25: 2011/08/05(金) 20:40:31.54 ID:rkRztRK1o
第2話 秘密の園

朝の光が空高く、小鳥の歌と一緒に降り注いでいるのを、私は真っ白な心で眺めていました。

コーデリア「あら。エリー、どうしたの?」

朝のシャワーをすませたコーデリアさんがつややかな髪を白いタオルで拭きながら浴室から出てきました。

エリー「いえ、あの……いいお天気だなあって……///」

私はまださっき浴びたシャワーの水滴が残る自分の髪を指先で弄びながら窓の外の晴れた青空を眺めていました。

それにつられるようにして、コーデリアさんも空を見あげて目を細めました。

コーデリア「ほんと、いいお天気ねぇー」

空からの光が部屋に満ちて、すべてが輝いて見えます。

明るい朝の陽射しはコーデリアさんの髪の水滴に反射してきらきらと輝き、髪のお花も鮮やかです。
探偵オペラ ミルキィホームズ-スクールデイズ-

26: 2011/08/05(金) 20:41:30.38 ID:rkRztRK1o
私はただぼんやりと、その清潔できれいな姿に見とれていました。

だからそのとき、不意にコーデリアさんがこちらに振り返ったとき、私はびっくりしてあわててしまったのでした。

コーデリア「ふたりきりなんて……ひさしぶりね」

エリー「えっ、あっ、はい……/// 確かに、そうですね……///」

コーデリア「……そうだ、エリー。たまには私が髪を梳かしてあげる」

エリー「えっ、あの……その……///」

コーデリア「いいからいいからぁ」

櫛を持って満面の笑みのコーデリアさんを、ただ私は上目遣いで見上げるだけでした。

27: 2011/08/05(金) 20:42:27.82 ID:rkRztRK1o
私は目を伏せて、静かな朝の部屋にかすかに漂う櫛の音を聞いていました。

コーデリアさんは丁寧に私の髪を梳かしていきます。

私の座っている小さないすの足下には光が揺れていました。

櫛は私の髪に入り、やさしく撫でていきます。

コーデリア「エリーの髪、きれいね」

鈴のように澄んだ声が後ろから聞こえます。

コーデリア「つやがあって、なめらかで……」

エリー「あ、ありがとうございます……///」

コーデリアさんの両手がそっと私の肩に置かれ、耳元でその声がささやかれます。

そのせいで、私はどきどきしてしまって頬が熱くなります。

28: 2011/08/05(金) 20:44:23.40 ID:rkRztRK1o
コーデリア「ほんと、私のにしちゃいたいくらい……」

頬を寄せたコーデリアさんの長いブロンドの髪が私の頬に触れ、胸の前に流れました。

私はとてもどきどきしていたけれど、それでも、どうしても指が動いてしまうのです。

エリー「コーデリアさんも、きれいですよ……///」

目の前のコーデリアさんの髪に指を通してやさしく撫でると、

コーデリアさんの香りが私を包み、身体の奥までとろけるようなぬくもりを感じました。

その柔らかな美しい束を指先でつまみ、手のひらで頬にあて、その清らかさを感じました。

コーデリア「エリー……そんなことされたら、私……」

いつもより艶のあるコーデリアさんの声が耳元でささやかれ、私の首筋に冷ややかなコーデリアさんの指先が触れるか触れないかくらいの、その瞬間でした。

29: 2011/08/05(金) 20:45:34.18 ID:rkRztRK1o
ネロ「じゃっじゃーん!」

両手いっぱいにフルーツを抱えたネロがシャロと一緒に部屋に帰ってきたのです。

すべるようにコーデリアさんの髪が私の手元を離れました。

コーデリア「あら、おかえりなさい、ふたりとも。どうしたの、それ?」

コーデリアさんはまるで何事もなかったかのようにふわりと立ち上がってネロとシャロの方へ向きなおり、笑顔ではなしています。

私は座ったままそんなコーデリアさんの後ろ姿を見上げ、さっきまで触れていたきれいな長い髪にどきどきを感じていたのでした。

