401: 2014/07/31(木) 00:47:53.91 ID:nyMLlnSL0

402: 2014/07/31(木) 00:48:39.47 ID:nyMLlnSL0

―――代表執務室―――


ドカーン
ボカーン

ワーワー
キンキュウジタイダー


勇者「なんだなんだ?外が騒がしいな」

団長「また魔法使いの魔法実験が失敗でもしたんじゃろう」

団長「この前は洪水魔法が暴発して行政府中が水浸しになってしまったからな」


バタン

はたらく魔王さま!(22) はたらく魔王さま! (電撃コミックス)

403: 2014/07/31(木) 00:50:31.26 ID:nyMLlnSL0


上級隊長「曲者でござる! 2人とも逃げ給うでござる!」

勇者「曲者?」

上級隊長「はっ。自らを『魔王』と名乗っているでござる」

上級隊長「どうやら勇者殿を狙っているようで……」

「爆発魔法(中)!!」


ドガアアアアアアアアン


上級隊長「ぐわあっ」ドシャ


爆破魔法によって執務室の扉が吹き飛ばされ、上級隊長もそれに巻き込まれた。


団長「上級隊長!?」


404: 2014/07/31(木) 00:51:14.73 ID:nyMLlnSL0


勇者「魔王だって?それじゃあ……」

魔王「あはははは! 半魔の軍隊の実力はこの程度なの?」

魔王「私の魔王軍に比べたらひどく軟弱なものね!」

魔王「ん、この部屋は?」



勇者「あっ」

魔王「あっ」



団長「あれが魔王か!」


405: 2014/07/31(木) 00:52:39.96 ID:nyMLlnSL0

魔王「ああああっ! ついに見つけたわよ!」

勇者「君は調印式の時の……」

魔王「相変わらずパッとしない顔ね! そこにいるのは……娘っ!?」

団長「そんなわけあるかっ! 儂は行政外交部門長の『団長』じゃ!」

勇者「彼女は僕とほとんど同じ年の半魔さ。幼くして成長が止まってしまったらしいけどね」

魔王「へぇ……不便なものね。それじゃあ棚の上の本もろくに取れないじゃない」

団長「余計なお世話じゃ」

勇者「それで、一体君は何をしに来たんだい?」


406: 2014/07/31(木) 00:54:12.35 ID:nyMLlnSL0


勇者「まさか僕を倒しに来たわけじゃないだろうね」

魔王「あははは!それもありだけど、今日は違うわ!」

魔王「ただただ暇だから来ただけよっ」ビシィッ

勇者「」



407: 2014/07/31(木) 00:54:50.96 ID:nyMLlnSL0


団長「暇つぶしに行政府を荒らしてもらっては困るのう……」

魔王「まったく。ここの半魔たちは何なの? この魔王に向かって無礼が過ぎるわ!」

勇者「それは悪かったよ。この不干渉区では『三族平等』が基本理念だからね」

勇者「まさかそんなVIPが乗り込んでくるとは思っていなかったんだろうよ」

団長「思うやつなんかおるかっ」

魔王「ふん、まあいいわ。勇者! 私の暇をつぶしなさいっ」

勇者「」


408: 2014/07/31(木) 00:55:55.24 ID:nyMLlnSL0

勇者「ま、まあ君を厚待遇でもてなすことは約束するよ」

勇者「君は魔族のトップだ。下手には扱えないしね」

魔王「へぇ。随分と物分りが良いじゃない」

魔王「気に入ったわ。勇者が魔族だったら側近にしてあげるところよ!」

勇者「そ、それはどうも」

ダダダダダッ

戦士「おい、侵入者とはそいつのことか!?」

戦士「かかれっ。しかし手ごわいぞ!」

魔王「ふーん。私には刃向おうなんていい度胸ね!」

魔王「さあ、私の腕の中で息絶えるがよい!」


409: 2014/07/31(木) 00:56:37.02 ID:nyMLlnSL0


勇者「うわ、めっちゃ魔王っぽいこと言ってる……じゃなくて!」

勇者「待った待った待った! 戦闘はやめだ!」

戦士「おい、どうしたんだ勇者!」

戦士「そいつは勇者を狙っているんだぞ」

勇者「とにかくやめだ。彼女(?)は魔族のリーダー『魔王』だ!」

勇者「正真正銘の来賓だよ」


ザワザワ……


410: 2014/07/31(木) 00:57:40.78 ID:nyMLlnSL0

魔王「ふふん。名前を聞いただけで恐れかえっているわね」

団長「なんか取り違えておるな……」

戦士「なんだと? そいつがあの魔王か!」

戦士「チッ。勇者の指示だ。全員戦闘止め!怪我人の搬送にあたれっ」


ダダダダダッ


戦士「大丈夫か上級隊長?」

上級隊長「かたじけないでござる……」ズルズル

団長「まったく。随分と暴れてくれたものじゃな」

団長「そろそろ遠くから奴の叫びが聞こえてくるぞ」




副団長「ギニャアアアアアアアアアアアアアッ!! ボクの城がっ!!庭がっ!! コレクションがあああああああっ!!」




411: 2014/07/31(木) 00:58:41.90 ID:nyMLlnSL0


勇者「副団長には気の毒だね……」

魔王「思ったより魔力を使ってしまったわね」

魔王「勇者、今日は休んでもいいかしら。私の部屋は何処?」

団長「来賓用の部屋があいておる。そこを使うのじゃ」

魔王「あら、気が利くのね。あなたも侍女に召してあげるわっ」

団長「ほ、本当ですかっ!? まおうさまにお使いできるなんて!」ぱぁっ

団長は幻影魔法を強めた。


412: 2014/07/31(木) 00:59:21.05 ID:nyMLlnSL0


勇者「おいこら」

魔王「あら、可愛いところもあるじゃないの」

魔王「それじゃあ案内なさい!」

団長「はいっ!」キラキラ

勇者「なんだかお転婆なのが増えたな……」

勇者「それにしてもなんで団長はあんなに乗り気なんだろう」



これこそ人間族、魔族、半魔3族の代表が初めて一堂に会した瞬間であった。



416: 2014/08/15(金) 01:03:20.14 ID:Mbb+QGY/0


―――後 応接室―――


魔王「あちゃー……ついやっちゃった」

魔王「普通に仲良くしに来ただけだったのに……」

魔王「ごめんなさいお父様……私、つい寂しくて……」

魔王「はぁ……これじゃあ魔王失格ね……」


コンコン


417: 2014/08/15(金) 01:05:01.56 ID:Mbb+QGY/0


魔王「誰?」


ガチャ


勇者「やあ。応接室は気に入ってくれたかな」

団長「儂もいるぞ」

魔王「何よ親子2人して……そうね、少し地味ね」

団長「親子じゃない」

魔王「もうちょっと髑髏とか呪術道具だとかが飾ってあってもいいものじゃない?」


418: 2014/08/15(金) 01:06:53.48 ID:Mbb+QGY/0

勇者「そんな部屋いやだ」

団長「そうか……儂があまり華美な物が好きじゃないのでな」

団長「もう少し考えてみることにするのじゃ」

勇者「ところで、今夜この行政区の街並みでも紹介して回ろうかなと思っているんだけど、どうかな」

勇者「行政府は今日の騒ぎで忙しくなりそうだし、歓迎会を開けそうな状況にもならないだろうしね」

団長「儂と勇者がガイドするのじゃ」

魔王「うーん。そうねぇ……確かにどうしてここがこんなに活気があるのかにも興味があるし……行かせてもらうわ」

魔王「さっきは悪いことをしたわね」


419: 2014/08/15(金) 01:08:06.67 ID:Mbb+QGY/0


団長「まあ、幸い氏者も出ず軽傷者だけで済んだのじゃ。精神的に重傷な奴はおったかもしれんが……」

団長「無礼を働いたこちらにも非があるのじゃ。あまり気にせんで欲しいのじゃ」

団長「まあ、物は壊れてもすぐ直るしの」

勇者(案外素直に謝るんだな……ただのお転婆ではなさそうだ)

勇者「君はここまでどうやって来たんだい?」

勇者「まさか魔王城から徒歩なんてかなりかかると思うけど……」

魔王「まあね。でも徒歩も退屈しのぎにはちょうどよかったわ」


420: 2014/08/15(金) 01:08:45.20 ID:Mbb+QGY/0


魔王「あの『復興省』とかいう人間たち、魔国の復興なんていうことを名目にしてはいるけれど、実際は不平等な法律を定めて魔族を弾圧しているのよ」

魔王「お陰で私は部屋に閉じ込められてしまったし。本当につまらなかったわ」

団長「なるほどのう。どうりで最近魔族の移住が多いと思ったら……」

勇者「やはり幸の国王は本気で平和をもたらそうとなんて思っていなかったようだね」

魔王「私も魔族を背負うものとして責任は果たしたいからね……実力は無いけれど……」

魔王「魔族が弾圧されるのを黙って見てはいられないわ」

勇者「さっきとはまるっきり態度が逆だね。あの高いプライドは何処へ行ったんだい」ハハハ

魔王「う、うるさいわね! 私だってたまにはしんみりしたっていいじゃないの」


421: 2014/08/15(金) 01:09:25.40 ID:Mbb+QGY/0


団長「たまにも何も、まだ会ってから数時間じゃぞ……」

魔王「細かいことは気にしないでちょうだい」

魔王「ところで、どうしてこの町はこんなに栄えているの?」

魔王「確か私の記憶ではこの辺りは『荒れ地』だったはずだけど」

勇者「まあね。3年ほど前まではそうだったさ」

団長「人間、魔族、半魔が皆で協力して町を作ったのじゃ」

団長「この町、この不干渉区はまさに3族協調の象徴という訳なのじゃよ」

勇者「それに、この土地はいくつもの勢力の間にあるだろう?」

勇者「それぞれの国間の貿易を中継すれば人もおのずと集まるということさ」

勇者「しかも両側の国が戦争中となればなおさらだ」


422: 2014/08/15(金) 01:10:15.66 ID:Mbb+QGY/0


魔王「なるほど。さすがお父様の策を幾度となく破った勇者ね」

魔王「戦術にはぬかりがない……」

魔王「よかったらもっと教えてくれない? 魔国でも役立たせたいんだけれど……」

勇者「いいとも! そういうことなら大歓迎さ」

勇者「……をEEEするとWWだろう?」

団長「さらに$$は&&にもなるんじゃ」

魔王「本当だわ! そんな方法があったなんて……」


423: 2014/08/15(金) 01:11:10.46 ID:Mbb+QGY/0


――――…


魔王「はぁ。私ともあろう者が、勇者に助けを求めることになるなんてね」

魔王「お父様に知られたらどうなることやら……」

勇者「先代魔王か……彼があと1年長く生きていたら僕は今頃生きていないだろうね」

魔王「ええ。その通りね。でもそうばっかりは言っていられないわ」

魔王「戦争が終わってしばらくのうちは……いや、今でもお父様が生きていたらって思うことはある」

魔王「でも、もうこの世にいないことは変わらない現実なわけだし、受け止めなくてはって魔族の弾圧を目の当たりにして思ったの」


424: 2014/08/15(金) 01:11:47.19 ID:Mbb+QGY/0


魔王「今回ここに来たのもそんな気持ちの表れなのかもしれないわ」

団長「なんじゃ、お転婆なだけじゃなくて芯も通っているようじゃな」

勇者「ま、中身が脆いと、どうしても虚勢を張りたがってしまうものだよ」

魔王「虚勢を張るとは無礼ね! 私は本当に強いんだからっ」バチバチ

勇者「わああ! 悪かった悪かった! 今のは無しにしてくれ」

魔王「分かればいいのよ」フフン

団長「しかし、いつまでここにいるつもりなのじゃ」


425: 2014/08/15(金) 01:12:47.16 ID:Mbb+QGY/0

団長「今までの言い分では正式に使者としてやってきたとも思えんが……」

魔王「そうね……黙って出てきちゃったし、側近たちに迷惑がかかるかもしれないから、1週間程度で帰ることにするわ」

勇者「1週間も居ていいのか?」

魔王「大丈夫よ、どうせ部屋で引き籠っていただけだし。もしかしたらまだ気づかれていないかもしれないわよ」

団長「どんだけザル警備なんじゃ……」

勇者「分かった。ならそういう風に皆にも紹介しておくよ」

勇者「またそのうち部門長会議にでも顔を出してもらうことにしよう」


426: 2014/08/15(金) 01:13:36.47 ID:Mbb+QGY/0


魔王「部門長? ああ、さっきその半魔が言っていた『大臣』みたいな地位のことね」

勇者「そうそう。それじゃあまた後で迎えに上がることにするよ」

魔王「楽しみね……生まれてこの方魔王城からほとんど出たことがなかったから……」ムフフ

魔王「さっきもちょっとだけ町を歩いたけれど、あんなにたくさんの魔族と人間が互いに混ざり合っているなんて、未だに信じられない光景だったわ」

団長「まあ、まだ両族には深い溝が隔たっているからのう」

団長「この不干渉区をもってその溝を平和という足場で埋めていくのが勇者の望みなのじゃよ」

魔王「なるほどね……お父様は間違っていたのかな……」


427: 2014/08/15(金) 01:15:35.31 ID:Mbb+QGY/0


魔王「魔族の平和なんて、結局戦争に負けて無くなってしまったわけだし」

勇者「まだ無くなったとは限らないさ」

勇者「3族が協調して築く平和だって、『魔族の平和』の一部として認められてもいいと思わないかい?」

魔王「そうね……」


コンコン


勇者「ん、誰かな?」


ガチャ


外交副部門長(元実行隊長)「大変でさあ団長! 奇術の国からの緊急の便りが届きやした。しかも他にもいろいろとありやして……」



実行隊長とは、元半魔盗賊団実行隊の隊長で、鳥人型の魔族の血を引いた半魔である。
実行隊とは、団長直属3部隊の中でも主に誘拐、人質の交換、物品の売買の際の交渉や実行などを主に担当していた部隊である。


428: 2014/08/15(金) 01:16:18.23 ID:Mbb+QGY/0


団長「なんじゃと!?奇術の国から?」

外副長「ええ。詳しいことは向こうで話しやす。とにかく来て下せえ!」

団長「むむ……すまんな2人とも。今夜は欠席のようじゃ」

勇者「まあ仕方ないよ。それにしても今になって奇術の国から干渉してくるとは……」

勇者「何かあるかもしれないね」

魔王「あら、半魔の娘の方は来てくれないの」

魔王「また今度に期待するわ」


429: 2014/08/15(金) 01:16:58.87 ID:Mbb+QGY/0


団長「いい加減誤解を解いてくれんかの……」

魔王「いいじゃない。あだ名みたいなものと思っておきなさいっ」

団長「気分のいいあだ名ではないのう」スタスタ


バタン


勇者「ははは。団長も大変だな」

魔王「うーん。なんでかな……」

勇者「どうかしたのか?」


430: 2014/08/15(金) 01:17:43.00 ID:Mbb+QGY/0


魔王「いや、気のせいだとは思うんだけど……私あの半魔にどうしても会ったことがあるような気がするの」

魔王「半魔にすら最近初めて会ったばかりなのにね」

勇者「ふーむ。それは不思議だね」

勇者「もしかしたら前世ででも知り合いだったんじゃないのかい?」

魔王「なるほど。そうかもしれないわね!」

勇者「納得しちゃうんだ」

魔王「そう……だといいわね……」


431: 2014/08/15(金) 01:18:30.86 ID:Mbb+QGY/0

今日はおしまい

434: 2014/08/29(金) 23:21:47.35 ID:Rrf4VPal0


―――夜 行政府前―――


勇者「さて、まずは何処へ行こうかな」

魔王「デートコースは男が決めるものだって、何かの本に書いてあったわ」

魔王「さあ早く案内なさい!」

勇者(デート?)

