122: 2010/05/23(日) 18:34:46.43 ID:I/CMBaEo
123: 2010/05/23(日) 18:35:55.87 ID:I/CMBaEo
夕暮れの学園都市――太陽は並び立つ高層ビルのかげに落ち。
その赤くやさしい光をビルの窓が反射し、その町を美しく染めあげる。
そんな黄昏時に、一人の少年と少女が歩いていた。
少年はその白い髪と肌に夕日の光を受け、その体は夕日の色に染まり、
黄昏時の町の景色に溶け込み。その赤い瞳の奥には夕日を映す。
その隣、頭から飛び跳ねたクセ毛をぴょこぴょこと揺らしながら少年の横を歩く少女。
その柔らかな横顔はほのかに赤みを帯びており、夕日の光を受けてより一層その色を際立たせる。
肩の辺りまで伸ばした茶色い髪は光を反射し、きらきらとやさしくきらめく。
少女は隣を歩く少年を見上げ、覗き込むように言う。
「今日の夕飯もコンビニ弁当?そんなんじゃ体壊しちゃうよ、ってミサカはミサカは育ち盛りの自分の体を心配してみる」
少年はめんどくさそうに視線を落とし、下から覗き込むようにして首を傾げる少女の瞳を見る。
少女と出会ってから数週間、少年と少女は同じマンションの一室に暮らしている。
その赤くやさしい光をビルの窓が反射し、その町を美しく染めあげる。
そんな黄昏時に、一人の少年と少女が歩いていた。
少年はその白い髪と肌に夕日の光を受け、その体は夕日の色に染まり、
黄昏時の町の景色に溶け込み。その赤い瞳の奥には夕日を映す。
その隣、頭から飛び跳ねたクセ毛をぴょこぴょこと揺らしながら少年の横を歩く少女。
その柔らかな横顔はほのかに赤みを帯びており、夕日の光を受けてより一層その色を際立たせる。
肩の辺りまで伸ばした茶色い髪は光を反射し、きらきらとやさしくきらめく。
少女は隣を歩く少年を見上げ、覗き込むように言う。
「今日の夕飯もコンビニ弁当?そんなんじゃ体壊しちゃうよ、ってミサカはミサカは育ち盛りの自分の体を心配してみる」
少年はめんどくさそうに視線を落とし、下から覗き込むようにして首を傾げる少女の瞳を見る。
少女と出会ってから数週間、少年と少女は同じマンションの一室に暮らしている。
124: 2010/05/23(日) 18:37:30.69 ID:I/CMBaEo
「ンなこと言ったって、俺は料理なンざこれっぽっちもできねェンだからしかたねェだろうがァ」
それだけ言うと少年はすぐに視界を前へ戻し、頭を掻く。
そんな少年にあきれた様に少女はため息をつく。
「あなただってまだまだ若いんだから、そんな内からコーヒーとコンビニ弁当ばかりの食事なんて
絶対体によくないんだから! ってミサカはミサカは健康に気を使う出来る女アピールをしてみたり!」
少女は陽気な声でそういったが、その瞳は確かにその少年のことを心配していたが。
本当のところはコンビニ弁当ばかりの食生活に嫌気が差してきた、というところだろう。
少年達は病院を退院してからの一週間、毎日の食事はコンビニ弁当か近所のファミレスで食事を済ませていた。
最初のうちはファミレスでの食事を喜んでいた少女も、さすがに飽き飽きしてきたようだ。
少年はそんな少女を見て困ったように頭を掻き、ふと何かを思い出したように呟く。
「そういやァ……打ち止めァ、オマエ確かまえは自分で朝飯作ってたよなァ……?」
そう、その少女、打ち止めはとある理由により、今の人格になる前には自分で朝食の準備をしていた。
別に少年に作れと言われたわけでもなく、自主的に自分の朝食を作っていたのだ。
とはいえ、その内容はフライドエッグやトースト、サラダなどといった簡単なものであったし、
昼食や夕食は基本的に今と同じく、出来合いのコンビニ弁当や近くのファミレスなどで済ませていたが。
「最近じゃァ朝食も自分で作らなくなったよなァ……まさか人格データが変わったからもう出来ませンって言うのかァ?」
それだけ言うと少年はすぐに視界を前へ戻し、頭を掻く。
そんな少年にあきれた様に少女はため息をつく。
「あなただってまだまだ若いんだから、そんな内からコーヒーとコンビニ弁当ばかりの食事なんて
絶対体によくないんだから! ってミサカはミサカは健康に気を使う出来る女アピールをしてみたり!」
少女は陽気な声でそういったが、その瞳は確かにその少年のことを心配していたが。
本当のところはコンビニ弁当ばかりの食生活に嫌気が差してきた、というところだろう。
少年達は病院を退院してからの一週間、毎日の食事はコンビニ弁当か近所のファミレスで食事を済ませていた。
最初のうちはファミレスでの食事を喜んでいた少女も、さすがに飽き飽きしてきたようだ。
少年はそんな少女を見て困ったように頭を掻き、ふと何かを思い出したように呟く。
「そういやァ……打ち止めァ、オマエ確かまえは自分で朝飯作ってたよなァ……?」
そう、その少女、打ち止めはとある理由により、今の人格になる前には自分で朝食の準備をしていた。
別に少年に作れと言われたわけでもなく、自主的に自分の朝食を作っていたのだ。
とはいえ、その内容はフライドエッグやトースト、サラダなどといった簡単なものであったし、
昼食や夕食は基本的に今と同じく、出来合いのコンビニ弁当や近くのファミレスなどで済ませていたが。
「最近じゃァ朝食も自分で作らなくなったよなァ……まさか人格データが変わったからもう出来ませンって言うのかァ?」
125: 2010/05/23(日) 18:40:17.66 ID:I/CMBaEo
少年は歩を進める足を止め、急に止まったことにより自分より一歩先のところで止まった打ち止めを
じろりと湿った目線で見つめ、そう問いただす。打ち止めはその視線に耐え切れず、目を逸らすが、
少年は何も言わずにそんな打ち止めを睨み続ける。
しばらく心の中でその視線との格闘を続けた打ち止めだが、一分、二分と絶え間なく注がれる視線に耐え切れなくなったのか。
三分も経った頃には、冷や汗を垂らしばつが悪そうな顔をして静かに視線を戻し、少年の湿った目を見る。
「うぅ……それはそのぅ……だ、だって一応知識はあるけど、なんていうか……その……」
「めンどくさいってかァ?」
打ち止めの言葉に少年が割って入ると、少女はギクッっという効果音が聞こえてきそうな勢いで体を跳ねる。
その動きに合わせて頭のクセ毛が軽快なリズムを刻む。
「ケッ、どうせそンなこったろうと思ってたぜ。まぁ普通のガキは自分で自分の飯なンざァ作らねェだろうしなァ」
図星を付かれ、ぷるぷると震える打ち止めに対して、少年はあきれたように言う。
別に、そんな打ち止めを責めるというわけではないのだろうが、その素振りは明らかに打ち止めを馬鹿にしているように見える。
そんな少年を見て、打ち止めは何度か口をぱくぱくと動かした後、取り繕うように早口で捲くし立てる。
「いや! 別に面倒だとかそういうんじゃなくって!確かにちょっと自分で作って自分で食べるってのは寂しいなぁと思うの、
ってミサカはミサカはいつもコーヒーだけしか飲まないあなたの隣で一人寂しく食べていた朝食の風景を思い出してみたり!
あれって結構寂しいんだよ! あなたはミサカに料理なんて作ってくれないし、ってミサカはミサカは……そうだ! たまにはミサカも
あなたがミサカのために愛情を込めて作ってくれた料理が食べてみたいな一方通行!!」
じろりと湿った目線で見つめ、そう問いただす。打ち止めはその視線に耐え切れず、目を逸らすが、
少年は何も言わずにそんな打ち止めを睨み続ける。
しばらく心の中でその視線との格闘を続けた打ち止めだが、一分、二分と絶え間なく注がれる視線に耐え切れなくなったのか。
三分も経った頃には、冷や汗を垂らしばつが悪そうな顔をして静かに視線を戻し、少年の湿った目を見る。
「うぅ……それはそのぅ……だ、だって一応知識はあるけど、なんていうか……その……」
「めンどくさいってかァ?」
打ち止めの言葉に少年が割って入ると、少女はギクッっという効果音が聞こえてきそうな勢いで体を跳ねる。
その動きに合わせて頭のクセ毛が軽快なリズムを刻む。
「ケッ、どうせそンなこったろうと思ってたぜ。まぁ普通のガキは自分で自分の飯なンざァ作らねェだろうしなァ」
図星を付かれ、ぷるぷると震える打ち止めに対して、少年はあきれたように言う。
別に、そんな打ち止めを責めるというわけではないのだろうが、その素振りは明らかに打ち止めを馬鹿にしているように見える。
そんな少年を見て、打ち止めは何度か口をぱくぱくと動かした後、取り繕うように早口で捲くし立てる。
「いや! 別に面倒だとかそういうんじゃなくって!確かにちょっと自分で作って自分で食べるってのは寂しいなぁと思うの、
ってミサカはミサカはいつもコーヒーだけしか飲まないあなたの隣で一人寂しく食べていた朝食の風景を思い出してみたり!
あれって結構寂しいんだよ! あなたはミサカに料理なんて作ってくれないし、ってミサカはミサカは……そうだ! たまにはミサカも
あなたがミサカのために愛情を込めて作ってくれた料理が食べてみたいな一方通行!!」
126: 2010/05/23(日) 18:42:29.28 ID:I/CMBaEo
あせりによってだんだんと言っていることが本筋からずれて行っていることに、打ち止め本人は気づいている様子はない。
なおもその小さな体をせわしなく動かし、身振り手振りで言い訳を続ける打ち止めを視界の隅に収め、
少年、一方通行はビルの隙間から光をこぼす夕日を見つめる。
あぁ、夕暮れの学園都市の街並みというのも悪いものじゃない、そんなどうでもいいことを考える。
「……ハァ、俺が料理だァ?」
打ち止めはあいも変わらず言い訳を続け、今現在ではなぜか一方通行の手料理についての考察を語っている。
決してその小さな胃袋に、彼の手料理が収まることはないのに、と、一方通行はあきれ返る。
そもそも先ほど、自分は自分で料理が出来ないとこの少女に伝えたばかりではないかと。
「そう!別に上手じゃなくてもあなたが作ってくれるってことに意味があるの!ってミサカはミサカは
愛情こそが最高の調味料なのよってドラマの台詞を真似して見る!」
そろそろ本人も話の流れが可笑しくなっていることに気づいてきたらしい。
だんだんとその瞳に焦りの色が濃くなっていく。道行く学生達はそんな打ち止めを見ながらくすくすと微笑む。
「おい打ち止め、そろそろ落ち着きやがれェ」
流石にこれ以上ほったらかしにしておくと、この少女は何を言い出すか分からない。
そう思い一方通行は世話しなく体を揺らす打ち止めの小さなその頭をガシガシと乱暴に撫でる。
なおもその小さな体をせわしなく動かし、身振り手振りで言い訳を続ける打ち止めを視界の隅に収め、
少年、一方通行はビルの隙間から光をこぼす夕日を見つめる。
あぁ、夕暮れの学園都市の街並みというのも悪いものじゃない、そんなどうでもいいことを考える。
「……ハァ、俺が料理だァ?」
打ち止めはあいも変わらず言い訳を続け、今現在ではなぜか一方通行の手料理についての考察を語っている。
決してその小さな胃袋に、彼の手料理が収まることはないのに、と、一方通行はあきれ返る。
そもそも先ほど、自分は自分で料理が出来ないとこの少女に伝えたばかりではないかと。
「そう!別に上手じゃなくてもあなたが作ってくれるってことに意味があるの!ってミサカはミサカは
愛情こそが最高の調味料なのよってドラマの台詞を真似して見る!」
そろそろ本人も話の流れが可笑しくなっていることに気づいてきたらしい。
だんだんとその瞳に焦りの色が濃くなっていく。道行く学生達はそんな打ち止めを見ながらくすくすと微笑む。
「おい打ち止め、そろそろ落ち着きやがれェ」
流石にこれ以上ほったらかしにしておくと、この少女は何を言い出すか分からない。
そう思い一方通行は世話しなく体を揺らす打ち止めの小さなその頭をガシガシと乱暴に撫でる。
127: 2010/05/23(日) 18:45:07.61 ID:I/CMBaEo
「むぅ! 大体あなたももう少しミサカの健康のことをもっと考えてくれてもいいんじゃないかな、ってミサカはミサカは
自分もまだまだ育ち盛りであることを再度主張してみる!」
「はいはいィ、そうですねェ育ち盛り育ち盛りィ。そのちっせェ体が少しでも大きくなるといいなァ?」
口ではそういいながらも、一方通行は少し真剣に自分と打ち止めの食生活について考えてみる。
確かに打ち止めの体はまだまだ育ち盛りの年齢。
今までは手間がかかり面倒だという理由だけでろくに料理などしたことはないし。
自分1人ならそれで何も問題はないと思っていた。
しかし打ち止めは、やはりしっかりとした物を食べ、健康に気を使うべきなのではないだろうか。
彼女たち妹達の体はただでさえ普通の人間と比べ不安定なのだから。
「ふン……料理、かァ……」
しばらく考えた後、一方通行はくるりと踵を返し、コンビニとは別の方向へ歩き出す。
「え? ちょ、ちょっとまって! どこへ行くの!? ってミサカはミサカは急に歩きだしたあなたを追いかける!」
急に置いてきぼりにされた打ち止めが慌てて一方通行の背中を追いかける。
一方通行はそんな打ち止めのことを忘れきってしまったように、なにやらぶつぶつと呟きながら、ひたすらどこかへ向かって歩を進める。
「ねぇねぇ、あなたは一体どこへ向かってるの? いつものコンビニはこっちじゃないよ!ってミサカはミサカは――」
自分もまだまだ育ち盛りであることを再度主張してみる!」
「はいはいィ、そうですねェ育ち盛り育ち盛りィ。そのちっせェ体が少しでも大きくなるといいなァ?」
口ではそういいながらも、一方通行は少し真剣に自分と打ち止めの食生活について考えてみる。
確かに打ち止めの体はまだまだ育ち盛りの年齢。
今までは手間がかかり面倒だという理由だけでろくに料理などしたことはないし。
自分1人ならそれで何も問題はないと思っていた。
しかし打ち止めは、やはりしっかりとした物を食べ、健康に気を使うべきなのではないだろうか。
彼女たち妹達の体はただでさえ普通の人間と比べ不安定なのだから。
「ふン……料理、かァ……」
しばらく考えた後、一方通行はくるりと踵を返し、コンビニとは別の方向へ歩き出す。
「え? ちょ、ちょっとまって! どこへ行くの!? ってミサカはミサカは急に歩きだしたあなたを追いかける!」
急に置いてきぼりにされた打ち止めが慌てて一方通行の背中を追いかける。
一方通行はそんな打ち止めのことを忘れきってしまったように、なにやらぶつぶつと呟きながら、ひたすらどこかへ向かって歩を進める。
「ねぇねぇ、あなたは一体どこへ向かってるの? いつものコンビニはこっちじゃないよ!ってミサカはミサカは――」
128: 2010/05/23(日) 18:48:31.59 ID:I/CMBaEo
「――料理する」
その歩みの向かう先を問いただそうとした打ち止めの言葉をさえぎって一方通行が言う。
打ち止めはふいの一言に言葉を失い、引きつった笑みを浮かべ、その場に立ち止まってしまう。
「え、えぇぇぇ!? あなたいま料理するって言った? ってミサカはミサカはまさか本気にされると思ってなくて
不測の事態に動転したり!」
やっとのことでそう叫ぶ、急に大声を出したため道行く何人かの学生が視線を向ける。
先を歩いていた一方通行は振り返り、すぐさま打ち止めの目の前へと歩み寄ると怪しい笑みを浮かべて囁く。
「いきなり大声だしてンじゃねェよクソガキ、周りに変な目で見られンじゃねェですかァ」
耳元で囁かれ、不覚にも微弱に心拍数があがってしまった打ち止めは、夕日の光があたる場所に一歩下がり、
赤く染まった頬の色をごまかす。
「そ、そもそもあなたは料理ができないんじゃないの? ってミサカはミサカはさっきのあなたの言葉を思い出してみる」
慌てる打ち止めの言葉を受けて、一歩通行は不敵な笑みを浮かべながら自信たっぷりに宣言する。
「心配すンなァ、学園都市第1位、一方通行にできねェことはねェ」
「あ、あはは……」
打ち止めの引きつった笑みに、冷や汗が一筋つたう。
そんな打ち止めとは対照的に、一歩通行はなにやら楽しげに歩き始める。
129: 2010/05/23(日) 18:51:21.87 ID:I/CMBaEo
とあるマンションの一室、一方通行の部屋のリビングで打ち止めはソファに座り、なにやらソワソワと
落ち着きなく肩を揺らす。時折、キッチンのほうへ視線を向けてはため息をつく。
キッチンの方からは、規則的な、しかし時々調子の外れた包丁の音が聞こえてくる。
「だ、大丈夫かな、ってミサカはミサカはかつてない不安を感じてみたり」
グツグツと鍋の煮えたぎる音が聞こえてきて、しばらくするとスパイスのいい香りがリビングまで漂ってくる。
打ち止めはその匂いを嗅ぎ、不安でいっぱいのその心中とは打って変わって、その小さな胃袋は空腹を告げる。
「うぅ、それでもお腹は減っちゃうんだからぁ……」
打ち止めの育ち盛りのその体は、空腹を感じ食べ物を求める。
その欲求に押されるようにして、不安がだんだんと押しのけられていくのを感じるが。
それでもキッチンからなにか物音が聞こえて来る度に、その不安は押し戻されてくる。
打ち止めは思い返す、今現在のこの状況、その原因となった会話。
つい先刻、まだ夕日がビルの合間からその顔を覗かせていた頃、コンビニへと向かう途中の会話。
「なんであんなこと言っちゃったかなぁ……ってミサカはミサカは後悔先に立たずをこの身を持って体感してみる」
突如、料理をすると言い出した一方通行は、コンビニへ向かう足を止め、そのまま近所のスーパーへと向かった。
そこで何が食べたいかと聞かれた打ち止めは、とりあえず失敗の少ないカレーを頼んだのだが……。
「それでもやっぱり不安かも……」
落ち着きなく肩を揺らす。時折、キッチンのほうへ視線を向けてはため息をつく。
キッチンの方からは、規則的な、しかし時々調子の外れた包丁の音が聞こえてくる。
「だ、大丈夫かな、ってミサカはミサカはかつてない不安を感じてみたり」
グツグツと鍋の煮えたぎる音が聞こえてきて、しばらくするとスパイスのいい香りがリビングまで漂ってくる。
打ち止めはその匂いを嗅ぎ、不安でいっぱいのその心中とは打って変わって、その小さな胃袋は空腹を告げる。
「うぅ、それでもお腹は減っちゃうんだからぁ……」
打ち止めの育ち盛りのその体は、空腹を感じ食べ物を求める。
その欲求に押されるようにして、不安がだんだんと押しのけられていくのを感じるが。
それでもキッチンからなにか物音が聞こえて来る度に、その不安は押し戻されてくる。
打ち止めは思い返す、今現在のこの状況、その原因となった会話。
つい先刻、まだ夕日がビルの合間からその顔を覗かせていた頃、コンビニへと向かう途中の会話。
「なんであんなこと言っちゃったかなぁ……ってミサカはミサカは後悔先に立たずをこの身を持って体感してみる」
突如、料理をすると言い出した一方通行は、コンビニへ向かう足を止め、そのまま近所のスーパーへと向かった。
そこで何が食べたいかと聞かれた打ち止めは、とりあえず失敗の少ないカレーを頼んだのだが……。
「それでもやっぱり不安かも……」
130: 2010/05/23(日) 18:54:03.08 ID:I/CMBaEo
しばらくの間心の中で、正直逃げ出したいという気持ちとの戦いを続けていると、一方通行が二つの皿を持ってリビングへと戻ってきた。
「オラ打ち止め、カレー(?)が出来たぞォ」
なぜカレーという単語に疑問符が付くのかと甚だ疑問だが、ひとまず見た目は普通のカレーが出てきた。
一方通行は打ち止めの横に座るとそのカレーを自分と打ち止めの前に置く。
コトン、と音を立てておかれたカレー、白いご飯はキレイに炊けているようだ。
