1: 2014/03/16(日) 01:01:02.33 ID:y0dnDrxK0


※長編注意




宰相「国王陛下!先ほど勇者様一行が魔王軍の本拠地近くまで迫ったという報告が入りました」

宰相「既に魔王軍の本隊は劣勢を極め、幹部クラスの魔族もほぼ全て討ち取っているそうです!」

国王「そうかそうか。それはよい知らせじゃな」






2: 2014/03/16(日) 01:03:46.35 ID:y0dnDrxK0

宰相「はい。国民も魔王軍討伐の知らせに歓喜しております」

宰相「かの『百年戦争』も、ついに我らの勝利に終わるでしょう!」

宰相「勇者様への禄はどうなされますか?」

国王「まあ待て。まだ勇者が魔王を討つと決まったわけではない」

国王「いや、討たせるわけにはいかぬ」

宰相「はて、どういう意味です」

国王「分からぬか? これまでの人類の歴史を振り返ってみろ」

国王「長い戦争の末勇者が魔王を討ち、そして100年もすれば再び次の魔王が立ち、それをまた勇者が討つ」

国王「そんな全く同じ流れを我らは古くから続けてきたのだ」

国王「ここで一度断ち切っておかねばならぬ」

宰相「しかし……どうやってですか?」

国王「魔王軍と『停戦協定』を結ぶ」

国王「人間と魔族の平和。それを約束するのだ」

3: 2014/03/16(日) 01:05:30.45 ID:y0dnDrxK0

宰相「……こんな突然で大丈夫なのですか」

宰相「人間族は古くから魔族を嫌悪しています」

宰相「そう簡単に国民が受け入れるとは思いません」

宰相「勇者様についても一体どう説明していいのやら」

国王「ハハハ。問題ない。さっきのはただの建前だ」

宰相「はぁ」

国王「魔王軍も壊滅寸前。不平等に条約でも結んで苦しめてやればよい」

国王「下手に駆逐するよりはいくらかは役に立とう」

国王「もちろん、魔族への差別中傷も文書では禁止するが、実際は咎めなどせぬ」

国王「魔族などという汚れた者達と人間が協調するなど、初めから不可能な話なのだよ」ハハハ

国王「そして、この戦いが終われば再び諸侯国は分裂し、新たな戦争がすぐに始まるだろう」

国王「そこでだ。然るのちに人間族の諸侯国を『人間族連合王国』として統合する」


4: 2014/03/16(日) 01:08:04.11 ID:y0dnDrxK0


国王→幸の国王「さすれば、後々は南の大国『幸の国』国王である余が人間族全てを治め、平和な世を築くことができようて」

宰相「なるほど……あの西の『奇術国連合』と東の『魔術国連合』を相討ちさせ
   両者が疲弊した隙に陛下が北の魔国も含めて諸侯国すべてを統一する、ということですね」


幸の国王「その通りだ」

幸の国王「勇者についても考えてある」

幸の国王「北部の荒れ地でも開拓してもらうつもりだ」

宰相「事実上の左遷ですか……」

幸の国王「まあな。奴も優秀な政治手腕を持つという話だろう?」

宰相「はい。かつて花の国戦線の城にて、城下町に道路や水道、法律を見事に発達させました。
   今では大都市にまでなっていますね」


幸の国王「脅威以外の何者でもないな。この国に置いておくわけにはいかん」

幸の国王「さらに左遷したのちも監視を怠ってはいかんぞ」

宰相「では、協定交渉はいつ行いなさるのですか?」

5: 2014/03/16(日) 01:09:29.55 ID:y0dnDrxK0


幸の国王「ん。それならもう済んでおる」

幸の国王「先方魔王軍の第二権力者である側近との合意を得た」

幸の国王「今すぐにも勇者を呼び戻し、協定調印式の準備を始めねばな。卿にも手伝ってもらうぞ」

宰相「御意」


宰相「陛下、そういえばそのペンダントは一体どうなされたのですか?初めて見ましたが……」

幸の国王「ん?ああ、これのことか」チャリ

幸の国王「『知恵のペンダント』と言うそうだ。交渉の時に側近が友好の証だとかで渡してきたものでな」

幸の国王「これをつけていると頗る頭が冴えるのだ。一体どんな魔法をかけているのかは見当もつかん」

宰相「もしや、陛下への呪いだったりするやもしれませんね」

幸の国王「がははは! お前も悪い冗談が上手くなったものだ」

宰相「はっ。これはとんだお耳汚しを……」


宰相は確かにこの国王に対して違和感を感じたはずであった。しかし、彼の性格では
それに言及するには到底及ぶことが無かったのである。


6: 2014/03/16(日) 01:10:24.67 ID:y0dnDrxK0


―――魔王城 玉座―――


側近「ですからですね……」

魔王「ですからじゃないわよ!」ムキー

魔王「何勝手に変なこと約束してるのよ!」

魔王「もうちょっとで人間なんてけちょんけちょんにしてやれるのにぃっ!」

側近「もう不可能ですよ魔王様」

側近「幹部は私を残して全て戦氏し、魔王軍はほぼ壊滅しました。忌まわしき勇者の一行もすぐ近くまで迫っているそうです」

7: 2014/03/16(日) 01:11:54.67 ID:y0dnDrxK0


魔王「やかましいっ! そんなの私が直接出れば楽勝よ!」ムキー

魔王「くらえ!」バリバリバリ


魔王は雷魔法を放った!


側近「おやめくださいこんなところで」ヒラリ


かわされてしまった!


魔王「うるさいうるさい! もうアンタなんか知らない!」バタン

魔王は寝室に入ってしまった。

側近「協定の調印式には出席していただきますからね」

側近「……すべては我らが繁栄のためです……」ボソッ


8: 2014/03/16(日) 01:12:49.68 ID:y0dnDrxK0


―――…


グスッ


魔王「また負けちゃった……」グスッ

魔王「どうして私は負けてばっかりなの?」

魔王「お父様…どうして……」

魔王「うううぅぅ……」

魔王「人間と一緒になんて……」

魔王「こんな私ができるわけないよ……お父様……」



9: 2014/03/16(日) 01:13:45.11 ID:y0dnDrxK0


―――魔王城付近 勇者キャンプ―――


勇者「今更国に帰れだって?」

使者「そうです。もうじき戦争は終わるのです」

使者「幸の国王様が『停戦協定』を魔王軍と結びなさると……」

勇者「停戦協定?」

戦士「おいこら! ここまできてノコノコ帰れってのか!」

魔法使い「それは少し理不尽なのでは」

僧侶「そうですそうです! 私たちは平和のために命を懸けてここまで辛い道をたどってきたんですよ!」

使者「ですが、決まったものはどうしようもなくてですね……」

使者「かの『氏の谷』でさえ、ここまで私が無事で来れるほど魔王軍は弱体化しているんです」

使者「もう十分平和は訪れますよ」

10: 2014/03/16(日) 01:14:54.02 ID:y0dnDrxK0


勇者「そうだな……少しでも平和に解決してくれるならそれ以上のことは無い……」

戦士「おい! 怖気づいたのか勇者さんよぉ!?」

魔法使い「まあ抑えなさい戦士」シュパー


魔法使いはお口チャック魔法をかけた。

戦士は話せなくなった。


戦士「むぐぅ……」モゴモゴ

勇者「でも、それで国民は満足するのか?」

勇者「家族や親友を魔族に殺されたような人々もいるだろう」

勇者「僕らはともかく、協調するなんて難しいんじゃないのか」


11: 2014/03/16(日) 01:15:19.44 ID:y0dnDrxK0


使者「はい……その点も国王様の御考えのうちです」

使者「つきましては、勇者様に協定調印式の招待状が来ております」

使者「必ず出席せよとのことです」

勇者「分かった。詳しい話は直接聞こう」

勇者「今夜はこのパーティ最後の夜に、祝杯でも挙げておこうか」

魔法使い「そうね」

僧侶「こんな突然なんて……まだ信じられないです」

戦士「モゴモゴ」

使者「では、私はこれにて」


18: 2014/03/17(月) 00:23:20.33 ID:NZsRgXWH0


―――夜 魔族領から最も近い国花の国 最寄りの町の酒場―――


勇者「それじゃあ、乾杯」

戦士「乾杯!」

僧侶「……乾杯」

魔法使い「乾杯」


カチン


勇者「みんな今までありがとう」

勇者「これからは皆で平和な世を生きていくんだ」

勇者「これほど嬉しいことは無い」

僧侶「そうですけども……」


19: 2014/03/17(月) 00:24:15.60 ID:NZsRgXWH0


勇者「そんな悲しそうな顔をしないでくれ」

勇者「僕らは元々平和のために戦っていたんだ」

勇者「どんな形であれ、平和が訪れることは僕らの本望なんだから」

戦士「勇者の言うとおりだ。ここで旅を終えるということは逆に喜ぶべきことなのかもしれんぞ」

魔法使い「まあ、戦士にしては珍しくまともなことをいうのね」

戦士「珍しくは余計だ」

僧侶「そうですね……」

僧侶「いつかはこの旅も終わりが訪れるものですもんね……」

勇者「まあ仕方ないさ。僕達は4人で1人みたいなものだ」

勇者「僕だって名残惜しいところはある」

20: 2014/03/17(月) 00:24:56.82 ID:NZsRgXWH0


魔法使い「ところで、これからはどうするつもりなの?」

勇者「そうだな……」

勇者「あの幸の国王のことだ。僕が帰れば、僕の政治手腕を恐れて左遷でもするつもりだろう」

戦士「昔から戦闘の才能はヘボのくせに、戦術の才能はピカイチなんだもんな」

戦士「ま、それも名参謀僧侶閣下がいてのことだが」

勇者「しーっ!」

勇者「そうなったら、新しい国を作ろうと思う」

僧侶「新しい国?」

魔法使い「もう13もあるみたいだけど」

戦士「そいつはでかい夢だな」ハハハ

勇者「まあね。でも本気さ」


21: 2014/03/17(月) 00:26:05.19 ID:NZsRgXWH0


勇者「停戦協定を結んで、魔族と人間が協調し合おうとしても、なかなか難しい部分はあると思うんだ」

勇者「だから、僕はその先駆けとして魔族と人間がともに平等に暮らせる国を作る」

勇者「本当の永遠なる平和を実現するためにね」

戦士「……全く。お前が言うと本当にできそうな気がしちまうよ」

僧侶「そうですね!そこまで考えているなんてやっぱり素敵です!」

魔法使い「やるじゃないの。でも、最大国幸の国と、大国奇術の国、魔術の国がそれを許すかしらね」

勇者「まあ問題はそこだろうね。でも、ちゃんと考えてある」

勇者「戦士はこのままついてきてほしいんだ」

戦士「俺は親友と夢のあるところへ歩んでいくつもりだぜ」

戦士「そのかわり、ガッカリさせようものならこの手で叩き切ってやるからな」

勇者「ありがとう」

22: 2014/03/17(月) 00:27:15.66 ID:NZsRgXWH0


勇者「そして、他の2人は一旦故郷へ戻った方がいいだろう」

勇者「可能ならば再び合流してほしい」

僧侶「そうですね……私は奇術の国に家族もいますし……」シュン

僧侶「これ以上心配をかけるわけにはいきませんね」

魔法使い「ま、あの魔術国国王のことだし……戻るのに時間はかからないわね」

勇者「うん。それじゃあ必ずまた会おう」

僧侶「はい!また必ず!」

勇者「僧侶にはわざわざ奇術の国出身なのに魔術を学んでもらって苦労を掛けさせてしまったな」

僧侶「いえいえとんでもない!奇術は『エネルギー』がないと何にも役に立ちませんから……」


23: 2014/03/17(月) 00:27:50.16 ID:NZsRgXWH0


勇者「それに、僕の戦術も補佐兼参謀役の君があってこそだった」

勇者「戦術、魔術、そして奇術。是非帰っても、僕らの下へ戻ってきてもその才能を生かしてほしい」

僧侶「そんな……大したものでは……」

魔法使い「あら、あの町づくりの時のあなたの顔ったら見たこともないくらい生き生きしてたじゃない」

僧侶「それはですね……」

戦士「ふん。別れ言葉ってのは似合わねーんでな。そろそろお暇にしようじゃねーか」

勇者「そうだね。それじゃあ皆。しばし平和を楽しもう!」


24: 2014/03/17(月) 00:34:46.26 ID:NZsRgXWH0


―――しばらく後 幸の国 王城前広場 停戦協定調印式―――


魔王軍は戦闘を一切放棄し、人間と魔族との戦争は終結した。
そしてその後、調印式にはあらゆる国の人間と、魔族が集った。

彼らはお互いに睨み合っていたが、中には握手を求める商人などもちらほら見られた。

世界中の皆が、この新しい時代への扉に興味津々であったのだ。


ワーワー!
ヘイワバンザイ!


