88: ◆TDuorh6/aM 2017/02/07(火) 18:41:33.82 ID:EHdGkfvBO

89: 2017/02/07(火) 18:42:05.90 ID:EHdGkfvBO

肇「畳って、いいですよね」

肇「夏は冷たくて、冬は暖かくて」

肇「和室自体、アパートは難しいですがやっぱり素晴らしいものです」

肇「そう言えば、昔中学生の頃。体育で柔道をする時、体育館に畳を敷いてやっていたんですよ」

肇「でも時たま、ふざけた男子が畳を高く積み重ねて遊んでいて」

肇「不安定だったからか、倒れてぶつかって怪我をしている人もいました」

肇「そう。畳は敷いてあるもの、なんて一般常識ですが」

肇「そんな固定概念が、ひっくり返る事もあるんです」

肇「…空、雲ってきましたね」

肇「傘、差しましょうか」

肇「降ってくるものが、雨とは限りませんが」


「畳返しの天気予報」

アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(3) (電撃コミックスEX)
90: 2017/02/07(火) 18:42:36.91 ID:EHdGkfvBO


人間誰しも、行き詰まりを感じることはあると思います。
学力の伸び悩みや短距離走のタイムの伸び悩み。
絵を描こうにも、文章を書こうにも、どうにも筆が進まなかったり。
気分的な問題だったり、どうしようもない問題だったりと色々ありますが。
兎にも角にも、前へ進めない事がありますよね?

そう言えば、短距離走だったりのタイムって、実際は縮むな筈なのに伸ばすと言いますよね。
いえ、あれはきちんとした理由が…っと。
話が逸れましたね。

私の趣味は陶芸で。
私は今、アイドルをやっています。
ですがその両方で、行き詰まりを感じていたのです。

どうにも、思った通りの器が出来上がらない。
どうにも、満足のいくパフォーマンスが出来ない。
どうにも、納得いく形に仕上がらない。
上手くいかないのが悔しくて挑んで、また失敗の繰り返し。

何度も何度と失敗を積み重ねて、その先に成功がある事は知っています。
けれど、ただひたすらに同じ事を繰り返すだけでは。
きっと前へは進めない。
その為に何か、きっかけが欲しかったんです。

ですが、私個人が願ったところでこの世界が何か変わる訳もなく。
朝起きてレッスンを受けて夜眠り。
特異な事が起きる事も特になく、日常はいつも通りに前だけに進み。
私一人だけ、取り残されてしまった様な感覚になりました。

何か、特別な事が起きないかな。
何か、日常に変化があれば。
何か、普段とは違う日を過ごせたなら。

疲れて畳の上で寝転がり。
そんな事を考えているうちに、私は眠りに落ちていました。



91: 2017/02/07(火) 18:43:25.17 ID:EHdGkfvBO



「…はっ…寝てしまいましたか…」

畳の心地良さは、もはや魔力ですね。
まだ重い瞼を擦り、ゆっくりと身体を起こします。
そのままルーチンワークになっている、テレビをつけて天気予報の確認。
雨がふるのであれば、洗濯物を取り込んでおいたり早めに出なければいけませんから。

その時、ふと。
何か、違和感を覚えました。
なんとなくですが、床が硬いんです。
いえ、柔らかい床ってどうなんだ?と言われたらそれまでですが。

テレビの起床予報士は、いつも日本地図の前で低気圧の移動や温度の変化を解説しています。
今日の東京の天気は…

『今日は全国各地で畳です。みなさん、ご注意下さい』

「…は?」

辛辣というか、間の抜けた声が出てしまうのも仕方ありません。
今日は、全国各地で…畳?
何を言っているのか分かりません。
畳なんて天気は、当たり前ながら聞いた事がありませんでしたから。

え?畳?
畳を干す絶好の日和と言う事でしょうか?
これを機に畳を買い換えようと言う、畳屋の宣伝でしょうか?
それとも本当に、畳が降ってくるんですか?

