569: ◆UuZF2thJYM 2008/01/01(火) 17:01:05.65 ID:wYOJoHgE0
誰も気にも留めてないかもしれないが…

>>1にお許しを貰ったアンソロジーというか、外伝というか、
パロディ話が書けつつあるんだぜ…


シリーズ:岸辺露伴は動かない-雛見沢-

最初から
岸辺露伴は動かない-雛見沢-chapter1

前回:
岸辺露伴は動かない-雛見沢-chapter8



575: 2008/01/01(火) 17:30:08.52 ID:wYOJoHgE0
※注意!※
設定はお借りしていますが、時系列的に繋がっている部分はありません。
平行世界のお話か、訪れなかった明日のお話と解釈していただければ幸いです。

『岸辺露伴は動かない 外伝~入江京介の『王国』~』

「すいません、僕の都合で使わせたみたいで」
「いえいえ~、私も学校に用事がありますからね。ついで、という言い方では失礼ですね、まぁ、お気になさらずに」

露伴は今、入江京介の運転する車に同乗している。

今日も露伴は雛見沢のあちこちを訪ね歩き、祟りの起こる仕組みの調査をしていた。
主に住民に声をかけてみたが、概ね反応は露伴の思ったとおりのものが得られた。
詩音から得た感覚…この雛見沢には、綿流しの晩には何が起ころうが「オヤシロさまの祟り」になる土壌は完成している。
それは部外者の露伴から見れば、常軌を逸した感覚といってもいい。
梨花を頃すという敵は、この土壌を最大限に利用しようとしているのではないだろうか…?
その裏付けは、まぁこれだけで十分すぎるだろう。
また、もう幾つか調べ終えたこともあったが…それはまだ語るべき時ではない。
勝負は綿流しのお祭りの日になる。それまでに出来ることは全てやらねば。
岸辺露伴は動かない 2 (ジャンプコミックスDIGITAL)

576: 2008/01/01(火) 17:33:23.56 ID:wYOJoHgE0
その調査を終え、そろそろ放課後だろうと学校に向かう。
今日も部活に参加するよう、朝沙都子に何度も念押しされたからだ。それだけだ。
しかし露伴の足取りは、本人は気付かないうちに軽くなっていた。

「あぅあぅ、ロハンが笑っているのです。一人でにやにやしているのです」
「…いつからそこにいたんだ。言っておくが僕は笑ってないぞ」
「あぅあぅあぅ、ひどいのです!僕はさっきからロハンの後ろにいたのですよ!」
「後ろにいてどうして僕が笑っているのがわかるんだよ。あと、お前のストーカー癖は直したらどうだ」
「あぅ?すとーかーって何なのですか?」
「後でゆっくり教えてやる。…ん?あれは…」

羽入も露伴の挙動に気付き、あぅ?と視線を前に向ける。
露伴達の通り道に立っていた家屋から、一人の白衣を着た青年が出てきたのだ。
彼は道路脇に停めていた自動車に向かう途中で露伴に気がついた。
そして人好きのする笑みを浮かべ、露伴に向かって頭を下げる。

「こんにちは露伴さん!お散歩ですか?」
「こんにちは、入江先生。えぇ…雛見沢のスケッチがてら、色々と見させていただきました
 "また"、お会いできて嬉しいですよ」
「なるほど、漫画家さんというのもカメラマンの方とやる事が似ておられるんですね」
カメラマンとは富竹のことだろう。彼も雛見沢のあちこちをフィールドワークしているようだ。
確かに似ているな、目的は全く違うが、と露伴は小さく笑う。

577: 2008/01/01(火) 17:36:30.44 ID:wYOJoHgE0
今からどちらへ行かれるんですか?」
「魅音ちゃん達と約束をしていましてね。部活に参加するために学校へ行くところです」
「おや、私も今から学校へ行くところなんです。よかったらご一緒にいかがですか?」
そう言って入江は自分の車を指す。診療用の道具の入ったカバンだけが乗った一般大衆車だ。
露伴は何気なく、しかしその実抜かりなく観察を始める。

「ロハン、大丈夫なのです。入江に警戒することないのですよ」
「(まぁ…僕も彼に関してはさほど警戒はしていないが…しかし、よもや、ということはある…ッ)」
いざとなればヘブンズドアーがある…とはわかっているが、あまり乱発は出来ない。
正直に言えばここは彼と二人きりになり、『本』にして情報を得てみたいところではある。
だがここは、普通に彼と接近するだけに留めるか。露伴はそう結論を出した。
どうやら車にも怪しいところはなさそうだ。

「よろしいのですか?ではお言葉に甘えたいところですが…」
「えぇえぇ、どうぞどうぞ。私も一人で寂しかったところなんですよ」
屈託なく入江は笑い、こちらへどうぞと助手席のドアを開ける。
露伴がそこへ座ると、羽入がこっそりと後部座席に座ったのが見えた。

「(…おい)」
「あぅ?」
「(お前…車に乗って移動出来るのか?)」

その瞬間、では行きますよ、と入江が車を発進させる。
そして停車位置には、羽入が空気椅子の姿勢をしたまま取り残された。

「あ…あぅあぅあぅ!僕を忘れちゃイヤなのですぅ~!」

579: 2008/01/01(火) 17:38:28.31 ID:wYOJoHgE0
一応今のところここまで
>>1と違ってセリフの前に人物名は書いてないけど
まぁそれは差別化のつもりなんで大目に見てくれ
わかりにくかったら書き足すが…

