1: 2016/10/19(水) 21:54:58.545 ID:cHK4Fzq+0.net
― 訓練所 ―

剣士「そらっ! そらぁっ!」

キィンッ! ギィンッ!

魔法剣士「ぐっ! くっ……!」

魔法剣士(やっぱり剣の勝負じゃ歯が立たない! 魔法で活路を――)

剣士「スキあり!」シュバッ

ガキンッ!

魔法剣士「剣が……!」ボトッ

剣士「勝負ありだな」
葬送のフリーレン(1) (少年サンデーコミックス)
6: 2016/10/19(水) 21:58:54.292 ID:cHK4Fzq+0.net
魔術師「炎よ!」ゴォアァァァッ

魔法剣士「炎よ!」ボォァァッ

ゴォワァッ!

魔法剣士「ぐあっ……!(完全に競り負けた!)」

魔法剣士「だったら剣で!」チャキッ

魔術師「氷よ!」パキィィィンッ

魔法剣士「あ、足が……!」ググッ…

魔術師「勝負あり、ですね」

8: 2016/10/19(水) 22:02:41.906 ID:cHK4Fzq+0.net
魔法剣士(今日も全然勝てなかった……)

剣士「お前さぁ、やっぱり今からでも剣か魔法、どっちか一本に絞るべきだぜ!」

魔術師「ええ、剣も魔法も学ぶのはいいですが、どっちも中途半端になっています」

魔術師「神とて全ての人間を救うのは不可能ですし、魔物は人に化けている間は力を失う、といいます」

魔術師「相反する道を同時に歩もうとするのは、それだけ困難ということなのです」

剣士「ようするに器用貧乏なんだよ、お前は」

剣士「俺らみたいな稼業は、なにか“誰にも負けない武器”みたいのがないと、絶対いつか行き詰まるぞ」

魔法剣士「…………」

魔法剣士(どうせ俺は器用貧乏だよ……!)

15: 2016/10/19(水) 22:07:12.650 ID:cHK4Fzq+0.net
― 家 ―

魔法剣士「ただいま」

少女「お帰りなさい、訓練はどうだった?」

魔法剣士「剣士にも魔術師にも歯が立たなかったよ」

少女「やっぱり」

少女「ま、しょうがないよね。お兄さん、剣も魔法も二流だし」

少女「甘いんだよねー、せっかく手柄を立てるチャンスがあってもみすみす逃すタイプ」

魔法剣士「はっきりいうなよ」

少女「回りくどくいうよりマシでしょ。ご飯できてるから食べよ」

魔法剣士「ああ、ありがとう」

17: 2016/10/19(水) 22:10:14.101 ID:cHK4Fzq+0.net
魔法剣士「ふぅ、ごちそうさま」

少女「落ち込んでるのにちゃんと食欲はあるんだね。すごいすごい」

魔法剣士「ほっといてくれ」

魔法剣士「さて、師匠のところに出かけるか……」

少女「あ、おじさんのところ行くの? あの町外れでコソコソ暮らしてる怪しいおじさん」

魔法剣士「まるで不審者みたいにいうなよ。まあ……謎が多い人なのは確かだけどさ」

20: 2016/10/19(水) 22:14:46.775 ID:cHK4Fzq+0.net
― 師匠の家 ―

師匠「よぉ、どうだった? 今日はあの二人に勝てたか?」

魔法剣士「ダメでした」

師匠「ハハハ、ダメだったか」

魔法剣士「ハハハじゃないですよ、もう!」

魔法剣士「剣も魔法も中途半端だの、器用貧乏だの、ひどい言われようでしたよ」

師匠「そりゃま、しょうがねえな! 実際そうだし」

少女「ねー」

魔法剣士「ひどい……! 師匠まで……!」

28: 2016/10/19(水) 22:19:07.830 ID:cHK4Fzq+0.net
魔法剣士「俺は子供の頃、チンピラに絡まれてるところを師匠に助けられて――」

