478:◆lhyaSqoHV6 2018/11/02(金) 04:49:06.20 ID:SO93X4Vj0


モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


前回はコチラ



お久しぶりです
投下します

479: 2018/11/02(金) 04:53:14.10 ID:SO93X4Vj0

宇宙連合支配領域の片隅に、とある惑星があった。
名をオールドオースチン。

地表のほとんどが土砂とむき出しの岩盤に覆われており、
その赤茶けた外観から想像出来る通り惑星環境は極度に乾燥しているため、宇宙に住まう多くの知的生命体にとって入植に不適な星である。
だが、過去には豊富な鉱物資源の採掘産業により繁栄を迎えたこともあった。



オールドオースチン最大の街、パンゴリン。

ウルトラスーパーレアメタル目当てにやって来た山師連中で賑わったのも今は昔。
産出量の減少と共に人口も減り、現在は居住者も訪れる者も無くなり、その街並みは朽ちるに任せられていた。

そんな中、およそ半世紀ぶりに一人の来訪者がやって来た。
砂塵が吹き荒れる中を歩いて来た旅人然としたその人物は、寂れた──といった表現を通り越し、もはや廃墟となりかけの酒場の前で足を止めた。
そのまま入り口のスイングドアを押し開け店内に入ると、警戒した様子で辺りを伺う。
目深に被ったフードの奥の、その表情は窺い知れない。



「ナンニシマスカ?」

長年のメンテナンス不足により会話ルーチン回路が壊れかけた給仕ボットが、久方ぶりの客に声を掛ける。
客である旅人は「あるものでいい」と一言。

ボットは背後の戸棚から年代物の宇宙リカーのボトルを取り出しグラスに注ぐと、他にも用意する物があるのか、店の奥に引っ込んでいった。
それを見届けた旅人は軽く息をつき、フード付き外套を脱ぐと、ボロボロになったバーカウンターの椅子に腰かけた。

人気のない辺境の惑星にやってきてなお周囲を警戒する様子から察するに、厄介ごとに巻き込まれたか、あるいは自ら引き起こしたか──。
いずれにせよ、お尋ね者の類であろうことが想像できる。
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それは、なんでもないようなとある日のこと。

~中略~

「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。



480: 2018/11/02(金) 04:54:04.07 ID:SO93X4Vj0

「それは私に奢らせてもらうわ」

旅人がグラスを手に取ったところ、部屋の隅から声が掛けられた。
入店時には見当たらなかったが、声のした方には壁にもたれかかった人影がある。

「いいわね?」

人影が旅人の方へ歩み寄ると、光源の元に出たことで姿が露わになる。
ポンチョめいた布をマントのように羽織った長髪の女だ。


「……ここのところ、後を尾けてきていたのはあなたねぇ? 賞金稼ぎさん?」

「気付いていたとは……流石ね、『ミサト特佐』」

ミサトと呼ばれた旅人は、女に向かってストーカー行為に対する抗議の色を含んだ目線を向ける。
どうやら女の正体は、宇宙犯罪者を相手取る賞金稼ぎということらしい。


ミサト「せっかくだけどぉ、奢ってもらうのはお断りしますぅ」

ミサト「今の私は軍を抜けたから、もう『特佐』じゃないし」

ミサト「それに、こんな安酒を奢ってもらってもねぇ」

「あら、いいのかしら? あなたの末期の酒よ?」

お互い口調は落ち着いており、殺気立った様子もないが、酒場内には極めて剣呑な空気が流れている。
お尋ね者と賞金稼ぎが相対したのであれば、これから荒事が起こることは自明ではあるが。