勇者「まあまあ。大体のコースは決めてあるんだ」

勇者「そうだな……じゃあ酒場から行ってみようか」

魔王「酒場?」

勇者「そうそう。店員っていう腕のいい料理人がいるのさ」

勇者「歓迎会が開けない分、そこで御馳走を振る舞ってもらうことにしよう」


435: 2014/08/29(金) 23:22:41.14 ID:Rrf4VPal0


―――酒場―――


ワイワイガヤガヤ


店員「お、勇者じゃないか!いらっしゃい」

店員「隣にいるのは……見慣れない顔だね、彼女かい?」

勇者「まさか。彼女は魔王さ。正真正銘極悪非道のね」

魔王「ふん! ちょっと狭苦しい店ね!」

魔王「私がちょっと広げてあげようかしら」バチバチ


436: 2014/08/29(金) 23:23:18.50 ID:Rrf4VPal0

勇者「わー! いきなり何をしだすんだ!」

店員「ははは。賑やかな女の子じゃないか」

店員「魔王ってのはもっとこう禍々しくて得体のしれない姿をしてるもんだと思っていたけどね」

魔王「あら。やろうと思えばできるけど?」

勇者「遠慮しておこう」


437: 2014/08/29(金) 23:24:19.95 ID:Rrf4VPal0

勇者「ま、そういうわけだ。一つ歓迎料理を頼みたいんだけど」

店員「お安い御用さ!」

店員「今からじゃちょっと時間はかかるけど……魔王スペシャルを振る舞ってあげるよ!」

勇者「うわ。グロそう」

魔王「どういう意味よ!」


438: 2014/08/29(金) 23:25:04.40 ID:Rrf4VPal0


―――…


店員「おまたせっ。ゆっくり食べて行ってくれよな!」

勇者「わざわざありがとう」

魔王「ふーむ……魔王城じゃあ見たこともない食材ばかりね……」

魔王「とくにこれは……何のスープかしら」ズズ

魔王「!?」

勇者「どうだい?口に合うものかな」

魔王「おいしい……」ズズズズ

勇者「いきなり静かになったな……」

勇者はその後、魔王をカジノや商店街へと連れて行った。


439: 2014/08/29(金) 23:25:57.35 ID:Rrf4VPal0


―――カジノ―――


魔王「よしっ!入れっ入れっ!」


コトン


ディーラー「ああ。残念ですね。はずれです」

魔王「あああああっ!また外れたああああっ」

魔王「ちょっと勇者!これインチキなんじゃないの!?」

魔王「こうなったら……」バチバチ

勇者「わーっ! だから壊すのはだめだってば!!」

ディーラー「はははは……」


440: 2014/08/29(金) 23:27:29.89 ID:Rrf4VPal0


―――商店街―――


ワイワイガヤガヤ


魔王「もう夜なのにまだ賑わっているのね」

勇者「まあね。この商店街には武器屋や防具屋、宿もあるし」

勇者「商店や銀行を集めることによって買い物しやすくもなっている」

勇者「さらに、奇術国からの電灯を使えば夜も明るさを保てるんだ」

魔王「なるほど……そうやって町を活気づけていたのね……」

魔王「参考にするわ」

勇者「どうも」

魔王「あっ!あの店は何!?」

勇者「え、あれは呪術道具の店かな」

魔王「行ってみましょ!」グイッ

勇者「わわっ。ちょっと待ってくれよ!」


441: 2014/08/29(金) 23:28:11.10 ID:Rrf4VPal0


―――…商店街出口


魔王「ついつい買ってしまったわねこの『聖水』……」

勇者「なんで魔王が聖水なんか買ってるんだよ」

魔王「いいじゃない。この気持ち悪さが何とも言えないわ」

勇者「わけがわからないよ……」

魔王「はぁー!でも楽しかったわ」

魔王「ありがとう勇者。お陰で魔族だけの平和が魔族の平和じゃないことが分かった気がする」


442: 2014/08/29(金) 23:28:54.41 ID:Rrf4VPal0

魔王「こんなふうに魔族と人間が手を取り合っていくからこそ、この町は栄えているんだもの」

魔王「お父様はやっぱり間違っていたのね」

勇者「そう思ってくれたなら嬉しい限りさ」

勇者「それじゃあ最後に、とっておきの場所に案内するよ!」

魔王「とっておき? 一体どこなの!?」

勇者「ま、来てからのお楽しみさ」


443: 2014/08/29(金) 23:29:39.76 ID:Rrf4VPal0


―――行政府 塔最上階展望台―――


ヒュウウウ


勇者「どうだい、良い眺めだろう?」

魔王「わぁー! これがあの魔王城で見た明かりの正体だったのね!?」

魔王「あの光の色はわざと付けているの?」

勇者「そうさ。建設部門長が考えたんだ」

勇者「いつも僕がここで夜景を見ているものだから、どうせなら魔法で電灯に色を付けて模様を作ってしまおうってね」

勇者「季節によって変わるのさ」

444: 2014/08/29(金) 23:30:24.89 ID:Rrf4VPal0


魔王「凄いわね……たった3年でここまで町を発展させてしまったなんて」

魔王「4年前までここで戦争が行われていたなんて想像もつかないわ」

勇者「でも、もう魔族と人間の戦争は終わったんだ」

勇者「まだまだ乗り越えなくてはならない壁は多いけれど、きっと平和は訪れるさ」

勇者「僕はその先駆けとしてここに国を建てる」

445: 2014/08/29(金) 23:30:58.82 ID:Rrf4VPal0


勇者「そうだな、もう少し安定したら正式な独立宣言も行わなくちゃね」

魔王「そうね……勇者、何かここのために私にできることは無いかな」

魔王「あくまで魔族のためにだけど、少しでも平和に貢献したいのよ」

勇者「おお、それは心強い」

勇者「そうだな……できることか……!」ピーン

勇者「適役がいたよ」

魔王「?」


446: 2014/08/29(金) 23:31:36.61 ID:Rrf4VPal0
ということで魔王と勇者のデートも終わりに近づいたようです
それでは

450: 2014/09/30(火) 00:13:30.84 ID:eZeY6aMF0


―――そのころ 中央行政区 行政府から少し離れた建物の屋上―――


狙撃手「ケケケッ。きやがったきやがった」

狙撃手「商人が言ってたことは本当だったな」

狙撃手「それにしても、屋上に女なんか連れて何をやってんだか」

狙撃手「一国の長たるものがデートとは、こいつは傑作だ!」

狙撃手「ケケケッ。デート中のところ悪いが、こいつも仕事なんだ」

狙撃手「とっとと勇者を消してでかい報酬をもらわねーとな。ケケケッ」


謎の男は構えたライフルを再びのぞき込む。


ジィーッ


451: 2014/09/30(火) 00:14:09.53 ID:eZeY6aMF0

狙撃手「しかし冴えねえ面してんな」

狙撃手「こんな奴が本当に奇術国を脅かす黒幕なんだか……」

狙撃手「ま、オレにはかんけーねぇことだがな」

ジィーッ

狙撃手「さて、そろそろ……」グッ

魔王「……」チラッ

狙撃手「!?」バッ

狙撃手「気づかれた……?」

狙撃手「まさか、な」

狙撃手「しかしなんだあの女……妙に恐ろしい赤い目をしてやがったな」

狙撃手「な、奇術国一の腕前を持つオレ様が一体何をビビッてやがんだ!」

狙撃手「あんな冴えねえ面さっさと仕留めて……」ジィーッ

ドシュッ


452: 2014/09/30(火) 00:15:08.20 ID:eZeY6aMF0

勇者「……!?」ズァッ

バタッ

狙撃手「はっ!チョロイもんだぜ」

バサッバサッ

魔王「誰がチョロイのかしら?」

勇者「魔王!!落ちる!落ちるから!!」ギュー

魔王「ちょっと!じっとしてないと蹴り落とすわよ!」バサッ

狙撃手「はっ!? な、何故お前らが!?」

狙撃手「馬鹿な!どこから湧いてきやがった!!」

魔王「ははは!ちょっとその面白そうな道具に幻影魔法をかけさせてもらったわ!」


453: 2014/09/30(火) 00:15:44.17 ID:eZeY6aMF0

魔王「どうも私たちのことをジロジロ見ているみたいだったしね」

狙撃手「なんだと……そんなことが可能なはずは……」

魔王「私は魔王よ! 不可能なことなんてありはしないわ!」

勇者「嘘つけ!」

魔王「黙ってなさい!」ゲシッ

勇者「うわわっ!」ドサッ

勇者「つつつ……」

勇者「さあ、おとなしく捕まるんだ」


454: 2014/09/30(火) 00:16:20.05 ID:eZeY6aMF0

勇者「その武器はどこから運んできた?どうやってここに?」

魔王「私を狙おうなんて100年早いわ! 拷問に処せられたくなければ素直に吐くことね!」バサッ

狙撃手「ぐ、ぐぬぬ……」

狙撃手「おのれっ!」チャキ

勇者「銃かっ! まずい!」

魔王「氷結魔法!」

ドーン

狙撃手「」カチーン

魔王「そんな武器で私に勝つつもり? ははは!1000年間皿洗いでもして出直してきなさい!」バサッ

スタッ


455: 2014/09/30(火) 00:17:00.03 ID:eZeY6aMF0

勇者「どんな文句だよ……」

勇者「まあ、助かったよ。ありがとう。君は命の恩人だね」

魔王「ふふん、勇者にお礼を言われる筋合いはないわね」

魔王「私は私に勝負を挑んできた愚か者をひねりつぶしただけよ」

魔王「魔王なら当然の行いだわ!」

勇者「ははは……」

コロコロコロ

シュー

勇者「ん?これは……爆弾だ!!」

勇者「伏せろっ」バッ

魔王「きゃっ!?」ドサッ

ドガアアアアアン


456: 2014/09/30(火) 00:17:35.28 ID:eZeY6aMF0

勇者「ううう……はっ!?」

勇者「狙撃手は!?」

勇者「やられた……木端微塵だ」

魔王「いててて……いきなり何をするのよ!」

勇者「ごめんごめん。しかし参ったな、狙撃手が粉々になってしまった……」

魔王「あら、今のは私じゃないわよ」

勇者「分かってるさ。事情を詳しく聞こうと思ったんだけど、できなくなってしまったな」

勇者「すぐに緊急の部門長会議を開くことにしよう。魔王、君も事件の証人として出席してくれ」

魔王「任せなさい!」


457: 2014/09/30(火) 00:18:12.99 ID:eZeY6aMF0

―――緊急部門長会議―――

勇者「さてと……」

勇者「あれ、副団長は?」

団長「すまんが欠席のようじゃ」

団長「さっきのショックがよほどこたえたようじゃ」

団長「少しの間そっとしてやってほしい」

戦士「ケッ。なんだなんだ城の一つや二つケチケチすんなってな」

勇者「分かった」

勇者「こんなタイミングで申し訳ないけど、まずは彼女の正式な紹介から行こう」


458: 2014/09/30(火) 00:18:49.84 ID:eZeY6aMF0

勇者「彼女は魔王、正真正銘の魔国の王だ」

魔王「よろしく」

勇者「さっきは魔王のお陰で僕は無事だったんだ」

勇者「今日の昼のことはあるけど……悪者ではないから安心してほしい」

戦士「チッ。勇者の言うことなら従うっきゃねーってやつか」

魔王「ふん。魔王に助けられる勇者何て前代未聞ね!」

戦士「ダサッ」

勇者「ダサくない」

勇者「次に、さっき起こった暗殺未遂についての報告だ」


459: 2014/09/30(火) 00:19:55.92 ID:eZeY6aMF0

―――…


勇者「・・・・・・・ということだ」

勇者「敵はおそらく奇術国出身。彼がいた近くにも何者かが潜んでいたんだろう」

勇者「気配は全く感じなかったから、魔法でもかけて隠れていたんだと思う」

魔王「私でも気づかなかったなんて、かなり上級の魔法の使い手みたいよ」

勇者「そうだ。そして爆弾で失敗した狙撃手を処分してしまった」

勇者「武器も破壊されていたし、証拠は完全に隠滅されてしまったよ」

戦士「チッ!いったいどこから湧いてきやがったんだ!」

上級隊長「行政区の警備は万全を期していたはずでござるが……」

勇者「万全と言っても馬車の中の荷物一つ一つまで調べたわけじゃないんだろう?」

商人「なるほど、貿易商人に化けて、ということもあり得ますか」


460: 2014/09/30(火) 00:20:28.69 ID:eZeY6aMF0

団長「もしかしたらあの『転移魔法』を使った可能性もあるのじゃ」

魔法使い「残念ながらそれはないわね」

魔法使い「あの魔法は非常に精密なコントロールと複雑な魔導方程式が必要な魔法よ」

魔法使い「団長のコントロールをもってしても無事に、しかも誰にも見つからずに転移するなんて不可能に近いでしょうね。100歩譲って、できたとしても数メートルが限界よ」

