さやか「いやいや、何言ってんのよおかしいでしょ」

ほむら「？」

まどか「あ、さやかちゃん」

さやか「さわらないで、ってアンタ、ここ数週間ずーっとまどかにべったりだった奴のセリフじゃないわよ
　　　　　どの口が言ってんのよ、冗談にしても面白くない」

ほむら「失礼ね
　　　　　確かに私はまどかとずっと一緒にいたかもしれないけれど、直接触れたことは一度もないわ」

さやか「へ？そうなの？」

まどか「う、うん……」

さやか「……え？マジで？一度も？あれだけずっとベタベタしてたくせに？」

まどか「うん……」

ほむら「あなたの目、とんだフシアナね。一体どんな幻覚を見ていたのかしら
　　　　　上条恭介のお見舞いに行く前に、まずあなたが病院で診てもらうことをお勧めするわ」

さやか「いやいや、いやいやいや、んなもん誰に聞いても間違えるわよ、
　　　　　あんだけ学校でも外でもべったり、それで一度も触ってないなんて思いやしないっての」

ほむら「いつも一緒にいるから当然スキンシップの一つや二つはとっているだろう……
　　　　　その前提が間違っていることに気付きなさい、美樹さやか」

さやか「ええっ、なんでか知らないけど説教された」

ほむら「いいこと？私はまどかをあらゆる危険、脅威、勧誘、その他もろもろの悪の手から守るためにいるのよ
　　　　　だのに私がまどかに触れて汚してしまっては、それこそ本末転倒じゃないの
　　　　　そんなこともわからないのかしら、やれやれまったく」

さやか「ええーっ？」

まどか「汚してって、そんな……
　　　　　ほむらちゃんに触られてもそんなこと思わないよ」

ほむら「まったくもってあなたは愚かね！」

まどか「ええっ！？」

ほむら「そういう周りを疑わず開けっ広げで無防備なその姿勢が、巡り巡ってあなた自身を貶めることになると知りなさい！
　　　　　まったく、鹿目まどか、あなたは愚かね！いよいよもって全く愚かね！」

まどか「ご、ごめんなさい……」

さやか「なに無茶苦茶言ってんのよ
　　　　　まどかも、謝る必要なんてないって！」

ほむら「私のどこが無茶苦茶だというの」

さやか「そりゃあんた、全部無茶苦茶のハチャメチャのしっちゃかめっちゃかよ！
　　　　　いつでもつきっきりで傍にいてベタベタでまどかもまんざらじゃないから最早ただのバカップルでしかないってのに
　　　　　『一度も触ってません』なんてワケわかんないわよ！」

ほむら「やれやれ、あなたの凝り固まった思考回路にはほとほと呆れるばかりだわ」

さやか「な、なんだとう」

ほむら「いい？確かに私は『まどかのこと好きなんでしょ』と問われれば『当然のことを今更何言ってるんだ』
　　　　　と間髪入れず返す用意はあるけれど……」

まどか「わ わ わ」

さやか「ああっ、前触れもなく突然告白まがいのことをされてまどかがテンパってる！」

ほむら「イコール『まどかにさわりたいなー』、とはならないのよ
　　　　　そんなことにも考えが及ばないとは美樹さやかはまったく……」

さやか「いやだからその理屈はおかしいって言ってるのに」

ほむら「どこがおかしいというの？やれやれ、話は平行線を辿る一方だわ」

さやか「いや、だから……アンタまどかのこと好きなんでしょ？」

まどか「さ、さやかちゃん！」

ほむら「その『好き』という言葉は例えば『パンよりお米が好き』とか『ずっと前からあなたが好きでした！』とかで
　　　　　大きく意味を変えるものではあるけれど、もちろんまどかを嫌いなワケはないので好きと答えるにやぶさかではないわ」

さやか「いちいち長ったらしくめんどくさいヤツね……
　　　　　好きなら好きと面と向かってまどかに言ってやりゃーいいじゃないの、
　　　　　こちとら最近まどかにあんたのこと相談されてばっかで、傍から見ててじれったくてやきもきしてんのよ」