ミサト「とりあえず、場所を変えましょう?」

ミサト「こんなボロボロな店でも、私が原因で壊れるのは忍びないもんねぇ」

ミサトはそう言うと、宇宙クレジットチップをカウンターに置くと席を立ち出口へ向かう。

「あら、存外殊勝なのね」

異存はないわ。と付け加えると、女も後に続いた。

481: 2018/11/02(金) 04:56:14.03 ID:SO93X4Vj0

十分後──ミサトと賞金稼ぎの女は、パンゴリンの街近傍の平野にて対峙していた。
周囲にはごつごつとした岩石が点在しているが、それ以外は見晴らしの良い場所だ。

吹きすさぶ風に煽られた球状回転草が二人の間に転がり出でる。
時間帯は、地球で例えるなら薄暮の頃であり、お互いの表情ははっきりと見えない。


「それじゃ改めて、お尋ね者ミサト……」

「その首、もらい受けるわ」

女は腰のホルスターから銃を抜くとミサトに向け構える。

ミサト「上等ぉ、受けて立ちますぅ……!」

対するミサトも、自身のプラズマブラスターを構えた。



最初に仕掛けたのは女の方だった。
ライフル型プラズマブラスターから放たれた光弾を、ミサトは横っ飛びで回避する──が。

ミサト「っ!?」

光弾が飛び去った方向から聞こえてきた轟音に、思わず振り返ってしまった。
背後ではおびただしい量の砂埃がおよそ百メートルの高さまで舞い上がり、光弾の着弾地点の地面には大穴が開いていた。
ともすれば、爆撃の類による攻撃かと見紛うほどの惨状だ。

その後も二射三射と攻撃が続くが、回避に難は無い。
だが、そのたびに射線上にあった物体──今は使われていない無人宇宙港の管制塔が根本から倒壊し、遥か彼方にそびえる巨大なメサが崩落する。


ミサト「(人気のない星に来ておいて良かったぁ)」

数日前から賞金稼ぎに狙われていると気づいていたミサトは荒事を見越して、あえて無人の惑星を選んで上陸していた。

ミサト「(あの人もそれを理解してここで仕掛けてきたっていうことなら、ただのアウトロー賞金稼ぎってわけじゃなさそうかなぁ)」

相手はミサトの目論見通りこの星に着いてから現れたが、実際はそれまでにも仕掛けるタイミングはいくらでもあったはずだ。
あるいは、相手も無人の星を選んで仕掛けてきたということであれば、それなりに分別のある人物ということか。
賞金稼ぎの中には、目的のためには周囲への被害を避けようとしない乱暴者も多い。



ミサト「(それにしてもこの威力……ただのプラズマブラスターじゃないねぇ)」

相手の動作をよく観察してみると、射撃による反動を利用し銃本体を回転させている。
そして回転の際には、銃の機関部からプラズマブラスターの弾倉とも言えるエネルギーカートリッジが排出されるのが見て取れた。

ミサト「(あの動きはスピンコック……一発撃つ毎に空カートリッジの排出をしているということは……フルバーストセルを使っている?)」

ミサト「(さっきの威力から考えても、おそらく間違いないかなぁ)」

一般的なプラズマブラスターは装填されたエネルギーカートリッジ一個から数十射分のエネルギーが分割して供給され射撃を行うが、
相手が撃ってきているプラズマ弾は一射毎にエネルギーカートリッジの全エネルギーを放出する特殊弾薬『フルバーストセル』によるものらしい。
その威力は、ちょっとした宇宙船の艦載砲にも匹敵し、そもそも対人用に使用されるものではない。

482: 2018/11/02(金) 04:57:03.04 ID:SO93X4Vj0

ミサト「ちょっとぉ、それ生身の人に向けて撃つのはオーバーキルじゃなあい?」

さしものミサトも、抗議の声を上げる。
だが、相手の立ち居振る舞いから察するに、恐らく幾度も凶悪な宇宙犯罪者を相手取ってきた歴戦の賞金稼ぎである。
ミサトの言葉を全く意に介すことなく、攻撃の手を緩めない。