魔法使い「失敗すれば即氏は免れない危険な魔法をあえて使おうとするものかしら」

団長「奴らのことじゃ、大した知識もなく魔法を使ってしまうことだってありえるじゃろう」

勇者「しかし、魔法学の権威が言うなら間違いないだろうね」

勇者「ともかく、これに関しては戦士と上級隊長に調査をお願いするよ」

戦士「ああ。こんどはさらに警備を強化させてもらうぜ」

上級隊長「貿易商人まですみずみに検閲致すでござる」

団長「さて、次は儂からの報告じゃ」

団長「まずはよい知らせからじゃ。少し前、奇術連合内で大規模な反乱が起こったのは知っておるかな」

戦士「それについては聞いてるぞ。確か銅の国が奇術の国の強引な要求に耐えかねたんだったよな」

商人「こちらの商業連盟の方でも話題に上っています」

461: 2014/09/30(火) 00:21:26.02 ID:eZeY6aMF0

商人「おかげで銅の値段が急上昇してかなり混乱しておりました」

団長「そうじゃ。そして、奇術の国はその討伐に僧侶を当てたのじゃが……」

団長「あの百年戦争中、最盛期の魔王軍ですら陥落できなかったあの要塞国家を無血で占領してしまったそうじゃ」


ザワザワ


勇者「無血で占領とはまた僧侶らしいね」

戦士「嘘だろ?あの分厚い銅の壁をいったいどう越えたっていうんだ」

商人「砲撃、対空、要塞の三枚壁から成り、防御力ならば氏の谷にも勝るとも言われていましたが……」

魔法使い「『無血』、ときたらもう魔法しか考えられないわね」

魔法使い「奇術連合には魔法という概念がないから、それと僧侶の戦術が加わったらもう負けなしよ」

魔王「それでも、お父様でもできなかったことを犠牲なしでなんて……」

462: 2014/09/30(火) 00:21:57.94 ID:eZeY6aMF0

団長「奇術連合はその功績を称えて僧侶をさらに大将にまで昇進」

団長「奇術の国は反乱を起こした銅の国と、共謀を図った金、銀の国三国を統一して新しく『白金の国』の建国を宣言し、そこの軍務責任者に僧侶を当てたそうじゃ」

団長「僧侶への民衆の支持もかなり高まっておる」

戦士「なんつー出世話だ。四賢人就任を断る奴が小さく見えてくら」

魔法使い「あら、それなら幸の国の憲兵総官なんてさぞや小さい役職だったんでしょうね」

戦士「ぐぬぬ」

商人「なんと! それはまた経済情勢が変わってきそうですね」

商人「銅は売り……金と銀は買い……と」パチパチ

勇者「なるほど、それなら奇術連合は親魔族に傾いてくれるんじゃないのかい?」

団長「その通りじゃろうな。じゃがな……」


463: 2014/09/30(火) 00:22:40.78 ID:eZeY6aMF0

団長「もう一つの方なんじゃが、奇術の国の理事長が2週間後に行われるその白金の国建国記念の式に儂ら不干渉区の幹部を招待してきよったのじゃ」

団長「儂らとの親善を図るため、などと言っておるが……」

戦士「なんだなんだ、僧侶を祝うためなら行ってやってもいいんじゃないのか?」

魔法使い「待ちなさい。あの奇術の国のことよ、何か企んでいるかもしれないわ」

勇者「確かに、この前の反乱事件といい、奇術の国が何らかの関与をしている可能性は極めて高い」

勇者「最悪、奇術連合領内に僕らをおびき出して、まとめて謀頃するということもあり得るだろうね」

魔王「罠、ということかしら?」

団長「まあ、まだ決まったわけではないがな。ここで断るわけにもいかんじゃろうし」

勇者「断れば親善の最後の機会を踏みにじったとして、侵攻の口実を与えることにもなりかねないだろうね」

勇者「こいつは参ったな」

戦士「あの奇術連合の軍と戦うには、こちとら少し役者が不足しているようだぜ」

魔法使い「相手が僧侶とあっちゃなおさらね」


464: 2014/09/30(火) 00:23:14.66 ID:eZeY6aMF0

団長「一応、儂らには僧侶配下の軍を護衛に回すと明言してはおるが……」

戦士「んなもん本気で言っているとは限らんだろう!」

団長「言ってしまえばそうかもしれん」

団長「しかし、僧侶はもう政治的にも軍事的にも十分な影響力を得ているのじゃ。まさか式のことも招待のことも知らないとは思えんのじゃ」

勇者「とは言っても警戒は怠れないだろうね」

勇者「罠に嵌めるには、罠に飛び込まなければならない状況に相手を追い込むのが最も有効だ」

魔王「あっ、お父様も同じようなことを言っていたわよ」

魔王「前の勇者6人もそうやって葬ったんだって高笑いしていたわ」

団長「どうするのじゃ勇者」


465: 2014/09/30(火) 00:23:54.91 ID:eZeY6aMF0

団長「あの反乱事件があってからというものの、この不干渉区内でも不審の念が揺らいでおる」

団長「どうも勇者が暴力を持って反乱勢力を皆頃しにしたという極端な噂まで広まっているということじゃ」

団長「そのせいで半魔と魔族の一部が魔術国連合に移住を始めているのじゃが……」

団長「それが魔術連合での魔族排斥の動きを促進し始めているということなのじゃ」

商人「それはまずいですね」

商人「このままでは花の国をはじめとした親魔族国家で革命すら起きかねませんよ」

団長「うむ。状況はかなり悪い方向に向かっておる」

団長「このまま勇者にまで氏なれてしまえば、今までの全ては水の泡じゃぞ」

勇者「そうだね……」


466: 2014/09/30(火) 00:24:46.42 ID:eZeY6aMF0

戦士「しかし、行くしかないもんはどうにもならんだろう」

戦士「くよくよしてても始まらねーぜ」

魔法使い「そうね、こちらには優秀な戦力も少なからずいるわけだし、そう簡単にやられることもないと思うけど」

商人「私も賛同します」

上級隊長「そうでござる!某ら憲兵隊もついていくでござる!」

勇者「分かった」

勇者「やはり国家戦略的に見ても、ここで出席しないのはまずいだろう」

勇者「僕と団長、外交副部門長、上級隊長、そして憲兵隊の一部と共に奇術連合に向かうことにするよ」

戦士「なんだぁまたお留守番かよ!」

魔法使い「あなたが行ったら国際的スキャンダルは免れないわよ」

勇者「すまない戦士。今度は国境付近での調査の続行と混乱の鎮静化をお願いするよ」

団長「ついてなのじゃが、儂は一足先に外交副部門長と共に奇術連合へと向かうことにするのじゃ」

団長「理事長に直接会って少しでも状況を変えるために努力しようと思う」

勇者「分かった。そうしてくれ」

魔王「はいはいはいっ!私も勇者と一緒につれて行きなさい!」

467: 2014/09/30(火) 00:25:23.66 ID:eZeY6aMF0

勇者「えっ。君は1週間で帰るんじゃなかったのか?」

魔王「いいじゃない!どうせ暇なんだから」

魔王「それに、一度奇術の国に行ってみたかったところなのよ!」

団長「困ったのう。まだ魔国と直接連絡を取ったわけじゃなかったのじゃが……」

勇者「うーん。まあいいんじゃないのか?」

勇者「魔王の実力は知ってのとおりだ。もし僕が氏んだとしても魔王だけでケロッと帰ってこれるだろうさ」

戦士「なんつー情けねえ勇者だ」

団長「分かったのじゃ、一応魔国には報告せんでおくことにしよう」

団長「大体の要件は済んだようじゃな」


468: 2014/09/30(火) 00:26:29.23 ID:eZeY6aMF0


団長「ところで勇者、勇者はいつ独立宣言を行うつもりなのじゃ?」

商人「確かに、先ほどの状況を打破するならば、まずはこの国を独立国として他国に認めさせてしまうことが第一歩になる思います」

商人「そうすれば不干渉区内だけでも不安を取り除くことができるでしょう」

団長「商人の言う通りじゃ。法ならある程度完成しておる」

団長「勇者が帰還した後すぐにでも行うべきではないのか?」

勇者「そうだね。僕も少し思っていたところなんだ」

勇者「本当はもう少し情勢が安定してからにしようと考えていたんだけど……そうだな」

勇者「1か月後に確か百年戦争の終戦記念日があっただろう」

469: 2014/09/30(火) 00:27:01.86 ID:eZeY6aMF0

勇者「その日に行うことにしよう」

戦士「平和ってワードがやけに似合う日なこったな」

魔法使い「記念すべき日になるといいわね」

団長「いや、絶対にせねばならんな」

商人「そうですね」

商人「三族の平和が一層近づくことを祈りたいものです……」ニヤ


477: 2014/10/28(火) 01:15:39.40 ID:ADMUfRVs0

アドバイスありがとうございます。
ぜひ参考にさせていただきます

478: 2014/10/28(火) 01:19:04.09 ID:ADMUfRVs0

―――会議後 図書室―――


団長「えーと……」パラパラ

団長「お、あったあった」


『転移魔法 中級魔法 
 
光の賢者によって開発された魔法。魔法のランク自体は中級だが、移動先の指定を始めとした多くの問題を抱えており、壁の中に転移して氏亡するなどの事故が相次いだために使用が禁止された。
現在は幸の国でこの魔法を才能によって使いこなせる者のみが勇者として選ばれており、それ以外の使用者は皆無であると思われる。

魔導方程式は』


479: 2014/10/28(火) 01:19:55.49 ID:ADMUfRVs0


団長「うわっ、なんという複雑な式じゃ……さすがにこれは気軽には扱えんな」

団長「しかしこの辺は理解できるか……」

団長「うーむ。とはいえ素人に使いこなすのは不可能か」

団長「そういえば勇者は転移魔法を使えないんじゃったな」

団長「どこまで才能に恵まれない勇者なんだかわからんのう」クスクス

団長「まあよい。少しだけ見ておくか。何か役に立つかもしれん」

スタスタ


480: 2014/10/28(火) 01:20:36.66 ID:ADMUfRVs0


―――後 中央行政府 魔術国大使事務室―――


魔法使い「はぁ……これもダメね。すぐに腐り落ちてダメになってしまうわ」クシャクシャポイ

助手「師匠~、お願いしますからこれ以上部屋を荒らさないでくださいよ~」

魔法使い「あら御免あそばせ。意外とこの皮膚交換魔法の魔導方程式が上手くたてられなくてね」

魔法使い「直接回復魔法の失敗跡を消すのは不可能に近いから、視点を変えてみたんだけど……」

助手「『大賢者の定理』を使ってもダメなんですか?」

魔法使い「お話にならないわね。あれは飛躍的に魔力消費の効率を上げただけのものだから、攻撃系の魔法には有効だけど、回復系魔法にはあまり意味がないのよ」


481: 2014/10/28(火) 01:21:29.76 ID:ADMUfRVs0


魔法使い「それより、貴方の方は水彩魔法の自作はできたのかしら」

助手「はい! さっき魔導方程式をたて直しました!あとは詠唱を乗せれば……」


コンコン


魔法使い「何かしら?」


ガチャ


勇者「やあ魔法使い」

魔王「なんだか本ばっかりで胡散臭い部屋ね……」

魔法使い「あら、今日はまた可愛いお友達まで連れてどうしたのかしら」


482: 2014/10/28(火) 01:22:22.77 ID:ADMUfRVs0

勇者「ははは。ちょっとお願いがあるのさ」

勇者「この魔王に魔法学について学ばせてやってほしいんだ」

魔王「あくまで魔族の平和のために貢献したいだけよ!」

助手「え、あれがかの残虐非道極悪愚劣の【魔王】なんですか!?」

魔王「あれとは何よ!失礼ね!」

助手「そっちですか!?」

魔王「ふん。私はこう見えてももう16なのよ!」デデン

助手「偉そうに言う割には私と同い年じゃないですか」


483: 2014/10/28(火) 01:22:59.53 ID:ADMUfRVs0


魔王「あら、背が小さくてわからなかったわ!」

助手「ぐっ。気にしてることを……」

魔法使い「魔法学ね……いいわよ。お安い御用というやつね」

魔法使い「魔王というだけあってセンスは抜群でしょうから、あとは知識さえつけてしまえば四賢人にも劣らない魔法の使い手になるでしょうよ」

助手「えー。私を差し置いてそんなぁ」

魔法使い「あなたも十分優等生よ。安心しなさい」

助手「やったぁ」

勇者「それじゃあ、僕は出発の用意があるから失礼するよ」


484: 2014/10/28(火) 01:23:38.64 ID:ADMUfRVs0


ガチャ

―――…



魔法使い「それじゃあ、何からいきましょうかね」

魔王「手っ取り早く凄い魔法を教えてくれない?」

魔王「もうそれはド派手でヤバくて……」

魔法使い「まあお待ちなさい」

魔法使い「強力な魔法には強力な魔法なりに『基礎』というものが重要になってくるものよ」

魔法使い「まず、『魔法学』には、主に2つの部門があるの」


485: 2014/10/28(火) 01:24:21.31 ID:ADMUfRVs0

魔法使い「1つ目は、『精神魔法学』といってね。魔法と精神、心理、感情及び才能との関わりについて主に追究する部門よ」

魔法使い「魔法というものは気分や感情によって大きく左右されるもの。例えば、強い怒りを感じれば通常をはるかに超えた威力の魔法を発動できてしまうものよ」

魔法使い「魔法を扱うセンスだってそうね。細かいコントロールや詠唱時間なんてものは先天的な才能の部分がかなり大きい部分を占めてしまうのよ」

魔法使い「これが、魔族の中でも序列を決める最たるものとなりうるわけね」

魔王「確かに。悲しいときはどうしても魔法も弱弱しくなってしまうわ」

魔法使い「あら、魔王の目にも涙ってことかしら?」

魔王「べ、別にいいじゃない! 魔王が泣いて何が悪いのよ!」

魔法使い「わざわざ認めなくてもいいのに」クスクス

魔王「あっ」


486: 2014/10/28(火) 01:24:58.74 ID:ADMUfRVs0

魔法使い「そして、もう一つの部門こそ、私が主に携わっている『理論魔法学』ね」

魔法使い「上級の魔法を使うには詠唱が必要よね。それは、魔法を発動させるために、詠唱によって自分の持つ魔力を効率よく制御しなければならないからなの」

魔法使い「魔族なんかでは本能的に見出してしまうのが普通らしいけど、人間族ではそうはなかなかいかないわ」

魔法使い「そこで、理論魔法学では『魔導方程式』という、魔法石のエネルギーの作用、流れ、向き、変換等を示したものを表すの」

魔法使い「それをもとにして自作の詠唱をその上に乗せるということね」

魔法使い「既に先人の知恵によって多くの定理や作用法則などが見出されているから、私たちはそれをつかって新たな魔導方程式を作っているのよ」

魔法使い「そうすれば、魔力の消費を抑えつつ、強力な魔法をより強力に唱えることが可能になるの」

魔法使い「この理論魔法学のお陰で上級魔法以上のほとんどの魔法が生み出されたと言っても過言ではないわ」

魔法使い「さらに、完全にオリジナルの魔法を作り出すことだってできるのよ」


487: 2014/10/28(火) 01:26:08.85 ID:ADMUfRVs0

魔王「へぇー」

魔王「そんなものがあるなんて全く知らなかったわ!」

魔法使い「まあ、魔王ちゃんは最高クラスの魔法のセンスがあるでしょうから、ぜひこの理論魔法学を学んでほしいわね」

魔王「ちょっとだけ興味がわいてきたわ!」

魔王「でも難しそう……」

魔法使い「まあ、最初のうちは苦労するでしょうけど、魔王ちゃんならすぐに慣れてしまうでしょう」

魔法使い「魔法だって魔族の部分と人間の部分を持ち合わせたような側面があるのよ」


488: 2014/10/28(火) 01:27:04.10 ID:ADMUfRVs0

魔法使い「それをかの魔王が両方を支配したとあったら、これは両族にとって重要な意味を持つことになるわ」

魔法使い「うーん、ついワクワクしてしまうわね」

魔法使い「じゃあ早速魔導方程式の書き方からいくわよ」

魔王「よーっし! いつでもきなさい!」

助手(師匠が珍しく熱くなっている……私も負けていられませんね!)


