1: 2014/08/03(日) 22:15:48.01 ID:0Xe9k2eb0
はじめてえすえすをかいてみました。よかったらよんでいってください

こういう風にしたら読みやすいとかいう意見も大歓迎です

※魔法少女まどか☆マギカ×テイルズオブファンタジアのクロスストーリーです

※粗末な地の文あり 同じような表現も多々あり

※ほむらマンセーな方向性



ではどうぞ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1407071737

2: 2014/08/03(日) 22:16:49.37 ID:0Xe9k2eb0
また――救えなかった。

瓦礫の山に叩きつけられた体を無理矢理起こす。
痛めつけられた体を引きずり、私が救いたかった少女の元に歩み寄る。

すでに事切れた、まどかと呼ばれていた少女

ほむら「本当に、……ごめんね、まどか」

目の前で契約したまどかのソウルジェムを打ち砕いた。

守りたかった

守れなかった

だから――頃した


いつまでこんなことを続ければいいのだろうか。
終わりはあるのだろうか。
諦めてしまえば全てが終わる。楽になれる。




ダメだ。そんなことを考えちゃいけない。…約束したから。
絶対にあなたを救うって。
第1話 みんなでなら魔法少女になれる気がしたの
3: 2014/08/03(日) 22:17:40.93 ID:0Xe9k2eb0
砂時計を反転させる。ガチッっという音が廃墟と化した街に響き渡った。

何度目の時間遡行だろうか。すでに数えるのは諦めた。もはや通り慣れてしまった
一か月前へと続く道。痛む体はそのままにほむらは歩く。
体を癒さないのは戻ってしまったら元通りの体になっているからだろうか。
それとも自分への罰のつもりだろうか。ほむら本人にもそれはわからなかった。


ほむら(この道を抜けて…今度こそ…)


突如、空間にヒビが入る。


ほむら(!? 一体…これは!?)


ヒビが広がり、空間が口を開けたかのような穴ができあがった。


ほむら(…吸い込まれ…る!?)


体が言うことを聞かない。抵抗できないままほむらは穴に吸い込まれていく。


ほむら(何が起こっているの!?ダメ…!抜け出せない!)


最後の抵抗に、伸ばした左腕も結局何も掴むことができずほむらは完全に飲み込まれた。


ほむら(私は…どう…なってしまうの……、ま……ど…か…)


そこで、ほむらの意識も闇の中に消えていった。

4: 2014/08/03(日) 22:18:38.42 ID:0Xe9k2eb0
ほむら(こ…、ここは…?)


目が覚めたほむらの視界に入り込んできた光景は、見慣れない天井だった。
どうやらベッドの上で寝ているらしい。身体を起こし周りを確認する。
簡素なベッドが二つ並んでいる。壁際の本棚には見慣れない字が書かれた背表紙
の本が並んでいた。床も壁も全て木が材料らしく、木の匂いが鼻腔をくすぐる。


ほむら(一体…どこなのかしら)


テレビも、照明器具もない。
代わりにテーブルの上と壁に設置しているキャンドルスタンドの蝋燭が優しい光を
放っている。


ほむら(私は…、時間遡行中に確か、穴に吸い込まれて…それから――)


そこまでの記憶しかなかった。


ほむら(それに…)


ほむらは自分の体を見る。
いつも時間遡行を終えた後はパジャマ姿だったが、今は魔法少女の姿のままだ。
誰かが手当てをしてくれたのだろうか、包帯が巻かれていた。


ほむら(この部屋にいるのは自力で?それとも誰かが運んでくれた…?)


あまりにも情報が無さすぎる。とりあえず外に出てみよう、とベッドから出ようとした
その瞬間、ドアをノックする音が部屋に響く。


ほむら(……!)


ノックの音に思わず警戒し、体を硬直させ音がしたドアを見つめる。
ドアノブが下がり、ドアが開かれた先にいたのは見知らぬ金髪の青年であった

5: 2014/08/03(日) 22:19:44.92 ID:0Xe9k2eb0
「やぁ、目が覚めたみたいだね」


白銀の胸当てのような鎧、腰には大振りのグレートソード。赤いバンダナとマントが
印象的であった。


「入っても、いいかな?」


青年はほむらに問う。


ほむら「…どうぞ」


敵意は感じられない、が警戒は怠らない。掛け布団を氏角にし、一丁の拳銃を取り出し
枕の下に忍ばせる。


「身体は大丈夫かい?ひどい怪我だったようだけれど」


椅子に腰を下ろしながら青年が聞いてきた。見た目だけで言えば悪い人間には見えない、
というのがほむらの感想であった。


ほむら「…はい。痛みはもうほとんどありません。治療はあなたが?」


質問を返す。
その時、再び部屋にノックの音が飛び込んできた。


「失礼する」


そう告げながら入ってきた男性の姿をほむらは凝視する。


銀色の髪を後ろで縛り、鍔の広い帽子を被っている。
両腕、顔に入った不思議な模様の刺青。
だがほむらがもっとも印象的だったのは彼の目であった。

金髪の青年とは違い、刺青の男の目には明らかに警戒している色が浮かんでいる。
こちらの動きを見逃そうとしない、そんな目をしていた。

6: 2014/08/03(日) 22:20:47.53 ID:0Xe9k2eb0
「警戒させてしまったようだな。すまない」


刺青の男がほむらに向かって話しかける。


ほむら(この人は…注意が必要ね。どうでるのが正解かしら)

ほむら「いえ…、あの…」

「あぁ、私はクラース=F=レスターだ。しがない学者さ」

「僕はクレス=アルベイン。剣士だよ。まだまだ未熟だけど」

ほむら「ありがとうございます。私は暁美ほむらといいます」

クラース「ふむ…変わった名前だな」

ほむら「ええ、よく言われます。」

クレス「僕のことはクレスでいいよ。よろしく、ほむら」

ほむら「よろしくお願いします、クレスさん、それと…クラースさん、でよろしいですか?」

クラース「あぁ、構わない」


軽く自己紹介を終えたがここからが本番だ。


ほむら(とりあえず色々聞きださないといけないわね…。情報が無さ過ぎる)

ほむら「すいません、いきなり変なことを聞いてしまってもいいですか?」


クラース「変なこと?なんだ?」



ほむら「今は西暦何年ですか?」

7: 2014/08/03(日) 22:21:46.73 ID:0Xe9k2eb0
クレス「西暦・・・?」

ほむら(…)

クラース「何年、という聞き方から察すれば年号のことか?今はアセリア歴4202年だ」

ほむら(アセリア歴…、全く聞いたことがない年号ね)

ほむら「そうですか。ありがとうございます」

クラース「…」


何かを考え込むように顎に手を当てるクラース。


クラース「ほむら君、といったね?君は自分がどうしてここにいるかわかるかな?」


クラースが色んな意味で受け取れるような質問をほむらにぶつける。


ほむら(とりあえず無難に答えましょう)

ほむら「わかりません…。目が覚めたらベッドの上でしたので……。」

クラース「そうか。では簡単に状況を説明する」


空いている椅子に腰をおろしクラースが続ける。


クラース「私たちはとある目的があって旅をしているんだが…」

クラース「旅の途中、急に君が目の前に現れた。本当に突然に、だ」

クレス「ついさっきの出来事だけれどね」


クレスが補足する。


ほむら「突然…?すいません少し漠然としすぎて…」

クラース「そうは言われても本当に突然だったんだ。何もない空間から急に君が現れた」

ほむら(…吸い込まれた穴の出口がそこだった、ってことなのかしら)

クラース「怪我がひどく意識も無かったから手当をして近くの街の宿に運び今に至る、という訳さ」

ほむら「そうだったんですか・・・。わざわざありがとうございました」


頭を下げるほむら。その姿を見つめていたクラースは再び何か考え込んでいる。


ほむら「そういえば、先ほど旅をされていると言っていましたが」

クレス「うん、僕たちはダオスを倒すために旅をしているんだ」

ほむら「ダオス…?」


再び聞いたことのない言葉が出てきた。


ほむら(倒す、ということは人名?組織名?それとも…)


クレスとほむらのやり取りを眺めていたクラースが口を開く。


クラース「ほむら君、単刀直入に聞こう」



クラース「君は一体何者だ?」

8: 2014/08/03(日) 22:22:56.65 ID:0Xe9k2eb0
ほむら(ストレートに来た…。まぁ黙っていても仕方ないわね。
    今はこの人達に頼るしかないのだから)

ほむら「わたしは――」


コンコン、と三度部屋に飛び込んできたノックの音に、ほむらの言葉は遮られた。
勢いよく開かれたドアの向こうには二人の女性が立っていた。


「あー!起きてるじゃーん!クレス!起きたら呼んでっていったでしょー!」


クレスの批難の言葉を浴びせ、ピンク色の髪をポニーテールを
揺らしながらずかずかとクレスに詰め寄る少女。


クレス「ご、ごめんアーチェ。話し込んじゃってさ」


申し訳なさそうに頭を掻くクレス。一方、アーチェと呼ばれた少女は納得いかないようだ。


アーチェ「クラースもクラースだよ!相手が可愛い子だから楽しくおしゃべりしてたんでしょ!?」

クラース「ただ情報交換していただけだ。全く…」


やれやれといった感じで頭を振るクラース。


アーチェ「ふーん、可愛い子っていうのは否定しないんだー。ミラルドさんに言いつけちゃおうかなー♪」

クラース「…なぜそこであいつの名前が出てくる?というか話を進めたいんだが」


部屋の空気がすっかり変わってしまったのに少し戸惑っているほむらにアーチェと一緒に部屋に
入ってきた女性が声をかける。


「お身体の方は大丈夫ですか?」

9: 2014/08/03(日) 22:23:47.24 ID:0Xe9k2eb0
優しく微笑みながら問いかけてくる女性。背中まで伸びた綺麗な金の髪と
清楚な雰囲気が特徴的だった。


クレス「彼女は法術師のミント=アドネード。君の怪我はミントが癒したんだよ」

ほむら「…法術、ですか?」


次々と知らない言葉が出てくる。


ほむら(やはりここは私のことを先に説明したほうが話が早そうね)


コホン、と一つ咳払いをする。


4人の視線がこちらに向いたのを確認してほむらは口を開いた。


ほむら「先にお礼を言っておきます。怪我の手当とここまで運んでくださって本当にありがとうございました」

ほむら「クラースさんとクレスさんには先ほどお伝えしましたが改めて…、私の名前は暁美ほむらといいます。」

ほむら「そして、私は恐らく別の世界からこの世界に飛ばされてきたんだと思います」



アーチェ「別の…、世界?」

ほむら「詳しく説明しますね――」


ほむらは話した。自分の住んでいた世界の事、魔法少女の事、自分の能力の事、
魔女の事、時を繰り返している事。
そして、時間を遡る際に起こった異変のことを。

10: 2014/08/03(日) 22:24:52.52 ID:0Xe9k2eb0
ほむら「――以上が私の全てです。」


ミントが淹れてくれた紅茶で一息つき、話を締めくくった。


アーチェ「なんか…すごい話だったね」


ほむらの話に耳を傾けていた4人はその内容に戸惑いを隠せていないようだった。


クラース「時ではなく世界すら飛び越えてしまった少女、か」

ほむら「なぜこんなことになったか、私にも分かりません。時間遡行の能力も
    今は使えないみたいですし…」


ほむらが視線を左手の盾に落とすと、時を刻むことを放棄するかのように
止まったままの砂時計がそこにあった。


クラース「…君がこの世界に来てしまった理由も君の能力が封印されている
     ことも、心あたりが無いわけではない」

ほむら「本当ですか!?」

クラース「まぁ、希望的観測に過ぎないがね」

クラース「その為には我々の世界について話をする必要がある。少し長くなるぞ――」


クラースの話の内容はにわかには信じがたいものだった。ほむらも実際このような状況で
無ければ信じ切れていなかっただろう。

クレスとミントが時空を超えてクラースの時代にやってきた事、ダオスの事、
この4人がダオスと関わるきっかけになった事件の事、魔術、精霊に関する事。

11: 2014/08/03(日) 22:26:54.70 ID:0Xe9k2eb0
ほむら(まるでファンタジー小説を再現したような世界ね…)

クラース「――以上が我々の世界についてのことだ。何か質問はあるかな?」

ほむら「先程の…、心当たりがあるというのはやはりダオスが関係しているのですか?」

クラース「そうだ。ダオスも時空を操る力を持っていると言われている」

ほむら「私の時間遡行の力とダオスの時空を操る力が何らかの要因で干渉したと?」

クラース「まぁ、こじつけでしかないが可能性としては一番高いと私は考えている」

ほむら「少しでも可能性があるのならそこを辿るしかない、か…」



アーチェ「あの…ちょっといい?」


アーチェが恐る恐るといった仕草で手を挙げる。


ほむら「何ですか?」

アーチェ「ほむらちゃんって時間止めれるんだよね?」

ほむら「はい、止めれる時間に制限はありますけど…」



アーチェ「見てみたいな、って♪」


クラース「お前なぁ…」


呆れたようにクラースが口を挟む


ほむら「いえ、いいですよ。実際に体験したほうがわかりやすいと思いますし」

アーチェ「わーい!ほむらちゃんやっさしー!」

ほむら「それではアーチェさんと…ミントさんも私の手を握ってもらっていいですか?」

ミント「私もいいんですか?」

ほむら「はい。私以外に二人までは大丈夫です。私の身体に触れていれば、ですけど」

アーチェ「握ってればいいのね?」

ほむら「そうです。それでは止めますね」


ほむらの能力が発動する。ほむら、アーチェ、ミント以外の全ての動きが止まる。


アーチェ「うわ!ホントに止ま――」

ほむら「…離さないでって言ったのに」


驚いた拍子にアーチェが手を離し、アーチェの時も奪われた。

12: 2014/08/03(日) 22:28:00.82 ID:0Xe9k2eb0
ミント「アーチェさんったら…」


少し苦笑いを浮かべるミント。


ほむら「アーチェさんがどんな方か理解できた気がします…」

ミント「恐らくほむらさんが思っている通りの人です」


ミントは申し訳なさそうに肯定した。


ほむら「えーっと…それでは解除しますね」


ミントが申し訳なさそうにしていたのが居た堪れなかったのか、ほむらは慌てて能力を解除する。


アーチェ「――った!?…ってアレ?」

アーチェ「あー!手離しちゃった!ほむらちゃん!一回!」

クラース「やめておけアーチェ。ほむら君に魔力の無駄遣いさせるんじゃない」

アーチェ「…うー」

ほむら「じゃあ次はクレスさんとクラースさんの番ですね」

クレス「いいのかい?」

ほむら「大丈夫ですよ。手をだしてください」

クラース「ではお言葉に甘えて…」

ほむら「ではいきます」





クレス「…本当に凄い能力だね」

ほむら「驚いて頂いてなによりです」


おどけた様子でほむらは言う。


クラース「ふむ…」


少し考え込んでいた様子だったクラースがクレスとミントに声をかける


クラース「クレス、ミント。少し付いてきてくれるか」


名前を呼ばれた二人は部屋の外に向かうクラースに付いていく。


アーチェ「えっ、あたしは?」

クラース「ここでほむら君とお喋りでもしておいてくれ」


そう言い残し三人は部屋を出て行った。


アーチェ「なんか…除け者にされちゃったね」

ほむら「そう、ですね」


この時、ほむらは三人が出て行った理由を察していた。

13: 2014/08/03(日) 22:28:57.73 ID:0Xe9k2eb0
クレス「どうしたんですかクラースさん?」

クラース「二人とも、あの子をどう思う?」

ミント「ほむらさんのことですね?…嘘を付いているには見えませんが」

クレス「僕もそう思います」

クラース「私も同感だ。そこでなんだが…」


クラース「ほむらを一緒に連れていきたいと思う」


その言葉にクレスが異議を唱える。


クレス「僕は反対です。こんな危険な旅にあの子を巻き込みたくありません」

ミント「私もクレスさんと同じ意見です。危険すぎます」

クラース「私もこの旅が危険なことは重々承知している。だが、ほむらを一人にするほうが
     もっと危険だ」

クレス「…どういうことです?」

クラース「さっきのほむらの話を思い出せ。あの子は友達の為に全てを投げ出している。
     ここであの子を置いていったとしてもほむらは一人ででもダオスの元へ向かうだろうさ」

クレス「そんなっ…!まだダオスがあの子の力に干渉しているとは限らないでしょう!?」

クラース「だが、可能性はある。1%でも可能性があればほむらはそこにすがるだろう」

クレス「…っ!」


少し話しただけでも分かる、彼女の並々ならぬ決意はクレスもミントにも充分伝わっていた。

14: 2014/08/03(日) 22:29:52.10 ID:0Xe9k2eb0
クラース「ほむらは恐らくもう立ち止まらない。少しでも道があれば迷わず突き進むだろう。
     それがどんなに危険な道であっても、だ」

クラース「だからこそ止めるべき人間が必要だ。クレス、お前はあの子を見頃しにできるか?」

クレス「できるわけ…ないでしょう…っ!」

クラース「私もだ。だからこそほむらを仲間に引き入れたい。それに彼女の力はダオスに対抗
     できる鍵になるかもしれん」

ミント「時間停止の力、ですか」

クラース「そうだ。今はクレスが一人で我々三人のフォローをしているが正直バランスがいいとは
     言い難い。時間停止の力があれば呪文の詠唱の隙を埋めることができる」

クレス「戦闘にも巻き込む気なんですか!?あんな小さい子を!?」

クラース「何度も言わせるなクレス。あの子の決意の強さだ。何もしないでいいから付いてこい、なんて言っても
     ほむらは断るさ」


クレスはクラースが言っていること全てが正論だと分かっていた。


クレス「ぐっ…!」

クラース「私のことを汚い人間と思うがいいさ。どんな世界にも汚れ役は必要だ」


クレスはただ黙っている。返す言葉が無かったのだ。


クラース「ほむらをどうするかはクレス、お前が決めろ。お前がこのパーティのリーダーだ。
     …私はリーダーの決定に従うさ」

クレス「僕が…?」


重い決断を迫られた。

15: 2014/08/03(日) 22:30:49.17 ID:0Xe9k2eb0
アーチェ「なかなか帰ってこないねあの三人」

ほむら「そうですね」

ほむら(恐らく私をどうするかで話合ってるんだと思うけど…、私の答えはもう決まっている)

ほむら(それにしても…)


ほむらはアーチェをチラッと見る。


ほむら(見た目といい性格といいまどかと杏子を足して2で割ったような人ね。アーチェさんって)

アーチェ「? 何見てるの?」


ほむらの視線に気が付いたアーチェが問いかける。


ほむら「いえ、友達に似てるなぁ、って思って」

アーチェ「友達って、ほむらちゃんの世界の?」

ほむら「ええ、そうです」

アーチェ「ふーん…。……じゃあさ!その友達に似てるってことはあたしもほむらちゃんと友達に
     なれるってことだよね?」

ほむら「えっ、…あの、……その」

アーチェ「えー、あたしと友達になるの嫌なのー?」


少しふてくされたように言う。


ほむら「いえ、嫌とかじゃないんですけど…。その…びっくりして」

アーチェ「じゃあ今からあたしたちは友達ってことで!よろしくねほむらちゃん!」


満面の笑みで手を突き出してくるアーチェ。その手は握手を求めているんだ、と理解したほむらは
恐る恐る手を握った。


ほむら「は、はい。あの…よろしくお願いします」

アーチェ「もー、友達なんだからそんな硬い感じじゃなくていいよー!」



なんだろう、この懐かしい感じは

あぁ、そうか

友達ができて嬉しいんだ


16: 2014/08/03(日) 22:31:46.31 ID:0Xe9k2eb0
ほむら「フフッ」


堪えきれず笑みを浮かべるほむらを不思議そうに眺めるアーチェ。


アーチェ「どうしたの?」

ほむら「いえ、なんでもないわ。これからよろしくね、アーチェさん」




そんなやり取りが終わった時、タイミングよく三人が部屋に戻ってきた。


クレス「ほむら、君に話があるんだけれど」


クレスが硬い表情で話しかけてきた。


ほむら(言い出しにくいってのが表情で丸わかり…、やっぱり優しい人なんでしょうね)


