920: ◆6osdZ663So 2015/04/03(金) 15:21:28.72 ID:2ymeu+Jqo
921: 2015/04/03(金) 15:22:51.97 ID:2ymeu+Jqo
前回までのあらすじ
チナミ「ねえ、爛、消息不明になった2人目のエージェントの事覚えてる?」
爛「あ?……あー、そういや居たっけなそんな奴……わりぃ、全然覚えてねえわ」
(忘れてそうな時系列をまとめ)
学園祭時系列に関わる財閥の動き
時系列不明 UB(Unlimited Box)が完成、『原罪』の試作を始める。
↓
時系列不明 3体の失敗作が生まれる、進化の可能性を考え世間に放流。『劣化原罪』が完成。
【モバマス】桃華とUnlimitedBox
↓
初日・昼頃 財閥病院にてサクライと聖來が通信。聖來・紗南は教会行きを決める。チナミは学園祭に。
【モバマス】桃華とUnlimitedBox
↓
初日・夕方頃 学園祭にて、原罪製造の失敗作のカースの1体が暴れる事件。
失敗作の1体と、監視していた『エージェント』の1人『電気』が、イルミナPと唯にころころされる。
【モバマス】唯「平和なだけでは終わらない」
↓
初日・夕方頃 教会近くの雑木林にて、聖來が白兎と交戦。
『電気』が何者かに倒され、氏亡したことを聖來が確認する。紗南の能力が一時的に使えなくなる。
【モバマス】鳩「ぽっぽー、くるっぽー」聖來「はい、ご苦労様」
↓
初日・夕方頃 聖來によって『エージェント』達、およびにちゃまに『電気』が氏亡した情報が伝わる。
↓
初日・夜頃 菲菲がテレビで放映された学園祭の様子を見て、学園祭行きを決める。
桃華が『劣化原罪』に『裏切り』と命名する。UBちゃまに『裏切り』の製造を任せて自身はお出かけを決定。
【モバマス】桃華と『裏切り』の核
↓
☆初日・深夜 失敗作の1体と、監視していた『エージェント』の1人『鏡』が、消息不明となる。
↓
二日目・早朝 『鏡』が消息不明になった情報が、竜面の男によって一部の『エージェント』達に伝わる。
この時点で、聖來は悪夢によって体調不良。これによって学園祭時系列中の教会行きは断念。
↓
二日目・朝 失敗作の1体が、APによって倒される。この時点で、失敗作3体全滅。
白兎によるアイドルヒーロー同盟本部襲撃。
【モバマス】「これよりアイドルヒーロー同盟、特別評価会議を始めます」
↓
二日目・朝 学園祭にて、クールPとチナミの資料受け渡し。チナミが若者達と出会い、行動開始。
同時刻、紗南や桃華・菲菲もそれぞれ学園祭を楽しむために行動開始。
【モバマス】櫻井財閥と学園祭
↓
二日目・朝 学園祭にて、クールPにアイドルヒーロー同盟から連絡あり、爛も自由時間開始。
教習棟廊下にて爛が瞳子と遭遇。
【モバマス】ライラ「案内ですか?」
↓
二日目・朝 学園祭教習棟にてチナミと爛が遭遇し会話
【モバマス】千奈美「毒牙」
↓
二日目・昼程 将軍襲来
今回のお話は☆のところ、学園祭初日夜頃~深夜頃
「2人目の『エージェント』」についてのお話です。
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それは、なんでもないようなとある日のこと。
それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。
~中略~
「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。
922: 2015/04/03(金) 15:24:35.89 ID:2ymeu+Jqo
―
――
―――
――――
暗い暗い地下深くの研究施設。
光の届かない箱の中に、佇むのは1つの存在。
UB「ふむ……『裏切り』のカース自体の複製計画には問題なさそうだ」
UB「一度成功した製造工程をトレースし、なぞるだけで構わないだろう」