幸の国王「皆の衆!」

幸の国王「我らはこれより新たな時代の幕を引く!」

幸の国王「魔族と人間の戦いはここを持って永遠に廃されるのである!」


ワーワー!

25: 2014/03/17(月) 00:36:03.45 ID:NZsRgXWH0


幸の国王「それではまず、我と魔族の第二権力者である側近殿により、停戦協定条項への調印を行う」

幸の国王「側近殿、前へ」

側近「はい」スクッ


テクテク


幸の国王「今一度協定条項へのお目通しを願う」




26: 2014/03/17(月) 00:36:29.16 ID:NZsRgXWH0


第一条、『百年戦争』の終結を誓い、人間族と魔族は未来永劫戦いを廃する

第二条、人間族諸侯国は元魔王軍領地を『魔国』として承認する

第三条、両族は協調を旨とする。いかなる場合であっても両族を差別、中傷しない

第四条、幸の国は国内に魔族の居住区を建設する

第五条、両族は経済において提携する

第六条、魔国復興のため、復興省を設置し、人間族が魔国を保護する。


27: 2014/03/17(月) 00:38:44.60 ID:NZsRgXWH0


側近「……」

側近「よろしいでしょう」ガシッ

幸の国王「うむ」ガシッ


ワーワー!


幸の国王「理解、感謝する」

幸の国王「では次に、両族対立の象徴である『勇者と魔王』両者による和睦を誓っていただく」

幸の国王「勇者殿、魔王殿、共に前で握手を!」

28: 2014/03/17(月) 00:39:11.51 ID:NZsRgXWH0


魔王「……」スクッ

魔王「……」スタスタ

勇者「……」テクテク

勇者「よろしく」ニコッ


サッ


魔王「……」チラッ


ガシッ


ワーワー!


29: 2014/03/17(月) 00:40:12.38 ID:NZsRgXWH0


幸の国王「これにて人間族と魔族の争いの壁は完全に消え失せた!」

幸の国王「両族の永遠なる繁栄を祈ろうではないか!」


ワーワー!
ワーワー!


魔国万歳!

平和万歳!!!!


30: 2014/03/17(月) 00:41:15.38 ID:NZsRgXWH0

―――――――
―――――
―――

魔族と人間に平和が訪れた!

時は陰謀渦巻く時代へ。

伝説は再び訪れる。

人間族と魔族と、そしてもう一族の新たな物語!


37: 2014/03/19(水) 00:24:28.17 ID:KAu99vN80


―――調印式後 幸の国城 玉座―――


勇者「国王陛下! 度重なる御恩と援助にこの上ない感謝を申し上げます」

幸の国王「ガハハ! そうかたくなるな勇者殿。崩してよいぞ」

勇者「ありがとうございます」

幸の国王「長旅による魔王軍討伐、実にご苦労だった」

幸の国王「この平和の訪れも、卿あってのことである。誠に感謝いたすぞ」

勇者「いえいえ私などは……」


38: 2014/03/19(水) 00:25:07.45 ID:KAu99vN80

幸の国王「ついてだが……勇者殿の禄について諸臣と討議した結果、北部の手つかずの土地を勇者殿に差し上げることに決定した」

勇者(ほら来た! しかし『手つかずの土地』とはまたおしゃれな修飾だな……)

勇者(『公式な』人口は皆無。土地もボロボロのただの荒れ地だというのに)

勇者(しかし、それがまた好都合だね)

