1: 2008/10/09(木) 18:50:55.80 ID:1u90rza50
式子内親王「そう結うわけで、
 身の回りの世話は貴方の役目っ」もそもそ

男「何で俺がそんなことやら無きゃいけないの」
式子内親王「わたし皇族なんだよ?」
男「だから?」

式子内親王「貴方、日本人じゃないの!?」
男「日本人だよ」

式子内親王「だったらとっとと奉仕する」
男「……」

式子内親王「早く早く! 急に寒くなったなぁ、もう」

いなり、こんこん、恋いろは。(1) (角川コミックス・エース)
3: 2008/10/09(木) 18:52:47.13 ID:1u90rza50
男「おーい。ないしんのー」
式子内親王「なによ」

男「お前まだ布団かぶってんの?」
式子内親王「体温低いのよ」

男「ホットチョコ缶買って来たぞ」
式子内親王「感心な態度ね」
男「コンビニついでだからな」

式子内親王「褒めて取らすわ」
男「気にすんな。……飲んでいいんだぞ?」

式子内親王「プルトップあけなさい」
男「?」

式子内親王「手を出すと寒いでしょっ。
 気が効かない庶民ねっ。いいからあけなさい」

男「お前、飲まなくて良いや」


5: 2008/10/09(木) 18:56:56.08 ID:1u90rza50
式子内親王「む。むぅ」
男「なんだよ」

式子内親王「そこの漫画とって」
男「あいよ」

式子内親王「ぷくくく」

男「ないしんのー。いい加減布団から出ろよ」
式子内親王「やぁよ。暖かいんだし」
男「重いだろ」

式子内親王「あたしは皇族なのよ。十二単で鍛えられた
 ハイスペックボディなのよ?
 これくらいの布団なんかなんでもないわ」

男「ハイスペックなら寒さは我慢しろ」

式子内親王「やーめーてーっ!? 布団は取らないで~!」


6: 2008/10/09(木) 19:01:54.42 ID:1u90rza50
式子内親王「むー」
男「どうした、ないしんのー」

式子内親王「漫画読んじゃった」
男「そか」

式子内親王「他には無いの?」
男「無い」

式子内親王「飽きたー。何か出してー。すっごいの」
男「無いよ」
式子内親王「貴方それでも未来人なの」

男「ここはその未来で俺の部屋だ。お前が過去人間なんだ」
式子内親王「わたし皇族なのよ!?」
男「訳わかんねぇ」

式子内親王「なんかだしてー。遊んでーっ」
男「……むぅ。ほら、携帯だ。
 これでテキストサイトでも読んでろよ」

式子内親王「おおっ! 小さい箱琴!」


8: 2008/10/09(木) 19:05:56.90 ID:1u90rza50
男「おーい、ないしんのー」
式子内親王「なにー?」

男「メシができたぞ」
式子内親王「食べるー。むぅ、むぅ」

男「お前、結局一日中布団装備かよ」
式子内親王「暖かいのよ」

男「まったくだ。お前の脳みそがな」

式子内親王「いつでも駆け出せるようにアップは万全よ」
男「どこへでもいっちまえ」

式子内親王「で、ご飯は?」
男「チキンシチューライス」

式子内親王「おお! 未来食事。流動食! NASA的!」
男「お前本当に過去人間かよ」

式子内親王「もぐもぐ。そうよ? 才媛よ?」
男「才媛は布団かぶってシチュー食ったりしねぇ」

9: 2008/10/09(木) 19:10:37.71 ID:1u90rza50
式子内親王「ご馳走様でした」
男「おそまつさん」

式子内親王「いえいえ。お粗末なんてとんでもない。
 大変美味でした。この味なら一日六回食べても飽きないわ」
男「そういうもんか?」

式子内親王「認めたくないけれど未来はさすがに未来ね。
 貴方みたいな庶民がこんなに美味しいものを食べているとは」

男「いやそっちじゃなくて」
式子内親王「?」

男「一日六回も食事すんのかって話しだよ」

式子内親王「わたし皇族なのよ?」
男「だから何だよ」

式子内親王「む! ほら、昨日の冷たいのだしなさい!!」
男「麦茶かよ。判ったよ」

式子内親王「……四回くらいがはしたなくないのかしらね」


10: 2008/10/09(木) 19:16:28.75 ID:1u90rza50
式子内親王「ぷくくく」
男「機嫌よいのか?」

式子内親王「いや、なんかすっごいのよ。恋空とかいって。
 この時代の歌人ってなんかダラダラダラダラ長く書くのねー」

男「ケータイ小説だろ」
式子内親王「なにそれ?」

男「携帯電話……わかんねーか。
 どこでも読める軽い文章のことだよ」

式子内親王「鴨長明がやってるよーなやつね」
男「?」

式子内親王「男に顔見せちゃうような恥知らずな女が
 恋の歌詠んじゃったりして、なんか面白すぎる~」

男(褒めてんだかけなしてるんだかわからねぇ)


13: 2008/10/09(木) 19:21:06.61 ID:1u90rza50
男「つか、さっきぐぐったけど。
 ないしんのーも色々書く人じゃねぇの?」

式子内親王「そーよ。えっへんよ。才媛だからね。
 恋の歌の達人よ。つまり恋の達人よ」
男「そうなんか?」

式子内親王「悩める子羊の救済者よ」
男「うさんくせぇな」
式子内親王「新三十六歌仙なのよ?」

男「でも三十六って多すぎねぇ?」
式子内親王「……」
男「それも『新』ってとこがさ。あれだよ。
 『新四天王』とかもう登場時から雑魚くせぇじゃん?
 ヤラレフラグっていうか」

式子内親王「わたし皇族なのよっ!?」
男「うわっ。怒るなよ」

式子内親王「不敬罪を適用するわよ。
 貴方が靴下買うとき右側は黄色しか
 売っちゃいけないって布告出すわよ」
男「地味な嫌がらせだなおい」


14: 2008/10/09(木) 19:25:47.96 ID:1u90rza50
男「まぁいいや。どうでも」

式子内親王「恐れ入ればいいのよ」

男「恋愛マエストロのないしんのーは、あれなの?
 元の時代へ戻ればやっぱラブなステディとかいるの?」

式子内親王「いないわよ?」

男「今はフリーなの?」
式子内親王「なに云ってるの。最初から居ないわよ」
男「へ?」

式子内親王「そこらの端女のように恥知らずじゃないのよ。
 恋ってのは生涯一度くらいで十分なのよ。
 で、後は夫に仕えて暮らすわけ」
男「おいおい。恋愛マスターじゃねぇのかよ」

式子内親王「マスターよ。達人クラスよ。
 ジェダイでいえばヨーダよ。すごい勢いでライトセイバーよ」
男「でも恋愛経験は無しと」

式子内親王「歌とか小話なんて妄想で書くのよっ。
 憧れが臨界ぶっちぎりで半端なリアルを蹴飛ばしたとき
 はじめて脳汁でるような妄想が書けんのよっ」

男「うわやべ。こいつ腐だ」


16: 2008/10/09(木) 19:32:06.45 ID:1u90rza50
式子内親王「あ。男性は別だからね?
 やっぱある程度場数踏んでスマートな態度身につけないとね」

男「へー」
式子内親王「藤原俊成おじさまみたいにねっ!」
男「よく判らんな」

式子内親王「まー。そういうカッチョ良いひとがいたのよ」
男「へー」

式子内親王「カッチョ良いだけなんだけどね」
男「ほー」

式子内親王「だから貴方も相聞歌でも学んでおきなさいね」
男「へーへー。あ?」
式子内親王「?」

男「男には顔も見せないって、ないしんのー。
 俺はいいのかよ? ずっと見まくりだぞ?」

式子内親王「庶民は数に入んないのよ」
男「……」

式子内親王「わたし皇族なのよっ!?」

男(なんかすげーダメ女だ。こいつ)


17: 2008/10/09(木) 19:36:24.12 ID:1u90rza50
神無月四日

せっかく未来に来たのだから日記を書いてみようと思う。
清少納言も書いたというあれですよ。

彼女は冬は早朝が良いなどといってるけど、
それは嘘っぱちです。
もう全然嘘。
寒い。
とりあえず寒い。

目がさめると足の先が冷たい。
でもびっくりですよ。男の家にはお風呂があるのです。
湯殿ですよ。庶民の家に温泉が!!
しかも、いつでもはいれる! 温泉だからねっ。

ちょっと気に入りました。
湯治はよいものです!

19: 2008/10/09(木) 19:47:14.33 ID:1u90rza50
式子内親王「男ー。男」
男「なんだよ」

式子内親王「湯浴みがしたい」
男「はいれば? すぐそこのドアだよ」

式子内親王「お湯張って」
男「へいへい」

式子内親王「あんまり熱くしちゃだめだからね」
男「ぬるめがいいのね」
式子内親王「そうよ。む、これはなに?」
男「シャンプーだよ」
式子内親王「ああ。髪を洗うのね」

男「あー。おまえ布団引きずって風呂覗き込むなよ」
式子内親王「なによ」
男「濡れたら大変だろ」

式子内親王「むぅ。寒いのよ」
男「早く風呂入ってあったまっとけ」


21: 2008/10/09(木) 19:52:00.01 ID:1u90rza50
式子内親王「~♪ 良い湯ね~。さすが未来ね。
 庶民の家にも湯治場がつくりつけとはねぇ」

式子内親王「部屋は一個だけど。まぁ、いいわよね。
 狭いほうが落ち着くしね。生意気な供回りが一人だけど」

ちゃぷーん

式子内親王「髪の毛洗わないと。
 なんだっけ。そうそうしゃんぷね。どれどれ。
 こうかな」

びゅーるーびゅるー

式子内親王「おお。なんか出た」

びゅーるーびゅるーびゅーるーびゅるー

式子内親王「面白いわね」

びゅーるーびゅるーびゅーるーびゅるーびゅーるーびゅるー

式子内親王「無闇にいっぱい出るわね。楽しいわ」


22: 2008/10/09(木) 19:56:15.31 ID:1u90rza50
男「あいつ本当に家事しねぇな。生活能力皆無だな。
 一つ屋根の下ストーリーって
 もっとこう甘酸っぱくねぇか? 常識で考えて」