シャロ「あれ? エリーさん、顔が赤いですよー。熱でもあるんですかー?」

エリー「えっ、あ、ううん……/// 大丈夫……///」

ネロ「そうそう。それに、顔を赤くしたエリーなんていつだって見られるでしょ」

エリー「もう!/// ネロってば……」

30: 2011/08/05(金) 20:46:56.89 ID:rkRztRK1o
私たちのそんなやりとりをコーデリアさんは笑顔で見守っていました。

けれども、ふと私と目が合った瞬間、ウインクをしてその唇に白くて長い指を当てる仕草を私に見せたので、私はいっそうどきどきしてしまうのでした。

ネロ「そんなことよりみんなで食べようよ、これ!」

ネロは色とりどりに輝くみずみずしいフルーツを白いテーブルクロスの上に広げました。

コーデリア「それで、これ、いったいどうしたの?」

シャロ「アンリエットさんがくれましたー!」

エリー「生徒会長が……?」

ネロ「そ。シャロが『あたしぃー、だぁいすきなアンリエットさんといっしょにぃ、おいしいフルーツ食べたいですぅー』って言ったら、

    『わ、わかりましたわ……今回だけは特別に……』って鼻息荒くしちゃって。そんで石流さんが『やりたくはないがやる』ってくれたの」

コーデリア「目に浮かぶわぁ……」

シャロ「あたしそんな言い方してませんー!」

31: 2011/08/05(金) 20:48:04.86 ID:rkRztRK1o
エリー「それで、アンリエットさんは……? 一緒に食べたいって言ったんじゃ……」

ネロ「そのうち来るでしょ? そんなことより、たべよー!」

コーデリア「だめよぉ、ネロ。ちゃんと待たなきゃ」

ネロ「えーいいじゃんかー。ケチケチコーデリアー」

コーデリア「ちょっと、なによそれぇ!」

エリー「あの……けんかはやめてっ……なんつって……///」

シャロ「あたしバナナがいいですー!」

ネロ「あ、僕さくらんぼー」

コーデリア「私はマンゴーがいいわぁ」

エリー「コーデリアさん……」

32: 2011/08/05(金) 20:48:52.67 ID:rkRztRK1o
ネロ「んー? 『エルキュールはコーデリアのマンゴーが気になるのかい?』」

エリー「ええっ!?///」

コーデリア「あらぁ、ネロぉ、今日はモノマネが冴えてるわねぇ」

シャロ「それともエリーさんはこのバナナが気になるんですか?」

エリー「もう……シャロまで……///」

コーデリア「あら、じゃあネロのチェリーが気になるのかしらぁ?」

エリー「フルーツの選択に悪意を感じます……」

ひとり困る私をみてみんなが楽しそうに笑うので、私もなんだかおかしくなって笑ってしまいます。

33: 2011/08/05(金) 20:50:27.36 ID:rkRztRK1o
笑い声はみずみずしい果実の明るい色に溶けていきます。

こんな風に、みんなで笑って、楽しい時間を過ごす。

当たり前のようでいて、こんな空間、こんな時間は他には見つけられないような幸せなんだなってふと思うのです。

でも、そんな幸せの中で、私はもうひとつの感情を感じることがあるのです。

それは、ついさっき、コーデリアさんとふたりで過ごした時間……。

みんなで過ごす楽しい時間とはちがう、何か別の世界。

強く魅惑されるようでいて、しかし少しでもふれてしまえば二度とはもとに戻れなくなるような……。

そんな禁じられた誘惑をあのとき感じたのは確かです。

あふれる光は果実の肌に踊り、あざやかな色彩と果実の芳香が、私たちの笑い声にとけて華やぎます。

今のこの4人で過ごす日々は私にとって離れたくない楽園です。

しかし、そうであっても、何かにいざなわれるように、その楽園の外の世界を私は怖々と見つめているのです。

34: 2011/08/05(金) 20:52:13.36 ID:rkRztRK1o
そんなことを考えつつ、ふと目を上げると、突然コーデリアさんの吸い込まれるように深く澄んだみどりの瞳が私をとらえました。

