752: ◆lhyaSqoHV6 2016/02/07(日) 06:55:43.83 ID:ARR+iEHZo


モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


前回はコチラ


 またもや副業で離れる羽目になっていました
一年半以上前でとっくに一週間過ぎているけど、予約した首藤さん念の為取り下げます
生存報告はしておくべきだったと反省しきり

あと、超絶放置していたビアッジョ一家投下します
読み直して分かり辛い点があったから事前に補足
宇宙犯罪組織≒宇宙海賊って感じです

753: 2016/02/07(日) 06:56:24.91 ID:ARR+iEHZo
前回までのなんとか
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1374845516/434-443



宇宙連合軍特務艦隊との戦闘によって傷つき、意図せずも太陽系に流れ着いた宇宙冒険家ビアッジョ一家。
宇宙の中で辺境とも呼ばれる地においても、彼女らはしぶとく生き延びていた。


メグミ「ミサト、新しい仕事よ」

プリマヴェーラ号の艦橋のデスクで呆けていたミサトに、メグミは唐突に切り出した。

ミサト「……それって、例のあの子の?」

メグミに対しミサトは、怪訝さを隠ず言葉を返す。

メグミ「そうだけど……なによ、不服なの?」

ミサト「だってぇ、何かいいようにこき使われている気がしてねぇ」

メグミが持ってきた"仕事"に対して不満気なミサトに、メグミは諭すように言葉を続ける。

メグミ「仕方が無いわ、こちらの弱みを握られているし……それに、報酬としてプリマヴェーラ号の修理費を前借りしているわ」

地球において活動しているうちに、宇宙連合に影響力を持つある人物と出会った二人は、その人物といびつな協力関係を築いていた。
今回の話もその人物からの依頼とのことだが、ミサトはそれが多少気に喰わないらしい。


メグミ「まあ、対外折衝はメグミちゃんに任せているから、いいんだけど」

メグミ「……話を続けるわよ」

メグミ「目標は、ある宇宙犯罪組織の非合法取引の目録の確保」

メグミ「クライアントの話では、対象の組織は人身売買にも手を出しているって話」

ミサト「ふぅーん、やることやってる相手ってことね」

宇宙犯罪組織といってもそれこそ星の数ほど存在するが、例外なくあらゆる悪事に手を染める連中だ。
人身売買もさして珍しい事ではないが、相手をするうえで遠慮は不要だとはっきりと認識出来る。


メグミ「連中は何処から入手したのか、旧式の戦艦を根城にしていて、一か所に留まらず常に移動しているらしいわ」

メグミ「だから、宇宙管理局が検挙に向かっても逃げられてしまって、手を焼いているって話」

戦艦クラスが相手では管理局もそれなりの大部隊を用意する必要があるが、その戦力が災いし事前に察知されてしまうということだ。

ミサト「ま、そういう相手なら私達に頼るのは間違っていないわねぇ」

その点ビアッジョ一家は宇宙における艦艇の中でも小型と呼べるコルベットクラスが一隻──察知されずに接近するのは容易い。

メグミ「とりあえず、その犯罪組織の情報を集めに行きましょう」

言うとメグミは、プリマヴェーラ号の舵を取るのだった。

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それは、なんでもないようなとある日のこと。

~中略~

「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。



754: 2016/02/07(日) 07:00:43.34 ID:ARR+iEHZo

──どこかの宇宙──


件の犯罪組織の情報を集めたメグミとミサトは、その組織が潜伏していると思われる宙域にやってきていた。
ミサトは愛機に乗り換え、既にプリマヴェーラ号から発進している。

