106: 2012/10/20(土) 01:05:32 ID:Ng1oGDWA


ほむら「…はぁ、はぁ、はぁ…」

ほむら「今夜は魔獣が、一際多いわね…」

キュゥべえ「そうだね、確かにいつもより瘴気が濃い」

キュゥべえ「…ひと月ほど前にも、似たような夜があったっけ」

キュゥべえ「暁美ほむら、君から『魔女』という興味深い存在の話を聞いた夜だ」

ほむら「……」ギリギリギリ…

キュゥべえ「あの話が気になって、僕はしばらくしてから『魔女』について調べてみた」

キュゥべえ「たかが仮説にすぎなかったが、妙に引っかかったからね」

魔獣「……」ズズズ

ほむら「…宇宙のルールが書き換えられて、『魔女』の存在を証明する手段はもうないんじゃなかったのかしら?」ビュッ

魔獣「…っ!」ドサァ
夢の中で逢った、ような……

107: 2012/10/20(土) 01:06:18 ID:Ng1oGDWA
キュゥべえ「ああ、それももちろん承知の上だったよ…でも、それでも引っかかっていた」

キュゥべえ「夢物語と思っていても、ああも魅力的なエネルギーの回収方法について話されては…ね」

キュゥべえ「お伽噺を見聞きして、登場人物の能力に憧れを抱くのと同じ原理さ」

キュゥべえ「ひいては、魔法少女の原理ともいえるかもしれない」

キュゥべえ「…とにかく調べた結果、どうやら僕らの認識できない次元に、実際に『魔女』は存在しているらしいんだ」

ほむら(…まどか…)

キュゥべえ「これだけでも驚いたが…欠片も認識できないというわけでもない」

キュゥべえ「僕らの次元から、『魔女』の発するエネルギーの一端くらいなら観測することさえ可能だ」

ほむら「魔女の発するエネルギー…すなわち――」

キュゥべえ「希望だよ、暁美ほむら」

ほむら「…えっ?」

キュゥべえ「暁美ほむら、君は『円環の理』を知っているよね?」

ほむら「…ええ」

キュゥべえ「君の言っていた魔女の氾濫する世界が、今僕らのいるこの世界の前身だと仮定して、円環の理の法則を当てはめるとすると…ある仮説が立てられる」

ほむら「…まさか…」

108: 2012/10/20(土) 01:07:09 ID:Ng1oGDWA
キュゥべえ「…魔力を使い果たし浄化しきれなくなったソウルジェムは、実は僕らが認識しえないところで『魔女』となって」

