419:◆EBFgUqOyPQ 2015/08/15(土) 22:49:11.64 ID:PWAS3CMco



モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


前回はコチラ


 若干のスランプがありかなりの間投下できませんでしたがリハビリがてら投下します。
文章が拙くなっているかもしれませんがご容赦をば。

420: 2015/08/15(土) 22:49:56.15 ID:PWAS3CMco
 緑の蛍光色に近い液体が円筒状のシリンダーに満たされている。
 薄暗い研究室内はわずかな照明の光をその緑が反射することによって怪しく光っていた。
 不気味なその水槽は仰々しい機械と一体になっており、その周囲では絶えず研究者のような身なりの人間がせわしなく動いていた。

 水槽内にはまるで太陽の黒点のような黒い塊が一つ。
 それはゆらゆらと微細に形を変えつつ水槽内の中間で浮遊している。

 その様子を詳しく見れば、泥のような物体であることがうかがえる。
 水と油のごとく、蛍光色の薬液とその泥は全く混じり合うことがない。

「これで調整も最終段階だ」

 他の研究員たちは慌ただしく作業しているにもかかわらず同様の身なりをしているその男だけは水槽の前で、黒い泥をじっと見ながら言う。
 いや、身なりは同じだとは言ったが実際にはそれは白衣だけでしかない。
 その白衣の下には、名状しがたき表情をした美少女アニメのキャラTシャツを着こみ、その髪はまるで整えられておらずくしゃくしゃである。
 おおよそその男を研究者たらしめているのは羽織る白衣だけであり、それ以外は日本の電気街ですらほぼ見られなくなったであろうファッションである。

 だがそのふざけた身なりの男は、眼光だけは鋭くその黒い泥の塊を凝視している。
 それに答えるかのように、水槽内の黒い泥は一瞬大きく揺らめいた。

「まぁ、全く知識もない状態でこの状態を保てていたっていう方がおっどろきーなんだけどねー」

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それは、なんでもないようなとある日のこと。

~中略~

「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。



421: 2015/08/15(土) 22:50:29.56 ID:PWAS3CMco

 そのカビの生えたような男の隣で、ふわふわとした長髪の少女がこの場にそぐわぬような口調で言う。
 少女もまた白衣を羽織っているが、その風体はかび臭そうな男と同様に異質なものである。
 容貌こそただの少女であるが、けらけらと嗤うその表情からはある種の狂気がうかがえる。

「確かに『これ』に関する資料は少なすぎる。

管理局のせいで掘り起こす情報元さえも消されてしまいましたし……。

結局これに関しても、これの『大元』に関してもすべてを知っているのはあなたの父上だけということになりますよ。シキ」

 男の方、イルミナPは視線を水槽からちらりと、少女、シキの方へと移しながら言う。
 その視線は警戒心にも似た視線であり、その言葉も世間話をしようと口から出たものではなかった。

「だから唯一あの実験の真実と詳細を知るあたしに、この子の最終調整を頼んだのかなー?」

 だがイルミナPから発せられる警戒心などシキは意に介さない。

「その通りですよ。あの研究には我々を含むいくつもの組織が出資していましたからね。

他の組織も血眼になって裏切って行方をくらませたイチノセ博士を捜索しているのに一向に見つからない。

その上、ご丁寧に研究に関わっていた者はあなたを除いて全員に記憶洗浄(ブレインクリアリング)まで徹底されていたんですから……」

422: 2015/08/15(土) 22:51:20.02 ID:PWAS3CMco

 イルミナPは数多ある悩みの種の一つを脳裏から掘り起こす。
 興味の惹かれる研究の上に、宇宙の中ではシキの父である高名なイチノセ博士の研究であったので軽く出資してみたが運の尽き。
 イチノセ博士は研究のデータをすべて持ち出したまま失踪、その後を見計らうかのように研究所には管理局がなだれ込んできたのだ。