メグミ『ミサト、聞こえる?』

ミサト「はぁーい、感度良好よぉ」

ミサトとの通信確立を確認したメグミが、段取りを説明する。

メグミ『もう一度今回の作戦を確認するわ』

メグミ『フェリーチェ単騎で目標の戦艦に接近──艦内に侵入したのち、取引目録を確保し脱出』

メグミ『必要時は武力行使も構わないとクライアントからお達しがあるわ』

ミサト「まあ、戦艦に近づいて、それで攻撃はするなっていう方が無理があるけどねぇ」

メグミの説明に、ミサトは皮肉めいて返す。


メグミ『まずは目標の戦艦を探し出すところからだけど──』

メグミ『情報屋の話では、この宙域に居る可能性が高いとのことだから、そこは自力で何とかして頂戴』

メグミ『ランデブーポイントはミサトの脱出後に指定するわ、よろしく頼むわね』

説明を終えると、メグミからの言葉は無くなった。

ミサト「まずは探すところからかぁ……まぁしょうがないけどねぇ」

愚痴のように独り言つと、ミサトは目標の戦艦を探し始めた。

755: 2016/02/07(日) 07:02:23.90 ID:ARR+iEHZo

ミサト「居た居た……あれだけ大きい図体してれば、見つけるのは簡単よねぇ」

しばらく宙域内を探し回ったのち、ミサトは目標の戦艦を捕捉した。

メグミ『ここまでは手筈通りね』

P子「目標質量11.8Mt……クラスD"準大手"級バトルシップです」

P子「外観から、エルダー・スキーパンタイプと推察されます」

ミサトの乗機に移し替えられたP子──ビアッジョ一家の3人目の仲間である新鋭人工知能が、各種センサーで捉えた情報を視覚化し、ホログラムイメージをHUD上に投影する。

ミサト「エルダー・スキーパンねぇ……数多く出回っている型落ち戦艦とはいえ、そこらの宇宙犯罪組織が運用出来るのかしら」

ミサト「人身売買って、儲かるのかなあ」

P子の分析を聞いたミサトは率直な感想を口にする。

メグミ『儲かるかどうかはさておき、忌むべき行為であることは確かね』

メグミの相槌を聞きながら、HUD上のイメージと、電子望遠装置で視認している実像とを見比べる。
目標のその姿──"宇宙戦艦"という艦種を冠する船体の巨大さは、ちょっとした宇宙コロニープラットフォーム並の威容をたたえている。


ミサト「うーん、流石に戦艦に真正面から挑むのは骨が折れるよねぇ」

P子「直掩機も多数出撃している模様です」

戦艦の周囲には、艦載機と思われる戦闘機が多数飛び回っているのが見て取れる。

メグミ『目標はあくまで戦艦だけれど、まずは取り巻きから片付けるのが肝要ね』

ミサト「ま、やってみようかぁ──P子ちゃん、戦闘用意」

P子「了解、戦闘システム起動」

P子「ハイパーロングレンジビームキャノン、スタンバイ」

P子の合成音声に合わせ、ミサトの乗機の機首下部から、全長数十メートルはあろうかという長大な砲身が展開した。
宙間超長距離射撃に用いられる、高出力長射程のビーム砲だ。


宇宙空間で長距離射撃を行う際は、射線の周囲の惑星の引力や、空間中を漂う種々の物質による磁場の乱れ等の影響で、非常に緻密な弾道計算が必要となる。
そのため、長距離砲は一般的には観測機を目標の近くまで飛ばしての間接照準射撃がほとんど唯一の運用方法となる兵装である。

しかし、それはあくまで"一般的な"運用方法の話である。
P子の高度な演算処理能力と、ミサトの操縦技術が合わさることによって、
目を瞑ったまま針穴に糸を通すかのような曲芸じみた長距離射撃を単機で可能とするのだ。


P子「ジェネレーター直結、エネルギー充填開始……射撃準備完了」

ミサト「りょうかぁい」

ミサトは戦艦の周囲を警戒している戦闘機のうちの一つ、丁度足を止めている機に狙いを定める。

ミサト「だいたいこの辺かなぁ……発射!」

ミサトの声と同時に、砲身の先端から光が迸った。

756: 2016/02/07(日) 07:04:02.42 ID:ARR+iEHZo

───────────────────

『なあ兄貴』

「どうした?」

宇宙犯罪組織の戦闘機部隊指揮官は、突然入った通信に意識を向けた。

『毎度思うんだが、俺たちが外に出て見張りをする必要ってあるのか?』

部下の一人(組織の性格上"手下"と表現した方が適切かもしれない)が、若干不満の色を含んだ口調で疑問を口にする。
自身も、もっともな言い分だと考えるところはある。

電子戦に特化された自機のセンサーによれば、母艦の警備を開始してから今に至るまで、宙域内に敵性存在は認められず。
それに加え、宇宙連合艦隊や宇宙管理局の通信は逃さず傍受しているが、
自分達を対象にした作戦行動が実施されるといった内容は確認出来ていない。
差し迫った危険は無いであろうことは確かだ。

