1:◆SEjaKd1qng 2012/08/21(火) 16:09:42 ID:V9ldBsss0
 「……遅いな」

 呟いた言葉が白い吐息となって消えていく。今日はこの冬一番の寒さになるそうだ。こんなに晴れて、太陽が昨日まで降っていた雪を綺麗に光らせてるのに、今日は朝からとっても寒い。放射冷却が云々と言ってしまえばそれだけなんだろうけど、やっぱりこんな天気なんだし、もう少しあったかくなってもいいと思う。

 「……はぁ…はぁ………お~い、りっちゃ~ん!」

 「お、やっと来たか。お~い、唯!こっちこっち!あんま走るとコケるぞ~!」

 待っていた人の声が聞こえると、あんなに寒かったのが嘘の様に体がポカポカしてくる。

 「はぁ、はぁ……ご、ごめ…はぁ…ごめんね……はぁ、はぁ」

 「ほらほらまずは息整えて、はいっ、深呼吸。吸って~、吐いて~」

 「すーっ、はー」

 「落ち着いたか?」

 「はぁ……うん、もう大丈夫」

 「そしたら遅刻の理由を聞こうか」

 「今日の事が楽しみ過ぎて、昨日よく眠れなかったんだぁ。ゴメンね?」

 「小学生かっ!」

 「そしたら、ヒドイよね!?こんなに朝寒いなんて。全然お布団から出れなくて、気付いたら約束の時間まで全然余裕なくて」
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2: 2012/08/21(火) 16:12:55 ID:V9ldBsss0
 「二回目だけど、小学生かっ!……それで?他に言うことは?」

 「ごめんなさい。反省してます」

 「よし、許して遣わす」

 「ははぁ、有り難き幸せ」

 二人してケラケラ笑う。普通ならもうちょっとお説教ムードになるのかもしれないけれど、私達では何時の間にかいつものふざけ合いに変わってしまう。こんな風に約束の時間に遅れた事くらいなら笑って済ませられるのが私達の良い所だと思う。まぁ、相手が唯だから、ってのが大きいのも確かだけど。
 次からは直接唯の家に迎えに行っても良いかもしれない。憂ちゃんとも会えるし、そうすれば色々教えて貰えそうな気がする。まだまだ知らない唯の事とか、唯本人も気付いてないくせとか。全部唯の事だけど。

 「じゃあ、時間も惜しいし、早く行こうよ!」

 「……遅れて来たくせに」

 「ギクッ……つ、次からは気をつけるよ~」

 「そうしてくれよ~?ま、早く行きたいのはこっちもだし、行こうぜ」

 そう言うと手を取り合って歩き出す。付き合い始めの頃は恥ずかしかったのに、何時の間にかこうする事が当たり前になっていた。だからといって幸せが薄れた訳ではなくて、照れがなくなった分、唯との距離が縮まった気がして嬉しい。同じ事を唯も思ってくれてるのかな?

3: 2012/08/21(火) 16:14:18 ID:V9ldBsss0
 今日は電車ですぐの所に出来た大型ショッピングセンターでデートの予定だ。聞くところによると、一日中見て回っても飽きない数の店舗、それにフードコートなんかもあって、最新デートスポットとして話題なんだとか。

 「今日行くトコまで、どの位かかるのかなぁ?」

 「確か……あそこだから、そんなに掛かんないんじゃないか?」

 電車の路線図からお目当ての駅名を探し当てて指差す。

 「あ、そこかぁ。結構近いんだね」

 「近いぞー。交通費もそんなに掛かんないし、経済的だよな」

 目的の駅まで何駅もないのに、段々車内は人が増えてきた。やっぱり、この人達も同じ所へ行くんだろうか。そうすると、向こうは相当混んでるんじゃ……

 「うわぁ、人が一杯だね」

 はい、思った通りでした。
 時期が時期だけに、混み方がハンパない。こりゃ大変だぞ。すっごい広いし。

 「まずはどこいこっか?」

 「そうだな~、このアクセサリーショップなんてどうだろう?」

 「おっ、りっちゃん乙女だね」

 「あたしゃピチピチの乙女だい!」

 なんて笑いあいながらアクセサリーショップへ。正直、アクセサリーなんて身に付けないから良し悪しは分からないけど、可愛いもの好きの唯が楽しめればそれでいい。

 「あ!見て見て、これ可愛いよ!」

 「これムギちゃんに似合いそうだよ!」

 入店早々このテンションである。この先大丈夫かな、主に私が。可愛いと思った物には何かと感想を言う唯を話半分に聞きつつ、店内を物色する。そうでもしないと昼までに体力尽きそうだし、ね。
 やっぱり、時期が時期だけにクリスマス関係の物ばっかりある。今年が二人で過ごす初めてのクリスマスだし、なんか良いプレゼントとか思いつかないかな。