494: 2014/11/18(火) 01:11:29.00 ID:IHHVKd0l0

―――奇術の国 企業連合本社ビル 理事長室―――

プルルルル

ガチャ


理事長「はい」

外務理事『理事長、かの北部不干渉区の外務代表から直接の電話が来ております』

外務理事『セレモニー前に一度理事長と面会がしたいと……許可しますか?』

理事長「そうですか。構いません。許可しておいてください」

外務理事『大丈夫なんですか?もしかしたら魔法なんかを使って理事長を暗頃しようなんて企みはしないでしょうか』

理事長「大丈夫ですよ。もしそんなことになればこの世界から平和の芽が一つ紡がれるだけです」


495: 2014/11/18(火) 01:12:12.26 ID:IHHVKd0l0

理事長「それに、……」

理事長「まあそういう訳です。許可をお願いします」

外務理事『分かりました』


ガチャ


理事長「外務代表ですか」

理事長「特に何も変わることは無いというのに、ご苦労なことですね」

理事長「全ては私の思惑通りに進んでいます……誠に合理的です」


496: 2014/11/18(火) 01:12:51.21 ID:IHHVKd0l0

―――勇者出発の3日前の夜 行政府 塔最上階展望台―――


ヒュウウウ


団長「やはりここにおったか」

勇者「やあ団長。もう良い子は寝る時間じゃないのかい?」

勇者「身長が伸びなくなるよ」

団長「あからさまな嫌味はやめるのじゃ。笑えんぞ」ムスッ

勇者「ははは。まあまあそう怒らずに」

勇者「コーヒーゼリー一つでどうだい」

団長「む……ま、まあそういうことなら許してやらんこともない」フン

団長「……ミルクは多めでな」


497: 2014/11/18(火) 01:13:31.95 ID:IHHVKd0l0

勇者「はいはい」クスクス


ヒュウウ


団長「なあ勇者。勇者はどう思うのじゃ?」

勇者「何がだい?」

団長「今回の奇術国の動きについてじゃ」

団長「儂は戦略的な方面には疎くての。正直奇術の国が何を思っているのか見当もつかんのじゃ」

団長「本当に勇者を狙う必要があるのか?」

勇者「うーん。まあ僕も考えてはいたさ」


498: 2014/11/18(火) 01:14:19.09 ID:IHHVKd0l0

勇者「まあ、第一にあるのはやはりこの土地の戦略的価値じゃないかと思う」

勇者「実際、僕らは魔術の国から大きな援助を受けているし、魔術の国に利用されている部分は少なからずある」

勇者「敵国である奇術の国としては迷惑千万だろうね」

勇者「そこで、そのリーダーである僕を消して不干渉区を混乱させてしまえば、治安維持を名目にいくらでも外交官を派遣するなり条約を結ばせるなりして支配することができる」