意味がわからず、息を吐きながら顔を上へとむけました。
情報を整理しようとして、思考を回そうとして。
そして、私は。

天井に張り付いている、床に敷かれていた筈の畳を目にしました。



92: 2017/02/07(火) 18:44:27.51 ID:EHdGkfvBO



慌てて外に出るも、他の人たちが慌てふためいている様子はありません。
誰もが当たり前の様に、買い物袋やスマートフォンを片手に歩いています。
一体、なんだったんでしょう…?
首を傾げていると、フレデリカさんが此方へやってきました。

「へーい肇ちゃん!げんきー?現金?現役?」

「私は現役でアイドルですが、元気とは言い難いですね…それと現金ではありません」

「あれー?肇ちゃんなら畳くらいぶつかっても返せそうだけど、どこか怪我しちゃった?」

「畳が飛んできたら、普通誰でも大怪我しますからね?…え?」

畳がぶつかっても、と言ったという事は。
畳に関して、何か知っているんでしょうか?
フレデリカさんの事だから、てきとう言っているという可能性もありますが。

「畳って、畳に何かあったんですか?」

「えー、肇ちゃん天気予報みてないの?そんなんじゃパリジェンヌになれないよー?」

「なろうとも思わないので結構です。それで、本当に畳がどうなっているんですか?!」

「だからさー、今日は畳だよ?畳が飛んでっちゃうんだから、肇ちゃんは怪我してないかなーって」



93: 2017/02/07(火) 18:45:13.21 ID:EHdGkfvBO



フレデリカさんの話を、ようやく要約出来ました。
つまるところ、今日は畳が空へと飛んで行ってしまう日だという事。
天気予報でもやっていたように、雨や雪が降るではなく床に敷いてあった畳が空へと浮かび上がっていく。
そんな天気の日なのだ、という事。

…意味がわかりません。
当然、最初はフレデリカさんを疑いました。
けれど、今朝の光景を思い出し。
そして…

「みてみてーほら、スタイリッシュ畳返しみたい!」

フレデリカさんの指差す方を見れば、中学校か高校の体育館の窓から大量の畳が飛び出して行きました。
おそらく、柔道用に体育館の床に敷く畳なんでしょう。
それが、まるで風船の様にぶわぁっと空へ空へと浮かび上がってゆきます。

もう、私の脳がオーバーフローしそうでした。
まるで意味がわかりません。
ですが、周りの人達は誰一人として驚いておらず。
まるでそれが当たり前の光景の様に、いつも通りの行動をしており。

私は、難しい事を考えるのはやめました。



94: 2017/02/07(火) 18:45:55.08 ID:EHdGkfvBO



レッスンを終え家えと帰ると、畳は未だに天井にはりついていました。
天気と言えば空から何か降ってくるものだとばかり思っていましたが。
そんな常識が、まるで畳の様にひっくり返ってしまった世界へと迷い込んでしまったのでしょう。
この世界では、きっと空へ向かって飛んでいくものを天気と言うのでしょう。

確かにまだ不安はありますが。
けれど、それよりもむくむくと楽しみが湧き上がっていました。
今まで見た事のない現象を目にしている。
ありえなかった筈の、常識外れな光景。
それは私にとって、大きな変化をもたらしてくれる筈です。

常識にとらわれず。
いつまでも同じ事を繰り返すだけの日々から抜け出し。
違った観点や価値観や概念を手に入れる事で。
きっと、新しい自分を見つけられる筈です。

ドキドキしながら、テレビをつけて。
明日の天気予報を確認します。

95: 2017/02/07(火) 18:46:25.11 ID:EHdGkfvBO


『明日は、全国各地でチラシとゴミ袋です』

「…ふふっ…すごい、すごいです!」

ワクワクしながら、明日の天気を楽しみにしました。
一体、どんな光景が見られるんでしょうか。
気になって気にって、仕方がありません。
全てが新しいこの環境が面白くて、私は気分を冷ます為に窓を開けました。