ほかほかと白い湯気を立てながら、カレー特有の食欲を誘う香辛料の香りが鼻に付く。
カレーの具にはにんじんやジャガイモなどのごくごく普通の野菜が、多少大雑把ながら打ち止めにも食べやすい大きさに切られている。
少々肉が多めに入っているように見えるのは、一方通行の個人的な趣向なのだろう。
「よし、食うぞォ」
「う、うん……」
「オラ打ち止め、カレー(?)が出来たぞォ」
なぜカレーという単語に疑問符が付くのかと甚だ疑問だが、ひとまず見た目は普通のカレーが出てきた。
一方通行は打ち止めの横に座るとそのカレーを自分と打ち止めの前に置く。
コトン、と音を立てておかれたカレー、白いご飯はキレイに炊けているようだ。
ほかほかと白い湯気を立てながら、カレー特有の食欲を誘う香辛料の香りが鼻に付く。
カレーの具にはにんじんやジャガイモなどのごくごく普通の野菜が、多少大雑把ながら打ち止めにも食べやすい大きさに切られている。
少々肉が多めに入っているように見えるのは、一方通行の個人的な趣向なのだろう。
「よし、食うぞォ」
「う、うん……」
131: 2010/05/23(日) 18:56:25.54 ID:I/CMBaEo
一方通行はそういうと、打ち止めがカレーを食べるのを待つように、何も言わずジッとその手元を見つめる。
打ち止めはそんな視線に耐え切れず、意を決してスプーンを手に取る。
目の前に置かれた一方通行作のカレー、見たところは何の変哲もないカレー。
「いただきます、ってミサカはミサカはあなたの好意を無駄にしないように頑張ってみる……ッ!」
そもそもカレーを作るうえでそう簡単に変な失敗はしないだろう。
そう思い、ゴクリと喉を鳴らし、スプーンでカレーを掬い、一気に口に含む。
「――苦い」
一方通行の料理したキッチンには、空になったいくつもの缶コーヒーが転がっていた。
打ち止めはそんな視線に耐え切れず、意を決してスプーンを手に取る。
目の前に置かれた一方通行作のカレー、見たところは何の変哲もないカレー。
「いただきます、ってミサカはミサカはあなたの好意を無駄にしないように頑張ってみる……ッ!」
そもそもカレーを作るうえでそう簡単に変な失敗はしないだろう。
そう思い、ゴクリと喉を鳴らし、スプーンでカレーを掬い、一気に口に含む。
「――苦い」
一方通行の料理したキッチンには、空になったいくつもの缶コーヒーが転がっていた。
132: 2010/05/23(日) 18:58:41.88 ID:I/CMBaEo
日も落ちた学園都市、一方通行と打ち止めは等間隔に並べられた街灯と月明かりが照らす夜道を歩いていた。
一方通行は少々不機嫌そうな顔をして、進める足はカツカツと苛立ちの音を鳴らす。
そんな一方通行の横を、げんなりとした表情で歩く打ち止めは、どこか頼りない足取りで一方通行の手を握る。
「ま、まだ怒ってるのかな? ってミサカはミサカは不機嫌そうなあなたに聞いてみる」
一方通行は不機嫌そうな表情を崩さずに答える。
「べっつにィ? 俺はなンにも気にしてなンかねェですよォ? だからオマエは何にも気にしねェで
ファミレスのおいしィドライフードでも食ってればいいンじゃねェですかァ?」
明らかに怒っている。
打ち止めが一方通行作のカレーを『こんな苦いカレー食べられないよ!』と言い放ったことから、
二人は予定を変更して、近くのファミレスへ夕飯を食べに行くことにした。
マンションの部屋には、鍋の中に大量に残された罪無きコーヒーカレーが物言わぬ住人として悲しく鎮座していた。
打ち止めはため息をつき、一方通行の手を一際強く握り締める。
「本当にごめんなさい、謝るから機嫌を直して? ってミサカはミサカはあなたのそんな顔は見たくないかも……」
一方通行は少々不機嫌そうな顔をして、進める足はカツカツと苛立ちの音を鳴らす。
そんな一方通行の横を、げんなりとした表情で歩く打ち止めは、どこか頼りない足取りで一方通行の手を握る。
「ま、まだ怒ってるのかな? ってミサカはミサカは不機嫌そうなあなたに聞いてみる」
一方通行は不機嫌そうな表情を崩さずに答える。
「べっつにィ? 俺はなンにも気にしてなンかねェですよォ? だからオマエは何にも気にしねェで
ファミレスのおいしィドライフードでも食ってればいいンじゃねェですかァ?」
明らかに怒っている。
打ち止めが一方通行作のカレーを『こんな苦いカレー食べられないよ!』と言い放ったことから、
二人は予定を変更して、近くのファミレスへ夕飯を食べに行くことにした。
マンションの部屋には、鍋の中に大量に残された罪無きコーヒーカレーが物言わぬ住人として悲しく鎮座していた。
打ち止めはため息をつき、一方通行の手を一際強く握り締める。
「本当にごめんなさい、謝るから機嫌を直して? ってミサカはミサカはあなたのそんな顔は見たくないかも……」
133: 2010/05/23(日) 19:01:44.00 ID:I/CMBaEo
打ち止めの肩がしゅんと縮こまる。頭のクセ毛がひょろりと元気なくしおれる。
そんな打ち止めを見て、一方通行は立ち止まり頭をぽりぽりと掻きながら、打ち止めの頭をガシガシと乱暴になでる。
「こンなくだらねェことでいちいち落ち込ンでンじゃねェよ。
本当に気にしてねェっつゥの、ただ料理の一つもできねェ自分が情けねェだけだよォ」
打ち止めはガシガシと撫でられる頭を手を繋いだ方と逆の手で押さえながら言う。
「本当に怒ってないの? よかったぁ、あなたって無口になると怖いんだから、ってミサカはミサカは
さっきまでのあなたの仏頂面を思い出してみたり」
「そいつはわるゥございましたァ、もともとこういうツラなンだよォ。」
打ち止めの頭から手を離すと、機嫌を直したようにいつものやさしい表情に戻り、再び歩き出す一方通行。
打ち止めはくしゃくしゃに乱れた髪を整えながら、照れ隠しのような笑顔でその横を歩く。
そんな打ち止めを見て、一方通行は立ち止まり頭をぽりぽりと掻きながら、打ち止めの頭をガシガシと乱暴になでる。
「こンなくだらねェことでいちいち落ち込ンでンじゃねェよ。
本当に気にしてねェっつゥの、ただ料理の一つもできねェ自分が情けねェだけだよォ」
打ち止めはガシガシと撫でられる頭を手を繋いだ方と逆の手で押さえながら言う。
「本当に怒ってないの? よかったぁ、あなたって無口になると怖いんだから、ってミサカはミサカは
さっきまでのあなたの仏頂面を思い出してみたり」
「そいつはわるゥございましたァ、もともとこういうツラなンだよォ。」
打ち止めの頭から手を離すと、機嫌を直したようにいつものやさしい表情に戻り、再び歩き出す一方通行。
打ち止めはくしゃくしゃに乱れた髪を整えながら、照れ隠しのような笑顔でその横を歩く。
136: 2010/05/23(日) 19:37:56.21 ID:I/CMBaEo
「――ン?」
ふと一方通行は足を止め、近くの路地裏の奥へと赤い視線を向ける。
「どうかしたの? ファミレスはまだ先だよ? ってミサカはミサカは急に立ち止まったあなたに呼びかけてみたり」
打ち止めは頭上に疑問符を浮かべながら、一方通行の視線の先、深い闇に包まれた路地裏に眼を向ける。
「あそこに何かあるの? あっ! もしかして猫ちゃんか何かかな、ってミサカはミサカは――」
「オイ打ち止めァ、ちょっとそこの自販機の前で待ってろォ。すぐに戻る……勝手に動くンじゃねェぞ」
「え? ちょ、ちょっと待ってよ! ってミサカはミサカは本当は追いかけたいけど待ってろって言われたから動けないジレンマー!!」
一方通行は打ち止めを街灯の照らす表通りに残すと、足早に暗闇の中へとその白い体を消す。
打ち止めはその姿が見えなくなるまで見つめると、仕方なく言われたとおりにすぐ近くの自販機の前で火花を散らして遊んで待つことにした。
月明かりと自販機の無機質な明かりの中、その火花が妙に暖かく感じた。
「まったくもう、あの人は本当に優しいのか冷たいのかわかんないなぁ……」
小さな火花が散る、二つの小さな火花を、細く白い閃光が繋いだ。
その姿がなんだか微笑ましくて、頬が緩んだ。
視線を一方通行の消えていった路地裏の奥へと向ける。
「でも、あの人のそんな不器用なところが好きなんだけどね、ってミサカはミサカは一人寂しく大胆告白っ!」
ふと一方通行は足を止め、近くの路地裏の奥へと赤い視線を向ける。
「どうかしたの? ファミレスはまだ先だよ? ってミサカはミサカは急に立ち止まったあなたに呼びかけてみたり」
打ち止めは頭上に疑問符を浮かべながら、一方通行の視線の先、深い闇に包まれた路地裏に眼を向ける。
「あそこに何かあるの? あっ! もしかして猫ちゃんか何かかな、ってミサカはミサカは――」
「オイ打ち止めァ、ちょっとそこの自販機の前で待ってろォ。すぐに戻る……勝手に動くンじゃねェぞ」
「え? ちょ、ちょっと待ってよ! ってミサカはミサカは本当は追いかけたいけど待ってろって言われたから動けないジレンマー!!」
一方通行は打ち止めを街灯の照らす表通りに残すと、足早に暗闇の中へとその白い体を消す。
打ち止めはその姿が見えなくなるまで見つめると、仕方なく言われたとおりにすぐ近くの自販機の前で火花を散らして遊んで待つことにした。
月明かりと自販機の無機質な明かりの中、その火花が妙に暖かく感じた。
「まったくもう、あの人は本当に優しいのか冷たいのかわかんないなぁ……」
小さな火花が散る、二つの小さな火花を、細く白い閃光が繋いだ。
その姿がなんだか微笑ましくて、頬が緩んだ。
視線を一方通行の消えていった路地裏の奥へと向ける。
「でも、あの人のそんな不器用なところが好きなんだけどね、ってミサカはミサカは一人寂しく大胆告白っ!」
137: 2010/05/23(日) 19:40:29.66 ID:I/CMBaEo
打ち止めの視線の先、闇に遮られたその先に一方通行は立っていた。
周りには数人の男が気を失い倒れている。しかし、その中の誰一人として一切の傷を負ってはいない。
「――ったく、めンどくせェなァオイ」
一方通行は足元の男の服をつかみ、軽々と持ち上げると、邪魔にならないよう路地裏の隅へと投げる。
それなりの勢いで投げられた男の体はしかし、音もなくやわらかに地面へと落ちる。
「そンでェ? オマエはそンな真似してどうしようってンだァ?」
投げ捨てた男を一瞥した後、一方通行の赤い瞳が、ただ一人目の前に立つ男へと向けられる。
男は荒い息遣いで常盤台中学の制服を着た少女を捕まえ、盾にするようにしてその顔にナイフを向ける。
少女は恐怖に振るえ、その瞳からは涙が溢れている。
「た、助けてください……」
恐怖に震えながら口をパクパクと動かし、おびえた声で何とかそれだけ搾り出す。
男は手に持ったナイフを一方通行へと向け、かすれた声で叫ぶ。
「そ、それ以上近づくんじゃねぇぞこの化け物が! この女がどうなってもいいのか!?」
周りには数人の男が気を失い倒れている。しかし、その中の誰一人として一切の傷を負ってはいない。
「――ったく、めンどくせェなァオイ」
一方通行は足元の男の服をつかみ、軽々と持ち上げると、邪魔にならないよう路地裏の隅へと投げる。
それなりの勢いで投げられた男の体はしかし、音もなくやわらかに地面へと落ちる。
「そンでェ? オマエはそンな真似してどうしようってンだァ?」
投げ捨てた男を一瞥した後、一方通行の赤い瞳が、ただ一人目の前に立つ男へと向けられる。
男は荒い息遣いで常盤台中学の制服を着た少女を捕まえ、盾にするようにしてその顔にナイフを向ける。
少女は恐怖に振るえ、その瞳からは涙が溢れている。
「た、助けてください……」
恐怖に震えながら口をパクパクと動かし、おびえた声で何とかそれだけ搾り出す。
男は手に持ったナイフを一方通行へと向け、かすれた声で叫ぶ。
「そ、それ以上近づくんじゃねぇぞこの化け物が! この女がどうなってもいいのか!?」
138: 2010/05/23(日) 19:43:24.41 ID:I/CMBaEo
「化け物」という言葉に一方通行がぴくりと反応する。
口の端を醜く吊り上げ、その視線により一層強い殺意を込めて、一歩、また一歩と目の前の男へと近づいていく。
ジャリ、ジャリ、と小さな足音が閉ざされた空間に響く。
「あァ、残念だったなァオイ? オマエの言う通り俺は化け物だからよォ?
……そいつがどうなろうが知ったこっちゃねェンだわ」
一方通行が手を広げ、男をあざ笑うかのように語りかける。
一歩一歩、少しずつその距離が縮んで行く、一方通行が近づくにつれ、男の顔が焦りと恐怖の色に染まっていく。
「――ッ! テメェ!!」
男がその手に握ったナイフを少女へと突き立て、振りかぶる。
「――ヒッ!?」
少女の息を呑むような小さな叫び声、その瞳には狂気の色に光るナイフの切っ先が映る。
その切っ先が少女の首筋に触れ、その柔肌へと食い込む刹那、その刀身は音もなく路地裏の闇へと消え去る。
男と少女の間に、白い手が伸びていた。
口の端を醜く吊り上げ、その視線により一層強い殺意を込めて、一歩、また一歩と目の前の男へと近づいていく。
ジャリ、ジャリ、と小さな足音が閉ざされた空間に響く。
「あァ、残念だったなァオイ? オマエの言う通り俺は化け物だからよォ?
……そいつがどうなろうが知ったこっちゃねェンだわ」
一方通行が手を広げ、男をあざ笑うかのように語りかける。
一歩一歩、少しずつその距離が縮んで行く、一方通行が近づくにつれ、男の顔が焦りと恐怖の色に染まっていく。
「――ッ! テメェ!!」
男がその手に握ったナイフを少女へと突き立て、振りかぶる。
「――ヒッ!?」
少女の息を呑むような小さな叫び声、その瞳には狂気の色に光るナイフの切っ先が映る。
その切っ先が少女の首筋に触れ、その柔肌へと食い込む刹那、その刀身は音もなく路地裏の闇へと消え去る。
男と少女の間に、白い手が伸びていた。
139: 2010/05/23(日) 19:46:47.39 ID:I/CMBaEo
「だがァ、それでテメェがいい気になるっつゥのは癇に障るンだわァ?」
一方通行が笑う、赤い瞳が暗闇の中で光る。
男の目に映るその瞳は、血のように赤く、氏の恐怖を連想させる。
「う、ウラァァアッ!!!」
気が動転し、冷静さを失った男が、もはや刃も消えた柄だけのナイフを一方通行目掛けて振りかぶる。
一方通行が緩やかに、しかし人の目に映らぬほどの速さでその右腕を振るう。
白い右手が男の腕に触れる、赤い瞳を静かに閉じる。その瞬間男の両腕が跳ね上がり、少女の拘束が解かれる。
「おいオマエ、そこの表の自販機の前に茶髪のガキがいる」
一方通行の右手が男の顔をつかむ、それだけで男の体はいとも簡単に宙に浮く。
男は必氏にもがき抵抗するが、その手は一方通行に触れることすらかなわない。
「そいつのところまで走って逃げなァ」
少女は怯えきっており、最早喋る事もできず、震える足で言われたとおりに路地裏から駆け出る。
男が浮かび上がった足で一方通行を蹴りつける。
その瞬間そのつま先がゴキッ、と嫌な音を立て、男がうめき声を上げる。
「――オマエらには、ちィとばかし"お仕置き"が必要みてェだなァ?」
一方通行は楽しげに笑い、男をつかむその手に力を込める。
静かに開かれた赤い瞳に映る男の表情は、恐怖に染まっていた。
140: 2010/05/23(日) 19:49:29.37 ID:I/CMBaEo
路地裏から少し出たところ、表通りにある自販機の横のベンチに座って暇をもてあましていた打ち止めは、
ふと聞こえてきた足音に顔を上げ、視線を向ける。
「――ん? あなたはだぁれ? もしかして迷子さんかな? ってミサカはミサカは慌てた様子のあなたに声をかけてみる」
足音の主の少女は肩で呼吸をしながら、その両手を胸の前で固く握りしめ、その場にへたれこむ。
「だ、大丈夫!? 気分が悪いの!? ってミサカはミサカは慌てて駆け寄ってみたり!」
打ち止めはベンチから飛び降り、慌てて座り込んだ少女のもとへ駆け寄ると、どうしたらよいか分からず
とりあえずその背中を小さな手でさすってあげることにした。
「はぁ、はぁ……」
少女はしばらく荒い呼吸を繰り返した後、背中に感じる小さな暖かさにより、落ち着きを取り戻す。
呼吸が整ったのを確認して、打ち止めは少女の前にしゃがみ、その顔を覗き込む。
「もう大丈夫かな? 見たところお姉さまと同じ常盤台の学生さんみたいだけど、ってミサカはミサカは
こんな時間に常盤台の子が歩き回ってることに疑問を感じてみたり」
「あ……は、はい、ありがとうございます。もう大丈夫です。あ、あの……えぇっと、その……」
少女は打ち止めに何かを聞こうとするが、どうもうまく言葉が出ないようだった。
打ち止めは、とりあえず少女がうまく言葉を纏めることが出来るまで待つことにした。
ふと聞こえてきた足音に顔を上げ、視線を向ける。
「――ん? あなたはだぁれ? もしかして迷子さんかな? ってミサカはミサカは慌てた様子のあなたに声をかけてみる」
足音の主の少女は肩で呼吸をしながら、その両手を胸の前で固く握りしめ、その場にへたれこむ。
「だ、大丈夫!? 気分が悪いの!? ってミサカはミサカは慌てて駆け寄ってみたり!」
打ち止めはベンチから飛び降り、慌てて座り込んだ少女のもとへ駆け寄ると、どうしたらよいか分からず
とりあえずその背中を小さな手でさすってあげることにした。
「はぁ、はぁ……」
少女はしばらく荒い呼吸を繰り返した後、背中に感じる小さな暖かさにより、落ち着きを取り戻す。
呼吸が整ったのを確認して、打ち止めは少女の前にしゃがみ、その顔を覗き込む。
「もう大丈夫かな? 見たところお姉さまと同じ常盤台の学生さんみたいだけど、ってミサカはミサカは
こんな時間に常盤台の子が歩き回ってることに疑問を感じてみたり」
「あ……は、はい、ありがとうございます。もう大丈夫です。あ、あの……えぇっと、その……」
少女は打ち止めに何かを聞こうとするが、どうもうまく言葉が出ないようだった。
打ち止めは、とりあえず少女がうまく言葉を纏めることが出来るまで待つことにした。
141: 2010/05/23(日) 19:52:14.56 ID:I/CMBaEo
「あ、あの……さっきそこの路地で、えっと、白い男の人にここで待ってろって言われて……」
「白い人って絶対一方通行のことだよね……ねぇ、その人はその後どうしたの? ってミサカはミサカは
そろそろじっと待ってるのにも飽き飽きしてきたかも!」
打ち止めが一方通行のことを聞こうとしたとき、音もなく二人のもとへその張本人が戻ってきた。
一方通行は少女のそばに座る打ち止めを見ると、わしゃわしゃとやさしく頭を撫でる。
「よォ打ち止め、留守番ごくろうさン。ンで、オマエは大丈夫かァ? なンでこンな時間にあンなのに絡まれてたンだ?」
一方通行は一通り撫で回した後、打ち止めの頭をぽんぽんとやさしく叩くと、こちらを見つめている少女へ問いかける。
その赤い瞳と目が合った少女は、ふと頬を赤らめ視線をそらしてしまうが、失礼だと感じたのか、すぐに立ち上がり視線を戻す。
「え、えぇっとその、実は夕方ごろに道に迷っているところを先ほどの方々に声をかけられまして、それでそのぅ……」
「要するに騙されて襲われそうになってましたァってか」
「は、はい……」
少女は顔を赤らめる、恥ずかしさでその場にうつむいてしまう。
打ち止めはそんな少女の顔を下から覗き込み、首をかしげる。
142: 2010/05/23(日) 19:56:00.10 ID:I/CMBaEo
「まァ、常盤台の世間知らずなお嬢様じゃあ仕方ねェか。次からは気をつけろよォ?」
一方通行はそう言い捨てると、ぽん、と一度だけ俯く少女の頭に手を置き、そのまま歩き出す。
「あ! もぅ、あなたはすぐにそうやって何も言わずにさっさと言っちゃうんだからー!
