1: 2011/05/27(金) 21:06:26.40 ID:ayTW2/XjP
佐々木「自白剤の類なの?」

橘「い、いえ。そういうキケンなものでは……」

佐々木「ふうん」

橘「最近女の子の間で流行ってるんです!好きな人に告白したいけど勇気がでない、みたいな時に」

佐々木「これを飲むのね」

橘「そうなんです!まあ、実際はただのあめ玉なんですけど……」

佐々木「プラシーボ効果というやつね、実際にそういう心理状況っていうのは、事象に少なからず影響を……」

橘「あ、あの!それあげますから、使ってみてください」

佐々木「え」

橘「ぜひ!」

佐々木「はあ、まあいいけど」

橘「……うっし」

佐々木「?」
涼宮ハルヒの憂鬱 「涼宮ハルヒ」シリーズ (角川スニーカー文庫)

10: 2011/05/27(金) 21:10:44.96 ID:ayTW2/XjP
佐々木「というわけなんだ、キョン」

キョン「いかにもうさんくさいものを渡されたな」

佐々木「そうなんだよ、彼女はああ言ってたけど、僕はあまり信用していなくてね」

佐々木「こういう非日常的を日常とする君に助言を求めに来たのさ」

キョン「なんだ、バカにしてるのか」

佐々木「まさか、尊敬しているんだよ」

キョン「まあいいさ。経験則から言わしてもらうが、あの手の連中から貰ったものなら、下手に手を出さない方がいいな」

佐々木「やはりそうかな」

キョン「うちの連中にも言えることだが、何か俺たちには及びも付かないような意図を裏に隠してるんだ、いつも」

佐々木「怖いなあ、まったく。くっくっ」

キョン「楽しそうじゃないか」

佐々木「おや、そうかい?」

キョン「やれやれ」

14: 2011/05/27(金) 21:18:33.38 ID:ayTW2/XjP
佐々木「大体、僕は誰かさんと違ってひねくれ者でもないからね」

キョン「はあ?」

佐々木「自画自賛するようで、あまり気分はよろしくないけど、僕は結構自分に素直なタチだと思うんだよ」

キョン「そうかい」

佐々木「そもそも、用途が告白の時の背中押しとなれば、僕には全く必要がないのさ」

キョン「言ってて自分で哀しくないのか、お前は」

佐々木「そういう君だって、似たもの同士じゃないか」

キョン「あのなあ、俺はお前と違って、出来るものなら彼女だって欲しいし、青春を謳歌したいんだよ!普通にな!」

佐々木「くっくっ、そうだったね。まあ、そんなに怒らないでおくれよ」

キョン「まあいいさ、お前に使うアテがないんなら、さっさと捨てちまえ」

佐々木「それも悪いじゃないか」

キョン「ふむ……じゃあ、今ここで飲んじまえよ」

佐々木「一応用心して、救急車を呼ぶ準備だけはしておいて欲しいな」

キョン「あめ玉なんだろ、ただの」

佐々木「毒とも限らないさ」

17: 2011/05/27(金) 21:25:53.89 ID:ayTW2/XjP
佐々木「ごくん」

キョン「……」

佐々木「……」

キョン「……」

佐々木「ぐっ……ううっ……」

キョン「さ、佐々木!?」

佐々木「く、苦しい……」

キョン「おい!?だ、大丈夫か!きゅ、救急車!119!」

佐々木「……くっくっ」

キョン「……え」

佐々木「す、すまないね……ふふっ……心配させたみたいで……くくくっ」

キョン「お、お前な!」

佐々木「ちょっとからかってみたくなったのさ、君の態度があまりにもつっけんどんだったんでね」

キョン「やれやれ」

18: 2011/05/27(金) 21:32:09.62 ID:ayTW2/XjP
佐々木「実においしいアメだったよ」

キョン「そうか、うんとまずかったらよかったんだが」

佐々木「おいおい、怒らないでおくれよ」

キョン「俺はこの一年間で、何が起こっても信じちまうような、純粋無垢な受容の心を身につけたんだ」

佐々木「くっくっ、悪かったね、それは」

キョン「お前な……」

佐々木「まあでも、ほら、いつもの通り。何の変わりもない。心配してくれてありがとう」

キョン「心臓に悪いから、冗談は時と場合をわきまえてくれよ、これからは」

