1: ◆ZzlLjbhWQ2 2013/02/20(水) 19:44:49 ID:ykIbMs8U0
「うー……、さみー!」
凍えるような冬の風に吹かれて、私は思わず叫ぶみたいにこぼしてしまっていた。
二月も下旬になったってのに、相変わらず手袋を付けてマフラーを巻いてもまだ寒い。
久し振りの地元だけど、寒波は私に容赦してくれなかった。
冬は寒いのが当たり前。
なんて前に誰かに(聡だっけ?)自分で言った気もするけど、分かってても寒いものは寒いんだよな。
「母さんもここぞとばかりにお使い頼むんだもんなー……」
寒さにやられちゃって、ちょっとだけ愚痴をこぼす。
大学一年の試験も全部終わって、バイトのシフトも丁度空いてて、
ちょっと時間が出来たから何となく帰省してみるか、と家に帰ってみたのが運の尽き。
久々に見る娘の顔を懐かしむ様子も無く、母さんは毎日私にお使いを頼んで来る様になった。
『どうせ宿題も無くて暇なんでしょ?
働かざる者、食うべからず。帰省してる間はお使い当番ねー』
とは母さんの言い種だ。
確かに暇は暇なんだけど、体良く使われてるだけの気もするぞ……。
まあ、家事をやる事自体は、結構好きな方なんだけどさ。
面倒臭くはあるけど、聡や母さんが私の料理を美味しそうに食べてくれるのはやっぱり嬉しいし。
特に最近は成長期なのか、聡の奴がとんでもない量のごはんを平らげやがるからなあ。
いくら作っても足りなくて、でも、美味しそうに食べてくれちゃって、
それが姉冥利に尽きると言うか何と言うか……で、私って意外と専業主婦向きだったりして。
「……なんてな」
つい自分で自分に乗り突っ込み。
専業主婦なんて、我ながら似合わない想像をしちゃったもんだ。
就職してる自分の想像なんてまだ全然出来ないけど、
少なくとも専業主婦だけはどうやったって私には似合わないよな。
勿論、働くって事がどういう事なのか、今の私にはまだよく分からない。
でも、折角働くんだったら、バリバリ働ける女になってやりたい気もする。
それが音楽関係の仕事だったら万々歳なんだけどな。
それにしても、就職かー。
もうすぐ二年に進級する事だし、そろそろ考えなきゃいけないんだろうか?
私の事はともかくとして、澪達は就職についてどう考えてるんだろう?
皆揃ってミュージシャンになれるといいんだけど、
澪達だってそれ以外の未来を想像してなくもないはずだしな。
2: 2013/02/20(水) 19:45:53 ID:ykIbMs8U0
澪――。
澪はどんな職業に就きたいんだろう?
小学生の頃には『夢はりっちゃんのお嫁さん』って言うような奴だったけど、流石に今は違うよな?
と言うか、今も同じだったら色々と困る。
何で私が澪の旦那さんにならなきゃいけないんだっつーの。
私だって一応女なんだから、旦那って立場は勘弁してほしい。
……まあ、それはおいといて。
うーん……、やっぱり澪が働いてる姿なんて想像出来ないな。
いや、澪だけじゃない。
唯やムギ、菖や幸、晶達にしたってそうだ。
皆、何処かで働いてる姿なんて全然想像出来ない。
もうほんの数年先には就職してるはず(……出来るよな?)なんだけど、少なくとも私にとっては遠い未来だ。
そんな先の事なんて、考えようって思う事すら出来ないよ……。
本当はもっと考えてみるべき事なのかもしれないんだけどな……。
それでも、一つだけ言える事がある。
それは私達の誰にも専業主婦なんて似合わないって事だ。
私は勿論、唯や澪、恩那組の皆も専業主婦なんて柄じゃない。
強いて言えば、ムギが専業主婦に似合うかもしれないけど、何だかそれも違う気もする。
ムギはああ見えて積極的で、色んな事に挑戦する奴だもんな。
きっと専業主婦に納まらず、私達が驚くような仕事をやっちゃうはずだ。
私の周りで専業主婦に似合いそうなタイプって言ったらそうだな……。
しっかりしてる和――もちょっと違うか。
お母さんはお母さんなんだけど、バリバリのキャリアウーマンになりそうだもんなあ、和は。
私のイメージするお母さんとはちょっと違うかもな。
となると、私の知り合いの中で一番、専業主婦って言葉が似合いそうな子は――。
「居るじゃん」
その子の顔を思い出して、私はつい笑顔で呟いてしまう。
そうだ、確かに居る。
考えてみればみるほど、その子は主婦と言うかお母さんの鑑みたいな子だった。
その顔がすぐに浮かばなかったのは、その子が年下だったからだ。
年下をお母さんとしてイメージしてみろ、ってのは流石にすぐには無理な話だよな。
だけど、一度思い浮かべてみると、もうその子の事をお母さんっぽいとしか考えられなくなった。
唯がその子に世話されてる光景は何度でも目にして来たわけだし、
かく言う私もその子にはかなりお世話になってるわけだしな。
そういや唯の奴、私と同じ時期に帰省する事になってたけど、何か言ってなかったっけ……?
「何だったっけか……?」
どうにも唯の言葉が気になり始めた私は、
傍にあった公園のベンチに買い物袋を置いてから腕を組んで首を傾げる。
肌寒い風が吹いてはいるけど、丁度木陰で風除けにもなるから落ち着いて考えられそうだ。
えーっと、何だったっけ……?
