473: 2013/10/05(土) 20:44:10.97 ID:WZULJRZg0


【ウルトラマンゼロ×まどマギ】ウルトラ魔女ファイト【前編】
【ウルトラマンゼロ×まどマギ】ウルトラ魔女ファイト【中編】

このSSでの「ほむらは本編の出来事が起きないまま、更にループを重ねている」という設定について補足します。


設定を使った理由ですが、序盤で「まどかが膨大な因果を持つ理由を知らない」まま、
「ほむらに目的を諦めさせる」というSSの展開のためです。

アニメ本編でのほむらは、時間遡行と因果の関係性を知ったことでループを躊躇い、目的を諦めかけました。
SS作成にあたり、その事実を知らない状態で不屈を折るには…と考えた結果が、
「本編よりも更にループを体験し、自分の無力を思い知る」でした。

(体験したループは「最初の時間軸~アニメ本編の時間軸」の1.5倍か2倍くらいと想定)

そこからキャラ付けしたため、今までの経験を活かすほむらではなく、
本編よりも心が荒んだ容赦のないほむらになっています。


こんな作風ですが、ほむらを悪者にする意図はありませんので、今後を見守って頂けると有り難いです。
 

476: 2013/10/12(土) 17:36:36.72 ID:5dM5QeI/0

【舞台装置の魔女 その5】



『ワルプルギスの夜』との決戦が始まる少し前、ようやくマミのマンションへと到着したさやかと杏子。

建物の入り口へ進もうとした時、正面からキュゥべえが歩いてくる。
二人はその姿を目にし、思わず足を止めた。


QB「やぁ、さやか。それに杏子」

さやか「インキュベーター…」

杏子「テメェ、こんな所で何やってんだ?」

QB「僕かい?僕はただマミの魔女化を最後まで見届けようと考えていただけさ。
   けれど、もうすぐ決戦が幕を開ける。どちらを優先すべきかは明白だよ」

杏子「…つまり、アイツはまだ魔女にはなってないってわけね」

さやか「急ご、杏子!」

杏子「わかってるよ」


先を急ごうとする二人を、キュゥべえが呼び止める。


QB「ところで二人とも」

杏子「あぁ?何だよ!?」

QB「こんな所で油を売っていて大丈夫なのかい?『ワルプルギスの夜』は間もなく姿を現すよ?」

杏子「いいんだよ。向こうにはゼロがいる、そしてほむらもいる。心配することなんて何もない」

さやか「私達のやらなきゃいけない事は、この先に待ってるから」

QB「つまり君達は、『ワルプルギスの夜』との決戦をウルトラマンゼロと暁美ほむらに任せ、
   マミを助けることを選んだわけだね」

杏子「そうさ。何、邪魔しようっての?」

QB「いや、僕は決戦が終わるまで君達には干渉しない。最後まで頑張ってみるといい」

さやか「…行こ!」


二人はこれ以上キュゥべえに関わろうとはせず、階を上がっていく。

決戦ではなくマミを優先した彼女達、それを促したであろうゼロの行動を、キュゥべえは理解できずにいた。


QB「…ウルトラマンといい人間といい、感情を持った知的生命体は危なっかしいね。
   目の前の物事にとらわれて、何が最善なのかが全く見えていない」

QB「ま、だからこそコントロールしやすくもあるのだけれど」

 
ディメンションズウルトラディスプレイシリーズ ウルトラマンゼロ
477: 2013/10/12(土) 17:41:56.50 ID:5dM5QeI/0


そしてキュゥべえは市街へと消え、二人はマミの部屋の玄関まで辿り着く。


杏子「…なぁ?」

さやか「ん?」

杏子「勢いでここまで来ちまったけどさ、アタシは何したらいい…?」

杏子「今のマミには、アタシの事なんて忘れてもらうのが一番だと思ってた。
   でも本当はそうじゃないとしたら、アタシが言ってやれることって……何だ?」

さやか「うーん…」

さやか「そんなの、私あんたじゃないからわかんないし…」

杏子「…だよな」

さやか「けど勢い任せならさ、最後までそれでいいんじゃない?
    いつも通りの自分を見せて、正直な気持ちを伝えればさ」

さやか「私もそうするつもりだから」

杏子「いつも通りのアタシか…」

杏子(そう言えば、アタシもゼロのやつに似たような事言ったっけ…)


ふと思い浮かんだのは、地球人の『闇』に迷っていたゼロと会話した夜。
この会話を機に、ゼロはどんな世界であっても「変わらぬ自分」で平和を守る意思を固めた。

同じ事が、今の自分にも求められているのだと杏子は再確認する。


杏子「…よし!」


不安を振り切った杏子は、突然玄関のドアを叩き、声を張り上げる。


杏子「おい、避難するぞマミ!早いとこ出てきやがれっ!!」

さやか「ちょ…杏子!?」


二人が立つ扉の奥、マミは部屋のベッドの上にいた。
彼女は手のひらの上で、半分近くが濁ったソウルジェムを転がしている。


マミ(…来ちゃったんだ、あの子達)


玄関を叩く音と声を耳にし、マミは二人の到着を知る。

彼女がベッドから体を起こした時、自分のものを遥かに上回る『呪い』を感じ取った。


マミ(これは…)

杏子「『ワルプルギスの夜』…」

さやか「始まったんだね…」


巨大な『呪い』はマミだけでなく、さやかと杏子にも当然伝わっている。
それは『ワルプルギスの夜』が出現し、戦いが始まったことを意味していた。

 

478: 2013/10/12(土) 17:45:54.11 ID:5dM5QeI/0



ゼロ「さぁ、この星の未来を―――守り抜くぜ!!」

ゼロ「であああぁっ!!」


慣らしとばかりに手首を振り回した後、魔女を指差すゼロ。
ほむらが指示を送るより先に、ゼロは魔女へ向かって走り出していた。


ゼロ「うおおぉーーーっ!!」

ほむら「いきなり何を……」


ゼロは魔女の浮遊する位置よりも高く跳躍する。
勢いを得たゼロの足が燃え上がり、宇宙拳法『ウルトラゼロキック』が繰り出される。


ほむら「ゼロっ!?まずは私の指示を…!!」


迫り来るゼロに対し、魔女は浮遊したまま何も動こうとはしない。

キックは魔女の腹部に命中、その威力で巨体を後退させていく。


ゼロ「デェアァーーッ!!」

魔女「アハハハッ…アハハハハハッ…!」


ゼロは炎で焦げ付くドレスを思い切り踏み込むと、空中で一回転して体勢を整える。

足に続き、今度は右拳が激しく燃え上がった。



ゼロ「俺のビッグバンも…合わせてお見舞いするぜぇぇっ!!」

ほむら(効いてる?…いや)


手刀の形を作り、魔女に振り上げた時だった。
魔女は微動だにしないにもかかわらず、突如として周囲に暴風が巻き起こる。


479: 2013/10/12(土) 17:48:46.99 ID:5dM5QeI/0


ゼロ「何!?…って、うおぁっ!!」


暴風によって炎は消え去り、ゼロの体勢が大きく崩される。
その隙を狙い、魔女から複数の炎が撃ち出された。

槍のような炎に加え、宙に舞い上げられたビルも次々とゼロに衝突していく。
続けざまに攻撃を受け、ゼロの体は市街地へと叩き付けられた。


ゼロ「ぐあぁぁっ!!」

ゼロ「……チィッ!!」


ゼロはすぐに体を起こすと、頭部のゼロスラッガー二本を手に取る。
素早く合体させてゼロツインソードを形成すると、再び魔女の元へ跳んだ。


ゼロ「シェアアーーーッ!!」


ツインソードを緑色に輝かせ、渾身の斬撃を繰り出す。
かつて何度も強敵を仕留めてきた必殺技の一つ『プラズマスパークスラッシュ』。

その刃は、魔女の首を狙っていた。


ゼロ「うぉらっ!!……って何!?」


自慢の一撃は、魔女によって止められていた。
わずか一瞬の間に、魔女が剥き出した白い歯がツインソードに食らいついている。


ゼロ「くっ…ふんぬっ!」


ツインソードを引こうとするが、幾らゼロが力を込めても、魔女が動じる様子は全くない。
その上、ツインソードからはミシミシと歪な音が響き始める。

 

480: 2013/10/12(土) 17:51:47.26 ID:5dM5QeI/0


ほむら「まずい…!」


ほむらは時を止めると、盾に収納していたRPGを取り出し、魔女を目掛けて撃ち込む。

時の流れを戻すと共に、魔女の顔面が爆発を起こす。
ほむらの咄嗟の援護によって、ようやくツインソードは解放された。


ゼロ「噛み砕かれちまうかと思ったぜ……助かった、ほむら!」

ほむら「余所見しないで!前よ!!」


ゼロがほむらを見た隙に、大きく振るわれた魔女の腕が襲いかかる。


ゼロ「やべっ!?」

魔女「アハハハハッ!!」

ほむら「ゼロっ!?」

ゼロ「うぐおぉっ…!!」


直撃した一撃は重く、ゼロは再び市街地に叩きつけられた。
ビルに激突し、その体を瓦礫が覆いつくす。


ゼロ「ぐあっ…!!」

魔女「ウフフフフ…アハハハハ!」

魔女「ハッハッハッハッハ!アーッハッハッハッハ!」


魔女の高笑いが響く中、崩れたビルの中からゼロが立ち上がる。

急いでゼロの元へ駆け寄ろうとするほむらだったが、彼女の周囲に黒い何かが渦巻いた。


ほむら「!?」


それは魔法少女を模した使い魔に形を変え、ほむらを包囲する。


ほむら「この雑魚ども…!!」


両手に銃を構え、ほむらは使い魔達を睨み付けた。

 

483: 2013/10/13(日) 23:05:01.24 ID:hVJUt98U0



魔女『ワルプルギスの夜』を相手に、予想以上の苦戦を強いられるゼロ達。

熾烈な戦いと並行して、さやかと杏子の呼び掛けは続いていた。


さやか「マミさん、聞こえてる!?」

杏子「いい加減返事しろって!」


マミは一向に姿を現さないが、二人も決して諦めようとはしない。

その熱意に根負けしたのか、彼女達の頭にか細い念話が届いた。


マミ(…こんな所に、何をしに来たの?)

杏子「あ…」

さやか「マミさん!」


当然、念話はマミからのものだった。
二人は驚きながらも、すぐに会話をテレパシーに切り替え、返事を返す。


杏子(何をしにって決まってるだろ、アンタを連れ出しに来たんだよ!)

さやか(詳しいことは後で話すからさ、急いで準備しよ!)

マミ(そう…)

マミ(そんな事、私は頼んでないわ)

さやか・杏子(!?)


テレパシーとは言え、マミからは普段の温和さが全く伝わって来ない。
それどころか、冷たく突き放されているかのようにも感じられた。


マミ(…貴方達には、世界の命運がかかった大きな戦いがあったはず。その役目はどうしたの?)

杏子(それを投げ打ってまでここに来たんだよ…アタシらは)

さやか(確かに、『ワルプルギスの夜』は放っとけない…
    でも決戦と同じくらい、ここにいることは大事なんだ)

さやか(私達もゼロさんも、マミさんの事を守りたいと思ってるから)


484: 2013/10/13(日) 23:12:17.86 ID:hVJUt98U0


さやかは偽りない想いをぶつけるが、マミは即座に反応を示さない。

返事は、しばらく経った後に返ってきた。


マミ(可愛いこと言ってくれるのね)

マミ(…でも忘れてないかしら?私がこうなったのは、貴方達のせいでもあることを)

さやか(えっ…)

杏子(………)


愕然とする二人。


マミ(どんなに繋がりを望んでも、どんなに頼れるお姉さんであろうとしても、
   貴方達は私を突き放してきた。…『重荷』と言ってね)

さやか(今は違う……私はもうマミさんを見捨てたりなんかしない!)

マミ(違わないわ。結局いつかは、裏切られてまた一人ぼっち。
   現に佐倉さんは、私と距離を置き続けているでしょう?)

杏子(あ…アタシは…!!)

マミ(だからもう、私には構わないで。戻るべき所に戻りなさい)

杏子(馬鹿言ってんなよ…アタシらが戻ったとして、アンタはどうすんのさ!?)

マミ(私は、私に待ち受ける運命に身を委ねるだけ。
   魔法少女の未来を変えるなんて、誰にも出来はしないのだから)

杏子(アンタ、それっぽい事言ってるけどさぁ…結局は魔女化を受け入れますって意味じゃねーか!)

マミ(…それでいいじゃない)

杏子(は!?)

マミ(この一週間、私は貴方達の邪魔にならないよう、浅ましく生きてあげたわ)

マミ(その間に色々な事を考えた……そして気付けたの。
   呪いも絶望も何もかも、受け入れてしまえばもう怖くない…)

マミ(そして今までとは違う、新しいやり方で繋がりを手に入れるの。
   …わかったら、ここから消えて決戦に戻りなさい)

 

485: 2013/10/13(日) 23:16:20.88 ID:hVJUt98U0


マミの変貌は、二人が想像していた以上。
彼女のためにも、ここで引き下がるわけにはいかなかった。


さやか(…ますます放っておけない。マミさん、私はここに残るよ)

杏子(アタシもだ)

マミ(ふぅん…それじゃあ、貴方達を最初に『ご招待』しようかしら)

さやか(ご招待?)

マミ(そう…私はこれから毎日、ここでティーパーティーを開くつもり)

マミ(おめかしして、メイドさんにも来てもらって、みんなで楽しい一時を過ごすのよ)

マミ(せっかく来てくれたお客様だもの、ずっとずっと楽しんでもらわないとね)

マミ(だから…フフッ…みんな私のリボンで締め上げて…絶対に帰さないの)


杏子とさやかを、魔女と相対しているかのような悪寒が襲う。

『呪い』が作用しているのか、心を壊した結果なのか、
いずれにせよ、彼女の思考が正常に働いているとは思えなかった。


その時、市街から巨大な爆発音が響いた。

それは三人が経験したことのない規模のもの。
ゼロとほむらが繰り広げる戦いの激しさを物語っていた。


杏子「このバカッ…!!」


最初の爆発から間を置かず、次の爆音が響いた。
その瞬間に二人は魔法少女へと変身する。

杏子がドアを破って内部に踏み込み、さやかも後に続いた。


さやか「ここからは念話じゃなくて、本当の声で話し合おう…マミさん」

杏子「そしてお互いの顔と目ぇ見なが―――!?」


リビングに立つマミと対峙した二人。

しかしマミは寝間着ではなく、自分達と同じように魔法少女の姿。
そしてその手には、マスケット銃が構えられている。


マミ「駄目でしょう?私から『ご招待』するのを待ってくれなくちゃあ……ッ!!」

杏子「マミッ―――!?」

 

486: 2013/10/13(日) 23:33:57.78 ID:hVJUt98U0


マミは躊躇いなく、杏子に銃口を向けて引き金を引いた。
さやかは咄嗟に杏子の手を取り、ガラス戸を突き破って外に飛び出す。

彼女の弾丸は、明らかに杏子の胸のソウルジェムを狙っていた。


杏子「何でだよ……」


マンションの屋上へ跳び、一旦マミから距離を置く二人。
杏子もさやかも、突然の攻撃に戸惑いを隠せない。

しかし、説得の方法を考える間もなくマミの声が響いた。


マミ「ティロ・リチェルカーレ!!」

さやか「えっ…!?」

杏子「とにかく避けろ、さやかっ…!!」


気付けば屋上の周囲は、複数の砲身によって囲まれていた。
必殺技名とともに、彼女達目掛けて砲撃が繰り出される。

二人は氏ぬもの狂いで攻撃を掻い潜り、自らのソウルジェムを氏守する。

全ての砲撃が終わった後、拍手とともにマミが遅れて姿を見せた。


マミ「回避、上達したのね。私のアドバイスが活きて良かったわ」

さやか「あ…はは…そうっすかね…でもまさか、マミさん相手に披露することになろうとは…」

マミ「でも…次はこうはいかないから覚悟してね。痛い目を見ても、泣き言は無しよ?」


マミの微笑みは、自分を邪魔する全てへの殺意に満ちていた。

怯えを見せるさやかに、杏子は一つの解決策を伝える。


杏子「さやか、今のアイツは聞く耳なんか持っちゃいない。
   何とかして、マトモな会話できるようにしてやらないと…」

さやか「まさか…マミさんと戦うの!?」

杏子「それしかねーんだよ…手数も力も、アタシらの方に分がある」

杏子「でも、問題はマミの消耗さ。ただでさえ『呪い』がソウルジェムを穢してんだ。
   デカい魔法なんて多用させられない」

さやか「それじゃ、一体どうすれば…」

杏子「…インキュベーターのヤローから聞いた話、覚えてないか?」

さやか「え?」

杏子「アレを奪うんだよ…無駄なく素早くね」


杏子の目線は、マミの髪飾りに付いたソウルジェムに向けられる。
さやかがそれを理解した瞬間、マミは二人にマスケット銃を向けた。


マミ「フフッ…」

 

487: 2013/10/13(日) 23:45:06.83 ID:hVJUt98U0



魔女「ウフフフフ…アハハハハハッ!!」

ほむら(いつまでも遊んではいられない…!)


二丁の銃で、迫り来る使い魔を撃ち抜いていくほむら。
しかし敵の戦力も圧倒的であり、次々と新たな使い魔が現れては彼女を追う。


魔女「ハハハハハッ!!」


ゼロが立ち上がる間に、魔女の進路は避難所の方角へ向いていた。
気付いたほむらは魔女の元へ急ぐが、使い魔達に付き纏われ、思うように進めない。

彼女の代わりに、ゼロが魔女に立ちはだかる。


ゼロ「行かせるかぁぁ…っ!!」


自分の身長を上回る巨体を、ゼロは空中で押さえ込む。
しかし完全にパワーは敵が上回っており、今度はゼロが後退させられていく。


ゼロ「ぐ…ぬおおおおぁっ!!」

ゼロ「くぁっ…力で駄目なら!!」


頭部からゼロスラッガーが再び舞い上がり、ゼロの胸のカラータイマーに装着される。

タイマーには青い光が集中し、満ちたエネルギーは『ゼロツインシュート』として放たれた。


ほむら(光線の威力で奴を?)

ゼロ(うおおおおおぁーーーーーっ!!)


それは、両腕で魔女を押さえながらの近距離発射。
光線の反動がそのまま体に伝わるが、その威力は少しずつ魔女を押し戻していく。

しかし魔女も反撃の為、背後で複数のビルが舞い上げていた。


魔女「アハハハハッ…アーッハッハッハッ!!」

 

488: 2013/10/14(月) 00:02:45.45 ID:WyJ33fUQ0


ほむらは急いで時を止めると、使い魔達を無視してゼロの元へ駆ける。
空中に跳躍すると、肩の上に降り立った。

すぐさま左手でゼロに触れ、彼の時を動かす。


ほむら「攻撃が来るわ。すぐに離れて」

ゼロ「ほむら!?」


ほむらの存在と、停止した時間の中にいる事に気付いたゼロ。

ツインシュートを止めてスラッガーを戻すと、魔女から一旦距離を置いた。


ほむら「残りのエネルギーは?」

ゼロ「まだ大丈夫だ。だが、他の技じゃ明らかに決め手に欠けてる。
   やっぱ一筋縄じゃいかないみてーだな…」

ほむら「当然よ、敵が『彼女』より劣るからといって甘く見ないで」

ゼロ「俺だってただ闇雲に突っ込んだわけじゃねえよ。
   奴の力がどれほどのものか、拝ませてもらっただけだ」

ほむら「明らかに押されていたけれど、奴の力量は測れたの?」

ゼロ「…『ウルティメイトゼロ』と良い勝負だ」

ほむら「………」

ほむら「今のままでは勝てない。鎧を纏っても消耗戦…」

ほむら「やはり残るは……」


イージスを装備した強化形態も、拮抗した戦いになればエネルギーの浪費に等しい。

キュゥべえが「機を窺って全エネルギーを放つ」方法を推奨するのも、
魔女の強さを把握しての事だったのだろうとほむらは考える。


ゼロ「…やろうぜ、ほむら」

ゼロ「俺の残りのエネルギー、全て使い果たしてでも奴を弱らせてみせる。
   その後で、イージスの『最強技』をブチかましてやるぜ…!!」

ほむら「…出来るの?」

ゼロ「出来ねぇと思うか?」

ほむら「いいえ、『出来ない』は許されない」


敵の強さを把握しても、ゼロはまだ希望を捨てていない。
そしてほむらも、残された勝機にしがみつくと心に決める。


ゼロ「ヘッ…ここからは全開だ。サポートは任せたぜ!」

ほむら「始めるわよ…私達の戦いを!」

ゼロ「目ェ覚めた心が…走り出すぜぇぇぇッ!!」

 

489: 2013/10/14(月) 00:07:28.09 ID:WyJ33fUQ0
つづく


>>487に訂正です。

×背後で複数のビルが舞い上げていた。
○背後で複数のビルを舞い上げていた。

495: 2013/10/14(月) 17:36:18.09 ID:WyJ33fUQ0
安価間違えてる上にsage忘れ…

>>494は>>490宛てです。

519: 2013/10/23(水) 22:34:39.94 ID:1r+nDZ9B0



杏子「さやかはマミの背後に回れ。アイツはアタシが引き付けておく」

さやか「わかった!」


マミの耳に届かないよう、杏子は小声で指示を送る。
さやかが了承を示した時、マミの銃口が二人の足元を狙う。


マミ「フフッ…」

杏子「行くよ!!」

さやか「合点!!」


最初の銃撃を合図に、二人は左右へ跳んだ。
杏子は正面からはマミに迫り、さやかは指示通りに背後へ回る。

マミは余裕の表情でスカートを広げると、中から大量のマスケット銃が散らばった。


杏子(マミのやつ、また…!)

さやか(これ以上魔法を使わせたら…)


マミは素早く銃を取り、舞い踊るかのような動きで周囲に乱射を仕掛ける。

弾丸は絶えず放たれ続け、二人の接近を許さない。


さやか「くっ……うわっと!」

杏子「はぁぁぁぁーーっ!!」


さやかは持ち前のスピードで回避しながら、避け切れない弾丸を剣で防ぐ。
そして杏子は槍を回転させて弾丸を弾き、着実にマミへの距離を詰めていく。


520: 2013/10/23(水) 22:36:45.15 ID:1r+nDZ9B0


マミ「フフッ…」

杏子「余裕そうじゃんか!」


ギリギリまでマミに近付くことに成功した杏子。
マミ目掛けて一気に槍を振り下ろし、攻撃を銃で受け止めさせた。

鍔迫り合いの最中、マミは微笑みながら語りかける。


マミ「…ねぇ佐倉さん、こうしてるとあの日を思い出さない?」

杏子「あの日?」

マミ「そう…貴方が私の元を離れる時、引き留めようとした私と今みたいに戦った」

杏子「あぁ……」

杏子「…アタシも、まさか立場が逆転するとは思わなかったよ」

マミ「あの時の貴方は本気で、私は手加減。逆といえばその通りね」

マミ「だって今の貴方達、全然本気が伝わってこないもの…!!」

杏子「!?」


マミは片手を離すと、もう一丁の銃を作り出して杏子に向けた。

気付いた杏子は素早く彼女から離れ、銃撃を避ける。


杏子(気付かれた…!?)