「ごもっともだけれど、存外役に立つものよ」

「特に、物陰に隠れた相手を狙う時なんかにね」

ミサト「やばっ」

慌てて遮蔽物としていた岩の裏から転がり離れる。
直後、プラズマ光弾が飛来、直撃した岩は破裂し砕け散り、大小の破片が周囲に降り注いだ。
少しでも判断が遅れていたら同じ運命を辿っていただろう。

巨大な岩石を粉微塵にしてなお、プラズマ弾は勢いが衰えることなく地平の彼方へと飛び去っていった。


ミサト「まったくもう! めちゃくちゃするねぇ!」

うかつに近寄れないため、ミサトは遠距離から反撃を試みる。
所持する拳銃型プラズマブラスターの交戦距離外から、なおかつ走りながらの射撃であるにも関わらず、頭部や胴体などの急所を的確に狙い撃つ。
しかし──

ミサト「……なんで無傷なのぉ?」

相手にはさしたるダメージを与えられていない。
よく見ると、ミサトの攻撃が命中する直前にポンチョ型マントを掲げ、あるいは纏い、銃撃を防いでいるように見える。


「その距離から、正確に当ててくるとはね」

「戦闘機の操縦の腕が立つという話だったけれど、生身でもやるじゃない」

ミサト「お褒めにあずかりどーもぉ!」

相手の挑発じみた発言に、ミサトも苦し紛れの皮肉で返す。

「でも残念だけど、この耐プラズマコーティングフォトニックウィーブにはその程度のプラズマブラスターの弾は効かないわ」

ミサト「なにその説明口調!」

だが、現状では手の出しようが無いことは明白だった。

483: 2018/11/02(金) 04:58:06.00 ID:SO93X4Vj0

その後も遮蔽物代わりの岩石を転々としつつ攻撃を回避し続けるミサトだったが、
相手が撃ち切ったカートリッジの再装填を始めたのを確認すると物陰から進み出た。

ミサト「ねぇ? 提案があるんだけどぉ」

「提案……ですって?」

互いの距離が離れており、なおかつミサトが攻撃の意思を示していないため、
相手もリロードの手を止めることはないものの、話を聞く気はあるようだ。


ミサト「その銃、燃費が悪くて大変だよねぇ? 一発撃つごとにカートリッジを一つ消費するんだから」

ミサト「ひょっとして、そろそろ弾切れになるんじゃなあい?」

「心配は無用よ、残りの弾であなたを仕留めるのは訳ないわ」

ミサト「私も、逃げ回るのに疲れてきちゃったからぁ」

ミサト「ここは、早撃ちで勝負しない?」

「早撃ち?」

ミサトの"提案"に、相手は懐疑的な目を向けるが、ミサトは構わず説明を続ける。


ミサト「もうじき日付が変わるから、そうしたら街の時計台が時報を鳴らすでしょう?」

ミサト「お互い背を向けて立って、時報が聞こえたと同時に振り向いて早撃ち」

ミサト「恨みっこ無しの実力勝負……どうですかぁ?」

「古式の決闘方式で決着をつけようということね」

あと十分もすれば、宇宙連合標準時で日付の変更がなされる。
それに伴い、街の中心に建つデジタル時計塔が時報を鳴らす。
時計の時報に限定されないが、特定の合図を元に行う早撃ち勝負は、古来より一対一の決闘の手段として一般的なものである。

