140:◆4xyA15XiqQ 2012/07/16(月) 12:00:49 ID:EIx1zISM0
「冷夏」
141: 2012/07/16(月) 12:01:19 ID:EIx1zISM0
「えー、お天気です。
今年の夏は、非常に厳しい冷夏となる模様です」
「関東地方を中心に、発生源が不明の冷たい空気が、日本中を包み込んでいます」
「現在関東地方全体の気温の平均は2度。
気象庁は、これは極めて異常なものだと―――」
142: 2012/07/16(月) 12:02:37 ID:EIx1zISM0
‐平沢宅・唯の部屋‐
唯「えっ、純ちゃんが寒いこと言ったら、学校が凍り付けになっちゃった?」
憂「そうなの」
唯「だから学校休みなんだ」
憂「うん」
唯「これであと二時間は寝れるよ」
憂「それに加えてね」
唯「うん」
憂「今年の夏は異常に寒いみたいなの」
唯「純ちゃんの事件と並べるべきことだったのかな?」
憂「学校が凍ったぐらいだからね」
唯「確かに」
唯「つまり、純ちゃんが今の冷夏の原因なんだね?」
憂「そういうことになると思うよ」
唯「暑すぎるのは苦手だし、純ちゃんには感謝だよ」
憂「……でもね、お姉ちゃん。冷夏にあまり良いイメージが無い理由がわかる?」
唯「えっ?」
憂「お姉ちゃん、白米は好きだよね?」
唯「うん、大好きだよ。……あっ!」
憂「そう、つまりはね」
唯「お米とかがとれなくなっちゃうんだ……!」
唯「今すぐに純ちゃんを止めに行かなくちゃ!」
憂「待って、お姉ちゃん!」
143: 2012/07/16(月) 12:03:25 ID:EIx1zISM0
‐玄関‐
唯「ほら、憂急いで!」
憂「……駄目なんだよ」
唯「お米の方が駄目にしちゃいけないよ!」
憂「違うの。実は純ちゃん、ついさっき家の前を通ったらしくて」
憂「こう呟いたの」
* * *
純「“ヘルシー”食品食べりゃ、体重“減るしー”」
* * *
憂「そしたらドアが凍り付いて開かなくなっちゃったの!!」
唯「純ちゃん寒い!凄い!迷惑!」
144: 2012/07/16(月) 12:04:13 ID:EIx1zISM0
‐リビング‐
唯「状況を整理してみるよ」
唯「ドア、及び窓は凍り付いて開きません」
憂「うん」
唯「つまり家に閉じ込められてます」
憂「そうだね」
唯「どうしよう」
憂「氷を解かせればいいんだけど」
唯「窓から外を見たけど、一面氷の世界だったよ」
憂「自然に解けそう、ではないんだよね……。
家の中も何だか寒くなってきたし、どうしようお姉ちゃん……」
?「心配には及ばないわ!」
「ぱりーん!」
憂「あ、あなたは!」
紬「二人とも、助けに来たわ」
憂「でも、どうやって……」
紬「窓の一枚や二枚、壊してしまえばいいのよ」
憂「どうりで目の前の窓に穴が開いてるわけですね!」
唯「あれ、ここって二階だよね?」
145: 2012/07/16(月) 12:04:44 ID:EIx1zISM0
* * *
唯「さてと、今の状況を整理するね」
唯「凍り付いた窓や扉で閉じ込められていた私達」
唯「そこへ斬新かつ、非常に“暴力的”な方法で家へムギちゃんがやってくる」
唯「そして今、私達は余計に寒くなった部屋に三人で座っている」
唯「こんな感じかな」
紬「大体そんな感じね。それにしても、この部屋はとても寒いわ……」
憂「全て純ちゃんのせいですね」
唯「この寒さは純ちゃんだけのせいではない気がするよ」
唯「ところでムギちゃん、こんな氷世界の中をよく来れたね。
何かとっておきの秘密兵器でもあるの?」
紬「ふふ、実はね。このコトブキグループ特製、超強力携帯ヒーターを
使えば氷なんて敵じゃないの~」
唯「おお、すごい!」
唯「じゃあなんでさっきは窓を破ってきたの?」
紬「……人には誰しも、理性では縛れない本能的な一面があるの」