杏子がマミを押さえていた間に、さやかは青い閃光となって一直線にマミへ迫っていた。

伸ばした手がソウルジェムに届く直前、接近に気付いていたマミは脚を振り上げ、さやかを蹴り飛ばす。

 

521: 2013/10/23(水) 22:43:47.03 ID:1r+nDZ9B0


さやか「ぐぁっ…!?」

杏子「チッ…!」


さやかは転がりながらも直ぐに体勢を立て直し、杏子も再びマミへ向かっていく。

マミは屋上中を飛び回りながら、二人の攻撃を掻い潜る。


マミ「貴方達の狙いなら予想がつくわ。
   この髪飾りからソウルジェムを取り外して、浄化しようと考えてるんでしょう?」

マミ「何をしようと無意味よ。そう都合良くはいかないこと、私が教えてあげる」


マミは更に魔力を消費し、大量の銃を作り出して一斉射撃を放つ。

さやかは即座に距離を取り、杏子は高く跳躍して攻撃を回避する。
杏子は空中に跳び上がったまま、槍を多関節に変化させてマミを狙った。


杏子「何を教えてくれるって?」

マミ「はっ!?」

杏子「捕まえたっと…そらよっ!!」

マミ「きゃっ……!!」


射撃後の隙を突き、マミの胴を拘束することに成功した杏子。

着地とともに槍を振り上げ、マミの体を地面に叩きつける。


さやか「杏子!ちょっとそんな乱暴に…!?」

杏子「マミの強さ知ってるならわかるだろ?こんくらいやんなきゃダメだ」

杏子「それに、これは頃すための戦いじゃないんだ」

 

522: 2013/10/23(水) 22:47:11.61 ID:1r+nDZ9B0


さやか「そうだよね、これは『守る』ための…」

杏子「早く行け!!」

さやか「うん!!」


さやかはクラウチングスタートの体勢を取ると、速度を上げてマミに迫る。

同時にマミも行動を起こし、片手に作り出した銃で鎖を撃ち抜いた。


マミ「ケホ………『守る』って、何を?」

杏子「このっ!?」


咄嗟の行動で拘束から解放されたマミ。
しかし今の状況は、距離、スピードともにさやかに分があった。


さやか(このまま突っ込めば……取れる!)

杏子(…行け、さやか!)

マミ「フフ…」

さやか「!?…やばっ」


さやかはマミを目前にして急に減速する。

剣を盾代わりに防御の体勢を取るが、気付いた「何か」を全て防ぎきることはできず、
彼女の体中から鮮血が飛び散った。


さやか「うぁぁっ…!!」

マミ「…あら、惜しかったわね」


さやかの動きは、何かに絡め取られたかのようにマミの背後で止まる。
抵抗もままならず、その手から剣が落ちた。

 

523: 2013/10/23(水) 22:51:09.08 ID:1r+nDZ9B0


さやか「痛…っ」

杏子「さやか!何された!?」

マミ「これよ」


マミが軽く指を動かすと、ピンと何かを弾く音が聞こえた。

フェンスの間には、魔法のリボンを極小サイズに変化させた糸が張り巡らされている。
減速したさやかは糸に捕らわれ、身動きが取れない状態に陥っていた。


杏子「糸?」

マミ「そう、さっき作ってみたの。回避で動き回ったついでにマーキングしてね」

マミ「でも残念だったわ。全力で向かってくれれば、美樹さん細切れになれたかもしれないのに」

さやか「細切れって…」


咄嗟に減速しなければどうなっていたのか―――
その場面を想像したさやかの顔が青ざめる。


杏子「拘束が得意なアンタだ。どっかでリボン使ってくるとは思ってたよ」

杏子「でも何だよそりゃ…普通に作るよりぜってぇ魔力食ってんだろ…」

杏子「命削って綾取り遊びか?……もういい加減にしやがれ!!」


肩を震わせ、声を荒げる杏子。
槍を強く握り締めて、正面からマミへ立ち向かう。


杏子「マミィィィィーーーッ!!」

マミ「怒り任せに突っ込むなんて、貴方らしくないわ。それに…」

マミ「隙だらけ」


防御の体勢も取らないまま迫ってきた杏子を、マミは躊躇いなく撃ち抜いた。


杏子「が…はっ…!!」

さやか「杏子っ!!」


弾丸は杏子の腹部を貫通し、その体はフェンスに叩きつけられる。


杏子「ぐ……」

マミ「…あら?」


続いてソウルジェムに狙いを定めるが、杏子は槍の刃で胸部を隠している。

マミは杏子から狙いを変え、彼女の左右に数発の銃撃を放つ。


マミ「さよなら、佐倉さん」


マミが撃ち抜いたのは、フェンスを固定していた個所。
破られたフェンスもろとも、杏子の体は屋上から落下していった。

 

524: 2013/10/23(水) 22:55:23.79 ID:1r+nDZ9B0



ゼロ「目ェ覚めた心が…走り出すぜぇぇぇッ!!」

ゼロ「シェアッ!!」


止まった時の中、ほむらを肩に乗せてゼロは跳んだ。

魔女の周囲を高速で旋回しながら、額から『エメリウムスラッシュ』を発射する。


ゼロ「フッ!!」

ゼロ「ハッ!!」

ゼロ「シェアッ!!」


しかし光線の発射数は一回にとどまらず、五回、十回、二十回と撃ち出されていく。

数十発に及んだ光線は、直撃する前に空中で停止。
魔女の周囲を針が包囲するかのような光景を作り上げていた。


ほむら「一度、魔力の回復を」

ゼロ「おう!」


ゼロが滑り込むように着地すると、ほむらは触れていた手を放し、時間を戻す。

時は動き出し、あらゆる包囲から数十発もの光線が魔女に襲いかかった。


魔女「ハッハッハッハッハ!アーッハッハッハッハ!」


この一発は、元の宇宙であれば同サイズの敵一体を撃破できる威力。
それ程の爆発が立て続けに起こり、魔女は爆発に包まれながら市街へ降下した。


ほむら(ストックはまだ問題ない。けれど、やはり消費が早い…)


その間に、ほむらは決戦用に温存していたグリーフシードで魔力を回復させる。

イージスを解放していないとはいえ、止まった時の中で全力の『ウルトラマン』を動かすだけでも、
通常より魔力の消耗は早かった。

 

525: 2013/10/23(水) 22:57:30.78 ID:1r+nDZ9B0


魔女「アハハハハッ!!」


炎の中から魔女の笑い声が響く。
敵は『救済』を除いて最強の魔女。この攻撃が決定打にならないことは、ゼロもほむらも薄々理解していた。

魔女の影は炎の中に浮かび上がり、今まで以上の規模でビルを舞い上げ始める。


魔女「アハハハハハ!アーッハ」

ほむら「やらせない」


しかし魔女の攻撃よりも先に、回復を終えたほむらがゼロに触れ、再び時を止めた。


ほむら「次よ!」

ゼロ「おう!!」


ゼロはイージスに手をかざすと、光の中からウルトラゼロランスを取り出す。
握り締めたゼロランスに力を込め、爆炎の中に覗く影を目掛け、思い切り投擲する。


ゼロ「うぉっらあぁーーーっ!!」


全力で投げられたゼロランスは、炎の中へ突き進む前に停止した。

ゼロは跳躍し、爆炎を飛び越えて反対側へ回る。
続いて、頭部からゼロスラッガー二本が飛び出した。


ゼロ「シャッ!」

ゼロ「でぇありゃっ!!」


時間停止の作用ではなく、自身の念力でスラッガーを空中固定させる。
足を激しく燃え上がらせ、凄まじい威力で回し蹴りを放つ。

蹴りの威力で更なる加速を得たスラッガーもまた、炎の直前で一旦その動きを止めた。

 

526: 2013/10/23(水) 23:02:32.98 ID:1r+nDZ9B0


ゼロ「まっだまだあぁぁぁーーーっ!!」


スラッガーの停止を見届けると、左腕を横に広げてエネルギーを集中。
直後に地上を離れ、上空で腕をL字に組み『ワイドゼロショット』を放つ。


ゼロ「シェアアーーッ!!」


光線は数秒に渡って放たれ続け、光の帯となって停止する。

本来ウルトラマンの必殺技は、回避されないよう敵を格闘戦で弱らせておくことが多い。
しかし、ほむらの時間停止と組み合わせることで、そのリスクを負うことなく使用できていた。


ゼロ「時を!」

ほむら「ええ!」


ゼロは市街に降り立ち、ほむらは再び時を動かす。

ゼロスラッガーによるキック戦法、ウルトラゼロランス、
そしてワイドゼロショットが炎の中の魔女へ一気に襲いかかる。


魔女「ウフフフフフフフフフッ!!アハハハハハハハハッ!!」


合間を利用して魔力を回復していたほむらに、ゼロが指示を出す。


ゼロ「ほむら、一度肩から降りてくれ」

ほむら「やるのね?例の技を」

ゼロ「いいや、これで終わりと思ったら大間違いだぜ!」


爆発の中から舞い戻ってきたゼロランスを、イージスの光に収納するゼロ
続いて戻ってきたスラッガーをキャッチし、胸のカラータイマーにセットする。


ゼロ「手足の先までエネルギー絞り出してやる!!」

 

527: 2013/10/23(水) 23:06:54.93 ID:1r+nDZ9B0


ゼロ「いっくぞおぉっらああああぁーーーーーっ!!」


追い討ちをかけるかのように、二度目のゼロツインシュートが放たれる。
その反動はゼロを後ずさらせると共に、市街の中心に更なる爆発を巻き起こした。


ほむら「凄い…まだこんな力が…」


その光景を目にし、ほむらは思わず呟いた。

魔女は突風を起こして炎を消し去り、再度姿を現す。
辛うじて空中に浮かんではいるが、ドレスはボロボロになり、体中が焼け焦げていた。


ほむら(私が集めてきたどの兵器を使っても与えられないようなダメージ…)

ほむら(もしかすると、『イージス』に頼らない彼自身の実力を、私は侮っていたのかもしれない)

魔女「ハ…ハハハ……アハハハ……」

ゼロ「ハァ…ハァ…」

ゼロ「…シェアッ!!」


ゼロの消耗は激しかったが、怒涛の連続攻撃はまだ終わらなかった。
ボロボロとなった魔女の背後へ飛び、その腰にしがみつく。


ほむら(まだ何か…!?)

ゼロ「駄ッ目押しだあァァーーッッ!!」


魔女を抱え、加速をつけてゼロは降下する。
巨体はゆっくりと降下し、やがてその頭は加速をつけたまま地面に叩きつけた。

体術『ゼロドライバー』。
光線を放つエネルギーを使い切ったゼロの、最後の一手。

 

532: 2013/10/26(土) 16:39:56.49 ID:NByGssMP0



魔法の糸で絡め取られたさやかに、とどめを刺すべくマミが迫る。


マミ「さてと…美樹さんこれから氏んじゃうけど、悪く思わないでね。終わるのは一瞬だから」

さやか「いやぁ、結構勘弁してほしいんですけど…私の成長、まだまだこれからなんで…」

マミ「二人掛かりでその程度なら、貴方に先はないわ。諦めなさい」

さやか「きっついなぁ今日のマミさん…前の私なら立ち直れなかったかも」

マミ「ごめんなさいね。私だけの世界…誰にも邪魔させるわけにはいかないから」


向けられた銃口、その狙いはさやかの腹部に付いたソウルジェムに定められる。

しかしマミの考えとは裏腹に、さやかは何も抵抗することはない。


マミ「…まだ抵抗しないなんて、本当に打つ手がないの?」

さやか「ない事もないんすよね…このまま強引に動いてみたり、
    剣の雨降らせてみたり…どれも自分が怪我しちゃいますよね」

さやか「でもマミさんは前に言ってくれた…そんな戦い方は駄目だって」

マミ「………」

さやか「だからもう使わない。自分の身はしっかり守る。同じように仲間も平和も守り抜いてみせる」

さやか「…マミさんの事も、絶対に!」

マミ「そんな悠長な事言ってる場合?…守りに入るだけでは、勝てる勝負も勝てないわよ?」

さやか「大丈夫っすよ。ガンガン攻めるのが得意なやつなら、もう一人いるからさ」


その時、壊れたフェンスの辺りから「カラン」と金属音が響いた。

 

533: 2013/10/26(土) 16:42:42.90 ID:NByGssMP0


マミ「…?」

さやか「杏子…!」


マミが視線を向けると、杏子の槍が、そして落下した杏子本人再び這い上がっていた。

彼女がこれで終わるわけがないと信じていたさやかに、笑顔が戻る。


杏子「ハァ…ハァ…そう、役割分担ってやつさ…」

杏子「さやかには後でやってもらわなきゃいけない事があるからねぇ…」


杏子は血の滲む腹部を押さえながら、さやかの前に歩いていく。
そしてマミと正面から向き合い、さやかを庇うように片腕を伸ばした。


マミ「それじゃあ、私はもうお役御免という事ね」

杏子「ふて腐れんなよ……アンタにも、代わりのいない役割があるんだ」

杏子「だから……見頃しにしてたまるか…!こんな所で殺されてたまるか…!」

杏子「アンタはここで、絶対助ける!!」

マミ「………」


二人の言葉を受けたマミは、銃を構えたまま黙っている。
そして何を考えたのか、銃を放り投げてしまった。


さやか「マミさん…」

杏子「…聞き入れてくれたのか?」

マミ「今の貴方達…中々絵になってるわ。
   まるで美樹さんは捕らわれのお姫さま、佐倉さんはお姫さまを守る騎士みたい」

マミ「そして私の役割はこれでしょう?…二人を襲う悪い『魔女』!!」

 

534: 2013/10/26(土) 16:47:08.84 ID:NByGssMP0


マミは手を伸ばすと、作り出したリボンを渦巻かせる。
銃の代わりに中から現れたのは、巨大な大砲だった。


さやか「杏子…これさすがにヤバくない…!?」

杏子「………」

マミ「フフッ…これを撃っちゃえば、もう何もかもお仕舞いね。
   佐倉さんの命も、美樹さんの命も、私に残ってる魔力も…全部!!」

マミ「いくわよ、ティロッ…!!」


大砲にありったけの魔力を注ぎ込もうとしていたマミ。
だが、その肩に何者かがそっと手が置いた。


マミ「!?」

杏子「させねーよ、『魔女』になんか」


振り向いたマミの背後には、杏子の姿があった。
そして正面を向けば、そこにもさやかを庇うかのように杏子が立っている。


さやか「え…二人?」

マミ「佐倉さ…?」

杏子「アンタはアタシらの大切な―――」


背後の杏子は素早くマミの髪飾りからソウルジェムを取り外す。

マミが砲撃魔法『ティロ・フィナーレ』を中断する間もなく、杏子は全速力で屋上から遠ざかった。


マミ「そういう事ね…貴方、わざと撃―――」


やがて正面の杏子は、幻でも見ていたかのように霞んで消えていく。
それを見届けた後で、マミの意識は途切れた。

 

535: 2013/10/26(土) 16:52:45.15 ID:NByGssMP0



マミを止める戦いに決着が付いた頃、ゼロとほむらの決戦も一つの区切りを迎えていた。

地面に叩き付けられた魔女は、全く動く気配はない。
そしてゼロも、胸のカラータイマーが赤く点滅を始めた。


ほむら「エネルギーは大丈夫なの?警報機が鳴ってるわ」

ゼロ「警報機じゃねぇよ!だが、もうスッカラカンだ……『俺の分』は、な」

ほむら「なら大丈夫ね。隙だらけの今ならやれるはず…行って!」

ゼロ「おうッ!!」


ゼロはその場に立ち上がると、左腕を突き出す。
腕輪状態のイージスが光り輝き、弓矢を模した形状に姿を変えた。


ほむら「これは…『弓矢』?」


かつてのループの中で、この魔女を倒すことができたのは、契約した『鹿目まどか』の魔法のみ。
そして彼女が使っていた武器もまた「弓矢」。

ほむらは今のゼロの姿に、彼女の姿を重ねていた。


ゼロ「ふんんーーーーっ!!」


ゼロが光の弦を引き伸ばすと、イージスが内包するエネルギー全てが集中し始める。
同時に、四ヶ所ある未点灯のクリスタルの一つが輝きを宿した。

だが、その強大な『光』に反応してか、魔女の体が再び宙に浮かび始めた。


ほむら「しぶといのね…」

ほむら「彼は取り込み中よ。私が相手をしてあげる!」


魔女の回復時間を稼ごうとしているのか、またも使い魔が飛び出した。

溜め込んだグリーフシードのストックを強みに、惜しみなく時間停止を乱発するほむら。
ゼロへ向かおうとする使い魔達を、たった一人で葬り去っていく。

そしてクリスタルに、二つ目の光が灯る。

 

536: 2013/10/26(土) 17:03:46.62 ID:NByGssMP0


突如として、上空で無数の爆発が巻き起こる。


ゼロ(何だ!?)


魔女による反撃を警戒するゼロ。
しかし、爆発を起こしたのは魔女ではなくほむらだった。

魔法で動かしたトマホークを時間停止と組み合わせ、魔女が舞い上げたビルを次々に破壊していく。


ほむら(例えお前に通用しなくても、お前の『武器』くらいなら…!!)

ゼロ(ほむら!…もう少しだ。もう少しだけ粘ってくれ)


幾らビルを破壊しようと、魔女が再び力を取り戻せば全て振り出しに戻る。
しかし、ゼロの充填を妨げる可能性を、ほむらは少しでも潰しておきたかった。

クリスタルに三つ目の光が灯った時、魔女に笑い声が戻る。


魔女「…ウフフフッ…アハハハハッ…!!」

ほむら(もう力が…!?)


完全には回復できていない魔女は、炎の槍を一本撃ち出してゼロを狙う。
ほむらは盾を使い、身を挺して炎の槍を防いだ。


ほむら「絶対に…やらせない!!」


次々と放たれる炎をほむらが防ぎ続ける中、ゼロは魔女に狙いを定め続ける。


ゼロ(『ワルプルギスの夜』…温かい『心』が集まったイージスとはまるで逆だぜ)

ゼロ(たくさんの魔法少女が流してきた『涙』と、味わってきた『絶望』、
   それがお前の強さであって、お前自身なんだよな…)

ゼロ(でも、もう誰も呪わなくていいんだ。誰も恨まなくていいんだ)

ゼロ(暗闇はいつか―――)


先端のクリスタルに、最後の光が満ちる。
ゼロ最強の必殺技『ファイナルウルティメイトゼロ』の充填はついに完了した。

 

537: 2013/10/26(土) 17:23:19.67 ID:NByGssMP0


気付いたほむらは直ぐに離脱し、ゼロの射程から離れる。

ゼロはイージスの先端を魔女の胸部に定め、叫んだ。


ゼロ「これが、俺達の光ッ!」

ゼロ「そして、俺がみんなに示す…『希望』だぁぁッ!!」


光の弦から手を離すと、ゼロの腕からイージス本体が撃ち出された。

聖なる光を纏ったイージスは、魔女の胸部に命中し高速回転を始める。


魔女「フフフフフッ…アハハハハ…」

ほむら(あの『ワルプルギスの夜』が、完全に勢いに飲まれてる…)

ほむら(間違いない…勝てる!!)

ほむら(それだけじゃない。まどかだって、契約どころかインキュベーターの存在すら知らない)

ほむら(…ようやく辿り着けるのね、私の望んだ結末に……旅の終着点に)

ほむら(そしてこの『力』さえあれば―――)


かつてない程に好転した状況に、ほむらの内面は昂ぶっていた。
顔にはぎこちない笑みが浮かび、体中から身震いが止まらない。

そして魔女も、激しさを増す回転にただ圧倒されていた。


魔女「アハハハハッ…アハハハハハハ」

魔女「アハ…アハハハハ?」

魔女「ハハハ…ハ…?」

ゼロ「フィナーレェッ!!」

魔女「アアアァァァァァーーーーッ!!」


決め台詞とともに、『ファイナルウルティメイトゼロ』が魔女の体を完全に撃ち貫く。

歯車はその動きを止め、魔女の体は再び市街に崩れ落ちた。

 

545: 2013/11/06(水) 23:10:23.09 ID:H1L4+Tc60



クラスメート「ねぇ巴さん」

マミ「?」

クラスメート「駅前にすっごい美味しいスイーツのお店ができたらしくてさ、
       これからみんなで行ってみない?」

マミ「ごめんね、今日も予定が入ってて…」

クラスメート「…そっか。巴さんいつも忙しそうだもんね」

マミ「良かったらまた誘ってくれるかな?次は絶対行くから…」




マミ「大丈夫だった?」

魔法少女「ありがと、通りすがりの魔法少女さん!」

マミ「強敵だったわね、さっきの魔女…。貴方も無事で良かった」

魔法少女「全くだよ、殺されるかと思った…」

マミ「私は見滝原中学の巴マミ。良かったらこのグリーフシード、使って?」

魔法少女「…いいよ、それあげる」

マミ「え…?」

魔法少女「タダより高いものは無いって言うしねー。
     そのグリーフシードは巴マミさんの手柄ってことで、貸し借りナシにしようよ」

魔法少女「助けてもらっといて何だけど、これ以上貸しを作るのも嫌だし」

マミ「『貸し』だなんて…私はそんなつもり…」

魔法少女「…なんかアナタ、変わってるね。
     私たち魔法少女はみんなライバル同士ってこと、もっと自覚した方がいいんじゃない?」




少年「助けて…ママ…」

少年「ママァァーーーッ!!」



546: 2013/11/06(水) 23:15:49.73 ID:H1L4+Tc60


マミ「……ん…」

さやか「あっ」

杏子「やっとお目覚めかい?」


意識を取り戻し、マミは目蓋を開ける。
彼女の目に映ったのは、自分を見守るさやかと杏子の姿。


マミ「…私は……」

杏子「ほらよ」


杏子が差し出したのは、全ての穢れが取り除かれたソウルジェム。
浄化を終えたためか、先ほどまでの殺意は一時的に失われていた

更にさやかの魔法によって、傷が跡形もなく治癒されている。
マミの体だけでなく、杏子とさやか自身も同様だった。


マミ「……不用心ね」

マミ「魔力も体も万全にして野放しなんて…こんな時は、拘束くらいしておくものよ」

マミ「私がまた貴方達を傷付けてしまったらどうするの…」

さやか「大丈夫っすよ。マミさんの事、信じてますから」

杏子「それにまた暴れるようなら、何度でも止めてやるから」

マミ「そういう事を言ってるんじゃなくて…」

マミ「確かに…貴方が『ロッソ・ファンタズマ』を取り戻してたのは驚いたし、
   美樹さんの回復の精度も見違えた…けど……」

マミ「いいえ…ここで偉そうにするのも可笑しな話よね…私は責められる方なのに…」

マミ「ほんと…私ったら先輩失格だわ。貴方達を本気で殺そうとしてたなんて…」


突如として後悔が押し寄せ、腕で顔を覆い隠す。
その頬には、涙が一筋零れていた。

 

547: 2013/11/06(水) 23:23:32.98 ID:H1L4+Tc60


杏子「その…何だ?」

杏子「アタシだって玄関ぶっ壊しちまったわけだし……気にすんなよ」

さやか「私もガラス割っちゃったしね…これでお相子って事でさ…」

マミ「佐倉さん…美樹さん……本当にごめんなさい」


命懸けの戦いとは真逆な弱みを見せるマミに、二人も調子を狂わせる。

マミが落ち着くのを待ち、杏子は話を切り出した。


杏子「…謝るよ。今までの事ぜんぶ」

杏子「悪かった」

マミ「佐倉さん…」

杏子「あれこれ掻き乱して収拾つかなくしちまったのは、何もかもアタシの責任さ。
   …今更許してくれとは言わないよ」

さやか「私だって、マミさん突き放すような真似しちゃったんだ。杏子だけが責任感じる必要ないって…」

マミ「…私にだって、反省しなきゃいけない事が多すぎるわ。
   今まで言えなかったこと、ここで全部話させて…」


それぞれ責任を感じていた三人。
マミはこの機会を使い、自らの心中を語ることにした。


マミ「…私の戦いは、いつも孤独と隣り合わせだったわ。
   使命があるからクラスの子とはすれ違うし、どんなに人を助けても賞賛されることなんてない」

マミ「私の戦い方を理解してくれる魔法少女もいなかったから、家に帰れば一人で泣いてばかり…」

マミ「寂しかった…だから同じ道を志して、同じ敵を前に力を合わせる。そんな相手がずっと欲しかったの」

マミ「だから、貴方達を私の都合の良いように引き留めようとしていたのも事実かもしれない」

さやか「そんなの違う…」

さやか「私は平和のために戦うマミさんに憧れたからここにいるんだ。自分の意思だよ!」

 