男「漫画ちらかしやがってまぁ。
 ほんと手間のかかるばか女だよまったく」

式子内親王「おとこーっ! おとこーっ!!」

男「どうしたっ!!」

式子内親王「お風呂が泡だらけにっ!」

ぽかっ

男「おめぇシャンプー使い切ってんじゃねぇよっ!!」
式子内親王「ぐっ。なによ! わたし皇族なのよっ!」

男「いいから掃除してから出て来い、あほ」
式子内親王「ふ、不敬罪なんだからねっ!」

男「メシ抜くぞ」

式子内親王「ばかーあほーっ。お前が卵を買うときに
 可愛くてとても食べられないようなカエルの顔を
 卵に落書きするように布告出すからねっ」


24: 2008/10/09(木) 20:00:50.90 ID:1u90rza50
男「正真正銘のアホか……」

式子内親王「ばかーあほー」

男「風呂場ででかい声だすな、響く」
式子内親王「むぅむぅ」
男「それでいい」


式子内親王「……」
男「……」

式子内親王「おーい」
男「……」

式子内親王「おーい。男ー。日本国民」
男「なんだよ」

式子内親王「着るもの」
男「あー」

式子内親王「着るものと布団」
男「布団は必須なのかよっ」


27: 2008/10/09(木) 20:09:49.54 ID:1u90rza50
式子内親王「むぅ。良い湯だったわ」
男「髪の毛くらいちゃんと拭けよ」

式子内親王「貴方がやりなさい」
男「なんで?」

式子内親王「日本国民でしょ。皇族を敬いなさいっ」
男「敬ってるから自分でやれ」
式子内親王「敬ってるならいいのよ」ふきふき

男「……」
式子内親王「~♪」ふきふき

男「……」
式子内親王「~♪」ふきふき

男「あははは。Vipおもしれーっ」
式子内親王「……。……? ……っ!!」

男「どした?」
式子内親王「何で私が自分で拭いてるのよっ!
 わたし皇族なのよっ!!」

男「麦茶飲むか?」
式子内親王「ええ。ちゃんとお砂糖を入れたのだからねっ」


28: 2008/10/09(木) 20:14:28.75 ID:1u90rza50
男「なー」
式子内親王「なによ? むぅ。
 ちゃんと掃除したわよ。お風呂」

男「びちゃびちゃじゃねぇか」
式子内親王「なによっ。文句あるのっ?」
男「いや、まぁいいや」

式子内親王「それでいいのよ。貴方は庶民なんですからねっ」
男「芋ようかん食べるか?」
式子内親王「食べるっ!」

男「……」
式子内親王「もぎゅもぎゅ♪」

男「なー」
式子内親王「なに? あげないわよ?」
男「じゃなくてさ」
式子内親王「なによ」

男「お前腕細いな」
式子内親王「女らしいのよ」
男「いや、細すぎね?」

30: 2008/10/09(木) 20:18:40.30 ID:1u90rza50
式子内親王「私くらいの上級者になると腕細いのよ。
 清楚で儚げな深窓の美少女内親王とはわたしのことなわけ」
男「口は相当にあれだな」

式子内親王「黙りなさい。もきゅもきゅ♪」
男「……」

式子内親王「なによなによ。そんな目で見て」
男「別に?」

式子内親王「私、斎院なのよ」
男「斎院ってなにさ」

式子内親王「未来人もモノ知らないわね。
 神社で託宣したり舞ったりする美少女のことよ」

男「ああ、巫女さんか」
式子内親王「うん、それね」

男「巫女は萌えだな」
式子内親王「萌えってなに?」
男「可愛くて素敵な有様のことだ」

式子内親王「内親王である私にとっては当然の賛辞ねっ」
男「いや、巫女とお前は別だから」


31: 2008/10/09(木) 20:22:57.56 ID:1u90rza50
式子内親王「まぁ、とにかく斎院っていうのは
 なかなか大変なのよ」

男「なんで? ああ。修行とかか? 舞の練習とか」

式子内親王「それもあるけどね。物忌みとかねー」
男「物忌みってなに?」

式子内親王「んー。まぁ、部屋に閉じこもって断食するのよ」
男「なんでまた!?」
式子内親王「穢れを避けるわけよ。神に仕える身だからね」

男「……ふむ」
式子内親王「このようかん美味しいわね~♪」

男「おまえ皇族なんだし。
 そういう辛い役目は他のやつにやらせればいいんじゃね?」

式子内親王「ばっかじゃない。斎院ってのは皇族しかなれないの」
男「ああ」

式子内親王「しかもとびっきりの美少女しかなれないのよ。
 わたしのような才女こそが相応しいのよっ」


32: 2008/10/09(木) 20:27:28.17 ID:1u90rza50
男「でもなー。痩せてまでやることも無いんじゃね?」

式子内親王「いいのいいの。気にしないで。
 皇族なんて別にほかに仕事も能も無いんだから。
 戦いもしないわ畑にも出ないわで
 ご飯食べて贅沢してるんだからこれくらいしないとねー」

男「そういうもんかな」

式子内親王「そういうもんよ。四季を愛でて、漢書を整理して、
 政をやって、たまーに歌を詠んで暮らすのよ。
 やっぱ少年よね。少年の肉のついてない胸板を細く撫でるような
 禁断の少年愛と相聞よっ」

男「おまえって頭わるいのな」

式子内親王「わたしは才媛の誉れ高い皇族なのよっ」

男「シチューライス好きか?」

式子内親王「あれは美味しいわね。
 さすがの皇族もびっくりだわ」

男「んじゃ、今日もそれな」
式子内親王「望むところよっ」


33: 2008/10/09(木) 20:32:26.19 ID:1u90rza50
神無月五日

私は痩せているのだそうで、
肉が足りてない、と男が言うわけですよ。
この男は庶民でありながら現在私の家主。無愛想で口が悪いです。

だけど男の作るシチューライスなる物は
すこぶる美味であると記さなくてはなりません。
あれはびっくりグルメです。

思い出しただけでもおなかが減ります。

とにもかくにもこの口の悪い家主は
皇族である私を思うが侭に愚弄する。

もちろん私とて黙っているわけにはいかない。当たり前でしょ。
皇族である誇りに賭けてしかるべき報いを受けさせてやってる。
例えばこのように。


34: 2008/10/09(木) 20:37:59.63 ID:1u90rza50
男「つべてっ!?」

式子内親王「すーっ。すーっ」

男「……。おい」

式子内親王「すーっ。すーっ」

男「寝てるのかよ」

式子内親王「すーっ。すーっ」

男「ちっ。冷たい足先を布団に突っ込むなっての。
 お前にはおまえ自身が不当に占領した布団があるだろうが。
 もどしなさいよ、っと」

式子内親王「すーっ。すーっ」

男「まだ早いな。もう一眠り。……ふわぁ、おやすみ」

式子内親王「すーっ。すーっ」

男「冷っ!? お、おまえっ」


36: 2008/10/09(木) 20:42:42.04 ID:1u90rza50
式子内親王「すやすや」

男「寝てるのか?」

式子内親王「すーっ。すーっ」

男「寝てるなら鶯のマネを」

式子内親王「ほけきょ」

男「……」

式子内親王「すやすや」

男「お前な。このあほないしんのー」

式子内親王「むぅむぅ。まだ暗いじゃない」

男「なら起こすなよっ!」

式子内親王「足の先が冷たいんだもん」
男「お前は肉が足りないんだよ」

式子内親王「くっ。皇族に対して言いたい放題ね」
男「皇族らしい振る舞いを身につけろっての」


37: 2008/10/09(木) 20:47:08.07 ID:1u90rza50
式子内親王「足の先っちょ冷たい」
男「……」

式子内親王「冷ーたーいー冷ーたーいー」
男「どうしろと?」

式子内親王「お布団とっかえて」
男「同じ布団じゃねぇか」

式子内親王「そっちのほうが暖かい」
男「なんで」
式子内親王「体温が違う」
男「そうか」

式子内親王「足の先っちょ冷ーたーいー」
男「わかったよ」
式子内親王「やった!」

男「うっわ、ほんと布団冷たいっ」
式子内親王「私は暖かい」

男「納得いかねっ」
式子内親王「もう寝る。静かにしてね」

男「酷っ」
式子内親王「ぬくーいっ」


38: 2008/10/09(木) 20:51:51.94 ID:1u90rza50
神無月六日

昼にはあさりシチューライスを食べました。
あさりシチューはクラムチャウダーという名前らしいですが
私にはアサリの入ったシチューだとしか判りません。

今日始めて知ったのですが、このシチューという食べ物は
未来の倭国の発明ではなく異国からの入れ知恵なのだとか。
どこの誰だかわからないがなんて美味しいものを考えるのだろう。
父に頼んで太子の号を下賜すべきだと思います。

男が帰ってきたので早速からかって遊ぶことにします。

39: 2008/10/09(木) 20:57:59.14 ID:1u90rza50
男「ただいまー」
式子内親王「おみやげ」

男「おかえりなさい、はないのかよ」
式子内親王「はいって。遠慮しないで」
男「しねーよ。俺の家だよ」

式子内親王「むぅむぅ」

男「相変わらず布団かよ」
式子内親王「これが落ち着くのよ。この確かな重みと暖かさが。
 十二単に慣れたこの高貴な身体に安心感を与えるの」

男「ヴィジュアル的には着替えるのも不精な
 引きこもりの腐女子にしか見えないぞ」

式子内親王「腐女子萌えね」

男「お前はなにを学習してるんだ」
式子内親王「ちがうの?」

男「まー。そういう性癖のバカも世界には存在するが」

式子内親王「またまたぁ。照れちゃってこのこの」
男「なんだかなぁ」


40: 2008/10/09(木) 21:03:06.45 ID:1u90rza50
式子内親王「まあそれはそれとして」
男「なんだー?」

式子内親王「暇。遊びたい」
男「む。漫画は?」

式子内親王「もうハンターXハンター読みおわった」
男「そか」
式子内親王「キルアの新しい能力がすごくてね」
男「黙れ」

ぽかっ

式子内親王「くっ! わたし皇族なのよっ!?」
男「皇族だろうがなんだろうが読んでない漫画のねたはばらすな」
式子内親王「むぅむぅ」

男「ごめんなさいしろ」
式子内親王「すー。すーっ」

男「都合悪くなると布団に隠れて寝るのやめろっ」
式子内親王「口うるさい家主だわ」

男「ないしんのーっ」
式子内親王「判った。云わないわよ」


41: 2008/10/09(木) 21:07:20.61 ID:1u90rza50
男「で?」
式子内親王「暇なのデス。なんかして楽しませて」
男「なにを?」

式子内親王「蹴鞠とか」
男「よりによって蹴鞠かよ」

式子内親王「蹴鞠出来ないの?」
男「ああ」
式子内親王「管弦は?」
男「楽器は口笛以外出来ない。そして口笛は下手だ」

式子内親王「うっわ、雅が一切無いわね」
男「ほうっておけよ」

式子内親王「趣味とかなにも無いわけ?」
男「Vipかな」

式子内親王「びぷ?」
男「詮索無用だ」

式子内親王「なにしてるのよ、普段」
男「改めて聞かれると困るな」


42: 2008/10/09(木) 21:11:22.82 ID:1u90rza50
式子内親王「この部屋、貝合わせの道具も無いんだもんね」
男「そんなこといわれてもね」

式子内親王「むぅむぅ」
男「スマブラでもやりますか」
式子内親王「あれは男がホームラン攻撃しかしないからいや」
男「さいですか」

式子内親王「むぅむぅ」
男「仕方ないな。管弦は出来ないけど、なんかMP3でもかけてやるよ」
式子内親王「なにそれ」
男「音楽だよ」

~♪

式子内親王「おお!」
男「これでいいか?」
式子内親王「うんっ。風情だよね。やっぱり笙だよねっ」
男「たぶんサックス」

式子内親王「鳴り物だよねっ」
男「それはバスドラ」

式子内親王「鼓と馬頭琴だよねっ」
男「スネアとギター」

式子内親王「ビートルズはいいねっ!」
男「知ってるんじゃねぇか!」

44: 2008/10/09(木) 21:16:48.68 ID:1u90rza50
式子内親王「やっぱり暮れかけね。
 こうして楽の音に身を浸しながら見る夕焼けは格別ね」
男「そうかー?」

式子内親王「この部屋、夕焼け綺麗だもの」
男「西日が当たるきっつい部屋なわけですが」

式子内親王「黒い鳥の帰るのが二羽三羽、
 夕日にかかるって風情があってとても良いわー。
 というのには同意するわ」
男「なんだそりゃ」

式子内親王「清少納言よ」
男「聞かなかったことにしよう」

式子内親王「清少納言知らないの!? 有名人なのに」
男「いやそうらしいデツネ。ないしんのーも有名人らしいでつよ」
式子内親王「?」

男「いいんだよ、気にしないで。もうここはこの時代なんだから」
式子内親王「よく判らないわ」
男「馬鹿だからな」

式子内親王「っ! わたしは皇族なのよっ!」
男「はいはい」


47: 2008/10/09(木) 21:21:06.71 ID:1u90rza50
神無月九日

男はバイトなるものに毎日出かけます。
仕事だそうです。話を聞いても今ひとつ判りにくいのですが
民草の間にある食事処で給仕のような仕事をしているそうです。
膳の司のようなものらしい。

そういう仕事をしているから、
こんなに美味しいシチューが作れるのかと尋ねたら
すごく嫌そうな顔で教わったのだといいました。
なにがいけなかったのかな?

