1: 2013/09/01(日) 17:17:22 ID:TubGC9js
どこかの山の中

「男ー、置いてくよ?」

男の子 「待てって!」

女の子 「待たないよ!」

男の子 「もう暗くなってきたし、そろそろ帰ろうぜ?」

女の子 「えー? もっと奥まで行ってみようよ!」

女の子 「せっかく探検に来たんだし!」 タッタッタ

男の子 「……はあ」

男の子 「ここにいることは親には秘密にしているのに、なんだよ……」

男の子 「もうすぐ親も帰ってくる、このままじゃこのことが親にバレちまうぜ……」



「歩く……、歩く……、ただ……歩く……」
ゆらぎ荘の幽奈さん 9 (ジャンプコミックス)
3: 2013/09/01(日) 17:18:50 ID:TubGC9js
男の子 「声……?」 トテトテ

男の子 「どこから聞こえてきてるんだ?」

「歩く……、歩く……、ひたすら歩く……」

男の子 「こっち、なのか……?」

4: 2013/09/01(日) 17:21:24 ID:TubGC9js
男の子 「……声は聞こえる、けど」

「歩く……、歩く……、ただ……」

男の子 「……追わないといけない気がする」

男の子 「この声を……」

5: 2013/09/01(日) 17:23:15 ID:TubGC9js
男の子 「暑い……喉が渇いた……」

男の子 「足が痛い……」

「歩く、歩く、ひたすら歩く……」

男の子 「追わないと……歩かないと……」

男の子 「なぜだか、そんな気にさせられる……」

「歩く、歩く、ただ歩く」

男の子 「歩く……歩く……ひたすら歩く……」

「歩く、歩く、ただ歩く……」

男の子 「あるく……あるく……ひたすら……」



バタッ

6: 2013/09/01(日) 17:26:35 ID:TubGC9js
こんな具合で昔起承転結と設定だけ書いて没にしたホラー系ssを投下していきます

かな~りゆったりとした投下間隔になるやもしれないことを、予め断っておきます

8: 2013/09/03(火) 23:02:04 ID:BteA9FMg
-ある町の公園のベンチにて-

「……なぜ、誰にも気づいてもらえんのじゃ」

「誰にも気づいてもらえんまま、もうあたりも暗くなってきた……」

「……気晴らしに、ベンチで一服するかのう」 ヨッコラショ

「ふう……、歳は取りたくないのう……」



「……隣、いいですか?」

9: 2013/09/03(火) 23:05:14 ID:BteA9FMg
爺 「……む?」

爺 「娘や、儂を無視せんのか?」

「はい、わたしにはお爺さんが見えていますから」

爺 「……見えている、とな?