まどか「さやかちゃああああん！？」

ほむら「……？ 長くてわかりにくいわ、一行にまとめなさい」

さやか「あんたがそれを言うの！？」

さやか「じゃーお望みどおりまとめてやるわよ、あんたら両想いなんだからとっととくっつきなさいよ」

まどか「さああああやかちゃあああん！！！！」


ほむら「？？？　……つまり、まどかは私のことが好きと、そういうアレかしら？」

さやか「そーいうアレよ」

まどか「わー！わー！」


ほむら「えっ……　それは困るわ、心底困るわ」

さやか「」

まどか「」

さやか「……」

まどか「……」

さやか「え？」

まどか「え？」

ほむら「申し訳ないけど、まどかが私のことを好きだというのは非常に都合がよろしくないの
　　　　　なんとか別の方向に持っていくことはできないものかしら」

さやか「は？え？……は？え？
　　　　　あんたまどかが好きなんでしょ？」

ほむら「ええ、もちろん」

さやか「じゃーもうつきあっちゃいなよ」

ほむら「それは無理というものよ。もっと普通で別の男性をお勧めするわ」


まどか「？？ ？ ……？ ……？」

さやか「ああっ、ただでさえ他の人に告白されたことなんてなくてテンパり気味のまどかが、
　　　　　『あなたが好きです、だから別の人と付き合って下さい』なんてワケのわからない告白をされてよりいっそうテンパってる！」

ほむら「ふむ……由々しき事態ね」

さやか「あんたのせいだよ！」

ほむら「どこで間違えてしまったのかしら」

さやか「今よ！」

ほむら「ううん…… ちょっといいかしら、まどか」

まどか「へ？あ、う、うん」

ほむら「一体どういう経緯で私のことを好きになってしまったのか教えてもらえる？できるだけ詳しく」

さやか「なんてこと聞いてんのよ！？ふつー聞かない！ふつー！」

ほむら「これは初めての経験だから、この失敗を生かし次に進むために反省する必要があるのよ
　　　　　もちろん今回で上手くいけばそれに越したことはないけれど、どうもこの調子じゃ怪しいものね」

さやか「何言ってんのあんた？」

まどか「ええっと、最初に会ったとき……」

ほむら「ふむふむ」

さやか「まどかも律儀に答えなくていいのに！？」


まどか「なんだかほむらちゃんとは初めて合った気がしなかったの
　　　　　そうだ、あと、ほむらちゃんが転校してくる日の朝、夢に……」

さやか「…………」


まどか「それで、ほむらちゃんは何度も私のことを助けてくれて、あと……」

ほむら「ふむふむ、次はもっと影に徹する必要が……
　　　　　……まどか？ どうしたの……泣いているの？」

まどか「え、あ……ごめん、なんでもないよ」

さやか「……なんでもないわけないでしょ！あんたまどかのこと馬鹿にしてるの！？」

ほむら「？ ……なんのことだかわからないわ、一行に……
　　　　　あら、もう一行だったわね。そういう場合は三行にまとめなさい」

さやか「お望みどおり三行でまとめてやるわよ、いい？あんたが自分に正直になってくれれば全部丸く収まるのよ
　　　　　さっきからワケのわからないことばかり言って…… あ、これじゃ二行か」

ほむら「私ほど自分に正直な者はいないわ、おそらく、たぶん、おおよそ」

さやか「じゃーもうなんで…… ああ、わけわかんない、私にゃ手に負えない！」


杏子　「おーい、あんたらこんなとこで何してんの」

マミ　「こんにちわ美樹さん、鹿目さんに暁美さんも」


さやか「救世主！」

杏子　「？」

マミ　「？」

杏子　「はあ、あの二人がなんかわけわかんないことになってると」

マミ　「それはもうさっぱりわけがわからないわね」

さやか「そーなんですよもうわけがわかんなくて！」



ほむら「ごめんなさい、あなたを泣かせるつもりは無かったのよ」

まどか「ううん、ほむらちゃんは悪くないよ……」



さやか「あーいう時は涙を拭いてあげるくらいはしてもいいのに、ほったらかし！
　　　　　心配はしてるのになにがなんでも触ろうとしない！ なに考えてるやら全然わかんないんですよ！」

