251: 2015/06/25(木) 21:42:46.40 ID:KyXuTlzG0



最初から:【艦これ】提督「ウチは平和だなぁ」艦娘「表面上は」

前回:【艦これ】提督「ウチは平和だなぁ」艦娘「表面上は」第十一話

大淀「長門、大破!」

提督「一撃で!?」

まさか長門が一発でやられるとは・・・

浜風「・・・そんな」

艦橋は信じられない報告に一同、唖然となる。

大淀「撤退を拒絶、高速修復剤の使用を求めています!」

提督(撤退するにも後ろから狙われるか・・・強さが分からん)

敵からは何か、強い執念のような感情を感じた。

それは間違いなく自分達に向けられている。

提督「瑞鶴、支援機を出せるか?」

瑞鶴「どうするの?」

提督「こちらに向かってる長門を空から護衛してもらいたい」

瑞鶴「分かった! すぐ発進させるわ!」

誰もが長門の大破など予想もしてなかった。

提督(甘いな・・・なんの根拠もなく大丈夫だと思っていた自分が・・・)

戦場に絶対は無い。

どんなに強くても、絶対負けないなんてことはありえないことだ。

提督(だが、今はそんな後悔は意味が無い)

最初は長門を護衛させて撤退を考えたが、

あの敵は我々個人に対して敵意を持っている様子だった。見逃しては貰えないだろう。

このまま撤退しても、追撃されて後ろから撃たれるだけだ。

かと言って、誰かを殿に残すことはしたくないし、するつもりもない。

であれば、敵を撃破するか、もしくはこちらを追撃出来ない程のダメージを与えるかだ。

提督「本艦は前進!長門と合流する!」

提督「針路このまま、最大戦速・・・」

艦娘「・・・・・・」

皆が見ていた。分かっている。
艦隊これくしょん ‐艦これ‐ 艦娘型録 (カドカワデジタルコミックス)
252: 2015/06/25(木) 21:43:26.52 ID:KyXuTlzG0
前線には出ない。その約束を破ることになってしまった。

だが、今は前に出ないと。

それこそ仲間を、部下を・・・見頃しにすることになる。

提督「・・・すまん」

皆が心配してくれるのは嬉しい。

だけど、ここは戦場で自分は軍人だ。

やるべき時に時に、やるべきことをする。

それは当然のことだ。

響「・・・この状況じゃ仕方ないさ」

提督「ありがとう」

大淀「仕方ないですね」

浜風「何があっても私達がお守りするので大丈夫ですけどね」

提督「ありがとう。でもな・・・」

浜風「なんです?」

提督「君達が俺を守ってくれるように、俺も自分が出来ることで君達を守りたいんだ」

浜風「・・・///」

真っ直ぐに、皆を見つめて優しく、諭すように提督が言った。

提督の真正面に居た浜風は思わず顔を朱色に染めてしまう。

それが艦橋に居た大淀と響には面白くなかった。

響「・・・まるで君だけが言われたみたいな反応だね」ハイライトオフ

浜風「いえ、そんなことは・・・」

大淀「・・・今週の解体任務は1名と」ボソッ

浜風「!!!?」

提督「長門・・・無事で居てくれ・・・」

253: 2015/06/25(木) 21:44:34.60 ID:KyXuTlzG0
一方、離脱した長門を除いた艦隊は敵本体と戦闘状態にあった。

陸奥「・・・私が・・・旗艦」

鈴谷「いくよぉっ!!!」

熊野「とぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

2人の連携により、まるで鬼火のような護衛要塞は全て撃破された。

2隻居たウチのハ級は1隻をゴーヤが、もう1隻を大鳳が沈めた。

だが泊地水鬼は強敵で、近づくことも出来ない。

泊地「うぉぉぉぉぉっ!!!!!」

鈴谷「あーもうっ!!」

次々と飛ばしてくる敵艦載機を打ち落とすので精一杯だ。

大鳳「くらいなさいっ!!」

空にばかり気をとられるとル級からの砲撃が飛んでくる。

ル級「ああああああ!!!!!」

戦艦ル級も自我を失い、暴れ狂っており、今の所、防戦一方になっていた。

鈴谷「陸奥さん!! ぼさっとしてないで!! 氏にたいの!?」

陸奥「え? きゃっ!?」

砲撃が陸奥の周囲に降り注ぎ、大きな水柱が出来る。

熊野「どうしたんですの!?」

陸奥は動かない。様子が変だった。

鈴谷(まったく!! なにしてんのよ!!)