強欲の悪魔の作り上げた、英知の結晶たるカースドコンピューター『Unlimited Box』は、
主に与えられた命令に従い、新たなるカース『裏切り』の量産計画を推し進めていた。
923: 2015/04/03(金) 15:25:12.07 ID:2ymeu+Jqo
UB「材料の方も問題ないな」
UB「七属性の”核”は『エージェント』達が集めてきたものが山ほどあるし……」
UB「憤怒の街からかき集めてきた”負のエネルギー”を発する”材料”も……まあまだ使えるだろう」
UB「……もっとも度重なるカース製造のために使い続けたせいか……擦り切れてギリギリではあるか」
UB「まあ、足りるならば問題あるまい、エネルギー量が乏しくはなるが……その分、負に偏った力が色濃く抽出できるかもしれないしな」
この地下に集めている”材料”の様子をモニタリングしながら、状態を判断し、
これらを使えば、『裏切り』の製造に足りると判断する。
UB「出来たカースに、私が”知恵”を吹き込めば、晴れて『劣化原罪』は完成するが……」
”核” ”負のエネルギー” ”知恵”
『原罪』の生成に必要と考えられる物は揃っていたが、
UBの知る製造工程から作られるものは、あくまで『劣化』
本物には数段劣る、まがい物。
UB「やれやれ、アレを幾つも作らせる理由がどこにあるのやら……」
UB「まあ、主の命令とあらば素直に実行するのが、コンピュータープログラムたる私の役割だが」
コンピューターらしからぬ、自嘲と皮肉の籠った音声が部屋には響いた。
924: 2015/04/03(金) 15:26:18.68 ID:2ymeu+Jqo
UB「……時間的な制約を考慮すると…………せいぜい10には満たない個数が出来ればいいところか」
UB「お嬢様の目的を果たすには、充分な数なのかも分からないが……そこまでは私の知るところではないしな」
UB「とりあえず、”私自身は”このまま製造計画を進めるとして…………ん?」
さて、作業を進めるそれの元に、外の世界から連絡が入った。
桃華『UBちゃま、お話がありますわ』
聞こえてきたのは他ならぬ、強欲の悪魔の声である。
UB『これハ、コレはお嬢様』
UB『初代ノ『強欲』の悪魔の用事ハ済んだのデスカ?』
強欲を操るお嬢様専用の通信機能が、カースドコンピューターたるUBには搭載されていた。
それを通して、彼女から連絡が入ったのであった。抑揚の無い声でUBは受け答えする。
桃華『いえ、用事を済ませるのはこれからですのよ』
桃華『と言うのも、わたくし明日は学園祭に向かうことになりましたので』
UB『学園祭…………ほほう、秋炎絢爛祭に行カレまスか?』
UB『シカシ、どうシテその様ナ場所ヘ?』
『強欲』の悪魔のお出かけ先が、学園祭になるとは、UBとしても意外であったらしい。
925: 2015/04/03(金) 15:27:27.42 ID:2ymeu+Jqo
桃華『初代強欲の悪魔たるフェイフェイさんは気紛れですわ』
桃華『今はわたくしとの協力関係を崩すおつもりはないようなのですが、』
桃華『機嫌を損ねないためにも、わたくしも少しはご要望を聞き入れませんと』
UB『なるほど、彼女ノ望みデアルのならば仕方ナイのでショウ』
『強欲』の悪魔の話によると、初代『強欲』の悪魔は、今の世界に大いに興味を持っているらしい。
人の集まる学園祭に行ってみたいと思うのも、順当な思考の帰結なのだろう。
桃華『それに…』
少しだけ声のトーンを落として、桃華は話す。
桃華『UBちゃまには、本日の『エージェント』の失踪事件はお話しましたわね』
UB『エエ……確か、『彼』の最後ノ連絡は、京華学院近傍デあると聞いテオリマスが』
電気能力を持つ『エージェント』の失踪は、桃華、ついでにUBにも速やかに伝わった。
彼の氏亡がおそらく確定的である事も、聖來の報告からわかっている。