4: 2012/08/21(火) 16:16:58 ID:V9ldBsss0
 「ねぇ、りっちゃん」

 「ん?どした?」

 「これなんかどうかな?」

 と、手にしているのは水色のカチューシャ。ちっちゃな星がキラキラ光って可愛いと思う。

 「おぉ~、いいじゃん可愛いじゃん」

 「でしょでしょ?でさ、これもどうかな?」

 次に見せてくれたのはカチューシャと同じ水色がメインカラーっぽいヘアピン。星の飾りが付いていて、流れ星が光っている様に見えるデザインだ。

 「そっちもいいじゃん。似合うんじゃないか?」

 「でしょでしょ!?」

 ふんすっ、の唯である。

 「今日は珍しく唯のセンスが分かるな」

 「てへへ、それ程でも……」

 いや、褒めてねーし!

 「で?それがどったの?」

 「買います!」

 「そいつぁ良かった」

 「ノンノン、りっちゃんも買うのです」

 「どゆこと?」

 「私がカチューシャ買うから、りっちゃんはヘアピン買ってね」

 「あぁ、お互いに相手のをね」

 「そう!せっかくのクリスマスだしね」

 唯のくせにかっこ良い事すんな!ちょっとキュンときたじゃん。

 「あ!でもでも、これは一足早いプレゼントだからね。もちろんクリスマス当日にはホントのプレゼント交換するからね?」

 「分かってるよ、ちゃ~んと」

 「え~?ホントにりっちゃん分かってた?」

 「いくらなんでも分かるわ!」

 今のでそこそこ台無しだわ!私のトキメキを返せ!

5: 2012/08/21(火) 16:19:13 ID:V9ldBsss0
 「はい、メリークリスマス」

 「唯も、メリークリスマス」

 初めてのクリスマスプレゼントである。今日はこれで回ろうよ、と言う唯の提案のもと、買ってすぐに装着する。

 「カチューシャ変わっても、ねぇ。私は見えないし」

 「りっちゃんとっても似合ってるよ!ほら、手鏡貸してあげるよ」

 「ふむ、確かに印象が違って見えるな」

 「特にこのご自慢のおでこなんて煌めく様に光って」

 「もう神々しいまでの輝きを……ってデコだけかいっ!」

 「もちろんりっちゃんは可愛いよ?」

 くっは……こういうストレートな表現が出来るのも唯だからなんだろうな。全身痒くて堪らないけど。

 「ゆ、唯も付けろよ~」

 「おお、そうだったね。……えーっとぉ、ここ、かなぁ?」

 ヘアピンの位置決めに悪戦苦闘している唯は、前髪下ろして、滅多に見られない真剣な表情をしていた訳で。つい、見とれてしまう訳で。

 「よしっ、ここっ!ってどうしたのりっちゃん?」

 「い~や、なんでも?」

 「そう?で、どうかな?似合ってる?」

 「モチのロンだぜ!」

 唯が選んだんだから似合わないはずがない。未だにあのTシャツはわかんないけど、まぁ、唯らしいかな、って思う。
 いつもはヘアピンしてるから分かんないけど、前髪下ろした唯はめちゃくちゃ可愛い。ってか、カッコいい。いや、むしろかっこ唯。私がカチューシャ取ったときは、唯がカッコいいって言って喜んでくれるけど、唯には勝てないって。たまに見せて貰おう。

6: 2012/08/21(火) 16:21:10 ID:V9ldBsss0
 「似合ってる」の一言さえ気恥ずかしくて言えない私は、こういう時何を言ったら良いんだろう?
 ごくありきたりなことを言うと、唯からの返しがとっても嬉しかったり、幸せな感じがしたりして、結局赤くなるのはこっちだしな。もういっそ「好き」って言ってやろうか。

 「なあ、唯」

 「なあに?りっちゃん」

 「……好きだぞ」

 私の一言を聞いてちょっとびっくりしたような顔になった唯は、すぐに人懐っこい笑顔に変わると、

 「私はりっちゃんが大好きだよ」

 と言ってきた。くっ……ここで負けてたらいつもと同じパターンで私が真っ赤になる。そうくるなら……

 「大大好きだぞ」

 「……おおう、りっちゃん今日は大サービスだね」

 「いつまでもやられっぱなしじゃないんだよ」

 ふーん、そっか、と何か納得したような唯が急に顔を近づけてきた。びっくりして後ろに下がろうとしたけど、いつのまにか唯に肩をつかまれていて体が引けない。そのまま私の耳元に口を寄せた唯は、