「念のため……といったところだろう」

だが、組織の幹部連中の慎重さは今に始まった事ではない。
組織の運営を行っている連中からは定期的に"重要な取引"だとかを行うと宣言されるが、
その際には毎回過剰とも思える程周辺の警戒を行うように指示が出される。

「トラブルに対する警戒はするだけしておいて、実際に何もなければそれに越したことはない」

実際、この慎重さがあってこそ、今まで組織が存続されてきたというところはある。
今回の警戒態勢も、今までと何も変わらない。
自分達は用心棒として、いつも通りの仕事をこなすだけだ。

『ん……? 何か光っ──』

その直後、彼の思考は中断された。
仲間の戦闘機のうちの一機が、突如として閃いた一条の光芒に貫かれ、爆散したのだ。

757: 2016/02/07(日) 07:04:36.07 ID:ARR+iEHZo

『攻撃!? くそッたれ!何処から撃ってきやがった!』

撃墜された機の直近に居た海賊は、突然の事態に取り乱し声を荒げる。
非常事態を察知した犯罪組織の戦闘機集団は隊列を崩し、散り散りに回避行動を取った。


『兄貴! チ、チビがやられた!』

「落ち着け! 敵の位置は今調べて──バカな!? スキャンレンジ外だと!?」

指揮官は思わず狼狽する。
長距離攻撃を受ける可能性は当然認識しており、機体には対策の為の高精度センサーを搭載していた。
だが事実として、敵の不意打ちを許してしまった。
センサー範囲外からの攻撃など、彼の戦闘機乗り人生の中でこれまで受けたことが無かったのだ。

しかし、浮き足立つ仲間を取りまとめるべく、なんとか指示を出す。

「各機! ビーム偏向フィールドを展開しろ!」

「恐らく二射目が来る……それで下手人の位置を割り出す!」


果たして、彼の読みは当たった。
最初の攻撃からさして間を置かず、
電子望遠装置を最大出力で稼働してもなお遥か彼方に砂粒の如く見えるデブリ群の中から、恐るべき速度で光の奔流が飛来する。
収束された粒子ビームの類だろう。

その光は正確無比に海賊機のうちの一機を捉えていたが、着弾の直前でまるで見えない壁に当たったかのように軌道が逸れた。

「見えたぞ! 各機、俺に続け!」

指揮官は自機のブースターを戦闘出力で稼働させると、先陣を切って飛び出した。

「(敵の規模は不明だが、センサーで捉えられんということは、つまり小型の目標であるということだ……逃がしはしない!)」

襲撃者の位置を割り出した海賊達の編隊は、その潜伏地点へと急行するのだった。

758: 2016/02/07(日) 07:06:33.26 ID:ARR+iEHZo

───────────────────

敵集団の様子を観察していたミサトは、思いがけず目標を仕留め損なった事実を受けて顔をしかめた。

メグミ『……逸れたわね』

ミサト「逸れたねえ」

P子「あの現象は、ディフレクト・フィールド・ジェネレーターによるものと推察されます」

P子「発生器の周囲に特殊な磁場を形成し、粒子ビームを反射します」

ミサト「そんな大層なものを持ってるなんて、三下風情が生意気ねえ」

P子の分析を聞いたミサトは誰にともなくボヤくと、潜伏していたデブリ群から飛び出す。

メグミ『結局、正面突破ね』

ミサト「その方が手っ取り早いしねえ」


ミサト「ところでP子ちゃん」

ミサトはコクピットコンソールを操作しながらP子に話しかける

ミサト「この兵装、実戦で使うのは初めてだけど……P子ちゃん、反動制御出来る?」

コンソールのディスプレイ上には、自機のウェポンマウントラッチに新たに増設された、"地球製"の武装の情報が表示されている。
この武装は装薬を燃焼・爆発させて砲弾を撃ち出すといういささか原始的(ビアッジョ一家の用いるテクノロジーと比べてという補足は必要だが)な兵器であるが、
ビーム兵器のそれに比べて反動が強いという欠点がある。

