519: 2011/05/05(木) 22:51:35.97 ID:cfRHp71w0

「鬱陶しいなぁ。あっちいってよ」


本日4回目の「鬱陶しい」は私の純粋なハートに深い傷をつけた

なんでこいつはこんなにも無愛想なんだろうか

うなだれる私に対して関心を微塵も寄せず、読書をする三女

あまり人と関わらない彼女だから声をかけてやったのにこの対応

あんまりじゃないか
みつどもえ 19 (少年チャンピオン・コミックス)
524: 2011/05/05(木) 22:56:13.33 ID:cfRHp71w0

「……もういい」


私が

温厚でお人好しなこの私がポツリとつぶやいたこの言葉

静かな、本当に静かな怒気を孕んだ言葉

それでも彼女は本とにらめっこをしている


「………もういい!」

527: 2011/05/05(木) 23:03:20.17 ID:cfRHp71w0

ざわつく教室

友人、クラスメイト、先生、三女、私がいる空間の全て、全ての視線が私を貫いた

彼女はポカンと口を開けて私を見ている

「なに叫んでるの?」というような顔で

「なに熱くなってんの?」というような顔で

だから私は走った

なだめようと近寄って来た吉岡を優しく突き飛ばし、緒方さんを避け、千葉を蹴り飛ばし、私は逃げた

537: 2011/05/05(木) 23:20:10.65 ID:h4sP4cv80

――――――――――

「もういい!」


打たれ強い人

そう思っていた彼女がついに怒った

真っ赤な顔で

泣きそうな顔で

彼女が怒った

538: 2011/05/05(木) 23:20:24.49 ID:h4sP4cv80
(びっくり、した……)


ざわめきが広がる教室

その中で私たちだけが取り残されたような感触

この感じはあまり好きでは無い

私は、一人で取り残されたいんだ

取り残されるのは、私一人でいいんだ

だから、


(これで、良かったんだよ………ね)

540: 2011/05/05(木) 23:24:14.82 ID:h4sP4cv80

そうだ、そうだよ

これで良かったんだよ

彼女の頬を伝う一筋の涙

ズキリと

何かがズキリと痛んだ


(………やっぱり謝ろう)

「あ、あの」


が、勇気のある小さな決断は、意味をなさなかった

彼女は走っていってしまった

吉岡さんを突き飛ばし、緒方さんを避け、千葉くんを蹴り飛ばし、佐藤くんを肩で打撃して


(あ……)


どこか遠くへ、走っていってしまった

そんな気がした

545: 2011/05/05(木) 23:28:10.33 ID:h4sP4cv80

(でも、まぁ……)

「これで……良かったんだよ」


ポツリとつぶやいた

初めて自主的に私に近づいて来てくれた人

稀に、時に、だいたい、いつもウザったいやつ

でも、お人好しで優しいやつ

それを一人、失ったまでだ


(ふぅ……)


窓際の席から、空を見上げた

青々とした空、ゆっくりと流れる雲、眩しい日差しが、やけに邪魔臭く思えた

546: 2011/05/05(木) 23:33:43.89 ID:h4sP4cv80
「いいわけないでしょ」


甲高い女の声、後頭部にガツン走る衝撃で、私は一人の時間から連れ戻された


「………なに?」


何をするんだこの雌豚は

いきなり叩くなんて、非常識じゃないか

ムスッとして振り向くと、仁王立ちをした姉が立っていた

549: 2011/05/05(木) 23:38:51.98 ID:h4sP4cv80

「『なに?』じゃないわよ。
わかってるんでしょ?
言いたいことは」

「言いたいことってなに?」


怒ったような口調で、反抗的な目で、ジ口リと睨みつける

それでも姉はひるまない


「バカひとは!
根暗なのも大概にしなさいよ!」


キンキンと頭に響く声

こういうヒステリックな声は嫌いだ

わかっていないのだろうか?