唯「窓を割りたい本能ってなに!?」
紬「きっと私の前世はスタントマンだったのね」
唯「絶対違うと思う」
紬「……あっ、ちょっと喋りすぎたわ。そんなことはどうでもいいのに!」
憂「人の家の窓がどうでもいいほど、何を話したかったんですか?」
紬「とりあえず二人ともついてきて、既に他のみんなは集まってるから!」
146: 2012/07/16(月) 12:05:10 ID:EIx1zISM0
‐琴吹宅・部屋‐
紬「ここよ」
唯「でっかいお部屋だねえ」
?「おっ、平沢姉妹も揃って来たか」
唯「りっちゃん!」
律「おいっす」
唯「ムギちゃんの家、初めて来たけど凄いね」
律「だろ?」
澪「お前が威張ることでもないだろ」
憂「梓ちゃんも無事だったんだね」
梓「うん。ムギ先輩が来なかったら危なかったんだけどね」
憂「そうなの?」
梓「私が家を出て数十秒後に、純が家の前に通ったんだ。そして、こう呟いたの」
* * *
純「この“ホット”ココア、“ほっと”けない!」
* * *
梓「おかげで私の家は、もう……」
憂「中身は全然ホットじゃなかったんだね……」
147: 2012/07/16(月) 12:05:56 ID:EIx1zISM0
* * *
紬「皆揃ったかしら。それじゃあ、話をはじめるね」
紬「まず何で私達が集まったのか」
紬「それは、皆にこの“世界の危機”を救ってほしいからなの」
唯「世界の危機?」
澪「まさか……この町が氷結してきている、この現象そのものじゃないだろうな?」
紬「ええ、まさにそのことよ。私達コトブキグループは、
これを“アイスジョークシンドローム”と呼んでいるの。略してIJS」
律「どっかにありそうな名前だな。国際なんとか連盟とか」
梓「惜しいですね。“IJF”ならありますけど」
澪「梓、どうして“国際柔道連盟”の略称を覚えているんだ?」
唯「澪ちゃんも大概だよね」
紬「そしてIJSの最終到達点は、地球最大規模であり、現代に初めて降りる“大氷河時代”よ」
憂「大氷河……。つまり、このままだと人間がまともに生活できない環境に
なるかもしれない、ってことですね」
紬「そう。だから、私達がこの手でそれを救わなくちゃいけないの」
148: 2012/07/16(月) 12:06:32 ID:EIx1zISM0
澪「でも、何で私達なんだ?それこそ私達以外の方が、適役も多いはずじゃないか?」
紬「原因を考えてみて。純ちゃんでしょ?」
紬「女子高生一人に対して、国が早急に動くと思う?」
澪「まあ、そうかもしれないけれど……」
紬「それに私達の方が純ちゃんに身近。これは人間一人を相手にするにあたって、
最大のメリットになるんじゃないかしら?」
澪「身近な人間にメリットがあるのは納得出来る。でも、それこそ私達以外に適役がいたはずだ」
澪「憂ちゃんや梓は適役だけど、私達以上に純ちゃんと仲の良い、
例えば同級生の友人だってたくさんいるはずだ」
紬「ふふ、違うのよ澪ちゃん。一番の適役は澪ちゃんなんだから」
澪「えっ?」
梓「澪先輩は純の憧れですからね、確かに理屈は通ってます」
澪「なるほど」
唯「じゃあムギちゃん、私達はなんでここにいるの?」
紬「……私達は五人揃って放課後ティータイムじゃない」
律「理由になってないぞー」
紬「えーとね」
紬「例えるなら、お菓子についてるシール……」
唯「オマケってことだよね!?」
149: 2012/07/16(月) 12:07:00 ID:EIx1zISM0
* * *
紬「さて、“何のために”集まってもらったか、それはわかってもらったと思うの」
紬「次は“どうやって”、ね。これに関してはこれを使って?」
唯「これは?」
紬「温かそうなもの一式よ。これを使いながら、純ちゃんの説得にあたるの」
憂「マッチ、カイロ、手袋にマフラー……」
