1: 2012/03/06(火) 23:11:53 ID:lMIwXnxc
虐められた中学時代。
腫物扱いの高校時代。

よくある境遇だけど、
辛いものは辛いんだ。

男(……はぁ)

最近、考えることが趣味で、

“どうしてこうなったか”

考えてみたりする。

2: 2012/03/06(火) 23:13:06 ID:lMIwXnxc
\ワイワイガヤガヤ/

リア充どもがうるさい。
まったく。休み時間なのに。

男(……)

でも小学生の頃は、
自分もあんな感じだった。

男(……)

ほんと、何でだろう。

男(……)

おそらく原因は、
自分にあるんだろうけど。

3: 2012/03/06(火) 23:18:27 ID:lMIwXnxc
やはりコミュ障が原因か。

男(……)

他人に興味がない癖に、
他人の評価を気にする奴。

自分を卑下する癖に、
自尊心が人一倍高い奴。

それが俺という人間。

傷つくのが怖い。
嫌われるのが怖い。

だから余計に縮こまっちゃって、
自分の発言には細心の注意を払う。

男(……)

でもそんな生活は凄く疲れるんだ。
だから俺は今、こうして無言なワケで。

男(……)

4: 2012/03/06(火) 23:22:27 ID:lMIwXnxc
改めて思う。無言は効率良すぎだ。

まず疲れない。それに失敗もしない。
ゆえに黒歴史も増やさないで済む……。

『キーンコーンカーンコーン♪』

1時限目の開始鈴が鳴り響く。

男(……ふぅ)

そっと溜め息。

休み時間という拷問から解放された今、
俺にとっては、今からが休み時間なワケで。

『ガラガラッ』

男(……ん?)

入ってきたのは、我が2年C組の新担任。

担任「えーっ、1時限目の授業だが」

担任「緊急で全校集会に変更となった」

担任「今から全員、体育館に集まるよーに」

男(……マジかよ……めんどくさ……)

5: 2012/03/06(火) 23:24:09 ID:lMIwXnxc
◆9時05分://学校/体育館◆

男(……まったく……)

男(先週、始業式だったってのに)

男(何でまた全校集会なんか……)

幼馴染『まぁまぁ♪ そう言わないで』

男(はぁ……お前は本当、気楽な奴だな)

幼馴染『それだけが取り柄ですから♪』

男(……はいはい……そうですか)

司会「それでは校長先生、お願いします」

校長「オホン……えーっ、おはようございます」

\オハヨーゴザイマース/

校長「早速ですが、本題に入ります」

校長「皆さん、部活動には入っていますか?」

男(……え?)

6: 2012/03/06(火) 23:27:18 ID:lMIwXnxc
校長「もちろん、入ってない学生もいるかと思いますが」

校長「本校は今年度から――」

校長「”完全部活制度”を実施することになりました」

男(……完全……部活制度?)

校長「簡潔に言うと、学生は原則として全員――」

校長「”何らかの部活動に参加しなければならない”」

校長「――という制度です」

男(……は?)

校長「近頃、ニートと呼ばれる若者が増えていますが」

校長「総務省の調べによりますと、そのおよそ70%が――」

校長「中学・高校時代と、帰宅部だったことが分かっています」

校長「本校では、このような事実から――――」

男(……マジかよ……冗談じゃないぞ……)

男(……何で部活なんかやらなきゃいけないんだ!?)

男(……そんなことをしたところで……何の意味が……)

8: 2012/03/06(火) 23:30:10 ID:lMIwXnxc
幼馴染『そういえば男って、帰宅部だったよね?』

男(……そうだけど……絶対入りたくないぞ)

幼馴染『でも入らないと、怖い罰があるって……』

男(分かってるよ。でも部活になんか入ったら――)

??『くすくす……』

男(……傷つくだけに……決まってるだろ)

幼馴染『ん~、じゃあどうするの?』

男(……適当な同好会の、幽霊部員にでもなるさ)

幼馴染『……あぁ……なるほど……』

男(何だよ? 何か言いたそうだな)

幼馴染『べ、別にそんなことないよ』ブンブン

男(……)

妄想の幼馴染が、俺を軽蔑してる。
つまり俺自身が、俺を軽蔑してるということ。

胸の奥では分かってるんだ。
このままじゃ、ダメだってことが……。

9: 2012/03/06(火) 23:33:36 ID:lMIwXnxc
◆9時30分://学校/教室◆

担任「それじゃ部活動の一覧を配るぞ」

女教師が何やら薄い冊子を配り始めた。
最後列の俺は、最後の1冊を受け取る。

「野球部」「サッカー部」「軟式テニス部」
「バスケ部」「ラグビー部」「硬式テニス部」

男(運動部か……メジャーどころだな)

男(入るくらいなら死んだ方がマシだ)

ページを2、3ページ捲る。

「吹奏楽部」「美術部」「文学部」
「合唱部」「茶道部」「棋道部」

今度は文化部らしい。

男(……運動部よりはマシだけど)

男(全然興味が湧かないんだよな……)

男(というより、人と関わりたくない)

10: 2012/03/06(火) 23:37:50 ID:lMIwXnxc
『パラッ』

「フットサル同好会」「ハンバーガー愛好会」
「鉄道模型同好会」「アマチュア無線同好会」

「レトロゲーム同好会」「特撮研究会」
「サンドイッチ愛好会」「2D映像研究会」

男(……はぁ……どれもこれも……)

男(まぁ、どうせ幽霊部員なんだ)

男(どこでもいいから選ばなきゃ)

男(…………)

男(……フットサルでいいか……)

男(全然活動してるところ見ないし)

男(俺が入ったところで支障は――)

??『くすくす……』

男(ッ……!)

まただ……また笑い声の幻聴……。

11: 2012/03/06(火) 23:44:38 ID:lMIwXnxc
男(はぁ……最近よく聞こえるな)

男(……疲れてるんだろうか……)

担任「はいちゅーもーく」パンパン

男(ん?)

