38: 2012/10/06(土) 15:11:32 ID:0gWkISZ.

 勇者「いつか運命が変わるまで」


勇者「おーっす、来たぜ魔王」

魔王「おーう。なんだ、今回も一人か?」

勇者「めんどくせぇもんよ」

魔王「せめて可愛い女の子くらい連れて来いよ。できればボインの」

勇者「そう言うなって。ほら土産」

魔王「おっ、酒か!」

勇者「地元の地ワインだよ。これがまたここいらの魚とよく合うんだ。うんまいぞー?」

魔王「そいつはナイスタイミング。ちょうど今日釣りに行ってきた所だ」

勇者「お前の場合は漁の間違いだろ」

魔王「竿使うと何故か釣れねーんだよ……海割ったほうが早いし」

勇者「そんな理由でホイホイ割るな、馬鹿」

39: 2012/10/06(土) 15:12:35 ID:0gWkISZ.

勇者「他のやつらは?」

魔王「全員引っ込んで……ああいや、メイドだけ残ってる」

勇者「あの人の献身っぷりハンパないよな」

魔王「重宝してるよ。ただ、労おうとすると何故か怒るんだよなぁ」

勇者「ハイスペックかつ疲れ知らずで献身的、なんという高性能」

魔王「しかも美人っていう。あの子を嫁にできたら最高だろうなぁ」

勇者「いっそプロポーズでもしてみたらどうだ?」

魔王「遠回しに断られました」

勇者「やったことあんのかよ」

40: 2012/10/06(土) 15:13:40 ID:0gWkISZ.

魔王「まあ、積もる話は後にしてとりあえず上がれや」

勇者「おう。お邪魔しますよっとー」

魔王「はいはいー。メイドぉ!勇者来たぞぉ!」


  ・ ・ ・


魔王「で、人間界の調子はどうだ?」

勇者「相変わらずって感じだな。悪いことは魔物のせいにしたり、人間同士で戦争したり」

勇者「ああ、そういや南西大陸の端っこの国がひとつ滅びたな、結構前に」

魔王「そりゃご愁傷様だな。なんでだ?」

勇者「疫病かなんからしい。けど、怪しい実験をしてたとか悪魔を召喚したとか色々テキトーな噂が流れまくってる」

勇者「事実を知らないやつらの大半は魔物のせいだと思ってるみたいだな」

41: 2012/10/06(土) 15:14:20 ID:0gWkISZ.

魔王「事実を知ってるやつらは?」

勇者「魔王が疫病を起こして潰したと思ってる」

魔王「誓って言うが、俺は無関係だ」

勇者「だろうな。ま、誰かのせいにしねーと理不尽に耐えらんねんだよ、人間ってのは」

魔王「それこそ一番厄介な病気に思えるな」

勇者「極端なやつが多いからな。なあなあでやってけるやつなんて実際は珍しいんだよ」

魔王「はーん。まあよく考えりゃ、一部を全体と比較すれば少数派になるのは当然ってことか」

勇者「そういうこったな」

43: 2012/10/06(土) 15:18:42 ID:0gWkISZ.

勇者「メイドさんの手作りクッキー……食うの久々だなぁ」

魔王「段々レシピが増えてきてるんだが、最終的にはやっぱこの辺りに戻ってくるんだよな」

勇者「シンプル・イズ・ベストってやつか。紅茶によく合うわ」

魔王「何よりこの辺りはいい小麦が育つ上に野生化した家畜も多いだろ?」

勇者「なるほど、材料が天然で揃ってるわけね」

魔王「特に北の平原にいる山羊のミルクがまた格別なんだこれが」

魔王「飲んでもよし、バターにするもよし、チーズにするもよし」

魔王「特にシチューに入れるとまろみが断然違うんだよ」

勇者「そりゃたまんねえなぁ。今日作れねえか?」

メイド「御希望でしたら御用意させて頂きます」

魔王「あ、ならパンは焼きたてがいいな」

魔王「というか、この際城の食材好きに使っていいから、思いっきり贅沢なディナーを頼むよ」

メイド「畏まりました」

44: 2012/10/06(土) 15:19:27 ID:0gWkISZ.

勇者「メイドさんは一緒に食べないのか?」

メイド「申し訳ありません、私は……」

魔王「あぁ、もうそんな時間か」

勇者「そうか、残念だな。もっと早く来りゃ良かった」

メイド「勿体無い御言葉です」

魔王「……お疲れ様」

勇者「そうだな、お疲れ様」

メイド「…………はい。それでは」

魔王「うん、また」

メイド「はい、また」


勇者「……行っちまったな」

魔王「これで俺達だけか。寂しくなるね」

勇者「ああ」

45: 2012/10/06(土) 15:20:35 ID:0gWkISZ.

勇者「乾杯するか」

魔王「何に?」

勇者「運命に」

魔王「そりゃいい、皮肉が利いてる」

勇者「注ぐよ」

魔王「さんきゅ。……俺からも」

勇者「おう」

魔王「じゃ。俺達の運命に」

「「乾杯」」

46: 2012/10/06(土) 15:21:14 ID:0gWkISZ.