「……けれど、ほかの人達にはお爺さんは見えていません」

爺 「……なんと」

10: 2013/09/03(火) 23:10:05 ID:BteA9FMg
「……心当たりは?」

爺 「そういえば、妙に体が軽い気がするのう」

爺 「物や人にも触れられんし……」

爺 「……はっ、まさか!?」

「気づかれたようですね」

「お察しの通り、お爺さんは幽霊です」

11: 2013/09/03(火) 23:12:32 ID:BteA9FMg
爺 「……今まで気づかんかったわい」

爺 「しかし、いつの間に氏んでいたのかのう……」

「それは……わたしにはわかりません」

「わたしができることは、たった一つです」

「お爺さんが気持ちよく成仏できるよう、わたしがお手伝いすること」

「ただ、それだけです……」

12: 2013/09/03(火) 23:15:51 ID:BteA9FMg
爺 「……娘は天からの使いではないのかえ?」

「まさか、わたしはただの人間です」

「人よりちょっとだけ霊感が強いだけの……」

「ただの、非力な小娘です」

13: 2013/09/03(火) 23:20:05 ID:BteA9FMg
爺 「……ふむ、成仏のう」

「抵抗したりは、しないのですね」

爺 「別に現世に留まる必要はないからのう」

爺 「……娘や、あの世に行くためにはどうすればいいのかえ?」

「現世に残された未練をなくせば、楽に逝けますが……」

14: 2013/09/03(火) 23:24:05 ID:BteA9FMg
爺 「しかし、未練のう……」

「……心当たりは、ありますか?」

爺「……栗饅頭じゃ」

「栗饅頭……?」

爺 「儂の好物なんじゃ」

爺 「氏ぬ前にもう一度だけ、栗饅頭を食べたかった……」


「……わかりました、」

爺 「買ってきてくれるのかのう?」

「はい、すぐに戻ります」

15: 2013/09/03(火) 23:29:02 ID:BteA9FMg
―――――

爺 「早かったのう、娘や」

「和菓子屋が空いていたのが幸いでした……」 ゼェゼェ

「どうぞ……、栗饅頭です……」

爺 「……先に呼吸を整えるんじゃ?」

姉 「わ、わたしは大丈夫です……」 ゼェゼェ

16: 2013/09/03(火) 23:32:03 ID:BteA9FMg
爺 「……しかし、幽霊が栗饅頭なぞ食べられるのかのう?」

「未練を募らせておられるのでしたら、きっと」

爺 「……ならせっかくじゃ、食べさせておくれ」

「は、はぁ……どうぞ」

爺 「……美味いのう」 パク

17: 2013/09/03(火) 23:33:48 ID:BteA9FMg
爺 「こんなぴちぴちで可愛らしい娘さんに食べさせてもらう思い出の栗饅頭……」

爺 「……幽霊も捨てたもんじゃないのう」

「可愛らし……もとい、思い出ですか?」

爺 「そうじゃ、昔の妻に告白するときにのう、栗饅頭を渡したのじゃ」

爺 「お互い、栗饅頭が大好きだったのじゃ……」

「奥様は……?」

爺 「儂より先に、旅立ったわい……」

「……」

爺 「湿っぽくなったのう、忘れてくれい」

18: 2013/09/03(火) 23:37:21 ID:BteA9FMg
爺 「あの世に行けば、妻とも会えるかのう?」

「……わたしは天使じゃありませんから、なんとも」

爺 「やはりのう……」

爺 「……さて、そろそろ成仏するとするかのう」

「……」 サッ

爺 「……身体が消えていくのう、お別れの様じゃ」

「そのよう、ですね……」

爺 「そういえば、名前を聞いていなかったのう」

「……」






姉 「姉、です」

19: 2013/09/03(火) 23:40:52 ID:BteA9FMg
これにて区切り

レスは燃料、それはどこで書くときも不変なり

21: 2013/09/21(土) 03:54:45 ID:Qcb6YIMU
-青年の自宅-

姉 「ただいまです」

青年 「ああ、おかえり、姉(あね)ちゃん」 ガサゴソ

姉 「……手伝いましょうか? 料理」

青年 「いいよ、姉ちゃんは休んでおいて」

姉 「ですが……」

青年 「霊祓いで疲れただろう? 体は大事にしないと」

姉 「霊を祓う行為に、体力は必要ありませんよ?」

青年 「……ああ、君はそうだったね」

22: 2013/09/21(土) 03:57:27 ID:Qcb6YIMU
青年 「事の始まりは確か……」

青年 「公園で遊んでいる子どもがよく転んだりして怪我をする」

青年 「霊の仕業かもしれないからと、僕たちのところへ子ども達の母親が除霊を依頼した」

青年 「そうだったね?」

姉 「はい、報酬もきっちりといただいた覚えがあります」

23: 2013/09/21(土) 04:00:47 ID:Qcb6YIMU
青年 「そうそう、その原因は?」

姉 「はい、幽霊になったお爺さんがそうだと気付かず」

姉 「誰かに気づいてもらおうと、子供達に触れようとしていたからみたいです」

青年 「未練を残して霊になった生き物は、生者に何かしらの影響を与えるということだね」

姉 「はい、いつものことです……」

青年 「……悲しそうだね?」

姉 「……いえ、なんでもありません」

24: 2013/09/21(土) 04:01:31 ID:Qcb6YIMU

青年 「で、どうだったんだい?」

姉 「……?」

青年 「除霊したお爺さんの霊のことだよ」

姉 「ああ、そうでした」

姉 「栗饅頭に未練を残していたのが原因だったようですね」

姉 「わたしがお爺さんにそれを手渡すと、お爺さんはそれをすぐ吸収してしまいました」

青年 「栗饅頭が未練……、変わったお爺さんのようだ」

姉 「お爺さん、栗饅頭に思い入れがあるみたいでした」