クレスが最初に部屋に入ってきたとき、何よりも先に体調を気遣ってくれたのを
ほむらは思い出していた。


ほむら「その前に、私からもお話があるのですが」

クレス「? なんだい?」

ほむら「私も貴方達の旅に連れて行ってもらえないかしら?」

クレス「…っ!」

ほむら(予想外、っていう反応じゃないわね)

クレス「…この旅はとても危険な旅だ。命の保証はできない…」

ほむら「理解しているつもりです。…それに命がけなんて今までもそうでした」


返答に迷っているクレスに構わず、ほむらは続ける。


ほむら「クラースさんが二人を連れて行ったのは説得のため、ってところですか?」

クラース「ふぅ…全て御見通しって訳か」

ほむら「クレスさんとミントさんは優しい人なのはなんとなくですがわかっていましたから」

クラース「おいおい、私は優しくないと言いたいのかな?」


大袈裟気味に肩をすくめるクラース。


ほむら「ふふっ、そんなことないですよ。このパーティの汚れ役を率先して担っているんでしょう?」

クラース「やれやれ…、大した子だよ全く」

17: 2014/08/03(日) 22:33:50.57 ID:0Xe9k2eb0
決断しかねているクレスに声をかける。


ほむら「クレスさん。あなたが私の身を案じてくださってるのは十分伝わってきます。」

ほむら「…ですが、その気遣いは不要です。私は貴方達とともに戦います」

ほむら「まぁ、断られたとしても私は意地でもついていきますけど」

クレス「本当に…、いいのかい?」

ほむら「こちらからお願いします。私を連れて行ってください。クレスさん…ミントさん」


深々を頭を下げるほむらを見て、クレスはついに観念した。


クレス「分かった。ほむら、大変な旅になるだろうけれど…よろしく頼むよ」

ミント「よろしくお願いしますほむらさん」

ほむら「こちらこそよろしく頼むわ、クレスさん、ミントさん、クラースさん、アーチェさん」

18: 2014/08/03(日) 22:34:41.56 ID:0Xe9k2eb0
アーチェ「ってあたしの意見は聞かないわけ!?」

クラース「お前に聞いてもどうせ『一緒に行こう』、って言うと思ったからな」

アーチェ「…てへへ」

クレス「僕とミントはすごく悩んでたってたっていうのにアーチェときたら…」

アーチェ「そんなこと言ってー!クレスも可愛い子が増えて嬉しいんでしょ!」

クレス「そ、そんなこと考えてないよ!僕たちはほむらの安全を考えて――」

アーチェ「あー、クレスもほむらちゃんが可愛いっていうのは否定しないんだー。へー」

ミント「クレスさん?」

クレス「ち、違う!というかそんな話をしてたんじゃないだろ!」

ほむら「大丈夫よクレスさん。私は可愛くないって言われても傷つかないわ」

クレス「い、いやそういう訳じゃ…」

ミント「クレスさん?」

クレス「ミ、ミント!?違う違うんだ!僕はその…!あの…!」


ほむら「…ふふっ」

アーチェ「やーん!ほむらちゃん笑ってる顔かーわーいーい!」


勢いよくほむらに抱き付くアーチェ。流石のほむらもこの行動に戸惑いを隠せなかった。


ほむら「ちょっ…!アーチェさん!何してるの!?」

アーチェ「うひひ~、かわゆいやつよのぉ~」

ほむら「やめっ…!きゃっ!頬と頬すり合わせないで!」

アーチェ「普段のクールなほむらちゃんもいいけど慌ててるほむらちゃんも
     可愛いんだから仕方ない!」

ほむら「離してっ…よっ…!三人とも見てないで助けて頂戴!」

アーチェ「ふははー!ほむらちゃんはあたしの嫁となるのだぁ!って痛っ!」


流石に見るのが耐え切れなくなったのか、クラースが普段から持ち歩いている装飾された
分厚い本の角をアーチェの脳天に叩き落とした。


クラース「いい加減にしろアーチェ。ほむらが困っているだろう?それにそろそろ食事に
     行きたいしな」


ううー、と恨めしそうにクラースを睨みながら頭をさするアーチェ。


クラース「さて、ではそろそろ新メンバー加入記念も兼ねて酒場に行くぞ。
     勿論アーチェには飲まさないからな?」

アーチェ「ええー!?なんでー!?」

クレス「アーチェに飲ませたらロクなことがないからに決まってるからじゃないか…」

ミント「この間隙を盗んでクラースさんのボトルを飲み干して、隣のテーブルの人に
    絡んでいましたからね…」

ほむら(なんだか不安になってきたわ……)


ようやくアーチェから解放されたほむらは皺が若干ついた服を整え、少しだけ
重い足取りで酒場に向かうクレス達についていった。

19: 2014/08/03(日) 22:35:58.98 ID:0Xe9k2eb0
酒場



ほむら「改めて…新メンバーの暁美ほむらです。よろしくお願いします」


ペコリと頭を下げる。


アーチェ「よろしくね!ほむらちゃん」

クレス「よろしく、ほむら」

クラース「よろしく頼む」

ミント「こちらこそよろしくお願いします」

ほむら「ふぅ、緊張したわ」

クレス「ははっ、全然そういう風には見えなかったよ」

ほむら「あら、そうかしら?」

クラース「ふっ、口調が変わったな」

ほむら「ええ。長い付き合いになりそうだし楽に喋らせてもらうわ」

クラース「構わんさ。むしろ今の方が話しやすい」

ほむら「どういたしまして」




クラース「さて…では明日からのスケジュールをもう一度おさらいしておくぞ」


グラスに注いだワインを一口飲み、クラースが話し始める。

20: 2014/08/03(日) 22:37:03.05 ID:0Xe9k2eb0
クラース「我々は4大精霊のシルフ、イフリート、ウンディーネ、ノームと契約を結んだ。
     そして明日から…ここ、ヴェネツィアから船でアルヴァニスタへ向かう。」

クレス「二日間程船の旅、ということになりますね」

クラース「そうだな。まぁ海の上では各自自由に過ごしてくれ。…迷惑をかけない程度にな」


チラリとアーチェを見るクラース。その視線に気が付いたアーチェは慌て出す


アーチェ「だ、大丈夫だって!しばらくお酒は飲まないようにするから!」

クラース「その割にはさっきからチラチラとテーブルの上のボトルを見ているようだが?」

アーチェ「…禁酒前最後のお酒ってやつ?」

クラース「駄目だ」

アーチェ「ケチー!」

ミント「そういえばほむらさん、船に乗るのは初めて?」

ほむら「そうね、私たちの世界だと船よりも他の移動手段を使うことが多いから…」

クレス「船酔いしちゃうと大変だね。降りたくても降りられないし」

アーチェ「でもほむらちゃんなら魔力でなんとかなるんじゃない?」

クラース「船酔いなんかで魔力を消費したらいくら魔力があっても足りないだろう?」

ほむら「まぁ酔ってしまったらその時に考えるわ。そういえば魔力で思い出したのだけれど…」


そう言いながら左手をテーブルの中央に伸ばすほむら。

21: 2014/08/03(日) 22:38:03.07 ID:0Xe9k2eb0
ほむら「この左手に埋め込められているのが私のソウルジェムよ」

クラース「魂の宝石、か…」

ほむら「ええ、…魔力の消費や負の感情によってソウルジェムに穢れが溜まる」

ほむら「穢れはグリーフシードで取り除く以外に方法は無く、
    穢れが溜まりきったとき、私は魔女になる」

ほむら「ここまでは部屋で説明した通りなんだけど、続きがあるの」

クレス「続き?」

ほむら「私もついさっき気が付いたのだけれど…、みんなの前で実践した時間停止
    の消費によって溜まった穢れが勝手に浄化されているの」

クラース「どういうことだ?」

ほむら「私にもわからないわ。こんな現象起きたことないもの」


ほむらにとっては嬉しい誤算には間違いないのだが原因が気になる。


ミント「…もしかして、ですけれど」

ミント「マナが原因なのではないでしょうか?」

ほむら「マナ?」

アーチェ「この世界に漂う魔力の源みたいなもんだよ、ほむらちゃん」

クラース「精霊が生きるために必要で、魔術を使用するためにも必要とされている」

ほむら「なるほど…。マナがグリーフシードの代わりをしてくれたわけね」

アーチェ「つまりほむらちゃんこっちの世界じゃ魔法使い放題ってこと?」

ほむら「自然回復が追いつく程度ならね。まぁ私の場合そんなに色んな魔法が使えるわけじゃないけど」

クラース「魔法を応用したらどんなことができる?」

ほむら「時間停止、肉体強化、治癒の活性化、武器の殺傷能力の強化…、私が使っていた
    のは主にこんな感じね」

クレス「武器の強化…、僕の剣の強化もできるのかい?」

ほむら「ごめんなさい…。他人の武器にまでは応用できないの。
    他の魔法少女で出来る子は居たけれど」

クレス「いや、大丈夫だよ。いくらいい武器を持っていてもその武器を生かすのは
    使い手の腕次第だからね」

アーチェ「ヒュー♪良いこと言うねー」

クレス「茶化さないでくれよアーチェ…」

22: 2014/08/03(日) 22:39:03.16 ID:0Xe9k2eb0
そんなやり取りをしていると注文した料理が運ばれてきた。
こちらの世界はどんな食事なんだろうか、と少し不安があったほむらだったが
幸いにも自分の世界でも食べたことがある料理少なからず存在しているようで
ホッとしていた。

大皿から一人分に取り分けられたサラダをミントから受け取る。
美味しいからこれ食べてみて、とクレスから勧められた料理を
一口もらう。
アーチェが『あーん』と言い口を開けて待っているのを無視して
自分の口に料理を運ぶ。
その様子を見ていたクラースが鼻で笑ったのを見て、思わず自分でも
笑ってしまう

久しぶりな、賑やかな食事
こんな食事はいつ以来だろうか


ミント「ほむらさん、どうかしましたか?」


思わず食事の手が止まっていたようだ。そんな様子をミントが気にして声をかけてきた。


ほむら「いえ、こんな賑やかな食事…、久しぶりで」

クラース「これから毎日嫌でも付き合うことになるさ」

クレス「そうですね。ほむら、アーチェは今日はまだ大人しいけど普段は料理の取り合いに
    なるから覚悟しておいたほうがいいよ」

アーチェ「ふっふーん!早いもの勝ちってやつよ!」

ほむら「あら、じゃあ食事中でも時間停止できるように準備しておかないとね」

アーチェ「それはダメ!反則!」

ほむら「大丈夫よ。野菜だけは残しておいてあげるから」

アーチェ「いやぁあぁ!ほむらちゃんがいじめるー!」


アーチェの叫び声に周囲の客がなんだなんだと好奇の目を向けてくる。


クレス「酒が絡んでなくても迷惑かけてるじゃないか…」

クラース「…全くだ」


思わずため息をもらす二人だった。

23: 2014/08/03(日) 22:40:10.81 ID:0Xe9k2eb0
宿屋



―――眠れない。
ほむらはベッドから静かに身を起こした。隣でミントがスヤスヤと寝息を立てているからだ。
アーチェが執拗に隣で寝ようと言ってきたが身の危険を感じ、ミントの隣にお邪魔させてもらった。

ほむら(…少し風にでも当たろうかしら)

音を立てないようにドアを開き、外に出る。二階の客室から階下を見下ろすと、宿屋内に併設された
酒場のカウンターで酒の入ったグラスを傾けているクラースの姿があった。

階段を降りようとすると、その音に気が付いたのかクラースと目が合った。

クラース「…眠れないのか?」

ほむら「えぇ…なんだか目が冴えてしまって。…隣、いいかしら?」

クラース「構わんよ。…酒でも飲むか?」

ほむら「未成年に、…って言ってもわからないわね。お酒は飲めないわ」

クラース「そうか…。マスター、彼女にアルコール以外の物を」

ほむら「あら、そんなものあるのかしら?」

クラース「無かったら水でも出てくるさ」


カウンターの奥に消えていくマスターを尻目に軽口を叩く。


ほむら「さっきも酒場で飲んでたのにそんなに飲んで大丈夫なの?」

クラース「どうせ二日は海の上だ。酒と船に酔ってベッドの上で過ごすさ」

ほむら「贅沢な時間の使い方ね」

クラース「そうだな…」


カラン、とグラスの中の氷が音を立てる。


クラース「ほむら、不安は無いのか?」

ほむら「無い、と言えば嘘になるわね。ただ…私は立ち止まってはいられないから…」


俯きながらそう答えるほむら。その姿は自分に言い聞かせているようにも見えた。

24: 2014/08/03(日) 22:41:35.17 ID:0Xe9k2eb0
クラース「目の前の道が正しいとは限らないぞ?」

ほむら「そうね。でも…どんなに険しくても、正しい道かわからなくても私は進むわ」

クラース「もしその道が正しくなかったら?」

ほむら「やり直すわ。私はその力がある」

クラース「だがこの世界ではやり直しが効かない」

ほむら「その時は別の道を探すわ。這いつくばってでもね。その半ば命を落としてしまっても
    自分がその程度だった、ってことね」

クラース「…やはり君の考え方は危険だな」

ほむら「ええ。自分でも分かってるつもりよ。でも…私はこんなやり方しかできないから…」

クラース「やれやれ…君の考え方を矯正するのには骨が折れそうだ」


クラースが肩をすくめる。それと同じくカウンターの奥からバーのマスターがほんのり湯気が
立つマグカップを手に戻ってきた。


マスター「お待たせいたしました」


コトッ、と音を立てて置かれたマグカップの中を見るとそこにはほむらにも見慣れたものが入っていた。


ほむら「ホットミルク…ですか?」

マスター「えぇ、眠れないときはこれが一番と言われていますから」


そう言い残しマスターはニッコリと笑いグラスを拭く作業に入った。
テーブルに残されたマグカップを手に取り口を付ける。


ほむら「…、相変わらず優しい味ね」


いつだったか、鹿目家に泊まりに行ったときに知久に出してもらったホットミルクの味を思い出していた

25: 2014/08/03(日) 22:42:43.10 ID:0Xe9k2eb0
クラース(こう見るとただの少女にしか見えないんだがな…)


一口、また一口とちびちびホットミルクを飲んでいるほむらを見てクラースはそんな印象を受けた。


クラース「せめて、君が歩きやすくなるように道を整地するのが我々の役目だな」

ほむら「えっ?」


ほむらは急に再開された話に少し戸惑う。


クラース「仲間ってのはそういうもんだ」


グイッ、っとグラスの中の酒を一気に飲み干す。


ほむら「仲間…か」

ほむら(懐かしいような…そういわれるのが怖いような…そんな響き)

クラース「…どうした?」


言葉の途切れたほむらに声をかける。


ほむら「…いいえ、なんでもないわ。」


そう言い半分ほど残っていたホットミルクを一気に飲み干した。


ほむら「さて…そろそろ失礼するわ。ミルク、ご馳走様」

クラース「あまり一人で考え込むんじゃないぞ?」

ほむら「ええ、ありがとう」


礼をいい席を立つ。


ほむら「貴方はまだここにいるの?」

クラース「ああ。まだこいつが残っているんでね」


そういいまだ半分以上残った酒瓶を持ち上げる。


ほむら「飲み過ぎないで…、って元々酔いつぶれる気だったわね」

クラース「こいつにも安眠効果があるからな。それじゃあおやすみほむら」

ほむら「程々の量限定だった気がするけど…、まぁいいわ。おやすみなさい」


クラースは階段を昇っていくほむらの背中を見つめ、グラスに酒を注いだ。


クラース(自分で選んだ道、か)


自分の半分にも満たない年齢の少女が歩んできた過酷な道の途中、強制的に選ばされた
といってもいい、この世界への転移。


クラース(ほむらにとってこの世界は出口のない道なのか、ただの寄り道なのか、それとも―――)



26: 2014/08/03(日) 22:43:56.98 ID:0Xe9k2eb0
客室

ほむらは部屋に戻り、音を立てないようにベッドに近づいた。
ミントは静かに眠っている。


ほむら(アーチェさんは…)


チラッとアーチェの眠っているベッドに目をやる。
シーツをぐちゃぐちゃにし、更に掛け布団に抱き付いている。


ほむら(同じベッドで寝てたら私がああなっていたわね…)


ふぅ、と安堵の息を漏らしたとき、アーチェの枕元に何かが落ちているのを発見した。


ほむら(何か落ちてる…ってあれは)


ほむらが枕の下に仕込んだ拳銃だった。


ほむら(すっかり忘れてたわ…。回収しないと)


恐る恐るアーチェのベッドに近寄り拳銃に手を伸ばした、その時


アーチェが腕をガッシリと握ってきた。


ほむら「!?」


いきなりの出来事に慌てる。そうとはおかまいなしにそのままアーチェはほむらを
ベッドに引きずり込んだ。

27: 2014/08/03(日) 22:45:12.49 ID:0Xe9k2eb0
ほむら「ちょっ…!きゃっ!」

アーチェ「待っていたわ…この時を――!」

ほむら「あなた起きて…っ!?」

アーチェ「シーッ!静かにしないとミントが起きちゃうよ」


ほむらはアーチェにそう言われ自然とミントに視線を移動させる。

ミント「zzz…」

ほむら(よかった、起こしてはいないみたい…)

ほむら「ってあなたのせいでしょ」


ヒソヒソ声でアーチェに文句を言う。


アーチェ「まーまー、いいじゃんいいじゃん…。ってことでーおやすみっ」


アーチェはそう言いギュッ、っとほむらに抱き付き抱き枕にする。


アーチェ「あー、ようやく眠れるよー。ほむらちゃんが部屋出ていったときから待ってたんだからね」

ほむら「貴方、その時から起きてたのね…」


全く気が付かなかった。恐らく銃もアーチェのトラップであろう。


アーチェ「何に使うかわかんなかったけどこのベッドはずっとほむらちゃんが
     使ってたしそれほむらちゃんのかなー、って思ってさ」

ほむら「やられたわ…」


もはや抵抗する気力すら無くなってしまったほむらはぐったりうなだれた。


アーチェ「じゃあ本当におやすみー」


そう言うや否や、すぐさま寝息を立てて深い眠りに落ちていくアーチェ。
相当眠気を我慢していたのか、それともほむらの抱き心地がよかったのかは
アーチェにしかわからない。


ほむら(はぁ…諦めて私も寝ましょう)

ほむら「おやすみなさい」


そうしてほむらもアーチェの腕の中で深い眠りに落ちていった。



28: 2014/08/03(日) 22:46:02.29 ID:0Xe9k2eb0
翌朝

最初に目を覚ましたミントは隣にほむらがいないことに気が付いた。


ミント「あら、ほむらさん?」


ミントまだ覚醒しきっていない頭で隣のベッドに目を向ける。


ミント「あらあら」


視線の先には仲の良さそうに互いに抱き合っているアーチェとほむらの姿があった。

アーチェ「zzz」
ほむら「zzz」


フフフ、っと自然に笑みがこぼれる。


ミント(起こしてしまっては可哀想ね)


そう判断しミントは静かに部屋を出て行った。


ミント(起きてくるまではそっとしておきましょう――)

29: 2014/08/03(日) 22:48:17.81 ID:0Xe9k2eb0
ヴェネツィア―アルヴァニスタ海上


船の甲板で全身に風を感じるほむらの姿があった。


ほむら(潮風が…気持ちいいわね)


初めての海の旅。まさかこんな異世界で味わうなんて想像もしていなかった。


ほむら(ずっと風に当たっていたいけど…ベタつくのは勘弁ね)


