1: 2017/07/02(日) 20:56:15.669 ID:m4T/en8Od.net
キ-ンコ-ンカ-ンコ-ン……


お昼休みである!!

いつもの4人でわいわいと仲良しランチタイム!
なんと、今日はラフィエルがサターニャにお弁当を作って来ていた!

大喜びのサターニャ! 照れるラフィエル!
そして差し出されたお弁当を開け、それに口を付けるサターニャ!

しかし、その第一声はなんと……ッ!!



サターニャ「何これ、不味い……」ウゲッ

ガヴヴィネラフィ「「えっ?……」」


その場の全員がその言葉に耳を疑ったのだった……!!
ガヴリールドロップアウト(14) (電撃コミックスNEXT)
9: 2017/07/02(日) 21:00:58.239 ID:m4T/en8Od.net
ラフィエル「あ、あのー……お口に合わなかったでしょうか?」

サターニャ「う、うん……ごめん、ちょっとトイレ行ってくる……」タタッ


一同「「…………」」

……ざわっ……ざわっ……


ヴィーネ「ちょ、ちょっとラフィ! あなた一体どんな料理を食べさせたのよ!!」

ガヴリール「おいおい……サターニャが不味いとか言うなんてよっぽどだぞ?」

ラフィエル「い、いえ……味は確かに美味しく作ったはずなんですが」

ヴィーネ「ちょっとそのお弁当、食べさせてくれる?」ヒョイ

ヴィーネ「もぐもぐ……ん? あ、あれ? とっても美味しいじゃない!?」モグモグ

ガヴリール「んんー? どういうことだ??」

ラフィエル「ええと、いえまさか……そんなわけは……」

ガヴリール「……(こいつ何か隠してるな)」

ヴィーネ「美味しい、美味しいっ!!」ヒョイパク!ヒョイパク!

10: 2017/07/02(日) 21:02:38.593 ID:m4T/en8Od.net
…………

サターニャ「ただいま~……」ゲッソリ

ラフィエル「あっ、ええと、おかえりなさい……」


サターニャ「ラフィエル……ええと」

ラフィエル「はい……」

サターニャ「あのっ……そのっ……」

サターニャ「……ごめんなさいっ!!」ベコッ

サターニャ「せっかく、お弁当。作ってきてくれたのに」シュン

ラフィエル「い、いえ……気にしないでください!!」アセアセ

ラフィエル「こちらこそ、お口に合わなかったようで、すみません」ペコリ

サターニャ「本当に、ごめんなさい……」グスッ


ガヴリール「…………」

ヴィーネ「美味しいッ!美味しいッ!」ムシャムシャ!!

13: 2017/07/02(日) 21:04:12.374 ID:m4T/en8Od.net
…………

ガヴリール「ラフィ、ちょっと話がある」

ラフィエル「はい、ガヴちゃん……」



ヒュオオオオオオッ…………


ガヴリール「で、あのお弁当には何が入ってたんだ?」

ラフィエル「あ、あのぅ……」アセアセ

ガヴリール「正直に言え!!」

ラフィエル「はい……私の、陰毛を少々……」

ガヴリール「…………、まじかよ?」

ラフィエル「あと、私の血液も少々……」テヘヘッ

ガヴリール「ぅ、うわぁ~……」ドンビキ…

14: 2017/07/02(日) 21:06:02.336 ID:m4T/en8Od.net
ガヴリール「あの、さ……」

ガヴリール「サターニャの奴、お前に作ってもらったお弁当」

ガヴリール「食べれなくて、本当に申し訳なさそうにしてたぞ?」

ガヴリール「まさか。あのお弁当がそんな悪意に満ちていたなんて……」

ガヴリール「サターニャの、あのゴメンっていう謝罪は一体何だったんだよ?」

ガヴリール「あいつの心を……踏み躙るなよっ!!」

ドンッ!


ラフィエル「ええ、そうですね……その通りです」

ラフィエル「私も、本当にそう思っています……」

ラフィエル「サターニャさんは、今回。本当は私に謝る必要などは全くないんですよね」

ラフィエル「反省してます……(´-﹏-`;)」ションボリ

16: 2017/07/02(日) 21:08:03.154 ID:m4T/en8Od.net
ラフィエル「しかし、それはそれとしてですね……」

ラフィエル「一体なぜサターニャさんは私の体毛が入っていることに気付いたのでしょうか?」

ガヴリール「ああ、それは私も思ったな……」


ラフィエル「不自然な味にならないよう、徹底して作りました……」

ラフィエル「ましてやあの味音痴のサターニャさんです」

ラフィエル「バレるわけがないと、そう思いません??」

ガヴリール「……まあ、な……」

ガヴリール「現にヴィーネはあのお弁当、美味しいって言ってたしなぁ……」ウ-ン


ガヴリール「…………」

ガヴリール「…………なぁ、っていうか」

ガヴリール「陰毛や血液入りのあの弁当、平らげていたぞアイツ?」

ガヴリール「お前、ヴィーネにも謝っといた方がいいんじゃ……」

ラフィエル「ふふふ……知らなくてもいい事をわざわざ教える必要はありませんよ?」ニコッ


…………

17: 2017/07/02(日) 21:10:03.884 ID:m4T/en8Od.net
……キィ……バタン………


ガヴリール「ただいま~……」

ガヴリール「よいしょっと、ふぅ……」ボフン


ガヴリール「…………」ゴロゴロ

ガヴリール「…………」ゴロゴロ

ガヴリール「…………」ゴロゴロ


ガヴリール「…………」

ガヴリール「サターニャがお弁当の不自然さに気付いた理由、かぁ……」

18: 2017/07/02(日) 21:12:03.023 ID:m4T/en8Od.net
あいつが……ハッキリと「不味い」と言うなんて珍しい。
ましてや自分のために作ってくれたお弁当に対して、だ。

あいつはアホだけど、根は優しい奴なんだ。
だから、本当に不味かったとしても我慢して食べるとかしそうなものなんだが。


トイレで吐いてたな、アイツ……
耐え難いくらい、それ程までに不味かったということか……?


まっ、実際には相当の悪意に満ちたお弁当だったわけで。
トイレで吐き出すほどの拒絶も何も間違っちゃいない、限りなく大正解。
理由は謎だが、今回のサターニャの味覚は結果だけ見ると全てが正しかったわけだ。


ん?待てよ?
結果としてはサターニャが正しい……?

19: 2017/07/02(日) 21:14:02.327 ID:m4T/en8Od.net
あいつは味音痴だ。

みんなが不味いと感じるものでも美味しいと喜ぶ。
だから、サターニャの味覚はおかしいと、みんながそう思っている。


本当に、そうなのか……?
少なくとも、今回はまともなはずのヴィーネが間違っていて。
おかしなはずのサターニャが、正しかった。

べつに、サターニャは普段。
毒を食べているわけじゃない。
味音痴とはいっても、一般的に味がおかしいというだけで……

そう、だからといって別に体に害のある物を食べてるわけじゃないのだ。


それに対し、ヴィーネは今回。
本当に食べちゃいけないものを食べてしまった。
あれは食べちゃアカンやつ、だ……


あれを吐き出したサターニャと、
パクパクしっかり食べてしまったヴィーネ。

果たして、本当に正しい味覚を持っているのはどっちなのか?
サターニャの味覚は、もしかしたら本当は……


ガヴリール「…………」

20: 2017/07/02(日) 21:16:02.621 ID:m4T/en8Od.net
……ワイワイ……ガヤガヤ……

((((((((((((((((((((/^0^)/キャハハハハ
ヾ(@>▽<@)ノぶぁっはははっははは♪



ガヴリール「なあなあ、サターニャ」チョイチョイ

サターニャ「なによガヴリール?」

ガヴリール「クッキー焼いたから食べてくれね?」ホレ

サターニャ「はぁ? あんた一体、どういう風の吹き回しよ?」

ガヴリール「お前に食べて欲しくて作ったんだ、駄目か?」

サターニャ「へっ? な、何か企んでるの?……////」

ガヴリール「べつに、他意はないぞ?」

サターニャ「ほ、ほんとに……?」モジモジ


ガヴリール「なぁ……ダメ、か?」ウワメ

サターニャ「~~ッ! わかったわよ、食べるから寄越しなさい!」カアァ

22: 2017/07/02(日) 21:18:03.952 ID:m4T/en8Od.net
ぱくっ!

サターニャ「…………」モグモグ

ガヴリール「…………」ドキドキ…


ガヴリール「どう、だ……?」

サターニャ「うん、美味しいじゃない!」パァァ

ガヴリール「そ、そうかっ!」ホッ

サターニャ「……? どうしたのよ?」

ガヴリール「い、いや。お前に美味しいと言ってもらえて安心したんだ」

サターニャ「ふーん? よく分からないけどありがとう」

サターニャ「このクッキーかなり美味しいわよ!」ニコニコ

ガヴリール「……そ、そうか////」モジモジ

24: 2017/07/02(日) 21:20:02.594 ID:m4T/en8Od.net
…………


私はある仮説を立てた。
サターニャの味覚は、人の好意を感じ取っているのではないか、と。

大抵の食べ物は、食べてもらうために作られている。
だからサターニャは、それを感じ取っていて。
だからこそ、大抵の食べ物を美味しく食べられているんじゃないかと。


逆に悪意に満ちた食べ物の場合。
サターニャはそれを不味いと感じ取り、身体が食べる事を拒否するのではないか?
たとえそれが一般的にまともな味付けであったとしても。


ガヴリール「…………」モグモグ

ガヴリール「このクッキー、めっちゃ不味いじゃんっ!!」ガ-ン!!

27: 2017/07/02(日) 21:22:02.461 ID:m4T/en8Od.net
ガヴリール「やれやれ……自分のクッキーの不味さにショックを受けてしまったわ」フウ…

ガヴリール「…………」

ガヴリール「サターニャはこれ、美味しいと言ってくれたんだよな……」


ガヴリール「あいつに食べてもらうために頑張って作ってみたんだが」

ガヴリール「もしかして、その好意が伝わってくれたんだろうか?……」

ガヴリール「なんだか、こう。胸が熱くなるというか」

ガヴリール「めっちゃ照れ臭くなるなこれ/////……」モジモジ


ガヴリール「…………」

ガヴリール「もっと美味しく作れるように頑張れば……」

ガヴリール「もしかしたら、その分の気持ちも伝わってくれるのだろうか?」


…………

31: 2017/07/02(日) 21:24:03.161 ID:m4T/en8Od.net
……ワイワイ……ガヤガヤ……


ヘ(`Д´)ノ ε= (*ノ´▽`*)ノ アハハハ
。_(_△_)ノ彡☆ギャハハ!!バンバン!!……

(。・ω・。)モグモグ!!(。・ω・。)モグモグ!!



