1: 2013/10/13(日) 20:57:04 ID:RK79sPpQ
これは『戦極姫3』の村上家をモチーフにしたものです。
プロローグ部分としてお楽しみください。

2: 2013/10/13(日) 20:57:29 ID:RK79sPpQ
ここは北信濃国・葛尾城────
そこに一人の女性がいた。
彼女の名前は村上義清。
村上流槍術の使い手だ。
またこの城の主でもある。



3: 2013/10/13(日) 20:58:34 ID:RK79sPpQ
村上義清「んん………、どうしたものじゃ……。」

小笠原長時「義清様、また武田のことでお悩みでございますか?」

村上義清「そうなのじゃ。とうとう武田が北信まで手を伸ばしてきたのじゃ。」

義清の傍にいる武将は元信濃守護の小笠原長時という。
長時の父・長棟は小笠原家の隆盛を極めた名将である。

4: 2013/10/13(日) 21:00:21 ID:RK79sPpQ
小笠原長時「されど南信では木曽殿も抵抗しております。なんとかなりましょう。」

村上義清「木曽殿が撃破されればどうにもならないのじゃ………。」

小笠原長時「ふむ……、それは困りましたな。」

村上義清「そうなのじゃ。」

小笠原長時「されば関東管領の上杉憲政様は?」

村上義清「関東管領様は北条に倒されてしまう……。」

小笠原長時「かの関管様がいとも簡単に崩されますまい。」

村上義清「長時も知っておるはず。河越城の戦いを覚えておるじゃろう。」

小笠原長時「それは覚えております。北条氏康殿がわずか八千の兵で八万の兵を破ったという。」

村上義清「そうじゃ。」

5: 2013/10/13(日) 21:01:38 ID:RK79sPpQ
小笠原長時「しかし、関管様には長野業正殿に上泉信綱殿もおられる。」

村上義清「されど扇谷家も滅び、古河公方様も没落の一途じゃ。」

村上義清「今北条、武田に勢いがある。その同盟国である今川もじゃ。」

村上義清「北条が武田と手を結んでいる以上、村上家も風前の灯なのじゃ。」

小笠原長時「詰みましたな……」

長時は諦めた様子で義清の元を去り自室へと向かった。

6: 2013/10/13(日) 21:02:27 ID:RK79sPpQ
村上義清「手が足りない……。どうすればいいのじゃ……。」

私の家には武田家と比べると兵力が圧倒的に劣っている。
そして、致命的なのは深刻な人材不足。
正直北信という地域には山村あるところ。
それゆえ人口も少ないのだ。
それに引き換え武田家の所領の南信には諏訪という大きな町がある。
甲斐には金山という収入源がある。

7: 2013/10/13(日) 21:04:01 ID:RK79sPpQ
『人は石垣、人は城』とはよく言うものだ。
人材がいなければ村上家は滅亡へと向かうだろう。
私は北信の地図を開いて周りをよく見てみた。