マミ　「言われてみれば確かに、暁美さんが鹿目さんに触るのって見たことない気がするわ……」

杏子　「はー、どういうことだこりゃ」

マミ　「とにかくちょっと話を聞いてみましょうか。
　　　　……暁美さん、少しいいかしら？」

ほむら「あら、巴マミ。
　　　　　……
　　　　　……
　　　　　……
　　　　　……生きていたのね」

マミ　「最初に言うことがそれ！？ちょっと、昨日も一緒に魔女と戦ったじゃないの！」

ほむら「……あー、そうね、そうだったわね……
　　　　　ところで、つかぬことを伺うけど、首とか胴体はちゃんと繋がってる？セロハンテープなんかでごまかしてるわけじゃないわよね？」

マミ　「怖い事言わないでよ、大丈夫よ、たぶん、大丈夫……
　　　　……大丈夫よ！」

ほむら「ならいいのよ、私の勘違いだったみたいね」

マミ　「どんな勘違いをすれば私の首の心配をするのよ……」

ほむら「それで、何か用かしら」

マミ　「何か用って、わかりそうなものだけど……あなたと鹿目さんのことよ、美樹さんから聞いたわ」

ほむら「特に問題はないけれど」

杏子　「なーにが『問題はない』だよ、まどかのやつ泣いてるじゃんか」

まどか「…………」

ほむら「ああ、確かに一刻も早くなんとかしてあげたいわね……
　　　　　あなたと鹿目さん、なんて言い方をするから起こった勘違いよ、発言は正確にお願いするわ」

マミ　「ええと、私が悪いのかしら」

ほむら「他に誰がいるの？」

杏子　「おめーだ、おめー」

ほむら「……確かに、まどかが悲しむ事は私の本意ではないし全て私の不手際によるものね。
　　　　　上手くいったように思えても、いつもいつもどこかでボロが出る、難しいものだわ」

杏子　「なにいってんだか……とにかくあれだろ、オマエが甲斐性見せれば解決じゃんか」

さやか「難しい言葉知ってんのね」

杏子　「うるせー！」

ほむら「ところがそれは無理というものなのよ」

さやか「だーからその理由がわからなくて困ってんのに……」

杏子　「……ちょっと手かして」

まどか「？」

杏子　「そんでこれをこいつの手に……」

ほむら「私に接触らないで！」ﾊﾞｼｯ

まどか「……ぐすっ」

さやか「なにしてんの！」

杏子　「うわあ、ほんとにわかわかんねー、重症だな」

マミ　「うーん……」

さやか「はっきり聞いてなかったんだけどさ、なんでアンタはそんなにまどかに触るのを嫌がるわけ？」

ほむら「嫌なわけではないわ。自分を律するためにやむなくこうしているだけのことよ」

さやか「……どゆこと？」

ほむら「私の愛の大きさは……いや、本当は愛だなんていうそこらにごろごろ転がっているような陳腐な言葉で
　　　　　まどかへの想いを表したくはないのだけど、ほかに代替できるような用語ももちろんないので仕方なしにこれを使う……
　　　　　これというものはおそらくあなたたちが想像しているものの遥か先、遠く、想像だもできないような大きさの想いであると理解してもらいたいわ」

マミ　「ただのノロケのようにも聞こえるのだけど」

杏子　「何言ってるかさっぱりわからんね」

ほむら「私のまどかへの想いは既存の常識というものを凌駕し、遥か彼方に置き去りにしてとめどなく膨れ上がった。
　　　　　最早生身の人間では到底耐えうるものではないと言えるわ」