「………わかってるよ!」


私は、あんたが言いたいことなんて分かってるってことを

551: 2011/05/05(木) 23:44:21.45 ID:h4sP4cv80

「わかってるよ!
でも、でもどうしようもないから何もできない!
できないからこうして一人でいるんだよ!」


自分の中でくすぶっている、自分に対する憤り

それを姉に思い切りぶつけた

これで少しはひるむだろう

そして哀れみを含んだ目で私を見るだろう

そんなことをただ淡々と、激情の中で考えていた


552: 2011/05/05(木) 23:47:24.29 ID:h4sP4cv80

が、現実というのは不思議なものだ

思い通りにいかないものだ

姉はたった一言、一言だけ叫んだ


「知るか!」


おい雌豚、『知るか』ってなんだ『知るか』って

557: 2011/05/05(木) 23:59:51.10 ID:h4sP4cv80

「ひとは、アンタがどんだけ根暗なのかは知らないけどね、悪いことをした時はちゃんと謝るのが礼儀ってもんでしょうが!」

「アンタさ、いつまでそのままなのよ?」

「いつまでもカッコ悪いままでジメジメしてんじゃないわよこの幽霊女!」

558: 2011/05/06(金) 00:00:50.06 ID:AjIuMlRJ0

二重の意味で、心に突き刺さった

「そうだそうだ」という野次

「幽霊」というキーワードで盛り上がる松岡さん

教室にまた、ざわめきが舞い戻ってきた

ざわめきの中心にいるのは、もちろん私

でも、さっきとは違う

嫌な感じはせず、ただただ前向きな風が、私の前に延々と伸びる道に吹いている

559: 2011/05/06(金) 00:03:11.38 ID:AjIuMlRJ0
「………みっちゃん」

「なによ?」

「ちょっと………ちょっと、行ってくるね」


何が嬉しいのか、にやりと笑う姉

大きく息を吸い込んで、


「口を開く前に行きなさい!」


と、私を一喝した

長女から激励をもらった私に、もう恐いものなんてない

鼻息で気合を入れ、ゆっくりと、ゆっくりと前進を始める



「あ、みっちゃん、昨日つまみ食いしてたのバレてるよ。
後で謝ってね」

「えっ」

562: 2011/05/06(金) 00:08:33.33 ID:AjIuMlRJ0
――――――――――

嫌われた

絶対、今より嫌われた

四六時中、仲良くなることだけを考えていた相手に

嫌われてしまった


「うぐっ……うぅ……」


泣くなんて情けない

そう強く思っていても、止まらないのだ

なぜか途轍もなく、悲しいのだ

生まれて初めて、肩が揺れるほどの嗚咽をもらした

564: 2011/05/06(金) 00:13:49.13 ID:AjIuMlRJ0

屋上に来るのはいつぶりだろうか

ここに来ると、青々とした空、ゆっくりと流れる雲、眩しい陽射し、心地よい風が私を励ましてくれる

だけど今は全てが邪魔臭い

空も雲も陽射しも風も、全てが鬱陶しい

コンクリートに落ちる涙

その斑点を眺めながら、私は絶望している

567: 2011/05/06(金) 00:17:54.08 ID:AjIuMlRJ0

なぜ、なぜなのか

なぜ私はこんなにも、絶望するほど、彼女のことを考えているのか

わからない

わからない


「………わかんねーよ」

「わっかんねーよ!」


思い通り蹴った金網がぐにゃりと変形した

ガシャンと、無機質な音で私を笑っていながら

569: 2011/05/06(金) 00:20:24.50 ID:AjIuMlRJ0
誤字訂正
笑っていながら→笑いながら

他にもあるけど脳内補完でたのんます

572: 2011/05/06(金) 00:27:43.38 ID:AjIuMlRJ0
――――――――――

一枚のドアを隔てて、ガシャンという音が聞こえた

やっぱりここにいたのか

彼女は嫌なこと、辛いことがあると、必ず屋上に来る

数日前、彼女がべらべらと私に喋っていたことだ


(お、お、お、おこってらっしゃる……)


ガシャンという音から推察するに、彼女は今、金網にむかって猛攻をしかけているのだろう

それだけで、体が震えた

無理もないことだ

小柄な私が、あの巨体に襲われたらひとたまりもない

抵抗すらできないだろう

現に一度、体育の柔軟体操で襲われかけた時も、恐くて何もできなかったし

574: 2011/05/06(金) 00:35:45.80 ID:AjIuMlRJ0

(ひ、一通りの怒りが治まってからいこう)


