1: 2015/04/18(土) 00:27:27.71 ID:Jwa/iWXd.net
ここ最近、流行りのペットがあるとパパが教えてくれた。

なんでも自分が一番可愛いと思う形で生まれてくるペットなんだって。
科学的にはまだ解明されていないけど、海外ではその飼いやすさと人懐っこさからもっぱらの人気らしいわ。

…そんなこと言われたら気になるじゃない。
ということでママにお許しを得てさっきペットショップで買ってきた。手のひらサイズの小さな箱。この中にそのペットが入ってるらしい。

2: 2015/04/18(土) 00:28:20.24 ID:Jwa/iWXd.net
コロンッ

一つの卵が箱から取り出される。
大きさはピンボールくらい。薄ピンクな色以外特筆することは無い。見てるだけではただの着色した卵ね。
小さい頃に海外でやったイースターエッグを思い出させる────まぁあれはもっとドギツい色だったけど。

えーっと、説明書を見る限りでは、『手で軽く包み』、『そのまま2分待機』だって。
ホントに簡単なのね。

3: 2015/04/18(土) 00:29:11.90 ID:Jwa/iWXd.net
手で包んでみる、意外な重さにびっくり。
こんな小さくて儚いのにしっかりと自分を持っていて…まるでにこちゃんみたいな…。

って!なんでにこちゃんのことなんて考えなきゃいけないのよ!
だいたいにこちゃんは口うるさいし、ちょっとキャラ強かったりして私は別に……

ピキッ…パキパキッ

そんなことを考えているうちに卵が自分で割れ始める。一体どんな子が生まれるのかしら…。少しワクワクしてる自分が珍しいなと思ったり。

4: 2015/04/18(土) 00:30:03.61 ID:Jwa/iWXd.net
パキパキッ……コロンッ








?「……にこぉ?」

5: 2015/04/18(土) 00:31:00.91 ID:Jwa/iWXd.net
絶句。
無言で目を説明書に写す。

《あなたが一番可愛いと思う姿で生まれてきます────》

にこ「にこ?」キョロキョロ

ということは。この目の前にいるにこちゃんは、つまり。

にこ「にーこーー!」

私が可愛いと思っているもの…らしい。私はあまりの出来事に頭を抱えてしまった。なんでよりによってにこちゃんなのよ…。

6: 2015/04/18(土) 00:31:52.64 ID:Jwa/iWXd.net
にこ「にこぉ……」ウルウル

って、きゅ、急に泣き出したわ!ど、どうすればいいのかしら……ええっと…説明書には…

《生まれてきた子供はまず親を認識しようと泣きだします。この子達は基本的に肌に寄り添うことで親を認識するので、ゆっくり指を近づけてあげましょう。 》

なるほど…
所謂刷り込み、と言うやつだろうか。この子の種は良く分からないけどそのあたりは鳥とかと同じみたいね…。よし。

7: 2015/04/18(土) 00:32:44.63 ID:Jwa/iWXd.net
真姫「よ、よしよ~し…?」

怖がらせないようにそっと、手を近づけてみる。
爪、長すぎじゃないかな?とかちょっといきなり過ぎたかな?とかそんな考えが頭の中をぐるぐる回る。

にこ「にこ………にこっ♡」ダキッ

わわわ!?じっと見つめてたと思ってたら急に抱きついてきたわ!凄く可愛い……。小さいけど、ちゃんと指先に暖かさを感じる。

8: 2015/04/18(土) 00:33:39.33 ID:Jwa/iWXd.net
にこ「にこっにこっ」ピョンピョン

とりあえず私を親として認めてくれたみたいね。
心なしかすごく喜んでくれてるみたい。
…なんて考えてたら大事なことに気がついた。この子まだ裸じゃない!ま、まままずいわ!

