51: 2019/01/03(木) 19:54:54.83 ID:p8Id/7Jt0

前回:だいたいなんでも解決してくれる杏ちゃん~岡崎泰葉編~

~宮本フレデリカ編~

52: 2019/01/03(木) 19:55:56.57 ID:p8Id/7Jt0
――事務所内の一室。



杏(あー疲れた……ちょっとソファで昼寝でもして――)ボフッ

杏(……いや、もたもたしてるとまた面倒なのが来そうな気がする)

杏「今日はさっさと帰ろう。誰も杏を止められやしない」

フレデリカ「そうは問屋がフレデリカ!」バァン!

杏「ああ、もう……」

フレデリカ「わお! 杏ちゃん奇遇だね、運命の出会いだね!」

杏「明らかに狙いすましてきたよね?」

フレデリカ「細かいことは気にしなーい♪ ほら、考えるな感じろって美城専務も言ってたし?」

杏「それを言ったのはブルース・リーだし、ブルース・リーの言葉でも聞けることと聞けないことがあるんだよ」
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53: 2019/01/03(木) 19:56:58.34 ID:p8Id/7Jt0
フレデリカ「フレちゃんねー、杏ちゃんにお願いがあるんだー」

杏「知ってるよ。いいかげん、この負の連鎖みたいなのやめよう」

フレデリカ「負の連鎖?」

杏「こんどは誰から? 順番的に茄子?」

茄子「ナスじゃなくてカコですよ!」バァン!

杏「そう言ったよ!!」

フレデリカ「あ、カコさんなんか久しぶり~」

茄子「あらフレデリカちゃん、お久しぶりです♪」

杏「ん?」

茄子「少しお話していきたいけど、私このあとレッスンなんです。ごめんなさいね~」

フレデリカ「ざんねーん、レッスンがんばってねー」

『バタン』

杏「……あのひと、なにしに来たんだ?」

フレデリカ「自己紹介かな?」

54: 2019/01/03(木) 19:58:00.89 ID:p8Id/7Jt0
フレデリカ「そうそう、それで杏ちゃんにお願いなんだけどー」

杏「もう聞くだけ聞くよ、なに?」

フレデリカ「課題を手伝って!」

杏「いっそ清々しいね……課題って、フレデリカの学校の?」

フレデリカ「そだよー、ドレス1着作らなきゃいけないんだ」

杏「いつまで?」

フレデリカ「あした」

杏「進捗具合は?」

フレデリカ「デザインはできてるねー」

杏「……だけ?」

フレデリカ「生地も買ってあるかなー?」

杏「それ世間じゃ手を付けてないって言うんだよ」

55: 2019/01/03(木) 19:58:50.34 ID:p8Id/7Jt0
フレデリカ「最近忙しかったんだよねー、ライブがあったから」

杏「それは仕方ないけど……そっち系だったら杏より他の人に頼んだほうがいいんじゃない? きらりとか心さんとか」

フレデリカ「鈴帆ちゃんとか?」

杏「そこはちょっと違くないかな」

フレデリカ「でも、杏ちゃんがいいんだよねー」

杏「なんでさ」

フレデリカ「杏ちゃんはお洋服、どうやって作るかわかるよね?」

杏「んー……まあ、だいたいは」

フレデリカ「実はフレちゃん、パターン引くのがすっごい苦手なのだ……」ショボン

杏「……あー、たしかに苦手そう」

56: 2019/01/03(木) 19:59:38.12 ID:p8Id/7Jt0
フレデリカ「パターンとは型紙とも言って、紙にお洋服の各パーツごとの輪郭になる線を実物大に書いたものだね。お洋服の設計図みたいなもので、とってもだいじなんだよ~。これを生地にあててを裁断したりするんだ。動詞が『引く』なのは、パターンを作るときの実際の動作が、主に『線を引く』になるからだね」

杏「誰に説明してんの?」

57: 2019/01/03(木) 20:00:50.01 ID:p8Id/7Jt0
フレデリカ「杏ちゃんの前にはぁとさんにも聞いてみたんだけど、はぁとさんは市販の型紙を買ってアレンジとかしてるみたいで、『自分でイチから引くなんてむぅーりぃ~』だって」