男のことはよく判りません。
未来人というのは複雑怪奇です。

50: 2008/10/09(木) 21:25:30.65 ID:1u90rza50
男「ただいまーっと」
式子内親王「おかえり」

男「おう」
式子内親王「それ、なに?」
男「梨だよ」
式子内親王「おおおーっ!」

男「食ったことあるのか?」
式子内親王「あったりまえよ! 梨っていえば
 日本書紀のも登場する重要な果物なのよ」
男「へー」

式子内親王「はやく、はやくっ」
男「おー。切ってやるよ」

式子内親王「わくわくだね」
男「お前は子供かよ」

式子内親王「未来の梨だよ!? すごいかもよ! 例えばさ!」
男「なに?」

式子内親王「勝手に自分で皮がむけて割れて皿に乗るとか!」
男「……」

式子内親王「で『食ベテ良イヨー』って鳴くのっ!」
男「怖ぇぇぇー」


56: 2008/10/09(木) 21:35:03.19 ID:1u90rza50
式子内親王「しゃくしゃく♪」
男「もぐもぐ」

式子内親王「しゃくしゃく♪」
男「どうよ」

式子内親王「これは相当にすごいわね。瑞々しくて
 甘いわ、びっくりよ!」
男「良かった」

式子内親王「ふっ。私もまだまだ甘いわね」
男「なにが」

式子内親王「さすが未来! かってに皮がむけるのも
 捨てがたい魅力だけど、味を進化させたのねっ!
 うかつにもその方向性は想像しなかったわっ」
男「しろよ」

式子内親王「しゃく♪ 美味しいわね~」
男「だなぁ。美味いな」

式子内親王「いつもこんなの食べてるの?」


58: 2008/10/09(木) 21:40:50.75 ID:1u90rza50
男「いやぁ、こんなのはめったに食べないな」
式子内親王「あら。もしかしてすごく高価なの?」

男「そういうわけじゃないんだけど」
式子内親王「?」

男「男の一人暮らしだと、
 どうしても果物とかは中々食べないな」
式子内親王「ふぅん」

男「経済的な貧しさというより、
 精神的な貧しさに起因するような気がするな」

式子内親王「雅が足りてないのね」
男「そうなるな」

式子内親王「私がきたから雅やか濃度が上がって
 梨が発生して食べられるようになったわけねっ」
男「まぁ、そうとも云えなくは……ないのか?」

式子内親王「感謝することねっ!」
男「へいへい」

式子内親王「美味しいわぁ。梨大好き!」

59: 2008/10/09(木) 21:44:56.64 ID:1u90rza50
神無月十一日

男に臨時収入があったらしいです。
よく判らないがFXで売り抜け大成功などといっていました。
余りにも喜んでいたので、おめでとうね、と云ったら
びっくりした顔をしていました。
礼もいえないと思われていたらしい。屈辱です。

臨時収入でえび入りのシチューライスを作ってもらいました。
びっくりした。
美味しいを越えている。
冬の夜空にひらめく稲妻のように、
一瞬のきらめきの後、遅れるようにして感動が広がる。

なんて素晴らしいご馳走だろう。
えび入りのシチューライス。私の人生に刻まれた。

61: 2008/10/09(木) 21:49:47.72 ID:1u90rza50
男「どうした」
式子内親王「感動してるの。美味しぃ~」
男「そんなに好きか」

式子内親王「うん、うんっ!」
男「いっぱい食え」

式子内親王「いいのかな、こんなに美味しくて」
男「たいしたものじゃない」

式子内親王「そんなこと無いよ?
 えびとたまねぎは甘くて美味しいよ?」
男「そりゃ良かった」

式子内親王「うはーん。ご馳走様でしたっ!」
男「お粗末さまでした」

式子内親王「うわぁ、美味しかったよ。私は満足だよっ」
男「そうか」
式子内親王「だいたい清盛とおなじくらいヘブン状態だよっ」
男「Vip用語覚えるのだけはどうにかならんかな」

式子内親王「言葉は文化だもの。覚えちゃうものだよ」



62: 2008/10/09(木) 21:54:57.87 ID:1u90rza50
男「もう十日か」
式子内親王「うん?」
男「ちったぁ肉ついたか」
式子内親王「まぁね。多少は。……なによ。
美味しいものにはちゃんと感謝してるんだからねっ」

男「よし、週末出かけるぞ」
式子内親王「えーっ。いやだ。パス」
男「なんでだよ」

式子内親王「高貴な人間は陽の光に当たらないのよ。
 どうしてもというのなら牛車用意してくれる?」
男「この時代のどこに牛車あるんだよっ」
式子内親王「ぇー」
男「えー、じゃねぇよひきこもり」
式子内親王「だって私ニートだもん」
男「胸はるなよ」

式子内親王「別に外出たくないよ。おうちでVipしてるよ」
男「ほんと腐れだな」

式子内親王「む。それでいいのっ」
男「せっかく未来に来たんだしよ」

式子内親王「だって」
男「だって?」

式子内親王「……」


63: 2008/10/09(木) 21:59:43.41 ID:1u90rza50
式子内親王「それにさ。ほら、十二単も、
 最初の夜でビリビリになっちゃったしっ!」
男「ぐちゃぐちゃだわな」

式子内親王「着て行くものも無いしさ。
 焚き染める伽羅も無いしさ。扇さえ持ってないしさっ」

式子内親王「えーっと寒いしさ!
 お布団に包まっていたほうが良いと思うよ。
 そうだ! そうしよー! やっぱ休みは家でVipでしょ!」

男「ふーん」
式子内親王「あっ。なんか馬鹿にしてない?
 馬鹿にしてるね。その視線。むぅ。庶民の癖にっ!!
 私は皇族なんだからねっ!!」

男「皇族ならびびんなよ」
式子内親王「怯えてなんかないわよっ」

男「服スレ読んでるとか?」

式子内親王「あそこ読むとマジで外に出て行けなくなるのよ」
男「あー」

式子内親王「生まれてきてごめんなさいな気分」
男「あー」

65: 2008/10/09(木) 22:04:23.35 ID:1u90rza50
男「近場回るだけなら、俺の服でも大丈夫だろう」
式子内親王「だって男の服でしょ」

男「そうだよ」
式子内親王「わたし女なんだよ」

男「未来世界では、区別は緩めなんだよ」
式子内親王「男装?」
男「んー。まぁ、そう、なのかな」

式子内親王「男装か……。それって白拍子?
 男装の美少女? うわ、なんか良いかも。タブーにふれる
 ゾクゾク感かもしれない。新しい地平に目覚めそうっ」

男「こいつ脳を開いたほうが良い気がするんだよな」

式子内親王「うーん」
男「行く気になったか?」
式子内親王「……うん」
男「そか。週末な。臨時収入はいったしな」

式子内親王「仕方ないから、皇族のわたしが
 庶民の生活というものをこの眼で確かめてあげる。
 貴方はその随行としてついてくる事を許可するんだからねっ」
男「俺がついていくのか?」

式子内親王「うん」
男「どうにかならんのかなぁ、こいつの言動」


66: 2008/10/09(木) 22:07:20.83 ID:1u90rza50
神無月十二日

今日は男と遊んだ。オセロというゲームをやった。
楽しい。

最初に4回半ほど負けたが、そのあと学習しましたよ。
16回連続で男を負かしたところで泣いて謝ってきたので
謝罪を受け入れてあげた。
ふふん。皇族には度量も必要なのだね。

そのあと、男の作ったシチューライスを食べた。
今日はかりふらわという野菜が入っているのだという。
ほろほろとくずれてなんとも不思議な味わいだ。

大変美味かったので美味いと伝えると
そりゃ良かったな、といわれた。うむ、良い事だ。


87: 2008/10/10(金) 00:53:21.05 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「おなかがいっぱいになった!」
男「おう」
式子内親王「いっぱい!」
男「おう」

式子内親王「他に何かいうことはないのっ?」
男「お前の腹だろうが」

式子内親王「むぅ」もそもそ
男「いい加減布団かぶるのやめたら?」

式子内親王「やだ」
男「さいですか」

式子内親王「……」
男「……」

式子内親王「暇ねー」
男「そうなん? 携帯小説とかは?」
式子内親王「おなかいっぱいでそういう気分じゃない」
男「そっか」

式子内親王「貴方、ちょっと座りなさい」


90: 2008/10/10(金) 01:03:42.18 ID:1IBD/bxU0
男「へいへい、なんですか」
式子内親王「頭をこっちに。髪の毛を梳きます」
男「なんで?」

式子内親王「梳きたいから」
男「……」
式子内親王「文句ある?」
男「えー」

式子内親王「わたし皇族なのよっ!」
男「へいへい」

式子内親王「む。頭の位置が低いわよっ」
男「そうか? こうか?」

式子内親王「今度は高すぎよっ」
男「ぐぐ、なんかすげぇ不自然な姿勢だな。
 なんか腰の角度が……っパなくキツイんすけど」

式子内親王「惰弱な意見ね。普段の修練のほどが知れるわ」

男「屈辱ポーズの練習なんかしてねぇよ」

式子内親王「むー。だらしないわね。ここに来なさいっ」

 ぎゅむっ

男「……」


92: 2008/10/10(金) 01:08:42.75 ID:1IBD/bxU0
しゅるん、しゅるん♪

式子内親王「ふんふん♪」
男「……」

式子内親王「おお。しゅるん♪」

男「えっと。なんだ。楽しそうな」

式子内親王「黙りなさい平民。あなた、これはかなり
 光栄なことなのよ。感謝のあまり失禁しないように
 気をつけたほうが良いくらいよっ」

男「そうかなぁ」

しゅるん、しゅるん♪

式子内親王「髪を梳くなんて楽しいわ」
男「そうなんか」

式子内親王「指の間をするすると抜けていくの。
 ひんやりして小川の小魚のよう」
男「そんなたいした髪じゃない」

式子内親王「歌人ってのは主観的な心理領域の住人なのよ」


93: 2008/10/10(金) 01:13:00.06 ID:1IBD/bxU0
男「なんか、くすぐってー」

式子内親王「我慢なさい」

しゅるん、しゅるん♪

式子内親王「ふんふん♪」
男「むー」

式子内親王「ん。出来た」
男「変な髪形になったりして無いだろうな?」

式子内親王「失礼ね。梳いただけよ」
男「そっか。何の意味があるんだ?」

式子内親王「意味?」

94: 2008/10/10(金) 01:17:04.75 ID:1IBD/bxU0
男「髪型変えるんじゃなければなんだ?
 整えたのか? 洗髪的な発想か?」

式子内親王「意味なんて無いわよ?」
男「そうなのか」

式子内親王「ただの遊びよ」
男「まぁ、いいけど」

式子内親王「?」

男「くすぐったかったけど、気持ちよかった。
 髪の毛触られるのって悪くないなー」

式子内親王「うっ」

男「なんかお前が来て始めて癒された気がする」

式子内親王「わたし皇族なのよっ!
 庶民としてもっと敬いの気持ちを持ちなさいっ」


95: 2008/10/10(金) 01:22:02.31 ID:1IBD/bxU0
神無月十二日

男の髪を梳いてしまった。
楽しかった。

困ったことにちょっと気持ちよかった。


96: 2008/10/10(金) 01:26:03.82 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「……むーっ、Webも目が疲れたわね
 おとこー、おとこー。麦茶のみたーい」

しーん

式子内親王「そだった。男は出仕……じゃなくて
 バイトいってるんだった。自分で入れなきゃね」

いそいそ

式子内親王「んきゅっ。んきゅっ」

式子内親王「それにしても……。850年だもんねー。
 そりゃ倭国も様がわりだわっ。全然さっぱり判らないし。
 歴史とかもあり過ぎでよく判らない。
 異国に負けるのはともかく西域じゃなくてそのもっと
 向うと戦争するとはね~」


97: 2008/10/10(金) 01:30:12.69 ID:1IBD/bxU0
くりっく、くりっく。

式子内親王「なんか色々変わっちゃってまぁ。
 変わってないのは月と四季と山々くらいのものね。
 ――なんだ。じゃ問題ないじゃないね」

式子内親王「……」

式子内親王「いやいやぁ。乙女の身だしなみも基準も
 大変更でつよ。もう偉いことでつよ」


式子内親王「だいたいねっ」

どんっ!