ガタッガタッ

にこ「にこ?」

えーと、確かこの辺に…。あっ、あったあった。

10: 2015/04/18(土) 00:34:32.10 ID:Jwa/iWXd.net
ファサッ

にこ「にこぉ?……にこ?」ヒラヒラ

今にこちゃんに着させてあげたのは私が昔遊んでた人形の洋服。桃色基調で白のレースがついたワンピース。大きさはぴったりね…。

にこ「にこっ♡にこっ♡」クルクル

どうやら気に入ってくれたみたい。現実のにこちゃんに似てオシャレが好きみたいね。まぁあの憎たらしいにこちゃんとは比べ物にならないくらいに、うちのにこちゃんは天使だけどね。

11: 2015/04/18(土) 00:35:23.97 ID:Jwa/iWXd.net
にこ「にこー!」ヨチヨチ

洋服にすっかり満足したにこちゃんは机の上を散策し始めた。小指くらいのサイズしかないにこちゃんにとって、この机の上はまさに冒険そのものだろう。

にこ「にこっ!」ゲシッ

消しゴムを蹴ってみたり

にこ「にこーー!」スイーッ

下敷きの上を滑ってみたり

にこ「にこ…!にこ…!」ズリズリ

単語帳の間の隙間を潜ってみたり…って!
案の定にこちゃんの足が引っかかり、バランスを崩した単語帳はにこちゃんに向って倒れてくる。

13: 2015/04/18(土) 00:36:16.40 ID:Jwa/iWXd.net
にこ「にこぉーー!?」

真姫「危ない…っ!」

パシッ

間一髪で止めることができた。ふぅ…。

にこ「に゛ごぉ!に゛ごぉ…!!」ピィーッ

危険を危険とちゃんと感じ取れるのか、にこちゃんは私の手に飛びついてきた。泣きながら手に顔を擦り付けるにこちゃんを見て、私は絶対にこの子を守ると誓った。えぇ、もう泣かせるものですか。

14: 2015/04/18(土) 00:37:16.16 ID:Jwa/iWXd.net
真姫「よしよし…もう大丈夫だからね…」

手の中にそっと包んであげる。手の中にくるまってるにこちゃんはすぐに泣き止み、笑顔になった。泣いたカラスがもう笑う、とはよく言ったものね…。でも、それだけ信用されてるってことなのかしら。

にこ「にこにこっ♡」グーッ

にこ「…にこぉ……」グダーッ

お腹がすいたみたい。まぁあれだけ動いてれば確かにお腹も空くでしょうね…生まれてから食事もまだだし。

…でもこの子、何を食べるのかしら?
隣に置いてある説明書を見てみる。

16: 2015/04/18(土) 00:38:08.11 ID:Jwa/iWXd.net
《食事→雑食で食事は基本的に人間と同じものを食べます。体に見合う量をあげてください》

ふーん…便利なものね。これも飼いやすさの一つなのかしら。まぁちょうど良かったわ。

真姫「ちょっと待っててね。今なにかお手伝いさんに作って────」

あれ?そういえば今日って何曜日だっけ。えーと…あっちゃー、木曜日。今日はお手伝いさんのお休みの日だったわ…。

17: 2015/04/18(土) 00:39:00.11 ID:Jwa/iWXd.net
にこ「にこ?」

かと言って今日はママもパパも出張って言ってたから誰も家にはいない。つまり…

にこ「にこ!にこっ!」グイグイ

真姫「私が作らなきゃってことね…」

料理自体はそこまで苦手じゃない。今日みたいにママたちが出張で、お手伝いさんがいない日は自分で作ったりしてたし。

……スパゲティは美味しいのよ?簡単だし。
ただ、そんな物くらいしか作れない私は密かににこちゃんを尊敬していたりする。頼んだら簡単に作れる料理くらい教えてくれるかしら。

18: 2015/04/18(土) 00:39:52.04 ID:Jwa/iWXd.net
まぁ笑われたりするのが嫌だから結局言い出せないんだけど。


ってかなんでさっきからにこちゃんのことばっかり思い出すのかしら。
嫌いなのに。……ちょっぴりだけ、だけど。

19: 2015/04/18(土) 00:40:57.90 ID:Jwa/iWXd.net
ひとまずにこちゃんを連れて下のリビングまで降りてきた。にこちゃんは手の中だと静かにしてくれる。賢い。どこぞのロシア先輩より遥かに賢い。