担任「入部届けは、来週の月曜までに出せよー」

担任「あと提出前に、私のとこにも持ってくるよーに」

男(……二度手間かよ……めんどくさっ……)

生徒A「ところで先生~、結婚の話はどうなったの~?」

担任「え? って……急に何だよお前ら……」

生徒B「いいからいいから♪」

担任「まぁ一応……次の土曜に式を挙げる予定だが……///」ボソッ

\お~/ \ひゅ~ひゅ~/ \おめでと~/ 

男(……へぇ。アイツ結婚すんのか……初めて知った……)

12: 2012/03/06(火) 23:49:13 ID:lMIwXnxc
担任「ったく……///」ボソッ

男(……)

なんというか、よく貰い手がいたものだな。
あの教師、見た感じ難しそうな性格なのに……。

生徒C「オレ絶対、結婚式行きますからwwww」

生徒D「わたしもwwwwドレス見に行くwwww」

男(……うわぁ……気持ち悪い奴ら……)

担任「お、オホン!/// えーっ、連絡も終わったことだ」

担任「残りの時間は自習にする。分かったか?」

\はぁ~い/

担任「……じゃあ私は一旦、職員室に戻るからな……///」スタスタ

『ガラガラ』


担任「あ、そだ! 男、ちょっと一緒に来てくれないか?」


男(はっ……!?)

生徒達(えっ……?)

13: 2012/03/06(火) 23:55:20 ID:lMIwXnxc
生徒達「……」

俺の名前が響き渡ったと同時に、
教室には、冷たい空気がほとばしる。

男(……何だよ……何だって言うんだよ……)

『ガタン』

俺は素早く立ち上がり、
これまた早歩きで移動する。

男(用があるなら、後でこっそり呼べばいいだろ!)

男(そんなに俺を、晒し者にしたいのかよ!)

生徒達「……」

担任「ん? どうしたお前ら、急に静かになって……」

男(黙れ。鈍感すぎだ。それでも担任か!)

生徒達「……」

男(お前らもお前らだ。何で急に黙るんだよ!)

男(俺がお前らに何をしたっていうんだ!)

14: 2012/03/06(火) 23:56:11 ID:lMIwXnxc
??『くすくすっ……』

男(くっ……!)

男(誰だ! 今笑った奴は!!)

生徒達「……」

男(……)

また幻聴だった。

男(くそっ……!)

最近の自分は、本当にどうかしてる。
早く帰りたい。帰って自室に引き蘢りたい。

それでネットして、漫画見て、寝て、
アニメ見て、ゲームして、オXXーして……。

担任「……おい男……何かあったのか?」

男(……)

担任「……まぁとにかく、職員室まで来い、な?」

男(……お前は本当に、分かっていない……)

15: 2012/03/07(水) 00:41:54 ID:fvWgGmmc
◆9時45分://学校/職員室◆

気まずくも職員室に到着。
移動中は、終始無言だった。

担任「なぁ……」

口火を切った女教師。

担任「もしかしてお前、虐められてるのか?」

男(……)

……何も分かっちゃいない。

担任「……どうなんだ?」

男「……別に虐められてませんよ」

担任「……」

ふん。今、「声小さ」って思っただろ?
ほっとけ。お前なんかと喋りたくないんだ。

担任「……本当か?」

16: 2012/03/07(水) 00:42:30 ID:fvWgGmmc
男「……はい」

担任「じゃあ何でさっき、教室の空気が変わったんだ?」

男「……分かりません」

大方、反応に困ったとか、そんなとこだろうよ。
結婚の話題で、教室が盛り上がってるところに、
お前はその響き渡る声で、俺の名前を呼んだんだ。

空気を読めないにも程がある。
俺をそんなに苦しめたいのかよ。

担任「……そんなに先生が頼りないか?」

……は? 誰もそんなこと言ってないっての。

担任「確かに私はまだ若いが、列記とした担任だ」

担任「少しくらい、信頼してくれてもいいだろ?」

男「だから虐められてませんって」

担任「……まぁ……そこまで言うなら信じるが……」

男「それより、何で俺は呼び出されたんですか?」

担任「……え? あ、ああ……本件はそっちだったな」

男(忘れてたのかよ)

17: 2012/03/07(水) 00:43:34 ID:fvWgGmmc
担任「実はウチのクラス、帰宅部はお前だけなんだ」

担任「だから、ちゃんと部活に入るよう――」

担任「親身に助言してやろうと思ってな」ニコッ

男(……)

そんな用件で呼び出したのか。
余計なお世話にも程がある。

男「あの……入る部活なら、もう決めたんですが」

担任「おお、凄いな。もうやりたいこと見つけたのか?」

男「はい……ですから助言は結構です……」スッ

『ガラガラ』

担任「え……?」

男「失礼しました」

担任「え!? ちょ、まだ話は終わって――」

『ピシャン』

担任(えええ……何だよアイツ……)

18: 2012/03/07(水) 00:45:05 ID:fvWgGmmc
◆9時50分://学校/職員室前廊下◆

男(……ふぅ……)

話を打ち切り廊下へ退避する。
コミュ障にとって会話は苦でしかないのだ。

男(……結構喋ったな……)

やっぱり人と話すのは好きになれない。
疲れるし、自己嫌悪に陥る。最悪だよ。

男(……あぁ……まだ自習の時間か……)

男(……教室、戻りたくないなぁ……)

授業中にドアを開けると、
皆が一瞬、こっちを振り向く。

あの瞬間が、途轍もなく大嫌いなのだ。

男(……休み時間まで、トイレでサボっとくか)

踵を返し、トイレのある方へ向かう。

完全個室でウォシュレット付きの最高設備。
この学校のトイレはまさに天国。

そこは“流石私立”と言うべきか。

19: 2012/03/07(水) 00:47:31 ID:fvWgGmmc
「都内トップの附属高校」

俺の通うこの学校の代名詞だ。
一度入ってしまえば後はエスカレータ式。

そこまで勉強しなくとも、
皆が褒め称えるような大学に入れる。

プライドが高い癖に、勉強したくない、
働きたくないし、将来について考えたくもない。

そんな人間にぴったりの高校なのだ。

男(……)

しかし欠点があるのも事実。

この学校は一応、専門学校なのだが、
そのためクラスが専攻別に別れており、
それゆえにクラス替えが一度もないのだ。

だから第一学年でコミュニケーションに失敗すると、
それすなわち高校生活終了のお知らせ、なのである。

まぁ俺は最初から諦めてるワケで、
そんなことはどうだっていいんだけど。

20: 2012/03/07(水) 00:48:20 ID:fvWgGmmc
男(……ん?)