ってミサカはミサカは頬を膨らませてあなたの後を付いていく!」
打ち止めもそれに続き、その場を去ろうとした瞬間、一人残された常盤台の少女が声をかける。
「――あ、あの」
なんとか搾り出した声は囁きかけるように小さな声だったが、一方通行はその声を聞き逃さなかった。
「なンだァ? もうガキが歩き回るような時間じゃねェぞ? さっさと寮に帰りなァ」
一方通行は振り返り、諭すように言う。
確かにもう完全下校時刻はとっくに過ぎ、街灯の照らす街並みに学生の影はほとんどない。
「あの、お名前を……お名前を教えて頂けませんか?」
少女は意を決してそう問いかける。握り締めた手が、少しだけ震えている。
一方通行はそんな少女の瞳を見つめ、少しだけ考えるそぶりを見せると、面倒臭そうにつぶやく。
「名前はねェ――どうしても呼びたいってンならァ一方通行って呼びなァ?」
143: 2010/05/23(日) 19:59:25.66 ID:I/CMBaEo
そんな少年を見て打ち止めはうれしそうに微笑む。
一方通行の手をぎゅっと握り、少女のほうを元気よく振り向く。
「ミサカの名前は打ち止めだよ! お姉さんのお名前はなぁに? ってミサカはミサカは聞いてみる!」
少女はうれしそうに微笑み、今度は落ち着いた様子で、柔らかな声で答える。
「わたくしは、常盤台中学一年生の湾内絹保と申します。一方通行様、助けていただいて本当に有難うございます」
湾内絹保はやさしくウェーブした明るい茶髪を揺らしながら頭を下げる。
一方通行は小さく頬を緩め一言だけ、「気にするな」とつぶやいた。
打ち止めはそんな二人の顔を交互に見つめると、湾内絹保の元へ歩み寄り、耳元で囁く。
「あの人ってあまりお友達がいないの、もしよかったらお友達になってあげて? ってミサカはミサカはお節介を焼いてみる」
打ち止めはそれだけ言うと耳元から離れ、満面の笑みを浮かべる。
湾内絹保はその表情につられ、お嬢様特有の、やわらかなおっとりとした笑みをこぼす。
「あの、もしよろしければ
そのやわらかな笑みを一方通行へと向ける。
「助けていただいたお礼をさせてはくださいませんか?」
一方通行の手をぎゅっと握り、少女のほうを元気よく振り向く。
「ミサカの名前は打ち止めだよ! お姉さんのお名前はなぁに? ってミサカはミサカは聞いてみる!」
少女はうれしそうに微笑み、今度は落ち着いた様子で、柔らかな声で答える。
「わたくしは、常盤台中学一年生の湾内絹保と申します。一方通行様、助けていただいて本当に有難うございます」
湾内絹保はやさしくウェーブした明るい茶髪を揺らしながら頭を下げる。
一方通行は小さく頬を緩め一言だけ、「気にするな」とつぶやいた。
打ち止めはそんな二人の顔を交互に見つめると、湾内絹保の元へ歩み寄り、耳元で囁く。
「あの人ってあまりお友達がいないの、もしよかったらお友達になってあげて? ってミサカはミサカはお節介を焼いてみる」
打ち止めはそれだけ言うと耳元から離れ、満面の笑みを浮かべる。
湾内絹保はその表情につられ、お嬢様特有の、やわらかなおっとりとした笑みをこぼす。
「あの、もしよろしければ
そのやわらかな笑みを一方通行へと向ける。
「助けていただいたお礼をさせてはくださいませんか?」
144: 2010/05/23(日) 20:02:07.93 ID:I/CMBaEo
夜の闇に紛れ、一方通行には分からなかったが。
その頬には暖かな赤みがさしていた。
一方通行は少女の足元でにやけている打ち止めを、一瞬だけジトリと睨むとすぐさま視線を上げ、目の前の少女を見る。
どうも打ち止めに変なことを入れ込まれたようだが、その瞳は純粋にお礼がしたいと思っているようだ。
「はァ、ったく……他人の好意は無駄にするもンじゃねェからなァ……」
一方通行は静かに歩み寄り、湾内絹保の前に立つ打ち止めを引き寄せながら言う。
「お礼だろうが何だろうが好きにしなァ? 」
湾内絹保の表情がパァッと明るくなる。
打ち止めはどうやらその結果に満足したように、クセ毛をぴょこぴょこと揺らして笑顔で頷く。
「ただしィ」
しかし、一方通行は釘を刺すように冷たく言う。
一体何を言われるのだろうか、と、湾内絹保は少し不安そうな表情を浮かべる。
「今日はもう遅いからなァ……礼とやらはまた今度だ」
一方通行はそれだけ言い、やさしく微笑むと携帯電話を取り出し、少女にも取り出すように無言でさとす。
連絡先を赤外線で送信し、再びジーパンのポケットに収めながら言う。
少女はしばらく、液晶画面に映る一方通行の連絡先を見つめると、小さくはにかむ。
その頬には暖かな赤みがさしていた。
一方通行は少女の足元でにやけている打ち止めを、一瞬だけジトリと睨むとすぐさま視線を上げ、目の前の少女を見る。
どうも打ち止めに変なことを入れ込まれたようだが、その瞳は純粋にお礼がしたいと思っているようだ。
「はァ、ったく……他人の好意は無駄にするもンじゃねェからなァ……」
一方通行は静かに歩み寄り、湾内絹保の前に立つ打ち止めを引き寄せながら言う。
「お礼だろうが何だろうが好きにしなァ? 」
湾内絹保の表情がパァッと明るくなる。
打ち止めはどうやらその結果に満足したように、クセ毛をぴょこぴょこと揺らして笑顔で頷く。
「ただしィ」
しかし、一方通行は釘を刺すように冷たく言う。
一体何を言われるのだろうか、と、湾内絹保は少し不安そうな表情を浮かべる。
「今日はもう遅いからなァ……礼とやらはまた今度だ」
一方通行はそれだけ言い、やさしく微笑むと携帯電話を取り出し、少女にも取り出すように無言でさとす。
連絡先を赤外線で送信し、再びジーパンのポケットに収めながら言う。
少女はしばらく、液晶画面に映る一方通行の連絡先を見つめると、小さくはにかむ。
145: 2010/05/23(日) 20:04:19.65 ID:I/CMBaEo
「はァ、もう大分遅くなっちまったなァ……しょうがねェ、寮まで送ってやる」
「へぇ~、ずいぶんと優しいんだね? ってミサカはミサカはもしかして満更でもなかったりするのかなって
あなたに微笑ましげな視線を送ってみたりぃぃいっ!?」
打ち止めの額に一方通行のでこピンが炸裂する。
打ち止めは小さく悲鳴を上げ、涙目になりながら赤くなった額を抑える。
「よ、よろしいんですか? わざわざ送っていただくなんて……」
湾内絹保は頬を赤く染め、戸惑いながらも身を乗り出して問いかける。
両手を胸の前で強く握り締める。その瞳は、喜びの色で輝いていた。
「このまま帰して、またさっきみたいなのに絡まれちまったら、目覚めがわりィしなァ」
一方通行は気恥ずかしそうに頭を掻く。
隠そうとしているようだが、その白い肌は相変わらず頬の赤みを強調してしまう。
146: 2010/05/23(日) 20:07:24.17 ID:I/CMBaEo
「まァなンだァ、とりあえずさっさとオマエの寮に行くぞォ、こっちは晩飯もまだ何ですよォ」
「あ、ありがとうございます! って、夕食はまだ食べてらっしゃらないのですか?」
「あのね、この人ってばカレーもまともに作れなかったから今からファミレスに食べに行くところだったの!
ってミサカはミサカはあのカレーの味を思い出して少しげんなりしてみたり」
あからさまに打ち止めのクセ毛がしおれる。
そんな打ち止めを不機嫌そうに睨みながら一方通行は愚痴をこぼす。
「うっせェなァ、大体料理なンざ出来なくても氏ぬわけじゃねェだろうがァ」
「でもでも、やっぱり自炊が出来ないと今後大変だと思うよ? ってミサカはミサカはあなたの今後が心配かも……」
二人のそんな会話を聞いて、湾内絹保は何かを思い立った。
「あ、あの……」
くだらないことで言い争う二人を交互に見つめ、湾内絹保がおずおずと言った様子で言葉をかける。
二人は言い争う口を止め、完全に同じ動きで少女のほうに振り向く。
急に振り返った二人にびくりと肩が跳ねる、二つの視線に見つめられ、顔を真っ赤に染めながら、
消え入るような、小さな声で呟いた。
「も、もしよろしければ、わたくしがあなた方に食事を作らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
147: 2010/05/23(日) 20:10:22.20 ID:I/CMBaEo
「――そンじゃあ、次からはあンなしょうもねェヤツラに絡まれねェよう気をつけろよォ?」
常盤台中学学生寮前、門の明かりで照らされた道で一方通行は湾内絹保に別れの言葉を言う。
ここまで送ってくる最中、彼女は一方通行の少し後ろを黙って付いてきていた。
打ち止めはそんな彼女にことあるごとに常盤台のことや超電磁砲のことなど、その瞳をギラギラと輝かせ、
うるさいくらいに話しかけていた。
彼女は打ち止めのあまりの勢いとその眼差しに、困っている様子だったが、あえて止めることはしなかった。
あまり喋りが得意ではない一方通行としては、そうやって後ろで騒いでいてくれたほうが
気を使わなくて楽だったのもあるが、打ち止めもたまには自分や医者以外の人間と話したいだろうと思った。
「またねお姉さん! 明日楽しみにしてるね! ってミサカはミサカは念には念をで約束を確認してみたり!」
打ち止めは楽しそうに湾内絹保の手を握り、ぶんぶんと振る。
先ほどの自販機の前で、打ち止めが彼女と勝手に明日の夕食を作る約束を早々と取り付けてしまったのだ、
打ち止めの期待に満ちた瞳で見つめられ、一方通行は仕方なくその話に乗ることにしたのだ。
実際のところ、内心多少楽しみに思っている自分がいることに気づいたが、
相手がお礼をしたいと言って来ているのだし、自分が料理を出来ないから仕方がないだけだ、と自分に言い聞かせた。
148: 2010/05/23(日) 20:13:22.92 ID:I/CMBaEo
湾内絹保は困ったように笑いながら、目線を打ち止めにあわせ、やさしく囁く。
「はい、美味しいお料理を作れるようにがんばらせて頂きます」
打ち止めはその言葉に満足したように満面の笑みで答える。
湾内絹保もそんな少女を愛らしく思ったのか、無意識のうちにその頭に手を伸ばす。
「――んっ」
その細い指が髪に触れると、打ち止めはぴくりと反応する。
湾内絹保は思わず伸ばした指を引っ込めるが、何も言わずその頭を差し出す打ち止めをみて、またその手を伸ばす。
その細い指でさらさらとした髪の毛をやさしく撫でる。寮の門灯の明かりで細い茶髪が絹糸のようにきらめく。
撫でているとほのかに、シャンプーの甘い香りがする。
「ん……えへへっ」
打ち止めは気持ちよさそうに目を瞑ってその頭を撫でられる。
一通り打ち止めの頭を撫でると、湾内絹保はぽん、とその頭に手を置いて気持ちよさそうな打ち止めに微笑む。
打ち止めも自分の頭を撫でる手が止まったのを感じて目を開けると、やはり嬉しそうに微笑む。
「満足したかァ?」
そんな微笑ましい二人を見ていた一方通行は、静かに声をかける。
湾内絹保はその声に反応し、顔を上げると、静かに立ち上がり頭を下げる。
やさしくウェーブした明るい茶髪が揺れる。
「わざわざここまで送っていただき有難うございました。」
「はい、美味しいお料理を作れるようにがんばらせて頂きます」
打ち止めはその言葉に満足したように満面の笑みで答える。
湾内絹保もそんな少女を愛らしく思ったのか、無意識のうちにその頭に手を伸ばす。
「――んっ」
その細い指が髪に触れると、打ち止めはぴくりと反応する。
湾内絹保は思わず伸ばした指を引っ込めるが、何も言わずその頭を差し出す打ち止めをみて、またその手を伸ばす。
その細い指でさらさらとした髪の毛をやさしく撫でる。寮の門灯の明かりで細い茶髪が絹糸のようにきらめく。
撫でているとほのかに、シャンプーの甘い香りがする。
「ん……えへへっ」
打ち止めは気持ちよさそうに目を瞑ってその頭を撫でられる。
一通り打ち止めの頭を撫でると、湾内絹保はぽん、とその頭に手を置いて気持ちよさそうな打ち止めに微笑む。
打ち止めも自分の頭を撫でる手が止まったのを感じて目を開けると、やはり嬉しそうに微笑む。
「満足したかァ?」
そんな微笑ましい二人を見ていた一方通行は、静かに声をかける。
湾内絹保はその声に反応し、顔を上げると、静かに立ち上がり頭を下げる。
やさしくウェーブした明るい茶髪が揺れる。
「わざわざここまで送っていただき有難うございました。」
149: 2010/05/23(日) 20:16:10.22 ID:I/CMBaEo
一方通行はそっけなく返事をすると、いまだに撫でられた余韻に浸っている打ち止めを見る。
「まぁこのガキも楽しかったみてェだし、お互い様だろォ、気にすンな」
打ち止めは一通り頭の上に残る余韻を満喫したあと、顔を上げる。
その大きな瞳はきらきらと光り、口の端は満足そうに緩みきっている。
「えへへ、お姉さんの手気持ちよかったよ! ってミサカはミサカはまた明日も撫でてほしいな!」
よほどその撫でられ心地がよかったのか、打ち止めは先ほどから頬が緩みきっている。
湾内絹保も頬を緩め、やさしく返事をする。
「そンじゃ、そろそろ帰るぞ打ち止めァ、オマエもさっさと戻らねェとやべェンじゃねェのか?」
湾内絹保は一方通行にそういわれると、はっと思い出したように閉ざされた学生寮の門を見ると顔を青く染め、
急に慌てた口調になり、口早に別れを言う。
「そ、それでは今日は本当に有難うございました。また明日の夕方、お部屋のほうに参りますね」
それだけ言うと頭をさげ、慌しく門の中へ入っていく。
打ち止めはそんな彼女の背中を見つめながら、その門が閉まった後もしばらく手を振り続けた。
「ほら帰ンぞ打ち止め、今日はもうコンビニ弁当でいいだろォ」
そういうと一方通行と打ち止めは二人並んで学生寮を後にする。
終始上機嫌ににやけている打ち止めを見ながら、一方通行は満足そうに吐息をこぼす。
まだ冷え切らない夜の闇の中、その吐息は白く染まることもなく、透明なまま夜の闇に消えた。
一方通行は夜空を見上げる。もう月が空高く輝いている。
いつもと変わらぬその月が、いつもより美しく輝いて見えた。
「まぁこのガキも楽しかったみてェだし、お互い様だろォ、気にすンな」
打ち止めは一通り頭の上に残る余韻を満喫したあと、顔を上げる。
その大きな瞳はきらきらと光り、口の端は満足そうに緩みきっている。
「えへへ、お姉さんの手気持ちよかったよ! ってミサカはミサカはまた明日も撫でてほしいな!」
よほどその撫でられ心地がよかったのか、打ち止めは先ほどから頬が緩みきっている。
湾内絹保も頬を緩め、やさしく返事をする。
「そンじゃ、そろそろ帰るぞ打ち止めァ、オマエもさっさと戻らねェとやべェンじゃねェのか?」
湾内絹保は一方通行にそういわれると、はっと思い出したように閉ざされた学生寮の門を見ると顔を青く染め、
急に慌てた口調になり、口早に別れを言う。
「そ、それでは今日は本当に有難うございました。また明日の夕方、お部屋のほうに参りますね」
それだけ言うと頭をさげ、慌しく門の中へ入っていく。
打ち止めはそんな彼女の背中を見つめながら、その門が閉まった後もしばらく手を振り続けた。
「ほら帰ンぞ打ち止め、今日はもうコンビニ弁当でいいだろォ」
そういうと一方通行と打ち止めは二人並んで学生寮を後にする。
終始上機嫌ににやけている打ち止めを見ながら、一方通行は満足そうに吐息をこぼす。
まだ冷え切らない夜の闇の中、その吐息は白く染まることもなく、透明なまま夜の闇に消えた。
一方通行は夜空を見上げる。もう月が空高く輝いている。
いつもと変わらぬその月が、いつもより美しく輝いて見えた。
150: 2010/05/23(日) 20:20:15.56 ID:I/CMBaEo
――学園都市の休日、昼下がりの大通り、そこは普段着ている制服から私服に着替え、ショッピングなどを楽しむ学生や、
休日にも関わらず学生服を着てじとじととした空気を漂わせる補修帰りの生徒で溢れる。
そんな中を、一人の少女が足早に歩く。名門常盤台中学の制服に身を包んだ少女。
その腕には盾をモチーフにした緑の腕章、それはこの街の学校の治安を守る組織「風紀委員(ジャッジメント)」の証。
長く伸ばした茶髪のツインテールを揺らしながら歩く少女は、大通り脇のある路地の前で立ち止まる。
ポケットから細長いスタイリッシュなデザインの携帯電話を取り出し、ワンプッシュで電話をかける。
小声で二言三言の簡単な会話をした後、静かに通話を切る。
その瞳で路地裏を見つめ、小さく息を吐く。腕に付けた腕章を確認するようにやさしく指でなぞる。
トン、と軽やかな音がして、少女の体が小さく宙に浮く。長い茶髪がなびき、緩やかに弧を描く。
その瞳を閉じ、その空間に自分の存在を確かめる。
――次の瞬間、午後の日差しの照らす大通りから少女の姿が消えた。
151: 2010/05/23(日) 20:23:26.27 ID:I/CMBaEo
大通りから路地へと入りさらにその奥へと進んだ先、高く聳え立つビルに囲まれ、日の光が届かぬ空間。
一人の少女がとてもつまらなそうな表情で、すすけたビルの壁に寄りかかっていた。
常盤台中学の制服に身を包み、茶髪を肩の辺りまで伸ばした少女。
少女はその瞳で目の前の光景、今現在の自分の状況を確認する。
壁を背にした少女を取り囲むように、数人の男が立っている。
全員が深くフードを被っており、薄暗い路地裏の空間とあいまってその顔がよく見えない。
そのうちの数人が、この薄暗い空間でも異様な存在感を放つナイフをその手に持っている。
少女は特に慌てた様子もなく男の人数を数える。
端から順番に一人、二人、それぞれをその目でしっかりと確認する。
「全部で5人、うちナイフを持ってるのが3人?」
あきれたような口調でそう呟くと、あからさまなため息をつく。
肩を落とし、まったくもって興味が無いように男達から視線を逸らす。
「そんな小道具なんか持っちゃって、それで一体どうするわけ?」
少女は天高く、ビルの間から見える小さな空を見上げる。
小さくちぎれた雲が緩やかに流れていく。
一人の少女がとてもつまらなそうな表情で、すすけたビルの壁に寄りかかっていた。
常盤台中学の制服に身を包み、茶髪を肩の辺りまで伸ばした少女。
少女はその瞳で目の前の光景、今現在の自分の状況を確認する。
壁を背にした少女を取り囲むように、数人の男が立っている。
全員が深くフードを被っており、薄暗い路地裏の空間とあいまってその顔がよく見えない。
そのうちの数人が、この薄暗い空間でも異様な存在感を放つナイフをその手に持っている。
少女は特に慌てた様子もなく男の人数を数える。
端から順番に一人、二人、それぞれをその目でしっかりと確認する。
「全部で5人、うちナイフを持ってるのが3人?」
あきれたような口調でそう呟くと、あからさまなため息をつく。
肩を落とし、まったくもって興味が無いように男達から視線を逸らす。
「そんな小道具なんか持っちゃって、それで一体どうするわけ?」
少女は天高く、ビルの間から見える小さな空を見上げる。
小さくちぎれた雲が緩やかに流れていく。
152: 2010/05/23(日) 20:25:56.32 ID:I/CMBaEo
その様子をしばらく見つめた後、静かにその視線を地面へと落とす。
天にはあんなにも青い空が見えるのに、自分の立つ地面は酷く暗く、荒んでいる。
そのことにほんの少しの感傷を抱いたのか、その頬が自嘲気味に緩む。
「実は昨日よぉ、てめぇと同じ常盤台の女のせいでひどい目にあっちまったんでなぁ……」
フードを被った男の内、もっとも奥に立ち、ナイフを握った男が静かに答える。
その声は怒りに震え、感情を押さえ込むようにかすれている。ぎりぎりと歯軋りの音が静かな路地裏のなかで、やけに大きく聞こえる。
ナイフを持った手が震えるほど力が入り、血管が浮き出る。この静けさではナイフを握り締める音まで聞こえてきそうだ。
「っつぅうわけでよぉ? お前に恨みがあるわけじゃねぇんだが、まぁ運が悪かったと思って、ちょっくら大人しく……憂さ晴らしさせてくれやぁ!」
