1: 2010/07/12(月) 22:03:25.16 ID:+PRoeEFO0
律澪。

3: 2010/07/12(月) 22:06:22.44 ID:+PRoeEFO0
「おい、律?」
「…。」
「おいってば。」

私は返さない。
呼びかけには気付いている。

だけど聞こえないフリ。
何がしないのかは自分でもわからない。
新しい戯れだとでも思ってくれれば、それでいい。

「おい、なんだよ…。」

澪の三度目の呼びかけ。
空気を揺らしてそのまま消えた。
けいおん!! SQフィギュア 平沢唯 冬服

5: 2010/07/12(月) 22:09:13.91 ID:+PRoeEFO0

私はその振動を返さない。
耐えかねた澪は私の体を揺する。

「…なんだよ。」

うざったそうな声。
この声の主は誰だ?
自分の声なのにそんな問いかけが頭の中をぐるぐる。

「律、機嫌でも悪いのか?」

さぁね。
そう言うように小さな溜息を吐く。
澪は動かない。
私も動かない。

「どうしたんだよ…。」

不安そうに澪が呟く。
そりゃ、不安だろうな。
さっきまであんだけ乳繰り合ってたんだ。
急に態度が変われば怖くもなる。

6: 2010/07/12(月) 22:17:32.04 ID:+PRoeEFO0
不安にさせているのは私。
それを楽しんでいるのも私。
でもな、それだけじゃないんだ。
楽しんでるだなんて…ちょっと自棄になっているだけ。

「なぁ、澪。」

私は切り出す。
いつこの話題を切り出そうか、このところずっと考えていた。
だけど、タイミングなんてなかった。

誰がなんと言おうと澪が好きだし、
澪だって私なしじゃ生きられない。
いや、もしかしたら生きていけるのかも?
でもそんな可能性真っ向から否定してぶっ壊したくなるくらい、
私は澪に夢中なんだ。

時間が過ぎればキレイな思い出になってくれるか、なんて思ったこともあった。
互いの旦那を交えて4人で私達の高校生活を笑い話にする、そんな日が来るのかもなんて悠長に考えたこともあった。
だけど、その考えが甘かったんだ。
思い出になるどころか、私の感情は日増しに強くなる。
澪の私への依存も私の澪への依存も、もう限界なんだ。
いつからこうなったのかはわからない。
もしかしたら最初から私達はぶっコワれる運命だったのかも。

7: 2010/07/12(月) 22:26:04.25 ID:+PRoeEFO0

そんなことを考えていた私が口を開いたらこれだ。
だから今こそがこの話をするタイミングなんだ、そうやって思い込むことにした。

「私達、おかしいよ。」

小さい声。
けだるそうな声。
それでいて少し震えていた。
今から泣いてどうすんだよ、ざけんな。

「律…それって、どういう…。」

私の喋り方を真似してんのか、と言いたくなるくらいシンクロした声色。
見えてないけど、わかるよ。
澪は私の背中を見つめてるんだろ?
一向にそっちを向こうとしない私に、苛立ってるんだろ?
ごめんな、しばらくそっちは向けそうにない。

「どういうって、わかるだろ?女同士でいつまでもこんなことおかしいって。」

一気に言い切った。
そうしないと泣き始めの嗚咽が混じってしまいそうだから。

9: 2010/07/12(月) 22:33:55.27 ID:+PRoeEFO0

そう、私達はおかしい。
これは紛れもない事実なんだ。
誰に否定されてもいいよ。
誰に傷つけられてもいい。

でも、私は澪が世間の目に晒されて傷つくのは見たくないんだ。
だから、今のうちに終わりにしようぜ。

ふでペンでもボールペンでもいい。
とっとと私達の関係にピリオドを打ってくれ。

これは澪のためを考えていると見せかけた単なる保身だ。
私はいつの間にこんなに狡猾になってしまったのか。

でも、仕方がないだろ?
右も左も前も後ろも、もう行き止まりなんだ。
どこを見ても壁、壁、壁。
そんな八方塞がりな状況でまともな精神でいられるわけがない。
少なくとも、私はそんなに大人じゃない。

10: 2010/07/12(月) 22:42:50.15 ID:+PRoeEFO0

息が詰まるほどの狭い空間。
見上げれば空が私達を嘲笑うかのように雲をゆるりと流している。
雲を流すその風すら届かない私達だけの空間から、自由気ままなその空をぼんやり見つめる。
釘付けになった視線はしばらくは動かせそうにない。
精神が不安定になるほどその風景を目に焼き付けてから思うこと。
それはやはり