杏「ホントにその口調だった?」

フレデリカ「きらりちゃんはー、『お手伝いしたいけど、これからお仕事で時間ないにぃ……』って言って」

杏「あー、なんか流れがわかった」

フレデリカ「『パターンなら、きらりより杏ちゃんのほうが上手だよぉ☆』って」

杏「余計なことを……」

フレデリカ「上手なんだ? っていうか、やったことあるんだねー」

杏「前にきらりと、自分らの衣装手作りしたときにね。ほとんどはきらりが作ったんだけど」

フレデリカ「だったら、ぜひともその手腕を!」

杏「うーん……そういえば、フレデリカの相方は?」

フレデリカ「相方? レイジーレイジーのクレイジーなほう?」

杏「どっちもだよ、それは」

58: 2019/01/03(木) 20:01:34.51 ID:p8Id/7Jt0
フレデリカ「シキちゃんにはお願いしてないねー」

杏「なんで?」

フレデリカ「……あのねー、アタシいつもシキちゃんに頼ってばかりだから」

杏「……だから?」

フレデリカ「お仕事じゃないときぐらいは、シキちゃんの手を借りずにやりたいなあ、って」

杏「それで他の人を頼ってちゃ世話ないよ」

フレデリカ「ねー♪」

杏「格好つけたいんだ?」

フレデリカ「そうかも」

杏「……しょうがないな。いいよ、手伝ってあげる」

フレデリカ「ちょろい!」

杏「怒るよ」

59: 2019/01/03(木) 20:02:28.25 ID:p8Id/7Jt0
杏「でもパターンかぁ、でっかい机ないとやりづらいんだよね、アレ」

フレデリカ「安心しるぶぷれ。そう思って、会議室借りておいたよ」

杏「順番おかしくない? わざわざ場所取っておいて杏に断られたらどうすんのさ」

フレデリカ「おかしくないよー」

杏「そう?」

フレデリカ「ここ会議室はいっぱいあるからねー、部屋がぜんぶ埋まっちゃって会議ができないなんてことにはなったことないみたいだし、もし断られちゃって予約した部屋使わなくても、それで困っちゃうひとは出ないよね。だったら先に場所おさえておいて、杏ちゃんを説得する材料に使った方がいいよね。フレちゃんあったまいー♪」

杏「ちょっと感心したけど、それ杏に言っちゃだめでしょ」

フレデリカ「杏ちゃんならお見通しかもしれないから、自分から言っちゃったほうがいいんだよー」

杏「そこまでなんでもかんでも見通しちゃいないよ」

60: 2019/01/03(木) 20:03:27.15 ID:p8Id/7Jt0
   *

――会議室



杏「この机なら十分かな。えっと、デザイン画? 見せてよ」

フレデリカ「はーい」サッ

杏「へえ、これは……」

杏(……絵は上手い――んだろうけど)

杏(画風が独特すぎて、構造がよくわからない)

フレデリカ「どう?」

杏「うん、いいと思うけど……ここの赤いのって、隣の黒いとこと縫い合わさってるの? 上から被さってるだけ?」

フレデリカ「…………どうなんだろ?」

杏「やっぱりこのタイプか」

フレデリカ「できそう?」

杏「ちょっと待ってね……」

61: 2019/01/03(木) 20:04:09.02 ID:p8Id/7Jt0
杏(この手の感覚派は、ろくに構造も考えないで筆を走らせるけど、なぜかきっちり成立していることが多い。だからきっと『正解』はあるはずなんだよね。ここはたぶん……縫ってはいない、折り返して裏側を見せてるのかな? それで下の生地の切り替え線を隠して……。ウエストの切り替えは前より背中側のほうが位置が高い。後ろ方向にボリュームをもたせようとしてるのか。ドレープが多い、円形でも足りない。円周半分の円形パターンをふたつ作って接ぐとちょうどいいか……)