P子「試射時のデータは機体の姿勢制御システムにインプット済です」

P子「発砲時の反動制御は問題ありません」

ミサト「ならオッケーね、いくわよぉ」

P子に新兵装の状態について確認を取ったミサトは乗機を加速させ、敵集団へと突っ込んでいく。

759: 2016/02/07(日) 07:07:58.68 ID:ARR+iEHZo

───────────────────

海賊機の編隊は程なくして、襲撃者と会敵した。

『目標捕捉!速いぞ!』

『機種照合中……該当あり!』

各々が確認した情報を報告し合う。

『……なんだこりゃ、グランスミラージュ? 聞いたことねえ機体だ』

『構やしねえ、たった一機でナメやがって……叩き落としてやる!』

「一機であればこそ油断するな! 勝算もなく向かってくることはあるまい!」

指揮官は逸る部下を諌める。

再度宙域内をスキャンにかけたが、やはり現在補足している一機以外は敵性存在は確認出来なかった。
自分達に単騎で喧嘩を吹っ掛けてくる相手が居るとすれば、とんでもない愚か者か、
あるいはその逆──とてつもない実力者のどちらかだろう。

いずれにせよ、楽観視はすべきではない。


『気負い過ぎるなよ、ビーム兵器相手ならやられる要素なんてどこにm──』

典型的な慢心台詞を吐いた海賊は、次の瞬間には爆散していた。

『な、なんだと!?』

その光景を目の当たりにした他の海賊に動揺が広がる。

『今のは……実体弾か!?』

『ふざけんなよオイ! なんでそんなモン積んでやがる!?』

「落ち着けと言っている! 食らわなければなんとやらだ!」


『クソがぁ! やってやる! やってやるぞッ!』

破れかぶれか、海賊の一機が襲撃者に突撃する。

「馬鹿野郎! 不用意に突っ込むんじゃあない!」

『ぐわぁっ!!』

指揮官の制止も空しく、迂闊な動きを見せた海賊機は即座に撃墜されてしまった。
断末魔の後僅かなノイズと共に通信は途絶え、編隊内の機体稼働状況を示す一覧にオフラインアイコンが増える。


「(超長距離からの不意打ちに続き実体弾によるこちらの防御の無効化……初動から完全に相手のペースに乗せられてしまっている)」

「(状況を仕切りなおさねば被害が増える一方だ)」

「各機! 単独で動くな! 僚機と合流しろ!」

「数ではこちらが上だ! いいか、囲い込んで封頃するぞ!」

『り、了解!』

指揮官の指示により、海賊達は多少のまとまりを見せるようになった。

「(よし、ここから反撃を始める……ッ!)」

760: 2016/02/07(日) 07:09:27.14 ID:ARR+iEHZo

海賊機の編隊は、襲撃者と会敵してから数分と経たずに、阿鼻叫喚の様相を呈していた。
指揮官の懸命の指示にも関わらず、既に半数以上が撃墜されている。

『なんなんだコイツは! ちくしょう、振り切れねえ! うわぁっ』

『クソッ!またやられた……ッ!? く、来るな!来るなああぁっ!』

数で上回るものの、相手の動きについてゆくことが出来ない。
複数で追撃を仕掛けるも射線に捉えられず、逆に撃墜されていく。

遂には、指揮官機とその僚機を残すのみとなっていた。


『兄貴! う、後ろに……周られた!』

「持ち堪えろ! こちらもヤツの後ろが取れる!!」

『た、助け──』

指揮官の援護はあと一歩間に合わず、僚機は眼前で爆散した。
四散した破片が高速で背後に流れてゆくが、そちらを見やる余裕は無い。

「クッ!」

指揮官は最後の仲間がやられた事実を受けて歯噛みする。
これまで多くの難局を──あの、宇宙戦争をも切り抜けてきた仲間が、たった一機の相手になす術も無くやられていった。
それも、ほんの僅かの間に。