陸奥をに向かってきていた敵機を撃ち落すと陸奥の胸倉を掴む。

鈴谷「何してるんですか!! 戦闘中なんですよ!!」

その一瞬の隙を突いて、ル級が戦線を高速で離脱する。

熊野「しまった!! 抜かれましたわ!!?」

鈴谷「やばっ!?」

ル級を狙うが当たらない。

不味い。このままでは長門が追いつかれて戦闘になる。

ゴーヤ「ゴーヤが追撃するでち!!」

大鳳「お願いします!!」

すぐにゴーヤが追撃に移った。

ゴーヤ「なんて速さ・・・追いつけない!?」

254: 2015/06/25(木) 21:45:35.00 ID:KyXuTlzG0
長門「見えた!!」

提督達の乗る護衛艦が目に入った。

大淀「レーダーに機影、通信入りました。長門です!!!」

提督「よし、すぐに高速修復剤の準備を!!」

浜風「長門の後方に敵影!!・・・戦艦ル級! 早い!!」

今の長門が追いつかれると不味い。大破状態での戦闘は危険だ。

提督「すまんが響、頼めるか?」

響「なにをだい?」

提督「高速修復剤を持って海に出て欲しい」

響「海上で渡す気かい?」

提督「ああ、やってくれるか?」

響「・・・分かった。すぐに出るよ」

提督「取舵いっぱい、その後、敵ル級に向けて魚雷発射」

護衛艦は左に旋回、一方で響は護衛艦とは反対側に向かって出撃した。

長門は追ってくるル級に気付く。

上空には瑞鶴の航空隊が護衛をしてくれているが、

暴走状態にあるル級相手では厳しいだろう。

長門「私を仕留めに来たか。舐められたものだな・・・」

例え、大破してようが問題ない。

一発も喰らわずに素手で始末すればいいだけだ。

そう覚悟すると同時に提督から通信が入る。

長門「合流ポイントを変更? 迂回だと?」

ル級が長門を狙った瞬間、何かが爆発してル級は一瞬怯んだ。

それは護衛艦から発射された魚雷。

深海棲艦を轟沈させる能力はないものの、気をそらすことには成功したようで

ル級は長門に目もくれず護衛艦に向かい始めた。

長門(私の安全を考え、囮に・・・あの馬鹿!!)

長門(なんで何時も何時も・・・自分より私達のことを考える・・・)

提督自ら、危険な囮になったことへの怒りはあったが、それ以上に嬉しかった。

本当に私達は愛されている。

長門(既に好きな気持ちは上限に達していたと思ったが・・・まさか、さらに好きになるとは)

長門(これじゃ・・・本当に他の艦娘(おんな)にくれてやるわけには行かないじゃないか)

長門「すぐ修復して奴を片付ける・・・持たせてくれよ・・・」

255: 2015/06/25(木) 21:46:30.70 ID:KyXuTlzG0
提督「喰いついたか・・・そのまま攻撃を続行、こちらに引き付けろ!」

大淀「艦娘の武装以外、轟沈ダメージは与えられませんが・・・」

提督「全く効かないワケじゃないさ。榛名、準備は良いか?」

甲板に向かっていた居た榛名が通信に答える。

榛名「了解。艦上より、砲撃して仕留めます」

その時、船が大きく揺れる。

提督「くっ!」

ル級によって、放たれた砲弾は艦橋の前面の一部を吹き飛ばす。

激しい衝撃と、爆発音が響き、提督は椅子から投げ出された。

艦橋内は半壊し、壁には大きな穴が空いていた。

提督「皆、無事か?」

大淀「・・・なんとか」

提督「すぐに艤装を展開しろ、生身では危険だ」

浜風「うう・・・」

床に激しく叩きつけられた浜風は意識が少し朦朧としていた。

天井から壊れた機材の一部が落下してきたのが見えた。

浜風「!!!」

避けないと。しかし、体が上手く動かない。

痛みを覚悟して、目を閉じるが痛みは一向に来ない。

目を開けると、提督が自分に馬乗りになって、

自らの背中を盾にして浜風を庇っていた。

浜風「提督!!!!?」

白い軍服が血で赤く染まる。

提督「大丈夫だ・・・少し、痛いけどな」

そう言って冗談っぽく笑った。

256: 2015/06/25(木) 21:47:18.73 ID:KyXuTlzG0
浜風「なんで!! 艦娘の私は入渠すれば・・・」

提督「体が勝手に動いたんだ。そう怒鳴らないでくれ・・・」

浜風「怒鳴りますよ!! もしも提督に何かあったら、私達はどうすればいいんですか!!」

提督「そうだな・・・すまん」

部下を残して逝くなんて無責任だ。

氏ぬにしても、自分のやるべきことを全て、全うした後だ。

まだ氏ねない。氏ぬわけには行かない。

前線で戦う部下、鎮守府で帰りを待つ皆・・・

それらを放り出して、自分だけ先に逝くなんて出来ない。許されない。

南方「何事!? ・・・・え?」

爆発音に驚いて、南方棲鬼が慌てて駆けつけて、見た光景に固まった。

半壊した艦橋、血を流す提督。

南方(これは・・・見たことがある・・・)