何が一通りなのかよく分からないが、とりあえず金網には犠牲になってもらおう

その間に私はどうやって謝るかを考えておこう

よし、


「ごっめんねぇ~。あれ、ウソウソ。じょ~だんだよ~ん」


………ダメだダメだ

今これを言ったら確実に殺られる気がする

575: 2011/05/06(金) 00:36:37.50 ID:AjIuMlRJ0
次、


「ごめんねっ!わざとじゃ無いんだから許してよねっ☆」


誰だよこれ

次、


「ほんとにすんませんしたっ!平身低頭どころの騒ぎじゃ済まないほど、反省してるッス!」


…………………


「よし、これだ」

「『これだ』じゃないわよ!」

577: 2011/05/06(金) 00:40:34.35 ID:AjIuMlRJ0
後頭部をペシンと叩かれた

驚いて振り返ると呆れたような表情の姉がいた


「………いつから見てたの?」

「震えてる時から」


………なるほど

つまり最初から見られていたわけか


「…………みっちゃん、ちょっと氏んでくるね」

「なにバカなこと言ってんのよ」

581: 2011/05/06(金) 00:47:22.60 ID:AjIuMlRJ0

「謝るんでしょうが!さっさと行きなさいよ!」

「だって謝り方とかわかんないし……」

「ごめんなさいでいいじゃないの!」

「いや、もっと気の利いたジョークでも……」

「いらないわよそんなもの!蛇足どころか手まで付いてくるレベルよ!」

「どうせなら名シーンのような演出とか……」

「アンタは仲直りに何を求めてるのよ!あーもう!いいから行ってらっしゃい!」


そう言うと、姉は乱暴にドアを開け、私のお尻を蹴り押した

髪を持ち上げる屋上の風が、妙な心地よさと共に私を迎えた

584: 2011/05/06(金) 00:54:13.84 ID:AjIuMlRJ0
――――――――――

後方で、ドアが乱暴に開けられる音がした

あわてて涙を拭い、後ろを向くと、


「うおっ!」


小柄な黒髪の少女が、コンクリートにキスをしていた

なんだか呻き声が聞こえる

「これぞニッポンのホラー」というキャッチコピーがつきそうな光景だった


「……も、もしもーし。だ、大丈夫ですかー?」


………反応が無い

なんだかマズイ予感がする

585: 2011/05/06(金) 00:59:35.70 ID:AjIuMlRJ0

「う……」


ガクガクと震えながら立とうとする少女

眼光は鋭く、冷気を帯びていて何やらただならぬ気配を感じる

これが「殺気」というものなのだろうか


「うあ……」


ゆらりとうごめく影、ギラリと光る眼球、顔を上げたその少女は、


「う、うわぁぁぁぁぁ!」


まるで血みどろの呪い人形のようだった

588: 2011/05/06(金) 01:05:47.41 ID:AjIuMlRJ0

「あ、アァ、み、ミヤシタサン……」

「うわぁぁぁ!来るな!来るなぁぁ!」


腰を抜かしてへたり込んでいる私に、よろよろと近づいて来る少女

ざわざわとざわめく風

私の周りの全てが戦慄していた


「ミ、ミヤシタサン、ミヤシタサン」


ガッシリと肩を掴まれた私が見たものは、額と鼻から大量の血を流しながら刮目している、


「あ、あれ?三女?」


三女だった

592: 2011/05/06(金) 01:09:14.88 ID:AjIuMlRJ0

「ど、どうしたんだよそのケガ!スプラッタ一歩手前じゃないか!」

「そ、そんな、こと、今はどうでも、いい」

「いや、よくないだろ!なんかガクガクしてるし!」

「き、気に、しないで。氏に、は、しない、から、多分」

「多分じゃ余計にダメだろ!ほら、保健室いくぞ!」

593: 2011/05/06(金) 01:14:46.85 ID:AjIuMlRJ0
――――――――――

保健室には幸い、ドジっ子の栗山先生はいなかった

消毒液とガーゼで手当をして、搬送の途中、気絶してしまった三女をベッドに寝かせた