風になびく髪を手で少し抑えながらそんなことを考えていた。


クレス「隣、いいかい?」


いつからいたのだろうか、後ろからクレスが話しかけてきた。


ほむら「ええ、どうぞ」

クレス「よっ、っと」


声を出しながら甲板の上に座り込むクレスを見て、ほむらもその場に
座り込んだ。


クレス「どうだい?船の旅は。気分悪くなったりしてないかい?」

ほむら「まだ大丈夫よ。思っていたよりも揺れが穏やかだし」

クレス「辛くなったらさっさと寝ちゃったほうがいいよ。まだまだ海の上だし」

ほむら「そうね。限界が来たらそうさせてもらうわ」


ほんの少し、沈黙が訪れる。その沈黙をほむらが破った。

30: 2014/08/03(日) 22:49:18.01 ID:0Xe9k2eb0
ほむら「あなたも、友達を助けるために旅をしているのよね」

クレス「そう、だね。君と一緒さ」


クレスは思い出していた。自分たちを助けるために身を挺してくれた親友の姿を。


クレス「チェスターっていうんだけどさ。小さい頃に村にやってきて、最初はそんなに仲が
    良くなかったんだけど…」

ほむら「最初はみんなそういうものじゃないかしら」

クレス「まぁね。…チェスターは両親が他界して、妹とずっと二人で暮らしていたんだ」

ほむら(暮らして「いた」、ね…)

クレス「僕とチェスターが近くの森で狩りをしている最中に村が襲われて、そのときに僕は両親を、
    チェスターは妹を失った」

ほむら「…」

クレス「簡単だけど二人で墓を建てて、そこで誓ったんだ。絶対に仇を取るって」

クレス「でも、僕たちはダオスに全く歯が立たなかった。あの時、チェスターが僕たちを守ってくれなかったら…!」

ほむら「クレスさん」


ほむらの呼びかけにクレスは落ち着きを取り戻す。

31: 2014/08/03(日) 22:50:13.84 ID:0Xe9k2eb0
クレス「…ごめんね。あのときの事を思い出すとどうしても感情的になって」

ほむら「いいえ、大丈夫よ。それに…大事な人のことになると感情を抑えれないのは私も同じ」

クレス「ほむらも?」

ほむら「ええ。抑えきれない、っていうのが正解かもしれないけど」

クレス「そうか…。僕たちは似ているかもしれないね」

ほむら「そうかもしれない、でも明らかに違う所もあるわ」

クレス「? なんだい?」

ほむら「クレスさん、貴方はまだ汚れていない」

クレス「汚れて…?」

ほむら「ええ。私はこの両手も、心も汚れてしまっているから」

クレス「そんな…っ!」

ほむら「事実よ」

ほむら「クレスさん、あなたは仲間を、…友達を頃したことがあるかしら?」

クレス「!?」

32: 2014/08/03(日) 22:51:02.89 ID:0Xe9k2eb0
予想外の質問にクレスは言葉を失う。そんなクレスの様子もおかまいなしに
ほむらは続ける。


ほむら「私は頃したわ。何人も。何度も。魔法少女同士で命の奪い合いもしたし、
    魔女になった仲間を手にかけたこともある。そして…」


少し、言葉を詰まらせる


ほむら「守りたいと思っていた、大切なはずの子の命も奪ったわ」

クレス「…」

ほむら「守れなかったからやり直して…!守り切れなかったから頃してやり直して…!」

ほむら「…こんな私に仲間なんていていいのかしらね……」


力なく言葉を出し切りうなだれる。

33: 2014/08/03(日) 22:51:45.92 ID:0Xe9k2eb0
クレス「…苦しかったんだね」

ほむら「えっ…?」

クレス「誰にも言えず、ずっと一人で胸の中に抑えて、押し頃して、戦って、傷ついて、やり直して」

クレス「頃したく無いのに、頃すことになってしまって」

ほむら「…なんで、そう言い切るのかしら?」

クレス「だって、君は今ものすごく辛そうな顔をしているから」

ほむら「違う!」

ほむら「私はそんな…っ!慰めてもらいたかったわけじゃない!」

ほむら「ただ…っ!私は…!こんな汚れているのに…仲間なんて呼ばれていいのか
    って思っただけで…」

クレス「仲間だよ」

ほむら「っ…!」

クレス「誰がなんて言おうが、僕たちは君たちを引き入れるって決めた。確かに、
    人を頃したことは悪くないわけじゃない」

クレス「ただ、重要なのは君が今までにしてきたことじゃない。これからどうするかなんだ」

ほむら「これから…どうするか…?」

クレス「そうだよ。きっかけは違うけど、僕たちは同じ目的の為に旅をする仲間なんだ」

クレス「君は何の為に戦っているんだい?」

ほむら「…大切な人を、守るためよ」

クレス「僕もだ。…その為にどうするんだい?」

ほむら「ダオスを…倒す…」

クレス「僕もだよ。ほむら」

クレス「だから一緒に頑張ろう。旅の仲間として」

ほむら「ありがとう…クレスさん」

クレス「僕だけじゃない。ミントも、クラースさんも、アーチェも。みんな君の事を仲間だと思っている。
    それを忘れないでほしい」

ほむら「…はい」

クレス「…ふぅ。ごめんねなんか偉そうなこと言っちゃって。まだまだ半人前なのに」

ほむら「いえ、少し…気が楽になったわ」

クレス「それならよかったよ…。よっ、っと」


クレスが声を出して立ち上がる。

34: 2014/08/03(日) 22:52:40.27 ID:0Xe9k2eb0
クレス「じゃあ僕は客室に戻るよ。クラースさんが心配だからね」

ほむら「…どんな姿をしているか容易く想像できるわ」

クレス「多分ほむらが想像した格好で正解だと思うよ」

ほむら「今度から汚れ役のスペシャリストと呼ばせてもらおうかしら」

クレス「ハハッ、嫌がると思うよクラースさん」

ほむら「嫌がることをするのが汚れ役の仕事よ、っと」


立ち上がりスカートの埃を手で払う。


ほむら「私も戻るわ。ちょっと手がベタついてきたし」

クレス「じゃあ行こうか」

ほむら「ええ」


そう言い交し二人は甲板を後にした。

35: 2014/08/03(日) 22:53:32.90 ID:0Xe9k2eb0
夜。甲板上


食事を終えたほむらは再び甲板に出ていた。


ほむら(――私を仲間と言ってくれた)

ほむら(仲間、か)


共に戦った魔法少女の顔が頭をよぎる。
それと同時に敵対した魔法少女の顔が頭をよぎる。
魔女になってしまった姿も。動かなくなった姿も。


ほむら(――っ!)

ほむら(…今は、この旅の為に集中しよう)

ほむら(私のことを仲間と言ってくれた人たちの為にも)


ほむらは顔を上げた。綺麗な星が空を埋め尽くしている。


ほむら(綺麗…。そういえばこんなにゆっくりと星空を眺めたことなんてなかったわね)





アーチェ「そんな綺麗な星空に見とれているほむらちゃんを後ろからドーン!」

ほむら「きゃぁぁぁぁ!」


音もなく忍び寄ってきたアーチェがほむらの背中を押した。思わず大声を上げる

36: 2014/08/03(日) 22:54:25.88 ID:0Xe9k2eb0
ほむら「驚かさないでよもう!」

アーチェ「ウッシャッシャ!ごめんごめん」


悪びれも無く謝るアーチェに少し腹を立てながらも、ほむらは星空鑑賞を再開する。


アーチェ「星空がそんな珍しいの?」

ほむら「いえ、珍しいっていうか…。こんなにゆっくり眺めたことがなかったから」

アーチェ「ふーん」

ほむら「でも、私達の世界じゃこんな綺麗な星空なかなか見れないと思うから
    珍しいといえば珍しいのかもしれないわね」

アーチェ「え?星が見えないの?」

ほむら「そうじゃないけど、私達の世界だと夜でも街の光が眩しすぎて、
    光の弱い星は見えないの」

アーチェ「へー!なんだかよくわからないけどなんか凄そうだね!」

ほむら「ええ…、まあ凄いって思ってくれていて大丈夫よ」


めんどくさそうなのでほむらは説明を放棄した。


アーチェ「でもほむらちゃんの世界行ってみたいなー」

ほむら「あら、来れるのなら案内してあげるわよ?」

アーチェ「こう、ほむらちゃんが元の世界に戻る瞬間にガバッと抱き付いて!」

ほむら「自力で頑張って来なさい」

アーチェ「えー」

ほむら「えー、じゃないの」



どうやら本気でほむらの世界へ行く手段を画策しているのか、あーでもない、こーでもないと
ブツブツ呪文のように唱えだした。


ほむら「まずはこの旅が終わらせてからでしょ?それに帰る手段が確定しているわけでもないし」

アーチェ「あー、まぁそうねー」


力無く言葉を返すアーチェ。波の音が辺りに響く。

37: 2014/08/03(日) 22:56:40.84 ID:0Xe9k2eb0
ほむら「…クレスさんが私を仲間と言ってくれたの」

アーチェ「うん、クレスから聞いたよ」

ほむら「そう…」

アーチェ「ほむらちゃんは難しく考えすぎ!」

ほむら「えっ…?」

アーチェ「だってさ!『あたしが過去にあなたを頃しました』って言われてもさ!ちっとも…、
     ってワケにはいかないけど、…うん!そこまで気にしないし!」


慰めてくれているのだろうか?ほむらは混乱している。


アーチェ「えーっと…、つまりー…、何が言いたいかっていうとー…、
     ……うん!あたしは何があってもほむらちゃんと友達だよ!ってこと!」

ほむら「ええっと…」

アーチェ「だからさ!もっと楽しくいこうよ!…厳しい旅だと思うけどさ、
     だからこそ笑ったりして辛さを吹き飛ばさないと!」

ほむら「なんで…アーチェさんは私と友達になってくれたの?」

アーチェ「え?そんなの簡単だよ?」


アーチェ「あたしが仲良くなりたい!って思ったから!」

ほむら「仲良く…なりたい…」


ほむら「フッ… ……フフフッ!」

アーチェ「あー!笑ったなー!」

ほむら「だって…フフッ…全然…理由になってないし…フフフッ!」

アーチェ「いーじゃんそんなの!説明できないんだから!」

ほむら「説明できない、か。…そうね」

アーチェ「そうそう。説明できなくてもいいのよっ。分かってもらえたらね」

ほむら「うん…、ありがとうアーチェさん」

アーチェ「じゃあお礼として今日も抱き枕になって…」

ほむら「残念、今日はちゃんとベッドが三つあるのでした」

アーチェ「ちぇー」

ほむら「さて、そろそろ戻りましょう。風が強くなってきたわ」

アーチェ「そうだね…じゃあせめて客室までほむらちゃんに抱き付いて歩くのだ!」

ほむら「あら、なんということでしょう。潮風のベタつきよりうっとおしいでは
    ありませんか」

アーチェ「ひどっ!」

ほむら「ごめんなさい。本音がすぐ口に出てしまうタイプなの」

アーチェ「それ謝られてる気がしないんだけど!?」


ほむらはすでにアーチェの扱い方をある程度把握していた。
そしてそれを楽しんでいた。
誰がどう見ても、仲の良い友達同士でじゃれあっている…そんな光景がそこにあった。


船は進む。アルヴァニスタへ向かって――

38: 2014/08/03(日) 22:57:47.66 ID:0Xe9k2eb0
アルヴァニスタの都


船旅を終えたほむら達はアルヴァニスタの都にいた。


クラース「これからの予定だが…、今日はアルヴァニスタの都で一晩過ごし、
     明日の朝、荷物を整えて出発する。いいな?」

アーチェ「はーい」

クラース「よし、じゃあ私は宿屋で休む。各自自由行動だ。だがちゃんと休んでおけよ?
     当分ベッドで眠れないんだからな」

クレス「分かりました」

クラース「じゃあ解散だ」

ほむら(さて…どうしましょうか)


解散といわれても特にやりたいことがなかった。日もまだまだ高く眠たくない。


ほむら(適当に街を散策しましょうか…)

クレス「僕はちょっと剣の手入れをしてもらってくるよ」

アーチェ「あ、あたしも付いてくー」

ミント「分かりました」

ほむら「ミントさん」

ミント「はい?なんでしょう?」

ほむら「もしよかったら街を案内してもらえないかしら?散策しようと
    思ったけれど土地勘が無くて…」

ミント「えぇ、構いませんよ」

ほむら「ありがとう。よろしく頼むわ」

39: 2014/08/03(日) 22:58:30.53 ID:0Xe9k2eb0
ほむら(大きな街ね…。流石城下町、といったところかしら)

ほむら(街の雰囲気だけ見ていると、とても世界を滅ぼす魔王がいる世界と思えないわ)


ほむらは辺りを見回しながらミントと並んで歩く。


ミント「難しい顔をしてますね」


ミントが話しかけてきた。そんな顔をしていたのだろうか?とほむらは
自分の顔を両手でさするように触れた。


ほむら「あ、ええ。このあたりは平和なんだな、って思って」

ミント「そうですね。ここより更に東にあるミッドガルズという街が
    狙われているらしいです。…近いうちに戦争になるんではないか、と」

ほむら「…戦争、ね」

ほむら(どんな世界でもいい響きではないわね)

ほむら「私達もいずれはそこに向かうんでしょう?」

ミント「そう、なりますね」


ミントの顔が曇る。争いとなると氏傷者は避けられないのが分かっているからだ。

40: 2014/08/03(日) 22:59:29.13 ID:0Xe9k2eb0
ほむら「例えば…だけど」

ほむら「もし、ダオスと話合いだけで解決できるのなら納得できる?」

ミント「私は…、争いが避けられるのなら…。ですが…」

ほむら「そうね。他の人は納得しないでしょう」

ほむら「お互いに、信じているものが違うもの」

ミント「信じているもの…、ですか」

ほむら「ええ。私がとある人のことを悪だという。でも他の人はその人を善だという」

ほむら「どれだけ声を大にして、説明しても信じてもらえない。そいつが善だと信じているから。
    少しでも引っかかる点があっても見ようとしない。信じているから」

ミント「ですが…っ!話し合えば解決する場合もあります!」

ほむら「そうね。でも解決しない場合もある」

ミント「…」

ほむら「…。ごめんなさい。こんな話をしたくて付いてきてもらったわけじゃないのに」

ミント「いえ…。ほむらさんがおっしゃることもわかります。…ですが」



「おねーちゃん!」


ミントのセリフを遮るように一人の少年が話かけてきた。

41: 2014/08/03(日) 23:00:18.33 ID:0Xe9k2eb0
ほむら「? 私達のことかしら?」

「そーそー!おねーちゃん!俺と勝負しようよ!」

ほむら「…はい?」

「かけっこで俺と勝負だ!」

ほむら「…そんな気分じゃないのよ。他を当たって頂戴」

「あー、負けるのが怖いんだー?」

ほむら「そんな見え透いた挑発に乗るほど愚かではないわ。それじゃあね。
    ミントさん、行きましょう」

「べーっだ!このペチャパイ!」


立ち去ろうとしたほむらの動きが止まる。


ほむら「…今、なんて言ったのかしら?よく聞き取れなかったわ」

「このペチャパイ根暗女って言ったんだよ!」

ほむら「……。」

ミント「ほ、ほむらさん?あ、あの…子供の言ったことですし…」

ほむら「ミントさん、今はもう話合っても解決できない場合ってやつなのよ」

ほむら「…、いいわ貴方。挑発に乗ってあげようじゃない。私に喧嘩を売ったこと、
    後悔させてあげるわ」

42: 2014/08/03(日) 23:01:20.74 ID:0Xe9k2eb0
少年「じゃあルールな!さっき教えたコースを三週して先にゴールした方の勝ち!以上!」

ほむら「ええわかったわ」

少年「じゃあおっOい大きい方のねーちゃん!スタートの合図!よろしく!」

ミント「えっ?…えっ?」

ほむら「無駄な時間を取らせてごめんなさい…。すぐに終わらせるわ」

少年「はーやーくー!」

ミント「えぇっと…、位置についてー」

ほむら(…)

少年(…)

ミント「よぉい」

ほむら(…)

少年(♪)

ミント「スタート!」


合図と同時に少年の姿が消えた。いや、見失ったのだ。


ほむら(…はっ?)


呆気にとられ一瞬、完全に動くが止まるほむら。


ミント「ほ、ほむらさん!スタートしていますよ」

ほむら(し、しまった!)


慌ててスタートし、追いかけるほむら


ほむら(何て速さ…!こっちの世界の人の身体能力を甘く見ていた…!?)


だが、そこは魔法少女。魔力を脚力に注ぎ、もの凄い勢いで追い上げる。


ほむら(…!背中が見えたわ)


二週目に突入してついに少年の背中を捉えた。ジワジワと差を詰めていく。

43: 2014/08/03(日) 23:01:54.63 ID:0Xe9k2eb0
少年(やっべ!ねーちゃんはえー!)


慌てて更に速度を上げようとするがほむらも負けじと速度を上げる。


ほむら(根比べなら…負けない!)


ファイナルラップ突入時、その差はほとんどない、が少年が一歩分ほどリードしていた。


少年(このままっ!一気に!)

ほむら(ほんの少しの差が埋まらない…!)


少年がリードしたままコースを消化していき、残るは最後の直線と階段のみ。
お互い氏力を尽くし直線を走りきる。少年のリードは変わらない。


少年(残りは階段だけ!勝った!)