式子内親王「戦争に負けたからミニスカートが
 流行るってのはどういう了見ですかね」

式子内親王「あんなはしたない衣装が流行って……。
 っていうか、衣装じゃないよねっ。
 むしろ衣装の欠如だよねっ!!」

式子内親王「む、わたしいま良いこといった? いった?」


98: 2008/10/10(金) 01:34:15.64 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「とにかく、あんなのが流行るとは
 我が神国日本も大没落ですよ!
 別雷命のサンダガですよ。皇族として看過できない
 重大な事態ですよっ。それになんですかっ。
 おっOいまで半分だしちゃってまぁ! 護国の危機ですよっ」

しーん

式子内親王「……」

式子内親王「やっぱ時代時代の服装ってのはあるわけだし
 時代時代の美醜の感覚ってのもね……」

式子内親王「えーい! そういうとこまで負けてどうするのよっ
 えいっえいっ。このえOちっちフォルダめっ!」

くりっく、くりっく。

式子内親王「こっちは国産4祈祷エンジンなのよっ。
 祈りの力よ神風よっ。無駄な肉がないっ。
 空力特性に優れたシンメトリカルデザインなのよっ。
 高速巡航時の安定性に優れた貧Oよっ。
 だいたい貧しいって文字がいけないわ。
 清貧よ。いやむしろ積極的な入寂思想よっ。
 エコロジーっ! それは地球に優しくわたしに優しくないッ。
 ふーっ。ふーっ」

式子内親王「うわぁ。でかけたくないー。ひきこもってたいーっ」

99: 2008/10/10(金) 01:39:10.54 ID:1IBD/bxU0
神無月十四日の一

審判の日が来てしまった。
朝早く目が覚めたので男に内緒でお風呂の準備をする。
正直気が重くてしょうがないのです。
外になんか出かけたくない。
きっとわたしは過去人間として
未来人の中で笑いものになるのでしょう。
余りにも気が重くて腹が立ったので、
男の枕をそっと抜いてやった。首が痛くなると良いのに。

そんな悪戯はさておき、あれでもいまは家主です。
好意を持って外に連れ出してくれるというのだから
恥をかかせるわけにもいきません。
湯浴みを済ませなければ。
今日は布団をかぶっているわけにも行かないのです。

ああ! 雷とかふらないでしょうか!!

101: 2008/10/10(金) 01:43:12.34 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「こ、こうかな?」
男「おう、いんじゃね?」

式子内親王「どっかおかしくない?」
男「平気だよ」

式子内親王「ちゃんと見なさいよっ」
男「見たってば。シャツもいい感じだし、いんじゃね?」
式子内親王「むぅむぅ」

男「なんだ? 布団がないと不安なのか?」
式子内親王「そんなことないわよっ。
 わたしは皇族なんだからねっ! 臆病で惰弱な
 態度とは無縁の世界の王者よ。ヘラクレスオオカブトよっ」
男「んじゃいくか」

式子内親王「ちょっと、まっ! あ、あのっ」
男「なんだよ」

式子内親王「顔を隠す扇がないよ……?」
男「未来ではそういうのは使わないんでーっス」

式子内親王「ううう。何で皇族たる私が下賎の
 女のような恥辱をっ」

男「ほら。いくぞー」


103: 2008/10/10(金) 01:47:49.70 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「街だ……」

男「お前、初めて空中から現れたときは
 夜中だったもんな~。昼間の街は初めてじゃね?」

式子内親王「うん」

男「緊張してるな」
式子内親王「う、うるさいっ。多少は仕方ないのっ」

男「まぁな」

式子内親王「な、なんか。目立ってない?
 あたし、じろじろ見られてないっ!?」
男「あー」

式子内親王「や、やっぱり何か変かな!?
 未来人のコスプレしてるのがばれたかなっ」
男「せめて変装って云えよ」

式子内親王「隠しきれない皇族のオーラが
 高貴な波動となって私に注目の熱い視線を
 注がせてるのかなっ」
男「あー」

式子内親王「ど、どうしよっか!? おうちに戻ろうかっ。
 そ、そ、それとも戦りますかっ。おめおめと
 虜囚の憂き目はみないんだからねっ」


104: 2008/10/10(金) 01:52:09.06 ID:1IBD/bxU0
男「おちつけ」ぽかっ
式子内親王「むうっ」

男「別にとって食われりゃしないよ」
式子内親王「判らないわよっ。850年もたてばっ」

男「つまりな。お前の髪の毛が長くてだな」
式子内親王「へ?」

男「この時代には、そんな腰まであるような
 ロングのストレートの立派な黒髪ってのは少ないんだよ」
式子内親王「へ? あ。そういえば、見ないわね……」

男「だから見てるんだよ」
式子内親王「髪は女の命よ」
男「そうな」

式子内親王「いいの? 隠さなくて?」
男「別に、珍しいだけで悪い事してるわけじゃないんだよ。
 それに……。あんまりその髪が綺麗ですごいから
 みんな見とれてるだけだ」

式子内親王「……綺麗かな」
男「ああ、綺麗だぞ。ちょっと見ないくらいな」

式子内親王「そか……。ま、まぁねっ! わたし皇族だからねっ」
男「やれやれ」


105: 2008/10/10(金) 01:56:35.05 ID:1IBD/bxU0
男「とりあえずここだ」
式子内親王「ここは?」

男「あー。服を買うところだ」
式子内親王「ふむふむ」

男「ないしんのーの今着てる服は俺のなので」
式子内親王「そうよ?」

男「ここでもうちょっと女向きのに変える」
式子内親王「十二単とか?」
男「ねーよっ」

式子内親王「ううう。よく判らないから任せるわ」
男「俺だって男だから判らねぇよ」

式子内親王「……」
男「……」

式子内親王「じゃぁどうすんのよっ! 役立たずっ!」
男「とにかく入るぞっ」

店員「いらっしゃいませ~」

式子内親王「う、うかがい、まし、ました」
男「そういうのは云わなくていいの」


106: 2008/10/10(金) 02:02:19.71 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「(小声)じゃ、ど、どうすんのよっ」
男「(小声)任せろ」
式子内親王「(小声)う、うんっ」

店員「どうされましたー? お見立てしましょうかぁ?」

男「あー。うん」
式子内親王 びくびく

男「こいつ、帰国子女なんです。服がないから適当に見繕って
 くれません? えーっと、予算は、これ、こんなもんで。
 ものとしては上下一式に、下着は四セットくらいと、
 シャツかワンピか二枚くらいで。
 ――で、いいよな?」

式子内親王 びくっ。こくこく。

店員「判りましたぁ。あの、日本語のほうは……」

男「あー。文法とか単語とか怪しいけど、大体はー」

式子内親王「(小声)何いってるのよ。あんた達のほうが
 大和言葉が乱れきってるでしょっ!!」
男「(小声)だーっ。今はあわせておけよっ」

店員「判りました~。あらあら、美人なお嬢様ですね!
 こちらへどうぞー。採寸だけ先にしますね~」

108: 2008/10/10(金) 02:06:46.60 ID:1IBD/bxU0
神無月十四日の二

正直かなりいっぱいいっぱいでした。
斎院になるための修行の日々がなければ
心を砕かれてしまっいましたよ。まったくもう。

あの店員のうるさいこと!
もちろんそういう女房(>>1)はあの頃もいたわけだけど、
耳元でかしましいこと、この上ありません。
何度口の中に冬瓜を突っ込んでやろうかと思ったか!

結局、黒と白の服を選んでもらいました。
とにもかくにも露出の少ないものをという
希望を出した末にぐるぐる回り道をしての洗濯です。

この時代の服はどれも布地が少なすぎ軽量すぎます。
そしてなにより、肌の露出が多すぎます。
それはそれで時代の特徴だと思うので尊重しますが
皇族の私が慎みのないような装束を着るわけにもいかないのです。

男に奇異の目で見られなければ良いけど。


※女房:女性の使用人。和風宮廷メイド。

109: 2008/10/10(金) 02:12:13.18 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「むぅ」
男「どうした」
式子内親王「疲れた」

男「そっか。……そこ、座るか」
式子内親王「うん」

男「なんか飲むか?」
式子内親王「いらない」
男「固くなるなよ。少しは慣れたか?」
式子内親王「少しはね」

男「服はどうだ?」
式子内親王「やっぱり十二単に比べると軽くて頼りないわね」
男「ふむ」

式子内親王「でも、この服は好きかな。だって脚も黒くて
 露出が全然ないし! 軽くて頼りないのは一緒だけど
 布地は多いしね。それになにより、歩きやすいわね。
 それだけは認めなくっちゃ」

男「女も出歩く時代だからな」


110: 2008/10/10(金) 02:16:17.56 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「おとこっ」
男「なに?」

式子内親王「えーっと。それで、どうなのよっ」
男「何が?」

式子内親王「この衣装よっ」
男「あー。うん、いい値段だったな」

式子内親王「えっと、ありがとね。
 いつもお世話になって服まで買ってもらって
 この服も気に入っていて嬉しいです。はい。
 私もあなたに奉仕されて感謝しています
 ってそういうことじゃなくてッ!」
男「ふむ?」

式子内親王「どっか変なところはない? ってことよ」
男「ないよ」
式子内親王「む、むぅ」

男「だいたい買ったばっかりで変だったら不良品だろ」

式子内親王「馬鹿じゃないっむーっ」ぽかっ

男「う、ううっ」
式子内親王「そうじゃなくっ」

男「うー?」


111: 2008/10/10(金) 02:21:23.98 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「もういいわ。んで、次は何?」

男「いや。服も買ったし、昼飯食って、散歩したし。
 海も見えたしな、遠くにだけど」

式子内親王「ええ。そうねっ。あれは綺麗だった♪」

男「海は見たことあるのか」
式子内親王「まぁね、沢山じゃないけど」

男「夜ご飯なんだけど、どうする? 何か希望があるか?
 食べてみたいものとか。ネットばっかりやってるから
 いろいろ知ってるんだろう?」

式子内親王「ホットドッグは中々美味だったわね」
男「そうかそうか」
式子内親王「でもやっぱりご飯が食べたくなっちゃうところが
 日本民族なのよね。〆にはそれって云うか」

男「夜はご飯にするか?」
式子内親王「男のシチューライスがいい」
男「いいのか? なんか外食奢るぞ?」
式子内親王「ううん。それがいい」

男「そっか、んじゃ。帰るかっ」
式子内親王「うんっ!」

男「……あーっと。服さ。似合ってるぞ?」


112: 2008/10/10(金) 02:27:07.95 ID:1IBD/bxU0
神無月十四日の三

夜は家に帰ってシチューを食べました。

男の作るこの料理にはいわく云いがたい
摩訶不思議な成分が含まれていて恥ずかしながら
皇族のわたしとしてもその魅力には抗し難いのです。

本日のシチューには牡蠣が入っていました。
有明のですよ。
未来でも中々のご馳走なのだと、男が言っていました。
一緒に買い物に行ったので、梨もかってきたのです。

未来の食生活はワンダフルです。
びば! 未来!
びば! シチューライス! フォーエバー!


