42: 2011/08/05(金) 21:14:52.50 ID:rkRztRK1o
第3話 記憶

光は蝶のように舞い、私の頬をかすめました。

風にゆれるやわらかい草のなかの一本の木の下に、白いワンピースを着た少女。

そして、その白く柔らかな大きな帽子についた青いリボンが不安げに風に揺れます。

きれいな細い足を延ばし、ひとり草の上に腰を下ろして本を読んでいる彼女は私よりもだいぶ幼く見えます。

その様子を眺めているうち、私はどうしてだか、かなしくなってきました。

風が吹くとそらいろのリボンはゆれ、初夏の木々の葉からこぼれるみずみずしい光は少女の上でにじんでいきました。
探偵オペラ ミルキィホームズ-スクールデイズ-

43: 2011/08/05(金) 21:15:29.69 ID:rkRztRK1o
エリー「夢……?」

五月のまぶしい光が白いカーテンを透かしてベッドに落ちてくる朝、そんな夢を見たのでした。

隣で眠るネロは静かに寝息をたてています。

私はわけもなく、ほんのりとかなしいきもちを感じました。

先ほどの夢のせいかもしれません。

そんなことを考えつつ、ネロの頬をそっと指先で触れると、ネロは小さく声を漏らし、ぼんやりと目を開きました。

ネロ「……エリー?」

エリー「おはよう」

ネロ「おはよ……」

44: 2011/08/05(金) 21:15:57.31 ID:rkRztRK1o
ネロは薄く目を開きベッドの上を見回しました。

ネロ「あれ、シャロとコーデリアは……?」

エリー「さあ……どこかなあ」

ネロは眠そうな目をこすってから、じっと私をみつめました。

ネロ「ねえ、エリー……どうかした?」

エリー「え……? ううん、なんでもない」

ネロの唇が少し開き、ためらいがちに再び閉じられました。

そして、幸せそうに微笑んだのでした。

ネロ「ふーん……そっ、かぁ……」

ネロはその言葉を言い切らないうちにまた眠りに落ちていきました。

私は目を細め、そっとネロの柔らかな髪に指をすべらせました。

45: 2011/08/05(金) 21:16:53.43 ID:rkRztRK1o
野にはちょうどだいだい色のやぶかんぞうの花が咲く季節。

私は本を片手に、読書に向いた場所を探して歩いていました。

そのとき、そんな花の中をシャロが小動物のように、ぴょこぴょこと走っていくのが向こうに見えました。

エリー「シャロ?」

シャロが走っていった方は学院の敷地のはずれのほう。

私はシャロの後を追ってそこまで歩いてきましたが、あまり人通りはなく、私自身来なれないところです。

やっぱり見間違いだったのかな……

そう思って引き返そうとしたとき、いばらの蔦が絡む古い石のアーチがふと目を引いたのです。

46: 2011/08/05(金) 21:17:46.69 ID:rkRztRK1o
それはロマネスクの石造建築のような重々しさの中に、この場に似合わない異質な雰囲気を漂わせていました。

