京子「……あ、綾乃ー、今日生徒会室行ってもいい……」

綾乃「……｣ｽﾀｽﾀ

京子「綾乃……？｣ｶﾞｼｯ

綾乃「！｣ﾋﾞｸｯ
綾乃「……｣ﾊﾞｼｯ

京子「…ぇ」

綾乃「……｣ﾀﾞｯ

京子「……あやのー……？」

京子「あれ……なんだこれ……」
京子「熱い……涙……？」

京子(あー、綾乃もかー…)

京子(まぁ、普通そうするよなー)

京子(クラスで睨まれたくないもんなー……)

京子(普通だって。普通……)

京子(綾乃の反応が当たり前だって……)

京子(でもさ……)

京子「綾乃だけは違うって、思いたいじゃんかぁ……｣ｸﾞｽｯ

京子「……ぅ……っ……｣ｸﾞｽｸﾞｽ

京子「……ハァ｣ﾄﾎﾞﾄﾎﾞ
京子(娯楽部行くと腫れ物扱いだしなぁ……)

京子(あかりのあんなに不自然な笑顔初めて見た……)

京子(結衣の引きつり笑いとか見たくなかったな……)

京子(ちなつちゃんに気をつかわれたのが、地味に一番きた……）
京子(『そこまでヤバイのか』って気分になった……)

京子「今日は帰ろうか……ハァ……｣ﾄﾎﾞﾄﾎﾞ

ドンッ

京子「！あ、す、すいませ……」

千鶴「……お前か｣ﾁｯ

京子(下ばっかり見てたからモロにぶつかってしまった……)
京子(あー、派手にこけた……)

京子「痛てて…」

千鶴「……よそ見してんじゃねーよ…」

京子「……あっ、ご、ごめん、スミマセン……｣ｱｾｱｾ
京子(あー、これ肩パン覚悟のパターンだわ……)
京子(肩パンからの腹パンからの去り際暴言頂ける奴だわ……)

千鶴「……何ビクついてんだお前……」

京子「スミマセンッ！弱めで！せめて腹の方は弱めで！」

千鶴「……はぁ？」

京子「……え…あ、千鶴……？」

千鶴(なんなんだこいつ……)

京子「ち、千鶴かぁ……｣ｴﾍﾍ

千鶴「何笑ってんだよお前」

京子「あ、スミマセン…」

千鶴「……？」

京子「し、下見てて……｣ﾃﾍﾍ
京子「どーもすいやせん…」

千鶴「？？」

京子「すいやせんすいやせん……｣ｿﾛｿﾛ

千鶴「…おぉ……気つけろよ……｣ｽﾀｽﾀ

京子(良かったー！0パンだったわー！奇跡の0パン頂けたわー！)ｽﾀｽﾀｽﾀｽﾀ

千鶴「……」

千鶴(……あいつあんな素直に謝る奴だっけ……？)
千鶴「……ん？」

千鶴「おい！」

京子「っ!!｣ﾄﾞｷｰﾝ

京子(え、今の私かな？私呼ばれたのかな？)
京子(違うだろー…私だったら『オイ！』の後に『ゴミ！』とか付くだろ……)

京子(丁寧な人で『ボケ！』とか付くだろ……)
京子(私じゃないっ！)ｽﾀｽﾀｽﾀｽﾀ

千鶴「聞こえてんだろてめぇ…｣ﾄﾞｶｯ

京子「私だ！」

千鶴「…はぁ…？」

京子「…え、な、なに、かな……？｣ﾃﾍﾍ

千鶴「コレ、落としただろ｣ｻｯ

京子「……あ、ストラップ……」

千鶴「さっきぶつかった時金具が壊れたんだろ。お前のじゃないのか」

京子「あ、私の……」

千鶴「…ほら」

京子「あ、ありがと……」

京子(この間娯楽部のみんなでゲームセンター行ってクレーンでとったやつだ……)