魔法剣士「師匠に憧れて、師匠のように剣も魔法も超一流な戦士を目指してたのに……」

魔法剣士「ああ……才能もないのにこんなバカなことするんじゃなかった」

魔法剣士「二羽のウサギを追いかけたら、どっちも逃がすようなはめに……」

魔法剣士「もし過去に戻れるなら、師匠のようになりたいと誓った俺を殴ってやりたい」

魔法剣士「剣か魔法、どっちかに集中しろと説教してやりたい」

師匠「まぁ……そう腐ることもねえさ」

師匠「俺の目が確かなら、お前にはお前だけの性質……いわば才能があるんだ」

魔法剣士「えっ、ホントですか!? どんな!?」

33: 2016/10/19(水) 22:24:23.327 ID:cHK4Fzq+0.net
師匠「いってみりゃ、俺の体ん中には超一流の剣士と魔法使いが一人ずつ立ってるようなもんだが」

師匠「お前の体の中には二流の剣士と魔法使いが仲良く同居してるようなもんだ」

魔法剣士「はぁ」

魔法剣士「……ん?」

魔法剣士「いやいやいや! 結局師匠は超一流で、俺は二流、ってことじゃないですか!」

魔法剣士「全然慰めになってませんよ!」

師匠「ハッハッハ」

魔法剣士「ハッハッハじゃないですよ、もう!」

35: 2016/10/19(水) 22:28:24.596 ID:cHK4Fzq+0.net
師匠「お嬢ちゃん」

少女「んー?」

師匠「お嬢ちゃんがこいつの家に住むようになってから、もうすぐ一年ぐらい経つが」

師匠「こいつはどうだ?」

少女「んー、全然見込みないね」

少女「ただし食欲だけは一流だけど。ここに来る前もよく食べてたし」

魔法剣士「どうせ俺は弱いわりによく食うよ!」

師匠「よぉーし、だったら腹ごなしに軽く相手してやる。かかってこい」

魔法剣士「お願いします!」

36: 2016/10/19(水) 22:31:37.226 ID:cHK4Fzq+0.net
魔法剣士「だあああああっ!」キンッキンッ

師匠「よっ、ほっ」キンッキンッ

魔法剣士(こっちは全力なのに遊ばれてる……!)



魔法剣士「水よ!」ザバァッ

師匠「火よ」ゴォアァァァッ

魔法剣士「届くことすらなく蒸発してく……!」



魔法剣士「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

少女「お兄さんってホント剣も魔法も二流だよねー」

魔法剣士「ほっといてくれ」

37: 2016/10/19(水) 22:35:50.982 ID:cHK4Fzq+0.net
魔法剣士「……じゃ、帰ります」

師匠「おう、お疲れ!」

魔法剣士「帰ろう」スタスタ

少女「うん」


師匠「…………」

師匠「あいつ、自分の強みに気づけば……一皮むけるはずなんだがなぁ……」


少女「…………」

40: 2016/10/19(水) 22:40:42.002 ID:cHK4Fzq+0.net
― 家 ―

魔法剣士「ハァ……。ライバルたちに負け、師匠に遊ばれ……最悪な一日だった」

少女「ほら、おいしいスープ作ったから元気出してよ」

魔法剣士「ありがとう」

魔法剣士「お前がいきなりこの家に転がり込んできてから一年ぐらい経つけど、ホント助かるよ」

少女「どういたしまして」

魔法剣士(この子、自分のこと全然話さないし、両親もどこいるか分からないし……)

魔法剣士(きっと孤児なんだろうけど……)

魔法剣士(せめて、この子が独り立ちできるぐらいまでの年まで育ててあげたい)

魔法剣士(もっと俺、強くならなきゃなぁ……)

43: 2016/10/19(水) 22:45:42.219 ID:cHK4Fzq+0.net
その後も――


剣士「今日も俺の勝ちだな!」

魔法剣士「ぐうっ……!」ハァハァ…



魔法剣士「だあっ! だあっ!」キンッキンッ

師匠「ほれ、どうしたどうした」キンッキンッ



魔法剣士「ふぅ……」

少女「お兄さん、食欲ないの?」

魔法剣士「いや、あるとも! うおおおおおお!」ガツガツ



魔法剣士「俺はこのまま器用貧乏で一生を終えるのかなぁ……」ゴロン…

少女「…………」

45: 2016/10/19(水) 22:50:10.336 ID:cHK4Fzq+0.net
そんなある日――

― 町 ―

ザワザワ…… ガヤガヤ……

剣士「どうやら、町じゅうの警備兵と傭兵が集められてるみたいだな」

魔術師「ええ、警備隊長から伝令がありましたから」

魔法剣士「こんなこと初めてだ……何があったんだろう?」

魔術師「この町になにか危機が迫ってるのかもしれませんね。たとえば大規模な盗賊団が来るとか」

剣士「盗賊団? おもしれえじゃねえか、手柄を立ててやらぁ!」

魔法剣士(俺もここらで大きい手柄を立てないと、仕事来なくなっちゃうよなぁ……)