ヴィーネ「ねえガヴ、あんた最近やけに料理を作ってるじゃない?」

ヴィーネ「一体どうしたのよ?」

ガヴリール「いやまあ、最近料理に目覚めたというか、なんというか」

ヴィーネ「ふーん?」

ヴィーネ「まあそれはそれでいいんだけど……」チラッ


サターニャ「…………(。・ω・。)モグモグ!!」


ヴィーネ「なんで味見係りがサターニャなのよ?」

ガヴリール「いいじゃん、べつに……」

ヴィーネ「いや、悪いとは言わないけど……なんでなのかな、って」

33: 2017/07/02(日) 21:26:03.239 ID:m4T/en8Od.net
サターニャ「もぐもぐ……♪」モグモグ!!

サターニャ「うん、今回も美味しいわよガヴリール!」ニッコリ

ガヴリール「そうかそうか♪」ニコッ


ガヴリール「こっちはどうだ?」ヒョイ

サターニャ「もぐもぐ……んんっ?」

サターニャ「さっきの方が断然美味しいわね……」

ガヴリール「そうか、そうか!」パァァ

サターニャ「んっ? あんたなんでそんなに嬉しそうなのよ?」キョトン

ガヴリール「いいや何でもない、気にしないでくれ」ニコニコ


ガヴリール(今、出したのは……手作りではなく、ただの市販の料理品だからな……)

36: 2017/07/02(日) 21:28:02.261 ID:m4T/en8Od.net
……キィ……バタン………


ガヴリール「ただいま~……」ボフン

ガヴリール「…………」ゴロゴロ

ガヴリール「…………」ゴロゴロ


ガヴリール「…………」

ガヴリール「ふふっ、ふふふっ……♪」ニマニマ

39: 2017/07/02(日) 21:30:02.234 ID:m4T/en8Od.net
サターニャは、私の手作りの方が美味しいと言ってくれた……


本来ならば市販の料理品の方が、今の私が作ってる手作りよりかは美味しいだろう。

市販品の料理にも、作られた以上は “食べてもらうため” の気持ちがそれなりには篭っているはず。
しかし、どうやら私の手料理の方がその気持ちに勝っていたようだ。


疑念が確信に変わっていく。
仮説は、やはり正しかった……
間違いなくサターニャは『料理に込められた気持ち』を味覚として感じ取っている。


あいつは、私の料理を美味しいと言って食べてくれる。
どうしよう、私は今、それがどうしようもなく嬉しいのだ。


気が付けば……
私は料理の仕方を色々と勉強していた。

42: 2017/07/02(日) 21:32:02.533 ID:m4T/en8Od.net
~~ 調理部 ~~


まち子「あら天真さん、こんにちは♪」フフッ

まち子「最近、よくここに来てくれてるわね?」

ガヴリール「料理に目覚めたんだ」

ガヴリール「どうしても、美味しいって言わせたい奴がいてな……」フンッ


まち子「へぇー、それはそれは……」

田中「なるほどねぇ……」

上野「うわー、乙女っすね……」


ガヴリール「おい、何を言っている!?」

ガヴリール「いいから、料理教えてくれよっ!////」カァァ

…………

45: 2017/07/02(日) 21:34:03.773 ID:m4T/en8Od.net
……ワイワイ……ガヤガヤ……
……アハハ!!……ガヴドロニキハヨ!!……



ガヴリール「私はさ、」

ガヴリール「あいつに美味しいと言ってもらえることに、どうしようもなく幸せを感じてるんだ」

ガヴリール「サターニャに手料理を美味しいと褒めてもらえることは」

ガヴリール「この世の何よりも幸せなこと」

ガヴリール「私はそう断言する」

ヴィーネ「ふーん……?」

ヴィーネ「ちょっと何言ってるのか、突然でよく分からないんだけど……」

ヴィーネ「えーと、、……」


ヴィーネ「ねえ、サターニャって味音痴じゃないの??」

ガヴリール「私はそう思わない」

ガヴリール「むしろ、サターニャの味覚こそが本当の意味で正しいと思ってる」

ガヴリール「間違ってるのは私たちの味覚の方だよ……」

47: 2017/07/02(日) 21:36:02.621 ID:m4T/en8Od.net
ヴィーネ「私には、よく分からないわね……」


ガヴリール「例えば、サターニャが美味しいと言ってる料理ならば」

ガヴリール「たとえそれが少し変な味付けであったとしても……私はその料理を食べてみたいと思う」

ヴィーネ「うんうん?」

ガヴリール「逆に、サターニャが不味いと言った料理ならば……」

ガヴリール「たとえそれがどんなに美味しいものだったとしても……私はそれを口にしたくはない」

ガヴリール「サターニャが不味いと言ってる料理は、私も気が進まないんだよ……」


ヴィーネ「…………」

ヴィーネ「うーん……?」

ヴィーネ「なんか、それは分かる気がするかも……」

ヴィーネ「あの子が喜んでる料理はなんだか暖かい気がするし」

ヴィーネ「あの子が不味いって言ってる料理は、確かに……なんだかあまり気が進まないわね」ウンウン

ガヴリール「……だろ?」オマエクッテタケド…

49: 2017/07/02(日) 21:38:03.749 ID:m4T/en8Od.net
ガヴリール「私は、さぁ……」

ガヴリール「あいつに不味いと言われる料理だけは、絶対に作りたくないんだよ」

ガヴリール「そんな料理を、もし私が作ってしまったとしたら」

ガヴリール「私は私を、自分を……。許せなくなるだろうな……」


ヴィーネ「…………」

ヴィーネ「…………、サターニャは……」

ヴィーネ「あの子は、どんな料理でも美味しいと言ってくれる」

ヴィーネ「それは、もしかして……」

ヴィーネ「私たちが作る食べ物が、暖かいからなの?」

ガヴリール「そうだ」

ヴィーネ「そっか、そうなのね……?」


ヴィーネ「ガヴの言ってる事、私にもなんだか分かった気がするわ……」

…………

51: 2017/07/02(日) 21:40:02.958 ID:m4T/en8Od.net
…………


良い食材を使った時。
あいつはその分をちゃんと美味しいと言ってくれる。

それは良い食材を使って美味しく食べてもらおうというその気持ちが、
ちゃんとあいつにも好意として伝わっているからなんだろう。

それなりに高い料理だとあいつはそれなりに喜んで食べている。

また逆に、
泥団子なんか差し出した所であいつはそれを食べたりなんかしないだろう。
泥団子は食べれない物、それが分かってて差し出した所で……
あいつの味覚はその意図を察して拒否をするからだ。


サターニャの味覚は、側から見れば一部でおかしいと思う所があるかもしれない。

だけど……世間一般がそうだと思ってるものには、一般的なそうだという思いが込められていて。
結果的に、あいつの味覚は平均的なそれと大きく外れるということはないのだ。


ただ単に、気持ちが篭っていれば……
あいつはその分を上乗せして美味しいと言ってくれるだけ。
作り手にとっては、手料理に凄く喜んでくれる、、

そういう嬉しい存在でしかない。

53: 2017/07/02(日) 21:42:03.910 ID:m4T/en8Od.net
ガヴリール「…………」

ガヴリール「あいつは、一人で食べるご飯よりも……」

ガヴリール「みんなで食べるご飯の方が美味しいと言っていた」

ガヴリール「例えば、その場の雰囲気でも変わるのだろうか?」

ガヴリール「周りが、サターニャと一緒にご飯を食べたいと思っていれば」

ガヴリール「サターニャは、その時のご飯を美味しいと言ってくれるようになる……?」

ガヴリール「……全く、どこまで可愛い奴なんだ。サターニャ、お前って奴は……」


…………

55: 2017/07/02(日) 21:44:02.004 ID:m4T/en8Od.net
ハァァァァッ!!〝〇〟⊂(`・Δ・´)⊃〝〇〟ビックバンアタァァァック!!
ブゥォォォォン!!!(´゜∀。`)))アヒャ…アヒャヒャヒャヒャハハハ…!!


……ワイワイ……ガヤガヤ!!……



ヴィーネ「…………」パクパク

ヴィーネ「ガヴも最近、随分と料理上手くなったわよねー」

ガヴリール「そうか? いまいち実感が湧かないんだが……」

ヴィーネ「ガヴの手料理、最近は私が食べても美味しいと思うわよ?」

ヴィーネ「もっと自信持ちなさいって!」ウンウン


ガヴリール「…………」

ガヴリール「あのさ、私気付いたことがあるんだ」

ヴィーネ「ん?」

57: 2017/07/02(日) 21:46:03.294 ID:m4T/en8Od.net
ガヴリール「サターニャはさ、何でも美味しいと言ってくれる……」

ガヴリール「すごく、簡単に。手料理を美味しいと喜んでくれる……」

ガヴリール「だけど、簡単に喜んでくれるけど、その代わり……!!」


ガヴリール「『超美味しい!』『すっごく美味しい!』って言わせるのは」

ガヴリール「逆にめっちゃくちゃ難しいんだよアイツっ!!」


ガヴリール「どうしても一定のラインを越えられない」

ガヴリール「どんな食材や調理でもある程度、美味しいと言う代わりに」

ガヴリール「逆にそれ以上の物を作るには……単に良い食材を使い、上手に調理するだけでは、駄目なんだ……」


ヴィーネ「ふむふむ……」

ヴィーネ「なるほど?」

ヴィーネ「つまり、料理のプロも下手な手作りもサターニャは大きな区別をしないってことかしら……?」

ヴィーネ「悪く言えば、その一定のラインを越えるのが難しいってところね……」フム

60: 2017/07/02(日) 21:48:02.504 ID:m4T/en8Od.net
ヴィーネ「でもさ、ガヴ」

ヴィーネ「サターニャは、ガヴが作ってくれる手料理を一番美味しそうに食べているわよ?」


ガヴリール「そうだな。確かに手応えはあるんだが……」

ガヴリール「美味しくしようと頑張れば、その分だけ喜んでくれてるのは確かなんだ」

ガヴリール「だけど……まあ、それだけだ」

ガヴリール「それだけでは、決して越えられない『壁』……」


ガヴリール「なんというか、今のままでは絶対に越えられない『壁』を感じるんだよ……」

ヴィーネ「……なるほどね」

ヴィーネ「それは言わば、サターニャの『心の壁』なのかもね……」


ヴィーネ「…………」

ヴィーネ「……よしっ!」グッ

ヴィーネ「ガヴ、私もサターニャに手料理を作るわ!」

ガヴリール「えっ??」

62: 2017/07/02(日) 21:50:02.357 ID:m4T/en8Od.net
ヴィーネ「私と料理の勝負をしましょっ、ガヴ!」

ヴィーネ「今度の日曜日、サターニャへの料理をガヴと私でお互い作るの!!」

ヴィーネ「それでサターニャに、より美味しいって言ってもらえた方の勝ち♪」

ヴィーネ「どう?」ニコッ


ガヴリール「ヴィーネ、それ本気で言ってるの……?」

ヴィーネ「マジよマジっ!」ビシッ!