千鶴「……ミラクるん」

京子「…え？」

千鶴「……ミラクるんだろ、それ、ストラップ」

京子「え、あ、う、うん。そう……」

千鶴「……」

京子「……」
京子(なんだろう、なんて返したら肩パン回避なんだろう……？)

京子「え、あ、千鶴も、読んでる、観てる…？」
京子(マズイ！アニメ漫画の話題はマズイ！)

京子(『一緒にすんなオタク！』からの『きめーんだよてめぇ』『調子のんな』)
京子(で、締めの肩パンあるわ！)

京子「あ、ご、ごめ……｣ﾋﾞｸﾋﾞｸ

千鶴「…姉さんと」

京子「…へ？」

千鶴「……姉さんと、観てる」

京子「あ、そ、そう……」

千鶴「…おぉ……」

京子「…そう…」

千鶴「……」

京子(あぁー………なんだろう？)
京子「…あ、ご、ごめん……」

千鶴「……」

千鶴「……なんで」

京子「……えっ？」

千鶴「なんでお前さっきから一々謝ってんだよ……｣ｲﾗｲﾗ

京子「えっ、ごめん｣ｱｾｱｾ

千鶴「……｣ﾁｯ

京子「あ、ごめ、いや、ごめ……」

千鶴「あと『あっ』とか『えっ』とか付けんなよ喋る前に……」

京子「えっ……あ、あぅ……」
京子(何だ！？なんで急にこんな事……)

千鶴「……｣ｲﾗｲﾗ

京子(あぁー…なんか怒ってる……)

京子(分かったコレ、『喋り方きめぇよ』からの頂けるパターンだわ……)

京子「……｣ﾋﾞｸﾋﾞｸ

千鶴「……お前なんかいつもと違うな…」

京子「えっ、そう？」

千鶴「……なんかいつもよりムカつく……」

京子「えっ」

千鶴「つーか、ムカつかないっていうか……」
千鶴「ムカつくような事してこないのがムカつくわ……」

京子(なんだそれぇ……超理不尽…)

京子(あぁー……！理不尽な奴きたぁ……)
京子(肩パン→『笑えよ』→無理やり笑顔→『殴られて笑うなよきめぇ』→腹パン)
京子(の奴きたわぁ……)

京子「あぅ、あぅ……」

千鶴「……｣

京子「あぁぁぁ……！！｣ﾌﾞﾙﾌﾞﾙ

千鶴「!?」

京子「ごべんなざいぃぃぃ……!!｣ｶﾀｶﾀｶﾀｶﾀ

千鶴「お、おいお前……!!だいじょう……｣ｶﾞｼｯ

京子「あぁぁぁぁぁ!!!!｣ﾋﾞｸﾋﾞｸﾋﾞｸﾋﾞｸ

千鶴「オイ！？」

千鶴「ホント大丈夫かお前!?」

京子「いいぃっいぃいい!!｣ｶﾞﾀｶﾞﾀ

京子(フフフ、引いてるぞ引いてるぞ……)
京子(『秘技、発狂のフリの術！』)
京子(いじめられはじめて一月の時に編み出した私の技だ！)

京子「あぅあぃっ！いいぃぃ！！」

京子(追い詰められて発狂したフリをすることで、いじめっ子をドン引かせてあっち行かせる大技！)
京子(失うものが何もない状態で使える秘技の一つ！)
京子(……完璧！)ｶｯ

京子「あぃっ、いぃぃぃいいい!!｣ﾌﾞﾙﾌﾞﾙ

京子(……演技過剰になりがちなのが難点だ！)

京子(でもまぁ、これで千鶴もどっか行って……)ﾁﾗｯ

千鶴「お前ちょっとこっち来い！｣ｸﾞｲｯ

京子「……あ？｣ﾋﾟﾀｯ

【空き教室】

千鶴「……よし、ここなら誰も来ないな……｣ﾊｧﾊｧ

千鶴「……何なんだ急に……」

京子(…………)