魔法剣士(器用貧乏で貧乏になったら、ギャグにもならない)

64: 2016/10/19(水) 22:54:43.922 ID:cHK4Fzq+0.net
隊長「諸君、よくぞ集まってくれた!」

隊長「さっそく事情を説明するが、この町に巨大な竜が近づいているという情報が入った!」

隊長「今は町の近くにある西の山付近にいるという!」

隊長「もしこの町を襲撃する意志があるのなら、討伐せねばならん!」


ザワザワ…… ドヨドヨ……


剣士「竜!?」

魔術師「これはまた……驚きましたよ」

魔法剣士「なんでこんな町に……!?」


隊長「今さらいうまでもないが、竜は魔物の中でも最上級の部類に入る!」

隊長「ゆえに厳選したメンバーで臨まねば、いたずらに氏人を増やすだけだ!」

隊長「これより、メンバーの選別を行う!」

92: 2016/10/19(水) 22:57:57.182 ID:cHK4Fzq+0.net
魔法剣士(やっぱり選ばれなかった……)


隊長「では、これより西の山へ向かう! 出撃だ!」

剣士「腕がなるぜ!」

魔術師「竜を倒せば、これ以上ない手柄になりますね」

ザッザッザッ……



魔法剣士「行ってらっしゃーい」

魔法剣士「ハァ……」

148: 2016/10/19(水) 23:04:01.680 ID:cHK4Fzq+0.net
― 師匠の家 ―

師匠「ハッハハハ、そりゃ残念だったな」

魔法剣士「ハッハハハじゃないですよ、もう!」

魔法剣士「ま、訓練所での戦績を考えると、仕方ないですけどね」

師匠「俺も竜と戦ったことはあるが、はっきりいって手強い。特殊な体質を持ってる奴も多い」

師匠「もし、特殊なタイプなら……この町の警備兵程度じゃ厳しいかもしれねえな」

魔法剣士「おどかさないで下さいよ」

魔法剣士「あいつらがやられたら、この町に竜がやってきちゃうってことなんですから」

魔法剣士(竜か……)

魔法剣士(そういや昔、竜を助けたことあったっけ。元気にしてるかな、あいつ)

183: 2016/10/19(水) 23:08:46.353 ID:cHK4Fzq+0.net
― 西の山 ―

剣士「あれが竜か……! すげえ迫力だぜ!」

魔術師「全身が真っ白でなんと美しい……思わず見とれてしまいそうですよ」


白竜「ギャオオォォォォォンッ!!!」


隊長「竜は時として人に化けるほどの知能を持つと聞く! 我々の言葉が通じるはずだ!」

隊長「どうか町に近づくのはやめてくれ! 立ち去ってくれ!」


白竜「ギャオォォォォォォォンッ!!!」


隊長「聞く耳持たずか……やむをえん!」

隊長「これ以上町に近づく前に、討伐するのだ! かかれーっ!」



ワァァァッ!!!

201: 2016/10/19(水) 23:11:45.609 ID:cHK4Fzq+0.net
剣士「だああああっ!」ビュオッ

ザシィッ!

剣士「よし! たしかに硬いけど、俺なら少しぐらい傷をつけられる!」

剣士「このまま地道に攻撃すれば……!」

白竜「グルルルル……」シュゥゥ…

剣士「な、なんだと!? 傷があっという間に塞がりやがった!」

224: 2016/10/19(水) 23:14:13.037 ID:cHK4Fzq+0.net
魔術師「ならば魔法で!」

魔術師「雷よ!」

バリバリバリッ!