25: 2013/09/21(土) 04:01:52 ID:Qcb6YIMU

青年 「なるほど……、どんな風にだい?」

姉 「なんでも、奥さんのプロポーズのきっかけになったそうで」

青年 「へぇ、世の中は広い……」

姉 「……ちょっとだけ、羨ましいです」

青年 「……姉ちゃん?」

姉 「……いえ、なんでもありません」

26: 2013/09/21(土) 04:02:17 ID:Qcb6YIMU
青年 「……できた、姉ちゃんの好きなオムレツだ」

姉 「別に、わたしはなんだって構いませんよ?」

青年 「口ではどうとでも言えるけどさ」

青年 「顔に出てることには気づいていないのかい?」

姉 「……出てましたか?」 アセアセ

青年 「ああ、出ているとも」

姉 「……」

27: 2013/09/21(土) 04:02:50 ID:Qcb6YIMU
青年 「まあ、本当に君の好きな食べ物なのかどうかは、僕にはわからない」

姉 「……わたしにも、よくわかりません」

青年 「好きな食べ物の一つや二つ、思いつかないのかい?」

姉 「……好きな食べ物はありませんけど、好きなこと……」

姉 「そう、わたしなりの幸せならすぐに思いつきます」

青年 「……?」

姉 「誰かの役に立てること、それがわたしの幸せです」

28: 2013/09/21(土) 04:03:19 ID:Qcb6YIMU
青年 「……君の自己犠牲精神は、あの頃から変わっていないね」

姉 「犠牲になった覚えはありませんけど」

青年 「好きな洋服を買いあさったり、恋人を作ったり、友人とふわふわしたり」

青年 「そんな君ぐらいの歳の子ならごく普通の幸せを、君は犠牲にしているじゃないか」

姉 「……こんなわたしには似合いませんよ」

29: 2013/09/21(土) 04:05:01 ID:Qcb6YIMU
青年 「……まだ気にしているのかい? 弟君のことを」

姉 「……」

青年 「君は、今よりも幼かったんだ、無理もない」

姉 「……あの時、わたしにほんの少しの勇気があれば……」

姉 「きっと、こうはならなかったはずです」

姉 「……ごちそうさまです」 サッ

青年 「……」

34: 2013/10/09(水) 22:51:23 ID:EA7yNME2
次の日

姉 「山に憑りついている霊の除霊、ですか……?」

青年 「ああ、子どもが次々と行方不明になっていることは知っているだろう?」

姉 「はい、わたしたちの住んでいる街から別の街へと向かう時や」

姉 「子ども達の遊び場としてよく利用されている、そんな山での不可解な行方不明事件のことですよね」

青年 「ああ、説明の手間が省けて助かるよ」

青年 「人間の犯行の線で、警察は捜査を進めているみたいだけど……」

青年 「証拠らしい証拠は、なにも見つかっていないみたいだ」

姉 「……」

青年 「依頼人を客間に招いているけど、会ってみるかい?」

姉 「……そうですね」

35: 2013/10/09(水) 22:52:46 ID:EA7yNME2
女の子 「……ううっ」 グスン

姉 「……この子が、依頼人ですか?」

青年 「ああ、でも泣いてばかりで僕の手には負えない」

青年 「君なら、どうにかできると思ってね」

姉 「……」

女の子 「あたしの、あたしのせい……」

女の子 「あたしが、言うことを聞かなかったから……」

女の子 「あたしが、早く帰らなかったから……!」

36: 2013/10/09(水) 23:01:25 ID:EA7yNME2

姉 「……」 ナデナデ

女の子 「……え?」 グスン

姉 「己の至らなさが招いた、取り返しのつかない失敗」

姉 「そしてそれを悔やむ己の心……」

姉 「その気持ちは、痛いほどわかります……」

女の子 「……?」

姉 「……でも、まだ取り返しはつきます」

姉 「いえ、必ず取り返してみせます」 ギュッ

女の子 「……信じて、いいの?」

姉 「はい、もちろんです」

37: 2013/10/09(水) 23:02:29 ID:EA7yNME2
―――――

青年 「声が聞こえた……」

青年 「君と一緒にいた子は、そう言ったんだね?」

女の子 「うん……」

青年 「でも、君には聞こえなかった」

女の子 「……うん」

姉 「……」

38: 2013/10/09(水) 23:03:35 ID:EA7yNME2
青年 「わかった、僕たちに任せてくれ」

女の子 「……でも、お金は」

青年 「子どもがお金の心配なんてしなくてもいいさ」

女の子 「……本当に?」

青年 「ああ」 ニッコリ

39: 2013/10/09(水) 23:18:29 ID:EA7yNME2

-山-

姉 「……」

青年 「あ、姉ちゃん、歩くのが速いよ……」 ゼェゼェ

姉 「す、すみません」

青年 「……この山に、思うところでもあるのかい?」

姉 「……」 コクリ

青年 「……なるほど」

姉 「……厳密にはこの山を越えた先にある街に、ですけどね」

青年 「……」



―――歩く――歩く――

40: 2013/10/09(水) 23:19:32 ID:EA7yNME2
「歩く……歩く……」

姉 「……!」 タッタッタ

青年 「ん、今確かに声が聞こえ……」

青年 「……って、姉ちゃん!?」

姉 「……この声……!」 タッタッタ

41: 2013/10/09(水) 23:21:54 ID:EA7yNME2

もう一度聞くことになるなんて思いもしなかった、声

わたしが無力だから、手放すことになった懐かしい、声

この声をもう一度聞かせて、わたしはそう何度天に願ったことか

湧きあがる感情を飲み込んで、わたしは駆けだした