唯の奴、妙に嬉しそうで『お姉ちゃんとして頑張らなきゃ!』って鼻息を荒くしてて……。
確か、そう……、『特別な日』とか言ってたんだよな。
『特別な日』って言えば……。
もう少しで思い出せるはず――。
私がそうやって頭の中の微かな記憶を辿っていると、突然――。
澪はどんな職業に就きたいんだろう?
小学生の頃には『夢はりっちゃんのお嫁さん』って言うような奴だったけど、流石に今は違うよな?
と言うか、今も同じだったら色々と困る。
何で私が澪の旦那さんにならなきゃいけないんだっつーの。
私だって一応女なんだから、旦那って立場は勘弁してほしい。
……まあ、それはおいといて。
うーん……、やっぱり澪が働いてる姿なんて想像出来ないな。
いや、澪だけじゃない。
唯やムギ、菖や幸、晶達にしたってそうだ。
皆、何処かで働いてる姿なんて全然想像出来ない。
もうほんの数年先には就職してるはず(……出来るよな?)なんだけど、少なくとも私にとっては遠い未来だ。
そんな先の事なんて、考えようって思う事すら出来ないよ……。
本当はもっと考えてみるべき事なのかもしれないんだけどな……。
それでも、一つだけ言える事がある。
それは私達の誰にも専業主婦なんて似合わないって事だ。
私は勿論、唯や澪、恩那組の皆も専業主婦なんて柄じゃない。
強いて言えば、ムギが専業主婦に似合うかもしれないけど、何だかそれも違う気もする。
ムギはああ見えて積極的で、色んな事に挑戦する奴だもんな。
きっと専業主婦に納まらず、私達が驚くような仕事をやっちゃうはずだ。
私の周りで専業主婦に似合いそうなタイプって言ったらそうだな……。
しっかりしてる和――もちょっと違うか。
お母さんはお母さんなんだけど、バリバリのキャリアウーマンになりそうだもんなあ、和は。
私のイメージするお母さんとはちょっと違うかもな。
となると、私の知り合いの中で一番、専業主婦って言葉が似合いそうな子は――。
「居るじゃん」
その子の顔を思い出して、私はつい笑顔で呟いてしまう。
そうだ、確かに居る。
考えてみればみるほど、その子は主婦と言うかお母さんの鑑みたいな子だった。
その顔がすぐに浮かばなかったのは、その子が年下だったからだ。
年下をお母さんとしてイメージしてみろ、ってのは流石にすぐには無理な話だよな。
だけど、一度思い浮かべてみると、もうその子の事をお母さんっぽいとしか考えられなくなった。
唯がその子に世話されてる光景は何度でも目にして来たわけだし、
かく言う私もその子にはかなりお世話になってるわけだしな。
そういや唯の奴、私と同じ時期に帰省する事になってたけど、何か言ってなかったっけ……?
「何だったっけか……?」
どうにも唯の言葉が気になり始めた私は、
傍にあった公園のベンチに買い物袋を置いてから腕を組んで首を傾げる。
肌寒い風が吹いてはいるけど、丁度木陰で風除けにもなるから落ち着いて考えられそうだ。
えーっと、何だったっけ……?
唯の奴、妙に嬉しそうで『お姉ちゃんとして頑張らなきゃ!』って鼻息を荒くしてて……。
確か、そう……、『特別な日』とか言ってたんだよな。
『特別な日』って言えば……。
もう少しで思い出せるはず――。
私がそうやって頭の中の微かな記憶を辿っていると、突然――。
3: 2013/02/20(水) 19:46:48 ID:ykIbMs8U0
「こんにちは、律さん、お久し振りです」
「……えっ?」
不意に聞き慣れた声が耳に届いて、私は小さく呟いてしまっていた。
この声は丁度、私が考えていた子の声だ。
私はちょっと驚いて、声がした方向に視線を向ける。
当たり前だけどその方向には私の見知った顔があって、
瞬間、私の中で思い出そうとして思い出せないでいた記憶がはっきり形になった。
「あーっ!」
私の叫び声にその子が驚いたような表情を浮かべる。
私としても叫ぶつもりは無かったんだけど、気が付けば叫んでしまっていた。
しまったなあ……、すっかり頭の中から抜け落ちてた……。
いや、ひょっとしたら、私は考えないようにしてたのかもしれない。
だって、今日は憶えてても私に出来る事がほとんど無い日だから。
唯達にとっては『特別な日』でも、私が何かするのはちょっと変な日だから。
だから――、私はわざと唯の言葉を聞き流していたのかもしれない――。
「ど……、どうしたんですか、律さん?」
突然の私の行動にその子が動揺した素振りを見せる。
滅多に見る事が無いその子の姿。
その子にそんな姿をさせてしまった事と、
『特別な日』を忘れていた事を申し訳なく思いながら、私は大きく頭を下げた。
「ご、ごめんね、憂ちゃん。
今ちょっと忘れてた事を思い出しちゃってさ……。
騒がしちゃってごめんね、何でもないから安心して」
「そ……、そうなんですか?」
私の嘘じゃなくて嘘の言葉を聞きながら、憂ちゃんが心配そうに首を傾げてくれた。
憂ちゃんの事だ。
きっと本気で私の事を心配してくれてるんだろう。
何だか胸が痛むけど、それは自業自得かな。
でも、胸を痛ませてる場合じゃない。
まだ心配そうにしてくれてる憂ちゃんに軽く微笑み掛けながら、
私はこれからどうするべきかと頭を捻り始めていた。
偶然にしろ何にしろ、私は今日という『特別な日』に憂ちゃんと会う事が出来た。
会う事が出来た以上、私にはやらなきゃいけない事があるはずだ。
だって、今日は二月二十二日。
憂ちゃんの誕生日っていう『特別な日』なんだから――。
4: 2013/02/20(水) 19:48:14 ID:ykIbMs8U0
◇
「お待たせ、憂ちゃん。