さやか「……いつのまにそんなことになってたわけ？まだ一ヶ月も経ってないのに」

ほむら「それはあれよ、私がこの一ヶ月間を何度も何度も繰り返しているがゆえに起こったある種当然の帰結ともいえるものによるわね」

さやか「……え？」

杏子　「は？」

マミ　「え？」

まどか「……え？」

ほむら「おっと、うっかりしていたわ。まあこれは置いておいて、つまり魔法少女としての素質はあってもあくまでただの人間のまどかに、
　　　　　私のこの感情を余すところなくぶつければ当然耐えることなどできはしない。そこで……

さやか「いやいや、今絶対に置いといちゃいけない一文があったんだけど！？」

ほむら「やれやれ、細かいところにばかり目を向けていたらいつか大義を失うわよ？
　　　　　まどかを助けるために繰り返しを続けていたらちょっと言葉では表せないほど好きになりました、
　　　　　これだけの話なのに」

マミ　「大問題じゃないの！」

まどか「ひょっとして、私が見た夢の中のほむらちゃんって……」

ほむら「ああ、その可能性は十二分に考えられるわね。確かに由々しき問題だわ」

さやか「そんなに好きだーってなら、なおさらわけわかんないわよ！」

杏子　「そーだよ、むしろ望むところじゃんか」

ほむら「やれやれ、これだから自分の頭の中の物差しでしか測れない人たちは……
　　　　　いいこと？私の目的はまどかを助けることにあり、私の理想はまどかの平穏であり、私の幸せはまどかの幸せであり、
　　　　　まどかの幸せこそが私の幸せであり、まどかの望むことが私の望むことであるの。
　　　　　そのためだからこの町や人やなんやかんやを守っているだけで、
　　　　　正直どうでもいいというかどうにでもなってくれればいいけどまどかが悲しむのは不本意なので四苦八苦しているだけなのよ」

まどか「え、……え？」

ほむら「ついでに言えばこういうことを話すとほぼ間違いなくまどかは同情して責任を感じて契約しようとする、
　　　　　つまり私を好きになるということはまどかの身の破滅でありそれは私にとって最も望まないことなので
　　　　　それは困るというわけなのよ」


さやか「……よくわからなかった」

杏子　「あたしも」

マミ　「ええと……」

まどか「…………」

まどか「ほむらちゃんはそれでいいの？」

ほむら「……それでいい、というのがよくわからないわ」

まどか「ほむらちゃんの言ってること、全部自分勝手だよ……」

ほむら「魔法少女なんてみんな自分勝手よ、たぶん」

まどか「ほむらちゃんがいなくちゃ、幸せになれないよ」

ほむら「それは困るわ」

さやか「私がまどかを幸せにする！……とか言えないわけ？」

ほむら「無理ね、ええ」

マミ　「つまりあれよね……ただのヘタレ？」

ほむら「失礼ね、まどかの幸せのためなら世界だって滅ぼす勢いの魔法少女であるこの私が
　　　　　ヘタレなどということは断じて無いわ」

ほむら「まどかのためを思って身を引こうと言っているのよ
　　　　　いかにもあなたたちのような頭の軽い女子中学生の好みそうなよくある恋愛話じゃない」

さやか「でもまどかのためって言いながら、あんた全然まどかのこと考えてないじゃないのよ」

ほむら「やれやれ、あなたにまどかの何がわかるというの？」

まどか「……そっくりそのまま返すよ、ほむらちゃん」

ほむら「常識的に考えなさい、まず女同士で恋愛という時点でおかしいのよ
　　　　　社会にも認められず偏見にさらされるばかりで、普通にしていれば掴めるはずの幸せすら棒に振る
　　　　　愚かとしか言いようがないわ」

さやか「いや、あんたはどーなのよ」

ほむら「私の幸せはまどかが幸せになることなので、これとそれとは別問題よ」

マミ　「……ええー？」

ねおちしそう
おわり

乙

乙
落とすのはもったいない気もするが