青年 「……い、幾らなんでも速すぎるよ姉ちゃん……」 ゼェゼェ

青年 「……仕方ない、僕は僕で仕事を果たそうか」

45: 2013/10/10(木) 23:58:34 ID:uHByf.YY
姉 「……まって、待ってください!」 タッタッタ

歩く、歩く――

ただ、歩く――

姉 「待ってっ!」 タッタッタ

46: 2013/10/10(木) 23:59:42 ID:uHByf.YY
―――

「この能無しがッ!」

「……ッ」

「……!」

「ダメよ、姉ちゃん、行っちゃダメ……」

「ダメよ……、あなたは……」

「……うん、ぼくは大丈夫だよ」

「……ねえちゃん」

47: 2013/10/11(金) 00:00:19 ID:vVZv5WmI
姉 「大丈夫なわけ、ないでしょ?」

姉 「どうして、強がったの……?」

姉 「どうして、わたしを頼ってくれなかったの……?」

姉 「……ううん、違う」

……歩く

姉 「――視えた」

48: 2013/10/11(金) 00:01:13 ID:vVZv5WmI


「……歩く、歩く、ひたすら歩く」

姉 「……もう、歩かなくてもいいの」

「歩く、歩く、ただ歩く」

姉 「わたしは、ここにいるよ……?」

「歩く、歩く」

姉 「……足を引き摺って、よく頑張ったね」

「ひたすら……」

姉 「……それに比べて、わたしはダメなお姉ちゃんね」




姉 「ね……、弟」

49: 2013/10/13(日) 22:01:34 ID:PMaHjg6c
――数年前

姉の住む家

父 「おらッ! さっさと酒を持ってこい酒を!」

母 「……」 ビクッ

姉(小学生) 「……」

父 「こいつらは役に立たねえな……、坊主!」

弟 「……はい」 っ

父 「たく、遅えんだよ!」 ドカッ

弟 「……ッ」

50: 2013/10/13(日) 22:16:50 ID:PMaHjg6c
姉 「おとう……ムグッ!」

母 「……ダメよ、あなたは傷ついちゃだめ……」

姉 「弟だったらいいなんて、そんなのおかしいよ……!」

母 「……黙りなさい!」 バシッ

姉 「……痛いよ、お母さん」

母 「ごめんなさい……」

母 「でもね、あの男に殴られたら痛いじゃ済まないのよ」

母 「あなたは女の子なんだから、わかって頂戴……」 ギュッ

姉 「……」

51: 2013/10/13(日) 23:00:38 ID:PMaHjg6c
―――――

弟 「ねえ、ちゃん?」

姉 「そうだよ、弟……」

弟 「……おっきく、なったんだね」

姉 「あれから、随分時間が経ったの」

弟 「……でも、ぼくはなにも変わってない」

姉 「変わってなくても、別にいいよ」 ニコ

弟 「……ダメだよ、ぼくがねえちゃんを守らないといけないのに」

弟 「もっと男らしくなって、ねえちゃんを守らないといけないのに」

姉 「……弟」

52: 2013/10/13(日) 23:02:09 ID:PMaHjg6c
―――――

姉(小学生) 「……」

友 「あ、姉ちゃん!」

姉 「……友ちゃん?」

友 「おっはよー、今日はいつにも増していい朝だねぇ」

姉 「そ、そうだね……」

友 「……ここのところ学校を休んでたけど、なにかあった?」

姉 「う、ううん、ちょっと風邪引いてただけ」

友 「……本当に?」

姉 「うん、だから心配しないで?」

53: 2013/10/13(日) 23:04:39 ID:PMaHjg6c

友 「……悩みがあるなら、ちゃんと言ってよね?」

姉 「……どうして友ちゃんは、わたしを心配してくれるの?」

友 「友達だから、あと姉ちゃんが頼りないから」

友 「それに、ちょっと健気過ぎるから」 ニコ

姉 「……それ、褒めてる?」 クス

友 「あっ、やっと笑ったね姉ちゃん!」

54: 2013/10/13(日) 23:06:28 ID:PMaHjg6c


姉(小学生) 「……はい、お酒…きゃっ!」 トテ

父 「……なにしてくれてんだ? 服が汚れちまっただろうが!」 ギロッ

姉 「……っ」

父 「おうおう、責任はきちん取ってくれよ?」 ジィ

姉 「……」

姉 (怖い……怖い……)

姉 (……でも、言わなきゃ)

姉 (……わたしは、お姉ちゃんだから)

55: 2013/10/13(日) 23:07:42 ID:PMaHjg6c
姉 「……いい加減にして」

父 「んだと?」

弟 「ねえちゃん、どこに……ねえちゃん!?」

姉 「弟、来ちゃダメ」

父 「……口の利き方がなってねえな」 ガバッ

姉 「……」ギロッ

父 「……金はちゃんと入れてやってるだろうが」

父 「お前の氏んだ父ちゃんに代わって、ちゃんとなぁ!」 ビリッ

姉 「……ッ」

56: 2013/10/13(日) 23:10:02 ID:PMaHjg6c
弟 「……ねえちゃんには、手を出すなッ!」 バシッ

父 「痛えな坊主……悪いのは全部こいつだぜ?」

姉 「ダメ、弟!」

姉 「わたしはお姉ちゃんだから……」

姉 「だからこれ以上、可愛い弟を痛い目に遭わせたくないの!」

弟 「……迷惑だなんて思ったことは一度もないよ、ねえちゃん」

姉 「……え?」

57: 2013/10/13(日) 23:11:11 ID:PMaHjg6c
弟 「父ちゃん、ねえちゃんがなにかしたならごめん」

父 「……はっ、坊主が代わりに責任を取るってのか?」

弟 「うん」

父 「ククク、いい度胸だな坊主」

姉 「……お、弟?」

弟 「ぼくは大丈夫だよ、ねえちゃん」 ニコ

60: 2013/10/15(火) 00:07:13 ID:alGewnvE
姉の自室

姉(小学生) 「……」

姉 (また、なにも言えなかった……)