キュゥべえ「そのまま一つ上の領域へシフトされ、なんらかの事象によって絶望エネルギーを希望に変換しているのではないか――ということだ」

ほむら「……」

キュゥべえ「つまり、君の言っていた魔女化に関するシステムは現状、『円環の理』によって誤魔化されているだけで」

キュゥべえ「…まだ氏んではいない、ということになる」

キュゥべえ「暁美ほむら、君にはこの意味が分かるよね?」

ほむら「…っ!」ギリッ

魔獣「……」ズズズ…

キュゥべえ「ほむら、魔獣だ…まだ終わりじゃないよ」

ほむら「…いいえ…終わりよ」ギリギリ

―――――

109: 2012/10/20(土) 01:07:54 ID:Ng1oGDWA
―――――

まどか「ああ、待って!待ってください!」

さやか「……」スタスタ

まどか「せめて…せめてお名前だけでもっ!!」

さやか「……」スタスタ

まどか「…うぅ、そんな…ひどい…」

さやか「…っ」

まどか「さやかちゃぁぁーん!!」

さやか「お、おいまどか!違うでしょうが!」

まどか「えっ?…ああ、そうだった…ごめんなさい、つい…」

マミ「はいはい、もう一回行くわよ…次はしっかりやってね、鹿目さん」

まどか「はーい」

―――――

110: 2012/10/20(土) 01:08:32 ID:Ng1oGDWA
―――――

さやか「…ごめんなさい、私…どうしたらいいか、まだわかんなくて…」

マミ「謝らないで…気持ちはわかるわ」

マミ「…貴女の思ったことを…素直に率直に、彼女に伝えてあげたらいいんじゃないかしら」

さやか「マミさん…」

マミ「……」

まどか「……」

杏子「……」

さやか「…あっ…ごめんなさい」

杏子「…またやり直しか、あたしの出番はいつになるのかねー」

さやか「だ、だからごめんって言ってるでしょ!」

マミ「二人とも落ち着いて…本番まではまだ時間があるわ、焦らず行きましょう、ね?」

―――――

111: 2012/10/20(土) 01:10:05 ID:Ng1oGDWA
―――――

まどか「……」

さやか「……」

まどか「……///」

さやか「ま、まどか…照れてないでセリフ言ってよ、練習にならないでしょ」

まどか「そ、そうだね…ごめんね、えっと、えっとぉ…」

まどか「…す、すすすすす好きです、○○さん…っ!///」

さやか「お、おおう…/// え、えーっと…」

さやか「わ、私もです、××さん…!!///」

まどか「さ、さやかちゃん…//」

さやか「は、恥ずかしいね…一番の山場なのに…」

杏子「……」ニヤニヤ

さやか「はっ!?」

まどか「杏子ちゃん!?」

杏子「お似合いじゃねーかよ、二人ともよぉ」ニヤニヤ

112: 2012/10/20(土) 01:10:32 ID:Ng1oGDWA
さやか「ニヤニヤしてんじゃねー当て馬役!」

杏子「なっ、当て馬って言うな!」

まどか「…二人のほうがお似合いかも…?」

さや杏「「そんなわけないだろーっ!」」

―――――

113: 2012/10/20(土) 01:11:08 ID:Ng1oGDWA
―――――

杏子「絶対に…ま、負けませんわ…」

杏子「か、彼女のことは、わ、わたくし、が、が…」ピクピク

さやか「ぷっ…くすくす…」プルプル

杏子「だーっ!やめだやめだこんなもん!」

杏子「あんたらの知り合いのわかめじゃあるまいし、こんな喋り方できるかよ!」

杏子「マミ、今からでも変えてくれよ…虫唾が走るぜ」

マミ「しょうがないわねぇ…結構いいと思ったんだけどなぁ」

さやか「出番はまだかー、なんて意気込んでおいてマミさんの台本にケチつけんなよ、杏子!」

杏子「うるせぇな!さやかが横でずっと笑いこらえてんのバレバレだったんだよ、笑うんじゃねえよ!」

さやか「だ、だって杏子がお嬢様口調って…ぶふっ!ぷっ…くすっ…」フルフル

杏子「さやかあああああああああああああ!!!!」

―――――

114: 2012/10/20(土) 01:12:30 ID:Ng1oGDWA
―――――

マミ「みんな、背景画が完成したみたいよ」

まどか「本当ですか?じゃあ明日からはもっと本番に近い練習になりますね!」

さやか「音響も照明も、今のところ異常なしだよマミさん」

杏子「本番当日までにぶっ壊さないようにしないとな…」

マミ「そうね…それと、鹿目さんに美樹さん」

マミ「二人は練習でのミスが目立つわ、台本をもっと読み込んでおいてね」

まどか「うっ…すみません…」

さやか「役名で呼ぶのってなんかやりづらいんだけどなぁ…」