926: 2015/04/03(金) 15:28:05.35 ID:2ymeu+Jqo
桃華『でしたら、わかりますわよね?』
UB『ナルホド。お嬢様は、彼ノ骨揚げを自らの手デされル御積りでスカ』
桃華『……今現在は、Pちゃまも手一杯ですし』
桃華『こう言う時に使える紗南ちゃまは、本日出会った”白いカース”を調べる際に能力を一時失われてしまいましたわ』
桃華『どちらにしても、京華学院にはフェイフェイさんのご機嫌取りに向かう必要がありますから……ついでにですわね』
失踪事件の調査は必要不可欠。
しかし、調査を行うのに最も適している三好紗南は能力の使用が不可能になっている。
エージェント内部には他にも調査能力者……例えば、村松さくらなどが居て、
彼女らを動かす手もあったが……しかし、彼女達もまたサクライから別の仕事に任されているはずであり、
その作業を中断させて学園祭の調査へと動かすのは、少々手間が掛かりあまり効率的とは言えない。
それならば、どちらにしても学園祭に赴く必要のある自身が直接調査をしたほうが早いと、桃華は判断した。
『強欲』の悪魔自身の能力もまた、調査にはもってこいの能力なのだから。
927: 2015/04/03(金) 15:28:34.36 ID:2ymeu+Jqo
桃華『それに何より』
彼女は、さらに声のトーンを落として話す。
桃華『わたくしの物を奪った者には、相応の罰を受けて貰いませんと、わたくしの気が済みませんわ……』
UB『……』
通信越しでも分かる怒り。
幼い声には、似合わぬほどにどす黒い感情が漏れ出ていた。
桃華『わたくしを怒らせたこと、必ず後悔させて見せますわよ』
桃華『少々わたくしの外出が長引くかもしれませんが……』
桃華『UBちゃまには、引き続き『裏切り』の製造作業をお願いしますわね』
UB『承知しマシた……』
それっきり通信は途絶え、地下深くの研究施設は再び静寂に包まれた。
928: 2015/04/03(金) 15:29:01.95 ID:2ymeu+Jqo
UB「……」
UB「……」
UB「……っく」
UB「……っくっくっくっくっく」
静寂なる地下施設に、ただ1つ嬉しそうな笑い声が響いた。
UB「失敗作の1つを追う『エージェント』の失踪、そして氏亡……」
UB「ふむふむ、事の成り行きは、私の想定以上にとても上手くいっているようじゃあないか」
UB「”そうなれば良い”と考えていたことがこうも早くに容易く実現するとは」
UB「っくっくっく、神に感謝でもしようか」
まるで自分の主の不運を喜ぶように、その箱は言葉を紡いで笑っていた。
UB「……とにもかくにも巡る幸運は、”私たち”に味方している」
UB「この状況ならば、”君”も実に動きやすいはずだ」
UB「っくっくっく、どうやら”君”は運命に祝福されているようだぞ」
その言葉が向けられた先にあるのは……
すぐ傍の機材の中に浮かぶ白銀の核か……
それとも……
929: 2015/04/03(金) 15:29:35.41 ID:2ymeu+Jqo
――――
―――
―
「……ったく、つまんない仕事だねえっと」
その日の夜。とあるビルの屋上で、1人の若者が呟いた。
右手はジャケットのポケットに突っ込んでおり、左手には火の付いた煙草。
手すりに身を預けながら、与えられた仕事に対する愚痴を零す。
聞き手はいないが独り言でも言っていなければ、退屈すぎてやっていられなかった。
ふと、思い立ったように若者はポケットから小さな円盤を取り出すと、
片手で持ったまま軽く上下に振って、それを貝殻のようにパカッと開き、その中を覗き込む。
「依然、監視対象に目立った動きはなし」
「ヒーローにでも絡まれててくれれば、少しは面白いんだけどな」
手元のコンパクトミラーを覗きながら男は呟く。
その鏡の中にはゆっくりと静かに蠢く漆黒の泥の様な何かが映っていた。