 「愛してるよ」

 と、優しい声で囁いてぱっと離れていった。……やば、幸せすぎる。

 「あはは、りっちゃんの顔真っ赤」

 「き、急に顔近づけるからびっくりしたんだって」

 ホントにー?と笑ってみせる唯。ここでムキになるような事はしない。私だって学習したんです。ここでムキになると絶対ボロが出る。そんで、さらに恥ずかしい思いをする。
 結局赤くなったのはこっちだったけど、悪い気はしない。「愛してる」と言われた事がなんか嬉しくて、舞っている雪のようにふわふわな幸せで心が満たされて。こんな幸せがずっと続くと良いな、と思える今日は、寒い冬の日。

7: 2012/08/21(火) 16:23:20 ID:V9ldBsss0
 何だかんだと楽しんでいるうちに一軒目のアクセサリーショップで思った以上に時間を使ったようで、店を離れる頃には良い感じに昼時になっていた。そんなに長い時間騒いでたのか、いや、買った後が長かったか。
 フードコートで適当にお昼ご飯を食べることにしたものの、本日の混み具合と昼時という時間帯のせいで席が全く見つからない。そんな中で、料理を持ったまま二分位ウロウロしただけで席が確保できたのは運が良かった。やっぱり日頃の行いの良さがものを言うんだな。ほらそこ、呆れたみたいな顔しない。
 途中「あ~ん」で恥ずかしい目に遭いつつも無事昼食が終わり、店の外に出た時が凄かった。
 半日かけて溶けかかった雪がキラキラ太陽光を反射して、視界一面が真っ白に変わった様に思えたんだ。

 「……綺麗だね、りっちゃん……」

 「……そうだな、唯……」

 思わず小声で言葉を交わす。それくらい綺麗で、鮮やかで、幻想的で、当てられてしまうような景色が広がっていた。

 「なぁ唯、お店に入らないでちょっと散歩しないか?」

 「とっても名案だよ、りっちゃん!」

8: 2012/08/21(火) 16:25:54 ID:V9ldBsss0
 銀世界の中でウィンドウショッピングをすることに夢中の唯の後を遅れない様に付いて行く。目を輝かせて色んな所に視線を飛ばすので、転びやしないかととってもハラハラさせてくれる。

 「あいたっ!」

 思ったそばから尻餅ついてるし。

 「大丈夫か、唯?怪我とかしてない?」

 「うぅ、コケたぁ~」

 「そりゃもう見事だったわ」

 「笑わないでよ~」

 「ハハハッ、ゴメンゴメン。ほら、手」

 唯を助け起こしながらも笑いが止まらない。笑ってる私に拗ねた様な顔を向けながらも素直に助け起こされた唯は、道路に文句を言っている。あんまり意味ないぞ、それ。

 「危なっかしいから手繋ごうか?」

 「大丈夫だよ。さすがに二度はコケません!」

 「そっか、なら心配ないな」

 いえ、そこはかとなく心配です。でも、手を繋いだまま唯にコケられたらこっちも巻き込まれるだろうし、これで良いよね、結果的に。べ、別に手を繋ぎたかったなぁ、とか、思ってないし!

 「あ、やっぱり手、繋ごうよ」

 「ん、繋ぐのね」

 ほい、っと差し出した左手を握る唯の右手はとってもあったかくて、感じる体温に心がほっこりしてくる。やっぱ唯は「あったかあったか」だよなあ。もう全身からそんな感じを醸し出してるもん。

 「ふふふっ」

 意味深に笑いながらいわゆる恋人繋ぎに繋ぎ変えてくる唯。いや、急に笑われると果たして何がなんだか分からないんだけど。

 「ん?唯さーん?急にどうかしましたかー?」

 「だってりっちゃん嬉しそうなんだもん」

 「嬉しそうか?私」

 「りっちゃんさぁ、手繋げなくて結構ガッカリしたでしょ?」

 「……さ~、ど~だか」

 「手を繋いだ途端にニコニコしだすんだもん、りっちゃんが可愛くて楽しくなっちゃった」

 くすくす笑われながら説明される。そんなに分かりやすい顔してたのか……。じゃあ今はまた真っ赤なんだろうな。無意識でニヤけてるとかすっごい恥ずいわ!