律「コタツにストーブ、こっちは羽のない扇風機の温かい風も送れるヤツ……」
澪「ムギ、少し方向性を間違えてないか?」
梓「……あっ、コタツって温かい……」
澪「梓も間違えた使い方を……、いや、用途はそれであってるけども」
唯「あずにゃんもコタツで丸くなる」
150: 2012/07/16(月) 12:07:28 ID:EIx1zISM0
* * *
紬「さてと、一人目は誰が行く?」
唯「えっ?」
紬「全員いきなり凍ったら大変だもの、一人ずつ純ちゃんを説得しにいってほしいの」
唯「えー」
紬「ちなみに純ちゃん、丁度この家の前に来てるみたい」
唯「ええ!?」
紬「今はコトブキグループ開発の凄いヒーターで対処してるけど、
あと三十分ももつかどうか……」
唯「えー……」
紬「……任せたわ、澪ちゃん」
澪「えっ」
151: 2012/07/16(月) 12:08:02 ID:EIx1zISM0
‐外‐
澪「……私は切り札じゃないのか」
紬『切り札を最後まで取っておくルールなんて存在しないもの~』←無線
澪「う、反論できない」
梓『頑張ってください、澪先輩!』
唯『一発で決めちゃって!』
澪「お前ら簡単に言うけどな、これだけ寒いと辛いものがあるぞ」
律『澪、信じてるからな』
澪「律に信じられてもな……」
律『おーい、聞こえてるからなー』
紬『ダメよりっちゃん、もっと澪ちゃんをやる気にさせる言葉じゃないと』
律『じゃあ、氏ぬなよ?』
澪「ムギの話を聞いてから口を開け、バカ」
152: 2012/07/16(月) 12:08:31 ID:EIx1zISM0
* * *
純「あれ、澪先輩じゃないですか!」
澪「やあ鈴木さん、奇遇だね」
純「本当ですね!こんな寒い日ですけど、おかげで気持ちが高ぶってきました!」
澪(おっ、これはいきなり手応えあり、か?)
純「もう寒すぎますよね。ですから、こんな寒い国は飛び出して」
純「一緒に“あっち”の“あっち”い国に行きましょう!」
澪「う、」
澪「うわああああああああああああああ!」
153: 2012/07/16(月) 12:09:05 ID:EIx1zISM0
‐琴吹宅・部屋‐
紬「惜しい人を亡くしてしまったわね」
律「ああ」
唯「澪ちゃん……私、忘れないよ」
梓「……なに初っ端から“切り札”使って負けてんですか!?」
紬「純ちゃんの方が強かった。ただそれだけのことよ」
梓「それもう、勝ち目がないとか言ってるようなもんですよ!?」
唯「あずにゃん……」
梓「唯先輩……?」
唯「次の切り札は、キミに任せたよ!」
梓「唯先輩!?」
154: 2012/07/16(月) 12:09:32 ID:EIx1zISM0
‐外‐
梓「……どうしてこうなったんだろう」
紬『近距離に行ってしまうからダメなのね。
純ちゃんの声が届かない範囲から、交渉に入るといいと思うわ』
紬『今、そっちに拡声機を送ってるから、受け取ってね』
梓「一ついいですか」
梓「澪先輩の犠牲はなんだったのでしょう」
紬『計り知れないものね』
梓「計ろうともしてないじゃないですか」
155: 2012/07/16(月) 12:10:06 ID:EIx1zISM0
* * *
梓『あー、あー、純ー?』←拡声機使用
純「この声は梓?」
梓『聞こえてるのか、よくわからないなあ……』
純「……」
梓『純のばーか』
純「聞こえてるわ!」
梓『ダメだ、何も聞こえない』
純「むかつく。一方的にむかつく」
梓『とりあえず、純。何でこんなことしだしたの?一体、何が目的なの?』
純「……」
梓『って、これ純の声が聞こえないとダメじゃん』
梓『ムギ先輩、お願いできます?あっ、はい、ありがとうございます』
梓『純、今からそっちに電話が送られるから。その電話で、私と話してよ』
執事「どうぞ」
純「……あ、どうも」
156: 2012/07/16(月) 12:10:36 ID:EIx1zISM0