村上義清「天城城……?」

北信の地図を更によく見る。

村上義清「旭山城と飯山城に囲まれた場所にあるんだ…。」

村上家臣「おやおや、義清様いかがなされましたか?」

家臣の一人が私の横に座ってきた。

8: 2013/10/13(日) 21:05:53 ID:RK79sPpQ
村上義清「この天城城についてなんだけど、わかる、か……?」

村上家臣「天城、ですか………。」

村上義清「うむ、そうじゃ。」

村上家臣「義清様のお父上の顕国様が三度敗れた相手だと伺っております。」

村上義清「お父上が?」

村上家臣「左様。あの政国様さえ互角に戦った相手だそうです。」

村上義清「おじいさままでもであるのか…。」

村上家臣「天城家は代々知略に優れた当主が続いているのでございます。」

村上義清「我が村上家は代々勇猛な当主が続いてきておるのじゃ。」

村上義清「その欠点を天城はそれを足をすくうのであろう。実に厄介なことじゃ……。」

村上家臣「………。」

家臣は私の次の言葉を待った。

9: 2013/10/13(日) 21:06:59 ID:RK79sPpQ
村上義清「よしわかった。三千の兵を率いて天城城に向かおう。」

村上家臣「攻め入るおつもりですか?!」

村上義清「攻めるとは言ってはおらぬ。向かうと申しただろう。」

村上家臣「ですがしかし、今天城城に向かわば武田が背後を襲いますぞ!」

10: 2013/10/13(日) 21:09:15 ID:RK79sPpQ
私は笑みをこぼすと家臣に語った。

村上義清「大丈夫じゃ。領内には五千程度の兵を残しておる。」

村上義清「私はそう簡単に滅びはせぬ。」

村上義清「一致団結。屋代などの家臣の結束があれば何度でも防ぎきれる。」

村上家臣「ですが……。」

11: 2013/10/13(日) 21:10:23 ID:RK79sPpQ
村上義清「謀略があればなんでもできるのじゃ!」

村上家臣「勇猛のそばに謀があればいいんですか?!」

村上義清「そういうことじゃ。」

私は顔を思いっきり笑顔満面にすると出陣の下知を飛ばした。
今はそうするしか手がなかったのだ…。

村上義清「皆の者、天城城に兵を進めよ!」

兵たち「オオオオーーーー!!!」

こうして私は三千の兵を率いて一路天城城へと向かった。
この行動が吉と出るか凶と出るか、まだわからない……。

12: 2013/10/13(日) 21:11:48 ID:RK79sPpQ
北信・天城城───

天城家臣「殿ッーーー!!村上軍が攻めて参りました!」

???「とうとう牙を剥いてきたかあの女狐め。」

???「村上の軍勢はどのくらいなんだ?」

天城家臣「物見の情報によりますと、ざっと三千はくだらないかと。」

???「三千か……。とうとう我が城を奪いにきたか……。」

天城家臣「我が城は僅かに四百余、武田に援軍の使者を遣しますか?」

???「それでは間に合わぬ。荒木に八十の兵を率いてもらい領内の敵を防げ。」

天城家臣「は、八十でございますか…?」

家臣は慌てふためく。

13: 2013/10/13(日) 21:12:43 ID:RK79sPpQ
???「うむ、そうだ。」

天城家臣「されど……。」

???「城の二割を割く人数だ。我が城には兵が少なすぎる。」

天城家臣「しかし、三千相手に八十の兵は少なすぎると思われますが……。」

男は家臣を手で制した。

14: 2013/10/13(日) 21:14:45 ID:RK79sPpQ
???「大丈夫だ。荒木は三千の兵相手に氏ぬような男ではない。」

???「もし村上が七千余の大軍を出していたら負けていたところだ。」

???「しかし、今の村上には七千も出せる余裕などはない。」

天城家臣「た、確かに七千も出せば領内を守る兵はさほどおらず、武田に背後をとられましょう。」

???「村上の現当主はなかなか食えないやつだそうだ。」

天城家臣「誠にございます。配下に小笠原長時殿が加わっておるのも実に厄介。」

???「小笠原殿に謀略は効きやすい。だがしかし、村上には効くかな。」

この男は天城颯馬という。
代々天城家が本拠とする天城城の現城主である。

???⇒天城颯馬「村上義清……、か……。そのほうの手なみを見させてもらおう。」

15: 2013/10/13(日) 21:16:14 ID:RK79sPpQ
一方その頃──

武田信玄「コホッ、コホッ……。」

とある少女が病に臥していた。
彼女の名前は武田信玄。
この甲斐と南信を統べる戦国大名である。
彼女は暴政を働いていた父・信虎を討ち果たすとまるで呪いにとりつかれたように病にかかってしまった。