真姫「にこちゃん、これからお料理するからここで大人しく待っててね。できる?」

にこ「…」ウルウル

真姫「無理そうね…。」

20: 2015/04/18(土) 00:41:49.93 ID:Jwa/iWXd.net
でもどうしようかしら。火を使うし台所に置いておくのは危ないわよね…。うーん…仕方ない。
今日はお料理を諦めてピザでも取るか。うん。

真姫「まぁたまにはいいわよね…。ちゃんと明日も運動すれば海未にも何も言われないわよ、うん」

にこ「?」

真姫ちゃんの完璧なプロポーションはピザの一枚や二枚如きでは崩れないわ。ふふっなんだか楽しくなってきちゃった。

何でかは、良く分からないのだけれど。

21: 2015/04/18(土) 00:42:41.60 ID:Jwa/iWXd.net
……

アリガトウゴザイマシター

真姫「いい匂い…」

にこ「にこっ!にこっ!」ピョンピョン

ピザの美味しそうな匂いににこちゃんも喜んでいるみたい。私も凄く久しぶりだから喜ばしい限りだわ。

真姫「はいはい、今開けるからそんな騒がないの」

とか言いつつ一番ワクワクしてるのは私だったりする。ママやパパはこういうの食べないしなぁ。
私もピザの栄養の偏りには少し悪い印象を持ってはいるけれど、美味しい物はしょうが無いじゃない。

22: 2015/04/18(土) 00:43:53.60 ID:Jwa/iWXd.net
パカッ

ジューーーッ…

あけた途端に広がるサラミの匂い。トマト、バジル、チーズとピザ特有の香りが私の鼻腔をくすぐる。あぁ、やっぱり最高だわ。

にこ「にこ!にこ!!」カプッ

真姫「あっ、待って!熱いから冷まさないと────」

にこ「にこーーー!!?」

言わんこっちゃない。まぁ宅配ピザだし火傷するほどではないだろうけど…そんなところはにこちゃんにそっくりなのね。

no title

27: 2015/04/18(土) 00:47:54.70 ID:Jwa/iWXd.net
真姫「はいはい大丈夫?これに懲りたらゆっくり食べなさい、いいわね?」

にこ「にこー…」

真姫「いま冷ましてあげるから…」フーフー

真姫「はい、あーん」

にこ「アーン」

にこ「にこーっ!!」パァッ

うん、ちゃんと食べれるわね。それじゃ私も。
いただきまーす。

29: 2015/04/18(土) 00:52:15.64 ID:Jwa/iWXd.net
サクッ トロー

うん…凄く美味しい。
口に入れた瞬間ふわっと広がるお肉の香り。

たっぷりと口の中で優しくとろけるチーズ。

大好きなトマトは全ての味をまとめてくれる。

サクッと、それでいて生地本来の柔らかさと甘さを忘れないクリスピー。


全てが1枚に凝縮されていた。

付け合せのポテトとジュースも文句なし。
no title

30: 2015/04/18(土) 00:58:31.12 ID:Jwa/iWXd.net
にこ「にこっ!」ŧ‹”ŧ‹”