113: 2008/10/10(金) 02:34:47.21 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「ごちそうさまっ!」
男「お粗末さまでした」

式子内親王「やっぱりシチューは神の食べ物ね」
男「そうかなぁ」

式子内親王「そうよそうよ。あなたもVipのみんなも
 シチューに対する評価が低いと云わざるを得ないわね」

男「スレ立てたのかよ」

式子内親王「もう学習したのよ。美少女斎院はこの程度の
 技術はあっというまに習得できるわけ」
男「なんかダメ人間化がすすんでるような」

式子内親王「いいのいいの。ああ、美味しかったぁ」
男「うわ。食ってすぐごろごろし始めたっ」

式子内親王「心地よいのよ」
男「っていうか、せっかく買ってやったのに
 帰ったら速攻で脱いで布団装着かよ」

式子内親王「これが落ち着くんだもの」
男「なんだかなぁ」

式子内親王「暖かいし重いし隠れられるし最強よ」
男「こいつ変な皇族だ」


114: 2008/10/10(金) 02:40:01.52 ID:1IBD/bxU0
男「あーそうだ」
式子内親王「なに?」

男「これやるよ」ぽいっ
式子内親王「?」

男「香水だよ」
式子内親王「香水? 香を水に移したものだったよね」
男「うん」

ふわっ

式子内親王「あ。これ……」
男「うん」
式子内親王「伽羅だ」
男「そう」

式子内親王「あ、あなたっ。こ、こ、これどうしたのよっ!
 はや、はやっ」
男「え? え?」

式子内親王「どこから盗んできたのよ、こんな高価なものっ!
 正倉院の宝物庫からでも盗んできたの!? まさか頃し
 までしたんじゃないでしょうねっ!!」

男「違うっての!」

115: 2008/10/10(金) 02:44:31.52 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「そ、そっか。この時代じゃそこまで高価で
 貴重な宝物でもないわけね?」

男「まぁそうだな」

式子内親王「でも……。うん、ありがとうね。
 懐かしい。沈香なんてかっこいい贈り物だよっ」
男「お、素直に感謝された」

式子内親王「失礼なっ。わたし皇族なのよっ!
 しかるべき時に謝意を示す言葉くらい覚えてるわっ」
男「気に入ってくれりゃいいよ」

式子内親王「……」
男「……」

式子内親王「ちょっと、つけてみよかな」
男「うん、いんじゃね?」

式子内親王「う、うん。じゃ……」
男「……」

式子内親王「……こうかな」
男「ちょこっとで良いらしいぜ?」

式子内親王「ん。判った」


116: 2008/10/10(金) 02:49:30.62 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「どうかな? 甘くて落ち着く匂いだよねっ!」
男「えーと」

式子内親王「わっかんないかなぁ」
男「面目ない」

式子内親王「んー。もっとこっちこっち」
男「いや、良いから」
式子内親王「いいから、じゃないよ。確認しなきゃっ。
 ほら、ここのね、首筋にね。いま髪かきあげるからね?」

ふわり。

男「っ!」
式子内親王「判った?」
男「お、おう」

式子内親王「すごいよね。有難うねっ!」
男「おう」

式子内親王「?」
男「なんでもない」

式子内親王「いやいや。見直しましたよ、男を!
 こんなさりげない必殺プレゼントを持っているとは
 まるで殺人ウィルスのように危険だよねっ」
男「どんなだよっ!」


120: 2008/10/10(金) 03:19:56.74 ID:1IBD/bxU0

うわ。猿ーでした! 面目ない。

俺、もしかして読者置いてけぼり? 趣味全開かっ?
いわゆるひとつのダメSSか? あいごー。

不人気SSスレで申し訳ないっ。

素直に腹筋スレを立てるべきだったかとか思いながらも
最早ここまで来たら趣味全開じゃないと一歩も進めんぜよ。
もうちょいがんばるぽ orz


121: 2008/10/10(金) 03:24:58.73 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「これはさすがに何かお返しをしないとね」
男「いや、いーから」

式子内親王「むー。なによ。
 わたしの好意がいやだというの?」
男「ないしんのーの好意は
 たいてい迷惑な結果を生むからなー」

式子内親王「失礼な男ね。なにが欲しいの? 地位? 金?」
男「お前持ってるのかよ」

式子内親王「……えー」
男「だから気にするなって」

式子内親王「そういうわけには行かないわ。
 これでもわたしは皇族なのよっ」
男「まったく無駄にプライドが高いんだから」

式子内親王「とは云ってもねぇ。あっちの時代なら
 金子でも衣冠でも授けてあげられるんだけど……」

男「だからいいっての」

式子内親王「む!」
男「?」

式子内親王「む。来たっ。これよっ!!」

123: 2008/10/10(金) 03:30:14.04 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「閃きましたっ。私の財産! それはこの
 美貌と才気、そして鍛え抜かれた知性」
男「どうかなぁ」

式子内親王「そして恋愛マエストロとしての高名!」
男「あー」

式子内親王「わたし自らが恋愛相談に乗ってあげるわっ」
男「いらね」

式子内親王「うりうり。どうなの? 気になる娘の
 一人でも二人でも三人でもいないの?
 私に相談すればどんな悩みでも一発撃沈よ?」

男「恋愛経験皆無じゃねぇか、お前」

式子内親王「気になるスイートハニーがいないなら
 将来の彼女のために時代を超えたアドバイスを送るわよ?
 男だって年頃もいいとこなんだから。むしろそろそろ
 結婚してて当たり前でしょ?」
男「850年前と一緒にすんなよ」

式子内親王「男は素材は悪くないんだから、
 もうちょっと磨くところを磨けばイイ線いくよ?」

男「……」

124: 2008/10/10(金) 03:34:59.62 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「ふふふふ。さくっと白状しちゃって
 この恋愛☆天使まじぇすてぃっく内親王に
 どかんと白紙委任しちゃいなさいっ」
男「怖っ」

式子内親王「なになに? 大体年齢は12歳くらいで
 つるんとした幼女が良いの? おうけーおうけー。
 平安じゃむしろ当たり前だからっ!」

男「うっさい」

式子内親王「……っ。そんなこといわないでさっ。
 そんなに怖い顔しないで。内親王に相談してみなさいよ。
 インド人だってびっくりよ」
男「余計なお世話」

式子内親王「余計なお世話ってことないでしょっ。
 せっかく私が恩返ししようとしてるのにっ」
男「それが余計なお世話なんだよ。誰も頼んで無いだろっ」

式子内親王「……」
男「……」

式子内親王「あ、あのねっ」
男「うるさいっ。この話題終了っ」

式子内親王「……」
男「いまから寝ます。準備しなさい」


126: 2008/10/10(金) 03:39:37.47 ID:1IBD/bxU0
――。
――――。

式子内親王「……」
男「……」

式子内親王「寝ちゃった?」
男「……まだ」

式子内親王「……」
男「……」

式子内親王「あのね、さっきのはね」
男「だいたいさ」
式子内親王「うん……」
男「俺がそんなにがっついて見えるのかよ」

式子内親王「……」
男「……」

式子内親王「そんなの判かんないよ。
 ……男の人と付き合ったことないんだもの」

男「恋愛のプロフェッショナル、迷える子羊の導き手じゃ
 なかったのかよ。ないしんのー」

式子内親王「うー」


128: 2008/10/10(金) 03:44:15.26 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「じゃさ。じゃさっ」
男「暗い中で騒ぐなって」

式子内親王「後朝の歌はどうなのよ?」
男「きぬ、ぎぬの、うた?」

式子内親王「そうよ。重要でしょ。男の器量が問われるわよ」
男「なんだそれ。そんなの知らないぞ」

式子内親王「なにって。あるでしょ? 後朝の朝に」
男「きぬぎぬのあさ、ってなんだよ」

式子内親王「それは、そのぅっ。ほら、あれよ。
 男の人が……。その、好きな女の人のトコにね。
 夜にね。その……尋ねていってね……。んっと」

男「ああ。夜のデートか」
式子内親王「そうそう! 夜のデートよっ!」

男「夜這いだろ、つまり。えろえろか」
式子内親王「っ! なんであなたはそういうことに
 剛速球なのよっ。馬鹿っ。あほあほっ!」

男「蹴るなよ。暴れ動物っ」
式子内親王「ふーっ。ふーっ」

男「で、何の話なんだ?」

130: 2008/10/10(金) 03:50:14.57 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「えっと、だから、ちょっと特別な
 『夜のデート』を終えた朝が後朝の朝なのよ。
 で、その朝に男が女に送る和歌が、後朝の歌よっ」
男「ふむ」

式子内親王「これの出来が男のランクを表すわけよっ。
 腕の中に抱きしめた愛しい女性っ!
 ついに溶け合った二人の体温っ。
 紫雲たなびく桃源の野に遊んだ二人を引き裂く朝の光っ。
 夜の帳で交わしたとろける蜜のような睦言。
 その余韻醒めやらぬ前の追撃安価よ!!」

男「最後の行で台無しだぞ、お前」

式子内親王「それがつまり、後朝の歌なの」
男「判った判った」

式子内親王「判った? んじゃ作って」
男「へ?」

式子内親王「作・る・のっ。じゃなきゃ採点できないでしょっ」
男「何でそんなもん作るんだよっ」

式子内親王「男は和歌作る経験がないから、
 後朝の歌で苦労するでしょ?
 今のうちに作っておけば安心じゃない」


131: 2008/10/10(金) 03:54:34.97 ID:1IBD/bxU0
男「あんな。そもそもそんな習慣は現代にはないの」
式子内親王「……そんなの」
男「?」

式子内親王「そんなの、知ってるわよっ。馬鹿っ。
 でもしょうがないでしょっ。今のわたしには
 他に出来そうな恩返しがないんだからっ」
男「……」

式子内親王「こんなことしか出来ないんだから
 あなたも付き合うくらいはしなさいよっ」
男「ったく。はぁ~」

式子内親王「……」
男「だいたいさ、それって好きな女を抱いて
 嬉しい気持ちを歌うんだろ?」

式子内親王「そうね。もう一度会いたい、とか。
 夢のような時間でした、とか。
 そういうのがメインテーマね」

男「百歩ゆずって、いまは無いような習慣の和歌を
 作るってのはいいよ。でもさ、好きな相手もいないのに
 そういうの作るって違くねぇか?」


132: 2008/10/10(金) 03:59:32.36 ID:1IBD/bxU0

式子内親王「君待つと閨へもいらぬ真木の戸に
 いたくなふけそ山の端の月――」

式子内親王「ううう」

式子内親王「自分の心臓の音がばれちゃいそう」
男「……そだな」

式子内親王「こんなに緊張したのは宮入り以来よ」
男「俺も同じだ」

式子内親王「覚悟完了?」
男「うん」

式子内親王「判ったの?」
男「判った」

式子内親王「本当に判ったのっ?」

男「俺も内親王の事、好きだ。後朝の歌、作らせてくれ」

式子内親王「内親王じゃない。式子って呼ぶことっ」
男「了解」


134: 2008/10/10(金) 04:05:34.16 ID:1IBD/bxU0
ごそごそ、ごそ。

式子内親王「んぅ。ふふふっ。男のお布団侵入!」
男「うわ、ひゃっこい。」

式子内親王「ごめんね。体温低いのよ。わたし」
男「まぁなぁ。最初っからだもんな」

式子内親王「うん。自分でもちょっと困る。
 えっと……だから。あのさ」

男「なんだ?」ぎゅっ

式子内親王「あ……」
男「どした?」

式子内親王「ううん。こうされたかっただけ」
男「そっか」

式子内親王「男……。背中、なでなでしてる」
男「うん。してるよ」

式子内親王「手つきがやらしい」

男「あんなっ。こういうのは仕方ないだろっ」
式子内親王「ふふふふ」


135: 2008/10/10(金) 04:09:41.16 ID:1IBD/bxU0
男「えっとさ。……今更云うのもあれだけど」
式子内親王「なに?」

男「いいのか? お前。ほらさ、曲がりなりにも
 斎院っていうのとか、それに……皇族なんだろ」
式子内親王「うん」
男「……」

式子内親王「でも良い。やめる」
男「そんなあっさりと」

式子内親王「男のものになりたいの。
 神様のものだった身体も、父様のものだった名前も、
 皆のものだったこの心も。
 全部、
 ぜんぶ男のものになりたい」
男「――」