佐々木「うん、約束するよ。君に嫌われたら生きていけないからね、もう」

キョン「……ん?」

佐々木「え?あ、ああ……僕は友達が少ないってことだよ」

キョン「あ、ああ……」

佐々木「まあ、友達が少なくたって、キョンが傍にいてくれればそれで問題ないんだけど」

佐々木「……!?」

21: 2011/05/27(金) 21:40:07.36 ID:ayTW2/XjP
キョン「お、おい……佐々木?」

佐々木「(ぼ、僕は何を言って……)」

キョン「おまえやっぱり、その薬で何か……」

佐々木「いや、僕はなんともない!今まで通りさ!」

キョン「ほんとか?」

佐々木「そうとも、今まで通り君のことがだいす……わぁぁぁっ!?」

キョン「!?」

佐々木「あ、あはは!冗談さ!びっくりしたかい?」

キョン「あのなあ……だから本当に心臓に悪いからやめろって」

佐々木「そ、そうだね。気をつけるよ、じゃあね、キョン!」

すたこらさっさっさー

キョン「やれやれ、なんだったんだ一体」

~~~~~~

佐々木「はぁ……はぁ……」

佐々木「これはとんでもないことになった」

31: 2011/05/27(金) 21:53:10.72 ID:ayTW2/XjP
~その夜・佐々木の部屋~

佐々木「だいたい何だって言うんだ」

佐々木「もらったのは素直になる薬のはずなのに」

佐々木「あれじゃあただの男好きじゃないか……ああ、思い出しただけでも恥ずかしい」

佐々木「あ、明日には薬の効果も切れていてくれないと困るな」

佐々木「何せ僕の学校はただでさえ男子が多いんだし……」

佐々木「ああ、憂鬱だ」

~翌朝~

佐々木「さて、体に変わったところもなさそうだし」

佐々木「もう大丈夫かな……」

とぅるるるる

佐々木「ん、キョンか……」

佐々木「もしもし」

キョン「おお、元気そうだな」

佐々木「なんだい、藪から棒に」

37: 2011/05/27(金) 22:00:51.99 ID:ayTW2/XjP
キョン「いや、なんというか。昨日の去り際のお前が何だか妙な感じがしたからな」

佐々木「そ、そうかな」

キョン「ちょっと気になって電話したのさ。いや、なんともないならいいんだ」

佐々木「まったく、心配性だね君も。でも、そういう優しい所が好きだよ」

キョン「え?」

佐々木「い、いや!ゆ、友人としてね!」

キョン「あ、ああ、そうか」

佐々木「(だめだ……全然治ってないじゃないか……)」

佐々木「と、とにかく、もう切るよ」

キョン「あ、なんだ。忙しかったか、悪いな」

佐々木「違うよ、君の声を聞いてると、会いたくなっちゃうから」

キョン「はあ?」

佐々木「いやその!学校の友達とね!早く学校行きたいなあなんて!」

キョン「(昨日友達少ないって言ってたなかったっけ……?)」

44: 2011/05/27(金) 22:25:58.51 ID:ayTW2/XjP
佐々木「まずい」

佐々木「こんな調子で学校なんかに行ったら……」

佐々木「……」

佐々木「こんな僕にだって、一応イメージってものがあるんだ」

佐々木「うーん」

佐々木「まあいいか、とりあえず登校してみて、ダメそうなら早退すればいいさ」

~放課後~

佐々木「……なんともなかった」

佐々木「何事もなく、普通……」

佐々木「朝で薬が切れたと考えるべきなのかな」

佐々木「やれやれ、人騒がせなあめ玉だったよ」

佐々木「くっくっくっ」

キョン「あれ?佐々木じゃないか」

佐々木「やあ、奇遇だね」キュン

佐々木「あ、あれ……?」

56: 2011/05/27(金) 22:41:51.18 ID:ayTW2/XjP
キョン「どうかしたか?」

佐々木「い、いや、何も……」

キョン「ははあ、さては腹が減ってるな?」

佐々木「え?」

キョン「俺からたかろうったってそうは行かないぞ、何せ財布がスッカラカンだからな!」

佐々木「いや、誰も聞いてないんだけどね……」

キョン「そ、そうか」

ぐー

佐々木「キョン、君、お腹が減っているのかい」

キョン「……」

