165: 2014/04/16(水) 09:25:12.65 ID:vrox0+Dh0
遅くなり、大変申し訳ございません。

最初から:北条加蓮『不幸な兄妹?』
前回:【モバマス】北条加蓮『不幸な兄妹?』第三話「新人」


第四話『発覚』を順次投稿させていただきます。

アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(12) アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場 (電撃コミックスEX)
166: 2014/04/16(水) 09:31:56.78 ID:vrox0+Dh0


~side:プロデューサー~


千川さんからの推薦も踏まえ、新しい担当候補を二名に絞った。

本人たちと面談を行う前に、まず、年齢の近い加蓮ちゃんに話を聞くことにした。

「みくと泰葉?」

前川みくさんと岡崎泰葉さん。この二名を候補として選んだ。

「運動系って話じゃなかった?」

千川さんから貰った候補者のリストと事情を説明すると加蓮ちゃんは非常に戸惑った表情を見せた。

「あのちひろさんが?何か変じゃない?」

確かに何故、僕を選んだのだろうか。そもそもこの人選はどこから持ってきたのだろうか。

「確かに、事情は分かるよ。みくと泰葉とは割と話す方だし」

僕はまだその二人のことを知らないので、正直助かる。

「みくは、まあ、本人も悩んでたし」

「最近、みくの仕事量が減って来てるのも、自覚してた。どうするべきか、悩んでた」

残念ながら、このままでは厳しいのが現状だ。仮に20代後半までアイドルを続けるとしても、猫キャラを維持するのは難しいだろう。


167: 2014/04/16(水) 09:33:04.17 ID:vrox0+Dh0


仮にみくの担当になったとして、方向性はどうするの?」

事務所側としても、それが大きな課題ではある。僕なりに考えはある。

「へえ、どうするの?」

本人が大学受験を控えていることを踏まえ、弄られ系だが、クイズなどには的確に応えることができるインテリ系を目指す方針だ。所謂、頭の良い弄られキャラだ。

「私も一応受験生なんだけど」

もちろん、そこは精一杯サポートする。

「まあ、みくは結構強いから大丈夫か」

弄られてる人程案外精神的に強かったりする。

「正直、泰葉は難しいと思う」

難しいとはどういうことなんんだろうか。

「物凄く、真面目で良い子なんだけどね」

「たぶん、知らないことが多過ぎて、かみ合わないんだと思う」

若干、複雑な表情で加蓮ちゃんはそう言った。

「この前、収録の帰りが一緒だったから、ご飯食べに行ったんだけど」


168: 2014/04/16(水) 09:34:03.64 ID:vrox0+Dh0


「私と同じモノ注文してたんだよね」

別に珍しいことではないと思うが。

「でさ、サラダに何もかけて無かったの。ドレッシングとか」

まあ、生野菜が好きなヒトもいる。

「それでね、私が、何もかけなくて大丈夫って聞いたら」

『栄養は大して変わりませんから』

食事に関しては各人の好みなので、何とも言い様がないが、少し変わっているのかもしれない。

「あと、プリクラの撮り方知らなかったり、何かこう、たまにアレって思うことがあるんだ」

つまり、幼い頃から芸能界に浸り過ぎたせいで、普通の学生の感覚が分からない部分がある。

「うん、そんな感じだと思う」

接し方を考えなければいけないのかもしれない。面談の前にもう少し考えてみるか。


170: 2014/04/16(水) 09:36:43.41 ID:vrox0+Dh0


「あ、そうだ。聞きたいことがあるんだけど、ほたるちゃん何かあった?」

恐らくあのミュージカル企画だろう。光と闇を一人二役で演じる企画。

ほたるのダークサイドは非常に好評だった。

あのハイライトの消えた目と、若干吊り上った口角が這い寄ってくる暗い印象を与える。

名演技だった。しかし、変なファンが増えてしまった。


「ほたるちゃんに罵られたい」「見下されたい」「叩いて欲しい」等。


無論、全て検閲で確認しているが、いい加減にしてほしい。

「何か、あの演技の後から若干癖になってない?」

できれば指摘して欲しくなかった。

あの企画で覚えたらしく、僕が仕事で帰りが遅くなった日等、無表情に加えて、あの何とも言えない背徳感のある表情で攻めてくるようになった。

「なんか時子さんがほたるちゃんにだけ、敬語で話してるんだけど」