勇者「資源も軍事も欲しいままということさ」

団長「うむ……じゃがそれにしてもわざわざ小細工を使って勇者を殺そうとする理由が分からんのじゃ」

団長「奇術連合は魔術連合と既に戦争中じゃ。別に直接軍を進駐させてもいい気がするのじゃが……」


499: 2014/11/18(火) 01:14:52.81 ID:IHHVKd0l0

勇者「確かにね、でもそんなことをすれば親魔族派からも幸の国からもクレームが来るかもしれない」

勇者「下手に孤立しても利益がないととらえているんだろう」

勇者「まあそれにしても奇妙な部分はあるんだけどね」

団長「ほう」

勇者「それが今回のセレモニーさ」

勇者「本当に僕を頃すだけならこのまま干渉区内に刺客を送り込めばそれで済むことだ」

勇者「それなのに、わざわざ僧侶の影響が強まった連合内におびき寄せるというのは危険が大きい」


500: 2014/11/18(火) 01:15:39.27 ID:IHHVKd0l0

勇者「僧侶陣営は親魔族に傾いているだろうし、もし派手にやってしまえば内戦にも陥りかねない」

団長「確かにな。その通りじゃ」

団長「親魔族派の連中に反抗の口実を与えることにもなりかねんわけじゃな」

勇者「そうそう。そんなもの、実質的にわざわざ僧侶に自分を倒してくださいなんて言っているようなものさ」

勇者「それに、経済的制裁をしてこないのも不自然だ」

勇者「わざわざ僕を狙い撃ちする必要性がどうしてあるのか……」

団長「そういえばそうじゃな」

勇者「更にもっと根本的な問題に行くとだね」

勇者「どうして奇術国は不干渉区に反対の姿勢を示したかということだね」

勇者「現に企業連合の支社はこの不干渉区に進出しているわけだし、ある程度貿易もしている」

勇者「あわよくばこの土地を使って魔術連合と平和条約を結ぶことだって可能だったろう」


501: 2014/11/18(火) 01:16:20.72 ID:IHHVKd0l0

勇者「逆に言えば、平和を望まない者がそれを妨げた可能性があるということさ」

勇者「もしそうだとすれば、ことは親魔族反魔族や奇術魔術の対立をも巻き込んでさらに複雑に絡み合っているだろうね」

団長「うーむ。やはり一筋縄ではいかんということか」

勇者「仕方ないことさ。それくらいは覚悟して僕もここに来ているよ」

勇者「まあ、『容疑者』の大体の見当もついているつもりだし」

団長「容疑者?」

勇者「そう。団長、このまま奇術連合と魔術連合が戦争を続けて、両者が共倒れになったとしよう」

勇者「一番得をするのは誰だと思う?」

団長「そうじゃな……戦争をしていない儂らにとっては悪い意味で安全が確保されてよいことじゃ」

勇者「まあ一理ある。でももっと得をするのはより力を持った第三勢力だろう」

団長「もっと力を……?」


502: 2014/11/18(火) 01:17:13.63 ID:IHHVKd0l0

団長「幸の国か!」

勇者「その通り。我らが母国幸の国だ」

勇者「大勢力である魔術連合と奇術連合が共倒れすれば、その後に幸の国が大陸全てを総べるのはたやすいだろう」

勇者「なんせもう敵は弱った連合諸国と条約で弱体化させた魔国ぐらいだからね」

団長「確かにのう。もともと、遠くてあまり動きのない国じゃったからな」

団長「あまり気にしたことはなかったが……」

勇者「幸の国にとっては平和を実現しようとする僕らは邪魔な存在だ」

勇者「奇術の国の利害を捻じ曲げてまでいたとすれば、今までの暗殺計画にも何らかの関わりがあるかもしれない」

勇者「ま、証拠はないけどね」

団長「そうじゃな。まだまだ憶測にはすぎんじゃろう」

団長「しかし、やはり今回のセレモニーも以前の反乱軍鎮圧と似たようなシナリオを描いておるような気がするのじゃ」

団長「儂も努力はするが、くれぐれも慎重にな」

勇者「もちろんさ。氏ぬには少し早すぎるからね」


503: 2014/11/18(火) 01:17:57.70 ID:IHHVKd0l0

勇者「せめて結婚でもしてからでないと、あの世で独り身は寂しいよ」

団長「そんな冴えない面構えでよく言うものじゃな」

勇者「まったく、冴えなくて悪かったね」

勇者「さーて、今日は寝ることにしよう」

勇者「明日も用意で忙しくなりそうじゃな。ハハハ」

団長「真似のつもりか……? 勇者は大道芸の才能も皆無と見えるのじゃ」

勇者「ちぇ。どうせ戦術以外の取り柄がない男ですよ」スタスタ

団長「この頃はそれすらも発揮できておらんようじゃな」クスクス

勇者「う。また痛いところを……」


504: 2014/11/18(火) 01:19:02.41 ID:IHHVKd0l0

団長「勇者が魔王と……か」

団長「不思議な気分じゃな」

団長「どうして儂は魔王と会うと生来から知り合っていたような気分になるのじゃろうか……」

団長「ふ、まあよい」

団長「余計なことは……平和が訪れてから考えればよいのじゃ」

団長「きっと……きっとみんなで楽しく暮らせる時が来るはずだから……」


こうして、勇者一行は出発の日を迎えた。

これがまた反乱軍の鎮圧と同じシナリオを描くことになるのか。
それともさらに悲惨な結末を招くことになるのか。それは誰にもわからなかった。


508: 2014/12/11(木) 23:48:47.12 ID:Uc161fWJ0

―――勇者出発当日 昼 奇術連合との国境付近―――

ザッザッザッ

企業連合不干渉区支社長「いやはや、奇術国の代表として、私がこれから案内をさせていただきますね」

支社長「よろしくお願いします」

勇者「ああ。よろしく」

支社長「準備はよろしいですね。それでは早速参ることにしましょう」

勇者「よし! それじゃあいってくるよ」

戦士「おう! 隊長A、隊長B、そして上級隊長。このヘボ勇者を頼んだぜ!」

隊長A「承知」

隊長B「ラジャーッ」


509: 2014/12/11(木) 23:50:14.01 ID:Uc161fWJ0

上級隊長「お任せあれでござる」

勇者「ははは。頼もしい限りだよ」

魔王「ふん!魔法使いのお陰でさらに強くなった私の力を見せてあげるわ!」

魔王「覚悟なさい!」ビリビリッ

勇者「君は誰と戦うつもりなのさ……」


ザッザッザッ


PARTY1
勇者
上級隊長
隊長A 
隊長B
魔王


PARTY2
団長
外副長


510: 2014/12/11(木) 23:51:02.29 ID:Uc161fWJ0

―――…

支社長「いやはや、これからの日程を確認させていただきますとですね」

支社長「まずは、この森を抜けたところに自動車を用意してありますから、それに乗って『ヤマダ市』を経由し、電気の国の首都へと向かいます」

支社長「そこからは鉄道で一気に奇術の国の首都まで行きますので、到着は3日もかからないでしょう」

勇者「たった3日も!? 奇術の国の交通網はそこまで発達していたのかい?」

勇者「何度か行ったことはあったはずなのに……知らなかったな」

魔王「私でさえ徒歩で勇者の城へ行くのに3週間もかかったというのに……」

勇者「それは当たり前だろ。てか君は飛べたんじゃなかったっけ?」

魔王「あっ」


511: 2014/12/11(木) 23:51:54.08 ID:Uc161fWJ0

勇者「そういや魔術国を通って北部の荒れ地まで行ったときは1カ月はかかったな」

支社長「当然です。あのような非科学的な国々と一緒にされては困りますよ」

勇者「奇術国連合の国民はそこまで魔術連合を嫌っているのかい?」

支社長「ええ、まあ。この世界には科学で証明できないことなんてありえないんです」

支社長「もしそんなことがあればエントロピーは増大し、世界は滅びてしまう」

支社長「そんなことも知らずに魔法などという非科学的な現象を扱うというのは、脅威以外の何物でもないと思いませんか」

勇者「なるほど……それも面白い見方だね」

勇者「まあ僕も魔法を使わないわけじゃないけど……そこまで考えたことは無かったなぁ」

支社長「いやはや失礼しました。勇者様やこの不干渉区の皆様は科学のことも理解していただいているようなので恨む理由もありません」


512: 2014/12/11(木) 23:52:46.34 ID:Uc161fWJ0


支社長「あまり気になさらないでください」

魔王「でも、魔法もなしに一体どうやって暮らすつもりなのよ」

支社長「そのために科学があるんですよ。既に様々な物理法則や定理が先人の手によって発見されていますから、それを使って私たちは新たな技術を生みだしているのです」

魔王「ど、どこかで聞いたことがあるようなセリフね……」

支社長「?」

支社長「まあともかく、魔術と科学の対立は今に始まったことでもありませんし、今でも魔族と人間同様深い溝が隔たっているのです」

支社長「それはなかなか消えるものでもないでしょう」

勇者「なるほどね。対立は人の常ということかな」

支社長「そういうことです」

513: 2014/12/11(木) 23:53:23.37 ID:Uc161fWJ0


―――…3時間ほど後 森を抜けた先 ロードサイド


支社長「それではどうぞお乗りください」

勇者「実際に自動車に乗るのは生まれて初めてだなぁ」

魔王「何この四角くて黒い乗り物は? 爆発したりしないでしょうね!」

支社長「ははは……」

勇者「なんつーぶっそうな」

勇者「大丈夫、これは自動車と言ってね。人を運ぶ乗り物なのさ」

魔王「ふーん。まあいいわ。じゃあさっさと乗せなさい!」グイッ

514: 2014/12/11(木) 23:54:35.05 ID:Uc161fWJ0

勇者「わっ!押し込むなって!」ゴン

バタム

勇者「頭を打ったじゃないか……イテテテ」ヒリヒリ

魔王「あら御免あそばせ」

勇者「なんだか言葉遣いが魔法使いに似てきたよな」

魔王「ま、まさか!気のせいよ!」

支社長「それでは、ここからヤマダ市は15分ほどですので」

勇者「意外と近いんだね」


515: 2014/12/11(木) 23:55:06.69 ID:Uc161fWJ0

支社長「この自動車は馬車の10倍はスピードが出ますからね」

勇者「うお……そいつは目が回りそうだ」

支社長「おい、出してくれ」

運転手「はっ」

ブロロロロ

こうして、勇者一行は無事にヤマダ市へと至るのであった。



520: 2014/12/27(土) 22:48:38.09 ID:nXFmVJta0


―――勇者出発の少し前 奇術連合上空―――


団長は勇者より先に、奇術の国の理事長に面会するため奇術の国の首都へと向かっていた。


バサッバサッ


団長「しかし、実行隊長の背中に乗って飛ぶのはずいぶん久しぶりじゃな」

団長「少しは重くなったじゃろ」

外副長「へへっ。団長はいつ乗せても同じ重さですぜ」

外副長「それは初めて団長をのせて敵の基地へ突撃した時から何も変わっていやせんよ」

団長「なんじゃ。もうちょっとお世辞くらい混ぜてはくれんのか」シュン

外副長「世の中のレディーはむしろ若いことを好むもんだって聞いていやしたがね」

団長「若いと幼いは別問題じゃろ」


521: 2014/12/27(土) 22:49:23.33 ID:nXFmVJta0


外副長「そんなん似たようなもんじゃねえですか」

団長「似ておるものか。儂だっていつかあの魔王や副団長のようなナイススタイルを手に入れてじゃな……」

外副長「あれじゃあ団長の御顔に似合いやせんぜ」

団長「そういう問題じゃないじゃろ」

外副長「それより、団長はそのババ臭い喋り方を何とかした方がいいんじゃねえですかい?」

団長「あ、今ババ臭いって言ったな? 傷つくぞ。儂かなり傷つくぞ」

外副長「そんな怒らねえでくださいよ。冗談です冗談」

団長「冗談でも言ってもいいことといけないことはあるものじゃ」

団長「全く。昔からお前もそういう所だけは変わっておらんな」

外副長「お説教はやめてくださいよ。余計にババ……若さが廃れやすぜ」

団長「ふん。もう廃れてもらって結構じゃ」

522: 2014/12/27(土) 22:50:04.27 ID:nXFmVJta0


団長「もともとこの喋り方を始めたのだって、こんな姿に少しでも威厳をもたせたかったからにすぎん」

団長「むしろその方が目的にあっているともいえる」

外副長「なあんだ。開き直っちまいましたか」

外副長「そういや確かに、あっしが団長に会った初めのころは普通の喋り方でいやしたような」

団長「うむ。そうじゃな。あの頃はまだ弱くて皆に迷惑ばかりかけておった」

団長「なんせ魔力だけが頼りじゃったからな。魔法石が切れたらただのか弱い少女じゃ」

団長「そんなものを守るために一体どれだけの半魔が犠牲になってくれたことか……」

外副長「そうですかねえ。あっしも含めて、氏にかかったり戦いに負けて逃げてきた半魔を片っ端から救ったのは団長に他なりやせんからね」

外副長「もうあっしらの命はハナっから団長の命と同じようなもんだったってー訳でありやすよ」


523: 2014/12/27(土) 22:50:47.77 ID:nXFmVJta0


団長「そうか。そう言ってくれると嬉しいな」

外副長「この実行隊長、命に代えても団長をお守りいたしやす。どうぞご安心を」

団長「な、なんじゃ、そういう時だけ格好つけおって」

団長「そんなことをしてもケーキはやらんぞ!」

外副長「あ、団長ったら照れていやすね!? いやあ可愛らしい」

団長「や、やめろ。そういうのにはあまり慣れておらんのじゃ」

外副長「団長はまだまだお子様でいやすねぇ。それじゃあ伸びるもんも伸びやせんぜ」

団長「ふん。悪かったな」

外副長「あ、いつもの団長に戻っちまいましたか。残念」

団長「何が残念じゃ」


524: 2014/12/27(土) 22:51:21.44 ID:nXFmVJta0

団長「さて、そろそろ奇術の国本国に入るころかのう」

外副長「そのようですね。目下の景色も大分変わってきやしたし」

外副長「日暮れには着きそうですぜ」

団長「うむ。奇術の国の首都か……まだ行ったことは無いな」

団長「どんな町が広がっているんじゃろうか」

外副長「そうですねぇ。商人の話だと魔術連合とは全く異次元のような世界が広がっているそうでありやすが」

外副長「にわかには信じがたい話でありやすね」

団長「まあ、百聞は一見に若かずじゃ。行けばおのずとわかることじゃろう」

団長「理事長の考えも含めてな」

外副長「理事長ですか。やっぱり何か絡んでいるんですかね」


525: 2014/12/27(土) 22:51:54.17 ID:nXFmVJta0

団長「分からんな。勇者もいくつか推測は出しておったが、まだ証拠はない」

団長「儂には戦略的な考え方の知識は備わっておらんし、どうとも言えんな」

外副長「そうでありやすか」

外副長「もし、絡んでいるんだとしたら……」

外副長「……頃しやすか?」

団長「馬鹿言え、そんなことをしたらそれこそ奴の思うつぼじゃ」

団長「あちらはあちらでリスクも負っておるわけだし、わざわざ儂らが首を突っ込むこともないじゃろう」

団長「まあ、もし暗殺計画が実在しているとしたら、急いで儂らは勇者の元へ戻らねばならん」

団長「全力で勇者を守り、帰還するのじゃ」

外副長「そうですねぇ。しかし、ここから恐らく勇者がいるあたりへ向かうにはまた4,5時間はかかりやす」

外副長「あっしが先に過労で倒れちまいますぜ」

団長「嘘つけ、実行隊の時は無休で諸侯国貴族の屋敷へ交渉しに飛び回っていたじゃろうに」

526: 2014/12/27(土) 22:52:26.49 ID:nXFmVJta0

団長「そのガラの悪い口調で貴族の親どもを震え上がらせていたと聞いたぞ」

外副長「へへへ。そんなのは嘘偽りばかりですよ。あっしはあくまで優しく小金をくすねてやっただけでありやす」

外副長「あいつらもどうせ金が有り余ってたんだから、ばちは当たりやせんぜ」

団長「そうかのう……まあ、直属三部隊の中で唯一1人として氏者を出したことがなかったのが実行隊の美点ではあるか」

外副長「まあ、とくに戦闘することもありやせんでしたからね」

外副長「他の隊からは楽なもんだってよく冷やかしを受けたもんです」

外副長「とくにあの情報隊長なんかは……おっとこれは失礼しやした」

団長「いや、いい。気にせんで欲しいのじゃ」

団長「勇者にも言われたが、情報隊長は情報隊長で正しいことをしたまでにすぎんのじゃよ」

団長「奴は儂に命の借りがあったわけでもないしな」

外副長「そうでありやすけどねぇ……」


527: 2014/12/27(土) 22:52:57.60 ID:nXFmVJta0

団長「もう終わったことじゃ。今からどうこう言おうと何も変わるものでもないのじゃ」

団長「儂らは前を見続けねばならん。こんなご時世じゃ。そうでないと時代の波にさらわれかねんぞ」

外副長「それならあっしは飛べるんで心配も無いでありやすね」

団長「逃げてどうする」

外副長「時にはヒット&アウェイというものも必要ですぜ」

団長「それはちょっと意味が違うんじゃないのか?」

外副長「細かいことは気にしないもんです」

528: 2014/12/27(土) 22:53:36.46 ID:nXFmVJta0

―――夕方 奇術国首都上空―――

奇術の国の首都は高層ビルが立ち並ぶ巨大都市であった。
そして、その中でも一際存在感を放つビルこそ、奇術国企業連合の本社である。

もとは王政であったこの国は、自然資源と流通資本の拡大による企業の台頭により政治制度を改革。
王政と民主制を半ば組み合わせたようなシステムを構築している。


バサッ


団長「うわぁーっ! これは凄いな!」

外副長「思った以上に異次元でありやしたね……」

団長「儂らが飛んでいる高さのすぐ下まで建物が届いておるぞ……いったいどんな材料が使われておるんじゃ」

外副長「副団長に見せたら失神しそうですね」

団長「うーむ。逆に目を輝かせて行政府の近くにこれくらい高い塔を建設しそうな気がするのじゃ」

外副長「ああ確かに。それも可能性がありやすねえ」


529: 2014/12/27(土) 22:54:10.75 ID:nXFmVJta0

団長「しかし、ここまで形も整って継ぎ目すら見られんとは……奇術の国の『科学』とは侮れんものじゃな」

外副長「企業連合の本社とはどれでありやしょうかねえ」

団長「多分あれじゃろう。ほら、あの1番高いやつじゃ」

外副長「お、たしかにあれっぽいでありやすね」

外副長「屋上に止まってみやすか」

団長「頼む」


530: 2014/12/27(土) 22:54:44.89 ID:nXFmVJta0

―――企業連合本社ビル 屋上―――


団長「お、誰かが待っておるぞ」

外副長「ここで間違いないようですね」


バサッ

シュタッ


外務理事「お待ちしておりました、北部不干渉区の外務代表……様?」

団長「儂が元半魔盗賊団の団長じゃ。ぼちぼち聞いておるじゃろう」

外務理事「おお。これは失礼いたしました。私は奇術の国『外務理事』を務める者です」

外務理事「理事長がお待ちです。案内しますのでどうぞ」

団長「うむ。よろしく頼むぞ」

外務理事「あ、もう一方のほうはここでお待ちください。外務代表以外の方は入れるなとの命令が出ておりますので」

外副長「なあんだ。あっしは門前払いですかい」

団長「すまんな。すぐ戻ってくるのじゃ」

外副長「分かりやした」


ガチャ


531: 2014/12/27(土) 22:55:13.97 ID:nXFmVJta0

―――本社ビル最上階 廊下―――


コツコツ
スタスタ


外務理事「しかし、まさかこんな幼い方があの不干渉区の幹部をなさっているとは」

外務理事「この世は科学では説明できない不思議なものが絶えないものです」

団長「幼いとは少し違うな。儂は成長が止まっているだけで生まれてからの月日は20余年程経っておる」

団長「まさに頭脳は大人、見た目は子供というやつじゃ」

外務理事「なるほど。これは少し誤解がありましたね」

外務理事「それでは、ここが理事長室になります」

団長「ありがとう。次はお主とは平和会議で顔を合わせたいものじゃな」

外務理事「ごもっともです」ニコッ


ガチャ


532: 2014/12/27(土) 22:55:57.21 ID:nXFmVJta0

―――理事長室―――


バタン


団長「お主が理事長か?」


そこにいたのは背もそこまで高くないやせ形の男。
スーツに身を包み、黒縁メガネを一拭きしていた。

デスクの後ろには、ガラス越しに夕焼けに包まれた大都市が寝そべっていた。


理事長「お、これはこれは」カチャ

理事長「その通りです。私が奇術の国企業連合理事会の代表『理事長』です」

理事長「どうぞよろしくお願いします」

団長「儂がここに来た理由は大体わかっておるな」

理事長「そうですね。勇者様の安全の確保と言ったところでしょうか」

理事長「先に申し上げましたように電気の国の首都には僧侶さんの配下の軍を配置しています」

理事長「そこから先は彼女らが護衛の任務に就くことになっていますから、ご安心ください」

団長「なんじゃ。それならよかったのじゃ」

団長「儂の心配は杞憂だったようじゃな」


533: 2014/12/27(土) 22:56:34.12 ID:nXFmVJta0

団長(しかしこの男……武器も取り上げなかったし、一体何を企んでいるのやらわからんな)

理事長「そうかもしれませんね」

団長「『かも』じゃと?」

理事長「ええ。何事においても不測の事態という物は起こりえるものです」

団長「な、何を……」

理事長「まあいいでしょう。もう用件は済みましたね?」

理事長「私も忙しいので、そろそろ仕事に戻らねばなりません」

団長「……まあいい。勇者の安全が確保されるならそれでいいのじゃ」

理事長「そうでしょうか。誰も勇者様の安全が確保されたとは言っていませんよ?」

団長「何?」


534: 2014/12/27(土) 22:57:09.87 ID:nXFmVJta0

理事長「確かに電気の国の首都到着以降は安全かもしれませんが、それまではどうです」

理事長「現在勇者様は国境付近のヤマダ市にて泊していらっしゃるそうですが……」

理事長「軍務理事によると、今夜その付近で大規模な軍事演習を行うということです」

理事長「どうです?タイミングが良すぎると思いませんか?」

団長「なっ!よすぎるも何も、お主が合わせたんじゃろう!」

理事長「ええ。その通りです」

理事長「勇者様には申し訳ないですが、ここで亡くなってもらわねばなりません」

理事長「全ては我が奇術連合の利益の為です」

団長「きっ貴様やはりっ!」シャキン


団長は剣を構えた。


535: 2014/12/27(土) 22:58:04.09 ID:nXFmVJta0


理事長「私を斬りますか?おすすめはできませんね」

理事長「折角ここまで平和の道を開いてきたというのに、わざわざ閉ざす必要もないでしょう」

団長「ぐっ……」

理事長「貴女ならきっと分かるはずです。これから迫る危機と、それを打開する方法が」

理事長「もしそうでないなら……私の合理主義が完全性に欠けていたというだけです」サッ


バタン
タタタッ


理事長が手を挙げると、扉から銃を持った警備兵が数人入り込み、団長を取り囲んだ


チャキッ


団長「うっ……やはり初めから待機させておったか」

理事長「父親を……」

団長「ん?なんじゃ」

理事長「元上級魔族の父親を探してみてください」

団長「儂の父親を?」

理事長「ええ。魔国におそらく資料があるでしょう。あの魔王にでも頼んでみてください」

団長「な、どうして魔王のことを……!?」

536: 2014/12/27(土) 22:58:38.37 ID:nXFmVJta0

理事長「そうすればこの危機の一部が見えてきます」

団長「な、何を言っておるのじゃ!」

理事長「……それでは、貴方には大人しくしていてもらいます」

理事長「反魔法錠をつけて拘束しておいてください」

警備兵「はっ」

団長(まずい……このまま捕まるわけにはいかん……)

団長(かといって理事長を殺せば半魔は暗殺者の汚名を着せられ今までの苦労は水の泡……)

団長(派手に暴れるわけにもいかん……)


537: 2014/12/27(土) 22:59:21.49 ID:nXFmVJta0

団長(なにかここから脱出できる方法は……)

団長(!)

団長(そうかあれがあったか!)

団長(しかし……もし失敗でもすれば即氏か)

団長(一か八かやってみるしかあるまい……)

団長(確かあの部分はこうで……あれをこうして……)

警備兵「大人しくしていろ」

団長「よし!」

警備兵「ん?」

理事長「……」

団長「転移魔法!!」

シュバッ

538: 2014/12/27(土) 22:59:59.96 ID:nXFmVJta0


―――本社ビル外 理事長室の外側―――


シュバッ


団長「はっ!? せ、成功か!!」


ヒュウウウ


団長「実行隊長!!どこじゃ!」

外副長「ここにいやすぜ」


バサッ
ドテッ


団長「いたたた……なんじゃもうちょっとソフトに受け取れんかったのか」

外副長「団長こそもうちょっとスタイリッシュな着地をしてくだせえよ」

外副長「腰を痛めちまうじゃねえですか」

外副長「それに、突然外に現れた団長に上手く反応したあっしを誉めてもらいたいものですね」


539: 2014/12/27(土) 23:00:28.75 ID:nXFmVJta0

団長「ふう……そうじゃな。ありがとう実行隊長」

外副長「しっかし、あんなとっから御退場ということは……」

団長「ああ。最悪のケースじゃ」

団長「やはり奴は暗殺を企んでおった」

団長「急げ!全速力で勇者を救いに戻るのじゃ!」

外副長「あいあいっさー!」


バササッ


540: 2014/12/27(土) 23:01:02.40 ID:nXFmVJta0


―――理事長室―――


ザワザワ……
オイッキエタゾ!?
ソトダ!ソトニデタゾ!