千鶴「手間かけさせやがって……」

京子(……これは……)

千鶴「……落ち着いてきたか？」

京子(ぎぎぎぎ逆効果だったぁー！！！)

京子(やばいやばいやばいやばいやばいやばい！)
京子(逆にいじめっ子を人気のない所にいざなってしまった！ )

京子(顔パン、顔パンあるでこれぇぇぇ…)

千鶴「オイって！」

京子「あひっ！」

千鶴「……もう、大丈夫か？」

京子「あ、は、はい……」

千鶴「そうか……」

京子(……ん？)

千鶴「……良かった……｣ﾊｧ

京子(……んん？)

千鶴「……心配させやがって…｣ﾎﾞｿ

京子(……なんか、違う？)

千鶴「ちょっと休んどけ。ここ人来ないから」

京子(……顔パンパターンじゃない？)
京子(……ていうか……)

千鶴「水とか飲むか？」

京子(……優しい！？)ｶﾞｰﾝ

京子(やっべぇぇ！！逆パターンだった！！）
京子(『発狂のフリの術』最大の失敗パターンの一つ…)

千鶴「……｣ﾌｩ

京子(『無関係の人に心配までさせちゃって申し訳なさで一杯のパターン』の奴だ……!!)ｶﾞｶﾞｰﾝ

千鶴「…………まぁ、詳しくは聞かねーけどよ……」

京子(あぁー…)

千鶴「そういう、発作とか、病気とかは、自分じゃどうにもなんねーもんな……」

京子(最悪だぁ……)

千鶴「お前、大変、だったんだろうな……｣ｼﾐｼﾞﾐ

京子(シミジミされてるぅ……)

千鶴「……私も大概、愛想いいほうじゃねーからよ……」
千鶴「こう、人前に出たりとかって苦手でさ……」

京子(なんか語り出させてしまった……)

千鶴「小学校の時、理科の研究発表なんかあると、嫌で嫌でしょうがなくてさ…」

京子(ごめんん…なんかごめんん……)

千鶴「前出ると、顔真っ青になって、一言も喋れなくなったりしてよ……」
千鶴「発作みてーになって、倒れたこととかあるんだよな……」

京子(………すまぬ……すまぬ…)

千鶴「お前のに比べたら、笑われるような話かもしんないけどな」

京子(千鶴えらい…自分の辛いエピソードで他人励まそうとしててえらい…)

京子(私これ嘘なのに……嘘の引き返し場所が分からなくなってるだけなのに……)

その後しばらくしていじめは止んだ。

どうやら綾乃が頑張ってくれたらしい。
千鶴経由で千歳に私の「発作」が伝わり、千歳から綾乃の知る所となったのだ。
正義感の強い綾乃がクラスメイトに理解を訴え、みんながそれに賛同してくれたのだ。
綾乃をはじめとするクラスメイトが頭を下げて謝ってくれたのは、記憶に新しい。
どうやらみんなの中に、
「オタクはいじめていいけど、モノホンいじめるのは人の道に反するよな…」という図式があるらしい。
前々から「秘技」を見せていた私に、みんなモノホン疑惑を持っていたそうだ。
要は私は「かわいそうな人」になった。
みんな「かわいそうな人」はいじめないのだそうだ。

嘲笑も暴力もなくなり、今ではみんなが私の味方だ。
優しい優しいクラスメイトに囲まれ平穏な生活を享受している私だが、時々ふと涙がこぼれる。
嘘もつき続ければ真になるのだな……
最近良くそんな事を思うようになった。

おしまい

京子「秘技やべぇ！」

京子「……という事だったんだぜ！｣ｷﾗｰﾝ

千鶴「一回しねっ！」

大人の事情で終了させて頂きます。

どこかで……時が飛んだッ！

>>137君は何を言ってるんだ？