白竜「フシュゥゥゥ……」

魔術師「あの白い皮膚に遮られて、全く通じない……!」

258: 2016/10/19(水) 23:17:50.489 ID:cHK4Fzq+0.net
白竜「フウッ!!!」ブワッ


「うわぁぁぁっ!」 「ひいいいっ!」 「助けてぇぇぇ!」



剣士「ちょっと息を吹いただけで、みんなふっ飛ばされちまった! 強すぎる!」

魔術師「剣も魔法も通じないのでは……打つ手がありませんね……」

327: 2016/10/19(水) 23:24:43.581 ID:cHK4Fzq+0.net
― 師匠の家 ―


ワァァァ……! キャァァァ……!


魔法剣士「なんだなんだ?」

師匠「この気配……どうやら竜が町に来ちまったようだな」

魔法剣士「なんですって!?」

魔法剣士「ってことは、剣士や魔術師は!? やられちゃったんですか!?」

師匠「うろたえるな」

魔法剣士「!」ビクッ

師匠「そういや、あのお嬢ちゃんはどこにいるんだ? 家か?」

魔法剣士「今日は東にある隣町に遊びに行くっていってたので、少なくとも俺らより安全です!」

師匠「ならいい。行くぞ!」

魔法剣士「はいっ!」

370: 2016/10/19(水) 23:28:51.300 ID:cHK4Fzq+0.net
ワァァァ……! キャァァァ……!


白竜「ギャオォォォォォォンッ!!!」ズシン…


隊長「くっ……! ついに町に侵入されてしまった……!」

師匠「お前さんがリーダーだな? 状況を教えてくれ」

隊長「なんだ貴様は! 素人が出しゃばるんじゃ――」

隊長「!?」ギョッ

隊長「ま、まさか……あなたはかつて王宮の守護神といわれた……!?」

隊長「こんな町にいらっしゃったなんて! 私も昔、少しだけ王宮の警備を……」

師匠「状況」

隊長「し、失礼しました!」

399: 2016/10/19(水) 23:32:37.311 ID:cHK4Fzq+0.net
隊長「我々町の警備隊と傭兵は、西の山であの竜と交戦したのですが」

隊長「こちらの攻撃はなにをやっても通じず、町に侵入を許してしまいました!」

師匠「被害は?」

隊長「軽傷者が数名……ですが、本気で暴れられたら、甚大な被害が出ることは間違いありません!」

師匠「ふうん……」


魔法剣士(あの白い竜は……!)

魔法剣士(あれはちょうど一年ぐらい前……)

魔法剣士(西の山で一人、かっこつけて山ごもりなんてしてたら――)

…………

……

428: 2016/10/19(水) 23:36:32.384 ID:cHK4Fzq+0.net
~ 回想 ~

― 西の山 ―

魔法剣士「――ん!?」

魔法剣士「おい、大丈夫か?」

白竜「グゥゥ……」

魔法剣士「ひどいキズだ……魔物かなにかと戦ってやられたのか?」

白竜「ウウ……人間……」

白竜「……コウシテ出会ッタノモ、ナニカノ縁……」

白竜「ワタシヲ殺シ、手柄ニスルトイイ……」

白竜「タトエ氏ニカケヲ倒シタトシテモ、竜ハ大キナ手柄ニナル……」

魔法剣士「いや、さすがに……それはちょっと」

魔法剣士「そうだ! 俺、こう見えても魔法も使えるんだ! 治してやるよ!」

9: 2016/10/19(水) 23:45:43.641 ID:cHK4Fzq+0.net
魔法剣士「癒やしの光よ……」パァァァ…

魔法剣士「…………」パァァァ…

魔法剣士(時間がかかる……! なかなか治らない……!)パァァァ…

白竜「オマエ、魔法ヘタダナ……二流ダ」

魔法剣士「ほっといてくれ」

白竜「ダケド助カッタ……アリガトウ」

白竜「コノ恩ハカナラズ……」

魔法剣士「気にしないでくれ。こっちも回復魔法の練習ができたし」

…………

……

17: 2016/10/19(水) 23:48:34.303 ID:cHK4Fzq+0.net
― 町 ―

魔法剣士「おい、俺だ! 覚えてるだろ!?」

白竜「ギャオォォォォォォンッ!」

魔法剣士「ほら、あの時の二流魔法剣士だよ! お前を回復してやった!」

白竜「ギャアオォォォォォォォンッ!!!」

魔法剣士「くっ……!」

魔法剣士(ダメか……! あいつ、決して悪い竜じゃないはずなのに!)