~~~~~~

佐々木「くっくっくっ」

キョン「いつまで笑ってるんだよ、まったく。弁当を忘れる日だってあるだろう」

佐々木「悪いね。でも、そんなにがっついてハンバーガーを頬張ることないじゃないか」

58: 2011/05/27(金) 22:46:23.68 ID:ayTW2/XjP
佐々木「ハンバーガーは逃げないよ」

キョン「いや、そうとも限らん」

佐々木「くっくっ、君は本当に用心深くなったな」

キョン「何が起きても不思議じゃないからな……がつがつ」

佐々木「……」

キョン「……?」

佐々木「あ、ああ、ごめん。君の食べっぷりがいいから、なんだか見とれていたよ」

キョン「動物園感覚か?まあおごってもらってるから文句は言わんがな」

佐々木「違うよ、なんていうか、愛おしいっていうか」

キョン「はあ?」

佐々木「あ!?いや、だからやっぱりあれだね、動物園感覚だね、はは」

キョン「お前、やっぱりなんか変じゃないか?」

佐々木「き、気のせいだよ」

キョン「ふむ……」じー

佐々木「あう……」




佐々木「きょ、キョン。あんまり見つめないでくれないか、恥ずかしいじゃないか」

キョン「お前、何か隠してるだろ」

佐々木「そ、そんなことないったら」

キョン「んー?」じー

佐々木「だ、だから……その、ええと」

キョン「ははあ、わかったぞ」

佐々木「!」

キョン「さてはお前、ほんとはこっちのテリヤキの方がよかったんだろ」

佐々木「……はあ?」

キョン「チーズバーガー頼んだものの、俺がテリヤキ頼んだの見て、急に食べたくなったんだな」

佐々木「いや、あのね」

キョン「皆まで言うな、ある、俺にもあるぞそういうこと。だから気持ちはよくわかる」

佐々木「キョン?」

キョン「まあもともとお前の金で買ったハンバーガーだ。好きなだけ食えよ」

佐々木「……なんだかなあ」

488: 2011/05/29(日) 00:12:04.72 ID:VdEny4q/P
キョン「確かにこのテリヤキの匂いは殺人的だからな」

佐々木「くっくっ、まあそういうことにしておこうか」

佐々木「(助かったね、これは)」

キョン「ほれ」

佐々木「ん?」

キョン「食っていいぞ。ほれ、あーん」

佐々木「……え?」

キョン「お前におごってもらったんだ、遠慮するなよ」

佐々木「いや、そういうことじゃなくて……」

きゅん

佐々木「(あ、あれ……?体が勝手に)」

佐々木「……あむ」

キョン「そうそう、我慢はよくないぞ」

佐々木「(これは、いわゆる間接キスというやつじゃないか……というか、あーんって)」

佐々木「(ぼ、僕はなんて恥ずかしい真似を……でも、でも)」

497: 2011/05/29(日) 00:24:34.81 ID:VdEny4q/P
佐々木「……はっ」

キョン「?」

佐々木「危ない危ない、僕としたことが、状況に流されるところだったよ」

キョン「何だ、流されるって」

佐々木「いや、こっちの話だよ。気にしないでくれ」

キョン「なんだそりゃ。まあいいか、ほれ、それよりもっと食べるか?」

佐々木「いや、もう結構だよ……あーん」

キョン「それは新しいギャグなのか?」

佐々木「い、いや!ちがっ……これは」

キョン「……ほれ、あーん」

佐々木「あむ」

キョン「ははは」

佐々木「(だ、だめだ……だんだん抗えなくなってきている様な気がする……)」

499: 2011/05/29(日) 00:30:24.48 ID:VdEny4q/P
佐々木「ね、ねえキョン。もうやめにしないか、周りが見てるよ」

キョン「え?そうか?」

佐々木「周りから、恋人か何かかと思われてしまうよ」

キョン「別にいいじゃないか」

佐々木「え?」

きゅんっ

佐々木「はう……」

キョン「知り合いに見られてるわけでもなし、そんなに気にするなよ」

佐々木「ぽけー」

キョン「おい、聞いてるか?」

佐々木「そ、それは告白と受け取ってもいいのかな」

キョン「はい?」

佐々木「はっ……うわぁぁっ!な、なんでもない!なんでもないよ!」