理事長「なるほど……あれは転移魔法というものですか」

理事長「合理的ではありませんが、非常に興味深いですね」


スタスタ


軍務理事「おやおや、どうやら取り逃がしたようですねえ」

軍務理事「追いますかい?」

理事長「結構です」

理事長「彼女は純粋に保護をしておくつもりでしたが、わざわざ捕まえてまでする必要もありません」


541: 2014/12/27(土) 23:01:37.17 ID:nXFmVJta0

軍務理事「そうですか……ところで、本当にこれでよかったんですかい?」

軍務理事「わざわざ自分を犠牲にしなくてもよかったのでは……」

理事長「それが一番合理的なのです」

理事長「私の役目はここまでで結構なのですよ」

理事長「軍務理事、あとは任せました」

理事長「これで彼らはかなり動きづらくなることでしょう」

理事長「しかし、まだ完全に危機が消え去ったわけではありません」

理事長「後のことは、僧侶様や勇者様にお任せせねばなりません」

軍務理事「さっき頃すと言っておいてちゃっかり勇者様がはいってますぜ……」

軍務理事「本当に氏んだらどうするつもりなんだか」

理事長「そうなったらそうなったでプランはありますよ」

軍務理事「無責任な……」


542: 2014/12/27(土) 23:02:13.38 ID:nXFmVJta0

軍務理事「ま、それもどうせ最も合理的なんでしょう」

理事長「その通りです」

理事長「と、言いたいところですが、最後の最後は勇気や感情、運というものに任せなければならない部分もあります」

理事長「古くから、計略に勇気が勝ることは幾度となくあったことです」

理事長「むしろ、そちらの方が強力なのかもしれません」

軍務理事「ガラに合っていませんな」ハハハ

軍務理事「最後の最後に合理主義の敗北を認めるとは」

理事長「認めたわけではありませんよ。ただ、そういう場合も少なからずあるという話をしただけです」

理事長「次は、貴方がた若者の番です」

理事長「期待していますよ」

軍務理事「ええ。お任せあれ」


550: 2015/01/31(土) 00:37:05.04 ID:O+Sx9fSI0

―――同日夜 ヤマダ市ホテル テラス―――

勇者たちは夕食の後、それぞれ自由行動をとっていた。
もちろん憲兵隊の面々は警備に向かっていた。

勇者「ふーん。するともう一週間で魔王は魔導方程式の基礎をマスターしてしまったわけだ」

魔王「ま、私にかかればあれくらい容易いものよ!」エッヘン

魔王「でも、苦手だった炎系魔法や地面系魔法まで使えるようになったのはありがたいことね」

勇者「ははは。魔王も炎と地面が苦手だったのか。僕と同じだね」

魔王「ふん!雷系魔法しか使えない勇者と同じにされたくはないわね!」

勇者「げ、なんでそれを知ってるのさ」

魔王「魔法使いが嬉しそうに教えてくれたのよ」

勇者「あいつめ……」

勇者「それはともかく、どうだいこの奇術国連合の様子は」

勇者「新しい物が多すぎて目が回るんじゃないのかい?」


551: 2015/01/31(土) 00:38:19.70 ID:O+Sx9fSI0

魔王「その通りね。もうはしゃぐ気力も失せてしまったわ」ハァ

勇者「そいつは何より」

勇者「相手と仲良くしようと思ったらまずその相手の中身を知らないといけない」

勇者「それは文化や伝統にだってあてはまる事さ」

魔王「本当に勇者の言うとおりね」

魔王「私もお父様も、何も人間のことを知らなかったからこそ敵対できたんだわ」

魔王「こんなに素晴らしい文化があるのに。こんなに美しいものであふれているのに。それに見向きもせずに滅ぼしてしまおうとしていた」

勇者「でももう魔王は僕と同じようにそれを知っているじゃないか。それもまた素晴らしいことだよ」

魔王「そうね。だったら次は人間が、私たちのことを知ってくれなければならない番ね!」

勇者「そういう面では人間は未発達な部分が多いからなあ」

勇者「でも大丈夫さ。時間をかけさえすればきっとそれは叶う。少なくとも敵対していた時よりはましだよ」

魔王「そう信じたいものね」


タッタッタッ


552: 2015/01/31(土) 00:39:01.11 ID:O+Sx9fSI0

上級隊長「勇者殿、ちょっとよろしいでござるか」

勇者「ん?どうした上級隊長」

上級隊長「何やら奇術国の警備兵たちの様子がおかしいでござる」

上級隊長「隊長Aによれば、正面玄関を塞ぐようにして集まっているということでござる」

上級隊長「嫌な予感がするでござる。ここはひとまず隊長Bが見つけた裏口から抜け出した方がよろしいかと」

勇者「なんだって……?」

魔王「なんで私がコソコソ逃げ出さないといけないのよ!」

魔王「あっちからかかってくるなら上等よ!返り討ちにしてくれるわ!」


553: 2015/01/31(土) 00:40:04.05 ID:O+Sx9fSI0

勇者「ははは。そう言ってくれると頼もしいんだけど、状況はそう単純じゃない」

勇者「ここは一般国民も多いし、派手に半魔や魔族と人間が争ったことになれば、各地で盛り上がっている親魔族思想と反魔族思想の形勢が一気に逆転することになりかねない」

勇者「彼らもそれを狙っている可能性が高いんだ」

勇者「いったん国境の森へ逃げ込む。しかしもしそこまで追ってくるようならば、多少の自己防衛はできるだろう」

勇者「その時は攻撃を許可するよ」

魔王「……ふん!仕方ないわね。そこまで言うなら従ってあげようじゃないの」

勇者「ありがとう」


ドタバタ


隊長A「大変です上級隊長!さきほど団長から伝聞魔法が届きました!」

隊長A「『今夜ヤマダ市周辺にて奇術国軍の軍事演習予定 勇者を狙う意思あり 直ちに逃れたし』だそうです!」


554: 2015/01/31(土) 00:41:19.58 ID:O+Sx9fSI0

勇者「軍事演習か。個人の暗殺に軍を仕向けるとは、どうやら本気のようだね」

上級隊長「奇術国の軍とは……恐ろしい兵力を持つと聞いていたでござるが……」

魔王「ふん!私にかかれば軍だろうが国だろうが打倒してやるわよ!」

勇者「本当にできそうだから困る」

勇者「とはいえ彼らも大規模な動きにならざるを得ないか」

勇者「森まで行ったらこちら側も派手に応戦しなくてはならなくなるかもしれないな」

魔王「腕が鳴るわね!」

勇者「できれば鳴らしてほしくないけどね」

上級隊長「とにかく、裏口はこっちでござる!急ぐでござる!」ダダッ

タッタッタッタッ

勇者(しかしどうしてここまで派手にやる必要があるんだ?)

勇者(奇術国では最早僧侶率いる親魔族派が優勢のはず。やりすぎれば窮地に陥るのは自分たちだ)

勇者(一体理事長は何を企んで……)

勇者(これは思った以上に事情は複雑かも知れないな)


555: 2015/01/31(土) 00:42:01.24 ID:O+Sx9fSI0

―――裏口―――

タタタッ

支社長「勇者様! まだここまで軍は来ておりません。急いでください!」

勇者「支社長!迎えに来てくれたのかい」

支社長「ええ、私は勇者様に恩も多くありますからね」

支社長「それより早く!行きと同じく憲兵隊の方々はもう一台の方に乗ってください!」

上級隊長「かたじけないでござる!」

バタム

ダダダッ

奇術軍兵1「おい!勇者がいるぞっ!」

奇術軍兵2「撃て撃てっ」ジャキ

運転手「軍がもうここまで来たようです!」

支社長「ええい!急いでだせっ」


ブロロロ

ドカッ


奇術軍兵1「ぐわあああっ!」


ブロロロロ……


556: 2015/01/31(土) 00:42:44.94 ID:O+Sx9fSI0

―――電気の国 北部不干渉区方面への国道 国境の森付近―――


勇者「ふう。このまま森まで戻れそうだね」

魔王「まったく、とんだ歓迎だったわね!」

魔王「もう少しぐらい丁重にもてなすべきなんじゃないの?!」

支社長「はい、どうやら軍は追ってきていないようですので……」

支社長「ん?あれは……」

支社長「空が赤い?」

魔王「まさか、夕焼けはもうとうに済んだはずよ」

勇者「あれは……森に火が!?」


557: 2015/01/31(土) 00:43:20.51 ID:O+Sx9fSI0

支社長「そのようですね。どうやら先回りをされたかもしれません」

運転手「支社長!前方に軍のバリケードが!」

支社長「やはり……」

勇者「参ったな、何とか越えないと帰還できない……」

ブロロロ

奇術軍『前方の車両に告ぐ! 停止せよ! さもなくば攻撃する!』

勇者「止まれば地獄、行くも地獄、かな」

魔王「ええい!私に任せなさいっ!」バチバチ

魔王は窓から身を乗り出した。

勇者「わっ!待つんだ!」

魔王「くらえっ! 爆破魔法!」バシュッ


558: 2015/01/31(土) 00:44:05.98 ID:O+Sx9fSI0

チュドーン

ウワアアアアアッ
ナンダナンダッ

ブロロロ

奇術国兵「まずい!避けろ!」

ドカカッ

ブワッ

魔王「よしっ!超えたわね!」

運転手「うっ!爆風で視界が!?」

支社長「持ちこたえろ! もう少しのはず……はっ!?」

勇者「危ない!!」

キキーッ

グシャアンッ

勇者の乗った車は森の木に激突した。


559: 2015/01/31(土) 00:44:41.62 ID:O+Sx9fSI0

魔王「きゃああっ!?」ドタタッ

勇者「ぐあっ!」

プシュー

勇者「いつつつ……支社長!無事か」

支社長「がはっ!」ビシャ

運転手「」ガクッ

支社長「ぐ……は、はやく……お行きください……」ダラー

勇者「大丈夫だ!今回復する!」パァー

魔王「無駄よ!傷が深すぎるわ!」

支社長「げほっ」ビシャ

勇者「くっ……駄目か……」

支社長「軍が……来ます……私のことはいいですから……」ハァハァ

勇者「すまない……」

支社長「商人様に……」

勇者「何?」

支社長「商人様に……お気をつけて……」ガクッ

勇者「支社長!!」

ダダダッ


560: 2015/01/31(土) 00:45:19.29 ID:O+Sx9fSI0

上級隊長「勇者殿!無事でござったか!」

勇者「上級隊長! そっちは大丈夫だったかい?」

上級隊長「もちろんでござる! しかし軍が真後ろにせまっているでござる!」

上級隊長「急ぐでござる!」

奇術国兵「いたぞ!!殺せ殺せっ!」ダダダダッ

魔王「勇者、急ぐわよ!」

勇者「ああ!」

ダダダッ


561: 2015/01/31(土) 00:45:51.46 ID:O+Sx9fSI0

―――少し前 北部不干渉区電気国との国境付近の町 酒場―――

カラン

戦士「あーあ、一人の酒ってのはどーも寂しいもんだな」

戦士「せめてあの猫女でもいれば手合せでもできるんだが……」

副団長「お呼びかな?」ニュッ

戦士「うわぁっ!」ガタッ

戦士「どっから湧いてきやがった!」

副団長「いやあ、ボクもさっきようやくこの町に着いたんでね」

副団長「キミがいそうな場所に寄ってみただけさ」

副団長「そしたら案の定だったよ」


562: 2015/01/31(土) 00:46:20.37 ID:O+Sx9fSI0

戦士「なんだ、いつの間に絶望の淵から蘇ってやがったんだ?」

副団長「ニュフフフ。団長の危機と聞いたらボクだっていつまでも落ち込んではいられないよ」

副団長「団長はこのボクがどんな敵からも守り抜いてみせるのさ!」

戦士「とか言って出遅れてるじゃねえか寝ぼすけめ」

副団長「なっ!ボクは寝坊したわけじゃないぞ!」

戦士「そういう意味じゃねえよ」

戦士「ははは。しかしこのノリも久しぶりだな」

副団長「な、何がおかしいのさ!」

戦士「いや、すまない。ついな」

戦士「一週間も会っていないとまた少し新鮮に感じるもんだよ」

副団長「ニャるほど……さてはこのボクが恋しかったんだね?」

戦士「なんでそうなる」

戦士「……とは言ったものの、全否定はできんな」

副団長「ほらみたことか」

戦士「お前がいないと毎晩手合せができる奴がいないからな。剣の腕が鈍ってしょうがない」

副団長「剣の手合せなら上級隊長がいるんじゃないのかい?」

563: 2015/01/31(土) 00:47:05.51 ID:O+Sx9fSI0

戦士「あいつはクソがつく真面目でな。夕飯から2時間で必ず寝床に入っちまうからお前みたいに夜通しで付き合ってはくれんのだ」

副団長「ああ。そういえばそうだった」

副団長「上級隊長の生活リズムは多分5年くらいは全く変わっていないね」

戦士「よくぞまああそこまで合わせられるもんなんだか……」

副団長「キミもよく出仕に遅れて上級隊長に怒られるそうじゃないか」

副団長「部門長たるものが情けない」

戦士「う、それはお前と毎晩毎晩決闘しているからだろ」

戦士「お前だってよく遅刻するんじゃないのか?」

副団長「まさか。ボクがそんなくだらない失敗を犯すはずがないじゃないか」

戦士「何!?じゃあいつ寝てやがるんだ?」

副団長「さあね。他のみんなが疲れて居眠りをしている時かな」

戦士「な、それでよくもつな……」

副団長「半魔なんで」

戦士「それで片づけるなよ。じゃあもし寝ていやがったらそのうっとうしい尻尾を切り取ってやるからな」

副団長「ギニャッ!?な、なんてことを!」バッ


564: 2015/01/31(土) 00:47:37.71 ID:O+Sx9fSI0

戦士「ははは。冗談に決まってるだろ。いちいち本気にするとは心底までピュアな奴だな」ケラケラ

副団長「な、ピュアじゃないし!半魔だし!」

戦士「ピュアをなんだと思ってやがるんだ」

副団長「そうだ、前の暗殺未遂事件の調査は進んだのかい?」

戦士「ん?それがさっぱりでな……」

戦士「いくら商人や入国者をチェックしても怪しい奴の1人もでてきやしない」

戦士「本当に転移魔法でも使ったんじゃないのか?」

副団長「うーん。もしそうなら調査のしようもないね」

副団長「魔術連合との国境の方もチェックしているのかな?」

戦士「何言ってんだ。どうやったら奇術国連合の刺客が敵国である魔術国連合に入り込めるんだよ」

副団長「ニャハハ。それもそうだね」

戦士「まさか戦争中の国境を越えてくるわけでもあるまいし……」

戦士「ん?まてよ?」


565: 2015/01/31(土) 00:48:11.67 ID:O+Sx9fSI0

戦士「いや、ある! 奇術国連合から魔術国連合へと容易に入れる方法があるじゃねえか!」

副団長「ニャにっ!?一体どうやって?」

戦士「あの国だよ。俺達の故郷『幸の国』を通ればいい」

戦士「確かにあの国は検閲も厳しいが、もし内部に協力者がいるとすれば別だ」

副団長「ニャるほど……」

戦士「まずいことになったな……奇術国連合側の検問を厳しくした分、魔術国連合方面の検問はかなり甘めだったんだ」

戦士「もし刺客が幸の国を通って魔術国連合からここへ侵入しているとしたら、行政区にまで潜伏しているかもしれん……」

副団長「な、それはかなり危険なんじゃないのか!?」

戦士「ああ。その通りだ。今すぐにでも魔術国連合方面の検問を強化してみることにしよう」

戦士「このことはあまり広めるなよ。内通者に知られるかも知れんからな」


566: 2015/01/31(土) 00:49:20.54 ID:O+Sx9fSI0

副団長「なんだ、やっぱりキミは内通者じゃなかったんだね」

戦士「馬鹿言え」

戦士「さて、久しぶりに手合せ願うことにしようか。体は鈍っちゃいねえだろうな」

副団長「もちろん。久しぶりに爆裂パンチをお見舞いしてあげるよ」

戦士「ああ、あの猫パンチか。それもちと久しぶりだな」

副団長「なっ!だから猫じゃない!」

戦士「ははは。一週間経ってもやっぱりお前はお前だな。安心したよ」

戦士「はぁ……俺としたことがどうしたんだろうな」

戦士「どうも俺にはどうしてもお前が必要らしい」

戦士「平和な時代が来るまで……いや、その後も、ずっとそのままで俺の側にいてくれよな」

テクテク

副団長「……!」

戦士(……強い者はまた強い者に惹かれる……なんてな)