484: 2018/11/02(金) 04:59:09.03 ID:SO93X4Vj0

「……やりたいことは理解出来るけれど」

ミサトの提案を聞いた相手は、しかし得心がいかないといった様子だ。

先の撃ち合いの結果から、ミサトの攻撃は有効打になり得ない。
にも拘わらず早撃ち勝負などというのは、手の込んだ自殺に他ならない。

「あなた分かっているの? ただのプラズマブラスターでは──」

ミサト「その、対プラズマナントカマントを破れない」

ミサト「もちろん分かっているよぉ、私も逃げ回りながらちゃんと準備したからねぇ」

「準備……?」


ミサト「プラズマブラスターのエネルギー供給リミッターを解除して、オーバーチャージ射撃が出来るようにしたからぁ」

ミサト「一発撃ったら多分壊れるけど、これで威力は十分よぉ」

当然ではあるが、無策というわけでは無いようだ。
内容自体は博打の要素がすこぶる強いが。

「なるほど……いいわ、その小細工に免じて、提案に乗ってあげる」

ミサト「さすが、話がわかるぅ」

485: 2018/11/02(金) 05:00:56.19 ID:SO93X4Vj0

決闘の取り決めを交わした二人は、先ほどと同じように近距離で対峙していた。
吹きすさぶ風に煽られた球状回転草が二人の間に転がり出でる。

ミサト「ところで、勝負の前に、あなたの名前を教えてくれない?」

生氏を掛けた真剣勝負を前に、ミサトは賞金稼ぎの女に問いかける。

「……ひとたび勝負が始まれば、あとに残るのはどちらか片方だけ」

「……名を名乗る意味など無いわ」

しかし、その返事はにべもないものだった。
賞金稼ぎを生業としている以上、明日をも知れぬ身である。

「私が勝てばそもそも名乗る必要が無い」

「そして、あなたが勝てば私の名前は消える」

標的と名乗りあうなどといった感傷的な行為は、彼女には必要ないというところか。


ミサト「でもぉ、決闘の作法だからぁ、そう言わないでよぉ」

しかし、ミサトも折れない。

ミサト「それに、あなただけ私の名前を知っているっていうのは不公平じゃなあい?」

「……メグミよ」

ミサト「ありがと、覚えておくからねぇ」

少しの逡巡の後、賞金稼ぎの女はその名を告げた。

486: 2018/11/02(金) 05:03:04.33 ID:SO93X4Vj0

──────────────────────────────────────────

先ほどの、弾切れが近いのではないかというミサトの指摘は的を射たものだった。
メグミの得物である『プラズマリピーター』の弱点の一つに、弾薬の消耗が激しいことが挙げられる。
実際、残弾は数発といったところだ。

だが、残弾数の低下──あるいは弾切れは、メグミにとってはさして問題にはならない。
メグミの本領はプラズマリピーターによる遠隔攻撃ではなく、プラズママチェットを用いた高速近接格闘術である。

過剰な威力の銃撃に、これ見よがしのコッキング動作。
そして、継戦能力が低いというあからさまな弱点。
それらは全て、弾切れによる戦力低下を相手に印象付け、接近戦へ誘導するための布石に過ぎない。
攻撃手段を失ったと見せかけて相手の油断を誘い、近寄ってきたところを必殺の間合いで仕留める──メグミの常勝戦法の1つだ。

それゆえに、ミサトの言う早撃ち勝負は、メグミにとっては受ける必要のない提案だったのだが……。

メグミ「(この状況において、打開する策があるというのなら、見せてもらいたいものね)」

メグミ「(まさか、正直に決闘を挑んでくるつもりでは無いでしょう)」

決闘に際しある程度の距離を空ける必要があるため、背を向けあって歩みを進める中、相手の取り得る行動を予測する。


先ほどミサトが言っていた、耐プラズマコーティングフォトニックウィーブへの打開策であるエネルギー供給を増してのオーバーチャージ射撃は、
通常のプラズマブラスターで行う場合過負荷による銃身破裂を起こす危険も伴う行為である。
もしも暴発しプラズマ爆発でも起ころうものなら、勝負云々以前の問題だ。