ガサゴソ、ガサゴソ

外から、ビニール袋の音が聞こえました。
一体なんでしょう?
気になって外を覗くと、沢山の人がビニール袋を抱えて歩いていました。
そしてそれを、近くの電信柱の元に投げ捨てて帰って行くのです。

…不法投棄、ではないですよね?
見れば、近所の殆どの人がやっていますし。
と、そこで。
先程の天気予報を思い出しました。

明日は、チラシとゴミ袋。
つまり、外にゴミ袋を出しておけば。
勝手に空へと飛んで行ってくれるのです。
逆に、家の中に置いておくと、今の私部屋の畳の様に天井に張り付いてしまいますから。
天井の高い家でそうなってしまっては、取れなくて大変ですからね。

成る程、こんな常識外れの世界だからそ。
普通ではありえない事が、常識になっている、と。
ならば私もこうしてはいられません。
早く、ゴミを纏めて外に捨てなければ。


96: 2017/02/07(火) 18:47:09.16 ID:EHdGkfvBO



翌日起きれば、外に捨てたゴミ袋がなくなっていました。
周りを見渡せば、空へと浮かび上がっていくゴミ袋と路上に落ちていたチラシ。
汚い筈なのに、とても綺麗に写って。
思わず写真を撮りたくなってしまいました。

その日のダンスレッスンは、とても上手くいきました。
新しい事満載な世界で、楽しさが心を渦巻き。
おかげでモチベーションとテンションが高く、終始笑顔で。

時間がかなり余ったので陶芸教室にも行ってきました。
少し形は崩れてしまいましたが、なかなかの出来ではないでしょうか。
普段よりも上手いとは言い難いですが、やはり楽しいと言う思いは器にこもるみたいです。
満足げに家へと帰ると、天井に張り付いた畳がお迎えしてくれました。

『明日は、カーペットです』
『明日は、すのこです』

毎日が新鮮で、少し不便になる事もあるけれど楽しい日々。
ですが、そんな非日常な世界で。
その世界でも更に非日常な事が来た時、私はとんでもない世界に来てしまったのだ、と。
改めて、気付かされてしまいました。


97: 2017/02/07(火) 18:47:51.89 ID:EHdGkfvBO



明日は、どんな天気かな。

ピッ、と。
テレビをつけました。
チャンネルをニュースに合わせて…
そんな事をしなくても、つけたチャンネルはニュースをやっていました。

ですが、気象予報士の人の顔は、何処か曇っています。
一体、何かあったんでしょうか。

『…明日は、線路と電車です。みなさん御注意下さい』

…え?線路と、電車…?
テレビの端に映った速報をみれば、既に全国各地の電車は運行を中止し。
線路の近くの住人は避難を開始しているとの事。

おそらく、これはこっちの世界の天気による災害なのでしょう。
雪や台風はない代わりに、電車と線路が飛んで行ってしまうなんて。
下手したら、いえ、下手しなくても。
世界が大変な事になってしまいます。

ですが、私が何かを出来るわけも無く。
不安に溺れ、眠りにつきました。



98: 2017/02/07(火) 18:48:24.05 ID:EHdGkfvBO



翌日起きてすぐテレビをつけました。
どのチャンネルも、同じニュースで持ちきりです。
電車が浮かび上がっていってしまった事による、渋滞や事故。
浮かび上がっていく途中に電線を巻き込んでしまい火災や停電。
慌ただしく、ニュースキャスターが次々と舞い込んでくるニュースを呪文の様に唱えていました。

事務所へ行こうにも、電車がないのでどうしようもありません。
おそらくこんな日にタクシーが捕まるともおもえませんし、下手したら事務所へ来ている人の方が少ないでしょう。
仕方がないので、家でニュースを見ていました。

こんな時、一人で家にいなければいけないなんて。
知らない世界で慣れない事故の情報を見続けるのが怖くなり、私はテレビを消しました。
天井では、畳が私を笑うかの様に張り付いてしまいた。



99: 2017/02/07(火) 18:49:20.12 ID:EHdGkfvBO


…んん…
気付けば、もう夜になっていました。
寝てしまっていた様ですね。
目が覚めた時、最初にこの世界へ迷い込んできて時の事を思い出しました。

…私が、非日常を望んでしまったから。
特別な何かがおこらないかな、なんて思ってしまったから。
こんな世界になってしまったんでしょうか?