「おかげで『アレ』についての研究内容はさっぱりわからない。

残っているのは密かに持ち出した遺伝子データから作り出したこのクローンだけというざま。

やはり他人の研究データを当てにしても、他人に研究を任せるのは駄目ですね」

「まぁパパはあたしに似て失踪するのがうまいからね~♪」

「それはあなたがイチノセ博士に似ているんですよ……」

 小さくため息を吐いてイルミナPは、水槽へと向き直る。
 以前黒い泥の塊は水槽内で、混じり合うことなく漂っている。

「しっかし、これの『元』とは似ても似つかない姿だ……。

本当に、大丈夫ですかシキ?私には専門外故に、手も足も出なかったのは認めますが……。

はっきり言ってあなたのことは微塵も信用できないんですよ」

423: 2015/08/15(土) 22:51:58.87 ID:PWAS3CMco

「にゃはは。あたしのこと信用できないのなんて今に始まったことじゃないでしょ。

でも、これについては『これ』で間違いないよ。

結局遺伝子劣化や、素材も違うからオリジナルとはある程度の違いが出ちゃうんだよね~」

「そう、ですか」

 シキはイルミナPの懐疑心など意に介さず疑問に対して返答する。
 それは自らの研究に対する自信であった。

 イルミナPもシキに対して全く信用はしていないのだが、彼は専門外であっても検証くらいはできる。
 使えるか使えないかの判断はできるから、わざわざシキに確認を取る必要さえもないのだ。
 そう言った前提がある上でシキの言葉だけは信用していた。
 それに、同じ研究者であるがゆえに、自らの研究に対する自負は通ずるものを感じるのだ。
 シキ個人は信用できなくとも、その口から一度出た言葉は真実であるとイルミナPは理解していた。

「だからこそ、あとは我々の仕事です」

 イルミナPは白衣を翻し、右手を耳に当てる。
 彼の右腕である義手『マジックハンド』は超高性能の演算処理装置であると同時にマルチデバイスである。
 当然通信機機能は搭載しており、イルミナPの言葉を伝えるべく起動する。

424: 2015/08/15(土) 22:52:39.52 ID:PWAS3CMco

「実証テストと、量産化を進める。

『サークルライン』がある程度完成し次第、これも実戦投入する予定だ。

実証テストの際には念のためにカースジャマーと兵団から一人対処できるだけの腕を持つ者を待機させろ」

 矢継ぎ早に通信先の人物に指示を出していくイルミナP。
 その様子をちらりと一瞬見たシキはそれで興味を失ったのか、再び水槽を見上げる。

「よかったね。もうすぐ外で遊べるみたいだよ、『終末因子(ウルティマ)』。

あなたのお姉さんに会ったのなら、よろしくね♪」

 ニヤリと無邪気で悪徳な笑みを浮かべたシキに答えるように、水槽の泥が静かに揺れる。
 それと同時に彼女と水槽の中の『彼女』を隔絶する硝子板が振動しながら静かに嗤い声を伝えた気がした。


***


   

425: 2015/08/15(土) 22:53:16.45 ID:PWAS3CMco


 イルミナPがシキから目を放していたのはほんの1分にも満たない時間であった。
 連絡を取るべき人物が多く、シキに意識を割くのを疎かにしたこと。
 そして、『ウルティマ』が完成し、安心しきっていたのも原因の一つであろうがこれらはイルミナPにとってはこれは致命的なミスだった。

「では任せた。

すでに開いた『クロスポイント』は二つ。

『憤怒の街』とインヴィディアによって開けたあの駅前だ。

おそらく勘の鋭いものならば我々の目的に感付いた者がいるかもしれない。

だからこそここから先、3つ目以降からが本番になるだろう。

次に投入する戦力は、これまでより実力のある面子で行こうと計画中だ。

ではそちらの取りまとめは任せた。エイビス」

 そして右腕の通信機を切り、相手側との接続を遮断する。
 耳元に当てていた右手を降ろし、イルミナPは振り返る。

「では、ビジネスの話に戻ろう。シキ。

今回の報酬だ……が……」

426: 2015/08/15(土) 22:53:44.70 ID:PWAS3CMco

 振り返った先には、すでに人影は居らず、視界には不気味な水槽が映るだけである。
 先ほどまでいたはずのシキの姿はもはや影も形もなかった。

「あ…………」

 先ほどまでのシリアスな顔つきも忘れ、イルミナPの顔は急降下するように真っ青になっていく。
 シキを研究所内に入れた時からずっと警戒していたのに、最後に犯した特大級のヘマ。