ほら、熱いから気を付けて」
「すみません、律さん。
奢って頂いてしまって」
私が近くの自動販売機で買ったあったかいコーヒーを渡すと、憂ちゃんは礼儀正しくお辞儀してくれた。
やっぱり礼儀正しい子だなあ……。
思いながら、私は微笑んで「いいって、お詫びなんだし」って応じる。
それから憂ちゃんの隣に座って、私の分の缶コーヒーで軽く喉を潤した。
コーヒーはそんなに好きじゃないけど、自動販売機で売られてる甘いコーヒーなら結構飲める。
自分だけ飲まないのも失礼だと思ったのか、憂ちゃんもすぐに缶コーヒーに口を付けてくれた。
「あったかいですね……」
憂ちゃんの柔らかい笑顔。
釣られて私も笑顔で「そうだね」と頷いた。
憂ちゃんの前で急に叫んでしまってから数分、私は憂ちゃんにベンチで待ってもらっていた。
驚かせちゃったお詫びに、という名目で缶コーヒーを買ってくるためだ。
勿論、それは単なる大義名分だった。
憂ちゃんにベンチで待ってもらっていた本当の理由は、
憂ちゃんの誕生日を忘れてた事が後ろめたかったからだった。
いや、正確には忘れてたわけじゃないんだけどさ……。
『二月二十二日は憂の誕生日。猫の日って事とセットで憶えればいいんだよ』、
って、唯が言ってた事もしっかり憶えてるし、忘れてない。
でも、忘れてないけど、思い出してもなかった。
だって、そうじゃん?
憂ちゃんは唯――、友達の妹だ。
友達の妹の誕生日、おめでたいしお祝いしてあげたいけど、それも何か変かな、って思う。
少なくとも私は聡の友達から誕生日を祝ってもらった事は無いし、されたらされたでどう反応していいか困る。
それが普通だし、それが友達の兄弟との付き合い方だと思うんだよな。
憂ちゃんの事が嫌いなわけじゃないしむしろ好きなんだけど、深く付き合うってのも変な気がする。
距離感が掴みにくいんだよな、お恥ずかしい話になるんだけどさ……。
だったら、気にする必要なんて無い……とも思うんだけど。
でも、やっぱり後ろめたいのも確かだった。
特に憂ちゃんには高校二年の頃、唯の家でお手製の誕生日ケーキを御馳走になった事があるんだよな。
勿論、それは唯と一緒に作ったケーキだったんだけど、憂ちゃんはしっかり私の誕生日を祝ってくれたんだ。
「そういえばさ、憂ちゃん……」
私は胸がドキドキするのを感じながら口を開く。
私はただ憂ちゃんの誕生日を祝ってあげるだけ。
『誕生日おめでとう』って言ってあげるだけ。
それだけだって分かってるのに、いざとなると緊張してしまう。
「はい、何ですか、律さん?」
「えっと……、大学合格、おめでとう」
言った後で後悔した。
面と向かってお祝いした事は無かったからおかしくはないんだけど、そうじゃないだろ!
あー! 何を言ってるんだよ、私は!
大学合格もおめでたいけど、もっと言うべき事があるだろ!
しっかりしろよ、私!
5: 2013/02/20(水) 19:48:53 ID:ykIbMs8U0
「はいっ!
ありがとうございます、律さんっ!」
それでも憂ちゃんは満面の笑顔でお礼を言ってくれた。
私の言葉を素直に受け止めてる眩しい笑顔。
うう……、胸が痛い……。
でも、今更、話題を逸らすのも変過ぎるよな……。
とりあえず大学の事について話を続ける事にしよう……。
「心配してなかったけどさ、憂ちゃんが合格してよかったよ。
何度も言うみたいだけど、おめでとう、憂ちゃん。
これで来年度からうちの大学の後輩だね。
そう言えば、私達みたいに寮に入るつもりなの?」
「はい、そのつもりです。
抽選がありますから律さん達と同じ寮に入れるか分かりませんけど、
出来たら律さん達と同じ寮に入れたらいいな、って思ってます」
「そうなんだ。
うん、そうなるといいよね。
そうなったら、私や唯も憂ちゃんに勉強見てもらえるようになるしさ」
「あはっ、律さんったら」
私の冗談に憂ちゃん笑ってくれる。
いや、半分本気だったんだけどさ。
前期の単位、ちょっと落としちゃったし……。
でも、それはともかく、憂ちゃんは来年度からうちの大学に入学する。
梓と純ちゃんもうちの大学は合格してるみたいだけど、
二人とも国立の大学の受験が残ってるみたいだから、どうなるかは分からない。
二人もうちの大学に来てくれると嬉しいけど、無理強いは出来ないよな。
もし二人が違う大学への入学を選んでも、その選択を応援してあげたいと思う。
その代わり、憂ちゃんだけはうちの大学に来る事が確定してるらしい。
もし受かったとしても、国立の大学に行くつもりは無いみたいだ。
唯が嬉しそうに言っていて、梓からもメールが来たから前からそれは知っていた。
梓の奴なんか『もし私が律先輩の大学に行かなかった場合、憂に迷惑掛けないで下さいよ』って、
非常に生意気な余計な一言付きで送ってくれやがった。
まあ、梓も自分の将来の事や憂ちゃんの事を色々考えてるんだろうけどさ。
でも、四月から憂ちゃんが私の後輩になるんだよな――。
高校生と違って、大学生は上級生と一緒に授業を受ける事が多い。
ひょっとしたら、憂ちゃんと同じ授業を受ける事もあるかもしれない。
ちょっと戸惑うけど、でも、やっぱり嬉しいかな。
見知った顔と授業を受けられるってのは楽しい事だもんな。
唯だってそれを楽しみにして、憂ちゃんの合格を喜んでた節もあるしな。
あれ、そう言えば……。
6: 2013/02/20(水) 19:49:23 ID:ykIbMs8U0
「ねえ、憂ちゃん?」
私は不意に思い出して、憂ちゃんに訊ねてみる。
「はい、何ですか、律さん?」
「唯はもう帰省してるんだよね?