あるいは、メグミを決闘の話に乗せるためのブラフで、他に何か手があるのか──。

メグミ「(さて……どう出てくるか)」

結局のところ、賞金稼ぎとしての好奇心から話に乗ったのだった。

487: 2018/11/02(金) 05:04:55.23 ID:SO93X4Vj0

メグミ「(……、……鳴った!)」

お互い背を向けたまま数十秒が経過したころ。
ついに街のデジタル時計塔がデジタル鐘声を鳴らした。
それを合図にメグミは振り向きつつ銃を抜き放つ──が、

メグミ「っ!」

そこにミサトの姿は無かった。


ミサト「ダメじゃないのぉ……宇宙犯罪者の言うことを真に受けたら」

そして、横から問題の人物の声が聞こえてくる。
すぐそばで銃を突き付けているのだろう。

互いに背を向けたことで、視線が外れた隙に回り込んだというところか。
自分から決闘形式の勝負を提案しておきながら、あまりにも小狡いやり方である。

しかし、置かれた状況にも拘わらず、メグミは落ち着き払っていた。

メグミ「やれやれね……そんなことだろうと思ったわ」

ミサト「!?」

次の瞬間、ミサトが銃を突き付けていたメグミの姿は一瞬のうちに消え去り、代わりに背後からミサトの首筋にプラズママチェットの刃が宛がわれた。
いつの間にか、ミサトとメグミの位置関係と立場がそのまま反転している。


ミサト「これは……瞬間移動……ではないかぁ」
                          
ミサト「……なるほどねぇ、立体映像と光学迷彩ね」

ミサト「さっき酒場に入った時に見えなかったのも、同じように姿を消していたってことかぁ」

メグミ「ご明察」

ミサトが看破した通り、これもメグミの常勝戦法の一つ。
個人用クローキングデバイスとホログラムプロジェクタの合わせ技による、攪乱・奇襲攻撃である。
光学迷彩で自身の姿を消しつつ、自身と同じ姿の虚像を投影し囮とする、いわば初見頃しの凶悪な技だ。

488: 2018/11/02(金) 05:06:48.08 ID:SO93X4Vj0

メグミ「しかし、まさかあなたの反撃の一手が、決闘の決まりを反故にしての不意打ちとはね」

メグミ「正直、あまりに稚拙過ぎて、失望の念を禁じ得ないわ」

自らの勝利が揺るぎないものと認めたメグミは、いかにもがっかりしたといった様子でミサトを詰る。

ミサト「そっちだって素直に決闘する気無かったんだから、お互い様でしょ?」

メグミ「……まあ、お互い様と言われればその通りね」

しかし、事ここに至ってなおミサトは飄々とした態度を崩さない。


メグミ「(この態度……ただ野放図なだけ? それとも、まだ何かある?)」

その様子に、メグミは些か訝しむ。

ミサト「でも、おみそれしましたぁ、これは私の負けねぇ」

殊勝にも自らの敗北を口にするが、しおらしさといったものは微塵も伺えない。


メグミ「そう、なら大人しく捕まりなさい」

メグミ「これ以上抵抗しなければ、命までは取らないわ」

ミサト「……申し訳ないけどぉ、捕まる気は無いの」

ミサト「出来れば見逃してもらえなぁい?」

メグミ「この期に及んで、何を言い出すのかしら」

冷ややかな目線を物ともせずぬけぬけと言い放つミサトに対し、威嚇の意味も込めてマチェットをさらに強く押し当てる。

489: 2018/11/02(金) 05:07:54.59 ID:SO93X4Vj0

ミサト「それが、お互いのためだと思うんだけどぉ……ダメかなぁ?」

メグミ「……っ!?」

メグミ「(銃砲類によるロックオンアラート……直上?)」

ミサトが猫なで声で自身を見逃すよう懇願すると同時に、
メグミの側頭部に装備された戦闘支援デバイスの脅威検出分析システムが、網膜投影による警告を表示した。

刃を突き付けたまま油断なく頭上に目を向けると、遥か上空に明るく光る物体が見える。
戦闘支援デバイスがハイライトした敵性存在──先のロックオン信号の発信源だ。
状況から判断するに、ミサト配下の宇宙戦闘機の類だろう。
遠隔操縦により、メグミを狙っているのだ。