ヴィーネ「言っとくけどね、あの子は私の昔からの親友で、私の大切な大切な仲間なんだから!」

ヴィーネ「友達に、美味しく食べてもらいたいという気持ちなら、絶対に負けないわよっ?」フフンッ


ガヴリール「ん~……」

ガヴリール「うん、まあいいけどさ……?」

ガヴリール「言っとくけど、やるからには私も負けないからな?」

ガヴリール「私の方こそ。サターニャに絶対美味しいって言わせてやるからっ!」ビシッ!

…………

64: 2017/07/02(日) 21:52:02.425 ID:m4T/en8Od.net
やれやれ……

その場のノリで流されるように了承したが。
私がヴィーネと料理の対決、かぁ。

そういえばヴィーネの奴、イベントとか大好きだったよな。
案外、こういう対決とかには積極的なのかもしれない。

果たして、私が勝てる見込みはあるのだろうか……?
ヴィーネは、サターニャのことを良く知っている。
料理の情熱だって、私とは年季が違うだろう。

ーー『親友だから、負けない!』

ヴィーネは、そう言っていたな。
なんだろう、この理由に負けちゃうのはなんか嫌だな。


私のこの気持ちは、もっとこう。
特別なものだと思うから…………

66: 2017/07/02(日) 21:54:02.719 ID:m4T/en8Od.net
そういえば…………

サターニャは、以前マスターが淹れたコーヒーを冷めてから飲んだ事がある。
その時も確か、不味いって言葉を漏らしていた。

あのコーヒーには、もしかしたら……
マスターの “温かい内に飲んでほしい” という気持ちが詰まっていたのかもしれない。
それを冷めてから飲んでしまったから、不味いと感じてしまったのではないだろうか?

とはいっても悪意があるわけでもなく、もちろん吐いたわけでもない。
結局飲んでごちそうさまする程度ではあったのだが。


サターニャとて、冷凍食品を冷凍したまま食べれるわけではない。
やはり、温めてから食べて欲しいと思われているものは温めてからでないと食べれないし。
冷やしてる状態で食べて欲しいと思われてるものは、冷やしてる状態でないと食べれない。

溶けたアイスクリームなど、あいつだって食べれやしない。
また腐ってしまった物についても同様、あいつが食べれることはない。

当たり前だが、食べ物には腐る前に食べて欲しいという思いが込められてるからだ。


あいつの味覚は、割と一般的なそれと整合性が取れている……

68: 2017/07/02(日) 21:56:02.446 ID:m4T/en8Od.net
たとえば……

私のこの気持ちにも、賞味期限はあるのだろうか?


美味しいと言ってくれるサターニャ。
手料理に喜んでくれるサターニャ。
みんなと一緒の食事で、嬉しそうにするサターニャ。

サターニャは、すっごく可愛いのだ。
本当にあいつは、どうしようもなく可愛くて可愛くて仕方がないのだ。


そうだな……
私のこの気持ちが、飽きることは一生無いだろう。
むしろ膨れ上がる一方だ。

あいつのために料理を作りたい。
あいつの喜んでるところが見たい。


料理を作ろう。
サターニャが、美味しいと言ってくれる料理を…………

70: 2017/07/02(日) 21:58:03.570 ID:m4T/en8Od.net
† そして、日曜日がやってきた…… †


ガヴリール「料理、出来たぞ!」ドンッ!
ヴィーネ「料理、出来たわよ!」ドンッ!


サターニャ「ふふっ、私のために二人がわざわざ料理を作ってくれるなんて……」

サターニャ「今日はどうしたのかしら?」ニコニコ


サターニャ「まあいいわ。まずはヴィネットの料理を食べるわね!」

ヴィーネ「はい、どうぞ!」

サターニャ「もぐもぐ……」

ヴィーネ「ど、どうかしら?……」ドキドキ

サターニャ「…………」


サターニャ「なにこれ、めっちゃくちゃ美味しいじゃない!!」パアア

ヴィーネ「…………っ!」パアア

74: 2017/07/02(日) 22:00:02.662 ID:m4T/en8Od.net
サターニャ「すごいわ、ヴィネットっ!」

サターニャ「こんなに美味しい料理、久々に食べたわよ……!」モグモグ

ヴィーネ「…………!!」ジ-ン


ヴィーネ(サターニャ……!!)


ヴィーネ(ああ……ほんとね……)

ヴィーネ(ガヴが、言っていることがよく分かるわ……)

ヴィーネ(サターニャに、美味しいと言ってもらえると、すごく嬉しいっ!!)

ヴィーネ(一生懸命作った料理が、気持ちが、伝わったんだって! ……)グスッ


ガヴリール「…………」

ガヴリール(さすがヴィーネ、だ……)

ガヴリール(こうも軽々とサターニャにあそこまで美味しいと言わせられるとは……)

77: 2017/07/02(日) 22:02:02.558 ID:m4T/en8Od.net
サターニャ「ふふっ……♪」

サターニャ「ごちそうさまっ!!」

サターニャ「ありがとうね? ヴィネット!」

サターニャ「すっごく、美味しかったわよ♪」ニコッ

ヴィーネ「えへへ♪ ……♡」テレテレ



サターニャ「さて、では次は……」ゴクリ

サターニャ「ガヴリールの料理ねっ!」

ガヴリール「お、おう!! ……」ドキドキ

サターニャ「匂いだけで分かるわ、これは絶対に美味しいって!!」ワクワク


サターニャ「では、いざっ……」

サターニャ「いただきますっ……!」モグモグ

ガヴリール「…………」ドキドキ


サターニャ「…………」モグモグ

ガヴリール「…………」ドキドキッ!!

80: 2017/07/02(日) 22:04:02.658 ID:m4T/en8Od.net
サターニャ「…………」モグモグ

サターニャ「…………」モグモグ

サターニャ「…………」モグモグ



サターニャ「……………………」モグモグ

ガヴリール「お、おい! いつまで食べてるんだよ! ……」ハラハラ

サターニャ「…………はっ!?」

84: 2017/07/02(日) 22:06:05.641 ID:m4T/en8Od.net
サターニャ「ごめんごめん、つい食べるのに夢中になってて……」

ガヴリール「夢中って、お前……」


サターニャ「ガヴリール、すッッごく美味しいわよっ!!」

サターニャ「今まで、食べたことがないくらい……美味しかったわ♪」ニコッ

ガヴリール「……ッ!! そ、そうかっ!」パアア


ヴィーネ「…………やっぱり、ね」フフッ

ヴィーネ「それで、勝者の方は?」


サターニャ「ガヴリールよっ!!」

サターニャ「あっ、もちろんヴィーネの料理もすごく美味しかったからね!」ニコニコ


ガヴリール「さ、サターニャ……/////」

ガヴリール「そ、その……あっ、ありがとな? ……」モジモジ

ヴィーネ「ふふっ、おめでとうっ♪ ガヴ!」ニコッ

97: 2017/07/02(日) 22:34:06.790 ID:m4T/en8Od.net
…………
………………
………………………

…………カァ-……カァ-……


ヴィーネ「…………」トテトテ



ヴィーネ「ガヴ、は……」

ヴィーネ「あの子は、自分の気持ちに気付けたかしら……?」

ヴィーネ「あーあ、これで私も失恋決定かぁ~……」フゥ


ヴィーネ「…………」トテトテ


ヴィーネ「自炊できるようになれば……もう私がご飯を作りに行くこともなくなるわね……」ヤレヤレ

ヴィーネ「まったく、鈍感なんだからガヴってばっ!! ……」


ヴィーネ「…………」トテトテ


ヒュオオオオオッ…………


ヴィーネ「…………」

ヴィーネ「だけど、ガヴが本当に倒さなくちゃいけない相手は、私じゃない……」

ヴィーネ「覚悟を決めなさいよ? ガヴ」


…………ラスボスが、控えてるんだから。

99: 2017/07/02(日) 22:38:02.754 ID:m4T/en8Od.net
……


┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨……


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ! !