マミ「あ、佐倉さんには新しい台本を」

杏子「お、本当か?サンキュー」

マミ「口調を変えるついでに、台詞も少し手直ししておいたわ…頑張ってね、佐倉さん」

マミ「さて、それじゃあ13時まで各自で練習して、その後は舞台で練習にしましょう」

まどか「はい!」

―――――

115: 2012/10/20(土) 01:13:06 ID:Ng1oGDWA
―――――

マミ「…謝らないで、気持ちはわかるわ…」ブツブツ

マミ「貴女の思ったことを…率直に、素直に…」ブツブツブツ

ガチャッ

まどか「マミさん、大変!ズライカちゃんが照明器具故障させちゃったらしいんです!」

マミ「ほっ、本当!?…」

マミ「…ちょっとまずいわね、午後からは予行演習をするつもりでいたのに…」

まどか「本番、明後日でしたっけ…」

マミ「…どうにか直せない?私も手伝うから」

まどか「あっ、はい!今さやかちゃんと杏子ちゃんが、魔女のみんなと一緒に修理しようと頑張ってます!」

マミ「だったらなおさら手伝わないと…行くわよ、鹿目さん!」

まどか「はい!」

ガチャッ

―――――

116: 2012/10/20(土) 01:13:39 ID:Ng1oGDWA
―――――

杏子「…しかし改めて見てみるととんでもねーキャラ付けとシナリオだな」

さやか「あたしとまどかがメインで、杏子は恋のライバル的ポジション…」

まどか「マミさんは、さやかちゃんのサポート的ポジション…」

マミ「そしてメインテーマは同性同士の禁断の恋よ、かなり踏み込んだと思わない?」

さやか「前までは、有名な戯曲だとかギャグっぽい演劇だとか…そんなんばっかでしたからねー」

杏子「初めてシナリオ見たときには驚いたもんだよ」

まどか「やっぱりマミさんってすごいんですね…なんでも書けちゃうんだもん」

マミ「ほ、褒めすぎよ鹿目さん…」

杏子「何よりも、エキストラを除外したらこの4人だけで劇を回してるしな…そこが一番すごいとこだとあたしは思う」

マミ「…な、なんか恥ずかしくなってきたわ…れ、練習しましょう練習!」

さやか「あ、マミさん照れてるー!」

マミ「てっ、照れてなんか!」

―――――

117: 2012/10/20(土) 01:14:28 ID:Ng1oGDWA
―――――

マミ「…さて、そろそろ待ちに待った本番の開始よ…みんな、準備はいい?」

まどか「はっ、はい!」

さやか「リハの通り、リハの通り、リハの通り…」

杏子「リハってよりゲネだと思うけどな…緊張しすぎだろ、さやか」

さやか「だ、だって!」

まどか「大丈夫だよ、さやかちゃん…今までだって、5人で頑張ってきたでしょ?」

さやか「…まどか…」

まどか「…思えば、私の身勝手な願いが発端だった」

まどか「誰にも認識されないただの概念になって『魔女』のみんなを浄化する」

まどか「でも、ただ浄化するだけじゃ…なんだか私の気持ちは晴れなかった」

まどか「だから…演劇で、戯曲で…みんなに楽しんでもらって、希望を持たせたうえで浄化してあげたかった」

まどか「そんな私の、身勝手な願い」

まどか「…それに今までついてきてくれて、ありがとう…みんな」

まどか「――だから、これからは…――」

118: 2012/10/20(土) 01:15:00 ID:Ng1oGDWA
さやか「…ストップ、それ以上言わなくていいよ」

まどか「さやかちゃん…」

さやか「今まであたしらがあんたについてきたのは…あんたの願いが立派だなって思ったから」

さやか「…あんたの願いを、一緒に叶えたいなって思ったからだよ」

杏子「さやかの言うとおりだ…なんだか勘違いしてるみたいだぜ、まどか」

マミ「そうよ、それに私たちは…あなたの願いが身勝手なものだなんてただの一度も思ったことはないわ」

まどか「…みんな…」

さやか「…そりゃあ…辛いこともあるにはあるよ」

さやか「この領域内じゃ魔女との意思疎通ができるから、話すと意外と楽しかったやつも…」

さやか「…絶望が希望に、完全に変わっちゃったら…いい顔して消滅しちゃう」

さやか「あれは…嬉しいけど、ちょっと悲しい」

まどか「……」

杏子「そうだな…あたしがここに来た頃はもっとわんさか魔女がいたもんだが…」

マミ「…もう、数えるほどしかいないのよね」

さやか「今、あたしたちと一緒に音響や照明や背景、小道具大道具なんかを作ってる魔女たちも…――」

119: 2012/10/20(土) 01:15:27 ID:Ng1oGDWA
さやか「――…いつかは、いなくなっちゃうんだよね…そしてゆくゆくは、あたしたちも…」