勇者「ははっ。ありがたき幸せに存じます」

幸の国王「うむ。それでは、近いうちにこの国を発ち、その土地を開拓してほしい」

幸の国王「勇者殿の政治手腕には我らも期待しておる」

幸の国王「頼んだぞ」

勇者「御意」


39: 2014/03/19(水) 00:26:05.41 ID:KAu99vN80


―――…

戦士「はははは。で、予想通り飛ばされたってわけか」

勇者「そういうことだね」

勇者「特に条件も付けてこなかったし、僕にとってはかなりの好都合だろう」

勇者「明日にはここを発とうと思う」

戦士「あいよ。準備ならいつでもできてるぜ」

戦士「俺も幸の国憲兵総官とやらを断ってやったんだからな」

戦士「感謝しろよエリートさんよー」

勇者「ははは。そんな暇そうな仕事は戦士には似合わないだろ」

40: 2014/03/19(水) 00:27:03.78 ID:KAu99vN80


勇者「居眠りですぐにクビになるのがオチさ」

戦士「お、言ってくれるじゃないか」

戦士「どうだ久々に一太刀やろうじゃねえか」ジャキン

勇者「よしてくれよこんな城の中で」

勇者「あっちにいったら十二分に仕事も増えるんだから」

戦士「チッ。ここのところはお預けにしといてやる」チン

戦士「ところで仕事が増えるってのは、ある程度やることが決まっているってことのようだが?」

勇者「まあね。まああまりここだと大きな声で言えないから、近くなったら話すことにしよう」

戦士「いいだろう。あーあ全く暇だな。一眠りでもしてくるか」スタスタ

勇者「はいはい」クスクス


41: 2014/03/19(水) 00:31:15.53 ID:KAu99vN80


―――魔術の国 首都―――


魔術国王「ふぉっふぉっふぉ。魔法使い殿、貴女には是非魔法大学校の校長を務めていただきたい」

魔術国王「前任の校長が老衰してしもうてのぅ。そろそろ引退したいと申しておるのじゃ」

魔術国王「魔術国王、魔法省長官、魔法大学校校長、魔術連合軍総司令官の『四賢人』であっても、老いにはどうしても勝てぬのでな」

魔術国王「少々お若いが、魔法学の権威として貴方に最先端を担って頂きたいのじゃ」

魔法使い「それは大変名誉な位ですわ。私には勿体ないほどのね」


42: 2014/03/19(水) 00:31:59.74 ID:KAu99vN80


魔法使い「是非お受けしたい、と申し上げたいけれど」

魔法使い「もう少し私にはやることがありますので、その話は保留にしておいてくださらないかしら」

魔法使い「心配しなくても私は100年や200年じゃ老いぼれませんからね」

魔術国王「ほう……そうか。それは残念じゃな」

魔術国王「奇術の国との戦争がまたすぐに始まるじゃろう」

魔術国王「貴方にはその司令官としても活躍してもらいたかったのじゃが……」

魔法使い「お言葉ですが陛下。私たちは人間族の平和のために戦う身ですの」

魔法使い「人間同士の戦いに加わる気は、さらさらないことをここで申し上げておきますわね」


43: 2014/03/19(水) 00:32:46.25 ID:KAu99vN80


魔術国王「ふぉっふぉっふぉ。それでこそ勇者一行様じゃのう」

魔術国王「それはよいのじゃが、このあと貴方はどうするおつもりかな」

魔法使い「そうね。陛下は、先日勇者が北の荒れ地に飛ばされたことをご存知ですかしら」

魔術国王「んむ。それは知っておるぞ」

魔術国王「勇者殿も御足労なことじゃ」

魔法使い「彼は、きっと我ら魔術国連合の助けを必要とされるでしょう」


44: 2014/03/19(水) 00:33:16.44 ID:KAu99vN80


魔法使い「私を外務省の使者としてその土地へ派遣していただきたいのです」

魔術国王「ふむ……よいじゃろう」

魔術国王「あの土地は『百年戦争』中も、我が連合と奇術国連合が幾度となく取り合ってきた土地じゃ」

魔術国王「奇術の国に手出しをさせるわけにもいかんじゃろう」

魔術国王「ぜひその魔の手から勇者殿をお救いするのじゃ」

魔法使い「ありがとうございます陛下」


46: 2014/03/19(水) 00:35:55.58 ID:KAu99vN80


―――魔術国中央大図書館―――


魔法使い「ここも久しぶりに来たわね……」

魔法使い「遠視魔法で旅の途中も欠かさず本を読んでいたものだけど、暇を利用してもうちょっと歴史のことでも学んでおこうかしら」

魔法使い「有効な戦略のヒントも見つかるかもしれないわね」

スタスタスタ

魔法使い「これがいいかしら」


47: 2014/03/19(水) 00:37:51.62 ID:KAu99vN80


『魔法大歴史時勢全集』


パラ


『この歴史時勢全集は、著作者の魔力により自動的に歴史や時勢が記録更新される全集である。

著作に当たって私第29代魔法大学校校長は大賢者殿より魂を移す魔法を……』


魔法使い「能書きは良いわね」パラパラ


48: 2014/03/19(水) 00:39:18.82 ID:KAu99vN80


【魔術の国は、その名の通り、古来から魔法によって栄えた王国である。

そして、魔術の国は、5つの中小国を傘下に置き、『魔術国連合』を形成している。

魔術の国各最高機関の長官である『四賢人』は、その中でも卓越した魔力を有する実力者であり、かつて魔族の大軍をたった四人で薙ぎ払ったとも言われている。

それについて、数多くの魔法の作成を手がけたかの大賢者はこう記している

大賢者「やっぱり、下からより上からの方が怖いよね。いや割とマジで」】



魔法使い「相変わらず適当な爺ね。奇術の国や幸の国はどうかしら。何か有益なことが書いてあるといいけど」パラパラ

49: 2014/03/19(水) 00:40:51.65 ID:KAu99vN80


【奇術の国、とは魔術の国と対比して付けられた俗称である。実際は『科学の国』と言った方が正しい。

こちらも傘下に5つの中小国を置き、奇術国連合を形成している。

国家のシステムも他の勢力とはかなり異なっている。

まず、その本体は、政治から産業、市場までを担う巨大な企業の集合体『企業連合』であり、それを理事長以下で構成される理事会が支配している。】


魔法使い「どうしてここまで別次元のような国家が同時に成立しているのかしらね。そこを書くべきじゃないかしら」パラパラ


50: 2014/03/19(水) 00:41:57.08 ID:KAu99vN80


【幸の国は魔術奇術両連合とは独立した、人間族諸侯国の中で最大の国家である。

ひとたび魔族が勢いをつけたときには、人間族を統括したり、勇者を輩出して魔王討伐に当てたりなど、
割と重要な役目を担ってきた由緒正しい国である。

『幸の国』という名称はその充実した社会福祉制度に由来するとも言われている。】


魔法使い「全く、どれもこれもありきたりなことばかりね」パラパラ

魔法使い「これは、『百年戦争』かしら」


51: 2014/03/19(水) 00:45:18.80 ID:KAu99vN80

【『百年戦争』とは、100年前に勃発した魔族と人間族の戦争である。先代魔王は政治的工作に特に優れており、戦わずして勝利を勝ち取る戦法を得意としていた。

勇者に対しても、仲間割れによって自殺に追い込む等して6人もの勇者を撃退している。

しかし、7人目の勇者が魔国に入った二年後先代魔王は突然氏去。その後百年戦争は実質的に魔王軍の敗北をもって終結を迎えることになった。

だが、先sbふぇvvんbヴぃびvぶああscをえtgfぅdgbvるいbvglwりbふ】

52: 2014/03/19(水) 00:45:47.67 ID:KAu99vN80


魔法使い「なにかしら……更新中ってやつなのかしら?」

魔法使い「誰かのいたずらかもしれないわね」ハァ

魔法使い「まあいいわ。あんまり大したことも書かれてなかったわね」ボスッ

魔法使い「これくらいにしておきましょうか」

スタスタ


60: 2014/03/19(水) 23:55:09.31 ID:KAu99vN80


―――奇術の国 首都 企業連合本社ビル 理事長室―――


僧侶「私に一体何のご用でしょうか理事長」

僧侶「私なぞには功績も何もありませんが……」

理事長「まあそう卑下なさらないでください」

理事長「貴女には十分な功績と実力があるんですからね。この国で唯一魔法まで使えるお方だ。
    もっと自信を持った方がいいですよ」

理事長「折角の容貌がそれではもったいありません」

僧侶「はぁ……」

理事長「無駄話はこのくらいにして、単刀直入に言いますと」

理事長「貴女を光の国軍の大隊参謀長に任命し、准将の位を与えます」


61: 2014/03/19(水) 23:55:43.57 ID:KAu99vN80


理事長「一度家族の下へでも赴いたら、然る後に光の国へ行ってください」

僧侶「なな!? 参謀長にですか!?」

理事長「不満足ですか? 貴女の参謀としての功績は重々承知していますが、さすがにいきなりこれ以上の位を与えるとなると……」

理事長「しかし、貴女の功績は大々的に報じられていますし、軍の方々に白い目で見られることも、あまりないでしょう」

僧侶「そんな! 私には過大すぎます!」

僧侶「それに、戦争に、人頃しに参加するなど私には……」

僧侶「辞退させてください!」


62: 2014/03/19(水) 23:57:30.99 ID:KAu99vN80


理事長「何を言うのですか。貴女はあくまで戦術をもって司令官に助言するだけでいいのです」

理事長「決して貴女が直接手を下すわけではありません」

理事長「犠牲の出ない作戦を作るのも貴女の自由なのですよ」

僧侶「そういう問題ではありません!」

僧侶「それに、私はまた勇者様のところへ戻るつもりです」

理事長「ほう? あの荒れ地にですか」

理事長「それなら余計辞退させるわけにはいきませんね」

僧侶「えっ? どういうことですか?」

63: 2014/03/19(水) 23:59:21.47 ID:KAu99vN80

理事長「戦術の秀才である貴女なら分かるでしょう?」

理事長「魔術の国は確実に勇者様への援助を口実にして、北部の荒れ地を手に入れることでしょう」

理事長「そうなれば多大な資源を失った上に、私たちは重要な拠点を無条件で失うことになるのです」

僧侶「それは確かに……そうですが……」

僧侶「あの北部の荒れ地は戦略的要所ですからね……」

理事長「そういうことです。ここで貴女が残らなければ、奇術の国は滅び、貴方の家族は氏に絶え、
    貴女も国を捨てた売国奴として氏後も呪われることになるかもしれません」

