店主「件のインスタントコーヒーもそうだけど、割とうちの店のメニューっていい加減でね」

店主「お客さんのリクエストでメニューにないもの即興で用意したり、それがそのままメニューになったり」

店主「そんな感じでお客さんのリクエストでメニューに加わったものの代表が、この抹茶オレかな」

――case3 萩原雪歩

雪歩「こんにちはぁ」カランカラン

店主「はい、いらっしゃい」

雪歩「今日はカフェ・マキアートをお願いします」

店主「ありゃ、珍しい。抹茶オレじゃないのね」

雪歩「今日は抹茶のお菓子を持ってきたので」

店主「ああ、抹茶と抹茶で被っちゃうからね。じゃあ、カフェ・マキアート一つね」

雪歩「はい。あ、今日のお菓子は手作りなんですよ」

店主「手作り? 雪歩ちゃんの?」

雪歩「春香ちゃんに作り方を教えてもらって……一人で作ってみましたぁ」

店主「それはそれは。楽しみなこって」

雪歩「ま、まずかったら言って下さいね?」

店主「私はお菓子にはうるさいぞー」

雪歩「うう」

店主「冗談よ。むしろ雪歩ちゃんの作ったお菓子がまずいわけないじゃないの」

雪歩「そうですか……?」

店主「多分」
ぷちます!(12) (電撃コミックスEX)

25: 2014/01/18(土) 19:29:07.79 ID:bAxlH5Qa0
店主(彼女の名前は萩原雪歩。いつもちょっとしたお菓子を持ち寄ってくれる子だ)

店主(犬と男が苦手らしく、仕事に失敗した時の話は大体それ絡みだったりする)

店主(因みにうちの店に一番最初に来たアイドルは、ほかでもない雪歩ちゃんだ)

雪歩「これなんですけど……」ガサゴソ

店主「わお、凄い。抹茶のカップケーキ? 美味しそう」

雪歩「甘納豆が乗ってるのと、乗ってないのがあります。どうぞ」

店主「じゃあ私は乗ってる方を」ヒョイッ

雪歩「じゃあ私も乗ってる方を」ヒョイッ

店主「あ、これお皿ね」

雪歩「ありがとございますぅ」

店主「で、マキアートね。エスプレッソにスプーン一杯のミルク、これがベスト」

雪歩「そうなんですか?」

店主「本場イタリアでは元々そういうものらしいよ。豆知識ついでで言うと、マキアートも「染みがついた」って意味のイタリア語だし」

雪歩「へぇ、そうなんですか」

店主「昔働いてた会社の上司がイタリアかぶれでさぁー、嫌でも覚えたわ。まさか役立つとは思わなかったけれど」

雪歩「コーヒーに注いだミルクが染みに見えるって意味ですかねぇ?」

店主「多分そうだと思うよ。詳しくは知らないけれど。はい、カフェ・マキアート」

雪歩「あ、ありがとうございます」

26: 2014/01/18(土) 19:41:01.86 ID:bAxlH5Qa0
店主「そうそう。この間雪歩ちゃんに教えてもらったお店で茶葉買ってみたよ」モグモグ