その感情を、怒りを抑えきれなくなった男が大声でそう叫ぶと、少女を取り囲んでいた男達が一斉に少女に飛び掛る。
その全員が、その瞳を怒りに染めている。
男達のごつごつとした拳と、冷たく光るナイフの切っ先が少女目掛けて飛ぶ。
それでも少女は、静かに地面を見つめたまま、やはり興味が無いと言った様子でため息をつく。
天にはあんなにも青い空が見えるのに、自分の立つ地面は酷く暗く、荒んでいる。
そのことにほんの少しの感傷を抱いたのか、その頬が自嘲気味に緩む。
「実は昨日よぉ、てめぇと同じ常盤台の女のせいでひどい目にあっちまったんでなぁ……」
フードを被った男の内、もっとも奥に立ち、ナイフを握った男が静かに答える。
その声は怒りに震え、感情を押さえ込むようにかすれている。ぎりぎりと歯軋りの音が静かな路地裏のなかで、やけに大きく聞こえる。
ナイフを持った手が震えるほど力が入り、血管が浮き出る。この静けさではナイフを握り締める音まで聞こえてきそうだ。
「っつぅうわけでよぉ? お前に恨みがあるわけじゃねぇんだが、まぁ運が悪かったと思って、ちょっくら大人しく……憂さ晴らしさせてくれやぁ!」
その感情を、怒りを抑えきれなくなった男が大声でそう叫ぶと、少女を取り囲んでいた男達が一斉に少女に飛び掛る。
その全員が、その瞳を怒りに染めている。
男達のごつごつとした拳と、冷たく光るナイフの切っ先が少女目掛けて飛ぶ。
それでも少女は、静かに地面を見つめたまま、やはり興味が無いと言った様子でため息をつく。
153: 2010/05/23(日) 20:27:31.30 ID:I/CMBaEo
「あんたたちにどんな事情があるのか知らないけど――」
その視線を上げる様子もない少女の髪から、小さな火花が散る。
バチリと響いたその音は、次の瞬間男達の怒りを飲み込む轟音となって、その空間に響く。
少女に向かって切りかかるナイフの刃が、見えない力により弾き飛ばされる。
「――人の貴重な休日を潰した罪は重いわよ!」
世界が青白い光に包まれ、時間が止まったかのような錯覚に襲われる。
空間に留まり切れなかった光が、ビルの隙間から溢れ出す。
その光は天高く貫く白い塔のようにも見えた。
その光は、余波の波によって、蜃気楼のように揺れ動きながら青空に溶けていった。
154: 2010/05/23(日) 20:30:39.11 ID:I/CMBaEo
ツインテールの風紀委員が、路地裏のビルに囲まれた空間に立っている。
その少女はどこから来たのでもなく、突如その狭い空間の中央に現れた。
少女はその場から動くことなく、無言で自分の周りの状況を確認する。
黒く焦げ付いたアスファルト、熱によって溶けたガラスの破片とその刀身を曲げたナイフ。
そしてその身のところどころを黒く焦がし、気を失っている数人のフードを被った男。
少女はしばらくその光景を眺めた後、がくりと肩を落とし、盛大にため息をついた。
やる気を失った瞳で、転がっている男達のうちの一人を見る。
その手に握られたナイフを蹴り飛ばすと、腕につけた腕章を軽く触り、覇気のない声で呟く。
「風紀委員ですの。あなた方を婦女暴行の容疑で拘束します」
形だけそういうと、少女は手に持った鞄から対能力者用の手錠を取り出し、すべての男を拘束する。
拘束した後に、男達を路地裏の一箇所にまとめて転がすと、顔を確認するために全員のフードを取る。
「一体なんなんですのこれは……」
驚いたように少女は目を丸くする。
一度目を逸らし、自分の視覚が正常であることを確認し、ふたたびフードを剥いだ男たちの頭を凝視する。
155: 2010/05/23(日) 20:34:19.44 ID:I/CMBaEo
その頭髪は短く刈られ、とある模様を残して、残りはすべて抜け落ちている。
その模様を順番に並べた少女は、哀れみの目で男達を見つめる。
『 お 仕 置 き だ 』
そう記された男達の頭部は、暗い路地裏でもの寂しく風に吹かれていた。
その髪が風で揺れることはない。
少女は携帯電話を取り出し、ワンプッシュでどこかへ繋ぐ。
無機質なコール音が鳴り響き、4回目のコール音が鳴り終わると同時に、甘ったるい少女の声が聞こえた。
「白井さん、大丈夫ですか? 通報のあった路地裏はどうでしたか?」
通話口から聞こえた自分を心配する言葉に、ありがとうとやさしく呟くと、
その声色を暗く落として、口早に伝える。
「初春、通報のあった路地裏で数名の殿方を拘束しましたので。後のことはお任せしますわ」
それだけを簡潔に伝えると、相手の返事を待たずに通話終了のボタンを押す。
気絶した男達を一瞥し、哀れな男達のためにフードを駆けなおしてあげると、
携帯電話をポケットへとしまい、また一つ小さくため息をつく。
「まったく、お姉さまときたら……」
少女の姿が、路地裏から消えた。
その模様を順番に並べた少女は、哀れみの目で男達を見つめる。
『 お 仕 置 き だ 』
そう記された男達の頭部は、暗い路地裏でもの寂しく風に吹かれていた。
その髪が風で揺れることはない。
少女は携帯電話を取り出し、ワンプッシュでどこかへ繋ぐ。
無機質なコール音が鳴り響き、4回目のコール音が鳴り終わると同時に、甘ったるい少女の声が聞こえた。
「白井さん、大丈夫ですか? 通報のあった路地裏はどうでしたか?」
通話口から聞こえた自分を心配する言葉に、ありがとうとやさしく呟くと、
その声色を暗く落として、口早に伝える。
「初春、通報のあった路地裏で数名の殿方を拘束しましたので。後のことはお任せしますわ」
それだけを簡潔に伝えると、相手の返事を待たずに通話終了のボタンを押す。
気絶した男達を一瞥し、哀れな男達のためにフードを駆けなおしてあげると、
携帯電話をポケットへとしまい、また一つ小さくため息をつく。
「まったく、お姉さまときたら……」
少女の姿が、路地裏から消えた。
156: 2010/05/23(日) 20:38:05.22 ID:I/CMBaEo
常盤台中学学生寮、まるで貴族の邸宅のような雰囲気を放つホール、その左右の脇にある階段を上った先。
二○八号室
部屋のドアが静かに開く、ノック等の動作が見受けられないあたり、この部屋の住人らしい。
休日でも校則により着用を義務付けられた制服を着こなし、茶髪のツインテールを揺らしながら一人の少女が静かに部屋へと入る。
部屋はホテルのような造りになっており、基本的に就寝のために使用されるようだ。
少女は部屋に静かに歩を進め、二つあるうちの片方のベッドに音も無く腰掛ける。
シーツのしわを両手でやさしく撫でながら、ツインテールを揺らし、部屋の隅のデスクに腰掛けた少女に声をかける。
「お姉さま、正直におっしゃってくださいな」
その声には多少の怒りとあきれの色が伺える、ジトリと湿った目線で少女の背中を見つめる。
「先ほど、路地裏にいらっしゃいませんでしたか?」
静かな声で続ける、デスクに腰掛けた少女が肩の辺りまで伸ばした茶髪を揺らしながらため息をつく。
ワンテンポ置いて静かに振り返り、ベッドに腰掛けた少女の眼を見る。
「はぁ……別にいいでしょー? 先に喧嘩売ってきたのはあっちのほうなんだから。きちんと手加減もしてるし、正当防衛よ、せいとうぼうえい!」
少女を頭を掻きながら、いかにも面倒だといった様子で息を吐く。
「そうは仰いますが、お姉さま? 一体今月だけでもう何回目でございますの?」
二○八号室
部屋のドアが静かに開く、ノック等の動作が見受けられないあたり、この部屋の住人らしい。
休日でも校則により着用を義務付けられた制服を着こなし、茶髪のツインテールを揺らしながら一人の少女が静かに部屋へと入る。
部屋はホテルのような造りになっており、基本的に就寝のために使用されるようだ。
少女は部屋に静かに歩を進め、二つあるうちの片方のベッドに音も無く腰掛ける。
シーツのしわを両手でやさしく撫でながら、ツインテールを揺らし、部屋の隅のデスクに腰掛けた少女に声をかける。
「お姉さま、正直におっしゃってくださいな」
その声には多少の怒りとあきれの色が伺える、ジトリと湿った目線で少女の背中を見つめる。
「先ほど、路地裏にいらっしゃいませんでしたか?」
静かな声で続ける、デスクに腰掛けた少女が肩の辺りまで伸ばした茶髪を揺らしながらため息をつく。
ワンテンポ置いて静かに振り返り、ベッドに腰掛けた少女の眼を見る。
「はぁ……別にいいでしょー? 先に喧嘩売ってきたのはあっちのほうなんだから。きちんと手加減もしてるし、正当防衛よ、せいとうぼうえい!」
少女を頭を掻きながら、いかにも面倒だといった様子で息を吐く。
「そうは仰いますが、お姉さま? 一体今月だけでもう何回目でございますの?」
157: 2010/05/23(日) 20:41:18.79 ID:I/CMBaEo
ツインテールの少女はベッドに倒れこみ、枕を抱きしめる。
枕に顎を乗せ、両足をパタパタと振りながら、顔に掛かった髪を手で払う。
「さぁ何回目だったかしら? でもそんなことどうだっていいでしょ。私だって別に好きで喧嘩やってるわけじゃないんだから」
「ですが最近は何かと物騒ですし……そうですわ、昨日は湾内さんも暴漢に襲われたとかなんとか……」
ツインテールの少女が枕に顔を半分埋め、ぶつぶつと呟く。
「ちょっと! 湾内さんってあんたの同級生の子でしょ、水泳部の! 大丈夫なの!?」
茶髪の少女が少々声を大きくして問いかける。
その質問に落ち着いた口調で、枕から顔を上げ答える。
「心配ございませんわ、なんでも通りすがりの殿方に助けていただいたとか」
その答えを聞き、安心したように息をつく。
たとえ直接の面識は薄いとしても、大事な後輩の友達が襲われたと聞いては黙っていられない。
そんな彼女の性格に、この少女は引かれたのだから、そんな彼女を見て自然と頬が緩んでしまうのは仕方がない。
「なんでも今日はその殿方のところへお礼へ行くんだとか……たしかその殿方はとても……白い方だったようですわ。
それもとても強い能力者だったとか、例の殿方ではなくてよかったですわね?」
枕に顎を乗せ、両足をパタパタと振りながら、顔に掛かった髪を手で払う。
「さぁ何回目だったかしら? でもそんなことどうだっていいでしょ。私だって別に好きで喧嘩やってるわけじゃないんだから」
「ですが最近は何かと物騒ですし……そうですわ、昨日は湾内さんも暴漢に襲われたとかなんとか……」
ツインテールの少女が枕に顔を半分埋め、ぶつぶつと呟く。
「ちょっと! 湾内さんってあんたの同級生の子でしょ、水泳部の! 大丈夫なの!?」
茶髪の少女が少々声を大きくして問いかける。
その質問に落ち着いた口調で、枕から顔を上げ答える。
「心配ございませんわ、なんでも通りすがりの殿方に助けていただいたとか」
その答えを聞き、安心したように息をつく。
たとえ直接の面識は薄いとしても、大事な後輩の友達が襲われたと聞いては黙っていられない。
そんな彼女の性格に、この少女は引かれたのだから、そんな彼女を見て自然と頬が緩んでしまうのは仕方がない。
「なんでも今日はその殿方のところへお礼へ行くんだとか……たしかその殿方はとても……白い方だったようですわ。
それもとても強い能力者だったとか、例の殿方ではなくてよかったですわね?」
158: 2010/05/23(日) 20:45:12.10 ID:I/CMBaEo
ツインテールの少女はベッドに倒れこみ、枕を抱きしめる。
枕に顎を乗せ、両足をパタパタと振りながら、顔に掛かった髪を手で払う。
「さぁ何回目だったかしら? でもそんなことどうだっていいでしょ。私だって別に好きで喧嘩やってるわけじゃないんだから」
「ですが最近は何かと物騒ですし……そうですわ、昨日は湾内さんも暴漢に襲われたとかなんとか……」
ツインテールの少女が枕に顔を半分埋め、ぶつぶつと呟く。
「ちょっと! 湾内さんってあんたの同級生の子でしょ、水泳部の! 大丈夫なの!?」
茶髪の少女が少々声を大きくして問いかける。
その質問に落ち着いた口調で、枕から顔を上げ答える。
「心配ございませんわ、なんでも通りすがりの殿方に助けていただいたとか」
その答えを聞き、安心したように息をつく。
たとえ直接の面識は薄いとしても、大事な後輩の友達が襲われたと聞いては黙っていられない。
そんな彼女の性格に、この少女は引かれたのだから、そんな彼女を見て自然と頬が緩んでしまうのは仕方がない。
「なんでも今日はその殿方のところへお礼へ行くんだとか……たしかその殿方はとても……白い方だったようですわ。
それもとても強い能力者だったとか、例の殿方ではなくてよかったですわね?」
少女が皮肉交じりに言う。
そんな少女に頬を引きつらせながら愛想笑いを浮かべていた少女は、ふとその言葉に引っかかるところがあることに気づいた。
小さく音を立ててイスから立ち上がると、少女は向かい合うようにもう一つのベッドに座り、重たい口調で確かめるように呟く。
「黒子、その白い奴のこと、もう少し詳しく聞かせてもらえる……?」
その声は、いつに無く冷たい。
枕に顎を乗せ、両足をパタパタと振りながら、顔に掛かった髪を手で払う。
「さぁ何回目だったかしら? でもそんなことどうだっていいでしょ。私だって別に好きで喧嘩やってるわけじゃないんだから」
「ですが最近は何かと物騒ですし……そうですわ、昨日は湾内さんも暴漢に襲われたとかなんとか……」
ツインテールの少女が枕に顔を半分埋め、ぶつぶつと呟く。
「ちょっと! 湾内さんってあんたの同級生の子でしょ、水泳部の! 大丈夫なの!?」
茶髪の少女が少々声を大きくして問いかける。
その質問に落ち着いた口調で、枕から顔を上げ答える。
「心配ございませんわ、なんでも通りすがりの殿方に助けていただいたとか」
その答えを聞き、安心したように息をつく。
たとえ直接の面識は薄いとしても、大事な後輩の友達が襲われたと聞いては黙っていられない。
そんな彼女の性格に、この少女は引かれたのだから、そんな彼女を見て自然と頬が緩んでしまうのは仕方がない。
「なんでも今日はその殿方のところへお礼へ行くんだとか……たしかその殿方はとても……白い方だったようですわ。
それもとても強い能力者だったとか、例の殿方ではなくてよかったですわね?」
少女が皮肉交じりに言う。
そんな少女に頬を引きつらせながら愛想笑いを浮かべていた少女は、ふとその言葉に引っかかるところがあることに気づいた。
小さく音を立ててイスから立ち上がると、少女は向かい合うようにもう一つのベッドに座り、重たい口調で確かめるように呟く。
「黒子、その白い奴のこと、もう少し詳しく聞かせてもらえる……?」
その声は、いつに無く冷たい。
159: 2010/05/23(日) 20:49:37.88 ID:I/CMBaEo
とあるマンションの一室。窓から差し込む午後の日差しが室内をやわらかく照らす。
そんな部屋の中で、一方通行はソファに座り、特に何をするでもなくコーヒーをすすっていた。
二人分のスペースのあるソファに身を預ければ、その身はわずかに沈み、なんともいえぬ心地よさを感じる。
そんな心地よさの中、コーヒーの香ばしい香りが漂い、その香りを胸いっぱいに吸い込む。
最近の彼は、自分でコーヒーを淹れることにはまっているらしい。
今日のコーヒーもいい出来だ、と一人満足げに微笑む。
一方通行にとって、静かな午後のひと時を過ごすには最高の憩いの香りだ。
そんな一方通行とは打って変わって、部屋の中を落ち着きなく歩き回る打ち止め、
とてとて、と頼りない足音が少々走り気味にリズムを刻み、午後の部屋の静寂の中に響く。
一方通行も始めこそは気にも留めずに、一人静かなひと時を満喫していたのだが。
あまりに長く、世話しなく響き続ける足音に、自分の憩いの時間を踏みにじられるような苛立ちを感じ、
それでもなお響き続ける足音に、その苛立ちが我慢の限界を超えた。
「おいクソガキィ、もう少し静かに待てねェのかァ」
静かな声、しかしやけに重たい響きを持ったその音は室内によく響き、歩き回っていた打ち止めの肩がびくりと跳ねる。
肩を縮めてその歩みが止まる。
一方通行はコーヒーを一口すすり、時計の時刻を確認し、
肩を縮めた体勢のまま固まった打ち止めの背中にやさしく語り掛ける。
「そう慌てなくても、時間的にもうすぐ来ンだろうがァ、いいから静かに座ってまってなァ」
そんな部屋の中で、一方通行はソファに座り、特に何をするでもなくコーヒーをすすっていた。
二人分のスペースのあるソファに身を預ければ、その身はわずかに沈み、なんともいえぬ心地よさを感じる。
そんな心地よさの中、コーヒーの香ばしい香りが漂い、その香りを胸いっぱいに吸い込む。
最近の彼は、自分でコーヒーを淹れることにはまっているらしい。
今日のコーヒーもいい出来だ、と一人満足げに微笑む。
一方通行にとって、静かな午後のひと時を過ごすには最高の憩いの香りだ。
そんな一方通行とは打って変わって、部屋の中を落ち着きなく歩き回る打ち止め、
とてとて、と頼りない足音が少々走り気味にリズムを刻み、午後の部屋の静寂の中に響く。
一方通行も始めこそは気にも留めずに、一人静かなひと時を満喫していたのだが。
あまりに長く、世話しなく響き続ける足音に、自分の憩いの時間を踏みにじられるような苛立ちを感じ、
それでもなお響き続ける足音に、その苛立ちが我慢の限界を超えた。
「おいクソガキィ、もう少し静かに待てねェのかァ」
静かな声、しかしやけに重たい響きを持ったその音は室内によく響き、歩き回っていた打ち止めの肩がびくりと跳ねる。
肩を縮めてその歩みが止まる。
一方通行はコーヒーを一口すすり、時計の時刻を確認し、
肩を縮めた体勢のまま固まった打ち止めの背中にやさしく語り掛ける。
「そう慌てなくても、時間的にもうすぐ来ンだろうがァ、いいから静かに座ってまってなァ」
160: 2010/05/23(日) 20:52:30.59 ID:I/CMBaEo
一方通行はそういうと、残ったコーヒーを静かに飲み干し、空になったカップを持ってキッチンへと消える。
打ち止めは静かに振り返り、そわそわと彼の座っていたソファに腰掛ける。
ふと、彼の座っていたところに手を置いてみると、まだそのぬくもりが残っていて、少しだけ心に余裕が出来た。
「お姉さん、はやくこないかなぁー、ってミサカはミサカはこの胸の高鳴りを必氏に押さえ込んでみたり」
キッチンからカチャカチャと食器を洗う音がする。
最近の一方通行は多少の家事なら自分でやることを覚えたようだ。
しかし、わずかながらにその理由の一部分に自分の存在があるということを、打ち止め自身はあまり自覚をしていないようだ。
規則的に聞こえてくる食器の音と水道の水の音、その音に耳を傾けながら時計を見る。
時計の針はちょうど右側で多少下に傾いて重なっている。
そろそろだろうか、と打ち止めが玄関のほうへと視線を向けると同時に、室内にインターホンの音が響く。
打ち止めは静かに振り返り、そわそわと彼の座っていたソファに腰掛ける。
ふと、彼の座っていたところに手を置いてみると、まだそのぬくもりが残っていて、少しだけ心に余裕が出来た。
「お姉さん、はやくこないかなぁー、ってミサカはミサカはこの胸の高鳴りを必氏に押さえ込んでみたり」
キッチンからカチャカチャと食器を洗う音がする。
最近の一方通行は多少の家事なら自分でやることを覚えたようだ。
しかし、わずかながらにその理由の一部分に自分の存在があるということを、打ち止め自身はあまり自覚をしていないようだ。
規則的に聞こえてくる食器の音と水道の水の音、その音に耳を傾けながら時計を見る。
時計の針はちょうど右側で多少下に傾いて重なっている。
そろそろだろうか、と打ち止めが玄関のほうへと視線を向けると同時に、室内にインターホンの音が響く。
162: 2010/05/23(日) 20:54:47.49 ID:I/CMBaEo