586: 2008/01/01(火) 18:23:13.59 ID:wYOJoHgE0
しかし入江先生…」
「何でしょう?」
「今日はこんなところで何をされてるんですか?診療所はお休みではないと思いましたが」
「あぁ、今日のお昼は私は外来に出る日なんですよ」
外来?そういうものは頼まれてから出るものではないのか?
露伴の素朴な疑問に、入江は笑いながら答える。
「雛見沢村はお年寄りの多い地域でしてね。元気に出歩かれる方もいれば、そうでない方もいる。
 そしてそうでない方のほうが、本来病院に来ていただきたい方になるんですが…」
なるほど、出歩かない、言ってしまえば寝たきりの状態の老人の方が健康状態に注意すべきだろう。
「そういう方を無理に診療所にお連れしては、かえって無理をさせることになりますからね。
 だからこうして私が外来に回る日を設けているんですよ」
山村医療も大変なものだ。露伴は入江が軽く語ったそのことの裏にある苦労を想像し、
やはり僕には漫画の方が向いているな、と思った。
「もし診療所のほうに急患が来たらどうするんです?診療所には入江先生しか医師はおられないのでは?」
「おや?よくご存知ですね」
しまった、と思うほどのことではない。
沙都子ちゃんに聞いたんですよ、と簡単に露伴は誤魔化してみせた。
「なるほど~、沙都子ちゃんからですか。確かに彼女は診療所の常連さんですからね~」
「常連?」

587: 2008/01/01(火) 18:24:09.28 ID:wYOJoHgE0
ええ、と入江はそこで言葉を切る。どうやらあまり僕には語りたくないらしいな。
露伴はそれを察し、急患のことですが、と水を向ける。
「あぁ、それでしたら大丈夫なんです」
予め回る家の予定を事務に回しておいて、
もし急患が来たら、回っていそうな家へと電話をかけてもらう。
その連絡を入江が回った先で受け、そのまま入江が診療所へ戻るのだ。
「なるほど、うまく出来ていますね」
携帯電話もない時代、こんな仕組みがあったのか。
これは漫画に応用できそうだな。

ポケットに入れっぱなしにして今は何に使えるでもない通信端末に、
露伴はそっと手を伸ばしながら考えた。

588: 2008/01/01(火) 18:24:27.70 ID:wYOJoHgE0
「ところでどうして入江先生は学校に?」
「ええ、お年寄りと同様に私達が見なければいけないものがありますので」
「子ども達のことですか?」
「えぇ、もちろんです」
もちろん、という時の入江の笑顔はとても明るい。
この笑顔がこの村を癒しているのだろう。
「明日、お祭りの前に健康診断と、予防接種を行う予定なんですよ。
 今日外出したついでに、明日の準備と打ち合わせを少々しておこうかと思いましてね」
もしよろしければ露伴さんも一緒にいかがですか、サービスで行いますよと入江が言うが、
露伴は丁重に断った。今はそんな場合ではない。
そうですかと入江は少し寂しそうに言う。
もし何かあったら必ず診療所に来てくださいね、と入江は念押しした。

そろそろ学校ですね、と入江が顎をしゃくった。
露伴にもそろそろお馴染みになってきた、雛見沢分校の校舎がカーブの向こうに見えてきた。

589: 2008/01/01(火) 18:25:12.43 ID:wYOJoHgE0
---------TIPS---------
「余所者だからこそ」

通りがけに運よく露伴さんに会うことが出来た。

彼がどうしたわけか雛見沢に長期滞在するという話は、
先日沙都子ちゃん達から聞いている。
半月近い滞在なら、大抵の人は少なくない可能性で雛見沢症候群に予備感染する。
帰る前に一度、彼に予防薬を投与しなくてはならないと思っているのだが、
どうやら学校の健康診断に便乗させるのには無理があったようだ。
どうにかしてまた、別の機会に接触を持ちたいと思う。

余所の人だからこそ。
彼をあのような病気から守ってあげたい。
この雛見沢の名誉にかけてでも。

610: 2008/01/01(火) 20:43:41.39 ID:wYOJoHgE0
「あぅあぅあぅあぅ~!ロハン、自分だけラクしてズルしてひどいのですぅ~!」
ようやく学校まで追いついた羽入は、露伴に向かってわめき散らした。
「大声でわめくなよ。短気な奴は嫌いだ。乳酸菌採ってんのか?」
「露伴さん?一体何をおっしゃってますの?」
「あ、いや、何でもない。それより部活の話だ、沙都子ちゃん」

ここは分校の教室だ。
いつもの部活メンバーに加え、特別ゲストの露伴の6人が、
今日の部活は何にするかと今まさに決めようとしていたところだ。

「さぁて、今日は何がいい?こないだのジジヌキのリベンジでも、おじさんはぜぇ~んぜんOKだよ?」
「おいおい魅音ちゃん、またあの罰ゲームを喰らいたいのかい?」
「ふぇ…き、今日は露伴さんに本気のおじさんを見せてやるからね!?」
「ま、まぁまぁ露伴さん、その話は…。それより魅音、ほかにどんなゲームがあるんだ?」
「うん?ゲームなら色々入ってるよ。学校に持ってきたゲームは海外のものが多いかな」
「魅ぃちゃんのゲームはあんまりみたことのないものが多いよね」
「そうでございますわねぇ。おもちゃ屋さんでもあまり見かけないものばかりでしてよ」
「面白そうなゲームは取り寄せてもらってるからねぇ!今度レナ達もカタログ見てみるかい?」
「み~。それはボクも是非見てみたいのですよ」

612: 2008/01/01(火) 20:46:49.21 ID:wYOJoHgE0
この間と同じく、この子ども達はやかましい。
いつもならこういう姦しさは苦手な露伴も、今だけはそれに溶け込んでいる。
その様子を見て、羽入がそっと露伴に語りかけた。

「あぅあぅ、ロハンはやっぱり楽しそうなのですよ」
「(あぁ、楽しいね)」
「あぅ?ロハンが素直なのです…?」
「(この子ども達負かすとこなんて、想像するだけで最高のキブンだね…
 カッハッハッハーーー!)」
「あぅあぅあぅ、やっぱり素直じゃないのです…」