トイレまであと数メートルのところ。

中庭の見える玄関ロビーから、
中庭に小さな人影を見つけた。

教師や庭師ならともかく、
その姿は間違いなく生徒。

男(まだ授業中だろ……何してんだ?)

人のこと言えないけど、当然の疑問である。
見た感じ、下級生っぽい……新1年生だろうか。

男(……ま、どうでもいいけど)

引き続き、歩みを進める。

男(今日はトイレで何をしよう……)

男(やっぱスマホで2chかなぁ……)

そんなことを考えていたら。

「ふふふ、決めたわ」

男「……!」

中庭の生徒が、陰湿に微笑んだ。

21: 2012/03/07(水) 00:49:36 ID:fvWgGmmc
男(……きゅ、急に何だよ……)

思わず足を止めてしまったが、
まぁ関係ないし、興味があるわけでもない。

あんなのは放っとくべきである。

男(えーっと、トイレトイレ――)

「ちょっとそこのあなた」

男「!」

――え?

「聞こえてるでしょ? あなたよあなた」

……もしかして……俺……?

男「……」バクバク

男「……」バクバクバクバク

暴れる心臓。震える手足。
頭の中から、色が失われていく……。

「ふふふ。無視してるのバレバレ」

22: 2012/03/07(水) 00:50:33 ID:fvWgGmmc
教師ならまだいい。
話そうと思えば話せる。

だが生徒は無理だ。
奴らは面白さを求めてきやがる。

俺なんかと話してみろよ。
気まずくなるのは目に見えてるだろ?

どうせ離れたがるなら、最初から話しかけないでくれ。
俺は嫌われたくない……無関係のままがいいんだよ!

「あら、凄い汗。疾しい事でもしてたの?」

男「!!!」ビクッ

いつの間にか、彼女は横にいた。
何だよ……何なんだよコイツ……!

「さぁ吐きなさい。授業をサボって何をしてたのか」フフフ

男「……っ!?」

23: 2012/03/07(水) 00:51:43 ID:fvWgGmmc
「まぁいいわ。このことは黙っといてあげる」

「その代わり条件として――」

「我が研究会に入ることを命ずるわ」

男(……は?)

研究会? 何のことだ?

「ふふふ、これは先輩命令よ」

……え?

男「……先輩……?」

先輩「あら、やっと喋ったわね」

先輩「そう。私はあなたの先輩」

男(……)

思わず声が出てしまった。
まさかこんな小さいのが年上とは……。

先輩「ふふふ、よろしくて?」

24: 2012/03/07(水) 00:53:41 ID:fvWgGmmc
スロー&ロートーンな陰湿口調。
独特な微笑み。これが電波というやつか。

先輩「あなた、2年生よね?」

男「……え? あ、はい」

先輩「ふふふ、やっぱり」

先輩「道理で見ない顔だと思ったわ」

男「……あの……研究会って……」

先輩「名前はまだない」

先輩「ついさっき思いついたから」

男「……じゃあ研究って何を……」

先輩「ふふふ。我が研究会の掲げるテーマは――」


先輩「――死後の世界についての研究、よ」

25: 2012/03/07(水) 00:55:45 ID:fvWgGmmc
男(……)

こういう時、どうしたらいいんだろう。
やっぱり思った事を口にした方が良いんだろうか。

先輩「あら、どうしたの?」

でも、それで嫌われたらどうする。
面白くない顔をされたらどうする。

男(……結局俺が、傷つくだけじゃないか……)

先輩「ふふふ、また無視するつもり?」

男「あ……いえ……その……」

先輩「あなたも興味あるでしょ? 死んだらどうなるか」

男「……」

男「……は、はい……もの凄く興味があります……」

先輩「あら、なかなか物分りが良いじゃない」フフフ

男「……」

こういう時、俺は決まって嘘をつく。

俺はただ、嫌われたくないだけなのに……。
嘘は後悔するって、分かってるのに……。

26: 2012/03/07(水) 00:56:29 ID:fvWgGmmc
先輩「じゃあ決まり。あなたは会員1号」

先輩「――黄泉の国研究会、のね」

男「……黄泉の国……研究会?」

先輩「ふふふ。今決めたの。どうかしら?」

男「……はい……良いと思います……」

……そんな名前で承認されるかよ。

先輩「じゃあ残り3人、勧誘よろしく頼むわ」

男「……え?」

先輩「同好会申請には、会員が5人必要なの」

男「ぼ、ぼく一人でですか? それは流石に……!」

先輩「ついでに顧問も見つけてくれると助かるわ」

男(……聞いちゃいない……)

先輩「ちなみに先輩命令。逆らったらパンチよ?」

男(え……ええええ!?)

先輩「ふふふ。よろしくね。2年生君♪」ニヤリ

27: 2012/03/07(水) 00:57:50 ID:fvWgGmmc
男(……)

立ち去る少女……もとい先輩。
つまんない自分を、どうか許してください。

男(……)

でも先輩。コミュ障の俺に会員集めなんか無理です。
それも3人だなんて……無茶ぶりにも程があります。

男(……)グスン


すみません……役立たずで……すみません……。


男(……)グスン

??『くすくす……』

男(……え?)グスン

??『もー、男の子が泣いちゃダメだよ』

男(……幻聴が……鮮明に……?)グスン

男「!!!?」ビクッ


死神娘「……えへ♪」

28: 2012/03/07(水) 00:58:37 ID:fvWgGmmc
男「……は……え……?」

ソイツは突然現れた。

黒を基調とした可愛らしい衣装。
大鎌を重たそうに構えるその姿。

男「……」

頭の回転が追いつかない。
何が何だか、俺にはさっぱりで。

死神娘「あ、初めまして。死神娘です♪」ニコッ

『ぷかぷか』

男「……」

唯一、分かってることといえば、
彼女が物理的に浮いてることぐらい。

死神娘「えへへ。やっぱり驚いた?」

死神娘「まぁ普通、死神なんか見えないからね」

男「……」

何だよ……何なんだコイツは!?