にこちゃんもご満足のようだ。
やはりピザはありとあらゆる人や物を幸せにしてくれるわね。

たまにしか食べられないのが残念でしょうがない…。が、悔やんでも仕方ないので今日は思いっきり楽しむことにしましょう。


……


にこ「にこ…」ゲプッ

ご馳走様でした。にこちゃんも満足みたい。
満腹になると幸せな気分になるわね…
まぁ、これが明日の悲劇に繋がりかねないのだが。
no title

32: 2015/04/18(土) 01:01:12.02 ID:Jwa/iWXd.net
にこ「にこぉ…」ウトウト

にこちゃんがうとうとし始めた。
食べたらすぐ眠くなるなんて…ほんとうに赤ちゃんみたいね。赤ちゃんなんだけど。

真姫「まだ寝ないでにこちゃん…。お風呂入ってからね?」

にこ「にこぉ…?」

首をかしげている姿はまさにエンジェル。
ぎゅーって抱きしめたくなる衝動を抑えてにこちゃんを浴槽へと連れていく。

33: 2015/04/18(土) 01:05:46.72 ID:Jwa/iWXd.net
カポーン…

うーん…この浴槽はにこちゃんにとって大き過ぎる。とりあえず桶にお湯を張って…

ジャー…

にこ「にこ?」

うん、これくらいの水量なら溺れたりはしないわね。そっと、にこちゃんを桶に入れてあげる。

にこ「にこー…にこーー!!」バシャバシャ

気に入ったようだ。バシャバシャ水を脚で蹴って遊ぶのが楽しいみたい。
……ちょっと、今、水が目に飛んだんだけど?

35: 2015/04/18(土) 01:10:46.64 ID:Jwa/iWXd.net
にこ「にこっ!にこっ!」バシャ

水を私に向かって掛けてくる。しかし、小さなにこちゃんの手ではまったく私には届かない。

にこ「にこ……」グデー

どうやら飽きたみたい。丁度いいのでにこちゃんの髪とかを洗ってあげようかな。

真姫「にこちゃんおいでー…」

にこ「にこっ!」ダキッ

手の中に包み込んでシャワーの近くへ。
まずはシャンプーから。一滴垂らしたら、小指を使って洗ってあげる。

37: 2015/04/18(土) 01:14:21.43 ID:Jwa/iWXd.net
わしわしわし
わしわしわし

にこ「にこーー…」プルプル

必氏に目に入らないように目を瞑るにこちゃん。可愛い。まるで雨に震える子猫のよう。

真姫「もうすぐ終わるからねー…」

にこ「にこー…っ」プルプル

はー…ほんと可愛い。さっきから可愛いしか言ってないけど本心だからしょうがない。
典型的な親バカというやつなのだろうか。

38: 2015/04/18(土) 01:18:38.29 ID:Jwa/iWXd.net
真姫「はーい、流すわよー…」

ジャー

さっと洗い落として髪は終了。
次は体……か、体!?

にこ「にこ?」

…体ね。仕方ないわよ。そう、これは仕方ないの。私は親なんだから。うん。そうよ。
ボディーソープを垂らし、にこちゃんに指を伸ばす。

ごくり。

指先が震える。別になんにも卑しいことなんてないのに。その小さくて、真っ白な背中は、私の煩悩を掻き立てるのには充分なのでした。

56: 2015/04/19(日) 00:11:57.61 ID:V8+Ic/np.net
SSの途中ですが!
真姫ちゃんお誕生日おめでとうございます!
誕生日までには書き上げたかったのに…ごめんね

61: 2015/04/19(日) 01:43:57.16 ID:V8+Ic/np.net
ドキドキ。ドキドキ。
胸の鼓動が止まらない。私の知ってるにこちゃんとは違うのに。
小生意気で、口うるさくて、でも頼りになって。
たった1人で孤独を抱え込んだあの小さな背中。
ダメだとわかってても重ねてしまう。

どうしてこんなにも愛しいの?
どうしてこんなにも…
もう少し…もう少し…
あとちょっと…指を伸ばせば……

62: 2015/04/19(日) 01:44:24.24 ID:V8+Ic/np.net
にこ「クチュ!」

にこ「にこー…」

はっと我に返る。私は今、何をしてたのか
小さなにこちゃんに、自分の欲望を……

にこ「にこ?」

…ばかばかばか!!
相手はにこちゃんなのよ?にこちゃんだけど、にこちゃんじゃなくて……ってあれ?
自分でも何言ってるのかよくわからなくなってきたわ…

63: 2015/04/19(日) 01:44:51.24 ID:V8+Ic/np.net
にこ「にこぉ…」ブルブル

おっと、いけないいけない。早く洗ってあげないとね。風邪ひいたら元も小もないし。
一旦落ち着くと、今までのドキドキが嘘のように静まった。ちょっとのぼせちゃったのかしら…