……って、私も唯と同じタイミングで帰省したから当たり前なんだけど」
「はい、お姉ちゃんは一昨日から帰って来てますよ」
「だよね?
だったら、あいつ、今何してるの?
ひょっとして家でゴロゴロしてたりする?
ずるいなー、あいつ。
私なんかこの寒い中、毎日お使いに行かされてるってのに……」
「あはは、違いますよ、律さん。
お姉ちゃんは家で今準備をしてくれてるんです。
それで私、ちょっと追い出されちゃってるんですよね」
追い出された……?
それは物騒だなあ、って一瞬思ったけど、
憂ちゃんの笑顔を見る限り、特に喧嘩したとかでもなさそうだ。
まあ、二人が喧嘩してる様子なんて想像出来ないんだけどさ。
だったら、喧嘩以外の理由で追い出されたって事になるよな?
それを私が訊ねると、憂ちゃんは珍しく言葉を濁した。
「えっとですね……、今日はちょっと……」
目を伏せて、憂ちゃんが苦笑を浮かべる。
何を言い淀んでるのかは私にもすぐに分かった。
今日、唯が憂ちゃんを追い出してまでやる準備なんて一つしかないじゃんか。
勿論、憂ちゃんの誕生日パーティーの準備だ。
唯と憂ちゃんにとっての『特別な日』なんだ。
それ以外にあるわけない。
でも、憂ちゃんはそれを言い出しにくいみたいだった。
憂ちゃんは一歩引いて遠慮がちな子だ。
きっと自分が今日誕生日だって事を言ってしまったら、
『祝ってほしい』と主張してるみたいで、申し訳無い気持ちがあるんだろう。
正直、いきなり友達がそんな事を言い出したら、私だってそう考えるかもしれない。
7: 2013/02/20(水) 19:50:40 ID:ykIbMs8U0
私は憂ちゃんの誕生日について、それ以上踏み込まない事も出来た。
私は憂ちゃんにとっては、単なる『お姉ちゃんの友達』だ。
『お姉ちゃんの友達』にお祝いされたって、困っちゃうだけかもしれない。
それが普通の反応だと思う。
だけど――
――私は憂ちゃんの誕生日を祝いたい。
私は憂ちゃんにとっては、単なる『お姉ちゃんの友達』だ。
『お姉ちゃんの友達』にお祝いされたって、困っちゃうだけかもしれない。
それが普通の反応だと思う。
だけど――
――私は憂ちゃんの誕生日を祝いたい。
8: 2013/02/20(水) 19:51:07 ID:ykIbMs8U0
本当はずっとお祝いしてあげたかった。
『友達の妹』の誕生日を祝うなんてちょっと変だから。
いつもお世話になってるお礼をしたかったんだ。
妙に気恥ずかしかっただけで、ずっと――。
でも、今日、私は憂ちゃんに会う事が出来た。
それは単なる偶然で、運命でも何でも無いんだろうけど、
でも、会えた事は事実だし、勝手に運命だって考えたって悪くないはずだ。
運命にしちゃったっていいはずだ。
これを私と憂ちゃんのきっかけにしちゃったって――。
私は頭に手をやってカチューシャを軽くなぞる。
私のトレードマークのカチューシャ。
私は元気でいつもプロレスごっこをやってる大雑把で適当なりっちゃんだ。
カチューシャの似合う元気な子なんだ。
それが私の全てじゃないけど、こんな時だけ遠慮してたって意味が無い。
だから、元気に祝ってあげよう、物怖じせずに。
今日だって――。
「そっか、唯は憂ちゃんの誕生日パーティーの準備をしてるんだね。
言うのが遅れちゃったけど、今日は誕生日おめでとう、憂ちゃん」
精一杯の笑顔を浮かべて――。
これまで伝えられなかった想いを込めて――。
私は今まで言えなかったその気持ちを伝える。
憂ちゃんは――。
私の言葉を聞いて少しだけ驚いた表情になったけど、すぐに笑顔になってくれた。
とても輝いてる笑顔。
笑顔ばっかりの唯に負けない眩しい笑顔に――。
「はいっ!
そうなんです、律さんっ!
あの……、私の誕生日、憶えて頂いてありがとうございます!」
「うん、憶えてるよ。
『にゃんにゃんにゃんで猫の日が憂の誕生日なんだよ!』って唯が何度も言ってたもん」
「そうなんですか、お姉ちゃんが……」
「それに――、さ。
憂ちゃん、高二の頃に私の誕生日を祝ってくれたでしょ?