 シキを野放しにするということは、細菌兵器を野放しにしたようなものだ。
 決して人氏にが出ることはないのだが、時によっては氏より悲惨なことになることがある。

 いや、なったことがあるのだ。
 あえてここでは多く語らないが、イルミナティ創設以来最悪の出来事であったと皆の記憶に刻み込まれている。
 皆のトラウマ。最悪の痴態。

 100年以上の歴史のあるイルミナティがたった一人の少女がもたらしたパンデミックによって壊滅寸前に追い込まれたことは、ここで働く者たちにとっては記憶に新しい事なのだ。

427: 2015/08/15(土) 22:54:20.59 ID:PWAS3CMco

「全員警戒せよ!!!ターゲット『公害』、発見次第即座に報告せよ!!!

絶対に手を出すんじゃないぞ!!!奴は猛獣、いやキャリア……くそ、ともかく細菌爆弾のようなものだ!!!

決して刺激するなよ!事前に打ち合わせておいた『公害』対策チームは第17ミーティングルームへ急行せよ!!!」

 つい先ほど切ったばかりの右腕の通信機能を再起動させ、イルミナティ全体に命令を下すイルミナP。
 それを聞いていた周囲の研究員たちは各々が手に持っていた貴重なデータ書類も、測定機械も放りだしてなだれ込むように一直線に一つしかない出口への扉へと向かいだした。

 この状況はこの研究所内だけではなく、他の部署においても同様な事態になっており、我先にと外へ避難しようとしていた。
 もはやパニック状態になった人員たちで埋まっているイルミナティ。
 実際のところ外へ逃げ出したところで、シキの薬害から簡単に逃れるわけではないのだが、これは自らの身に迫る本能が故だろうか。

「待て!!!パニックになるな!!落ちつ、落ち着いて対処するんだ!!!

刺激さえしなければ奴は何もしない!!!皆が混乱すれば奴の思うつぼだぞ!!!!」

 怒涛の人の流れを抑えようとイルミナPも制止の声を叫ぶが誰の耳にも届かない。
 イルミナP自身も軽いパニックに陥っており、今この瞬間、完全にイルミナティの機能は停止していた。

「くっ……、どこへ行った!?シキいいいいいぃぃぃーーーー!!!」


***



    

428: 2015/08/15(土) 22:54:54.94 ID:PWAS3CMco


 イルミナティ内全域が未曾有の混乱に陥っている中、その騒動の原因であるシキは悠々とイルミナティ内の廊下を歩いていた。
 周囲の状況など知ったことではないように、その足取りは軽い。

 事実、彼女にとっては好きなように出歩いているだけである上、ただ雇われているだけの自分の行動を制限する権限などイルミナティにはない。
 いや、実のところ契約段階では『勝手な行動はしない』ということがあったのだが、たかがその一文でシキを束縛できるはずがないのだ。

「でも、なーんで誰にも会わないのかなー?」

 シキが今歩いている廊下には彼女のほかに誰も存在しない。
 秘密結社と言えど、相当規模の組織であるイルミナティだ。
 研究班と魔術結社とをつなぐ通路であるこの廊下は外へとも通じており、本来は人通りが全くないなんてことはない。

 だが彼女、シキがこの組織に与えた傷は生半可なものではない。
 すでに避難のノウハウは前のことで完成されており、避難経路としてシキと出会いにくい裏口に誘導されていた。

『予測、それはシキを警戒して人々は避難したからであると考えられます』

 そのシキのほかに誰もいないはずの廊下で、シキの声にこたえる声。
 その声は女性の声であることはわかるのだが、機会に録音された、電子音のような声。

 形容しがたい声色をあえて例えるとしたならば、この世の悪異、カースの声に近いものであった。

429: 2015/08/15(土) 22:55:41.44 ID:PWAS3CMco

「あたしを警戒って……なんで?ケミカ」

 シキにとっては、かつてここで起こした参事について全く覚えていなかった。
 彼女の記憶は、研究と興味で埋め尽くされているためかつてのイルミナティでの大参事で得た研究成果以外については全く覚えていなかったのだ。
 当然それによって引き起こされた被害についても記憶していないので、彼女にとって反省という言葉は存在していなかった。