「それより皆。種目はテーブルゲームだけなのかい?
 それだったら僕の方が長く生きてる分有利だと思うんだが…」
「年上だから、っていうよりもあの記憶力は賞賛に値するからねぇ…
 確かにテーブルゲーム系は今回はやめておいたほうがいいかもしれないねぇ」
魅音がそう言うと、圭一もそうだな、と同意する。
先日のガンパイトランプでの一件がまだ、彼の中では奇跡のように映っているのだろう。
他の三人もうんうん、と頷いた。
その時である。

「それでは明日はこのようにお願いします。9時にはこちらに参りますので~」
「はい、それでは明日はよろしくお願いします」

613: 2008/01/01(火) 20:48:10.18 ID:wYOJoHgE0
入江と学校教師の声だ。教師の名前は知恵といったか。
その声を聞いた魅音の瞳が怪しく光る。きらーん☆

「そうだ!今日は監督と勝負するっていうのはどうだい皆!」
「「「え、えぇぇぇっ!?」」」
レナ、沙都子、梨花の声が綺麗にハモる中、圭一と露伴だけがわけがわからない顔をしている。
「勝負?勝負って…そもそも監督って誰だよ?」
「あ、圭ちゃんはまだ知らないかぁ。監督っていうのはね、雛見沢診療所の所長さんだよ。
 少年野球の監督もしてるから、皆『監督』って呼んでるんだよ」
「へぇ~…。で、監督と何の勝負をするんだ?野球か?」
露伴は黙って圭一と魅音のやりとりを聞く。

「甘いよ圭ちゃん…監督はね…別名、『メイドの伝道師』って呼ばれるほどの、
 メイド萌えの変態なんだっ!」

露伴は予想だにしなかった魅音の発言に思わず目をむいた。
今、何と言った?萌え?この時代に既に確立していたのか…ッ!

614: 2008/01/01(火) 20:49:39.38 ID:wYOJoHgE0
「な…何か聞くのが恐ろしくなってきたが…
 まさか、その監督と、メイドについて何か勝負するってのか!?」
「大丈夫だよ圭ちゃん、勝負はいたって簡単さ!
 『監督の話を聞く』。それだけだよ」
え、それだけ?と更に圭一の目は点になる。
露伴はそうはしない。ただ黙って、何が来てもいいように冷静な面持ちを崩さない。

おそらく既に勝負は始まっている。
それを証拠に…ッ!残りの三人の顔を見ろッ!
このッ!恐怖に慄きながらもッ!既に勝負に向けての覚悟を固めている顔をッ!

「そうと決まったらさっそく呼んで来なきゃね~!お~い、監督~!…」
魅音は圭一をニヤニヤ眺めて、教室の外に入江を呼びに走っていった。

「沙都子ちゃん…そんなに話を聞く『だけ』の勝負が、怖いのかい…?」
「露伴さんはご存知ないからわからないのですわ…素人では1分も持ちませんわよ…!」
その様子を見て、露伴は考えを改めた。
あのセンセイ、ただのいい医者ってだけじゃ…ないらしいな…。

642: 2008/01/01(火) 22:47:47.58 ID:wYOJoHgE0
「それではっ!今日の部活のルールを説明するっ!」
魅音が大音声で部活の開始を宣言する。
その隣には、何でこんなことになったんでしょうねぇと苦笑する入江が、
普段は魅音のものである席に座りながら皆を見回していた。

「ルールその一!プレイヤーは監督の目の前に座り、監督の話を聞く!
 ルールその二!プレイヤーがその椅子から腰を浮かした瞬間にゲーム終了!
 ルールその三!腰を浮かすまでの時間を計測し、その時間を競うものとする!」

単純明快だ。だがそれだけに裏がありそうなルールの匂いがする。
そしてこのルールだけで、圭一を除く部活メンバーは表情が変わった。

「時間は誰が計測するんだい?」
「教室の時計で計れば皆に公平だからそれで計ろう。
 皆は基本的に時計をみておくことにする。それでいい?」
「腰を上げた判定はどうするんだ、魅音?」
「お尻が1センチでも上がったらその次点でアウト!
 誰か一人、順番にその判定員をしてもらえばいい。判定員が合図した時間が終了時間だよ!」

643: 2008/01/01(火) 22:48:51.95 ID:wYOJoHgE0
つまり、入江は何か話すだけで彼らの腰を上げさせることが出来る、というわけか。
露伴にはようやくゲームの輪郭が見えてきた。
ふと見ると羽入が笑顔でゲームを見ている。
きっと彼女には、このゲームがどういうものかよくわかっているのだろう。
それがとても面白いものになることは、その笑顔でわかった。

「じゃあゲームを受ける順番を決めるジャンケンを開始する!
 順番は負けたものから!ここで勝負が決まるかもしれないよぉ!?
 せぇ~~のっ、さ~いしょ~はグ~ッ!じゃん!けん!…」
壮絶な勝負の結果、一番手は圭一に、二番手はレナに決まった。
続けて沙都子、魅音、露伴。最後に梨花が挑むことになった。

「やるね、梨花ちゃん。僕はジャンケンにはそうとう自信があったんだが…」
「み~、時の運なのです。露伴もふぁいと、お~☆…なのですよ。にぱ~☆」
相変わらず大した猫かぶりだ。それだけは露伴も舌を巻くようになっていた。

「監督、さっき話したように、私達の前で『思いっきり語ってくれたら』いいからね」
「わかりました。それでは、久しぶりに本気を出しますよ…!」
入江の表情が変わった。その瞳はもう窺い知れない程にオーラが違うッ!
露伴はそれを見て取り、感服した。この男、一流のスタンド使いと同等の「波紋」を感じるッ!

それでは…ゲームスタートだッ!