いつかそのお返しがしたいな、って思ってたんだよ。
中々その機会が無くて、遅くなってごめんね」
「いいえ、そんな事――!
私こそ律さんが高二の頃しかお祝い出来なくてすみませんでした。
気になっていたんですけど、私から連絡するのも変な気がして……」
「いいよ、気にしないで」
私だって同じだから――、とは言わなかった。
流石にそれは今は言わなくてもいい事だと思う。
そういう私の失点は後から伝えればいい事だよな。
今日は憂ちゃんの『特別な日』なんだから。
笑顔だけの日にしたって、悪くない日なんだから――。
『友達の妹』の誕生日を祝うなんてちょっと変だから。
いつもお世話になってるお礼をしたかったんだ。
妙に気恥ずかしかっただけで、ずっと――。
でも、今日、私は憂ちゃんに会う事が出来た。
それは単なる偶然で、運命でも何でも無いんだろうけど、
でも、会えた事は事実だし、勝手に運命だって考えたって悪くないはずだ。
運命にしちゃったっていいはずだ。
これを私と憂ちゃんのきっかけにしちゃったって――。
私は頭に手をやってカチューシャを軽くなぞる。
私のトレードマークのカチューシャ。
私は元気でいつもプロレスごっこをやってる大雑把で適当なりっちゃんだ。
カチューシャの似合う元気な子なんだ。
それが私の全てじゃないけど、こんな時だけ遠慮してたって意味が無い。
だから、元気に祝ってあげよう、物怖じせずに。
今日だって――。
「そっか、唯は憂ちゃんの誕生日パーティーの準備をしてるんだね。
言うのが遅れちゃったけど、今日は誕生日おめでとう、憂ちゃん」
精一杯の笑顔を浮かべて――。
これまで伝えられなかった想いを込めて――。
私は今まで言えなかったその気持ちを伝える。
憂ちゃんは――。
私の言葉を聞いて少しだけ驚いた表情になったけど、すぐに笑顔になってくれた。
とても輝いてる笑顔。
笑顔ばっかりの唯に負けない眩しい笑顔に――。
「はいっ!
そうなんです、律さんっ!
あの……、私の誕生日、憶えて頂いてありがとうございます!」
「うん、憶えてるよ。
『にゃんにゃんにゃんで猫の日が憂の誕生日なんだよ!』って唯が何度も言ってたもん」
「そうなんですか、お姉ちゃんが……」
「それに――、さ。
憂ちゃん、高二の頃に私の誕生日を祝ってくれたでしょ?
いつかそのお返しがしたいな、って思ってたんだよ。
中々その機会が無くて、遅くなってごめんね」
「いいえ、そんな事――!
私こそ律さんが高二の頃しかお祝い出来なくてすみませんでした。
気になっていたんですけど、私から連絡するのも変な気がして……」
「いいよ、気にしないで」
私だって同じだから――、とは言わなかった。
流石にそれは今は言わなくてもいい事だと思う。
そういう私の失点は後から伝えればいい事だよな。
今日は憂ちゃんの『特別な日』なんだから。
笑顔だけの日にしたって、悪くない日なんだから――。
9: 2013/02/20(水) 19:51:34 ID:ykIbMs8U0
私は笑顔をちょっとだけ不敵な感じに変え、
買い物袋からキャベツを取り出して憂ちゃんに見せる。
「ねえ、憂ちゃん?
誕生日プレゼント、何がいい?
今日はたまたま会えただけだから持ち合わせが無いし、プレゼントは今度って事になるけどね。
ほら、流石にお使いで買って来たキャベツがプレゼント、ってわけにもいかないでしょ?」
「い、いいですよ、律さん。
私、律さんに誕生日をお祝いして頂けただけでとっても嬉しいですし……」
「まあまあ、そう言わずに。
私に高二の頃のお返しをさせてやると思って、何かねだってあげてよ。
私の我儘を聞いていやるって事にしてさ」
憂ちゃんが迷った表情で、少し黙り込む。
強制しちゃったみたいでちょっと悪い気もするけど、控え目で遠慮がちな子だもんな。
これくらいの態度の方が、憂ちゃんも遠慮なく私におねだりできるはずだ。
私も今日はちょっと図々しくなろう。
今日は大雑把で適当なりっちゃんで行くって決めたんだもんな。
キャベツを買い物袋に片付けて、
私達が缶コーヒーを飲み終えた頃。
憂ちゃんが真剣な表情を私に向けて口を開いた。
「じゃあ……、一つお願いしてもいいですか、律さん?」
「うん、何でも言ってよ、憂ちゃん。
あんまり高い物じゃなければ、すぐにでも買って来るよ。
これでもバイトしてるんだし、それなりの物ならプレゼント出来ると思うけど」
「あ、律さんにお願いしたいのは物じゃなくて……」
「物じゃない……?」
「はい、それじゃあ、えっと……。
律さんにスミーレちゃん……、じゃなくて、
斉藤菫ちゃんのドラムの練習を見てあげてほしいんですけど……、いいでしょうか?」
スミーレちゃんを菫ちゃんと言い直したのは、
私とあんまり面識の無い子をあだ名で呼ぶのも変だと思ったからだろう。
斉藤菫ちゃん――。
何度か憂ちゃん達との演奏を見せてもらった事もある。
私よりずっと背が高くて、力強いドラミングを見せるムギによく似たムギの妹――。
あ、妹じゃなかったっけ。
とにかく、軽音部の新入部員の子だよな。
一言二言だけど、話してみた感じでは丁寧で真面目そうな子だった憶えがある。
でも――。
と私はつい笑顔になってしまう。
溢れ出る笑顔を抑える事が出来なかった。
だって、憂ちゃんの誕生日プレゼントなのに、後輩の事を第一に考えちゃうなんてさ――。
それが――、憂ちゃんなんだよなあ――。
買い物袋からキャベツを取り出して憂ちゃんに見せる。
「ねえ、憂ちゃん?