ほむら(勝った、とでも思っているんでしょうが…)

ほむら(その油断が命取りよ)

ほむら(目に焼き付けておきなさい。魔法少女になると…こういうこともできるのよ)


ほむらは階段の一段目に右足をかけた、その瞬間。全ての力を右足に集中させ、そして…

ほむらは、跳んだ

十数段はあるはずの階段を一気に跳び越した。


少年「ちょっ!?」

ほむら(私に喧嘩を売った時点で貴方は愚かだった)

ほむら(愚か者が相手なら、私は手段は選ばない――)


中傷の的になった、ほむらの胸がゴールテープを切った。

44: 2014/08/03(日) 23:02:30.97 ID:0Xe9k2eb0

ミント「ほむらさん、おめでとうございます」

ほむら「ハァ…ハァ…」

ミント「だ、大丈夫ですか?」

ほむら「し、心配いらないわ。ハァ…ハァ…」


額に浮き出た汗を拭い、そのまま髪をかき上げる。


少年「だぁぁぁぁ!負けたぁぁぁ!」


地面に大の字に寝転び、少年は悔しさを爆発させるように叫んだ。


ほむら「まぁ…最後は少し大人げないと思ったけど、勝ちは勝ちね」

少年「あれだけスタートで差が付いたのに負けたら文句言えないって」

ほむら「あら、潔いのね」

少年「勝負の世界は結果が全てって言葉があるもん。…はい、賞品」

ほむら「賞品?」


少年から小さな紙袋を受け取る。


少年「まー大したもんじゃないけどさ」


ほむらは紙袋を広げて中身を確認すると、そこにはほむらの世界でも目にしたことがある
物体が入っていた。

45: 2014/08/03(日) 23:03:24.71 ID:0Xe9k2eb0
ほむら「これって…、グミ、かしら?」

ミント「オレンジグミですね。こちらの世界の基礎的な回復薬品です」

ほむら「へぇ…。ただのお菓子にしか見えないわ」


そんなやり取りをしていると少年が勢いよく立ちあがった。


少年「よっ、っと!じゃあ俺行くね。おねーちゃん!悪口言ってごめんね!」

ほむら「あらあら、随分と可愛くなったわね」

少年「なんかおねーちゃんから速そうな気配がしたからさ!どうしても勝負したくなったからついつい…」

ほむら「いいわよ。私も大人げなかったわ」

少年「じゃあね!おねーちゃん達!楽しかったよ!」


そう言いながら少年は疲れも見せず走り去っていった。


ミント「フフッ…。お疲れ様でした。ほむらさん」

ほむら「なぜ貴方が一番楽しそうにしているのかしら?」

ミント「いえ、…失礼な言い方かもしれませんが、ほむらさんの年相応な表情
    を見れた気がして」

ほむら「…そういえばさっきの子も根暗って言ってたわね」


先程言われた言葉をブツブツと繰り返す。それなりに気にしているようだ。


ミント「すいません!そういうつもりじゃ…!ほむらさんはどんな表情でも素敵ですよ」

ほむら「…ありがとう」


下手な慰めと思ったのか、それとも照れているのかわからないがほむらは短い言葉を返した。

46: 2014/08/03(日) 23:04:08.53 ID:0Xe9k2eb0
ほむら「流石にちょっと疲れたわね」

ミント「どこかでお茶にでもしましょうか」

ほむら「あら、いいわね」


ミントの提案にほむらは二つ返事で了承する。


ミント「それと、ほむらさん」

ほむら「? 何?ミントさん」

ミント「先程の話ですが、やはり人はいつか分かり合えるものだと私は信じています」


真っ直ぐにほむらの目を見るミント。


ほむら「…本当に、そうかしら」

ミント「はい。いくら時間がかかっても…諦めなければ必ず」

ほむら「私は時を繰り返して…、繰り返し過ぎて…。繰り返せば繰り返すほど周りの人
    と距離が開いていくのを感じたわ」

ミント「それでも、一度は仲良くなれたのなら、再び仲良くなれるはずです。
    お互いが歩み寄ることができたのなら」

ほむら「歩み寄る…」

ミント「はい。いがみ合っても解決はしませんから」

ミント「先程の少年とも、結局最後は仲良くなれたじゃないですか」


ミントはニコリと笑う。


ほむら「…そうかも、しれないわね」


ポツリ、とほむらは呟き、そして気分を切り替えるかのように大袈裟に
大きく伸びをした。


ほむら「う~ん! …さぁ、そろそろ行きましょうか」

ミント「はい、そうですね」

ほむら「美味しい紅茶が飲みたいわ」

ミント「フフッ、わかりました。案内しますね」


長い髪を揺らしながら、二人は雑踏に紛れていった。

47: 2014/08/03(日) 23:05:00.96 ID:0Xe9k2eb0
翌朝、雑貨屋前にて


クラース「さて、ではまずはここで必要なものを揃えようか」

クレス「本当に必要な物だけにしないといけませんね。持ち運びするのが大変ですし」

クラース「あぁ、そうだな。…聞いているかアーチェ?」

アーチェ「聞いてるよ!というかわざとらしく名指しで注意しないで!」

ほむら「あの…」

クラース「ん?どうしたほむら」

ほむら「私の能力なんだけど―――」



クラース「ほむら、君を仲間に引き入れて私は本当によかったと思っている」

クレス「ありがとうほむら。仲間になってくれて」

ミント「本当に…よかったです」

アーチェ「ほむら様!」

ほむら「…えっと、どういたしまして」


全ての荷物を盾に収納したほむらを崇める四人を見て、
ほむらはむず痒いような感覚に陥っていた。


クレス「まさか装備だけ持って旅ができる日が来るなんて」

クラース「あぁ…。本当にな」

ミント「身体が軽い…。こんな気持ち初めて」

アーチェ「もう何も怖くない」

ほむら「そのセリフはダメよ。やめて」


二人の首から上があるのを確認し、
どこかで聞いたようなセリフを必氏で止めるほむら。




クラース「さて、それでは出発するぞ。目指すはここから南東、モーリア坑道だ」


ほむら(いよいよ本格的な旅が始まるのね)


何が起きるかわからない。それでも怖くない。


ほむら(今は、一人じゃない――)

48: 2014/08/03(日) 23:06:44.13 ID:0Xe9k2eb0
一人でお風呂入ってきます

50: 2014/08/03(日) 23:43:10.49 ID:0Xe9k2eb0
一人でお風呂入ってきました

娘はいませんが粗末な息子なら(ry

再開します

51: 2014/08/03(日) 23:44:21.62 ID:0Xe9k2eb0
アルヴァニスタの都~モーリア坑道


アーチェ「そういえばほむらちゃん」

ほむら「ん?何?」

アーチェ「ヴェネツィアでほむらちゃんがベッドに置き忘れてたのって、あれ武器なんだよね?」

ほむら「ええ、そうよ」

クレス「へぇ、よかったら見せてくれないかい?」

ほむら「いいわよ。扱いには気を付けてね」


ほむらはそう言い、盾から一丁の拳銃を取り出しクレスに渡す。


クレス「見たことない武器だね」

クラース「これはどうやって使うんだ?」

ほむら「ちょっと貸して頂戴」

クレスから拳銃を受け取り、手慣れた手つきでセーフティを外す。
その時、草むらから鋭い嘴とかぎ爪を光らすモンスターが空を滑るように飛び、
襲いかかってきた。


クレス「! ほむらちゃん!後ろ!」


ほむらはクレスの呼びかけよりも早くその気配に反応し、手に持っていた拳銃の
引き金を二度引いた。パァン!と乾いた音が二度響く。
一発目はモンスターの右の翼に命中し、続けざまに撃った二発目が頭部を射抜いた。
モンスターはそのまま力無く地面に落下し、二度と動くことは無かった。

52: 2014/08/03(日) 23:45:21.77 ID:0Xe9k2eb0
ほむら「…と、まぁこんな感じの武器ね」


少しも動揺せずに、襲い掛かってきたモンスターの命を奪ったほむらを見て、
クレス達はほむらがいかに戦うことに慣れているかを感じ取った。


クラース「お見事、と言っておくべきかな?」

ほむら「あれだけ直線的に突っ込んでこられたら外す方が難しいわ」

クレス「弓に近い武器って感じかな?」

ほむら「飛び道具って点だけでいえば同じね。ただ、この武器は弓で使う矢の
    代わりに弾と呼ばれるものを消費するんだけれど」

ほむら「こちらの世界では手に入れることができないから、あんまり無駄に
    消費はできないわね。ストックはある程度確保してるけど」

クラース「なるほどな。他にも武器はあるのか?」

ほむら「似たような飛び道具が何種類か、あとは自分で作った爆弾ね。
    火薬が手に入れば作ることもできるかもしれないけど…、
    洞窟内での使用は極力避けたいわね」


ほむらはモーリア坑道が地下に深く続く洞窟だと聞き、手持ちで使える
武器はかなり限られるだろう、と考えていた。

53: 2014/08/03(日) 23:46:32.31 ID:0Xe9k2eb0
クラース「そうだな。洞窟が崩れて生き埋め、なんて結末は勘弁願いたい」

ほむら「とりあえず基本的にはみんなのフォローに回るわ。いざとなれば
    近接戦闘でもなんでもするけれど」

クレス「大丈夫なのかい?」

ほむら「ええ、一対一で倒しきるよりは、時間を稼いだりする方が向いているけど。
    このパーティのエースを生かす立ち回りをするわ」

クラース「そんなウチのエース様は…」


チラリとアーチェを見る。


アーチェ「え?あたし?」

クラース「不本意だがな…。お前の呪文は火力、範囲ともに頼りになる」

アーチェ(なんか知らないけど褒められてる!)

ほむら「クラースさんの召喚術はどんな使い方なのかしら?」

クラース「現段階では敵一体を狙って周りの敵も巻き込めればいい…。
     そんな感じだな」


その時、再びガサガサッ、と草むらから音を立て、今度は複数のモンスターが
飛び出してきた。


クラース「やれやれ、今日は千客万来だな」


そう言いながらクラースは帽子を被りなおし、詠唱の準備に入る。


アーチェ「ほんとにねー。まだ都を出たばっかだってのに」


文句を垂らしながらアーチェもクラースに続き魔力を練り始める。
箒にまたがり、ふわふわとその場に浮かびながら。

54: 2014/08/03(日) 23:47:35.21 ID:0Xe9k2eb0
クレス「はっ!」


そんな二人のやり取りを気にもせず、クレスは剣を抜きモンスターの群れに立ち向かう。


ほむら(さて、いよいよ実戦ね。みんなの動きを把握しましょう)


ミント「ほむらさん、大丈夫ですか?」

ほむら「ええ。さて…、今回はミントさんには楽をさせてあげるわ」


ほむらはクレスと詠唱中のクラース、アーチェの真ん中辺りに位置取り周囲を警戒する。


ほむら(時間停止で詠唱の時間を稼いでもいいけど…。使えないケースも想定しないとね)


骸骨姿のモンスターがクレスに斬りかかる。クレスは慌てる様子も無く冷静に剣で受け、
弾き飛ばす。

その脇をすり抜け、クラースに突進する一つの影があった。ほむらはそれを見逃さず迎撃に向かう。
狼のようなモンスターだ。異常なほど牙と爪が鋭い。


ほむら(弾も節約できる内はしておきましょう…)


狼型のモンスターは、目の前に立ちはだかったほむらに跳びかかる。
爪を振り下ろす、ほむらはそれをバックステップで下がってかわす。
狼は着地と同時に大きく口を開け、ほむらの喉元を食いちぎろうと距離を詰める。
そんな狙いを簡単に見透かし、ほむらは左腕の盾を狼の口目掛けて叩き付けた。

硬いものが砕けた感触があった。どうやら狼の牙が根本から折れたようだ。
苦しそうにのたうち回る狼を、ほむらはサッカーボールのように蹴り飛ばした。


ミント(痛そう…)

55: 2014/08/03(日) 23:49:08.48 ID:0Xe9k2eb0
クラース「この指輪は御身の目。この指輪は御身の耳。この指輪は御身の口。我が名はクラース。
     指輪の契約に基づき、この儀式を司りし者。我伏して御身に乞い願う。
     我盟約を受け入れん・・・我に秘術を授けよ!…シルフ!」


呼びかけに答えるようにクラースの指輪が激しい光を放つ。ドレスを身にまとい、長い髪をなびかせた
三体の精霊が光と共に現れた。精霊は風を巻き起こしモンスターを切り刻んでいく。


ほむら(これが…召喚術)


初めて見た召喚術に思わず目を奪われた。


アーチェ「…うーん!めんどいから以下省略!アイスストーム!」


耳を疑うような適当な詠唱に肩を落とすほむらを無視するかのように、氷の礫をまとった風が
モンスターを襲う。

こうして半壊したモンスターの群れをクレスが一匹一匹確実に仕留めていく。


ほむら(魔術と召喚術でダメージを与え…、クレスさんの剣術で仕留める。
    私はその連携を繋ぐ。イメージ通りね)


最後に残ったモンスターをクレスが薙ぎ払い、モンスターの群れを掃討した。


クレス「ふぅ」

アーチェ「みんなお疲れー」

ミント「みなさん、お疲れ様です」

クラース「今回は出番が無かったな、ミント」

ミント「はい、ほむらちゃんが今回は楽させてくれると言ってくれたので」

ほむら「初陣で誰かが負傷するのは避けたかったもの」

クラース「まぁ、こんな風にミントが楽できる展開が一番理想だな」

クレス「ですが、マクスウェルはこうはいかないでしょうね」

ほむら「精霊の試練、ってやつね」

クラース「向こうが契約してくれる気があるのなら、だけどな」


そう言いながら再び帽子を被りなおしたクラース。


クラース「さて、そろそろ出発するぞ。またモンスターが寄ってこないうちにな」

56: 2014/08/03(日) 23:49:55.53 ID:0Xe9k2eb0
その後、何度かモンスターの襲撃を退けたクレス達。
夕方になり、今日の移動は切り上げて野営の準備に入った。


ほむら「えっと…まずテントでしょ」

ドサッ

ほむら「料理道具に…」

ガシャン

ほむら「食材…」

ドサドサッ

ほむら「あぁ。あと食器ね」

カシャン


クラース「しかし…すごい光景だな」

ミント「そ、そうですね」


盾から次々と必要なものを取り出すほむら。慣れてない人が見たらとても奇妙な
光景である。


ほむら「えっ?」

クラース「いや、なんでもない。…準備を済ませてしまおうか」

57: 2014/08/03(日) 23:50:39.83 ID:0Xe9k2eb0


パチパチと薪が爆ぜる音と本のページがめくる音が闇に消えていく。
クラースはマグカップに淹れたコーヒーを一口啜り、更にページをめくる。

テントから人が出てくる気配がした。


クレス「クラースさん、交代します」

クラース「ああ、もうそんな時間か」


クラースは本を閉じ、少し身体を伸ばした。
しかし、クラースはその場を動かない。どうやらクレスに何か言いたいことがあるようだ。


クレス「クラースさん?どうしました?」

クラース「クレス、まだ初日だが…ほむらをどう思う?」

クレス「正直、想像していた以上でした」

クラース「やはり同じ意見、か…」


クレスもクラースも、ほむらの動きを高く評価していた。いや、恐らくミントもアーチェもそう
思っているだろう。

58: 2014/08/03(日) 23:51:28.32 ID:0Xe9k2eb0
クレス「実戦の経験値が高すぎます…。僕なんかより、もっと」

クラース「いや、我々より…というべきだ。最初は彼女の能力だけを見てしまっていたが、
     もっとも秀でていたのは戦闘を俯瞰で見る能力だ」

クレス「俯瞰、ですか?」

クラース「そうだ。戦場の状況を常に把握し、前衛と後衛の距離が間延びしているなら
     その距離を埋める。撃ち漏らした敵を確実に仕留める。恐ろしいほど冷静に、だ」

クレス「どれだけ戦えばあれだけの動きができるようになるでしょうか」

クラース「さあな…。私には見当もつかんよ。…それにほむらはもう先を見据えているようだ」

クレス「どういうことですか?」

クラース「最初のモンスターの群れを撃退したときのことだ。ほむらは時間停止を使わなかった。
     恐らく時間停止の使えないケースを想定して動いていたはずだ」

クレス「僕たちが初めてパーティとして挑んだ戦闘の初戦で、ですか…」

クラース「ああ。一目見て試す余裕がある相手だと判断したらしい」

クレス「末恐ろしいというか…頼もしいというか」

クラース「頼もしいには違いないが…問題もある」

クレス「と、いうと?」


ほむら「私がいなくなったときについて、かしら?」


テントから姿を現し。クレスとクラースの元へ寄ってくる。

59: 2014/08/03(日) 23:52:14.67 ID:0Xe9k2eb0
クラース「起きていたのか」

ほむら「ええ。過剰に評価されているのに居た堪れなくなったわ」

クラース「そんなことはないぞ?正当に評価しているつもりだ」

ほむら「あら、それは喜ばしいわね」


そう言いながらほむらは盾からティーセットを取り出し、紅茶を淹れはじめた。


ほむら「あなたたちもどうかしら?」

クレス「僕にも淹れてもらえるかい?」

クラース「私は遠慮しておこう。飲みかけがある」

ほむら「そう、…はいクレスさん」


ありがとう、といいクレスはそれを受け取った。
受け取る際にカシャン、とティーカップが音を立てた。


クレス「それで、さっきの話だけど…、ほむらがいなくなったときって?」

クラース「簡単な話だ。強大な力があればそれに頼りたくなる。だが、頼りすぎた状態で、
     いざその力が使えなくなったらどうする?」

クレス「それは…」

クラース「依存は停滞だ。だからこそ我々も強くならねばならない。依存しないためにな」

ほむら「まぁ、私は私のできることをやるだけよ。使えないと判断したら置いていけばいいわ」

クラース「我々が使えないと判断されそうで怖いな」

ほむら「大丈夫よ。私は物持ちがいい方だから。盾の中に要らないものもいっぱい入ってるし」

クラース「フッ…せいぜい捨てられないように努力するさ」

60: 2014/08/03(日) 23:53:04.92 ID:0Xe9k2eb0
クラース「…ということらしいぞリーダー殿?頑張らなくてわな」

クレス「そ、そうですねクラースさん」


冗談を冗談と受け取るのに失敗したクレスを見て、ほむらは筋金入りの真面目な人ね、と
改めて思った。


ほむら「そういえばクレスさん、出発の前に盾に仕舞った袋に包んだものって…」

クレス「あぁ、それは槍なんだ。グングニルっていう」

ほむら(グングニル…、聞いたことがあるわね。こっちの世界だと北欧神話に出てくる
   オーディンの武器、だったような)

クレス「とても強力な武器なんだけど…、僕には分不相応でね。まだまだ腕が足らないみたいなんだ」


ほむらはヴェネツィアの酒場での会話を思い出した。


ほむら(そう…、だからあの時あんなことを言ったのね)


ほむら「武器の扱いに関してはほとんど知識が無いのだけれど…、使わないと
    永遠に使いこなせないんじゃないかしら」

クレス「…僕もそうだと思っている。…けど」

ほむら「扱えない武器で戦って後ろの人たちに危害が及ぶのを恐れているのね」

クレス「!?」


全てを見透かされていた。

61: 2014/08/03(日) 23:53:57.34 ID:0Xe9k2eb0
ほむら「クレスさん、敢えて言わせてもらうわ。このパーティでのエースはアーチェさんだけど、
    このパーティの今後はあなたにかかっているといっても過言じゃないわ」

クレス「僕に…!?」

ほむら「ええ。伸びるも止まるも貴方次第。だから恐れないで。何があっても私がフォロー
    するわ」

クラース「私達、だろう?」

クレス「ほむら…、クラースさん…」

クラース「いつかは私から言おうと思っていたんだが、すまなかったなほむら」

ほむら「いえ、大丈夫よ。…それにクレスさんなら乗り越えてくれるって信じているから」


ほむらは少し冷めてしまった紅茶に口をつけた。


ほむら「それじゃあ、これは渡しておくわね」


そう言い、ティーカップを仕舞ったほむらは盾から布に包まれたグングニルを取り出し、
クレスに手渡した。
どしっとした重みが手に伝わる。


クレス「やっぱり、重いなこれは」


握ったままクレスは呟く。


ほむら「返品は受け取らないわ。頑張って使いこなして頂戴」


少し意地悪そうに笑う。


クレス「はぁ…、スパルタだな」


クレスは諦めたように軽く笑みを浮かべる。だがもう迷いは無かった。


クレス「僕はこいつを使いこなしてみせる。必ず」

クラース「期待しているぞ」

ほむら「心配はしていないわ」


じゃあ後は頼んだぞ、と言い残しクラースはテントに入っていった。

それじゃあ私も、といいほむらもテントに戻った。


「ほむらちゃーん!どこ行ってたのー!」

「きゃっ!そうやってまた貴方は…」


そんなやり取りがクレスの耳に入ってくる。ハァ、と大きなため息を漏らした。


グングニルを布から取り出す。


クレス(今はまだ…、分不相応かもしれない。でも必ず…!)