644: 2008/01/01(火) 22:49:17.82 ID:wYOJoHgE0
---------TIPS---------
「不審な男」

「それでは、また明日はよろしくお願いしますんねぇ~!」
「はい、よろしくお願いします」
造園業者の社長を名乗っている男は、そう言って白いワゴンに向かう。
今日は後日行う草木の手入れの打ち合わせに来たのだ。
それと入れ替わるように学校の校庭に乗り入れてくる車がある。
男は車を出そうとして、その車が見知ったものであることに気がついた。
「入江せんせぇ~!ご精が出ますんね。先生も明日の打ち合わせですんね?」
「おや。貴方のお仕事も明日でしたか」
「うえっへっへっへ。うるさくてたまらんから勉強なんか出来るはずないんでしょうなぁ。
 先生が皆を診てる間に、ワシらが草木を切っちょくって寸法ですわ」
「なるほど、では聴診器は早めに済ませておかないといけませんね」
「あぁい、ワシらも音が出るモンはなるべく後回しにしますんね。
 そのへんはまた明日、よろしくですんね」
そんな会話をしながら、車を発進させる。そしてふと入江の車を見ると。
見知らぬ男が、入江の車から降り立った。

645: 2008/01/01(火) 22:49:57.11 ID:wYOJoHgE0
その立ち居にありえないような殺気を感じ、
男は思わず視線を横に流してしまう。

車から降り立った男は自分のほうには構わず、さっさと校舎に入っていった。

気のせいだったのだろうか。
体も細く、上背もないその男からは、
今まで男が見たことも感じたこともない『覇気』があった。

あいつは一体誰だ。

その事を後で入江に尋ねておくことを肝に銘じ、
男は再び車を発進させた。

756: 2008/01/02(水) 01:01:27.59 ID:Cfo2egVa0
「さて、それでは前原さん。貴方はメイドという存在をどう思いますか?」
「え、め、メイドって…いや、その、実物を見たことはなくt」
「ないのですか!それは嘆かわしい!見なさい!この神々しい衣装をッ!」
そう言って入江はどこからともなく…いや、持参した治療カバンの中からメイド服を取り出した!?
この男ッ!常備しているッ!メイド服をッ!常備!!!しているッッッ!!!
「さぁ、手に取るのです。恐れることなくッ!そう!プリーツのひだは壊してはなりませんッ!
 そしてそのレースをッ!襟元をッ!余すところなく知ってください!」
「は、はぁ…」
「まだお分かりにならないッ!?前原さん、貴方はこれだけの人材に囲まれていながら、
 毎日何を!何をッ!!何をしているというのですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「えっ…そ、素材…?」
「この4人がッ!いいえ!詩音さんが!知恵先生が!貴方にこれを着て一礼し、
 『お帰りなさいませ、ご主人様』と!それだけのことを言わせられる環境とチャンスがありながらぁ~!
 貴方はッ!一体ッ!何をしているというのですかァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!ご、ごめんなさいッ!」

「圭ちゃん、12秒。」

757: 2008/01/02(水) 01:02:22.86 ID:Cfo2egVa0
「…え?」
圭一は魅音のその一言で我に返る。
気がつけば圭一は頭を抱えて後ろに仰け反っていた。…直立して。

「いやぁ…男の子だからもうちょっと持つかな~なんておじさん思ってたけど。
 案外脆いねぇ?け・い・ちゃ・ん?」
「はぅ~…圭一君にそんなこと想像されてたなんて…レナ、ちょっと恥ずかしいかな、かな」
「ちっ、違うんだレナっ!あれは、か、監督が勝手に…」

そんな微笑ましいやり取りをしている集団をよそに、露伴は薄く笑んだ。
…そういうことか。ならばッ!僕にはッ!鉄壁の攻略法があるッ!
それまで、他の奴らがどう対抗するか、精々見物させてもらうさ…。

「さ、次はレナだ!がんばれ、レナ!」

770: 2008/01/02(水) 01:33:17.10 ID:Cfo2egVa0
「はぅ~…。よ、よろしくお願いします…」
「竜宮さん。あなたは可愛いものがお好きとお聞きしましたが、
 メイドさんは可愛いと思いますか?」
「はぅ~。メイドさんはかぁいいよねぇ…」
「それはお話が早い。では!貴方にはこれを託す価値があると判断しました。
 遠慮せずにお受け取り下さい。あ、腰は浮かさなくて結構!」
そう言って入江はビニールでパッケージされた30cm四方ほどの何かを二つ、レナに手渡した。
どこから取り出したかなんて聞くまでもない。先ほどの治療カバンからだ!
「はぅ…監督、これは何ですか?」
「ぃよっくっぞッ!訊いてくれました竜宮さんッ!
 これはですね、沙都子ちゃんと梨花ちゃんのサイズにピッタリのメイド服なのですッ!」

771: 2008/01/02(水) 01:35:36.99 ID:Cfo2egVa0
「「「え、えぇぇぇぇ~~~っ!!?」」」

「なななな、なんで監督がこんなものを持ってますの~~~~っ!?」
「愚問です。私はいつでも、沙都子ちゃんと梨花ちゃんのご主人様になる覚悟は出来ているッ!
 しかぁし!彼女なら、竜宮さんならッ!彼女達をよりかぁいいメイドさんにしてくれるとッ!
 その資質を!才能を見たッ!私の中の矢が、彼女を示したと言ってもいいッ!
 さあ、想像してください竜宮さん…。

 その者黒き衣と白きエプロンドレスを纏い、かぁいいものコレクションの中に降り立つべし…ッ」

レナの頭から何かが吹き出たッ!
そしてレナは…ゆっくりと振り向きながら…何かを呟くッ!

「ぉ…」
「ど、どうした、レナ…?」
「ぉん持ち帰りぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

772: 2008/01/02(水) 01:36:34.42 ID:Cfo2egVa0
落ちた。いや、正確を期すならば、堕ちた。
レナはそのまま椅子を蹴飛ばし、沙都子と梨花を両手に抱え、教室中を走り回る!
その動きはもう止められないッ!
一応、圭一は、「23秒…だよな?」と魅音に確認を取っている。
魅音も、こくこく…と頷きつつ、暴走するレナを見ることしか出来ない状態だ。

露伴は、その完璧な仕事を前に、深く嘆息する。
この男…油断ならないッ!