誕生日プレゼント、何がいい?
今日はたまたま会えただけだから持ち合わせが無いし、プレゼントは今度って事になるけどね。
ほら、流石にお使いで買って来たキャベツがプレゼント、ってわけにもいかないでしょ?」
「い、いいですよ、律さん。
私、律さんに誕生日をお祝いして頂けただけでとっても嬉しいですし……」
「まあまあ、そう言わずに。
私に高二の頃のお返しをさせてやると思って、何かねだってあげてよ。
私の我儘を聞いていやるって事にしてさ」
憂ちゃんが迷った表情で、少し黙り込む。
強制しちゃったみたいでちょっと悪い気もするけど、控え目で遠慮がちな子だもんな。
これくらいの態度の方が、憂ちゃんも遠慮なく私におねだりできるはずだ。
私も今日はちょっと図々しくなろう。
今日は大雑把で適当なりっちゃんで行くって決めたんだもんな。
キャベツを買い物袋に片付けて、
私達が缶コーヒーを飲み終えた頃。
憂ちゃんが真剣な表情を私に向けて口を開いた。
「じゃあ……、一つお願いしてもいいですか、律さん?」
「うん、何でも言ってよ、憂ちゃん。
あんまり高い物じゃなければ、すぐにでも買って来るよ。
これでもバイトしてるんだし、それなりの物ならプレゼント出来ると思うけど」
「あ、律さんにお願いしたいのは物じゃなくて……」
「物じゃない……?」
「はい、それじゃあ、えっと……。
律さんにスミーレちゃん……、じゃなくて、
斉藤菫ちゃんのドラムの練習を見てあげてほしいんですけど……、いいでしょうか?」
スミーレちゃんを菫ちゃんと言い直したのは、
私とあんまり面識の無い子をあだ名で呼ぶのも変だと思ったからだろう。
斉藤菫ちゃん――。
何度か憂ちゃん達との演奏を見せてもらった事もある。
私よりずっと背が高くて、力強いドラミングを見せるムギによく似たムギの妹――。
あ、妹じゃなかったっけ。
とにかく、軽音部の新入部員の子だよな。
一言二言だけど、話してみた感じでは丁寧で真面目そうな子だった憶えがある。
でも――。
と私はつい笑顔になってしまう。
溢れ出る笑顔を抑える事が出来なかった。
だって、憂ちゃんの誕生日プレゼントなのに、後輩の事を第一に考えちゃうなんてさ――。
それが――、憂ちゃんなんだよなあ――。
10: 2013/02/20(水) 19:52:04 ID:ykIbMs8U0
「うん、分かったよ。任せて、憂ちゃん。
私なんかでよければ、菫ちゃんのドラムの練習、見させてもらうよ。
今度ちゃんとスケジュールを空けておくから、いつでも声掛けてよ」
「ありがとうございます、律さん!
私、スミー……、菫ちゃん達の事、ずっと気になってて……。
私達が卒業しちゃって、残ったのがドラム一人だけだと菫ちゃんも不安だろうな、って……。
不安を解消するにはドラムが上達する事が一番だと思うんですけど、
でも、やっぱり私達だけじゃ、ドラムの専門的な事までには踏み込めなくて……。
だから、ドラマーの律さんに練習を見てもらえれば、菫ちゃんも自信を持てると思うんですよね」
「うん、こりゃ私も責任重大だね。
でも、本当に私でいい?
自分で言うのも何だけど、ひょっとしたら菫ちゃんに変な癖を付けちゃうかも……」
「律さんでいいん……、いいえ、律さんがいいんです。
律さんに菫ちゃんを見てほしいんです。
だって、私、律さんのドラムが好きなんです!
元気で力強くて楽しそうな律さんのドラムが好きなんです!」
「えっ……?」
憂ちゃんの力強い言葉に私は言葉を失ってしまう。
嫌われてるとは思ってなかったけど、ここまで力強く好きだって言ってもらえるとは思わなかった。
正直な話、私は自分のドラムを褒められた事はあんまり無い。
元気だけを買われる事はあるけど、技術面では全然褒められない。
自分だけ取り残されちゃうんじゃないか、って不安に思う事だって何度もあった。
だけど、憂ちゃんは私がいいって言ってくれた。
私のドラムがいいって言ってくれた。
憂ちゃんがこんな事で嘘を吐くはずがない。
本気で私のドラムが好きだって言ってくれてるんだ……。
やだなあ……、憂ちゃんの誕生日なのに私が勇気付けられちゃったよ……。
私は胸が感激で詰まりそうになったけど、それは笑顔で誤魔化した。
今日は笑顔で憂ちゃんを祝うんだからな。
私はちょっと咳払いをしてから、憂ちゃんの瞳を見つめて続ける。
「ありがとう、憂ちゃん。
これは責任重大だね。
うん、精一杯練習を見させてもらうよ」
「はい、ありがとうございます、律さん」
「だけど――さ」
「だけど……?」
「それだけが誕生日プレゼントだと足りない気がするんだよね。
だって、私って軽音部の元部長でしょ?