雪歩「本当ですか? あそこのほうじ茶は本当に美味しいですよ」モグモグ

店主「買ったし飲んでみたよ。あれ美味しいね、うちじゃ今麦茶に替わって食卓のお供だよ」モグモグ

雪歩「抹茶はどうでした?」ズズ…

店主「やっぱちゃんとした所で買うと違うね。スーパーで安物買ってたのがアホらしくなっちゃったわ」

雪歩「抹茶はピンキリ激しいですからね。スーパーで売ってるようなものから、それこそ取り寄せないと買えないようなものまで」

店主「流石に私は本職じゃないからそこまでしないけど、やっぱより美味しいものが手に入るならそっちだわね」

雪歩「道具とかってどうしてるんですか?」

店主「学生時代に作ってたやつをそのまま。手入れさえしてれば使えるもんだね、道具って」

雪歩「中高生時代、でしたっけ。マスターが茶道やってたのって」

店主「そう。その時一式揃えてから買い足したのは消耗品の懐紙くらいだよ」

雪歩「物持ちいいんですね」

店主「物が捨てられないだけよ。物が増えて困る困る」

雪歩「でも、お陰で私はお茶の話が出来る人が見つかったんですけどね」ニコ

店主「まあ、中々居ないわね。茶道の話出来る相手なんて」

雪歩「プロデューサーも誘ってみたんですけど、敷居が高いって言われて……」

店主「否定は出来ない」

27: 2014/01/18(土) 19:54:56.14 ID:bAxlH5Qa0
雪歩「でも茶道って、元々男性のやってたことじゃないですか」

店主「戦国時代の武士がやってたからね。秀吉、信長、有名な利休だって皆男だし」

雪歩「なのに最近、茶道=女性みたいになってるじゃないですか。だからプロデューサーを誘ってみたんですけど……」

店主「まー、敷居が高いのは正直本当だからなぁー。お金もかかるし」

店主「そういえばサラッと流してたけどプロデューサーさんって男だよね? 大丈夫なの?」

雪歩「プロデューサーは……最初は怖かったけど、今は大丈夫です」

店主「犬は?」

雪歩「ダメです」

店主「今この店にブルドック連れた筋肉モリモリマッチョマンが入ってきたらどうする?」

雪歩「どうにかして気絶します。そうすれば怖くないですから」

店主「そこまでか」

店主「……んー、まあ、遠慮するプロデューサー無理に誘うわけにもいかないからね」

雪歩「そうですよね。とりあえず、お茶の話はマスターとすることにしますぅ」

店主「あい、お姉さんはいつでも待ってます」

雪歩「ところで、ちょっと相談があるんですけど……良いですか?」

店主「もちろん。見ての通りお客さんが居なくて暇だからね」

雪歩「実は今度、お茶の番組に出ることになったんです」

店主「茶道の番組?」

雪歩「はい。これをきっかけに誰かが茶道を始めてくれたら、ってコンセプトの番組なんですけど……」

雪歩「共演者の人、殆どが男の人なんですぅ……」

雪歩「私が出れば私のファンの人が見てくれて、誰かがお茶を始めてくれるかもって思ってオファーに応えたんですけど」

雪歩「まさか共演者の人に女性が一人だとは思わなくて……」

店主「あー、はいはい。それは……気の毒に」

28: 2014/01/18(土) 20:05:19.22 ID:bAxlH5Qa0
店主「でも番組には出たいんでしょう?」

雪歩「はい。でも、緊張して上手くテレビの前の皆に茶道の良さを伝えられなかったら……」

店主「んー、まあ聞く限り雪歩ちゃん所のプロデューサーさんは優秀っぽいから、席配置とかそういう都合はどうにかしてくれそうね」

店主「その上で雪歩ちゃんが緊張を恐れているなら、どうすればいいか一緒に考えてあげる」

雪歩「っはい!」

店主「って言っても私人の前に立つの嫌いだから緊張するシチュエーションに殆どなったこと無いんだけどね」

雪歩「えー……」

店主「私が人の前で何かする時、緊張なんかよりも早く帰りたい気持ちでいっぱいだから」

雪歩「そうなんですか」

店主「だから私が今できるアドバイスはないけど、一緒に考えるくらいはさせてもらうよ」

店主「……さっきのカップケーキ代くらいはね」

雪歩「お願いしますぅ……」

店主「それにしても緊張ね……そもそも茶道の普及目指してるのに茶道家の男の人怖いって駄目じゃない?」

雪歩「お点前してる姿は大丈夫なんです。ただ、トークとなると……」

店主「話すのが駄目なのね。うーん、どうしましょうか」

店主「『茶道家』『男性』『全国放送』……『イチジクのタルト』『カブトムシ』……」

雪歩「マスター?」

店主「はっ、何か別のことを考えてた気がする」