そっと中をのぞき込むとアーチは意外と長く、遠くに光が見えました。

私はなぜかこのアーチの向こうに不思議な世界が広がっていて、そこにシャロがいるような、そんな気がしたのでした。

もう一度覗きこんで息をのみます。

おそるおそる、薄暗い石のアーチの中に足を進めました。

足音がトンネル状の円筒アーチの中に反響して広がります。

石の床に転がる透明な瓶に、天井から水滴が落ちてはじけました。

アーチを抜け、光の中に立つと、まぶしい空に一匹の蝶が舞いあがりました。

47: 2011/08/05(金) 21:18:54.36 ID:rkRztRK1o
そこは小さな庭でした。まるでおとぎ話に出てくるような不思議な庭。

芝生には朝日がこぼれ、小さなてっせんの花が咲いています。

そして、広い空が見えます。

風が吹けば、豊かな花々の芳香。短い草が揺れると表面の朝露に陽の光がきらめきます。

細部に彫刻装飾の施された古いけどきれいな白い木のベンチが庭の端に置いてありました。

エリー「素敵……」

静かな夢のような庭園。

私はそれらに余りに夢中になってしまい、シャロを追ってきたことを忘れてしまっていたくらいでした。

ふとそのことを思い出して辺りを見まわしましたが、シャロはいないようでした。

とりあえずベンチに腰を下ろし、膝の上に本を置きます。

48: 2011/08/05(金) 21:20:04.44 ID:rkRztRK1o
栗色の布で装丁された古い本。私が子供の頃から繰り返し読んでいるものです。

最近はあまり読むことがなかったのですが、今日はなんだかこの本を読みたい気分だったのです。

シャロ、ここにきたのかな……

野ばらの花に舞う、うすい紫の蝶を眺めながらぼんやりとそう考えます。

そのとき、後ろから声がしました。

シャロ「エリーさんっ」

エリー「ひゃっ……!///」

私は思わず身を縮めました。

そっと後ろを振り返ると、うさぎの耳のような大きなリボン。

シャロが花の中に立って笑っていました。

49: 2011/08/05(金) 21:20:51.56 ID:rkRztRK1o
エリー「シャロ……///」

シャロ「エリーさん、シャロですよー」

エリー「やっぱりここにいたんだ」

シャロ「ここ、素敵なところですよね」

エリー「そうね、ほんとに……」

私たちは夢の世界のような明るい庭を眺めました。

エリー「シャロはなんでここに?」

シャロ「花を、摘みにきたんです」

シャロは手に持った数輪の小さな白い花と一輪の野ばらを私に見せました。

50: 2011/08/05(金) 21:22:02.67 ID:rkRztRK1o
エリー「きれいね」

シャロ「あ、あと、エリーさんに、これ」

シャロが差し出したのは様々な色の折り紙でした。

その数枚には透かしの模様が入っていました。

エリー「素敵ね。でも、どうして?」

シャロは夢見るような嬉しそうな表情でした。

シャロ「きれいだったから、誰かにあげたくて」

私も微笑みを漏らします。

エリー「そっか。ありがとう」

シャロ「じゃあ、あたし戻りますねー」

シャロは踊るように数歩歩み出ると、振り返りました。

51: 2011/08/05(金) 21:24:26.07 ID:rkRztRK1o
シャロ「そういえば、エリーさんはなんでここに来たんですかー?」

エリー「シャロを追ってきて……」

シャロ「あたしをですか?」

エリー「うん。でもここ、ちょうど本を読むのによさそうだから私はしばらくここにいるね」

シャロ「わかりましたー」

風がふいて、ばらのにおいを運んできました。

シャロは柔らかく微笑んで、そしてそのままの表情で、しかし、声だけはまじめにこう言ったのでした。

シャロ「エリーさん、……遠くに、行かないでくださいね」

いきなりそう言われたので少し驚き、シャロの顔をじっと見つめました。

でも、なんとなく、シャロの気持ちが分かる気がするのでした。

シャロ「あたし、エリーさんの悩みも苦しみも、わかってあげたいんです」

ゆっくりと蝶が舞いました。

エリー「大丈夫。私、シャロのそばにずっといるから……」

少し間をおいてから、シャロは嬉しそうにうなずき、石のアーチの向こうに駆けて行きました。

52: 2011/08/05(金) 21:28:21.17 ID:rkRztRK1o
初夏の朝、花咲く庭で私は膝の上の本を開きます。

これはとても不思議な、ある少女の物語。

好奇心旺盛な彼女は不思議なうさぎを追って、花咲く草原からうさぎの巣穴に落ちてしまうのです。

そして、おとぎ話のような世界でいろいろな動物やものに出会います。