なんだそれは。




172: 2014/04/16(水) 10:08:36.02 ID:vrox0+Dh0


「あとさ、ほたるちゃんは妹だよね」

そう、家族で妹だ。

「私は?」

家族で妹。

「従妹でしょ?」

「いつから私の事を妹って呼ぶようになったんだっけ?」

何時からだろうか、確か誰にそう呼ぶように指示された記憶がある。

「私じゃないよ」

そう、確か加蓮ちゃんではなかった気がする。

誰だっただろうか。

ダレカニ繰り返し、繰り返し言われた気がするのだ。

加蓮ちゃんは妹だと。

誰だっただろうか。

「思い出したら教えてね」

本当にいつからだろうか。あまりに自然になり過ぎていて意識していなかった。

ただ、加蓮ちゃんを従妹と呼ぼうとするたびに、喉の奥が渇いてうまく言葉が出なくなる。

何故、この言葉を口にすることができないのだろうか。

まるで、刷り込まれたかのようだ。


173: 2014/04/16(水) 10:39:25.27 ID:vrox0+Dh0


ああ、少し思いだした。確か、ほたるが…

「兄さん。加蓮お姉ちゃん」

「あ、ほたるちゃんどうしたの?」

気が付くとほたるがスーツの裾を掴んでいた。

「その、兄さんの担当が増えるかもしれないって聞いて」

まだ確定事項ではないのだが、誰かが言ったのだろう。

僕が僕である以上、ほたるの担当を外れることはないが、本人は不安そうだ。

ほたるの頭を撫でながら、加蓮ちゃんが宥めている。

「大丈夫。変な人が来ない様にちゃんと見張っとくから」

一応、ほたるの意見も聞いておくべきだろう。

「前川さんと、岡崎さん?」

百面相しているほたるを見ているのは楽しい。

「あまり、話したことない」

年齢が違うから接点は少ないかもしれない。

「大丈夫だよ。二人とも良い子だから」

加蓮ちゃんならほたるの性格もある程度把握しているので、その辺りの判断は任せる。

「…ん、時子さんとレッスン行ってきます」

最近、ほたるも笑顔が増えてきたものの、時折、不安そうな表情を見せる。


174: 2014/04/16(水) 10:52:51.06 ID:vrox0+Dh0


「私、今日中にあの二人に今の担当さんとの関係とか聞いとくよ」

いつも加蓮ちゃんには助けられてばかりだ。

「甘えているのは、私の方だから。たぶん、今夜は大丈夫な気がする」

なら少し遅くまで残業ができそうだ。

「ほたるちゃん連れて帰るね」

ほんと、いいお姉ちゃんだ。

確か、僕が加蓮ちゃんを妹扱いし始めたのも、ほたるに言われたからだった気がする。

何と言われたのかは思い出せないが。



175: 2014/04/16(水) 12:10:13.45 ID:vrox0+Dh0

~side:北条加蓮~

みくと泰葉か。

どうなんだろうね。

ちひろさんの推薦って時点で怪しいし。

凛もあのメールについて聞いても、何も答えてくれない。

何か私の知らない所で動いている。嫌な感じ。

みくの担当替えが必要なのは、分かる。

みくは良い子だし、弄りやすい、話していて楽しい。友人としては良い方。

でも、ユニットを組める仲じゃない気がする。

普通に友達なんだけど、一緒に何かやろうってタイプじゃない。

私、そもそもバラエティそんなに出ないし。

正直、みくのプロデュースは難しいと思う。

泰葉。泰葉は分からない。

演技も上手い、歌も上手い。全然、私達とは経験値が違う。

でも、単純なファンの数だけで言えば、トライアドの方が多い。

なんでだろって考えてみると、誰も『岡崎泰葉』を知らないから。

この映画に出てるとか、この歌のカバー歌ってるとかは知っているけど、

どういう性格で、どういう女の子で、どういう趣味を持っててとか、

最近流行りの馴染みやすさが足りていない。

まあ、それは今、プロデュースしている人の問題かもね。

そう考えると、ちひろさんの推薦も正しいのかもしれない。

ただ、何か引っかかる。

なんか違和感。

なんだろう。

178: 2014/04/16(水) 12:28:20.94 ID:vrox0+Dh0

一回、あの二人について整理してみよう。

まず、みく。

典型的な猫キャラ。歌とバラエティがメイン。

最近、ファン離れが目立って仕事が減ってきている。

んで、担当替えが必要と。

間違ってはいないんだけど、なんであの人の所なのか。

ここが違和感の原因。

幸子ちゃんの担当さんとか、みくを伸ばせそうな人は他にもいる。

なのに、なんで?