780: 2008/01/02(水) 02:08:43.45 ID:Cfo2egVa0
そしてようやくのこと、レナから開放された沙都子が入江の前に座る。
もうはっきり言って逃げ出したいのが、表情でもバレバレだ。
露伴はその様子を見やりながら、おかしいやら微笑ましいやらで自然とニヤついている。
羽入はそっとその露伴の表情の変化を見て取り、何も言わずに極上の笑顔で見守った。

「沙都子ちゃん…」
「ひっ…な、何ですの、監督…」
「先ほどの失態…深くお詫びいたします」
「へっ?」

「私は…大事なことを忘れていたような気がします…。
 ご主人様たるもの…仕えるメイドを不快にさせるようなことはしてはいけない…」
「そ…その理屈には何だか納得がいきませんけど…
 わかっていただけたのでしたら、それでいいんですのよ…」

781: 2008/01/02(水) 02:11:13.60 ID:Cfo2egVa0
「と、いうわけで~♪
 こちらが新しく用意した、沙都子ちゃん専用のメイド服ですよ~☆」
そういって入江は、治療カバンから新しくピンクのフリフリのメイド服を取り出したッ!?
もうあのカバン、メイド服運搬専用だろう。絶対。露伴はカバンに対する認識を改めた。
「いやぁ、沙都子ちゃんにはもっと可愛らしいデザインの方がよかったですよねぇ~☆
 ご主人様とあろうものが、それくらいのことにも気付けず、真に申し訳ありませんっ♪
 あ、オプションとして『さとこ☆』と書いてある名札の方もご用意させていただき…」
「な、な、な…」

「何を言ってますの~~~~っ!この変態監督~~~~っ!」

思いっきり沙都子は監督を殴り飛ばしたッ!
その下からかち上げる拳の軌跡はまさに昇竜の如しッ!

その一撃を見た部活メンバーは後にこう語ったという…ッ!
あの妙技はまさに

昇   竜   拳  

782: 2008/01/02(水) 02:13:05.30 ID:Cfo2egVa0
「…魅ぃ。沙都子は17秒でいいのですか?」
「うん…いいと思うよ…。いやぁ…あの一撃はおじさんでも見切れないだろうなぁ…」
トラップマスター、沙都子の恐るべき一面を垣間見た部活メンバーは、
それからしばらくは皆が沙都子をからかうのを自粛したというのは、また別の話である。

ここまではぶっちぎりで圭一が最下位。
果たしてこの時間を上回る技を入江は繰り出してくるのだろうかッ!?
露伴はそろそろ自分のための準備を始めるべく、自分の荷物を引き寄せた。
羽入はそれを、先ほどと変わらない笑顔で見守っている。

800: 2008/01/02(水) 02:49:49.90 ID:Cfo2egVa0
沙都子のアッパーをモロに受けた入江だが、
その後なんと背中から跳ね起きるという荒業を見せ、メンバーは安堵の表情を浮かべる。
ただ露伴だけは、表情すら変えることもなく様子を見守っていた。

そして、4番手。
魅音が自信満々にニヤニヤと笑いながら、入江の前に腰掛けた。
「さぁ、私には今までのような小細工は通用しないよぉ~?
 監督、どんな話をしてくれるのかなぁ~?」
「魅音さん。…言葉は要りません。」
そういって入江はおもむろに治療…いや、メイド服カバンから何か小さなものを取り出す。
あれは何だ…?…写真?それも少なくない枚数…

「~~~~~~~~~~~ッッッッ!!!??」

それを見た瞬間。
あの魅音がッ!卒倒したッ!?

「っこっここっこここここ、これ、これなにぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

802: 2008/01/02(水) 02:51:08.45 ID:Cfo2egVa0
「ど、どうしましたの魅音さん!?」
「み~。魅音の顔がタコさんみたいに真っ赤っ赤なのです。ちゅ~ちゅ~、たこかいな、なのです」
「はぅ~?魅ぃちゃん、大丈夫かな?かな?」
「お、おい魅音…?何を見たんだ…?」

部員の心配そうな顔を見た魅音が、ハッ!とした顔になって手にした写真を後ろに隠し、
「なななななな、何でもないよ皆!あ、あっはっはっはっは!」
「みぃ。その挙動が何でもなくないのです。怪しいのです」
「どうしましたの?それ、写真ですわよね?」
「あっ、こ、これは!な、なんでもないよ!」
「はぅ~、怪しいなぁ魅ぃちゃん。それ、レナ達にも見せてほしいかな、かな!」
「そうだぜ魅音。部員同士隠し合いはなしだぜ。俺達にも見せてくれよ」
「ぜ、絶対だめぇぇぇ~!特に圭ちゃんにはダメダメダメ~~~ッ!」

部活メンバーはそのままバタバタと、魅音を先頭にしたおっかけっこを始めてしまった。

803: 2008/01/02(水) 02:52:01.78 ID:Cfo2egVa0
「…入江先生」
「何でしょう?露伴さん」
「不躾な質問ですが…あの写真は一体…」
「おや?見えてしまいましたか?」
「漫画家の観察力を甘く見ないでほしいですね。あんなもの…久しぶりに見ましたよ」
「おや、ご覧になったことがあるんですか?それは素晴らしいですね」
「さすがに味も見ておこうとは思いませんでしたがね…」
「は?」
「いえ、こちらの話です。それであの写真は…」

「富竹さんの秘蔵コレクションからこっそりと」

…圭一、お前…可哀相過ぎるぜ…
露伴はそう思いつつ、そっと部活メンバーに目をやる。
今追いかけているものがとんだパンドラの箱だなどと、本人は思ってもいまい。
まぁいい。この間に仕掛けを仕上げるッ!

ちなみに魅音の記録はその終わり方からして露伴しか時計を注視しておらず、
後に5秒であると聞かされたときには、逆の意味で魅音が崩折れたことをここに記しておく。

806: 2008/01/02(水) 02:53:48.66 ID:Cfo2egVa0
おじさん、何を見せられたやら。

ここまでの順位
レナ  23秒
沙都子 17秒
圭一  12秒
(・3・) 5秒

さて?