29: 2012/03/07(水) 00:59:42 ID:fvWgGmmc
死神娘「死神はね、“死にたい人”にしか見えないんだ」ニコッ

死神娘「だから、ボクが見えるようになったってことは――」

死神娘「男君の中が、“死にたい”で満たされたってことなんだよ♪」

男「……」

『ゴシゴシ』

目を擦ってみる……しかし、目の前のそれは消えない。
妄想かと疑ってみる……しかし、どうやら現実の模様。

死神娘「あはは。そんなことしたって無駄」

死神娘「ボクの存在は紛れもない現実だもん♪」

男「……」ゴクリ

唾をひとのみ。

男「……俺に……何の用……?」

死神娘「えへへ……もちろん」

死神娘「男君の、命を貰いにきたんだよ♪」

男「……え?」

……命を……貰いにきた?

32: 2012/03/07(水) 03:20:56 ID:fvWgGmmc
男「……俺の命を?」

死神娘「うん♪ だって死にたいんでしょ?」ニコッ

男「……まぁ……確かに今は死にたい気分だけど……」

死神娘「じゃあ決まりだね♪ 早速手続きを――」

男「ちょ、ちょっと待った!!」

死神娘「わわっ……! どうしたの急に?」ビクッ

男「急なのはそっちだろ? 何だよ命を貰うって……」

死神娘「え? だ、だって死にたいんじゃないの?」

男「いや、そうだけど……そんなの急に言われても……」

死神娘「……ったく。つべこべ言わずさっさと死ねよ」ボソッ

男「……へ? 今なんて……?」

死神娘「え!? あ、んーん♪ 何も言ってないよー♪」

死神娘「男君、死にたいのに、死にたくないんだね♪」ニコッ

男「……」

33: 2012/03/07(水) 03:22:57 ID:fvWgGmmc
男「……何でそんなに俺を死なせたいの?」

死神娘「え? あはは。話すと長くなるよ?」

男「別にいいよ。今から帰るところだし」

死神娘「へ? 帰る? 死んでくれないの?」

男「……よっぽど俺に死んで欲しいみたいだな」

死神娘「あ……いや……うぐぅ……」

男「……教えてくれ。何で俺の前に現れたか」

死神娘「……教えたら……死んでくれる?」

男「……考えとく……」

死神娘「じゃあ、掻い摘んで説明するね」

男「うん」

死神娘「昔々、神様は2人の人間を創りました」

男「……のっけから壮大だな」

死神娘「えへへ……」

それでね、子供を作る過程がよっぽど楽しかったのか、
人間は尋常じゃない早さで繁殖していったの。

34: 2012/03/07(水) 03:25:10 ID:fvWgGmmc
神様はそんな状況に、危機感を覚えました。

『知恵を有する人間が、増えすぎるのはよくない』

『“真実”に辿り着かれてしまったら、ワシは終了じゃ』

死神娘「――ってね」

男「へぇ……辿り着かれたらマズい“真実”って?」


死神娘「アホか。人間なんかに教えるわけないだろ」ボソッ


男「……」

男「あの……さっきから全部聞こえてるんだけど」

死神娘「え? 何? 何のことかな?」アハハ

男「いや、だから……所々、素の性格が――」

死神娘「もー。何言ってるの男君」

死神娘「いいから話を続けるよ? えへへ♪」

男「……」

何だよコイツ。

35: 2012/03/07(水) 03:26:51 ID:fvWgGmmc
えとね、だから神様は、人間界に死神を派遣して、
“真実に比較的近い人間”を消し去ろうと考えたの。

男「……それでお前は俺のところに……」

死神娘「えへへ♪ まぁね」

男「じゃあ、死亡願望のある人間ほど――」

男「その“真実”とやらに近いってことか?」

死神娘「うん♪ そんな認識でいいと思うけど――」

死神娘「というか男君って、思ったより会話できるんだね♪」

男「え……?」

死神娘「だってボクと、普通に話してるんだもん♪」

男「……」

確かに……言われてみれば……。
コイツが人間じゃないからだろうか……。

会話してるのに、全然疲れないな……。

男「……」

よし。この感覚、よく覚えておこう。

36: 2012/03/07(水) 03:29:08 ID:fvWgGmmc
死神娘「んーと……話はこんな感じでいい?」

男「うん、大体分かった……まとめると――」

①神様は“死にたい人間達”を抹頃したくて、
②そのために、人間界に死神を送り込んだ。
③お前は送り込まれた死神の一匹で、
④そんなお前が、俺の担当になった。

男「――ってところか?」

死神娘「そうだね♪ 大体そんな感じだよ」

死神娘「じゃあ約束通り、死んでくれる……かな?///」

男「誰も死ぬなんて約束してないだろ」

死神娘「ええええ!? そんなのひどいよぉ!」グスン

男「一応、考えとくとは言ったから、考えるけど……」

死神娘「くそっ。ふざけんな。今月のノルマどうすんだよ」ボソッ

死神娘「まだ3人だってのに、てこずらせやがって……」ボソッ

男「……」

ああ……やっぱりこっちが本性なんだろうな。

37: 2012/03/07(水) 03:30:50 ID:fvWgGmmc
男「あのさ、そんなにノルマが大変なら他をあたったら?」

死神娘「ひゃっ、聞こえてた? えへへ、ごめんなさい♪」

男「……」

死神娘「でもだめなの。“死にたい人間”を放置したら――」

死神娘「それこそ神様にお仕置きされちゃうからね……」

男「へぇ……大変なんだな……死神って」

死神娘「もー。同情するなら死んでくれ、だよ……」ショボン

男「悪いけど……そこまで死にたくはないんだ」

男「かといって生きたいわけでもないけど……」

死神娘「んー。はっきりしないねー」

男「多分、死ぬ勇気がないだけだと思う」

男「俺が死ぬことで……色んな人が迷惑を被る……」

男「そう考えただけで、死ねなくなっちゃうんだ……」

死神娘「ふぅん……さっさと死んじゃえばいいのにね♪」

男「……」

38: 2012/03/07(水) 03:33:41 ID:fvWgGmmc
男「じゃあどうする? 俺を強制的に死なせるか?」

死神娘「残念ながら、それはできません」

男「……え? 何で?」

死神娘「神様の理念に反するからです」

男「……神様の……理念?」

死神娘「うん……だってそもそも――」

死神娘「人間を創ったのは神様なんだよ?」

死神娘「創っておいて頃すなんて、勝手すぎるでしょ?」

男「……へぇ……一応、筋の通った奴なんだな……」

死神娘「だから、あくまで合意のもとじゃないとね……」チラッ

男「……悪いけど、俺は死の契約なんて結ばないぞ」

死神娘「……」ジィー

死神娘「……はぁ……何でこんな奴にボクが見えるんだろう……」

男(……だんだん素の性格が表に出てきたな……)