506: 2011/05/29(日) 00:41:12.85 ID:VdEny4q/P
キョン「なあ、体調悪いのか?」

佐々木「……ある意味そうかもね」

キョン「なんだ、無理させちまったみたいで悪かったな」

佐々木「いや、気に病むことはないよ。僕は君とこうして二人でいるのが好きだからね」

キョン「え?あ、そ、そうか?」

佐々木「あ、その……うん、それは本当に」

佐々木「(これは本当にそうだからなあ……否定もできないけれど……あれ)」

佐々木「(ちょっと待てよ……僕が飲んだのは素直になる薬だったな)」

佐々木「(僕はさっきから、薬のせいで変になっていると思っていたけれど)」

佐々木「(あれは全部僕の本心なのか……?自然な気持ち……?)」

佐々木「……」

キョン「なんか本当に具合悪そうだな、とりあえず家まで送ろう」

佐々木「え?あ、ああ……すまないね」

509: 2011/05/29(日) 00:47:50.65 ID:VdEny4q/P
キョン「ちゃんと掴まってろよ」

佐々木「うん」

キョン「なんか久しぶりだな、こうして二人で自転車乗るのも」

佐々木「そうかもしれない」

キョン「学校は楽しいか?」

佐々木「それなり、かな」

キョン「そうか」

佐々木「……ねえ、キョン」

キョン「ん?」

佐々木「風が気持ちいいね」

キョン「そうだな」

佐々木「(僕の、素直な気持ち……か)」

518: 2011/05/29(日) 00:59:59.54 ID:VdEny4q/P
佐々木「……」

ぎゅっ

キョン「え?」

佐々木「ちゃんと掴まってろ、って言っただろう?」

キョン「あ、ああ」

佐々木「あのね、キョン」

キョン「ん」

佐々木「正直なところ、僕は今現在のこの生活に結構満足しているんだ」

佐々木「それなりに充実もしているし、そんなに退屈だとも思わない」

佐々木「むしろ、劇的にいろいろなことが起こり続けていて、驚きの連続さ」

キョン「そいつはよかった」

佐々木「でもね」

佐々木「そんな慌ただしい毎日の中でも、こうして君と二人で自転車に乗っていた時のことを思い出すんだ」

521: 2011/05/29(日) 01:09:49.14 ID:VdEny4q/P
佐々木「僕らが中学生だった頃、周りの景色はとても退屈に見えたよ」

佐々木「まるで世界が止まってしまっているような閉塞感の中にいた」

佐々木「今振り返るとそんな気がしてならない」

佐々木「でも、それでも、僕はあの時のことをしつこく思い出す」

佐々木「過去のどこかに落とし物でもしてきたみたいにね」

キョン「ふむ」

佐々木「それでね、思ったのさ」

佐々木「あの頃の僕にあって、今の僕にないもの」

キョン「なんだそりゃ」

佐々木「……キョン」

ぎゅっ

キョン「わわっ!?」

佐々木「君が隣に居ない、ただ、それだけの違いなんだけれど」

佐々木「でも、それは……僕にとって、世界がまるで変わってしまうことより大きな出来事みたい」



799: 2011/05/29(日) 22:29:32.27 ID:VdEny4q/P
キョン「さ、佐々木?」

佐々木「ねえ、どうしてだろうね」

キョン「え?」

佐々木「こうして君の傍にいると、僕はなんとも言えない気分になるのさ」

キョン「はあ」

佐々木「なんというか、気兼ねなく、自分らしくいられるんだ」

佐々木「自分自身を演じたり、体面を取り繕ったり、そういう煩わしいことを考えなくてもいい」

佐々木「ある種の心地よさ、とでも表現すると、一番近いのかな」

キョン「まあ、長い付き合いだからな」

佐々木「そうだね」

佐々木「その、こんなことを言うと、変に思われるかもしれないけれど」

佐々木「僕は、君の隣に勝手に自分の居場所を見つけていたのさ」

キョン「……」

佐々木「悪いね、つまらないことをベラベラとしゃべってしまって」

806: 2011/05/29(日) 22:47:21.93 ID:VdEny4q/P
キョン「……かまわんさ」

佐々木「はー」

