234: 2017/03/02(木) 20:45:23.08 ID:aR7RCcIz0
前回:【モバマス】輝子「禁じられたメール」

モバP「社会生活、もとい人付き合いってのは、気疲れの連続だ」

モバP「波風を立たせないために本音を押し殺さなきゃいけない」

モバP「番組やライブのスタッフ、スポンサー……そして何よりも事務所のアイドルたち」

モバP「表ではニコニコしていても、腹に一物抱えてるのが人間だからなぁ」

モバP「なんて、うちの事務所のみんなは仲が良いから心配してないけど」


「正直者」
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(3) (電撃コミックスEX)
235: 2017/03/02(木) 20:47:51.60 ID:aR7RCcIz0
「プロデューサー、ずいぶんのんびりしているねぇ」

「もうすぐ打ち合わせだから急いでるくらいだっての……ん、その手に持ってるの何だ?」

「これ? 何でも正直に話しちゃう薬だよ」


事務所の廊下で出くわした志希がこんなことをいうものだから、思わず足を止めてしまう。
いままでも気分が高ぶる香水だとか、妙なものを作ってきてはいたが。

正直にねぇ……俗っぽい言い方をすると自白剤ってやつか。
どんな仕組みかは気になるが、俺の頭じゃ理解できる気がしないので聞かないでおく。

コルク栓をした試験管を突き出すように持ちながらにゃははと笑う志希は、新しいおもちゃを自慢する子供そのものだ。
彼女が笑うと試験管の中の液体が波打つ。色は透明で、見た目はただの水にしか見えない。

236: 2017/03/02(木) 20:51:05.36 ID:aR7RCcIz0
「で、それがどうした。まさか俺にくれるのか?」

「もちろん、キミのために作ったんだから好きにしちゃってー」

「冗談で言ってみただけなのに、なぜ俺のため……あ、やべ、時間が!」


思わず試験管をひったくるように受け取ると、小走りでその場を後にした。
向かう途中、気になって栓を抜き嗅いでみるが、刺激臭は一切しない。完全な無臭だ。
眉唾ものだが、口にすること自体が危険なものを悪戯に渡す奴でもないだろう。
俺をからかうためにただの水を入れたのなら、それはそれで構わないわけで。

これからニュージェネレーションの3人と打ち合わせの予定だ。
騙されたと思ってちょっと使ってみるか。
再び栓を閉め直したそれをスーツの内ポケットに滑り込ませてから、応接室のドアを開いた。

237: 2017/03/02(木) 20:56:03.90 ID:aR7RCcIz0
………
……


「――さて、話すことはこんなもんか。ところで、3人ともこの後の予定は?」

「えっと、特にないですけど……」

「だから終わったらみんなでご飯食べに行こうって思ってたよ?」

「で、その言い方は何かあるんだ」

「いや、ちょっとした面談がしたくて。ひとりずつがいいから、そのぶんそんなに時間もかけるつもりじゃない」


多感な年ごろの少女たちがユニットを組むことは、可能性とともに危険性もまた孕む。
不仲で裏では足の引っ張り合いをしたり、個人の人気の差から上下関係が生まれていじめに発展したり……。
内部の人間関係の軋轢が原因で解散するアイドルユニットというのも、この業界にいて聞かないわけじゃない。

とはいえ、この3人の仲が悪いとは到底思えないが。
今後からかうネタのひとつでも出たらいいと、その程度の気持ちだ。
そもそも薬が本当に効くのかも怪しいしな。


「おっと、これは緊張してしまいますなぁ」

「改めて面談なんて言われると……な、なにかあるんですか?」

「今後のプロデュースの参考する簡単なアンケートだと思ってくれれば」

「ふぅん、そっか。じゃあ早くやって終わらせようよ」

「それじゃあ卯月、凛、未央の順で。2人はちょっと席を外してくれ」

238: 2017/03/02(木) 20:59:37.72 ID:aR7RCcIz0
「コーヒー淹れてきたから飲んで。打ち合わせから続いてだから疲れたろ?」

「あ、はい。いただきます」


例の薬を盛ったコーヒーは傍目ではまったく区別がつかない。
味を知ることはできないが、口を付けた卯月の顔に変化はないので問題なかったのだろう。

どれくらいで効き始めるのかもわからないので、切り出すタイミングに困る。
適当な質問と雑談を交わして様子をみよう。


「人気も出て忙しくなってきたが、無理してない?」

「無理してますよ、もう頑張りたくないです!」


「え?」

239: 2017/03/02(木) 21:03:02.72 ID:aR7RCcIz0
予想外すぎる返答に、開いた口がふさがらない。
対する卯月はなぜ驚いているんだろうとでも言いたげに、きょとんとしている。
言った本人はおかしいと思ってない? 
薬が効いている?
いや、そんなことよりも、これが卯月の本音なのか?