‐琴吹宅・部屋‐
唯「ねえ、ムギちゃん」
紬「んー?」
唯「あずにゃん、忘れてるよね。なんで自分が離れた位置にいるか」
紬「そうねえ~」
157: 2012/07/16(月) 12:11:04 ID:EIx1zISM0
‐外‐
梓「さて、純。電話は繋がってるね?」
純「繋がってるよ、あと梓のばーか」
梓「なにいきなり……」
純「正当な仕返しだ」
梓「何の事だか良く分からないけど、まあいいよ」
梓「純が何がしたいのか、知りたいの。教えて」
純「どうしよっかな」
梓「……そもそも町中を凍らせるなんて、あんた何者?
こっちからすれば、聞きたいことが沢山あるんだけど」
純「んー……、仕方ない。教えてあげますか!ありがたく思うんだよ?」
梓「何そのテンション。まず、あんたは何者?」
純「そうだね、まず、梓には私がただの人間に見える?」
梓「現時点の印象では、そう思えない。今まではそう思ってた」
純「正確な答えをありがとう。それは正しいよ」
純「私はこの地球の外、遥か宇宙の彼方の星からやってきた」
純「……そう、地球ではこれを、“宇宙人”と呼んでいるね」
158: 2012/07/16(月) 12:11:35 ID:EIx1zISM0
‐琴吹宅・部屋‐
律「オイオイ、本当かよ」
紬「確かに、これまでのことは人間の成せる技ではなかったけど……」
憂「純ちゃんが……宇宙人……?」
159: 2012/07/16(月) 12:12:04 ID:EIx1zISM0
‐外‐
梓「じゃあ、宇宙人。地球に何をしに来たの?」
純「簡単だよ。移住先を探してたんだ」
梓「あんたの星は?」
純「んー……悪くないけど、良くもない。ここと比べたら、クソみたいなもんだけどね」
160: 2012/07/16(月) 12:12:35 ID:EIx1zISM0
‐琴吹宅・部屋‐
唯「純ちゃん、ただ楽しく暮らしたかっただけなんだね」
律「でも、それと今のコレとは説明がつかないぞ。何か理由があるはずだ」
紬「梓ちゃん、星へ来た目的じゃなくて、町を凍らせた目的を聞いて!」
161: 2012/07/16(月) 12:13:03 ID:EIx1zISM0
‐外‐
梓「そう。じゃあ、何で。なんで、今まで平和に暮らしていたのに、
最近になって町を凍らせ始めたの?」
純「……さあ」
梓「さあ、じゃないよ!それがどれだけ重要な問題か、あんたわかってんの!?」
純「そうだね、重要かもね」
梓「わかってるなら、さっさと訳を……」
純「……あんたに説明して、理解されることじゃないよ……!」
梓「それって、何。どういうことなの?」
純「だから説明するだけ無駄だって言ってるでしょ!」
梓「純!」
純「……」
梓「……」
「…………」
梓「わかってあげられないかもしれないけど、話して?」
梓「これでも純の友人、やってたつもりなんだから」
純「……」
純「……んだから」
梓「え?」
純「原因だから」
梓「なんの?ねえ、一体何の原因なの?」
純「……ははは、決まってるじゃない……」
純「……この癖毛の原因だからだよ!!」
梓「……は?」
162: 2012/07/16(月) 12:13:31 ID:EIx1zISM0
‐琴吹宅・部屋‐
唯「えっ?」
律「えっ?」
紬「えっ?」
憂「えっ?」
163: 2012/07/16(月) 12:14:07 ID:EIx1zISM0
‐外‐
純「私の髪は、人間と違う。暑さに弱い」
純「……だから、暑いとすぐに癖っ毛になっちゃうんだよ」
純「私の元・ストレートさらさらヘアーがね!」
梓「……」
純「だから、私の力で……“寒い言葉”で、“物体を凍らせる”能力で星全体の熱を冷ます。
そして、最終的に私のストレートさらさらヘアーを取り戻す!」
梓「……」
梓(……心底どうでもいいわ!!)