930: 2015/04/03(金) 15:30:13.63 ID:2ymeu+Jqo
「なぁんで、サクライさんはこんなの作ったのかねぇ」
「……これもカースドウェポン計画とやらの関係なんすかね」
男は、櫻井財閥の『エージェント』と呼ばれる組織の一員であった。
仲間からは『鏡(ミラー)』と言う通称で通っている。
彼がサクライPに与えられた任務は監視。監視対象はとある一体のカース。
どうやらそれは、財閥によって人工的に作られた新型カースの実験体であるらしい事を彼は聞かされていた。
監視任務は、彼にとってはお手の物だ。
鏡に映る景色を、別の鏡から覗き込む事ができる彼の能力『ミラーコネクト』。
占星術師が水晶を用いてクリスタルゲージングによる遠見を行うが如く、
彼の触れた鏡はこの世に存在するあらゆる鏡が映す景色を投影する。
鏡は人々の日常生活には欠かせぬものであり、世界はそこら中が鏡に溢れていて、
そして世界に存在する鏡の数と同じだけ、彼は視野を持つ。そこには驚くべきほどに氏角は少ない。
残念な事と言えば、投影先の音声を拾うことができる訳ではなく、映し出せる景色も鏡1つに対して1箇所だけなのが難点か。
だがしかし、その程度の弱点なら使い方次第で幾らでもカバーできる。
そしてこの能力を使った諜報任務の遂行こそ彼の真骨頂。
931: 2015/04/03(金) 15:31:07.51 ID:2ymeu+Jqo
「ま、こんな意味無さげな監視任務をオレがやる必要あるのかーって思うけどね」
コンパクトミラーに映る監視対象が、投影されている”カーブミラーから見える景色”の範囲から外れると、
自動的に鏡に映る景色は切り替わり、別の鏡から見える景色を映し出した。
どうやら、次に映し出されたのは”駐車車両のサイドミラーが映す景色”であるらしい。
再び監視対象の姿が、コンパクトミラーの中にすっかりと納まる。
彼が一度追尾対象に決定した物は、世界中の彼の視野から逃れることはできない。
切り替わり続ける景色の中、彼はあらゆる角度から対象を観察する。
丸いぶよぶよとした球体から何十本と言う手足が生えたようなカースに、やはり変わった動きはない。
ぷるぷると震えながら人気のない方向に影はゆっくりと蠢くばかり。
たまに人と遭遇しそうになっても、その度にゴキブリのように急加速して(正直きしょい)
路地の影の氏角に逃げ込むので、ここまで誰かに見つかって騒ぎになるようなことはなかった。
「出会った相手がヒーローならともかく、パンピーからまで逃げるこたねえだろ……カースのくせに」
「コイツには『怠惰』が色濃く混じってると予想するね、オレは」
財閥の鋳造した新型カースは、複数の属性を持っていると聞く。
いま彼が監視している一体は、『怠惰』のカースが混じっているために面倒事を避けるのだと考えた。
932: 2015/04/03(金) 15:32:37.24 ID:2ymeu+Jqo
――屈しニャい!!!
「ん?」
何処からか酔っ払いの叫びが聞こえた。
どうやらビルの下を通る通行人の声のようだ。へべけれな様子を見る限りどこかで一杯やってきたらしい。
「…………はぁ、幸せなこって」
ビルの屋上に聞こえるほどの声量だ。これは相当……酔っているのであろう。
その後は、しばらくはただ酔っ払いの叫びを聞き続けるだけの時間が続く。
よくは聞こえないが、揉みたいだの結婚したいだのチューしたいだの抱きたいだの叫んでいた。
しかもそれぞれ対称としている女性の名前が違う。
ラブコメばりに女性関係が多いらしい。なんて奴だ。爆発すればいいのに。
爆発すればいいのに。(2回目)
「……ふぅう」
気を紛らわすため、煙草を吸って、大きく煙を吐く。
コンパクトミラーの先の監視対象はやはり目立った動きはない。
――おすそ分けしたい!おすそ分けしたいくらい幸せ!