サタ-ニャサン……サタ-ニャサン……ハァハァ!!……
アア!!……サタ-ニャサン……カワイイ……サタ-ニャサン……カワイイ!!……ハァハァ……


ラフィエル「ふぅ……」テカテカ

ラフィエル「ふっふっふ……!!」


ラフィエル「おやおや~?」

ラフィエル「なにやら皆さん、面白そうなことをしていますね~?……」

ラフィエル「ふむふむ、ふむふむ……」

ラフィエル「なるほど、なるほど!!」

ラフィエル「料理対決、ですか……」

ラフィエル「…………」フムフム

ラフィエル「これはこれは。……と~っても面白そうですね~?」ニヤリ

100: 2017/07/02(日) 22:40:02.444 ID:m4T/en8Od.net
『白羽=ラフィエル=エインズワース』


自称天使、その中身は悪魔。
サターニャのストーカーにして生粋のサディストである。

白い髪がよく似合う巨Oの持ち主。
見た目も中身もハイスペックではあるが、残念ながら性格に致命的な難アリ。
サターニャを弄ることに人生の生き甲斐を感じている。

千里眼というストーキング専用能力を持ち、
神足通というストーカー御用達の能力を持つ。
ストーキングのために生まれてきた生き物。


『サターニャさんがいる所にラフィエルあり!』
これは彼女の迷言である。



ラフィエル「ふんふ~ん……♪」タッタッ

ラフィエル「ガ~ヴちゃん♪ 私と料理勝負しませんかぁ?」ニコッ

104: 2017/07/02(日) 22:42:02.601 ID:m4T/en8Od.net
ガヴリール「ラフィエルっ!!」


ガヴリール「お前、最近見ないと思ったら……」

ガヴリール「今迄一体、どこに行ってたんだ……?」

ラフィエル「ふふふっ、……ちょっと手に入れるのが難しいものがありましてですね~?」

ラフィエル「まあまあ、それはべつにいいじゃないですか♪」

ラフィエル「それよりも……」

ラフィエル「どうです? 私と料理勝負しませんか?」ニコッ


ガヴリール「……料理の勝負だと?」

ラフィエル「はいっ♪」

ラフィエル「シンプルに、サターニャさんに美味しいと言ってもらえた方の勝ち♪」

ラフィエル「どうですかぁ~?」

ラフィエル「とっても分かりやすいでしょう?」フフッ


ガヴリール「…………」

ガヴリール「…………ハッ!」

106: 2017/07/02(日) 22:44:04.672 ID:m4T/en8Od.net
ガヴリール「お前の手料理は、一度……」

ガヴリール「サターニャに『不味い』と言われていたな?」

ガヴリール「そのお前が、料理で勝負だと?」

ラフィエル「あの時の私は……そうですね、魔が差してたんですよ!!」

ラフィエル「だから、今の今まで反省していたんですよ?」ニコッ

ガヴリール「…………」



ガヴリール「なぁ、ラフィエル」

ガヴリール「サターニャの味覚は……」


ラフィエル「『サターニャさんの味覚は料理に込められた想いを感じ取っている』ですか?」

ガヴリール「……ッ! お前っ!! 気付いていたのか!?」

ラフィエル「ええ、まあ。そうなんじゃないかな、という推測は立てていました……」

ラフィエル「やっぱり、そうなんですね?……」フフッ

107: 2017/07/02(日) 22:46:03.278 ID:m4T/en8Od.net
ラフィエル「ねえ、……ガヴちゃん?」

ラフィエル「サターニャさんは、本当に素敵な人ですよねぇ~?……」

ラフィエル「見ていて飽きない、どこまでも面白い人ですよねぇ~♪……」ウットリ

ラフィエル「私の興味が、尽きることはありませんっ♪」フフッ


ラフィエル「さて、ガヴちゃん……」

ラフィエル「勝負を、受けますか?」


ガヴリール「…………」

ガヴリール「ラフィエル、」

ガヴリール「この、勝負の意味は……」


ラフィエル「ガヴちゃん?」

ラフィエル「サターニャさんは、料理に込められた想いを味覚で感じ取ることが出来るんですよね?」

ラフィエル「と~っても……、分かりやすいと思いません?」ニコニコ


ガヴリール「ラフィエル……」

ガヴリール「…………」

ガヴリール「分かった、受けて立とう」

108: 2017/07/02(日) 22:48:02.162 ID:m4T/en8Od.net
ラフィエル「ではでは、次の休日の日に勝負っ! ということで……」

ラフィエル「サターニャさんにも、そう伝えておきますね?」フフッ

ラフィエル「それではっ……♪」スッ




ガヴリール「…………」

ガヴリール「待て、ラフィ……っ!!」

ガヴリール「お前は、サターニャのことっ……」

ラフィエル「愛してますよ?」クルッ

ガヴリール「…………ッ!」


ラフィエル「私は色々とサターニャさんに対して、導いたりなどしてはいますが」

ラフィエル「私のサターニャさんを想う気持ちに、嘘偽りはありません」

ラフィエル「私は本当に、サターニャさんが好きですよ?」


ラフィエル「ガヴちゃんは……さて、どうでしょうかね?」フフッ

110: 2017/07/02(日) 22:52:03.632 ID:m4T/en8Od.net
ガヴリール「…………ッ!!」

ガヴリール「私……、はっ……!!」

ガヴリール「……っ、私、は…………」


ラフィエル「…………」


ラフィエル「ガヴちゃん……」

ラフィエル「今度の料理勝負」

ラフィエル「そんな生半可な気持ちでは絶対に私には勝てません」

ラフィエル「せいぜい決着の日まで……顔を洗い直しててくださいね?」

ラフィエル「では…………」スッ



ガヴリール「…………」

ガヴリール「………………クソッ!!」

…………

112: 2017/07/02(日) 22:55:38.540 ID:m4T/en8Od.net
…………
………………
………………………

…………カァ-……カァ-……


もう暗い、夕暮れか。
私は一体、なにをしているのだろう……


ガヴリール「…………」キ-コ…キ-コ…


人気のない、公園のブランコで。
一人、物思いに耽っている。
考えることはまとまらず、何を考えているのかも自分でよくわからない。


ガヴリール「…………」キ-コ…キ-コ…


紅く染まった夕焼けに、太陽が落ちてゆく。
公園と私の影が、長く長く伸びて。
やがて暗闇がどんどん周りを侵食していく。


ガヴリール「…………」キ-コ…キ-コ…


私の心も、闇に沈んでゆくのだろうか?
このまま、消えてしまうのかもしれない……

114: 2017/07/02(日) 23:00:49.436 ID:m4T/en8Od.net
…………
………………

…………カァ-……カァ-……


サターニャ「…………」トテトテ…


サターニャ「…………、、」

サターニャ「…………ガヴリール……」

サターニャ「…………、はぁ~……」


サターニャ「…………」スタスタ

サターニャ「…………」スタスタ


サターニャ「……………」


サターニャ「ーーーーえっ?……」

サターニャ「……あれ、もしかして……」

サターニャ「……ガヴリール……??」


たったったっ!!……

115: 2017/07/02(日) 23:01:42.759 ID:m4T/en8Od.net
……………………
………………
…………


サターニャ「…………」

サターニャ「…………ねえ、ガヴリール」


サターニャ「…………」

サターニャ「あんた、こんな所で何してんのよ?……」


ガヴリール「…………」

ガヴリール「…………サターニャ、か……」


サターニャ……
お前の方こそ、どうしてここに?

時刻は既に夕刻を過ぎようとしている。
それなのに……

116: 2017/07/02(日) 23:03:14.550 ID:m4T/en8Od.net
ガヴリール「…………」


…………カァ-……カァ-……


お前の家近くのこの公園で、この場所で。
お前の事を考えていた、なんて……
言えるわけがないだろう。


ガヴリール「べつに、ただ」


ガヴリール「ちょっと、黄昏ていただけだ……」

サターニャ「あんたが、黄昏?? ふーん……」


少しだけ……サターニャが心配するような眼差しをする。
本当は優しいくせに、でもこいつはそれを素直に言葉にはしてこない。
ただ、私を見つめ、私の隣でブランコを漕ぎ始める……