クレスは握りしめたグングニルを身動きせずにしばらく眺めていた。

夜が更けていく―――

62: 2014/08/03(日) 23:54:52.84 ID:0Xe9k2eb0
モーリア坑道

ほむら「想像していたよりもずっと明るいわね」

クラース「この洞窟には何度も国の調査団が出入りしているからな。明かりは絶えず
     灯っている」


思った以上の明るさに驚くほむら。これなら松明をもって歩く必要もなさそうだ。


クラース「さぁ、降りるぞ」


先導するクラースを追って、ほむらの視界に飛び込んできたのは永遠に続いているかのように
長い、長い階段だった。


ほむら「ここを…、降りていくの?」

クレス「一度最深部まで降りて空振りだったときは絶望したよ…」

ミント「ですが、そのおかげでこの階段の扉が開いたわけですし」

アーチェ「この階段も充分キツいよ…」

ほむら「足を踏み外したらどこまで落ちていくのかしら」

アーチェ「やめて!そういうこと言わないで!」

クラース「っ!洞窟内で声が響くんだからそう大声を出すな」


クラースは普段より少しだけ抑えた声でアーチェを注意する。


クレス「さて行こうか。足元には十分気を付けてね」

63: 2014/08/03(日) 23:55:51.59 ID:0Xe9k2eb0
最深部直通階段途中、結界内



アーチェ「あと半分くらいだっけ?」

ミント「そうですね。確かここがちょうど中間地点だったはずです」


アーチェは地面に座り込みミントに尋ね、ミントは紅茶を淹れながらその質問に答えた。


ミント「みなさん、お茶が入りました」


ここはモンスターが寄ってこれない場所らしい。それを利用して少し休憩すると
クラースは提案した。束の間のティータイムである。


アーチェ「小腹が空いたぁぁぁ」

クラース「もうすぐ戦闘だ。腹が一杯で動けないなんて笑えないぞ?」

アーチェ「でーもー、お腹空いて力出ないのもダメじゃん?」

ほむら「確かに…それもそうね。じゃあこれでもどうぞ」


ほむらは盾の中から小さな箱を取り出す。

64: 2014/08/03(日) 23:56:57.59 ID:0Xe9k2eb0
アーチェ「これは?」

ほむら「私の世界にあるお菓子よ。御茶請けにして頂戴」


箱の中から出てきたのは、スナック菓子をスティック状にし、更にチョコレートで
コーディングしたお菓子だった。このお菓子を見る度に、ほむらはとある魔法少女の
ことを思い出す。


――食うかい?


ほむら(貴方ならそう言って差し出すんでしょうね、杏子)

アーチェ「いっただっきまー…。んーっ!美味しいこれ!」

ほむら「一人で食べきらないでよ?」

クレス「僕も一本もらっていいかい?」

ほむら「ええ。みんなで食べちゃっていいわよ」

ミント「ほむらさんはよろしいのですか?」

ほむら「ええ。向こうじゃいくらでも手に入るお菓子だから」


クラース「ふむ…これはなかなか…」

クレス「本当に美味しいよこれ」

ミント「食べやすくていいですね」

アーチェ「ほむらちゃんいいなー!こんな美味しいものばっかり食べて」

ほむら「その代わりに体重と戦うことになるわよ?」

アーチェ「うぐっ…」


もう一本、と手を伸ばしたアーチェの腕がピタッ、と止まる。


アーチェ「やっぱり我慢できない!」

ほむら(はい、一本当たり11.27kcalになります)

65: 2014/08/03(日) 23:57:58.01 ID:0Xe9k2eb0
クレス「ラスト一本だね」

アーチェ「はい!早い者勝ち!もーらいっ!」

クレス「結局一番食べてるじゃないか…」

クラース「全く…食べっぷりもエースだな…」



アーチェ「はい、ほむらちゃん。あーん」

ほむら「えっ?」

アーチェ「えっ、じゃないよ!ほら、口開けて」

ほむら「私は本当にいいのよ?それは貴方達にあげたものだし」

アーチェ「じゃあ貰ったものだけどあげる!はい!」

ほむら「…はぁ、じゃあいただくわ」

アーチェ「はい、あーん」

ほむら「普通に食べれるわ」

アーチェ「いーいーかーらー!」

ほむら「はいはい…。……あーん」

アーチェ「はい、よく食べました♪」

ほむら「なんなのよそれ…」


ポリポリと噛み砕く。少しだけ懐かしいような味がした。


アーチェ「あー美味しかった♪」

ほむら「まだ色々入ってるからこういう機会があればまた出すわね」

アーチェ「またあーんさせてくれるの!?」

ほむら「させてあげてもいいけど、その代わりアーチェさんはおやつ抜きね」

アーチェ「うう…究極の選択…!」

ほむら「なんでそこで悩むのよ…」


ミント「本当にお二人は仲がよろしいですね」

クレス「そうだね。…ほむらのアーチェの扱い方が見ていて面白いよ」



クラース「…さて」

クラース「休憩は終わりだ。気を引き締めていくぞ」

66: 2014/08/03(日) 23:58:57.17 ID:0Xe9k2eb0
モーリア坑道最深部



クラース「貴方がマクスウェルか」

マクスウェル「如何にも。何の用かな?若き召喚術師よ」

クラース「この地に契約の指輪が眠っているときいて来たのだが――」


ほむら(これがマクスウェル…)


ほむらはクラースとマクスウェルの会話に耳を傾けながらも、マクスウェルを
観察していた。


ほむら(あの球体は何かしら?結界のようなもの?)

マクスウェル「さて、そこの黒い髪の娘よ」

ほむら「…、えっ、私?」

マクスウェル「そうじゃ」


あれこれ考えているといきなりマクスウェルに話しかけられ戸惑うほむら。


ほむら(精霊が私に何の用が――)

マクスウェル「お主はなかなかに不思議な存在みたいじゃの」

ほむら「…どういうことかしら?」

マクスウェル「お主は新たな枝じゃ」

ほむら「?」

ほむら(枝…?一体、何の事?)

67: 2014/08/04(月) 00:00:00.59 ID:0Xe9k2eb0
マクスウェル「人の歴史というものは例えるなら木の枝のようなものじゃ。
       無数に広がり、無限の可能性を秘めておる」

ほむら「…」

マクスウェル「後ろの二人…、クレスとミントといったかの?お主たちがこの
       時空に現れて新たに一本の枝が生えた。そしてお主、ほむらが
       この世界に呼ばれたときに分かれていたはずの枝が絡まり始めた」

マクスウェル「そして全ての枝がまとまり、一本の新たな枝が生まれた。
       それがこの時間軸、ということじゃ」

ほむら「私のせいで、ということ…?」

マクスウェル「原因はわからんがの」

クラース「全ての枝がまとまった場合、一体どうなる?」

マクスウェル「有りえないはずじゃったことが起こる可能性がある、としか言えぬな」

クラース「歴史が変わる、ということか?」

マクスウェル「それはお主たちが直接確かめてみるといい。そもそも最初に言ったように
       無限の可能性があるのだからどれが正しい歴史なのかなんてわからんじゃろう」

ほむら「私は…一体これからどうすれば…」

マクスウェル「…この世の理から外れた少女よ。お主が道を選ぶのではなく道を切り拓くのじゃ」

マクスウェル「お主が切り拓いた道が道となり、歴史となり、道しるべになるじゃろう」

ほむら「…なんだか随分と大袈裟な話になってしまったわね」

マクスウェル「一本しかなかった道が消え、どこでも進めると考えれば少しは気が楽に
       なるじゃろう?」

ほむら「簡単に言ってくれるわね、全く」

ほむら「いいわ、やってあげるわよ。どうせ私はどんな道でも進むつもりだったのだから。
    道が無くても、目指す場所は見失わない。絶対に。」

68: 2014/08/04(月) 00:00:47.64 ID:azAchFZW0
マクスウェル「ほっほっほ。強気な女子じゃの」

ほむら「覚悟なさい。どうせ力を試すつもりだったのでしょう?こんな訳が分からない話を
    されて生まれた苛立ちを全て貴方にぶつけてあげるわ」

クラース「お、おい!ほむら!」

まさかの挑発にクラースも動揺を隠せない。

マクスウェル「そうじゃな…。そろそろ話を切り上げるとするかの」

周囲の空気が一気に張り詰める。

ミント「…来ます!」

クレス「分かってる!こっちも行くぞ!」

ほむら「みんな、生き埋めにしてしまったらごめんなさいね。ちゃんと道を掘って拓いて
    あげるから我慢して頂戴」

アーチェ「ウッシャッシャ!上手い事言うー♪」

クラース「こんなときに冗談を言うやつがあるか!…えぇい!」


こうして、ほむらにとって初めての精霊の試練が始まった。



69: 2014/08/04(月) 00:01:42.49 ID:azAchFZW0
クレス「秋沙雨!」


無数の突きを繰り出し、クレスはマクスウェルの動きを抑制しようとする。


マクスウェル「ほっほっ!甘いの!」


だが、マクスウェルは早々に地上戦を放棄し空中に逃れる。


クレス「くそっ!」

ほむら「クレスさん!焦らないで!」

ほむら(あの技は浮遊できる敵相手に出すべきじゃない…、そんなこと分かっているはず
    なのに)

マクスウェル「若き剣士よ。何をそんなに焦れておる?」

マクスウェル(あの槍のせいかの…)

クレス「…ハァァ!」


空中で静止するマクスウェルの問いかけを無視し、クレスは再度攻撃を仕掛ける。


クレス「襲爪雷斬!」


地面を蹴り、雷撃を纏った斬撃を振り下ろした。が――


マクスウェル「隙だらけじゃ」


バリアを張り巡らせたまま突進してクレスを弾き飛ばす。

70: 2014/08/04(月) 00:02:42.15 ID:azAchFZW0
クレス「がぁっ!」


空中で攻撃を受けたクレスは為す術もなく地面に叩きつけられる。


クラース「あの馬鹿が!」


後ろからその様子を見ていたクラースは思わず悪態をついた。


アーチェ「ちょっとちょっと!最近クレスの動きがおかしいとは思ってたけど、
     今日は一段とひどくない!?」

クラース「相手が相手だから力みすぎて空回りしているんだろう!」

クラース(プレッシャーをかけすぎてしまったか、これは)


あの夜から何度も戦闘をこなしてきたが、クレスがグングニルを使いこなせているとは
言えなかった。焦ってがむしゃらに振り回し状況が悪くなる最悪のループである。


クラース「ミント、クレスを頼む!我々がけん制して時間を稼ぐ!」


そうミントに告げ、クラースは詠唱の構えを取る。


ミント「わかりました!」


ミントの、杖を持つ手に力が入る。


クレス「…まだ、だ!」


背中から地面に叩きつけられ、ダメージを受けた身体に構いもせず立ち上がろうとする。


ほむら「待ちなさい」


その動きをほむらが止めた。

71: 2014/08/04(月) 00:03:28.34 ID:azAchFZW0
ほむら「少しは頭を冷やしなさい。周りを信用するのとがむしゃらに特攻するのは違うわよ?」

クレス「…分かってる!」

ほむら「分かってないから忠告しているのよ。せめてミントさんの治療だけでも待ちなさい」


そうクレスに言い残しマクスウェルに向かっていくほむらの背中を見つめることしかできなかった
クレスは自分のはがいなさに辟易していた。


クレス(僕は一体何をしているんだ…!?迷惑をかけているだけじゃないか!)


悔しさをぶつけるように拳を地面に叩きつけた。拳に鈍い痛みが広がる。


ミント「クレスさん!」


ミントが駆け寄ってきた。


クレス「ミント…。……すまない」

ミント「謝らないでください。そして、自分を責めるのもやめてください」

クレス「…」

ミント「クレスさんは絶対にこの壁を乗り越えてくれるとみんな信じています。
    ですから焦らないでください」


そう言葉をかけミントはヒールの詠唱を開始した。


クレス(焦るな…。今できるだけのことをやるんだ…!)

72: 2014/08/04(月) 00:04:25.78 ID:azAchFZW0
ほむらは一定の距離を保ち、空中のマクスウェルに向かって
取り出したサブマシンガンを薙ぎ払うように掃射する。


マクスウェル「ふむ、なかなか面白い武器じゃの」


空中を移動し、マクスウェルは銃撃を避け続ける。


ほむら(当たっても大したダメージにはならないでしょうね。
    あのバリアのようなものが邪魔だわ)

マクスウェル「儂に構ってばかりでいいのかの?」


新たにバリアの球体を作り出し詠唱中のクラースに向かって撃ちだした。


ほむら(…やっぱり狙ってくるね)


クラースと、クラースに向かって一直線に向かう球体に割り込み、
魔力を込めた盾で叩き落とした。


マクスウェル「なかなかやるようじゃが…一人でどこまでさばけるかの」


次はミントとクレス、更に別方向にいるアーチェに向かってそれぞれ球体を放つ。


ほむら(同時攻撃――!)

マクスウェル(さぁ、どちらを助けるんじゃ?)

73: 2014/08/04(月) 00:05:10.88 ID:azAchFZW0
ほむらは冷静に距離を確認する。自分から近いのはアーチェだ。滑り込むように割り込み
再び球体を叩き落とす。


マクスウェル「そこからじゃもう間に合わんじゃろ?」

ほむら「普通ならね」


ほむらは余裕を見せつけるかのように笑い、時間を止める。
盾から爆弾を取り出しマクスウェルの頭上に投げつけ、二人に撃ちだされた球体に向かう。


ほむら(極力爆弾は使いたくないけど…さすがに贅沢いってられないわね)


時間停止を解除し、動き出した球体を叩き落とすと同時に爆発音が鳴り響く。


マクスウェル「ぬう!?」


ほむらの姿を完全に見逃し、更に氏角からの爆発をモロに喰らったマクスウェルは状況を
飲み込めていなかった。


マクスウェル「まさかあの状況で、全ての攻撃を捌いて反撃までしてくるとは…、
       いやはや恐れ入るわい」

ほむら「どういたしまして」


賛辞の言葉のお返しと言わんばかりにハンドガンを数発、マクスウェルに狙いをつけ
撃ちこむ。
…が、マクスウェルは今度は避けようともせず動かない。発射された銃弾はマクスウェルの周囲に
張られたバリアに弾かれる。


ほむら「…チッ」


軽く舌打ちをする。

74: 2014/08/04(月) 00:05:56.57 ID:azAchFZW0
ほむら(やはりこの程度の武器じゃ話にならないわね)

マクスウェル「面白い武器に、高い身体能力…、そして人智を超えた能力。といったところかの」

ほむら「あら?もう気づいたの?」


特に驚きもせずにほむらは答える。


マクスウェル「随分と茨の道を歩んできたようじゃな」

ほむら「まだ途中よ。そんなことよりどうするの?お互い決定打に欠けるようだけど」

マクスウェル「ほっほっ!あまり精霊を舐めるでないぞ?」


マクスウェルは手に持った杖を振りかざす、と同時にほむらの身体が浮かび上がる。


ほむら「…これは!?しまっ…」


逃れるように空中でもがくも虚しく、今度はほむらが背中から地面に叩きつけられた。


ほむら「かっ……は…っ!」


肺の中の空気を全て押し出され、上手く呼吸ができない。


クラース「ほむら!…ウンディーネ!」


ほむらを助けるように詠唱を終えたクラースはウンディーネを召喚した。
水の精霊は飛沫を上げ、手に持った剣でマクスウェルに斬りかかる。


クラース「ほむら!大丈夫か!?」

ほむら「ゴホッ…!大丈夫…。呼吸がちょっとできなかっただけよ。ダメージはほとんどないわ」

ほむら(油断したわね…動きを止めないようにしないと)


マクスウェル「ダメージは無いか…。タフな身体じゃの」


ウンディーネの斬撃を杖で受け止めながらも、マクスウェルの表情には余裕の色が覗える。

75: 2014/08/04(月) 00:06:45.26 ID:azAchFZW0
クラース「流石4大元素を総べる精霊…。そう簡単にはいかんか」

アーチェ「じゃあこういうのはどうかな!」


詠唱が完了したアーチェは天に向かい手をかざす


アーチェ「サイクロン!」


マクスウェルを中心に、包み込むように巻き上がった竜巻がうねりをあげる。


マクスウェル「魔力がよく練られたいい魔術…じゃが」


マクスウェルのバリアを破ることはできない。


アーチェ「あーもー!もうワンランク上げないとだめね!」


再び詠唱に入るアーチェ。先程よりも深く集中し魔力を練りこむ。


マクスウェル「そう簡単にはさせぬぞ」



ミント「ヒール!」


クレスの身体を柔らかい光が包み込む。


クレス「アーチェの邪魔はさせない!」


治療が終わるや否や、クレスは地を蹴りマクスウェルに向かう。

76: 2014/08/04(月) 00:07:40.09 ID:azAchFZW0
マクスウェル「しぶといの」


アーチェに対し、攻撃をしかけようとした動きを止めクレスの相手をする。
クレスは先程とは違い、深追いせずアーチェの呪文の詠唱の時間稼ぎに徹した。


マクスウェル(動きが変わったの…)


クレスの立ち回りが変化したのを察知したマクスウェルは、クレスの攻撃が届かない
所まで上昇する。


マクスウェル「ここなら手が出せんじゃろ」


勝ち誇るようにクレスに言う、が


クレス「ほむら!」

ほむら「任されたわ」


クレスの呼びかけに了承し、取り出したのは軽機関銃。
ガガガガガッ!と激しい銃声が鳴り響く。

激しい銃撃にバリアごと押し込まれていくマクスウェル。

77: 2014/08/04(月) 00:08:18.18 ID:azAchFZW0
クラース「この指輪は御身の目。
     この指輪は御身の耳。
     この指輪は御身の口。
     我が名はクラース。
     指輪の契約に基づき、この儀式をつかさどりし者。
     我、伏して御身に乞い願う。
     我、盟約を受け入れん。我、盟約を受け入れん。我に秘術を授けよ」

クラース「イフリート!」

激しく燃え盛る火柱と共に現れた火の精霊は、無数の灼熱の火球をマクスウェルに放つ。
ほむらの攻撃と同じく、マクスウェルの動きを完全に止めるのが狙いだった。

マクスウェル「い、いかん!」


クレス達の狙いを察し、マクスウェルは初めて焦りの表情を見せる。


アーチェ「じゃっじゃーん!とっておき、いっくよー!」

アーチェ「サンダーブレード!」

激しい光を放つ雷の刃がマクスウェルのバリアを切り裂いた。


クラース「今だ!決めろクレス!」

クレス「虎牙破斬!」


クレスの十八番、切り上げから切り落とす二連撃をまともに受け、三度目に地面に叩き落とされたのは
マクスウェルだった。

78: 2014/08/04(月) 00:09:17.46 ID:azAchFZW0
クレス「…どうだ!?」


手ごたえはあった。だが…


マクスウェル「あ痛たたた…」


再びふわふわと浮き上がるマクスウェルを見たクレスはグングニルを握りなおす。


クレス「何度でも…!」

マクスウェル「いやーまいった!降参じゃ!」


先程まで周囲を包んでいた威圧感は消え、マクスウェルは『フーッ』と長く息を吐いた。


ほむら「あら?終わりなの?まだやれそうだけれど」

マクスウェル「別にお主らを叩きのめすために戦ったわけじゃないからの」

クラース「契約してくれるのか?」

マクスウェル「よかろう。力は存分に見せてもらったわい」


その一声を聞いたクレス達は緊張の糸を切らした。

79: 2014/08/04(月) 00:09:57.18 ID:azAchFZW0
アーチェ「あー疲れた」

ほむら「やっぱりアーチェさんの魔術は真剣に集中したら凄まじい威力になるわね」

クラース「全く…、普段からそうしてくれればな」

アーチェ「だって魔力をこんな練りこむのって疲れるんだよ!」

クレス「でも助かったよ、アーチェ」

アーチェ「まー、クレスも最後はマシな動きになってたし?よかったんじゃない?」

ほむら「なんで上から目線なのよ…」

クレス「自分でやれる範囲のことをやるだけ、って割り切れたから…。一人じゃ限界があるけど
    みんながカバーしてくれたからね」

クラース「そうだな。最初から決めに行きすぎだ」

クレス「…はぁ、すいませんでした」

クラース「まぁいいさ。今後の課題だな」



マクスウェル「時にクレスよ」

クレス「なんでしょう?」

マクスウェル「その手に持っている槍なんじゃが、違和感は無いかの?」

クレス「違和感…、ですか?違和感というより自分が未熟で使いこなせていない
    と思っていますけど」

マクスウェル「まぁ、確かにお主はまだまだ未熟じゃが…、そこまで
       腐る必要もあるまい。その槍は特殊な封印が施されておる」

ミント「封印、ですか?」

マクスウェル「元々それは神々の持ち物じゃ。恐らく人間には上手く扱えぬように
       なっておるんじゃろう」

ほむら「ということは…、いくら使い込んでも無駄、ということかしら」

マクスウェル「今の段階ではな…、……それ!」


マクスウェルがグングニルに向かって杖を振る。その瞬間目に見えない何かが
音を立てて砕ける音がした。

80: 2014/08/04(月) 00:10:49.41 ID:azAchFZW0
クレス「今のは…!?」

マクスウェル「封印を解いただけじゃ。あとはクレス。お主次第じゃ」

クレス「…ありがとうございます」


不思議なほどに、以前より手に馴染む感触を得たクレスはマクスウェルに礼を言う。


マクスウェル「楽しませてもらった礼じゃよ。さて、では契約といこうかの」

クラース「恩に着る、マクスウェル」



ほむら(どうでもいいけど契約っていう言葉は耳に障るわね)