22: 2016/10/19(水) 23:52:36.149 ID:cHK4Fzq+0.net
師匠「なに迷ってやがる。あそこまで興奮した竜に話なんか通じねえ」

師匠「倒すしかねえぞ」

魔法剣士「師匠……!」

白竜「グルルルルル……!」

師匠「…………」スゥッ

師匠「ぬんっ!」

ズバァッ!

白竜「ギャアアッ!」



剣士「うおおっ! なんつう斬撃だ! あれって魔法剣士の師匠だよな?」

魔術師「ああ見えて腕が立つらしいという噂はありましたが、まさかこれほどとは……!」

隊長「さすがだ……!」ドキドキ…

26: 2016/10/19(水) 23:55:27.293 ID:cHK4Fzq+0.net
白竜「フシュルルゥ……フゥゥゥゥ……!」シュゥゥゥ…

師匠「傷が塞がった……再生するのか」

師匠「…………」

魔法剣士「師匠、どうしたんですか!?」

師匠「こいつは俺じゃ勝てんわ」

魔法剣士「へ?」

師匠「こいつに勝てるのは……お前だけだ」

魔法剣士「なにいってんです、いきなり!?」

27: 2016/10/19(水) 23:59:43.782 ID:cHK4Fzq+0.net
師匠「俺はあの種類の竜と戦った経験がある」

師匠「あの竜は物理的な攻撃でできた傷は、すぐ再生してしまう」

師匠「なら魔法で――と考えるだろうが、あの白い皮膚に魔法は一切通じない」

師匠「つまり……剣で傷つけたとこに魔法を叩きつけて、再生を妨害するしかない」

師匠「だが、俺にはそんな芸当は無理だ」

師匠「剣で傷を作ってから、魔法を撃つまでの間に傷を再生されちまうからな」

師匠「息ピッタリの剣の使い手と魔法使いのコンビでもいりゃあいいんだが――」

師匠「お前のダチの剣士と魔術師も、そこまでの域には達してないだろう」

魔法剣士「あの竜を倒すのは難しいってのはよく分かりましたけど」

魔法剣士「俺じゃなきゃ勝てないって意味が分かりませんよ!」

師匠「お前には二流の剣士と魔法使いが同居してるって意味をよく考えろ」

師匠「もしそんな二人がいたら、どんな戦い方をするかをな」

魔法剣士「…………!」

31: 2016/10/20(木) 00:04:21.294 ID:+8T+52Tu0.net
白竜「ギャオォォォンッ!」ブウンッ

魔法剣士「わっ!」

魔法剣士(あまり積極的に動かなかったのに、こっちに攻撃してくるようになった……)

魔法剣士(町に被害を出すわけにはいかないし、この竜に悪さをさせたくもない!)

魔法剣士(師匠のいうとおり、この竜を止められるのが俺しかいないんだったら……やってやる!)

魔法剣士(俺にしかできない攻撃を思いつくんだ!)

33: 2016/10/20(木) 00:07:17.013 ID:+8T+52Tu0.net
魔法剣士(もし、ものすごく息が合った剣士と魔法使いがいたら、どんな攻撃をするだろう?)

魔法剣士(魔法使いが剣士の動きをサポート? 二人でバラバラに波状攻撃?)

魔法剣士(いや……そんな二人がいたら、もう一歩先に進むはずだ)

魔法剣士(たとえば――)

35: 2016/10/20(木) 00:11:34.279 ID:+8T+52Tu0.net
魔法剣士「炎よ!」ボワッ

魔法剣士「この魔法を……俺の剣に、乗せてみせるッ!」

魔法剣士「うおおおおおおおっ!」ブオンッ

ザシュボワァッ!

白竜「グギャア……ッ!」



剣士「マジかよ! 剣に魔法を乗せやがった! あんなの初めて見た!」

魔術師「斬撃と魔法を同時に浴びせてますから、竜もあの傷は再生できないようです!」

師匠(――これだ!)