泰葉は何となく分かる。

初期の頃の私とほたるちゃんに少し通じるものがあるから。

諦めと、自分の軸みたいなものが無い、個性というか「自分」の無さ。

色々と諦めてた私がどうこう言えないけど。

ただ、正直、泰葉は少し危ういところがあるから、怖い。

自分を大事にしてくれる人、欠けているものをくれたら依存しそう。

まゆとは違う形の依存になりそうな気がする。




179: 2014/04/16(水) 14:38:54.26 ID:vrox0+Dh0

「あれれ、珍しい人がいるにゃ」

みくは基本的にいつも笑顔だ。一瞬泣きそうになったり、悲しそうな顔をするけど。

笑顔でいないと空気が悪くなるからっていつも笑ってられるのはスゴイと思う。

「みくに何かようかなにゃ?」

みくの場合、細かい言い訳や遠回しな表現より、直接言った方が早い。きちんと答えてくれるから。だから率直に聞いた、これからどうしたいか。

「……誰かに頼まれて様子見に来てくれたのかにゃ」

察しが良くて助かるよ。

「んん~、みくはこのまま頑張れるとこまで頑張ってみるにゃ」

キャラを変えるとかは、事務所も考えてるみたいだけど。

「結構考えたけど、今のみくのファンを裏切るわけにはいかないにゃ」

なるほど、今のファンのためにか。大事なことだよね。


180: 2014/04/16(水) 14:48:47.68 ID:vrox0+Dh0

「だから、みくは最後まで自分を曲げないにゃ」

担当プロデューサー変えるとかは。

「それは事務所が決めることだから、みくは口出ししないにゃ」

「でも、猫キャラは譲れないにゃ」

なるほど、徹底した猫アイドルか。その姿勢は見習うべきだよね。

「んで、担当替えの話でも来たのかにゃ。加蓮ちゃんのとこだと白菊さんかにゃ」

正解。まあ、暫定候補だけど。

「別にいいにゃ。正式に決まったらちゃんと受けるにゃ」

へえ、もっと嫌がるかと思ってた。思ってたよりもプロ意識が高い。


181: 2014/04/16(水) 15:02:09.22 ID:vrox0+Dh0

「…後は誰?」

語尾ににゃを付けるのを忘れてるよと指摘なんてできない。みくの目が真剣だったから。

泰葉だよと告げた瞬間にみくの目が細くなった。

「難しいにゃ」

私も少しそう思ってた。

「だって、あの二人そっくりにゃんだもん」

ああ、なるほど。さっきから感じていた違和感はソレか。

さすがは、みく、人を見る眼はちゃんとしている。

泰葉とあの人は似ている。

何かが根本的に欠落しているってことがそっくりだ。

「同族嫌悪って結構ありえるにゃ」

確かにね。ああ、なるほど、泰葉はほたるちゃんに似ているんじゃなくて、あの人に似ているんだ。

「みくもなんとなーく、気が付いてるけど、不味いんじゃにゃい?」

相互依存に成りかねない。たぶん、ちひろさんは、泰葉はほたるちゃんと私に近いと思って推薦したんだど思う。

けど、それは勘違い。確実にあの人に近い。

ん、ここでまた違和感。

ちひろさんがこんなミスをするだろうか。


182: 2014/04/16(水) 15:09:28.19 ID:vrox0+Dh0


結論:誰か別の人がちひろさん経由であの5人を推薦した。



うん、たぶんこの感覚は間違っていない。

服部さんか、茄子さん。たぶん、茄子さんな気がする。

茄子さんは本気で1人の女性としてあの人を欲しがっている。

拠り所としている服部さんや私とは少し違う。

もし、茄子さんが抜け駆けしようとしているなら、凛の変なメールも納得できる。