理事長「その方が結果的に犠牲は多くなってしまいます」

僧侶「しかし……」


64: 2014/03/19(水) 23:59:59.21 ID:KAu99vN80


理事長「それに、人頃しには参加しないということでしたが、魔族との戦いはどうだったのですか?」

僧侶「う、それは……」

理事長「魔族は長年我らと対峙してきた敵であるとはいえ、彼らにも感情や正義という物がなかったわけではないでしょう」

理事長「実際に魔国へと赴いた貴女なら分かるはずです」

理事長「そんな彼らを討つのと人を頃すのとで一体何の違いがあるのでしょうか」

理事長「貴方はもうとっくに覚悟したはずです。魔族のことを身近で見たときに、彼らは人と何も変わりはしないと」

僧侶「……」


65: 2014/03/20(木) 00:00:56.31 ID:wvwkUyFB0


理事長「それでも承諾していただけないというならば、私も貴女の家族の安全は保障しかねてしまいますね」

僧侶「……!」

僧侶「そんな……」

理事長「それに、こう考えてみてはどうですか?」

理事長「貴女が軍の中で勢力を拡大し、私達から権力を奪ってしまえばよいのです」

理事長「貴女への支持は十二分に集中していますからね」

66: 2014/03/20(木) 00:01:43.54 ID:wvwkUyFB0


理事長「さすれば、平和も協調も勇者への援助も貴女の自由です」

僧侶「理事長!?一体何を……?」

理事長「ここまでできる方なら、私も心置きなく理事長の座など譲って差し上げますよ」

理事長「人の心なんてものはすぐに移り変わっていくものです」

理事長「いつでもお待ちしておりますよ」ニコッ

僧侶「……失礼します」


バタン

67: 2014/03/20(木) 00:02:40.35 ID:wvwkUyFB0


―――…

僧侶「折角人を救うために僧侶になったというのに……」

僧侶「結局は逆の立場になってしまうなんて……皮肉なものです……」

僧侶「でも、どうしようもありませんね」ハァ

僧侶「こうなったら、理事長の言う通り、精一杯犠牲を減らして、血を流さない作戦を作らなければ」

僧侶「神は私に新たな使命を授けなさったのでしょうか……」

僧侶「私は私の道で勇者様をお助けしなければ!」グッ


タタタッ


68: 2014/03/20(木) 00:03:57.22 ID:wvwkUyFB0


―――…


ガチャ バタン


軍務理事「あちゃー。聞いてましたよ今の会話」

軍務理事「理事長も過激な発言が過ぎますぜ」

理事長「あれくらい言わないと彼女は動きませんよ」

理事長「わざわざ聖職者の道を選ぶ方なんですからね」

軍務理事「それにしても理事長もお人が悪い方だ」

軍務理事「そう分かっているなら、自由にさせてあげればいいんじゃないですかい」

理事長「そうはいきません。彼女は必ずこの危機を救う光となるでしょうからね」

69: 2014/03/20(木) 00:04:25.69 ID:wvwkUyFB0


理事長「いわば私の先行投資というやつです」

軍務理事「危機ねぇ……無い頭なんぞ持つもんじゃありませんなぁ」

軍務理事「本当に彼女は我々を倒しに来るんでしょうかねえ」

理事長「必ず来ますよ」

理事長「彼女にその気がなくても私がそうさせますから」フフフ

軍務理事「なんと、つくづく恐ろしいお方だ」ハハハ


その後、僧侶は還俗し、軍人として新たな人生を開くことを決意した。


70: 2014/03/20(木) 00:05:15.80 ID:wvwkUyFB0


――――――


こうして、勇者一行の新たな物語は始まった。

彼らの運命が一体どうなっていくのか。そして、歴史はどう動いていくのか。
知り得る者は、どこにも存在していないのだった。


プロローグ END

75: 2014/03/21(金) 00:21:56.06 ID:vMEtHPy20


―――翌日 幸の国首都中央駅―――


勇者「特急の蒸気機関車なんて初めて乗るなぁ」

戦士「そりゃあそうだろう。切符は高すぎて、貧しかった俺達にゃあ手が出せなかったんだからな」

勇者「そうだね。今回は幸の国王のお陰でタダだし、このまま国境まで行ってしまおう」

勇者「その後は馬で行くしかないね」

戦士「魔術国連合はまだ鉄道の開通を拒否しているのか? まったく頭の堅い奴らだ」

勇者「まあ彼らには空飛ぶ箒もあるし、わざわざ敵国の技術を取り入れるまでもないんだろう」

戦士「『彼ら』にはあるかもしれんが、『俺ら』には無いんだからな。全く不便なものだよ」プンスカ


ポッポー


勇者「お、来た来た」

戦士「さーて、出発だな!」


76: 2014/03/21(金) 00:23:02.23 ID:vMEtHPy20


―――1か月後 花の国 王城―――


奇術国連合と魔術国連合の開戦が勇者に伝わったのは、北の荒れ地に入る直前、花の国王に謁見し、挨拶をした時であった。

もちろん勇者はこのことを予期していたため、特に驚きはなかった。


花の国王「勇者殿、戦士殿、長旅真に御足労でありましたねはい」

花の国王「魔族との戦時中に、この国が救われたのも勇者殿とその御一行のおかげなんですねはい」

花の国王「重ねてお礼を申し上げるんですねはい」

勇者「ありがとうございます」

花の国王「勇者殿が発展させてくださったあの大都市もですね、勇者殿を称えて『勇者市』と新たに名付けたいと申しているんですねはい」


77: 2014/03/21(金) 00:23:39.17 ID:vMEtHPy20


戦士「(こいつはセンスのねぇ名前だな。傑作だ)」クスクス

勇者「(こら。聞こえてるよ)」ツン

勇者「ははっ。誠にありがたきことであります」

花の国王「ところでですね。再び奇術の国との戦争が始まりましたのでですね、護衛の者を派遣したいと思っているんですがねはい」

勇者「もう始まりましたか。戦地は何処でしょうか」

花の国王「火の国と光の国の国境付近と聞いているんですねはい」


78: 2014/03/21(金) 00:24:19.53 ID:vMEtHPy20


勇者「ありがとうございます。護衛については、後々こちらから要請させていただきますので」

花の国王「分かったんですねはい」

花の国王「北の荒れ地と言えば、ここいら一帯を騒がせているあの『半魔盗賊団』の本拠地が存在しているということですからねはい」

花の国王「そちらも十分注意していただきたいんですねはい」

勇者「大丈夫ですよ。私たちは魔王軍を圧倒した『勇者一行』ですからね」

花の国王「これは失礼したんですねはい」

花の国王「心配はご無用のようですねはい」

勇者「それでは失礼いたします」

79: 2014/03/21(金) 00:25:39.79 ID:vMEtHPy20


―――3日後 花の国=北部荒れ地国境付近の村―――


パカラッパカラッ


戦士「さーて、そろそろ馬の旅も終わりだな勇者」

戦士「一休みでもして、これからの予定をお聞かせ願おうじゃないか」

勇者「そうだね。ここまでくれば変な監視もうかつには近づけないだろう」


80: 2014/03/21(金) 00:27:10.02 ID:vMEtHPy20


―――…


戦士「ふう。それにしても、荒れ地との国境という割には、やけに賑わっているような気がするが」

勇者「そりゃあそうさ。あらかじめ僕がこれから、この荒れ地を三角貿易の拠点にするという噂を流しておいたんだ」

勇者「この前の帰り際に、勇者市の市長に協力をお願いしたら快く承諾してくれたよ」

戦士「なるほど、それで人を集めようってのか。手の込んだ奴だな」チッ

勇者「誉め言葉として受けとっておくよ」

勇者「まあ、これで町作りの基礎は何とかなるだろうね」

81: 2014/03/21(金) 00:27:55.72 ID:vMEtHPy20

勇者「商人や銀行はすぐにでも進出してくるだろう」

勇者「それじゃあこれからの仕事を説明しよう」

戦士「おう」

勇者「僕らはこれから『半魔盗賊団』のアジトへと直接出向くことにする」

戦士「おぉっ、これは久々の戦闘の予感!?」

勇者「残念だけど今回はお預けだね」

勇者「僕らは『半魔盗賊団』と和睦を結ぶのさ」

勇者「そして、これからの国作りに協力してもらうんだ」

82: 2014/03/21(金) 00:28:40.69 ID:vMEtHPy20


戦士「和睦ゥー?」

戦士「そんなの可能なのかよ」

勇者「魔族と人間とが和睦を結べたんだ。いわんや魔族と人間の混血である半魔をや、だよ」

戦士「なーるほど……」

戦士「勇者がその口と舌で上手くちょろまかすって寸法だな?」クスクス

勇者「ちょろまかすとはまた失礼な言いようだね」プンスカ

勇者「僕の目標は、人間と魔族が共に暮らす国を作ることだよ」

勇者「その先駆けとして、半人半魔の彼らと手を結ぶのは当然のことさ」


83: 2014/03/21(金) 00:29:36.40 ID:vMEtHPy20


勇者「後々は、人間族魔族間協調の象徴となってくれるだろう」

戦士「ふむ。確かにそうだな」

勇者「それに、少し調べてみたんだけど……」

勇者「その『半魔盗賊団』の首領はかなり頭のキレる半魔らしいんだ」

勇者「少なくとも物分りはいいはずだよ」

戦士「ははっ、勇者と半魔の知恵比べとは必見だな」


84: 2014/03/21(金) 00:30:17.29 ID:vMEtHPy20


戦士「こりゃあおつまみでも持っていくかな」

勇者「勝手にどうぞ。せいぜい戦士がおつまみにならないようにね」

戦士「そりゃこっちのセリフだ」ハハハ

勇者「さて、じゃあ今日はこの村で一泊していこうか」

勇者「用意するものは用意してしまおう」

戦士「はいよ」


89: 2014/03/22(土) 01:46:22.51 ID:jkKtgdy40

書き溜めを足してたらすっかり遅くなってしまいましたww

続きです

90: 2014/03/22(土) 01:47:30.28 ID:jkKtgdy40


―――翌日 北部荒れ地―――


戦士「やっぱり中に入ってみると、酷くさびれているもんだな」

勇者「そうだね。魔族領、奇術国連合、魔術国連合の間にあって幾度とない戦火にさらされ、多くの血が流れてきた場所だ」

勇者「こんなところに住もうなんて、普通の人間なら到底思わないだろう。魔族ですらそうなんだから」

戦士「恐ろしや恐ろしや。そんな土地で国を作るなんて、ひどくばちあたりなもんだな勇者さんよ」

勇者「そんなことはないさ」

勇者「僕はこの土地こそが国作りに最適だと思っているよ」

91: 2014/03/22(土) 01:48:40.15 ID:jkKtgdy40


勇者「ここから本当の平和と協調が始まっていけば、ここで流れた全ての血に対して慰霊の意にもなる」

勇者「流したくて流した血なんて一滴もありやしないんだから」

戦士「ほう。勇者にはロマンチストの精神も備わっていると見える」

戦士「じゃあ俺は、ここで自滅救済魔法でも唱えてみるかな」

戦士「そうすれば化けて出る権利がもらえるんだろう?」

勇者「君は魔法を使えないだろうに」

戦士「ぐ、流石鋭いな……」

92: 2014/03/22(土) 01:49:11.33 ID:jkKtgdy40


勇者「しかし最近、屁理屈の腕が上がってきてるんじゃないかい?」

戦士「さあな。剣術の鍛錬が不足気味で、暇だからかもな」

勇者「君にもひねくれ者の素質がありそうだね」

戦士「魔法使いと一緒にするなよ。俺はあくまで剣と戦いを愛する男。ただそれだけだぜ」

勇者「君の方がよっぽどロマンチストじゃないか……」

勇者「お、あれは……?」

戦士「建物らしきものが見えるな」

勇者「盗賊団の基地かも知れない。いってみよう」


93: 2014/03/22(土) 01:50:19.40 ID:jkKtgdy40


―――半魔盗賊団 小規模拠点の村 出入り口の門―――


監視役1「おい、聞いたか?勇者がこの荒れ地にやってくるらしいぜ」

監視役2「聞いた聞いた。どうも国作りをするんだってな」

監視役1「どうするんだよ……このままじゃあ盗賊団が壊滅させられちまうんじゃねえのか?」

監視役2「どうもこうも、戦って勇者を倒すしかないだろ」

監視役2「勇者とは言えど所詮は人間だ。半魔の俺達に勝てるわけがない」

監視役1「そりゃあそうだな。もし俺たちが倒しちまったら、団長にたんまりと褒美を頂けるだろうよ!」


監視役2「そうなれば、幹部昇進支部長就任!」

監視役1・2「イイカンジー!」


94: 2014/03/22(土) 01:50:59.48 ID:jkKtgdy40


監視役1「ん?誰かいるぞ」

監視役2「本当だ。西部支部のやつらかな?」

監視役2「あいつら、一昨日電気の国へ盗みを働きに行ったんだが、そこで軍にコテンパンにされたらしいしな」

監視役1「ハハハハハ! あの奇術国軍とやりあったとはな! こいつは傑作だ」

監視役1「でもおかしいぞ。どうも人間っぽい姿をしているようだが」

監視役2「あたりまえだろ! ここは『半魔盗賊団』の基地だぜ。多少人間っぽいやつくらいいくらでもいるわ、この間抜けめ」

監視役1「そりゃそうか! ハハハハハ」

95: 2014/03/22(土) 01:51:51.16 ID:jkKtgdy40


勇者「おーい。そこのやぐらの上にいるお2人さん」

監視役2「なんだ? お前ら、西部支部のやつらか?」

勇者(西部支部?)

戦士「(俺達、半魔盗賊団の一員だと思われているみたいだぜ)」

勇者「(当然さ。半人半魔の集まりなんだ。人間っぽい姿をしている半魔がいてもおかしくは無いさ)」

勇者(しかしここは敢えて堂々と行こう)

勇者「いや、僕は勇者だ。彼は戦士。ここは半魔盗賊団のアジトか?」

監視役1・2「!!!」

96: 2014/03/22(土) 01:53:19.32 ID:jkKtgdy40


監視役1「ゆ、勇者だと!!??」

監視役2「おい、まずいぞ、早く基地長と南部支部長へ報告しに行け!」

監視役2「ここは俺に任せろ! 手柄は俺のものだ!」

監視役1「ふざけるな! お前こそ報告に行け!」

ボカスカ

勇者(『基地長』、『西部支部』、『南部支部長』……これはかなり組織の統制が上手くなされているようだね。予想以上だ)

勇者「なんだか喧嘩が始まったみたいだ……」

97: 2014/03/22(土) 01:54:03.67 ID:jkKtgdy40


戦士「おいおいおいおい!俺達も舐められたもんだなぁ」

戦士「その中途半端な身なり、叩き切ってくれr」

勇者「戦士、抑えて」シュパー


勇者は、戦士にお口チャック魔法をかけた。


戦士「モゴモゴ」

勇者「おーい、僕らに君たちと争う気はない!」

勇者「僕達は半魔盗賊団のボスに用があるんだ」


98: 2014/03/22(土) 01:54:54.24 ID:jkKtgdy40


監視役1「なんだと!?」

監視役2「そんなことを言って、俺達を騙して皆頃しにしようっていうんだろう!」

勇者「これは大分勘違いをされているみたいだね」

戦士「モゴモゴ」

勇者「僕についてどういう噂が流れているのか知らないけれど、僕はここに人間と魔族の共に暮らせる国を作ろうと思うんだ!」

勇者「だから、君たちとは戦わない!」

監視役1「嘘だ嘘だ!惑わされるな!」

監視役2「ええい、こうなったら手柄はいただくぜ」

監視役2「氷結まほ……」


99: 2014/03/22(土) 01:56:33.26 ID:jkKtgdy40


ガチャ


?「お止めなさい!話は聞いていました」


門横の小さい扉から、ほとんど人間の女性のような容姿をした半魔が現れた。


監視役1「はっ!基地長!」

基地長「これだから下級団員は……」

基地長「失礼しました勇者様。団長から、勇者様がいらっしゃった場合は本部に案内せよ、との命令がでております」

基地長「一度南部支部を経由してから、本部へと案内します」

100: 2014/03/22(土) 01:57:35.45 ID:jkKtgdy40


基地長「こちらへどうぞ。乗り物もありますので」

勇者(さすがに末端構成員までの統率は困難か……)

勇者(とはいえ、一盗賊団にしては見事な統率システムだ)

勇者(『団長』の知略は侮れないな)

勇者「ありがとう」

戦士「モゴモゴモゴ」


ザッザッザッ


その後勇者は、数時間かけて南部支部へと案内された。


108: 2014/03/23(日) 00:20:18.41 ID:5KoL/AUY0


―――北部荒れ地 半魔盗賊団南部支部―――


基地長「支部長、ただ今勇者様をお連れしました」


南部支部は小さな町のようになっていて、機能こそ基地であったが、商店や宿なども多少存在しているようだった。

そして、奇術国連合や魔術国連合領から奪ってきた品物をそこかしこに見ることができた。

南部支部長も人間に近い容姿をしていた。しかし、基地長ほどでもなく、一目見ただけでもさすがに人間でないことは判別が可能だった。



南部支部長「ごくろうだった基地長。一度休息をとっていいぞ。この後も本部への案内を頼む」

109: 2014/03/23(日) 00:21:08.75 ID:5KoL/AUY0


基地長「はっ」


ササゥ


南部支部長「これは勇者様。こんなさびれた地へよくいらっしゃいました」

南部支部長「団長からは篤く遇せよとの仰せをいただいております」

南部支部長「先刻は下級の団員が無礼を働いたことをお詫び申し上げます」

勇者(なるほど……やはり団長は僕らと戦っても無益だということを承知して歓迎するように命令していたんだろう)

勇者(とはいえ、安々と本拠地を売り渡すわけもないだろうな……)

勇者(何か企んでいるかな?)