‐解放されたい

その一言に尽きる。
つまりはそういうこと。
閉鎖的なこの私達の関係。
感情は至って不健全。
だから私は無理矢理にでも壁を蹴破るんだ。

「言ってる意味が、よくわからないよ…。」

わかってるくせに。
私がどうしたいかなんて。
手に取るように理解ってるくせに。

11: 2010/07/12(月) 22:51:36.04 ID:+PRoeEFO0

私もな、わかっているんだ。
澪を現在進行形で傷つけているのは私だってこと。

「澪は、綺麗だし、スタイルもいいし。本当、私にはもったいないくらいだよ。」
「じゃあなんで…!」
「だからだよ。言っただろ?」

ここで私は空気を吸い込む。
吐き出すときは言葉も一緒だ。

「…私にはもったいないって。」
「…。」

澪は何も言わなくなった。
背中に添えられている手が少し震えている。
その振動は澪が泣いていると知らせるに十分なものだった。
私が、澪を、泣かせている。
喉の奥が熱い。
重苦しい何かがぐわんぐわんと喉の奥で拡がる。
少し息を止めてその見えない力に抵抗するけど、
理性は泣き出したい衝動に勝てないみたいだ。

12: 2010/07/12(月) 22:55:29.95 ID:+PRoeEFO0

だけど私は平然としてないといけない。
淡々と、澪を捨てると決めたんだ。
だから頬を伝ったそれには気付かないフリをした。

「り、つ……!」

お願いだ、これ以上食い下がらないでくれ。
私の決意を鈍らせないでくれ。
お前は『普通』の幸せをんでくれ。

「もう、話すことはないよ。」

それは澪に言い聞かせるように。
そして私に言い聞かせるように。
…私の口が紡いだ言葉。

もっと伝えなきゃいけないことがたくさんあるのに。
出来ることなら『ありがとう』や『ごめん』、そんな有りふれた言葉を幾度となく言い続けたい。
一度一度に違う意味を持たせて、何度も伝えたい。

14: 2010/07/12(月) 22:59:37.45 ID:+PRoeEFO0

だけど駄目なんだ。
口を開けば開くほど、襤褸が出そうで怖いんだ。
感謝の言葉や謝罪なんて、心の中で呟き続けることしかできない。
そんな状況がすごく歯がゆいけど、それをさらりとやってのける程、私は器用じゃないんだ。

本当は、このまま『友達』なんかに戻りたくない。
何処へだって一緒に行きたい。
いつまでも澪の肌に触れていたい。
誰かになんて渡したくない。
澪にも同じ気持ちでいて欲しい。

私のこんな我が侭が、澪も抱いているであろう我が侭と相俟って、
気付かない内にそれが堆い壁になっていたんだ。
だから、私はもうそんな我が侭は言わない。言えない。

「ねぇ、りつ。」
「…なんだよ。」

四度目の呼びかけ。
私は反射的に返事をしていた。

16: 2010/07/12(月) 23:06:02.48 ID:+PRoeEFO0
「せめて、こっち向いてよ。」
「…。」

そして四度目の無視。
厳密に言えば無視した訳ではない。
ただ上手く返す言葉が見つからなかっただけ。
拒否したら、澪は悲しむだろう。
振り向いてしまえば、私の浅はかな決意の元に口をついて出た嘘がバレるだろう。
どうしよう、そんな風に考えているときだった。

「律っ…!」

苛立った澪の声が聞こえたかと思うと
次の瞬間、不意に肩を引き寄せられる。
まさか澪がそんな強行突破を試みるとは思っていなかった。

ぱたんと音を立てて、私は呆気なく仰向けになった。
視界の右側、澪の頭が見える。
顔は…見えない。

17: 2010/07/12(月) 23:10:17.81 ID:+PRoeEFO0

いや、見たくない。
この先の未来も、今の澪の顔も見たくない。
何も見たくないんだ。
私はとっさに腕で顔を隠した。
それは子供が泣くときの格好と全く同じだった。

「手、邪魔。」

耳元で澪の声がする。
幾度となく肌を合わせてきたせいか、私の身体は場違いに反応する。
せめて澪には悟られないようにと眉一つ動かさないように努めた。

「わかってるよ、律の言いたいこと。」

言い終わるや否や暖かい何かに包まれる。
澪が私を抱き締めているんだ。
先ほど囁かれた反対側の耳元で不規則な澪の呼吸が聞こえる。
きっとまた、音も立てずに泣いているんだ。