魔王「染みるねぇ」
勇者「ワインでその表現はおかしくね?」

魔王「そうか?」

勇者「知らんけど」

魔王「でもなんていうか、懐かしい香りがするよ」

勇者「変わっていくものばかりでも、変わらないものだって確かにあるもんさ」

魔王「勇者から見て世界は変わったか?」

勇者「小さく見れば。けど、大きく見たらやっぱ変わらねえよ」

魔王「そうか……なんか切ないな」

勇者「俺は慣れちまったよ。諦めたわけじゃねえがな」

魔王「ははっ、うん、お前が一番変わってない気がするわ」

勇者「そうか?」

魔王「そうさ」

47: 2012/10/06(土) 15:22:51 ID:0gWkISZ.

勇者「ここに来るまでに世界中回ったけど、差別も争いもなくならねえもんだな」

魔王「人間に限ったことじゃないさ。単純に母数が大きすぎるから目立つだけでね」

勇者「さっきも言ってたな、それ」

魔王「蟻を除けば地上で一番多いんじゃないか?」

勇者「数えたわけじゃねえからわかんねえ。今度女神にでも聞いてみるか」

魔王「彼女達も万能なわけじゃないから、案外わからないかも知れないけどな」

勇者「ま、万能だったら俺達はとうにお役御免だわな」

魔王「そういうこと」

49: 2012/10/06(土) 15:24:29 ID:0gWkISZ.

勇者「御馳走様。メイドさんにうまかったって伝えといてくれ」

魔王「ああ」

勇者「……少し歩くか」

魔王「ならいい場所があるぞ。火山活動でできた丘なんだが、余計な物がなくて辺りが一望できるんだ」

勇者「そりゃあいい、案内してくれ」


  ・ ・ ・


勇者「…………すげぇな」

魔王「俺のお気に入りでね。人間も動物も近付かない場所だから、静かなもんだよ」

勇者「見渡す限り星空か。月明かりが眩しいな」

魔王「あと百年もしたら、この辺りも森になるのかも知れないが」

勇者「百年か……あっという間だな」

魔王「そうだな。俺達にとっては、短いな」

50: 2012/10/06(土) 15:25:39 ID:0gWkISZ.

勇者「……そろそろ、始めるか」

魔王「ああ……」

勇者「なあ魔王。俺な、少し考えたことがあるんだよ」

魔王「なんだ?」

勇者「結局俺達二人で出来ることには限界がある。けど誰かの力を借りれば、もしかしたら何か変わるかもしれない、って」

魔王「可能性ってやつか」

勇者「そう、あくまで可能性」

魔王「でも」

勇者「試してみる価値は、ある」

51: 2012/10/06(土) 15:26:24 ID:0gWkISZ.

   :
   :
   :

魔王「ありがとう、勇者」

勇者「…………なあ、魔王」

魔王「なんだ?」

勇者「俺は、絶対に諦めねえから」

魔王「……ああ。信じてる」

勇者「それじゃあ、また」

魔王「うん、また」

52: 2012/10/06(土) 15:26:46 ID:0gWkISZ.



魔王「百年後で待ってるよ」


_

53: 2012/10/06(土) 15:27:20 ID:0gWkISZ.

 歴史は繰り返す。

 勇者は魔王を討ち倒し、世界は歓喜に揺れ、人々は剣を置いた。

 何百年、何千年、あるいは何万年、

 幾度となく繰り返される、魔王と勇者の物語。

少女「それからどうなったの?」

老兵「その先は歴史の通りさ。平和の中で欲を出した愚かな王が剣を抜き、人はまた人との争いを始めてしまった」

老兵「いつかはここも戦場になるだろう。悲しいことにね」

少女「……よくわかんない」

老兵「知っていてくれれば十分さ。今はまだその時じゃない」

54: 2012/10/06(土) 15:28:34 ID:0gWkISZ.

老兵「だが、その時が来て」

老兵「君がまだ、彼等を覚えていたならば」

老兵「どうか伝えていってほしい。何を思い、何をしてきたのか」

少女「うー……?」

老兵「さ、もう行きなさい。御両親が心配するよ」

少女「うん。おじいちゃん、またね」

老兵「……ああ、また」

55: 2012/10/06(土) 15:29:36 ID:0gWkISZ.



「次はまた、来世で会おう」



 ―――
 ――
 ―

騎士「勇者殿の旅への同行を志願致しました、騎士であります。お会いできて光栄です」

勇者「そう堅苦しくならなくていいよ」

騎士「は」

勇者「一緒に行く前にひとつ訊いておきたい。返答によってはここで帰ってもらうが、いいか?」

騎士「なんなりと」

勇者「君はどうして志願したんだ?」

56: 2012/10/06(土) 15:30:13 ID:0gWkISZ.

騎士「…………」

騎士「答えになるかはわかりませんが、祖母から、勇者殿へ伝言です」

勇者「!」

騎士「貴方の願いが叶いますように、と」

勇者「っ、はは、そうか……そうか…………」

勇者「……よし。わかった」

勇者「一緒に行こう。力を貸してくれ」

騎士「喜んで!」


 魔族の王と、人々の英雄。

 彼等の周りに新たな仲間が集い、その運命が大きく変わるのは、

 まだ少し、先の話。



 続く

57: 2012/10/06(土) 15:30:56 ID:0gWkISZ.
終わりです
途中電波がなくなって焦った

71: 2012/10/06(土) 19:07:16 ID:0gWkISZ.
めんどくせえwww可愛いwww
ヤンデレ大好きだが俺が書くと怖いだけになる……

83: 2012/10/06(土) 20:53:41 ID:0gWkISZ.

少年期はあかん泣く

引用: 【オリジナル】SS深夜秋の短編祭【部門1】