まどか「…そう、だよね…」

まどか「…でも…この領域に誰もいなくなった時こそが…私の願いがかなう瞬間なの…」

まどか「全ての魔法少女の絶望が、希望に転化する瞬間…」

さやか「……」

マミ「……」

杏子「……」

まどか「…ごめん、こんな話になっちゃって…でも、これからも一緒にいてくれるなら…もう一度聞いてもいいかな」

まどか「…私の願いを、全ての希望を…届けるのに、協力してくれる?みんな…」

120: 2012/10/20(土) 01:16:29 ID:Ng1oGDWA




びぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ

121: 2012/10/20(土) 01:16:47 ID:Ng1oGDWA
さやか「…そんなの、言うまでもないよ」

マミ「鹿目さんが…一番よく知ってるでしょ」

杏子「そういうこった…まどか、行くぞ」

まどか「…うん!」ニコッ

―――――

122: 2012/10/20(土) 01:17:24 ID:Ng1oGDWA
―――――

まどか「…はぁ…終わったね」

さやか「そうだねー…疲れたわー」

杏子「マミ!ケーキくれよケーキ!」

マミ「いいわよ、ちょっと待っててね…」

まどか「…この領域内の魔女も…もう少ししかいないね」

さやか「えっと、残りは…ズライカ、オクタヴィア、オフィーリア、イザベラ、パトリシア、それと…ワルプルギスだったかな」

杏子「ワルプルギスがいなくなっちまったら、あたしら演劇やれないよな…」

まどか「やれないってことはないだろうけど…」

さやか「あいつに舞台装置兼舞台やってもらってるからなぁ、いないと締まらないよね」

マミ「確かにね…はい、ケーキと紅茶」

杏子「おお、わりいな」

まどか「ありがとうございます」

さやか「やった、ありがとうございまーす!」

123: 2012/10/20(土) 01:17:43 ID:Ng1oGDWA
マミ「…ねえ、暁美さんって今頃どうしてるのかしら…」

まどか「…ほむらちゃん…」

さやか「あいつは簡単に氏んだりしませんよ、ねえ杏子?」

杏子「…だろうな、いつこっちに来るのかもわかんねえしさ」

まどか「…ほむらちゃんにも、私たちの演劇…見せてあげたいな」

まどか「希望を抱くことができるのは…魔女も魔法少女も、おんなじだから」

―――――

124: 2012/10/20(土) 01:18:38 ID:Ng1oGDWA
―――――

魔獣「…っ…」ドサァ

ほむら「…魔法少女を絶望させるシステムはとっくに終わったの、魔女ももういないわ」

ほむら「そして…これから始まることもないわ」

ほむら「インキュベーター…あなたが何か企んでいるなら、今度こそ…私一人の力で食い止めて見せる」

キュゥべえ「…やれやれ、一筋縄ではいかなさそうだね、魔女化のシステムの研究は」

ほむら「…仮にあのシステムが復活したとしても…どのみち無駄な事よ」

ほむら「魔女がこの世にもたらす絶望は私がかき消す」

ほむら「そして私に倒された魔女は…あの世で希望に変わるのよ」

ほむら「…私の仲間たちには、それができるわ」

ほむら「何といったって…魔法少女は夢と希望を叶える存在ですもの」

ほむら(…ね?まどか…)

―終劇―

125: 2012/10/20(土) 01:20:40 ID:Ng1oGDWA
なんかごめんなさい
もしいたら次の人どうぞ

126: 2012/10/20(土) 01:56:21 ID:nuR4JExI
おつかれー

128: 2012/10/20(土) 08:55:58 ID:NnKSY4MA
ちょっぴり詰め込み過ぎかな……。でも、面白かった!乙

引用: 【版権】SS深夜秋の短編祭【部門】