18: 2010/07/12(月) 23:14:22.67 ID:+PRoeEFO0

ゆっくりと澪の背中に手を回す。
そして私は恐る恐る目を開けた。
視線の先には天井。
空なんかじゃない。

「でも、私…律無しじゃ…!」

やめてくれ、それ以上は言わないでくれ。
それを言われたら、明日の私達は今まで通りの私達に逆戻りだ。
終止符を打とうとしたペンがまたどうしようもなくて
くだらない私達の物語を綴ることになる。

きっと私はどうかしていた。

-澪がその言葉を言い終わる前に

そんな考えに取り憑かれていた。
その時、私の中の悪魔が囁いたんだ。

-嘘をつこうか。
-とっておきの。
-それでいて、最低な嘘を。

それを拒否することなんてできなかった。
だからきっと、私はどうかしていたんだ。

19: 2010/07/12(月) 23:18:25.72 ID:+PRoeEFO0

「私さ、今まで黙ってたんだけど…」
「な、なんだよ」

澪の体が強張るのがわかる。
だけど私の口は止まらない。

「子供、欲しいんだよね」
「…!?」

言ってしまった。
今まで生きてきた中で一番残酷な嘘をついたと思う。
私達にとってそれは氏刑宣告でしかない。

澪が…震えている。
私の体も震えていた。

もう限界だ。
私は嗚咽を零す。

それを聞いた澪からも嗚咽する声がもれる。
その声が耳に届いた瞬間、私の箍は完全に外れてしまった。

20: 2010/07/12(月) 23:22:12.11 ID:+PRoeEFO0

声が止まらない。
涙が止まらない。

-ごめん

そう言うように澪の体を強く抱きしめた。
すると応えるように私の体も軋む。
そんな痛みですら今は心地良い。

このまま澪を壊して、澪に壊されたい。
私達の声が部屋に響く。
汗ばんだ体を抱きしめ合って、午前三時。

空は例年の夏へ向かう儀式を執り行っている。
ざぁざぁと音のはらむ通過儀礼。

普段は煩い筈なのに、私達の耳には互いの声しか届かない。
蒸し暑い夜、私達の汗と涙が部屋の湿度をさらに上げているような錯覚に陥る。

今もこうして一つの季節が始まろうとしているのに、
私達は一年程前から何も変わっていない。
初めて肌を重ねたあの日から次第に大きくなっていったのは愛情ではなく依存だった。

21: 2010/07/12(月) 23:28:38.61 ID:+PRoeEFO0

気づかぬフリを続けてきたツケが回ってきている。
もっと早くブレーキをかけることはできなかったのか。
そう思うことは度々あったけど、後悔はしていない。
いよいよ私も末期だな。

いつの間にか私を抱きしめる腕が離れていた。
私の顔のすぐ横に手をつき、澪はその腕を伸ばす。

私と澪の間に生まれた僅かな距離。
互いの顔はほとんど見えない。
どこからともなく差し込む夜の明かり。
雨降りの夜の明かりはどこからやってくるんだろう、なんてくだらないことを考える。

仄かな明かりに照らされて、朧気な澪の表情。
涙だけがきらりと光を返している。

「澪…。」

特に何かを伝えたかったわけではない。
ただ、無性に名前を呼びたくなった。

「律、ごめん。」

澪は何故か謝った。
謝らなければならないのは私の方なのに。

22: 2010/07/12(月) 23:33:51.44 ID:+PRoeEFO0

言葉の意味がわからない。
私は澪を見つめる。
澪も視線を反らそうとはしない。
まるで瞬きをしてはいけないという小学生の我慢比べだ。

不意に私の頬に冷たい何かが落ちる。
それは重力の通りに頬を伝って、なじんで消えた。
我慢比べに負けたのは澪の方だった。

「私…私…。」

なんだよ、早く言えよ。気になるだろ。
言おうとしたけど、声が出なかった。
仕方がないから視線で続きを促す。
どうやらそれはきちんと伝わったみたいで。
澪はゆっくり話し始めた。