「だが……背後を取った! 堕ちろッ!」

それでも仲間の犠牲の甲斐あってか、襲撃者を照準の中央に捉える事に成功した指揮官は、逸る気を抑えビームガンポッドの発射トリガーを引いた。

「やった……やってやったぞ……!!」

ビーム粒子の束が襲撃者に襲い掛かるのを視認し、勝利を確信する。

761: 2016/02/07(日) 07:11:00.93 ID:ARR+iEHZo

──だが、発砲に伴う閃光が晴れた時、指揮官は己が目を疑った。

「……え?」

そこには、味方を一瞬のうちに全滅させ、そして自身がたった今撃墜した筈の機影はなかった。
代わりに、漆黒の"巨人"の姿が映し出されている。

「な……なんだと……」

巨人の左腕部には幅広の装甲が据え付けられており、その中央が白く赤熱している。
先のビーム砲撃を防いだという事だろうか。

「人型に変形……可変型機……だと?」

眼前の巨人が、今まで対峙していた戦闘機が変形した人型兵器であると認識した指揮官は、再度攻撃を仕掛けるべく機種を回頭させようとする。

「ッ!? く、動かん……!」

だが、いくら姿勢制御バーニアを操作しても、機体は全く動かない。
人型の右腕マニピュレータが、機体を押さえつけているのだ。
突然の出来事で隙を晒してしまったが故の状況だ。

氏の危機に瀕し、指揮官の体感時間は引き伸ばされ、世界がスローモーションに映る。
人型の頭部──人間でいうところの"眼"の部分が赤く、妖しく輝き、シールド兼近接戦闘用ブレードを備えた左腕部を振り上げるのが見てとれた。


「(こいつは…………まさか……)」

自らに氏をもたらさんとする相手とお互い睨み合ったまま、指揮官はかつて宇宙戦争真っ只中の戦場で伝え聞いた、ある噂を思い出していた。

──相対した者に絶望を歌わせる、戦闘機乗りの噂を。


「……フェリーチェ……カンツォーネ」

迫りくる大質量を前に無意識のうちに漏れ出た呟きは、自身の耳にさえ届くことは無く、コクピットが拉げ潰される音に消えた。

762: 2016/02/07(日) 07:13:01.61 ID:ARR+iEHZo

───────────────────

ミサト「ふぅ……とりあえず、取り巻きは殲滅できたわねぇ」

戦艦の直掩を全滅させたミサトは、息を吐き出すと共に強張った筋肉を弛緩させた。

メグミ『まだ本命が残っているけれどね』

ミサト「うすのろ戦艦一隻なら、どうとでもなるわ」

ミサト「それにしても──」

ミサトは、今しがた海賊の機体の悉くを叩き落とした"新兵装"に思いを巡らす。
提供者から寄越された地球人の仕様書には『艦載単装速射砲』だとか書かれていたか。

ミサト「実弾兵器、悪くないわねぇ……反動が癖になりそう♪」

自身にとって満足のいくレベルの兵器を作り出しているとは、地球の技術力もなかなかどうして侮れない。

ミサト「さてと、次は本命ね」


乗機の人型形態を維持したまま目標の戦艦に接近したミサトは、右腕に装備されたビームガン(こちらは元来装備されていたものである)を用いて攻撃を開始した。
敵の接近を許した戦艦は、迎撃の火砲を遮二無二撃ちまくる。

ミサト「温い対空砲火ねぇ、あくびが出ちゃう」

対してミサトは、舞うように火線を躱し、的確に砲火の元である銃座を潰していく。

ミサト「面倒だし、このまま対艦ミサイル撃ち込んじゃう?」

メグミ『ダメよ、目標を確保するまではね』

ミサト「やれやれねぇ」

ぼやきながらも手を休める事は無く、遂にはハリネズミの体毛の如き対空銃座群を全て潰し終えた。

763: 2016/02/07(日) 07:15:32.06 ID:ARR+iEHZo

敵から反撃の手段を奪ったうえで、ミサトは艦内に入り込む手立てを練る。

ミサト「さてと、P子ちゃん、カタパルトデッキの位置は分かった?」

カタパルト──すなわち艦載機の発進口であるが、分厚い装甲を持つ宇宙戦艦の内部に侵入する上で、最も都合の良い部位である。

P子「スキャン済み──船体後方・底面にあります」

ミサト「さっすがP子ちゃん、仕事が速いわねぇ」

ミサトはP子の指示の場所に機を移動させると、外部と発進口を隔てるハッチを探る。

ミサト「ここね……こじあけるよぉ」

P子「了解、ヴェセルディセクター、スタンバイ」

P子の合成音声に合わせ、ミサトの乗機の左腕に装備されているシールド兼近接戦闘用ブレードがその形状を変える。
細く長い剣状に変形したそれは、次第に白く発光しだす。

ミサト「失礼しますよ……っとぉ」

ミサトはその剣をハッチと思しき位置に水平に一閃。
返す刃で少し位置をずらし平行にもう一閃。
今度は切り裂いた線と垂直に──先に切り裂いた部分を合わせ、丁度"四角"を描くように二連撃。