39: 2012/03/07(水) 03:35:04 ID:ZG.Ghq1.
男「じゃあ……俺は帰るから」

『タタタ』

死神娘「……」

『スゥー』

男「……」

死神娘「……」

男「……何で付いてくるんだ?」

死神娘「だって……神様に怒られるもん」

男「……」

男「まさか……契約するまでずっと付いてくる気?」

死神娘「えへへ♪ その通り」ニコッ

男「……もしかして……一緒に住むつもりか?」

死神娘「うん♪ そうだよ」ニコッ

男「……」

死神娘「嫌なら死の契約を結ぶことだね♪」

40: 2012/03/07(水) 03:41:47 ID:fvWgGmmc
男「はぁ……もう勝手にしてくれ」

死神娘「……え?」

男「付いてきたきゃ、勝手に付いてこればいい」

死神娘「ほんと? ありがとー♪ てへへ」

男「でも、そのぶりっ子はやめろ」

死神娘「は? ぶりっ子なんかしてねーよ」カチン

男「嘘つけ。それがお前の本性だろ」

死神娘「くっ……下手に出てりゃいい気になりやがって」ボソッ

男「それそれ。小声のつもりかもしれんが、丸聞こえだぞ?」

死神娘「うっせーな……いつから気づいてたんだよ?」

男「んーと……会ってから割とすぐかなぁ……」

死神娘「……ふん。ゴミ人間にしてはやるじゃねーか」

男「お前、口悪すぎだからな……顔は凄く可愛いのに」

死神娘「……か、顔は関係ないだろ! さっさと死ね!!」

男「……やっぱり可愛くない……」

41: 2012/03/07(水) 03:42:36 ID:fvWgGmmc
死神娘「ふっふっふ。どうだ? 幻滅しただろ?」

男「まぁ、最初はしたけど……もう慣れたかな」

死神娘「何が慣れただよ。余裕ぶっこいてんじゃねー」

死神娘「ったく。可愛こぶってりゃすぐ死ぬかと思ったのによ」

死神娘「これだから人間は嫌いなんだ。あーマジうざい」

男「お前の中の人間って……そんなに単純な生き物なのか?」

死神娘「は? 当然だろ。バカじゃねーの」

死神娘「実際人間なんて、甘い顔してりゃ言うこときくだろ」

男「俺にはその甘い顔は通用しなかったじゃねーか」

死神娘「ちょーしのんな。あームカツクムカツクムカつく!」

男「……ほんと、残念な仕様だよ。お前は」

死神娘「うっせーな! いいからさっさと死ね!」

男「まぁいいや……ほっといて帰ろ」

『タタタ』

死神娘「あ! こら待てよ!!」

42: 2012/03/07(水) 03:55:30 ID:fvWgGmmc
◆10時30分://学校/正門前◆

男「ふぁ~あ……」

死神娘「眠そうだな、ゴミ人間」

男「……だから口悪すぎ……ほんとに直せってそれ」

死神娘「ふん。コミュ障に言われたくねーよ」

男「……ああ……本当にもったいない……」

死神娘「……は?」

男「黙ってたらお前、普通に可愛い女の子なのに」

死神娘「……」

死神娘「……さっきから、何のつもりだ?」

男「……え?」

死神娘「ボクの容姿を褒めて、何が狙いなんだ?」

男「……別に目的なんかないけど」

死神娘「嘘をつくな。ボクを油断させようとしてるだろ」

男「お前……性格歪み過ぎだよ……」

43: 2012/03/07(水) 04:04:03 ID:fvWgGmmc
◆10時40分://都内某所◆

死神娘「ゴミ人間の家は、こっちなのか?」

男「いや、違うよ。少し寄り道してるんだ」

死神娘「は? 何で?」

男「何でって……家に居てもコミュ障は治らないからな」

死神娘「……へぇ。意外と向上心あるんだ」

男「まぁ、一応な……」

死神娘「……それで、行き先は決まってんのか?」

男「いや、特に考えてないけど」

死神娘「は? バカじゃねーの」

男「いちいち突っかかってくるな面倒臭い」

死神娘「め、面倒くさい!?」

男「ああ、それと用もないのに話しかけるな」

死神娘「なっ……!? そんなんじゃコミュ障は治らんぞ」

男「別にお前で治そうとは思ってないよ」

44: 2012/03/07(水) 04:13:19 ID:fvWgGmmc
◆10時50分://路地裏◆

男「……何か変なところに迷い込んじまったな」

死神娘「ったく。適当に歩くからこうなるんだよ」

男「うるさいな。喋りかけるなって言ったろ」イラッ

死神娘「ふん。人間の言うことなんか聞くもんか」

男「……」イライラ

死神娘「……な、なんだよ?」

男「……やっぱり俺、お前のこと嫌いだ……」

死神娘「えっ……?」

男「だって……話すと別の意味で疲れるし……」

死神娘「なっ……!? そ、それはこっちのセリフだ!」

死神娘「ボクだって、この世で一番、人間が嫌いなんだよ!」

男「はいはい。それくらい見てりゃ分かるよ」


死神娘「……特に人間の雄は……下衆ばっかりだ……」ボソッ

45: 2012/03/07(水) 04:21:17 ID:fvWgGmmc
男「え?」

死神娘「な、何でもねーよ! さっさと死ね!!」グスン

男「……」

死神娘「……」グスン

男「……」

何だよコイツ……いきなり泣き出して……。
これじゃまるで、俺が泣かせたみたいじゃねーか……。

死神娘「……おい……ゴミ人間……」グスン

男「な、なんだよ?」

死神娘「お前も……やっぱり……」


死神娘「……えOちなこと……好きなのか……?」


男「」


男「は、はぁ!?」

……いきなり何言ってんだコイツ?