杏「――うん、たぶんわかった」

フレデリカ「すごい! フレちゃんぜんぜんわかんない!」

杏「これ、着るのはフレデリカ?」

フレデリカ「だよー」

杏「じゃあ、先に採寸しよう」

フレデリカ「83-57-85だよ?」

杏「縦も要るんだよ。後ろ天からバストラインまでとか、バストラインからウエストラインまでの長さとかね」

フレデリカ「……覚えてない!」

杏「まあ、それ覚えてるひといないと思うよ」

62: 2019/01/03(木) 20:05:03.05 ID:p8Id/7Jt0
杏「……うん、採寸はおっけーね。パターン用紙とシャーペン出して、あと定規」

フレデリカ「はい!」

杏「…………」シャッシャッ

フレデリカ「アタシは今できることないから応援してるね! フレフレデリカ~」

杏「気が散る」シャッシャッ

63: 2019/01/03(木) 20:05:59.64 ID:p8Id/7Jt0
杏「これ、もう切っちゃって」ピラッ

フレデリカ「手早ーい」

杏「生地も持ってきてんでしょ、できたとこから裁断しときなよ」

フレデリカ「シーチングもあるけど?」

杏「必要ないよ」

フレデリカ「シーチングとは仮縫い用の安価な布のことで、ちゃんとした手順だとパターンができたらこれで裁断して、ざっくり縫ったりマチ針で止めたりして仮の完成形を作るんだよー。フツーはこれで出来を確認してパターンを微修正したりするんだけど、杏ちゃんは修正箇所なんて出ないからこの工程を省略していいって言ってるんだね、すごい自信だね!」

杏「だから誰に説明してんの」

64: 2019/01/03(木) 20:07:01.02 ID:p8Id/7Jt0
フレデリカ「…………」チョキチョキ

杏「…………」シャッシャッ

フレデリカ「…………」チョキチョキ

杏「…………」シャッシャッ

フレデリカ「……喋ってもいい?」チョキチョキ

杏「ん、ヘーキだけど」シャッシャッ

フレデリカ「杏ちゃんは、なんで手伝ってくれるの?」

杏「自分で頼んでおいて」

フレデリカ「そうだけどー、断られちゃっても仕方ないなって思ってたから。困ってるのはアタシのジゴージトク? だし」

杏「……そうだね」

フレデリカ「どうして?」

杏「フレデリカ、学校あんまり行ってないんでしょ」

フレデリカ「……うん」

杏「辞めるつもりは?」

65: 2019/01/03(木) 20:07:40.10 ID:p8Id/7Jt0
フレデリカ「ないかな。考えたことはあるけどね~」

杏「そっか」

フレデリカ「アタシねー、自分のブランドを持つのが夢なんだー」

杏「へえ」

フレデリカ「もちろんアイドルも楽しいし、こっちもやめるつもりはないよー。欲張りデリカ?」

杏「別にいいと思うよ。夢なんて、いっぱいあっていいでしょ」

フレデリカ「でもアタシあんまり器用じゃないから、両方しっかりはできてないんだよね。休んでばっかりだし」

杏「それでもね、いいと思うよ」

フレデリカ「そうかなー?」

杏「さっきの答えね。杏にはそういうのないから、そういうひとは、ちょっとだけ応援したいって思うんだよ」

フレデリカ「印税生活はー?」

杏「ああ、そうだね。それがあった」

フレデリカ「がんばらない生活のためにがんばろ~!」

杏「本末転倒ってやつだよね」

66: 2019/01/03(木) 20:08:12.88 ID:p8Id/7Jt0
杏「はい、パターンぜんぶできたよ」

フレデリカ「ありがとー♪ あとはうちで作業するね」

杏「こんだけ複雑な造りだと縫製も大変だよね、間に合う?」

フレデリカ「せっかく手伝ってもらったんだし、間に合わせないわけにはいかないよねー」

杏「そんなん気にしないでいいけど、まあ、がんばってね」

67: 2019/01/03(木) 20:09:12.39 ID:p8Id/7Jt0
   *

――翌日



『ピロン』

杏(ん、フレデリカから……)

杏(……おー、いい出来じゃん)

杏(隈できてやんの)クスッ

『ガチャ』

志希「……グンモーニン、杏ちゃん」ムスッ

杏「あ、おはよ……」

杏(なんだろ、なんか機嫌悪そう?)

志希「杏ちゃん」ムスー

杏「な、なに?」

志希「…………」

杏「…………」ドキドキ

志希「あたしはどうやら、女だったらしいよ……」

杏「今までなんだと思ってたの?」

68: 2019/01/03(木) 20:10:01.30 ID:p8Id/7Jt0
志希「とゆーわけで、えいえい!」ベチベチ

杏「いた――くもないけど、なに? なんで?」

志希「これでよし」フゥ

杏「だからなにが!」

志希「男女の心理差の例でね、コイビトの浮気が発覚したときに、男は自分のコイビトに、女は浮気の相手に怒りを向ける傾向があるんだって」

杏「うん?」

志希「もう気は済んだから、じゃーねー」フリフリ

杏「ええ? ちょっと……」

『バタン』

杏「……女って面倒くさい」



<宮本フレデリカ編、終わり>

次回:だいたいなんでも解決してくれる杏ちゃん~村上巴編~

引用: だいたいなんでも解決してくれる杏ちゃん小品集