548: 2013/11/06(水) 23:32:01.03 ID:H1L4+Tc60


マミ「でもね美樹さん、貴方の考えてる私はきっと、美樹さんの中の『理想』でしかないの」

マミ「私ね…昔魔女を倒せなくて、小さな男の子を助けられなかったことがあったの」

さやか・杏子「!?」

マミ「男の子は目の前で魔女に取り込まれて、私は泣く泣く結界から逃げたわ」

マミ「そこから、強くなるために必氏で努力した…」

マミ「私が『正義の味方』って言われるような戦い方を続けてきたのも、
   本当は私が不幸にした人達への、償いがしたかっただけ…」

さやか「そんな話、初めて聞いたよ…」

杏子「アタシも初耳さ…」

マミ「当然でしょう…頼れる先輩でいなくちゃいけない私が、
   貴方達に弱みを見せるわけにはいかなかったもの」

マミ「…でも、それが間違ってたのかもね。
   人一倍繋がりを求めてるくせに、本心を曝け出そうとしない…」

マミ「繋がるための一歩は踏み出せない…魔法少女の真実には耐えられない…
   私の心の脆さ、心底嫌になるわ…」

マミ「こんな私、本当に憧れられる?」

さやか「………」


さやかを見るマミの目は、返ってくる反応に怯えていた。


さやか「憧れるよ…今でも。マミさん色んなもの背負いながら戦い続けてたんだもん。
    …尊敬する。本当にカッコいいと思う」

さやか「…でもマミさんは、本当に魔女になりたいなんて思ってたの?
    その子みたいな犠牲者、マミさんが生み出してたかもしれないんだよ…」

マミ「あれが私の本心だったのか、今でもよくわからないの。
   でも、全てが壊れ始めたのは、真実を知ったあの日から……」

マミ「何度ソウルジェムを浄化しても、穢れが溜まるたびに私の中で誰かが囁くの。
   魔女になってしまえば、もう寂しくなくなるって…」

マミ「一人で苦しむ必要もなくなるって……だから私は……」

 

549: 2013/11/06(水) 23:40:08.20 ID:H1L4+Tc60


マミが心に抱え続けた全ての苦悩は、一週間前の暴露を引き金に暴発した。
結果、マミの心は呪いを生み、魔女に大きく近づいてしまった。

彼女が特に苦しめていたのは『孤独』。
しかし杏子は、そこに大きな違和感を感じていた。


杏子「一人じゃないだろ…」

杏子「アンタは自分で思ってるほど『孤独』なんかじゃない…」

杏子「…この一週間、ゼロは毎日アンタの元に来てたじゃんか」

マミ「………」

マミ「…ゼロさんは『違う』の」

杏子「『違う』?」

マミ「『ウルトラマン』は、私達『魔法少女』を超える力を持ってる。
   私が想像していたよりも、遥か上を行く強さをね…」

さやか「やっぱマミさんも、前の私みたいに劣等感感じてたの?」

マミ「ゼロさんの強さを妬む気持ちはないわ」

マミ「でもね…その『差』を知ってから、今までの関わりが全部嘘のように思えてきたの…」

マミ「あの人と一緒に戦う自分や、親しげに笑ってる自分がどうしても想像できない…」

杏子「アンタがこだわってたのはそこか…」


マミがゼロに対して作り上げてしまった『壁』は大きかった。

杏子が的確な言葉を投げかけられない中、
プラス思考を普段以上に働かせたさやかが、代わりに会話を繋げる。


さやか「…それじゃあもうこの先は大丈夫だね。ゼロさんとも仲良くやっていけますよ」

マミ「…?」

 

550: 2013/11/06(水) 23:58:21.47 ID:H1L4+Tc60


マミ「仲良く…本当にそうかしら…」

さやか「だってゼロさん、決戦が終わったら元の宇宙帰っちゃうんだよ?
    それにもう一度帰って来た後は、私達もう魔法少女の使命から解放されるわけだし」

さやか「だから別にゼロさんと一緒に戦うことなんて考えなくていいんすよ。
    次に合う時、みんなでどう楽しく過ごすかを考えましょうよ!」

マミ「どう楽しく過ごすか……」

杏子「さやか…」


さやかの考え方に、マミだけでなく傍で聞いていた杏子も納得していた。


マミ(そっか…考える必要なんてなかったのね…)

マミ(確かに、美樹さんの言うとおりかもしれない。私、何で今まで気付かなかっ……)

マミ(……いや)

マミ(まだゼロさんの方法が上手くいく保証が―――)


しかし、解きほぐされかけたマミの心の中で最後の疑心が抵抗する。


マミ「…でも!」

杏子「そう簡単に仲直りできないってんだろ?…わかるよ」

杏子「でもゼロなら…前みたいな関係に戻るのに、そう時間はかからないよ。
   アンタ、ゼロにはほとんどタメ口だったろ?そんだけ気を許してたなら大丈夫さ」

マミ「……え!?」


杏子の突然の指摘に、マミは戸惑いを隠せない。

敵視していた初対面は例外としても、マミは今まで、
二十代の青年に擬態したゼロに対し、言葉遣いを殆ど気にしていなかった。


マミ「嘘…いつの間に…」

さやか「言われてみれば…あのマミさんが年上に敬語使わないってのも珍しいかも」

杏子「さやかの場合、敬語とタメ口入り混じって意味わかんねーけどな」

さやか「いやいや、杏子だって終始タメ口じゃん!」


マミ(ゼロさんにそこまでの安心感を…?)

マミ(別世界から来て、宇宙人で、未来人で、巨人で…信じられない要素の塊みたいな人なのに…)

マミ(それでも…仲間として認めてたのよね、私)


次第に以前のようなゼロへの信頼を思い起こしていく。
やがてマミの疑心は、少しずつ影を潜めていった。

 

551: 2013/11/07(木) 00:18:33.24 ID:/+0tpkS30


説得の最中、地上ではなく空から複数の爆発音が響いた。

この時、魔女の舞い上げたビルをほむらが破壊し続けていたのだが、
彼女達はそれを知る由もない。


さやか「うわ、花火かよ!?」

杏子「いよいよヤバくなってきたのかもな…」

さやか「マミさん、避難所へ急ごう!もしかしたら、ここも戦場になっちゃうかも…」

杏子「動けないなら教えなよ。アタシが担いでく」

マミ「………」

杏子「おい、ボーッとしてる場合じゃ…」


さやかと杏子の二人で、マミの両肩を抱えて立ち上がる。
その間、マミは何かを感じている様子だった。


マミ「二人とも…感じない?」

杏子「何をさ…」

マミ「いいから…」

さやか「…何だろ?」


さやかと杏子が意識を集中すると、ソウルジェムを通して『魔力』でも『呪い』でもない、別の力を感じ取る。

それは、本来ジェムが感知しないはずの強い『光』。
しばらくして『光』は強さを増し、強大なエネルギーを解放した後でその反応を消した。


杏子「まさか…」

マミ「避難の心配、もう必要無くなったみたいね」


『光』とともに、見滝原市全体を包んでいた『呪い』の力が急激に失われていく。

それはゼロとほむらが『ワルプルギスの夜』討伐に成功したことを意味していた。


杏子「やったんだな、あいつら!」

さやか「絶対に勝つって信じてたもんね!」

さやか「…マミさん、『希望』が見えてきたよ!!」


マミ(ゼロさんはそれを本当に示してくれた。言葉だけじゃなくて、その身を以て)

マミ(だったら私も、少しずつでも信じてみようかな…)

マミ(輝く『希望』を…)


内に宿した呪いを振り払ったマミは、二人に微笑みかける。

そして三人は再び屋上に腰を下ろし、市街を見た。

 

552: 2013/11/07(木) 00:28:19.00 ID:/+0tpkS30


マミ「…『ワルプルギスの夜』、倒されちゃったわね。
   貴方の手柄にはならなかったけど、これで大勢の人が救われたわ」

杏子「もういいんだ」

杏子「アタシはただ、アンタともう一度繋がるきっかけが欲しかった。
   また一緒に戦う口実……デカいイベントが欲しかっただけなんだ」

マミ「私と…?」

杏子「ゼロからワルプルギスの話を聞いたとき、これしかないって思ったのさ…」

さやか「でも、イベントが中止になったわけだし、本当の気持ちは言葉で伝えないとねー」

杏子「わかってるって」


今度は自分の『壁』を壊す番なのだと、杏子は照れ臭そうにマミを見る。
伝えることができなかった言葉も、今この場なら言える気がした。


杏子「…ゼロはいつか絶対に、このふざけた仕組みをひっくり返してくれる」

杏子「でも…その『いつか』は今じゃない。もう少しだけ魔女との戦いは続くんだ。
   だからそれまでは、昔みたいにまた一緒に戦えないかな…」

杏子「…マミさん」

マミ「佐倉さん…」

さやか「そして何もかもが終わったら、一緒に戦う『仲間』じゃなくて、
    フツーの友達…いや大親友になりましょう!」

マミ「美樹さん…」

マミ「……喜んで!!」


それはマミがずっと待ち望んでいた言葉。
笑顔でさやかと杏子の手を取ると、強く握り締める。

マミは取り戻した繋がりを新たな始点として、
もう一度ゼロに歩み寄り、ほむらの事を受け入れようと決意した。

 

556: 2013/11/07(木) 23:16:23.26 ID:Vg+BL3z/0

【舞台装置の魔女 その6】



ゼロのカラータイマーは点滅を続け、腕のイージスも一時的に輝きを失う。
それは持てる力の全てを出し切り、『ワルプルギスの夜』討伐に成功した証。

ゼロの巨体は光に包まれ、再び人間体となってその場に倒れ込んだ。


ゼロ人間体「…はぁ…はぁ……」

ゼロ人間体「ははっ……どうだ、ほむら!」

ゼロ人間体「…『希望』、繋いだぜ!!」


歓喜に震えながら歩み寄るほむらに、
ゼロは仰向けのまま握り拳を振り上げた。


ほむら「本当に素晴らしい戦いぶりだったわ…」

ほむら「この感覚…言葉ではとても言い表せない…」

ほむら「貴方は確かに、あの日信じた『光』だった」

ゼロ人間体「…ヘッ」


照れ隠しでもあるかのように、ゼロは親指で上唇を擦る。


ゼロ人間体「そうだ、さやかと杏子は上手くいったのか…?」

ゼロ人間体「イージスの力が戻ったらすぐに出発だ…
      それまでに三人と、顔くらいは合わせて―――」


使い切ったイージスの力は、回復までに時間を要する。

回復を終えてこの宇宙を旅立つまでの間に、
さやかと杏子、そしてマミに会いたいと考えるゼロ。

しかし、ほむらの思惑はまだそれを許さなかった。


ほむら「…これで終わりじゃない」

ほむら「貴方にしかできない役目は残ってる。まだ帰すわけにはいかないわ」

ゼロ人間体「ちょっと待てよ…これ以上何かあるなんて話聞いてないぜ?」

ほむら「当然よ、さっき決めたことだから」

ゼロ人間体「おいおい…で、そりゃ何なんだ?」

ほむら「その聖なる『光』で、インキュベーターの母星を滅ぼすのよ」

ゼロ人間体「は…?」

 

564: 2013/11/17(日) 16:17:51.25 ID:YRWZx0ZQ0


その言葉が耳に入りながらも、ゼロは思わず聞き返さずにはいられなかった。

ほむらは期待に満ち溢れた表情でゼロを見下ろし、答えた。


ほむら「わからないかしら?奴等とその文明全てを消し去るの。
    改めてこの力を目にして確信できた…貴方になら、それができる」

ほむら「奴等を根絶やしにし、貴方の手で絶望の連鎖を終わらせるのよ」

ゼロ人間体「………」

ほむら「イージスの輝き、いつ蘇るの?」

ゼロ人間体「ほむら…」


笑みの奥底から、黒い何かを感じ取るゼロ。
それは今回だけでなく、以前から彼女の中に見え隠れしていたもの。


ゼロ人間体「…確かに、あの野郎がやってきたことは許せねぇ」

ゼロ人間体「時間を繰り返して、何度も奴を見てきたお前だ。
      あのゲスっぷりが骨身に染みてるのもわかるぜ…」

ゼロ人間体「それでも、考え直してみねぇか?」


キュゥべえに対するゼロの考えは、変わらず「説得」だった。

ほむらは勝利の余韻から一転し、うんざりした様子で溜め息をつく。


ほむら「本当にわかっているのなら、そんな答えは返って来ないはず。
    『感情』を持たない奴等を改心させようなんて、無意味な事は考えないで」

ゼロ人間体「無意味だなんて俺は思わねぇ」

ゼロ人間体「確かに奴は『感情』を持ってないかもしれない…でも『心』は持ってる!」

ゼロ人間体「なぁほむら…前にした話、覚えてるか?」

ほむら「…?」

ゼロ人間体「『ビートスター』の話だよ」


565: 2013/11/17(日) 16:21:27.53 ID:YRWZx0ZQ0


ゼロは再び『ビートスター』の名前を口にする。
ほむらは記憶を辿り、数週間前の密会を思い返した。


ほむら「貴方が倒したという機械の怪物だったかしら。…それが何?」

ゼロ人間体「俺はそいつを倒すことに躊躇いはなかった。
      とどめを刺すまでずっと、イカれたコンピューターだと思ってたからな」

ゼロ人間体「でも奴は、最期にこう言ったんだ……『私は怖かった』って」

ほむら「機械が『怖い』?プログラムか何かを勘違いしているだけよ」

ゼロ人間体「いいや、俺の仲間にもいるんだ。
      プログラムなんかじゃねえ、本物の『心』を持ったロボットが二人」

ゼロ人間体「…今にして思うんだよ。ビートスターにも同じように『心』が宿ってたのかもしれない。
      だから、怖えって『感情』も生まれたんじゃないかって」


この活躍でゼロ達は、天球による殺戮から惑星を救い、
父のセブンと再会を果たし、ウルティメイトフォースに新たな仲間も迎えた。

全てが最良の結果で終わったにも関わらず、ビートスターの言葉だけは、
大きな疑問となってゼロの中に残り続けていた。


ほむら「…話が見えて来ないわ。そいつとインキュベーターと今、何の関係が?」

ゼロ人間体「コンピューターが『心』を宿したくらいだ。
      最初から『心』を持ってる奴にも、きっと『感情』は芽生える」

ゼロ人間体「それに奴は、世界に悪意をバラ撒きてぇだけのワルとは何か違う。
      正義を貫こうとしてるのだけはマジだ」

ゼロ人間体「だから奴等が本物の正義を…
      命を慈しんで、弱い者を助ける『感情』を理解すれば、もっと違うやり方で宇宙を守ってくれる」

ゼロ人間体「俺は、それを信じたい」


566: 2013/11/17(日) 16:24:20.46 ID:YRWZx0ZQ0


ビートスターの存在は、キュゥべえに対するゼロの考え方に大きな影響を与えていた。
ゼロは自分の信じるままを伝えるが、ほむらを納得させるには至らない。


ほむら「…だから滅ぼす気はない、と」

ほむら「貴方はこの一ヶ月間、インキュベーターの何を見てきたの?
    奴はそんな純粋な想いにさえ付け入り、利用し、踏みにじる」

ほむら「奴等は貴方が戦ってきた魔女と同じ、地球に災厄をもたらす存在――つまりは『悪』よ。
    この宇宙から消し去ったところで、気に病む必要なんてない」

ほむら「奴等の命で全てを清算し、この地球に真の平和を取り戻して!」

ゼロ人間体「…『悪』か」

ゼロ人間体「ほむら、お前は―――」

ほむら「…私が何か?」


キュゥべえに対して今まで以上に強い敵意を向け始めたほむら。
ゼロは彼女に対して何かを口にしかけるが、途中でその口を噤む。


ゼロ人間体「いや…何でもねぇ。とにかく、俺はその話に俺は乗るつもりはないぜ」

QB「僕達を滅ぼすだなんて、物騒な事を話し合っているね」

ゼロ人間体「インキュベーター!?」

ほむら「……来たわね」


二人の意見が交わらない中、キュゥべえはその姿を現した。

 

567: 2013/11/17(日) 16:27:34.10 ID:YRWZx0ZQ0


QB「一部始終は見せてもらったよ。
   確かにその『光』の矛先が僕達の文明に向けられたなら、壊滅的な被害は免れないだろう」

QB「それ程までに、君の持つ『光』は強大で、魅力的だった」

ゼロ人間体「あのアドバイスには感謝してるが…前にも言った通り、テメェと組む気は全くねぇ。
      イージスの事なら諦めてもらうぜ」

QB「前にも話したとおり、僕は君の協力を強制するつもりはないよ」

QB「けれど、いつか迫り来る脅威に備え、腕輪の『光』は手に入れなければならない。
   そして君がいる限り『光』は望むようには扱えない」

ゼロ人間体「信じたいって話をしてた傍からテメェは…
      何だ、俺からイージスを奪い取ろうってのか?」

ほむら「今度こそ理解できたわね?貴方が信じようとしているインキュベーターは、こういう連中…」

ほむら「戦うのみよ!」

QB「いいや、戦いなら既に終わったよ」


キュゥべえはまだ、『闇』の存在に対抗する『光』を手に入れることを諦めてはいなかった。
そしてキュゥべえが発した一言に、周囲は一瞬静まり返る。


ゼロ人間体「…どういう意味だ?」

QB「焦らずとも、すぐにわかるさ」

ほむら「!?」


突如として、市街に倒れた魔女の歯車が動き始めた。

歯車の回転に手繰り寄せられるかのようにマイナスエネルギーが集中し、
『ファイナルウルティメイトゼロ』によって貫かれた上半身が再生していく。

 

568: 2013/11/17(日) 16:46:54.43 ID:YRWZx0ZQ0


ほむら「嘘……」

QB「『ワルプルギスの夜』、いや『舞台装置の魔女』―――その本体は、歯車さ!」

ゼロ人間体「テメェッ!!何でそんな大事なこと!!」

魔女「ウフフフフ……」


魔女の口から微笑が漏れ、その巨体は炎を纏いながら宙に浮かび上がった。

ゼロも限界を超えているにもかかわらず上半身を起こす。


ほむら「『ワルプルギスの夜』が……」

QB「そして人形の天地が逆転した時こそが、彼女の本気だよ。
   戯曲の準備は整った―――『光』を掴むのは、僕達だ!」

ゼロ人間体「…本気だと!?」

魔女「アッハッハッハッハッ…アーッハッハッハッ!!」


魔女はその頭を天に向け、大きな笑い声を上げる。
ほむらは目を見開かせ、その光景を見つめていた。


ほむら「まさかお前は、最初からイージスを奪う目的であの戦法を…?」

QB「僕達が優先していたのは、腕輪が秘めた『光』の最大出力を観測することさ。
   並行して『光』を手にできるかどうかは、僕達にとっても運任せとしか言いようがなかった」

QB「命運を分けるのは、『光』の一撃で人形と歯車のどちらを狙うのか」

QB「君達ヒューマンタイプの知的生命体なら、
   重要な生命器官の集中する上半身を、弱点としてイメージするだろうと考えていたけれど…」

QB「…まさか、全てがこんなにも上手く運んでくれるとは!」

ほむら「卑怯者……!!」

QB「その反応は理解に苦しむね。僕は君達に対して偽りなく、公正に情報を伝えたはずだ」

QB「それに、君が時間遡行の中で弱点を見抜いていれば、結果は全く違っていたかもしれないよ?」

ほむら(な……!?)

 

569: 2013/11/17(日) 16:54:30.16 ID:YRWZx0ZQ0


ほむら(この事態を引き起こしたのは…私…?)


指摘を受けたほむらは愕然とする。
彼女の全身から力が抜け、その場に膝を折った。


ほむら(こんなに時を繰り返しておきながら、私は…)

ほむら(確かに…まどかに追い詰められたあいつが、その体勢を変えていたのを何度か見たことがある…)

ほむら(でも、そこに意味があったなんて…)


この時間軸で全てを終わらせる―――
その誓いは魔女の復活を前に崩れ落ちていく。

その時、砂利を踏みしめる音が耳に入る。
目を向けると、そこにはウルトラゼロアイを手にして立ち上がるゼロがいた。


ほむら「…失敗よ、今回も」

ゼロ人間体「いや…まだだ…!」

ほむら「そんな体で何が…もう今の私達ではあいつには敵わない…」

ほむら「そう…この先何度繰り返しても……」

ゼロ人間体「ここで逃げたら、明日という日はやって来ねぇ……戦うぞ、ほむら!」

ほむら「無理よ!!」

ほむら「何故……何故貴方はそんな奇麗事ばかり語って、前を向いていられるの…?
    こんな状況に陥っても…まだ……」

ゼロ人間体「それが『ウルトラマンゼロ』だからだ!!」

ゼロ人間体「デュワッ!!」


ゼロアイを装着し、再び巨大なウルトラマンとなって魔女に立ちはだかるゼロ。

一度は自分を仕留めかけた相手を前にし、魔女の口元が僅かににやける。


ゼロ「何度でも来い!お前等が味わった絶望も何もかも、
   俺が全部…受け止めてやるぜぇぇっ!!」


その一瞬、ゼロの体は吹き飛ばされていた。

 

570: 2013/11/17(日) 16:57:28.86 ID:YRWZx0ZQ0


最初からその場にいなかったかのように魔女が消え、離れた場所に姿を現す。
同時に強い暴風が巻き起こり、更に街を破壊していく。


QB「あれはワープ能力の類じゃない。魔女本来の移動速度だ。
   このまま動き回られたら、見滝原がひっくり返るのも時間の問題だよ」

QB「君はどうするんだい、ほむら?」

ほむら「私は……」


ほむらは盾に手を伸ばそうとするが、その手は止まり震えている。

そしてビルに叩き付けられたゼロのカラータイマーはすぐに点滅を始めていた。
魔女の猛攻を前に、エネルギーの大半を失っているゼロは成す術もない。


ゼロ「おい、どうした!…お前も戦…!ぐああっ!!」

魔女「アハハハハハ!」

ゼロ「しっかりしろ!奴の弱点ならとっくに…がはっ!…時間停止なら…!!」

魔女「アハハハハハハハッ!」

ゼロ「…ほむら!!」

魔女「アーッハッハッハッハッハッ!!」

ほむら(…無理よ…もう…無理…)

ほむら(…貴方を連れてもう一度繰り返したとしても……きっと…)


時間停止の魔法は、ループの開始から一ヶ月の間だけ使用できる能力。

まだ魔法に猶予は残されていたにもかかわらず、ほむらはその場から動くどころか、
手を動かして盾に触れることすら出来なかった。

 