 「だぁー!もう笑うな!」

 「は~い」

 とか言いながらまだ顔が笑ってるぞ。もう決め~た、絶対顔真っ赤にさせてやるもんね。次の時は唯が最高に照れる様なこと言ってやる。早速帰ったら憂ちゃんからネタを仕込もう。唯に関して分からない事は憂ちゃんに訊けばどうにかなるし、憂ちゃんもちゃんとツボをおさえたネタを提供してくれるに違いない。今に見てろよ唯、顔を真っ赤にさせる日も遠くないぞ。

9: 2012/08/21(火) 16:27:34 ID:V9ldBsss0
 「ねぇ、りっちゃん」

 仲睦まじげに手を繋いで歩いている姉妹とすれ違った時、急に改まった調子で唯に話し掛けられた。表情もいつものふんわりとした感じではなく、何か大きな事を考え込んでいる様な、ちょっと悲哀が感じられる様な、そんな雰囲気で真面目な事なんだなと思わせる。

 「どうした?唯」

 「私、いつまでもりっちゃんの隣に居たいよ」

 「う……ん、私もずっと隣に居て欲しいよ?」

 「ずっと居れるのかな?」

 「居られるに決まってるだろ」

 「でも、私達普通じゃないよ」

 「……そりゃそうだけどさ」

 またそれか。確かに、私達は普通のカップルじゃない。このままの関係を続けていくうちにでっかい壁にぶつかる事だってあるだろうし、絶対に変な目で見られる。でも、それが何だって言うんだ。

 「二人なら何でも出来る、って言ったのは唯だろ」

 「そうだけど……私りっちゃんを苦しませたくないよ……」

 「唯……」

 「絶対辛いことあるよね、絶対に。大好きなりっちゃんにそんな思いはさせられないよ……」

 何も言えない。言い返せないからじゃない。何を言っても今の唯には届かないからだ。こんな唯に届く言葉が辞書にでも載ってるなら、誰か早急に教えて欲しい。

 「唯、落ち着いて」

 人目も憚らずに唯を抱き寄せる。普段は底抜けに明るい奴だから気が付けないけど、こんな風に取り乱してしまう程に考え込んでいるんだ。ちょっと切なくなってくるのと同時に、恋人の想いに気付けなかった自分に腹が立つ。

10: 2012/08/21(火) 16:29:21 ID:V9ldBsss0
 さて、心の中で深呼吸だ。唯に安心して貰わないと。

 「確かにさ、二人で過ごしてると変な目で見られてんな~、って感じる事もあるよ。でも、それをすぐに忘れさせてくれる位唯のことが好きだから。むしろそんなことより唯と一緒に居られない方が辛いから」

 「……ホントに?」

 「ホントだって。そうそう、私、憂ちゃんに嫉妬しちゃうんだ。和にだって、梓にだって、唯が仲良くしてる人には誰にだって嫉妬しちゃうんだ。唯を渡したくないって思っちゃうんだ。これって、それだけ唯が好きだって事だろ?」

 「私も澪ちゃんに嫉妬しちゃうし、何か最近憂も仲良さげで嫉妬しちゃいそうなんだ」

 「それだけ私の事が好きなんだろ?」

 「そうだね。……そうだよ!」

 「そんなに好きな人と一緒に居られない事が一番辛いと思わないか?」

 「もちろんだよ」

 「だからさ、どんなに一緒に居て辛い思いをしても、一番辛い事を経験するよりマシだろ?」

 「そう……だね……」

 「つまり、私達はお互いに相手に一番辛い思いをさせないためにも、ずっと一緒に居なきゃいけないんだよ」

 「でも一番じゃないけど辛い事はあるよね?」

 「ずっと幸せなんて都合の良い人生は楽しくないだろ?それに、多少は壁があった方が二人で一緒に乗り越えるっていう共同作業が増えて良いじゃん」

 「共同作業……くくくっ、そうだね、二人で居なきゃね!」

 「そうだぞ、唯は私の為に、私は唯の為に二人で居るんだ」

 「唯ふぉーリーツ、リーツふぉー唯、だね!」

 「リーツって何だよ?」

 「オールに合わせてみました!」

 「はははっ、何だそりゃ」

 溜め込んでいた想いを吐き出せてスッキリしたのか、とっても良い笑顔を見せる唯。この笑顔を守る為なら何でも出来る、なんてクサい台詞が浮かんでくるくらい愛しい人の幸せを全力で願える。そんな大切な想いを気付かせてくれたのは、やっぱり大切な人でした。