「最低だ…。」
「…。」
「さっき律が言ったこと、全部嘘だろ…?」
「…。」
「律が何を思ってそんなこと言ったのか、なんとなくわかるよ。」
「…。」
「でも、ごめん。」
「…。」
「律のその嘘を真に受けて終わりに出来る程、私…物分り良くないんだ。」

23: 2010/07/12(月) 23:37:41.10 ID:+PRoeEFO0

なんてこった。
私の決氏の嘘はお見通しだったってことか。
作戦が失敗したというのに、私は何故か少しだけ安心した。
澪が私の本心を見抜いてくれてると思うと嬉しくもあった。
もしかしたら、私達はとっくに後戻りの出来ないところまできているのかもしれない。

それが怖い。
でも、澪がいなくなるのは…もっと怖い。

「律がそんな嘘をついてまで私から離れたいんだって思うと、凄く悲しかった。」
「澪…。」
「律の気持ちはわかる。だけど、もう…手遅れだろ?」
「あぁ…。」

洗脳されているとき、人はこんな感覚に陥るのだろうか。
澪の手が私の頬を優しく撫でる。
触れられるだけで気持いい。
そんな人、後にも先にも澪だけだろう。

どうしたらいい?なんて問い掛けはもはや意味を成さない。
なんでって。
どうしたらいいか、何が正解なのかはわからないけど、どうしたいかはハッキリしているから。
そんでその欲望に勝てる気がしないから。
だから私は本能のままに行動する、それだけ。

26: 2010/07/12(月) 23:42:04.66 ID:+PRoeEFO0

澪の首まで手を伸ばす。
そのままくいと首を引き寄せる。
力を入れる必要はなかった。
澪が自ら近づいてきたからだ。

申し合わせたかのように発情する私達。
せーので結論を先延ばしにする私達。

なんだか滑稽で少し笑ってしまった。
互いの唇を貪り合う最中、私のくぐもった笑い声が少しもれる。
澪の動きが止まった気がしたが、それも一瞬ですぐにまた行為に没頭した。

息が出来なくて苦しくて。
四方を壁に塞がれた空間、灰色の世界、穏やかに流れる雲、アンバランスな蒼い空。
そんないつかの私の妄想が重なってフラッシュバックした。

口の中で澪の唾液と私の唾液が混ざる。
時折それを飲み込むうとするけど、上手くいかない。
そりゃそうだ。
まともに呼吸すら出来ないんだから。

段々それも億劫になって、飲み込むことすら放棄する。
口の端から何かが伝った気がするが、どうでもいい。

28: 2010/07/12(月) 23:59:32.89 ID:+PRoeEFO0

いつもと違う味が混ざっている。
それが私達の涙だと気付いたのは唇を離してからだった。

「澪…。」
「律…。」

互いの名前を呼び合う。
さっきと同じで、それに意味なんてない。
別に愛を確かめ合っているわけでもないし、
何か用事があるわけでもない。

強いて言うなら互いがそこに確かに存在しているのだと、自分に思い知らせるため。
そして声が返ってくると私達は漸く、暫くの間安心することが出来るんだ。
名前を呼び合うだけで済む場合もあるし、そうじゃない場合もある。

澪の顔が近づいてくる。
どうやら今回は『そうじゃない場合』らしい。

「ちょい待ち。」

私は掌で澪の顎を押しのける。
途端に澪は不安そうに首を傾げる。
私はため息をついて言ってやった。

29: 2010/07/13(火) 00:02:33.09 ID:+PRoeEFO0

「別に、嫌なわけじゃない。ただ…。」
「ただ…?」

私は片手をついて身体を起こした。
そして空いている方の手で澪を少し押す。

「お、おい…律?」

戸惑っている澪は置いてけぼり。
大丈夫、今にわかるから。

久々にベッドから背中が離れた。
エアコンなんてつけていないけど、汗で濡れた背中が少し涼しくて気持ちいい。
澪は私を見つめる。

何?
そんなことを言いたげな視線。

「おい、律ってば…何を」

その言葉を遮るように私は澪に抱きついた。
どんっ、と。
そんな音がするくらい思い切り、澪の胸に飛び込んだ。
そして後ろに回した手に力を込める。

30: 2010/07/13(火) 00:06:32.02 ID:I76kkh7w0

私が何をしたいのか即座に理解してくれたみたいだ。
澪は痛いなんて文句も言わずに、強く抱き締め返してくれた。

も好きだけど、私はこうしている方が好きだ。
こうしている方が一つになれた気がするから。

でも、私は同時には嫌いだし、こうしている時間も嫌いだ。
肌を重ねている間は何も考えられなくて、終わってみればただの現実逃避にしか思えないことが多々あるから。
こうしていると所詮私たちは別のモノであって、肌で分けられている限り一つになんて成り得無いと気付かされてしまうから。