それはなぜか心持ち目を伏せた、憂いのある、この場に似合わぬ深刻さをたたえて、私の瞳を抱擁するのです。

それはまるで重大な何かを秘めているようでした。

そして、ふと我に返り、私は目を逸らしました。

それまでどれくらいの間、私たちは見つめあっていたのでしょうか。

コーデリアさんの憂いのある光が揺れる濡れた瞳を私はもう直視できませんでした。

まるですっかりあの瞳のもつ魅力に縛られてしまったようでした。

35: 2011/08/05(金) 20:53:37.75 ID:rkRztRK1o
ネロ「んーっ、このオレンジすっごくおいしい!」

シャロ「わ! ほんとですー」

シャロとネロは食べるのに夢中です。

私は目を伏せてフルーツのみずみずしい肌を指先でなでていました。

するとそのとき、花の香りとともに、ついさっき触れていた美しい髪がそばでふわりと揺れました。

そっとコーデリアさんが私の隣に座ったのです。

コーデリア「あらぁ、このラズベリーおいしそうねぇ」

そういってコーデリアさんはつややかに赤いラズベリーの実をひとつ、つまみあげて私に微笑みます。

エリー「そう、ですね」

コーデリア「食べる? あ、でもひとつしかないわねぇ」

コーデリアさんは頬に手を当てて困ったように言いました。

36: 2011/08/05(金) 20:54:33.58 ID:rkRztRK1o
しかし、私はそれよりもさっきの瞳の意味を知りたかったのでした。

エリー「あの、コーデリアさん? さっき、なんであんなに悲しそうな目……を……」

それ以上は言葉を継げませんでした。

コーデリアさんの濡れた大きな瞳が、どんな果実よりも美しく魅力的に私を捕らえてしまったのです。

そのとき、私にはすべてが無音でした。

そのみどりの瞳にたつ波だけが私のすべての感覚でした。

コーデリアさんは真剣な表情のまま、感情を抑えた小声でささやきました。

コーデリア「エリー……これ、2人で食べましょ?」

37: 2011/08/05(金) 20:55:59.04 ID:rkRztRK1o
みどりの澄んだ瞳が近づきます。目の端で赤い果実が揺れました。

エリー「コーデリアさん……」

私が後ろに体を傾けてもなお、瞳はせまります。

金の髪がひとすじ流れ、私の胸の上を撫でていきました。

コーデリアさんの香りが私を抱擁していきます。

エリー「コーデリア、さん……」

うわごとのようなつぶやきとなって息は漏れました。

コーデリアさんの白い指に摘まれた小さな赤い果実が私の唇に押し当てられます。

コーデリア「ねぇエリー、いっしょに食べましょう?」

38: 2011/08/05(金) 20:56:44.97 ID:rkRztRK1o
なおも瞳は近づき、そして私の唇の上のその果実にコーデリアさんの唇が触れました。

すべてが無音です。

私はこの身のすべてをコーデリアさんに捧げているようでした。

コーデリアさんは果実をかじってその半分を口に入れ、私はその残りを舌で絡めとりました。

ふたりの熱い息が混じる中で、ラズベリーのひんやりとした清冽な甘さが広がります。

私は目を伏せてあの瞳を逃れました。

そして、自分たちのしたことを理解すると、とたんに頬が熱くなり、たまらなくなって私は自分の身体をぎゅっと、抱きしめました。

エリー「恥ずかしい……っ///」

コーデリア「エリー、ほんとに可愛い……」

私に迫ったコーデリアさんは私の額に唇を寄せ、艶のある声でそうささやきました。

39: 2011/08/05(金) 20:57:31.94 ID:rkRztRK1o
ネロ「あーっ!」

ネロが私たちの方を向いて大きな声を上げました。

すっかりコーデリアさんに夢中でふたりのことを忘れてしまっていました。

今までの行為を全部見られていたとしたら、ネロはどう思うだろうか、私は恥ずかしさと焦りでどうしようもなく慌ててしまいます。

ネロ「なにしてんの!」

コーデリア「あらぁ、見られちゃった?」

ネロ「何で僕のラズベリー食べちゃうんだよ!」

エリー「えっ……?///」

一瞬ネロの言葉の意味が分かりませんでした。

40: 2011/08/05(金) 20:58:22.43 ID:rkRztRK1o
しかし、どうやらネロには先ほどの行為よりもラズベリーの方が大事な問題だったようです。

エリー「えっと、その……///」

ネロ「ずるいよ、ふたりとも!」

シャロ「まあまあネロ、まだまだいっぱいあるじゃないですかー」

ネロ「そういう問題じゃないの!」

コーデリア「仕方ないわね……エリー、逃げるわよぉ」

エリー「えぇっ!?///」

コーデリアさんは立ち上がって私の手を取ると部屋の扉を開け、走り出しました。

41: 2011/08/05(金) 20:59:21.13 ID:rkRztRK1o
ネロ「あっ! こらーっ!」

後ろでネロの叫び声が聞こえました。

コーデリアさんは私の手をしっかり握り、前を走っていきます。

コーデリア「ねえ、エリー?」

エリー「は、はい……///」

コーデリア「このままどこか遠くに行ってしまうのはどうかしら? 二人だけで」

コーデリアさんの美しい髪が目の前で波打ちます。

エリー「コーデリアさんとなら、どこまででも……」

そうして振り向いたコーデリアさんの優しい幸せそうなほほえみに、私はすべてを捧げてしまいたい衝動に駆られるのでした。

第2話 秘密の園 おしまい

引用: エリー「私と5つの物語……///」