サターニャ「よっ! ほっ! ……」キ-コ…キ-コ…


サターニャ「ねえガヴリール、どっちが高く漕げるか勝負しない?」

ガヴリール「するかよ、バカ……」


取り止めの無い会話。
だけど、私とサターニャのいつもの会話……

117: 2017/07/02(日) 23:05:01.792 ID:m4T/en8Od.net
サターニャ「ねえ……」

サターニャ「ラフィエルから、聞いたわよ?」

サターニャ「今度また、私のために料理を作ってくれるんだって?」


ブランコを漕ぎながら、サターニャが話し掛けてくる。
二人の長い影が、夕焼けの公園に伸びていく。


サターニャ「楽しみにしてるわよ?」フフッ

ガヴリール「……そうか」


遠く、カラスの鳴き声が聞こえてくる……
それだけで。
人気のないこの場所で、他に誰がいるわけでもなく。


ガヴリール「…………」


ガヴリール「サターニャは、さ……」

ガヴリール「どうしていつも私に、構ってくるんだ?」


どこまでも朱く染まった世界に。
その隣で揺れる赤い髪と、その赤い眼の持ち主に。
その悪魔に……私はその疑問を尋ねてみた。

118: 2017/07/02(日) 23:07:02.269 ID:m4T/en8Od.net
サターニャ「…………」キ-コ…キ-コ…


ガヴリール「他の皆には、あんまり勝負とか挑んだりしないでさ……」

ガヴリール「私にだけ、いつもそうやって構ってくるじゃん?」

ガヴリール「だから……なんでなのかな、って……」


サターニャ「…………」

サターニャ「…………ガヴリールと」

ガヴリール「ん……?」

サターニャ「ガヴリールと、仲良くしたいから……」カァァ

ガヴリール「…………!!」

サターニャ「もうっ!! 本当は私、ガヴリールと一緒に仲良く遊びたいからって言ってんの!!」

サターニャ「わかった!?」フンッ


ガヴリール「……ああ、よく分かったよ」

ガヴリール「そうか、そうなのか……」

ガヴリール「ふふふ……!!」

サターニャ「…………ふんっ!」プイッ


ガヴリール「なぁ、サターニャ」

ガヴリール「どうしたんだ?今日はやけに素直じゃん?」ニヤニヤ


サターニャ「…………」

サターニャ「あの、ね?……」

サターニャ「この前、ガヴリールの料理を食べてから」

サターニャ「私も少し、変なのよ……」

119: 2017/07/02(日) 23:09:02.539 ID:m4T/en8Od.net
ガヴリール「……そうなのか?」

サターニャ「…………」

ガヴリール「ふーん? ……」


サターニャ「…………」キ-コ…キ-コ…

ガヴリール「…………」キ-コ…キ-コ…


…………カァ-……カァ-……



ガヴリール「…………」

ガヴリール「なぁ、サターニャ……」

ガヴリール「私も少し、素直になってみてもいいか?」

サターニャ「…………なによ?」


ガヴリール「私も、本当はお前に構ってもらえるの」

ガヴリール「実はすごく嬉しかったりするぞ?」

サターニャ「ほんとっ?!」パアア

ガヴリール「ああ、本当だとも!」

121: 2017/07/02(日) 23:11:02.247 ID:m4T/en8Od.net
…………。
本当は、それだけじゃない。


ガヴリール「退屈な日常で、堕落した日々で」

ガヴリール「私に構ってくれるお前が、嬉しくて」


本当は、元気な所、前向きな所、挫けない所。
友達想いで、誰よりも心優しいお前が……


ガヴリール「私は救われているんだよ、お前に」

ガヴリール「お前がいなきゃ、ただ時間だけが過ぎていく。そんな虚しい毎日だったろうな」


お前は……無垢で、純粋で、真っ直ぐで。
誰よりもひたむきで、私には……眩しいくらいだから。


サターニャ「フ、フンッ!そうでしょそうでしょっ!?」

ガヴリール「ああ、そうだともっ!!」


素直じゃないところも、寂しがり屋なところも。
本当は、私は、全部、全部!!…………



ガヴリール「なあ、サターニャ……」

ガヴリール「だから……これからも私に構ってくれよ?」

サターニャ「…………!!!」

サターニャ「うんっ……!!」


今はこの言葉だけで……

あとは料理に、この想いを。
そしてお前に伝えよう、私のこの気持ちを……

122: 2017/07/02(日) 23:15:07.761 ID:m4T/en8Od.net
ーー勝負の日まで、あと僅か……。


ガヴリール「…………」


サターニャは、辛いものが好きだったな。
他にもメロンパンなど、あいつの好物は幾つかある。
それはサターニャ個人の、個性としての味覚なのだろう。

では、あいつの気持ちはどうだろう?
あいつの心にも、個人の。個性としての好き嫌いはあるのだろうか?
気持ちとして、精神として。誰が好きだとか誰が嫌いだとか。


ラフィエルは……
あいつは、サターニャのこと。本気で好きなのだろうな。
変態のくせに、いつもサターニャのこと弄って遊んでるくせに。

天界にいた頃のあいつは、もっとこう……
毎日、酷くつまらなさそうにしていた。
まるで同じことの繰り返しをする日々に。

下界に来てからだ……
サターニャと出会ってから、あいつは本当に生まれ変わった。
今までと違い、とても生き生きとした姿をするようになった。

あいつの愛は、きっと深くて。本物なんだろうな……

123: 2017/07/02(日) 23:17:02.250 ID:m4T/en8Od.net
私は、どうだろう……

『ガヴリール、私と勝負しなさい!』

いつも明るくて、元気いっぱいで。
怠けている私とは正反対で。

『ねえガヴリール!これで決着つけましょ!』

いつも私に構ってきてくれる、あいつに。
自堕落な私を、グイグイと力強く引っ張ってくれるあいつに。


『ガヴリールと、仲良くなりたいの……!!』


そうだな……
本当はもうとっくに気付いてるんだ。
だけど照れくさくて、恥ずかしくて。
なんだか表には出せなかったこの気持ちに。

でも、……もう限界だ。

溢れてくる気持ちが、私の中でどんどん膨れ上がって……
もう決壊してしまいそうなんだ。

認めよう、ずっと奥にしまってきたこの想い。


私だって、本当は、本当は……!!
サターニャのことが好きで好きで、堪らないんだよ……っ!!

124: 2017/07/02(日) 23:19:09.379 ID:m4T/en8Od.net
ああもう、そうだよ!!!!
私はサターニャのことが好きだ、ぶっちゃけめっちゃ大好きだっ!!てか超大好きだよちくしょうっ!!
だってあいつ、可愛くて可愛くて仕方ないんだしっ!!!

なんだよ私に構ってもらいたいから勝負を挑んでたって。
可愛すぎだろちくしょう!!
本当は私と仲良くなりたい?あーもうっ!!萌えの塊かよっ!!!

寂しがり屋のくせに!!本当は一緒に遊んでほしいだけのくせに!!
素直にそう言えないで勝負だなんだとか言っちゃうサターニャ!!!
なんだよもう!!可愛すぎだろちくしょう!!

私が少し本音を漏らして、構ってもらえるの嬉しいぞって伝えた時のアイツ、あの嬉しそうな表情っ!!!
どんだけ嬉しそうにしてんだよちくしょう!
サターニャ可愛すぎだろちくしょうっ!!!

撫で撫でしてサターニャの事大好きだよって言ったらなんかアイツめっちゃ喜びそう!
あーもう、私だって本当はサターニャのこと好き好きで堪らないってのにっ!!!

だいたいなんだよあいつ、あの普段の女子力の高さ。
私服はオシャレだし、身嗜みは清潔だし、行儀は良いし。
本当にアホの子か? めっちゃ女の子としてのレベル高いんすけど。

表情は豊かだし、すぐ泣いたり笑ったり喜んだりしてコロコロと感情を表に出してくるし。
なんだよもう、可愛いに決まってんだろこんなのっ!!
どの表情も全部可愛いってのがまた卑怯すぎるんですけどっ!!!

そもそもあいつ、元々が可愛すぎるんだよ!!
あの綺麗な赤い目に、あの赤い髪で、スタイルだって何気にめっちゃ理想的だしっ!!
その見た目完璧すぎる可愛さで寂しがり屋だったり表情豊かだったり、
無理だろコレっ!!惚れるに決まってるわこんなのっ!!!

こっちがサターニャと一緒にいると嬉しいって言えば、
サターニャはそれを聞いてめっちゃ喜ぶんだ。
そりゃもう凶器っすわあの可愛さ……


ふぅ……ちょっと落ち着こう。

127: 2017/07/02(日) 23:21:39.577 ID:m4T/en8Od.net
あいつが欲しい……
これからもずっと、だ……!

あいつは純粋で、無垢だから、すぐに何でも信じてしまう。
将来あいつは、このまま放っておくといつかきっと誰かに騙されてしまう。

誰かが守ってやらないと、あいつは純真だから、いつか泣いてしまう日が来る。
だから私が、あいつの心を、ずっとこれからも……いつまでも、守ってやりたい。

私は人生につまらなさを感じている。
どうしようもなく退屈で、全てに飽きていて。
ただ、ただ、空っぽの毎日の繰り返し。


天界にいた頃は、私もラフィエルもそうだった……

ラフィエルは、きっと分かってたんだ。
サターニャは、特別なんだって。

この世界であいつ程、綺麗で純真で無垢なものは無い。
この空虚が蔓延する世界で、あいつと一緒にいることは、輝ける時間を過ごせる方法なんだって。

あいつの前向きな真っ直さは眩しくて。
これから私の生きていく日々、つまりは私の側にサターニャがいるかどうか。
それが私の人生の、きっと全ての分かれ道になるだろう。

サターニャがいなければ、私はずっと堕落したまま何の生きる意味もなく。
このまま将来、ただ何もない虚しい日々を過ごすことになるのは目に見えている。

でもあいつがいるだけで、きっと人生は180°変わるから……
サターニャが側にいれば、それだけできっと日々が楽しくなるのに違いないのだから。

あいつは、この色褪せた世界の中で。
私が感じ取る、唯一の光。
虚ろな日々を満たし、灰色の毎日を彩ってくれる存在。
サターニャという輝きには、それだけの力がある。

でも、それだけじゃない……
私はただあいつの全てが愛おしくて、好きで堪らないんだ。


ラフィエルは、毎日サターニャへの気持ちを全面に押し出していた。
包み隠さず、自分の気持ちに正直に。

だけど私は、
今までずっと蓋をしていた……

だからこそ!!!
蓋を開けた今、この溜まり溜まった気持ちが一気に爆発していくんだ。

今の私はゲームで例えると、ゲージMAX状態にある。
なんかピカピカ点滅してて、必殺技を放てるコマンドがあるかのようだっ!!


ガヴリール「見てろよ、ラフィエルっ!!……」

……サターニャは、渡さない!!
お前には、絶対に負けないからッッ!!!

129: 2017/07/02(日) 23:33:34.347 ID:m4T/en8Od.net
Ψ そして、決戦の日がやってきた…… Ψ



ガヴ&ラフィ「「…………」」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ! !


ヴィーネ「さあさあ、やってまいりましたガヴとラフィの料理対決の日!」

ヴィーネ「実況は私、月乃瀬=ヴィネット=エイプリルがお送りします!」

まち子「よろしくお願いします、月乃瀬さん!」

田中「解説及び審査の田中です!」

上野「我が校、調理部の私たちが勝負の行方を見守ります!」


サターニャ「なんでこんなに盛り上がってんのよっ!?」ガ-ン‼︎

130: 2017/07/02(日) 23:35:02.234 ID:m4T/en8Od.net
ヒュオオオオオオッ…………


ラフィエル「逃げずに、よく来ましたね。ガヴちゃん……」

ガヴリール「お前こそ、な……」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ! !



ヴィーネ「おおっと!? いきなり両者の睨み合いだぁー!!」

まち子「なんか月乃瀬さんってこういう一面あるよね」

田中「私たちも面白い物が見れるからって」

上野「ねー?」ウンウン


……ガヤガヤ……ワイワイ‼︎……

132: 2017/07/02(日) 23:37:52.673 ID:m4T/en8Od.net
ラフィエル「ガヴちゃん……」

ラフィエル「…………」


ラフィエル「啀み合ってても、仕方ありません……」

ラフィエル「さっそく、始めましょう!!」

ラフィエル「マルティエルッ!」

マルティエル「ハッ! ……」


一同「「…………ッ!?」」



┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨……!!!!


ガヴリール「おいおい、嘘だろ……」

ヴィーネ「専用の……大型調理機器の持ち込み……」

まち子「えっ? ちょ……私この場にある器具で調理するんだと思ってたんだけど!?」

田中「えっ、何コレ? 本格的すぎね……?」

上野「ていうかあの執事なによ、急に現れたように見えたんだけど?!」


一同「「一体、何が始まるっていうの?……」」ポカ-ン

133: 2017/07/02(日) 23:40:01.836 ID:m4T/en8Od.net
ラフィエル「材料は、これですッッ!!」


ドンッ!! ドサッ!!

一同「「…………ッ!?」」



ヴィーネ「な、何よあれ……超高級食材じゃないっ!!」ガクガク

まち子「ちょ、ちょっとあれ! ……数万円とかいうレベルじゃないわよ!?」

田中「え? 何コレ……私、ただ友達同士の料理対決って聞いてたんですケド?」ブルブル

上野「これ……普通の料理番組よりもずっとレベル高いんじゃ……!?」アセアセ

134: 2017/07/02(日) 23:42:02.218 ID:m4T/en8Od.net
…………


ラフィエル「ーーーーッッ!!」



まち子「すごい、真剣な表情だわ……」

田中「料理に対する情熱がこっちまで伝わってくる」

上野「まるでこの一品に、全てを込めてるかのような気迫……」


ヴィーネ「…………っ!」

ヴィーネ(ガヴ……もしもの時は……)

ヴィーネ(私が代わりに……あなたの側に居てあげるから……っ!)


…………

135: 2017/07/02(日) 23:44:03.813 ID:m4T/en8Od.net
ラフィエル「出来ました……」


ドンッ!!