816: 2008/01/02(水) 03:40:06.35 ID:Cfo2egVa0
そしていよいよ露伴の出番だ。
「あぅあぅ!ロハン、がんばるのです!」
「(言われなくても僕は本気でいく。黙って見てろ)」
「あ、あぅあぅあぅ!ひどいのです!応援してあげてるのに~!」
そんなやり取りをスタンドでしながら、露伴はそっと着席する。
目の前には入江。…いや、今の彼には傍らに寄り添うものすら見えそうだ。
気を引き締めてかからねばなるまい。

「さて、露伴さん。あなたにはどこからお話をすれば」
「その必要はない」
そう言い、露伴は先ほどから仕込んだものを放り投げる。
それは入江の膝の上に収まり、そこに描かれたものを表に出した。
「す、スケッチブック…?露伴さんは一体何をしようとしているんですの?」
「そ、それよりも沙都子ちゃん…監督が…ヘンだよ…」

817: 2008/01/02(水) 03:40:41.30 ID:Cfo2egVa0
「あ、あぅあぅあぅ?ロハン、もしかしてあなたは『ヘブンズドアー』を…」
「(こんな遊びにそんなことをするかよ。僕はそういうアンフェアは大ッ嫌いだ)」

だが見てみろ、あの入江の様子をッ!
肩を震わせ、顔を伏せ、何かに打ち震えているようじゃあないかッ!
しかし、部活メンバーにはそれがわからない!だから訊くしかないッ!
「か、監督~?な、何か言ってもらわないと、その、部活にならないんだけど…」
「魅音ちゃん。君には聴こえないのかい?彼の声が」
「ふぇっ?か、監督、しゃべってるの!?」
魅音は慌てて入江に駆け寄る。それに続いて他のメンバーもッ!
「…か、監督…?」
「…。……!………!」
「え?何?聴こえないよ~!?」

「…ぃ…」
「ふぇ?」

「…素ぅ晴ぁるぁすぃいぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!!」

818: 2008/01/02(水) 03:41:25.50 ID:Cfo2egVa0
そして入江は周りの部活メンバーには目もくれず、露伴に駆け寄るッ!
そしてがっちりと手を握ったッ!?
「わかっていただけましたか?入江先生」
「はいッ!あなたのメイドに対する愛、この私には十二分に伝わってまいりましたッ!
 素晴らしい!こんなにも素晴らしい同志をはるか彼方から遣わせて頂き…
 この入江京介…不覚にもッ…涙で前が見え゛ま゛ぜん゛…」
そしておいおいと男泣きに咽ぶ入江。
部活メンバーはぽかんとして、その入江のあまりの豹変振りに見入っていた。
「魅…魅ぃちゃん…監督、どうしちゃったんだろ…だろ…」
「さ…さぁ…何か見る限り、『漢の世界!』…って感じで…」
「原因はこのスケッチブックか…?」
圭一が拾い上げたスケッチブックを、部員がどれどれと覗き込む。
そしてそこに描かれたものを見て、全員が絶句した。

826: 2008/01/02(水) 04:02:32.83 ID:Cfo2egVa0
「そう…メイドの理想は美しき白の柔肌、黒き艶やかな髪から始まる…」
露伴が淡々と語り始めると、入江はハッ!っとしたように顔を上げる。
「そしてその髪は日々の業務に差し支えることのないよう、後ろでひとつ、或いはふたつに束ねておくこと」
「そう、その通りなのです露伴さんッ!
 そして服の色は黒か紺!あくまでも『お仕えするもの』としての職分を逸してはならないッ!」
「それに合わせるように清潔感を、白のエプロンで現す。もちろんフリルはその存在の優雅さの象徴」
「スカート丈はロングならくるぶしまで!
 ミニにするなら股下10cm、太ももの白さは決して隠してはならない!」
「ミニの際には基本はニーソ。膝上とスカートの絶対空間は神聖にして犯すべからず」
「その空間を侵してよいのは、スカートの間から覗くガーターベルトのみッ!」
「メガネをするかしないか?そんなものは些細な違いであり、その本質に於いて…」
二人のエンドレスなハーモニーをBGMに、部活メンバーはスケッチブックを呆れながら眺め見る。
そこには、BGMで流されているような理想のメイドの絵が、鉛筆で流麗に描かれている。

悲劇はその直後に起こった。

827: 2008/01/02(水) 04:03:42.87 ID:Cfo2egVa0
「嗚呼!ここまで同じ考えの持ち主と、私は未だに巡り会ったことがない!
 メイドの神様、ありがとう!」
そう叫んだ入江は、露伴に抱きつく。そしてそのまま、熱い接吻を交わそうと…って
「ちょっと待て!僕にその気はない!離れろ!」
「いーえっ!離しません!今夜は絶対に眠らせませんよぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!」
「おいっ!誰か止めろ!こいつを止めろぉぉぉぉぉぉっッッ!」
その過剰なまでの入江の求愛行動は、冷静な一言でフリーズした。

「み~。露伴、1分47秒。すごいのです、ぱちぱちぱち~」

その一言で、はっと我に返った入江。
露伴はまだそのショックから抜けきれないのだろうか、浮かせた腰をまた椅子に戻す。

少々カッコつかないが、これで露伴は単独首位に躍り出た。

839: 2008/01/02(水) 04:44:34.44 ID:Cfo2egVa0
「…ろ、露伴さん…」
「…何も言わないでくれないか…僕は僕の全力で、この部活を戦ったまでさ…」
気遣いながらも何か近寄りにくそうな沙都子に、露伴は投げやりに言葉を投げた。
「しかし…露伴さんがここまで監督に太刀打ちできるなんてねぇ…
 後はタヌキの梨花ちゃんだけ…くぁ~、こりゃ今日もおじさん罰ゲームかなぁ」
「そんなことはないのです。勝負は最後までわからないのですよ。なでなで」
そう言いながら、魅音の頭を撫でる梨花ちゃん。
そこには既に勝ったつもりでいる、余裕のオーラが見え隠れする。
「じゃあ、一体どうやってあの状態の監督に立ち向かうのか、拝見させてもらおうじゃないか。
 言っておくが、僕が伊達や酔狂であんな真似をしたんじゃないことくらいはわかるだろう?」
「み~。露伴のおかげで監督のゲージはすでにリミットをブレイクしていますのです。
 どんな超絶の必殺技が飛び出してきてもおかしくないのです」