爆発する艦内。

転がる仲間。

血の匂い。

あの時、見た愛しい人の変わり果てた姿。

繋いだ手の先に・・・愛しい人は居なかった。

腕ダケガ・・・・

コロシテヤル

スベテノ

シンカイセイカンヲ

怒りに呑まれ、人の身で戦い、無惨に負けて海へ投げ出され・・・

―――――ワタシは

一気に脳内に記憶が逆流する。

思い出す。何故・・・忘れて居た?

257: 2015/06/25(木) 21:48:05.31 ID:KyXuTlzG0
いや、違う。

忘れさせられていた。アイツに。

あの深海棲艦に。

目の前に居る血まみれの男。

南方(彼は・・・私とあの人の・・・?)

提督(奴め・・・トドメをさす気か)

ル級が艦橋に再び狙いを定める。

提督にはそれが目に映った。

殺される。

直撃すればここは消し飛ぶ。

浜風も大淀も、怪我をしたせいか、混乱したせいか、

まだ艤装が上手く展開できてない。

コロサレル?

大切な部下が、家族が・・・

ル級の口が不気味に歪むのが見えた。

殺されてたまるか。

この娘達を殺されてたまるか・・・

また奪うのか。

俺から家族を。

提督(ふざけんな・・・)

その時、自分の中で何かスイッチが入ったような感覚があった。

カチリと。

思考はとてもクリア。澄み渡るように心は穏やか。

敵のル級の位置と距離がなんとなく分かる。

そしてこれから自分が何をするかも。

奴に当てる。ただ、それだけ。

だから自然に口走った。

提督「撃て」

直後、艦内から爆音が響き、装甲を突き破って何かがル級に命中する。

ル級「ああ?がぁぁぁぁ!!?」

ル級の右腕は吹き飛んだ。

258: 2015/06/25(木) 21:49:00.29 ID:KyXuTlzG0
ほんの少し前、

艦内の工房では明石が急ピッチで作業を進めていた。

明石「よし、出来た。すぐに機関室に・・・」

その直後、突然激しい轟音が鳴り響き、明石はびっくりして尻餅をついた。

壁には大穴が開いていて、外が見える。

明石「え? なんで? 誤作動・・・?」

何故か艤装が勝手に動き出して砲撃をしたようだった。

砲撃時の衝撃で壁にめり込んでおり、今は機能が停止していた。

明石「さっきの南方棲鬼さんの時といい、なんで・・・?」

理由は分からない。

気にはなるが、今は他にすることがある。

一方、甲板に向かう途中、砲撃の衝撃で床に叩きつけられた榛名が目を覚ます。

榛名「・・・私、気を失って・・・? 早く行かないと!!」

また、片腕を失ったル級は痛みで自我を取り戻し、状況を整理していた。

ル級(右腕は欠損か・・・だが、目の前にこんな大きな獲物・・・見逃す手はないな)

先ほどの攻撃は危険だが、次の攻撃がないので連射は出来ない可能性が高い。

ル級にとって幸いだったのは自我を取り戻しても、身体能力の強化は続いていたことだ。

恐らく、まだ泊地水鬼の影響下にあるのだろう。

ル級「次を撃たれる前に仕留める!!」

艦橋では大淀と浜風がようやく艤装を完全に展開していた。

提督「ここは危険だ、一度下に移ろう」

浜風「提督、さっきの砲撃はいったい?」

大淀「内側から撃たれたようでしたけど・・・明石?」

提督「分からん。明石が何かしたのかもしれん」

浜風(さっきの様子・・・まるで提督が何かをしたように見えたけど・・・気のせい?)

提督は先ほどのことは覚えていなかった。

南方(あの音・・・46cm砲。やっぱり・・・この子は・・・私の・・・)

