前回:【喫茶『アイドル』】ヴォルフ・アンド・ハウンド
190: 2014/02/16(日) 18:27:35.05 ID:p61ciJCa0
店主「昨日の敵は今日の友、なんて言葉がある通り、敵味方なんて関係は、案外簡単に覆るものなのよね」

店主「例えば、共通の敵を見つけた時とか、本気の戦いでお互いを分かり合った時とか」

店主「そうね……前者の場合、敵は大きければ大きいほど良いかな」

――17th person 『電脳歌姫小町』

伊織「きーっ! なんなのよもー!」カランカラン

あずさ「まあまあ伊織ちゃん」

店主「おおう、入店早々荒れまくりね」

伊織「マスター、オレンジジュース!」

亜美「あ、亜美もオレンジジュース」

あずさ「じゃあ私もオレンジジュースにしようかしら」

店主「はい、オレンジジュース三つ」

店主「……で、伊織ちゃんはどうしてそんなに荒れてるの?」

亜美「亜美たち今日、オーデ落ちちゃったんだYO」

店主「えっ、竜宮小町が落ちるオーディションってどんだけ難関なのよ」

伊織「全然難関でもないわ……至って普通のオーディションよ」

あずさ「だから、律子さんも私たちに任せて同行しなかったんだものね」

伊織「でも落ちたのよ!」

店主「相手が悪かったの?」

あずさ「ええ、確かに……ああいうタイプのアイドルは初めてで、対策とか無かったんですよね」

亜美「正直反則だと思ったYO」

店主「なんてアイドル? 竜宮小町を押しのけて合格するようなアイドルなら、名前くらいは知ってるはず……」

伊織「確か、名前は――」カランカラン

凜「…………」ドヨーン

店主「あ、凛ちゃんいらっしゃ……凛ちゃん?」

凜「ああ、マスター……ミルクティー貰える?」

店主「はい、紅茶M一つ」

あずさ「……? あら、もしかして、さっき同じ会場に居た……?」

凜「……? あ、竜宮小町の……」

店主「えっ、同じ会場って……同じオーディション受けてたの?」

亜美「あ、そういえば居た気がする」

店主「……ってことは、凛ちゃんもオーディション落ちて落ち込んでる感じ?」

凛「」ズーン
ぷちます!(12) (電撃コミックスEX)

191: 2014/02/16(日) 18:43:18.71 ID:p61ciJCa0
伊織「……アンタ、オーディションのときはあと二人居なかった?」

凛「奈緒と加蓮はオーディションのあとすぐに帰った。やっぱり、自信のあったオーディションで三位じゃあ反省会する空気にすら……」

店主「三位……竜宮小町が二位?」

伊織「そうよ。一応、全力は尽くしたつもりだったのに……!」

あずさ「足を引っ張っちゃったかしら……」

亜美「亜美たちは竜宮小町として全力だったっしょ、あずさお姉ちゃんは足引っ張ってなんかないYO」

凛「私も……奈緒も加蓮も、精一杯やったつもりだったんだけど……」

店主(あれ……? 私の店ってこんな暗い感じだったっけ……『idle』の名にふさわしくない空気よ)ドヨーン

店主「ところで、さっき伊織ちゃんが言いかけた、そのオーディションの合格者って、なんて名前なの? やっぱりトリオユニット?」

伊織「いえ、ソロよ」

亜美「見方を変えれば何人ものユニットだけどね」

店主「?」

あずさ「名前は、そう……確か」

凛「……『初音ミク』」

店主「……え?」

伊織「楽器からジェット機まで作っちゃうような会社がその技術を応用して作った、歌唱用アンドロイド」

あずさ「ボーカリストアンドロイド、略してボーカロイド……だったかしら」

亜美「あれは反則っしょ→……ダンスもボーカルも完璧、ヴィジュアルも自由自在だよ」

凛「機械独特の不自然も凌ぐほどのパフォーマンス力……あれに勝てないと、この先厳しいのかも」

店主「アンドロイド……人工アイドルなんて、まるでどっかで聞いたようなフレーズね」

亜美「……そうだ、マスター。この店ってテレビないの?」

店主「あるわよ?」

亜美「あのオーデ、飛び入り生放送番組のオーディションだから、今テレビ点けたら見れるかも」

店主「成程、チャンネルは?」カチッ ピッ

伊織「ブーブーエスよ」

店主「ブーブーエス……っと」

192: 2014/02/16(日) 18:58:04.46 ID:p61ciJCa0
TV『https://www.youtube.com/watch?v=TYDU2d9S-Vk


店主「」

伊織「悔しいけど、負けたのは事実だわ。今は、あれにどう勝つのか考えないと」

あずさ「向こうが機械なのを利用して、人間らしい点で戦う……とか?」

亜美「でもでも→、アレを気にしすぎてほかのライバルに負けたら意味ないっしょ→」

店主(機械独特の不自然さ、確かにあるけど……あの見惚れるようなパフォーマンスの前では微々たるものね)

