1:◆K1k1KYRick 2019/02/08(金)20:03:39 ID:g1P
※りんまゆシリアス百合ものです。まゆが病んでいます。

※竿役の汚いオッサンは一切登場しません

2: 2019/02/08(金)20:05:13 ID:g1P
一日に一本しかないバスに三十分ほど揺られながら、凛はようやく目的地に着いた。

風雨に晒されて色褪せしたベンチと粗末なバス停の案内板が、降りてきた彼女を迎える。

周囲に響く蝉の合唱と共に包み込んで来る熱気は

緑が多いからか都会に比べて幾分穏やかに思える。

おざなりに舗装されたアスファルトの道を山麓方面へと進んでいく途中で

畑仕事をしている中年の女性が声をかけてきた。

凛は軽く会釈してみせた。

彼女は佐久間まゆの父方の叔母で、夏の間ここでまゆの面倒をみてくれている。

彼女もそうだが、ここの人たちはアイドルが来ても騒ぎ立てたりしないため、気楽になれる。

まゆが家の庭掃除をしていると聞いた凛は彼女と別れて目的の家へと歩いていった。

読者モデルを辞めた時点で両親と不仲になっていたまゆにとって

親戚である彼女が唯一頼れる肉親と言えた。

   #  #  #
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(12) (電撃コミックスEX)
3: 2019/02/08(金)20:06:20 ID:g1P
療養先の庭を凛が覗いた時、まゆは既に仕事をやり終えていて、薄着のまま縁側に腰かけていた。

「久し振りだね、まゆ」

「……凛ちゃん?」

相方の姿を見たまゆは嬉しそうにその手を取った。

色白の体は夏の陽射しによってうっすらと焼けていて、モデル時代よりも健康的に映る。

ずれたワンピースの肩紐から見える白いO房が彼女を歳より艶やかに魅せていた。

「この間のライブ、テレビで見ました。以前より歌に想いが籠っていましたね」

「うん……音楽プロデューサーにさ
『格好つけるな! 魂をむき出しにしろ!』って指導を受けてね。
 本番直前まで練習していたけど、歌いきるまで不安は消えなかったな」