梓(癖っ毛が嫌だから?はっ?
そんな理由で、私達にこの寒さを強いるの?)
梓(ふざけるのも大概にしなさいよ!結局どこまでも鈴木純は鈴木純だよ!)
純「その顔。理解できなかったみたいだね」
純「うん、仕方ないよ。梓は見事なストレートヘアーだもんね」
梓「純、止めて。これ以上、勝手なことは止めて」
164: 2012/07/16(月) 12:14:38 ID:EIx1zISM0
‐琴吹宅・部屋‐
紬「梓ちゃん、もう電話切って!じゃないと凍らされちゃう!」
憂「梓ちゃん、純ちゃん、お願い……!」
165: 2012/07/16(月) 12:15:11 ID:EIx1zISM0
‐外‐
純「梓。そろそろ電話切れば?」
梓「私は、切らないから」
純「どうしてよ?凍るほど寒いこと言われたいの?」
梓「どんな寒いことでも聞いてあげられるのは、友人だけじゃない?」
純「ふーん、そっか。ありがと、梓」
梓「うん」
純「……さようなら」
純「“照れ”て“テレ”フォンに“出んわ”」
梓(……ばか。ホントに寒いよ……)
166: 2012/07/16(月) 12:16:08 ID:EIx1zISM0
‐琴吹宅・部屋‐
「つー……つー……」
紬「梓ちゃん!?梓ちゃん!」
律「嘘だろ?なあ!?」
憂「梓、ちゃん……?」
唯「……あずにゃーーーん!」
* * *
唯「ムギちゃん、あずにゃんは!?そういえば澪ちゃんも!」
紬「梓ちゃんと、そういえば澪ちゃんは、別室で解凍してるところ。命に別状は無いわ」
唯「よかった……」
紬「澪ちゃんは執事が純ちゃんに電話を手渡すついでに解凍室に送ったから、
そろそろだとは思うけど、梓ちゃんはまだ時間がかかるはずよ」
紬「二人の安全は確保できたから……、後は純ちゃんの正体ね」
律「澪の時はあっという間すぎて感情の入る隙が無かったけど、
梓の時は違ったな。色々わかったし」
紬「私達もまさかとは思ったけど、純ちゃんは宇宙人だったのね」
「ピピピピピピ」
紬「通信?なにかしら?」
『こちら交渉班です』
唯「交渉班……?」
律「初めて聞くな」
紬「……結果だけ聞かせて」
『……ダメでした。日本は自衛隊を出動させることを決定。
その上、“異星人の命までは保障出来ない”とまで言われました』
紬「そんな……!」
『申し訳ありません。至急紬お嬢様と、そのお友達は避難を……』
紬「……わかった。もういいわ」
『……失礼します』
律「おい、どういうことだよ」
紬「……」
167: 2012/07/16(月) 12:16:46 ID:EIx1zISM0
?「なるほどな。合点いったよ」
律「……澪!?」
澪「さっきのムギの説明で、どうしても納得できない点があった。けど、それも解決だ」
律「安静にしていなくて、大丈夫なのか?」
澪「ああ、むしろ今は暑すぎるぐらいだ。それよりも」
澪「ムギ、さっき言ったことを覚えてるか?