好き、嫌い。
そんな行為を懲りずに繰り返す私は馬鹿なんだろう。

一つになりたい。
私の色と澪の色。
もっともっと混ぜ合わせて、元の色なんてわからなくなる程に。

澪の鼓動が聞こえる。
生きている。
その事実が今の私の全て。
どうか止まらないで。
いつか生きるのが面倒になったら私が止めてやるから。
相当病んでるな、そんなこと言ったとしても笑い飛ばしてくれる人はもういない。

31: 2010/07/13(火) 00:11:26.13 ID:I76kkh7w0
唯も紬も梓も、憂ちゃんですら私達の関係を受け入れてしまったのだから。
きっとみんなそんなことないよ、なんて言ってフォローするに決まってる。
表向きは『親友の延長線上のような関係』を今だに装っているから。
私達が裏でこんなにも束縛し合っているなんて、誰も知らない。

『今日あの子となんの話をしていたんだよ』

澪と付き合うようになってから何度この言葉を言っただろう。
そして、何度この言葉を言わせただろう。
互いの友人に嫉妬し合って、些細な喧嘩を繰り返してるなんて。
本当に、誰も知らないんだ。

「律…。」

まただ。
また、澪が私の名前を呼ぶ。

「ん。何?」

私はくっついたまま返事をする。
それどころか、腕に込める力をより一層強くする。

32: 2010/07/13(火) 00:15:28.04 ID:I76kkh7w0
「私達、離れ離れになんて…ならないよな?」

耳に残る残響。
その余韻だけで達してしまいそうだ。

先程のもう一人の私のそれとは比べ物にならない、本当の悪魔の囁き。
肯定していいのか。
このまま、閉鎖的に愛し合うのが私達にとっての幸せなのか。

わからない。

わからない。

教えてよ、澪。

「り、つ…」

ぐらりと世界が揺れる。
そしてぼふんと音を立てて崩れる。

34: 2010/07/13(火) 00:19:37.61 ID:I76kkh7w0

何事かと思いきや、澪の眠気が限界らしい。
私は抱えられたまま横になっている。

起き上がるのも面倒だ。
今日はこのまま寝てしまおう。
目を閉じると澪の呼吸と鼓動がよりクリアに聞こえた。
どんな音楽よりも心地良い。
揺り篭の上なんかよりも、私はこっちの方がいいな。

答えなんてなくて。
出口なんて見つからなくて。
それでも私は澪が居ればそれでいいんだ。

結局、明日を変えることはできなかった。
未来は変わらなかったんだ。
だから私は明日も澪を求める。
そして澪は明日も私に寄りかかる。

終止符を打たれたのは私達の関係ではなく
私達の未来だったのかもしれない。

35: 2010/07/13(火) 00:24:44.61 ID:I76kkh7w0

でもそんなことも、もうどうでもいい。
すぅすぅと寝息を立てる澪に口付ける。

父さん、母さん、澪のおばさん、おじさん。
そんで、澪。
私…やっぱり澪を手放すなんて出来ない。
みんな、ごめん。

そんなことを考えながら眠りにつく。

-私達を囲んでいた壁の一部が崩れて
-そこへ乾いた風が初夏の匂いを運ぶ
-相変わらずマイペースな空が飛行機雲を浮かべて
-私はそれを澪と手を繋ぎながらぼんやりと見上げている

朦朧とした意識の中で。
そんな夢を見た気がした。




おわり

36: 2010/07/13(火) 00:25:58.01 ID:I76kkh7w0
疲れた、眠い
おやすみ

38: 2010/07/13(火) 00:28:31.32 ID:q8Pq5+8dO
離れようにも離れられないんだな
2人して病的な依存だね

40: 2010/07/13(火) 00:31:42.85 ID:P6xEzNA+0

キュンキュンした
笑えるくだらないやつばっかりじゃなくてこう言うのもいいね

引用: 律「ぴろーとーく」