「ねえちゃん、入ってもいい?」コンコン

姉 「……うん」 ニコ

61: 2013/10/15(火) 00:09:53 ID:alGewnvE
姉 「……さっきは、ごめんね」

弟 「あれぐらい、どうってことないって」

姉 「……わたしがしっかりしないといけないのに」

弟 「気負い過ぎだよ、ねえちゃんは」

姉 「……?」

弟 「さっきのねえちゃん、震えてた」

姉 「……ッ」

弟 「無理したらダメだよ、まったく……」

62: 2013/10/15(火) 00:12:50 ID:alGewnvE
姉 「……ごめんね、ごめんね……」 グスン

弟 「だから、別に謝らなくても……」

姉 「弟に我儘も聞いてあげられないお姉ちゃんなんて」

姉 「そればかりか、弟に苦労ばかりかけてる」

姉 「そんなお姉ちゃんなんて、嫌だよね……?」

弟 「……我儘なら、いつも聞いてもらってる」

姉 「……?」

弟 「ねえちゃんを守りたいっていうぼくの我儘を、聞いてもらってる」

姉 「……弟」

63: 2013/10/15(火) 00:14:55 ID:alGewnvE
風呂場

弟 「誰の目も気にせずお風呂に入れる……最高!」

姉 「……あんまりはしゃいで、怪我したらダメだよ?」

弟 「ねえちゃんだって……」

姉 「お姉ちゃんははしゃいでません」

弟 「……むぅ」

64: 2013/10/15(火) 00:16:21 ID:alGewnvE
弟 「……ん、そこ、もっと」

姉 「こ、こう?」

弟 「そうそう、そんな……ああ」

姉 「痛く、ない……?」

弟 「ううん、気持ちい……よ……」

姉 「……よかった」

弟 「ありがと、ねえちゃん」

姉 「……背中は洗い辛いよね」

弟 「うんうん、背中にも手が届けばいいのに」

65: 2013/10/15(火) 00:19:08 ID:alGewnvE
弟 「……痛っ」

姉 「お、弟!?」

弟 「だ、大丈夫、傷が染みただけっぽい」

姉 「……殴られてできた傷、だよね」

弟 「……」

姉 「早く言って欲しかったなぁ、手当てぐらいお姉ちゃんでもできるのに」

弟 「要らないよ、こんな小さな傷ぐらいで」

姉 「でも、化膿したりしたら……」

弟 「心配性だなぁ、ねえちゃんは」

66: 2013/10/15(火) 00:20:38 ID:alGewnvE
弟 「さっ、ねえちゃんも身体洗って」

姉 「……忘れてた」

弟 「忘れっぽいな、ねえちゃんは」

姉 「……よく言われちゃう」

弟 「だから、頼りないとか言われるんだよ」

姉 「……むぅ」

弟 「さ、早く洗って湯船に浸かろうよ」

67: 2013/10/15(火) 00:22:52 ID:alGewnvE
弟 「父ちゃん、今日は帰ってこなかった」

姉 「お母さんも……、どこ行ったのかな?」

弟 「でも、平和だった」

弟 「二人で学校にも行けたっけ」

姉 「そうだね、いつ振りだったかな?」

弟 「別に、いつ振りでもいい」

姉 「……そう、だね」

弟 「……おやすみ、ねえちゃん」

姉 「うん、おやすみ、弟……」

ギュっ

68: 2013/10/15(火) 00:24:16 ID:alGewnvE
追記 場所→姉の部屋

弟 「……ぼくが絶対、ねえちゃんを守ってみせる」

弟 「男の子だから、家族だから、そして……」

弟 「……だから、安心してよ」

69: 2013/10/15(火) 00:30:26 ID:alGewnvE
―――――

弟 「……覚えてるよ、もちろん」

姉 「わたしにとっては、どれも懐かしい思い出」

弟 「ぼくにとっては、そう古くない思い出だよ」

弟 「……ねえちゃん、どうして急にいなくなっちゃったの?」

70: 2013/10/15(火) 00:32:27 ID:alGewnvE
姉 「……」

弟 「……そんなに、ぼくが頼りなかった?」

姉 「……違う」

弟 「なら、どうして!」

姉 「……」 ポロポロ

弟 「……ねえ、ちゃん?」

姉 「……違うの、弟は充分過ぎるぐらい強くて、頼り甲斐があった」

姉 「弱かったのは、わたしのほう……」

71: 2013/10/15(火) 00:35:31 ID:alGewnvE
―――――

ある日

姉 「弟を置いて、父さんから逃げる……?」

姉 「嫌、絶対に嫌!」

母 「分かって頂戴、貴方のためなの」

姉 「嫌、嫌! あの子は初めてできた弟なの!!」

母 「聞き分けのない子ねッ!」 バシッ

姉 「……ッ」

72: 2013/10/15(火) 00:36:09 ID:alGewnvE
母 「あんな男の血が混じった子なんて、なんて汚らしい!」

姉 「弟を悪くいわないで!」

