4.雪の並木道

ネロ「ほんっと生徒会長って人使い荒いよねー」

シャロ「まあまあ、ネロ。お駄賃もらえたんだからいいじゃないですかー」

ネロ「でもさー……」

あたしとネロは雪がつもって一面まっしろな大通りをあるいていました。

昼前までふりつづいた雪は正午を過ぎるころにはやみ、青空からふりそそぐ日の光は雪に映えてまぶしいです。

あたらしい雪に小気味よい音をたてながらまっしろな並木道にふたりならんで足跡をつけているのは、

アンリエットさんからめずらしくお使いをたのまれたからで、はじめこそいやがっていたものの、

そのぶんお駄賃をあげるから、という言葉にネロはふたつ返事でひきうけ、あたしもそのお供に、

となかばむりにつれてこられたのでした。

少し強い風が吹く。

とおい北の山から吹きつける風は快晴の陽射しの中でもやはり冷たい。

あたしは長すぎるうすい桃色のマフラーに顔をうずめる。
探偵オペラ ミルキィホームズ-スクールデイズ-
40: 2011/03/05(土) 21:17:11.27 ID:tdtToVHc0
ネロ「シャロ、寒くない?大丈夫?」

シャロ「大丈夫ですよー」

そんなわけであたしをむりに連れだしたのをいくぶんかひけめに感じているらしいネロはしきりにあたしを気遣ったようすをみせます。

あたしはネロの顔をのぞきこむようにしてほほ笑みます。

ネロ「な、なんだよ、シャロ……///」

寒さですこし赤くなったネロのほおに薄くべにがさします。

あたしはそんなネロのようすをふしぎと満たされた気持ちでながめるのです。

シャロ「なんでもないですよー」

あたしがネロについてきたのは理由のないことではありません。

雪のつもったまっしろな道をあるきたかったし澄んだ冬の昼の空気の中をネロとふたりであるくのがたのしそうな、そんな気がしたのです。

ネロとならんでふたりっきりであるく。あたしはふといつかの雪の日をおもいだします。

41: 2011/03/05(土) 21:17:57.72 ID:tdtToVHc0
その日の帰り道、エリーさんとコーデリアさんはなにかの用事で先に行ってしまったのであたしとネロのふたりっきりでした。

12月の寒い日で、前日に降った雪はその日の夕方まで融け残っていました。

そして、石畳の上で半分氷になりかけた雪にあたしは足を滑らせ、転んでしまったのです。

ネロ「シャロ! 大丈夫!?」

シャロ「だ、大丈夫ですー」

そう言って立ち上がろうとすると足首に軽い痛みが走りました。

シャロ「……っ!」

バランスを崩したあたしをネロは抱きとめるように支えます。

ネロ「ほら、大丈夫じゃないじゃんか……」

シャロ「そんな、おおげさですよー」

すると、ネロはしゃがみ込んであたしに背中を向けました。

ネロ「ほら、おんぶしたげるから」

シャロ「でも……」

あたしはネロの意外な行動に少し驚きました。

しかい、とまどいつつも、この少女がとてもいじらしく思えてくるのでした。

43: 2011/03/05(土) 21:18:44.41 ID:tdtToVHc0
いくらあたしが小柄とはいえ、こんな小さな背中に人ひとり背負うのは大変です。

それなのにネロは背中を差し出す。それ以外の方法が見つからないのでしょう。

この少女は人にやさしさを向けるのが上手でない。

こんな不器用なやり方しか、ネロは人にやさしく接するすべを知らないのです。

あたしはそんなネロがたまらなくいとおしく思えてきて、小さな背中に込められた精一杯の親切に身をゆだねることにしました。

シャロ「重くないですか?」

ネロ「ん……大丈夫」

ネロはあたしを乗せてゆっくりゆっくりあるいていく。

ネロのうなじにほほをよせると柔らかな冬の花のような甘美な香気がしました。

シャロ「ありがとう、ネロ……」

あたしはそっとつぶやきました。

ネロ「シャロの手……すりむいちゃってる」

冬の夕べの空は北極光のような赤と青が入り混じった神秘な色を黒い森の上にたたえ、あたしたちは雪が残る石畳の道をあるいていました。

あたしはネロの首を抱きながら、ネロはあたしの手を見ながら、お互いを大事に思って。

44: 2011/03/05(土) 21:19:30.57 ID:tdtToVHc0
ネロ「よく晴れてるね」

今日の空はよく晴れた青空で、降り積もった雪は新しく輝いています。

シャロ「はい! 雪もきれいですー」

あたしたちはあの日と変わらず、二人で歩いています。

意外と持ち重りのする荷物をかかえなおしたとき、ネロの手が伸びてあたしのかかえている荷物をひょいととりました。

ネロ「いいよ。ボクが荷物持つから」

シャロ「でも……」

ネロ「いいのいいの。もうすぐ着くしさ」

そういってネロはあたしの荷物を抱えました。

やっぱりネロは優しくするのに慣れてない。

あたしは復たその不器用で純粋な優しさに甘えることにしました。

シャロ「ネロはやっぱり優しいですー」

ネロ「別にそういうのじゃなくて……ほら、シャロだと落としそうだからさー」

そう言いながら唇をとがらせるネロの精一杯の照れ隠しにやっぱりあたしは笑みを漏らします。

45: 2011/03/05(土) 21:20:17.12 ID:tdtToVHc0
そして、あたしはマフラーを外してネロの首にかけ、ネロの腕に抱きつくとマフラーの残りを自分の首にも巻きつけました。

ネロ「ちょっ……ちょっと、シャロ……///」

シャロ「ネロ、あったかいですー」

ネロ「もう……///」

ネロはあの日と同じ、柔らかな冬の花の香りがするのでした。

あたしはそのあたたかな腕を抱きしめます。

シャロ「ねーろー?」

ネロ「んー?」

シャロ「お駄賃で何か買うんですかー?」

ネロ「えっと……まあね……」

なぜか言い淀むネロをあたしは不思議に思いました。

ネロ「シャロにあたらしい手袋あげようかなって……」

46: 2011/03/05(土) 21:21:03.73 ID:tdtToVHc0
シャロ「え……?」

ネロ「ほら、シャロが雪で転んだ時あったでしょ? あの時、すりむいてるシャロの手をみてさ、思ったんだ。

   あの……この手を守ってあげたいなって……///」

だんだん小さく弱くなってゆく恥ずかしそうなその声に私も照れてしまうのでした。

あたしもその時に抱きついたネロの首が寒くないように、あのぬくもりを失わないように、ネロにマフラーをプレゼントしようと思っていたのです。

しかし、あたしは恥ずかしくなってそんなことは言えず、ぎゅっ、とネロの腕に抱きつき、そっとつぶやきました。

シャロ「……そんなこと言われたら離れられなくなるじゃないですかー」

ネロ「……え? なんか言った?」

シャロ「何でもないですー……///」

今日も、あの日と同じ、二人体を寄せ合って、お互いを大事に思いながら、心の中はあたたかく、一緒に歩いています。

4.雪の並木道 おしまい

引用: シャロ「あたしと5つの物語!」