だとしたら…

なんとなく、テレビをつけました。
明日の天気を確認しないと…
下手したら、怪我では済みませんから。

ニュースキャスターから気象予報士へと画面が移り変わります。
そんな気象予報士の顔は。
昨日よりも、ずっと曇っていて…

『明日は、土や泥です。みなさん、十分に御注意下さい』

…え?
泥が、土が、なくなる?
そんな事になったら…

恐怖と不安と焦りが渦を巻き、私はパニックに陥りそうでした。
テレビのリモコンを持った私の手が震えます。
うそ…うそ!
土が、泥がなくなってしまったら…!

嫌です!嫌です!そんなのいやだ!
叫んだところで、誰も反応してくれません。
それどころか、外では部屋に置いていたであろう植木鉢を外に捨てている人がいて。
それが当たり前の世界が認められなくなって。

ごめんなさい!私がこんな世界を望まなければ!
こんな事には…ならなかったんですよね!

回線が潰れているからか、誰にも連絡は通じません。
誰にも相談できません。
誰にも不安と悩みを打ち明けられません。

怖くて、辛くて、苦しくて。
ごめんなさい!ごめんなさい!
そう連呼し、叫び、涙を流し。

その瞬間。

頭に何かがぶつかり、私は意識を失いました。



100: 2017/02/07(火) 18:49:57.28 ID:EHdGkfvBO


目をさますと、当然ながら私の家でした。
見慣れた天井に、見慣れた壁。

…へ?天井?

ばんっ!と飛び起きると、やはり天井は天井でした。
つまり。
昨日まで天井に張り付いていた畳が、剥がれている事になります。
ぐるぐると部屋を見回すと、畳が落ちていました。

「…ふふっ…ふふふふふっ…!」

別に、頭をうっておかしくなったわけではありません。
畳が部屋に落ちているのがおかしくて。
戻ってこれたのが嬉しくて。
土や泥が飛んでいかないのが嬉しくて。

一人、大笑いしてしまいました。



101: 2017/02/07(火) 18:50:59.95 ID:EHdGkfvBO


「なんて不思議な事があったんです」

「ふーん、フレちゃんも空飛んでみたかったなー」

「もう、あんな世界は御免です…」

レッスンを終えて、一息つき。
今まで私が体験してきた世界のことを、フレデリカさんに話してみました。
あれはもしかしたら、夢だったのかもしれません。
それでも、人に話すことでさらに安心しました。

外では雨が降っています。
そんな当たり前の天気が嬉しくて。
ステップを踏む様に、傘をさしてスキップしていました。

「でもさー、怖いよねー」

「もちろん怖かったです。だって、電車が飛んで行ったり

「そうじゃなくってさー」

ぺた、と。
私のビニール傘に、何かが張り付きました。
何処かから飛んできたのでしょうか?
これは…チラシ?

遠くで、ガサッ、と。
ビニール袋が落ちた音がしました。

「だって、もしかしたら降ってくるかもしれないでしょー?」




102: 2017/02/07(火) 18:52:42.49 ID:EHdGkfvBO

終わり
文香の話は、途中と最後の語りをしている文香がどちらなのか、を考えてみると面白いかもしれません
どちらとも取れるからこそ面白いものですからね

103: 2017/02/07(火) 20:13:13.31 ID:o6NhPMLEo
あれだな…星新 一の穴の話を思い出したな


引用: 世にも奇妙な346プロ