真姫「じゃあ体も洗うから、じっとしててね?」

にこ「にこ!」



まったく、困ったものね

64: 2015/04/19(日) 01:45:19.85 ID:V8+Ic/np.net
……

カチッ

にこ「にこーー!」ドサー

あの後は何も起こることなく終わり、今は寝るためにベッドまでやってきた。
パジャマはやはり昔遊んでた人形のを。正直こんなところで役に立つとは思ってもいなかった。

65: 2015/04/19(日) 01:45:47.00 ID:V8+Ic/np.net
にこ「にこっ!にこっ!」モフモフ

毛布にくるまってころころ転がるにこちゃん。
可愛い。そろそろ仕舞おうかなと思っていたところだったけどもう少し伸ばそうかしら。
にこちゃん用に毛布を買ってもいいわね…

にこ「にこー…」

一通り暴れた所で眠気が戻ってきたみたい。
毛布ごとそっと枕の近くに移動させる。ここなら寝返りうっても大丈夫ね…。

66: 2015/04/19(日) 01:46:14.22 ID:V8+Ic/np.net
にこ「……」スースー

ふふっ。ほんと可愛いんだから。にこちゃんも静かにしてれば可愛いのに、ほんと勿体無いわよね。

…。

68: 2015/04/19(日) 03:00:31.36 ID:V8+Ic/np.net
真姫「あのね、にこちゃん。」

真姫「私、ある人と喧嘩しちゃったの。ちょっと小生意気な先輩、なんだけど」

真姫「初めは本当に些細なことだったの。でもね、そこから熱くなっちゃって」

真姫「思っても無かった事まで…言っちゃったの」

69: 2015/04/19(日) 03:00:57.36 ID:V8+Ic/np.net
そう。最初は本当にいつも通りだった。
だけど昨日はお互い虫の居所が悪くて、凄く白熱した喧嘩になってしまった。
そして、私は。

『にこちゃんなんて大嫌い!!!!』

はっと我に返った時にはもう遅かった。
にこちゃんは口を固く結び、わなわなと震えたかと思えば一言

『私も、真姫ちゃんなんて嫌いよ』

そう言って、走って行ってしまった。
待って、行かないで。本当に伝えたい言葉は胸の中につっかえて出てこなかった。
苦しい。さっきまでの怒りより、もっと、遥かに心を抉るような────痛み。

70: 2015/04/19(日) 03:01:24.99 ID:V8+Ic/np.net
真姫「私…っ私ったら、ほんとに、ほんとに取り返しのつかないことを…」ポロポロ

にこ「…にこぉ……?」

にこ「にこ!?にこ!にこ!!」ユサユサ


独り言のつもりだったのに、にこちゃんを起こしてしまった。しかも凄く心配してくれてる。
心配なんか、される立場じゃないのに…
でも凄く、嬉しくて。雨にうたれていた心にパッと傘をさしたような。

71: 2015/04/19(日) 03:01:57.74 ID:V8+Ic/np.net
真姫「ありがとう…。ありがとう……」ギュ

にこ「にこぉ…」

ギュ

優しく抱きしめてみたら、私も抱きしめられちゃった。ふふっ。これじゃもうどっちがお母さんかわからないわね。

真姫「本当に優しいのね…。もう大丈夫よ」

にこ「にこー!」

謝ろう。許してもらえないかもしれない。
もしかしたら、ずっと嫌われたままかもしれない。
それでも私は、自分の犯した罪の埋め合わせをしたいと思ったの。ううん、思えるようになったの。

72: 2015/04/19(日) 03:02:23.88 ID:V8+Ic/np.net
真姫「…うん。それじゃ今日はもう寝ましょう?」

にこ「にこ!」

にこちゃんはそう返事をすると、毛布に戻る。
私も布団に入ってにこちゃんに向き合う。
わずか人差し指くらいのサイズ、しかも生まれてまだ数時間しか経ってないにこちゃんだけど、
その笑顔と愛くるしさは私にとって、かけがえのない存在になってる気がする。