“女子高生一人に対して、国が早急に動くと思う?”だ」
紬「ええ」
澪「これ、違うよな」
澪「流石に、この国は“ただの女子高生が町を凍らせている”なんて
冗談を受け入れられる訳がないんだから」
澪「なら、何が国の動きを止めていたか。それがさっき言った“交渉班”だ」
澪「ムギは秘密裏で、純ちゃんへ攻撃しようとしていた国を、止めようとしていた。違うか?」
紬「……うん、お見事ね。その通りよ」
紬「初めは、純ちゃんがどれだけ危険な状況にさらされているかを、隠すつもりでいたんだけど。
ここまで言われたら、隠す意味もなさそう」
紬「……さ、どうしよっか?」
紬「今から十五分後、ここは戦場となる。それでも、皆はここにいる?」
律「……」
紬「……五分間だけ、考える時間をあげるね」
澪「どうすれば……」
憂「……お姉ちゃん……」
唯「……うん」
168: 2012/07/16(月) 12:18:16 ID:EIx1zISM0
* * *
紬「五分経ったわ。答えを聞かせて」
律「……私は残る。部活の後輩の友人だ、放ってはおけないよ」
澪「私も律と同じく。多分、梓も同じ意見だと思う」
紬「そう。唯ちゃんと憂ちゃんは?」
唯「私達も残るよ。……それでね、皆にお願いがあるの」
唯「いいよね、憂?」
憂「うん」
唯「ありがと」
律「なんだよ、こんな時に勿体ぶる話題なんてあるのか?」
唯「あのね、皆」
唯「絶対に私達のこと、信じてくれる?どんなこと言っても、絶対に」
律「えっ?」
澪「どういうことだ?」
憂「……私達も純ちゃんと同じ、といえばわかりやすいかもしれませんね」
紬「それって、まさか……」
唯「そう」
唯「私と憂は、宇宙人なんだ」
紬「そんな……!」
憂「信じてもらえますか?」
紬「……純ちゃんのことがあるし、私は信じるわ。検証している時間も無いもの」
憂「ありがとうございます」
169: 2012/07/16(月) 12:18:50 ID:EIx1zISM0
* * *
律「……で、宇宙人のお二人さんは、何をするつもりだ?」
憂「純ちゃんにモノを凍らせる能力があるように、
私達にもそれなりの能力があります。今回、それを利用します」
憂「ですから、私達二人に任せてください。絶対に純ちゃんを止めてみせます」
律「どうする?任せていいと、思うか?」
澪「私は任せても大丈夫だと思う」
澪「とても危険なことだと思うけど、私達に出来ることもない。
それに二人とも、自信に満ち溢れた顔してるからな」
紬「私も同じ意見ね。きっと二人ならなんとかしてくれると思う」
律「そうか。ん、それなら部長の私は部員の意見を尊重するだけだ」
唯「あれ、りっちゃんって部長だったっけ?」
律「ゆーいー?」
唯「冗談、冗談だって!……ちょっと本気だけど」
律「このやろ……って、今はそれどころじゃないか」
律「帰ってきたら得意技のチョーキングで歓迎してやるから、覚悟してろよ?」
唯「りっちゃん、それを言うならチョップスティックだよ」
憂「それは箸だよ、お姉ちゃん」
唯「あれ?」
澪「お前らだと、いまいち締まらないよな……」
律「まあまあまあ、これが私達らしいってことで」
紬「そうね」
澪「否定できないことが悔しいよ……」
170: 2012/07/16(月) 12:19:28 ID:EIx1zISM0
* * *
澪「……さて、二人とも。もう少しで自衛隊の人達が来てしまう」
澪「何としても、純ちゃんを止めるんだ。ここが戦場になる前に!」
唯「りょーかいだよ!」
憂「頑張ります!」
澪「……それじゃあ、行ってらっしゃい!」
唯・憂「行ってきます!」
171: 2012/07/16(月) 12:20:05 ID:EIx1zISM0
‐外‐
純「……」
純(……ふふ、もう癖っ毛が戻り始めてる……!