「おい打ち止め、オマエが出てやれェ」
キッチンから一方通行がそう声をかけると、打ち止めは待ってましたといわんばかりに目を輝かせ、ソファから飛び降りる。
とてとてと軽やかな足音を響かせて玄関へ足早に向かう。頭のクセ毛がいかにも嬉しそうに軽やかなリズムを刻み弾む。
玄関に並べられた靴の中から小さなスリッパを履き、玄関の鍵を開ける。
両手でドアノブに手をかけると、元気よく扉を開け放つ。
「いらっしゃーい! ってミサカはミサカは玄関のドアを元気いっぱい勢いよく開いてみたり!」
開け放たれた扉の前で、やさしくウェーブした明るい茶髪が揺れる。
「こんにちは、打ち止めちゃん」
身をかがめ、打ち止めの頭を撫でて、湾内絹保が微笑む。
165: 2010/05/23(日) 20:58:01.98 ID:I/CMBaEo
「――ンで? 今日は何を作ってくれるってンだァ?」
一方通行がキッチンから戻ると、打ち止めと湾内絹保は並んでソファに座り、他愛も無い会話をしていた。
打ち止めはそんな普通のことをとても楽しんでいるように見える。
湾内絹保は一方通行の声に気づくと、振り返りながら静かに立ち上がり、
テーブルの上に置かれたスーパーのレジ袋を両手で持ち上げて微笑む。
「えっと、カレーを作らせていただこうと思ってます。
お料理はあまり得意じゃないんですが、これなら以前、知人に教えていただいたことがありまして」
"カレー"という単語に打ち止めか過剰反応を示し、その瞳をきらきらと輝かせる。
対して一方通行は一瞬苦い表情をして、今朝方に処分した過去の産物を思い出す。
「あ、あの……もしかしてカレーはお嫌いでしたでしょうか……?」
そんな一方通行の顔を見て、湾内絹保が不安げな顔をする。
俯き加減にレジ袋を持った両手で顔を半分隠し、覗き込むようにして一方通行の表情を伺う。
無意識のうちによほど自分は暗い表情を浮かべていたようだ、と一方通行は気を取り直して首を振る。
「いやァ、別にそういうわけじゃねェンだ……ただ、ちィと嫌なことを思い出しちまってなァ」
一方通行がキッチンから戻ると、打ち止めと湾内絹保は並んでソファに座り、他愛も無い会話をしていた。
打ち止めはそんな普通のことをとても楽しんでいるように見える。
湾内絹保は一方通行の声に気づくと、振り返りながら静かに立ち上がり、
テーブルの上に置かれたスーパーのレジ袋を両手で持ち上げて微笑む。
「えっと、カレーを作らせていただこうと思ってます。
お料理はあまり得意じゃないんですが、これなら以前、知人に教えていただいたことがありまして」
"カレー"という単語に打ち止めか過剰反応を示し、その瞳をきらきらと輝かせる。
対して一方通行は一瞬苦い表情をして、今朝方に処分した過去の産物を思い出す。
「あ、あの……もしかしてカレーはお嫌いでしたでしょうか……?」
そんな一方通行の顔を見て、湾内絹保が不安げな顔をする。
俯き加減にレジ袋を持った両手で顔を半分隠し、覗き込むようにして一方通行の表情を伺う。
無意識のうちによほど自分は暗い表情を浮かべていたようだ、と一方通行は気を取り直して首を振る。
「いやァ、別にそういうわけじゃねェンだ……ただ、ちィと嫌なことを思い出しちまってなァ」
166: 2010/05/23(日) 21:01:56.91 ID:I/CMBaEo
一方通行は皮肉気味に笑い、湾内絹保の後ろでその瞳を輝かせている打ち止めにチラリと視線を向ける。
彼女は気体に満ちた笑顔を浮かべてはいるが、特に体は動かしていないはずなのに、そのクセ毛はぴょこぴょこと揺れ動いていた。
一方通行の視線に気づいた打ち止めは、一瞬小さく首をかしげた後、
その視線、そこから二人にしか分からないなにかを感じて、愛想笑いを浮かべる。
「まァ、期待させて貰うとすっかァ、なァ打ち止めちゃァン?」
一方通行が意味ありげに笑う。
そんな一方通行の言葉に異様に反応して、引きつった笑みを浮かべている打ち止めに、湾内絹保は首をかしげる。
「と、とりあえず。キッチンをお借りしてもよろしいですか?」
湾内絹保は隠していた顔を出して、時間を確認する。
寮の門限があるため、彼女はあまり長居はできないので、そろそろ調理を始める必要があるのだ。
それにあまり遅くなって、また暴漢にでも襲われたらたまったものではない。
そしてなにより――彼女は昨日青い顔で寮に戻ったところを寮監に酷く絞られたばかりであった。
「おゥ、まァ一応道具は揃ってるだろうから適当に使ってくれていいぜェ」
一方通行の確認を得て、彼女は軽く頭を下げながらキッチンへと向かう。
そんな彼女の背中を見ながら、打ち止めは楽しそうに鼻歌を歌っている。
彼女は気体に満ちた笑顔を浮かべてはいるが、特に体は動かしていないはずなのに、そのクセ毛はぴょこぴょこと揺れ動いていた。
一方通行の視線に気づいた打ち止めは、一瞬小さく首をかしげた後、
その視線、そこから二人にしか分からないなにかを感じて、愛想笑いを浮かべる。
「まァ、期待させて貰うとすっかァ、なァ打ち止めちゃァン?」
一方通行が意味ありげに笑う。
そんな一方通行の言葉に異様に反応して、引きつった笑みを浮かべている打ち止めに、湾内絹保は首をかしげる。
「と、とりあえず。キッチンをお借りしてもよろしいですか?」
湾内絹保は隠していた顔を出して、時間を確認する。
寮の門限があるため、彼女はあまり長居はできないので、そろそろ調理を始める必要があるのだ。
それにあまり遅くなって、また暴漢にでも襲われたらたまったものではない。
そしてなにより――彼女は昨日青い顔で寮に戻ったところを寮監に酷く絞られたばかりであった。
「おゥ、まァ一応道具は揃ってるだろうから適当に使ってくれていいぜェ」
一方通行の確認を得て、彼女は軽く頭を下げながらキッチンへと向かう。
そんな彼女の背中を見ながら、打ち止めは楽しそうに鼻歌を歌っている。
167: 2010/05/23(日) 21:05:42.68 ID:I/CMBaEo
「そンなに楽しみですかァ?」
一方通行が横に座りながら聞くと、打ち止めは一瞬悩み、しかし笑顔で答える。
「うん、お姉さんが作ってくれるんだもの! 楽しみだよ! ってミサカはミサカはだからといってあなたの料理が
嫌と言うわけじゃないのよ? って一応弁明してみる」
「はいはい、わざわざ言い訳しなくてもそンくらい分かってますよォ」
「でもさっきだってあなたの視線から物凄い不の感情を感じたんだけど、ってミサカはミサカはさっきまでのあの湿った視線を思い出している」
「はン、あンなのはちょっとからかってみただけですよォ」
一方通行と打ち止めはしばらくそんな会話をした後、お互いにキッチンから聞こえてくる音に耳を傾けて無言になっていた。
包丁の規則的で整った音や、野菜や肉に火を通す音など、さまざまな音が規則的に聞こえてくる。
しばし無言でそんな時間を満喫していると、カレーのスパイスの香りがしてくる。
「そろそろかァ?」
一方通行がそう呟いてから数分後、鍋を煮込む音が途絶え、食器の音が聞こえてくる。
打ち止めが待ってましたといわんばかりにソファに預けていた身を起こし、キッチンのほうへと視線を送る。
そのさらに数分後、湾内絹保が二つのカレーを持ってリビングへと戻ってくる。
コトンと静かに二人の前にカレーが置かれ、白い湯気が顔の前で揺らぐ。
スパイスのいい香りと、いかにも美味しそうな見た目に、食欲がそそられる。
168: 2010/05/23(日) 21:09:08.74 ID:I/CMBaEo
「えっと、お口に合うとよろしいのですが……」
湾内絹保は自作のカレーをじっと見つめる二人を見て、小さく呟く。
つい先ほどまで火を扱っていたためか、それとも緊張しているのか、その顔はほんのりと赤い。
打ち止めが小さく喉を鳴らし、スプーンを手に取る。
そのままカレーをすくうと、その小さな口へと運ぶ。口に近づけるとスパイスのいい香りが余計に食欲をそそる。
一口、カレーを口に含み、もぐもぐと静かにかみ締めると満足そうに飲み込み、笑顔を咲かせる。
「すっごく美味しいかも! ってミサカはミサカは素直に感動してみたり!」
湾内絹保にその満面の笑みを投げかけると、また一口、もう一口と次々とカレーを口へ運んでいく。
「あァ、確かにうめェなァこりゃ」
打ち止めに続いてカレーを口へと運んだ一方通行も満足げに呟く。
打ち止めのようにあからさまな感情表現こそはしないが、次々とカレーを食べる手を進める。
一口、また一口と二つの皿に盛られたカレーの小高い丘が切り崩されていく。
その光景を見ながら、湾内絹保は嬉しそうに微笑む。喜んでもらえてよかった、と心の底から安心する。
自分の作った料理で人が笑ってくれるということは、とても嬉しい。
169: 2010/05/23(日) 21:13:36.90 ID:I/CMBaEo
「よっぽどオマエのカレーが気に入ったらしいなァ?」
そう呟くと、一方通行は視線だけで、オマエも食べろ、と湾内絹保を促す。
彼女はそんな視線を感じて、静かにカレーを食べ始める。
「まァ、確かに美味かったがなァ……」
何気なく呟く言葉を聴いて、カレーを食べる手を少し止めて、囁く。
「少しでも喜んでいただけるように、がんばりましたから」
「へっ、そうかいそいつは嬉しいねェ」
二人の視線が何気なく交差したまま止まる。
そんな時間が、一秒が一分にも感じられる。湾内絹保の頬が無意識のうちに赤く染まってきて、恥ずかしそうに視線を下に下ろす。
打ち止めはそんな二人のこともお構いなしにカレーを着実に食べ終え、一方通行に空になった皿を突き出す。
「おかわり頂戴! ってミサカはミサカは美味しいものはまだまだ食べられることを主張してみたり!」
「はいはいィ、分かったからその口の周りをキレイに拭いとけェ」
一方通行は皿を受け取り静かに立ち上がり、再びキッチンへと消えていく。
湾内絹保は打ち止めの口の周りをやさしく拭いてあげ、再びカレーを食べる手を動かす。
午後のやわらかなひと時が静かに過ぎていく。
170: 2010/05/23(日) 21:17:42.31 ID:I/CMBaEo
「ほら、飲みなァ……口に合うかどうかは知らねェがなァ、砂糖とミルクは好きに使え」
食事を終え、片付けも済んだ後で一方通行が三人分のコーヒーを淹れてテーブルに置く。
自分にはブラック、湾内絹保には一緒に砂糖とミルクを、打ち止めにはあらかじめ砂糖とミルクをたっぷりと入れたものを。
やわらかく湯気を上げ、その香りが三人を包む。
「いい香りですわ」
湾内絹保はその香りを嗅いで、幸せそうな笑みをこぼす。
手馴れた手つきで砂糖とミルクを少しずつ入れて、スプーンでかき混ぜる。黒に白が溶けて、混ざり合う。
スプーンを置いて、自分好みの色合いに調整して、静かにコーヒーをすする。
「……美味しい」
その様子を見ていた一方通行は。その一言に満足したのか、小さく頷いて自分はブラックのコーヒーをすする。
たっぷりと砂糖とミルクで甘くなったコーヒーをちまちまと飲む打ち止めも、やはり幸せそうに目を瞑る。
時計の秒針の音とコーヒーの香りだけが、室内に溢れる。
食事を終え、片付けも済んだ後で一方通行が三人分のコーヒーを淹れてテーブルに置く。
自分にはブラック、湾内絹保には一緒に砂糖とミルクを、打ち止めにはあらかじめ砂糖とミルクをたっぷりと入れたものを。
やわらかく湯気を上げ、その香りが三人を包む。
「いい香りですわ」
湾内絹保はその香りを嗅いで、幸せそうな笑みをこぼす。
手馴れた手つきで砂糖とミルクを少しずつ入れて、スプーンでかき混ぜる。黒に白が溶けて、混ざり合う。
スプーンを置いて、自分好みの色合いに調整して、静かにコーヒーをすする。
「……美味しい」
その様子を見ていた一方通行は。その一言に満足したのか、小さく頷いて自分はブラックのコーヒーをすする。
たっぷりと砂糖とミルクで甘くなったコーヒーをちまちまと飲む打ち止めも、やはり幸せそうに目を瞑る。
時計の秒針の音とコーヒーの香りだけが、室内に溢れる。
172: 2010/05/23(日) 21:21:44.23 ID:I/CMBaEo
たっぷりと時間を掛けてコーヒーを飲み干した三人は、さまざまな話をした。
かたや学園都市第1位と生まれて間もないクローン、かたや俗世とは程遠いお嬢様。
お互いに少々常識が欠けているので、その内容ははたから見ていると噛み合ってはいないし。
思いっきり的外れな発言などもたびたび出てくるが、それでも三人はただただこうして喋っていることが楽しかった。
途中、二杯目のコーヒーを淹れて、また雑談をする。
少女が突発的に発言して、お嬢様がそれにやさしく応えて、最強がその会話をぶっきらぼうに纏める。
一方通行はこんな時間の中で、確かな幸せを感じていた。
以前の自分では、決して感じることの出来なかった感情。そして決して投げかけられることのなかったであろうその笑顔。
そのすべてが愛おしくて、そのすべてが輝いて見えて。
彼の暗く、血生臭い過去までも、その輝きが包んでしまいそうな気がして。
後一歩、このままその輝きの中に身を投げ入れてしまえば、その暗い過去など忘れてしまえる気がして。
――しかし、一方通行はそれをしない。
今この時の幸せを実感しながらも、そこにその身を預けることはしない。
その輝きがどうしようもなく愛おしくて、その心の闇まで包み込んでしまうほどに眩しすぎるから。
決してその輝きの中に自分のような者が混ざってはいけない。その光にこんな闇を落としてはいけない。
そのようなことがあってはならないと、彼自身の心が、その身を縛り付ける。
決して、自分がその罪を手放すようなことはあってはならない。
一方通行は、二人に悟られることのないよう、悲しく笑って窓の外を見る。
窓から差し込む午後のやわらかな日差しが赤みを帯びて、その赤い瞳に差し込む。
かたや学園都市第1位と生まれて間もないクローン、かたや俗世とは程遠いお嬢様。
お互いに少々常識が欠けているので、その内容ははたから見ていると噛み合ってはいないし。
思いっきり的外れな発言などもたびたび出てくるが、それでも三人はただただこうして喋っていることが楽しかった。
途中、二杯目のコーヒーを淹れて、また雑談をする。
少女が突発的に発言して、お嬢様がそれにやさしく応えて、最強がその会話をぶっきらぼうに纏める。
一方通行はこんな時間の中で、確かな幸せを感じていた。
以前の自分では、決して感じることの出来なかった感情。そして決して投げかけられることのなかったであろうその笑顔。
そのすべてが愛おしくて、そのすべてが輝いて見えて。
彼の暗く、血生臭い過去までも、その輝きが包んでしまいそうな気がして。
後一歩、このままその輝きの中に身を投げ入れてしまえば、その暗い過去など忘れてしまえる気がして。
――しかし、一方通行はそれをしない。
今この時の幸せを実感しながらも、そこにその身を預けることはしない。
その輝きがどうしようもなく愛おしくて、その心の闇まで包み込んでしまうほどに眩しすぎるから。
決してその輝きの中に自分のような者が混ざってはいけない。その光にこんな闇を落としてはいけない。
そのようなことがあってはならないと、彼自身の心が、その身を縛り付ける。
決して、自分がその罪を手放すようなことはあってはならない。
一方通行は、二人に悟られることのないよう、悲しく笑って窓の外を見る。
窓から差し込む午後のやわらかな日差しが赤みを帯びて、その赤い瞳に差し込む。
173: 2010/05/23(日) 21:25:29.87 ID:I/CMBaEo
「おい、そろそろ門限がやべェンじゃねェのかァ?」
「え、あ! もうこんな時間でしたのですね」
一方通行の言葉を受けて、湾内絹保は時計の針を確認する。
気づかぬうちに、かなりの時間を話し込んでしまっていたようだ。
もう寮へと向けて帰らなければ、また門限に遅れてしまう。
「えー、もう帰っちゃうの? ってミサカはミサカはぶーたれてみたり」
「わがまま言ってンじゃねェよ。ほら、分かったら素直にそいつを見送りやがれェ」
打ち止めはしぶしぶと頷くと、湾内絹保の手を握って囁く。
「また遊びに来てくれる? ってミサカはミサカは寂しげな瞳でお願いしてみる」
うるうるとあからさまな視線で、湾内絹保の瞳を凝視する。
少々困った顔をしながらも、その手をやさしく握り返して答える。
「はい、もちろんですわ」
175: 2010/05/23(日) 21:30:19.24 ID:I/CMBaEo
それから、湾内絹保を見送るため、一方通行と打ち止めも一緒にマンションを出る。
一方通行としては、あまり彼女と一緒にいるところを他人に見られるのは望ましくなかったので。
バス停の近くの公園まで彼女を見送り、別れを告げる。
打ち止めは物寂しそうな顔をしていたが、湾内絹保にやさしく頭を撫でられるとおとなしくなった。
どうやら彼女に撫でられることで、この少女をおとなしく出来るようだ。と、一方通行はどうでもいい知識を得た。
湾内絹保も別れ際に、ほんの少し寂しい顔をしていたが。
一方通行が何気なく「ンじゃまたな」と呟くと、その表情はすぐに晴れた。
彼女の背中が見えなくなるまで打ち止めは手を振っていた。
しばらく、そんな打ち止めの横で、一方通行もその背中を見つめていた。
夕日に照らされたその姿はいかにもお嬢様といった感じで。こんな世界の穢れなど知らぬ、無邪気な子供のようにも見える。
「おら、もう気はすンだだろうがァ、そろそろ帰るぞ」
湾内絹保の姿が見えなくなると、一方通行はいつまでも手を振り続ける打ち止めの頭を撫でながら家路へと帰るために振り返る。
「――ッ!?」
そんな彼の前に、二人の少女が立っていた。
どちらも湾内絹保と同じく、常盤台中学の制服に身を包んだ少女は、静かに一方通行へと視線を向ける。
一方通行としては、あまり彼女と一緒にいるところを他人に見られるのは望ましくなかったので。
バス停の近くの公園まで彼女を見送り、別れを告げる。
打ち止めは物寂しそうな顔をしていたが、湾内絹保にやさしく頭を撫でられるとおとなしくなった。
どうやら彼女に撫でられることで、この少女をおとなしく出来るようだ。と、一方通行はどうでもいい知識を得た。
湾内絹保も別れ際に、ほんの少し寂しい顔をしていたが。
一方通行が何気なく「ンじゃまたな」と呟くと、その表情はすぐに晴れた。
彼女の背中が見えなくなるまで打ち止めは手を振っていた。
しばらく、そんな打ち止めの横で、一方通行もその背中を見つめていた。
夕日に照らされたその姿はいかにもお嬢様といった感じで。こんな世界の穢れなど知らぬ、無邪気な子供のようにも見える。
「おら、もう気はすンだだろうがァ、そろそろ帰るぞ」
湾内絹保の姿が見えなくなると、一方通行はいつまでも手を振り続ける打ち止めの頭を撫でながら家路へと帰るために振り返る。
「――ッ!?」
そんな彼の前に、二人の少女が立っていた。
どちらも湾内絹保と同じく、常盤台中学の制服に身を包んだ少女は、静かに一方通行へと視線を向ける。
176: 2010/05/23(日) 21:34:11.10 ID:I/CMBaEo
「超電磁砲……なンでオマエがここにいやがる」
――「超電磁砲(レールガン)」御坂美琴
「あんたこそ、うちの後輩に近づいて、一体何のつもり?」
肩のあたりまで伸ばした茶髪を揺らし、わずかに怒りの色を含ませて御坂美琴が呟く。
その少し後ろに立つ、ツインテールの少女になにやら言付けすると、その少女は小さくため息をついて、ふと虚空へと消える。
「お、お姉さま……?」
一方通行の言葉を聞いて振り向いた打ち止めは驚きの表情を見せる。
そんな打ち止めを見て、御坂美琴はさらにその声色を怒りの色に染める。
「あんた……ッ! その子は一体何! まさかまた何かの実験をッ!?」
「ま、待ってお姉さま! そうじゃないの! ってミサカはミサカは――」
御坂美琴の怒りを感じて、慌てて誤解をとこうと叫ぶ打ち止めだったが、その言葉を一方通行の声が遮った。