凛が何かに気が付いて注意しようとした。でも、口止めされてる。

ただ、なんで『妹』にした人なんだろう。

凛にしては、変。だって、私はほたるちゃんのお姉ちゃんだから必然的に妹に収まったわけで。



アレ?何か変?


私、いつからほたるちゃんを妹って認識していたんだろう。


従妹なのに。



183: 2014/04/16(水) 15:10:31.72 ID:vrox0+Dh0

本日は以上となります。

次回はほたるちゃんの幕間になります。

完結まで後三話の予定です。


188: 2014/04/17(木) 01:20:21.73 ID:s0Tbfcdd0




 ~幕間④ 白菊ほたる『シアワセ』~



189: 2014/04/17(木) 01:21:21.39 ID:s0Tbfcdd0


~side:白菊ほたる~


幸せってなんでしょうか?


愛情、友情、地位、名声、経済力、色んな答えがありますけど、多くの場合、愛情、特に家族との関わりが幸せの定義とされています。


私の幸せは家族だと思います。


家族と誰かを笑顔にすること。それが私の幸せです。

まず、家族に幸せで居て欲しいと私は思います。

「幸せ?そうだね、ほたると加蓮ちゃんが元気で傍に居てくれたら幸せかな」

私にとって、大切な人。兄さんと加蓮お姉ちゃん。

私がどんなに不幸に巻き込まれた時でも、ずっと一緒に居てくれた人。

「幸せ?うーん、やっぱり、必要としてくれる、愛されてるって実感できることかな?」

だから、なんとかして二人を幸せにしたいと思って、できることをしました。

レッスンもアイドルも一生懸命頑張りました。

学校の勉強も頑張りました。

あとは、何ができるでしょうか。


190: 2014/04/17(木) 01:23:33.15 ID:s0Tbfcdd0


兄さんが一番優しい顔をしている時、加蓮お姉ちゃんの発作が終わって寝ているのを見てる時。

加蓮お姉ちゃんが一番幸せそうな顔をしている時、発作が終わって兄さんの腕枕で寝ている時。

二人の大事な時間。私が入れない大事な時間。

でも、これって二人が家族だって思ってるからできるんですよね。

そ、その、普通の男の人と女の人はこんなことしませんよね。

だ、だって、加蓮お姉ちゃんはその、血で汚れるから下着しか着てませんし。

家族だからできるんですよね。



191: 2014/04/17(木) 01:24:40.59 ID:s0Tbfcdd0


私が近くに居て、何かあっても、兄さんはいつも苦笑して頭を撫でてくれます。

加蓮お姉ちゃんはいつも、抱きしめてくれます。

私の大事な家族。

ああ、神様、お願いします。不幸体質は直らなくても、ずっと、この二人が私の家族でいてくれますように。

幸せでいてくれますように。

でも、加蓮お姉ちゃんは従妹なので、ずっとは一緒にいられません。

兄さんと結婚してくれれば、本当のお姉ちゃんです。


192: 2014/04/17(木) 01:26:13.30 ID:s0Tbfcdd0


「え?加蓮ちゃんと結婚しないのかって?そっか、ほたるもそういうことに興味が出てきたんだ」

兄さんは苦笑いでしたけど、私は真剣でした。

「ん~、少し年齢が離れすぎてるかな。それに加蓮ちゃんならきっとすぐに良い人見つけるから心配ないよ」

年齢って、確かに大事かもしれません。

「え、結婚?まだ、ちょっと早いかな。うん?あの人のこと?好きだし信頼しているけど、LOVEなのかはまだ分からない」

家族じゃなくても、ずっと一緒にいられるのでしょうか?