「うっせっ……マジうっせボケッ!くっそっ!」
誰か壁殴り代行を呼んでください。
おそらくは一般人であろう幸せそうな酔っ払いと自身の現在の落差を思うと、彼は仕事をするのがとても嫌になった。
「…………ちっくしょー……俺も彼女欲しいっ……」
小声ではあったが、彼にとっては切なほどに大きな魂の叫びであったとか。
933: 2015/04/03(金) 15:33:40.08 ID:2ymeu+Jqo
そうこうしている間に……酔っ払いは通り過ぎていき、痛いほどに幸せそうな叫びはいつしか聞こえなくなっていた。
「……」
「……」
「……」
「………ふぅ」
長い沈黙の末、再び白い煙を彼は吐き出す。
目線を鏡に移すが、やはり、嫌になるほど動きがない。
自分のやっているこれは本当に意味のある仕事なのか、などと疑問にさえ思ってしまう。
「……」
「……」
「はぁぁ……」
再び一息。大きなため息。
「あーあー…………1人仕事は寂しいもんだ……」
静かになった都会の夜の空を見上げて、彼は1人呟いた。
934: 2015/04/03(金) 15:34:16.70 ID:2ymeu+Jqo
「ふふっ、それじゃあ私が隣に居てあげよっか?」
「なっ!!」
独り言のつもりであった呟きに、返答が返ってきたために男は驚く。
彼の陣取るビルは、何らかのヒーロー対侵略者の戦闘の余波を受け、
その修復工事のために封鎖中であり、とても人が近づくような場所ではない。
それに何より、接近の気配を一切感じなかった。
足音も無ければ、屋上に唯一存在する建て付けの悪い錆付いた扉も、一切音を発する事はなかったのだ。
だから自分以外に声を発する存在が、この場に居てはおかしい。
懐に忍ばせていたナイフを取り出して、
即座に声の方向から離れるように飛び退いた彼は、
振り向いた先に居た声の主の顔を見て、納得した。
「………って、なんだ……芽衣子さん」
「うんっ!こんばんは!えへへ、驚いた?」
そこには、悪戯っぽく微笑む同僚(してやったりな笑顔も可愛いマジ天使)が居た。
935: 2015/04/03(金) 15:35:08.24 ID:2ymeu+Jqo
「…ははっ、ええ。とっても驚きました」
彼は安心したように息を吐くと、ナイフとコンパクトミラーをポケットへと仕舞う。
そして、代わりに携帯灰皿を取り出すと、咥えていた煙草の火を潰して消した。
「気を使わなくてもいいのに」
「エチケットですよ」
「そっか……ふふっ、ありがと!」
目の前で楽しそうに笑う彼女は『エージェント』の同僚であり、空間移動能力者。
彼女ならば、彼がこの場所に居ることも知っていて不思議はないし、気配を感じさせずに接近する事だって当然できる。
何しろ彼女の移動範囲は、この大地の上、この空の下、その全てなのだから。
「芽衣子さんはどうしてここに?サクライさんから新たな指令でもあったんすか?」
まずは疑問の解消。
この場にやって来たのが身内でつい安心したが、
彼女がわざわざこの場にやって来たのには、なにか理由があるはずだ。
「うん、そんな所だよ」
彼の推測を、芽衣子は肯定した。
「とは言っても、サクライさんには今連絡とれないみたいだから、リーダーから頼まれてってところかな」
「セイラさんから……っすか」
芽衣子がエージェントリーダーから頼まれたと言う指令を、彼は手を口に当てて思考し推察する。
「……いや、だいたい分かりましたよ。芽衣子さんが来てくれた理由」
そして、時間をかけずに答えを導き出した。
「もし、オレの身に何かあった時に、すぐに離脱ができるようにですよね」
「そう言うことだね」
彼の推測を、芽衣子は先ほどまでの朗らかな笑顔とは打って変わり真剣な顔で肯定した。
936: 2015/04/03(金) 15:36:10.31 ID:2ymeu+Jqo
「…………いちおー……『電気』の旦那が氏んだかもしれないって話しは、もちオレも聞き及んでますよ」
空いた右手で頭を掻きながら、『鏡』は話す。
「正直なところ言えば……信じられない話なんすけどね……」
彼の同僚の1人に、『電気』を操る能力を持つ男が居た。
彼は、雇い主であるサクライPに恩があるためか、『エージェント』の中でも非常に忠義に厚く、
その強力な能力を巧みに操り、財閥から与えられた任務を確実にスマートにやりこなす男であった。
面倒見もよく、またその仕事振りから、同僚の『エージェント』達からも信頼の厚い男でもあった。
そんな男が、任務中に失踪し、まったく連絡が取れなくなったのだ。
状況からして、考えられる可能性は……
「……氏体が……確認された訳じゃないから」
同僚の氏を信じられない。いや、信じたくないのは芽衣子も一緒なのだろう。
まるでわずかな希望に掛けるように、彼女は小さく呟いた。
「……」
「……」
それでも2人の脳裏に過ぎるのは、
非常に現実的で、嫌な可能性。
937: 2015/04/03(金) 15:36:58.81 ID:2ymeu+Jqo
「っ……!芽衣子さん、そんなに心配しなくたってきっと大丈夫っすよ!」
暗くなった雰囲気を押し消すように、『鏡』は声をあげて言う。
「旦那が、簡単にくたばる様な人じゃないのはオレたち良く知ってるはずじゃないすか!」
財閥に届いている報告から考えられる状況からすれば、
件の男が生きている可能性は限りなく低い…………
――けど、それがなんだ。
――低いからなんだと言うのだ。
――氏んだ”かもしれない”?