雪歩「普段は緊張をほぐすのにイメージトレーニングとかするんですけど、結局あまり意味がなくて」

店主「雪歩ちゃんの緊張は、普通の人が感じる緊張とは少し毛色が違うからね……どうしたものか」

雪歩「あと、本番前にお茶を飲んだり……?」

店主「……!」ティントキタ

店主「そうか……お茶だよ雪歩ちゃん!」

雪歩「へ?」


29: 2014/01/18(土) 20:19:44.66 ID:bAxlH5Qa0
店主「先に聞いておくけど、茶道の番組って言うくらいだから収録は和服?」

雪歩「はい。男性が袴で、女性は着物を」

店主「アクセサリー類は?」

雪歩「えーっと、ピアスとか腕時計とか金属系のものは禁止ですけど、割と自由です」

店主「ならいける」

雪歩「???」

店主「んー、作り方覚えれば自分でも作れるから、ちょっと雪歩ちゃんもこっちに」

雪歩「作る? 何をですか?」

店主「まあ、見てれば分かるわ」スッ

雪歩「フライパン……?」

店主「ここに、雪歩ちゃんが教えてくれたお店で買った煎茶の葉っぱがあります」

店主「軽く炒めます」ボッ

雪歩「茶葉を炒めちゃうんですか」

店主「本当に軽くね。こうすると香りが新鮮な茶葉に近づくの」キュッ

店主「炒めた茶葉は冷まして、ガーゼにくるむ」

雪歩「いい匂いですね……」

店主「でしょう? で、これを小さな巾着とかに入れるの」

店主「巾着袋なら腕に提げても和服と合うし、収録現場に持ち込めるでしょ?」

雪歩「はい……あ、もしかしてこれって」

店主「匂い袋。お茶でリラックスするのは何も飲むだけじゃないってね」

店主「これなら、少しくらいは緊張もほぐれるでしょ?」

雪歩「なんだか、そんな気がします」

店主「家でも簡単に作れるから、作ってみると良いよ」

雪歩「はい!」

30: 2014/01/18(土) 20:37:28.59 ID:bAxlH5Qa0
店主「とりあえず一個作ってみた」

雪歩「袋越しでも結構香り届きますね……ふわ、良い匂い」ポワァ

店主「小さいものならこうしてインテリアにも出来るし、簡単に持ち運びできるし」

雪歩「なんかこういうの良いですね。おばあちゃんの知恵袋っていうか」

店主「誰がおばあちゃんだ」

雪歩「ま、マスターのことじゃないですー!」

店主「冗談冗談」

店主「っと、ここで一つ、上司直伝のアドバイスを思い出した」

雪歩「上司って、さっき言ってたイタリアかぶれの……?」

店主「そうそう。これが偉そうで傲慢な人でさあ、人の前に立っているようで常に上から見下ろしているような人」

店主「そんな上司がくれたアドバイスというか忠言がこれ」

店主「『自分の素質を信じろ。無駄な心配は自分の価値を地に落とす』」

雪歩「……凄い人ですね」

店主「まあ実際凄い人だったから返す言葉もなかったよ」

雪歩「それに、なんだか強い言葉。自分の価値とか」

店主「結局は自信を持てってことなんだけど、心の隅に置いとくと良いかもね」

雪歩「そうですね……覚えておきます」

店主「うん、頑張りなさいな。放送を楽しみにしておくから」

雪歩「はい。じゃあ、そろそろ私は帰りますね」

店主「お会計260円です」

雪歩「はい」チャリン

店主「丁度お預かりします。では、またのお越しを」

雪歩「またお菓子持って来ますね」カランカラン

店主「…………」

31: 2014/01/18(土) 20:44:41.64 ID:bAxlH5Qa0
店主「結局雪歩ちゃんは、緊張もしたけど収録自体は大成功。番組を見てた私も満足の良い映像が出来上がってた」

店主「ただ私がビクビクしたのは、放送された映像の中で雪歩ちゃんが匂い袋の匂いを嗅いでるシーンが映っちゃったことだったんだけど……」

店主「逆にこれがきっかけで、『萩原印の匂い袋』なんてものが発売されることに。もちろん緑茶の香り」

店主「何が起こるか、分からないものね……。それに、このお陰で雪歩ちゃんはお茶のイメージが強くなったみたい」

店主「ここまでプッシュされたら、雪歩ちゃんとお茶はもう切っても切り離せない存在ね」

店主「これはもう、お茶屋さんかお茶農家の人とコラボするしかないっしょ→」

Next→「喫茶『アイドル』に集うアイドルたち」―case3.5 黒井崇男

32: 2014/01/18(土) 20:45:44.05 ID:bAxlH5Qa0
今日の分はこれで。
次回からは複数人のパターンも。

33: 2014/01/18(土) 20:46:22.26 ID:zTgbHCFc0
乙 期待してます

引用: 「喫茶『アイドル』に集うアイドルたち」