副団長(……強い者はまた強い者に惹かれる……なんてね)

戦士「おい、いつまで座ってやがんだ。もう足腰が弱っちまったのか?」ハハハ

副団長「なっ!言ったな!?」

ダダッ

副団長(いつもいつも求めてばかりいたボクが求められることがあるなんて……)

副団長(不思議な気分だなあ)


567: 2015/01/31(土) 00:49:47.03 ID:O+Sx9fSI0

―――外―――

ダダッ

隊長C「あっ、部門長!副団長!ちょうどよかった」

戦士「お、どうしたんだ隊長C?」

隊長C「それが、この国境の森に火が放たれたようなのです!」

隊長C「現在電気の国方面を中心に火の手は拡大していっています」

隊長C「これは出動すべきなのでは……」

副団長「な、なんだって!? 団長が危ない!」

戦士「どうやら手合せをしている場合じゃなさそうだな」

戦士「ぶっつけで悪いが実戦になりそうだ」

戦士「隊長C、憲兵隊を招集しろ」

戦士「準備ができ次第森を進むぞ!」

隊長C「はっ!」


568: 2015/01/31(土) 00:50:48.47 ID:O+Sx9fSI0

―――国境付近の森―――

ガサッガサッ

勇者「ふう。まだ追ってはこないようだね」

上級隊長「しかし火の手が迫っているでござる!」

魔王「……」

勇者「どうした魔王? 顔色が悪いよ」

魔王「さっきは悪かったわね……私が先走ったせいで彼らを氏なせてしまって」

魔王「爆破魔法に腐食魔法を混ぜたのが失敗だったわ……予想以上に粉じんが舞って視界を阻んでしまった……」

勇者「君は魔王の癖に優しい心を持っているようだね」

魔王「そうなのかしらね……でも、その『優しい心』とやらのせいで私はあの戦争でも多くの犠牲を出してしまったのよ」

魔王「優しい魔王っていうのも考えものね」ハァ

勇者「ははは。君はもう少し平和な時代に生まれるべきだったのかもしれないな」

勇者「まあ、過ぎたことはもうどうしようもないんだ。今は前を見続けるしかないのさ」

タッタッタッタ……

569: 2015/01/31(土) 00:51:25.12 ID:O+Sx9fSI0

上級隊長「ん……後ろから足音が!?」

奇術国兵A「いたぞ!追えーっ!」

奇術国兵B「逃がすなっ」

パンパンパン
ダダダダダ

勇者「しまった!追いつかれたか」

魔王「ええい!浮遊魔法!」ボコッ

魔王は近くの岩を持ち上げ、盾にした。

ダダダダダ
ビシッビシビシビシッ

奇術国兵A「な、なんだあいつは!?」

奇術国兵B「岩が浮いてるぞ! これでは反魔法弾が弾かれて……!」

勇者「雷魔法(中)!」ズバババッ

奇術国兵A「ぐわああああっ!」

奇術国兵B「ぎゃあああっ」

ドサドサッ

上級隊長「さあ、また追っ手が来る前に急ぐでござる!」

勇者「ああ!」

ダダッ


570: 2015/01/31(土) 00:51:55.68 ID:O+Sx9fSI0

―――…

ダダッ

奇術国兵C「……」ジャキ

上級隊長「そこかっ!?」ダッ

ズバッ

奇術国兵C「ぎゃあああっ」ドサッ

勇者「上級隊長!助かったよ」

上級隊長「このままではまずいでござるな……」

上級隊長「勇者殿、某はここに残り奇術国軍を足止めするでござる」

上級隊長「どうか先に不干渉区へ参られよ!」

勇者「なっ、それじゃあ上級隊長はどうするんだ!?」

魔王「まさか、氏ぬつもりじゃないでしょうね」

上級隊長「安心されよ。必ず後から追いつくでござる」

上級隊長「隊長B、隊長A!あとの護衛は任せたでござる」

571: 2015/01/31(土) 00:52:24.54 ID:O+Sx9fSI0

隊長A「いえ、私は最後まで上級隊長に仕えさせていただきます!!」

隊長B「私も同様です!」

上級隊長「な、何を……」

勇者「こっちは魔王もいるし、あまり心配はいらないよ」

魔王「こんな冴えない人間一人守れない魔王なんて魔王失格よ!」

魔王「勇者の安全は私が保証するわ!」

上級隊長「分かったでござる」

上級隊長「無事に帰られよ勇者殿」

勇者「ああ、君たちもだ上級隊長」

ガシッ

勇者「それじゃあ必ずまた後で会おう!」

上級隊長「もちろんでござる!」

タッタッタッタ……

上級隊長(勇者殿……団長を頼んだでござる……)


572: 2015/01/31(土) 00:52:51.40 ID:O+Sx9fSI0

―――…

タッタッタッタ……

勇者「この辺りまでくればさすがに大丈夫かな」ハァハァ

魔王「大分火の手も収まってきたわね」

魔王「でもまだ不干渉区まであと半分はあるわよ」

勇者「まだそんなにあるのか……ふぅ」

勇者は木陰に座り込んだ。

勇者「まったく。こういう肝心な時にいつも僕の身体は言うことをきかなくなるんだ」

魔王「勇者の癖に情けないわね! 休む暇なんてない……」

勇者「! 静かに!」


573: 2015/01/31(土) 00:53:23.86 ID:O+Sx9fSI0

シュバババババ

飛行兵1「その辺はどうだ!」

飛行兵2「いねーよ!ったくあのクソ中将め!」

飛行兵1「やめとけやめとけ、聞かれたら強制労働行きだぞ!」ハハハ

シュバババババ……

勇者「ふう。危ない危ない」

魔王「あれのお陰でろくに飛べもしないじゃない!」

勇者「まったくだね。『中将』っていうのは相当念入りに準備を固めていたようだ」

勇者「まあ、僕も休むのは少しだけにするさ。体力を回復できる魔法があったならどれだけ楽なことかといつも思うよ」ハハハ

魔王「傷を回復する魔法ならいくらでもあるのに、どうしてなのかしらね」

魔王「帰ったら魔法使いに聞いてみるわ」

勇者「お、どうだい?魔法使いとは上手くやってるかい?」


574: 2015/01/31(土) 00:53:52.53 ID:O+Sx9fSI0

魔王「そうね、まあまあってところかしら」

魔王「『大賢者の定理』もほとんど理解したし、お陰で魔力の節約が本当に捗っているわよ」

勇者「あの複雑な定理ももうマスターしたのか!?さ、さすが化け物」

魔王「あら、褒めたって何も出ないわよ」

勇者「はは。まーたそういうところまで魔法使いに似てくる」

勇者「もともと口調も似てるからどっちが喋っているのかわからなくなるじゃないか」

魔王「別にそういうのじゃないって言ってるでしょ!」

魔王「あの変な助手とかいう女にも同じことをよく言われたわ!なんて生意気な小娘なのかしら!」

勇者「まあまあそう怒らずに……」

勇者「さて、疲れも癒えたしそろそろ行くことにしようか」ガサッ

魔王「おかげでまた火の手が追ってきたじゃない。このままじゃ自慢の服がすすで台無しよ!」

勇者「はは、それも自慢の魔法で綺麗にすればいいじゃないか」

ヒュルルルル ドカーン
ボガァァァン ドガァァン


575: 2015/01/31(土) 00:54:32.63 ID:O+Sx9fSI0

魔王「何の音かしら?」

勇者「これは……奇術国軍が砲撃を始めたんだ!」

勇者「敵も味方も見境なしか……」

魔王「な、味方をなんだと思っているの!?」

魔王「どうしてそんなに平気で犠牲にできるのよ!」

勇者「はは、これじゃあ君の方が正義の味方に向いているみたいだよ」

勇者「人間はそういう面に関しては魔族より未熟なところがあるのさ」

勇者「つまり自分以外の視点に立つっていうことが少し苦手ってことだね」

魔王「……お父様が人間を滅ぼそうとしたのもこれが原因なのかもしれないわね」

魔王「人間がこんなことばかりしているから、皆と協力しようとしないから」

魔王「お父様は侵攻を『救済』と呼んだのよ……」

勇者「なるほどね。救済か。いい迷惑ではあるけど、もしかしたらあながち間違ってはいないのかもね」

勇者「まあ、僕達のやり方はそれとは違う訳だ。もちろん苦労こそ多いが、その分得る物は多いはず……」


576: 2015/01/31(土) 00:55:23.57 ID:O+Sx9fSI0

ヒュルルルル

勇者「ん?まさか……」

魔王「直撃よ!! 防御ま……」

魔王(間に合わない!)

勇者「危ない!」ドンッ

魔王「きゃあっ!?」

ドガアアアアアアアアン

勇者「ぐわああああっ!」

ドカッ
ガ゙サッ

勇者「ぐ……まお……う……」

ガクッ

――――――
――――
――


581: 2015/02/05(木) 15:54:42.79 ID:hqXmfp7s0

パラパラパラ

ゴオオオ


勇者「ぐ……はっ!」ズキッ


勇者は済んでのところで砲撃の直撃を免れていた。
とはいえ、爆風で近くの木に衝突し、しばらく気を失っていた。


勇者(さっきよりも火が迫っている……どれくらい経ったんだろうか……)

勇者(魔王は……自力で帰ったかな)

勇者(頭が……割れそうだ……骨も何本かやられているな……)

勇者(なんとか不干渉区に戻らなくては……)


ズルズル


582: 2015/02/05(木) 15:55:12.92 ID:hqXmfp7s0

勇者(ははは……歴代の勇者でも、ここまで無様な勇者は他に例がないだろうね……)

勇者(魔族以外に勇者が殺されるとなれば……やはり最も恐ろしい生き物は人間なのかもしれないな)

勇者(皮肉な話だよ……)

勇者(戦士たちはもうこっちに向かっているんだろうか……)

勇者(う、さっきので魔法石まで落としたかな……これでは回復ができない……)

勇者(つくづく自分の身体能力と運のなさに呆れるね……)

勇者(もう……限界かな……)

勇者は倒れこむように近くの木の根元に座り込んだ。

勇者(参ったな……勇者として十数年、どんな先代魔王の卑劣な策略にも屈しなかった僕が……こんなところでとんだ計算違いでも犯したかな……)

勇者(せめて、陰謀の全てを明らかにしてから……団長ともう一度冗談をかわしてから……この世を離れたかった)

勇者(残念だな……)

ガサッ

勇者「!」


583: 2015/02/05(木) 15:55:57.77 ID:hqXmfp7s0

奇術国兵「お、お前は……!?」ガクガク

奇術国兵「ゆ、勇者か!?」

勇者「いかにも……僕が勇者さ……」

勇者「こんな姿からは想像がつかないかもしれないけどね……」

奇術国兵「ひぃっ!!」ビクッ

奇術国兵「ごめんなさいごめんなさい!!僕はただここを通りかかっただけで……」

勇者「はは……そこまで怖がる必要もないよ」

勇者「僕は見た目通り、氏にかけた人間さ」

奇術国兵「へ……?」

奇術国兵「さっきの化け物とは違うのか……?」

勇者(化け物……上級隊長のことかな……)

勇者「化け物?」


584: 2015/02/05(木) 15:56:42.33 ID:hqXmfp7s0

奇術国兵「ああそうさ……僕は怖くて逃げてきたんだ……仲間が何人も目の前でアイツに切られていったよ……」

奇術国兵「撃っても撃っても氏なないなんて……!」

奇術国兵「僕は仲間を見捨てたんだ! うわあああああっ!」

奇術国兵「帰ったらきっと中将閣下に殺されるんだ!」ガクガク

勇者「そうか……」

奇術国兵「いや、まてよ……!」

奇術国兵「目の前にいるのは氏にかけた勇者じゃないか!」

奇術国兵「ここで頃して帰れば賞金も地位も欲しいまま!?」

奇術国兵「やった!やったぞ!! これで味方の仇が討てる!」

勇者(完全に混乱しているな……)

勇者(しかし上級隊長もおそらく……)

勇者「僕を頃すつもりかい?」

奇術国兵「ああそうさ!お前には1億の賞金と准将への昇格がかかっているんだ!」

勇者「そうか……なら頃すがいいとも」

奇術国兵「何? 抵抗しないのか!」


585: 2015/02/05(木) 15:57:23.43 ID:hqXmfp7s0

勇者「はは。見ての通り、僕は重傷だ。もはや歩くこともできない」

勇者「それに、勇者とは元来人々に幸をもたらす存在としてあり続けてきたんだ」

勇者「僕もまたそんな存在の一つとして消えていくだけさ」

勇者「君にも家族がいるんだろう?」

勇者「僕は生まれたときから両親もいない、兄弟もいない……孤児だった」

勇者「氏んで悲しむ者もない」

勇者「僕が築いた平和の礎は必ず芽を出すはずさ」

勇者「もう十分役割は終えたとも」

奇術国兵「くくくくく……やったぞ!ははははははっ!!」ジャキ

勇者(次はまたあの世で先代魔王と知恵比べかな……)





パァン






586: 2015/02/05(木) 15:58:32.73 ID:hqXmfp7s0




ドシュッ




奇術国兵「がはっ!?」


ドサッ


勇者「!」

勇者「誰だ?」

?「氏んで悲しむ者なら……少なくとも1人は知ってますよ」

勇者「奇術国兵?」

大佐「ええ、私は奇術国軍で、かの僧侶さんの副官を務めている『大佐』といいます」

大佐「この度は僧侶さんの密命で勇者様を保護しに来ました」

大佐「どうぞご安心を」

勇者「僧侶が? そうか……」

勇者「間一髪で命拾いをしたようだね」

大佐「申し訳ありません、敵の数が予想以上に多く、ここまで来るのに時間がかかってしまいました」

大佐「それじゃあ肩を……」

勇者「ありがとう」


ズルズル……


587: 2015/02/05(木) 15:59:22.85 ID:hqXmfp7s0


―――国境の森手前 上空―――


バサッバサッ


団長「ようやくここまで来たのはいいが、森がすごいことになっておるな……」

外副長「ええ、火が広がって空が真っ赤ですぜ団長」

団長「急ぐのじゃ、手遅れになってからではいかん」

外副長「へへ、言われなくても!」


バサッ


588: 2015/02/05(木) 16:00:04.93 ID:hqXmfp7s0

―――森付近 上空―――


外副長「森の手前にあんなに奇術国兵が待機していやすぜ……」

団長「ああ、奴らめ本気で勇者を狙ってきたとはな」

団長「もうすぐ森の上空じゃ、煙を避けて人影を探しながら行くぞ」

外副長「あいよ」


ナンダアレハ!
エエイウチオトセッ!