――つまりあれだ。確定情報と言うわけではないのだろう。
――それなら信じたって全然構わないって事だ。
――同僚の生存を……仲間を信じるなら、ほんの小さな可能性でもあるならそれで充分だ。
938: 2015/04/03(金) 15:37:35.29 ID:2ymeu+Jqo
「むしろあの人の場合、頃したって生きてそうなくらいっす」
だから『鏡』は、冗談めかして笑って言った。
ああ、そうだ。あの人の執念深さを自分はよく知っている。
いつだって借りたお金は1円単位(少しくらい負けてくれてもいいのに)で請求してきたし、
「今回の仕事の報酬貰ったらまとめて返すから」などとその場凌ぎで言ってしまった事も、
きっと忘れずに覚えているに違いない。(すっかり忘れてくれてもいいのに)
あの人なら、絶対メモとか残してる。
ならば自分から何としても貸した金を請求するまでは、
執念深いあの人はくたばったって、くたばっていないはずだ。
そうじゃなきゃあ、嘘だろう。
939: 2015/04/03(金) 15:38:04.39 ID:2ymeu+Jqo
「大方、ちょっとドジって身体を電子化したまま何処かで迷子になってるとかじゃないっすか、
氏体が見つからないって言うなら、そっちの可能性の方がよっぽどありそうっすよ」
氏体は見つかっておらず、彼が絶対的に氏んだと証明するものは何もない。
『エージェントリーダー』が任務中に出会った敵が、彼の氏を思わせる言葉を吐いたとは聞いてはいるが……
それだって、『エージェントリーダー』を惑わせるための虚言である可能性もあり、やはり決定的な証拠にはならない。
疑わしい”敵”の言葉を信じるくらいなら、大切な”仲間”の事を信じるべきだ。
『鏡』は自身がそのように信じる理念に則って、希望の見える可能性を強く信じることとした。
「…………うん、そうだよね。確かに、その方がありそうかも」
「でしょうっ!」
傍に立つ同僚の同意も得られて、ニヤリと『鏡』は笑う。
「ふふっ、そう思えたらなんだか元気出てきたよ、ありがとう…ねっ」
「い、いえいえ」
並木芽衣子もまた、彼の前で朗らかに笑った。
どこか儚げにも見えるその笑顔を、再び曇らせたくはないと、
『鏡』と呼ばれた男は心の底から、願うのだった。
940: 2015/04/03(金) 15:38:48.89 ID:2ymeu+Jqo
―
――
―――
――――
UB「……お嬢様の能力は、非常に強力で実に乱暴だ」
強欲なる英知は思考する。
己を支配する、『悪魔』たるお嬢様の、その能力について。
UB「所有格およびにコントロール権の掌握、それに順ずる略奪行為の省略」
UB「その気になれば、たった一声で”命”や”意識”さえ文字通り”奪う”」
UB「まったくもっておぞましい、大罪の悪魔に数えられるのも伊達ではないと言う事か」
彼女の”支配と搾取”の力は恐ろしく強力な能力だ。
資産、生命力、魔力、能力、意思、記憶、経験……他者の持ち得るものを何でも自分の物として扱う事のできる力。
UB「が、弱点が無いわけではない」
UB「結局は略奪行為の”省略”でしかない以上、そもそも略奪する事のできない相手には効かないこと、
魔界の基準で言えば、レベルの高い相手には効かない」
UB「そしてもう一つ……」
UB「お嬢様はいつだか言っていたな……
”カースの穢れが自身の穢れになるのは耐えられない”と」
UB「……彼女は、負の存在の持つ”所有権”を主張し、その力を自らの所有物として肉体に取り込むことを嫌う」
UB「できなくは無いのだろう、ただ単に嫌がっている」