式子内親王「男に抱きしめられて、男を抱きしめて。
 押し広げられて、持ち上げられて、波にさらわれて
 風に打ち上げられて、月まで、星まで届きたい」

男「……。うん」

式子内親王「大好き」
男「大好きだ」


136: 2008/10/10(金) 04:14:10.90 ID:1IBD/bxU0
神無月十五日 未明

やってしまった。
やってしまいました。
それだけは絶対してはいけないと思ってたこと。
でもどうしてもどうしてもしてみたかったこと。

男と肌を重ねてしまいましたっ。

好きだったです。
隠してきたけど、八つ当たりしてきたけれど。
一番大好きになってしまっていました。
一緒にいたくて、じゃれたくて、我慢できなくて。
どうしようもないほど破裂して、触れてしまいました。

困ってます。大ピンチです。斎院としても皇族としても
抹消措置レベルの大失態。絶対やってはいけないことなのに。

なのに、幸せです。
幸せすぎておかしくなりそうです。
恥ずかしくて、嬉しくて、からだの中全部が
甘い蜂蜜で満たされたみたいにじんわりと幸せで
こうして日記を書いていても、にやにや笑いが止まりません。
困ったなぁ。
全然困った気分になれなくて困ったなぁ。

138: 2008/10/10(金) 04:18:15.06 ID:1IBD/bxU0
男「たっだいまっと」
式子内親王「おかえり~っ」
男「ん? なんだ?」

式子内親王「おかえりなさいっ」
男「うん」

式子内親王「……」ぽむぽむ
男「……」

式子内親王「……んっ」ぽむっ
男「それ、なに?」

式子内親王「ここに来なさいってこと」
男「ふむ? まぁ、行くけどさ」

式子内親王「うぇ~いっ!」だきっ
男「なにすんだ。おまっ」
式子内親王「うへへへへ」ぎゅむっぎゅむっ

男「布団お化けかっ。お前はっ」
式子内親王「おーばーけーだーぞーっ」ぎゅーっ


141: 2008/10/10(金) 04:28:08.30 ID:1IBD/bxU0
男「ないしんのーは子供ですかっ」
式子内親王「だってこうしたかった」じぃっ
男「う゛」

式子内親王「それにですねっ」
男「なんだよ」
式子内親王「今なら特別サービスで、布団お化けの
 布団の中をこっそり見せるよ?」
男「え?」

式子内親王「(小声)見たい?」
男「……えーっと。うん」

式子内親王「えちぃよ?」
男「う、うん」

式子内親王「ふーふーふーっ」
男「……うう」

式子内親王「ちらりっ♪」
男「うっわ。……ないしんのー。それ犯罪だろ」

式子内親王「ふえ?」


142: 2008/10/10(金) 04:32:48.70 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「そかな。こないだ買ってもらった
 下着なんだけどな。かなり可愛い気がするんだけど」
男「いや、その……黒髪が絡み付いて、えろい」

式子内親王「……」
男「……」

式子内親王「あはっ。あは」
男「あはは」

式子内親王「……」
男「……」

式子内親王「いや、ごめんね」
男「こちらこそ」

式子内親王「こほんこほん。おーばーけーだーぞーっ」
男「布団お化けかっ。お前は~っ」
式子内親王「うへへへ」ぎゅーっぎゅーっ
男「君は子供ですかっ」

式子内親王「……後でもっとしてもいい?」
男「こほんこほんっ」
式子内親王「お化け、えちぃこと要求する」
男「えっと、うん。……します」

式子内親王「うぇ~いっ!」だきっ
男「~っ!」

144: 2008/10/10(金) 04:37:23.10 ID:1IBD/bxU0
神無月十八日

ゆらゆらと揺れる天秤の上のような気分で毎日が続きます。
とても困ったこと。とてもまずい事をしている。
絶対に秘密にしなくてはいけないのだけど
こっそりと逢引を重ねているのが幸せでたまらないのです。

男がバイトに行っている間も男の事を想うのです。
自分の中にこんなに憧れに似た強い気持ちがあるのが驚き。

このままでは馬鹿になってしまう!!
確かに道に外れる恋をしているかもしれないが
わたしはこれでも才女で鳴らした式子内親王なのだ。

あまり馬鹿になるわけにはいかない。
馬鹿になったら男にだって嫌われてしまうのです。
これからはクールな知的女性でいくのだ!!


146: 2008/10/10(金) 04:41:55.82 ID:1IBD/bxU0
男「ないしんのー」
式子内親王「つーん」
男「?」

式子内親王「つーん」
男「熱出たのか?」
式子内親王「違っ」

男「ふむ? まぁいいか。梨むけたぞ」

式子内親王「っ! ぅぅ。ぅ。つ、つーん」
男「なんだよそれ」

式子内親王「クールな才女皇族っ」
男「そうなのか?」

式子内親王「そうなのよ」
男「判ったから、梨を食うぞ」

式子内親王「わたし才女?」
男「うん、才女、才女」

式子内親王「じゃ食べる」
男「おう」

148: 2008/10/10(金) 04:46:33.74 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「しゃくしゃく♪」
男「もぐもぐ」

式子内親王「甘くて瑞々しくて、美味しいっ」
男「お前梨好きだもんな」

式子内親王「うん、大好きっ」
男「……」にこっ

式子内親王「はっ! ま、ま、まずい。これではわたしの
 知的才女のイメージがっ。食べ物をもらって喜ぶ
 腹ペコキャラだと誤解されかねないわっ!」
男「理解だろ」

式子内親王「うう、こんな梨なんて。梨なんてーっ」
男「おいおい」
式子内親王「しゃく♪ 美味しいわ~っ」
男「……」

式子内親王「でも美味しいのは男と一緒に食べるから!」
男「そっか。んなら……嬉しいけどよ」

式子内親王「やっぱ男の一人もいない恋愛歌人は
 役立たずねっ。妄想だけでは出会えないこのリアルさよっ」
男「腐はなおらないんだなー」


158: 2008/10/10(金) 08:58:26.68 ID:1IBD/bxU0
うぃ。目が覚めました。おはよう。
30分くらいで再開します~。
保守してくれた人、大感謝。
あんがとん。

160: 2008/10/10(金) 09:23:59.63 ID:1IBD/bxU0
神無月二十日

玉の緒よ絶えねば絶えね長らへば 忍ぶることの弱まりもぞする

161: 2008/10/10(金) 09:29:33.02 ID:1IBD/bxU0
男「うっわ。最悪だな」

ぴかっ!!……ゴゴーン

男「近いし、全身びしょびしょだ。
 10月になっても台風とはね~まいるねこれは」

がちゃん

男「ただいまー。ないしんのー」
式子内親王「おかえりなさい」

男「やられたー。途中で降られたよ~」
式子内親王「雨でびっしょりだー」

男「うん。お風呂はいる。スイッチ入れて」
式子内親王「うん」

とてとてとて

男「おーい、ないしんのー」
式子内親王「なーにー」

男「からだ冷えてる。このままはいるー」
式子内親王「わかったー」


162: 2008/10/10(金) 09:33:53.27 ID:1IBD/bxU0
じゃぷーん。

男「うっわ、暖まるな。生き返る~」

男「ふぅ~」

男「あったけぇー」

男「んー。あいつとももう二十日かー。
 最初はどうなることかと思ったけど、このごろは
 なんか……いいよな」

男「今日はなに作ってやろうかな。部屋の掃除してるかな?
 まぁ、いっか。してやれば。あいつ寒がりだからなぁ。
 今日なんか布団の中でずっと寝てたんじゃないかな」

男「にんじんとたまねぎと……。今日はベーコンで
 作るかな。こんどラヴィオリ入りのもつくるか」

ざざーん。きゅっきゅ。

男「あいつ、本当に美味そうにくうからな。
 皇族なのですよっ。なんていってもスプーン完全装備だし」

男「ま。その辺が愛しいんだけどな」


163: 2008/10/10(金) 09:39:26.62 ID:1IBD/bxU0
神無月二十二日

今日は男と一緒にシチューを作った。
男は別に良いよ、座ってて、といったのだが
あれはどうもわたしを軽んじているきらいがあるのです。

たとえ男の恋人になったとはいえわたしは内親王!
卑しくも皇族です。
シチューライスのひとつくらい作れないでどうするのですか。

このあいだVipをよんでたら
「料理の出来な女は氏ねばいいと思うやつの数→」
なんてスレが立っていたことはこの際一切関係がなく
わたしのプライドの問題であると言い切れます。


164: 2008/10/10(金) 09:45:20.35 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「わ。わわっ」
男「ころころ転がさないで」

式子内親王「ジャガイモが逃げたのよっ」
男「本当に不器用な」

式子内親王「……屈辱的だわっ」

男「包丁は危ないから、こっちのピーラー使って」
式子内親王「ぴらー?」

男「皮むきだよ。こうやって持って」
式子内親王「ふむふむ」

しゃぁー。

男「こすると皮がむける」
式子内親王「おーっ!」

男「理解?」
式子内親王「うんうんっ。わたしにもやらせなさいっ」
男「ほい」

しゃぁー。

式子内親王「おお、剥けた!」
男「その調子」


165: 2008/10/10(金) 09:49:27.84 ID:1IBD/bxU0
男「じゃこのにんじんの皮剥いて」
式子内親王「わかったわ。この美少女内親王に任せなさいっ」
男「俺はこっちのジャガイモ剥くからな」

しゃー。

式子内親王「おっ」

しゃー。

式子内親王「おおっ」

しゃー。

男「どうだ」
式子内親王「絶好調ね」

しゃー。

式子内親王「楽しい~。無駄にいっぱい剥ける!」

男「あほですか」 ぽかりっ
式子内親王「むぅむぅっ! なんでぶつのよっ!」
男「君の食べてきたシチューにはこんな薄膜作りの
 にんじんが入ってましたかっ」

式子内親王「うう。全部やっちゃった……」

166: 2008/10/10(金) 09:53:51.89 ID:1IBD/bxU0
男「で、肉を炒めながら入れて」
式子内親王「海老とか?」

男「魚介は火を通しすぎると身が固くなることが
 多いので、後入れでやる」
式子内親王「勉強になるわね」

男「んで、野菜も一緒に入れる、と」
式子内親王「野菜も。ほほう」

男「ここで弱火に」
式子内親王「弱火に」

男「コンソメの元投入」
式子内親王「こそめね。わかった」

男「で、お湯を入れる」
式子内親王「お湯ね。じゅる」

男「悪を取りつつ牛乳もいれる」
式子内親王「牛乳。じゅる」

男「そんでシチューのもと」
式子内親王「じゅるじゅる」

男「いいからよだれを拭け」
式子内親王「はっ!?」


168: 2008/10/10(金) 10:00:27.59 ID:1IBD/bxU0
神無月二十五日

本日は男がおやすみだった。
ので!
いっしょに二人でDVDを見まくることにっ。

男とくっついているのは、好きです。
かなり好きです。
シチューとどちらか選ぶとすると迷うくらいです。

体全部が暖かい海になって、男に触れたところから
こぼれて流れ込んで行きます。
潮騒というのは好きな人に触れたときの心臓の名です。

うわぁー。
なんかとても恥ずかしく、やるせなく、まどろっこしい。
この気持ちをそのまま取り出して
男に見せられればいいのにっ。

わたしばかりめろめろで困ってしまいます。


169: 2008/10/10(金) 10:04:37.14 ID:1IBD/bxU0
>>167
感謝。タイトルでもうちょっと人呼び込めたら
よかったかもだけど(新ジャンル「皇族」とかさ)
ドマイナースレに迷い込んだと思って勘弁を!