574: 2013/11/23(土) 16:09:09.54 ID:4OfVxw4b0

【舞台装置の魔女 その7】



魔女「アハハハハ…アーッハッハッハ!!」


魔女は凄まじい速度で動き回り、破壊の限りを尽くす。

避難所に被害が及ぶのも、もはや時間の問題。
しかしゼロの姿はなく、ほむらも瓦礫の山と化した市街を茫然と歩いていた。


ほむら「全て上手くいっていたはず…それなのに……」

ほむら「何故…」


ほむらは立ち止まると、足下に転がる石を拾い上げた。
それはただの石ではなく、ゼロの人間体サイズで石化したウルティメイトイージス。

彼女は最後まで援護に向かうことができず、ゼロは力尽きて消滅していた。


ほむら「そう…これが本当の私…」

ほむら「グズで…バカで…勇気もなくて…」

ほむら「結局私は……大切な人一人守れない!!」


過去最高の戦力が整いながら、全ては覆された。
これ以上の時間遡行を続けても無駄であると痛感し、無力さに涙が込み上げる。


ほむら「うっ…」

ほむら「うううっ…」

ほむら「…ああぁっ……!!」


575: 2013/11/23(土) 16:11:32.08 ID:4OfVxw4b0


ほむら「ごめん…」

ほむら「ごめんね……!」

ほむら「本当にごめんね……まどか!!」

QB「…まさか持ち主の消滅と同時に、腕輪の力まで失われてしまうとは」

ほむら「……っ!?」

QB「全く、大誤算だよ」


姿をくらませていたキュゥべえは、ほむらの前に再び現れた。

今、ほむらの口を遮る者は誰もいない。
洩らした言葉の全てが筒抜けだったと気付き、その表情は青ざめていく。


QB「『光』を失ったことは、この宇宙にとって本当に大きな損失だ。
   戦力については一から検討し直すしかないようだね」

QB「この損失を補うため、君に協力してもらうとしようかな」

ほむら「一体……何を企んで……」

QB「君の目的が組織や土地ではなく、個人にあることはこれではっきりしたよ。
   『まどか』という『大切な人』を『守る』こと、それが戦う理由なんだろう?」

ほむら「…!!」


イージスへ向けられていたキュゥべえの関心は、ゼロが消滅してすぐに失われていた。
当然、新たな矛先はほむらの目的へと向けられる。

ほむらは無関心を装うも、その行動は何の意味も持たなかった。


ほむら「……知らない」

ほむら「そんな奴知らない……私は何も言ってない…」

QB「君が口にした言葉も忘れたのかい?誤魔化しても無駄だよ」

ほむら「…誤魔化してなんか…」

QB「君が時間遡行者であるとわかったとき、僕達は一つの仮説を立てたんだ。
   もし君のループが全て、一人の人間を中心に行われていたとしたら…」

QB「一体どうなると思う?」


576: 2013/11/23(土) 16:14:28.54 ID:4OfVxw4b0


QB「君が辿ってきた時間軸――平行世界全ての因果が、その存在に集約されるかもしれない」

ほむら「…因果が…集約!?」

QB「もしこの仮説が正しければ、ループを重ねるごとに新たな因果が束ねられていく。
   結果、その存在が背負う因果は途方もないものになるだろう」

QB「君の指す『まどか』が一体何者なのか…早急に調べ上げる必要があるね」


キュゥべえの推測が恐らく正しいことは、ほむら自身も理解できていた。
それは『鹿目まどか』が狙われる原因が、全て自分にあると認めるのと同義だった。


ほむら(まどかの因果の元凶すらも、私だった…)

ほむら(私が何もしなければ…全部……)


『何もしない方がいい』

以前、さやかの動きを制限しようと残した忠告。
彼女を苦しめたその時の言葉が、周り巡って自分に返ってきた気がした。


QB「意外だね。君がここまで追い詰められてしまうとは」

QB「『闇』の側に立つ君だ。簡単に絶望するなんて有り得ないと思っていたよ」

ほむら「『闇』の存在…」

ほむら「……私が…?」

QB「そうとも。ウルトラマンゼロも気付いていたはずだよ、君の内に潜む大きな『闇』に」


キュゥべえがさりげなく口にした『闇』に、ほむら自身が全く自覚はなかった。
意図的である無しに関わらず、その指摘は更にほむらを追い込んでいく。


577: 2013/11/23(土) 16:16:39.57 ID:4OfVxw4b0


ほむら「違う…私は『闇』なんかじゃない…」

ほむら「私はずっと…守るべきもののために戦ってきた…」

QB「そのためには手段も選ばなかった」

ほむら「………」

QB「魔法少女もウルトラマンも、私欲を満たす駒としか見ていなかった冷酷な君だ。
   少なくとも『光』の側であるはずがない」

ほむら「そんなもの……私とお前に違いなんてないじゃない…!!」


ほむらは石化したイージスを放り投げると、キュゥべえに銃を向けて最後の抵抗を試みる。

対するキュゥべえの反応は、どこか呆れているようでもあった。


QB「違いなら、君のその行動が全てを物語っているじゃないか」

ほむら「!?」

QB「今銃を向けるべきは、僕達じゃなくて『ワルプルギスの夜』のはずだ。
   君が僕達インキュベーターに抱く、激しい憎悪の感情――それこそが『闇』の根源だよ」

ほむら「…嘘よ……」

ほむら「私は、いつの間にそんな存在に…」

QB「光あるところに影は生まれるものさ。
   僕が様々な宇宙で知った『闇』の存在達も、元は君と同じだったんだよ」


別次元の宇宙を調査する中で、インキュベーター達の文明は強大な『闇』について知った。

太陽を失い、『光』を憎みながら暗黒の皇帝となった者。
オリジナルを超えるため、破壊神と化したコピー体など。

一部の存在はほむらと同じ、心に芽生えた憎悪が発端だったという。

 

578: 2013/11/23(土) 16:24:41.05 ID:4OfVxw4b0


QB「度重なる時間遡行によって心を荒ませた君は、ウルトラマンという『光』と出会い、その力にすがった。
   結果、君自身が影となり、抱えていた『闇』を深いものに変えてしまったのかもしれないね」

QB「また時を繰り返しても、この時間軸に残っても、その『闇』は更に膨れ上がることだろう。
   そしていつの日か、君の大切なものにさえ牙を剥く」

ほむら「聞きたくない…」

QB「君は大切なものを守れなかったんじゃない。最初から守る資格なんてなかったのさ!」

ほむら「もうやめて……私の負けだから……」


ほむらは銃を握っていた手を放し、両手で耳を塞ぐ。

しかしキュゥべえは魔女化を促すべく、念話で彼女の頭に訴えかけ続ける。


QB(…命はね、誕生した時より必ず消滅へと向かう。そう、全てのものは滅び去るんだ)

QB(けれど、魔法少女の氏は決して無駄にはならない。
   君の感情が生み出すエネルギーが、この宇宙の消滅を遠ざけてくれる)

QB(君こそが、この宇宙の未来そのものなんだ)

QB(だから自分を無価値に思う必要はないよ、ほむら。
   この世に生を受けた意味は十分にあったじゃないか)

ほむら「うっ…うぐ……う…」

ほむら「うあああああぁーーーーっ!!」

魔女「ウフフフフ…アハハハハハッ!アーッハッハッハッ!!」


ほむらの心に、未だ味わったことのない絶望が襲い掛かる。
だが、その慟哭も魔女の笑い声に掻き消されていく。


QB(『まどか』の存在は僕達が引き受けた。
   さぁ、恐怖と絶望に身を委ね、今までの働きを取り戻そう!)

 

598: 2013/12/01(日) 22:07:17.71 ID:JTI0Nkkt0


魔女「アハハッ…アハハハハハッ!!」


ほむらが絶望に苛まれる中、『ワルプルギスの夜』の脅威は見滝原を崩壊へと導いていく。
その間、キュゥべえだけがこの場に現れた何者かの存在に気付いていた。


QB「…まさか、あの状態から脱するとは」


伸ばされた手は、ほむらが投げ捨てたイージスをそっと拾い上げる。


QB「成長したね、マミ」

マミ「………」


その人物とは、事態を知って駆け付けたマミだった。

彼女は手に取ったイージスを黙って見つめ、ゼロの敗北を理解する。
やがて石化した腕輪にはひびが入り、粉々になって手のひらから零れ落ちた。


QB「彼は消滅し、同時に腕輪の『光』も潰えた。…でももう大丈夫だ」

QB「ウルトラマンゼロの代わりも君の代わりも、全てほむらが果たしてくれるからね。だから―――」

マミ「今まで通りに話す気はないわ。黙ってて」


マミはキュゥべえの言葉を突き放すように遮り、ほむらの近くまで歩み寄る。


マミ「…今までの、強気な貴方はどうしたの?」

ほむら「……巴マミ?…どうやって…」

ほむら「貴方は、魔女になるしかなかったはず…」



マミの心の弱さをよく知るだけに、ほむらは彼女が魔女化せずにこの場にいることが信じられない。


599: 2013/12/01(日) 22:12:17.76 ID:JTI0Nkkt0


マミ「…私自身は弱いままよ」

マミ「でもいつか、運命や宿命に向かい合わきゃいけない時が来る。
   それが今だって、あの子達が…そしてゼロさんと貴方の戦いが気付かせてくれた」

マミ「だから私はここにいるの」

ほむら「佐倉杏子に、美樹さやかまで…」


マミより少し遅れて、杏子とさやかも市街に到着した。


杏子「只一つだけ、守りたいものを最後まで守り通す…それがアンタの戦いだろ?」

杏子「違うのかよ、ほむら」


杏子の叱咤に続き、今度はさやかがほむらの傍まで近付く。

彼女は地面に剣を突き立てると、魔法陣を展開してほむらを囲む。
回復魔法が発動し、ほむらが戦いで負った傷を治癒していく。


さやか「さ、これで立てるよね」

さやか「こんな所で終われないでしょ?行こ、まだ守れるから!」

ほむら「無理よ……」

さやか「無理って何でよ?あんたらしくないなぁ」

ほむら「…だって、私は『闇』だから」

さやか「『闇』…?」

ほむら「私は…ウルトラマンという『光』の影…
    何かを守る資格なんてない…悪意を振り撒くだけの存在…」

ほむら「私が傷付けてきた貴方達なら、よくわかるはずよ…
    それにこの決戦でも…貴方達の氏を想定して作戦を組んだ…」

ほむら「私はこれ以上堕ちる前に…魔女になって倒されるべきなのよ……」

 

600: 2013/12/01(日) 22:27:10.60 ID:JTI0Nkkt0


キュゥべえが、ほむらの精神を揺るがす何かを伝えたのは間違いない。
そう理解した三人は、彼女を責めることなく手を差し伸べる。


さやか「私達だってね、元々決戦には命懸けるつもりだったんだ。
    その程度のこと、気にしてんじゃないわよ」

さやか「…心配しなさんなって。『闇』なら振り払えるから」

ほむら「これは『呪い』とは訳が違う…振り払えるわけないわ…」

杏子「だーから、大丈夫だっての!!」

さやか「杏子?」

杏子「アタシは『呪い』に蝕まれたことなんて一度もない。
   …でも、今までどんな酷いことをやってきたのか…情報通のアンタならよく知ってるはずだよ」

杏子「アンタの言う『闇』?きっと同じものを、アタシも持ってたんだ」

ほむら「………」

杏子「でも今は違う…それだけは自信を持って言えるからな。だから大丈夫さ」

マミ「『光』が影を作り出すなら、その中で迷わないために必要なのは『繋がり』…」

マミ「私達と一緒にもう一度戦いましょう、暁美さん」


しかし、ほむらは立ち上がることができない。

本来なら前回の時間軸で折れていたはずの信念は、
この敗北によって折れるだけでは飽き足らず、粉々に砕かれてしまっていた。


ほむら「何度言わせれば…もう無理よ……」

ほむら「ゼロですら負けたのよ…私の目の前で…そして私は、何もできずに……」

杏子「アイツがこの程度で氏ぬかっての。ウルトラマンの万能っぷり舐めてんじゃねーよ」

さやか「何となく感じるんだよね。今は力が足りなくて、動けないだけだって」

マミ「戦えないなら、せめてそこで待ってなさい。
   これからどうするのか、私達の戦いを見届けた後に決めても遅くないはずよ」

 

601: 2013/12/01(日) 22:37:23.17 ID:JTI0Nkkt0


ほむら「理解できない…ゼロも貴方達も、どうして戦えるの…?」

さやか「何で戦えるかって?そりゃあみんなを守りたいから。それだけ!」

杏子「ガラじゃないけどさ…アタシも一度くらいハッピーエンドってのを経験してみたいんだよ」

マミ「もう少しで、孤独も弱さも乗り越えられそうな気がするの。
   …今ここで戦わなかったら、私はこの先絶対に後悔する」

マミ「あの時ああ言えば良かった、こうしていれば良かった……そんなのはもう沢山。だから私は戦うわ」

ほむら「………」


その時、四人を巨大な影が覆い尽くす。
彼女達の頭上には炎を纏った魔女が浮かび、こちらを見下ろしていた。


魔女「ウフフフフ…アハハハハ…!!」

マミ「どうやら、お喋りの時間はお仕舞いのようね…」

マミ「…魔法少女の強さを見せてやる」


マミは魔女に向けて銃を掲げる。
さやかと杏子も武器を掲げ、マミの言葉に合わせて声を張り上げる。


さやか「魔法少女の強さを見せてやる!」

杏子「魔法少女の強さを見せてやるッ!」


マミ・杏子・さやか「魔法少女の強さを見せてやる!!」


最強の魔女に挑む決意を固める三人。
彼女達が気付かぬ内に、それぞれのソウルジェムは『魔力』と異なる煌めきを放っていた。

 

604: 2013/12/08(日) 14:51:53.66 ID:rQMFto2X0



その頃、成す術なく敗れたゼロの意識は、物質世界とは異なる空間で目を覚ました。
周囲は静寂に包まれ、ゼロだけが人間体の姿で空間に浮かんでいる。


ゼロ人間体「ん…」

ゼロ人間体「…俺は…どうなった…?」

ゼロ人間体「……そうか、俺はあの時…負けたんだ」


体どころか、指一本動かすこともままならない。
その上、左腕にあったはずのイージスも消えてなくなっていた。


ゼロ人間体「でも、俺は知ってる……この場所、この存在感を…」

ゼロ人間体「俺をこの宇宙に導いたのは、あんただったんだな……」

ゼロ人間体「『ウルトラマンノア』」


『ウルトラマンノア』
それは次元を渡る力を持ち、様々な宇宙を見守るという伝説の守護神。

かつてアナザースペースで繰り広げたウルトラマンベリアルとの決戦で、
ゼロの勇気を認め、ウルティメイトイージスを授けてくれた存在でもある。

しかし、感じるのはノアがここにいたという微かな気配のみ。
ノアは既にこの宇宙を去った後だった。


ゼロ人間体「…何だ?」


ノアがこの宇宙を訪れた事実を知ると同時に、空間に一つの映像が浮かび上がる。

そこに映っていたのは、ほむらともう一人の魔法少女が『ワルプルギスの夜』と氏闘を繰り広げる様子。

 

605: 2013/12/08(日) 14:55:28.38 ID:rQMFto2X0


ゼロ人間体「ほむら…それにもう一人は…」


弓矢を扱う魔法少女の活躍によって、辛くも勝利を治めた。

しかし少女は戦いの果てにソウルジェムを濁らせ、超巨大な魔女へと変貌してしまう。
その姿は、初めて地球を訪れた時に目の当たりにした『救済の魔女』そのものだった。


ゼロ人間体「やっぱり、あの魔法少女が『鹿目まどか』…」


ほむらは何度も時を巻き戻した。

この空間は物質世界の時間から完全に切り離されているらしく、
ほむらがかつてのループで経験した出来事が次々と映し出される。

しかし、無限に続くかに思われた彼女の戦いは、
『鹿目まどか』が口にしたある願いによって終わりを告げた。


『全ての魔女を、生まれる前に消し去りたい。全ての宇宙、過去と未来の全ての魔女をこの手で…』

『神様でも何でもいい…今日まで魔女と戦ってきたみんなを、
 希望を信じた魔法少女を、私は泣かせたくない。最後まで笑顔でいてほしい』

『それを邪魔するルールなんて、壊してみせる。変えてみせる!』

『これが私の祈り、私の願い。さぁ叶えてよ、インキュベーター!!』


キュゥべえは驚きながらも契約を成立させ、その願いは遂げられた。

『鹿目まどか』は自らが魔女の存在を否定する概念となることで、宇宙のルールを改変。
魔女の代わりに『魔獣』と呼ばれる怪物が現れ、魔法少女は呪いを生み出す前に消え行く運命となった。

そして『鹿目まどか』が消えた新たな世界で、ほむらは再会を信じて戦い続ける―――

 

606: 2013/12/08(日) 14:58:29.51 ID:rQMFto2X0


ゼロ人間体「………」

ゼロ人間体「これが…起こっていたかもしれない、ほむらの旅の終わり…」

ゼロ人間体「こうなる以外に、ほむらが救われる結末はなかったってのか…?」

ゼロ人間体「…こんな終わりを、あいつは本当に受け入れられるのか…?」


映像は途切れ、周囲に再び静寂が戻る。

この結末はあくまでも、過去に起こっていたかもしれない、この先起こるかもしれない出来事。
しかし現実の戦いは、ほむらの絶望によってその幕を閉じようとしている。


ゼロ人間体「まさか…俺に運命を変えさせるために、ほむらの声を…」

ゼロ人間体「こんなの見せられて、尚更諦められるか…!
      こんなところで、いつまでもジッとしてられるかよ…!!」

ゼロ人間体「頼む…俺にもう一度、戦う力を…!!」


ゼロは悔しさに身を震わせ、拳を握り締めながら懇願する。


ゼロ人間体「………」

ゼロ人間体「?」

ゼロ人間体「今、何か…」


ゼロの頭に微かに言葉が響いた。
すると体に『光』と、『光』ではない別の力が漲ってくる。


ゼロ人間体「『力を与えてくれるのは彼女達』?それはどういう―――」

さやか「うわっ、何ここ!?」

杏子「いきなり何だってんだ?街もワルプルギスも見当たらねーし…」

ゼロ人間体「…杏子にさやか?」

 

609: 2013/12/09(月) 01:04:18.10 ID:UJ8qUttK0


振り向くと、そこには並んで空間に浮かぶ杏子とさやかの姿があった。


ゼロ人間体「お前ら、どうしてここに…?」

杏子「あんたは……ってゼロじゃんか!?」

さやか「やっぱ生きてたぁーーっ!!」


消滅したはずのゼロを見つけ、驚きと安堵に沸く二人。

続いて、戸惑いながら周囲を見渡すマミが姿を見せた。


ゼロ人間体「それに…マミ!?」

マミ「ゼロ…さん?」

ゼロ人間体「戻ってきたんだな!!」

ゼロ人間体「やっぱお前らを信じて正解だったぜ、さやか!杏子!」

さやか「まぁね!」

杏子「…ヘッ」


和解を望むマミは、恐る恐るゼロの正面に回った。
杏子とさやかは、その様子を傍らで見守る。


ゼロ人間体「…ホント、無事で何よりだぜ」

マミ「私こそ、ゼロさんが無事で良かった…」

ゼロ人間体「いや、俺は無事ってわけじゃないんだがな……」

ゼロ人間体「……ははっ」


状況は切迫しているにも関わらず、ゼロの口から笑いが零れた。
そんな彼の様子を、三人は不思議そうに見つめる。
 

610: 2013/12/09(月) 01:09:50.89 ID:UJ8qUttK0


マミ「…どうしたの?」

ゼロ人間体「いや、こうしてまた話せるのが嬉しくてな…」

マミ「………」

マミ「……ごめんなさい。私の心が脆いばかりに、また心配を…」

ゼロ人間体「…いいや、謝らなきゃならねえのは俺の方だ」

マミ「ゼロさんが?どうして……」

ゼロ人間体「俺はお前のことを知らなすぎたからな…」

ゼロ人間体「杏子、さやか、ほむら、そして俺…みんなが何かを抱えてる中で、
      お前だけが前向きに戦ってるんだって、ずっと思ってた」

ゼロ人間体「本当はそうじゃないんだって、俺が気付けていれば…
      少しでもお前に目を向けていれば…こうはならなかったんじゃないかってよ」

マミ「それは違うわ…」

マミ「弱みを見せようとしなかったのは私の方なの…ゼロさんに非は無いわ!」

マミ「それに、私が勝手なこだわりを持っていたせいで、貴方をずっと拒絶してしまってた…
   気付かなくて当然だったのよ…」

マミ「でも、もう大丈夫。……私も、二人と同じように貴方を信じてみるから」

マミ「貴方と肩を並べて戦おうなんて、もう考えない。
   貴方がこの世界を変えた後に待ってる、煌めく未来……今はそれを信じて戦うことに決めたの」

マミ「私達が『ワルプルギスの夜』を倒して、必ず貴方が旅立てるようにしてみせる。
   だから、もう少しだけ待ってて!」

ゼロ人間体「マミ……」


もう心配はいらないと、マミはゼロに笑いかけた。


ゼロ人間体「そりゃないぜ」

マミ「え?」

 

611: 2013/12/09(月) 01:26:56.53 ID:UJ8qUttK0


その反応はマミだけでなく、彼女を説得した杏子とさやかにとっても意外なもの。

マミの得た答えに、ゼロは納得できていなかった。


ゼロ人間体「魔法少女とウルトラマンは共に戦えない?…いいや、そんな事はねぇ」

ゼロ人間体「地球で戦ったウルトラ戦士達はな、俺の親父も含めてみんなこう言うんだ。
      人間が…共に戦う仲間がいたから戦えたって」
      
ゼロ人間体「俺も初めて地球に来て、その意味がわかった気がした。
      俺達はどちらかが守り守られるだけじゃない、一緒に戦うことはできるんだ」

マミ「…本当に、そんな事が?」

ゼロ人間体「方法なら幾らでもあるさ!お前達のお陰で、力も満ちた」

ゼロ人間体「行こうぜ…今から俺達は、一心同体だ!!」


突如としてゼロの全身が光輝く。
三人はゼロの言葉の意味が飲み込めないまま、光に視界を遮られた。




マミ・杏子・さやか「魔法少女の強さを見せてやる!!」


さやか「…って、ありゃ?」

杏子「え、待てよ…さっきまでアタシら、ゼロと話してたよな?」

さやか「うん、覚えてる。一心同体がどうとか……」


気付けば、三人は声を揃えた直後に戻っていた。
上空には魔女が、目の前には絶望に染まりかけたほむらの姿。

だが、不思議な空間でゼロと会話したことは鮮明に覚えている。


さやか「…マミさん、どしたの?」

マミ「………」


何かに驚いているマミの様子を、さやかはそっと窺う。

さやかの目に入ったのは、マミの左腕に蘇ったウルティメイトイージスだった。

 

612: 2013/12/09(月) 01:44:03.72 ID:UJ8qUttK0


さやか「ゼロさんの腕輪だ…」

杏子「やっぱ夢じゃなかったんだな」


マミは何かを確認するかのように、杏子とさやかに目を配る。
二人も、マミを後押しするかのように頷いた。


マミ「…行きましょう!」


共に戦うことの意味を理解した三人は、『心』を合わせて叫んだ。


マミ「はあああぁぁぁ―――っ!!」

杏子・さやか「うあああぁぁぁーーーっ!!」


彼女達の『諦めない』意志に呼応するかのように、腕輪は更にその形を変えた。
腕輪から発せられる虹色の光は、大きな渦となって三人を包み込んでいく。


魔女「アハハハハ…アーッハッハッハッ…!!」

魔女「アハ……!?」


光は竜巻のように舞い上がり、上空の魔女へ直撃する。
魔女は落下し、光の渦も空でうねりを描いた後で市街へ降り立つ。

そして光の中からは、誰も見たことのないウルトラマンが姿を現した。

 