冷たくて、重たくて、悲しい声。
「――だったら、一体どうするってンだァ? なァおい、第三位の超電磁砲さンよォ?」
「決まってんでしょ! そんなこと絶対にさせるわけにはいかないわよ!!」
178: 2010/05/23(日) 21:37:35.56 ID:I/CMBaEo
バチバチとその体中から青白い火花を散らし、その肩を怒りに振るわせる。
力強い瞳にはあきらかな敵意、今にも一方通行目掛けてその電撃を放ちそうだ。
一方通行はそんな彼女の瞳から目を逸らさずに、片手を払い打ち止めに離れてろと伝える。
打ち止めは、そんな御坂美琴と一方通行を交互に見つめ、何も言葉にすることが出来ず。
ただただこの状況がどうすれば収まるかを考える。
「まァ聞け超電磁砲、オマエも知ってンだろうがァ、実験はもう凍結してンだよ」
一方通行はまったくもって慌てる素振りも見せず、冷たい口調で言う。
その瞳はとても冷たく、悲しい色をしている。
「こいつは妹達の番外固体で打ち止めつってなァ、とある理由で預かってるだけだ、実験には関係ねェよ」
打ち止めはともかく一方通行の言葉に頷き、少しでも御坂美琴がその言葉を信じてくれることを願う。
しかし、御坂美琴はその敵意の視線を一方通行から逸らすことはない。
「そんなこと、あんたなんかの言葉を信じろって言うわけ? そんなの……信じられるわけが無いでしょ!!」
超電磁砲が吼え、青白い電撃が放たれる。
光の速さで敵を貫く10億ボルトの電撃の槍はしかし、一方通行の体をかすることも無く全てその背後へと受け流される。
相手に傷一つつけることなど出来はしないと分かってはいても、やはりその現実は信じられない。
御坂美琴は小さく舌打ちをし、打ち止めを見る。
力強い瞳にはあきらかな敵意、今にも一方通行目掛けてその電撃を放ちそうだ。
一方通行はそんな彼女の瞳から目を逸らさずに、片手を払い打ち止めに離れてろと伝える。
打ち止めは、そんな御坂美琴と一方通行を交互に見つめ、何も言葉にすることが出来ず。
ただただこの状況がどうすれば収まるかを考える。
「まァ聞け超電磁砲、オマエも知ってンだろうがァ、実験はもう凍結してンだよ」
一方通行はまったくもって慌てる素振りも見せず、冷たい口調で言う。
その瞳はとても冷たく、悲しい色をしている。
「こいつは妹達の番外固体で打ち止めつってなァ、とある理由で預かってるだけだ、実験には関係ねェよ」
打ち止めはともかく一方通行の言葉に頷き、少しでも御坂美琴がその言葉を信じてくれることを願う。
しかし、御坂美琴はその敵意の視線を一方通行から逸らすことはない。
「そんなこと、あんたなんかの言葉を信じろって言うわけ? そんなの……信じられるわけが無いでしょ!!」
超電磁砲が吼え、青白い電撃が放たれる。
光の速さで敵を貫く10億ボルトの電撃の槍はしかし、一方通行の体をかすることも無く全てその背後へと受け流される。
相手に傷一つつけることなど出来はしないと分かってはいても、やはりその現実は信じられない。
御坂美琴は小さく舌打ちをし、打ち止めを見る。
179: 2010/05/23(日) 21:41:07.30 ID:I/CMBaEo
「ねぇあんた、あんたは一体何者なの? なんでこいつと一緒にいるの……?」
冷たく言い放たれる言葉だが、そこには妹のことを心配する姉の気持ちが確かに感じられる。
一方通行への敵意の色こそ消えない瞳、だがしかし確かに打ち止めを心配している色が見受けられる。
だからこそ、今のこの状況が、打ち止めにはとても辛くて、悲しくて、胸の置くが締め付けられるような痛みを感じる。
言葉が出ない、伝えなければいけないのに、自分が何を言えば彼女が一方通行へと向ける敵意を収めてくれるのかがわからない。
いや、そもそもがそんなことなどありえないような気がして、自分がなんと言ったところで、この二人の間の傷は、
その深く暗い溝は、もう二度と埋まることが無いように思えて。
気づいたらその瞳から、自然と涙がこぼれていた。
泣いてはいけない、今ここで自分が泣いてしまっては、また彼女は一方通行への疑いを深くしてしまう。
そう分かってはいるのに、そのことがさらにその小さな胸を締め付けて、次々と涙が溢れて止まらない。
押さえ込もうとしているのに、嗚咽が溢れて止まらない。
「ちょっと、どうしたのよ!」
御坂美琴がそんな打ち止めを心配して駆け寄る。
たとえ目の前にどんな敵がいようと、どんな状況だろうと、自分の妹が泣いているのを見過ごせるわけが無い。
自分の下へと駆け寄ってくる御坂美琴の姿を見て、また涙がこぼれる。
大事なことなのに、伝えなければいけないのに、言葉に出すことが出来ない。
自分の心は本当に、なんと幼く、なんと弱いんだ。
「ひく、えぐっ――お、お姉さま……違うの、本当にぃ……あの人は、あの人はただ……ひっく」
181: 2010/05/23(日) 21:44:48.52 ID:I/CMBaEo
自分の目の前まで駆け寄ってきた御坂美琴に、嗚咽の混じった声で何とか伝えようとする。
一方通行と彼女がお互いをいがみ合うような姿は見たくないから。
彼が本当は、とても優しい心を持っているということを、知ってほしいから。
そんな打ち止めを、御坂美琴がやさしく抱き寄せる。
ふわりと暖かい感触がして、体を包み込む。
「分かったから……あんたが何を言いたいかは、なんとなくだけど、もう分かったから」
耳元で御坂美琴が囁く。
その体温が、打ち止めの心を落ち着けてくれる。
その鼓動が、息遣いが、打ち止めの全てを包み込む。
「でもごめんね、それでも……それでも私はあいつを許せない」
御坂美琴は悲しくそう呟くと、抱きしめた打ち止めを話して、涙でくしゃくしゃになった顔を見る。
やさしくその頭を撫でると、静かに立ち上がり、背後で二人の様子を黙ってみていた一方通行へと、力強い視線を向ける。
「あんたがこの子を危険にさらすような気は無いらしいけど。それでも、私はあんたを信用しない。
今まで一万人もの妹達を頃してきた相手を、そう簡単に許すわけにはいかないわ」
その声は、力強く一方通行に敵意を向ける。
しかしどこか、悲しい色がその中にかすかに見えて、一方通行は二人を見つめていたその視線を逸らす。
一方通行と彼女がお互いをいがみ合うような姿は見たくないから。
彼が本当は、とても優しい心を持っているということを、知ってほしいから。
そんな打ち止めを、御坂美琴がやさしく抱き寄せる。
ふわりと暖かい感触がして、体を包み込む。
「分かったから……あんたが何を言いたいかは、なんとなくだけど、もう分かったから」
耳元で御坂美琴が囁く。
その体温が、打ち止めの心を落ち着けてくれる。
その鼓動が、息遣いが、打ち止めの全てを包み込む。
「でもごめんね、それでも……それでも私はあいつを許せない」
御坂美琴は悲しくそう呟くと、抱きしめた打ち止めを話して、涙でくしゃくしゃになった顔を見る。
やさしくその頭を撫でると、静かに立ち上がり、背後で二人の様子を黙ってみていた一方通行へと、力強い視線を向ける。
「あんたがこの子を危険にさらすような気は無いらしいけど。それでも、私はあんたを信用しない。
今まで一万人もの妹達を頃してきた相手を、そう簡単に許すわけにはいかないわ」
その声は、力強く一方通行に敵意を向ける。
しかしどこか、悲しい色がその中にかすかに見えて、一方通行は二人を見つめていたその視線を逸らす。
182: 2010/05/23(日) 21:47:52.65 ID:I/CMBaEo
「はァ、それでェ? いったい超電磁砲様はこの俺に一体何が言いたいてンだァ?」
一方通行は視線を合わせることなく言う。
二人の間を、夕日に照らされた電柱代わりの風車塔の影が貫く。
風車の動きに合わせて、一方通行と御坂美琴の顔に交互に影が落ちる。
「この子についてはあんたに任せるわ……よく事情もわかんないし。
でも、もう湾内さんに近づくのはやめて貰えるかしら……あんたみたいな奴と一緒にいたら、危ないから」
「……あァ、分かった。もともとそのつもりだったしなァ? 大体あンなお嬢様の相手なンざ、もともと面倒なだけなンだよォ」
相変わらず、敵意の篭った視線を向ける御坂美琴と目を合わさずに、目を伏せて、一方通行が呟く。
その顔は、自嘲気味に引きつり、微かに、その指先が震えているのに、打ち止めただ一人だけが気づいていた。
だが打ち止めは何も言わない、言うことが出来ない。
正直、自分はまた湾内絹保に会いたいと思うし、彼が会いたくないと思ってもいないと分かっている。
それでも、おそらく一方通行は自分のために、辛い選択をしているのだろうから。
その心を、気持ちを自分のわがままで裏切るわけにはいかないから。
「もともと、今日はそれだけを伝えようと思ってきたのよ。ただ、この子の顔を見て、少し熱くなっちゃったけど……」
そういうと御坂美琴は振り返って、打ち止めの頭に手を置くと、彼女にしか聞こえないほど小さな声で謝る。
涙で視界がぼやけた打ち止めには、髪の毛に隠れて見えなかったが、その瞳は悲しい色をしていた。
184: 2010/05/23(日) 21:51:21.82 ID:I/CMBaEo
――と、その時、一方通行の携帯電話が鳴る。
無機質な電子音が響き、一方通行がその画面を見る。
湾内絹保からの電話。
数秒、出るかどうか迷ったが、彼は無言で電話に出て、顔に携帯電話を近づける。
「なンだァ? 忘れ物でもしたのかァ」
『こんにちは、第一位……くくく、ご機嫌はいかがかなぁ?』
電話の向こうから聞こえてきたのは、聞いたことの無い男の声。
その男は、離れたところにいる打ち止めと御坂美琴にも聞こえるほどやけに通る声で、不気味に笑いながら続ける。
『この携帯の持ち主、わかるよなぁ? ついさっきまで、お前と一緒にいたんだからよぉ?』
「てめぇ、一体なにもンだァ!?」
一方通行が怒鳴る。
その声を聞いて、打ち止めと御坂美琴はただごとではないと感じ、電話口から聞こえる声に耳を傾ける。
『まぁそう慌てんなよ……女は俺達が預かってる。なぁに、てめぇがおとなしくしてくれりゃあこいつには手はださねぇさ』
「てめェ……ッ! どこだ! どこにいやがる!!」
御坂美琴はその会話を聞き、顔色を変える。
明らかにあせりを見せる表情で、携帯電話を取り出し、どこかへ電話を掛けると、ワンコール目でその場にツインテールの少女が現れる。
無機質な電子音が響き、一方通行がその画面を見る。
湾内絹保からの電話。
数秒、出るかどうか迷ったが、彼は無言で電話に出て、顔に携帯電話を近づける。
「なンだァ? 忘れ物でもしたのかァ」
『こんにちは、第一位……くくく、ご機嫌はいかがかなぁ?』
電話の向こうから聞こえてきたのは、聞いたことの無い男の声。
その男は、離れたところにいる打ち止めと御坂美琴にも聞こえるほどやけに通る声で、不気味に笑いながら続ける。
『この携帯の持ち主、わかるよなぁ? ついさっきまで、お前と一緒にいたんだからよぉ?』
「てめぇ、一体なにもンだァ!?」
一方通行が怒鳴る。
その声を聞いて、打ち止めと御坂美琴はただごとではないと感じ、電話口から聞こえる声に耳を傾ける。
『まぁそう慌てんなよ……女は俺達が預かってる。なぁに、てめぇがおとなしくしてくれりゃあこいつには手はださねぇさ』
「てめェ……ッ! どこだ! どこにいやがる!!」
御坂美琴はその会話を聞き、顔色を変える。
明らかにあせりを見せる表情で、携帯電話を取り出し、どこかへ電話を掛けると、ワンコール目でその場にツインテールの少女が現れる。
185: 2010/05/23(日) 21:55:09.70 ID:I/CMBaEo
『第十九学区の端にあるでけぇ倉庫の廃墟、そこに来い、もちろん一人でだ』
男はそれだけを伝えると、一方的に通話をきる。
一方通行は舌打ちをし、ツーツー、と通話終了の音を鳴らす携帯電話を乱暴にポケットへと収める。
一方通行は顔を上げると、打ち止めの元へと歩み寄り、その手をつかむ。
「おい打ち止め、オマエは先に帰ってろ。俺はアイツを助けに――」
「あんたは来なくていいわよ」
一方通行の言葉を、御坂美琴が遮る。
冷たく言い放った言葉に、一方通行は表情をゆがませる。
「あの子は私達が助けに行く。あんたはもう、あの子に関わらないでって言ったでしょ」
彼女はそう呟き、ツインテールの少女と共に、音も無く消えた。
残された一方通行と打ち止めは、しばらく彼女がいた空間を見つめていた。
一方通行は膝を落とし、奥歯をかみ締め、その拳を地面へと叩きつける。
その手から赤い血が滲む。決して傷つくことの無いその体から。
186: 2010/05/23(日) 21:58:01.09 ID:I/CMBaEo
「俺のせいだァ……チクショウがァ! 俺と一緒にいればこうなるってことぐれェ、少し考えりゃ分かっただろうがァ!!」
一方通行は叫ぶ、行き場の無い感情を、握り締めた拳に込めて、何度も、何度も振り下ろす。
その拳は血にまみれ、皮がめくれ、肉が見えていた。
打ち止めはそんな少年を見て、泣きそうな顔でその腕にしがみつく。
ぴたりとその腕が止まり、一方通行がその顔を上げて打ち止めを見る。
酷く、とても悲しく歪んだ顔。
悲しみと怒りで、今にも壊れてしまいそうな心が、そこに表れていた。
「やめて、お願いだからやめて……あなたは悪くないんだから……」
握り締めた拳から力が抜ける。
力なく垂れた腕から、赤い血が地面へと垂れ落ちる。
打ち止めは一方通行を無言で抱きしめる。
抱き寄せたその肩が、静かに震えているのが分かった。
胸の奥がどうしようもなく痛んだ。この少年が傷つく姿を見ているのが、耐えられなかった。
187: 2010/05/23(日) 22:01:32.41 ID:I/CMBaEo
一方通行は打ち止めに抱きしめられ、その暖かさで少しだけ冷静さを取り戻す。
人の体温というものは、こんなにも心を安らげてくれるものなのか、と感じる。
自分は今まで、この暖かさを知らなかった。
やっと手に入れた自分の居場所も、暖かさも、とても心地のいいものだった。
だがやはり、自分にはそんな光は似合わないのだ。その暖かさに触れただけで、自分は甘えていたのだ。
少し、気を許してしまったがために。自分はまた、自分の抱える闇で誰かを傷つけてしまう。
結局、あの少女を、湾内絹保を傷つけてしまった。
打ち止めの頭をやさしく撫で、顔を上げる。
湾内絹保の元へは超電磁砲が向かった。
一緒にいたツインテールの少女も、おそらくは高位能力者、それも空間移動能力だろう。
あの二人が向かったのならば、彼女は大丈夫だ。
もう、自分が向かう必要も、自分には彼女に会う権利も無い。
「帰るぞ」
小さく呟いて、一方通行は立ち上がる。
夕日はもう大きく傾いて、ビルの間に隠れた地平線へと沈みかけていた。
打ち止めは無言で頷く、血だらけになった一方通行の腕に手を回す。
二人の間に言葉はない、ただただ、喪失感だけが二人を包み、その心を支えあうようにして歩きだす。
人の体温というものは、こんなにも心を安らげてくれるものなのか、と感じる。
自分は今まで、この暖かさを知らなかった。
やっと手に入れた自分の居場所も、暖かさも、とても心地のいいものだった。
だがやはり、自分にはそんな光は似合わないのだ。その暖かさに触れただけで、自分は甘えていたのだ。
少し、気を許してしまったがために。自分はまた、自分の抱える闇で誰かを傷つけてしまう。
結局、あの少女を、湾内絹保を傷つけてしまった。
打ち止めの頭をやさしく撫で、顔を上げる。
湾内絹保の元へは超電磁砲が向かった。
一緒にいたツインテールの少女も、おそらくは高位能力者、それも空間移動能力だろう。
あの二人が向かったのならば、彼女は大丈夫だ。
もう、自分が向かう必要も、自分には彼女に会う権利も無い。
「帰るぞ」
小さく呟いて、一方通行は立ち上がる。
夕日はもう大きく傾いて、ビルの間に隠れた地平線へと沈みかけていた。
打ち止めは無言で頷く、血だらけになった一方通行の腕に手を回す。
二人の間に言葉はない、ただただ、喪失感だけが二人を包み、その心を支えあうようにして歩きだす。
188: 2010/05/23(日) 22:04:50.46 ID:I/CMBaEo
「――ちょっといいかしら?」
ふと、背後から声が聞こえた。
一方通行は声がしたほうを振り向く。
立っていたのは一人の女性だった、その顔は化粧といったものが何もされておらず。
服装も着古されたTシャツとジーンズの上から白衣を羽織っただけ。
色気などまったく気にしていないような、まさに研究者といった姿。
「あァン? 芳川桔梗……なンでオマエがここにいやがる」
一方通行はその姿を見るや否や、すぐさまその瞳に敵意を込める。
芳川桔梗はそんな一方通行をみて、困ったような顔をして、その後ろに隠れるように立つ打ち止めを見る。
「そう怖い顔をしないで、別にその子をどうこうしようとしてるわけじゃないのだから」
そういうと芳川桔梗は打ち止めに向かって笑顔を向ける。
しかし打ち止めは、一方通行の後ろに隠れたまま怯えるようにその服にしがみついている。
その様子を見て、彼女は少しだけ寂しそうに息をついてから一方通行と向き直る。
「打ち止めに用がねェってンなら、一体何の目的で俺の前に立ってやがる」
一方通行が噛み付くような声で問いたてる。
しかし芳川桔梗は落ち着いた口調を崩さない。
それこそ、この少年が自分に牙を向くことはないと、確信しているかのように。
190: 2010/05/23(日) 22:09:25.44 ID:I/CMBaEo
「実はね、あの実験は凍結から中止へと移行したわ。つまり、もうその子や妹達に危害が加わることはないというわけね。
……おかげで、こちらは研究所を追われて知り合いの家に居候の身なのだけれど」
あまりに落ち着いた口調で言うため、一方通行ははじめ、その言葉の意味がよく理解できなかった。
しかし、何度かその言葉を頭の中で反復したのち、やっとその意味い気づく。
もう、この少女に危ない思いをさせずに済むのだと。もう、あの悪夢のような危険に晒さずに済むのだと。
「そうか、まァ細けェこたァどうだっていい、実験が中止になったってンならそれはそれだァ。」
一方通行は、その体の緊張を解いて答える。
その後ろの打ち止めも、安心したのか、その服を握る力が少しだけやわらぐ。
芳川桔梗はそんな二人を見て、微笑みながら、しかし落ち着きすぎていて、冷たく感じるほどの声で言う。
「でもね、今回の本題はここからよ一方通行? 実はこの間の事件の後、天井亜雄に付いて調べたのだけれど、そこで面白い情報を見つけたの」
天井亜雄、その名が出てきたとたん、一方通行の眉間に皺がよる。
打ち止めの肩が、微かに震える。
「アイツが、一体どうしたってンだァ……」
「ふふ、さっきのあの子達、妹達のオリジナルね……もしかしたら早く助けに行ってあげたほうが、いいかもしれないわよ?」
女は続ける、地平線の底に落ちていく夕日を眺めながら。
その白衣が、鮮やかな赤から冷たい青へと色を変えてゆく。
「――キャパシティダウンって、知ってるかしら?」
191: 2010/05/23(日) 22:12:25.45 ID:I/CMBaEo
「――なぁおい? キャパシティダウンってしてるかぁ?」
第十九学区、廃墟となった倉庫に男のあざ笑うかのような声が響く。
廃墟となった倉庫のなか、黒光りする拳銃を持った男達に囲まれるようにして、二人の少女が頭を抑え、跪いている。
「く……頭がッ!?」
「演算に……集中、できませんの……ッ!」
常盤台中学の制服を着た二人の少女は、必氏に能力を使おうと脳内で演算をするが、
どこからともなく聞こえてくる奇妙な音によって、その演算を妨害され、能力を使用することが出来ない。
男達のうちの一人、おそらくリーダー格である男が、そんな二人を見下しながらあざ笑う。
「ひゃっはっは!まさか第三位の超電磁砲様が来るとは思いもよらなかったがよぉ?