16: 2013/10/13(日) 21:17:35 ID:RK79sPpQ
山本勘助「御館様、村上の軍が北信統一に向けて動き出したようです。」

武田信玄「そう…、ですね…。」

信玄の側にいる老壮な男は山本勘助という。
『風林火山』の名を頂いた四将とならび称された『陰』の如くと言われた武将である。

山本勘助「ならば兵を出しましょうか?」

武田信玄「それには及びませぬ。南から馬場たちの将に任せておりますので。」

山本勘助「なるほど……。しかし小諸城だけには後詰の兵の派遣のお許しを。」

武田信玄「わかりました。では勘助、二千の兵を率いて小諸城に入って待機しておいてください。」

山本勘助「ははっ。」

17: 2013/10/13(日) 21:19:23 ID:RK79sPpQ
信玄は時折咳こんでいた。

武田信玄「ところで飛騨の様子はいかがですか?」

山本勘助「姉小路殿の件ですな。いやはや、信書を送りましたが返答が来ませぬ。」

山本勘助「越後の上杉と繋がっていると疑ってよいのでは…?」

武田信玄「そう、ですね…、無きにしもあらずと言ったところでしょうか。」

山本勘助「他に用件があれば仰ってください。」

武田信玄「では、小諸城に行く前に幸村に飯田城攻略の下知をお願いします。」

武田信玄「私はそろそろ寝ますので。さもないと…、コホッ、コホッ……。」

山本勘助「ははっ。承知仕った。それでは御免。御館様、お大事にでございます。」

勘助は早速北信の楔とも言える小諸城へと向かったのである。

18: 2013/10/13(日) 21:21:41 ID:RK79sPpQ
すると、入れ違いに小童風な男が信玄の部屋の前に着いた。

山県昌景「御館様、昌景にございます。」

武田信玄「はい、入ってください。」

部屋に入ってきた昌景という男。
『風林火山』の名を頂いた四将の一で、『山』の一字を戴く武将であった。
山県昌景、武田家きっての猛将である。

19: 2013/10/13(日) 21:22:47 ID:RK79sPpQ
山県昌景「御館様、これからおやすみだったのでしょうか…。」

武田信玄「いえ、大丈夫です、それより、何かあったようですね。」

山県昌景「はい、それが………。」

武田信玄「────な、なんと……!!」

信玄は驚きを隠せないでいたのである。

………。

……。

…。

20: 2013/10/13(日) 21:29:31 ID:RK79sPpQ
村上義清が出陣してから三日後──

村上義清「天城城まであとどのくらいじゃ?」

村上兵A「あと五町(およそ五百五十メートル)程度かと思われます。」

義清は天城城まで目と鼻の先まで来ていた。

21: 2013/10/13(日) 21:30:50 ID:RK79sPpQ
村上兵A「義清様、これ以上近づけば敵の攻撃を受けてしまいます。」

村上義清「わかっておる。しかし、城がこうも近いのに道が狭くて通りにくいのじゃ。」

村上兵B「はい、さればこそ横腹を衝かれればこれこそ命取り。」

村上兵B「少数精鋭となれば義清様の身に危険が及びかねませぬ。」

村上義清「でもまあ森の中に迷い込んで狼に襲われた時よりまだ良いのじゃ。」

村上義清「こうして道もあるし、敵の目を見張ればよいのじゃ。」

周りを見渡せば兵たちは疲れ果てていた。
三日三晩ろくに寝ておらず、狼に襲われて何人かの兵士を失った。
士気もさほどない。義清は決断した。

22: 2013/10/13(日) 21:33:06 ID:RK79sPpQ
村上義清「仕方ない。本日はここで野営じゃ。」

村上義清「空も暗くなってきたし、皆の者休むがよい。」

村上兵A「義清様、ここで野営すれば敵に襲われてしまいますぞ。」

村上義清「しかし、私はここの地理には暗いのだ。」

村上義清「そなたはここの地理は分かるのか?」

村上兵A「そ、それは……、ここの地理を理解し忘れること迂闊にございます…。」

村上義清「まったくじゃ。私も把握し忘れたことに迂闊であった…。」

義清は頭を悩ませた。

村上義清「もしかすると、夜襲が来るかもしれないので、五百ずつ四交代で見張りをするのじゃ。」

村上兵B「あ、はい。」

村上義清「夜が更けるまで一時体を休めるのじゃ。」

村上兵C「ははっ!」

村上軍三千の兵は疲労困憊の中、敵の城付近真っ只中で野営することとなった。

23: 2013/10/13(日) 21:35:26 ID:RK79sPpQ
その報はすぐさま俺の手元に届いた。

天城颯馬「村上め…、我らを誘っておるのか……。」

藤代玄蕃「荒木殿の報告によれば、敵は疲労困憊だとか…。」

天城颯馬「ふむ、叩けば敵の被害も大きいものとなろう。」

天城颯馬「必ず同士討ちは発生しよう。」

藤代玄蕃「今は夕方ですので、夜襲でもかけましたらよろしいでしょう。」

藤代玄蕃「疲労困憊の上の夜襲。敵は必ずや大混乱となりましょう。」