その"四角"を蹴りつけると、ハッチ部の隔壁はいとも簡単に船内側に押し出された。


ミサト「お邪魔しまぁす」

船内に侵入すると、スペーススーツを着込んだ戦闘員が十数名待ち構えていた。

ミサト「待っててもらったところ悪いんだけど、お出迎えは不要よ」

だが、待ち伏せを当然予測していたミサトは、対人プラズマスロワーを用いて容赦なく焼き払う。
制圧戦闘用に特化された人型形態の前では、生身の歩兵など物の数では無い。

ミサト「生身を相手にするのはやっぱり気が引けるわ……弱いものいじめよねぇ」

聞こえこそしないが、苦悶の断末魔を上げているであろう人影を見つつ苦々しげに呟く。

P子「周囲に動体反応なし、格納庫エリア確保しました」

そんなミサトの気を知ってか知らでか、P子は無感情に敵を制圧した旨を告げた。

764: 2016/02/07(日) 07:17:43.34 ID:ARR+iEHZo

メグミ『侵入に成功したわね』

P子の報告を聞いた、メグミから通信が入る。

メグミ『とりあえず、その辺のあるコンピュータ端末を探してみて』

ミサト「はぁい」

今回の仕事の目的である犯罪組織のデータは、コンピュータに記録されているはずである。
ミサトは近くの壁面に据え付けられた端末に近づくと機体を屈み込ませ、マニピュレータを押し当てる。
さらに、マニピュレータから紐状の物体が伸び、壁面端末の有線ネットワークケーブルの端子口に接続された。


P子「艦内コンピュータネットワークにはアクセス出来ましたが、目的の情報はありませんでした」

P子「この端末からは、最上位データへのアクセス制限がかかっています」

マニピュレータのケーブル接続によって情報を読み取ったP子が、しかし目的が達せられていないことを告げる。
それなりに秘匿性の高い情報の為であろう、安易に持ち出すことは出来ないようだ。

ミサト「残念ねぇ」

P子「ですが、この艦の内部構造をダウンロードしました」

メグミ『あら、P子お手柄ね』

メグミ『電算機室のメインフレームからなら、恐らく最上位データにもアクセスできるはずよ』

P子から送信された情報を確認したメグミが、新たな索を提示する。

ミサト「よし、P子ちゃん、案内よろしくぅ」

P子「了解、経路を表示します」

HUDに新たに表示された目的地への経路情報を確認すると、ミサトは機体の歩を進めるのだった。


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765: 2016/02/07(日) 07:18:35.81 ID:ARR+iEHZo