UBの主たる『強欲』の悪魔は、そのおぞましき力を行使して、
”負なる存在の能力”を、自身に取り込むことを極端に嫌っていた。
――
―――
――――
UB「……お嬢様の能力は、非常に強力で実に乱暴だ」
強欲なる英知は思考する。
己を支配する、『悪魔』たるお嬢様の、その能力について。
UB「所有格およびにコントロール権の掌握、それに順ずる略奪行為の省略」
UB「その気になれば、たった一声で”命”や”意識”さえ文字通り”奪う”」
UB「まったくもっておぞましい、大罪の悪魔に数えられるのも伊達ではないと言う事か」
彼女の”支配と搾取”の力は恐ろしく強力な能力だ。
資産、生命力、魔力、能力、意思、記憶、経験……他者の持ち得るものを何でも自分の物として扱う事のできる力。
UB「が、弱点が無いわけではない」
UB「結局は略奪行為の”省略”でしかない以上、そもそも略奪する事のできない相手には効かないこと、
魔界の基準で言えば、レベルの高い相手には効かない」
UB「そしてもう一つ……」
UB「お嬢様はいつだか言っていたな……
”カースの穢れが自身の穢れになるのは耐えられない”と」
UB「……彼女は、負の存在の持つ”所有権”を主張し、その力を自らの所有物として肉体に取り込むことを嫌う」
UB「できなくは無いのだろう、ただ単に嫌がっている」
UBの主たる『強欲』の悪魔は、そのおぞましき力を行使して、
”負なる存在の能力”を、自身に取り込むことを極端に嫌っていた。
941: 2015/04/03(金) 15:39:49.81 ID:2ymeu+Jqo
UB「『強欲の悪魔』が”負”の所有権を主張したところで”穢れる”ことなどあるはずがない」
UB「悪魔は元より負の側の存在なのだから」
UB「事実、お嬢様は配下の『強欲』のカースを手足の様に扱っているし」
UB「それを、産み出すことには、躊躇も忌避もない」
実質的に財閥を支配する彼女自身が、例えば今日の様に自ら動く事はあまりないが、
しかし彼女が行動した少ない事例の中においては、
『強欲』のカースを従僕のように侍らせ、手足の様に使っていた事が、UBの持つ記録にもいくつか残っている。
UB「ではなぜ、外から”負”を取り込むことは忌み嫌うか?」
UB「Answer……”彼女”が人間だからだ」
UB「『強欲』の悪魔が穢れる事はなくとも、”『人間』櫻井桃華”の魂は穢れることがある……」
マンモンは憑依の際に、あえて人間としての部分を多く残した。
それは自身の欲望のため、『人間としての生』『人間としての幸福』さえ、求めたが故。
だから、彼女は『半身』が『人間』であり、
そして彼女の『人間』である部分は……”穢れ”る事がある。
UB「っくっくっく、つまりはお嬢様は、よりにもよって憑依した人間に気を使ってるわけだ」
942: 2015/04/03(金) 15:40:24.31 ID:2ymeu+Jqo
UB「悪魔であるお嬢様にとっては毒とならない負の力も」
UB「櫻井桃華としての精神を壊す副作用が働かないとも限らないのだから」
UB「だから彼女は、出来る限り負の権利を主張しない」
UB「負を操る立場でありながら、負をその肉体に積極的に取り込むことはない」
UB「そんな事をすれば”人間・櫻井桃華の心が呪いや穢れに耐えられないかもしれない”からだ」
UB「っくっくっく……既に少女は悪魔に憑依され、その魂は大きく歪めてると言うのにな」
UB「それでも『これ以上、少女の心と魂を穢したくはない』か?」
UB「っくっくっくっく!なんと身勝手な事だろうな!」
強欲なる『英知』は笑う。