「いいえ、魂を揺さぶるような素晴らしい歌声でした。
 あの曲は確かに、シャープに歌うよりも
 多少泥臭い感情を出して歌う方が合っていますし……」

縁側で二人は肩を並べて座り、語り合った。やはり話題になるのはイベントやレッスンの事だった。

まゆは初夏にここに来てから三ヶ月になる。

その間のライブは全て凛が単独で活動していた。

凛は話している間、まゆの瞳を覗き込んで様子を探る。

歌やレッスンの話をしている時のまゆは、至って普通の娘のように見えた。

4: 2019/02/08(金)20:06:40 ID:g1P
「……どう、最近落ち着いている?」

すると、まゆは戸惑うようにうつむいた。

「……。……忘れようと、しているんです……けど……」

寂しそうなまゆの肩に、凛はそっと手を置いた。

「無理に忘れる必要はないよ。私だって完璧に吹っ切れている訳じゃない。
 思い出は思い出として、大切だから……」

「そうですよね、……プロデューサーさん……」

その時、凛の手に添えられていたまゆの手に力が入った。

凛の眼に映っていたまゆの顔に不穏がみるみると浮かび上がっていく。

まゆの眦に涙滴が膨らみ、頬を伝う。その潤んだ瞳が夢色の霞を帯びていく。

――ああ、まただ。

凛は少し寂しい目をしてまゆの肩を抱いた。

   #  #  #

5: 2019/02/08(金)20:07:29 ID:g1P
プロデューサーが交通事故で亡くなってから四年目の夏を迎えた。

彼がいなくなった時、まゆと凛は毎日泣いていた。

故人の深い愛情に満ちたプロデュースは、二人にとって成功以上の意味を持っていた。

トップアイドルとして輝けるようになったのは

ひとえに彼との絆の強さに依る所が大きかった。

それだけに、彼との氏別は彼女たちに少なからぬ動揺を与えた。

プロデューサーを失った事で、当時の凛は仕事を継続する事が出来なくなっていた。

彼女は何もせず自室でふさぎ込み続け

ぽっかりと開いた心の隙間をどう繕ったらいいのか苦悶していた。

一方、まゆは相方の凛が休業している間もずっとソロでイベントをこなしていった。

プロデューサーの遺した仕事を無駄にしたくない

彼の遺志を受け取ってイベントを成功させたいとの思いからだった。

いつも泣いているにもかかわらず、彼女は仕事になると泣き止み

メイクを崩さず見事にやり遂げていった。

その姿は端から見ると心を締め付けるほど健気だった。

6: 2019/02/08(金)20:08:37 ID:g1P
プロデューサーの葬儀を終え、事務上の引き継ぎも完了し

ライブイベントも盛況の中で終わった後、ようやく凛は復帰して

徐々にではあるが仕事量を増やし始めた。

そしてその傍でサポートしていたまゆも、いつしか涙を流さなくなり

デュオにようやく平和が戻ったかのように見えた。

「プロデューサーさん、プロデューサーさん……!」

ある時白い車が横切ると、まゆは大声を出して半狂乱になった。

それはプロデューサーの命を奪った色の車だった。

それを街中で見るといつも彼女は泣き叫んだ。

凛を含め事務所仲間は、彼女のそんな姿を何度も見た。

誰の目にも彼女が病んでいるのは明らかだった。

「落ち着いて、まゆ! プロデューサーさんはっ……もういないんだよ!?」

周りが必氏に止めて訴えた後、まゆはしばらく泣いて、元の彼女へと戻っていく。

だが、彼女の疾患はますます酷くなっていった。

特にプロデューサーの命日が近づく時期は仕事が手につかない程だった。

精神的なショックを抱えたまま、無理に仕事を継続した反動がここに来て表面化したのだ。

7: 2019/02/08(金)20:09:01 ID:g1P
プロダクションは話し合いの末、一年のうち四ヶ月を

静養に当てて落ち着いた環境下で彼女の快復を待つ事にした。

上層部が彼女の解雇に踏み切れなかったのは、既に凛とまゆのデュオがもたらす

セールスをふいにしたくなかったからだ。

そして、安定期にあるまゆは何の問題もなく

ファンたちにいつもの笑顔を届けられていたし

彼女本人もアイドルを辞める意思はなかった。

一年の三分の一のみプロダクションに不作をもたらす彼女を

いつの間にか誰ともなく「ペルセポネ」と呼称するようになった。

一年のうち幾月かを冥界の女王として過ごす女神の名前は

確かに彼女に相応しいかもしれない。

その期間だけ、彼女は氏者であるプロデューサーに寄り添って過ごす訳だから……。

8: 2019/02/08(金)20:09:49 ID:g1P
「逢いたかった、ずっと、ずっと……!」

まゆは凛の身体に抱きついた。二人は体勢を崩して縁側でもつれ合った。

まゆは美しい涙を流したまま、凛の唇に口づけした。

揺らめく焔のように熱く切ないキスだった。