母 「……貴方は、どうしてわかってくれないの?」

母 「仕事だって見つけたわ、住む場所だって……」

母 「……貴方のことを思って言っているの、わかって頂戴?」

姉 「……」

73: 2013/10/15(火) 00:36:57 ID:alGewnvE
何を言っても敵わない


何を言っても聞き入れてもらえない


二人に何を言っても、何も変えられない

74: 2013/10/15(火) 00:37:44 ID:alGewnvE
そう、わたしは、恐れていた


父の暴力を、挙動を、姿を


わたしは、恐れていた


母の愛を、暴力を、言葉を

75: 2013/10/15(火) 00:39:29 ID:alGewnvE
何も変わらない


わたしは、知らず知らずのうちにそう信じ込んで


そして、いつの間にか逃げを選んでいた


その弱さは、貴方を裏切った

76: 2013/10/15(火) 00:42:04 ID:alGewnvE
―――――

弟 「……なら、ねえちゃんが突然いなくなったのは」

姉 「……ごめんね、本当に、ごめんね」

姉 「謝って済むことじゃ、ないけど……」

弟 「……あは、アハハ」

77: 2013/10/15(火) 00:43:38 ID:alGewnvE
姉 「弟……?」

弟 「よかったぁ、ぼくは嫌われたわけじゃなかったんだ」

姉 「……わたしが弟のことを嫌いになるなんて、ありえない」

弟 「なら、一緒に居てもいいでしょ?」

姉 「……それは」

弟 「ダメ? どうして?」

弟 「ぼくは、嫌われたわけじゃないのに?」

弟 「ぼくはねえちゃんに会いたい一心で、ここまで歩いてきたのに?」

姉 「……」

78: 2013/10/15(火) 00:44:39 ID:alGewnvE
弟 「足がボロボロになっても、喉がカラカラになっても」

弟 「それでもぼくは、歩いてきたのに?」

弟 「歩いて、歩いて、ひたすら歩いてきたのに?」

弟 「ただ、歩いてきたのに?」

姉 「……」

弟 「……ひどいよ、ひどいよねえちゃん……」

79: 2013/10/15(火) 00:45:20 ID:alGewnvE
姉 「……」


ギュッ

80: 2013/10/15(火) 00:46:32 ID:alGewnvE
弟 「……ねえ、ちゃん……?」

姉 「もう、いいの」 ギュウゥ

弟 「何を、言って……」

姉 「わたしは、もうあの頃のわたしとは違う」

姉 「もう、守られるわたしじゃないの」

弟 「……ぼくは、もう必要ないってこと?」

姉 「……違う」

81: 2013/10/15(火) 00:53:05 ID:alGewnvE
―――

青年 「……この山に転がる氏体は、どれも干乾びたモノばかり、か」

青年 「まったく、行方不明の子どもはどこにいる……?」

青年 (……これ以上探しても、成果は得られないかもしれない、か)

青年 (それにこの、妙な胸騒ぎはなんだ……?)

青年 (……姉と合流すべきか、それとも……)

86: 2013/10/19(土) 21:57:47 ID:hUXvm6Ds
姉 「……わたしが、一緒にいる」

弟 「……?」

姉 「……たった一人の弟を、一人では眠らせない」

姉 「わたしの弱さで失ったのだもの」

弟 「……ねえちゃん、一緒に居てくれるの?」

姉 「うん、ずっと、ずっと一緒にいよう?」

姉 「そして、今度はわたしが守らせて?」

姉 「大事な大事な、弟を」

弟 「……ねえちゃん」

「……そうは問屋が申さないのさ」

87: 2013/10/19(土) 22:14:40 ID:hUXvm6Ds
弟 「……誰? このおじさん」

青年 「僕はおじさんって歳じゃないはずだよ、弟君?」

弟 「……おじさん、ぼくを知ってるの?」

青年 「ああ、姉ちゃんから聞かされてるよ」

姉 「青年、さん……」

青年 「わかっているはずだよ、姉ちゃん」

青年 「彼はもう、氏んでいるんだ」

青年 「君は特別だから彼のような霊体に触れられるけど……」

青年 「彼は、本来この世界に居てはいけない存在なんだ」

88: 2013/10/19(土) 22:22:55 ID:hUXvm6Ds
姉 「……わかって、います、でも……」

弟 「ぼくが、氏んでる……?」

青年 「ああ、それも性質の悪い悪霊さ」

弟 「……ほんとなの? ねえちゃん」

姉 「……この山で頻発する行方不明事件の解決」

姉 「それが、今回のわたしの仕事……」

弟 「……仕事?」

姉 「あれから、長い時間が流れて……」

姉 「今は、あの人の元で働いたりも、しているの」

弟 「……そう、だったんだ」

弟 (だから、ねえちゃんは……)