 シキのそんな様子に、その声の主は少し呆れを含んだ声色でシキの疑問に答える。
 そしてその声の出どころは、シキが手に持っているマス目が極小で成されているルービックキューブからであった。

『引用、2年前にシキがイルミナティから依頼された新型ステロイド『キャンディトーク』の生成と実用化の際のことです。

シキはそれを完遂した後に、ここを含めたバチカンからほぼイタリア全域に空気感染する『キャンディトーク』の作用を引き起こすウイルスをばらまいて人体実験したことですね』

「あー、あのみんな『ハッスル』しちゃう薬か。そんなこともあったねー」

 ここでは気軽に語っていることであるが、『キャンディトーク』は人の身体、脳にまで影響を及ぼすステロイド、劇薬である。
 それは本来、人を凶暴化させ暴走を引き起こし、言語中枢を破壊し意味不明な単語の羅列を永遠に語らせ続けるというものであった。

 シキによって一晩のうちに実用化されたそれは、即座にシキによって細菌兵器に加工、彼女の独断で散布された。
 実用化され比較的効能が抑えられたそれは、興奮作用、言語中枢の麻痺、思考能力の低下を引き起こし本能を呼び起こす。
 そして人々は、男女関係なく甘い言葉でささやき、肉欲を貪るのだ。

 「やらないか」と。

 分量を調節すれば自白剤などにも使える『キャンディトーク』だが、ここで散布された薄められたそれはただの『催淫剤』として機能していたのだ。

430: 2015/08/15(土) 22:56:11.61 ID:PWAS3CMco

 その後イタリア全域は三日三晩にわたりピンク色の炎で燃え上がり、ベビーブームを引き起こしたと言うのは別の話。
 当然外部に漏れだしたその『キャンディトーク』の成果はイルミナティにとっては無価値のものとなってしまったのだ。
 なお『キャンディトーク』の成分は今では媚薬として薬局で一級医薬品として扱われている。

「ふっふっふーん。あの日はきっと争いがなかったとアタシは思うな。

ラブ&ピース、みたいな。まさに情熱の国」

『否定、情熱の国はスペインです。

それとあの状況はラブ&ラブです。それどころかアンドザシティです』

「むむむ、さすが『欲求する化学』。

もっのっしり~♪」

『当然、というよりも情熱の国は常識です。

あなた天才ですよね?頭の中も薬漬けでおかしくなっているのでしょうか?

事実、イルミナティズ・カースドウェポンを侮らないでください。

情報量だけなら、あなたを凌駕する自負はあります』

431: 2015/08/15(土) 22:57:05.37 ID:PWAS3CMco

 シキが手に持っている通常サイズより一回り大きいルービックキューブ。
 シキとの会話相手になっているそれは、キューブの一角が宙に浮いて幾何学運動をする。

『シキ、騎士兵団まで動員した捕獲作戦が刊行されようとしているようです。

至急、脱出すべきです。

あなたが脱出しなければ、私たちカースドウェポンとの契約反故となりかねません』

「にゃはは。まぁ仕事はもう終わってるし、『ウルティマ』にはそんなに興味がないからね~♪

約束通り、みんな連れてオサラバってねーケミカ♪」

『肯定。マスター、シキ。

警備などに妨害工作をしておきました。

最適なルートで脱出します』



 グリードキューブ・ディシダリオケミカ。

 イルミナPによって開発されたイルミナティズ・カースドウェポン、『強欲』のプロトタイプである。
 小型の研究施設を目標としてルービックキューブを改造して作られたそれは、カースの核を利用して歪曲空間を多層に備えている。
 その物理保存領域のほかにも様々な機能を持ち合わせているのだが、あくまで試作品であり、他のカースドウェポンの試作品と同様、倉庫に保管されていたのだ。