私には分かりません。今でも分かりません。

そんなある日、私は一冊の本に出会いました。

たぶん、兄さんが仕事の資料として使用していた本だったと思います。


レム睡眠について描かれた本でした。


193: 2014/04/17(木) 01:35:09.30 ID:s0Tbfcdd0


私はその本を読みました。何度も、何度も、何度も、読みました。

それから兄さんと加蓮お姉ちゃんが寝ている姿を観察しました。

加蓮お姉ちゃんが発作を起こして寝た後、レム睡眠が多く見られました。

兄さんも安心して寝ているのか、レム睡眠の場合が多かったです。

瞼の下で眼球が左右に動き始めたら、レム睡眠。


繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、


寝ている二人の耳元で囁きました。祈るみたいに。


私達は家族だって、ずっと一緒だって


何回も何回も、お願いしました。



194: 2014/04/17(木) 01:46:19.45 ID:s0Tbfcdd0


いつからでしょうか?

兄さんが加蓮お姉ちゃんを妹と呼び始めたのは。

いつからでしょうか?

加蓮お姉ちゃんが兄さんを本当の兄として見てくれるようになったのは。

私のお祈りは届いたのでしょうか。

私はこれからもアイドル白菊ほたるで、あの二人の家族でいられるのでしょうか。

とても怖いです。とても不安です。



195: 2014/04/17(木) 02:00:43.84 ID:s0Tbfcdd0


私を一人にしないで、どんな不幸でも一緒にいてくれれば耐えられるから。

だから、今日も私は寝ている二人にお願いするのです。

ずっと一緒にいて欲しいって。

それがいつか崩れてしまうと分かっていても。

臆病な私にはこんなことしかできないのです。

だから、私の幸せを奪わないでください。



196: 2014/04/17(木) 02:03:10.55 ID:s0Tbfcdd0


本日は以上となります。


お目汚し失礼致しました。



197: 2014/04/17(木) 02:11:41.88 ID:aFaCrDgAO
おつおつ

203: 2014/04/18(金) 00:18:54.62 ID:YVaLbqNR0




~幕間④ プロデューサー 『嘘吐き』~



204: 2014/04/18(金) 00:20:55.93 ID:YVaLbqNR0


~side:プロデューサー~


率直な感想を言えば、今日は最悪の一日だった。

気分が最悪だった。

疲れた。夜も遅い、もうほたるは寝ているだろう。

控えめにドアを開けて、ただいまと声を掛ける。

返事は無かった。

スーツの上着を椅子に掛け、ほたるの部屋に向かった。

起こさない様に静かにドアを開ける。

毛布にくるまっているほたるの髪をそっと撫でる。

サラサラとした手触りと、暖かな体温が伝わってくる。

今日も、僕の妹は不幸に悩まされながらも、無事に帰って来てくれた。

しばらく、髪を撫でる。一瞬、ほたるが目を開けてこっちを見たが、また、眠たそうに眼を閉じた。

そのまま、しばらく髪を梳いていた。


205: 2014/04/18(金) 00:22:10.56 ID:YVaLbqNR0


僕の大事な家族。

ほたるの幸せが僕の幸せだ。

昔から、ほたるの周りでは不可解な出来事が多かった。

まるで世界がほたるを嫌っているのではないかというほどに。

その度にほたるは自分を責め、負のスパイラルに陥った。

その度に、両親は心を痛め、ほたるは更に自分を傷つけた。

その繰り返し、その繰り返し、

なんとか、その悪循環を断ち切りたかった僕は、人にあるまじきことをした。

ほたるは疫病神じゃない。ちゃんと、家族に愛されてる。




レム睡眠状態のほたるに囁き続けた。





206: 2014/04/18(金) 00:23:18.83 ID:YVaLbqNR0


エゴだ。自己満足だ。許されないことだ。理解しつつも、僕はただ、妹に笑ってほしかった。

ほたるにただ、笑ってほしかった。

だから、僕は繰り返し、ほたるに伝えようと努力した。

ほたるが寝てる時も、起きてる時も。

ほたるがそこに居てくれるだけで、幸せになれる人もいるんだと。