提督「どうした? 下に行くぞ?」

南方「・・・ええ。分かったわ」

南方棲鬼は頷いて提督に続いた。

266: 2015/06/27(土) 00:01:01.35 ID:7XggPHTs0
提督「さて・・・どうする?」

大淀「敵、再度接近してきます!」

提督「魚雷、ミサイルで攻撃。近づけるな!」

だが、どんなに直撃してもル級の足は止まらない。

過去の交戦データからは考えられないル級の性能。

提督「今までのデータは当てにならん。一度忘れよう」

ル級「これで・・・終わりだ!!!」

提督「くっ! 回避が間に合わん!! 全員伏せろ!!」

だが、攻撃が届くことは無かった。

平面六角形の力場によって攻撃が防がれたからだ。

提督「これは・・・」

ル級「・・・クラインフィールドッ!!」

クラインの壷理論を応用したとされる異世界の技術。

以前、その世界の住人と邂逅した際に親しくなり、

託されたナノマテリアルと制御コア。

使用される素材自体がこの世界に無いものであることと、

こちらの技術的な問題もあり、正常稼動には至ってないハズだったが・・・

明石『聞こえますか? 提督、こちら機関室、明石です』

提督「全く。オマエは勝手に・・・」

明石『すいません。でも役に立ったでしょ?』

提督「ああ、おかげで助かった。ありがとう」

明石『えへへ~♪』

提督「無断で持ち出したことについては後で始末書ね」

明石『ええー』

そんなやりとりで場の緊張が少し和らいだ。

明石『しかし、動作が安定してないのと、結構無茶な稼動してるんで問題が・・・』

提督「問題? なんだ?」

267: 2015/06/27(土) 00:01:48.41 ID:7XggPHTs0
明石『攻撃を防げば、防ぐほどナノマテリアルを消費して二度と使えなくなります』

提督「後、どれくらい持つ?」

明石『数回でしょうか? 稼動プロセスが本家とは違うからなんとも・・・』

提督「いや、問題ないよ」

明石『どういうことですか?』

提督「今、榛名から連絡が来た。甲板にて砲撃を開始するとのことだ」

護衛艦、雷電の甲板。そこに榛名が居た。

榛名「・・・敵、捕捉しました」

戦艦榛名の主砲が轟音と共に火を噴く。

放たれた砲弾はル級の近くの海面に落ちて大きな水柱を上げた。

ル級「バカが!! どこを狙っている!!」

榛名「確実に当てる為ですよ・・・誤差修正、次は当てます」

ル級「ぐっ・・・!? 一発目は距離を測るためかっ!!」

直撃。腹部が削られる。だが・・・

榛名(手応えはありましたけど・・・)

ル級の目は赤く輝き、耳障りな咆哮を上げながら砲撃体勢を取る。

臨時司令室で戦闘をモニターしていた提督はあることに気付く。

提督「どういうことだ? 傷が塞がっていく?」

ル級の欠損箇所は、ゆっくりではあるが修復されていた。

榛名(・・・再生能力がある?)