それくらいは頼まれたら誕生日のプレゼントじゃなくても、やらないといけない立場だしさ。
いつかはやりたい事だったしさ。
だから、もう一つ、追加プレゼントをさせてもらっていいかな?」
私なんかでよければ、菫ちゃんのドラムの練習、見させてもらうよ。
今度ちゃんとスケジュールを空けておくから、いつでも声掛けてよ」
「ありがとうございます、律さん!
私、スミー……、菫ちゃん達の事、ずっと気になってて……。
私達が卒業しちゃって、残ったのがドラム一人だけだと菫ちゃんも不安だろうな、って……。
不安を解消するにはドラムが上達する事が一番だと思うんですけど、
でも、やっぱり私達だけじゃ、ドラムの専門的な事までには踏み込めなくて……。
だから、ドラマーの律さんに練習を見てもらえれば、菫ちゃんも自信を持てると思うんですよね」
「うん、こりゃ私も責任重大だね。
でも、本当に私でいい?
自分で言うのも何だけど、ひょっとしたら菫ちゃんに変な癖を付けちゃうかも……」
「律さんでいいん……、いいえ、律さんがいいんです。
律さんに菫ちゃんを見てほしいんです。
だって、私、律さんのドラムが好きなんです!
元気で力強くて楽しそうな律さんのドラムが好きなんです!」
「えっ……?」
憂ちゃんの力強い言葉に私は言葉を失ってしまう。
嫌われてるとは思ってなかったけど、ここまで力強く好きだって言ってもらえるとは思わなかった。
正直な話、私は自分のドラムを褒められた事はあんまり無い。
元気だけを買われる事はあるけど、技術面では全然褒められない。
自分だけ取り残されちゃうんじゃないか、って不安に思う事だって何度もあった。
だけど、憂ちゃんは私がいいって言ってくれた。
私のドラムがいいって言ってくれた。
憂ちゃんがこんな事で嘘を吐くはずがない。
本気で私のドラムが好きだって言ってくれてるんだ……。
やだなあ……、憂ちゃんの誕生日なのに私が勇気付けられちゃったよ……。
私は胸が感激で詰まりそうになったけど、それは笑顔で誤魔化した。
今日は笑顔で憂ちゃんを祝うんだからな。
私はちょっと咳払いをしてから、憂ちゃんの瞳を見つめて続ける。
「ありがとう、憂ちゃん。
これは責任重大だね。
うん、精一杯練習を見させてもらうよ」
「はい、ありがとうございます、律さん」
「だけど――さ」
「だけど……?」
「それだけが誕生日プレゼントだと足りない気がするんだよね。
だって、私って軽音部の元部長でしょ?
それくらいは頼まれたら誕生日のプレゼントじゃなくても、やらないといけない立場だしさ。
いつかはやりたい事だったしさ。
だから、もう一つ、追加プレゼントをさせてもらっていいかな?」
11: 2013/02/20(水) 19:53:12 ID:ykIbMs8U0
「追加プレゼント……ですか?」
「うん」
私はそこで言葉を止めて息を吸った。
憂ちゃんは私にとって『友達の妹』で、
私は憂ちゃんにとって『お姉ちゃんの友達』だ。
ずっとそういう関係だったし、それはこれからも変わらないけど――。
でも、憂ちゃんと今日話してて……、話せて、思ったんだ。
それだけじゃ勿体無いなって。
それじゃ嫌だなって。
私は憂ちゃんともっと仲良くなりたい。
優しくて思いやりがあって、笑顔が眩しい憂ちゃんともっともっと――。
憂ちゃんは確かに『友達の妹』だけど、でも――。
『友達の妹』と『友達』になったっていいはずだ――!
12: 2013/02/20(水) 19:57:21 ID:ykIbMs8U0
とても単純な答えだけど、妙な遠慮で私には今までそれが出来なかった。
正直、今日でなくちゃ、こんな事言い出せないと思う。
だから、今日だからこそ、言おうと思う。
今日は『特別な日』だから。
誕生日っていう、素直な好意を伝えたっていい日だから。
私は笑顔で憂ちゃんに伝えるんだ。
「今度、一緒に遊園地でも行かない?
勿論、チケット代とかは奢るよ。
それが追加プレゼントって事でどうかな?
折角今日ここで会えたのも縁だからさ、一緒に遊ぼうよ。
もしも憂ちゃんがよければ、になるけど」
「お姉ちゃん達も一緒に、ですか?」
「いや、それはちょっと予算的に辛いんだよね、実は……。
私もそんなにバイトで儲けてるわけじゃなくてさ。
だから、二人で遊ぶ事になるんだけど、どう?」
それは断られても不思議じゃない申し出だった。
こんな追加プレゼント、断る方が普通だし、それならそれで構わなかった。
私がただ憂ちゃんともっと仲良くなりたいって事を知ってもらえたら、それで十分だった。
断られるのは残念だけど、それならまたいつかもっと仲良くなって誘えばいいだけだ。
でも――。
憂ちゃんは、
優しい笑顔で、
私の両手を、
柔らかく握ってくれた。
「はい、喜んで――!
嬉しいです、律さん。
私も一度、律さんと二人で何処かで遊んでみたかったんです――!」
また、笑顔。
こっちまで嬉しくなるくらい、素敵な憂ちゃんの笑顔だ。
私も釣られて笑顔になった。
笑いながら、思った。
憂ちゃんが優しいのは憂ちゃんだからだけど、
その優しさはきっと唯の笑顔がいつも傍にあったからだ。
唯がいつも笑顔だから憂ちゃんも笑顔になって、優しくなったんだ。
私も唯と知り合えて笑顔になれる事が多くなったと思う。
これから憂ちゃんともっと仲良くなれたら、もっともっと笑顔になれる事も増えるはずだ。
笑顔が笑顔を増やしていくんだ――!