佐々木「(随分と好き勝手に喋ってしまった……きっと、薬の効果が切れたらとんでもなく恥ずかしいんだろうな)」

佐々木「(でも、いいじゃないか。今は、こうして身を任せていたいよ)」

ぎゅっ

キョン「なあ、佐々木」

佐々木「なんだい?」

キョン「たとえばの話なんだが」

キョン「もし、俺に彼女がいたら、どうする?」

佐々木「……え?」

807: 2011/05/29(日) 22:58:32.37 ID:VdEny4q/P
佐々木「……それは、涼宮さんのことかい?」

キョン「今、俺はたとえばの話をしてるんだ」

佐々木「……そうか」

キョン「お前さっき、俺といると楽だっていっただろ、自分の居場所みたいだって」

佐々木「いざ振り返ってみると、なんだか恥ずかしいね」

キョン「もし、俺に誰かそういう、いわゆる恋人がいたらさ」

佐々木「(なんだろう……胸の奥がちくちくするな)」

キョン「お前は、こうやって俺と過ごすことも、なくなっていくんだろうか」

佐々木「そうかもしれないね」

キョン「やっぱり、そうだよな」

佐々木「現に君は涼宮さんたちと過ごす時間が増えて、僕らはめったに会わなくなっただろう」

佐々木「誰かと誰かの距離が近づくっていうことは、また別の誰かと距離をおくことでもあるのさ」

811: 2011/05/29(日) 23:14:02.94 ID:VdEny4q/P
佐々木「どうしたんだい、急に。よくわからない仮定の話なんか持ち出してさ」

佐々木「(なんだかイライラするな……)」

キョン「なあ、佐々木」

佐々木「だから、なんだい」

キョン「お前が、自分の居場所を見つけたって言うならさ」

キョン「俺は、なるべくならそれを守ってやりたいと思うんだ」

佐々木「え……?」

キョン「あんまり、お前がつまらなさそうな顔をしてるのを見るのが好きじゃないからな、俺は」

佐々木「きょ、キョン?」

どくん

佐々木「(あ、あれ……なんだろう、この感じ……)」

キョン「だからさ、俺はお前とこうして気楽に過ごす時間を大事にしていきたいんだよ」

佐々木「う、うん」

815: 2011/05/29(日) 23:25:40.65 ID:VdEny4q/P
キョン「ははは、悪いな、俺もつまらんことをベラベラとしゃべっちまった」

佐々木「ううん……そんなことないよ」

佐々木「つまらなくなんか、ない」

キョン「ま、彼女なんか出来る見込みもさらさらないんだけどな」

佐々木「……」

佐々木「ね、ねえキョン」

佐々木「……はっ」

キョン「ん?」

佐々木「(僕は今、何を言おうとしたんだ?)」

佐々木「い、いや、なんでもないよ」

キョン「そうか。なあ、どうでもいいが少し休憩しないか?どうも最近運動不足でな」

佐々木「あ、ああ、ごめんよ。随分長い間走らせてしまったね」

キョン「そこの公園でいいか。コーヒーでも買ってくるよ」

佐々木「……うん」

818: 2011/05/29(日) 23:40:04.66 ID:VdEny4q/P
キョン「あー、ダメだな。もう年だ」

佐々木「くっくっ、バカなこと言わないでおくれよ。まだ高校生だっていうのにさ」

キョン「まあ、さっきの話だが、忘れてくれて構わんぞ」

キョン「俺に彼女ができるような遠い未来までには、お前も別の居場所を見つけてるさ」

佐々木「……」

キョン「?」

佐々木「なんだか寂しいね、それも」

キョン「そうか?」

佐々木「……」

佐々木「(さっきから、胸の奥の方でもやもやしているもの)」

佐々木「(僕は、とっくの昔にその正体に気づいていたのかもしれない)」

佐々木「(でも、それだけはだめなんだ。それだけは、言っちゃいけない)」

佐々木「(僕は本当に、キョンとのこの関係にやすらぎを感じてるんだ。それを、壊すことなんてできない)」

823: 2011/05/29(日) 23:49:20.63 ID:VdEny4q/P
キョン「どうしたんだよ、急に黙っちゃって」

佐々木「え?あ、ああ、な、何でもないよ」

キョン「そんな下手くそな動揺の隠し方があるか」