真姫「おやすみ、にこちゃん」

にこ「にこーー!」

73: 2015/04/19(日) 03:02:54.14 ID:V8+Ic/np.net
明日にこちゃんと仲直りできたら、にこちゃんを見せてみようかな。
どんな反応するのか、今からすごく楽しみ。
その後お洋服とかベッドとか買ってあげた方がいいのかな…その辺も相談、し…て………

真姫「……」スースー



にこ「…」ムクリ

にこ「…」ジー






にこ「がんばってね、まきちゃん」

74: 2015/04/19(日) 03:03:21.11 ID:V8+Ic/np.net
……

(・8・)チュンチュン


…キテ……

ん…

オキテ……チャン

んー…この声、にこちゃん?
あぁそうか。昨日はにこちゃんと一緒に寝たんだっけ…

75: 2015/04/19(日) 03:03:50.35 ID:V8+Ic/np.net
真姫「…にこちゃん喋れるようになったの…?少しびっくりだわ……」

にこ「はぁ!?なに寝惚けてんのよ!早く起きなさいよね!」

…ん?なにか様子が変だわ。今の声、間違いなくにこちゃんの声。にこちゃんじゃなくて、大きい方のにこちゃん。

にこちゃん……にこちゃん!??

76: 2015/04/19(日) 03:04:16.98 ID:V8+Ic/np.net
ガバッ

真姫「に、にこちゃん!?な、なななんで私の部屋に…!?」

にこ「あーやっと起きた。あんたって意外と朝に弱いタイプなのね」

真姫「まぁ低血圧気味だから…って!そうじゃなくて!私の質問に答えなさいよ!」

にこ「朝からごちゃごちゃうるさい!にこがここにいるのはね!…その、ね……」モジモジ


意味がわからない。気がついたら喧嘩したと思っていたにこちゃんが家にいて。
しかも何か恥ずかしがってる…?

77: 2015/04/19(日) 03:04:50.45 ID:V8+Ic/np.net
にこ「その…ほら、昨日はちょっと言い過ぎたかなって…は、はんせ────」


そういえばにこちゃんは…?
ちょっと大きな声出したからびっくりしてないかな……って


真姫「あれ!?に、にこちゃんは??あれ?あれ??」キョロキョロ

にこ「は?」

真姫「いないのよ!にこちゃんが!」

にこ「私ならここにいるけど…」

真姫「違くて!!私のにこちゃんよ!…にこちゃん?どこー?」

78: 2015/04/19(日) 03:05:23.27 ID:V8+Ic/np.net
びっくりしてベッドの下とかに逃げちゃったのかな。そうだとしたら可哀想なことをしちゃったわね…


にこ「ちょっと…ふざけるのもいい加減にしてくれる?私、今真剣な話してるんだけど…」

真姫「ふざけてなんて…!昨日買ったのよ。最近流行りのペットのやつ」

にこ「最近流行りの?何それ?」

真姫「知らないの?ほら、自分が可愛いと思ってる姿で生まれてくるって…」

にこ「??知らないわ…。ほんとにそれ流行ってんの?聞いたこともないわ」


聞いたことも、ない?
嘘でしょ?

79: 2015/04/19(日) 03:05:58.85 ID:V8+Ic/np.net
真姫「そんな…じゃあ机の上に箱が…」


無い。倒れた単語帳や下敷きはそのままに、
箱と説明書だけが消えていた。


真姫「嘘…」

嘘、嘘よ!そんな、そんな…!

ダッ

にこ「あ!ちょ、真姫ちゃん!」

ガチャ

真姫ママ「あら、おはよう真姫ちゃん。そんなに慌ててどうかしたの?」

真姫「ねぇ、ママ!昨日の話、覚えてるわよね!?」

80: 2015/04/19(日) 03:06:26.57 ID:V8+Ic/np.net
真姫ママ「昨日の話?」

真姫「流行りのペット、飼っていいかって!ママ、飼っていいって言ってくれたわよね!?」


ママならきっと覚えてるはず。
お願い、覚えてて。私のにこちゃんを、否定しないで…!