サターニャ「わあ、こんな豪勢な料理! 私はじめて見たわ!」ワクワク

サターニャ「早速っ、食べてみてもいいかしら?」ウキウキ

ラフィエル「サターニャさんっ!!」

サターニャ「んっ? どうしたのラフィエル?」


ラフィエル「私の……今ある気持ち、全てを込めた一品です」

ラフィエル「どうか、味わって食べてください……」ペコリ


サターニャ「ラフィエル……、わかったわ!……」

サターニャ「いただきますっ……!!」

138: 2017/07/02(日) 23:46:02.879 ID:m4T/en8Od.net
サターニャ「…………」パクッ

サターニャ「…………ッ!?」パクパクッ



サターニャ「……美味しい……」

サターニャ「今まで、食べてきたどんな料理よりも。美味しいわ……」

ラフィエル「……サターニャさんっ!!」グスッ


サターニャ「私は、今。初めて『本当の食事』をしたのかもしれない」

サターニャ「この世に、こんな美味しいものがあったなんて……」

サターニャ「この料理には、美味しさの上限がないのよっ……!!」


サターニャ「どこまでも、果てしなく美味しい、そんな料理よ……」

139: 2017/07/02(日) 23:48:57.349 ID:m4T/en8Od.net
…………おおおっ!!!


まち子「すごい……っ!!」

田中「胡桃沢さんに、あそこまで言わせる
なんて……」

上野「これは……勝負決まったよね」

まち子「そうね……単に、食材や料理の腕が良かっただけじゃないわ! ……」

田中「あの料理一つのために、込められた執念や想い……」

上野「あの料理に、どれだけの気持ちが詰まってたかは私たちにも分かるもんね……」

田中「世界中、どの料理人だってあの一品には勝てませんよ……」


マルティエル「お嬢様、ご立派です……っ!!」

マルティエル「私は、私はっ! ……初めてお嬢様の、あのような真剣なお姿を見ました……っ!!」ウルウル

142: 2017/07/02(日) 23:57:01.997 ID:m4T/en8Od.net
ヴィーネ「…………」

ヴィーネ「……まだ、勝負は決まってないわ」

ヒュオオオオオオオッ…………



まち子「えっ? ……いや、無理でしょ?……」

田中「あれだけの食材を用意されてしまったら」

上野「もう勝ち目なんて…………」


ヴィーネ「……サターニャの味覚は、普通とは違うの」

ヴィーネ「確かに、あれだけの食材。如何にラフィといえども相当の苦労をしたはず……」

ヴィーネ「その苦労は、きっとサターニャにも伝わっているわね」


ヴィーネ「だけど、幸か不幸か……」

ヴィーネ「食材の味。それ自体はサターニャにはイマイチ伝わらないのよ」

マルティエル「なるほど、つまり……?」

ヴィーネ「食材の差、それは勝負の決め手にはならないのよ……!!」

144: 2017/07/02(日) 23:59:02.616 ID:m4T/en8Od.net
マルティエル「フフッ…………!」

マルティエル「確かに、この勝負。食材が決め手ではありませんね……」

マルティエル「一番大事なのは “気持ち”…… そのことは、この私も承知しております……」


マルティエル「しかしながら、その気持ちッ!!」

マルティエル「お嬢様の、サタニキア様に対するその想いは、世界中の誰よりも強いッ!!」

マルティエル「執事であるこの私が、そう断言します!!」

マルティエル「なにより……サタニキア様自身から『美味しさに上限がない』とのお言葉を頂きました!!」

マルティエル「お嬢様の想いは、サタニキア様に……『無限』としてちゃんと伝わったのですよ」ニコッ


ヴィーネ「…………、そうね……」

ヴィーネ「今更、ラフィのサターニャに対するその想いを疑う余地はないわ」

145: 2017/07/03(月) 00:01:04.325 ID:JczdnnHrd.net
ヴィーネ「だけどガヴは……」

ヴィーネ「あの子は、意地っ張りで、素直じゃないから……」

ヴィーネ「今までずっと、自分の気持ちに正直になれずにいたのよ……」


ヴィーネ「その想いは、今までずっとずっと溜まり続けていて」

ヴィーネ「そして今、それは一気に解き放たれている!!!」

ヴィーネ「今のガヴは、気持ちが爆発している状態よ!」

ヴィーネ「きっとラフィエルにも負けないくらい、それは大きいわっ!!」


マルティエル「フフッ……果たしてそうでしょうか?」

ヴィーネ「あれを見てっ!!」


ガヴリール「ーーーーッッ!!!」


マルティエル「…………っ!?」

ヴィーネ「ねっ?」

マルティエル「…………、こ、これは……っ!!」

146: 2017/07/03(月) 00:03:02.570 ID:JczdnnHrd.net
ガヴリール「ーーーーッッ!!!」



まち子「白羽さんに負けず劣らず、とても真剣な顔付きだわ……」

田中「あの天真さんが、あんなに真っ直ぐな表情をするなんて……」

上野「すごい熱意が、こっちにまでひしひしと伝わってくるわね……」


マルティエル「この姿、この雰囲気……っ!!!」

マルティエル「まさか、これは……ッッ!!!」


マルティエル「これは……まるで天界にいた頃の、あの聖なるガヴリール様ッッ!!」

マルティエル「いや違う、それとはまた一回り違う。何か……」

マルティエル「そう、まるで堕落してからのガヴリール様と融合し、それを兼ね備えてるかの如くッ!!」


ヴィーネ「ガヴは……天使としての清い心も、人としての汚れた心も、両方を持っている……」

ヴィーネ「今のガヴは、そのどちらか一方を隠したり、蓋をしたりなどせずに……」

ヴィーネ「両方の気持ちを、どちらも完全に引き出して解き放っているのっ!!」

ヴィーネ「そう……つまり、聖と駄の2つの心が合体して重なり合ってるのよッッ!!!」ドン!!


マルティエル「…………」

マルティエル「なん……だと……?!」

147: 2017/07/03(月) 00:05:03.214 ID:JczdnnHrd.net
ヴィーネ「今の……天使であるガヴ。そして、駄天したガヴ……」

ヴィーネ「そのどちらも含み、そしてそのどちらをも超えている状態ならっ……!」

ヴィーネ「二つの心が重なり合ってて……きっと何だって出来るわッ!!!」

マルティエル「そ、そんなっ! ……そんな事がッ!!……」



まち子「そっか、天真さん……覚醒しちゃったのね……」

上野「なるほど……穏やかな心を持ちながらも汚れを知り、目覚めちゃった戦士なのね……」メガネクイッ!

田中「2つの人格が合体して気持ちは2倍。いや、それ以上と見るべきか?……」フム

149: 2017/07/03(月) 00:07:02.344 ID:JczdnnHrd.net
マルティエル「クッ……!!!」

マルティエル「しかし、気持ちが仮に2倍。いやそれ以上になった所で……」

マルティエル「お嬢様とて『無限』ッ!!」

マルティエル「無限と無限では決着が付かないのでは?」


ヴィーネ「…………」

ヴィーネ「気持ちの大きさが同じなら……」

ヴィーネ「おそらくガヴが有利」

マルティエル「えっ? ……」

ヴィーネ「同じ無限の気持ちでも、2人ではその心の中身が少し違うのよ」


ヴィーネ「だってラフィは変態だもの!!」

ヴィーネ「サターニャに対するラフィのそれは……邪な気持ちも含んでて」

ヴィーネ「ラフィのその気持ちには、濁りがあるのよっ!!」

マルティエル「!! ……お嬢様が変態であることは否定できないッ!!!」ガ-ン!!

150: 2017/07/03(月) 00:09:02.400 ID:JczdnnHrd.net
ヴィーネ「ガヴは、もっと純粋よ……」

ヴィーネ「ただ一途に、真っ直ぐにサターニャのことを……」

ヴィーネ「その気持ちは、きっとどこまでも綺麗で真っ白だからっ!」


ガヴリール「ーーーーッッ!!!」


ヴィーネ「頑張って、ガヴっ!! ……」

ヴィーネ「最後に勝負を決めるのは」

ヴィーネ「おそらくサターニャ個人の。個性として、好みの問題」

ヴィーネ「要はサターニャ自身が、ガヴが好きなのか。ラフィエルが好きなのか……」

ヴィーネ「でも私はきっと、二人はお互い惹かれ合ってると思うからっ! ……」


…………

152: 2017/07/03(月) 00:11:57.015 ID:JczdnnHrd.net
・・・・・・


ガヴリール「…………」カチャ

ガヴリール「出来ました……」

サターニャ「待っていたわよ、ガヴリール!」ニコッ


ガヴリール「サターニャ……」

サターニャ「んっ?」

ガヴリール「私のこれまでの自分、今の気持ち、そしてこれからの人生」

ガヴリール「全ての想いを込めた一品だ」

ガヴリール「味わって、食べてくれ……」

サターニャ「うん、分かった……」


サターニャ「私は、ガヴリールの料理を一番楽しみにしてたのよ?」ニコッ


サターニャ「いただきます! ……」

153: 2017/07/03(月) 00:13:49.058 ID:JczdnnHrd.net
サターニャ「…………」パクッ

サターニャ「…………!」パクパクッ


サターニャ「…………」

サターニャ「ガヴリール、ありがとう……」

サターニャ「こんなに、美味しい料理を作ってくれて……」ポロポロ

サターニャ「ガヴリールの気持ちが満ち溢れてくる……」

サターニャ「どこまでも優しくて、あったかくて。包み込まれるようなそんな気持ちが」

サターニャ「私はっ、こんな料理が食べれて……世界一の幸せ者よ!」ポロポロ

ガヴリール「サターニャっ……!!」グスッ



ラフィエル「…………っ」

ヴィーネ「……勝負、決まりましたね……」

マルティエル「お嬢様…………」

154: 2017/07/03(月) 00:17:04.538 ID:JczdnnHrd.net
パチパチ……パチパチパチ……!!


まち子「二人とも、最高の料理だったわよ!!」

田中「いやー、すごい戦いでしたっ……!!」

上野「お二人の真剣な気持ちがこっちまで伝わってきて……私まで思わず貰い泣きしそうでしたよ!」グスッ


サターニャ「みんな……ありがとうっ!!」

サターニャ「二人も、私のためにこれだけの料理を作ってくれて……」


サターニャ「ラフィエル、あんたの料理も最高だったわよ!!」

ラフィエル「サターニャさんっ……!」ウルウル

サターニャ「そして、ガヴリール!! ……」

ガヴリール「お、おうっ!! ……」


サターニャ「…………っ」ギュゥ!!