110: 2014/03/23(日) 00:21:51.59 ID:5KoL/AUY0


戦士「ったく。俺達をめぐって手柄争いとは、歓迎も甚だしいもんだな」

戦士「勇者の首に100万、俺の首に1億の金でもかかってるのか?」

勇者(100倍はないだろ100倍は)ツン

戦士(100倍はあるだろ100倍は)チク

南部支部長「いえいえ、まったくそんなことはございません」

南部支部長「下級団員の間の噂が誇張された結果に他なりますまい」

南部支部長「どうか気を害されないでいただきたいのです」

111: 2014/03/23(日) 00:22:24.01 ID:5KoL/AUY0


勇者「わかった、こちらもそこまで気にしていないよ」

南部支部長「それはよかった」

南部支部長「それでは勇者様、今日はここで休んでいってください」

南部支部長「本部まではもう少しかかりますので」

勇者「ありがとう」

戦士「(寝こみを襲ったりしないだろうな)」

勇者「(はは。君の寝相なら、寝こみを襲われても刺客の一人や二人、バッサリ斬り倒しちゃうんだろ)」

戦士「(お、お前が素直に誉めるなんて珍しいな)」

勇者「(誉めてない誉めてない)」


112: 2014/03/23(日) 00:23:14.04 ID:5KoL/AUY0


その後、勇者は半魔盗賊団についていろいろと南部支部長に質問した。
結果、分かったことと言えば


・盗賊団は本部を中心に、東西南北各支部を置き、それぞれ支部長が統括している

・少し前に団長が荒れ地を統一するまでは半魔たち同士の派閥争いが絶えなかった

・戦時中は特に干渉せず、身をひそめていた

・戦争が終わり、勢力を拡大しつつある

・半魔は人間の知能と魔族の力を同時に備えており、そのバランスの良いものほど幹部になりやすい

・上位に行くほど、人間と魔族の比を調整できる。基地長や南部支部長が人間のような姿だったのは、戦闘時以外は知恵の方に重点を置くため。

・半魔は致命的なダメージを受けると、自己防衛本能が働き、魔族の部分に体を支配され、暴走してしまうことが多々ある。

くらいであった。

113: 2014/03/23(日) 00:24:20.79 ID:5KoL/AUY0


―――その頃 半魔盗賊団本部―――


ジリリリリン ジリリリリン

ガチャ

フムフムワカッタ

ガチャ


副団長「団長、先ほど勇者が南部支部へと到着したということです」


114: 2014/03/23(日) 00:25:15.54 ID:5KoL/AUY0


団長「ほう。やはり来たか。あの噂は誠だったようじゃな」

副団長「はい。しかしよろしいのですか? 篤く遇せよという命令ですが……」

副団長「確かに直接やりあっても勝機は少ないでしょうが、あの噂の通りなら、勇者はこの半魔盗賊団を殲滅しようとするのではないですか?」

団長「そうじゃな。儂のところへ直接出向いて、儂を謀殺せんとするやもしれん」

副団長「それならば団長!」

団長「まあ待て。じゃが、その噂にはもう少し詳細があっての」

団長「勇者は、この土地に魔族と人間が共に暮らせる国を作る、と言っていたというのじゃ」


115: 2014/03/23(日) 00:25:42.40 ID:5KoL/AUY0


団長「これは情報隊長が確かめたことじゃから、まず間違いないじゃろう」

団長「勇者は恐らく儂らと協力して、建国をしようというのじゃろうな」

副団長「ニャるほど……」

団長「もちろんタダで協力してやるわけにもいかん」

団長「勇者も優れた知力を持つという話じゃ」

団長「彼を試す意味もかねて、儂も一つ知恵比べをしてみようと思ったのじゃ」

副団長「知恵比べですか?」


116: 2014/03/23(日) 00:29:00.17 ID:5KoL/AUY0


団長「そうじゃ。まあ、詳しいことは後に話すとしよう。楽しみに待っておれ」

副団長「はい。分かりました」

団長「もしかしたら、長い間魔族にも人間にも拒絶されてきた我らの歴史が変わるかもしれん……」

副団長「それも、勇者次第ということですね」

団長「うむ」


117: 2014/03/23(日) 00:32:50.68 ID:5KoL/AUY0


―――翌日 半魔盗賊団本部付近―――


翌日、勇者たちは南部支部を発って本部へと向かっていた。


基地長「どうですか? この『セグウェイ』という乗り物の乗り心地は」

基地長「少し前に奇術の国で開発された乗り物なのですが、平地でしか使えないため、あまり流行らなかったようです」

基地長「荒れ地は割と平地と丘が多い平らな土地ですから、多大なエネルギーを必要とする自動車よりもこちらのほうが効率的なんです」

基地長「座れないのが玉に傷ですが」

118: 2014/03/23(日) 00:33:26.89 ID:5KoL/AUY0


勇者「名前は聞いたことがあったけれど悪くは無いね。慣れるのが難しいけど、慣れてしまえば大分楽だよ」

戦士「そ、そうか? 俺はどうも苦手だな……おわっと」クルクルクル

勇者「なんだ、最初のうちは前にも進まなかったんだから、大分上手くなったじゃないか」ケラケラ

戦士「せ、戦士としてバランス感覚は必要不可欠だっ!」プルプル

勇者(それにしても)

勇者(ちょっとシュールだな)


122: 2014/03/27(木) 00:03:48.09 ID:wtFNhqDU0


―――半魔盗賊団 本部―――


本部は、大都市とまでは行かないがそれなりの規模の町として機能していた。
市場には恐らく他国から盗んできたであろう品物が並び、銀行や宿、役場までもが設けられていた。


勇者「結構賑わってるんだね」

戦士「おおおっ。さすが盗賊団だ。古今東西の名剣が揃っていやがる!」ダダッ

勇者「待て待て、それはまた後にしよう」ギュッ

戦士「なんだよ!ちょっとくらいいいだろ!」

基地長「盗賊団の目利きは一流ですからね」

123: 2014/03/27(木) 00:04:49.24 ID:wtFNhqDU0


基地長「偽物なぞは一品も置いてありませんよ。全て本物で格安になっています」

基地長「ときどき魔族領……今は魔国ですか、そこや人間族領からも買いに来る者がいるほどです」

勇者「まあ、闇市みたいなものかな」

戦士「ここもいいところじゃないか。来てよかったなぁ」ウットリ

基地長「それでは、あちらが本部基地の入口になります」

戦士「なんだ?ありゃあ普通の酒場じゃねえか」

基地長「あの奥が地下に繋がっているのです」


124: 2014/03/27(木) 00:05:34.03 ID:wtFNhqDU0


基地長「ほとんどの基地を作ったのは副団長ですが……
団長はお洒落好きなので、あまり華美な基地などは作らせたがらないのですよ」

勇者「お洒落好きねえ」

勇者「君は団長に会ったことがあるのかい?」

基地長「そうですね、基地の視察の際に一度だけです」

基地長「口調がなんとも特徴的で……」

戦士「一体どんな奴なんだ?」

基地長「そうですねぇ……剣の腕が達者で、魔法も強力なものを軽々と唱えると」

勇者「それだけかい?」


125: 2014/03/27(木) 00:06:14.86 ID:wtFNhqDU0


基地長「はぁ、何しろ幾分も前の話なので……」

戦士「なんだぁ情報不足だな」

戦士「相手がどんな奴か分からねぇと、こちらも態度を決められねぇぜ」

基地長「不甲斐ない次第です」

勇者「それじゃあ行こうか」

勇者「長い道のり、わざわざありがとう」

基地長「いえいえ。勇者様の国が、我らを悲しき歴史から解き放ってくれることを願っています」

勇者(悲しき歴史、ね……)

基地長「それでは」

戦士「またな」


126: 2014/03/27(木) 00:06:59.30 ID:wtFNhqDU0


―――半魔盗賊団 本部基地入口の酒場―――


カランカラン


店員「いらっしゃい!」

店員「お、人間のお客とは珍しい」

勇者「どうも、僕は勇者です。半魔盗賊団の団長に用があってきました」

戦士(う、腕が四本もある……)

店員「おお、アンタがあの勇者かい!?」

店員「ちょっとまってな、今案内役を呼んでくるよ」タタッ


127: 2014/03/27(木) 00:07:46.04 ID:wtFNhqDU0


しばらくして、店員は黒髪に白装束の幼い女の子を連れてきた。
魔族らしいところは無く、完全に人間にしか見えない。
強いて言えば八重歯が少し目立つくらいだ。


店員「あとは頼んだよ、アタシは店番に戻らせてもらうからね」

案内役「こんにちは! 勇者様、団長がお待ちですよ!」

戦士「なんだ?半魔盗賊団にはこんな小さい女の子までいるのか」

勇者「誘拐されてきた娘でもないだろうし、幼くて成長が止まった半魔ってとこかな」

128: 2014/03/27(木) 00:08:19.28 ID:wtFNhqDU0


案内役「ご明察です! でも、人間の部分が強すぎて魔法も剣もろくに使えないので、こうして案内役をやらせていただいてるんです」

勇者「なるほどね」

戦士「半魔にもいろいろいるってことか」

案内役「はい! それではどうぞ」


テクテク


129: 2014/03/27(木) 00:09:36.21 ID:wtFNhqDU0


―――半魔盗賊団 本部基地 地下応接室―――

本部の中は石造りになっていたが、意外と雰囲気は明るかった。
恐らく魔法で装飾してあるのだろう。団長のお洒落ぶりがうかがえる様相であった


ガチャ


案内役「どうぞどうぞ! 普段は誘拐した人質を監禁しておく部屋なので、少し汚れていますが」

案内役「長旅で疲れていらっしゃると思うので、少しくつろいでください」

戦士「ふー」ギシッ

戦士「監禁部屋にしては、大分お洒落な部屋だな」

案内役「はい! ここに来るような方は領主や貴族クラスの御子息ですから」


130: 2014/03/27(木) 00:10:23.09 ID:wtFNhqDU0


勇者「それはまた身代金も高くつきそうだね」

勇者「ところで、君は普段何をしているんだい?」

案内役「そうですね……掃除洗濯に料理、大体は雑用ですね」

案内役「さすがに強盗のために遠征することはないです」

勇者「なるほど。それは大変だね」

戦士「半魔の家事仕事とは、量がまた凄そうだな」ハハハ

勇者「君が言えたことじゃないだろう?」

勇者「4人パーティの時はどれだけ僧侶に迷惑をかけたと思って」

戦士「何を言う。俺は量だけじゃなくて質にもこだわるタチなんでね」

勇者「どうりでこれはタチが悪いわけだ」


ハハハハハハ……


131: 2014/03/27(木) 00:11:04.57 ID:wtFNhqDU0


―――……


勇者「さて、十分くつろいだし、団長にお目にかかろうかな。あまり待たせるわけにもいかないし」

戦士「剣術が達者だとは……これは一戦交えたいな!」

勇者「用事が終わってからにしてくれよ」

勇者「間違っても入った途端に切りかかったりしないようにね」

戦士「保証しかねちまうな。俺の戦士としての血が熱く燃え上がっちまうかもしれん」

案内役「いつも賑やかなんですね」クスクス

案内役「それではご案内しますよ」


ガチャ

137: 2014/03/28(金) 00:12:14.78 ID:xr0+oMSo0


―――半魔盗賊団 本部基地 団長の間―――


案内役「ここが団長の間です。どうぞ」


ギィィ  

バタン


大きな扉を開くと、広くて彩色豊かな部屋が広がっていた。
その様子は人間族諸侯国王城の玉座にも似ており、部屋の両側には幹部と思われる半魔が数人列をなしていた。
そして正面に据えられた装飾付きの椅子に、団長は腰を下ろしていた。