佐々木「うう」

キョン「やっぱりお疲れの様子だな」

佐々木「(色々考えすぎて、頭が疲れちゃってるんだよ)」

キョン「まあ、無理もないさ。お前もあの素っ頓狂な連中に日々振り回されてるんだろう」

佐々木「当たらずとも遠からず、かな」

キョン「お互い苦労するよな、やれやれ」

佐々木「(僕は今、まったく別件で気を揉んでいるんだけどね)」

佐々木「(はあ、とにかく落ち着かなきゃいけないな)」

ごそごそ

佐々木「(ん……ポケットにアメ玉が入ってるな。糖分でも取れば、少しは気分転換になるかもしれない)」

佐々木「ぱくっ」

佐々木「……あれ、これって」

826: 2011/05/30(月) 00:01:32.48 ID:U3xcwhPmP
佐々木「こ、この包み紙……僕はなんてことを」

キョン「ん?どうした?」

佐々木「……!」

きゅんっ

佐々木「ふぁっ……」

キョン「?」

佐々木「(だめだ……切ないよ……)」

キョン「なんかまた具合が悪そうだな、病院寄っていくか?」

佐々木「……いや、もう少しこうしていようよ」

佐々木「(だめだ、もうキョンと別れて帰らないと、でないと……)」

キョン「そうか?」

佐々木「(僕は……本当に……)」

830: 2011/05/30(月) 00:06:13.31 ID:U3xcwhPmP
佐々木「ねえ、キョン」

キョン「ん?」

佐々木「さっきの話なんだけれど」

キョン「ああ」

佐々木「君は、僕の居心地のいい居場所を、なるべく残したいって言ってくれた」

キョン「そうだな」

佐々木「ただ、僕らがいくら親友だと言ったからって、いつまでもこんな毎日が続くワケじゃない」

キョン「そうとも」

佐々木「僕らだって大人になって、周りを取り巻く環境だって、大きく変わっていくんだ」

キョン「うむ」

佐々木「でも、でもね」

キョン「?」

佐々木「(だめ……やめて……)」

佐々木「僕は……僕は……」

佐々木「ずっと、君とこうしていたいって思うよ」

835: 2011/05/30(月) 00:13:32.99 ID:U3xcwhPmP
キョン「ん?ああ、そ、そうか」

佐々木「そのために、僕はどうすればいいのか、ってずっと考えていたんだ」

キョン「……」

佐々木「時間が流れて、僕らの周りの景色が変わっていくなら」

佐々木「僕らも、変わらなきゃいけないって、そう思った」

キョン「あいかわらず小難しい話が好きだな」

佐々木「キョン」

キョン「おう」

佐々木「(言わないで……お願い……)」

佐々木「僕はさ、ずっと恋愛は心の病だって言ってきただろう?」

佐々木「でも、気がついたら、僕は君のことばっかり考えているんだ」

佐々木「これって、心の病なんだよ」

佐々木「ねえ、もし僕みたいなのが、その……あの

佐々木「き、きき、君の彼女になりたい、なんて言ったらさ……ええと」

佐々木「キョンは、どう思うのかな……」

838: 2011/05/30(月) 00:18:22.12 ID:U3xcwhPmP
キョン「……」

佐々木「……」

佐々木「(すごく胸が苦しい……こんな気持ちなんだな、人を好きになるっていうのは)」

キョン「あー、その、なんだ」

佐々木「……」

キョン「笑っちまうだろうな、そんなこと言われたら」

佐々木「え……」

キョン「だって、佐々木が、だろ?想像もつかんわ」

佐々木「そ、そうだよね、僕みたいなのが……」

佐々木「(わかってたのに……こうなるってことくらい、大切なモノが壊れちゃうってことくらい……)」

佐々木「っく……ひっく……はは、変だな……なんで僕は、泣いて……ううっ」

843: 2011/05/30(月) 00:25:34.74 ID:U3xcwhPmP
キョン「お、おい!」

佐々木「ごめん、キョン……やっぱり僕は疲れてるみたいだ……ぐすっ」

佐々木「もう、帰るよ」

佐々木「(このアメのせいだ……こんなもののせいで、僕は大切な居場所を失ったんだ……)」

佐々木「(さよなら、キョン)」

キョン「……ちょっと待て」

ぎゅっ