外副長「下もあっしたちに気付いたようでありやすな」

団長「大丈夫じゃ、あそこからでは攻撃は届かん」

団長「とにかく今は前へ進むのじゃ!」

団長(勇者……氏んではならんぞ!)



589: 2015/02/05(木) 16:00:41.47 ID:hqXmfp7s0

―――森上空―――


外副長「ようやく火の手が収まってきやしたね」

団長「ああ、恐らくこの辺にいるはずじゃ、何とかして探し出すぞ!」


ズダダダ
パンパンッパン


団長「なんじゃ、まだ儂らを狙っておるのか」

外副長「やつらの通信技術は伝聞魔法なんかよりずっと発達していやすからね」

外副長「これではあまり高度を下げられやせんぜ」

団長「くっ……」

団長「じゃが、当たることも無かろう」

団長「なんとか地上兵がいないところを狙えば……ん?」

外副長「木の陰に何か……!?」


590: 2015/02/05(木) 16:01:32.31 ID:hqXmfp7s0


ガサッ

シュバババババ


飛行兵1「来たぞ!」

飛行兵2「へへ、中将の言うとおりだ!」

飛行兵2「撃ち落とせっ」ズダダダダダ

団長「な、なんじゃと!?」

外副長「団長、あぶねぇっ」ガバッ


ビシッビシビシッ


外副長「がはっ!」

団長「外副長!!」

飛行兵1「よしっ当たったぜ……なっ!?」

団長「火球魔法(中)!」ボッボッ

飛行兵1、2「ぐわああああっ!」ボカ‐ン

団長「おい、大丈夫か!」

外副長「へへっ……なんの」ダラダラ


591: 2015/02/05(木) 16:02:42.18 ID:hqXmfp7s0

外副長「団長が無事なら問題ないですぜ」

団長「今回復する!回復魔法(上)」


パァァァ


団長「な、効果がないじゃと……!?」

外副長「反魔法弾……ってやつですかい」

団長「くそっ馬鹿な、そんなはずは!」

外副長「いいんですよ団長、あっしはここでお別れってやつのようです」

外副長「団長は勇者たちと合流して下せえ」

団長「う……すまない……」

団長「儂が魔法しか能がないばかりに……」

外副長「そんなことはありやせんぜ団長」

外副長「団長は荒れきっていた荒れ地を統一して『国』を作り上げたではありやせんか」

外副長「きっと団長ならこのまま勇者と新しい平和な世界を作っていけやすよ」

外副長「あっしは信じていやす……がはっ」ハァハァ

団長「外副長!」

592: 2015/02/05(木) 16:04:20.03 ID:hqXmfp7s0

外副長「さあ、この辺りは敵がいないようですぜ」

外副長「今のうちに飛び降りて下せえ」

団長「飛び降りる……?お前はどうするのじゃ外副長!?」

外副長「へへ、あっしにはもう一つだけ仕事がありやすので、ここで失礼しやすぜ」

外副長「そろそろ理性ってやつが飛びそうなんで、一緒に行っても足手まといにしかなりやせん」

外副長「後は頼みやす団長!半魔の夢を叶えて下せえ!」

団長「……わかった、必ず、必ずやってみせるよ、外副長」

団長「いままでありがとう」ニコッ

外副長「こちらこそ」


バッ


外副長(へへへ……最期に『あの娘』の笑顔をまた見られてよかったぜ……)

外副長(もう二度とみられないもんだと思っていたが……)

外副長(へへ、やっぱりあれに勝る笑顔はそうそうねぇなぁ……)

外副長(そういや、あの笑顔に惚れてあっしも団長の下についたんだっけか)

外副長(随分懐かしいこった……これも……さいごの……あがきって……やつ……か……)


間もなく、外副長の身体は魔族の部分に完全に支配された。


593: 2015/02/05(木) 16:05:09.61 ID:hqXmfp7s0

―――森の中―――


ヒュウウウ ガサッ ドテッ


団長「いてててて……やはりあの高さでは重力軽減魔法もあまり役に立たんか……」

団長「しかし、今はとにかく勇者を……?」


ガサッ


団長「む、敵か!?」ジャキ

魔王「あーもう!勇者は一体どこへ行ったのかしら」

団長「あ」

魔王「あら?あなたは勇者の娘の……」

団長「娘ではない」

魔王「あらそうだったかしら……まあいいわ、勇者を知らないかしら」

団長「儂も今探しておるところじゃ。お主こそ勇者と一緒だったのではないのか?」

魔王「それが、さっきの砲撃ではぐれちゃってね」

魔王「勇者が私を突き飛ばしてくれたからなんとか直撃は免れたけど、勇者は……」


594: 2015/02/05(木) 16:05:54.37 ID:hqXmfp7s0

団長「なんじゃと……!」

団長「なんということじゃ……手遅れだったか」

魔王「でも、まだ氏んだと決まったわけじゃないわよ」

団長「どういうことじゃ」

魔王「あの後敵に見つかってしまってね、そいつらを倒してから何とかもとのはぐれた場所に戻ったんだけど、勇者の姿が見当たらなかったのよ」

魔王「血痕を見つけたからその後を追っていったんだけど、それも途中で途絶えていたわ」

団長「と、いうことは……」

魔王「ええ、勇者は誰か味方に遭遇したようね」

団長「よかった……」

魔王「でも、まだ安心するのは早いわよ。急いで勇者を見つけないと……」


ガサリ


595: 2015/02/05(木) 16:06:42.48 ID:hqXmfp7s0

団長「今度は何じゃ!」ジャキ

奇術国兵「……」ニュッ

魔王「奇術国兵!……と」

勇者「おーい、無事だったかー」

団長「勇者!?」


596: 2015/02/05(木) 16:07:22.78 ID:hqXmfp7s0


―――……


勇者「……と、いう訳なんだ」

大佐「驚かせてしまって申し訳ありません」

団長「いや、我らが勇者を救ってくれたのならこれ以上のことはないのじゃ」

魔王「なによ、てっきり氏体ごと敵に運ばれてるのかと思ったじゃない」

勇者「ははは、まあほとんど氏にかけだったけどね」

大佐「それでは、そろそろ私は僧侶さんのところへ戻りますね」

大佐「勇者さん生存の一報を彼女にお伝えせねば」

勇者「あ、大佐、僧侶の様子はどうだい?」

勇者「元気にしているかな」

大佐「ええ、この上なく。しかし明日は忙しくなりそうです」

勇者「明日?」

大佐「ええ、まあそのうち知らせが届くでしょう。詳細はそれにて」

勇者「分かった。じゃあまた」

勇者「僧侶によろしく伝えておいてくれ」


597: 2015/02/05(木) 16:08:00.00 ID:hqXmfp7s0

大佐「はっ。ではこれにて失礼いたします」タタタッ

魔王「さて、私たちも帰路につきましょう」

団長「そうじゃ、戦士や副団長が待ちに待っておるじゃろうからな」

勇者「……!」

勇者「待ってもいられなかったみたいだね」

団長「?」


ドドドドドド


戦士「勇者ぁー!どこにいる!?」

戦士「まさかもうのたれ氏んでるんじゃないだろうな!」

副団長「団長―!今すぐお迎えに上がりますよ!!」

勇者「ね」

魔王「何が『ね』、よ!」

団長「まあまあ、まさかもうこんなところまで来るとはな」

団長「さて、これで無事に帰れそうじゃ」

団長(外副長……)


こうして、勇者一行は無事に帰路に着いた。


598: 2015/02/05(木) 16:08:37.97 ID:hqXmfp7s0

――― 一方、森付近 奇術国軍本陣―――


中将「ええい!何をしておる!もっと火をつけて奴らを焼き殺さんか!」

中将「空中兵隊はまだ奴らを見つけられんのか!」

奇術国兵「報告!空中兵隊が先ほど上空を飛行していた半魔と接触、相討ちに終わったそうです!」

中将「そうか……よし」

中将「勇者はまだ氏んでおらんのか!?」

奇術国兵「はっ、まだ報告はありません!」

中将「何が何でもここで撃ち頃すのだ!」

中将「そうすればワシの大将昇格も目の前じゃな……ハハハ」


バサッバサッ

ザワザワ
ナンダアレハッ


中将「ん?騒がしいな、どうした?」

奇術国兵「は、何やら上空に不審な飛行物体が……」

奇術国兵「あ、あれは!」


599: 2015/02/05(木) 16:09:29.66 ID:hqXmfp7s0

外副長「キシャァァァァァァッ!!」バサッ

奇術国兵「先ほどの半魔です!」

中将「何?ノコノコ戻ってきおったか」

中将「さっさと撃ち落とせ」

外副長「キシャァァァァァァッ!!」カッ


ドガァァァァァッ


奇術国兵「駄目です!一瞬にして第七、第八小隊が全滅しました!!」

中将「な、なんだと!?そんな馬鹿な!」

中将「ええい!集中砲火だ!戦車でも大砲でも何でもいい、とにかく撃ち落とすのだ!!」


ズダダダダダ
ズドォォォン


600: 2015/02/05(木) 16:10:11.87 ID:hqXmfp7s0

外副長「ガガッキシャァァァァァァッ!!」ボタボタ

中将「いいぞっ、着実にダメージを受けている!」

中将「このまま押し切れい!」


ズドドドドドド


奇術国兵「第七、第八小隊に続き、第四、五、六小隊も壊滅!」

奇術国兵「閣下、危険です!ここは退却を!」

中将「くっ、バケモノめ……」

中将「急げ、距離をとりつつ迎撃を……!」

外副長「キシャァァァァァァッ!!」ズアッ

奇術国兵「閣下!!危ない!」

中将「な……」


ドガァァァァァァ……


突然の半魔の奇襲により軍事演習本隊は壊滅。
なんとか半魔は撃破したものの、中将をはじめ多くの隊長が氏亡した。

連合はこれを演習中の事故と発表。半魔の仕業であることは完全に隠ぺいされた。



601: 2015/02/05(木) 16:10:52.50 ID:hqXmfp7s0

―――数日後 帰還路中―――


魔王「それじゃあ勇者、私はこの辺りでお別れにするわね」

勇者「えっ、じゃあ何人か護衛をつけておくよ」

団長「そうじゃ。流石に一国の当主を丸投げで返すのはまずいのじゃ」

魔王「いや、必要ないわ」

魔王「これはあくまでお忍びよ。護衛なんかつけて帰ったら私の面目にも傷がついてしまうわ」

魔王「でもありがとう勇者。勇者のお陰で本当にたくさんの新しいことを学ぶことができたわ!」

勇者「かの魔王が勇者に感謝なんてね」ハハハ

団長「奇妙なもんじゃな」

魔王「たまにはいいじゃない」

魔王「魔法学も奇術国も人間族の文化も素晴らしいものばかりだったわ」

魔王「魔国に帰ってもきっと忘れない。そして、これから人間族と協調できる魔国を作り上げてみせるわ」

勇者「そう言ってくれると嬉しいね」


602: 2015/02/05(木) 16:11:34.72 ID:hqXmfp7s0

団長「そうじゃな、復興省なんかには負けてはならんぞ」

魔王「もちろんよ」

魔王「勇者に教えてもらった戦略さえあればあんな奴ら一捻りにしてやれるわ!」

勇者「まあ、くれぐれも悪用はしないようにね」

魔王「分かってるわよ!」

魔王「それじゃあまた会いましょう」

勇者「ああ。次は平和会議か独立宣言式でね」

魔王「そうね」

団長「あっ! 最後にちょっとだけお願いが……いいかのう?」

魔王「何かしら勇者娘?」

団長「まだその認識は変わらんのか……まあいい」

団長「耳を貸してほしいのじゃ」

魔王「ん、いいわよ」

団長「……ゴニョゴニョゴニョノゴニョナノジャ」

魔王「ふーん……分かったわ」


603: 2015/02/05(木) 16:12:00.73 ID:hqXmfp7s0

魔王「任せなさい」

団長「わぁっ!ありがとうなのじゃ!」

魔王「あれ?でもあなたの父親は勇者じゃ……」

勇者「え、僕?」

団長「わーっ! なるべく秘密にしてほしいのじゃ」

団長「個人的なことじゃからな。プライバシーというやつじゃ」

魔王「ふーん。じゃあそういうことにしておいてあげるわね!」

魔王「それじゃあ今度こそ」

勇者「ああ、また」

団長「よろしくなのじゃ!」


604: 2015/02/05(木) 16:12:26.80 ID:hqXmfp7s0

奇術国編はこれにて

605: 2015/02/05(木) 18:30:29.68 ID:cL3SFBE40
乙!さぁ、次の展開がたのしみだ!

606: 2015/02/06(金) 00:35:30.37 ID:0XJvs7ZDO

引用: 勇者「停戦協定?」