46: 2012/03/07(水) 04:23:07 ID:fvWgGmmc
男「……なんでまた急に……?」

死神娘「……いいから答えろ」グスン

男「……男なら……嫌いな奴は少ないと思うけど……」

死神娘「ボクが聞いてるのは、お前のことだ」

男「いやだから……嫌いじゃないって」

死神娘「……」

死神娘「ふん。やっぱりお前も下衆だったか」

男「何でだよ。本能なんだから仕方ないだろ」

男「お前が工口いことを嫌うのは分かるけどさ」

死神娘「はぁ? 何でそんなことが分かんだよ?」

男「え……だってあれだろ?」

男「死神の仕事が増えたのは、人間が工口いからで……」

死神娘「……」

男「あれ……違うのか?」

死神娘「……さっさと死ね……ゴミ人間……」

47: 2012/03/07(水) 04:23:52 ID:fvWgGmmc
男(……何だよ……気分悪いな……)

死神の仕事が増えたことに腹を立てている

仕事が増えたのは、人間が増えたから

人間が増えたのは、性行為ばっかするから

性行為ばっかするのは、人間が工口いから

だから工口いことが嫌い

男(……じゃないのかよ……)

死神娘「……」

男(……まぁいっか。大人しくなったし)

これで心静かに徘徊ができるってもんd――

男「……ん?」


老婆「……」


男(……なんだ、あの老婆?)


気持ち悪いな……占い師か何かか?

48: 2012/03/07(水) 04:27:59 ID:fvWgGmmc
老婆「……」

男「……」

こんな所で何やってんだろう?
神秘的というか、怪しすぎる……。

男(……ん?)

紫色のテーブルに、何か書いてあるな。
どうやら何かを路上販売してるようだ。

男(……どれどれ……)

『貴公の妄想、具現化致します』

男(……妄想を……具現化する……?)

何だよそれ。

===御品書===

“能力系” 七拾万円
“存在系” 伍拾万円
“心理系” 壱拾万円
“身体系” 壱拾万円

=========

男(……うわっ……意味分からん上に高い……!)

54: 2012/03/07(水) 13:00:11 ID:fvWgGmmc
老婆「クックック……興味があるのかい……?」

男「!!!!?」

おわっ、喋った!

老婆「私を見つけるとは……坊やはとても運がいい……」

男(……運がいい……だと……?)

死神娘「ふふっ。コミュ障を治すチャンスじゃねーか」

男(……あ?)イラッ

死神娘「ほらほら、さっさと喋れよゴミ人間」ニヤニヤ

死神娘「人と喋らないと、一生治らないぞ」ニヤニヤ

男(くっ、うぜええ! てかもう機嫌直ったのかよっ)イライラ

老婆「……ところで坊や……いい顔をしてるねぇ……」

男(……え?)ブルッ

うぉ寒気……今はこっちに集中しないと……。

55: 2012/03/07(水) 13:00:58 ID:fvWgGmmc
老婆「……可愛いから、特別に安くしとくよ」

男(……と、言われましても……)

死神娘「てかいい加減喋れよ。コミュ障だせーぞ?」

男(うっせーな! 今喋ろうと思ったんだよ!!)イラッ

男「……ふぅ……あ、あの……」

老婆「クックック……ようやく喋ったねぇ……」

男「あの……妄想を……具現化するって……?」

老婆「気になるかい?」

男「……まぁ……少しだけ……」

老婆「クックック……じゃあ説明してあげようかねぇ……」

男「……お、お願いします……」

老婆「古今東西、老若男女……人は誰だって妄想するだろう?」

男「……はぁ……」

老婆「ここはねぇ、そんな妄想を具現化する店なんだよ」

56: 2012/03/07(水) 13:03:05 ID:fvWgGmmc
老婆「具現化できる妄想は、能、在、心、体の4種類だよ」クックック

◆能力系◆
ギターを弾けるようになりたい、手から炎を出したい、
アイツの歌唱力を落としたい、コミュ力を上げたい、等。

◆存在系◆
脳内彼女を具現化させたい、未知なる兵器を生み出したい、
恐竜を復活させたい、アイツの存在を消したい、等。

◆心理系◆
アイツに好かれたい、総理大臣の思想を変えたい、
自分の性格を良くしたい、他人の性格を悪くしたい、等。

◆身体系◆
筋肉質になりたい、イケメンになりたい、
ハゲを治したい、アイツを貧Oにしたい、等。

男(……へぇ……これが本当だったらすげーな……)

ふと、妄想幼馴染の顔が脳内に浮かぶ。

男「……あ、あの……これってどんな妄想でも具現化できるんですか?」

老婆「それなりの妄想には、それなりの妄想力が必要だねぇ」

男「……妄想力……ですか……?」

老婆「そう。妄想する力が強い人ほど、強い妄想を生み出せるのさ」

57: 2012/03/07(水) 13:05:25 ID:fvWgGmmc
老婆「それゆえに、比較的高レベルな――」

“全人類の存在を消す” “全死者を生き返す” “銀河消滅”

老婆「――といった類いの妄想は、絶対に実現しないんだよ」

男(……そ、それはそうだよな……ああ、良かった……)

死神娘「ふぅん……つまんねーの」

男(……この死神……)

死神娘「じゃあボクは、ゴミ人間を下僕にする妄想でいいや♪」

男(……勝手に言ってろ……)イラッ

老婆「あと、妄想を具現化すると、必ず矛盾が生じるだろう?」

男「え……あ、ああ……そうですね……」

ある人が、どんな盾でも貫通する矛を具現化させて、
他の人が、どんな矛でも防御できる盾を具現化させたら……

老婆「その場合は、妄想力の高い方が勝つんだけどねぇ」

老婆「私が言いたいのは妄想と妄想の矛盾じゃなくて――」

老婆「妄想と現実の摩擦による矛盾のことだよ」

男(……妄想と現実の矛盾……?)

58: 2012/03/07(水) 13:08:57 ID:fvWgGmmc
老婆「例えば、坊やの妄想幼馴染を具現化するとしよう」

男「ブブブッッ!! な、何でそれを……!!?」

老婆「おやおや……どうしたんだい?」

死神娘「うわっ、最悪……ゴミ人間、そんな妄想してんのかよ」

男(う、うるさい! お前は黙ってろ!!)

