12: 2019/01/03(木) 19:12:28.93 ID:p8Id/7Jt0

前回:だいたいなんでも解決してくれる杏ちゃん~高垣楓編~

~鷺沢文香編~

13: 2019/01/03(木) 19:13:16.94 ID:p8Id/7Jt0
――事務所内の一室



『ガチャ』

文香「……たしか、この部屋のはずですが」キョロキョロ

文香「少し、早すぎましたか」ストン

文香「待たせていただきましょう……」ゴソゴソ

文香「…………」ペラッ

文香「…………」ペラッ

文香「…………」ペラッ
アイドルマスター シンデレラガールズ 双葉杏 なまけものフェアリーVer. 1/7 完成品フィギュア
14: 2019/01/03(木) 19:14:21.41 ID:p8Id/7Jt0
『ガチャ』

杏「あー、疲れた」トコトコ

文香「…………」ペラッ

杏「うーん、軽く寝てから帰ろっかな……」ボフッ

文香「…………」ペラッ

杏「よっと」ゴロン

文香「…………!」ハッ

杏「……zzzzz」スヤァ

文香「杏さん」

杏「うわあ! えっ、文香? いつからいた?」

文香「……1時間ほど前、ですね」

杏「ええ……ぜんぜん気づかなかった……忍者みたい」



あやめ「いま忍者の――」ガラッ

杏「してない」ピシャン!

15: 2019/01/03(木) 19:15:29.70 ID:p8Id/7Jt0
杏「……『ガラッ』?」

杏「…………」ガチャ

杏「…………」バタン

杏「……まあいっか」

文香「あの……」

杏「あっ、ごめんごめん、声かけられてたんだっけ」

文香「相談したいことがありまして……」

杏「……杏に? なに?」

文香「実は最近、ある小説の評判を聞きまして、興味をそそられ、ぜひとも読んでみたいと思ったのですが……なにぶん古い作品なので、遥か昔に絶版になっており」

杏「ふむふむ?」

文香「叔父の店にもそれは置いておらず、他の古書店もいくつか巡ってみたのですが、やはり見つからずに……」

16: 2019/01/03(木) 19:16:25.76 ID:p8Id/7Jt0
杏「あのさ、なんでそれを杏に相談しようと思ったの?」

文香「『困ったことがあれば杏さんに言えばなんとかしてくれる』、と」

杏「やめてよ! 誰だそれ言ったの!」

文香「高垣かえ――いえすみません。口止めされてまして」

杏「まるで隠す気ないよね。まあ予想通りだけどさ」

文香「お知恵を、貸してはいただけないでしょうか?」

杏「そう言われても……ブックオフオンラインとかヤフオクにはなかった?」

文香「……?」

杏「あー……スマホはあるよね? 検索するといいよ」

17: 2019/01/03(木) 19:17:08.61 ID:p8Id/7Jt0
文香「け、検索」プルプル……ポチッ

杏(やっぱり使い慣れてないかー)

文香「…………」プルプル……ポチ

杏「…………」

文香「…………」プルプル……ポチ

杏(遅い!)

文香「あ、ありました! ブックオフに!」

杏「まって! なんで3タップで商品にたどり着いてんの!?」

18: 2019/01/03(木) 19:17:38.57 ID:p8Id/7Jt0
文香「しかし……在庫はあるようですが、これは」

杏「どうかした?」

文香「……19800円、ですか」

杏「たっか! え、小説でしょ? そんなにするもん?」

文香「希少本であれば、そのようなこともありますが……」

杏「プレミアついてるってことね。さすがに本1冊にその値段は出したくないなー」

文香「…………それでも」プルプル

杏「あ、ストップ。いちおう他のとこも見て――いや、杏が調べるから、ちょっと待ってて」

文香「お手数おかけします……」

杏「タイトルはなんていうの?」

文香「『一億年の孤独』です」

杏「ひどい話だな」

19: 2019/01/03(木) 19:18:23.10 ID:p8Id/7Jt0
杏(ヤフオクには……ないか。メルカリにもなし。あとは、アマゾンが中古扱ってたかな?)

杏(あ、出品されてる――けど、2万円超えてら。うーん……ん?)

杏「……Kindle版あるじゃん」

文香「きんどる?」

杏「電子書籍だよ。値段、千円ちょっとだ」

文香「……電子」ピクッ

杏「スマホでも読めるから、これなら――」

文香「杏さん!!」

杏「な、なに?」ビクッ

文香「…………」

杏「…………」ドキドキ

20: 2019/01/03(木) 19:18:55.38 ID:p8Id/7Jt0
文香「……頭が固いと、古臭いと言われるかもしれません。ですが私は、どうしても電子データというものに信頼が置けないのです。もちろんそれが紙の本に印刷されたものであれ、液晶画面に表示されたものであれ、たしかに文字として、情報としての価値は変わらないでしょう。しかし紙は少なくとも触れることができます。自ら手放さないかぎりは、いつまででも所有しておくことができます。しかし、データはどうでしょう? 形なきものは、いったい、いつまで存在し続けてくれるのでしょうか? ずっとずっと、それが永遠にあるものと信じて疑わず、何年にも渡って生活を切り詰めて、自由にできるお金の大半を費やし続けた果てに、突然のサービス終了と――」

杏「まって! 黙って!! 黙れ!!!」

21: 2019/01/03(木) 19:19:31.92 ID:p8Id/7Jt0
文香「はっ! す、すみません……」

杏「途中から違う話だったよね! その手の話題はデリケートなんだから気を付けて!」

文香「……つまり私は、紙の本が好きなのです」

杏「最初からそれだけ言ってほしかったよ……じゃあ、19800円出す?」

文香「迷うところです。そもそも、その本が面白いかもわからないですから」

杏「まあ2万近く出してハズレは引きたくないよね。――あ、だったら」

文香「なんでしょう?」

杏「いや、試しにKindleで買って読んでみて、それから2万円出してもまだ欲しいって思ったら、本買えばいいんじゃないかなってさ」

22: 2019/01/03(木) 19:20:37.84 ID:p8Id/7Jt0
   *

――翌日



文香「素晴らしい作品でした!」

杏「もう読み終わったんだ、早いね。じゃあ本買うの?」

文香「すでにポチりました。明日には届く予定です」

杏「そっか、余計なお金使わせちゃったね」

文香「……いえ、誤差のようなものですし、むしろ感謝しているぐらいです」

杏「なんで?」

文香「常日頃から滅べばいいのにと思っていた電子書籍に、試し読みという使い方があるとは、目から鱗でしたから」

杏「過激派こわい」

文香「……杏さん」

杏「うん?」

文香「素敵な物語を、ありがとうございました」

杏「えっと……どういたしまして?」



<鷺沢文香編、終わり>

 ※公式の文香さんは過激派ではありません。


次回:だいたいなんでも解決してくれる杏ちゃん~岡崎泰葉編~

引用: だいたいなんでも解決してくれる杏ちゃん小品集