たとえば、森の中で出会った芋虫からもらった、食べると背が伸び縮みするきのことか……

そのとき、石の上を歩く足音がして、私は顔を上げました。

アーチを抜けたところにネロが立っていました。きのこを抱えています。

ネロ「あれ……エリー?」

心なしか愁いを帯びた声。その目に浮かぶ水滴に朝の日差しが光を宿しました。

エリー「泣いてるの……?」

ネロ「えっ……泣いてないよ……」

その言葉に全く説得力はなく、ネロはただ力なくつぶやいただけでした。

私は立ち上がり、そっとネロのそばに立ちます。

顔を伏せたままのネロをそばでそっと見守ります。

ネロ「これ、あげる」

ネロは私にきのこを押しつけました。

エリー「……どうしたの?」

ネロ「いいから」

視線を合わさず、うつむいて立っているその姿はまるで悲しみを一人背負って立っているようでした。

そのとき、私はネロの手に2本の黄色いリボンが握られていることに気がつきました。

エリー「それ、可愛いリボンね……」

ネロの肩が震えました。

ネロ「これは、コーデリアが……っ」

ネロはそれだけ言うと、いきなり私に抱きつき、子供のように泣きはじめました。

エリー「ネロ?」

ネロ「コーデリアが、これっ、結んでくれて……」

エリー「うん……」

ネロは嗚咽混じりに語り始めました。

ネロ「それで……嬉しくって、僕もお返しに……コーデリアに、これ、あげようとしたんだけどっ……」

エリー「きのこ?」

ネロ「うん……でも、きのこ採ってきた僕の手、土だらけだし……それに、きのこなんかもらっても、嬉しくないと思って……」

エリー「……どうして?」

ネロ「だって、コーデリアはリボンくれたのに、きのこなんて、こんなの全然女の子らしくないし……」

エリー「でも、コーデリアさんはきっと喜んでくれると思う……」

ネロ「でも、……でも、僕はもっと女の子らしいプレゼントをあげたかったのに……」

エリー「ネロ……」

ネロは声をかみ頃して涙を流しました。

ネロ「だから……それで……」

エリー「リボンをほどいて飛び出してきちゃった?」

ネロ「うん……」

53: 2011/08/05(金) 21:29:35.08 ID:rkRztRK1o
ネロは子供のように私の胸にしがみついています。

震える背中を優しくなでます。

エリー「気持ち、わかるよ……」

私はネロの繊細な肩を抱いて髪をなでながらそうつぶやきます。

他人にはほんの些細なことのようだけど、きっとネロにとってはとても大切なこと。

普段はあまり見せないけど、ネロにはそんな繊細な心があります。

そう考えるとネロがとても愛しく思えて、なんとかしてあげたい、と思うのです。

エリー「そうだ、それなら……」

私はさっきの折り紙を数枚取り出しました。

ネロ「これは……?」

エリー「折り紙。これで何か作ってあげたらいいんじゃないかな」

ネロ「何かって?」

エリー「うーん、たとえば……お花、とか?」

ネロ「お花……」

ネロは少し考えるようにつぶやくと、少し表情を明るくしました。

ネロ「いいかも、それ」

笑顔でそういったネロに私は微笑みました。

エリー「でしょ?」

ネロ「うん。ありがと、エリー! 僕、早速作ってみるよ」

大事そうに折り紙を持ち、戻ろうとするネロを私は呼び止めました。

エリー「待ってっ」

ネロ「え?」

エリー「リボン……貸して?」

ネロ「うん……」

ネロから黄色いリボンを受け取ると、ネロの髪にそれを結びます。

ネロ「あっ、ちょっと、エリー!」

エリー「いいから。じっとして?」

ネロ「うー……」

エリー「はい、できた」

リボンを結んだネロはいつもと違って女の子らしく、照れて上目遣いで見上げる姿はとても可愛く見えます。

ネロ「どう? やっぱり似合ってないよね……」

そうつぶやいて少し涙を浮かべました。

エリー「そんなことないよ」

ネロ「……ほんとに?」

エリー「うん。すっごくすっごく可愛い」

ネロ「……あ、ありがと///」

私はそっとネロの目じりに手を伸ばし、指で優しく涙を拭いました。

ネロ「んっ……」

エリー「ね、こんなに可愛いんだから、涙は似合わない」

ネロ「エリーのバカ……///」

54: 2011/08/05(金) 21:30:07.52 ID:rkRztRK1o
こんなネロがすごくいじらしくって、すごくいとしいのです。

ネロ「じ、じゃあ、とにかく。これ、ありがとう!」

ネロはそういうと駆け足で戻っていきました。

エリー「がんばってね」

そのつぶやきがネロに届いたかはわかりません。