消失したハズの右腕も少しずつ修復されているのが確認できた。

大淀「今、妖精が解析中です。損傷箇所の細胞が異常に活性化してると言ってます」

提督「つまり、信じられない速度で自己再生能力を底上げしてるということか?」

榛名「提督、H・C弾の使用の許可を!」

提督「そうか、アレなら細胞の増殖を・・・」

提督「いや・・・しかしアレは鎮守府に保管されているからここには・・・」

明石『ありますよ。持ってきちゃいました』

提督「・・・だから事前に報告しなさい。榛名、使用を許可する」

268: 2015/06/27(土) 00:03:40.26 ID:7XggPHTs0
榛名「了解。誤差修正0・2・・・角度よし、HーC弾、装填」

H-C弾。鎮守府で開発された特殊弾である。

正式には「Hieiーcurry(ヒエーカリー)」の略であり、比叡の殺人的なカレーを原料にしている。

以前のテストでは周囲の環境汚染が懸念され、使用を中止されていたが、

ひそかに改良され、以前よりは環境汚染の問題は多少は改善されていた。

榛名「発射っ!!!」

ル級「ぐわぁぁぁぁ!?」

弾頭に含まれた科学の常識を超えた劇薬がル級の細胞を侵食する。

周囲の細胞は破壊され、自己修復が一時的に止まった。

ル級「コろス! 艦娘モ!! 人間モ!! ミナゴロシだ!!」

その時、側面より飛来した砲撃でル級はバランスを崩す。

ル級「っ!? なんだ!?」

長門「なんだって・・・敵だろ?」

榛名に気を取られていたル級は高速で迫る長門にようやく気付いた。

すぐに長門を砲撃しようとするが、海中からも一撃喰らう。

ゴーヤ「命中でち!」

ル級「なんだと!?」

途中、敵はぐれ艦隊に補足され逃げ切れず交戦し、

ようやく追いついたゴーヤの放った魚雷だった。

瑞鶴「私も居ること忘れないでくれない?」

榛名と同じく、甲板から瑞鶴が爆撃機を飛ばし攻撃する。

そこへ長門が接近、懐に入り込み、至近距離から強烈な一撃を放つ。

ただのアッパー。拳による、だが果てしなく重い一撃だった。

ル級は空高く舞い上がり、そこを榛名と長門が同時に砲撃する。

ル級「まだっ・・・まだだっ!!」

天高くに投げ出されたル級は砲撃を喰らいながらも、空中で体勢を立て直す。

更なる憎悪を募らせ、再び再生を試みる。だが、それは先程より遅い。

ル級「くっ!! 毒素が完全に抜けん!! なんだこれは!? 貴様ら!! 何をした!?」

269: 2015/06/27(土) 00:04:26.41 ID:7XggPHTs0
榛名「再生すると言うのなら・・・」

ル級「ま・・・まて・・・」

重力に引かれ、自由落下が始まるが、再び砲撃され、体は重力に反して舞い上がる。

落ちては、下から突き上げられる。

それはまるで海面に浮かび、波に翻弄される木の葉のよう。

榛名「姿形が完全に無くなるまで消し飛ばせばいいだけです」

榛名は撃ちつづける。砲身が高熱で赤くなるが構うことなく撃ち続ける。

轟音と衝撃が一帯を襲う。それでも砲撃は続く。

ル級は恐怖した。その恐怖が泊地水鬼の気迫に勝った為に、影響力を失う。

ル級「チカラが・・・抜けていく・・・」

ついに空中で爆散、チリひとつ残らず燃え尽きた。

榛名「提督に怪我をさせたんですから。当然の報いですよね?」ハイライトオフ

長門(・・・凄まじいな。これがレベル146の戦艦の実力か)

長門「提督、無事か?」

提督「問題ない。長門こそ無事で良かった」

長門「あまり無茶はするなよ?」

提督「可能な限り善処する」

響「・・・司令は変わらないね」

先行して駆けつけた長門に遅れ、響も合流した。

提督「響もありがとう。無事で良かった。これより直ちに敵本体に向かう!」

長門「了解。陸奥達が心配だ」

提督「それと瑞鶴、悪いが先行して航空隊を飛ばして欲しい。届けて欲しいものがある」

瑞鶴「ん? これはカートリッジと三式弾?」

提督「必ず必要になるからな」

提督(無事で居てくれよ・・・)