クラース「契約完了だ」

契約し終わった指輪を手に取るクラース。その指輪をはめようとした瞬間、
指輪が激しい光を放つ、それと同時にマクスウェルが飛び出してきた。


マクスウェル「言い忘れておったがお主たちの目的の指輪はあの扉の奥にあったはずじゃ」


そう言い残しマクスウェルは再び光を放ち、今度は指輪の中へと消えていった。


ほむら「…割と自由に出入りできるものなのかしら?」

クラース「わ、わからん…」


少し疲れた様子のクラースだったが、さらに追い打ちをかける出来事があった。
教えられた扉の奥で発見した契約の指輪が壊れていたのだ。

戦闘の疲れと、指輪が壊れている事実に疲労が一気に押し寄せ、クレス達はしばらく
壊れた指輪を黙って見つめることしかできなかった。

81: 2014/08/04(月) 00:12:12.27 ID:azAchFZW0
フレイランド


クレス達はエドワードという人物に指輪修復の知恵を
借りるため、フレイランドに上陸していた。


クラース「…暑い」

クレス「…暑いね」

ほむら「…暑いわね」

ミント「…暑いですね」

アーチェ「あああああああああああああああああああああああああああああああああっ
     つうううううううううううううううううううううううううううううううう」


もはや突っ込む気にもならない。ほむら以外は一度、イフリートとの契約の為に一度
ここに訪れているのだが、そんなことは関係なく暑さに参っていた。


ほむら「み、水…」


某世紀末覇者伝説の主人公が如く、ほむらは呟きながら盾に手を突っ込み、水の入った
ペットボトルを一本取り出し口を付ける。


ほむら「沁みるわ…」

アーチェ「あたしにも…お恵みを…」


大仰にお願いしてくるアーチェに最小限の動作でペットボトルを取り出し、
「はい」と最小限の会話をして手渡した。

82: 2014/08/04(月) 00:13:01.44 ID:azAchFZW0
アーチェ「ぷーーーーっはーー!キンッキンに冷えてやがるぅぅぅ!」

ほむら(なんでそんな元気になれるの…)

アーチェ「いやー、だってこんなに冷えてる水が飲めるんだよ?そりゃ生き返るよー」

ほむら(声に出してないのに反応しないで…)


物持ちがいいと豪語していたほむらだったがまさか盾の中に
空のペットボトルまで入ってるとは思っていなかった。
何に使う目的だったのか見当すらつかない。

盾の中では状態が保存される為、途中で寄ったオアシスで汲んだ水は冷たさを保ったままだった。
クレス達はほむらのことを神と呼んだ。


ほむら(暑い暑い暑い…暑すぎるわ…)


ある程度は魔力で誤魔化すこともできるが限界もある。そもそもほむらは長い間、ずっと同じ季節を過ごしていた
こともあってか、気温の変化に対応できずにいた。


ほむら(頭がフラフラする…)

ミント「ほむらさん、大丈夫ですか?辛そうですけど…」

ほむら「…大丈夫よ。ただ少し意識が飛びそうなだけ」

クラース「…そこの木陰で少し休もう。倒れられたら運ぶのも大変だ」

83: 2014/08/04(月) 00:13:48.78 ID:azAchFZW0
水で濡らしたハンカチを瞼の上に乗せ、ほむらはグッタリしていた。

ほむら(ここまで暑さに弱くなっているなんてね…)


夏を経験したのは一体いつが最後だろうか。
最も、日本の夏とは比べ物にならないくらいの灼熱なのだが。


ほむら「…ここからオリーブビレッジまでの距離は?」


誰に聞いたのか、空を見上げたままのほむらが尋ねた。


クラース「半日かかるかかからないか、といったぐらいか」

ほむら「半日…」


元々グッタリしていたが、更に身体から力が抜けたような気がした。


アーチェ「時間停止を使ったら暑さもへっちゃらじゃない?」

ほむら「…さっき試したけど、解除した途端襲ってくる熱波に意識が一瞬飛んだわ」

クレス「…大丈夫かい?」

ほむら「大丈夫じゃない、問題だ」

クレス「えっ?」

ほむら「…ごめんなさい。なんだか一瞬神がここで氏ぬ定めだと告げた気がしたから」

クラース「ダメだな…。もう少し休もう」

ほむら「本当に申し訳ないわ…」


更に少し休んだ後、クレス達はオリーブビレッジに向かって歩きだした。

84: 2014/08/04(月) 00:15:12.61 ID:azAchFZW0
ほむら「はぁ…はぁ…」

ほむら(この旅を終えて、ワルプルギスの夜を超えることができたら一生クーラーの
    ある部屋で過ごしましょう。暑い日に外にでるなんて愚かな行為。そうよ、
    暑い日はクーラー付ける。これ、人類の知恵。寒ければヒーターよ。あ、でも
   こたつもいいわね。こたつにみかん。日本が世界に誇れる分化よ。なんで
日本には四季があるのかしら。位置上仕方ないってのはわかるけど正直
春と秋だけで十分よ。誰か契約でそういう願いを叶えてくれないかしら)


その時、おぞましい叫び声をあげて近づいてくる影があった。


クレス「あれは…バジリスクだ!」

クラース「目を見るなよ!石化してしまうぞ!」

クレス「僕が前に出ます!ほむら、君は―――」


ガチッ、っと音が鳴る。ほむらは歩く速度を全く変えずフラフラとバジリスクに近づいて、
バジリスクの足元目掛けて爆弾を放り投げた。

そのまま何事も無かったかのようにバジリスクの横を通り過ぎ、時を動かす。

クレス「下がって!クラースさんとアーチェは詠唱の――」


クレスが言い終わる前にほむらの爆弾が爆発し、バジリスクは砂塵と共に
上空に舞い上がり、地面に落下した。

85: 2014/08/04(月) 00:16:00.65 ID:azAchFZW0
クレス「準備…、を…」

アーチェ「って…あれれ?」

クラース「ほ、ほむら?」

ほむら「…!暑っ!…やっぱりここで時間停止はしたくないわ…。今も意識が飛びかけたし…
    何してるの?…さっさと行きましょう…」


一瞬の間にバジリスクが爆散し、移動距離を稼いだほむらを見て全て飲み込んだ四人。


ほむら(春と秋だけになれば嵩張る冬服も必要無いしみんな大助かりよ。
大体冬服って基本的に高すぎるわ。
    その癖シーズン毎に買い替える人もいるし本当にわけがわからない。
それに一度に何足もブーツや
    パンプスを買うのも理解できないわ。
特に値引きもされていない時期に買うなんて何がしたいのかしら。
    あなた足が5本も6本も生えているの?
別にファッションに興味が無いとは言わないけど
   は本当に理解ができないわ。理解ができないといえば――)


ミント「ほむらさん!それ以上はダメ!」

クラース「クレス!ほむらを止めろ!私は鱗を剥いですぐ追いかける!」

クレス「あ、は、はい!」

アーチェ「ほむらちゃーん!行かないでー!」

86: 2014/08/04(月) 00:17:02.38 ID:azAchFZW0
オリーブビレッジ


クラース「な、なんとか日が落ちる前に到着できたな…」

クレス「ほ、本当によかったです」

ミント「ほむらさん、ほら…着きましたよ」

ほむら「…ミントさん」

ミント「は、はい?」

ほむら「あなたは足が五本も六本も生えているタイプかしら?」

ミント「ほむらさん!?」

ほむら「…ハッ!ここは…ようやく着いたのね」

アーチェ「あたしとりあえずほむらちゃんを宿屋に連れて行くよ…」

クラース「…頼んだぞ」


ほむらが宿屋でぐったりしている間にクラース達はエドワードと接触し、指輪の
修復に関する情報を得ていた。代償は少し焦げたバジリスクの鱗だった。

87: 2014/08/04(月) 00:17:56.38 ID:azAchFZW0
クラース「――というわけなんだが」

ほむら「この地に生息しているモンスターの鱗が焦げるなんて、それだけ
    恐ろしいほどの気温なのね」

クレス「えっ」

ほむら「えっ?」

クラース「ま、まぁいい。それで…これからのことなんだが」


クラースは言いずらそうにほむらを見る。


ほむら「どうしたの?早く言って頂戴」


ファサッ、と髪をかき上げるほむら。


クラース「まず…、えっとだな…。今来た道を引き返し、アルヴァニスタへ向かうその後、
     南に下りユミルの森を目指す」


ほむらの動きが止まる。


クラース「更に、修復ができたのなら再びこのフレイランドに訪れて、
     大陸を横断して12星座の塔をm

ほむら「私の旅はどうやらここまでのようね」

クレス「ほむら!?」

アーチェ「心がポッキリ折れた音がしたよ!?」

ミント「ほむらさん!諦めたらダメよ!」

ほむら「ごめんなさいまどか…私はあなたを救えなかった…」

クレス「ソウルジェムが凄い勢いで濁っていく!?」

ほむら「最後に…お別れを言えなくて…ごめんね…」

アーチェ「ほむらちゃん!?ほむらちゃあああああああん!!」

88: 2014/08/04(月) 00:18:50.34 ID:azAchFZW0
クラース「…落ち着いたか?」

ほむら「取り乱してごめんなさい…」

クレス「こ、ここで待っていてくれても大丈夫だよ?」

ほむら「いいえ、付いていくわ…。アーチェさんはユミルの森に入れないんでしょう?
    戦力が減るのなら尚更付いていかないと」

クラース「そうだな…。やはりアーチェが抜けるのは痛い」

アーチェ「こっそりついていったら…ダメだよね?」

クラース「ダメだ。エルフと問題を起こすのは我々だけの話じゃなくなってくる」

アーチェ「…はーい」

ミント「今日はここで一泊して明日、できるだけ早い時間から出発しましょう」

クラース「そうだな。まだ気温が上がりきる前に距離を稼ごう」

ほむら「申し訳ないわ…」

クラース「気にするな…誰にでも弱点はあるさ。気にしてないでさっさと寝てしまうんだな」

ほむら「ええ、そうさせてもらうわ」

クラース「我々も休むぞ。思っている以上に体力を消費しているからな。これからしばらく
     長い距離の移動が続く。しっかり休んでおけ」

89: 2014/08/04(月) 00:19:37.72 ID:azAchFZW0
ユミルの森


アルヴァニスタでルーングロムからエンブレムを受け取り、アーチェと一旦別れたクレス達は
ユミルの森に入り、更に奥にあるエルフの集落に到着した。


ブラムバルド「お待たせいたしました。私が族長のブラムバルドです」

クラース「急な訪問で申し訳ない。早速だがこちらを見ていただきたい」

ブラムバルド「これは…契約の指輪ですね。ただ、壊れているようですね」

クラース「我々が発見した際、すでに壊れていた。この指輪を修復する手段をお持ちだと
     聞いて来たのだが」

ブラムバルド「これは…正直我々でも厳しいですね」

クラース「駄目、か…」

ブラムバルド「いえ、あくまでも我々では、です」

クラース「他に手がある、と?」

ブラムバルド「はい。オリジンの力を借りましょう」


90: 2014/08/04(月) 00:20:34.20 ID:azAchFZW0
トレントの森

ほむら「随分と広い森ね」

クレス「迷ったら二度と出れない自信があるよ…」


ガサガサ、と草むらで何かが動く音が聞こえた。

クレス「モンスターか!?」

ミント「あ、そうではないみたいですよ」


と、ミントが指をさしたほうを見ると一匹の動物がいた。


ほむら「あれは…?」

クラース「ブッシュベイビーだな」

ほむら「ブッシュ…ベイビー…」


恐る恐るブッシュベイビーに近づいたほむらはしゃがみこみ、
手のひらを見せるように右手を伸ばした。


ほむら「チチチ…おいで」


最初はほむらを警戒していたブッシュベイビーだったが、ソ口リソ口リと
ほむらの手が届く距離まで近づいて来た。


ほむら「ふふふっ、怖くないわよ?」


ニッコリ笑うほむらを見て、ブッシュベイビーはほむらの伸ばした手に顔を擦り付ける
ように触れてきた。


ほむら「いい子ね…」


ゆったりと、優しくブッシュベイビーの頭を撫でる。指先で転がすように顎の下をさする。
左手も伸ばし、ゆっくり持ち上げて包み込むように抱きしめる。


ほむら「可愛いわ…」

ほむら(私用とまどかにおみやげとして一匹ずつ持って帰りたい)


クレス(可愛いな)

クラース(可愛いな)

ミント(可愛いわ)

91: 2014/08/04(月) 00:21:35.31 ID:azAchFZW0
クラース「ほむら、そろそろ…」

ほむら「…ええ、そうね」


名残惜しそうにゆっくりとブッシュベイビーから手を離す。その場から一目散に駆け出した
ブッシュベイビーの行く先を見ると、数匹のブッシュベイビーがいた。

ほむら「そう、…あなたにもちゃんと帰る場所があるのよね」

ミント「家族なんですかね?」

ほむら「多分、ね」

ほむら(家族か…)



指輪の修復を終え、エルフの集落に戻ると何やら騒ぎが起きていた。

クレス「あれは…!?」

クラース「大人しくしてろとあれほど言ったのに…!」


クレス達の視線の先にあったのは、ロープで縛りつけられたアーチェの姿だった。


アーチェ「みんな…!……ごめん、ね」

クレス「待ってください!」

エルフ「近づくな!」

クレス「!?」

エルフ「この者は禁忌を犯した!ハーフエルフはこの地に足を踏み入れてはならないという
    掟を破ったのだ!よってこれより…処刑する!」

ミント「待って!」

エルフ「やれ!」

アーチェ「――っ!」

エルフの声を合図に、剣を握ったエルフがアーチェ目掛けて振り下ろした。

92: 2014/08/04(月) 00:22:33.56 ID:azAchFZW0
ガキン!という金属音が鳴り響く。時間停止を使ったほむらがアーチェへの斬撃を
盾で阻んでいた。


エルフ「この女――!」

ほむら「…この方は、私たちの大切な仲間です。どうか見逃していただけないでしょうか?」


剣を盾で受け止めた状態のままほむらが懇願する。


エルフ「ダメだ!掟を破ったものは例外なく処刑するのが決まりだ!」

ほむら「…お願いします」

ブラムバルド「何の騒ぎだ!?」


遅れてやってきたブラムバルドが叫び、状況を確認する。


ミント「ブラムバルドさん!お願いします!アーチェさんを助けてください!」

ブラムバルド「いや…しかし…!」

エルフ「族長!掟を破った者は処分する!その決まりをお忘れではないでしょうな!?」

ブラムバルド「…!」


その様子を見ていたほむらは受けていた剣を払いのける。


エルフ「貴様――!」

ほむら「…分かったわ」

ほむら「貴方達が掟に従うのなら好きにしなさい」

ほむら「ただ…」


ほむらは両腕を大きく広げた。


ほむら「わたしはここから一歩も動かないわ」

93: 2014/08/04(月) 00:23:39.08 ID:azAchFZW0
エルフ「!?」

クラース「ほむら!」

ほむら「分かっているわ、クラースさん。ここで騒ぎを起こしてはいけないって」

ほむら「ただ、ね」

ほむら「私はもう友達を見捨てたくない。友達を見捨てるくらいなら国の一つや二つ、
    相手になってあげるわ」

アーチェ「ほむら…ちゃん」


言葉と視線で相手を威圧する。


ほむら「ただし一撃で決めることね。そうしないと…私も何をするかわからないわよ?」

エルフ「ぐ…っ!」

ほむら「ごめんなさい、みんな。本当にお別れになるかもしれないわ…。私が勝手にしたってことに
    して頂戴」

クレス「…人一人救えないのに世界を救えるわけがないじゃないか」

ミント「ほむらさんとアーチェさんを見捨てるなんてできません」

クラース「ふぅ…、世界を滅ぼす魔王を倒すために旅をするお尋ね者か。滑稽だな」

ほむら「…物好きな人たちね」

クラース「お前たちもな」

アーチェ「ごめん…なさい…」


エルフ「族長!命令を!」

ブラムバルド「……」

エルフ「族長!」

「待ってください!」


宿屋から一人の女性が飛び出て来た。ほむら達を庇うかのように前に立つ。

94: 2014/08/04(月) 00:24:24.72 ID:azAchFZW0
「この地に関係の無い人たちを巻き込むわけにはいきません!どうか…
 私が身代わりになることで、この騒ぎを収めていただけませんか…」


エルフ「なぜお前が!?…まさかこのハーフエルフ…お前の…」

ブラムバルド「もういい!」

ブラムバルド「この件、全て私が責任をもつ!この者たちを解放するんだ!」

エルフ「し、しかし族長!」

ブラムバルド「これは命令だ!いかなるものも手を出すことは許さん!いいな!」

エルフ「は、はい!」


宿屋から飛び出て来た女性はフラフラとした足取りでアーチェの元に寄り、アーチェを
力強く抱きしめた。

アーチェ「…えっ?」

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

女性は泣きながら、謝ることをただ繰り返した。



エルフ「こちらへ」


クレス達は村の出口に案内される。俯いて歩いているアーチェの後ろをほむらが歩いていた。

95: 2014/08/04(月) 00:25:06.99 ID:azAchFZW0
アーチェ「……お母さん?」


何かに気が付いたように顔をあげ、そう呟く


アーチェ「お母さん!?」


振り返り、走り出そうとしたアーチェをほむらが止める。


ほむら「どこへ行こうというの?」

アーチェ「だって!お母さんが!」

ほむら「いい加減にして」

アーチェ「……っ!?」


初めて聞いた、とても冷たいほむらの声。
動きが止まったアーチェの腕を掴み、村の外へ歩き出す。


ほむら「これ以上、迷惑をかけないで」


目を合わせないで、抑揚の無い声でそう告げる。


アーチェ「うっ…うぅぅぅぅ…」


子供のように声をだし、泣きじゃくりながらアーチェは村を後にした。

96: 2014/08/04(月) 00:26:32.59 ID:azAchFZW0
ユミルの森周辺 夜



近くの湖で汲んで来た水が大きな鍋の中で沸騰している。
ほむらは塩を適量入れ、ねじりながらパスタを放り込む。
フライパンを取り出し、火にかける。オリーブオイルを
引いて手前に傾ける。手前に溜まったオイルの中に、
包丁で潰したニンニクと鷹の爪を入れ、焦げないように揚げるように炒めていく。
熱が通ったら一度フライパンの中の物を全て移し、細長く切ったベーコンを炒める。
丁寧に一人分ずつ、茹で上がったパスタとゆで汁をフライパンに投入し、
塩コショウで味を整え、最後に移しておいたオイルを垂らして完成だ。


