そうとして、止まる。

 ふと思いつき、先の戦闘を思い返す。
 視界外からの奇襲。攻撃を封じて弱点を捉える。

 一方的だな、と。

 これはラブとピースに則しているのであろうか。───無論、戦闘行為自体が則していないと言えるが───もしかして自分もあまり人の事を言えないのか?

 よくわからない。
 いつもこう言う時になると自分の中の何かが………

「……ァ…ぁ…」
「!…」

 不意。そんな思考を突くように、未だ活動を止めていないカースの核から泥が染み出す。

 ──まあ、カース相手に考えても仕方のない事か。

 そう唱えて思考にとりあえずの決着を付けると、握る手に力を込めて色欲のカースに止めを刺した。

 ぱきゅん、と子気味の良い音を鳴らして弾け飛んだカースの核が桃色の粒子を散らす。
 どことなく幻想的な気がしないでもない、とぼんやりと考えていると───背後からだろうか、耳を済まさなければ聞き逃してしまいそうな呻き声が鼓膜をくすぐった。

 叫び声を上げた存在だろうか。 
 なるだけ好意的な笑みを形作り、背後に「もう大丈夫ですよ!」と明るい声を投げかけると、帰ってきたのは柑奈の虚を突く返事だった。

「…み、みぃ……」

 否、返事ではなく、鳴き声と形容するべきだったかも知れない。

950: 2014/08/21(木) 16:01:02.65 ID:MmUahvQ/0
 物影からひっそりと顔を出して、控えめにこちらを伺っている存在。人をデフォルメしたような容姿をしたそれは、柑奈にとっては未知との遭遇だった。

 予想よりも随分と間抜けな生物が現れたもので、事態を飲み込めていない頭が寸秒フラットになる。
 あれは一体何者なのか。いまいち把握しきれなかった。しかし、理解よりも先に湧き上がる感情があった。

「……かわいい」
「……み?」

 その小じんまりとした体躯を眺めていると、何だか胸が締め付けられるようだ。何かに脅えているような仕草も、無性に保護欲を掻き立てさせる。愛らしい。

 名を呼ぶのなら”ぷちユズ”なのだろうが、それは柑奈の知るところではない。

「怖くないよー…怖くないよー…」
「み、みぃ…」

 感情そのままを顔に出しながら、腰をゆっくりと落として一歩一歩にじり寄る。───欲望をだだ漏れにしたその様が本当に怖くなかったかどうかは定かではない。

 小じんまりとしたその生き物が、怯えたように二、三本後退りするが、それでも両者の距離は縮まっていく。
 およそ三メートル。まさしく目と鼻の先とも呼ぶべき距離まで接近したのを見計らい、柑奈は一気呵成にその距離を詰め、無駄に無駄のない動作で小さな体を抱え上げた。

「捕まえた!」

 小さな体は腕の中にすっぽりと収まり、幼子を抱き上げたときのような感覚だ。

951: 2014/08/21(木) 16:01:57.19 ID:MmUahvQ/0
「こがん所でなんばしとったの?」
「みぃーっ!?みぃぃーっ!!」
「おー、そうかそうか♪」
「みみぃぃぃーッ!!」

 驚焦に陥ったぷちユズが腕の中で暴れが、奮闘虚しくサイボーグの体はその体では揺らぎもしない。
 喚き散らすのも無視して、一方的に撫で回す替わりに頬摺りを寄越すと、見た目通り柔らかな感触が頬から帰ってきて、得も言われぬ幸福感に包まれる。