老婆「クックック……死神とは仲良くした方がいい」

男「!!!!!」ブブブブッッッ

男「も、もしかして、俺の心の中が読めるんですか!?」

老婆「ああ……私はねぇ……能力系の妄想で――」

老婆「――“人の心を読む力”を手に入れたんだよ」

男「!!!!!」

……おいおい……この店……ガチじゃねーか……。

老婆「まぁ、商売柄、必要な能力だったからねぇ」

老婆「お陰で今の私には、妄想力は殆ど残ってないよ」ククク

男(……妄想力って……減るものなのか……)

59: 2012/03/07(水) 13:10:16 ID:fvWgGmmc
男「た、他人の心の声が聞けるって……すごいですね……」

老婆「もしかして、坊やも聞けるようになりたいのかい?」

男「……え? 俺なんかが具現化できるレベルなんですか?」

老婆「いや、心の声を聞くってのは、かなりの妄想力が必要だね」

男「……じゃ、じゃあダメですね……俺、凡人だし……」

老婆「そんなことはない。坊やには死神が憑いてるじゃないか」

男「え……死神が関係あるんですか?」

老婆「死神が憑いてるってことは、坊や、“死にたい”んだろう?」

男「!!!!」

男「……おばあさん……何でも知ってるんですね……」

老婆「商売柄、情報には敏感だからねぇ」

男「……でも、死にたいことが、妄想力にどう関係……」

老婆「一般的に、死にたい人間ほど、妄想力が高いんだよ」

男「……え? そ、そうなんですか?」

死神娘「へ、へぇ。初めて知った。良かったなゴミ人間」

60: 2012/03/07(水) 13:13:26 ID:fvWgGmmc
老婆「どうする? “人の心を読む力”にするかい?」

男「……で、でも俺……そんな能力、望んだことありませんよ?」

老婆「なんだ……そうだったのかい……じゃあ成功率は低いねぇ」

男「……やっぱりそういうの……関係あるんですか?」

老婆「ああ……強く妄想してなきゃ、具現化なんてとてもとても……」

男「……じゃあ……俺に具現化できる妄想って……」

老婆「そうだねぇ。今のところ、その幼馴染くらいじゃないかい?」

男「……そういえば……妄想と現実の矛盾の話がまだでしたよね?」

老婆「ああ、すっかり忘れてたねぇ……簡単にいうと――」

老婆「その幼馴染が具現化することで生じる一切の矛盾は――」

老婆「記憶、環境、書類含め、全て都合良く再調整されるんだよ」

男「!!!」

老婆「そして彼女自身の記憶にも大雑把な仮想人生ができあがる」

老婆「つまり彼女は、自分が妄想であることを自覚しないってことさ」

61: 2012/03/07(水) 13:15:17 ID:fvWgGmmc
男「じゃあ俺の妄想幼馴染が……完全な人間になるってことですか?」

老婆「細かい記憶までは支援されないから、完全ではないねぇ」

男「でも、小さな思い出はなくても、一応、幼馴染なんですよね?」

老婆「ああ、2人の関係は間違いなく幼馴染。それだけは言えるさ」

男「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

死神娘「わっ!? こ、こら!! 急に大声出すなよ!」

男「おばあさん! 俺、買うよ。存在系を具現化してくれ」

死神娘「おいゴミ人間、興奮しすぎだ。コミュ障を自覚しろ」

男「ははっ、すっかり忘れてたぜ!」

男「てかこういうのが大事なのかもしれないな!」

男「“自分はコミュ障でない”と自覚する! まずはそこからだ!」

老婆「坊や……私には一応、独り言にしか見えないんだよ?」

男「……あ……す、すみません……///」

老婆「クックック……“存在系”……壱萬円まで負けとくよ」

男「ほ、ほんとですか!? ありがとうございます!!」

64: 2012/03/07(水) 19:25:52 ID:fvWgGmmc
◆11時30分://都内某所◆

男「いやー、それにしてもすげー婆さんだったなぁ」

死神娘「具現化するのは1週間以内だっけ?」

男「ああ。それまでは楽しみに待っとくさ」

死神娘「……てか、何で幼馴染なんか選んだんだよ?」

死神娘「コミュ障なんだから、素直にコミュ力上げればいいだろ」

男「バカ。コミュ障は自分で治せるかもしれないけど」

男「幼馴染のは、そういう力に頼るしかないだろ?」

死神娘「……」

死神娘「もしかして、同棲するつもりか?」

男「いや、俺の中で幼馴染は近所に住んでる設定なんだ」

男「だからきっと、現実でもそうなるはずだよ」

死神娘「……」

死神娘「キモい」

男「……う、うるさいな……」

65: 2012/03/07(水) 19:26:48 ID:fvWgGmmc
男「まぁ何にせよ、あと2人ってワケだ」

死神娘「……何が?」

男「研究会の会員集め」

死神娘「……幼馴染をカウントするのかよ?」

男「だってアイツは、一応、俺に惚れてる設定だし……」ニヤニヤ

死神娘「キモすぎてヤバい。死ね。さっさと死ね」

男「……」

死神娘「てか、泣いてた割りに結局集めるんだな」

男「仕方ないだろ。新しい制度が出来たんだし」

男「まぁ最初は既存同好会の幽霊でいいかと思ったけど――」

男「やっぱりそれじゃ、何も変わらないからな……」

死神娘「ふぅん……何か前向きになってきたな、お前……」

男「ん? 褒めてるのかそれ?」

死神娘「ほ、褒めてねーよ! このゴミ人間が!」

死神娘「区切りが付いたら絶対に死んでもらうからな!!」

66: 2012/03/07(水) 19:30:21 ID:fvWgGmmc
◆12時00分://都内某所◆

男「さて……腹も減ってきたし、そろそろ帰るか」

死神娘「……ボクもお腹すいた。何か食わせろ」

男「……死神って飯食うのかよ?」

死神娘「当たり前だろ。それに人間界の飯は旨いし」

男「へぇ。人間は嫌いだけど、人間が作る飯は旨いと?」

死神娘「悪いかよ。実際そうなんだから仕方ないだろ」

男「……お前、一体人間に何されたんだ?」

死神娘「……え?」

男「だって、仕事が増えたから人間が嫌いってワケでもなさそうだし」

男「人間に何かをされたから、人間が嫌いになったんだろ?」

死神娘「……うるさい……さっさと死ね……」

男「……まぁ……言いたくないなら別にいいけd……!?」

死神娘「……ん? どうしたゴミ人間?」

男「……」

67: 2012/03/07(水) 19:31:22 ID:fvWgGmmc
そこには小さな公園があった。

男「……」

錆び付いた、ぶらんこと滑り台。
砂場で山を作る、一人の幼女。

男(……何だ……この懐旧感は……)