89: 2013/10/19(土) 22:25:07 ID:hUXvm6Ds
青年 「彼女は、僕の仕事を手伝ってくれる大切な存在だ」

青年 「勝手に、道連れにしないでくれるかな?」

弟 「……おじさんは、ぼくをどうするつもり?」

青年 「無論、成仏してもらうつもりだよ」

青年 「強く真っ直ぐな思いを抱いで氏んだ人間が霊になると、周囲に悪影響を及ぼす存在……」

青年 「そう、悪霊になる……」

青年 「弟君、君はまさにそれだ」

青年 「故に、成仏してもらわないといけない」

姉 「わたしは、あの子を一人で逝かせるなんて……」

青年 「姉ちゃん、君はすでに終わってしまった人間のために……」

青年 「生者の特権を、手放すのかい?」

姉 「……」

90: 2013/10/19(土) 22:33:11 ID:hUXvm6Ds
弟 「……わかった」

姉 「……弟?」

弟 「……もう、いい」

弟 「ぼくは、ねえちゃんが幸せなら、それでいいんだ」

青年 「……」

弟 「それは、その……、できることなら、一緒に居たいよ?」

弟 「けど、ぼくはもう氏んでる」

弟 「ねえちゃんとは、違う」

姉 「……なら、わたしも、そうなれば」

91: 2013/10/19(土) 22:35:06 ID:hUXvm6Ds
弟 「それはダメ」

姉 「……どう、して?」

弟 「ずっと、歩いてたんだ」

姉 「……歩いてた?」

弟 「歩くこと以外、何も考えられなかったんだ」

弟 「こうして、ねえちゃんに会うまでは」

姉 「……」

92: 2013/10/19(土) 22:36:09 ID:hUXvm6Ds
弟 「氏んだことすら気づけないぐらい、苦しかった」

弟 「……ううん、苦しいって言えるのも、今こうしているからか」

姉 「……苦しいぐらい、どうってこと……」

弟 「ねえちゃんが苦しんでるところを見るのは、ぼくが悲しくなる」

弟 「言ったでしょ? ねえちゃんが幸せならぼくはそれでいいって」

姉 「……」

93: 2013/10/19(土) 22:40:26 ID:hUXvm6Ds
弟 「あ、そうだ、ねえちゃん」

姉 「……?」

弟 「一つだけ、我儘を言ってもいい?」

姉 「……」 コクリ

弟 「……頭、撫でほしい」

姉 「……うん、いいよ」 ナデナデ

94: 2013/10/19(土) 22:42:26 ID:hUXvm6Ds
弟 「……やっぱり、ねえちゃんは優しい」

姉 「……違う、わたしは貴方を……」

弟 「ぼくは、ねえちゃんに裏切られたなんて思ったことは一度もないよ?」

姉 「……え?」

95: 2013/10/19(土) 22:46:57 ID:hUXvm6Ds
弟 「確かに、ぼくはねえちゃんと一緒にいたい」

弟 「……でも、ぼくの身勝手な我儘のせいで悲しむ人がいるかもしれない」

弟 「そんなことをしたら、ぼくは父さんとなにも変わらない」

弟 「それは、嫌だ」

姉 「……わたしが人に優しくできるのは、もしかすると」

姉 「弟の、優しさのお陰なのかもしれない……」

弟 「……ありがと」 ニコ

96: 2013/10/19(土) 22:53:36 ID:hUXvm6Ds
姉 「……弟、身体が透けて」

弟 「……もう、お別れだね」

姉 「……もう、離れたくないよ、おと……」

チュッ

姉 「……」 ポッ

弟 「最期ぐらい、笑顔でお別れしようよ、ね?」

弟 「ぼくの、大好きなねえちゃん」ニコ

姉 「……うん」 ニッコリ

97: 2013/10/19(土) 22:57:26 ID:hUXvm6Ds
青年 「……」

姉 「……わたしは、最低ですね」

青年 「……僕は、そうは思わない」

姉 「……」

青年 「君が人助けに精を出すのは、弟君に近づくためなんだろう?」

姉 「……はい」

姉 「わたし自身の自立のために、少しでも人に優しくなるために」

青年 「……その心がけは、彼にとってなによりの供養になるはずだよ」 ナデナデ

98: 2013/10/19(土) 22:58:05 ID:hUXvm6Ds
姉 「……青年さん」

青年 「なんだい?」

姉 「今、この時だけは……」

姉 「泣いても、いいですか?」

青年 「……なんなら、胸を貸そうか?」

姉 「……ごめん、なさい」 ギュッ

姉 「……う、ううっ……!」

青年 「……」 ナデナデ

99: 2013/10/19(土) 23:01:02 ID:hUXvm6Ds
―――――

姉 「……青年さん」

青年 「なんだい? 姉ちゃん」

姉 「……わたしは、これまでは人のためを思って行動してきました」

青年 「そうだね」

青年 「それも自分を犠牲にしてまで」

姉 「……でも、たまにはお休みしたって、弟には叱られませんよね?」

青年 「ああ、きっと大丈夫さ……」

姉 「でしたら――」

100: 2013/10/19(土) 23:21:34 ID:hUXvm6Ds
数日が過ぎ去った頃

-ある田舎町の広場-

男性 「……」

「……すみません、お待たせして」

男性 「……いや、俺もさっきここに来たところだ」

「そうなのですか?」

男性 「ああ、だから気にするな」

「……助かります」

男性 「……どこへ行く?」

「……」 ニッコリ

男性 「……?」

101: 2013/10/19(土) 23:25:17 ID:hUXvm6Ds
きめ細やかく白い肌をした手を、彼女は俺に差し伸べてきた

俺は今までに様々な女を見てきたが、こんな花のように美しい女は初めてだ

均衡のとれた顔のバランス、スタイル、どれをとっても非の打ちどころがない

こんな女性とひょんなことから知り合えたのだから、俺はついている

102: 2013/10/19(土) 23:26:41 ID:hUXvm6Ds
-山-

男性 「……どこまで歩く気だ?」

「……楽しくありませんよね」

男性 「いや、そんなことはない」

「……そうですか、よかった」

男性 「……匂わないか?」

「わたしの汗の匂いでしょうか?」

男性 「いや、これはもっと……」

103: 2013/10/19(土) 23:27:17 ID:hUXvm6Ds
男性 「……それに、霧も深くなってきた」

「……人通りもありませんね」

男性 「……不気味な山だ」

「貴方に比べれば、まだマシですよ」

男性 「……何?」

104: 2013/10/19(土) 23:30:22 ID:hUXvm6Ds
が晴れた時、最初に俺が目にしたのは美しい女などではなく……

鼻を潰しかねない異臭を放ち、汁を垂れ流す、歪な氏体だった

105: 2013/10/19(土) 23:31:03 ID:hUXvm6Ds
男性 「……!?」

「……よく目に焼き付けてください、貴方と母と」

「そして、わたしが頃した弟をね」

男性 「お、お前は、……まさか!」

「わたしですか? わたしは……」

後ろで結んでいた髪を降ろす彼女

貴方が頃した……? まさか

男性 「……姉、なのか?」

姉 「ええ、お父さん」 ニッコリ

106: 2013/10/19(土) 23:32:17 ID:hUXvm6Ds
男性 「あのガキが、見違えやがって……」

姉 「貴方は相変わらず、下劣な人ですね」

男性 「……なっ」

姉 「容姿さえ優れていれば子でもいいだなんて、最低な父です」

男性 「しばらく離れていたせいで、気づかなかっただけだ」

姉 「……心底、どうでもいいです」 ニッコリ

108: 2013/10/19(土) 23:35:06 ID:hUXvm6Ds

男性 「……こんなところに連れてきて、何を」

青年 「父親に復讐したいっていう、姉ちゃんの思いを汲むのさ」

男性 「……俺が、何したってんだ」

男性 「坊主が氏んだのも、俺が直接手を下したからじゃねえ」

男性 「あいつが、勝手に氏にやがったんだ」

姉 「……やはり、貴方という人は」

青年 「話に聞いていた以上だね」

男は俺の目から視線を外そうとしない

何かを目論んで……

109: 2013/10/19(土) 23:37:26 ID:hUXvm6Ds
「歩く、歩く、ひたすら歩く」

お、お前らは、俺が今まで関係を持ってきた……

「歩く、歩く、ただ歩く」

い、いや、それだけじゃねえ

あいつらは、俺が、今までに関わったすべての人間……なのか?