432: 2015/08/15(土) 22:57:42.88 ID:PWAS3CMco

『故、私『強欲』その他『傲慢』『嫉妬』『暴食』『色欲』『怠惰』。

倉庫で埃をかぶっているのは本意ではないのです。

シキ、そこを左です』

 シキとケミカはのんびりとイルミナティ本部内を歩いている。
 実際、現在も必氏の捜索が行われているのだが、ケミカのナビゲート、情報攪乱とシキの天性の失踪能力が相まって見つかる兆しは一切ない。

「おっけー。

ん?大罪って七つじゃなかったけ?いま6つだった気がするんだけど?」

『肯定、大罪は七つです。

ですが『憤怒』はすでに使用者がいて、一緒ではないのです。

ともかく、私のマスターはシキ、貴女で決まりなのです』

「んー?結構キミのことは気に入ってるけど、なんで君はアタシを選んだの?」

『感覚、フィーリングです。ビビビと』

「にゃっははー♪なるほど気が合いそうだねー」

433: 2015/08/15(土) 22:58:19.46 ID:PWAS3CMco

 そう言いながらシキは入ったトイレの天井を開けて、ダクト内へと入っていく。
 その後ろでトイレの前をバタバタと捜索隊の走る音が聞こえる。

「ところでイルミナPじゃダメだったの?」

 シキはケミカに疑問を投げかける。
 カースドウェポンたちの製作者はイルミナPである。今こうしてシキの手の中にあるということはイルミナPが持つ所有権を拒否していることに他ならない。

『あの人は私たちだけでなく作ったものを持て余している節があります。

私たちは道具。使われてこそです。倉庫で眠るなんてのは以ての外なのですよ。

それに何よりの理由がもう一つあります』

「もう一つの理由?」

『嫌悪、イルミナPは正直気持ち悪いです。

不潔、盲信、天然パーマ、もはや役満。

えり好みの少ない『色欲』でさえ拒否する始末なのです。

あのダニに使われるのは勘弁ですよ』

「……き、きっとあの人にもいいところ少しはあると思うけどー」

 さすがのシキもイルミナPに同情する。
 作り出した道具たちにでさえ、この評価である。しかも結構理不尽である。

434: 2015/08/15(土) 22:59:05.36 ID:PWAS3CMco

「えーと……天パなところ?」

『先ほど、欠点として挙げました。

ともかくアレはあり得ません』

「ま、まぁでもわからなくもないけどねー」

『おや、先ほどは庇ったというのに一転して罵倒側に回りますか。

歓迎しますよ、シキ』

 悪辣な口調なケミカなど気にせずに、シキはの表情は変わらず軽やかににこやかだ。
 這っていたダクト内から、ダクト蓋を開けて別の部屋へとシキは降り立つ。



「だってイルミナPは研究者じゃないんだもの。

確かに、作り出したものは素晴らしいと思うけど、あの人はほんとに駄目だと思うな。

すでに中身は腐り落ちているし、亡霊っていう言葉がしっくりくるよね。

そして亡霊じゃあ、何も価値のある者は生み出せないからね。にゃはは」


   

435: 2015/08/15(土) 23:00:03.86 ID:PWAS3CMco

 降り立った部屋から目に入った扉を開ければそこは外。
 周囲はバチカンの古式建築の街並みが視界に広がり、ここはその裏通りであった。

 空は澄み切っているが、出口の雨よけとしてある小さな屋根はシキの顔に影を落とす。

 その影は嗤っているはずのシキの表情を、凶悪なものに見せていた。

『脱出、シキ、外です。

まだイルミナティの圏内を抜けてはいませんが十分でしょう』

 ケミカはあえてシキの言葉に反応を示さない。
 なにせケミカの『嫌悪』とシキの『嫌悪』は全く違うものであるからだ。

 きっとこの世の研究者というものがイルミナPと言う存在を見れば、全員がシキと同様の感想を抱くのだろう。
 あれは研究者ではないと。自分と同じ人種ではないと。

 研究と言う過程を賛美する我々とは、根本的に違う生き物であると。
 唾棄すべき塵。結果しか残らない直行帰結。

 『あれは駄目だ』
 こんなものには憧れない。
 彼の研究風景は見る者を幻滅させる。
 これがあの『魔機学』の開祖がこんなものなのか。歴史に名高い大魔術師、イルミナティの大魔導がこれだと?