亜美「やっぱ、せーこーほーで勝てないと駄目なんじゃあ……」

伊織「そうは言ったって、今日まさにその全力の正攻法で負けてきたんじゃない!」

亜美「でも下手な変化球投げたって簡単にホームランだYO!」

あずさ「二人とも、落ち着いて……」

凛「…………」ジッ

店主「……凛ちゃんは、なにか掴めそう?」

凛「まだ、分かんない。けど、トップアイドルになるためにはアレを越えなきゃいけないから、絶対に勝つ」

店主「成程。でも、一人で背負い込んだりしないことよ?」

凛「?」

店主「今すぐじゃなくていいけど、どうしようもないと思ったら仲間に頼らないとね。ほら、あっちだって……」

亜美「分かったYO! そんなに変化球が投げたいなら、亜美がミクの真似して機械っぽく歌うもんね!」

亜美「そうだ! 一位の初音ミクを引きずり下ろすって意味で、『下克上』ってタイトルで曲作ってもらおう!」

伊織「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ! わざわざ相手の土俵に登ってどうするのよ!」

亜美「じゃあどうすんのさ!」

伊織「それを考えるんじゃない!」

あずさ「まあまあ」

店主「喧嘩しているようで、アレはより高みを目指すための『研磨』だから。刃を削るのに一枚の刃だけじゃ無理でしょう?」

凛「…………」

亜美「なにさ! 良い案も出てないのに、亜美の案にケチつけんの!?」

伊織「アンタの案がしょうもないからでしょ!」

凛「……いや、喧嘩してるようにしか見えないんだけど」

店主「あるぇー?」

194: 2014/02/16(日) 19:24:40.35 ID:p61ciJCa0
亜美「そういえば、あずさお姉ちゃんの意見はまだ聞いてないよ」

伊織「あずさも意見の一つや二つ出しなさいよ」

あずさ「そうねえ……思い付かないわあ」

亜美「」ガクッ

伊織「マイペースも良いところね……」

あずさ「あ、そうだ、凛ちゃん……で良かったかしら」

凛「え? あ、はい」

あずさ「凛ちゃんはどう思う? アレに、勝てると思う?」

凛「…………」

伊織「ちょっとあずさ何考えてんの! あれだってライバルには変わりないのよ?」

あずさ「ここで会ったのも何かの縁だと思わない? 一緒に考えれば、勝つ方法が分かるかもしれないわよ?」

凛「……私は」

店主「…………」

凛「まだ具体的な対策は分からないけど、なにもかも完璧なアイドルなんて居ない……それは、ヒトもアンドロイドも同じだと思うから」

凛「どれだけ完璧に見えても、きっとどこかにほころびがあるはず。それに重ねるように自分たちの全力を出せれば……」

あずさ「……だ、そうよ?」

伊織「ほころびねぇ……例えばどんなのかしらね、あの完璧超人みたいなアンドロイドの弱点って」

亜美「錆びると動きが鈍くなってダンスができなくなるとか!」

伊織「手入れくらいされてるでしょう!」

あずさ「じゃあ、手入れを定期的にしないとお肌がボロボロに……嫌だわ、手入れしないと……」

凛「ブーメラン……?」

ワイワイガヤガヤ

店主(とりあえずさっきまでの暗い空気は無いわね……もう四人とも、一人の『ライバル』に対抗するために燃え上がってるわ)

196: 2014/02/16(日) 19:39:28.37 ID:p61ciJCa0
店主「はい、オレンジジュースと、ミルクティー」

伊織「ん、ありがとう」

あずさ「全然分からないわねえ……弱点」

亜美「くそっ! もう最終兵器リッチェーンを!」

伊織「それ歌関係ないじゃない!」

凛「うーん……でも、絶対にどこかに……ん?」ブーブーブー

凛「なんだろう、メールが……って、奈緒から」

店主「奈緒ちゃんから?」

凛「……! そうか、減衰期……!」

亜美「なになにどったの→?」

凛「いや……アンドロイドなら、歌は全部プログラミングされたデータだから、いつも全く同じ歌い方で、観客の飽きも早いはず、って」

伊織「! 成程……」

あずさ「でも、飽きが来る前に新曲を発表されたら関係ないんじゃあ……」

店主「いや、それはないんじゃないかな」スッ

凛「? これは……?」

伊織「何々……? 「『初音ミク』のアイドルアカデミー大賞参戦に関するプロデュース規定」?」

店主「内容を要約すると、本年度のアイドルアカデミー大賞に参戦するため、アカデミー規定通り「一年間に発表する曲数は5曲まで」ってことらしいわ」

亜美「……ってことは! 減衰期は絶対に避けられないっしょ!」

凛「しかも、これよく見ると「新曲公募に際してDTMデータ販売の実施」って」

あずさ「DTM……?」

店主「デスクトップ・ミュージック、つまり、パソコンや電子楽器上で演奏を行う音楽ってところかな」

凛「音源データが一般配布されたら、公式の曲以外にも『初音ミク』の音源で曲が溢れかえる。そうなれば……」

亜美「人気が分散して、アイドル『初音ミク』が見劣りする可能性も……?」

店主「見つけたんじゃない? 弱点」

197: 2014/02/16(日) 19:57:46.44 ID:p61ciJCa0
伊織「ちょっと待って、仮にアレが5曲フルに発表した場合、一番飽きが来ているだろう時期を算出するわ。誰か紙とペン貸して」