ほむら「お待たせ致しました。お客様」

クラース「お、できたな」


クラースは読みかけの本を閉じて地面に置き、代わりにフォークを握る。

パスタの山にフォークを突き立て、クルクルと巻き付けて口に運ぶ。


ほむら「御味の方はいかがでしょうか?」

クラース「素晴らしい。シェフを呼んでくれたまえ」

ほむら「僭越ながら…わたくしでございます」

クラース「こんなに美味しいパスタは久しぶりだ。言い値を払おう」

ほむら「そんな、私のような者が値段を付けるなど、とんでもない」

クレス「普通に食べていいかな?」

ほむら「ええ、どうぞ」


普通にフォークを持ち、普通にパスタをすくい、普通に食べる。


クレス「うん、美味しいよ」


普通の感想。

97: 2014/08/04(月) 00:27:28.84 ID:azAchFZW0
ほむら「いえいえ、ミントさんとクラースさんには敵わないけどね」

ミント「そんなことはありません。とても美味しいですよ」

ほむら「まぁ、簡単な料理だからね」

クラース「簡単な料理ほど、味の差を出すのが難しいってもんさ」


それぞれ自分のペースで食べ進めていく。が、一向に量の減らない二つの皿
があった。


クレス「食べないのかい?」

ほむら「…アーチェさんは?」

クラース「向こうにいる。…一応声はかけたんだがな」

ほむら「そう。…私は向こうで食べてくるわ」


そういい、二人分の食事を持ち歩いて行った。


クラース「やれやれ…、気を使わせてしまったな」

ミント「そう、ですね。やはり私が…」


そう言い、立ち上がろうとしたミントをクラースが止める。


クラース「ほむらはお前たちに気を使ったんだぞ?大人しくここにいるんだ」

クレス「どういうことですか?」

クラース「お前たちは親を失ってまだ日が浅いだろう」

クレス「…はぁ、ほむらちゃんは本当に凄い子ですね」

クラース「極端過ぎるがな。アーチェと2で割ってちょうどいいくらいだ」

98: 2014/08/04(月) 00:28:17.59 ID:azAchFZW0
クラース達からほんの少し離れた場所にアーチェはいた。倒れた木に腰を下ろしている。


ほむら「はい」


料理の入った皿をアーチェの目の前に差し出す。


アーチェ「…ありがと」


元気が無い声で料理を受け取り、座った状態で膝を閉じてその上に置いた。


ほむら「よいしょ」


敢えて声を出して隣に座る。


ほむら「頂きます」


アーチェの隣で軽く手を合わせて、食事を始めた。
我ながら、まぁ無難にできているんじゃないか、とほむらは思った。


ほむら「食べないの?」


手を一向につけないアーチェを見て、そう訊ねる。

99: 2014/08/04(月) 00:29:26.77 ID:azAchFZW0
アーチェ「…怒ってないの?」


アーチェは村から出る際のほむらとのやり取りを気にしていた。無論、
母親に関してもだが。


ほむら「そうね、怒ってないと言えば嘘になるわ」


少し、アーチェの身体が震えたような気がした。


アーチェ「…ごめんなさい」

ほむら「さっきも聞いたわ」


少しだけ意地悪な受け答えをする。


アーチェ「…なんでお母さんは私を置いていっちゃったんだろう」

ほむら「知らないわ。直接聞きなさい」


バッサリと切り捨てる。


アーチェ「そんな…、会えるんだったら会いたいわよ…」


少しだけ怒りの感情が入った声。


ほむら「生きていたらいつか会えるでしょう。…生きているんだからね」


アーチェはクレスとミントの話を思い出す。


アーチェ「本当に、いつか会えるかな?」

ほむら「本気で会いたいなら、上空から一気に家に突っ込んで攫うなりすればいいわ」

アーチェ「うぇ…っ、ほむらちゃん過激だね…」

ほむら「手段は選ばない派なの。ごめんなさいね」


悪びれも無く言いクルクルとフォーク回し、パスタを巻き付ける。

100: 2014/08/04(月) 00:30:23.37 ID:azAchFZW0
ほむら「ちなみに」

アーチェ「?」

ほむら「さっき私がなんで怒ったのか理由を言ってなかったわね」


ほむらは手に持ったフォークの動きを止め、アーチェを見た。


ほむら「あのまま再び村へ侵入していたら、今度こそ争いは止められなかったわ。
    …あなたの母親と私達の行動が全て無駄になっていた。」

アーチェ「うん…そうだね…ごm

ほむら「大体貴方はいつもそうなのよ。自分勝手に突っ込んで周りを巻き込んで。
    欲望に忠実すぎるのよ。もう少し冷静に物事を考えてから行動しなさい」

アーチェ「うん…だかr

ほむら「いつでも隙あらば抱き付こうとするしベッドには入り込んでくるし私の身も
    考えて頂戴。その癖自分はすぐに寝ちゃうしみんなのために用意したお菓子とかも
    一人で勝手に食べてしまうし」

アーチェ「…ってそれ今関係ないじゃん!黙って聞かなきゃって思って聞いてたけど
     途中で脱線しすぎじゃない!?」

ほむら「いいえ、あなたが自分勝手に欲望のまま行動していた事実を簡潔に述べただけよ」

アーチェ「そんなこと言って、抱き付いたり一緒に寝たりするの結構アッサリほむらちゃんが
     折れるじゃん!」

ほむら「あら、無駄なエネルギーを消費したくないだけよ?どうせ諦めてくれないってわかってるんだし」

アーチェ「そうは言ってるけど、出会って初めて一緒に寝た時、ほむらちゃんもあたしのこと抱きしめた
     ってミント言ってたよ~?」

ほむら「あ、あれはただ寝てたら勝手に抱き付いていただけよ!自分の意志じゃないわ!」

アーチェ「ほほー。無意識の内に勝手に誰かに抱き付いちゃうんだ?」

ほむら「ちがっ…!……はぁ、もうやめましょう。料理が冷めてしまうわ」

アーチェ「逃げた!」

ほむら「逃げてない!冷めて美味しくなくなったからって残したらただじゃおかないわよ」

101: 2014/08/04(月) 00:31:11.95 ID:azAchFZW0
若干顔を赤くし、ほむらには珍しく音を立てて、一気に残った料理を食べきった。


ほむら「御馳走様!早く食べてしまってね!食器が片付かないから!」


ほむらは勢いよく立ち上がり、そう言い残して足早に立ち去っていった。


アーチェ「…ありがとうね。ほむらちゃん」


面と向かって言うのが恥ずかしかったのか、立ち去ったのを確認してから
小さな声を漏らした。


アーチェ「…いただきます」


少し冷めてしまったパスタを一口すする。


アーチェ「…冷めても普通に美味しいじゃん」


そう呟き、それでもこれ以上冷めないようにペースを上げて食べる。


…が


ガリッ!と何か硬いものを噛んだ感触。それに続き口の中に広がる

唐辛子の辛味



アーチェ「!??!?!!?!???!?!?」


先程のほむらよりも勢いよく立ち上がり、駆け出す。

102: 2014/08/04(月) 00:31:53.60 ID:azAchFZW0
アーチェ「水水水水水水水!!!」

クレス「うわ!?なんだよアーチェ!?」

アーチェ「おみじゅをください!」

ほむら「…もう、何してるのよ。はい」

アーチェ「んっんっんっ…!プッハーーー!ありがと!ほむらちゃん!」

ほむら「はぁ…。……フフッ…いえいえ、どういたしまして」

クラース「結局、こうなるんだな」

ミント「ふふっ…、アーチェさんらしいです」



アーチェ「御馳走様!美味しかったよ!」


軽くお腹をさすりアーチェは続けた。


アーチェ「でもこの料理結構簡単そうだからあたしでも作れるかも!」


瞬間、四人に衝撃走る――


アーチェ「明日あたしg

クラース「お前は料理当番のサイクルに入ってないだろ!いい加減にしろ!」

アーチェ「えー、でm

ほむら「貴方はいつも美味しそうに食べてくれるから、それだけでいいのよ?」

アーチェ「いつも作ってもらってばっかでわr

ミント「そんなことありませんよ?アーチェさん?」

アーチェ「うーん」




アーチェ「まぁ、いっか♪」



ほむら「ごめんなさい。今度からもっと手の込んだ料理にするわ…」

クラース「ほむら、君は悪くない。悪くないんだ」

クレス「ほむら、自分を責めちゃだめだよ」

ミント「お願いですから、どうか元気を出してください」


慰めにいったほむらが最終的に慰められる結末。


アーチェはトラブルメーカーの称号を手に入れた。

103: 2014/08/04(月) 00:33:24.68 ID:azAchFZW0
フレイランド港


数日ぶりにこの地に降り立ったクレス達を出迎えたのは、高い青空と
ほむらの心を折ろうとする猛暑だった。


ほむら「ここは私の戦場じゃない」

クラース「行くぞ」

ほむら「はい…」



オアシス


ほむら「」

クラース「普段は本当に頼りになるんだがな…」

クレス「そうですね…。ほむら、もう少しでこの砂漠を抜ける。頑張ろう」

ほむら「すいません、ちょっと気分がすぐれないので、保健室に」

アーチェ「ほむらちゃーん、こっちの世界に戻っておいでー」

104: 2014/08/04(月) 00:34:22.89 ID:azAchFZW0
十二星座の塔


ミント「ここが、月の精霊のいる塔ですね?」

クラース「ああそうだ。ようやくルナと契約できる」

クレス「念願が叶いそうでよかったですね、クラースさん」

クラース「そうだな。…契約してくれれば、だがな」

アーチェ「よっしゃー、じゃあ突撃ー!」

ほむら「…」

ミント「ほむらさん?まだ体調が優れないのですか?」

ほむら「いえ、大丈夫…。行きましょう」

ほむら(砂漠を抜けてから…なんだか身体がダルいというか…なんか、…変な感覚)

ほむらは自分の身体の異変に気が付いていたが、原因を特定することができずにいた。



十二星座の塔 頂上


クラース「この扉の奥だな…。開けるぞ」

「ちょっと待ったー!」


どこからともなくクレス達を呼び止める声が聞こえる。周りを見渡すと一筋の光と共に
小さな精霊が現れた。


アーチェ「こんなちんちくりんなのが…ルナ?」

「ちんちくりんって言うなー!僕はアルテミス!ルナ姉ちゃんには会わせないからね!」


アルテミスと名乗った精霊は扉を開けるのを阻むように扉の前に立ちふさがる。

105: 2014/08/04(月) 00:35:08.15 ID:azAchFZW0
クラース「すまないが…、我々はルナの力が必要なんだ。会わせてもらえないか?」

アルテミス「嫌だ」

クラース「このっ…!」


クラースの申し出を即答で拒絶したアルテミス。そんな態度にクラースは珍しく
苛立った様子を前面に出した。


ミント「どうしても、ダメですか?」

アルテミス「うーん、じゃあねー!僕のお願いを一つ聞いてくれたら考えてもいいよ!」

ほむら(考えても、ね。会わせる気が無いのが見え見えだわ)

ミント「分かりました。何をすればいいのですか?」

アルテミス「そこのお兄ちゃんと誰かがキスしてよ!」

クレス「!?」

ミント「!?」

アーチェ「!?」

ほむら(はぁ…)

106: 2014/08/04(月) 00:35:58.90 ID:azAchFZW0
アルテミス「ほらー!早くー!キース!キース!」

アルテミス「後ろでずっと黙ってるぺったんこのお姉ちゃんでもいいんだよ!はーやーくー!」

ほむら「…」

クラース「その手に持ってる銃を仕舞ってくれないか」


アーチェ「もー、仕方ないなぁ」

クレス「アーチェ!?ちょ、ちょっと待ってくれ!」

ミント「そんな…!こんな形でキスするなんて…!いけません!」

アーチェ「だってー、しないとルナと会えないんでしょー?それに別に
     あたしは気にしないよ♪」

ミント「そうかもしれませんが…、それでもっ!」

アーチェ「ほらークレス早くー…んーちゅっちゅ」

クレス「待て!アーチェ待てっ!」


「アルテミス、おやめなさい」


透き通るような声。再び一条の光が降り注ぎ、クレス達の目の前に
精霊が姿を現した。

107: 2014/08/04(月) 00:37:19.83 ID:azAchFZW0
アルテミス「ルナお姉ちゃん!」

ルナ「アルテミス、あまりこの方たちを困らせてはいけません」

アルテミス「だって…」


クラース「あなたがルナ、なのだな?」

ルナ「はい、そうです」

クラース「早速で申し訳ないのだが契約していただきたい」

ルナ「この星は危機に瀕しています。…私の力が必要なのならば」

クラース「すまない、助かる」


クラースは契約の準備に取り掛かる。その様子を寂しそうな目で眺めている
アルテミスの姿があった。


ほむら(…)


クラース「契約完了だ」

クレス「一時はどうなるかと思ったよ」

アーチェ「そんなにあたしとキスするのが嫌だったんだ!?」

クレス「い、いや…、そんなわけじゃ」

ミント「ク レ ス さ ん?」

クレス「ミ、ミント!?なんでそんなに怒ってるんだい!?」


そんな問答をしているクレス達を放っておいて、クラースは契約したばかりの
指輪を天にかざした。指輪は眩しい光を放ち、ルナが現れた。

108: 2014/08/04(月) 00:37:48.28 ID:azAchFZW0
ルナ「ごめんなさいアルテミス。しばらく一人にさせてしまうけれど」

アルテミス「…うん」

ルナ「留守番、頼みましたよ?」

アルテミス「…分かった」

ルナ「ありがとう。それでは行きましょうか」



一行が来た道を引き返そうとしたとき、ほむらが立ち止った。


アーチェ「どしたの?ほむらちゃん」

ほむら「ごめんなさい、忘れ物をしたわ。先に行ってて頂戴」

クラース「全く…、すぐに追ってくるんだぞ?」

ほむら「ええ、じゃあちょっと行ってくるわ」


そういいほむらは振り返って歩き出した。


アーチェ「忘れ物ってなんだろ?」

クラース「…いいから降りるぞ」



アルテミス「…お姉ちゃん」


一人残されたアルテミスは落ち込むように俯いていた。

109: 2014/08/04(月) 00:38:26.03 ID:azAchFZW0
ほむら「あら、さっきまではあんなに元気だったのにどうしたのかしら?」

アルテミス「!?」

アルテミス「な、何しに来たんだよ!?」

ほむら「さっきからかわれたお返しをしようと思ってね」


ほむらはゆったりとした歩調でアルテミスに近づいた。


アルテミス「な、なんだよ!く、来るなよ!」


そんな呼びかけを無視してほむらは近づく。そしてアルテミスまであと一歩という
距離まで近づき、ほむらは手を伸ばしアルテミスの頭を優しく撫でた。


アルテミス「…えっ」


ほむらが手を伸ばしたのを見て思わず目を閉じたアルテミスは予想外の行動に
戸惑い、恐る恐る目を開いてほむらを見た。


ほむら「ごめんなさい。少しお姉さんを借りていくわね」


ほむらは少し、申し訳なさそうに笑っていた。


アルテミス「だって…!だって仕方ないじゃん!お姉ちゃんの力が必要なんだろ!?」

ほむら「ええ、私達にはどうしてもルナの力が必要なの」

ほむら「一人ぼっちにさせて、ごめんね」

ほむら「一人ぼっちは寂しいでしょう?」

110: 2014/08/04(月) 00:39:05.24 ID:azAchFZW0
アルテミス「…っ!」

ほむら「でもね、ルナは絶対あなたのところに帰ってくるから。…それまで待ってあげていて」

アルテミス「…うん」

ほむら「自分の帰る所で誰かが待ってくれているというのはとても嬉しいことなの」

アルテミス「嬉しい…?」

ほむら「ええ、そうよ。…ルナが帰ってきたときは笑顔で迎えてあげてね」

アルテミス「…分かった!」

ほむら「ふふっ…、いい子ね」


先程までの笑顔とは違い、優しくほむらは笑ってアルテミスの頭を撫でた。


アルテミス「お姉ちゃんいい人だね!おっOいは小さいけど」


ほむらの笑顔が消えた。


先程までの優しい手つきも動きを変え、アルテミスの頭を潰すかのように
掴んだ。


アルテミス「…あれれ?」

ほむら「ルナが帰ってくるまでの宿題よ」


アルテミスが見たのは


ほむら「女性の扱い方を覚えておきなさい?」


見たもの全てを震え上がらせる、そんな笑顔だった。

111: 2014/08/04(月) 00:39:58.51 ID:azAchFZW0
十二星座の塔付近の森


クレス「ハッ!」

ほむら「…!」


クレスは覇気の篭った声出す、と同時に手に持った剣を地面と水平に滑らせる
ように薙ぎ払う。
ほむらはその攻撃を最小限の動きでかわし、攻撃したクレスのがら空きになった
脇腹目掛け、体重を乗せた蹴りを放つ。


クレス「ぐあっ!」


ほむらの蹴りはクレスの身体にめり込むように刺さる。クレスの身体が少し浮き上がる。
ほむらは攻撃の手を緩めず、拳を握った右手をクレスの顎を射抜くように打ちだす。


クレス「!?」


それを見たクレスは咄嗟に左腕の腕当てで受け止めようとした。
しかし、ほむらは握った拳の力を緩め、クレスの腕を掴む。

ほむら「掴まえたわ」

クレス「しまっ…!」


腕を掴んだと同時に、流れるような動きでクレスの懐に入りこむ。
ほむらが足でクレスの足を払う。バランスを崩し、更にほむらは腰を密着させ
両腕でクレスの腕を掴み直し、そのまま地面に叩き付けるように投げ飛ばす。

112: 2014/08/04(月) 00:40:35.79 ID:azAchFZW0
クレス「…っ!」


背中から地面に叩きつけられたクレス。その手から離れた剣が地面に転がる。


クレス「…まだ…っ


言い切る隙も与えず、立ち上がろうとしたクレスの頭部にほむらは銃口を突きつけた。


クレス「…参りました」

ほむら「はい。お疲れ様でした」


ほむらは終わりを告げ、手早く銃を盾の中に仕舞う。


クレス「一本も取れないなんて…」


実戦形式の訓練を五本、全てほむらがクレスを圧倒した。


ほむら「相性の問題もあるわ。それにクレスさんは実戦向きよ」


いつもの仕草で髪をかき上げながらそうフォローする。


クレス「…そう、かな……」


どうやらほむらが思っている以上に凹んでしまったようだ。

元々これはクレスからほむらに願い出た訓練だった。ほむらは『私でいいなら』と
快く了承した。


ほむら「上から目線で申し訳ないけど、アドバイスするなら貴方は少し素直すぎるわ」

113: 2014/08/04(月) 00:41:36.71 ID:azAchFZW0
狙っているだろう、と予測した場所に攻撃がくる。こちらのフェイクに引っかかる。
釣り目的の行動に釣られる。そんなシーンが訓練の中で多々見られた。


ほむら「多人数同士の戦いと、一対一の戦いは全く違うわ。まあそこは経験を重ねて
    身体で覚えるしかないと思うけど」

クレス「何事も経験、か…」


ほむら「それに…」

クレス「…それに?」

ほむら「いえ、何でもないわ。…そろそろ戻りましょう。夕食ができている頃合いよ」



クラース「で、どうだったんだ?」


クラースは酒の注がれたグラスを片手にクレスに聞いた。


クレス「五連敗…、一本も取れませんでした」


用意された食事に全く手を伸ばさずに答える。


クラース「完敗か。…まあいい経験になっただろう」

アーチェ「ってかほむらちゃん強すぎない?」

ほむら「そんなこと無いわよ?敵わない相手はいくらでもいるわ」


ほむらは、パンを一口サイズにちぎりながら淡々と述べる。

114: 2014/08/04(月) 00:42:24.56 ID:azAchFZW0
アーチェ「うーん、想像できないなー。ほむらちゃんが負けてるとこなんて」


素直に自分の思ったことを口に出し、鶏のローストにかじりついた。


ほむら「…勝てない相手が居るからこそ、ずっと繰り返しているわけだしね」


ほむらの食事の手が止まる。


アーチェ「あ、ご、ごめんね!思い出させるようなこと言っちゃって!」

ほむら「大丈夫よ、事実だから。けど…次は必ず勝ってみせる」

クラース「ワルプルギスの夜…か」

アーチェ「この五人が揃っていたらどうなるかな?」

ほむら「どうでしょうね…。ただ、向こうにはマナが無いわけだし
    いい方向に転ぶとは考えにくいわね」

アーチェ「そっかぁ…」

ほむら「……」


ほむらは無言でスープに一口すする。しかしそれ以上は食事を続けようとせず、
スプーンを置いた。


ほむら「…御馳走様」

ミント「もうよろしいのですか?味付けが変だったでしょうか?」


作ったミントが心配そうにほむらに話しかける。

115: 2014/08/04(月) 00:43:22.19 ID:azAchFZW0
ほむら「いえ、美味しかったわ。…ただ最近あんまり食欲が無くて」

クラース「フレイランドを抜けた辺りから、だろう?」

ほむら「…そうね」

クレス「まだ、体調が戻ってないのかい?」

ほむら「わからない…、でも万全とはいえないわね」

クラース「何か心当たりでも無いのか?」

ほむら「さっぱりね…。……少し風に当たってくるわ」


そう言い残し、ほむらは去って行った。


クレス「心配ですね」

ミント「旅の疲れが溜まっているのでしょうか」

クラース「かもな…。だが冷たく聞こえるかもしれんがなんとかしてもらわんといかん。
     明日にはミッドガルズに到着する。…そして近いうちに決戦だ」

アーチェ「…」



ほむらは見晴らしのいい丘に佇んでいた。時折、自分の身体の状態を確認するかのように
手を握ったり開いたり、足首をほぐすように回す。

ほむら(すぐそこに大事な戦いが控えているというのに…、この身体を襲う猛烈な怠惰感は何?)