凛は何も言わずまゆの細腰を抱き、宥めるように彼女の唇を吸い返した。

それは泣く赤ん坊をあやす母親のようにも映った。

最初こそ戸惑い振り払おうとした同性からのキスだったが

彼女に無理させた負い目のある凛はそれをむげに拒絶出来なかった。

彼女に課した苦しみを思えば……と言い聞かせながら、凛は今もまゆの抱擁を受け入れている。

凛は、まゆが羨ましかった。

精神を患ってはいるものの、彼女の世界にはまだプロデューサーが居る

……凛がずっと恋していた、あのプロデューサーが。

小鳥が啄むように少女たちは互いに、その柔らかな唇を何度も吸い合う。

互いに差し出した舌の柔らかさをも愛しげに味わい、結ばれ合う。

夢の中で愛しのプロデューサーと口づけしているまゆは

陶酔した瞳で凛の向こう側を見つめていた。

9: 2019/02/08(金)20:10:15 ID:g1P
   #  #  #

「まゆ、ここじゃダメだよ……おいで」

夢から覚めないまゆの手を優しく握り、凛は敷地内にある土蔵の中へと連れていった。

そこは鍵も壊れたままのかなり古い建物で

家人も雨避けの倉庫としてしか使っていないと凛は知っていた。

先程のようにまゆの症状が顔を出すと、凛は人目を避けるため、ここをしばしば使うようになった。

いくら事情を理解している肉親とはいえ、女同士で絡んでいる所を目撃したくはないだろう。

幸い、余程用事がない限りここを訪れる人間は居なかった。

「プロデューサーさん、好き、好き……」

薄暗く涼しい土蔵の中で、まゆは再び凛と唇を重ね合わせた。

陶酔に浸りながら幸せに充ちていくまゆに凛は憐れみを抱く。

一方で、そんな彼女に儚い美しさを覚え、惹かれていく自分を彼女の瞳の中に見つけ、戸惑った。

心地良い戸惑いは凛を能動的にさせた。

彼女の白い指が華奢なまゆの身に沿ってなめらかに踊る。

それは秘めていた泉の上で舞いながら、静かに蜜露を纏っていった。

10: 2019/02/08(金)20:11:40 ID:g1P
戯れ合っているうちに二人の少女の吐息が、互いに桜色の熱を帯びていく。

乱れた服から覗くつんと尖った白い果実を、凛は愛しげに啄み始めた。

まゆの吐息は徐々に歓喜の水気を纏っていく。

彼女は目を閉じて大きく息をしながら、凛の愛撫に身を任せていた。

プロデューサーを演じながら、凛はまゆと指や舌を絡めて愛し合う。

どこまでが私なんだろう、と彼女は思った。

この突き動かしてくる激しい熱情は、果たして相方への憐憫だけで説明出来るのか。

答えを先延ばしにしつつ、彼女はまゆの火照った身に身を寄せる。

まゆは恥じらいながらも積極的に凛の、……プロデューサーの愛にその身を進んで溶かしていった。

毎年夏に何度も味わうまゆの味……その蜜が喉を焦がす度に

彼女がどれだけプロデューサーを求めていたのか、凛にはよく分かった。

凛はその舌で優しく、まゆを好きなだけ夢中にさせた。

そして彼女自身もまゆの麗しい肢体に魅せられていく。

二人の影が壁に映り、互い違いに重なり合った。

次第に暗い蔵の中で水の跳ねるようなの音が小さく響いてきた。

11: 2019/02/08(金)20:12:10 ID:g1P
二人の可憐な紅唇が人知れず罪色の蜜に濡れ、穏やかに堕ちていく。

指と指とを絡め合った少女たちは深い吐息を互いの首に溶かしながら

何度も来る波のさざめきに身を委ねていた。

(私たちは一緒だよ……まゆ……)

凛はまゆと、プロデューサーを巡って静かに対立していた時期を思い出していた。

同じ男性を好きになり、そして失ったもの同士

いつしか凛はまゆに、友情とも同情ともつかない不思議な絆を感じるようになっていた。

肌を重ね合い、何度となく脳裡に閃光を瞬かせ、二人は互いの温もりを貪り合った。

「……凛ちゃん、ごめん……ごめん……」

どれくらい時間が経っただろうか、凛の下でまゆは瞳に光を取り戻した。

彼女は羞恥の涙を滲ませ、こめかみへと涙滴を流す。

ようやくいつものまゆに戻ったのだ。

氏別してもなおプロデューサーに縛られている自分の奇行を

嫌な顔一つせず深く受け入れてくれる凛に対し

まゆはまゆで深い敬愛を抱かずにはいられなかった。

12: 2019/02/08(金)20:12:26 ID:g1P
「いいよ、まゆ……」

凛はそっとまゆを抱き寄せた。

まだ熱の醒めていない肢体が肌に心地良かった。

「私が大変な時に、まゆはずっと助けてくれた……。だから……」

凛はまゆの額にそっとキスをすると、乱れた衣服を優しく着せていく。

――外では太陽が西の彼方で半身を沈め、空を紅く美しく染めようとしていた。

13: 2019/02/09(土)12:17:53 ID:eeZ
以上です

引用: 【モバマス】凛・まゆ「ペルセポネの恋人」【百合】