11: 2012/08/21(火) 16:31:22 ID:V9ldBsss0
 その後、私達は日が傾くまでショッピングを楽しんだ。と言っても、買ったのは最初のアクセだけだったけど。本番のプレゼントも買わなきゃいけない事を考えると、今は何も買わないのが賢い選択なのだよ。ムギとかだったら違うのかもしれないけどさ。
 流石に冬は日没が早い。暗くなってしまうと寒くなるし、心配もかけるだろうからってことで早めにショッピングモールを出る。それでも、最寄駅に着く頃には結構暗くなってしまっていた。

 「じゃね、りっちゃんまた明日!」

 「おう、また明日~って、明日もかよ!」

 「え~、いいじゃん、明日もデートしようよ」

 「分かった分かった。じゃあ明日もデートな」

 「うん!帰ったらメールするから。計画立てなきゃね!」

 「分かった。あんまり急いで帰って、転んだりするなよ?」

 「大丈夫だって~、心配性なんだから」

 いや、いくら心配しても足りない位だから!

 「でも、気を付けながらなるべく早く帰れよ?憂ちゃんが心配するぞ」

 「はっ!そうだね、憂と夕飯が待ってる!じゃ~ね~」

 手を振りながら勢い良く走り出した後ろ姿にハラハラしつつも手を振り返す。あれじゃあ途中で絶対一度は転ぶと思うけどなぁ。

 「明日も唯と会えるのか」

 振っていた手を下ろして一人呟く。
 ほぼ毎日の様に会ってはいるけど、やっぱり明日も会えると思うと心持ちが違う。好きな人と会えると分かってると、明日の待ち遠しさが何倍にもなって、幸せがこの身体から溢れてしまいそうになる。
 でも、溢れてしまっても良いかもしれない。そんな幸せに溺れる様に浸れたら、そしてそこに唯が居たら、もうそれだけで充分なんだと思う。ちょっと贅沢かな。でもそれが良いな。もちろん沢山の事を二人で経験したいけど、二人で居られることが今は一番大切に感じる。
 ポケットの中で携帯が震える。どうせ待ちきれなくなった唯がメールしてきたんだろう。内容は待ち合わせ場所か、時間か、多分そんな辺りだろう。見なくても分かる。
 どんなに綿密に予定を立てても、唯が時間ギリギリに来て、私がそれを待ってて、っていうのは変わらない。まぁ、遠出する時は唯でも流石に時間に間に合わせて来るけど。いつもの場所で唯を待ってる時は決して嫌なものじゃなくて、むしろ、走って来る唯を見るとワクワクして、楽しくて、嬉しくて、ドキドキして。多分、待ってる私を見つけた時の唯も同じ気持ちだと思う。

12: 2012/08/21(火) 16:32:52 ID:V9ldBsss0
 明日は何の話をしようかな。今日のリベンジにまた「好き」って言ってやろうか。結局今日と同じ様に私が真っ赤になるんだろうけど。それで幸せになれるなら、唯と笑い合って過ごせるなら、何度でもリベンジしなくちゃな。
 あ、雪だ。日が暮れて寒くなってきたから降ってきたんだな。デートの最中に降ってきたら綺麗だったとは思うけど、傘持ってなかったし大変だったかもな。
 再びメールの着信。流石に読んでおかないと怒られるかな?

 『雪だよ!!!』

 こんだけ狭い地域なんだから、こっちもちゃんと降ってるのに。降ってくる雪に興奮そている唯の顔が浮かんでくる様な文面にひとしきり笑った後、返信を考える。

 「まぁ、帰りながら考えれば良いか」

 今、隣に好きな人は居ないけど、同じ景色を見られる位近くに居て、心は隣より近くに居る。そんな関係が、距離感が、繋がりが大好きだと思える今日は寒い冬の日。

 だけど、やっぱりあったかあったかな、冬の日。

13: 2012/08/21(火) 16:33:24 ID:V9ldBsss0
終わりです

14: 2012/08/21(火) 16:35:17 ID:V9ldBsss0
ヤマも無ければオチも無いような駄文にお付き合い頂き
有り難うございました

季節感も全く無いですが
一応りっちゃんの誕生日をお祝いしたくて書きました。

15: 2012/08/21(火) 16:50:26 ID:V9ldBsss0
『冬の日』をリスペクトした感じで
出来るだけ大筋を歌詞に沿わせてみました

よろしくお願いします。

16: 2012/08/22(水) 06:52:05 ID:ybDeNBIo0
なかなかいい雰囲気だ

引用: ある冬の日