だから、私ももっと笑顔になろう。
皆と笑い合って、憂ちゃんとも笑い合って、優しくなっていこう。
憂ちゃんと笑顔を見せ合える友達になろう。
友達が増えるって想像はとっても素敵だよな。
憂ちゃんとこれからどれくらい仲良くなれるんだろう?
澪や唯達くらい仲が良い友達になれるんだろうか?
それは分からないけど、大切な友達が増えるって未来は私を嬉しくさせる。
もしも憂ちゃんとすっごく仲良くなれたら、唯達はどんな顔をして驚くんだろうな。
ははっ、それはまだずっと未来の事だろうけど、楽しみだよな――。
憂ちゃんの手のひらの温かさを感じて、
憂ちゃんの優しい笑顔を見ながら、私はそうして胸を鼓動させたんだ。
さっきまでのドキドキじゃなくて、ワクワクした鼓動を――さ。
正直、今日でなくちゃ、こんな事言い出せないと思う。
だから、今日だからこそ、言おうと思う。
今日は『特別な日』だから。
誕生日っていう、素直な好意を伝えたっていい日だから。
私は笑顔で憂ちゃんに伝えるんだ。
「今度、一緒に遊園地でも行かない?
勿論、チケット代とかは奢るよ。
それが追加プレゼントって事でどうかな?
折角今日ここで会えたのも縁だからさ、一緒に遊ぼうよ。
もしも憂ちゃんがよければ、になるけど」
「お姉ちゃん達も一緒に、ですか?」
「いや、それはちょっと予算的に辛いんだよね、実は……。
私もそんなにバイトで儲けてるわけじゃなくてさ。
だから、二人で遊ぶ事になるんだけど、どう?」
それは断られても不思議じゃない申し出だった。
こんな追加プレゼント、断る方が普通だし、それならそれで構わなかった。
私がただ憂ちゃんともっと仲良くなりたいって事を知ってもらえたら、それで十分だった。
断られるのは残念だけど、それならまたいつかもっと仲良くなって誘えばいいだけだ。
でも――。
憂ちゃんは、
優しい笑顔で、
私の両手を、
柔らかく握ってくれた。
「はい、喜んで――!
嬉しいです、律さん。
私も一度、律さんと二人で何処かで遊んでみたかったんです――!」
また、笑顔。
こっちまで嬉しくなるくらい、素敵な憂ちゃんの笑顔だ。
私も釣られて笑顔になった。
笑いながら、思った。
憂ちゃんが優しいのは憂ちゃんだからだけど、
その優しさはきっと唯の笑顔がいつも傍にあったからだ。
唯がいつも笑顔だから憂ちゃんも笑顔になって、優しくなったんだ。
私も唯と知り合えて笑顔になれる事が多くなったと思う。
これから憂ちゃんともっと仲良くなれたら、もっともっと笑顔になれる事も増えるはずだ。
笑顔が笑顔を増やしていくんだ――!
だから、私ももっと笑顔になろう。
皆と笑い合って、憂ちゃんとも笑い合って、優しくなっていこう。
憂ちゃんと笑顔を見せ合える友達になろう。
友達が増えるって想像はとっても素敵だよな。
憂ちゃんとこれからどれくらい仲良くなれるんだろう?
澪や唯達くらい仲が良い友達になれるんだろうか?
それは分からないけど、大切な友達が増えるって未来は私を嬉しくさせる。
もしも憂ちゃんとすっごく仲良くなれたら、唯達はどんな顔をして驚くんだろうな。
ははっ、それはまだずっと未来の事だろうけど、楽しみだよな――。
憂ちゃんの手のひらの温かさを感じて、
憂ちゃんの優しい笑顔を見ながら、私はそうして胸を鼓動させたんだ。
さっきまでのドキドキじゃなくて、ワクワクした鼓動を――さ。
13: 2013/02/20(水) 19:57:49 ID:ykIbMs8U0
◇
別れ際、憂ちゃんに誕生日パーティーに誘われたけど、それは丁重に断った。
憂ちゃんの一人占めはよくないもんな。
今日は唯と憂ちゃんの『特別な日』なんだ。
今日の所は姉妹二人で大切な時間を過ごしてほしい。
でも――。
今度は私と憂ちゃんの時間だ。
菫ちゃんのドラムの練習を見終わってから、
ちょっと意外な組み合わせで、二人で遊園地で思いっきり楽しんでやろう。
そんな風に――、
私達は新しい友達との時間を過ごすんだ!
14: 2013/02/20(水) 19:59:02 ID:ykIbMs8U0
おしまいです。
2月22日はネットに触れられそうにないので、今日投下させて頂きました。
憂ちゃんおめでとう。
ありがとうございました。
15: 2013/02/21(木) 18:15:25 ID:A8hSjrcI0
乙
スレタイって律と憂がやってたゲームからか
スレタイって律と憂がやってたゲームからか
16: 2013/02/22(金) 06:39:07 ID:v0aYH/Jk0
連鎖といえばそれがありましたね。
実は「笑顔の連鎖」という歌があり、それを参考にしました。
読了ありがとうございました。
実は「笑顔の連鎖」という歌があり、それを参考にしました。
読了ありがとうございました。
引用: 律「笑顔の連鎖」
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