過疎スレっぽい感じだから反応嬉しいよ!
ママレードサンドをやるっ。


170: 2008/10/10(金) 10:09:34.77 ID:1IBD/bxU0
男「なーなー」
式子内親王「はい?」

男「えっと」
式子内親王「わたしは気持ちいいよ?」

男「むー」
式子内親王「男に膝抱っこされて布団に包まって
 しがみついてるのは幸せっ」にぱっ

男「うー」
式子内親王「なによ? わたしが重いというのですか」
男「いや、そうじゃないけど」
式子内親王「じゃなによ」

男「お前、布団の中はいつも下着なの?」
式子内親王「うん」
男「……」

式子内親王「やなの?」
男「えっと」

式子内親王「ふーん」すりすり
男「~っ!?」

式子内親王「わたしは男に抱っこされるの好き。
 抱っこしてくれてるなら、ずっと恩返しする」
男「え、えっと」

171: 2008/10/10(金) 10:14:17.58 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「♪」すりすりっ
男「あの」

式子内親王「なに?」すりっ

男「式子さん」
式子内親王「はい」

男「DVDがみれません」
式子内親王「そうだった!」

男「そういうのは、えー。暗くなってからしましょう」
式子内親王「やです」
男「うわー」
式子内親王「わたし皇族なのよっ。庶民として
 わ、わ……わたしの彼としてすりすりさせなさいっ」
男「ううう」

式子内親王「♪すりすりっ」
男「うー」
式子内親王「だって男、暖かくて大きな湯たんぽみたいで
 気持ちよいんだもん」
男「ないしんのー」

式子内親王「えへへへ~」むぎゅーっ


173: 2008/10/10(金) 10:19:05.82 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「ん~。わう」すりすり

式子内親王「えへへへ~」むぎゅーっ
男「……」

式子内親王「ふふふーん」すりすり。かぷっ
男「うー」

式子内親王「あったかーいっ」
男「えーっと。ないしんのー?」

式子内親王「なに」
男「そんなことしてると、さわり倒すよ?」

式子内親王「ダメです」
男「え?」

式子内親王「男は触っちゃダメ。わたしが一方的に
 すりすりするのです」
男「なんで?」

式子内親王「わたしが皇族で男は庶民だからっ」
男「……」

式子内親王「やっほー。ぱわーいずじゃすてぃすっ!」すりっ


174: 2008/10/10(金) 10:24:21.11 ID:1IBD/bxU0
男「ううー。一方的にずるいぞっ」
式子内親王「いいのです。……すりすり気持ちよいから」

男「だから、俺にも分け与えろって」
式子内親王「ダメ……。ダメだからね、絶対」
男「うー」

式子内親王「だぁめ。――触わっちゃ、だめ」すりすりっ
男「……くぅ」

式子内親王「男のくびすじ発見♪」かぷっ
男「ないしんのうっ」

式子内親王「かぷかぷっ♪」
男「触るからなっ」

式子内親王「だぁめ。禁止。……勅命だからねっ」
男「うー」

式子内親王「でも香り吸い込んでいいよ。
 ――もらった伽羅の香りだよ? わたしが男の
 ものだって云う、証拠だよ?」
男「ううー」

式子内親王「沢山ぎゅーってしてあげる」すりすりっ
男「うわぁーっ。何か腹立つーっ」

式子内親王「これでいいのですっ!」むぎゅっ


176: 2008/10/10(金) 10:28:32.67 ID:1IBD/bxU0
男「すぅーっ。すぅーっ」
式子内親王「男は、寝ちゃったかな」

男「……Zzzz」
式子内親王「寝ちゃったか」

男「……Zzzz」
式子内親王「寝顔は可愛いな。おっきな犬みたいで」

男「んぅ……」
式子内親王「ぷくくくくっ。可愛い~DVD途中なのにっ」

――。
――――。

式子内親王「雨も強くなってきたけど、男とお布団で
 丸くなって……幸せだな」
男「……Zzzz」

――お料理は得意よ、専門にやれるくらい。
 お裁縫もお掃除も習ったのよ。
 ただ……人にしてあげる機会がなくて

式子内親王「この娘は、料理できるんだなぁ。いいなぁ
 わたしも出来ないわけじゃないけど、わたしの育った
 ところは、ガスコンロなんてなかったもんね」


177: 2008/10/10(金) 10:33:37.59 ID:1IBD/bxU0
男「……Zzzz」
式子内親王「ん」なでなで

――Life isn't always what one likes.Is it?

男「んぅ……」
式子内親王「それはね。そうだよね。そんなものだよ」

男「……Zzzz」

式子内親王「なにごとも思うに任せぬやるせなさ
 我が手にゆわうかみかたちさえ」

式子内親王「……」
男「すぅーっ。すぅーっ」

――ローマです! 無論ローマです。
 今回の訪問は永遠に~

男「すぅーっ。すぅーっ」
式子内親王「……」なで、なで

男「んぅぅ。……Zzzz」

式子内親王「わたしはこのひとが大好きだな」にこ


178: 2008/10/10(金) 10:38:36.26 ID:1IBD/bxU0
神無月二十八日

雨です。
今週はずっと降るらしいです。
お外にお出かけとかはしないので、今日は
家の中で男と一緒に本を読みました。

昨日図書館で借りてきた本です。
いや、それにしても図書館はびっくりです。
父様の書庫にも匹敵します。
そんな書庫が自転車でいける範囲に四つもあるそうです。
未来、恐るべし。

皇族や貴族だけじゃなくて
男も女も子供も含めた庶民がみんな読み書きが出来て
漢字も平仮名も判って、自由に操れて、書物に
接することが出来るのです。

ここは本当に自由な世界です。

そりゃね。シチューなんて素晴らしいものも
発見されるに決まってますっ!


180: 2008/10/10(金) 10:44:46.80 ID:1IBD/bxU0
男「アイリッシュ・シチュー。
 羊の国・アイルランドの、マトンとじゃがいものシチュー。
 気候条件のきびしいアイルランドに生きた
 先人達が生み出した料理」

式子内親王「お、美味しいのかなっ?」
男「写真が載ってるぞ」

式子内親王「すごいね。この黄色いのはジャガイモかな?」
男「ジャガイモを鍋に敷き詰めるみたいだな」

式子内親王「ほくほくするかな?」
男「うん、しそうだ」

式子内親王「むぅー」
男「羊は使ったことがないけれど、見る限り、
 相当柔らかくなるまで煮込むみたいだな」

式子内親王「美味しそう!」
男「だなー」

ぺらりっ。


184: 2008/10/10(金) 11:15:14.55 ID:1IBD/bxU0
やばい。猿くらった。
ばいばいもんきー。さるげっちゅ。

ついでなのでご飯食べてくる。
空腹なのにシチュー談義とか
最早ド許せぬ。きゃつら最微塵までくだいてくれるわ。

保守してくれた人に代わらぬ感謝とママレードを。

ペンチはさ。何で人気出たか俺もわからねぇ。
付き合うならメンヘラよりも皇族だよなー。

186: 2008/10/10(金) 11:35:37.78 ID:9EheykzsO
新三六歌仙だと式子内親王って影薄そうだよな

195: 2008/10/10(金) 12:36:54.54 ID:1IBD/bxU0
男「ワーテルゾーイ。
 ベルギー北西部ヘント地方の伝統的家庭料理で、
 若どりを煮込んで、煮汁に卵黄入りの生クリームを
 加えてとろみをつけるシチュー」

式子内親王「ベルギーってどこ?」
男「オランダの横」
式子内親王「横かー。これ作って届けてくれないかなぁ」
男「ちょと遠いんじゃね?」

式子内親王「これも美味しそうだよ?」
男「ああ、うまそうな。卵黄いりってところがそそる」

式子内親王「男は作れるの?」
男「横にレシピのってるしな」
式子内親王「うわーい」むきゅっ

男「侮れないな『世界シチュー大全』っ」
式子内親王「侮れないねっ異国の文化侵略だねっ」

男「侵略されてますか」
式子内親王「うん。主におなかが」

男「……」
式子内親王「……」

男「だよね」
式子内親王「ですよねー」

196: 2008/10/10(金) 12:43:23.31 ID:1IBD/bxU0
ぺらりっ。

男「チリコンカルネ。
 おお、チリコンカルネかっ。
 牛肉と豆をチリパウダーで煮込んだ、
 代表的なアメリカの料理の一つ。かつてメキシコ領だった
 アメリカ南西部の料理で、料理名もスペイン語」

式子内親王「食べたことあるの?」
男「これはあるぞ。比較的有名だしな」
式子内親王「ど、どんなのっ?」

男「ピリッとした味の豆入り煮込み料理だ」
式子内親王「うわぁ……」

男「赤茶色のスープでマメがどっさり入ってる」
式子内親王「美味しそうだな。美味しいよね?」
男「美味いな」

式子内親王「うっわぁ。うらやましいな。
 ねたましいな。これは不敬罪にあたるわねっ!
 投獄するしか……」

男「目がまじだ」
式子内親王「食べたい、食べたい、たべたーいっ」
男「わーったわーた。そのうちなっ」

式子内親王「ん。今度ね。約束だっ!」


197: 2008/10/10(金) 12:48:28.68 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「ふぅっ」
男「堪能したか?」

式子内親王「堪能した! すごいよ。『世界シチュー大全』っ」
男「うむ。まさかこれほどの破壊力を有するとは……」

式子内親王「おとこーおとこーっ」
男「どうした?」

式子内親王「大変だよ。我が日本の空腹艦隊が壊滅だよっ」
男「なに!?」

式子内親王「世界全土からの一斉射撃で全ての艦艇が
 大破、もしくは撃沈よっ。もう戦闘能力は皆無なの。
 このままゆっくり飢え氏にしそうな気分だよぅ」
男「戦力差は?」
式子内親王「一対四万八千くらいっ」

男「泣きそうじゃね?」
式子内親王「遅いね。わたしなんかもう泣いてるしっ」

男「さすが皇族」
式子内親王「えへん。電光石火です!」

男「食べちゃうか?」
式子内親王「食べちゃおう!」


199: 2008/10/10(金) 12:53:25.26 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「しちゅーっしちゅーっ」
男「じゃん!」