団長は人間の10代後半の女性のような容姿を基本に、猫耳、猫目、尻尾とどうやら猫型の魔族の血を引いているようだった。
そして、今まで見た中でも最も魔族の要素と人間の要素がバランスがとれた半魔であった。


138: 2014/03/28(金) 00:13:01.18 ID:xr0+oMSo0


団長「おお、キミが勇者か! 待っていたよ」

勇者「初めまして、半魔盗賊団団長。ここまでの厚遇感謝いたします」

戦士「(なんだ?妙に華奢だな)」

勇者「(半魔は見た目によらないって言うだろ)」

勇者「今日は団長にお願いがあってきたのです」

団長「ほう。この付近で盗みを繰り返す悪党どもに、神聖なる勇者は一体どんなお願いがあるのかな?」ニヤリ

勇者「はい。噂にも流れていることをご存知だと思いますが、魔族人間族間の同盟と平等の先駆けとして、この地に新たな国を建国したいと思っているのです」


ザワザワ……


139: 2014/03/28(金) 00:13:56.92 ID:xr0+oMSo0


勇者「魔族と人間族の戦争は先日終結し、停戦協定と称して、魔族と人間族の平等が約束されました」

勇者「しかし、互いの中には、長い対立に起因する根強い偏見が残っているはずです」

勇者「それでは、平等も協調もなしえません」

勇者「しかしここで、半魔である貴方がたが協力していただければ、魔族と人間両方の側面を持つ者として、両者をつなぐ仲介役となり、協調と平等はよりスムーズに進みうるでしょう」

勇者「是非、新国の建国に協力していただきたいのです」

団長「ニャるほど……」


140: 2014/03/28(金) 00:15:01.16 ID:xr0+oMSo0

団長「キミがやろうとしていることは確かに立派なことだね」

団長「でも、ボクたち半魔には魔族と人間による禁断の恋や、猥褻の果てといった忌まわしい成り立ちと、
   両族から嫌悪され、忌避され続けてきた悲しき歴史がある」

団長「そんなボクたちに、そのような役が務まると思うのかい?」

勇者「新しい世界には新しい歴史というものが作られていくものです」

勇者「古い歴史などというものは、古文書として、その影に埋もれていくだけでしょう」

勇者「それに、ちょうど盗人から足を洗い、聖職者となった者が同じ神の像を見たときのように、
   価値観はその世界によって常々変わっていくのです」

勇者「今こそ新旧の境目に来ているのです」


141: 2014/03/28(金) 00:16:45.66 ID:xr0+oMSo0

勇者「ここで古い歴史に捕らわれるか、新しい価値観と共に歴史を創生するか。どちらに利があるかは自明ではありませんか」

団長「そうだね……」

団長「でも、ボクたちは悪党だよ。今ここでキミたちを頃すことだってできるんだ!」ニヤァ

戦士「なんだと!?」

勇者「それならそれで結構です団長」ニヤリ

団長「…………何?」

勇者「僕も貴方に先手を打つだけですから」バチバチ

勇者「雷魔法(小)!」ズバッ

団長「なっ!?」ガタッ




バァン




案内役「きゃぁっ!?」



142: 2014/03/28(金) 00:20:29.43 ID:xr0+oMSo0


勇者の放った雷魔法は、入口付近にいた案内役の足元に命中した。


団長「なんだ!?」

戦士「おい、どこ狙ってんだ勇者!」

勇者「まあまあ。僕はちゃんと『団長』に先手を打ったのさ」

勇者「そうでしょう?案内役改めまして団長」


部屋の中には緊張が立ち込めた。突然のことに側近たちも目を丸くして、棒立ちしていた。
それは団長(?)も例外ではない


案内役「…………」


143: 2014/03/28(金) 00:21:21.87 ID:xr0+oMSo0


案内役「クク…………」

案内役「アハハハハハハ!!」

案内役「ご明察じゃ」

戦士「」ポカーン


案内役→団長「いかにも。儂が半魔盗賊団の団長じゃよ」

団長「しかしよくわかったのう」

団長「儂の仕草も剣術、魔法の痕跡も、全てごまかしたつもりじゃったのじゃが」

勇者「やはりそうでしたか。確かに、団長の誤魔化しも、団長の身代わりも全て完璧でした」

勇者「しかし、完璧すぎたのです」

団長「ほぅ」

144: 2014/03/28(金) 00:22:16.32 ID:xr0+oMSo0


勇者「恐らく団長は僕があの基地長から団長の情報を聞くのも、南部支部長から半魔の特徴を聞くのも読んでいたのでしょう」

勇者「それによれば、団長は剣術に優れ、魔法に優れ、しかも人間と魔族が最もバランスよく混ざった半魔だということになる」

勇者「そして、その身代わりはその鏡ともいえる方でした」

勇者「恐らく副団長クラスの最上位幹部でしょうね」

勇者「そして、ここで身代わりを置くとなると、団長もその容姿を最高に生かした雑用につくのが最も手っ取り早く有効だ」

勇者「そこで、掃除や洗濯、料理の雑用を熟していると言ったわけです」

勇者「しかし、ここには止むを得ない欠点が存在した」

勇者「もちろん相手は剣術の手練れ、下手に動きや手を見せては自分が剣術に長けているとばれてしまう」

145: 2014/03/28(金) 00:22:59.76 ID:xr0+oMSo0


勇者「そこで、団長は魔法を使ってそれを完璧に隠してしまった」

勇者「だから、手はかなり綺麗で、まさか剣術を使うなんてことは想像がつかない様子だ」

勇者「だけど、掃除や洗濯、料理の雑用を熟している形跡もなかったんです」

戦士「なるほど。消さないと剣術がばれるが、消せば雑用でないことがばれちまうわけだな」

勇者「そういうこと。それだと最下級の身分のはずなのに身なりがやたらと綺麗なのも説明がつくのさ」

戦士「はっ、確かに言われてみれば……」

団長「ほう……じゃがそれだけで儂が団長だと決めつけることもできまい」

団長「新米で入ったばかりの団員じゃったかもしれんじゃろ」


146: 2014/03/28(金) 00:24:08.86 ID:xr0+oMSo0

勇者「まあそうですね。実際推測の域は出ていませんでした」

勇者「でも、僕はあらかじめ、団長はかなり人間よりの半魔なのだろうと予測していたんです。基地長以上にね」

団長「ほう、なぜじゃ?」

勇者「団長は相当頭のキレる半魔だと聞いていたからです」

勇者「そこまで頭が良いのなら、普段は人間のバランスを大きくしてその知恵の部分を最大限に生かせる半魔なのだろうとイメージしていたのです」

勇者「基地長はしかも、団長が変わった口調の持ち主で、お洒落だとも漏らしていました」

勇者「入口の酒場も、外見をもって欺くという点で共通しています」


147: 2014/03/28(金) 00:24:40.46 ID:xr0+oMSo0

勇者「そして僕があの真面目な身代わり団長と話した時に、案内役の矛盾と合わせてこれは挑戦だと確信したんです」

勇者「なんせ身代わり団長が完璧すぎたので」

勇者「まあ他にも細かいところはありますが、大筋はこんなところでしょう」

団長「ははは。知恵比べは完全に儂の負けのようじゃな」

団長「よいじゃろう。喜んで勇者の下についてやろう」


ザワザワ
アノダンチョウガ……
マジカヨ……


156: 2014/03/29(土) 00:11:03.16 ID:zmgMPboL0


団長「半魔盗賊団の全員が、今この場の音声を無線で聞いておると思う!」

団長「皆の者、よく聞け!」

団長「今を持って、儂は半魔盗賊団の解散を宣言する」

団長「そして、勇者に全力を持って協力することを誓うのじゃ!」


ワァァァァァァ
ユウシャスゲー
ユウシャバンバンザーイ


北部の荒れ地は全土を持って興奮の渦に包まれた。
ついに忌まわしい過去から解き放たれる時が来たのだ!


157: 2014/03/29(土) 00:11:43.41 ID:zmgMPboL0


身代わり団長→副団長「やれやれ、まさかあの団長に勝るとは……見事だね」

副団長「ボクも、副団長として、団長の意とあらば喜んで忠誠を誓うことにするよ」

戦士「」ポカポカーン

勇者「あ、ありがとうございます」

団長「さて、これからはどうするつもりなのじゃ?」

団長「勇者ともあろう者じゃ、もう次の一手も考えてあるんじゃろう?」

勇者「ええ、まあ」

勇者「まずは、この盗賊団の解散と僕による平定を宣言しなければなりません」


158: 2014/03/29(土) 00:12:34.34 ID:zmgMPboL0


勇者「そして、その後に都市の整備と、国境付近でくすぶっている商人等人口の呼び込みを行うのです」

勇者「先行投資が何よりも大好きな彼等ですから、新たな、そしていかにも上手そうな商業地ができたとあらばすぐにでも飛び込んでくるでしょう」

団長「ほほう。まさに国作りじゃな」

団長「あ、それと、もう敬語なんて取るがよい。儂は勇者の臣下なのじゃからな」

勇者「分かった。僕らも、役割分担してそれぞれ仕事を進めようと思うんだ」

勇者「勝手ながら半魔盗賊団の幹部も当てさせてもらうけれど、構わないかな? 今一番不足しているのは人手だからね」

団長「ははは。さっきの宣言をもう忘れたか?」

団長「もう半魔盗賊団は儂よりも手腕の勝る勇者のものじゃ。好きにするがよい」

159: 2014/03/29(土) 00:13:08.25 ID:zmgMPboL0


勇者「ありがとう」

勇者「じゃあ、いま決まっている分だけで行くと……」

勇者「戦士は盗賊団の戦闘部隊を率いて警察の代表に、副団長は都市建設やインフラ整備の総指揮を、団長は立法、外交及び新しくなる組織の役職や人事整備を担当してほしい」

勇者「ここまで見事な統制システムを敷けるということは、団長には十分な教養もあるようだしね」

勇者「この基地の構造といいデザインといい、副団長は建設に向いていそうだ」

団長「ふふ、そこまでお見通しじゃとはな」


160: 2014/03/29(土) 00:13:38.04 ID:zmgMPboL0


勇者「それぞれの支部長はそのまま支部長として残って分権を図ることにしよう」

勇者「どうだろうか?」

団長「うむ。特に口出しするところもないようじゃ」

団長「よし、善は急げじゃ。早速取り掛かることにしようかの」

戦士「なんだ、こっちに来てもやっぱり憲兵隊なのか」

副団長「街づくり~♪街づくり~♪」ニュフフフ


161: 2014/03/29(土) 00:14:35.89 ID:zmgMPboL0


―――後日 元・半魔盗賊団本部 地上中央広場―――


勇者『これより、私勇者は宣言します!』

勇者『私は団長との平和的な談話の結果、半魔盗賊団を解散させることに成功しました』

勇者『盗んだ品物は全てもとの国に返還することを約束します』

勇者『そして、元半魔盗賊団も、人間及び魔族にもこれから一切の危害を加えることはありません』

勇者『これから、この地を【北部不干渉区】と命名して開拓し、都市や交通、法を整備しようと思います』


162: 2014/03/29(土) 00:15:16.99 ID:zmgMPboL0


勇者『魔術国連合、奇術国連合、魔国全ての勢力からの移民を歓迎いたします』

勇者『そして、魔族、人間、そして半魔全ての種族が平等に、平和に暮らせることを、全力を持って保証します』

勇者『それでは、元・半魔盗賊団の団長からも一言を……』


この宣言は、ラジオ放送と伝聞魔法で大陸全土に伝えられ、この新たな時代に一つの旋風を巻き起こすこととなった。
魔族と人間との戦いが終わったこの世界は、さらなる平和の歴史を創生していくことになるのだろうか。