駆けていくネロの後姿を、アーチの向こうの光に消えて見えなくなるまで見送りました。

55: 2011/08/05(金) 21:31:35.75 ID:rkRztRK1o
また読書に戻ります。

次に少女が出会うのはトランプの王様たち。

たくさんのトランプが人のように行進しているのです。

そして、少女はいきなり飛び散るトランプに包まれて……

突然、強い風が吹き、私はとっさにめくれるページと髪を手で押さえました。

すると、鳥の羽音のような音とともにたくさんの紙片が舞い降りてきたのでした。

エリー「きゃっ!」

それはまるで物語の少女を包むトランプのようでした。

コーデリア「あら、エリー?」

エリー「こ、コーデリアさん?」

舞い落ちる紙片の向こうに見えたのはコーデリアさんでした。

手には折り紙を持っています。

コーデリア「ごめんなさい、いきなり強い風が吹いたから……」

ふたりで折り紙を広い集めると、一緒にベンチに座りました。

コーデリアさんはうれしそうに庭を眺めていました。

コーデリア「ここ、すてきなお花畑ね」

エリー「ほんと、ですね……」

コーデリア「でも、そのきのこはここには不似合いじゃないかしら?」

コーデリアさんはネロが置いていったきのこを見て言いました。

エリー「あの、これはネロが持ってきて……」

コーデリア「……ネロのことなんだけどね、さっきリボンを結んであげたんだけど、様子が変だったのよねぇ」

コーデリアさんは横目で私をみました。

コーデリア「なにか、わかった?」

エリー「えっ? あの、えっと、気にしてる、みたいです……」

コーデリア「えー? なにを?」

エリー「ネロ、自分には似合わないって思ってるみたいで……」

コーデリアさんは意外そうな表情でしたが、ふと笑みを漏らして言いました。

コーデリア「ふーん、そっかぁー」

エリー「どうか、したんですか?」

コーデリア「あれね、昔ネロがくれたものなのよ」

エリー「えっ、そうなんですか?」

そのとき高くひらめいた蝶を見上げるコーデリアさんの横顔を、私はじっと見つめました。

コーデリア「ええ。そういえばそのときも、『こういうのはコーデリアの方が似合うから』って言ってたわね」

エリー「ネロは、そのこと……」

コーデリア「覚えてないみたいね」

コーデリアさんは、ふふっ、と穏やかに笑いました。

コーデリア「それで、きのこ」

エリー「あげられなかったみたいです」

コーデリア「なるほどね。あの子、普段は見せないけどそういうとこ気にしてるのよねぇ」

エリー「はい……」

56: 2011/08/05(金) 21:32:18.24 ID:rkRztRK1o
やっぱりコーデリアさんって、ネロのことよくわかってるなあ……

それから、コーデリアさんは私の方に向き直りました。

コーデリア「それに、エリー、あなたもね」

エリー「わ、私ですか……///」

コーデリア「そ。何かあるんなら、ひとりで悩んでないでお姉さんに任せなさいっ!」

自信たっぷりに、冗談めかして、そう言ったのでした。

その優しげな笑顔を見ているとなんだかすべてを見通されているようで、でも全然嫌じゃなくて、むしろ心がやすらぐのでした。

私は目を伏せます。

エリー「大丈夫、です……///」

コーデリア「そう?」

コーデリアさんは私の横顔をじっと見つめました。

コーデリア「そっか。じゃあ、私はそろそろ行くわね」

そういって立ち上がった瞬間の柔らかな髪の流れに朝の光が躍り、この庭のどんな花々よりも美しく輝きました。

そして、コーデリアさんは身を屈め、座った私と同じ高さに視線を持ってくると、耳元の髪を少しかきあげて小声でささやきました。

コーデリア「大丈夫だからね。あまり遅くならないうちに帰ってくるのよ」

エリー「はい……///」

コーデリア「待ってるからね」

私はやはりコーデリアさんにはすべてがわかっているような気がしたのでした。

私の答えにただやさしくほほえみで返し、コーデリアさんは戻っていきました。

57: 2011/08/05(金) 21:33:34.43 ID:rkRztRK1o
私はまた本を開きました。

物語も終盤。トランプは空に舞って少女に降りかかります。

そして、それをきっかけに、少女は現実の世界に戻ります。

気がつくと、少女はお姉さんの膝の上で眠っていて、全てが夢なのでした。

不思議な世界をたったひとりで冒険したヒロインも、物語の終わりには、ちゃんと帰る場所があったのです。

物語はこれでおしまいです。

私は子供のころ、このお話が好きでした。

恥ずかしがりやで内向的だった子供の頃の私は、不思議な世界を冒険するこのヒロインにあこがれ、、自分自身を重ねて見ていたのでしょう。