メグミ「いつの間に……あんなものを配置していたのかしら」

ミサト「気付かれないように準備するのは結構大変だったよぉ」

戦闘機に狙われている以上、下手な動きをすればすぐに避けようのない銃撃に晒されるだろう。
超高速の三次元機動を行いつつ射撃を行う宇宙戦闘機のFCSをもってすれば、いかに距離が離れていようと人一人射貫くなど全く問題にならない。

490: 2018/11/02(金) 05:10:51.02 ID:SO93X4Vj0

ミサト「ねえ……私もね、今回はあなたに負けたと思ってるの」

ミサト「だからぁ、この勝負はお互い水に流しましょ?」

メグミ「……」

ミサトが言うには、決着をつけることなく、お互いを見逃そうということらしい。


メグミ「(なぜわざわざ私に選択肢を与えるようなことを……)」

メグミ「(これまでにチャンスはあったはず……有無を言わさず撃ちぬけばいいものを……あるいは、単純に機体の配置が間に合わなかった?)」

メグミ「(今だってそう……わざわざロックオン信号を発信して……あえて私にあの戦闘機の存在を気付かせて、手を引かせるつもりだったとでも?)」

メグミ「(気に入らないわね……)」

しかし、メグミの賞金稼ぎとして矜持が大人しく引き下がることを拒む。
先程のミサトの「お互いのため」という言葉通り、未だメグミはミサトの生殺与奪を握ってはいるのだ。