天城颯馬「ところで藤代、敵味方の被害勘定すればどのくらいになろうか。」

俺と話している男の名前は藤代玄蕃という。
天城家二代に仕えた家臣である。

24: 2013/10/13(日) 21:38:49 ID:RK79sPpQ
藤代玄蕃「さて…、味方に三十の氏傷者、敵に三百程度の氏傷者は出ましょうか。」

天城颯馬「随分と低く見積もったようだな。」

藤代玄蕃「敵は村上義清、そうそう被害を出す将とは思えませぬ。」

天城颯馬「俺もそう思う。『甲斐の虎』と呼ばれた武田信玄を一度ならず二度までも破った将だ。」

天城颯馬「何かしら警戒してるかもしれぬ。」

天城颯馬「荒木の軍勢八十だけではこちらが全滅するやもしれぬ。」

天城颯馬「藤代、そなたは五十の兵を率いて荒木と共に挟み撃ちにせよ。」

藤代玄蕃「殿、お待ちくだされ。」

天城颯馬「ん?なんだ?」

藤代玄蕃「ここは紙江野殿を含めた三方攻撃をお願い致します。」

25: 2013/10/13(日) 21:40:17 ID:RK79sPpQ
俺はここで悩んだ。
もしここで村上軍が二手に分かれたとすれば城において二百余で村上軍千五百とぶつかる事になる。
ここは敵を叩くだけで十分である。

天城颯馬「藤代、ここは敵を叩くだけでいい。」

藤代玄蕃「しかし…!」

天城颯馬「俺は敵の出方を見てみたい。もしかしたらこの戦、下手すればまずくなるかもしれん。」

藤代玄蕃「と、殿、も、もしや!?」

26: 2013/10/13(日) 21:41:58 ID:RK79sPpQ
俺は冷や汗をかいた。
もしかするとこの戦で俺は命を落とすかもしれない。
突然訪れた最期の人生前日の余命宣告。
否……、この宣告は自らを諌めるためにしたものだ。
そして俺は決断した………。

天城颯馬「弓で射かけよ………。」

藤代玄蕃「は?ここから……でしょうか……?」

天城颯馬「………。」

27: 2013/10/13(日) 21:44:04 ID:RK79sPpQ
この時の俺は今を思い返すと行動がよくわからなかった。
恐らく色々と考えていたのであろう。

天城颯馬「弓の威力は凡そ三十間(約五十五メートル)程度、あえて高台から射よ。」

藤代玄蕃「あえて……、とは……、しかし、物見の様子では村上の本陣までは凡そ五町。」

藤代玄蕃「到底届きますまい。」

天城颯馬「では逆に三十間まで近づけば気づいた敵に殺されてしまうぞ。」

天城颯馬「槍を得意とする村上軍には相性の良い弓で攻撃しなければならない。」

天城颯馬「人数が倍程度までなら優位に攻撃ができる。」

藤代玄蕃「それは確かにそうでありますが…。」

天城颯馬「しかし、我らの兵は村上の凡そ十分の一程度だと肝に銘じておけ。」

天城颯馬「威嚇射撃だけで十分だ。竹束を持って突撃されてみろ。」

天城颯馬「戦況は圧倒的に不利となる。」

藤代玄蕃「く………。」

藤代は少し無念そうな表情を表す。

天城颯馬「天城家もこれまでか……。」

28: 2013/10/13(日) 21:45:51 ID:RK79sPpQ
そのときであった。

天城家臣弐「殿っー!!」

天城颯馬「な、何事だ?!」

血相を変えた家臣の一人が俺のもとへと駆けてきた。

天城家臣弐「申し上げます!村上軍より使者がお目通り願いたいとのこと。」

天城家臣弐「お会いになられますか?」

天城颯馬「とりあえず謁見の間に通せ。」

只ならぬ雰囲気に家臣たちも察した。
これは恐らく降伏勧告だ。
俺はこの時敵の使者を斬るつもりでいた。
使者を斬り村上と一戦を交える。
そうすれば家臣の士気は上がると思っていた。

29: 2013/10/13(日) 21:47:55 ID:RK79sPpQ
俺は謁見の間に入ると使者を迎え入れた。
家臣も慌てて謁見の間に入り、使者を迎え入れる。
城外で指示を待っていた荒木は不在となった。

天城颯馬「面をあげてください。」

村上義清「はい。」

俺は面をあげた人物に驚いた。
そこには小柄で愛らしい女性がいたからである。

30: 2013/10/13(日) 21:49:44 ID:RK79sPpQ
村上義清「……?私の顔についておるのか……?」

天城颯馬「いえ………、それで村上家から使者というそうですが、ご用件を述べてもらいましょう。」

俺は正直少し動揺していた。

村上義清「えっと、その前に確認しておきたいことがあるのじゃが……。」

天城颯馬「なんでしょう。」

村上義清「そなたがこの城の主の天城颯馬殿か?」

天城颯馬「それはもちろんです。偽者が城主を気取ってどうするのですか。」

村上義清「これは失礼した。私は葛尾城主の村上義清と申す。私の呼び名は義清で良い。」

天城颯馬「なっ──?!」

31: 2013/10/13(日) 22:07:19 ID:RK79sPpQ
家臣一同ざわめいた。
『あの村上義清本人がわざわざ来たと…?』
『あの愛くるしい女性があの猛将の村上義清だと?!』
周りの口々から零れだす。