270: 2015/06/27(土) 00:05:52.39 ID:7XggPHTs0
泊地水鬼は仲間から、少し浮いた存在だった。

特に戦果を上げるワケでもなく、

憎悪を撒き散らすワケでもなく、

皆が人間や、艦娘を攻撃して頃した数を競っていても、

特に興味が無かった。

それは深海棲艦の仲間からすれば、おかしなことだった。

好きなことは、ただ何もせずゴロゴロするだけ。

深海のゆっくりした時間が好きだった。

なので戦闘力は高く、実力はあるものの、変わり者とされていた。

そんな中、彼女に理解を示してくれた存在が南方棲鬼だった。

率先して最前線に出向いては怒りと象悪を撒き散らす深海棲艦でも上位の存在。

『あの方』の娘にて、多くが認める深海棲艦の優等生。

普通に考えれば水と油。

気の合うハズがない。だが、何故か馬があう。

自分のことを馬鹿にするわけでもなく、ただ友人として接してくれた。

嬉しい、楽しい、そんな初めて抱く感情。

深海棲艦にあるまじきことだが、そんな時間が大好きだった。

ある鎮守府の艦娘を討伐に向かい、消息を絶ったが、強い彼女のことだ

勝利し、今もどこかで戦っているのだろう。そんな風に思っていた。

しかし、ある噂を聞く。

「南方棲鬼様が例の奴と交戦して殺されたらしい」

そんなバカな。信じない。そんなのは嘘。

彼女がやられるなんてあるハズが無い。

271: 2015/06/27(土) 00:06:59.25 ID:7XggPHTs0
待っても、待っても戻ってこない。

最初はふざけて「奴は深海でも際弱の・・・」なんて悪ふざけをしていたが

一向に戻らない。やがて噂は真実であることを知った。

舞鶴鎮守府。確か複数あったが、

そこでも、かなりヤバイ連中が居ると噂があり、

南方棲鬼はそいつらに殺されたらしいと。

自分の中で初めて憎悪が生まれた。

―――コロシテヤル

仇を討つ。この感情は深海棲艦には珍しいのかもしれないけれど、

それは自分の命を掛けても実行しなければならないことだと思った。

だって、他にしたいことなんて無かったから。

彼女との時間が今の全てだったから。

だから戦う。

人間狩りなんてどうでもいい、

艦娘狩りなんてどうでもいい、

彼女を頃した奴を頃す。願うことはそれだけ。

今戦っている3人は恐ろしく強い。

中破まで追い込んだが、次第に動きを読まれ始め、

最小の動作で交わされて逆に攻撃を貰う。

泊地「痛いわ・・・」

体が痛い。

心が寒い。

なのに笑ってる。

泊地「うふふふ・・・・」

何が楽しいのかワカラナイ。

なんで笑っているかワカラナイ。

279: 2015/06/28(日) 03:50:53.89 ID:SHAiQwwQ0
陸奥は悩んでいた。

旗艦。それは名誉なことだ。

かつての軍艦だった頃の記憶・・・

長門と並び、ビックセブンと呼ばれ、国民に親しまれ、

交代で連合艦隊の旗艦を務めた。

だが、戦艦陸奥は原因不明の爆発で突如、沈んでしまう。

艦娘になり、人の姿を得てから、まず初めてやったことは

爆発事故の原因を調べることだった。

幸い、インターネットというツールが現代には存在し、

鎮守府に居ながらでも、個人で容易に調べることが出来た。

スパイ説や、放火、全ては憶測で、真相は現代でも分かっていない。

運よく生き残った乗組員も、悲惨な運命が待っていたという。

戦艦陸奥が事故で爆発し、損失したことは当時の海軍の一大不祥事であり、

徹底した情報隠匿を行ったらしい。

戦後までアメリカ側も陸奥損失を知らなかったと言うくらいだ。

生き残った者は家族との面会も許されず、口封じのように

危険な最前線に送られたという。

今なお、分からない謎の事故。

それは艦娘になった今でも、呪いのように付きまとっていた。

突然、艤装の調子が悪くなり、火を噴いたりと挙げればきりが無い。

それが陸奥の自信を喪失させていた。

自信に溢れ、何時も輝いている長門。

同じビックセブンなのに。

同じ姉妹なのに。

私はダメだ。

私なんかが旗艦なんて・・・

280: 2015/06/28(日) 03:51:21.93 ID:SHAiQwwQ0
所詮は戦艦時代の話。

艤装の調子だって、たまたま不調が続いただけかもしれない。

分かっているけど・・・やはり自分に自信がない。

何時も長門の後ろに居る。ソレでよかった。

私が何かしても、きっと上手くいかないから。

誰かの補佐をして、後ろに居れば良かったんだ。

脇役にはなれても、主役にはなれない。

考えれば、考えるほど、思考は行動力を奪い、何も出来なくなってしまう。

動け!! 動かないと・・・!! だけど動けない。

思えば提督のこともそうだ。

異性として好き。その気持ちに間違いはない。

だけど、どうせ私は勝てない。

鎮守府の仲間達に・・・

皆は本気なんだ。本気で好きなんだ。

だから争うし、時には血の雨が降りそうになる。愛しすぎて。

だけど私は一歩を踏み出せない。

自分に自信がない。

私よりも魅力的な娘が沢山いる。

初めから結果は分かる。

私は負ける。

何をしても勝てない。

だけど、そんなことを認めたくなくて、

未練たらしくちょっと、お姉さんぶって誘惑してみたり。

提督には一切効かなかったけれど・・・

何もかも諦めれば楽になれるのに・・・

でも・・・諦める勇気も無かった。

281: 2015/06/28(日) 03:52:03.14 ID:SHAiQwwQ0
鈴谷「いい加減にぃぃぃ!!!」

泊地「アハハハハ!!!」

力は拮抗して、未だに勝敗は付かない。

気を抜いたらやられる。

熊野「あっちの艦載機・・・何機あるんですの・・・?」

打ち落としても、打ち落としても沸いてくる。

大鳳「流石に消耗してきたわね・・・」

ボウガンにカートリッジを装填する。

空母はそれぞれ違った形態で艦載機を運用している。

赤城や加賀のように弓であったり、

隼鷹、飛鷹のように日本古来より伝わる神術によってであったり、

千歳や千代田のように機械仕掛けの操り人形のようであったり、

そんな中でも大鳳が使うのは最新式のシステム。

ボウガン型の銃にカートリッジを装填して発射する。

放たれた弾は空中で眩い光に包まれて攻撃機に変わる。

大鳳「装甲空母を舐めないで! 中破したって飛ばせるんだから!!」

泊地水鬼も負けるかと攻撃機を飛ばす。

双方、上空で激戦を繰り広げる。

熊野「提督は無事かしら・・・」

後方を見る。遥か向こうに煙が見えた。

鈴谷「え・・・?」

最悪の事態だった。護衛艦が攻撃を受けていることに気付く。

鈴谷「・・・まじ最悪なんですけど」

鈴谷(・・・なんなのよコイツ)

早く倒さないと・・・提督が・・・氏ぬ。

鈴谷「ダメ・・・それは・・・絶対」ハイライトオフ

敵への怒りと、大事な人を失う恐怖で力が入る。

282: 2015/06/28(日) 03:53:25.91 ID:SHAiQwwQ0
ほんと、冗談じゃない。

地獄のような日々を耐えて、

ようやくたどり着いた居場所を・・・

やっと見つけた私の大好きな人を・・・

なんで傷つけるの?