本当はとある組織に頼まれて、第一位を[ピーーー]つもりだったんだが……まぁこのさいどっちでもいい……
どちらにせよ、あの研究者に貰ったこのキャパシティダウンの前では手も足もでねぇみたいだしなぁ!?」
男は笑いながら、その後方にある倉庫の天井ぎりぎりまで届く、鉄骨で組み立てられた塔のような機械を指差す。
その頂上には大型のスピーカーが取り付けられており、そこから演算を妨害する奇妙な音が放たれている。
「こんなお嬢様一人捕まえるだけで、こんな大物が釣れちまうんだからなぁ? ほんっと、笑いがとまらねぇよ!!」
その塔の真下で、手足を拘束され、気を失って横たわる湾内絹保の姿。
その姿を見て、超電磁砲、御坂美琴は歯を食いしばる。
192: 2010/05/23(日) 22:15:44.51 ID:I/CMBaEo
「あんたたち! こんなことして、ただで済むと思ってんの!!」
頭に走る痛みを押さえ込み、声を振り絞って叫ぶ。
震える足に力をこめ、這う様にして立ち上がる。
「おぅおぅ、流石はレベル5ってとこかぁ? これを使われて立ち上がれるだけでもたいしたもんじゃねぇか」
だがしかし、男達は焦りの色も見せず、その姿をあざ笑い、銃口を立ち上がったその足へと向ける。
「だが、化け物は化け物らしく、地べたに這いつくばってなぁ!!」
乾いた銃声が響く。
銃口から吐き出された弾丸が、御坂美琴の右足を貫き、赤い鮮血が飛び散る。
「ぐっ!? あぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
その痛みに耐えかねて、膝から崩れ落ちるようにして御坂美琴が倒れる。
しかし、すぐさま叫び声を飲み込み、歯を食いしばり。
血の流れる動かない足を庇うようにして、上体だけを起こし、敵意の衰えぬ瞳で男をにらみつける。
193: 2010/05/23(日) 22:18:05.27 ID:I/CMBaEo
「おいおい、足を撃ち抜かれてもまだ反抗する気力があんのかよ? さすがは化け物だなぁおい」
男はその姿をみて、手を叩いて笑う。
その瞳は、もはや人を見る目ではない。まさに、人ではない何かを見るような目で、御坂美琴をあざ笑う。
その銃口が、今度は倒れる御坂美琴の頭に向けられる。
そんな姿を見て、御坂美琴の横で倒れこむツインテールの少女、白井黒子は歯を食いしばり、拳を握る。
自分の友達が、人質にされ、目の前で倒れているのに。自分の憧れの人が、大切な人が目の前で馬鹿にされているのに。
それでも自分には、彼女と違いこの状況で立ち上がる力も、ましてや彼女を助けるだけの力もない。
「なめんじゃ……ねぇですわ……ッ!!」
力を振り絞る。
頭の回路が焼ききれるような激痛が走る、それでも今この状況で、自分だけが無様に倒れているわけには行かない。
そんなことは許されない。
なぜなら自分は、超電磁砲のパートナーなのだから。
力を振り絞り、自分の太ももに手を伸ばし、そこにある自分の武器に手を触れる。
今だけだ、少しでもいいから力を使わなければ。
今ここで自分だけが何も出来ないのでは、何のために自分はここにいるのか分からない。
194: 2010/05/23(日) 22:22:23.76 ID:I/CMBaEo
「――ッ!? 黒子! やめなさい!!」
その動きに気づいた御坂美琴が叫ぶ、男達がその声に釣られ、白井黒子に一斉に拳銃を向け、その姿をにらむ。
だがしかし、白井黒子は恐れることなく静かに微笑む。
飛び散った御坂美琴の血が微かに付いた、肩につけた風紀委員の腕章が、自分の誇りが、力をくれたような気がした。
「有難うございますわ」
――己の信念に従い、正しいと感じた行動をとるべし。
「これで、標的がよく見えますもの」
――思いをつらぬき通す意志があるなら、結果は後からついてきますわ。
風を切るような、小さな音がした。
「お姉さまを傷つけることは、わたくしが絶対に許しませんの!」
白井黒子に向けられた拳銃に、カツンと甲高い音を響かせて、金属の矢が突き刺さる。
銃口を貫通し、完全にその穴を塞ぐ。
195: 2010/05/23(日) 22:26:32.03 ID:I/CMBaEo
「んなっ!?」
男達が一斉に驚きの声を上げ、手に持った拳銃を壁目掛けて投げ捨てる。
壁に激突した衝撃で、いくつかの拳銃が破裂した。
男達はそれを見て、目の色を変える。
その瞳に、最早余裕の色は無い、それは、明確な殺意の色。
「拳銃なんて物騒なものは、風紀委員が没収ですのよ……?」
体中から脂汗を流し、かすれるような声で呟く。
もはや頭に走る激痛で、意識は朦朧とし、視界はほとんど見えていない。
指先一本動かすことも出来ずに倒れこむ白井黒子に、リーダー格の男が歩み寄る。
「てめぇ! ふざけんじゃねぇぞ!!」
その足を全力で振り切り、倒れる白井黒子の腹部に叩きつける。
つま先がわき腹に食い込み、内臓が捩れる感触が走る。
もはやうめき声を上げることも出来ずに、白井黒子の体はそのまま四肢を地面に叩きつけるようにして転がる。
196: 2010/05/23(日) 22:29:52.57 ID:I/CMBaEo
「黒子!!」
御坂美琴はその姿を見て叫ぶ、痛みと怒りで頭がどうにかなりそうだった。
全身に力を込めても、その足はもう動いてくれない。
どんなに助けようと思っても、この体はその大切な後輩の下へ、歩み寄ることも、その後輩を傷つける者を払いのけることも出来ない。
「く……そぉ!」
能力が使えなければ、自分はこれほどまでに無力なのか。
白井黒子は、あの子は最後の力を振り絞ってまで自分を助けようとしてくれたのに。
動かすことの出来るその手を硬く握りしめ、地面へと叩きつける。
この拳は、あの男達に届くことは無い。
「おい! もうその人質の女もいらねぇ、頃しちまえ!」
リーダー格の男がそう叫ぶと、他の男達が倒れている湾内絹保に歩み寄ろうとする。
もはや彼らは、誰が氏のうと気にしていない。
このままでは、自分達だけではなく、彼女まで殺されてしまう。巻き込んでしまう。
「や、やめて! その子は関係ないでしょう!?」
悲痛の叫び、だがしかし、男達の歩みは止まらない。
一歩、また一歩とじわじわと倒れる少女へと近づいていく。
197: 2010/05/23(日) 22:32:57.23 ID:I/CMBaEo
「そうはいかねぇよ、少しでも証拠は消しとくに限るからなぁ?」
男の一人がそういい、懐からナイフを取り出し微かに笑った、その時。
どこからとも無く声が聞こえてきた。
「――あぁその通りだなぁ、確かに少しでも証拠は残しとくもんじゃねぇぜ?」
倉庫の天井が大きな音を上げ、穴を開ける。
その穴から、白い閃光が飛び込み、鉄骨で出来た塔へと突き刺さる。
「んなっ!?」
男達が一斉に身を引く。
塔は鉄骨を撒き散らしながら崩れ落ち、鉄と鉄がぶつかり合う音が、廃墟に響き渡る。
大きな土煙をあげ、崩れ落ちたその中から、一人の少年が現れる。
「ンじゃァ今日この瞬間、オマエらがココに存在した全ての根拠を消し去ってやる……」
どこまでも白く、どこまでも透き通った少年は、その赤い瞳で男達をにらみつける。
その手には、先ほどの爆音により、目を覚ました湾内絹保が抱かれていた。
198: 2010/05/23(日) 22:36:23.31 ID:I/CMBaEo
一方通行は、少女を抱きかかえたまま吼える。
「オマエらァ! こンなまねしておいてただで済むと思ってンじゃねェだろうなァ!?」
次の瞬間、土煙が収まると共に、一方通行の姿が消える。
その動きについていけなかった男達の視線が、その姿を探して動き出すのと同時に、その体が四方へと吹き飛ばされる。
男達は全員が倉庫の壁や、置き去りにされたコンテナなどに全身を叩きつけられ、うめき声を上げることも無くそのまま気を失った。
一方通行は気を失って倒れた男達一人一人に歩み寄ると、湾内絹保の目を塞ぎ、男達の足を踏みつける。
鈍い音がして、男達の足があらぬ方向へと曲がる。
「え、え? い、一体何がどうなっているのですか一方通行様!?」
少女は状況を把握できないまま視界を塞がれ、戸惑いの声を上げる。
「大丈夫だ、なンも心配すンなァ」
一方通行はそんな少女の耳元でやさしく囁くと、足から血を流し倒れる御坂美琴の元へと歩み寄る。
「あ、あんた……どうしてここに!」
「こまけェことはどうでもいいだろうが、いいからその傷見せなァ」
199: 2010/05/23(日) 22:40:40.76 ID:I/CMBaEo
一方通行はそういうと、湾内絹保を静かに下ろし、御坂美琴の足の傷を見る。
ポケットから出血を止める薬、包帯を取り出すと、簡単に応急処置を施し、後のことを湾内絹保に任せる。
「出血は止めておいた、弾丸は貫通してっから、とりあえずは大丈夫だァ」
小声でそう伝えると、今度は白井黒子のそばでナイフを構えて振るえる男を見る。
「ひっ! く、来るな! こんなこと聞いてないぞ! どうしてお前はキャパシティダウンの音を聞いてもなんとも無いんだ!?」
男は、最早面影などかけらも無い、鉄の塊となった塔の残骸を見る。
「ベクトル操作――俺の能力くらい知ってンだろォ? 音の反射なんざ、朝飯前ってなァ?」
一方通行が静かにその男に歩み寄る。
男は後ずさりし、途中で鉄骨に足を取られ、後ろ向きに転げるように倒れる。
一方通行はその姿を見て、倒れる白井黒子の元へ歩み寄り、体の傷を見る。
全身に擦り傷が打撲などが見受けられるが、命に関わるような傷は無い。
「な、なんなんだ、来るな! こっちに来るなぁ!」
「そいつは聞けねェ相談だなァ、オマエは俺を怒らせちまったンだからよォ」
ポケットから出血を止める薬、包帯を取り出すと、簡単に応急処置を施し、後のことを湾内絹保に任せる。
「出血は止めておいた、弾丸は貫通してっから、とりあえずは大丈夫だァ」
小声でそう伝えると、今度は白井黒子のそばでナイフを構えて振るえる男を見る。
「ひっ! く、来るな! こんなこと聞いてないぞ! どうしてお前はキャパシティダウンの音を聞いてもなんとも無いんだ!?」
男は、最早面影などかけらも無い、鉄の塊となった塔の残骸を見る。
「ベクトル操作――俺の能力くらい知ってンだろォ? 音の反射なんざ、朝飯前ってなァ?」
一方通行が静かにその男に歩み寄る。
男は後ずさりし、途中で鉄骨に足を取られ、後ろ向きに転げるように倒れる。
一方通行はその姿を見て、倒れる白井黒子の元へ歩み寄り、体の傷を見る。
全身に擦り傷が打撲などが見受けられるが、命に関わるような傷は無い。
「な、なんなんだ、来るな! こっちに来るなぁ!」
「そいつは聞けねェ相談だなァ、オマエは俺を怒らせちまったンだからよォ」
201: 2010/05/23(日) 22:43:53.10 ID:I/CMBaEo
一方通行は白井黒子を抱きかかえ、壁にもたれかからせると、
目にも留まらぬ速さで倒れた男のすぐそばまで歩み寄り、その手に握られたナイフを蹴り飛ばす。
ナイフは風を切りながら飛び、アスファルトの地面に突き刺さる。
男は地面に突き刺さったナイフを見て、その顔から血の気が引いていく。
武器を失った男は、混乱のあまり開き直り、まるで一方通行を挑発するように叫ぶ。
「な、何を怒るってんだよこの化け物が! 今まで散々頃してきておいて、今更人助けか!?
一万人以上もの人間を頃したその手でか!?」
その叫びを聞いて、一方通行の手が震える。
後ろのほうで、少女の怯える声が聞こえた気がした。
「そうだ、お前は人頃しなんだよ! そんなふざけた奴に、人を助ける資格なんて――」
そこまで言った男の口を、一方通行の白い右手が塞ぐ。
顔をつかんだその手に力を込めれば、その男の頭蓋骨は、まるで熟れたトマトのように簡単につぶれるだろう。
「確かに、俺は一万人以上の人間を頃した、紛れもねぇ殺人鬼だ。
そンな俺が、今更人助けをしようだとか、誰かを助けたいだとか考えるのは甘えだっつゥのは俺だってわかってるンだよォ」
一方通行の瞳が、悲しく光る。
その声は、まるで自分自身に訴えるように、だんだんとその重みを増していく。
目にも留まらぬ速さで倒れた男のすぐそばまで歩み寄り、その手に握られたナイフを蹴り飛ばす。
ナイフは風を切りながら飛び、アスファルトの地面に突き刺さる。
男は地面に突き刺さったナイフを見て、その顔から血の気が引いていく。
武器を失った男は、混乱のあまり開き直り、まるで一方通行を挑発するように叫ぶ。
「な、何を怒るってんだよこの化け物が! 今まで散々頃してきておいて、今更人助けか!?
一万人以上もの人間を頃したその手でか!?」
その叫びを聞いて、一方通行の手が震える。
後ろのほうで、少女の怯える声が聞こえた気がした。
「そうだ、お前は人頃しなんだよ! そんなふざけた奴に、人を助ける資格なんて――」
そこまで言った男の口を、一方通行の白い右手が塞ぐ。
顔をつかんだその手に力を込めれば、その男の頭蓋骨は、まるで熟れたトマトのように簡単につぶれるだろう。
「確かに、俺は一万人以上の人間を頃した、紛れもねぇ殺人鬼だ。
そンな俺が、今更人助けをしようだとか、誰かを助けたいだとか考えるのは甘えだっつゥのは俺だってわかってるンだよォ」
一方通行の瞳が、悲しく光る。
その声は、まるで自分自身に訴えるように、だんだんとその重みを増していく。
202: 2010/05/23(日) 22:47:30.10 ID:I/CMBaEo
「だからってなァ、俺のせいで誰かが傷ついていくのを、そのまま見過ごすなンてこたァできねェンだよ!
俺はもう、誰かが傷つく姿を見るのは、耐え切れねェンだ!!」
一方通行が、包帯の巻かれた右手を握りしめる。
握り締めた拳を大きく振りかぶり、男に向かって吼える。
身動きの取れない男の顔が、これまで感じたことのない目の前の恐怖の重さに怯える。
「たとえ俺がどンなに外道だろうが! どンなに重い罪を背負ってようが関係ねェ!