163: 2014/03/29(土) 00:15:54.18 ID:zmgMPboL0


―――しばらくして 幸の国 玉座―――


ドタバタ


顔を真っ青にした宰相が、あわてて玉座に駆けてきた。


宰相「大変です国王陛下!」

宰相「勇者がかくかくしかじかでセグウェイで半魔でのじゃ口リの猫娘だと!」

幸の国王「なんだと?」ガタッ

幸の国王「まさかこんなに早く……」

幸の国王「監視を置く暇もなかっただと!?」

宰相「はっ。何せ荒れ地に入って2日後の高速占領だったもので……」


164: 2014/03/29(土) 00:16:28.36 ID:zmgMPboL0


幸の国王「ちぃっ。侮りすぎたか」

幸の国王「宰相、奴との連絡はとれておるか?」

宰相「は、御心配なく。既にあの不干渉区に潜入したとのことです」

幸の国王「よろしい。なんとしても奴を葬らなければ」

幸の国王「全ては我らが計画のため……」ボソリ

宰相「……?」

176: 2014/05/07(水) 00:50:37.75 ID:kpRCfbWp0


―――3か月後 北部荒れ地→北部不干渉区 半魔盗賊団本部→中央行政区 仮行政府―――


団長はあの後すぐに新たな政治体制を構築し、見事に統制した。

執政は行政、外務、財務、警務、建設、の5つの部門に分けられ、それぞれに部門長がつくこととなった。

そのほかにも、東西南北各支部や支部長にはより強い権限が与えられ、分権体制も整えられた。


建設部門長となった副団長の活躍により、1か月のうちに、中央行政区の行政府新設を軸とした大型都市構想が完成し、各支部、交通の要所への新たな都市建設も決定した。



177: 2014/05/07(水) 00:52:42.44 ID:kpRCfbWp0

勇者「商人以外はいるね、それじゃあ部門長会議を始めようか」

代表である勇者の下、各部門長は

行政、外務部門長に元半魔盗賊団長
建設部門長に副団長
警務部門長に戦士
財務部門長に商人 

が就いていた。


商人とは、宣言後に真っ先に荒れ地へ駆け込み、貿易網及び経済基盤の確立を誓った大商人である。

178: 2014/05/07(水) 00:53:49.38 ID:kpRCfbWp0


ちなみに、元盗賊団メンバーの呼び名はしばらくのうちは括弧書きで新役職を示しておきます。

勇者、戦士はそのままです。

179: 2014/05/07(水) 00:54:41.76 ID:kpRCfbWp0


勇者「団長、魔術奇術両国との和平は図れそうかい?」

団長(行政外交部門長)「うーむ。魔術国連合は割と友好的な姿勢を見せておる。すぐにでも同盟を誓ってくれるじゃろう」

団長(行政外交部門長)「魔法があれば、副団長の都市構想も上手く捗りそうじゃな」ニコッ

副団長(建設部門長)「あ、ありがとうございます!」ニュフフ

団長(行政外交部門長)「一方なんじゃが……奇術の国はどうもあまり都合がよくないようじゃ」

団長(行政外交部門長)「世論もこの不干渉区に対して後ろ向きらしい」

団長(行政外交部門長)「最大限努力はするが、期待はせん方が良いじゃろう」

180: 2014/05/07(水) 00:55:49.11 ID:kpRCfbWp0


戦士「なんだなんだ? 奇術連合の理事長め、勇者にビビッているんじゃないのか?」

副団長(建設部門長)「そこは団長にも、だろう」

戦士「うむ。そうとも言う」

勇者「ははは。あの冷静沈着と噂の理事長のことだ、何か企んでいるのかもしれないね」

団長(行政外交部門長)「儂もそれを心配しておったのじゃ。十分用心せねばな」

団長(行政外交部門長)「それと、もう2つ知らせがある」


181: 2014/05/07(水) 00:56:37.00 ID:kpRCfbWp0


団長(行政外交部門長)「元勇者パーティーの魔法使いが、魔術国外務省の大使として不干渉区に滞在することになったそうじゃ」

団長(行政外交部門長)「明日にでも到着するとの連絡じゃ」

戦士「魔法使いだと!? まじかよ……」

勇者「屁理屈のセンスを磨くチャンスじゃないのかい?」クスクス

戦士「いや、今の俺なら魔法使いの屁理屈になど負けはしない……はず」

副団長(建設部門長)「魔法使いとはどんな人なんだい?」

戦士「どんなもこんなもない! 1ミリ足を上げたら360度大回転の揚げ足を食らうような奴だ」

182: 2014/05/07(水) 00:57:15.24 ID:kpRCfbWp0


戦士「俺も一体何度メンタルをつかれたことか……」

勇者「それじゃあ一回転してるじゃないか」ハハハ

副団長(建設部門長)「ニャるほど、それは危険人物だね」

副団長(建設部門長)「魔法使いの前では摺り足を心掛けておこう」

勇者「しかし、いくらなんでも誇張が過ぎるよ」

勇者「彼女は使う魔法は超一流の魔法使いさ。歴史と魔法学にも長けているインテリだよ」

戦士「そういや、奴を仲間にしたときはまだまだ未熟な魔法使いだったよな」

183: 2014/05/07(水) 00:58:29.54 ID:kpRCfbWp0


戦士「一体旅路のいつどこで勉強なんかしたんだか」

勇者「まあ、それはみんなに言えたことではあったさ」

勇者「魔王軍との過酷な戦いを通してここまでレベルを上げられたんだ。前代魔王が最後まで生きていたら、今ここにいられるかもわからないくらいだったしね」

副団長(建設部門長)「前代魔王っていうのはそんなに凄かったのか!?」

団長(行政外交部門長)「はいはい。雑談は一旦お休みじゃ」


184: 2014/05/07(水) 01:03:47.47 ID:kpRCfbWp0

団長(行政外交部門長)「もう一つの報告じゃが、また元勇者パーティの者についての情報じゃ」

戦士「なんだ、僧侶もここへ来るのか?」

団長(行政外交部門長)「こちらはそうではない。連合同士の戦局自体はかなり拡大しておるが、先日勃発した水の国による光の国侵攻については、なんと光の国の勝利でもう終結したのじゃ」

団長(行政外交部門長)「初戦光の国は水の国に大敗を喫していたはずだったのじゃが……」

団長(行政外交部門長)「光の国に配属されていた、大隊参謀長『僧侶』准将が考案した作戦が功を得たというということじゃと……」

勇者「えっ?あの僧侶が軍人に!?」

戦士「嘘だろ……血どころかトマトジュースを見ることすらできなかったあの僧侶がだぞ!」

185: 2014/05/07(水) 01:04:20.69 ID:kpRCfbWp0


団長(行政外交部門長)「連合はそれを大々的に報じ、軍は僧侶の少将への昇格を決定したそうじゃ」

団長(行政外交部門長)「間違いはないぞ」

勇者「これは予想外だったな。確かに才能を生かしてほしいとは言ったけれど、そこまで存分に奮ってくるなんてね」

戦士「不思議なことは尽きるものじゃないな」

副団長(建設部門長)(ニャるほど……僧侶も戦闘が苦手なのか……)

団長(行政外交部門長)「まあ、外交面での報告はこれで終わりじゃ」

勇者「うん。ありがとう。団長の情報網の広さにはこれからも頼ることになりそうだよ」

団長(行政外交部門長)「任せておくがよい」フフン


186: 2014/05/07(水) 01:04:56.02 ID:kpRCfbWp0

勇者「それじゃあ、全員持ち場に着こう。これからも忙しくなるぞ!」

副団長(建設部門長)「団長と一緒にいられないのが残念だけど……我慢するよ」

副団長(建設部門長)「でも、もし手を出そうものなら勇者、キミを許さないからね」ジロッ

勇者「も、もちろん大丈夫さ(これは怖い)」

戦士「ははは。勇者は年上か年下か分からない半端な女には興味が……」

副団長(建設部門長)「何か言ったかな?」ギロッ

戦士「……さーて俺は警務に戻ることにしよう」スタスタ

勇者(戦士を視線で圧倒するとは……見事だ)