──ところ変わって、宇宙連合軍の本拠地──


提督「(ビアッジョ一家め……一体何処へ逃げおおせたというのだ)」

以前ビアッジョ一家を取り逃がした艦隊は、依然その行方を掴めずにいた。

提督「(ううむ……ここ数ヶ月は、尻で椅子を磨く毎日だ……)」

提督「(艦隊の指揮も下がっている……どうにかせねばならんな)」

艦隊の提督は内心で無念さを呟く。


「提督!」

提督が艦隊の行く末を案じていると、艦橋のオペレーターの一人が声を上げた。

提督「なんだ?」

「何者かから、暗号化通信が入ってきました」

「送信元は、セクターアルファの23……特に何でもない宙域からですが……」

提督「暗号化通信だと……?」

提督は身に覚えのない通信を訝しむ。

提督「よし、繋げ」

「はっ!」

だが、無視を決め込むわけにもいかず、通信を取った。

766: 2016/02/07(日) 07:19:41.66 ID:ARR+iEHZo

『はぁーい、おじさん元気してたぁ?』

提督「!?」

提督の眼前の中空ディスプレイに映し出されたのは、想定を超える人物だった。


提督「き、貴様は、ビアッジョ一家のミサト!」

ミサト『相変わらずうるさい顔してるねぇ』

提督「な、何のつもりだ!」

今まで探し続けていた相手からの突然の通信に、提督は狼狽する。
だが、相手からの続く言葉は意外なものだった。

メグミ『あなたに手柄を譲ろうと思ってね』

提督「何だと?」

ミサト『私達が"仕事"で相手をした宇宙犯罪組織の戦艦がね、無力化はしたんだけど、そのまま放置してあるからぁ』

メグミ『あなたの手柄にしてしまって良いと、そういうこと』

ミサト『私達じゃあれはどうしようもないし……とりあえず、情報は送っておくねぇ』

メグミ『まあそういうことだから、どうするかはあなたの自由よ』

ミサト『じゃあねぇ』

提督「おい! 待て!!」

状況が読めず混乱している相手に一方的にまくし立てると、ビアッジョ一家の通信は提督の制止の途中で途絶えた。

767: 2016/02/07(日) 07:22:59.46 ID:ARR+iEHZo

提督「(奴らめ、何を考えている……)」

「罠……でしょうか?」

通信を聞いていたオペレーターが呟く。

提督「いや……奴らの態度には外連が無かった……」

提督「(いつも通りの、忌々しい人を食ったような態度だ……我々をだまくらかそうという意思は感じられなかった)」

提督「(と、なれば)」

提督は勢いよく立ち上がると、大仰に腕を突き出し叫ぶ。


提督「各艦に通達! 我々はこれより宇宙犯罪組織の検挙に向かう!」

提督「全艦、発進準備!」

「了解!」

艦橋内の部下も、久方ぶりの出撃命令に気合いが入っている様子だ。

提督の指令を受けて、艦隊は数ヶ月ぶりに母港から発進するのだった。


──その後、犯罪組織検挙の功労により、提督の胸に勲章が増えたという話は、余談である。

768: 2016/02/07(日) 07:25:59.61 ID:ARR+iEHZo

※可変型全領域強襲制圧攻撃機(トランスフォーマブル・アサルト・ドミネート・アタッカー略してTADA)

ぱっと見は普通の宇宙戦闘機。
通常の戦闘機としての役割の他に、大型艦艇へのボーディング(接近しての白兵戦)や基地施設等への効率的な攻撃のための、
制圧攻撃形態(人型形態)への変形機構を有する変わり種。
現代地球の航空機に例えると、制空戦闘後に対地・対艦攻撃を加えて、必要があれば拠点の制圧戦もこなす……みたいな感じの兵器。
特殊な操縦系により搭乗員の養成に時間がかかるうえ、生産性と整備性が劣悪で運用コストも嵩むため、
ほとんどの武装組織から敬遠され使われなくなり、今となっては骨董品レベルの存在。
一応宇宙戦争時代にはそれなりに使われていたらしい。


※グランスミラージュ

ミサトの乗機。
扱いの難しい「TADA」の中でもキワモノ扱いを受ける曰く付きの機体。
運動性や操作系の反応速度が極端に高められており、何人ものパイロットを潰してきたらしい。
そのハチャメチャさは設計・開発者をして「調子乗り過ぎた」と言わしめるほど。
腕にそれなりに覚えのあるミサトでさえデチューンを施し搭乗している。
ちなみに、ミサト機のコールサインは『フェリーチェ』。


※フェリーチェ・カンツォーネ

宇宙戦争時代にあだ名されたミサトの二つ名。
その鬼神の如き戦いぶりに、味方からは歓喜の声が、敵方からは絶叫が、戦場にまるで歌声のように響いたという。
誰が言い始めたか、その現象をフェリーチェ・カンツォーネ(フェリーチェ(ミサトの乗機)がもたらす歌)と呼ぶようになった。
そのうち、ミサト自身を示す名として使われるようになる。


※宇宙戦艦

宇宙戦艦という艦種は、当初はそれが最大最強の戦闘艦であるという意味合いで定義された。
その後時が経ち、より大型で戦闘力の高い船が次々現れたため、
今日では宇宙戦艦の中でもさらにクラスE"中小"級からクラスS"銀河"級まで細分化されている。

769: 2016/02/07(日) 07:27:48.68 ID:ARR+iEHZo
終わりです

太陽系に着いてからの話を色々とすっ飛ばしてますが、とりあえず活躍させておこうと思った
放置し過ぎていたし

770: 2016/02/07(日) 23:36:58.30 ID:XbUGQH7p0
乙でしたー
戦闘機を用いた宇宙戦闘って今までほぼなかったし良さしかない…強い…
イメージが某星の狐になってましたけども
そんでもって人型変形はロマンですわ…



【次回に続く・・・】




引用: モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part12