凛「私持ってるけど。はい」スッ

伊織「ありがとう。えーっと、アイドルアカデミーエントリーまでの期限と曲の発表時期を……」カリカリ

亜美「これは……勝ち目が見えてきたかも」

あずさ「でも、ちょっと卑怯な気が……だって、もしその、DTM? の配布がなければ勝てなかったかも……」

店主「いや、わざわざ新曲を公募にしたのは、製作者側がこれ以上のプロデュースに手を入れられないってことかもしれない。ということは、それはそれで弱点なのよ」

凛「根を腐らせて木が朽ちる、か……船頭多くして船山に登る、か……どちらにせよ、メリット・デメリットの大きな話だったってこと?」

亜美「そっか、亜美たちで例えるなら、仕事のできないプロデューサーが一人いるのか、訳分かんないくらいプロデューサーが一杯いるか、ってことだもんね」

あずさ「一杯プロデューサーさんが居たら、プロデューサーさん同士で喧嘩しちゃいそうねえ。さっきの亜美ちゃんと伊織ちゃんみたいに」

亜美「あ、あれは……そう、仙田拓馬って奴だYO!」

店主「切磋琢磨ね、誰よセンダタクマって」

凛「なにはともあれ、弱点を見つけたならそこを突いて『初音ミク』より上に行くしかないね」

伊織「……出たわ。私たち竜宮小町の人気減衰データから考えて、アレの曲にファンが飽きはじめるのは発表から二ヶ月……最も飽きが来るのは三ヶ月過ぎたころね」

あずさ「ニヶ月……かなり早いわね」

伊織「どうやったってファンの飽きは回避できないわ。で、ファン離れを最低限に抑えるために考えられる新曲の発表タイミングは今から二ヶ月半前後よ」

凛「じゃあ、私たちは二ヶ月後辺りに新曲を発表すれば……」

伊織「ええ、勝てる計算だわ」

亜美「なんかよく分かんないけど、勝てそうな気がすんね」

店主「……でもさ、それだと、凛ちゃんのトライアドプリムスと、伊織ちゃんの竜宮小町で新曲が被るわよね?」

あずさ「あら……どうしましょう」

凛「……そんなの、決まってるよ」

伊織「ええ、当然……ね」

凛「竜宮小町にも」

伊織「トライアドなんとかっていうのにも」

二人「「絶対に勝つ!」」

亜美「お~、息ぴったり」

伊織「……アンタ、なんていったっけ」

凛「凛、CGプロダクション所属アイドルユニット『トライアドプリムス』リーダー、渋谷凛」

伊織「そう。名乗る必要もないだろうけど、私は765プロ所属、『竜宮小町』リーダーの水瀬伊織よ。アンタのことは覚えておくわ」

凛「そう。言っておくけど、私は相手がどんなに先輩でも勝つつもりで行くから」

伊織「上等よ、かかってきなさい。にひひっ」

凛「ふふ」

198: 2014/02/16(日) 20:05:46.37 ID:p61ciJCa0
店主「昨日の敵は今日の友。今回の場合は、読みは同じだけど『昨日の敵は今日の強敵』ってカンジかな」

店主「CGプロダクション筆頭ユニットと、765プロ筆頭ユニット……中々面白くなりそうだわ」

店主「そうそう、件の『初音ミク』だけど、読み通り減衰の早いタイプだったみたいね。ネット上での爆発的な人気とは裏腹に、新曲の発表が少ないアイドル『初音ミク』は落ち目」

店主「それに合わせてぶつけられた新曲には、流石の「電子の歌姫」といえど勝てなかったようね。で、その新曲だけど」

店主「トライアドプリムスと竜宮小町の新曲は、僅かな差で竜宮小町の販売枚数が勝利。その後のオーディションも合格したらしく、王者の風格を見せたってところね」

店主「ルーキーのトライアドプリムスには今後に期待ね。っと、そういえば……」

店主「王者の風格……765プロでは、竜宮小町よりも似合う子が居たわね……」

Next→『普通とは一体』

199: 2014/02/16(日) 20:07:41.98 ID:p61ciJCa0
本日の分、これにて終了です。前に黒井社長編を昼間に書いて夜に本編ってことはあったけど、一日に本編二話書いたのははじめてでした。
奈緒と加蓮はいまいちキャラが掴めてないから凛に一人で来てもらいました(^q^) 勉強不足です(^q^)

次回は……もうタイトルで誰が来るのかバレバレかなあ。それではまた次回

205: 2014/02/16(日) 21:23:51.00 ID:DVGvtogh0
次回はあの二人かな? 期待

引用: 「アイドルの集う喫茶『アイドル』」