618: 2013/12/15(日) 21:31:45.57 ID:eky54Yj60

【舞台装置の魔女 その8】



ほむら「ゼロ…じゃない…」

ほむら「新しい……ウルトラマン?」


輝きを失ったほむらの瞳に、神秘的な巨人が映る。

銀色に光る全身、虹色のオーラを発する左腕の腕輪、
胸部に煌く、カラータイマーともソウルジェムともわからない巨大な結晶。

それは紛れもなく『ウルトラマン』であったが、全体像はゼロと大きく異なっていた。


QB「あの姿、まるで宇宙が人を象ったかのようだね」

QB「そしてこの力は…」


目を凝らしたキュゥべえは、輝きの奥底にゼロと一体化したマミ、杏子、さやかの姿を見る。


QB「…なるほど」


そこにゼロはいなかったが、彼も近くで共に戦っていることを、魔法少女達は理解していた。

そしてウルトラマンをどう動かし、どう戦うのか、全ての判断が自分達に委ねられている事も。


ウルトラマン「オオォォ…」

魔女「アハハハハッ…!」


魔女は再び宙に浮かび上がると、新たなウルトラマンを見下ろした。
直後、ほむらが目で追えない程の速度で急降下し、ウルトラマンを狙う。

振るわれた巨大な腕が、ウルトラマンを叩き潰さんと迫った。


619: 2013/12/15(日) 21:34:20.26 ID:eky54Yj60


魔女「アーッハッハッハッハッ!!」

ウルトラマン「フンッ!!」


魔女の腕がウルトラマンに接触した瞬間、その体は霧を払うかのように消えていく。
霧散したウルトラマンの体は、瞬時に魔女の背後で再構成された。


ほむら「!?」

ウルトラマン「シェェアッ!!」

魔女「アハッ!?」


ウルトラマンが振るった拳が魔女の背中に命中し、その巨体を揺るがした。
二発目を繰り出すも、魔女は素早い動きで腕を伸ばして攻撃を防ぐ。


QB「さっきのは杏子の魔法だね」

ほむら「魔法…?」


幻影のように消えるウルトラマンの瞬間移動能力に、キュゥべえは杏子の魔法とよく似た性質を感じ取る。


ウルトラマン「オオォォォォ…」

魔女「ウッフフフ…」


ウルトラマンは腕輪に触れてエネルギーを引き出すと、胸の前で球状に集中させる。
対する魔女も口を開き、通常時を遥かに上回る威力で炎を撃ち出した。


ウルトラマン「マァギカッ!!」

魔女「アアァァッ!!」


エネルギー弾と炎の槍が激しく衝突し、両者を後ずさらせる程の大爆発を巻き起こした。

 

620: 2013/12/15(日) 21:36:49.32 ID:eky54Yj60


ほむらは立ち上がり、爆風に吹き飛ばされないよう身構える。


ほむら「くっ…!!」

QB「あれはマミ」


爆炎が晴れた時、両者は既に次の攻撃態勢に移っていた。

ウルトラマンは手のひらに集中したエネルギーで円形のカッターを、
魔女も周囲に、魔法少女の姿をした使い魔を大量に呼び出している。


ウルトラマン「シェーアァッ!!」

魔女「アハハハハハッ!!」


ウルトラマンが放ったカッターは、空中で複数に分散して魔女を狙う。
使い魔達も一斉に主の元を飛び出し、一つのカッターを十数体がかりで抑え込む。

ぶつかり合う二つの力は対消滅し、ウルトラマンと魔女は再び睨み合った。


QB「これはきっとさやかだ」

ほむら「お前には…何が見えているの?」

ほむら「…説明して」


ほむらには、目の前で起きている出来事を完全に把握できていない。
仕方なしに、彼女はキュゥべえの観察眼を頼ることにした。


QB「今『ワルプルギスの夜』と戦っているのは、ウルトラマンと魔法少女の融合体だ。
   『光』と『魔力』、二つの強い力を感じるよ」

ほむら「…融合体?」

 

621: 2013/12/15(日) 21:41:34.42 ID:eky54Yj60


ほむら「彼の『光』は完全に失われたはずよ……お前のせいで」

QB「佐倉杏子、巴マミ、美樹さやか―――彼女達のお陰さ」

QB「治療や浄化、それぞれきっかけは異なるけれど、
   三人はソウルジェムにウルトラマンの『光』を宿していた」

QB「彼女達の意志がその『光』を高め、『魔力』とともに彼に還元したのだろう」

ほむら「彼女達の『光』が……彼を蘇らせたと?」

QB「そういう事だね」


空中ではウルトラマンが、魔女との体格差を物ともしない格闘戦を繰り広げている。

内部で懸命に戦っているであろう三人と、『闇』を膨らませた自分との差に、ほむらは気持ちを沈ませる。


QB「信じられないかい?でも、こうして奇跡は起きた」

QB「そして、その不可能を可能にしたのは、恐らく―――」


キュゥべえの目が追っているのは、ウルトラマンの左腕でオーラを放ち続ける腕輪。


QB「お手柄だよ、みんな」

QB「もしウルトラマンがこの戦いに勝利したなら……
   僕達に再び『光』を手にするチャンスが訪れるかもしれない!」

ほむら「………」


ほむらはキュゥべえを横目で見ながら、その本質を変えることなど出来はしないと改めて実感する。

だが「ウルトラマンが勝利する可能性」は、絶望へ突き進むしかなかった彼女に少しずつ変化を与えていた。

 

627: 2013/12/29(日) 16:54:26.47 ID:eVwR6SUw0


魔女「アハハハハッ…!!」

ウルトラマン「フンッ!!」


魔女は竜巻のように高速回転しながら空中を移動し、その後を追ってウルトラマンも飛び立つ。

ウルトラマンは宙に浮かぶ無数のビルを避けながら、再び円形のカッターを放った。


ウルトラマン「…シェアリャッ!!」

魔女「ウフフフフ…ッハハハハハッ!!」


空中で分散したカッターが敵を追尾するが、回転の勢いはカッター全てを弾き、防ぎきる。

反撃に移った魔女は、舞い上げたビルを粉々に砕きながら猛スピードでウルトラマンに迫る。


ウルトラマン「ハァァァッ!!」


ウルトラマンも瞬間移動を駆使して攻撃を回避。
瞬時に魔女の真上に移動すると、魔力を纏った拳を叩きつける。


ウルトラマン「デェェァッ!!」

魔女「アッハハハッ!!」


拳の一撃が魔女の回転を止め、同時に凄まじい暴風が巻き起こった。

この一瞬、暴風にも動じないウルトラマンとまだまだ余裕を見せる魔女、両者が正面から向かい合う。


ウルトラマン「………」

魔女「………」

魔女「……アハッ!!」

ウルトラマン「マァギカッ!!」


すぐに両者は攻撃動作に移り、エネルギー弾と炎が至近距離で衝突した。


628: 2013/12/29(日) 17:05:20.09 ID:eVwR6SUw0


QB「すごい戦いだね。ここまで熾烈な『祈り』と『呪い』の激突を見るのは、僕も初めてだよ」


上空で起きた大爆発を、ほむらとキュゥべえはただ見守る。
だが、ウルトラマンと魔女が繰り広げる戦いに、彼女達はある違和感を感じていた。


QB「でも、ウルトラマンと魔女の力は完全に互角だ。どちらも決め手に欠けている」

ほむら「そのようね。…このままでは、いつまで経っても決着はつかない」

QB「『光』でも『闇』でも構わない。
   ほんの数秒でも、ウルトラマンを有利に傾かせる要素があれば…」


キュゥべえの呟きを聞き、ほむらは戦いから目をそらす。


ほむら(『闇』……私の事ね。つまり手段を探せとでも言っているの?)

ほむら(私に出来ることなんて、もう何も…)


ウルトラマン「オオオォォォッ!!」

ほむら(!?)


またも後ろ向きになりかけたほむらの耳に、今度はウルトラマンの高い声が響く。
気付けば魔女が火球を連続で撃ち出し、ウルトラマンは腕を組んで攻撃を防いでいた。

この互角の戦いも、いつまで続くのか誰にも分からない。


ほむら(ウルトラマン…)

ほむら(…いいえ、もう迷ってる暇はない)


ほむらは不安と戦いながら、打開策を探し始めた。
魔力の応用だけでなく、自身の装備にも徹底的に目を向ける。

だが、彼女が集めたあらゆる兵器でも、今から見滝原市の外へ魔法少女の協力を求めたとしても、
本気の『ワルプルギスの夜』をひるませることは恐らく不可能。


ほむら(数秒でもいい。何かあるはず…)

ほむら(何か……)


ギリギリまで穢れを溜めたソウルジェムを見つめながら、思考をめぐらせるほむら。


ほむら(数秒…!?)


やがて、彼女は辿り着いた。
一週間前の記憶―――『銀』の魔女結界で起きた、想定外の出来事に。

 

629: 2013/12/29(日) 17:10:39.31 ID:eVwR6SUw0


ほむらはすぐさま盾の一部分を確認する。
内蔵されている砂時計には、流れ切ることなく僅かに砂が残っている。

ほむらが時間停止を扱えるのは、ループ開始から数えて一ヶ月の間のみ。
そしてこの砂時計が示す時間もまた、開始からの一ヶ月間。


ほむら(私には、まだ……)

ほむら(…できる事はある!)


さやかが施した治癒魔法によって、肉体へのダメージ完全に回復済み。
そして、決戦のために集めてきたグリーフシードもまだ十分な数を残している。


ほむら「インキュベーター」

QB「?」

ほむら「…お前は私の敵。誰が何を言おうと、それはこれからも変わらない」

ほむら「でも、お前もこの状況を変えたいと考えているなら…
    私と利害が一致しているのなら……力を貸して」

QB「まさか、この戦いの中に飛び込むつもりかい?」

QB「君の命は確実に危険に晒される。
   それに、君にもしもの事があれば、ウルトラマンにも影響を与えかねない!」


ウルトラマンを動かす魔法少女達に動揺を与えてしまえば、敗北にも繋がる隙が生まれてしまう。
ほむらはそれを十分理解した上で、決戦に介入することを決めた。


QB「…本気なんだね、ほむら」

QB「わかったよ。僕は一体何をすればいいんだい?」

ほむら「お前の力で念話を強化して、私の声をウルトラマンの中の三人に届けるの」

ほむら「それだけでいいわ」

 

630: 2013/12/29(日) 17:21:40.44 ID:eVwR6SUw0
つづく


>>606
更新が遅いので後付けに見えるかもしれませんが、当初から仕込んでいた伏線です。

637: 2014/01/04(土) 23:25:52.82 ID:/NJBzxqb0


ほむらはストックのグリーフシードを使い、ソウルジェムの穢れを全て取り除いていく。

しばらくして、回復を終えた彼女の肩にキュゥべえが飛び乗った。


QB「準備は整ったかい?」

ほむら「ええ。始めて」

ほむら(………)


ほむらは意識を集中し、念話を送り始めた。
そのテレパシーを、キュゥべえの力がウルトラマンの光の奥底まで送り届ける。


ほむら(…巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子、ウルトラマンゼロ……聞こえるかしら?)

ほむら(私は、貴方達と同じ『光』の側には立てなかった。
    利用と裏切りを重ねてきた私だもの。こうなるのは必然だったのかもしれない…)

ほむら(けれど……私は信じてる。貴方達は絶対に負けないと)

ほむら(だから貴方達も少しだけでいい…今だけでもいいから、私を……)

ほむら(……私を信じて!!)


上空で魔女との格闘を続けるウルトラマン。
一切の油断が許されない状況でありながらも、三人の魔法少女はその声に耳を傾けていた。


マミ(暁美さんの声だわ)

杏子(『信じて』ってさぁ、この状況で信じない方がどうかしてるだろ)

杏子(…アンタが一人で辛い戦いを続けてたことは、もうみんな知ってんだし)

さやか(でも、ほむらから直接聞けたのは意外だね。…もしかして、私達を仲間って認めてくれた?)

マミ(だとしたら、私達にはその期待に応える義務があるわね)



マミ(そうでしょう?ゼロさん―――)


638: 2014/01/04(土) 23:36:08.17 ID:/NJBzxqb0


踊り狂うように繰り出した魔女の回転攻撃を、ウルトラマンは瞬間移動で回避する。

だが、再び姿を現したウルトラマンは魔女に背を向け、ほむらの方を向いていた。
ウルトラマンは彼女に向け、静かに頷く。


ほむら「通じた…」

ほむら(私と合流して…ウルトラマン!あいつの本体は、歯車よ!!)


声が伝わったことを知り、ほむらは駆け出す。
ウルトラマンも戦闘をすぐに再開し、魔女がほむらへ向かわないよう食い止める。

ひしめく使い魔に目もくれず、ほむらは急いだ。
少しでも魔力の消費を抑えるため、時間停止を使用しないまま。


ウルトラマン「ハアァァァーーッ!!」

魔女「ウッフフフフフ……」


しかし魔女の微笑とともに、空に浮かぶビルの残骸が燃え上がる。
ビルは突如として重力を失い、次々と街中に落下していった。

市街の各所が、落ちてきた瓦礫によって炎に包まれていく。
そしてウルトラマンの元を目指すほむらにも、魔女の力に操られたビルが迫っていた。


魔女「アハハハハッ!アーッハッハッハッ!!」

ほむら(!?)

ウルトラマン「シェアッ!!」


止む終えず盾に触れようとした時、ウルトラマンの放った光弾がビルを破壊した。


639: 2014/01/04(土) 23:49:22.79 ID:/NJBzxqb0


杏子(あと少しだ…!!)

さやか(いっけえぇーーーーっ!!)


ウルトラマン「オオオォォ…!!」


外のほむらに激励は届いておらず、ウルトラマンの声しか聞こえていない。

それでもほむらは彼女達を、ウルトラマンを信じて走り続ける。


ほむら「近い…!」


近付いてくるほむらの位置を、ウルトラマンは振り返って確認する。
当然、その隙を魔女は見逃さなかった。


魔女「アッハハハハハッ!!」

ウルトラマン「フンッ!」


魔女が振るった腕に気付き、間一髪で瞬間移動を発動するウルトラマン。

空間に溶けたその体は、ほむらの目の前で再び実体を作り出す。


マミ(暁美さんっ!!)

ほむら「あああぁぁーーーっ!!」


ウルトラマンはほむらに向けて、手を差し伸べる。
叫びとともに跳躍したほむらの左手が、ウルトラマンの指先と触れ合った。

感触を確かめると同時に、ほむらは盾を回転させた。

 

640: 2014/01/04(土) 23:55:54.43 ID:/NJBzxqb0


時間停止が発動し、魔女を含めた全ての時が固まった。
その中をほむらと、彼女に触れたウルトラマンだけが自由を許される。


ほむら「今よ!!」

さやか(やったっ!!)

杏子(上出来だ、ほむら!)


だが今のウルトラマンを動かすことは、ウルティメイトゼロ以上の負担をもたらした。


ほむら「くっ……!」

ほむら「はぁ…はぁっ…」


回復を終えているはずのソウルジェムからは、凄まじい速度で魔力が消費されていく。
ほむらは複数のグリーフシードを鷲掴みにし、ソウルジェムに押し当てる。


マミ(暁美さんから、これ以上ないチャンスを貰ったわ。
   反撃の暇も与えないくらい、攻めて攻めて攻めまくるわよ!)

さやか(了解!)

杏子(そういうのは得意なんでね!)


ウルトラマン「オオォォォ…ッ!!」


ウルトラマンが瞬間移動を使うと同時にほむらは落下し、時は動き始めた。
停止から解除まで、現実の時間に換算してわずか数秒。

しかしその数秒が、ウルトラマンと魔女の戦いを大きく左右することになる。


ウルトラマン「シェアッ!!」

魔女「アッハッ…!?」


魔女の背後に回ったウルトラマンが、魔力を纏わせた脚で強烈な回し蹴りを食らわせる。
反応が僅かに遅れた魔女は、巨大な歯車の一部を砕かれた。

 

641: 2014/01/05(日) 00:04:38.01 ID:2wPlttoS0


魔女は歯車の破片を巻き散らせながら、市街へ落下していく。


マミ(美樹さん!)

さやか(よっしゃあ、さやかちゃんの出番きたあぁーーっ!!)


光の中で、さやかは一人で身を乗り出した。

ウルトラマンは腕輪から青い光の刃を伸ばすと、落下する魔女の前方に瞬間移動する。
構えを取ったウルトラマンは、魔女とすれ違う一瞬に刃を振るった。


ウルトラマン「デェーーーアッ!!」

魔女「アアァァッ!!」


光の刃が、魔女の両腕を切り落とす。
切断された両腕もろとも、魔女の巨体は地面に激突した。


さやか(お次は杏子!)

杏子(あいよ!)


杏子はさやかとハイタッチを交わすと、場所を入れ替わるように前へ出た。
同時にウルトラマンも急降下し、魔女の背後に近付く。


杏子「さすがに槍までは作れないか……それなら!」


ウルトラマンは握り拳を解いて指先を伸ばす。
次の瞬間、目にも留まらぬ速度で突きの連打を魔女へ打ち込む。


ウルトラマン「オオオオオオオオオッ!!」

魔女「アッ!?アハハッ!ハハッ!ハハハハハッ!!」

ウルトラマン「オアアアアアアアアアアッ!!」

魔女「アハッ!ハッ!ハハッ!?…グアッハッ!!」

ウルトラマン「デアアッ!!」


両腕を槍に見立てた突きは全て命中し、魔女のドレスは再びボロボロとなっていた。

 

642: 2014/01/05(日) 00:23:07.29 ID:2wPlttoS0


続いて杏子はマミとハイタッチを交わし、場所を入れ替わった。


杏子(任せたよマミさん!)

マミ(オッケー!)


ウルトラマンは魔女の正面に降り立ち、腕輪から魔力を引き出す。
やがて魔力は、今までに無いサイズのエネルギー弾を作り上げていく。


ウルトラマン「デアアアァァ……」


マミ(体が軽い…もう何も恐れるものはないわ)

マミ(ボンバルダメント!!)


ウルトラマン「シェアアアアアッ!!」

魔女「!?」


完成したエネルギー弾が撃ち出され、魔女に直撃する。
その威力は絶大であり、魔女は声を発する間もなく頭部を粉砕された。


ほむら「はぁ…はぁ……決まった?」

QB「いや、まだだよ」


魔女「………」

魔女「……ハハ……」

魔女「……アハハハハハハハハハ!!」


頭部を失ってなおも魔女は笑い続ける。
上半身はあくまでも人形。本体である歯車を破壊しない限り、この魔女が完全に氏ぬことはない。


ほむら「これだけの攻撃を受けて…まだ……」

QB「でも本体はダメージを負っている。人形もしばらくは再生できないだろう」

QB「さぁ、そろそろ決着の時だ!」

 

645: 2014/01/05(日) 16:42:18.76 ID:2wPlttoS0


追い込まれた魔女は、内包していたマイナスエネルギー全てを解き放つ。
歯車上部を飾っていた人形は次第に剥がれ落ち、歯車だけの姿となってウルトラマンへと迫る。

力は歯車の軸に集中し、その先端はウルトラマンに定められていた。


魔女「ハハハハハッ…ハハハハハハハハハ!!」

ウルトラマン「オオオォォォ…!!」


対するウルトラマンも、腕輪からありったけの『光』と『魔力』を掻き集める。

三人の魔法少女が右拳を握り締めると、引き出した力の全てをそこに集中する。
最大級のエネルギーを拳に纏い、ウルトラマンも飛んだ。


ウルトラマン「オオオオオオオッ!!」

魔女「ヒャハハハハハハハハハッ!!」

ウルトラマン「マァァァ――――ギカッッ!!」


『光』と『魔力』を全集中したウルトラマンの拳、そして魔女の『呪い』を全集中した歯車の軸先。
二つの力が激しく衝突し、周囲に衝撃波を巻き起こす。


マミ(はあああああああぁぁぁぁっ!!)

杏子(ああぁぁぁぁぁぁぁーーーーッ!!)

さやか(うあああぁぁぁぁぁーーーーーっ!!)


光の中で、少女としての振る舞いをかなぐり捨てた雄叫びが響き渡った。
三人は、拳を握り締めて魔女の呪いとぶつかり合う。

外では両者の決着を、ほむらが祈るように見守り、キュゥべえも静かに見届ける。


ウルトラマン「………」

魔女「アハ…アハ…アハハハ…」

魔女「ハハハ…アハッ…アハハ…」

魔女「……ハ……ハ……」


やがて軸にひびが入り、亀裂は歯車全体に達していく。
その亀裂が光を放つとともに、魔女の笑い声は完全に消えた。


魔女「………」

ウルトラマン「デェアッ!!」


最終決戦を制したのはウルトラマンの『光』と『魔力』。
敗れた歯車は大爆発を起こし、粉々に砕け飛んた。

646: 2014/01/05(日) 16:44:59.33 ID:2wPlttoS0


ウルトラマンは飛び上がって爆発から逃れると、再び市街に降り立った。


ほむら「勝ったのね…今度こそ、本当に…」

ほむら「みんな………ありがとう」


精神的にも限界を迎えていたほむらは、その場に倒れ込む。

気を失った彼女にキュゥべえが駆け寄るが、眼前で起きたある現象に関心を引かれてしまう。


QB「……何だ?」


爆発の直後、立ち上る炎や砕けた歯車、そして行き場を失った膨大なマイナスエネルギーが一点に収束する。
やがてそれらは光へと変わり、空へ昇っていく。


杏子(あのハンパない呪い、どんどん消えてんな…)

マミ(『ワルプルギスの夜』を形作っていた魔女が浄化されてるみたい。
   こんな光景を見るのは、私も初めて…)

さやか(みんな、もう自由なんだね…)


魔女の穢れた魂が氏を迎えた時、一体どうなるのか、どこへ行き着くのかを彼女達は知らない。

だが『ワルプルギスの夜』と呼ばれた魔女の消え方は、
彼女達が今までに倒してきたどの魔女よりも『救い』に満ちていた。


全てのマイナスエネルギーが消え去るとともに、見滝原市全域を包んでいた暗雲が晴れていく。
そしてゼロと魔法少女達の合体も解除され、蜃気楼を見ていたかのようにウルトラマンは消えていった。





時を同じくして、市内各所の避難所を陽光が照らす。
暴風も市街から響いた爆音も止み、避難していた市民は窓越しに外の様子を窺い始める。

異常気象が去ったことを誰もが実感し、安堵した。
さやかの家族も、志筑仁美も、上条恭介も、他のクラスメート達も、コンビニの少女達も、歓楽街のホスト達も。

そして『鹿目まどか』と、その家族も。


647: 2014/01/05(日) 16:46:52.58 ID:2wPlttoS0
つづく

ようやく決戦終了です。

649: 2014/01/13(月) 00:50:20.68 ID:mLUhyg400

【エピローグ】



『ワルプルギスの夜』の消滅によって異常気象は去り、避難警報は解除される。

だが、決戦の舞台となった市街中心部の被害は甚大。
一部の市民は避難所に残り、現地では自衛隊が全容の把握を急いでいた。


ゼロと魔法少女達もすぐに市街を離れ、再び合流することを約束する。

マミは一度マンションへ、さやかは家族の元へ、杏子はほむらを抱えて彼女の自宅へ。
そしてゼロは、旅立ちの前にキュゥべえと最後の対話を行っていた。


ゼロ人間体「いい度胸してんじゃねえか…この俺を騙したあげくに、イージスを奪いにかかるとはな…」

ゼロ人間体「しかも、いつの間にか味方みてぇな応援しやがって…全部テメェが蒔いた種だろうが!」

QB「悪かったよ。でもこれは全部―――」

ゼロ人間体「どうせ宇宙のためだとか抜かすんだろ?
      ああクソッ…思い出すだけでムカついてしょうがねえぜ!!」


真っ当な対話をするつもりだったゼロだが、決戦におけるキュゥべえの行動には怒りが込み上げてくる。

しかし当のキュゥべえに悪びれた様子は全くなく、あまりの反応の薄さに、ゼロもようやく諦めがついた。


ゼロ人間体「…ったく」

ゼロ人間体「でも、これでよくわかっただろ。イージスが扱えるのはな、使い手として選ばれた者だけだ。
      今のテメェが手に入れたとしても、何の意味も持たねえんだよ」