この調子でいけば、あと少しで元のさらさらヘアーに!)
憂「純ちゃん」
純「……あれ、憂と、そのお姉ちゃん?」
唯「やっほー」
純「何しにきたんですか。まさか私を止めに来たとか?」
唯「その通り!」
純「それはそれは……残念です。もう止めるつもりはありませんから」
憂「無理矢理でも止めるって言ったら?」
純「……無理矢理にでも押し通すしかないでしょ。寒い言葉、いくよ」
純「コールドな日には池も“凍るど”!」
唯「“憂”はかわ“うい”!」
「……」
純「……な、何も起きない!?どうして!」
唯「残念だったね」
172: 2012/07/16(月) 12:20:45 ID:EIx1zISM0
唯「もし、私達が宇宙人じゃなかったら、純ちゃんは目論見を達成できただろうけど」
純「えっ……」
憂「驚いてるね。そうだよ、私達も宇宙人なんだよ」
純「まさか!?」
憂「そして、純ちゃんの氷結能力と同じく、私達にも人間と違った能力が備わってるの」
純「……どんな能力よ」
憂「それはね」
憂「あらゆるスキルを吸収し、それを即座に応用する能力」
純「それは、つまり……?」
憂「具体的に言うと」
憂「お姉ちゃんがギターの演奏技術をあっという間に手に入れたり。
私があらゆる家事にあっという間に精通していたりってこと」
憂「これらは、この肌で感じ、目で見た“スキル”を吸収したということなんだよ」
憂「……お姉ちゃんは忘れっぽいのがたまに傷だけど」
唯「えへへ~」
唯「そして、今のは純ちゃんの能力を吸収して、応用したんだ」
唯「純ちゃんが“寒い言葉”で“物体を凍らせる”ように、
私達は“温かい言葉”で“物体を温める”能力を手に入れたんだよ」
純「それで私の能力を相頃したというんですか!?」
唯「そういうこと」
173: 2012/07/16(月) 12:21:14 ID:EIx1zISM0
純「……以前から平沢姉妹の特異性には目を見張るものがありました。
が、まさかそんな裏事情があるとは思いませんでした」
唯「降参する?」
純「まさか。私の寒い言葉のレパートリーを舐めない方がいいですよ!」
純「“布団”が“ふっとんだ”!」
唯「“初”々しさもかわ“うい”、“憂”!」
純「“屋根”までふっとんだ!“や~ね~”!」
憂「“唯”お姉ちゃんは、とってもかわ“ゆい”!」
純「“家”までふっとんだ!“いえ”ーい!」
憂「コタツとみかん!」
純「って、それダジャレでもなんでもないし!」
唯「勝手にダジャレに制限したのは純ちゃんだよ?」
憂「寒い言葉なんて、ダジャレ以外にもたくさんあるのにね!」
純「……し、しまった……!