メグミ「……私達の勝負を流せるだけの水は、この乾いた惑星には無いわ」

ミサト「それ、うまいこと言ったつもりぃ?」

ミサト「……残念だけどぉ、あなたがそう思っていても、どうやら"水を差され"そうねぇ」

メグミ「……? あぁ……」

ミサトが唐突に辟易としたような様子を見せたためメグミは訝しむ。

メグミ「また面倒なのが来たわね」

だが、すぐにその理由が判明する。
戦闘支援デバイスに、新たな敵性存在が検知されたのだ。


直後、二人の至近に数発の光弾が着弾した。

491: 2018/11/02(金) 05:13:02.40 ID:SO93X4Vj0

『ようやく見つけたぜぇ、賞金稼ぎのメグミぃ……!』

『今まで散々いいようにやられてきたがぁ!! 今日という今日こそは吠え面かかせてやるぞぉぉう!!』

『調子に乗って、毎度の如く足元掬われないようにしてよね』

突然現れた正体不明の宇宙船──先ほどの攻撃元からは、乗組員のものだろうか、やたらとわめき散らす声が聞こえてくる。
どうやらメグミを目当てにやってきたようだ。


『それとぉ……一緒にいる奴は一体ナニモンだぁ!?』

ミサト「うるっさいなぁもう……!」

いかにも面倒そうに、ミサトが上空に待機させていた戦闘機に攻撃命令を出す。
すると機首から、文字通り光速の光の奔流が謎の宇宙船に向けて一直線に伸びる。

『ぐわぁっ! な、何が起こったぁぁ!?』

『攻撃よ、あそこの戦闘機から』

不意打ち気味に高出力ビームキャノンの直撃を受けた乱入者の宇宙船は、黒煙を吹きながら急速に高度を失ってゆく。

『あ、あの戦闘機はぁぁ! ……そこにいる貴様はもしや、フェリーチェ・カンツォーネ!?』

『因縁浅からぬ相手が同時に二人も見つかるたぁ好都合だぁ! まとめてプロデュースしてやるぁ!!』



ミサト「なんでわざわざ外部スピーカーで大声張りあげるかなぁ……」

メグミ「あなた、アレの知り合いなの?」

半ば呆れ顔で呟くミサトに、メグミが問いかける。
乱入者の叫んでいた内容からすると、ミサトも因縁がある様子だったが──。

ミサト「知り合いぃ? アレが? 冗談きついよぉ……知らない人ですぅ」

メグミ「あらそう……」

メグミ「(確かに、可能な限り関わり合いにならないようにすべきタイプだものね、あいつは)」

げんなりとしつつ否定する様子から、メグミもある程度の事情を察した。


メグミ「でもまあ、あのロクデナシと敵対しているということは」

メグミ「あなたは賞金首ではあるけど、悪人というわけではないのかしらね」

ミサト「私が悪人でないかは何とも言えないけどぉ、アレがロクデナシだっていうのには同意よぉ」

492: 2018/11/02(金) 05:15:01.10 ID:SO93X4Vj0

ミサト「それで……とんだ邪魔が入っちゃったけどぉ、どうする? さっきの続けるのぉ?」

メグミ「そうね……興が殺がれたわ」

メグミ「腹いせに、あのやかましいのを黙らせることにするわ」

そう言うメグミの視線の先には、墜落し体勢を立て直そうとしている乱入者の宇宙船。

ミサト「腹いせじゃないよぉ、正当な防衛」

メグミ「確かに、向こうから仕掛けてきたんだものね」

ミサト「私も、丁度いい機会だし、ここいらで禍根を絶っておくかなぁ」

先ほどまでは対立していた二人だったが、共通の敵を得た今、奇妙な連帯感を感じていた。
ともすれば、お尋ね者と賞金稼ぎという間柄でありながら、共闘している方が自然に感じられるほどである。


『おいぃ!? あんたらさっきまで攻撃しあってたじゃねぇか!』

『何で一緒になってこっち向かって来るんですかねェ!?』

乱入者の困惑も無理からぬことだ。
先ほどまで頃し合いを演じていた二人が、今は何故か自分を標的に変え向かって来ているのだ。

しかし、"敵の敵は味方"という論法に則った場合、敵対していた者同士が手を組むということは往々にしてあり得ることである。
ましてや乱入者の彼は、ミサトとメグミの両名から疎ましく思われている。


ミサト「問答無用」

メグミ「覚悟することね」

『ちくしょうめえぇぇえ!!!』

冷笑を浮かべる二人を前にした乱入者の絶叫が、夕闇の大地に響き渡った。


───────────────

────────

───

493: 2018/11/02(金) 05:17:04.23 ID:SO93X4Vj0

──プリマヴェーラ号内──

ミサト「それでぇ、最終的にあの……あー、あれ、あの気持ち悪いあいつ」

メグミ「……UP」

ミサト「そうそれ、そのUPを二人でコテンパンにしてぇ、意気投合しちゃったってわけ」

P子「なるほど……そこで、ビアッジョ一家を結成したのですね」

メグミ「ま、ミサトと手を組んだお陰で、私までお尋ね者にされてしまったのだけれどね」

ミサト「もう、それは言いっこなしだって、前から言ってるでしょう?」

ミサトとメグミは、P子に乞われてビアッジョ一家立ち上げの経緯を話して聞かせていた。
二人にとって、懐かしく思う程度には昔の話である。


メグミ「それにしても、あれからUPはどうなったのかしらね」

ミサト「うーん……今まで何度も仕留めた! って思ったことがあったけどぉ」

ミサト「結局復活してるからねぇ」

メグミ「一度、あれの宇宙船ごと、恒星に向かって飛ばしたこともあったわね」

ミサト「それでも結局帰ってきちゃったもんねぇ」

ミサト「また、どこかで出てくるんじゃないかなぁ」

P子「……」


P子「(二人の間には、"思い出"が沢山あるのですね)」

P子「(いつか私も、過去を懐かしむ時が来るのでしょうか……)」

二人のやりとりを傍から眺めつつ、P子はまだ見ぬ未来に思いを馳せるのだった。

494: 2018/11/02(金) 05:18:31.42 ID:SO93X4Vj0
終わりです
UPをお借りしました

西部公演以来、絶対シェアワに落とし込むんだって意気込んでたけど、ようやく投下出来た……



【次回に続く・・・】




引用: モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part13