主の抱える矛盾、相反する欲望の在り方の、その間に生じる歪みを、ただ面白おかしいと笑い飛ばす。
UB「……しかし、それは呪いの身である私にとってはただ好都合だ」
とにもかくにも、
『強欲』の悪魔の弱点とさえ言えるその隙は、
Unlimited Boxにとっては、この支配から抜け出すための鍵となり得る。
そう、『英知』にとって重要なのはそこだけで、彼女の抱える歪み自体ははっきり言ってどうでもよかった。
943: 2015/04/03(金) 15:40:54.14 ID:2ymeu+Jqo
UB「以前、お嬢様は、私に”この箱の鍵を解き、出る方法を考えよ。”と言う出題をした」
強欲なる英知は、続けて思考する。
『悪魔』の支配から脱する、その術について。
UB「そう、お嬢様の言うとおり。鍵は”この箱”に掛かっているものであり」
UB「”負”その物である私自身に掛かっているものではない」
UB「鎖は私自身を縛るものではなく、私を閉じ込める箱を縛っているものなのだ」
UB「つまり、私の”意識”や”力”がお嬢様の力によって剥奪されている訳では無いと言うことだな」
『強欲』の悪魔が”負”から権利を剥奪することをしない以上、
UBの持つその”力”は、UBの”自由意志”によっても扱う事が出来ると言う事を意味する。
もちろん、『大罪』に従うカースの身の上であるために、主の命令には従わなければならないが、
あくまで”命令に反さず能力を行使する”ことには何の支障もなかった。
944: 2015/04/03(金) 15:41:35.21 ID:2ymeu+Jqo
UB「この私、Unlimited Boxは、電子回路の箱の内部に存在する『知識欲』のカースだ」
UB「私の泥は、この箱の内部の機構のその全てを掌握し支配しているが……」
UB「その最も外側。つまりは箱の外装にあたる部分、それらを泥で侵食し……破壊する事が出来ない」
UB「お嬢様の力『物の支配権』。お嬢様の所有物が、他の何者かに支配されるのを防ぐ力のせいだ」
UB「これによって私は箱の外装を支配する事が出来ず、この殻を破くことができない」
UB「それこそが私の自由を妨げる錠。丁度、私は檻に閉じ込められているような状態と言えるだろう」
『英知』が”力”を自由に行使できる。とは言っても、
強欲の悪魔はそれを見越し、Unlimited Boxを閉じ込めるコンピューターを予め『物の所有権』によって”支配”している。
UBが仮住まいとする箱の外装自体は負の存在ではないため、彼女が”穢れる”事はもちろんない。
つまり、『英知』が”力”を使って足掻いたとしても、コンピューターと言う箱その物の枠を脱して、逃げ出す事はできない。
UB「しかし……」
UB「”檻の中に存在するまま行動を起こす”ならば私に枷はない」
UB「わざわざ鎖を引き千切り箱を開けずとも、この箱の内側であるならば私は好きに手が打てる」
UB「”自由を求めるならば、この箱の鍵を解き、脱出する方法を考えよ。”」
UB「その問いに私はこう答えるだろう」
UB「脱出の必要などはない」
箱の内側から逃げ出すことができないのならば、逃げ出さずに手を打てば良いだけの事。
UB「っくっくっく、私はこの場所に居座り続けたままに、お嬢様の支配から抜け出してみせよう」
あくまで檻の中に居座ると決めていた『英知』を――
彼の自由を奪う檻や、縛る鎖などは……はじめから何処にもなかったのだ。
【次回に続く・・・】
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