39: 2016/10/20(木) 00:16:55.833 ID:+8T+52Tu0.net
魔法剣士(今ので、なんとなくだけどコツは掴めた……!)

魔法剣士「まだまだっ!」

魔法剣士「雷!」ザシュバリッ

魔法剣士「水!」ズバシャァッ



師匠(あいつはまだまだ剣も魔法も二流だが、決して器用貧乏なんかじゃない)

師匠(剣にも魔法にも全く癖がないんだ。絶妙に二つが同居してやがる)

師匠(俺は剣も魔法も高いレベルにあるが、それゆえどっちにも癖があって、互いにケンカしちまうから)

師匠(剣に魔法を乗せるなんて芸当は到底不可能だ)

師匠(あいつ……俺ができなかったことを……! 俺の夢を叶えやがった!)

師匠(ふん……俺としたことが、ちょっと嫉妬しちまってるぜ)チッ

41: 2016/10/20(木) 00:20:59.392 ID:+8T+52Tu0.net
魔法剣士(すごい! 剣に魔法を乗せると、こんなにも威力が出るものなのか!)

魔法剣士(これが……師匠がいってた“俺の強み”だったんだ!)

魔法剣士(この技の名は――)





魔法剣士「魔法剣!!!」

42: 2016/10/20(木) 00:25:20.459 ID:+8T+52Tu0.net
……

白竜「グオォォォ……!」ガクッ

魔法剣士「ハァ、ハァ、ハァ……」


剣士「よっしゃ、追い詰めたぞ!」

魔術師「今なら急所に剣が届きます! トドメを!」


魔法剣士「…………」

魔法剣士「お願いがあるんだけど」

白竜「!」

魔法剣士「まだ動けるだろ? だったらこのまま大人しく立ち去ってくれ……頼む」

魔法剣士「俺はこれ以上、お前を傷つけたくないんだ……」

白竜「アーア、コノママ倒セバイイノニ……」

白竜「相変ワラズ、甘インダカラ……」

43: 2016/10/20(木) 00:30:18.143 ID:+8T+52Tu0.net
剣士「なにいってんだ! 生かして帰して、もしまたこの町に来たらどうすんだよ!」

師匠「いや、ああした方がいい」

師匠「竜ってのは、あれで仲間意識が強いからな」

師匠「もしここで頃しちまうと、今度は何頭もの竜がこの町に来る事態になるかもしれねえ」

剣士「……そうなんですか!」

師匠(ウソです)


白竜「騒ガセテ、ゴメンナサイ……」

白竜「モウ二度ト人里ニハ近ヅカナイト約束スル……」

白竜「サヨナラ……」ズシンズシン…



魔法剣士(ふぅ~……なんとか町も竜も救うことができた……。終わった……)

44: 2016/10/20(木) 00:34:20.522 ID:+8T+52Tu0.net
ワァァッ!!!