頭の中を冷たい風が吹き抜ける。

まるで故郷を訪れたかのような、
そんなノスタルジアを感じて。


幼女「……あ」


立ち尽くす俺、彼女と目が合う。
寂れた公園に一人でいた幼女。

何でだろう。

初めて会うはずなのに、
“久しぶり”、と言いたかった。

68: 2012/03/07(水) 19:32:59 ID:fvWgGmmc
死神娘「……知り合いなのか?」

男「……いや、知らない子だ……」

幼女「……」

死神娘「じゃあ何で見つめ合ってんだよ」

男「……分からない」

死神娘「はぁ?」

幼女「……男」

男「!?」

……え……何で名前を知って……。

男「俺たち……どこかで会ったことあるっけ?」

幼女「……んーん、今初めて会った……」

男「……だよな……じゃあ何で名前を……?」

幼女「私、探偵だから……それくらい分かるの」

男「……探……偵……?」

……確かに探偵のコスプレみたいな格好してるけど……。

69: 2012/03/07(水) 19:34:02 ID:fvWgGmmc
幼女「……」スゥー

男「……」

幼女「……」ハァー

男「……」

玩具のパイプで一服する彼女。
もちろん煙は出ていない。

男「……」

何だろうこの気持ち。
彼女を見てるとすげー落ち着くっていうか……。

死神娘「……この口リコン!」

男「!!!!」

男「だ、誰が口リコンだよ! んなワケないだろ」

死神娘「じゃあさっさと帰るぞ。いつまで眺めてんだ」

男「ちょ、ちょっと待てよ……お前も気になるだろ?」

死神娘「は? あんなのただのガキじゃん」

男「いや、だって……今は平日の昼時だぞ?」

72: 2012/03/09(金) 01:24:46 ID:La5uS90E
死神娘「知るか。こちとら腹が減って――」

男「なぁお前……小学生だろ?」

幼女「うん……そうだよ」

死神娘「無視すんなゴミ人間!」

男「学校には行かなくていいのか?」

幼女「うん」

男「……何で?」

幼女「通ってないもん」

男「……え?」

幼女「だから厳密には、小学生じゃないの」

男「……通ってないってどういうことだ?」

幼女「私、戸籍がないから」

男「……は?」

幼女「お父さんもお母さんもいないよ」

幼女「生まれた時から、1人ぼっちだから」

73: 2012/03/09(金) 01:25:20 ID:La5uS90E
男「……」

幼女「……」

男「……じゃあお前……どこに住んでるんだよ?」

幼女「今は探偵事務所に住んでるの」

男「……探偵事務所? マジで?」

幼女「うん。この前建てたから新築」

男「……建てたって誰が?」

幼女「私」

男「嘘つくな」

幼女「嘘じゃないよ」

男「信じられるわけないだろ」

幼女「だってお給料たくさんもらってるもん」

男「……給料? お前……働いてんのか?」

幼女「うん。探偵のお仕事。楽しいよ?」

男(……全く信じられん)

74: 2012/03/09(金) 01:32:54 ID:La5uS90E
男「……探偵って具体的に何するんだ?」

幼女「私は妄想探偵なの。だから妄想を駆除するのが仕事」

男「……妄想……駆除?」ピクッ

幼女「そうだよ。この世は妄想だらけだからね」

幼女「具現化した妄想を見つけ出し、それを駆除するんだよ」

幼女「特に最近は、変な老婆のせいで妄想が蔓延ってるから」

男「……変な……老婆……?」ピクッ

幼女「うん。だからもし見かけたら私に教えてね」

幼女「“貴公の妄想具現化致します”、が商売文句の老婆」

男(……ついさっき……会ったような気がするんだが……)

幼女「あ、もちろん、老婆の商品に手を出しちゃダメだよ?」

男(……ついさっき……手を出したような気がするんだが……)

死神娘「あーあ……完全にアウトじゃん。ゴミ人間」

男(……てかこの子に幼馴染がバレたら、駆除されちゃうんだろうか……)

男「と、ところで妄想って……どうやって駆除するの?」

75: 2012/03/09(金) 06:08:18 ID:La5uS90E
すみません
勝手ながら終わりです

最後にメモを置いていきます

76: 2012/03/09(金) 06:11:00 ID:La5uS90E
◆登場予定人物◆
(研究会会員)
・男 コミュ障
・先輩 陰湿なドS
・後輩 ツンデレ
・幼馴染 男の妄想
・風紀委員 内気な関西弁
・担任 新妻顧問

(その他)
・死神娘 性格も口も悪い
・幼女 ヤンデレ妄想探偵 捨て子
・老婆 妄想の具現化屋(イヴ)
・爺 妄想駆除組織の頭(アダム)

◆予定してたオチ◆
男が、幼女の妄想だった、というオチです。
コミュ障はヤンデレの幼女が作った設定。
男が幼女のことを忘れていたのは、
幼女が男との日々を、出会いから再現したかったから。

このSSのテーマは、男が幼女の妄想であったように、
どこかに必ず、自分を必要としてくれる人がいるということです。

死んだらどうなるかとか、神様の真実だとか、
妄想とか妄想駆除だとかは、全て一つの事柄に収束する予定でした。

本当に完結できなくてすみません。

78: 2012/03/09(金) 08:49:53 ID:PshT/XDY
おまww
どうしてそこで諦めたんだ!

79: 2012/03/11(日) 22:34:27 ID:vpQ5LAvw
まあ無理すんな

次立てる時はここにurl貼ればチェックするよ

引用: 死神娘「死んでくれたら嬉しいな」