天城颯馬「お前たち、少しは静かにしろ。」

天城颯馬「義清殿、でしたか…。何故義清殿本人が来られたのですか?」

天城颯馬「それとも本物の義清殿なのでしょうか?」

村上義清「本物の何も……、物見を向かわせば分かるはずじゃ。」

村上義清「今頃私の軍の本陣は私捜しにてんやわんやのはずじゃ。」

自分が招いた事なのにまるで他人事のように話、顔には満面の笑みを俺に向けていた。

32: 2013/10/13(日) 22:08:25 ID:RK79sPpQ
天城颯馬「いや……、それはそれで……。」

はっきり予想外の出来事であった。
まさか敵の総大将が単身敵の本拠地に乗り込んできた上に笑顔で接してくるとは思わなかった。

村上義清「どうしたのじゃ?苦しそうな顔をして、落ち着くのじゃ。」

義清殿はそう言うが、正直動揺は隠せない。
それは家臣も同じだった。
使者を斬ってやろうと思って来てみればこの始末。
当主として情けない。誰かこの空気を破ってほしい、そう思ったその時であった。

33: 2013/10/13(日) 22:13:07 ID:RK79sPpQ
天城兵「殿、申し上げます!」

天城颯馬「ん?何だ?」

一兵卒の足軽だろう。慌てた様子で俺に告げる。

天城兵「敵軍総大将の村上義清が行方不明ということで敵本陣が浮き足だっております!」

天城兵「荒木殿が今こそ攻め入るお下知をとのことです。」

天城颯馬「あ………。」

俺は思わずあんぐりしてしまった。
鏡で見たら情けない顔をしているだろう。

天城兵「殿、ご命令のほどを。」

村上義清「やはり本陣のほう、混乱しておったか。」

ここでも義清殿が足軽に向かい舌を出しながら笑みを向けていた。

34: 2013/10/13(日) 22:19:22 ID:RK79sPpQ
天城颯馬「いや、それなんだが…、その敵軍総大将の村上義清なんだが、そのほうの目の前におる…。」