「………はぁ」


また、余計なお世話をしてしまった

いつもそうだ

突っ走って突っ走って、周りが見えなくなって、相手にとって迷惑かどうかも考えないままやってしまう

私は、ダメなやつだ


「ホントに、ダメなやつだな、私は」

594: 2011/05/06(金) 01:19:14.44 ID:AjIuMlRJ0

乾いたはずの涙が、また溢れ出してきた

泣きグセでも付いてしまったのかもしれない

ボロボロと膝の上に流れては落ちる


「うぇっ……うぇぇっ……」


自己嫌悪が自己嫌悪を呼ぶ、最悪の連鎖

その中に私は放り出された

今まで良かれと思ってしてきたことの全てが、実は迷惑だったのではないかと、余計なお世話だったのではないかと、そんなふうに考えてしまう

596: 2011/05/06(金) 01:22:44.14 ID:AjIuMlRJ0

「そうだよ。私みたいなやつは、何もしない方がいいんだ」


ハハッと乾いた笑いがこぼれた時、


「それは違うよ」


ベッドカーテンの向こうから、声が聞こえた

597: 2011/05/06(金) 01:26:25.94 ID:AjIuMlRJ0

「あ……三女、起きたのか」

「起きたよ」


申し訳ないという気持ちが、懇々とこみ上げてきた

今までしてきたこと、今日、怒ってしまったこと

謝ろう、全部のことを


「あの、三女」

602: 2011/05/06(金) 01:30:59.56 ID:AjIuMlRJ0
「宮下さん、ごめんね」

「えっ?」

「ひどいこと言っちゃって、ほんとにごめんなさい」


なぜか、謝られてしまった

混乱する頭を一生懸命に働かせてなぜ謝られているのかを考える


「なんで、三女が謝るんだよ。謝るのは、私だろ……?」

「なんでそっちが謝るのさ。謝るのはこっちだよ」

「へ……?」

606: 2011/05/06(金) 01:39:55.62 ID:AjIuMlRJ0
「だ、だって私、ウザいだろ?お節介焼きだし、無駄にデカイし、それに、

「でも、嫌いじゃないよ」

「!」

「私は、嫌いじゃないよ」

「でも、い、いつも冷たいじゃないか」

「そ、それは、その……照れ臭いというか、その……」
「わ、私は友達少ないから、そういうの、慣れてなくて、その、なんだかむず痒いから」

「………はい?」

「じ、実は、話しかけてもらえて嬉しい、というかなんというか、その、」
「き、聞いてないフリして、実は聞いてる、みたいな?そんな感じで」

「ち、ちょっと待て三女!私のこと……嫌いじゃない、のか?」

「………嫌いな相手をそばにおいておくほど、私は寛容な人間じゃないよ」

611: 2011/05/06(金) 01:48:57.81 ID:AjIuMlRJ0
その瞬間、私は立ち上がり、ベッドカーテンを開け放った

嬉しくて嬉しくて、ベッドの上で顔を真っ赤にしている三女をギュッと抱きしめ、倒れこんだ


「うわっ、ち、ちょっと宮下さん」

「三女~~!私も大好きだぁ~~!」

「いや、私は大好きとは言ってないっていたたたた!強い!力強い!」

ガラッ

「ひとはー!見舞いに来てやったわ………よ」

「三女~~!私もお前のこと大好きだぞ~~!」

「………!……!(苦しい!苦しい!)」

「みつばー、何で入り口で固まってんの…………よっ!?」

「こ、これも愛だよね!?人それぞれのカタチなんだよねっ!?」

612: 2011/05/06(金) 01:49:34.35 ID:AjIuMlRJ0
「好きだぞ~!三女~~!」

(やっぱり、苦手かもしれない………)




617: 2011/05/06(金) 01:51:51.88 ID:AjIuMlRJ0
ながくなっちゃった
すまん

618: 2011/05/06(金) 01:52:35.89 ID:KrUnhuLm0
おつ

引用: みつば「このユッケおいしいわね むしゃこらむしゃこら」