QB「僕達には交渉の余地も、資格さえも最初からなかったということか。残念だよ」

ゼロ人間体「けどな…」

QB「?」

ゼロ人間体「『光』ってのは、大切なものを守る時にこそ強く輝くもんだ。
      テメェらが力に見合う『本当の正義』を手に入れたなら……話は別かもしれないぜ?」

ゼロ人間体「…そうだとしてもまだ、こんなやり方を続けるつもりなのか?」


650: 2014/01/13(月) 00:58:11.83 ID:mLUhyg400


QB「前にも言ったはずだよ、僕達は変わらないと」

QB「これまで通り、素質ある少女達には契約を持ち掛けるし、
   君の『光』をこの宇宙に留めることも諦めていない」

QB「それに、君とほむらが守ろうとした『まどか』についても、
   これから利用価値を見極めなければならない段階にある」

QB「僕達が方針を改めなければ掴み取れない力なら、諦めて別の方法を模索するまでだよ」

ゼロ人間体「何でそうなるんだ…」

ゼロ人間体「最初から変われないなんて決めつけてんじゃねえよ!」

QB「………」


キュゥべえは自ら感情を得ることを拒んでいるようにも受け取れる。
納得できないゼロに、キュゥべえの方から語り始めた。


QB「…少し、僕達の種族について話をしよう」

QB「君達には、感情を持たない僕達の存在はまるで機械のように映ることだろう。
   同じように、地球人やウルトラマンの存在は僕達にとって実に異質だ」

QB「だから、始めて地球人を発見した時は驚いたよ。
   何しろ、全ての個体が別個に感情を持ちながら共存しているんだからね」

QB「けれど僕達の文明にも、感情を持った個体がいなかったわけじゃない。
   ごく稀に発見される精神疾患として、その現象は見つかっていた」

ゼロ人間体「お前らインキュベーターにも、感情が?」

ゼロ人間体「…じゃあ、それを見てお前らは何も思わなかったのか?
      同じように自分だけの感情を持って、ただ一人の自分でありたいって…そうは思わなかったのか?」

QB「感情の必要性なら、文明全体で何度となく考えてきたよ」

QB「でも、人類の行動を長く監視してきた今、それを僕達が得る必要はない。
   知らないままでいいとも考えている」

 

651: 2014/01/13(月) 01:01:55.85 ID:mLUhyg400


ゼロ人間体「知らないままでいい…だと?」

QB「うん。君達の決戦もそうだったけれど、感情に任せた行動というものはあまりにも危険だ」

QB「過剰な慈愛が芽生えれば、必要な犠牲を生み出すことにも戸惑いを覚えるだろう。
   邪な感情が芽生えれば、エネルギーやテクノロジーを悪用し、この宇宙を乱す者が現れるだろう」

QB「僕達の文明全てがこのような感情を獲得してしまえば、宇宙を存続させる使命は果たせなくなる」

QB「だから僕達は変わらないし、変わる必要がない。
   感情を持つ知的生命体を、有効に活用できればそれでいいんだ」

ゼロ人間体「馬鹿言ってんじゃねぇ…」

ゼロ人間体「慈愛の感情?…平和を守りたいなら、それを持ってるのが普通なんだ!」

ゼロ人間体「邪な感情?…そういう奴等を止めるために、
      俺達ウルトラマンや…たくさんの『正義の味方』が戦ってるんだ!」

ゼロ人間体「感情ってのは、人生の妨げなんかじゃない…今ここに生きてる証なんだ!!」


『感情』に対する価値観は、両者で根本的に違っている。
何を伝えても理解が貰えないことに、ゼロもキュゥべえも戸惑っていた。


QB「うーん…」

QB「僕達を地球から撤退させたい。でも武力で滅ぼすつもりはない。
   君はそれを成すために、僕達に感情を教えたいのだろう?」

QB「残念だけど、その方法はきっと失敗に終わる。僕達に感情を得るつもりが無い以上ね」

QB「だから、まずは君自身のやり方を見直してみてはどうだい?
   感情を教えることより、手っ取り早い方法は残っているよ」

ゼロ人間体「…何をさせるつもりだ?」

QB「君が、感情エネルギーに代わる代替案を用意してくれればいいんだよ」

 

652: 2014/01/13(月) 01:06:28.82 ID:mLUhyg400


ゼロ人間体「代替案…」

QB「そうだよ。僕達が考えもしなかったような―――
   わざわざこんな星まで来なくても済むような、素晴らしい方法をね」


インキュベーターは既に幾つかの別宇宙を調査し、その上で魔法少女の利用を続けている。
効率を優先する彼等が、簡単に納得を示すとは到底思えない。

しかしエネルギーについて、ゼロにも心当たりが無いわけではなかった。


ゼロ人間体(感情に代わる、別のエネルギー)

ゼロ人間体(『エメラル鉱石』なら……)


アナザースペースで採掘される資源『エメラル鉱石』。

ゼロの仲間・ジャンボットの動力源でもあるこの鉱石は、
量次第では次元の移動も可能にするほど膨大なエネルギーを抽出できる。


ゼロ人間体(…いや、それはできねぇ)

ゼロ人間体(あの鉱石はあの宇宙のものだ。くれてやるのは『技術』でないとダメだ!)


だが、鉱石はアナザースペースをこの先何千年、何万年と支えていかなければならない大切な資源。
この宇宙に提供を続ければ、アナザースペースの未来を保証できなくなる。


ゼロ人間体(技術でないと…)


続いて思い浮かべた『技術』は、光の国の人口太陽『プラズマスパーク』。

しかしその光は、浴びた生命体の肉体に変化をもたらす程に強大な力を持つ。
こちらも、宇宙のエネルギー源としては適さない。


ゼロ人間体(難関だな、こりゃ…)

ゼロ人間体(どのみち説得にも時間はかかりそうだ。何か他の手も、必要になるのかもな…)

 

653: 2014/01/13(月) 01:11:40.66 ID:mLUhyg400


ゼロ人間体「いいぜ…」

ゼロ人間体「…やってやるよ!探してきてやるよ!テメェらが跳び上がって喜ぶような技術をな!!」

QB「決まりだね。君の再訪を楽しみに待つとしよう」

ゼロ人間体「でもな……感情の事、俺はまだ諦めてねぇからな!」

ゼロ人間体「次に会うときは、俺の宇宙の仲間も一緒だ!
      今日の五倍濃い話を聞かせてやるから、覚悟しとけよ!!」

QB「お手柔らかに頼むよ」


楽な道のりではないと知りながら、ゼロは決意した。
魔法少女を解放する手段、キュゥべえの説得、それに加えて新たなエネルギー技術を調査することも。


QB「さて、これで大方話はついたかな」

QB「僕はこれから調べなければならないことが山ほどある。君はこれからどうするんだい?」

ゼロ人間体「イージスの力は復活するまでに時間がかかりそうだ。その間、もう一度みんなに会いに行く」

QB「それじゃあ君とはここでさよならだ。
   僕の存在は、君達の楽しい一時に水を差してしまうだろうからね」

QB「ウルトラマンゼロ、また会おう!」


キュゥべえはゼロに別れを告げると、どこかに向かって走り出す。
去り行く元凶の後ろ姿を、ゼロは複雑そうに見つめる。


ゼロ人間体(感情持つ気もないくせに、こんな時だけ空気読んでんじゃねえよ…)


しばらくして、ゼロも仲間達の元へ歩き出した。


 

656: 2014/01/13(月) 14:52:47.76 ID:mLUhyg400



皆が合流を約束していた場所とは、ほむらの自宅だった。
キュゥべえとの対話を終えて到着したゼロは、ベルを鳴らして中からの反応を待つ。

やがてドアが開き、中からは杏子が現れた。


ゼロ人間体「よっ、待たせたな!」

杏子「遅かったじゃん。もうとっくに全員揃ってるってのに」

ゼロ人間体「全員か…ほむらの様子、あれからどうだ?」

杏子「アイツならまぁ…寝室で休ませてる」

ゼロ人間体「そうか。イージスの力が戻る前に、目覚ますかな…」

杏子「………」

杏子「…ほら、さっさと入りなよ」

ゼロ人間体「お、おう!」


腕輪を見つめて心配するゼロを、杏子は中へと招いた。

一週間前にも全員が集まったほむらの部屋に、ゼロは再び足を踏み入れる。


ゼロ人間体「遅くなって悪―――」


そこでは、先に到着したマミとさやかが画面に釘付けになっていた。


マミ「私達、本当にこの姿で戦ったのよね…?」

さやか「まさか、あの状況で撮ってる人がいたとはねぇ…」

ゼロ人間体「…お前ら、何観てんだ?」

マミ「ゼロさん…」

さやか「あ、ゼロさん!ちょっとこれ観てみてよ」

ゼロ人間体「何だ?おもしろ動画か?」

さやか「いいからいいから!」


マミとさやかは場所を譲ると、何かの映像を再生する。

それは魔女との決着直後の、外から撮影した市街の様子だった。
暴風が吹き荒れてはいるが、街並みはいつもと何の変化も無い。


ゼロ人間体「これ、朝の見滝原だよな」

ゼロ人間体「…ん?」


しかし暗雲が晴れて青空が広がると同時に、街並みが瓦礫の山へと変化する。

そして破壊され尽くした街の中には、神々しい姿の巨人が佇んでいた。


657: 2014/01/13(月) 15:07:29.68 ID:mLUhyg400


ゼロ人間体「ウルトラマン…」

ゼロ人間体「…って、これ俺達じゃねぇか!!」


彼女達が繰り返し見ていた映像とは、メディアに出回った『ウルトラマン』の姿。
結界の崩壊からウルトラマンが消えていくまでを記録した、この世界の常識を覆す大スクープだった。


ゼロ人間体「おい、大丈夫なのかよこれ!?」

ゼロ人間体「俺はいいとしても、もしお前らの正体がバレてたら…」

さやか「私達が駆け付けた時も、外からはいつもの街しか見えてなかったんだ。
    近づいたら霧が立ち込めてて、潜り抜けたらもう結界ってわけ」

杏子「ゼロもほむらもワルプルギスも、外からは見えてなかったはずだよ。
   だけど結界に取り込まれた範囲の街だけは、あの有様さ」

マミ「でも避難が終わってたお陰で、今のところ被害者はいないそうよ。
   もしかしたら、今回は破壊よりもゼロさん達との戦いを楽しもうとしていたのかもしれないわね」

ゼロ人間体「そういうことか…ヒヤヒヤしたぜ」

さやか「それとさ、これ見た人達の反応も色々みたいっすよ。
    何でも、巨人は『スーパーセルを止めた神』派と、『街を破壊した悪魔』派とで分かれてるんだって」

マミ「『魔力』を半分持ってたからかしら…どこか、神々しさを通り越して禍々しくも見えるものね」

杏子「でもその神だか悪魔だかが、宇宙人一人と女子三人とは誰も思わないだろうね」


ゼロは映像の中のウルトラマンを見つめ、全員で一心となって勝利を掴んだ最終決戦を思い返す。

無事に新たな一日を迎えられたことを改めて喜び、上唇を擦った。


ゼロ人間体「…ヘッ」

ゼロ人間体「ま、どう思われてもいいさ!俺達の戦いで、地球の滅亡は食い止められたんだ」

ゼロ人間体「それでいいじゃねーか」

杏子「確かに、魔女討伐だって誰も本当のこと知らないわけだしね。もう慣れっこだよ」

さやか「そうそう、気にしたら負けだよね」

マミ「じゃあ鑑賞会はここまでにして、今の内に話したいこと話しておきましょ?
   ゼロさんが元の宇宙に帰る前に」

ゼロ人間体「そうだな、始めようぜ!」


四人は映像を閉じると、ソファーへと腰掛けた。


 

659: 2014/01/13(月) 20:19:48.32 ID:mLUhyg400
すみませんが、>>657の台詞が一部抜けてました。

正しくは下記です。





ゼロ人間体「おい、大丈夫なのかよこれ!?」

ゼロ人間体「俺はいいとしても、もしお前らの正体がバレてたら…」

さやか「多分大丈夫っすよ。このカメラ、ウルトラマンが消えてすぐに止めちゃったみたいだし」

杏子「それにあの場所、とっくに完全な結界になってたしね」

ゼロ人間体「完全に?」

さやか「私達が駆け付けた時も、外からはいつもの街しか見えてなかったんだ。
    近づいたら霧が立ち込めてて、潜り抜けたらもう結界ってわけ」

杏子「ゼロもほむらもワルプルギスも、外からは見えてなかったはずだよ。
   だけど結界に取り込まれた範囲の街だけは、あの有様さ」

マミ「でも避難が終わってたお陰で、今のところ被害者はいないそうよ。
   もしかしたら、今回は破壊よりもゼロさん達との戦いを楽しもうとしていたのかもしれないわね」

ゼロ人間体「そういうことか…ヒヤヒヤしたぜ」


666: 2014/02/12(水) 23:09:00.56 ID:NNG9/5tr0


イージスのエネルギーはまだ回復せず、ほむらも寝室からは出て来ない。
ゼロは旅立ちまでの時間を仲間達と過ごしながら、地球で体験した不思議な一カ月間を思い返していた。


ゼロ人間体「…しかし、あっという間だったぜ。地球での日々も」

ゼロ人間体「毎日駆け回って、戦って、帰って寝て、次の朝を迎えて―――
      やってる事は宇宙飛び回ってた頃と同じはずなのに、初めて知ることだらけでな…」

ゼロ人間体「俺がウルトラマンでも何でもなくなって、全く別の誰かとして人生やり直してるみたいだ」

さやか「わかるっすよォ…ゼロさん。私もこの何週間で、常識も生活も丸ごとひっくり返っちゃったから」

ゼロ人間体「そういや、さやかも魔法少女になってから一カ月経ってないんだったな」

杏子「そんなのアタシだって同じさ。ヤローの思惑は全部、ここ最近でわかったことだしね…」

杏子「長く魔法少女やってきたくせに、何も知らないまんま先輩気取ってたってワケ」

マミ「確かにゼロさんとの出会いから始まって、多くの真実が明かされたわ。
   私には、一人で背負いきれないほど残酷な真実が」

マミ「でも、今回知ることができたのは、悪い事ばかりじゃなかった」


マミは杏子、さやか、ゼロの順に一人ずつ目を配っていく。


マミ「取り戻せないと思っていた繋がりが、消えずに残っていてくれたこと」

杏子「………」

マミ「こんな私を慕ってくれる子が、他にもいてくれたこと」

さやか「うんうん」

マミ「別の宇宙から来た超人とだって、力を合わせて戦える道があること」

ゼロ人間体「ヘッ」


667: 2014/02/12(水) 23:24:50.85 ID:NNG9/5tr0


マミ「そう、私は孤独なんかじゃないって気付けただけで、ここまでやってきた価値はあったわ」

杏子「…そうだな」

さやか「だよね!」


マミは今朝までの自分を変えようと、これまでの出来事を前向きに捉えようとしている。
そんなマミの笑顔に、さやかと杏子、そしてゼロも安心した。


さやか「私も恋愛絡みで色々迷惑かけちゃったけどさ、相手が仁美なら文句ないって今は思えるし」

さやか「それに、大勢の人がまたあいつの演奏を聴けるようになったんだもん。
    一緒になれなくても…それだけで十分っすよ」

杏子「アタシは…」

杏子「…まぁ、自分に正直にはなれたかもな。昨日までウダウダ悩んでたのが嘘みたいだ」

杏子「………」

杏子「…で、ゼロはどうよ?」

ゼロ人間体「ん、俺か?」


正直になれたと言いつつも、あまり素直には語りたがらない杏子。
彼女は照れ隠しであるかのように、すぐに話題をゼロへ振る。


杏子「アンタはこの一カ月で何を知って、何を掴めたんだよ?」

ゼロ人間体「そうだな…『新たな仲間達との絆』ってのは、今話すにはありきたりすぎるよな」

ゼロ人間体「他には、親父達の気持ちってとこか…」


 

668: 2014/02/12(水) 23:27:48.31 ID:NNG9/5tr0



その頃、四人が集まる部屋から少し離れた寝室。
ベッドの上で、体を休めていたほむらが目蓋を開いた。


ほむら(………)

ほむら(……私は…)


目覚めた直後から非現実感に襲われ、今朝の戦いも掴み取った勝利も、
全ては夢だったのではないかと疑ってしまう。

頬に触れて感触を確かめると、ようやく今ここにいることが現実だと実感できた。


ほむら(間違いない。これは現実…)

ほむら(本当に勝ったのね…『ワルプルギスの夜』に)

ほむら(後はまどかが奴に唆されないよう、全力で守り抜くだけ)

ほむら(………)

ほむら(……なのに)


だが彼女が胸に感じたのは、決着直後のような安堵ではなく強い心の痛み。


ほむら(…なのに……苦しい)

ほむら(苦しい…)

ほむら(どうしてこんなにも苦しいの…?)


表現出来ないその痛みは、寝室を出て皆の元へ向かうことを許さない。

 

669: 2014/02/12(水) 23:38:33.80 ID:NNG9/5tr0


ほむら(この先、一体どうすればいい?こんな私で、本当にまどかを守れるの?)

ほむら(……いや、どうすればいいかなんて、答えならもう知っているはず)

ほむら(『仲間』と共に戦い続けること…)


ほむら「!?」


その時、寝室の外からゼロ、マミ、杏子、さやかの談笑が微かに響いた
壁を突き抜ける明るい声に、ほむらは思わず耳を塞ぐ。

一人別室にいる今の状況が、彼女にはまるで『光』と『闇』を区別されているかのように思えてきた。


ほむら(…貴方達は『光』)

ほむら(みんなには本当に感謝してるわ……本当に…)

ほむら(だからこそ私には、共に歩む資格はない…)


ほむらの脳裏に四人だけでなく、別時間軸で出会った魔法少女の顔が幾つも浮かぶ。

それは、かつて自分が利用し見捨ててきた者達。
その表情は、いずれも恐怖と絶望に染まっている。

ここでようやく、心の痛みが「罪悪感」であることを自覚した。


ほむら(永遠の迷路は抜け出せたのに……迷路の外は眩しすぎる)

ほむら(私ったら、本当に救えないわ…
    折角の出口を引き返して、再び陰の中へ戻ってしまいたい…そう考えてるだなんて…)

ほむら(奴の言葉を信じたくはない。
    でも、これこそが奴の言っていた『闇』……世界を乱す、悪魔の資質)


 

672: 2014/02/16(日) 21:38:38.13 ID:qufdy5Xv0



杏子「アンタの親父も地球に?」

ゼロ人間体「ああ、当然こことは別の次元だけどな」

ゼロ人間体「俺の故郷だと、何人ものウルトラ戦士が地球を訪れて戦ったんだ。
      それこそ、俺の一カ月とは比べものにならないくらい長く滞在してな」

ゼロ人間体「何度も話に聞いたから、俺もずっと前から地球には興味あったんだ」

マミ「ふふっ…それ、もしかして食べ物の話聞かされたから?」

ゼロ人間体「ははっ、それも間違っちゃいねーな」

ゼロ人間体「でも何より熱心に聞かされたのは、人間達の素晴らしさだ。
      地球に行ったウルトラ戦士は、みんな口を揃えてそれを語ってた」

さやか「地球大好きなんだなー、ウルトラの皆さんって。
    どっかのエネルギー回収機とは大違いだわ」

ゼロ人間体「だな。…親父達も激しい戦いの中で、ウルトラマンに戻る力を失った時期があったんだ。
      その時は地球人として生きて、地球人として氏ぬ覚悟も決めてたらしい」

さやか「え…そこまで?」


宇宙を飛び回り、星々で平和のために戦うヒーロー『ウルトラマン』。
幾多の世界を見てきたはずの彼等が地球を特別視していることに、三人は驚かされる。


マミ「どうして地球なのかしら…」

杏子「平和で居心地のいい星なんてさ、他にいくらでもあるんじゃないの?
   確かアンタの故郷も犯罪がないって言ってたじゃん」

ゼロ人間体「並大抵の『好き』じゃあ、まずそんなこと考えないもんな。
      俺もウルトラマンであることを捨てちまうなんてあり得ねーだろって、最初は思ってた」

ゼロ人間体「でも地球に来たウルトラ戦士は、例外なく地球を好きになっちまうんだ」


マミ「つまりゼロさんもここで過ごして、人間として生きたいと考えたの?」

ゼロ人間体「そこまではまだ…な。やっぱり俺はウルトラマンだ」

ゼロ人間体「でも、俺にもっと時間があれば、そう感じてたかもしれないな…」

さやか「じゃあゼロさんがわかった気持ちってのは…」

ゼロ人間体「少し紛らわしかったな。
      親父達がどんな事を考えながら地球を守ったのか―――それがわかった気がしたって事さ」

マミ「そういう事ね」

 

673: 2014/02/16(日) 21:43:12.85 ID:qufdy5Xv0


ゼロが過ごした一ヶ月間は、これまで地球に滞在したどのウルトラ戦士よりも制約が多い。

キュゥべえの目を引き付ける囮として見滝原市に留まり続け、
『鹿目まどか』の防衛と、決戦用グリーフシード収集のために、日夜魔女と戦い続ける。

触れ合いや文化を楽しむ余裕がなかった彼に、他の戦士達ほど特別な地球愛はまだ芽生えていなかった。


杏子「なぁゼロ…」

ゼロ人間体「杏子?」

杏子「…それはこの地球を愛せないってワケじゃないんだよな?」


そしてゼロの発言は、再び『正義の味方』へ向けて歩み出した杏子に不安を与える。


杏子「他の地球と違って、この地球に価値がないってワケじゃないんだよな?」

杏子「この歪みきった世界も、呪いばっか生み出してる人間も、
   本当は守る価値のあるもんだって…これからも信じていいんだよな?」

ゼロ人間体「何を心配してるかと思えば―――当たり前だろ」

ゼロ人間体「人間の汚い所は色々見ちまったが、それだけが全てじゃないって俺は知ってる」

ゼロ人間体「優しさを忘れない奴が少しでもいてくれたら、それだけで守る価値は大アリだ!」


ゼロ人間体(そう、あの日見た少女のように…)


ゼロが真っ先に思い出したのは、以前コンビニで目にした光景。
気品ある長身の少女が見せた、小さな優しさ。

杏子がいたから迷いを振り払えたように、彼女がいたから地球愛を失わずに済んだのかもしれない。
ゼロはふと、そう考えた。


ゼロ人間体「だから俺は、この地球に来て良かった」

ゼロ人間体「そして、これから地球をもっと知っていきたい。地球人をもっと知っていきたい。
      親父達のようにもっと愛したい――そう考えてる」

ゼロ人間体「俺と地球の関わりは、まだ始まったばかりだからな!」

杏子「そっか…」

杏子「ま……アンタがそう言うならな。
   アタシも改めて『正義の味方』に付き合ってく決心がついたよ」

杏子「…さんきゅ」

ゼロ人間体「何か変な感じだな…礼を言うのはこっちだってのに」

ゼロ人間体「俺の方こそ、辛い中でもみんながいたからここまでやってこれたんだ」

ゼロ人間体「ありがとう」

 

674: 2014/02/16(日) 21:46:50.76 ID:qufdy5Xv0


さやか「でも『辛い中』かぁ…ゼロさんの地球デビューも散々だったっすね」

さやか「ぶっちゃけ、ほとんど楽しいこと無かったんじゃ…?」

ゼロ人間体「確かにそこは否定できねーな…」

ゼロ人間体「一日の楽しみなんて、お前らの中の誰かに会えるかもって期待に、メシと睡眠くらいだったしな」

杏子「末期だね、そりゃ…」

マミ「それじゃあ、ゼロさんは何かやり残したことはない?
   旅立ちの前に、良い思い出は少しでも多く作っておくべきだと思うの」

ゼロ人間体「やり残したことか…」

ゼロ人間体「心残りがあるとすれば、マミの料理が食えなかった事か。
      あの時は色々ゴタゴタしてて、結局約束守れなくてな…」

マミ「私の?」

ゼロ人間体「作ってくれてたんだろ、カレー」

マミ「忘れてなかったんだ…」


本当ならゼロとさやかを招いて振舞う予定だった、手作りのカレー。
マミはそれを覚えていたことに、驚きと嬉しさ、そして残念さが込み上げる。


マミ「でも、ゼロさんの出発が定まってなかったから、今から作り直すことは出来ないの」

マミ「ごめんなさい…」

ゼロ人間体「あ…いや、別にいいんだ。急かしてるわけでもなんでもねえから!」

ゼロ人間体「だから俺がここに戻ってきたら、もう一度作ってくれ。約束だぜ!」

マミ「わかったわ、約束する。……でも、折角期待してくれてたんだもの。
   今は何か別の形で穴埋めさせてもらえないかしら?」

さやか「それじゃあゼロさんの心残り、次いってみよー」

ゼロ人間体「次ってオイ…」

ゼロ人間体「うーん…他になくもないんだが、すげぇどうでもいいことだから別に…」

杏子「いい機会じゃん。今の内、何か言っちゃいなよ」

マミ「遠慮はいらないわ」

ゼロ人間体「………」

ゼロ人間体「……わかったよ。そこまで言うなら」

 