ガヴリール「さ、サターニャっ……!?」

サターニャ「しばらく、こうさせなさいよ……」

サターニャ「あんたへの想いが、止まらないのよっ!! ……」ポロポロ

ガヴリール「サターニャ……っ!!」ギュゥ!!

156: 2017/07/03(月) 00:20:33.415 ID:JczdnnHrd.net
……ワイワイ……ギャ-ギャ-……
……ガヤガヤ……ワイワイ‼︎……
……アハハッ!!……アヒャヒャッ!!……メガネクイッ!!……


ラフィエル「…………」

マルティエル「…………」


マルティエル「失恋、しちゃいましたね……」

ラフィエル「ええ、でも……後悔はないわ……」

ラフィエル「サターニャさんは、私の料理を……最高だと言ってくれたのだから……」


ラフィエル「私は、それが……嬉しかった……、からっ……!!」ブワッ

マルティエル「お嬢様っ!! …………」



ヴィーネ「…………」

ヴィーネ「ねえ、ラフィ……」

ヴィーネ「あなたの料理、私も食べてみてもいいかしら?」

157: 2017/07/03(月) 00:22:47.081 ID:JczdnnHrd.net
ラフィエル「え、ええ……どうぞ………」

ヴィーネ「ごめんね?……ありがとう………」


ヴィーネ「では、少し失礼して……」パクッ!

ヴィーネ「…………ッッ!!!!」



ヴィーネ「な、なんじゃこりゃあああ!!うんめえええええっ!!」パクパクッ!パクパクッ!


……ざわっ……ざわっ!!……


田中「月乃瀬さんが、絶叫してる……?」

まち子「まあ、そりゃそうよね……それだけの食材を使ってるわけだし……」

上野「本来は、あれがあの食材の本当の持ち味なのよね……」

158: 2017/07/03(月) 00:24:02.763 ID:JczdnnHrd.net
ラフィエル「皆さんも、宜しければご一緒に如何でしょうか?」

マルティエル「こちらに、席とテーブルをご用意致しましたっ!!」ササッ


まち子「あら? いいのかしら? ……」

上野「この執事さん、まじで仕事が速いッッ!!」

田中「うわわっ!! これだけの料理、この先食べることはないかもっ……!?」ワクワク!!


\わいわいっ!!/ \あははっ!!/

163: 2017/07/03(月) 00:53:11.480 ID:xVPtfX6kd.net
ラフィエル「…………」

ラフィエル「…………、そうですね……」

ラフィエル「材料は、余分めに用意していましたし」

ラフィエル「それを、ここで残していても仕方ありません……」


ラフィエル「この場で全部、使い切っちゃいましょう♪」ニコッ


ヴィーネ「ラフィ、私も手伝うわ!」

マルティエル「必要なものがあれば、何でも申し付けくださいませ!!」ベコリ



……ギャ-ギャ-……アハハッ!!……
……ガヤガヤ……ワイワイ‼︎……


ウエーwwwヘ√レvv─(゚∀゚)─wwwヘ√レvv―イ!!!
ヽ(〃≧∀≦)ノアヒャヒャヒャ-!!!☆゚'・:*☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚

\あははっ!!/ \わいわいっ!!/


・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・


田中「ねえねえ。そういえば、あの二人は~?」

上野「えぇ~? あんたそれを聞くぅ~?!」クスクス

まち子「あの二人なら、もうとっくに行ったわよ?」フフッ

…………
………………

……………………

164: 2017/07/03(月) 00:56:03.269 ID:xVPtfX6kd.net
…………


遠い未来…………
いつか私は、この時を懐かしく思う時が来るのだろうか?


サターニャ「待ってよ、ガヴリール~!」

ガヴリール「あははっ♪」


この青空の下で、共に笑い合う日々を。
一緒に過ごす、この宝物のような毎日を。


ガヴリール「サターニャ」

サターニャ「ん?」


どうかその時は、傍にお前が居てほしい。
いつまでも一緒に、この時間を歩んでいきたいから……


ガヴリール「お前に出会えてよかった」

サターニャ「っ! うんっ!!」


天使と悪魔だから、きっと何処にだって行けるはず。
このままずっと、二人でどこまでもーー


ガヴリール「サターニャ、少し屈んでくれ……」

サターニャ「うん?」スッ

165: 2017/07/03(月) 00:59:02.695 ID:xVPtfX6kd.net
チュッ……


サターニャ「なっ!?/////」

ガヴリール「どうだった? 私とのキスの味は」

サターニャ「~~ッ!!もうっ!!!」


ギュゥウウ!!!……


ガヴリール「さ、サターニャ?……/////」

サターニャ「……あんたはさ、可愛いのよっ!……」

ガヴリール「へっ?……/////」

サターニャ「私は……本当は、初めて見た時から、ずっとガヴリールのことが気になってて……」

サターニャ「本当はずっとずっと……っ!! ……ガヴリールのことが、前々から好きだったのよ? ……」

ガヴリール「サターニャっ!? ……まじかよっ!! ……」

166: 2017/07/03(月) 01:02:05.698 ID:xVPtfX6kd.net
サターニャ「それなのに、私のために頑張って料理作ってくれたり……」

サターニャ「私に、きっ……キスしてきたりっ! ……」

サターニャ「私、もう……ガヴリールのこと……離せられなくなるわよっ?! ……」ギュゥウ!!

ガヴリール「サターニャ……っ!!」ギュゥウ!!


ガヴリール「私も……私も……っ、本当はっ……!!」

ガヴリール「サターニャのことが、前々からずっとずっと好きで……!!」

サターニャ「ほんと……?」

ガヴリール「ほんとだよ!! 本当の事を言うと……私は、サターニャのことが好きで好きで仕方ないんだよっ!!」

サターニャ「~~ッ!! ガヴリールっ!!!」ギュゥウッ!!!

167: 2017/07/03(月) 01:05:02.654 ID:xVPtfX6kd.net



サターニャ「……好き、大好き!! ガヴリールのことが……大好きッッ!!」ギュゥウ!!

ガヴリール「私も……私もっ!! サターニャのことが……好き、大好きッッ!!」ギュゥウ!!




このまま、ずっと……一緒に。
私たちに幸せが訪れますように……♡

180: 2017/07/03(月) 01:36:02.727 ID:xVPtfX6kd.net
ガヴリール「サターニャ……大好き……」チュッ

サターニャ「私も……ガヴリールが……大好きっ……」チュッ


ギュゥ!!……


ガヴリール「初めてで、不器用だったけど……ちゃんと出来たな……」

サターニャ「そうね……身体も心も、満たされているわ……」

ガヴリール「次は、もっと上手くなるといいな……」

サターニャ「次……ふふっ、そうね♪ ……次も……よろしくね、ガヴリール……」


ギュゥ!!……


ガヴリール「このまま……一緒に眠ろう」

サターニャ「うん、私も……少し、眠くなってきたわ……」


サターニャ「今なら、ガヴリールと心が繋ぎ合っている……」

サターニャ「きっと、今なら……幸せな夢が見れる、から……」zzz

183: 2017/07/03(月) 01:50:02.759 ID:xVPtfX6kd.net
……遠い、夢を見ていた。

私の家は洋菓子店をやっていて、いつも私の周りには甘いお菓子が溢れていた。
私は両親の作ってくれるお菓子が大好きで、その両親が作っているお菓子が皆を笑顔にしている。
それが子供ながらに、とても誇らしかった。

私も皆の笑顔を感じ取れるようになりたい。
そうすれば、私も両親のように皆を笑顔にすることが出来る。
お菓子に込められた笑顔になれるその気持ちを、私はそれを味わおうとしていた。

……パパやママの作るお菓子は、どうしてこんなに美味しいの?
……どうして食べる人を、こんなに笑顔にさせることが出来るの?

ーーあははっ!それはお菓子を美味しく食べて貰えるように、気持ちを込めてるからねっ!

私はこの言葉を信じて疑わなかったし、事実だと今でも思ってる。
両親の作ってくれるお菓子には、確かにそういう暖かくなるような気持ちが入っていたはずだから。
私はそんな両親のことが、他のどんな悪魔よりも素晴らしい悪魔だと心から尊敬をしている。

ある時、友達だったヴィネットと喧嘩をした。
その日の夜は泣いて泣いて、とても心が苦しくて……その時は、なんだか御飯も美味しく食べられなかった。
塞ぎ込んでいた私に、でも次の日にヴィネットは私に手作りのお菓子を持ってきてくれたのだ。

そのお菓子は、両親が作るお菓子よりも明らかに不細工だったけれど。
両親の完成されたお菓子に比べると、砂糖や他の味付けも決して適量ではなかったけれど。
でも私には……そのお菓子がキラキラと輝いていて、他の何よりも美味しく思えたのだ。

きっとお菓子や料理は、見た目などそれほど関係ないのだろう。
私はその時、そう思ったのだ。

泣いて謝ってくるヴィネット。
それに対して私もわんわん泣いて謝り尽くして……

私とヴィネットは、その日からずっと親友だーー。


下界にやって来てから、私は色々な人々と出会った。
特にラフィエルという天使には、私も色々と弄り倒されて困った。
でもあいつは私が本気で嫌がるようなことはしてこないし、実はそんなに悪い奴じゃないのかもしれない。

それから、ガヴリール……

一目見て、その眩く金色の綺麗な髪、その碧眼の姿に目を奪われた。
それはまるで人形がお喋りしているかのように非現実的で……彼女が天使だと知った時、それに妙に納得をした。
それから、私は彼女に構ってもらいたくて毎日が必氏だったと思う。

ぶっきらぼうで、ダラダラと怠けていて。
だけどそんな彼女のことが、天使のくせに人間味に溢れていて、とても身近に感じられた。
気が付けば彼女とどうやって勝負するか、毎日がそんなことに夢中になっていた。

それが恋心だと気付いたのは、彼女の手料理を食べてからだろう。
ああ、そうか……私はきっとガヴリールのことが最初から好きだったんだ。
彼女は小さくて、そこが可愛くて、、
相手の気持ちを考えることが出来て、なんだかんだで、結局は優しくて……