「あー、卯月は……疲れてるのか?」

「疲れてますよ? 事務所のみんなといるの、嫌ですから」


まただ。それはあまりに突拍子もなくて、笑顔で話す表情との差がありすぎて理解が追い付かない。
頑張り屋で、周りをよく見て、周りを明るくさせているあの卯月が。
その明るい笑顔と声のトーンはそのままに、拒絶の言葉をはっきりと口にした。

240: 2017/03/02(木) 21:07:18.76 ID:aR7RCcIz0
さきほどまでは賑やかで狭く感じた応接室なのに、テーブルを挟んで座る卯月がいやに遠くに感じる。
いつも見せる笑顔の裏にそんな気持ちを覗かせている瞬間がはたしてあったのだろうか。
背中に冷たい汗。
気取られてはいけない。これが卯月の本心というなら、聞いておかないと。
対策を練る必要があるかもしれない。
そのためにも、いまは情報が欲しい。


「……凛や未央のことは、正直どう思ってる?」

「凛ちゃんも未央ちゃんも馴れ馴れしく私にべったりしてきて、ウザいですね」


卯月は照れくさそうに笑って答える。


「そうか……ここだけの話にする。他に、密かに思うことがある人は事務所にいるか?」

「……プロデューサーさんだけですよ、私のことをちゃんとわかってくれるのは」

「卯月?」


「真剣に仕事に打ち込む姿、前からいいなって見てました……だから私、プロデューサーさんのことが好き、です」


なんでも正直に話されるのも、また問題が起こるものだ。
それを痛感した瞬間だった。

241: 2017/03/02(木) 21:08:43.19 ID:aR7RCcIz0
……



「卯月も未央もそこまで好きじゃないかな。でも、ユニット組んでるし仕方なく、ね?」

「2人とも自分ことばかり考えてるし。自分勝手で押しつけがましいって思う」

「あ、でもプロデューサーは違うよ。期待してるから」


……



「しまむーにしぶりん? うーん、あんまり仲良くないよー」

「楽屋とかずっと無言だし。って、プロデューサーだって知らないよね」

「プロデューサーはいつも爽やかで明るいし、話も弾むからずっと話してたいなー、なんて!」


242: 2017/03/02(木) 21:12:29.48 ID:aR7RCcIz0
3人との面談を終わらせてからしばらくの間、デスクで頭を抱えている。
つまり、俺は何もわかっていなかったのだ。

あの3人のユニットは軌道に乗ってるし、解散させるわけにはいかない。
だが内部事情を知ったいま、このまま続けることができるだろうか。
前と変わらずプロデュースができる自信がない。

さらに問題なのは、3人とも俺に明確な好意を抱いていることだ。
素直に悪い気はしないが、ユニットメンバー全員が同じ相手を好いているというこの状況は、あまりにも危険な気がする。
俺への心象を良くしようと、俺の前では仲良しを演じていたのか。
女ってのは本当に怖い。


「あ、戻って来てるね。もしかして、あの薬使っちゃった?」

「志希か……いや、使ってないよ。誰かに悪用されるかもしれないし、責任もって俺が処分しとく」


とっさに嘘をついてしまうが、黙っていた方がいいだろう。

243: 2017/03/02(木) 21:14:09.28 ID:aR7RCcIz0
それを聞いた志希はまた朝のように、にゃははと笑いながら、ならよかったと呟いく。
安堵したような、そんな志希らしくなく分かりやすい反応だった。
よかったって、どういうことだ?


「あの薬、何でも素直に、でも天邪鬼に答えるようになる薬なんだよね。私もテストで服用してたからさ、あげるつもりはなかったんだにゃー」

244: 2017/03/02(木) 21:16:40.14 ID:aR7RCcIz0
終わりです。
勢いのままに書いたので誤字等ありましたら脳内補完していただけると助かります。

245: 2017/03/02(木) 21:20:38.56 ID:Yw0BkF3Uo
仕事は上手くいくし、アイドルとのスキャンダルはありえないし、良いことずくめじゃないかね

よかったねぇ、モバP(棒)

246: 2017/03/02(木) 22:20:32.91 ID:4Ycoxafwo
これは辛い


引用: 世にも奇妙な346プロ