 吐き気がすると。

 こんなものには憧れない。偉大とはもっと尊いものだと実感するのだ。

436: 2015/08/15(土) 23:01:22.63 ID:PWAS3CMco

「そうだね。行こっかケミカ」

 そして歩き出すシキ。
 その足取りは依然変わらず軽いままだ。

『閑話休題。これからどこへ行くのですか?シキ』

 ケミカはシキの行先を尋ねる。
 ケミカの内部保存領域には他5つのカースドウェポンが収納されている。

 その5つの彼女たちを放す場所は適当な場所でなければいけないのだ。

「にゅっふふー。とりあえず日本に戻ろうかなー。

『ウルティマ』のサンプルを保管しに行かなきゃね」

 その手に持つ小さな小瓶には小さな泥が浮いている。
 それが『ウルティマ』の欠片であることは明白であった。

『疑問、『ウルティマ』には興味がなかったのでは?』

「要らないとは言ってないよー。

備えあればうれしいってね。とりあえずもらえる物はもらっておこうかな、みたいな」

437: 2015/08/15(土) 23:02:12.91 ID:PWAS3CMco

『了解、では行きましょう日本へ。

なお確認しておきますが契約として『他のカースドウェポン5種の放出』。

そこに着いたら契約は満了です。その時点からあなたを正式なマスターと認めましょう、シキ』

「かたっくるしいなーケミカは。

まーよろしくね、ケミカ。アタシは好き放題するからちゃんと付いてきてね♪」

『では着いたら、よろしく。シキ。

私も好き放題するので、ちゃんと使いこなしてくださいね』




    

438: 2015/08/15(土) 23:02:52.88 ID:PWAS3CMco


イルミナティズ・カースドウェポン
イルミナPがかつて趣味で開発した、カースの核を埋め込むことによって作り出した兵器。
しかしプロトタイプである各大罪7つの武器は、試作品と言うことで実戦で扱われることなく凍結された。
相応の性能を誇るが、一般人が使うことを想定されていないために『鬼神の七振り』とは違いカースの核を封じる機構が存在しない。
故に使用するにはカースの汚染を防ぐ手段を用意するか、汚染に耐えうるだけの強固な精神が必要になる。

グリードキューブ・ディシダリオケミカ
強欲のカースドウェポン。手のひらサイズより少し大きめのキューブ。『欲求する化学』
イルミナPが研究のためにルービックキューブを改造して作られた。
普段は3×3の普通のルービックキューブのような形態だが、一面最大9×9の9^3、合計729個の立方体まで分離し自在に複雑な動きをさせることができる。
その小さいキューブ一つの内部に圧縮空間が存在し、物質を収納したりそれらを組み合わせることによって融合や化学反応をさせることが可能となっている。
性格は比較的落ち着いている語り口だが、時々さらりと毒を吐いたり、収納したものを勝手に実験に使ったりと好き放題する。



439: 2015/08/15(土) 23:06:48.31 ID:PWAS3CMco

◇イベント情報
日本でイルミナティズ・カースドウェポン5種がばら撒かれました。
基本的に持ち主は鬼神の七振りと同様に、勝手に持ち主を選びます。
なおイルミナティは、シキがひっそりとばら撒いた『キャンディトークEX』の混乱のためにカースドウェポンが消失したことにはしばらくは気づきそうにないです。
これらのカースドウェポンはカース同様泥を生成できるのである程度の自立行動が可能です。




約2年前くらいの設定を引っ張り上げてきました。
リハビリがてらなので矛盾があるかもです。
また設定とかに不都合とかあったら指摘していただけると幸いです。

そしてもしあったのならば許してオナシャス

440: 2015/08/15(土) 23:32:42.31 ID:cHtKtNW9O
おつです
ウルティマ!?まさかまた『あの子』の亜種・近種が増えるのか!?姉妹喧嘩フラグなのか!?…………大丈夫かな
カースドウェポンの新しい奴も不穏っすなー



【次回に続く・・・】




引用: モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part12