ガヴリールと、一緒にいたい。
私はずっと、このままずっとーー。
いつまでも、ガヴリールと一緒に…………

184: 2017/07/03(月) 01:55:02.359 ID:xVPtfX6kd.net
・・・・・・


目を覚ますと、ガヴリールが窓の向こうを眺めていた。
静けさに包まれた深夜の中で、月光に柔らかく纏われながら、遠くに視線を向けて。
無音の闇夜に映える、薄暗く照らされたその姿に思わず見惚れてしまう。

何を見ているの?と尋ねると、彼女は私の方に顔を向けて、優しく微笑んだ。
月が綺麗だな、と思ってさ……そう答えると、私の頬に手を伸ばして小さく撫でてくる。

身体を重ねて、想いを分かち合って、愛しさを受け取って。
今、触れてる指先からも私の事を想う気持ちが伝わってくる。

幸せに胸が一杯になり、ガヴリールに対する愛おしさが止まらなくなってしまう。
伸ばされた手に自分の手のひらを重ね合わせて、彼女の体温と柔らかさを感じ取る。
ガヴリールの方が綺麗だよ、って私の口から自然と言葉が紡ぎ出されていく。

お世辞でも何でもなく、そこに居たのは紛れもなく一枚の絵画のような天使だった。
月の光に包まれた彼女のその姿は、この世で何よりも美しいと思わせる程だった。

少し顔を赤らめて、照れくさそうに目をそらし、再び窓の向こうを見上げる彼女。
手を握り締めたまま、私も同じく彼女の見ている夜空に視線を向けてみる。

確かに綺麗だった……満天の星空とも言うべきか。
澄み渡った夜に、散り散りに輝く星粒の海。
月は真ん丸く満たされていて、暗闇なのに世界は青白く染まっている。

散歩に行こうか、と彼女が言う。
こんな時間に?と私は問い返す。

翼を広げて窓を開けた彼女がそこには居た。
夜空の散歩だよ、と小さく笑う彼女。
天使であるその翼は、私の羽根よりもずっと大きい。

はぐれないように、ちゃんと手を握っててくれる?と不安気に尋ねる私に、
もちろんだよ、と当然のように返事をくれる彼女。

私達はお互いに手を強く握り合い、頷く。
そして、星空に向かって羽ばたいた……。

185: 2017/07/03(月) 02:00:02.937 ID:xVPtfX6kd.net
……

びゅんびゅんと加速していく中で、地上が段々と小さくなっていく。
雲を突き抜けた頃には、街はもう随分と霞んで見えていた。

辺り一面、静寂に包まれた世界……。
透き通った大気に、どこまでも澄み切った夜空。
果てしない地平線に、遠く広がる宇宙の彼方。

くっきりと浮かんだ満月の光に照らされて、延々と雲の絨毯が並べられている。
無数の星々が煌めいて、この暗闇に輝いた穴を開けている。

風が強く吹き荒れて、私は彼女の身体にぎゅっと縋り寄った。
地上の街の灯りがキラキラと宝石箱のように散らばっていて、私の住んでる街もその一つ。

身を任せるように大きく流れる風に乗って、
踊るように羽ばたいていく彼女。

天使と悪魔の夜空のダンスーー
地上の人々はきっと気付かない、私達がこの星空の中で自由に舞い踊っている事に。
手と手を取り合う私と彼女、翼と羽根を広げて静かな月夜の下を二人で翔びまわる。

数え切れない星粒の中で、
どこまでも続いてゆく終わらない景色。
この宇宙の果てに、永遠を感じる。

私たちは見つめ合う。
お互いの瞳に吸い込まれるように、
お互いの想いに惹き寄せられるように。

重なり合う唇ーー
このまま時間が止まってしまえばいい。
ガヴリールと一緒に、いつまでもこの瞬間を繋いでいたい。

この輝く星空の下で、私は彼女のことを強く抱き締めた……

188: 2017/07/03(月) 02:05:02.536 ID:xVPtfX6kd.net
ゆっくりと静かに両手を広げ、瞼を閉じる彼女。
その姿は慈愛に満ちていて、綺麗なその翼は淡く、柔らかい光を放っている。
それは多くの人々が思い描く天使の情景そのもの。

……何をしているの?

彼女にそう尋ねると、薄っすらと目を見開けてこちらを見つめる。
風に揺られて、空に撫でられて、気の向くままに、ふわふわと浮かび遊ばれながら……。
影は月に飲まれ、闇は星に彩られ、虚無は目の前の天使が埋めてくれている。

……こうやって、地上の人々の想いや願いを感じ取っているんだ。

……地上の人々の、願い?

真っ白で綺麗なその翼が、やがて一層の純白な輝きを増し、瞬く間にその眩しさが夜空の中に解き放たれる。
世界を見守るように、この星を包み込むように、その輝きは泡沫となって溶けてゆく。
積み重なった哀しみに、背負わされた翳りに、この地上の儚さにそれは向かって……。


……その想いや願いに対し、祈りを捧げる。それが天使の本来の仕事だからな。

……そうなんだ……。


彼女は、優秀な天使だと聞いた。
他の天使と比べても、飛び抜けて優秀すぎる程に。
まだ成熟してない半人前の天使なのに、既に一人前の天使よりも遥かに優れているという。
今の彼女の姿を見ていると、それが嘘偽りなく本当の事なんだと思い知らされる。

……サターニャ?

彼女の胸に自分の身体を寄せ添う。
不意に、彼女が遠い存在に思えてきて。
離れたくない。
私の、その精一杯の想いを込めて。

……こうしていないと、いつかあんたが遠くに行っちゃう気がして……

189: 2017/07/03(月) 02:10:03.805 ID:xVPtfX6kd.net
この世界は……
いつか、ガヴリールの優しい慈しみによって見守られる日が来るのかもしれない。

彼女は天使の中でも最も優秀で、それだけの素質を持っている。
遠い将来、彼女は天使を筆頭する者として、天界を統べる者として。
そして、いつかこの世界を見守る者として。

……私が、そんな天使の代表みたいになることはないよ?

彼女が謙遜する、そんなことは全然ないのに……。
この世界にとって、彼女はおそらく特別な存在なのだ。
それに、誰かが見守ってくれるというならば、私は彼女の暖かい手によって包まれたい。

……今の天界には、ゼルエル姉さんがいるからね。

ゼルエル姉さん、彼女の姉ーー。
私もその人を知っている、力だけなら確かにその人が一番強い天使なのかもしれない。
だけど、その人は地上のことなど軽い表面上でしか把握していないのだ。

ガヴリールは違う、もっと間近に私たちの事を知ってくれている。
誰よりも人間のことを知っていて、良い部分も悪い部分も全部全部、みんな分かっている。
私は、彼女こそがこの地上を見守る役目に最もふさわしいと思う。

……それに、私はダラダラと駄天もしているし、さ。

それもきっと必要な事、無駄な時間なんかじゃないはず。
だってそんなダラけたガヴリールのことが、結局みんなみんな大好きだと思っているのだから。
そういう人々が、地上には沢山いるのだから……。


地平線の彼方がぼんやりと白く移り染まり始め、陽の光が近いことを示している。
暗闇に怯える者も、凍てついた寒さを凌ぐ者も、この刻を空を眺め待ち詫びている。
やがて深淵が終わりを告げて、そして夜明けがやってくるのだろう。


……遠くに、行かないで欲しい。

自分勝手な我儘を、彼女に要求してしまう。
あらゆる全ての未来を天秤に掛けて、私を見てて欲しいだなんて、あまりに身勝手すぎる。
だけど、彼女は優しく笑って、私の頭を愛おしく撫でてくれる。

……はっきり言っておくぞ? 私は世界とお前なら、迷わずお前を取るから。

ものすごく当たり前の事のように、躊躇いの欠片もない言葉で。
世界など、まるで興味ないと言わんばかりに。

……というか、私にとってはサターニャこそがこの世界の全てなんだ。


月夜が薄れて、深かった闇が次第に明けてゆく。
天空に、光が小さく射し始めるーー

191: 2017/07/03(月) 02:23:15.357 ID:xVPtfX6kd.net
「なあ、サターニャ……」

「もし将来、世界を見守る役目がどうのこうのなんて話になったら」


「お前がその役目をやれ」

「へ?」


くすくすと笑う彼女は、とても楽しそうに私に喋り掛けてくる。
朝の日差しが空を駆け抜けて、お互いの輪郭が映し出されていく。
朧気だった視界が、次第に鮮明になってゆく。


「私が地上を包み込んだ所で、何も面白くない、退屈な世界が待っているだけだ」

「お前こそが、その役割の一番の適任者だよ」

「お前ならきっと世界を面白可笑しく愉快にさせてくれる」

「世界中の人々だって、お前が見守るってならきっと笑って許してくれるさ」


嬉々とした笑顔を咲かせながら語らう彼女。
その言葉は、一体どこまでが本気でどこまでが冗談なのかわからない。
もしかしたら、割と本当に本気でそのことを言っているのかもしれない。

193: 2017/07/03(月) 02:32:02.403 ID:xVPtfX6kd.net
「な、何言ってんのよ、私は悪魔よっ?!」

「いいじゃん、このまま地上を支配しちまえよ。私は喜んで協力するぞ?」


霞みが消えていき、どんどん明るさが増してゆく。
風の囁きを謳う声が、微かに聴こえてくる。
生きる者たちの息吹が、目覚めてゆく……。


「お前なら、神様だってきっと笑って許してくれるよ」

「それに、何か失敗しそうになったら側に私が付いててやるからさ」

「だから、何も心配するなよ?」

「も、もうっ! ガヴリールったら……」


光芒が一閃し、その軌跡が眩く。
彼方から太陽が姿を現してくる。
天空が、完全な夜明けを迎える……


ガヴリール「もう夜明けだ。そろそろ、戻ろうか……」

サターニャ「そうね、帰りましょうか。私たちの日常に……」


陽が昇り、一日が始まろうとしている。
そして世界はまた朝を迎える。

無限の輪廻に、果てなき想いに。
繰り返される時の螺旋に、人々もまた巻き込まれてゆくのだろう。
いつか、思い描く未来へと辿り着くその日まで…………


おしまい☆

195: 2017/07/03(月) 02:37:02.104 ID:xVPtfX6kd.net
以上です、最後まで読んでくれた方ありがとう!
ガヴドロがもっと流行って、SSももっと増えてくれたらいいな

引用: ガヴリール「サターニャの味覚って、もしかして……」