675: 2014/02/16(日) 21:50:12.07 ID:qufdy5Xv0


ゼロ人間体「俺が光の国にいた頃、ウルトラ兄弟の五男からこんな話を聞かされたんだ」

ゼロ人間体「地球には、ご飯に乗せれば『変な声』が出るウマさの食べ物がある」

さやか「…変な声?」

ゼロ人間体「その戦士は昔、地球で料理人やってた経験があるからな。ぜってぇウマいはずだぜ…」

ゼロ人間体「この時代にはないものかもしれないし、この次元にはないものかもしれない。
      でも、もしそれがこの地球にあるってんなら、是非食ってみたいもんだな」


ゼロの語るもう一つの心残り、それはまたしても食べ物だった。

「ご飯に乗せる」というキーワードから、三人が真っ先にあの料理を連想する。


マミ「その料理…カレーじゃないのよね?」

ゼロ人間体「いや、カレーとはまた別モンらしい。
      俺もあちこち探してみたが、それらしいものが中々見つからなくてな」

ゼロ人間体「味は確か、辛くて油っぽくて、でもウマいとかなんとか…」

杏子「カレーじゃん、それ」

ゼロ人間体「カレーじゃねえんだよ、本当に。名前は確か…『なんとかラー』だったような…」

さやか「多分それ、ナンとカレーっすよ」

ゼロ人間体「だからカレーじゃねえよ!」

ゼロ人間体「ちょっと待ってろよ…他に何言ってたか思い出してみるぜ」


ゼロの記憶が曖昧であったために、食べ物の特定は進まない。

しばらく考え込むが、思い出せたのは「小瓶に入っている」という事だけだった。

 

676: 2014/02/16(日) 21:52:43.67 ID:qufdy5Xv0


杏子「さすがにラーメンとは関係ないよねぇ…いわゆるラーメンライスってやつ?」

マミ「麺を瓶には入れないでしょう。だとしたら、調味料か何かかしら?」

さやか(調味料…)

さやか(『ラー』…小瓶…)

さやか(………)


ゼロが他の手がかりを思い出そうとしている間、さやかは杏子とマミに小声で話しかける。


さやか「……ねぇマミさん、杏子」

マミ「どうしたの?」

杏子「何さ?」

さやか「わかったかも、『なんとかラー』」

杏子「…マジ?」

さやか「たぶん、アレだと思うんだけどさ―――」


さやかが限られたヒントから予想した、『なんとかラー』の正体。
だが、それが正しいという確証もない上、マミと杏子もその食べ物を詳しく知らなかった。


杏子「悪いけど、アタシはそんなの聞いたこともないね」

さやか「もうこれしか浮かばないんだよなぁ…
    絶対ラーメンライスよりは可能性あると思うんだけどさ」

マミ「でも、確かスーパーでそれらしいものは見かけた気がするのよね…」

マミ「…わかったわ、これから私が見に行ってくる」

さやか「マミさんが?」

杏子「いいよ、言いだしっぺに行かせるから。さやか、ついでにお菓子買って来なよ」

さやか「ちょっと、あんたさらっと何言ってんのよ!?」

杏子「だってアタシが行ってもお金なんて持ってないし」

さやか「こいつ……」

 

677: 2014/02/16(日) 21:56:19.59 ID:qufdy5Xv0


マミ「いいのよ二人とも。私に行かせて」

マミ「一週間も家に篭もってたから、体も鈍ってるの。少しでも運動して取り戻さなきゃ」

杏子「………」

さやか「……え?」


マミは微笑みながら立ち上がると、ゼロに声を掛けた。


マミ「ゼロさん、心当たりが見つかったの。今から探しに行ってくるわ」

ゼロ人間体「本当か!?」

マミ「でも朝の件があるから、お店が開いてるかどうかはわからないの。
   だから少しだけ待ってて」

ゼロ人間体「おう、頼んだぜ!」


ゼロの希望を叶えるべく、マミは一人部屋を出る。

その後も少しだけ、さやかと杏子は小声での会話を続けていた。


杏子「………」

さやか「ねぇ杏子…」

さやか「朝のマミさんムチャクチャ強かったよね?あれ、体鈍ってたんだってさ」

杏子「……ヘッ」

杏子「そうでなくちゃあ、先輩名乗らせらんないっての。
   かといって、アタシも全力なら負ける気しないけどね」

杏子「でもまぁ…今となっちゃ確かめようがないし」

さやか「だね。……マミさんだけ『力』残しておいて正解だったかも」


 

683: 2014/03/17(月) 21:52:10.08 ID:59G1o+xW0


ほむら(…世界を乱す、悪魔の資質)


芽生えた信頼を全て捨て去り、今までのように非情に徹してしまえば心は楽になる。

ゼロ達が一時の休息を過ごしていた頃、心の闇からの誘いと懸命に戦っていたほむら。
葛藤の中で何かを決意した彼女は、ベッドから起き上がり、着替えを始める。


ほむら(もう、こうする以外に道は無い)

ほむら(だから後は、貴方達に……)


そして全ての準備が整った後、覚悟を決めてドアを開けた。


ほむら(!!)

マミ「暁美さん…?」

ほむら「巴マミ…」


目の前には驚くマミの姿があった。
外出前に様子を窺いに来た彼女と、偶然にも鉢合わせてしまったらしい。


マミ「もう起きてたのね、みんな心配してたのよ」

ほむら「………」

マミ「調子はどう?と言いたかったけど―――良くはなさそうね。
   まだ無理して動くべきじゃないわ」


目論見が外れたほむらは、疲れ切った声と表情を隠しもしない。

マミは彼女の肩に手を置くと、押し戻すかのようにベッドに座らせる。


ほむら「ただ外の空気が吸いたかっただけ……心配は無用よ」

マミ「ただの気分転換なら構わないわよ」

マミ「……でも今の貴方、真っ直ぐにここへ戻ってくるとはとても思えないの」


684: 2014/03/17(月) 21:56:25.24 ID:59G1o+xW0


マミ「あの時話してた『闇』のこと、まだ拭えてないのね」

ほむら「………」


ほむらの様子から、マミは彼女の考えていることが何となく予想できていた。

「誰も気付かぬ内にこの街を去ろう」

それを見過ごすわけにもいかず、マミは隣に腰を下ろす。


マミ「本当はどこへ行こうとしていたの?」

ほむら「……行き先なんて考えてないわ」

マミ「当てもない旅に出ようってこと?
   折角私達を信じると言ってくれたのに、お別れにはまだ早いんじゃない?」

マミ「話してみて、私でよければ聞くから」

ほむら「………」

ほむら「貴方達を信じたからこそよ…」

マミ「どういう事?」


ほむらの口から微かに本音が零れる。
だが彼女の内面では、マミに以前から抱いていた苦手意識も一緒に働いていた。


ほむら(よりによって巴マミに見つかるなんて…)

ほむら(あの中で最も現実を見ている佐倉杏子なら、少しは話しやすかったのだけれど)

ほむら(……いや)

ほむら(これ以上同じ過ちを…拒絶を重ねるわけにはいかない…)

ほむら(今の自分を作り上げてしまった原因は、そこにもあるのだから…)


ほむら「…全部話すわ」


ほむらは躊躇いながらも心中を語り始め、マミは彼女の助けになろうと耳を傾けた。



685: 2014/03/17(月) 22:00:37.05 ID:59G1o+xW0


ほむら「私は貴方達を信じ、勝機を作るために力を尽くした。あの時届けた言葉に、偽りはないわ」

ほむら「そして今も確信してる。皆の力が一つになれば、『まどか』も世界も守り抜けると」

マミ「暁美さん!?」


隠していたはずの『まどか』の名が飛び出したことで、マミはキュゥべえの監視を警戒する。
だが、ほむらは全く焦りを感じていない。


ほむら「いいの…『まどか』の名前、私の不注意でインキュベーターに知られてしまったから」

マミ「そんな…」

ほむら「奴等は必ず『まどか』が何者かを突き止め、その因果を狙うはず。
    でも、障害は奴等だけじゃない…」

ほむら「この私もよ」

ほむら「私の存在は『まどか』にとっても、貴方達にとってもマイナスでしかない…。
    だとすれば、全てを貴方達に託して私はここを去るのが最良の方法」

ほむら「いえ、それだけでは生温い」

ほむら「私が彼女の平穏の妨げになるなら、いっそ氏―――」

マミ「氏んだ方がいいと?」

ほむら「……そうよ」

マミ「それが、貴方にとっての最良なのね」

マミ「…冗談じゃないわ」


マミはほむらの顔を覗き込む。

ほむらが解決を「氏」に求めていることは、決戦の時も口にしていた。
だが彼女が今もそれを望んでいることを知り、マミは少し厳しい態度で臨むことに決める。


 

686: 2014/03/17(月) 22:04:22.01 ID:59G1o+xW0


マミ「私には氏ぬことを許さなかったくせに、貴方だけは逃げようというの?…そんなの卑怯よ」

マミ「私はあの時止めてくれて、今は良かったと思っているのに…」

ほむら「……」

マミ「前に自分で言ったこと覚えてる?仲間の氏が、ゼロさんの戦いに影響を与えるって」

マミ「ゼロさんが紡いできた繋がりは、あの人の力の一部。その絆は貴方だって例外じゃないのよ?
   もし貴方が氏ぬような事があれば、ゼロさんは悲しみで力を一つ失ってしまう」

マミ「あの人の活躍には、私達の未来が懸かってるの。
   それを邪魔するような真似だけは、絶対にさせられない」

マミ「だから、誰も氏なせるわけにはいかないわ」


ほむらの中で再び、自分の言葉が回り巡って返ってきた気がした。
かつてマミが道を見失ったように、ほむらも力無く俯く。


ほむら「じゃあ…私はどうすればいいの?」

ほむら「奴に言われたの…私が抱えた『闇』が、いつか大切なものを傷付けると」

ほむら「私はもう傷付けたくない…まどかも……貴方達も」

マミ「信じたからこそ……つまり、今の貴方を苦しめてるのは『罪悪感』なのね?」


ほむらは黙って頷く。


ほむら「…私だって、最初からこんな戦い方を始めたわけじゃない。
    初めは、貴方達を巻き込まないように努力したわ」

ほむら「けれど…結局は上手くいかなかった。
    それからよ…理解者は必要ない、他の誰がどうなろうと構わない、そう考えたのは」

ほむら「でも今は違う。貴方達に…様々な時間軸で傷付けてきた全ての貴方達に、罪の意識を感じてる」

ほむら「こんなに苦しいのに…共に行動するなんて、できるわけがない…」

 

687: 2014/03/17(月) 22:09:23.83 ID:59G1o+xW0


マミ「暁美さん…私だって今も同じようなことを考えてるわ。
   昨日までずっとみんなに迷惑かけて、呪いの矛先を仲間に向けてしまったから」

マミ「でもね、佐倉さんに美樹さん、二人もきっと同じ思いをしたはずなの。
   だから貴方の気持ちも良くわかってる。受け入れないわけがないわ」

ほむら「私と同じ?」

ほむら「巴マミ…貴方が苛まれたのは、本当にそれだけ?」

ほむら「今までの時間軸と同じなら、貴方は仲間だけでなく、頃してきた魔女……
    その元になる魔法少女達にも罪悪感を感じたはず」

ほむら「それは拭い去れたの?」


敢えてマミのトラウマを抉るかのような言葉を選択するほむら。

だが、その意図はマミを傷つけることではなく、
自分を導くに値する「説得力」を持っているかを試すことにあった。


マミ「そうね…感じたわ。正直、もう魔女と戦うことなんてできないと思ってた」

マミ「…だけど、体って自然と動くものね。
   倒れたはずの『ワルプルギスの夜』の反応が蘇ったとき、私は夢中で駆けてたわ」

マミ「そして挑んだあの決戦…『ワルプルギスの夜』を倒したけど、その事には今も後悔は感じてない」

マミ「暁美さんは、あの魔女の最期を見た?」

ほむら「…歯車が爆発を起こしたところまでは覚えてるわ」

マミ「じゃあ、爆発の後は知らないのね」

マミ「『ワルプルギスの夜』の最期は、いつもの魔女と違ってたわ。
   一つ一つの呪い全てが浄化されてるような、そんな消え方だった」

マミ「まるで私達との戦いで、長い苦しみから解放されたみたい…そう思えたの」

マミ「『魔法』と『光』、もし二つの力が紡ぎ出す可能性が、
   絶望に染まった魂を救う道なのだとしたら―――」

マミ「私はまだ戦える」


魔女の爆発直後に気を失ったほむらは、その後に起こった現象を知らない。
だが、その現象がマミの心に大きな影響を与えていることは伝わってくる。

 

688: 2014/03/17(月) 22:15:33.66 ID:59G1o+xW0


マミ「同じように、貴方が生きて戦い続ける意味を考えてみない?」

マミ「そうね、例えば…」

マミ「貴方がここで諦めてしまうことは、今まで貴方が傷付けた全ての人への裏切りになってしまうと」

ほむら「裏切り…」

マミ「今までの犠牲を無駄にしないためにも、必ずやり遂げるの。貴方自身の力で!」

ほむら「…私のやってきたことは、インキュベーターとなんら変わりはないわ。
    自分の目的のためだけに、平然と相手を傷つけ…利用した。

ほむら「貴方は奴等にも、同じように『やり遂げて』なんて言えるの?」

マミ「言わないわ」

ほむら「…!?」

マミ「暁美さん、貴方だからよ」

ほむら「私…だから?」

マミ「私を信じてくれて、私が仲間と認めた、貴方だから言ってるの」


ほむらがどんなに揚げ足を取ろうと、マミが後ろ向きな考えをすることはなかった。
その変化にほむらは驚き、やがてその前向きさに頼りたいと考えるようになる。


ほむら「貴方はもう、私の知っている巴マミではないのね…」

ほむら「貴方は全ての迷いを振り払うことができた。
    そして、私は道を見失った。……まるで正反対だわ」

ほむら「もしかすると、貴方から教わるべきことはまだ沢山残っているのかもしれない…」

マミ「『まだ』?」

ほむら「話してなかったかしらね…私も貴方の元弟子よ。かなり最初の時間軸の話だけど」

マミ「暁美さんも、私の…!?」


この時間軸のマミ自身が経験した出来事ではないが、
「元弟子」という事実は、ほむらへ芽生えた信頼を更に強めていく。


ほむら「昔のように、貴方に教えを請うのも悪くないわ…」

ほむら「『巴さん』、私はどうするべきだと思う?」

マミ「…大人しく、私達と一緒に来なさい!」


マミはほむらを温かく迎え入れるかのように、笑顔で手を差し伸べた。


 

689: 2014/03/17(月) 22:33:58.43 ID:59G1o+xW0




その頃ゼロは、腕時計を確認するかのように何度も左腕に目を配っていた。


ゼロ人間体(まだエネルギーは回復しないか)

ゼロ人間体(あれだけの激しい戦いだったんだ。合体の負担がデカかったとしても無理はないが…)


決戦から数時間が経過しても、未だイージスは輝きを取り戻さない。
エネルギーが復活するタイミングは持ち主にはわからず、ゼロを少し不安にさせる。


ゼロ人間体「ん?」

マミ「ただいま」


気付けば部屋の扉が開き、買い物に出たはずのマミが戻ってきた。

しかし、彼女は何も手にしていない。


さやか「あれ、マミさん?思ったより早かったっすね」

杏子「収穫なしみたいだな。やっぱどこも開いてなかったのか?」

マミ「大丈夫よ、手配ならもう終わってるわ。少しだけ時間がかかるかもしれないけどね」

さやか「手配?」

マミ「それより、みんな今何をしているの?」

杏子「ああ、ゼロへの質問タイムだよ。
   知ってたか?ウルトラマンの胸のピコピコ、パクられると体が萎んじまうんだってさ」

ゼロ人間体「お前な…詳しく説明してやったのに、ムダ知識だけ切り取って教えてんじゃねえよ!」

ゼロ人間体「いいかマミ?胸のアレは『カラータイマー』といって―――」

マミ「萎むって…まるで中の人がいなくなった着ぐるみみたい」

ゼロ人間体「何かすげー嫌な喩えだな…」


萎んだウルトラマンを頭でイメージするマミと、それを聞きテンションを下げるゼロ。
二人の間に、突然さやかが割って入る。


さやか「ちょっとゼロさん!」

さやか「終わった質問蒸し返さなくていいからさ、次は私の番っすよ!」

ゼロ人間体「あーわかったわかった。…で、お前は何が聞きたいんだ?」

さやか「ずっと気になってたんだけど…ゼロさんって、ズバリ何歳?」

 

690: 2014/03/17(月) 22:37:53.30 ID:59G1o+xW0


それはさやかが以前から関心を持っていたが、
これまでの状況の慌ただしさから尋ねる機会を逃していた疑問。


ゼロ人間体「ほう、俺の歳か」

マミ「中々面白そうな質問ね」

杏子「文字通りの『超人』なんだし、流石にアタシらと同じってわけじゃないよな?」

ゼロ人間体「まぁな。でも宇宙飛び回ってる他のウルトラ戦士と比べたら、俺の若さは段違いだぜ!
      地球人の時間感覚でいえば、そうだな……」

ゼロ人間体「5,900歳だ」

杏子「はあ!?」

マミ「うそっ!?」

さやか「ご、5900さいぃぃ!?」


ウルトラマンと地球人の間に存在する、種族としての年齢差。
それは100歳前後だろうと考えていた三人は、ゼロの答えに衝撃を受ける。

そして、その反応は反対にゼロを驚かせた。


ゼロ人間体「お前ら……いくらなんでも驚きすぎだろ」

さやか「いや、だって50世紀以上歳離れてるなんて思ってなかったし!」

マミ「ごめんなさい、いつものゼロさんの性格と一致しなくて…」

杏子「言葉遣いが大人気ないというか何というかさぁ…
   そんだけ生きてりゃもっと落ち着いてるもんじゃないの?」

ゼロ人間体「大人気ないってオマエ…俺まだ大人じゃねーし。
      地球人の世代に照らし合わせたら、俺とマミとでそんなに大差ないぞ」

マミ「つまり…高校生くらいってこと!?」

さやか「いやいやいや!見た目的におかしいって!」

杏子「こんな高校生いねーよ!!」

 

691: 2014/03/17(月) 22:53:55.32 ID:59G1o+xW0


ゼロが擬態する人間体「モロボシ・シン」、その外見は紛れもなく二十代半ばの青年。
本人が主張する世代とはあまりにもかけ離れている。


ゼロ人間体「初めて地球に来たとき、咄嗟に作ってた人間体なんだよ。
      前に一体化した人間や俺の声のイメージを、無意識に固めたのかもな…」

さやか「うーん、でも違和感が…」

ゼロ人間体「違和感ってオマエ…それ言ったらマミだって見た目中学生には見えねーだろ」

マミ「えっ…?」

マミ「……え?」


部屋は一瞬にして沈黙に包まれ、三人の視線が一斉にマミへ向けられた。
マミは恥ずかしげに腕を組み、体を隠す。


マミ「ちょっと…みんな……」

ゼロ人間体「………」

さやか「………」

杏子「………」

さやか「ゼロさん、それどういう意味…?」

杏子「セクハラかテメーは!!」

ゼロ人間体「な、何で俺を軽蔑の眼差しで見てんだよ!?」


ゼロは誤解を解こうと弁解を続け、杏子とさやかがその反応で遊び始める。

部屋に騒がしさが戻ったその時、再び部屋の扉が開いた。


ゼロ人間体「誰だ!? 」

ゼロ人間体「―――って、ほむら?」


そこには、勇気を出して皆に歩み寄ろうとするほむらの姿があった。

 

692: 2014/03/17(月) 23:02:54.53 ID:59G1o+xW0


ゼロ人間体「やっと目ぇ覚めたのか!!」

マミ「用意もできたみたいね」

杏子「用意って何を……ん?」


彼女が運んできたのは、ご飯の盛られた茶碗とスプーン。
そしてもう一つ、何かの食べ物が入った小さな瓶。


ほむら「代わりに持ってきたわ、貴方の探しもの」

ゼロ人間体「これが、伝説の……」

さやか「ゼロさん、絶対これっすよ!」


ゼロが手に取った瓶には『食べるラー油』と書かれている。
それが『なんとかラー』に対する、さやかの答えだった。


ゼロ人間体「ていうか、空いてねーかこれ…?」

マミ「暁美さんに事情を話したら、偶然持ってたものを用意してくれたの。運が良かったわ」


ゼロが様々な角度から瓶を見つめる間、さやかと杏子は小声で会話する。


杏子「何かさ…このシリアスな部屋とのギャップがハンパねーよな…」

さやか「それにあのご飯、たぶんレンジで温めたやつだよね…」

さやか「容姿端麗、文武両道でクールな転校生…」

杏子「黒幕にイレギュラーと言わしめた、謎の実力派魔法少女…」

さやか「その暁美ほむらが……チンしたご飯に『食べラー』…」

杏子「ヤベ……意識したらヤべーわこれ…」


『ワルプルギスの夜』の資料が浮かんだままの独特な部屋と、ほむら自身。
そのミステリアスな雰囲気全てを、一つの食べ物が打ち消していく。

 

693: 2014/03/17(月) 23:17:40.36 ID:59G1o+xW0


ゼロ人間体「どうした?何コソコソ話してんだよ?」

杏子「……いや、色々ね」


杏子とさやかは笑いを堪えながらほむらに近付き、左右から彼女の肩に手を回す。


さやか「ほむら、あんた近寄り難いイメージ定着しちゃってるけど、案外庶民的じゃん」

杏子「すげぇ親近感湧くタイプに見えてきたな。嫌いじゃないよ、そーいうの」

ほむら「……そう」


ほむらは二人の馴れ馴れしさに対する苛立ちはなかったが、
『食べるラー油』への思わぬ反応に、少しだけ恥ずかしさを感じていた。


マミ「それよりゼロさん、ご飯が冷めないうちに食べてみて」

ゼロ人間体「ああ、そうだな。遠慮なく食べさせてもらうぜ」

ゼロ人間体「そんじゃ改めて、いただきます!」


スプーンを使い、瓶から取り出した『食べるラー油』をご飯に乗せていく。

ゼロがそれを口に含み、噛み締める様子を仲間達は興味津々に見つめる。


杏子「どうよ?」

ゼロ人間体「………」

マミ「…ゼロさん?」

ゼロ人間体「…フ………」

ゼロ人間体「フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

さやか「あ、『変な声』だ」


謎の叫びに加えて「美味い」「辛い」を連呼しながら、ゼロは最後の食事を終えた。


 

697: 2014/04/02(水) 00:02:51.15 ID:MEaV+WkI0



ほむらが姿を見せたことで、ゼロと四人の魔法少女は一週間ぶりに完全な形で集まることができた。

食後、五人は今後について改めて話を始める。


ゼロ人間体「さてと、これで全員揃ったな。ここからは前にも話したとおりだ」

マミ「わかってるわ。ゼロさんは元の宇宙に帰るけれど、
   私達にはもう少しだけ戦い続けてほしい…でしょう?」

ゼロ人間体「ああ。全員の力を合わせてな」

杏子「『全員』か。となると―――」

ほむら「…大丈夫、私も共に戦うから」

さやか「それじゃ今日からは四人チームだね。あんたがいると、かなり心強いよ」


皆が心配していたほむらも、チームとしての行動を約束した。

だが今も気まずさを感じているのか、これまでとは違う控え目な態度を見せている。


ほむら「私も出来る限り、貴方達をサポートできるよう力を尽くすわ。けれど…」

ほむら「切り札だった時間停止はもう使えなくなった。
    残された魔法は、銃火器の収納と機械の操作…」

ほむら「そして時を巻き戻し、この時間軸で起きた全てを無かったことにするだけ」

ほむら「今の私が加われば、かえって貴方達の手を煩わせてしまうのは間違いない…」

ほむら「……それでもいいの?」

杏子「それでもいいんだよ。だから誰かが氏なないように助け合えって話だったろ」

マミ「残された魔法でも、どこかで応用は利くはずよ。
   この中の誰よりも豊富な経験を持ってる貴方なら、必ず状況を見極められるわ」

さやか「でも、この先ピンチだからって時間戻すのは絶対ナシだからね。
    前より弱くなってるのは私も杏子も同じだからさ、これからは助け合―――」

ゼロ人間体「弱くなってる?」

さやか「あ…」

ほむら「どういう意味?」

杏子「オイ、さやか…」

 