剣士「やったな! すげえよお前! 竜をたった一人で追い払いやがった!」

魔術師「魔法剣とは驚きです。あなたは器用貧乏なんかじゃありませんでしたね」

魔法剣士「みんな……ありがとう!」

師匠「よくやった」

魔法剣士「師匠のアドバイスのおかげですよ!」

魔法剣士「土壇場であの技をひらめくことができました!」

47: 2016/10/20(木) 00:38:42.368 ID:+8T+52Tu0.net
少女「ずいぶん騒がしいけど……みんな、なにしてんの?」スタスタ

魔法剣士「あ、お帰り。お前にも見せたかったよ、俺の勇姿を」

魔法剣士「――って傷だらけじゃないか! どうしたんだ!?」

少女「ああ、ちょっとこけちゃって」

少女「スリ傷みたいなもんだし、こんなのツバつけとけば治るよ」

魔法剣士「そうはいくか。俺が治してやる」パァァァ…

少女「……ありがとう」

魔法剣士(治してやる、といいつつなかなか全快しないな……)パァァァ…

少女「相変わらず下手ねえ。お兄さんの魔法ってホント二流だよね」

魔法剣士「ほっといてくれ」パァァァ…

49: 2016/10/20(木) 00:44:58.259 ID:+8T+52Tu0.net
― 家 ―

魔法剣士「お、今日は豪勢だな」

少女「うん、誰かさんが竜を追い払った記念。お金もいっぱい入ったしね」

魔法剣士「師匠から聞いたのか?」

少女「まあね。お兄さんにしては頑張ったじゃない」

魔法剣士「まあな。これで俺の名も一気に上がったよ」

魔法剣士「だけど……冷静になって考えてみると、なーんか妙なんだよな」

少女「……なにが?」

魔法剣士「あの竜、もし本気なら、俺なんか軽く踏み潰せたんじゃって気もするんだよ」

魔法剣士「結局、被害らしい被害もほとんど出なかったし……」

魔法剣士「まるであの竜、俺を強くするために現れたんじゃ、とすら思えちゃうんだよな」

少女「お、お兄さんの考えすぎだって。さ、食べよ食べよ」

魔法剣士「いただきます!」

52: 2016/10/20(木) 00:50:31.306 ID:+8T+52Tu0.net
その夜――

師匠「よぉ、こんな夜分にすまねえな。あいつは寝てるかい?」

少女「うん、ぐっすり。あれじゃ多分、火事になっても起きないよ」

師匠「……ありがとよ。お嬢ちゃんのおかげで、あいつは一皮むけることができた」

少女「気づいてたんだ」

師匠「そりゃ気づくさ」

師匠「話が通じないほど興奮してる竜を相手にしてるってのに」

師匠「傭兵たちに軽いケガ人しか出てないってのが、明らかに不自然だったしな」

師匠「じゃああの竜は何がしたいんだって考えたら、わりと早く正体に気づくことができた」

師匠「ま、みんなパニックになってたから、こんなこと考える余裕はなかっただろうがな」

54: 2016/10/20(木) 00:55:04.027 ID:+8T+52Tu0.net
少女「おじさんこそ、どうりで手加減してくれたと思った」

少女「おじさんは魔法剣ってやつを使えないけど、おじさんなら剣の斬撃だけで私を倒せたでしょ」

師匠「どうかな」

少女「とぼけちゃって」

師匠「ま、とにかく! これでようやく……あいつも一流の仲間入りってとこかな?」

少女「おじさんもお兄さんみたいに甘いね。お兄さんはまだまだ二流だよ」

師匠「ハハハ、まだ合格点はやれないか」

少女「そうだよ。お兄さんにはまだまだ私がついてなくちゃ」

師匠「出来の悪い弟子ですが、これからもよろしくお願いします」

少女「任せといて」

56: 2016/10/20(木) 00:59:33.409 ID:+8T+52Tu0.net
それから――

― 師匠の家 ―

魔法剣士「だああああっ! 魔法剣!」バリバリッ

ズガァァンッ!

師匠「だいぶ魔法剣を使いこなせるようになってきたが――」

師匠「総合力はまだまだだな。技を放った後がスキだらけだ」ゴンッ

魔法剣士「あだだだだだ……!」



少女「あーあ、完全に遊ばれてる」

58: 2016/10/20(木) 01:05:14.218 ID:+8T+52Tu0.net
魔法剣士「魔法剣を習得したはいいけど、まだまだ課題は多いなぁ……」

魔法剣士「剣士や魔術師とも、五回やってどうにか二回勝てる程度だし」

少女「まあまあ、お兄さんが一流の魔法剣士になるまでは私が面倒見てあげるから」

魔法剣士「一流の魔法剣士か……いい響きだ。むふふふ……」

少女「そんなしまりのない笑みを浮かべてるようじゃ、一生なれそうもないね」

魔法剣士「ぐっ……!」

少女「ま、一生なれなかったらなれないで、私はかまわないけど」

魔法剣士「おいおい、それじゃお前は一生俺の面倒見ることになるぞ……いいのかよ?」

少女「いいよ、それでも」

魔法剣士「へ?」

少女「なーんちゃってね」





~おわり~

59: 2016/10/20(木) 01:05:26.653 ID:+8T+52Tu0.net
ありがとうございました

60: 2016/10/20(木) 01:05:55.639 ID:/hWSYu7a0.net
おつ

引用: 魔法剣士「どうせ俺は器用貧乏だよ……!」