「みぃ!みぃ!!みぃ!!!」
「みー♪みー?」

 このぷちユズの持っている鎌が白色だったことは、柑奈にとって幸運であったに違いない。

「こが…こんな所に居たら危ないから私と一緒に安全な所に行きましょうね!」

「………みぃ」

 力のない返事は諦めの結果だったのか、ただ疲労困憊しただけの話か。

「ふん♪…ふんふふん♪…」




「……とぉぉぉおおおおおおう!!」

 どこかの空から咆哮が轟いたのは、鼻息を歌いながら歩き出そうとしたまさにその時だった。

 音源を振り返り見れば、太陽に浮かび上がるシルエットが此方に向かって落下してきているのが見える。

 ぎょっとして身を竦ませたのも束の間、腕の中のぷちユズを庇いながら身を投げ出すと、間髪入れずに落下した物体が後方で轟音を巻き上げる。

952: 2014/08/21(木) 16:02:43.09 ID:MmUahvQ/0
「……あぶなっ!?ちょっと大丈夫です、…か……」

 飛び散った小石が背中で弾けるのを待ち、身の安全を確認した後、青ざめた顔を後方に振り向けながら動転して上ずった声を落下物へ投げかけて、その姿を認めた瞬間語尾が止まる。

「大丈夫ですかっ!?私が来たからにはもう安心………」

「……って、あれ?」

「何しとんの?…美羽ちゃん」
「ほえ?柑奈ちゃん…」

「悲鳴を聞きつけて来たんですけど……」

「それ、この子の悲鳴ですよ!」

 鼻息をふんと吹き出しながら腕に抱えたぷちユズを前へ突きだすと、美羽の白黒する瞳が否応無くそこへ落とされる。

 その大きな瞳をじっと覗き込んだ数秒の後…

「…かわいいっ!」
「ですよねっ!」

 ぷちユズを見つけた柑奈と同様の反応を弾けさせて、今度は二人できゃいきゃいと黄色い声を上げながら愛で始めた。

 繰り返すようだが、このぷちユズの持っている鎌が白色だったことは、彼女らにとって幸運であったに違いない。

953: 2014/08/21(木) 16:04:34.18 ID:MmUahvQ/0
「持ち帰っちゃだめですかね?」

 と、思いつきを口にすると、美羽が反射で遮るように「それはダメですっ!」ときっぱり言い放った。

 それはいったいどういうことか。
 不意な言い方を怪訝に思いつつも、無言で話の続きを促すと、ぱちくりする視線を受けとった美羽は「この子飼い主が居たの…」とあからさま残念そうに紡いだ。

「そっかあ、だったら返さないといけませんね…」
「うん、そうだねー……」

「「…………」」

 寂しさの揺れる瞳で覗き込まれたぷちユズが、あまりに激しいテンションのギャップに狼狽えているのを後目、そのままの瞳を美羽に上げた柑奈が「どんな人だったんですか?」と寂寥感を噛み頃す思いで投げかける。

「ちょうど、この子をそのまま…柑奈ちゃんぐらいにおっきくした感じの人?」
「この子みたいな子を三匹ぐらい連れてた」

「ふむ…だったらすぐ見つかりそうですね!」

「いつまでも捕まえてるのもかわいそうだし、早く返しに行ってあげようねっ!」

 多少胸に残るものはあっても、知ってしまった以上、誘拐してしまうような度胸も、悪意も無かった。

 ひとまず人の多い所へ、―――校舎へ向かって歩き出す





「……あ、私は別の場所の警備しなきゃいけないから、ごめんっ」
「やっぱり?」

 柑奈一人で。

954: 2014/08/21(木) 16:05:55.27 ID:MmUahvQ/0
おわり

所々の長崎弁はコンバーターに突っ込んだだけなのであしからず

955: 2014/08/21(木) 16:38:48.33 ID:LpFUTu6rO

ぷちユズは柑奈に拾われたか
柑奈強い(確信)

ただ申し訳ねえ
ラプトルバンディットは爛ちゃんが隠してる古の竜としての本名であり、
ヒーローとしての名前はラプターなのよ

956: 2014/08/21(木) 17:11:57.12 ID:MmUahvQ/0
あ゛っ………



脳内変換、オネガイシマス…



【次回に続く・・・】




引用: モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」 part10