でももうひとつ、本を読むのは好きだけど、ひとりでいるのは、寂しいことです。

だから、ほんとうのことを言うと、この少女のする冒険よりも、帰る場所があること、一緒にいてくれる人がいることが何よりもうらやましかったのです。

それで、寂しいとき、私はいつもこの本を読んでいました。

この本の栗色の装丁には、子供の頃の私の涙の跡が残っています。

58: 2011/08/05(金) 21:34:18.25 ID:rkRztRK1o
風が吹き、光の断片が舞います。

顔を上げると、風にゆれる草のなかの一本の木の下に、白いワンピースを着た少女がいます。

その白く柔らかな大きな帽子についた青いリボンが不安げに風に揺れていました。

彼女は栗色の装丁の本をかかえ、こちらを見ていました。

エリー「あなたは……」

少女「あの、その……大切な人、いますか……? ひとりじゃないですか……?」

少女の瞳に不安げな光が揺れます。

少女「あの……いま、幸せですか……?」

間違いありません、この子は……

舞う花びらのような光がふたりの間に流れます。

エリー「うん、幸せよ。大切な人もいるし、ひとりじゃないし、とってもとっても幸せよ」

そう云いながら、どうしても私は涙がこぼれます。

あの時の寂しい涙じゃなくて、いま、幸せな涙。

そのとき、少女がすこし、嬉しそうに笑ったような気がしたのでした。

視界はにじみ、まぶしい光に何も見えなくなりました。

59: 2011/08/05(金) 21:35:57.40 ID:rkRztRK1o
そして気がつくと、さっきのベンチに座っていました。

優しい風がほほをなでます。

指先で涙を拭うとなんだかみんなに会いたくなりました。

エリー「シャロ、ネロ、コーデリアさん……」

するといきなり後ろから抱きつかれました。

コーデリア「呼んだ?」

エリー「ひゃっ……!///」

シャロ「なかなか帰ってこないから心配しましたー」

ネロ「そうそう。しっかりしてよね!」

エリー「みんな……///」

そっか、私には帰る場所があるんだ……

そう思うと、また不意に涙があふれてきます。

ネロ「もー泣き虫だなあ。泣かないでよ」

ネロはそう云いながらハンカチで私の涙を拭きます。

エリー「ごめんね……」

コーデリア「ふふっ、さっきまでネロも泣いてたのにね」

ネロ「う、うるさいよ……///」

シャロ「リボンかわいいですよー、ネロー」

ネロ「もう、シャロまでっ……///」

いつもどおりのみんな。でもそんないつもどおりが、一緒にいられることがとっても幸せなのです。

ネロ「コーデリアこそ、いつまでエリーに抱きついてんのさ!」

コーデリア「えー、だってエリーかわいいんだものー! あと、いいにおいするしぃ……」

エリー「あっ……/// ちょっと、コーデリアさん……///」

コーデリアさんはそう云いながら頬ずりします。

シャロ「エリーさん?」

エリー「なに?」

シャロ「エリーさんのおかげでみんな仲よしです。だから、これ」

シャロはそういって、さっき摘んでいた白いてっせんの花を私に差し出しました。

コーデリア「あらぁ、かわいいお花ね」

ネロ「あ、そうだ。コーデリア、ちょっとその折り紙貸してよ」

コーデリア「これ? どうするの?」

ネロは数枚の折り紙を丸めてその中にシャロの摘んできた花をさし、髪のリボンを1本取って結びつけました。

60: 2011/08/05(金) 21:36:51.42 ID:rkRztRK1o
ネロ「じゃーん」

コーデリア「あら」

シャロ「素敵なブーケですねー!」

それは小さな一輪ざしのブーケ。

つつましいものですが3人の気持ちの詰まった、それはとってもとっても素敵なもの。

ネロ「はい、エリー」

エリー「ありがとう……」

コーデリア「あらあら、エリーはほんとに泣き虫さんね」

シャロ「さあ、帰りましょう、エリーさん」

エリー「うん……///」

帰り際、アーチの手前でもう一度この不思議な庭を振り返りました。

初夏の光が小さな花々にあふれ、若い草木の緑が輝きます。

ねえ、私、いま幸せよ。いまはもうひとりじゃなくて、ほんとに、ほんとにすてきな友達がいるから。

届くかどうかわからないけれど、心の中で確かにそうつぶやく。

ネロ「何してんのー? 置いてくよー?」

エリー「うん! 今行くっ」

そう云ってからもういちど庭を振り返り、小さなブーケを胸に抱いてみんなの所へ駆けて行きました。

大好きなみんなのもとに帰るために。

第3話 記憶 おしまい

引用: エリー「私と5つの物語……///」