698: 2014/04/02(水) 00:12:06.87 ID:MEaV+WkI0


さやかは何か隠し事について口を滑らせてしまったらしい。
理解できていないゼロとほむらとは対照的に、マミと杏子は内容を知っているかのようであった。


杏子「まぁ…その、何だ……」

さやか「あはは……その内わかるよ!」

ゼロ人間体・ほむら「?」

マミ「とにかく、誰が弱くなったとしても関係ないわ。
   私がいる限り、誰一人脱落させたりしない。全部守ってみせる」

マミ「暁美さん、貴方の事もね」

さやか「マミさん中心に四人も魔法少女が集まってんだもん、どんな魔女にも負けっこないって」

杏子「ま、後にも先にも『ワルプルギスの夜』みたいな魔女が現れることもないだろうし」

ほむら「……そうね。『彼女』を守っている限りは」

杏子「忘れてたよ…誰にも倒せない魔女ってやつを」

ほむら「見滝原の魔女は今、ほぼ狩り尽くされたと言ってもいい状態にあるわ。
    けれど魔女の概念がこの世界に定着している以上、また少しずつ、その数を増やしていくはずよ」

マミ「この広い街でも、四人も魔法少女がいるのは多いくらいだった。
   けれど、全員がチームとして行動するなら話は変わってくる」

杏子「それとアタシが縄張りにしてた、風見野の範囲も放っておくわけにはいかないだろ?
   全部ひっくるめたら、結構な広さになるんじゃない?」

さやか「隣街まで出張かぁ。これからが忙しくなるってわけだね」

ほむら「加えてインキュベーターへの妨害も、これまでどおりに続けていきたい。
    でも奴等を最終的にどうするのか、その判断は貴方に託すわ、ゼロ」

ゼロ人間体「本当にいいんだな?」

ほむら「今の私ではきっと、奴等に対して冷静な判断は下せないから…」

ゼロ人間体「任せてくれ。インキュベーターは俺達ウルトラマンで、絶対に何とかしてみせる!」

ゼロ人間体「約束だ!」


ゼロは立ち上がり、手を差し出した。

その行動が一週間前の再現であると気付いた杏子とさやかが、立ち上がって手を重ね合わせる。
少し遅れて、マミも三人に続いた。

 

699: 2014/04/02(水) 00:17:05.61 ID:MEaV+WkI0


マミ「ほら、暁美さんも」

ほむら「………」


最後にはほむらも、同じように自分の手を重ね合わせる。

以前はバラバラだったそれぞれの心も、今は一つに繋がっていた。


ゼロ人間体「よし、これで全員繋がったな。この絆が、帰ってくるときの道しるべだ」

ゼロ人間体「つーわけで、ウルティメイトフォースゼロ『見滝原支部』の結成だ!!」

さやか・杏子「おいおい!?」

マミ「?」

ほむら「………」


マミはその意味を理解できず、ほむらの反応も薄い。

『ウルティメイトフォースゼロ』の存在を知るさやかと杏子だけが、声を揃えてツッコミを入れる。


杏子「ちょっと待て、アタシの拠点はあくまでも風見野市だっつーの!」

さやか「って、そういう問題かよ」

マミ「ウルティメイトフォースゼロ?」

さやか「ゼロさんが元の世界で作ってるチームっすよ。
    燃えてるマッチョとかロボット兄弟とか、何だかよくわからないけど凄いメンバーが揃ってるんだ」

マミ「チーム……」


マミは興味深げに、何かを考える。


マミ「……ねぇゼロさん」

マミ「チームの名前、『ピュエラ・マギ・ホーリークインテット』に改名しない?」

ゼロ人間体「ダメだろ」

ゼロ人間体「『ゼロ』って文字がどこにも入ってない」

マミ「それなら―――」

さやか「おーっと、これはもしかして私のネーミングセンスが試されてる?」

杏子「バカ、お呼びじゃねーっての。こういう時こそ喋らねー奴に振るんだよ」

杏子「そういうわけでほむら、アンタの出番だ。何か考えなよ」

ほむら「遠慮するわ」


正義の味方達が繰り広げる、緊張感を感じさせない会話の数々、
それは紛れもなく『ウルティメイトフォースゼロ』そのものだった。

そして陽が沈んだ頃、イージスはようやく青い光を灯した。


  

700: 2014/04/02(水) 00:19:11.51 ID:MEaV+WkI0




ついに旅立ちの時が訪れ、五人は部屋を後にして家の外に出る。

少女達が見守る中、ゼロは左腕を突き出し、青い光の中からウルトラゼロアイを手に取った。


ゼロ人間体(力が戻るのに時間がかかった理由、もしかすると―――)

ゼロ人間体(ほむらが心を開くまで、みんなの心が一つに纏まるまで、待っててくれたのかもな)

ゼロ人間体(ヘッ…戦いや次元越えだけじゃなくて、気まで遣ってくれるのか?)

ゼロ人間体(だとしたら、どんだけ便利なんだよ…ってな!)


ゼロはイージスに目を向け、エネルギーの復活がいつもより遅かった理由を自分なりに解釈する。

立ち止まったままの彼に、仲間達が声を掛けた。


杏子「何突っ立ってんのさ、ゼロ」

杏子「早いとこ行っちゃいなよ。元の宇宙でやらなきゃならないこと、沢山あるんだろ?」

ゼロ人間体「わかってるよ、だからそう急かすなって」

マミ「でもゼロさん、次の訪問でおしまい…だなんて言わないわよね?」

マミ「魔女のいない世界が実現したとしても、何度でも遊びに来て。
   その度にお茶会を開いて、貴方を歓迎するから」

さやか「その時はさ、『もう一人』も呼べるといいね。でしょ、ほむら!」

ほむら「もう一人…」

ゼロ人間体「そうだな、全てが上手くいったら俺にも紹介してくれ。お前らの『最高の友達』を」

さやか「うん!」

ほむら「…ええ、必ず」

 

701: 2014/04/02(水) 00:25:05.29 ID:MEaV+WkI0


ゼロ人間体「さ、本当はまだまだ話し足りねぇが、もう出発だ」

ゼロ人間体「でも『さよなら』はまだ言わないぜ。俺達はまた会えるんだからな!」


少女達は頷き、再会を誓う。

ゼロアイを装着したゼロの体は、青と赤の光に包み込まれ、人間サイズのウルトラマンへと変身した。
更にイージスが鎧となって纏われ、『ウルティメイトゼロ』の姿となる。


ゼロ「杏子!」

ゼロ「さやか!」

ゼロ「マミ!」

ゼロ「ほむら!」

ゼロ「それじゃ、またな!」


マミ「また会いましょう」

杏子「…じゃあな!」

さやか「ゼロさん、またね!」


ゼロ「シェアッ!!」


飛び立ったゼロは眩い光となって、瞬く間に空へ昇っていく。
皆は声を上げて彼を送り出したかったが、近隣から怪しまれないよう手を振るだけに止めている。

あっと言う間に光は見えなくなったが、四人はしばらく夜空を見つめ続けた。

別れの寂しさではなく、未来への希望を胸に抱きながら―――。





ほむら(こうして彼は旅立った。
    インキュベーターの計画を止め、全ての魔法少女達の未来を繋ぐために)

ほむら(そして私も、これから新たな一日を迎える)

ほむら(戦いはまだ続くけれど、もう迷わない。闇に囚われたりしない。
    まどかと交わした約束と、まどかが救おうとしたこの世界は、必ず守ってみせる)

ほむら(私はもう、一人ではないから。仲間を信じる心を、もう一度取り戻せたから)




ほむら「ありがとう、ウルトラマンゼロ」



 

702: 2014/04/02(水) 00:30:19.26 ID:MEaV+WkI0





同じ夜、避難所から戻ったある家族の家。
部屋の窓から、髪を赤いリボンで結んだ少女が空を眺めていた。


詢子「おいまどか、ご飯できてるぞ?」

まどか「ママ?」

詢子「どうした、雨でも降ってるのか?」


少女の名前は、鹿目まどか。
そして彼女を呼ぶのは、母の鹿目詢子。


まどか「ううん、流れ星…なのかな?何だか空に昇っていったような…」

詢子「流れ星ならぬ昇り星ってか?
   まぁ…よくわかんないけど滅多に見られるものじゃないんだ。お願いは済ませたか?」

まどか「うん、ばっちり」

まどか「この街に、いつもどおりの日常が早く戻ってきますようにって」

詢子「そうか、自分のことよりも街の方が心配か…」

詢子「ほんっとよく出来た娘だ、アンタは!」


母親はまどかに手を回すと、背後から強く抱き締めた。


まどか「わっ!?」

詢子「アタシだったらこう願ってたな。融通きかねぇ経理のハゲから、残された毛をだな……」

まどか「ママ…」

詢子「まぁ…冗談はいいとして、アタシらは本当に運が良かったよ。こうして帰る家が残ってるんだからな」

詢子「街の中心に住んでた人達は、本当に大変さ」

まどか「うん…見滝原の街が、もう私の知ってる街じゃなかった…」

まどか「どんどん変わっていっちゃうんだね…街も、みんなも…」

まどか「………」

 

703: 2014/04/02(水) 00:35:31.05 ID:MEaV+WkI0


言葉が続かないまどかに、詢子は締める力を緩めながら尋ねた。


詢子「まどか、何か悩みでも背負いこんでないか?」

まどか「…わかるの?」

詢子「あったり前だろ、娘の本心も見抜けなくてママやってられるかって話さ。
   でもまぁ、内容までは知らねーけどな」

まどか「それ、わかってないんじゃ…」

詢子「いいからいいから、話してみな」

まどか「うん…」

まどか「…最近、みんなとの距離が遠くなってる気がするんだ」

まどか「仁美ちゃんは上条くんと付き合うことになって、最近一緒に学校行ったり帰ったりできてないし」

まどか「それにさやかちゃんも最近忙しいみたい。
    先輩や隣街の子と一緒に、剣道とか陸上とか……あと気功術も習ってるんだって」

詢子「気功術って……はは…チャレンジャーじゃないか、さやかちゃんは」

まどか「うん。さやかちゃんも仁美ちゃんも、どんどん先に進んでる」

まどか「みんなみんな、どんどん先に…」

まどか「だから私もね、同じように変わらなきゃって…そう思うんだ」

詢子「………」

詢子「…まどか」

まどか「?」

詢子「焦って前が見えなくなりそうになったらな、ママが選んだこのリボンを思い出せ」

まどか「リボンを?」

詢子「そう。ママの好みド直球、そしてお前の魅力を最大限に引き出してくれる、この赤いリボンをな」


母は片腕でまどかを抱き締めたまま、もう片方の手で軽くリボンを摘んだ。

 

704: 2014/04/02(水) 00:51:28.45 ID:MEaV+WkI0


詢子「変わろう変わろうって気持ちだけが先走るとな、ボロが出て、逆にみんなをドン引かせちまう」

詢子「今のままのまどかが大好きってヤツは沢山いるはずだよ。
   さやかちゃんも仁美ちゃんも、当然ママだってそうさ」

詢子「もしかしたら、ニュースで話題になってるあの『巨人』だって、実はアンタの隠れファンかもしれないぞ」

まどか「えへへ…まさか」

詢子「だから変化なんてな、リボンみたいに小さなものからでいいんだよ。
   その小さなもんを積み重ねて、子どもは大人になってくんだからな」

詢子「でも、変わろうとするなって言ってるわけじゃないんだ。そこだけは絶対に履き違えるなよ?」

まどか「うん、わかってる」

詢子「そんじゃ、最近周りで何か気になってることはないか?
   例えばあの男子が気になる…とかな」

まどか「そ、そんな相手まだいないよ…」

まどか「あ…でも、気になってる子はいるかな」

まどか「ちょっと前に転校してきた女の子で、まだ馴染めてないというか、みんなと壁を作ってるというか…」

まどか「でもね、結構目が合ったりするんだ。向こうも、私に話しかけたいのかな?」

詢子「そうか…」

詢子「なあ、明日の学校は?」

まどか「多分、いつも通り。もしもの時には朝に連絡網が回って来るみたい」

詢子「よし、明日その子と友達になって来い!」

まどか「えっ、いきなり友達!?」

詢子「そうさ、新しい自分への第一歩だろ?」

まどか「新しい自分への……」

まどか「………」

まどか「…わかった、やってみる」

詢子「さぁ、そうと決まれば明日に備えて腹ごしらえだ。パパもタツヤも待ってるよ」

まどか「うん!」


詢子は一足先に部屋を去り、リビングへ向かう。
残ったまどかは窓のカーテンを閉じ、何かが変わるかもしれない明日に胸を躍らせた。


まどか「さやかちゃん、仁美ちゃん―――それに、暁美さん」


まどか「また あした」

 

705: 2014/04/02(水) 00:53:18.93 ID:MEaV+WkI0





ED『また あした』

歌:鹿目まどか(悠木 碧)




 

709: 2014/04/06(日) 19:23:14.26 ID:9eCOv4Nw0



旅立ちの後、ゼロは泡粒のように宇宙が浮かぶ広大な超空間を、一人進み続けていた。

やがて見えてきた泡の一つに目標を定めると、その中へ勢いよく飛び込んでいく。

次元の境界を潜り抜けた先には、ゼロが拠点とする宇宙世界『アナザースペース』の光景が広がっていた。


ゼロ(一時はどうなるかと思ったが、帰ってこれたんだな…本当に)

ゼロ(旅立ちの前と同じだ。何も変わってねぇ)


一カ月ぶりの帰還に、懐かしささえ感じるゼロ。

しかし、彼が経験した時間の流れは特殊なもの。
この宇宙では、旅立ちから約一日しか経過していない。


ゼロ(おっ、見えてきたな!)


眼前に、ウルティメイトフォースの仲間達が待つマイティベースが見えてきた。
ゼロは速度を上げ、基地へと急ぐ。


ゼロ「みんな、待たせたな!」

一同「ゼロ!?」


ゼロは鎧を解除して腕輪に戻すと、仲間達の元に駆け寄った。

彼の身を案じながら待機していた仲間達も、驚きとともに振り返る。


グレン「おいおいおーいっ!待ちわびたぜ、ゼロちゃんよぉ!」

ミラー「時空まで超えたようですが、一体何処へ行っていたんですか?」

ゼロ「連絡もなしに出発して悪かったよ。別次元の地球が、一刻を争うピンチだったもんでな」

ジャン弟「地球?」

ジャン兄「ゼロ、詳しく聞かせてくれ」

ゼロ「わかってる。話は宇宙パトロールの最中に遡るんだが―――」


 

710: 2014/04/06(日) 19:25:31.39 ID:9eCOv4Nw0


旅立ち、魔法少女との出会い、魔女との戦い、時間遡行、
インキュベーターの策略、初めて触れた人間の闇、最終決戦。

地球で過ごした一カ月の全てをゼロは事細かに語っていく。


ジャン弟「別の宇宙でそんな戦いが…」

ミラー「ゼロ、貴方にとってもかなり過酷な戦いだったようですね」

ゼロ「ああ、精神的にかなり鍛えられたぜ。
   体操座りで閉じこもりたくなる気持ちも、今ならよくわかる」

ミラー「それなら、暗闇から連れ出してくれる仲間の心強さもよくわかったことでしょう」

ゼロ「そりゃあ……ま、まぁな…」

ジャン兄「新たな世界で新たな繋がりを築けたのだな、ゼロ」


ゼロは照れくさそうな態度を取りつつも、仲間達の心強さを今まで以上に実感していた。
そして地球で出会った少女達を、彼等に今すぐ紹介できないことも残念に思っていた。


ミラー「しかし、不思議な話ですね。
    『まどか』という何の変哲もない少女が、一つの星の命運を握っていたとは」

ジャン兄「因果を背負った少女が狙われ、その感情がエネルギーとして利用される……卑劣だな」

ミラー「全くです」

ジャン弟「ビートスターをきっかけに、敵は多次元宇宙の存在を知ったのか。
     つまり、この宇宙にも現れる可能性が…?」

ゼロ「可能性はあるな。もし奴等が目をつけるとしたら、多分エメラル鉱せ――」

ミラー・ジャン兄「姫様ッ!!」

ゼロ「……は?」


 

711: 2014/04/06(日) 19:27:14.55 ID:9eCOv4Nw0


ミラー「もし姫様が契約に応じ、魔法少女になってしまったとしたら……」

ジャン兄「女神と見紛うような、神々しいお姿に…ではない!
     姫様が生まれながらに背負った因果を考えれば……ああ、なんと恐ろしい…!!」

ミラー「この宇宙が滅びかねません!!」

ジャン弟「………」

ゼロ「ホント面倒くせーな、お前らのエメラナ推しは」


いつもと変わらぬ調子のメンバー達。
だが、只一人、様子のおかしい男がいた。


グレン「………」

グレン「……ねぇ……」

ミラー「…グレン?」

グレン「……許せねぇ!」

グレン「絶対に許せねぇっ!インベーダァァァッ!!」

ジャン兄「インキュベーターだ。覚えておけ、私の名前と共にな」


頭を激しく燃え上がらせて憤るグレンだが、
彼以外の仲間達は、ゼロが敵を残したまま帰還したのは考えあってのことだと理解していた


グレン「地球行こうぜゼロ!ヤロー共をこのまま放ってはおけねぇ!!」

ゼロ「確かにお前の言う通りだ、奴等は許せねぇ」

グレン「だろ?そうだろ!今すぐシバきに行こうぜ!!」

ゼロ「許せねぇ、が…落ち着けよグレン。
   インキュベーターは俺なりの方法でブッ倒す。今回は拳の出番はナシだ」

グレン「お前なりのやり方…?」

 

712: 2014/04/06(日) 19:28:36.05 ID:9eCOv4Nw0


ゼロはグレンを宥めると、再び出発の準備に移る。


ゼロ「さぁ、これからが忙しくなるぜ!」

ゼロ「ジャンボット、ジャンナイン、お前らのコンピューターが必要になるかもしれねぇ。
   悪いが、光の国まで一緒に来てくれ!」

ジャン兄「新たな仲間達の未来が懸かっているのだろう?遠慮しなくていい」

ジャン弟「同じく」

ゼロ「そんじゃミラーナイト、グレン。少しの間この宇宙を頼むぜ!」

ミラー「任せてください」

グレン「おう!インベーダーは俺が……って」

グレン「…ありゃ?」

ゼロ「何だよ?」

グレン「こりゃあつまり……お留守番?」

ゼロ「ああ」

グレン「ま…ま…ま…」

ミラー「魔法少女?」

ジャン兄「まどか?」

ジャン弟「…Magica(マギカ)?」

グレン「おっ、上手い!……じゃねぇよ!!」

グレン「俺が言いたいのは……」

グレン「またかよおおおぉぉぉぉーーッ!!」





 

713: 2014/04/06(日) 19:30:26.32 ID:9eCOv4Nw0



ゼロ(こうして、一ヶ月に渡る魔女との戦いは、ひとまずの終わりを迎えた)

ゼロ(だが、まだやるべき事は残ってる。
   まずは光の国に戻って、地球で起きた出来事をすぐに報告しないとな)

ゼロ(魔法少女のシステムは、ウルトラの力で必ずブッ壊す!
   そして、インキュベーターの常識も全て塗り替えてやるぜ!)




ゼロ(…俺はそう意気込んでいた)




ゼロ(でも、この時はまだ知らなかったんだ。
   迷路の暗闇から全てを見つめていた、『コウモリ野郎』の存在を)

ゼロ(そして俺に待ち受ける、さらに過酷な『魔女』との戦いも―――)



 

714: 2014/04/06(日) 19:34:16.97 ID:9eCOv4Nw0





ゼロが地球を旅立った後、
キュゥべえは赤い目を光らせながら、暗闇の中で何者かと対峙していた。


QB「最初に感知してから、もうすぐ二週間になるかな。
   やっと居場所を突き止めたよ、別宇宙からの侵入者」

QB「君が何者で、この宇宙に何をもたらしてくれるのか、教えてくれないかい?」


まるでキュゥべえと対でもあるかのような、青い目が暗闇に灯る。

青い目の主は、やや高いテンションで問いに応じた。


グラシエ「おやおや、気付かれてましたか~!
     我が名は、バット星人グラシエ。この物語の観客です」

グラシエ「もし恐怖と絶望でよろしければ、私が幾らでも差し上げましょう」

QB「!!」


その名を聞き、相手の利用価値を見極めようとしていたキュゥべえの態度が警戒に変わる。


QB「その種族名、門の先だけでなく、あちこちの宇宙で耳にしたね。
   一刻も早くこの収穫場から早く立ち去ってほしいところだけど…」

QB「狙いは何だい?―――『侵略者』バット星人」


 

715: 2014/04/06(日) 19:36:10.61 ID:9eCOv4Nw0


グラシエ「ほう…我々をご存知でしたか。無論、最終的な目標は全宇宙の掌握デス」

QB「さすがにこれは見過ごせないね…」

グラシエ「ご安心なさい。今の目的はあくまでウルトラマンゼロの抹殺。
     この宇宙を今滅ぼすか否か、その決定権は私にはありません」

QB「決定権…どういう意味だ!?」

グラシエ「クックック……私にも色々と準備があるもので。
     これにて失礼させていただきます」

QB「待つんだ!!」

グラシエ「ゼロ、貴方が手にした四つの繋がり―――
     それらが貴方の両手両足を縛る枷でしかないことを教えてあげましょう!」

グラシエ「…ククククク……」

グラシエ「…ハハハハハッ……」

グラシエ「…ハッハッハッハッ!」

グラシエ「ハァーーッハッハッハッ!!」


とある森の中で、鉱石のような質感を持った宇宙船が光学迷彩を解除する。
直後に船体は浮上し、周囲に重力異常を発生させると、別次元へ転移していった。

船が隠れていた跡地には、白く小さな何かが残されている。

それはぼろ雑巾のような姿で息絶えた、キュゥべえの姿だった。










ウルトラ魔女ファイト

第一部 完





だが、絶望はつづく




 

716: 2014/04/06(日) 19:37:46.18 ID:9eCOv4Nw0
ここまでのご愛読ありがとうございました。
今まで伏せてましたが、このSSは二部構成での完結になります。

少し書き溜めた後、新スレで怪獣墓場を舞台にした第二部『鎮魂の物語』を始める予定です。
一部ほど長くはなりませんので、もう少しだけお付き合い下さい。

717: 2014/04/06(日) 19:44:58.11 ID:dBC7onEqo

あれ?もしかしてゼロファイトに繋がらない?

718: 2014/04/06(日) 21:59:02.45 ID:RgMLVKPM0

まぁ、サーガに繋がらないならファイトにはもっとつながらいでしょ

719: 2014/04/07(月) 20:23:17.35 ID:Amn64hfE0
>>717
『キラー ザ ビートスター』までの時系列を原典どおりとし、
以降はまどマギ要素を絡めたパラレル設定になります。

ですが、SS第二部のプロット自体は2012年末に完成しているので
『ウルトラゼロファイト 第二部』や『叛逆の物語』の要素は殆ど含まない予定です。


では、また新スレで。

引用: ウルトラ魔女ファイト【ウルトラマンゼロ×まどか☆マギカ】