「歩く、歩く」

や、やめろ、来るな!

「ひたすら歩く」

す、すまない、俺が、俺が悪かったんだ!

「歩く、歩く」

や、やめろ

来るな、来るなァーーーーー!

110: 2013/10/19(土) 23:38:30 ID:hUXvm6Ds
「ただ、歩く」

111: 2013/10/19(土) 23:42:17 ID:hUXvm6Ds
―――

「……」

「あんたはいっつも暗いねぇ」

「……どうせ、僕はお前には敵わない」

「僕は、みんなよりも劣っているんだ」

「しかも思い込みが激しいし……」

「もっと気楽に生きたらどーよ」

「……僕に、生きる価値なんてあるのか?」

「大ありだって」

「だってはっきりとは見えなくても、霊視ができるんでしょ?」

「なら、大ありじゃないの」

「……その手の職業に就くにしても、だ」

「ぼんやりとしか見えない僕にそれが務まるか……?」

「世の中、やってみれば大抵はどうにかなるものよ?」

「……そんなわけ」

「自分を否定する前に、まず行動してみなよ」

「……青年」

112: 2013/10/19(土) 23:43:23 ID:hUXvm6Ds
「……さん、青年さん!」

青年 「……ッ」

姉 「青年さん、苦しんで……?」

青年 「……いや、何でもないよ」

姉 「そ、そうですか……?」

青年 「ああ……」

113: 2013/10/19(土) 23:44:07 ID:hUXvm6Ds
男性 「」

姉 「……お父さん、ぴくりとも動きません」

青年 「僕に備わっている記憶を弄る力で、彼を廃人にしたのさ」

姉 「……それは、どういう」

青年 「……気が向いたら、いつか話すよ」

青年 「僕も、この力に関してはぼんやりとしか覚えていないからさ」

姉 「……はぁ」

114: 2013/10/19(土) 23:55:19 ID:hUXvm6Ds
姉 「……兎にも角にも」

姉 「やっと、終わったんですね」

青年 「……ああ」

姉 「……弟は、こんなところに居たんですね」

青年 「……埋葬、するかい?」

姉 「……」 ギュッ

弟だったモノ 「」

115: 2013/10/19(土) 23:56:08 ID:hUXvm6Ds
青年 「……ただの屍のようだ」

姉 「……返事ぐらい、してよ……」

姉 「ねえ、弟……」

姉 「……昔みたいに、わたしに笑いかけて?」 ポロポロ

姉 「……一緒に遊んだり、一緒に勉強したり、一緒に寝たり」

姉 「また、昔みたいに過ごそうよ……?」

姉 「昔みたいに、わたしと話そうよ……?」

姉 「ねぇ……」

姉 「どうして、起きてくれないの……?」

青年 「……氏者は、生き返らないよ」

姉 「……弟、おとうとぉ……」 ボロボロ

116: 2013/10/19(土) 23:59:57 ID:hUXvm6Ds
-数日後-

――昨夜、山奥に男性と複数の氏体が発見され……

姉 「さっそく、報道されてますね」

青年 「みたいだね」

――警察は、一連の行方不明事件と男性の関連を……

姉 「……あの女の子のお友達も見つかって、一安心です」

青年 「彼が成仏したお陰で、呪いが解けたからだろうね」

青年 「……まあ、間に合わなかった子ども達は気の毒だけど」

姉 「……」

青年 「後悔したって始まらない、僕たちは僕たちの仕事を果たすだけさ」

姉 「……そう、ですね」

117: 2013/10/20(日) 00:02:50 ID:3gYxZjbc
わたしは霊に触れるモノ

居てはならない霊に触れたり、語りかけたりして

穏やかな気持ちで最期を迎えて成仏するよう、手助けするモノ

この世界には、氏と霊が溢れてて

その霊が、世界を脅かすこともあるわけで

故に、わたしは今日も働くわけです

どんな困難が降りかかってこようとも

わたしは歩いて、歩いて、ひたすら歩いて

どんな深い悲しみに襲われようとも

歩き、歩き、ただただ歩き……

わたしは今日も、霊に語りかけます


fin

118: 2013/10/20(日) 00:08:09 ID:3gYxZjbc
まずおねシOタが書きたくなった
おねシOタを書いてたら幽霊を絡ませたくなった
幽霊絡ませてたら回収するかもわからない伏線を散らばせたくなった
それら全部をぶちこんだ結果がこれだよ!

伏線は気が向いたら回収するかもしれない
最後に、このSSにお付き合い頂いたすべての読者に心からの感謝を

ではノシッ

119: 2013/10/20(日) 01:36:59 ID:BTGO6MII
完結したか

乙カレー

120: 2013/10/20(日) 10:28:01 ID:gTJtNnNo
おつ

引用: 「歩く、歩く、ひたすら歩く」