佐々木「ふぁ!?」

キョン「いいか、人の話は最後まで聞くもんだ」

佐々木「きょ、キョン!?」

キョン「なあ、佐々木。いくら鈍感な俺でも今のはわかるぞ」

キョン「お前は、勇気を振り絞って俺に好意を伝えてくれたんだろう」

佐々木「だ、だからなんなのさ、関係ないだろう!僕なんか!僕なんか!」

キョン「お前から問いかけてきたんだから、最後までこっちの答えを聞けと言うとるんだ」

佐々木「いらないよ!もう十分だ!」

848: 2011/05/30(月) 00:31:39.05 ID:U3xcwhPmP
キョン「もし、お前が俺の彼女になりたいって言ったら?」

キョン「そんなもん、笑いがとまらんにきまっとるだろうが」

佐々木「ううっ……ひどいよ……」

キョン「だってな、そんな幸せなことってあるか?」

佐々木「え……?」

キョン「なあ、佐々木。俺はな、今まで生きててこんなに笑いがとまらんことはなかったぞ」

佐々木「あ、あの、え?いや、じょ、状況が……」

キョン「お前は頭はいいが、肝心な所が抜けてるから、わかりやすく言うぞ」

キョン「もし、お前が俺の彼女になりたい、なんて言ったらな」

佐々木「は、はい」

キョン「俺は全力を尽くして、お前のこと幸せにしてやるから覚悟しとけ!」

ぎゅぅぅ

佐々木「あ……あ……」

佐々木「ひっく……ひっく……うう……うわああああああああん」

864: 2011/05/30(月) 00:45:46.39 ID:U3xcwhPmP
~~~~
キョン「なあ、いいかげん泣きやんでくれよ」

佐々木「す、すまない……でも、なんだか止まらなくて……ぐすっ」

キョン「なんだか端から見たら俺が悪者みたいじゃないか」

佐々木「で、でもっ……ひっく、その、ほんと……うれしくって……うう」

キョン「あーもう、ズルいなお前は」

ちゅっ

佐々木「んんっ!?……んっ……ちゅ」

キョン「はあ」

佐々木「……」

キョン「あ……すまん、つい」

佐々木「ず、ずるいのはどっちさ……こんなことされたら……んん」

キョン「!?」

佐々木「んちゅ……はむ……んっ……んちゅぅ」

佐々木「(もう、なんにも我慢できなくなっちゃうじゃないか……ばか)」

878: 2011/05/30(月) 01:04:53.11 ID:U3xcwhPmP
佐々木「ねえ、キョン。ぎゅーってしておくれ」

キョン「あ、ああ」

ぎゅー

佐々木「ん……これで、ここはずっと僕の居場所になったかな」

キョン「そうだな」

佐々木「くっくっ、そういえば、さっき僕が言っただろう?『周りの景色が変わるなら、僕らも変わらなきゃ』って」

キョン「あー、言ってたな」

佐々木「僕はね、あの時思っていたのさ。何かを得るために、大切なモノを失う覚悟が必要なんだって」

キョン「ん?」

佐々木「キョンという親友を失うかわりに、恋人になれたら、ってね」

佐々木「でもね、違ったんだ」

佐々木「君は、昔も、今も、そしてこれからも、ずっと僕の隣にいるって、そう言ってくれたんだ」

佐々木「だからね、親友だったキョンも、これからの、その、こ、恋人のキョンも、ずっと僕と一緒に歩いてくれる」

881: 2011/05/30(月) 01:08:23.13 ID:U3xcwhPmP
佐々木「それはね、すごく素敵なことだと思うんだよ」

キョン「そうだな」

佐々木「ねえキョン、これからもひとつ、よろしく頼むよ」

キョン「ああ」






おしまい

882: 2011/05/30(月) 01:09:05.54 ID:v8DQfIoZ0
おつ

884: 2011/05/30(月) 01:10:51.90 ID:U3xcwhPmP
三日に渡ってのろのろと書いてすまんかった、以上

889: 2011/05/30(月) 01:14:12.54 ID:kFulefjA0
おつでした

絶対帰ってこないと思ってたけど
保守してよかったわ

890: 2011/05/30(月) 01:16:19.27 ID:028YptPs0

引用: 佐々木「ん?素直になる薬?」