840: 2008/01/02(水) 04:45:30.76 ID:Cfo2egVa0
梨花のその言葉に部活メンバーが入江を見やる。
そこには先ほどのテンションよりは落ち着いているものの、
その秘めた温度は先ほどのレベルを遥かに超えたオーラを漂わせる、一人の『漢』が居た。
先ほどのテンションが赤く燃え上がる炎なら…今はまさに青く静かに燃える、いや萌える炎ッ!
「あの監督の様子なら…言葉だけで決着がついてもおかしくねぇっ!」
「さっきからメイド服を出してるあのカバンも…そろそろタネが尽きてる頃だろうしねぇ…
 おじさんもここは超弩級の監督の名言を期待しておこうかねぇ…?」
「だ、大丈夫ですの、梨花…」

「だいじょ~ぶなのです。ボクにはつよ~い味方がついていますのですよ」

そしてそのまま髪を掻き直す仕草をし、梨花は決然と椅子に座った。

841: 2008/01/02(水) 04:48:17.57 ID:Cfo2egVa0
「さあ梨花ちゃん、覚悟はいいですか…?
 そもそも古来メイドとは貴方のような愛くるしく清らかな…」
入江の演説が始まった。固唾を呑んで見守る部活メンバーと露伴。
時間を経るごとに入江の論調は激しさを増し、また調子を上げるッ!
「…であるからして…そもそも首輪とは…お仕置きの際には…」
だが梨花の様子がおかしい。
入江の話が聞こえていれば、既に何らかのリアクションを起こしていても何の不思議もないッ!
だが、だがなのだ!梨花の表情にも、その目線にすら、いささかの動揺もないのであるッ!
まるでいつもの愛くるしい表情で、いまにも「みぃ?」と言いそうな!
そんな表情を浮かべるばかりで、時間だけが刻々と過ぎていくッ!

そして、傍聴者がそろそろ精神的に破綻しそうになった開始2分ッ!
涼やかな表情で、梨花はこう言った。

「み~。ボクのぶっちぎりの優勝なのですよ」

842: 2008/01/02(水) 04:49:04.52 ID:Cfo2egVa0
「ふふふ…なかなかやりますね、古手さん…」
入江が固有結界モードから脱し、梨花のことを『古手さん』と呼んだ。
勝負あり、ということだろう。
「記録二分!勝者!古手梨花!」
部長である魅音が勝ち名乗りを上げると、部活メンバーがわぁっと梨花を取り囲んだ。
だが、露伴はそれに加わることなく、しれっとこう言う。
「よくもまぁ、そんな手を思いついたものだな。正攻法というか、真逆を突いた裏技というか」
それに対し、梨花はいつも通りのねこかぶりでこう返した。

「バレなきゃイカサマじゃないのですよ。にぱ~☆」

850: 2008/01/02(水) 05:06:05.74 ID:Cfo2egVa0
「え?梨花、いったいどういうことですの?」
その沙都子の表情を見て、梨花はそっと顔を横に向ける。
そしてその髪をそっと持ち上げて、普段は隠れている耳をあらわにした。

「「「あ、あぁぁぁぁぁぁ~~~~っっ!!!」」」

大きな、耳栓。
たったそれだけのことで、梨花はこの難題をスルーしてしまったのだ。
梨花はすぽっとその二つを外し、ようやくすっきりしたのです、と言った。
「そんなぁ…おじさんたちじゃあその方法使えないじゃん…」
「最初の順番決めでもう勝負がついてた…ってことになるな。
 最後だから視覚や触覚に頼らず、聴覚にくる方に梨花ちゃんは賭けたんだ」
「そして勝った、ってことだね。はぅ~、梨花ちゃんすごいね!すごいね!」
皆が賞賛の言葉を送る中、あら?と沙都子が気がついたようにいう。
「だけど先ほど、露伴さんに対してお返事していたのではありませんこと?あれは聴こえたのでございましょう?」
そんなこと、と梨花は笑いながら言った。

露伴がボクにあんな顔するときは、悪口を言うに決まっているのですよ、と。

855: 2008/01/02(水) 05:33:19.68 ID:Cfo2egVa0
全くこのタヌキ娘は、と露伴がちょっと睨んでやると同時に、入江がこう言った。
「それではそろそろ診療所の方もありますので失礼します。
 メイドの魅力についてはまたたっぷりとお聞かせしますからね~!」
そしてそのままカバンを持って去ろうとする入江に、露伴は声をかけた。
「入江先生。今日は色々とありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそ楽しかったですよ。
 是非今度は診療所のほうにもお越しください。各種注射をご用意しておきますので」
そう冗談めかした口調で言い、入江は去っていった。
部活メンバーが口々に、明日は覚えてろよ監督~!という中、梨花が笑顔でこう宣言した。
「それでは今日の罰ゲームの時間なのです。今日はボクが法律なのですよ☆」