天城兵「へ……?」

足軽は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。

村上義清「じゃから、この私が村上義清本人じゃ。」

天城兵「へ……?」

もはや足軽の思考回路は処理能力を超越しており混乱していた。

天城颯馬「………ということなので、荒木には城に戻るということを伝えておいてくれ。」

天城兵「………、あ、はっ……、分かりました!」

足軽は荒木へと向かって行った。

35: 2013/10/13(日) 22:20:25 ID:RK79sPpQ
天城颯馬「義清殿、正直このような展開いくら俺でも読めませんでした。」

村上義清「そうじゃな。此度の行動にはお詫びを申し上げる。」

突然義清殿は俺に向けて頭を下げだした。
正直この空気に困惑していた俺は頭を下げて対応するばかりでいた。

村上義清「実はじゃな、此度の行軍は天城颯馬殿の顔を見たいがためにここまで参った次第じゃ。」

天城颯馬「そ、そんなことのためにわざわざ敵対行動をしたというのですか?!」

正直義清殿の行動には呆れた。

36: 2013/10/13(日) 22:25:42 ID:RK79sPpQ
村上義清「すまぬ。どうしても謀に優れた天城殿に会ってみたかったのじゃ。」

天城颯馬「はあ………、それで実際に会ってみてどうでしょうか?」

村上義清「うむ、凛々しくて尊敬できる御仁じゃ。私の持っていない何を持っている。」

天城颯馬「でも義清殿は武勇に優れておいでではないですか。」

村上義清「いやいや、確かに私は武勇に優れていると何度か言われたことはある。」

村上義清「しかし日ノ本は広い。私より優れた人間は大勢おるのじゃ。」

村上義清「現に隣国の武田には武に優れた山県や馬場なる将がおるのじゃ。」

次第に俺は村上義清という人となりに惹かれていくようになる。
とても不思議な気持ちだった。

37: 2013/10/13(日) 22:29:40 ID:RK79sPpQ
村上義清「天城殿は我が村上家と戦った間柄じゃ。」

村上義清「父・顕国は三度負け、祖父・政国と互角に渡りあったと家臣から聞いた。」

村上義清「その強さとは何じゃ?」

天城颯馬「ふむ………。それは恐らく祖父・尚重との戦だろう。」

天城颯馬「少数ゆえに智を求められた戦いを強いられた。」

天城颯馬「要は負けぬ戦をすることです。」

村上義清「負けぬ戦……?」

天城颯馬「ええ、義清殿は武田家相手に負けるような戦をしますか?」

村上義清「それはさすがにせぬように心がけるのは当たり前じゃ。」

村上義清「それがどうかしたのか?」

天城颯馬「我が天城家は見ての通り、天険の要塞に囲まれた堅城が本拠でありますが、勢力としては弱小です。」

天城颯馬「生き残っていく上には無用な戦いを避け、犠牲を少なくして生き延びております。」

村上義清「ふむふむ。」

義清殿は俺の話に真面目に聞いてくれている。

38: 2013/10/13(日) 22:33:05 ID:RK79sPpQ
天城颯馬「自ら攻撃をして反撃を食らえば自城に戻るときに損害が大きくなってしまう。」

天城颯馬「ならば、いかに損害を少なくし、勢力を維持するかになったのです。」

村上義清「なるほど……、しかしそれでは武田への対処はどうするのじゃ?」

村上義清「我が村上家は武田家とこれまで四度戦い、二勝二敗の五分じゃ。」

村上義清「しかし、武田は北信と南信に軍を分けるほどの余裕がある。」

村上義清「今の私には対処のしようがないのじゃ。」

正直俺には何故敵の相手に自分の弱みを見せるのかが理解できなかった。

39: 2013/10/13(日) 22:43:28 ID:RK79sPpQ
天城颯馬「では、国境に防御を固めてはよろしいでしょうか。」

村上義清「固めておる。しかし、数が足らぬのじゃ。」

村上義清「将の頭数が武田に比べて断然に足らぬ。」

村上義清「駒が少なすぎるのじゃ。我が家は切羽詰まっておるのじゃ。」

村上義清「颯馬殿、私の頭となってくださらぬか?」

俺は義清殿のこの一言で何故敵の俺に自分の弱みを見せる意味を即座に理解できた。
彼女は俺を必要としているのだ。

天城颯馬「俺は義清殿の頭になればいいんですね?」

村上義清「颯馬殿は私を助けてくれるのか?」

義清の目には涙が浮かんでいた。

40: 2013/10/13(日) 22:46:50 ID:RK79sPpQ
天城家臣「と、殿…!!」

天城家臣弐「敵の言葉に言いくるめられては…!!」

俺には家臣の声など耳に入らなかった。
というより、義清殿の泣き顔に負けてしまったのだ。

天城颯馬「わかりました。この天城颯馬、村上義清殿の力を貸さん!」

村上義清「颯馬殿……。」

義清の目から涙がポロポロと零れ出していた。
家臣はというと、頭をガックリとしていた。
天城家の未来は暗雲そのものだと思ったのだろう。

41: 2013/10/13(日) 22:47:58 ID:RK79sPpQ
天城颯馬「して、義清殿、俺は一体何をすればよいのですか?」

村上義清「村上家の軍師としてその知恵を大いにふるってほしいのじゃ。」

俺は少し迷いはあったが、後に引けなかった。
村上家が潰れれば緩衝地帯はなくなる。
武田か上杉か、二者択一を迫られるのだ。

天城颯馬「わかりました。今日より私は義清殿の軍師としてお助けしましょう。」

村上義清という女武将がもたらした第三の選択肢、村上家で生きるという選択を選んだ。

42: 2013/10/13(日) 22:48:38 ID:RK79sPpQ
この後、両軍に一悶着があったが、俺と義清殿のとりなしによって落ち着いたのである。
北信の大部分を支配した村上家は近隣の豪族を降し徐々に勢力を広げた。
そして、高梨家を残した状態で武田家と対峙することとなった。
これから俺と義清殿の長くて険しい戦いが今から始まるのであった。

43: 2013/10/13(日) 22:49:19 ID:RK79sPpQ
終わり

44: 2013/10/13(日) 22:51:27 ID:O5agTNQA
おつ

引用: 戦極姫ミニ・村上家