深海棲艦も人類もどうでもいい。

提督が居ればそれでいい。

なのに世界はそんなこと許さない。

戦争があり、艦娘は戦う存在で、提督は指揮する存在で・・・

私たちがこの流れに居る限り、戦いは延々とまとわり付く。

負けて氏んだら終わり。

鈴谷(だから殺さないと・・・・ジャないト)

――――また奪われる

海面を蹴るように進む。

コロス。

確実にコロス。

敵機が攻撃を加えてくるが、無視する。

頬を攻撃がかすめ、血が滲み出る。

後ろで熊野と大鳳が叫んでる。

今は関係ない。

頃すことに集中するんだ。全力で・・・

鈴谷(懐に入ってぇぇぇぇぇっ!!!)

ほぼ、ゼロ距離からの砲撃。

鈴谷(この距離なら絶対避けられないよねっ!!)

手応えはあった。

攻撃の余波で吹き飛ばされた鈴谷を熊野と大鳳が支えた。

鈴谷「・・・・ダメージは?」

大鳳「軽微のようね・・・」

鈴谷「ちっ・・・」

熊野「言葉使いが悪すぎますわよ」

鈴谷「熊野はまだ余裕ありそうだね」

熊野「・・・まさか。余裕なんてないですわ」

283: 2015/06/28(日) 03:54:44.25 ID:SHAiQwwQ0
陸奥は相変わらず突っ立ったまま。

これに鈴谷が激怒し、頬を引っぱたく。

陸奥「っ!!」

鈴谷「あのさ、戦わないなら下がってくれない?」

陸奥「私は・・・」

鈴谷「さっきから邪魔なんだよ!! 分かってよ!! 足引っ張らないで!」

熊野「ちょっと・・・」

鈴谷「何を悩んでるか知らないけど、今すること?」

大鳳「鈴谷さん!!」

あまりの剣幕に大鳳が制止しようとするが、それでも鈴谷は止まらない。

鈴谷「ここは最前線で、今は戦闘中なの、分かるでしょ? 何がしたいの?」

陸奥「・・・ごめんなさい」

鈴谷「謝るなら戦えよ!! 戦わないなら下がってよ!!」

熊野も大鳳も黙る。

今回の敵は今までとは違う。油断すれば氏ぬのは自分だ。

無論、氏ぬ気はない。

そんな状況で何もせず、突っ立てれば文句も言いたくなる。

陸奥「貴女には分からないわよ!!」

鈴谷「はぁ? 何が?」

陸奥「提督から大事にされて、信頼されて、可愛くて・・・自信に溢れてて・・・」

鈴谷「・・・は? え? 意味が分からない。なんで鈴谷褒められてるの?」

陸奥「長門も居なくて、一人で・・・私が旗艦なんて・・・」

自分が旗艦になり、それで皆を率いて戦って? どうなるの?

きっと、また何か良くないことになる。

下手すれば全滅だ。恐い。恐い。恐い。

皆の命を預かる勇気なんてない。それもこんな重要な局面で・・・

なんで長門がここに居ないんだろう。

なんで金剛が、なんで赤城が、なんで・・・

なんで・・・こんな時に私が旗艦なんだろう。

陸奥「・・・・諦めたくないのに」

だけど恐い。自分だけじゃなく、皆も巻き込んで何かよくないことが起こるのではないかと。

鈴谷「あっそ。良く分からないけど・・・」

鈴谷「ウジウジするなら後にしてよ。迷惑だから。」

鈴谷「諦めたければ諦めれば? そうやって負け犬になればいいじゃんっ!!」

鈴谷「諦めなよ。何もかも。いっそ提督のこともさ。もう知らない。氏にたければ勝手にして」

そう言い残し、先ほどのダメージから立ち上がった泊地水鬼に再び攻撃を行う。

熊野、大鳳もそれに続いた。

陸奥(いきなり長門が大破して、旗艦を言い渡されて、それで・・・)

今やるべきことはひとつ。ただ戦うだけ。皆と共に。

だけど踏み出せない。たった一歩なのに。

自分が思った以上に長門に依存していたことが分かった。

284: 2015/06/28(日) 03:55:53.29 ID:SHAiQwwQ0
陸奥(・・・提督)

貴方が言ってくれれば・・・背中を押してくれたら・・・

もうしかしたら・・・

―――陸奥!!