それが、俺のせいで誰かが傷ついていい理由なンざには、ならねェだろうがァァ!!!」
その右手を振りかぶる。
ベクトル操作でも反射でもない、その拳の重みは、ただただ純粋な、彼自身の思いの重さ。
男の顔面に拳が食い込み、華奢な右腕がその衝撃で軋む音がした。
今まで能力を使わずに、この拳を振るったことなどなかった。
誰かのために振るう拳が、こんなにも重い物だとは思わなかった。
歯を食いしばり、右腕を振りぬく。
男はそのまま後方へ吹きとばされ、鉄骨の山にぶつかり、衝撃と恐怖により気を失った。
振りぬいた右手首が痛む、だがその痛みは決して今まで感じてきた、冷たく悲しいものではなかった。
203: 2010/05/23(日) 22:52:13.17 ID:I/CMBaEo
一方通行はあたりを見渡し、他に敵の姿が無いことを確認する。
少女達に背を向けたまま、小さく息を吐く。
もう、これでこの少女達に危険が及ぶことは無い。
もう、彼女達を、自分の抱えるこの闇に引きずり込むわけには行かない。
一方通行は静かに振り返る。
その顔を見て、湾内絹保が小さく震えた。
その表情は、瞳は、恐怖に染まっている。
「当然か、俺は一万人頃しの化け物だからなァ……」
一方通行は誰に言うでもなく、口の中で小さく呟く。
怯える湾内絹保の姿を見る、見たところ彼女自身には特に怪我もなく、御坂美琴と白井黒子も命に別状は無い。
御坂美琴は、なんとか声を掛けようとしているようだが、危険がさりアドレナリンの分泌が収まったのか。
急激に足の傷の痛みが増し、上手く声を出せずに、困惑の表情だけを一方通行に向ける。
少女達に背を向けたまま、小さく息を吐く。
もう、これでこの少女達に危険が及ぶことは無い。
もう、彼女達を、自分の抱えるこの闇に引きずり込むわけには行かない。
一方通行は静かに振り返る。
その顔を見て、湾内絹保が小さく震えた。
その表情は、瞳は、恐怖に染まっている。
「当然か、俺は一万人頃しの化け物だからなァ……」
一方通行は誰に言うでもなく、口の中で小さく呟く。
怯える湾内絹保の姿を見る、見たところ彼女自身には特に怪我もなく、御坂美琴と白井黒子も命に別状は無い。
御坂美琴は、なんとか声を掛けようとしているようだが、危険がさりアドレナリンの分泌が収まったのか。
急激に足の傷の痛みが増し、上手く声を出せずに、困惑の表情だけを一方通行に向ける。
205: 2010/05/23(日) 22:55:38.12 ID:I/CMBaEo
なんとか、自分はこの少女達を守ることが出来た。
それだけで、十分だった。もうこれ以上のことを望んではいけないと、自分に言い聞かせた。
「すまねェな……」
自分は誰に向けて話しかけているのだろう。
気を失っている白井黒子か、足の怪我をおさえ困惑の表情をしている御坂美琴か、
それとも怯えきった瞳で、その肩を震わせている湾内絹保か。
「もう、これに懲りたら……二度と俺に近づくンじゃねェぞ」
そういい残して、一方通行は前動作も無く跳躍し、再び自分のあけた天井の穴から消える。
別に、出入り口から歩いてでても問題は無かった、ただ、その前に座る彼女の顔を少しでも見ているのが、何よりも辛く感じた。
少年の姿が消えた倉庫の中で、湾内絹保は自分がどんな表情をしていたのかに気づく。
自分を助けてくれた少年に、自分に微笑んでくれた少年に、あの思い出の中の大切な人に、自分が今どんな顔をしていたのか。
そして、そんな自分をとても醜く感じて、自然と、取り返しのつかない思い出が、涙となってあふれ出した。
それだけで、十分だった。もうこれ以上のことを望んではいけないと、自分に言い聞かせた。
「すまねェな……」
自分は誰に向けて話しかけているのだろう。
気を失っている白井黒子か、足の怪我をおさえ困惑の表情をしている御坂美琴か、
それとも怯えきった瞳で、その肩を震わせている湾内絹保か。
「もう、これに懲りたら……二度と俺に近づくンじゃねェぞ」
そういい残して、一方通行は前動作も無く跳躍し、再び自分のあけた天井の穴から消える。
別に、出入り口から歩いてでても問題は無かった、ただ、その前に座る彼女の顔を少しでも見ているのが、何よりも辛く感じた。
少年の姿が消えた倉庫の中で、湾内絹保は自分がどんな表情をしていたのかに気づく。
自分を助けてくれた少年に、自分に微笑んでくれた少年に、あの思い出の中の大切な人に、自分が今どんな顔をしていたのか。
そして、そんな自分をとても醜く感じて、自然と、取り返しのつかない思い出が、涙となってあふれ出した。
206: 2010/05/23(日) 22:57:59.62 ID:I/CMBaEo
打ち止めの待つマンションの近くまで来て、一方通行は空を見上げる。
もう日は完全に沈み、空は蒼く染まっている。
多くは見えない星達が、離れた場所で悲しげに瞬いていた。
今夜は、月がその姿を見せない。
月明かりの無い夜道で、一方通行は夜の闇に溶けていく。
もう日は完全に沈み、空は蒼く染まっている。
多くは見えない星達が、離れた場所で悲しげに瞬いていた。
今夜は、月がその姿を見せない。
月明かりの無い夜道で、一方通行は夜の闇に溶けていく。
207: 2010/05/23(日) 23:00:37.64 ID:I/CMBaEo
マンションの扉が静かに開く、一方通行が部屋に入ってくると打ち止めがすぐさま駆け寄ってくる。
打ち止めは玄関まで掛けてくると、一方通行の顔を見上げ、心配そうに声を掛ける。
「大丈夫だった? ってミサカはミサカは暗い顔をしているあなたを心配してみる」
一方通行の腕をぎゅっと抱き寄せ、その顔をうずめる。
その目はほのかに赤く、今までどれほど自分のことを心配していたのかがすぐにわかった。
「あァ、大丈夫だ……だから、心配すンな。
……オマエまで辛い顔してたンじゃ、俺はどうすりゃいいのか分からなく……なっちまう」
一方通行は気丈に振舞おうとしたが、しかしその悲しみは抑え切れなかった。
自分にすがりつく少女の体温が、自分の心の弱いところを全て溶かしてしまうようで、
彼女の前では自分を偽ることが出来なかった。
「すまねェ……やっぱり辛いもンは辛いなァ……」
一方通行は打ち止めを抱きしめ、その感情を、悲しみをさらけ出す。
だがしかし、涙だけは見せない。彼女の前では、決してその涙を見せることはしない。
打ち止めは玄関まで掛けてくると、一方通行の顔を見上げ、心配そうに声を掛ける。
「大丈夫だった? ってミサカはミサカは暗い顔をしているあなたを心配してみる」
一方通行の腕をぎゅっと抱き寄せ、その顔をうずめる。
その目はほのかに赤く、今までどれほど自分のことを心配していたのかがすぐにわかった。
「あァ、大丈夫だ……だから、心配すンな。
……オマエまで辛い顔してたンじゃ、俺はどうすりゃいいのか分からなく……なっちまう」
一方通行は気丈に振舞おうとしたが、しかしその悲しみは抑え切れなかった。
自分にすがりつく少女の体温が、自分の心の弱いところを全て溶かしてしまうようで、
彼女の前では自分を偽ることが出来なかった。
「すまねェ……やっぱり辛いもンは辛いなァ……」
一方通行は打ち止めを抱きしめ、その感情を、悲しみをさらけ出す。
だがしかし、涙だけは見せない。彼女の前では、決してその涙を見せることはしない。
208: 2010/05/23(日) 23:03:43.63 ID:I/CMBaEo
「うん、大丈夫だから……ミサカはずっと一緒だからね?」
打ち止めはそんな一方通行を力の限り抱きしめる。
そしてその悲しみを少しでもやわらげようと声を掛ける。
それでも、一方通行は最後まで自分の弱さの全てを任せてはくれない。
自分が弱いから、自分を守るために、この人は強くあろうとしているのだと、打ち止めには分かった。
一方通行を抱きしめたまま強くなろうと誓う、いつかこの人の悲しみを全て受け止められるほどに。
この人の心の闇も、一緒に抱えてあげられるくらいに。
しばらくそうやって抱きしめあった後、一方通行は顔を上げて部屋の中を見る。
つい先刻まで、幸せで満ち溢れていた空間が、その胸を締め付けた。
その幸せの残像が、瞳に焼き付いて離れない。
209: 2010/05/23(日) 23:08:21.15 ID:I/CMBaEo
「打ち止め、この家でンぞ」
小さく呟く。
この部屋にいるのが辛いというのもあった。
また、あの幸せの残像が、自分と打ち止めを苦しませてしまうのではないかという気持ち。
だがそれ以上に、自分と湾内絹保との関係を、その糸を、少しでも断つ必要があった。
もし少しでもそのつながりを残してしまえば、また彼女に闇が近寄るかもしれないから。
もう、自分は彼女に会ってはいけない、会えばまた、彼女を傷つけてしまうから。
「うん、わかった、ってミサカはミサカはあなたの思いを無駄にはしないから」
打ち止めはなんの反論もせずに、同意してくれた。
おそらく、彼女も一方通行の考えていることが分かったのだろう。
そんな彼女の優しさが、一方通行の心を支えてくれた。
「もう他に持ってくもンはねェなァ? 必要最低限な荷物だけ持ちやがれェ」
「はーい、ってミサカはミサカは自分に特に私物が無いことにびっくりしてみたり」
その後、一方通行たちは荷物をまとめ、その部屋をでた。
今後住む部屋はまだ見つけたわけではないし、そんなに急ぐ必要があったというわけではないが。
なんとなく、すぐにでもこの部屋を出て行かなければならない気がした。
210: 2010/05/23(日) 23:12:02.13 ID:I/CMBaEo
マンションの出口まで降りると、そこに一人の女性が立っていた。
白衣を羽織ったその女性は、マンションから出てきた二人を見ると、小さく微笑む。
「こんばんは、こんな遅くにどこへ出かけるのかしら?」
芳川桔梗は意味ありげな笑みを浮かべて、二人の前に立つ。
一方通行はその姿を見て、少し驚いたよう顔をする。
「なンのようだ? さっきの情報の礼でもしてほしいってかァ?」
「そんなんじゃないわ、ただあなた達が今夜どこに泊まるつもりなのか、気になっちゃって」
その言葉に一方通行がぴくりと反応する。
打ち止めは驚いたようにその身を一方通行に寄せる。
「まさかそんな小さな子を置いて野宿するわけないわよね?」
「なンでてめェがそンな心配すンだよ」
芳川桔梗は微笑みながら言う。
「私、今知り合いのところでお世話になってるって言ったでしょう?」
白衣を羽織ったその女性は、マンションから出てきた二人を見ると、小さく微笑む。
「こんばんは、こんな遅くにどこへ出かけるのかしら?」
芳川桔梗は意味ありげな笑みを浮かべて、二人の前に立つ。
一方通行はその姿を見て、少し驚いたよう顔をする。
「なンのようだ? さっきの情報の礼でもしてほしいってかァ?」
「そんなんじゃないわ、ただあなた達が今夜どこに泊まるつもりなのか、気になっちゃって」
その言葉に一方通行がぴくりと反応する。
打ち止めは驚いたようにその身を一方通行に寄せる。
「まさかそんな小さな子を置いて野宿するわけないわよね?」
「なンでてめェがそンな心配すンだよ」
芳川桔梗は微笑みながら言う。
「私、今知り合いのところでお世話になってるって言ったでしょう?」
212: 2010/05/23(日) 23:16:13.59 ID:I/CMBaEo
静かに歩み寄り、一方通行ににらみつけられるのも気にせず、打ち止めに微笑みかける。
打ち止めは少々戸惑いの色を見せたが、その笑顔に悪意が無いのを感じたのか、微かに微笑む。
「この子のためにも、どこか一定の住居が必要でしょう?
うちへいらっしゃい、と言ってもさっきも言ったように知り合いの家だけれど、多分彼女なら歓迎してくれるわよ?」
芳川桔梗はしゃがんで、打ち止めの頭を撫でながら言う。
打ち止めは特に嫌がる様子は無いが、少々戸惑っているようだ。
「なンで俺がてめェなンかの世話にならなくちゃいけねェンだ」
「あなたのためでもあるけれど、これはこの子のためでもあるのよ?
この子のことを思うなら、少しでも落ち着ける場所に住んだほうがいいわ、それに」
芳川桔梗は急に立ち上がると、一方通行を真っ直ぐに見据える。
一方通行はそんな芳川桔梗を怪訝そうな目で見つめるが、ふと、その身が暖かく包まれる感触を感じた。
「あなたはまだまだ子供なのよ? たまには大人に甘えてみなさい」
芳川桔梗は一方通行をやさしく抱きしめ、耳元で囁く。
一方通行は急に抱きしめられ、戸惑うが、しかし体はその身を引き離そうとはしない。
こんな風に抱きしめられていたいと思っているわけでもないのに、体はそのことを拒否しない。
打ち止めは少々戸惑いの色を見せたが、その笑顔に悪意が無いのを感じたのか、微かに微笑む。
「この子のためにも、どこか一定の住居が必要でしょう?
うちへいらっしゃい、と言ってもさっきも言ったように知り合いの家だけれど、多分彼女なら歓迎してくれるわよ?」
芳川桔梗はしゃがんで、打ち止めの頭を撫でながら言う。
打ち止めは特に嫌がる様子は無いが、少々戸惑っているようだ。
「なンで俺がてめェなンかの世話にならなくちゃいけねェンだ」
「あなたのためでもあるけれど、これはこの子のためでもあるのよ?
この子のことを思うなら、少しでも落ち着ける場所に住んだほうがいいわ、それに」
芳川桔梗は急に立ち上がると、一方通行を真っ直ぐに見据える。
一方通行はそんな芳川桔梗を怪訝そうな目で見つめるが、ふと、その身が暖かく包まれる感触を感じた。
「あなたはまだまだ子供なのよ? たまには大人に甘えてみなさい」
芳川桔梗は一方通行をやさしく抱きしめ、耳元で囁く。
一方通行は急に抱きしめられ、戸惑うが、しかし体はその身を引き離そうとはしない。
こんな風に抱きしめられていたいと思っているわけでもないのに、体はそのことを拒否しない。
214: 2010/05/23(日) 23:20:13.95 ID:I/CMBaEo
「たまには、大人の胸で、思いっきり泣いて見なさい。」
芳川桔梗は呟く。
その言葉は、一方通行の胸に、一方的に響きわたる強さがあった。
「感情を押し殺せるということは強さでもあるけれど。それは同時に、自分の心を人に見せることの出来ない弱さでもあるのよ」
気づいたら、その瞳から、なにか暖かいものが溢れ出していた。
これまで、必氏に押さえこんできたそれは、どんなに止めようと思っても止めることが出来なかった。
「――会いてェよ……」
感情が口の端から零れ落ちる。
「あンな別れなンざ……あのまま二度と会えないなンざ、俺はいやだァ……」
押さえつけてきた感情は、その抑圧を失い、次々と溢れ出す。
「思いっきり泣きなさい、そして好きなだけ泣いたのなら。そこからまた強くなりなさい」
一方通行の瞳から、とめどなく涙が溢れ出して、その涙は星の光を浴びて、きらきらと瞬いていた。
その日、一方通行は生まれて初めて声を上げて泣いた。
215: 2010/05/23(日) 23:23:22.38 ID:I/CMBaEo
夕暮れの学園都市――太陽は並び立つ高層ビルのかげに落ち。
その赤くやさしい光をビルの窓が反射し、その町を美しく染めあげる。
そんな黄昏時に、一人の少年と少女が歩いていた。
少年はその白い髪と肌に夕日の光を受け、その体は夕日の色に染まり、
黄昏時の町の景色に溶け込み。その赤い瞳の奥には夕日を映す。
その隣、頭から飛び跳ねたクセ毛をぴょこぴょこと揺らしながら少年の横を歩く少女。
その柔らかな横顔はほのかに赤みを帯びており、夕日の光を受けてより一層その色を際立たせる。
肩の辺りまで伸ばした茶色い髪は光を反射し、きらきらとやさしくきらめく。
「ったく黄泉川のやろう、何が居候の身ならしっかり働けだァ、人のことこき使いやがって」
「そんなこといいながらもしっかりとお使いはやるんだね、ってミサカはミサカは律儀に買い物袋を抱えるあなたに微笑んでみたり」
少女は大量の食料品の入ったビニール袋を持った少年に微笑みかける。
少年はめんどくさそうに舌打ちしながらも、荷物を抱えたその歩幅を少女に合わせて歩く。
「まァ居候の身ってのは確かだしなァ……悔しいが、働かざるもの食うべからずってなァ」
「それだとヨシカワは一生ご飯にありつけないかも、ってミサカはミサカは家でごろごろしてるあの人を心配してみたり」
「あいつは自分にまで甘すぎンだよ……」
その赤くやさしい光をビルの窓が反射し、その町を美しく染めあげる。
そんな黄昏時に、一人の少年と少女が歩いていた。
少年はその白い髪と肌に夕日の光を受け、その体は夕日の色に染まり、
黄昏時の町の景色に溶け込み。その赤い瞳の奥には夕日を映す。
その隣、頭から飛び跳ねたクセ毛をぴょこぴょこと揺らしながら少年の横を歩く少女。
その柔らかな横顔はほのかに赤みを帯びており、夕日の光を受けてより一層その色を際立たせる。
肩の辺りまで伸ばした茶色い髪は光を反射し、きらきらとやさしくきらめく。
「ったく黄泉川のやろう、何が居候の身ならしっかり働けだァ、人のことこき使いやがって」
「そんなこといいながらもしっかりとお使いはやるんだね、ってミサカはミサカは律儀に買い物袋を抱えるあなたに微笑んでみたり」
少女は大量の食料品の入ったビニール袋を持った少年に微笑みかける。
少年はめんどくさそうに舌打ちしながらも、荷物を抱えたその歩幅を少女に合わせて歩く。
「まァ居候の身ってのは確かだしなァ……悔しいが、働かざるもの食うべからずってなァ」
「それだとヨシカワは一生ご飯にありつけないかも、ってミサカはミサカは家でごろごろしてるあの人を心配してみたり」
「あいつは自分にまで甘すぎンだよ……」
216: 2010/05/23(日) 23:26:05.08 ID:I/CMBaEo
夕日に照らされながら二人並んであるくその後ろに、一人の少女が通りかかる。
常盤台中学の制服を着たその少女は、何気なく立ち止まり、二人の歩くほうを見る。
少女が、その姿をその視界に納める。
そのやさしくウェーブした明るい茶髪が揺れて、夕日にきらめく。
少女は、楽しげに笑う二人の姿を見て、その瞳から、涙が一滴だけこぼれた。
その足が、自分の意思とは関係なく。いや、おそらくは自分でもうまく感じることの出来ない、心の奥底の思いにしたがって。
夕日に照らされた少年と少女のもとへと歩みだす。
少しずつ、その足取りが速くなる、激しく動いているわけではないのに、微かに鼓動が高鳴る。
二人のすぐ後ろまで来て、声を掛ける。
少年と少女は振り向いて、驚きの表情を見せる。
思い出の残像ではない、その少女は紛れもなくそこに立ち、微笑んでいた。
「――また、お礼をさせてはくださいませんか?」
常盤台中学の制服を着たその少女は、何気なく立ち止まり、二人の歩くほうを見る。
少女が、その姿をその視界に納める。
そのやさしくウェーブした明るい茶髪が揺れて、夕日にきらめく。
少女は、楽しげに笑う二人の姿を見て、その瞳から、涙が一滴だけこぼれた。
その足が、自分の意思とは関係なく。いや、おそらくは自分でもうまく感じることの出来ない、心の奥底の思いにしたがって。
夕日に照らされた少年と少女のもとへと歩みだす。
少しずつ、その足取りが速くなる、激しく動いているわけではないのに、微かに鼓動が高鳴る。
二人のすぐ後ろまで来て、声を掛ける。
少年と少女は振り向いて、驚きの表情を見せる。
思い出の残像ではない、その少女は紛れもなくそこに立ち、微笑んでいた。
「――また、お礼をさせてはくださいませんか?」
217: 2010/05/23(日) 23:28:53.56 ID:I/CMBaEo
あ、はいそうです、一応お、終わりましたです、はい(超小声
またなんか地味に長くだらだらやってしまったorz
最後まで見てくれた人はありがとう!
もし途中で変なところがあったならあやまります、罵ってください(ただし一方さん風に
とりあえず今回は本当に個人的な趣味で湾内さん入れました。
湾内さんかわいいよ湾内さん。
一方通行×湾内絹保とか誰得だよって俺得です本当に有難うございましたぁぁぁぁぁぁ!!!!!
またなんか地味に長くだらだらやってしまったorz
最後まで見てくれた人はありがとう!
もし途中で変なところがあったならあやまります、罵ってください(ただし一方さん風に
とりあえず今回は本当に個人的な趣味で湾内さん入れました。
湾内さんかわいいよ湾内さん。
一方通行×湾内絹保とか誰得だよって俺得です本当に有難うございましたぁぁぁぁぁぁ!!!!!
219: 2010/05/23(日) 23:31:16.51 ID:GAbPDh20
GJ!!
乙かれ様でした!
乙かれ様でした!
221: 2010/05/23(日) 23:34:11.82 ID:YhJHDJM0
乙
良かったです。
良かったです。
252: 2010/06/17(木) 01:01:34.29 ID:QP6ZPec0
読み終わった乙
次回作にも期待してるぜ
次回作にも期待してるぜ
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