空気が一瞬にして凍りついたのは言うまでもない。

857: 2008/01/02(水) 05:47:22.73 ID:Cfo2egVa0
「それでは魅ぃ。今日も圭一と一緒に帰るのです」
「え、えぇぇぇぇぇっ!またなのぉ、梨花ちゃぁん…」
「勿論なのです。でも今日は手をつなぐのではダメなのです。腕まで組んで貰うのです」
「そ、そんなこと出来るか~ッ!ただでさえこの間の、親父やお袋に見られちまったっていうのに…」
「ふぇっ!?あ、あれ、あれ見られてたのおっ!」
「え、あ、し、しまった…」
「何て!?ねぇ、何て言ってたの!?圭ちゃんのお父さんとお母さん!」
「そ、そんなの言えるかぁぁぁぁっ!圭一も隅に置けないな~とか、今夜はお赤飯ね~なんて、氏んでも言えねぇぇぇッ!」
「き、きゃぁぁぁぁぁぁ~~~~!!!???」
「思いっきり喋ってるよ、圭一君…」
「レナには、今日も監視役をお願いしたいのですよ。にぱ~☆」
ちょっと呆れ顔のレナと、さっきよりも顔を赤くした魅音。慌てる圭一。
この光景が例えようもなく微笑ましい。

「そして沙都子と露伴。二人にも罰ゲームで一緒に帰ってもらうのです。もちろん沙都子は露伴と手をつなぐのです」
「「な、なにぃぃぃぃぃぃぃッッッ!!??」」

858: 2008/01/02(水) 05:56:23.42 ID:Cfo2egVa0
「そ、そんなこと、露伴さんが可哀相ですわよ!変な目で見られたらどうしますのーっ!?」
真っ赤になった沙都子が必氏で梨花の気を変えさせようとするが、梨花はニコニコするばかりで。
その光景を見ていると、露伴は急にある言葉を思い出してきた。

(沙都子は、嬉しかったのだと思います。)
(暇なときだけでいいのです。)
(沙都子と仲良くしてあげて欲しいのです。)

「(…おい、そこのスタンドまがい)」
「あ、あぅあぅあぅ!まがいものではないのです!」
「(これは別にお前に言われたからじゃない。罰ゲームだからなんだからな)」
「あ、あぅ…?」

「沙都子ちゃん」
「な、何ですの?露伴さん…」

「仕方ないから一緒に帰ろうぜ。このままだとこれ以上ひどい罰ゲームにされかねないぞ」

859: 2008/01/02(水) 06:05:48.96 ID:Cfo2egVa0
「ふぇっ…。ま、まぁ、露伴さんがいい、と仰るなら…」
沙都子もこうなるとおとなしいものだ。
これでよかったのか、と梨花を見やる。満面の笑みが帰ってきた。
「み~、露伴。100点満点はあげられませんが、90点、なのですよ」
「それだけあればどんな試験も合格さ」
露伴は皮肉に返し、さて、と振り向く。
「さっさと準備しないと、帰るのが果てしなく遅くなっちまうぜ。君らも急ぎなよ」
揉み合っていた魅音たちは、慌てて自分達の荷物をまとめ始める。
段々、顔色が外の空の色に紛れてしまう時間になっていた。
6月の日暮れは、こんなにも遅い。
遠くから、そろそろひぐらしのなく声が聴こえ始めていた。

863: 2008/01/02(水) 06:20:55.36 ID:Cfo2egVa0
「…よ、よし!行くぞ、魅音!」
「ぅ…ぅん…よろしく、圭ちゃん…」
こうして微笑ましい二人と、それを追う怪しい一人が校門を出発する。
そして残された三人も、大きな一組と小さな一つの影を作りながら出発した。

ボクはお買い物にいってきますですよ、お二人でお先に戻ってくださいなのですと、
梨花が途中でいなくなり、手をつないだままの僕と沙都子が残された。

誤魔化して手を離してもいいんですのよ、と言う沙都子に対して、
わざと軽くぎゅっ、と手を握り返して答えてやる。
ふと横を見ると、羽入がとても満足げな笑みを浮かべていた。

なんだかここに来て調子が狂いっぱなしだ。
きっとどうかしているんだろう。そうに違いない。
これもあの、メイドの王様の仕組んだ罠だったのではないか?
もしくはそういう能力を仕掛けられたか。

だとするなら。

864: 2008/01/02(水) 06:25:05.09 ID:Cfo2egVa0
だとするなら。
彼のスタンドは人の「しあわせ」を作り出すスタンドだ。
それはあたかも、天国からの贈り物。

承太郎の様に彼のスタンドに名前をつけるなら、
「メイド イン ヘブン」
なんていうのが妥当だろう。
天国からの贈り物と、彼に仕える給仕をひっかけて。

下らない想像にくっくと顔を歪めていたら、
今日は変な露伴さんですわねぇ、と沙都子が笑った。

ああ、変だろうとも。何しろ敵のスタンドは、恐ろしい能力の使い手なんだからな。





                     ---- 外伝 Fin ----

867: 2008/01/02(水) 06:35:29.58 ID:Cfo2egVa0
---------TIPS---------
「男の正体」

電話の着信音が所長室に鳴り響いた。

「はい…あぁ、これは小此木さん」
『えろぅ夜分にすんませんね。実は、お昼間に所長と一緒におった男ですが…』
「えぇ。岸辺露伴さんのことでしょうか?」
『多分その男ですんね。やせ気味で、変なもんを頭にくっつけとった奴ですわ』
「露伴さんで間違いありませんね。どうかされましたか?」
『どういう素性の奴なのか、所長はご存知ありませんね?』
「いえ、ただの旅行者の様です。漫画家を志望されているそうですが…」
『そうですか…』
「今度所のほうにもいらっしゃるでしょうから、その時にお伺いしてみましょう」
『了解しました。その方は所長の方に全てお任せ致しますんね』
「あぁ、でも、今でも確実に言えることがありますよ」
『それは一体何ですんね?』

「彼は、『私達の』、味方ですよ」

『…ようくわかりましたんね。それでは失礼させて頂きますん』
「ええ、おやすみなさい、小此木さん」

880: 2008/01/02(水) 09:11:53.77 ID:NYhzGXzW0
面白かったけどひとつ気になったんだ

外来じゃなくて往診じゃないのかと

881: 2008/01/02(水) 09:18:24.24 ID:ZaFU02NV0
>>880
よくわかんないが細かいことは気にすんな。


to be continued...
岸辺露伴は動かない-雛見沢-chapter9

引用: 岸辺露伴は動かない-雛見沢-