196: 2014/05/12(月) 00:27:49.24 ID:TAh1LTyc0


―――同 行政部門長の執務室――― 


団長(行政外交部門長)「うーむ……独学で学んだとはいえ、法律というのはいざ作るとなると難しいものじゃのう……」

団長(行政外交部門長)「……ブツブツ…………ブツブツ……」カリカリ

ガチャ

勇者「ちょっといいかい?」

団長(行政外交部門長)「なんじゃ勇者」

勇者「ちょっと質問があってね」

団長(行政外交部門長)「ふむ。まあかけるがよい」

ギィッ


197: 2014/05/12(月) 00:31:06.67 ID:TAh1LTyc0


勇者「机、高すぎじゃないか」クスクス

団長(行政外交部門長)「うるさいのう。手ごろな台はこれしかなかったんじゃ」

団長(行政外交部門長)「副団長に注文しておかねばな」

勇者「それをおススメするよ」

勇者「で、団長は生まれたときからここにいたのか?」

団長(行政外交部門長)「唐突じゃな」

勇者「少し気になってさ」


198: 2014/05/12(月) 00:32:43.25 ID:TAh1LTyc0

団長(外交副部門長)「はぁ。まあよい。この際だから話すことにするのじゃ」

団長(行政外交部門長)「……儂は元は花の国で生まれたのじゃ」

団長(行政外交部門長)「そして儂の母は儂を人間として育ててくれたのじゃ」

団長(行政外交部門長)「父親はもともといなかった。まさか上級魔族だったとは、想像もできんかったがの」

勇者「やはり人間領出身だったか……それでその十分な教養も説明がつく」

団長(行政外交部門長)「うむ。儂は初等魔法学校へも普通に通っていたし、中等学校へも進学した。こんな身なりじゃからな、誰も儂が半魔だとは疑っていなかったのじゃ」

勇者「すると、それは生まれつき人間にほど近い姿だったと」

団長(行政外交部門長)「そうじゃな。儂は魔力こそ上級魔族並ではあるが、今でも人間と魔族の割合を変えることができん」

199: 2014/05/12(月) 00:33:47.09 ID:TAh1LTyc0

団長(行政外交部門長)「魔法で表面くらいは誤魔化せるが、形から変えるのは無理じゃ。例えば羽をはやしたりな」

勇者「ふーむ。さすがにそこまでは予測していなかったなぁ」


フワッ


団長(行政外交部門長)「それに、姿なんて変えなくても、十分成りすましはできるんですよ! 勇者様っ」ニコッ


一瞬にして雰囲気が変わった。体にかけている魔法を少しいじったらしい。


勇者「お、久しぶりの案内役だね」

勇者「潜入捜査にも使えそうだ」

団長(行政外交部門長)「はい! これからもよろしくお願いしますね!」ニコッ


シュン


200: 2014/05/12(月) 00:34:41.46 ID:TAh1LTyc0

団長(行政外交部門長)「…………やっぱりこれは疲れるのじゃ」ハァ

勇者「お疲れ様」クスクス

団長(行政外交部門長)「ふう。話を戻すが、儂の周りの者たちはいつまでたっても成長もしない、強すぎる魔力を持った儂を次第に遠ざけ始めたのじゃ」

団長(行政外交部門長)「そしてある日、家は焼打ちに遭い、母は殺され、儂は魔術国の軍に捕まりそうになったのじゃ」

団長(行政外交部門長)「儂はそこで初めて自分の正体を知ったのじゃよ。今までずっと真実を写していたと思っていた鏡が、一瞬にして砕け散るようにな」

団長(行政外交部門長)「儂は氏に物狂いで魔術国から逃亡し、荒れ地に逃げ込んだ」

団長(行政外交部門長)「その頃はまだ荒れ地の中も勢力争いが絶えておらんかった頃じゃからな。そこでも何度も人間に間違えられて命の危機が迫ったものじゃ」

団長(行政外交部門長)「副団長に出会ったのもその頃じゃったか。大型の半魔に襲われているところを、儂が火炎魔法で助けてやったのじゃ」


201: 2014/05/12(月) 00:37:40.69 ID:TAh1LTyc0


団長(行政外交部門長)「以来副団長は儂に過剰なまでの忠誠を誓っておる」

団長(行政外交部門長)「そして、儂は魔族由来の魔力と、人間由来の知力を使って、荒れ地を統一したのじゃ」

団長(行政外交部門長)「剣はその頃に護身のため練習したものじゃが、結局は魔法に頼る『魔法剣士』といったところじゃな。素の実力は大したことは無い」

団長(行政外交部門長)「じゃが儂は『繊細な』魔法が得意でな。いくつもの細かい魔法をセットで唱えておいて、剣の軌道、速度、バランス、重量、体制などに張り巡らすことができる」

団長(行政外交部門長)「こうやって『幻視魔法』と『屈折魔法』を組み合わせて、体の表面を覆い隠すのを応用してな」

団長(行政外交部門長)「本気を出せば、五分五分の勝負にはなると思うぞ」ニコッ

勇者「なるほど、通りでいつも身なりが清潔なわけだ」

勇者「成りすましの時限定で魔法で誤魔化しているんだと思ったら、常にそうなんだものね」


202: 2014/05/12(月) 00:38:22.52 ID:TAh1LTyc0

団長(行政外交部門長)「まあ、あまり堂々と見せたいものでもないからのう」

団長(行政外交部門長)「ちなみに魔法なしだとこうじゃな」シュン


団長は右腕だけ魔法を解いた。


勇者「うっ、これは……!」


右腕は刃物の傷跡から魔法による裂傷まで大小さまざまな、いくつもの傷で覆われていた。


団長(行政外交部門長)「このほとんどは亡命して間もないころか、荒れ地統一の最終決戦の時にできたものじゃ」

団長(行政外交部門長)「回復魔法というものはあまり回復速度を上げすぎたり、魔力が強すぎたりすると再生が雑になって傷跡がひどく残ってしまうものでな」

団長(行政外交部門長)「今のところ完全に消す方法は魔法学の最先端でも見つけ出されておらんとのことじゃ。幻影、屈折魔法」シュン


元の腕に戻った。


203: 2014/05/12(月) 00:39:05.35 ID:TAh1LTyc0


勇者「またまた予想以上だな……まさか荒れ地がそこまでひどい状況だったとは」

団長(行政外交部門長)「まあ、その状況もここまで良くなったのじゃ。今更振り返ることもない。勇者もこの前言っておったようにな」

勇者「そうだね。団長がそう言ってくれるなら何よりだよ」

団長(行政外交部門長)「しかし、勇者こそよく魔族と手を結ぼうと思い立ったものじゃな」

団長(行政外交部門長)「勇者や人間は魔族を憎むものとばかり思っていたが」

勇者「まあね。確かに僕も最初のうちはそうだったよ」

勇者「幸の国の勇者選別方法は、今思っても本当によくできているんだ」

団長(行政外交部門長)「ほう」


204: 2014/05/12(月) 00:40:02.59 ID:TAh1LTyc0


勇者「表向きには神の御加護だとか発表してはいるけれど、実際は僕や戦士のように両親を魔族に殺された孤児を集め、教育、訓練し、最も優秀な者を選ぶというものだったのさ」

団長(行政外交部門長)「な、なんと……じゃが確かに効率はよいな……」

勇者「そう。そうやって裏切られる心配もなく、同情させることもなく魔族を虐殺させることができたんだ。少なくとも百年戦争まではね」

勇者「百年戦争で6人もの勇者を失った幸の国は流石に焦ったんだろう。幸の国は戦闘に対する優秀さはともかく『先代魔王』に対応できるほどの知力を持った僕を7人目として選んだんだ」

勇者「でも僕は前の6人とは違った感情を持った。人間族と何も変わらずに文化を、生活を築いている彼らの姿に、僕の憎しみは次第に消えて行ったのさ」

団長(行政外交部門長)「なるほどのう。結局は騙されていたんじゃもんな」

団長(行政外交部門長)「まあ、必然ではあるがな」

勇者「まあ、勇者の宿命ってやつさ」


205: 2014/05/12(月) 00:41:05.21 ID:TAh1LTyc0

勇者「今となっては、僕は彼らの文化を守りたいとも思っているよ」

勇者「確かに『先代魔王』は悪の権化だったかもしれないけれど、もう彼自身もその周りの上級魔族も氏んだんだ」

勇者「もう戦う理由は無いと思うね」

団長(行政外交部門長)「うむ。勇者の言うことはどれをとっても正しい物じゃ」

団長(行政外交部門長)「しかし、そこまで魔族を好いているのもまだ少し腑に落ちんのう」

団長(行政外交部門長)「いくら文化や生活が同じと言えども積年の恨みがそれだけできれいさっぱり消え去るものじゃろうか?」

団長(行政外交部門長)「仮に勇者がそうであったとしても他の仲間について説明がつかん」

勇者「まあね」

勇者「まあきれいさっぱりという訳にはいかないけど……僕らの感情を大きく変えてしまった要因は主に2つあるんだ」


206: 2014/05/12(月) 00:43:05.81 ID:TAh1LTyc0


勇者「1つ目は言語。団長もそうであるように、この大陸に生きる人間族、半魔、魔族全てが全く同じ言語を話している」

勇者「お陰で、敵であるはずの魔族と十分以上のコミュニケーションをとれた訳だけど」

勇者「それがもし良い方向に働けば、さっきのような効果をもたらすことは言うまでもないだろう」

団長(行政外交部門長)「確かに……もし人間を好む魔族でも存在していたとしたらありえることじゃ……」

勇者「ま、それだけではなかったけれどね」


207: 2014/05/12(月) 00:43:56.27 ID:TAh1LTyc0


勇者「そして2つ目は魔族の起源さ」

勇者「今魔族についてわかっていることと言えば、魔物を従え、人間と同程度の知能を持つ生物ということくらい……」

勇者「だけど、ここで団長、君の存在が大きな意味を持つことになるのさ」

団長(行政外交部門長)「儂がじゃと?」

勇者「ああ。君をはじめとする『半魔』が存在するということは、人間族と魔族で子を残すことが可能ということになる」

団長(行政外交部門長)「まあな。じゃがそれがなんだというのじゃ?」

勇者「僕らが以前奇術国に赴いた時に知ったんだけれど、どうやら彼らの定義における『同種の生物』というものは、『子孫を残すことができる生物同士』らしいんだ」

団長(行政外交部門長)「……まさかそれは……!」

勇者「少なくとも、魔族と人間族が同じ起源をもっているということを意味するだろうね」


208: 2014/05/12(月) 00:44:26.52 ID:TAh1LTyc0


団長(行政外交部門長)「なんということじゃ! そんなことが……」

勇者「僕らも初めは信じられなかったさ」

勇者「でもさっきの件といい、僕らは少しづつ確信へと近づいて行った」

勇者「それに、考えてみれば現在奇術国と魔術国という全く異質な国家が同時に成立しているわけだ」

勇者「早期に隔てられた人間族と魔族が全く異質に姿形を変えていったとしても不自然なことではないだろう」

団長(行政外交部門長)「うーむ。言われてみれば……」

団長(行政外交部門長)「しかし憶測には過ぎないのじゃろう?」

勇者「まあね。まだまだ矛盾も多いとは思う」

勇者「とはいえ全くの見当違いでもないだろうし、またこれからぼちぼち調べていくことにでもするよ」


209: 2014/05/12(月) 00:45:10.43 ID:TAh1LTyc0


勇者「ま、今は過去のことより現在のこと、未来のことの方が大事だ」

勇者「半魔の未来のために全身全霊をかけて行かなくちゃね」

団長(行政外交部門長)「確かにその通りじゃ」

団長(行政外交部門長)「まあよい。儂もようやく希望の光が現れたのじゃ。感謝が尽きんものじゃのう」

勇者「ははは。そこまでのものでもないよ。僕こそ団長の力あってこその『勇者の国』だと思うし」

団長(行政外交部門長)「もうちょっとカッコいい名前が良いのじゃ」クスクス

勇者「うるさいなもう。折角の良いとこだったのに」

勇者「それじゃあ、僕もそろそろ仕事に戻ろうかな」

団長(行政外交部門長)「またのう」




210: 2014/05/12(月) 01:25:54.24 ID:TAh1LTyc0

今日はここまでで

54: 2014/03/19(水) 00:48:45.97 ID:KAu99vN80
no title   

55: 2014/03/19(水) 00:54:49.55 ID:KAu99vN80

あ、言い忘れていましたが

奇術国連合は電気の国、光の国、銅の国、銀の国、金の国

魔術国連合は花の国 、火の国、水の国、森の国、風の国 で構成されています

いちいち説明多くて申し訳ないです。てかぶっちゃけ一切出てこない国とかあります

59: 2014/03/19(水) 23:52:54.62 ID:KAu99vN80

>>58 基本的な文明レベルは現代~近未来とします。

本文言及がないので説明しておくと戦闘機などの飛び道具は条約で生産禁止されているということになっています。
あまり兵器に詳しくないということもあってそういう系はなるたけカットしましたので悪しからず。


そして、魔法でできることは粗方違う形で科学でもできる。逆もまた然りということで。
大体これが文明の基準と言ってもいいです。かなりあやふやですが……追々説明していきます。
例えば、蘇生魔法はなしです。転移魔法はグレーゾーンなので後述します。


この辺は矛盾やらなんやらが非常に起きやすいのでなるべく慎重にこの世界観に合わせて噛み砕いていきますが、
もしやらかしていたら指摘、質問してくださると嬉しいです。
そして細かいところは大目に見て頂けるとありがたいです。


長レス失礼しました

211: 2014/05/12(月) 03:49:59.55 ID:msUGwjQt0

引用: 勇者「停戦協定?」