ただの寒い言葉でもいいということを、忘れてた!」
唯「そして、それはこっちも同様なんだよね」
唯「……純ちゃん、終わりだよ」
唯・憂「……あったか、あったか!!」
純「あ、」
純「あったかああああああああああ!」
174: 2012/07/16(月) 12:21:44 ID:EIx1zISM0
* * *
「……ちゃん。純ちゃん」
純「はっ!」
憂「起きた、純ちゃん?」
純「……」
憂「……」
純「……私、負けたんだよね」
憂「そうだね」
純「はあ……町も気温も、髪までも元通りになってるね……」
憂「これがあるべき姿なんだよ」
純「……私の髪以外、そうかもね」
憂「ふふ、そうかもしれないね」
純「なんだよう。私の気持ちわかってくれるなら、止めないでよう」
憂「でも私、純ちゃんのその髪が大好きだから」
純「へっ?」
憂「もふもふ~」
純「さ、触るなー!」
唯「もふもふ~」
純「唯先輩いつの間に!?って、二人とも離れろー!」
唯・憂「もふもふ~!」
175: 2012/07/16(月) 12:22:11 ID:EIx1zISM0
* * *
純「……疲れた」
唯「ごめんごめん」
憂「あまりに気持ち良かったから」
純「もういいよ。私が悪いことしたんだし、その罪滅ぼしだと思えば何とかなるし」
唯「じゃあもうちょっと」
純「これ以上は超過料金が発生しますよ」
唯「けちー」
176: 2012/07/16(月) 12:22:42 ID:EIx1zISM0
* * *
律「唯~!」
唯「みんな!」
律「おいおい、本当にやってくれるとはな!
というわけで約束の空手チョップ食らいやがれ!うりゃあ!」
唯「痛!?」
澪「律、それも多分違うと思うぞ」
律「ん、そうだったか?」
紬「攻撃的な面は当たってると思うけど……」
紬「まあ、それは置いといて。二人ともお疲れ様」
憂「ありがとうございます」
唯「本当に疲れたよー。痛みのほうが酷いけど」
律「すまん」
紬「そう言ってくると思ったから、疲れも吹っ飛ぶ美味しいケーキを用意したわ~」
律「よっしゃ」
澪「お前じゃない」
177: 2012/07/16(月) 12:23:28 ID:EIx1zISM0
紬「……さて、純ちゃん」
純「ごめんなさい」
紬「純ちゃんは反省よ?」
純「はい……」
紬「反省し終わったら、一緒にケーキね?」
純「……はい!」
憂「純ちゃん、元気になるの早すぎない?」
純「だってムギ先輩のケーキだよ!?軽音部の根幹にあると云われてる、高級ケーキ!」
澪「……云われちゃってるのか」
紬「ふふっ、いいじゃない。これで私達の“日常”が戻ったのだと思えば」
澪「誇れることじゃないけど……、まあ、それはそれでアリかもしれないな」
律「しっかし、まあ……。本当にお日様も元気なようで。快晴ってやつだな」
憂「本当に気持ちのいい天気ですね。夏真っ盛りのはずなんですけど」
純「ふふん、私のおかげだね」
紬「本当に反省してる?」
純「ゴメンナサイ」
憂「大丈夫だよ、純ちゃん。そんなに縮こまらなくても、紬さんはとても優しい人だから」
唯「そうそう、ムギちゃんだもん」
唯「……それにしてもだよ、憂」
憂「どうしたのお姉ちゃん?」
唯「今日は本当にあったか、あったかだね!」
憂「……うん!」
178: 2012/07/16(月) 12:24:13 ID:EIx1zISM0
* * *
「えー、お天気です。
今年の夏は、非常に厳しい冷夏となる模様でしたが」
「突然、発生源不明の冷たい空気が消え」
「今度は関東地方を中心に、大変暖かい空気が日本中を包み込んでいます」
「現在関東地方全体の気温の平均は20度。大変過ごしやすい気温で、
今日一日は快晴ということもあり、絶好の外出日和といえそうです―――」
179: 2012/07/16(月) 12:24:44 ID:EIx1zISM0
* * *
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‐琴吹宅・解凍室‐
梓「……」
梓「……外から、なにやら賑やかな声が聞こえるなあ」
梓「いつの間にか、お日様も出てるみたいだし」
梓「……」
梓「あれ、まさか私のこと忘れられてる?」
梓「……」
梓「……お日様が出ていても全部が明るいわけじゃないんだよ!?」
‐お し ま い‐
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