ふわぁっ。

式子内親王「良い匂い! 本日は?」
男「白菜と鶏のクリーム煮でございます」

式子内親王「ごはーんっ!」
男「ははーっ」
式子内親王「苦しぅないぞ。よそってよそって!」
男「任せろ」

式子内親王「いっただきまーっす!」
男「どうぞ&いただきます」

式子内親王「美味しい♪」
男「おう」

式子内親王「もっきゅもっきゅ」
男「もぐもぐ」

式子内親王「もっきゅもっきゅ♪」
男「もぐもぐ」

式子内親王「美味しいよぅ」
男「いや。涙ぐむほどじゃない」


200: 2008/10/10(金) 12:57:46.63 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「あのさ、おとこー」
男「もぐもぐ。なに?」

式子内親王「えへへへ~」にぱ
男「うわ。だらしない顔」

式子内親王「なにを云うのよっ。わたしは
 凛々しい美少女皇族☆リリカルエンペラーよ」
男「エンプレスじゃねぇの?」
式子内親王「……そうとも言うかしらね」

男「で、なによ」
式子内親王「なんでもない。えへへ」

男「へんなやつ」
式子内親王「ごちそうさま♪」
男「おそまつさまでしたっ」

式子内親王「男。男っ」
男「なに?」

式子内親王「今晩は手をつないで眠るっ」
男「なんでまた」
式子内親王「だってソレはやったことないし」
男「……またなんか携帯小説とかに影響受けてね?」

式子内親王「えへへ~」
男「それくらいなら、いつでも引き受けるんだけどさ」


202: 2008/10/10(金) 13:04:13.64 ID:1IBD/bxU0
神無月 末日

うかうかと幸せになってしまいました。
うっかりと幸せになってしまいました。

男とくっついていると暖かくて優しくて憧れて
触れたくて確かめたくて確かめてもらいたくて
とてもじゃないけれど抵抗できませんでした。

楽しい食事、幸せな日々、溢れるような書物、新しい知識。
いつもとぼけてる表情で、優しくしてくれる男。
自由な、世界。
どこにでもいける、なんにでもなれる、世界。

ごめんなさい。
どう詫びても足りません。
なにを捧げてもいいから謝りたい。
でも、それでも。
触れてもらいたかったのです。

――もう、神無月が残って、いません。


203: 2008/10/10(金) 13:08:26.13 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「えっと……」

式子内親王「そーっと。そーっと」

男「ZZZzzz……」

式子内親王「荷物はまとめてあるし。
 他は何かあったっけ。パンツも入れた。
 服も入れた。香水も入れた。おとこにもらったもの……。
 あ、そだ。熊のほうの歯ブラシも」

こそこそ

男「ZZZzzz……」

式子内親王「これで、いいかな。いいよね。
 ……雷、近づいてきちゃったかな。
 まだ、かな」

男「すぅーっ。すぅーっ」

式子内親王「うっわ、男可愛いなぁ! 可愛いなぁ!
 むぅーって顔してるなぁ。いいなぁ。いいなぁ
 ずっと
 ――ずっと見ていたいなぁ」

男「んぅ……」


205: 2008/10/10(金) 13:13:44.52 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「ごめんね……」なで

男「ZZZzzz……」

式子内親王「いや、その。ほら、最初はさ。
 皇族パワーでひれ伏せさせて突っ走る予定でさ。
 それこそ『玉の緒よ絶えねば絶えね』の精神で、
 もう内緒で秘密で完璧隠蔽でさー」

男「すぅー……」

式子内親王「そういう。なんての?
 うん。……自分ひとりの気持ちで持って帰る
 つもりだったんだけどさっ」

男「ん。……くふぅ。ZZZzzz……」

式子内親王「面目ない。いや、わたしはあれなの。
 正規の才媛として上手い具合にバランス取ってる
 つもりだったんだけど、気持ちのほうがね。
 ちょっとね。
 わがままでさ。触れたくてさ」

男「すぅー……」


206: 2008/10/10(金) 13:18:44.37 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「いやもう。だって触れちゃったら
 告白したいじゃない。させちゃったけどさ。
 気持ちが確認できたらちゅーとかもしたいでしょ。
 ちゅーしたらもっと好きになっちゃうじゃない。
 うん。
 こまってたのだ。
 ごめんね。
 わたし酷いよね。ほんとうに、ごめ
 んなっ
 ごめんな、さいっ」

ぽたぽた

男「…………」

式子内親王「ごめんなさい。ごめんなさい」

ぽたぽた

男「それはさすがに聞き捨てならないな」

式子内親王「おとこ……」

男「しかも黙っていくつもりかよ。ひでぇなー」
式子内親王「ごめっ……さいっ」

ぽたぽた

207: 2008/10/10(金) 13:24:56.31 ID:1IBD/bxU0
男「……」

式子内親王「ひどいよねっ。うん、酷い。
 わたしだったら許さない。八つ裂きにして、串刺しにして
 黄泉ツ平坂まで追っていくかもしれない。
 だから、男に何されても良い。
 ううん、ほんとは……。
 男の手にかかれば帰らなくてもすむかも、とか。
 そういう。
 酷いことも考えてる」

男「どうしても帰らなきゃダメなのか?」
式子内親王「……うん」

男「こっちはイヤか?」
式子内親王「……ちがうっ」
男「じゃぁさ」

式子内親王「もう、神無月が終るから。
 あのね。
 加茂の賀茂別雷命が出雲から帰ってくるの。
 わたしは斎院だったけれど、幼くて、好奇心でいっぱいで
 いつもいつも憧れて、憧れて……
 どうしても院の外、世界の外が見たくて
 ……賀茂別雷命の雷鳴に飛び乗ったの」

男「……」

208: 2008/10/10(金) 13:31:19.04 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「賀茂別雷命が加茂に帰るから、
 私もここにはいられない。たぶん、来たときみたいに
 消えて、飛ばされるの」

男「……」

ピカッ! ――――ごごーん

男「っ!」
式子内親王「ね。……あれがお迎え」

男「お前……」
式子内親王「いや。ごめんねっ。ほんとうにっ。
 いっぱい色んなものをもらって優しくされたのに
 何のお返しも出来ないダメな居候でした。
 その……。まぁ皇族なんてこんなものなのよっ。
 でも庶民なんだからその辺は手加減して許して。
 じゃなくて、許しなさいっ。勅命ですっ」

男「式子」
式子内親王「何か本当に夢見たいな毎日で
 かなり幸せだったわよ。恋愛マエストロとしてのわたしの
 美貌とテクニックも格段の進歩を遂げたこと」

男「あほ式子」
式子内親王「なによ、ばかっ」

男「無理やりな勢いつけんな」

210: 2008/10/10(金) 13:37:25.62 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「~~っ!」
男「つけんな」

式子内親王「くっ。……うぐっ」
男「……」
式子内親王「うぐっ……。うっ……ううっ」
男「……」

ピカッ! ――――ごごーん

式子内親王「ううぅーっ。うぅーっ。
 うぅーっ。ううううっ。……ず、ずるい。
 いやだよ。
 ほんとはおとこといたいっ。
 辛いよぅ。怖いよぅ。
 こんなのやだぁ。うーっ。ううっ」

男「……」

式子内親王「だって、まだ、なんにもっ。
 いっぱい、いっぱい約束っしたのにっ。
 ずるいよぅ。そんなのずるいよぅ」

男「……」


211: 2008/10/10(金) 13:45:36.54 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「だって、まだ何にもしてないっ。
 おとこと一緒にお風呂に入ってないよっ
 夕焼けの散歩もしてないよっ
 雪見だって、花見だってしてないっ
 花火ってなんなのよっ向日葵なんて見てないよっ
 アイリッシュシチューもワーテルゾーイも食べてないよっ」
男「……っ」

ピカッ! ――――ごごーん

式子内親王「まだ。まだ、後朝の歌だってもらってないよ」
男「……うん」

ピカッ! ――――ごごーん

式子内親王「好き」
男「大好き」

式子内親王「ずっと想ってても、いい?」
男「こっちは勝手にそうさせてもらうから」

式子内親王「ずっと歌う。ずっと、ずっとっ!!」

ピカッ! ズ、ドンッ!!

男「あほ親王っ! 馬鹿っこの勝手者っ。
 一人で、一人で勝手にっ。なんだよ、こんなのっ」


212: 2008/10/10(金) 13:49:52.39 ID:1IBD/bxU0
式子内親王(のりこ(しょくし・しきし)ないしんのう)
1149~1201

平安時代末期の皇族。女流歌人。後白河天皇の第三皇女。
賀茂斎院。萱斎院、大炊御門斎院などとも呼ばれた。
法号承如法。新三十六歌仙の一。

艶麗でありながら閑寂さをも併せもつ独自の歌の世界を持つ
新古今和歌集の代表的な歌人の一人。

四季の歌と特に恋歌に秀作が多く、自らを内に閉じこめるような
深沈とした憂愁のさまや、夢と現実との狭間にある曖昧な様子や
感傷的な追憶を詠んだ優れた歌を多く残した。

運命に対して弱い自分を守ろうとする
凛乎とした強さが歌のうちにあることなどから、
その生涯や恋愛についてさまざまな推測が成されるが、
いずれも推測のうちを出ない。

四千首もの歌を残し、彼女の歌は百人一首などで現代でも愛されている。

その優美な恋の歌とはうらはらに
 その生涯で一度も結婚はしなかった。


213: 2008/10/10(金) 13:58:04.72 ID:0FfSbj0xO
終わり?ねえ終わり?

214: 2008/10/10(金) 14:07:13.34 ID:+6f4cEcjO

おもしろかったお

218: 2008/10/10(金) 14:11:33.49 ID:1IBD/bxU0
――補稿

尋ぬべき道こそなけれ人しれず心は慣れて行きかへれども
(あの人のもとへ訪ねてゆける道はないのだ。
 誰にも知られぬまま、私の心だけは何度も行き来して、
 通い慣れてしまったのだけれども……)

式子内親王「……あ」

ちゅんちゅんっ

式子内親王「うわぁ。かっこわるっ。
 また泣いてますよ、わたしっ。だっさー。
 なんですかね。男のこと思い出してさ。
 ずっとめそめそしちゃってさ。うわ、ださっ。
 それでも皇族ですかってのねっ!」

ちゅんちゅんっ

式子内親王「それでも……さ。明け方の薄い夢にはさ
 おとこの暖かい体温とか残っててさ。
 うわぁ、我ながらもう嫌になっちゃうよ。
 なんでこんなに好きかな。
 何で夢の中だと、毎回毎回、あんなに悲しいかな~」


221: 2008/10/10(金) 14:15:58.35 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「なんかめそめそしてさぁ。おとこ……。
もう貰った伽羅の香だって薄れちゃったよ……。忘れたくないよ……」

男「あんなんでよければまた買ってやるぞ?」
式子内親王「……へ?」

男「よぅ」
式子内親王「……」

男「シチュー食うか? 色々作れるようになったぞ」
式子内親王「な、な、な、なっ」

男「お前、また雷の音と一緒にぶったおれてたんだ」
式子内親王「ど、ど、ど、どっ」

男「また神無月になったからじゃね?」
式子内親王「わ、わた、わたし皇族なのよっ!?」
男「知ってる」

式子内親王「賀茂神社のアイドル斎院なのよっ!?」
男「パニック状態だな」

式子内親王「う。ううっ。おとこだっ! おとこだぁっ!!」
男「そうだよ。叩くなよっ。馬鹿だなっ
 いいか、ちゃんと後朝の歌だって考えた。
 賀茂神社にそれで追撃かましてやったんだぜ。
 聞けよ? あー。それはなっ……」

おわりっ。

222: 2008/10/10(金) 14:19:36.09 ID:0FfSbj0xO
>>1乙すぎる

引用: 式子内親王「寒い~。絶対布団から出ないからねっ」