でも



真姫ママ「変ね…そんなお話した覚え無いのだけど…」


返ってきたのは絶望だった。
じゃあ昨日のにこちゃんはなんだったというの?

81: 2015/04/19(日) 03:06:55.10 ID:V8+Ic/np.net
にこ『にこっ!』

にこ『にこっ♡にこっ♡』

にこ『にごぉ゛…!にごぉ゛…!』

にこ『にこっ!にこっ!』バシャバシャ

にこ『にこぉ…』ウトウト


全部、全部、夢、だったの?
力が抜けて、床に突っ伏す。大丈夫?と心配してくれる声も、頭に入ってこない。
震える脚でなんとか立ち上がり、自室に向かう。

そこには不貞腐れた顔のにこちゃんが待っていた。

82: 2015/04/19(日) 03:07:21.94 ID:V8+Ic/np.net
にこ「…それで?お探し物は見つかったのかしら?」

真姫「…」

にこ「…はぁ。どうやらに訳ありみたいね。話してみなさいよ」

真姫「にこちゃん…?」

にこ「こっちはね、大事な話の腰おられてんの。知る権利くらい、あると思わない?」

83: 2015/04/19(日) 03:07:55.20 ID:V8+Ic/np.net
真姫「…」

にこ「あと、さ。」


にこちゃんが私の顔を覗き込んでくる。
その白い肌と赤い瞳に吸い込まれそうになる。




にこ「あんた、今にも泣きそうな顔してる」

85: 2015/04/19(日) 04:36:05.61 ID:V8+Ic/np.net
はっと。顔に手を触れたとき、ポロッと涙がこぼれ落ちた。
頭の中がごちゃごちゃして、自分が今どんな感情を抱いているのかすら、把握できない。


にこ「理由は────それだけで充分でしょ」

真姫「…うん」

86: 2015/04/19(日) 04:36:34.69 ID:V8+Ic/np.net
私は昨日のことを全て話した。
にこちゃんと喧嘩してからのこと。
不思議なペットを買って、それを育ててたこと。
そして、にこちゃんに謝る決意をしたこと。