でも、それでは足りなくて、ほたるの表情はどんどん曇っていくので、僕はそれに耐えられなかった。

ほたるは疫病神なんかじゃない。ちゃんと、愛してくれる家族がいるよ。


繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、


祈る様に囁いた。


207: 2014/04/18(金) 00:24:28.03 ID:YVaLbqNR0


でも、それをほたる自身が感じてくれていたかは分からない。

どんな想いでも伝わらなければ、意味が無い。

それを強制している僕は最低の嘘吐きだ。

ほたるの髪を梳く。

ほたるは今、幸せなのだろうかと考えながら。

エゴだけど。



208: 2014/04/18(金) 00:39:45.22 ID:YVaLbqNR0


以前、知人に言われたことがある。

「お前は、訳ありの女の子を救ったつもりでいるエゴイストだと」

別に家族が問題を抱えていればそれなりに対処するのが普通だと思うが、そういわれても否定はできない。

明日、服部さんが因縁のライブバトルを行う。

かつてのプロデューサーだった人の担当アイドルとの対峙。

昔、否、未だ忘れられない程、思慕している人へ挑戦状。

何もしてないくせに、傍にいるだけで、服部さんの支えになっているつもり。

成程、エゴイストかもしれない。

実の妹にすら、幸せの為という正当事由を掲げて、催眠術染みたことをしているのだ。

許されるわけなんてない。


212: 2014/04/18(金) 01:02:06.09 ID:YVaLbqNR0


僕にできることと言えば、ステージを整えるだけ。

後は服部さん次第。

今日、対戦相手のレッスンを見学してきた。

服部さんと大きな差は能力面では見られないものの、雰囲気が纏っている空気のようなものが根本的に違った。

嫌な表現だが、確かに素質は相手の方が上だった。

担当プロデューサーがスカウトしたのにも納得できる。

そういう意味では今日は最悪の一日だった。

以前から、研究はしていたものの、服部さんが勝てる要素が見当たらない。

それこそ、鷹富士さんの幸運体質が奇跡でも起こさない限り。

まあ、そんなことは最初から信じていないが。

担当アイドルの戦略が練れない。プロデューサー失格もいいところだ。



213: 2014/04/18(金) 01:34:13.39 ID:YVaLbqNR0

ソファにもたれ掛りながら、目を瞑る。

服部さんのステージをイメージする。

相手の実力と、今の服部さん。

レベル的には同水準。後は、相手が持つ、あの惹きつけるオーラにどう対処するか。

当日の服部さんは全力でステージに臨むだろう。それは相手も同じ。

後一押し、何か見つけないといけないのに、未だにそれが分からない。

もし、服部さんがこのライブバトルで負けてしまったら、相当精神的な負担になるだろう。

最悪、引退しかねない。

そうなった場合、今のバランスが一気に崩れてしまう。

加えて、新人のことも考慮しなくてはならなくなる。

荷が重すぎる話だ。

まずは、服部さんをどう支えるか。



214: 2014/04/18(金) 01:40:18.67 ID:YVaLbqNR0

今日、帰宅する前に本人と簡単な打ち合わせをした際に言われたこと。

「大丈夫よ。もう、私の居場所はここだから、ちゃんと過去は過去で割り切れるわ」

本人はそう言ってるがどこまで大丈夫なのだろうか。

家族愛しか理解できない僕に、恋愛感情を教えてくれると言っていた。

その恋愛感情に未だ囚われている服部さんは、分からない僕とどれだけの差があるのだろう。

何れにせよ、平穏に進んできた日常生活が、明日、大きな節目を迎えるのは確かだ。



215: 2014/04/18(金) 01:41:44.48 ID:YVaLbqNR0



本日は以上となります。


残る二話で日常が崩壊していく予定です。




216: 2014/04/18(金) 01:43:17.98 ID:3tHXHDwTo
氏刑宣告じゃないですか(震え声)


乙ー

217: 2014/04/18(金) 01:50:44.46 ID:mqMYwgF7O
乙!


引用: 北条加蓮 『不幸な兄妹?』