最近ほむらは突発的に襲ってくる身体のダルさ、脱力感に悩まされていた。


ほむら(クラースさんの言った通り、フレイランドを抜けた辺りから明らかにおかしくなった)

ほむら(何か変な病気とかじゃないといいんだけど…)

アーチェ「ほーむらちゃん」

116: 2014/08/04(月) 00:44:19.20 ID:azAchFZW0
後ろからアーチェが声をかけてきた。その手にはマグカップが二つ握られている。


アーチェ「ほい、ココアだよ。疲れたときは甘いもの!ってね」


ニシシ、と笑いながらほむらに手渡す。


ほむら「ありがとう、いただくわ」


ほむらはマグカップを受け取る。二人は地面に腰を下ろした。


アーチェ「ほむらちゃん、大丈夫?」

ほむら「戦えないわけでは無いわ」

アーチェ「でも無理はしちゃダメだよ?」

ほむら「わかっているわ。でも、次はとても大事な戦いだから」

アーチェ「そうだよね…」


ココアをすする。甘い香りと味が口いっぱいに広がる。完全にアーチェの好みの味だった。


ほむら「…甘すぎない?」

アーチェ「甘い方が疲れに効くんじゃないかなー、っと」

ほむら「私は苦いほうが好みだわ」

アーチェ「文句言うなら返せー!」

ほむら「嫌よ。もう貰ったからこれは私の物よ」


こんなやり取りをしている内は身体の不調も吹っ飛んでいるような錯覚さえ覚える。

117: 2014/08/04(月) 00:45:00.94 ID:azAchFZW0
アーチェ「このあたりってさ」

ほむら「?」


アーチェが急に話を切り替える。どうやらこっちが本命らしい。


アーチェ「少し、息苦しいっていうか、空気が薄く感じない?」

ほむら「…いいたいことはわかるわ」


ほむらも感じていたことだった。平地なのに、息苦しい。そんな感覚。


ほむら「こんな変な感覚、今まで感じたこと無かったわ」

アーチェ「なんなんだろうね、これ」

アーチェ「瘴気が濃いのかな、って思ったんだけど…他の三人は特に何もなさそうだし」

ほむら「私とアーチェさんだけ…」


マグカップに口を付ける。やっぱり甘い、全部飲み干せるか少し心配になってきた。


アーチェ「まー!でも!」


叫ぶように声を出し、アーチェは立ち上がった。


アーチェ「なんとかなるっしょ!今までもなんとかなったし!」

ほむら「そうね…。なんとかしないとね」

アーチェ「そういうことだね!っと」

アーチェ「じゃああたしは寝るね!夜更かしはお肌の敵なのだ!ほむらちゃんも
     早く寝なよ!」

ほむら「ええ、わかってるわ…。おやすみなさい」

ほむら(早く寝たいけど、まずはこれを飲み切らないと…)


アーチェのおかげで、ほむらの睡眠時間は刻一刻と削られていく。

118: 2014/08/04(月) 00:46:48.15 ID:azAchFZW0
ミッドガルズ


対ダオス軍との最前線に位置する国。人口こそ多いが、アルヴァニスタに住む人々のように
明るい空気はなく、重く、硬い空気が国中に漂っていた。


ミント「これが戦争中の国、なのですね」

クラース「そうだな。大きな争いこそまだないが、小競り合いが頻繁に起きている。
     神経がすり減っているんだろうさ」

クレス「でも、もうすぐ大きな争いが起こる…」

クラース「そうだな。我々はその為にここに来たんだ」

ほむら「うっ…」


突然、ほむらに襲い掛かる立ちくらみのような脱力感。思わずフらついてしまう。


クラース「大丈夫か?ほむら」

ほむら「…大丈夫、落ち着いたわ」

クラース「…」

クラース(一向に改善する気配がない。むしろ悪化している…。これ以上悪化するようならば…)


クラースは最悪の事態を備え、それに対する案を練っていた。

119: 2014/08/04(月) 00:47:32.73 ID:azAchFZW0
クレス「…!?」


急にクレスが頭をおさえ、その場に立ち尽くす。


クラース「おいおいクレス、お前もか?流行り病かなんかじゃないだろうな」

クレス「…いえ、大丈夫です」


「お前たち!来てくれたか!」


城門に近づいた時、向こうから声をかけてくる人影があった。



クラース「モリスン殿!」

モリスン「待っていたぞ。ミッドガルズ王がお前たちに会いたいと言っている。
     頼めるか?」

クラース「構わないが、一人休ませたい仲間がいる」

モリスン「体調でも崩したのか?」

クラース「…そんなところだ」

ほむら「…わたしなら大丈夫よ」

クラース「駄目だ。ほむら、お前は休んでいろ。少しでも体調を戻すのが最優先だ」

ほむら「…分かったわ」

モリスン「兵に案内させよう。…こっちに」

ほむら「ごめんなさい」

クラース「構わん。戦闘時にお前がいるいないで大きく話が変わってくる」

アーチェ「じゃあほむらちゃん、後でね」

クレス「謁見が終わったら迎えに行くよ」

ミント「すこし待っていてくださいね」

ほむら「ええ、わかったわ」

衛兵「それでは、どうぞこちらへ」

120: 2014/08/04(月) 00:48:10.73 ID:azAchFZW0
ほむらは通された客室のベッドに寝転び、天井を見上げていた。


ほむら(病室と自宅の天井を見慣れ過ぎたせいか、やっぱり違和感があるわね)


ボンヤリそんなことを考えていた。

左手を天井に向けて、伸ばす。手の甲のソウルジェムを見つめる。
少し穢れが溜まっていた。


ほむら(やはり…、自然回復の速度が落ちてる。息苦しく感じる理由もこれかしらね)


ほむらはこの一体のマナが薄いんじゃないかと考えていた。
マナのおかげでソウルジェムの穢れが自然に浄化される。そして今、
その浄化の速度が明らかに遅くなっていた。

121: 2014/08/04(月) 00:49:04.52 ID:azAchFZW0
ほむら(何か原因があるんでしょうね…。この周辺だけマナが薄い原因が)


コンコン、と扉をノックする音が耳に入る。ほむらは『どうぞ』と声を返した。


ミント「お待たせいたしました」

アーチェ「いい子でお留守番してたかな!?」


どうやら謁見が終わったらしい。四人が迎えに来てくれた。


ほむら「ええ。いい子にしてたからご褒美でも頂戴」

アーチェ「それじゃああたしの熱い抱擁でも!」

ほむら「ご褒美が欲しいって言ってるの」


飛びつき、抱き付こうとするアーチェを右手一本で止める。


ほむらの右手に抵抗するようにもがくアーチェを尻目にほむらがクラース
に向かって質問した。


ほむら「で、これからどうするの?」

クラース「あぁ、これからなんだが」


クラースがこれからのことを説明しようとしたその時、

ほむらの右手がダラリ、と下がり

前のめりに倒れこみ、苦しみ始めた。

122: 2014/08/04(月) 00:50:02.83 ID:azAchFZW0
――同時刻


研究員「それでは、第二十一次魔導砲稼働テストを開始します」

ライゼン「よろしい」

研究員「今回は、何%に設定しますか?」

ライゼン「50%だ」

研究員「了解しました。それではエネルギー充填開始します」





ほむら「あぁぁぁぁぁぁ…!」


突然苦しみだすほむらを目の前にし、激しく動揺する4人。しかし、アーチェにも
同じく異変が起きていた。

アーチェ「うぅ…」


アーチェはふらつく身体を壁に押し付け、倒れるのを拒絶する。


クラース「ほむら!アーチェ!どうした!くそっ!なんなんだ一体!」

ミント「二人とも!しっかりしてください!」

アーチェ「あたしは大丈夫…それよりもほむらちゃんを…!」

クレス「衛兵!近くに医者はいないか!?」



ほむら「ぐっ…!…はっ!…あああぁああぁぁあ!」

ほむら(苦…しい……力が…抜けて…)

123: 2014/08/04(月) 00:50:45.04 ID:azAchFZW0
研究員「エネルギー充填、50%を確認」

ライゼン「よろしい。それでは充填したエネルギーを解放しろ。実験は成功とする」

研究員「了解、エネルギー解放。魔導砲システム停止、これにて第二十一次魔導砲稼働テスト
    を終了します」

ライゼン「開戦までに80%までは試しておきたがったがやむをえんな」

研究員「ええ。…ですが今の出力でもかなりの威力が見込まれます」

ライゼン「そうだな。…ダオスなど恐れるに足らん。勝つのは我々、人間だ」





ほむら「ハァハァ…ッ!ハァ…ッ!」

ミント「ほむらさん!ほむらさん!」

ほむら「ぐぅ…っ!…だ、大…丈、夫…」


気力を振り絞り、そう声を出したがそのまま意識を失った。


ミント「ほむらさん!?」

クラース「とりあえずベッドに運ぶぞ!」


その時、衛兵が部屋に駆け込んでくる。

124: 2014/08/04(月) 00:51:25.90 ID:azAchFZW0
衛兵「失礼します!」

クラース「どうした!?すまないが今少々立て込んで…

衛兵「ま、魔物が城内に!」

クレス「!? なんだって!?」

アーチェ「なんでこんな時に…!」

クラース「…、衛兵!この子に医者を頼む!お前たち行くぞ!」

ミント「し、しかしほむらさんが!」

クラース「放っておけば国中パニックになる!ほむらも気になるが…!」

ミント「…わかり、ました」

クレス「アーチェ、君は…」

アーチェ「あたしも行くよ」


クレスの意見を遮るようにハッキリと告げる。


アーチェ「騒がしいとほむらちゃんがゆっくり寝れないからね」

クレス「…わかった」



そして、四人は歴史の変わる瞬間を目撃する。
ほむらもまた、本来なら交わるはずの無い歴史に立ち会うこととなる。

125: 2014/08/04(月) 00:52:02.99 ID:azAchFZW0
ほむら(…こ…こ……は?)

目を覚ましたほむらが目にしたのは見慣れぬ天井であった。
だが、すぐに状況を理解する。


ほむら(そうだ…、急に苦しくなって…それから…)


周りを見渡す。部屋には自分しかいない。

ベッドから身を起こすが身体に力が上手く入らない。
それでもなんとか立ち上がり、身体を引きずるように扉を開けた。


衛兵「!? お気づきになられましたか」


扉の前にいた衛兵は驚き、声を上げた。


ほむら「ええ…。他のみんなは?」

衛兵「只今緊急の会議に出席しておられるようです」

ほむら「そう…」

衛兵「お言葉ですがあまり動き回られない方がよろしいかと…。
   それに先程賊が侵入したとの情報も入っております。
   お部屋でお待ちください」

ほむら「わかったわ…ありがとう」


ほむらはそういい、扉をしめ再び身体を引き摺るようにベッドに戻った。

126: 2014/08/04(月) 00:52:41.78 ID:azAchFZW0
ほむら(気を失っている間に何か起きたようね…。それも、かなり重大なことが)

ほむら(それに…あの身体中の力を吸い尽くされるような…あれは一体…)


コンコン、とノックする音が聞こえた。扉とは真逆の方向にある、窓から。

思わずほむらは振り返る。こちらの応対を待たず、窓が開かれ誰かが飛び込んできた。


「すまない、少しかくまってくれ」


とてもすまなさそうに聞こえない言い方で部屋に飛び込んでくる。着地したとき、
全身から金属音が鳴る音が聞こえた。


ほむら(…全身に武器でも仕込んでいるのかしら)


ほむら部屋に飛び込んできた人物に目をやる。
長い金髪を揺らし、全身黒いレザースーツのようなものを着用している。
所々金属を仕込んでいるようだ。
なにより特徴的なのは、とても冷たい、冷徹さを物語る目だった。


ほむら「あなたが侵入した賊?」

「そうだ」

ほむら「一体あなたは何をしたのかしら?」

「どうやら国家反逆の罪、らしい」


自分でも分かっていないと言いたげな言葉遣いをしてきた。

127: 2014/08/04(月) 00:53:31.07 ID:azAchFZW0
ほむら「あら、大罪人じゃない」

「…なぜそんな平静なんだ?」

ほむら「一人で暇だったのよ」


余裕を覗えるほむらの反応に少し疑問を抱いた侵入者。そんな侵入者を
嘲笑うかのようにさらに言葉を続けた。


ほむら「ちょっと置いていかれてしまってね。まぁ座って頂戴。どうせ扉の
    外にも衛兵がいるわ」

「なぜかくまう?」

ほむら「? かくまって、って言ってきたのは貴方の方よ?」

「チッ…、お前は一体何者なんだ?」

ほむら「この国の王の娘よ。病弱なものでいつもベッドの上にいるの」

「ふん、…お前のような娘がいたら多少はこの国もマシになってただろうさ」

ほむら「お褒めの言葉、有り難く頂戴いたしますわ」


ふざけるように会話を重ねていく。


ほむら「貴方は…」


そこまで言葉を発したとき、今度はちゃんと扉のほうからノックの音が聞こえた。


クレス「ほむら?起きているかい?」

ほむら(…!)


咄嗟に時間を停止させ、侵入者に触れる。触れた瞬間に侵入者は時を取り戻す。


「!? これは一体!?」


急な出来事に流石に驚きを隠せない侵入者をよそに、ほむらは早口で説明する。


ほむら「余裕がないから手短に…、今外にいるのは私の仲間よ。もし他の誰かの目に
    つきたくないのなら私に触れたままベッドの下に隠れなさい。見られてもいい
    のならそのまま動かないで。3秒あげるわ」


一瞬考え、言われたとおりにほむらに触れたままベッドの下に隠れる侵入者。


隠れたのを確認し、自分は布団に入り込む。時間停止を解除する。


ほむら「…ええ」


今目が覚めたかのように振舞い、クレス達を部屋に呼び込んだ。

128: 2014/08/04(月) 00:54:18.59 ID:azAchFZW0
ほむら「…モリスンさんが!?」

クラース「あぁ、我々の目の前で…」

ほむら「くっ…!」

クラース「ほむら、君が今考えたことを当てよう。『私がいなかったせいで』…だろ」

ほむら「…」

クラース「あまり自分ばっかり責めるな。目の前にいて何もできなかった我々の責任の方が大きい」

ほむら「でも…」

クラース「とりあえず気持ちを切り替えるしかない。その為にほむらを一人にまで会議に出席してきたんだ」

ほむら「…これからどうするの?」

クラース「私はもうすぐ開かれる会議に参加しないといけない。そこで全てが決まるだろう」

ほむら「会議の結果待ち、ってことね」

クラース「そうなる。…お前たちは少し休んでおくといい」

クレス「…どうなってしまうんでしょうか」

クラース「…。さぁな。なるようにしかならんさ」

クレス「歴史が変わってしまった。…もう先が読めない」


クレスが思わず漏らした言葉に栓をするようにクラースは立ち上がる。


クラース「さて、私は会議の前に少しでも腹に何か入れておく。ついでだから
     お前らもついてこい」

アーチェ「え、でもほむらちゃんが」

ほむら「私はまだ食欲が無いから…、みんなで食べてきて」

クラース「ほむらもああ言ってることだし、ほら行くぞ」


半ば強引にクレス、アーチェ、ミントを部屋の外に連れ出し扉を
閉めようとするクラースがほむらに一言声をかけた。


クラース「ほむら、野良猫を部屋に入れるのは構わんがばれないようにしろよ」


そう言い残しクラースは部屋を出て行った。

130: 2014/08/04(月) 00:54:58.96 ID:azAchFZW0
ほむら「…らしいわ、野良猫さん?」


「…ふん」


不満そうにベッドの下から姿を現す。


「…歴史が変わったとはどういうことだ?」

ほむら「秘密よ。そこは教えられないわ」

「…」

ほむら「それより貴方、わざわざなんで城内に侵入したの?」

「人の質問には答えずに質問するのか」

ほむら「かくまってあげた料金を請求しているだけよ」

「…この国には触っちゃいけない玩具がある。それを探していた」

ほむら「玩具?」

「そうだ。あれは人の手には余る」

ほむら「詳しくは教えてもらえないのかしら?」

「妥当な料金だ。これ以上は言えないね」

ほむら「はぁ…、随分ふんだくるのね」


やれやれ、といった感じでほむらは首をふる。

131: 2014/08/04(月) 00:55:39.85 ID:azAchFZW0
「…長居しすぎたな」


侵入者はそう言い窓に近寄った。


ほむら「貴方、名前は?」


出ていこうと開いた窓枠に足をかけた姿で少し動きが止まる。


「…ウィノナ・ピックフォード」

ほむら「ウィノナさんね。私は暁美ほむらよ。縁があったらまた会いましょう」

ウィノナ「…邪魔したな」


ほむらの言葉を無視してウィノナは飛び降りていった。


ほむら「つれないわね…」


ほむらはしばらく、ウィノナが出て行った開いたままの窓を見つめていた。

132: 2014/08/04(月) 01:00:03.43 ID:azAchFZW0
今回一週間分まとめて投下してみました。ほぼ自分の記憶だけで書いたので
食い違う点やおかしい所、口調が違うor安定していないなど多々お見苦しい点
があるかもしれません。

一応未来編直前まで書き溜めはありますがまた来週末頃投下したいと思っています。

見てくださった方ありがとうございました。

133: 2014/08/04(月) 01:02:29.33 ID:qTyR8+9co

続きが楽しみすぎる

134: 2014/08/04(月) 01:31:59.12 ID:ldY5gmNs0
クレスが「昔チェスターとあんまり仲良くなかった」って語ってる辺りとか、
超マイナーな外伝キャラのウィノナが登場するとか、
この>>1は相当のテイルズおたくだな!
素晴らしい。

135: 2014/08/04(月) 01:49:47.15 ID:Gl/hIzZi0
乙。ファンタジアもまどマギも好きだから期待。

でも本当にほむらマンセー過ぎてほむら厨の俺も苦笑いしたわwww
近接戦闘でクレスを圧倒するとか強設定すぎだろwww

136: 2014/08/04(月) 05:17:02.17 ID:5oilrBWxo
確かにやり過ぎな感はあるけど
でも魔法少女の身体スペック的には圧倒できてもそれほど不思議な話ではない気もするんだよなあ
この時点じゃまだ時空剣技も持って無いし

引用: ほむら「夢は終わらない」