普段の私からは考えられないほど正直に、
糸を紡ぐように言葉がごぼれ落ちる。


その間、にこちゃんは何も言わなかった。
話をしっかり聞いて、頷く。
そんなにこちゃんの態度が心地よかった。

87: 2015/04/19(日) 04:37:03.70 ID:V8+Ic/np.net
真姫「────というわけなの」

にこ「そう…」

真姫「…信じて、くれる?」


言ってみて思ったこと。それは自分の言ってることがいかに支離滅裂であるかということ。
信憑性に欠けていて、信じるに値しない。

下手をすれば精神の異常を疑われて病院にお世話になりかねないわね。
もしかしたら本当ににこちゃんはいなかったのかも…なんて思い始める。

88: 2015/04/19(日) 04:37:30.53 ID:V8+Ic/np.net
にこ「…」

にこ「信じるわ」

真姫「え?」

にこ「真姫ちゃんがこんなことで嘘吐く人じゃないってのはにこ、よく知ってるし」

にこ「それにね…私にもちょっと不思議なことがあったから」

真姫「不思議なこと?」

89: 2015/04/19(日) 04:37:57.02 ID:V8+Ic/np.net
にこ「…私はね。最初、真姫ちゃんのこと許せなかったの」

にこ「でもね?その夜、夢に真姫ちゃんが出てきてね。その真姫ちゃん、泣いてたの」

にこ「なんで泣いてるのかはよくわからなかったけど…なんだが気持ちがすーーっと落ち着いてね。段々後悔し始めたの」

にこ「どうして許してあげられなかったんだろうって。辛いのは、きっとお互い様なのにね」

にこ「それで…今日は謝りに来たのよ」

真姫「そうだったの…」

90: 2015/04/19(日) 04:38:23.47 ID:V8+Ic/np.net
にこ「だからさ、私、思うんだ」






にこ「きっと、その子は天使だったんだよ」

91: 2015/04/19(日) 04:38:50.24 ID:V8+Ic/np.net
真姫「天使…?」

にこ「うん。私達ってお互い素直になるのが苦手じゃない?」

にこ「だから…昨日みたいに凄く喧嘩して、お互いのことを考えられなくなっちゃう」

にこ「だから…そんな二人に神様が天使を送ってくれたんじゃないかな……って」

真姫「天使…か」


突然私の前に現れて、突然消えてしまったあの子。
一緒にいた時間は本当に短かったのに、私の中では大きな存在となっていたあの子。

確かに天使だったのかもね。
凄く可愛いかったし。

92: 2015/04/19(日) 04:39:25.87 ID:V8+Ic/np.net
真姫「凄く、ロマンチックね」

にこ「乙女だからね」

真姫「ふふっ、なにそれ」

にこ「やだー?真姫ちゃん知らないの?乙女は白馬の王子様をいつまでも待つものなんだよ?」

真姫「今時そんなの流行らないわよ」

にこ「でも、天使は来たじゃない」

93: 2015/04/19(日) 04:43:10.30 ID:PyAJKSXF.net
ずっと、絵本の中のものだと思ってた天使。
頭に輪っかあって、翼が生えてて。
でも本当の天使はそんなんじゃなかった。
けど、どの天使よりも天使らしかった気がする。


真姫「…じゃあ」


あの子が天使ならば。
神様から与えられた使命の元、わたし達に降りてきたのなら。

やらなきゃいけないこと、あるわよね

94: 2015/04/19(日) 04:43:49.31 ID:PyAJKSXF.net
真姫「ごめんね、にこちゃん」

真姫「昨日…酷いこと言って、ごめんなさい」


ずっと言いたかったこと。
悪口や侮蔑、罵詈雑言なんかじゃなくて。
心から貴女を好きでいることの証。


にこ「…私こそごめんなさい」

にこ「許して…くれる?」

95: 2015/04/19(日) 04:44:20.39 ID:PyAJKSXF.net
真姫「にこちゃんは?」

にこ「言う必要ある?」

真姫「ちゃんと、にこちゃんの口から聞きたいわ」

にこ「……許す、許すわ。当たり前じゃない。許さない理由なんて一つもないわ」

真姫「あんなに悪口言ったのに?」

にこ「私も言ったからね」

真姫「…嫌いって、言っちゃったのに?」

にこ「……ばかね」


にこ「信じてるもの、真姫ちゃんのこと」

96: 2015/04/19(日) 04:44:51.48 ID:PyAJKSXF.net
あぁ。素直になるってこんなにも素晴らしいこおだったのね。
こんなことが無ければ、気付くことはなかったかもしれない。
こんなことが無ければ、にこちゃんのこと、こんなにも知れなかったかもしれない。

いくつもの"もしも"が重なって
今、私達は心を確かめ合えた。
それを人はきっと「奇跡」と呼ぶのだろう。


真姫「ふふっ…」

にこ「なに笑ってんのよ…」

97: 2015/04/19(日) 04:45:23.79 ID:PyAJKSXF.net
真姫「……ほんと、身近な所に奇跡って落ちてるものなんだなぁって」

にこ「なにそれ…次の曲の歌詞?」

真姫「あ、いいわねそれ。海未に提案してみようかしら」

にこ「次もにこが歌うのに相応しい曲、期待してるわよ?」

真姫「…ふふっ。そうね、頑張るわ」

にこ「えらく素直じゃない」

真姫「だって、私も信じてるもの。



にこちゃんのこと」



おしまい。

98: 2015/04/19(日) 04:48:40.14 ID:V8+Ic/np.net
長らくお待たせしてすみませんでした。
ここまでお付き合いいただき、感謝します。

99: 2015/04/19(日) 04:52:18.88 ID:+SQK1dNS.net
面白かった乙

前半と後半で色が全然違って驚いたわ

引用: 真姫「ペットを飼い始めた」