提督の声がした。

陸奥(本当に未練たらしい・・・幻聴まで聞こえ始めた・・・)

―――陸奥!!おい!聞こえるか!?

違う。幻聴じゃない。

陸奥「・・・提督?」

提督『良かった。無事か、そちらの状況は?』

陸奥「・・・てっ敵と交戦中・・・残存は1体よ」

提督『この海域の敵旗艦か。皆無事か?』

陸奥「今のところは」

提督『そのまま何とか持ちこたえてくれ。今そちらに向かっている!』

提督『長門から聞いた。旗艦を引き次いだそうだね』

私じゃ無理よ。

ずっと演習ばかりだし。実戦も長門と一緒だから、彼女に全て頼ってやってきただけ。

私が全てを任されて皆を率いるなんて無理。

きっと良くない結果になる。

だから早く来て長門・・・

提督『しかし、陸奥なら大丈夫だな』

陸奥「・・・え?」

提督『なんたって世界のビックセブンだ。俺達が合流するまで頼むぞ』

陸奥「提督は私を信頼してくれるの?」

提督『は? 何を言ってるんだ? 当然だろう』

何を当然のことを言ってるんだとばかりに返してくれる。

やっぱり提督は凄い。だって・・・

提督の声が、その言葉が、こんなにも自分に力をくれるのだから。

285: 2015/06/28(日) 03:56:45.54 ID:SHAiQwwQ0
陸奥「私に任せると、大事なとこで爆発事故起こしちゃうかもね」

それを冗談だと思ったようで

提督『爆発しても今度は沈ませないさ。どんなことをしても助ける』

陸奥「・・・提督」

提督『以前から過去を気にしてるようだが、一回全部忘れろ。そんなもんに縛られるな』

提督『艦娘として生きている、今のことだけ考えるんだ』

陸奥「・・・了解」

それだけで、その言葉だけで、自らを雁字搦めにしていた呪いが少しづつ消えていく。

立ち止まっていた私の背中を押してくれた。

なんで今まで悩んでいたんだろう。

諦めたくない。何もかも。

何かあっても提督が助けてくれる。

提督が私を見てくれている。

信頼してくれている。

陸奥「頑張る。私は前に進む・・・」

そんな時、ひとつの奇跡が起きる。

提督『あ――してるぞ。陸奥』

この時、『ああ、期待してるぞ陸奥』と提督は言った。

だが、戦闘の爆発音で言葉の一部が聞こえなかった。

それを陸奥は『愛してるぞ陸奥』と解釈してしまったのだ。

陸奥(提督・・・私も・・・貴方を・・・)

後に音源を保存しようとして、聞き間違いであることを知るわけだが、

その言葉で全ての呪縛は、トラウマは完全に消失した。

陸奥「・・・ねぇ提督?」

提督『なんだ?』

陸奥「別に貴方達が合流する前に倒してしまっても良いのかしら?」

提督『・・・それは構わんが、絶対に無理はするなよ?』

陸奥「了解」

通信を終えると体が軽くなった。

想いが体を巡り、それは爆発的な力に変わる。

もう大丈夫。迷いは無い。

陸奥「ビックセブン、戦艦陸奥、出撃するわっ!!」

その声と顔つきは自信にあふれていた。

286: 2015/06/28(日) 04:00:21.06 ID:SHAiQwwQ0
泊地水鬼と対峙する鈴谷、熊野、大鳳は満身創痍だった。

鈴谷「・・・ほんと嫌になるね。3人掛かりで、この様なんて」

熊野「敵が異常すぎますわ・・・」

大鳳「不味い・・・もうカートリッジが・・・」

泊地水鬼は笑う。体はボロボロ。沈んでもおかしくないのに。

何がおかしいのか狂ったように笑う。

熊野「敵の様子、変じゃありませんこと?」

鈴谷「最初から変だったけど?」

熊野「そうじゃなくて、なんか損傷箇所が修復されてなくて?」

大鳳「・・・え?」

僅かではあるが、泊地水鬼の損傷が少し修復されていた。

それは限界値を超えた強い負の感情が齎している効果。

深海棲艦とは本来、負の感情、怨念の塊。

戦闘で傷つくほど相手への憎悪が増し、それが一種のドーピング状態にある

泊地水鬼の自己再生能力を異常に高めていた。

この能力は泊地水鬼の影響を受けて暴走状態だったル級にも働いていたのだった。

多くの生物が本来持っている自然治癒能力。それが爆発的に活性化されている。

再生速度は微々たるモノではあるが、これは脅威だ。

大鳳「そう言えば聞いたことがあるわ」

鈴谷「何を?」

大鳳「過去の作戦で確認された固体の中に、時間と共に回復するモノも居たって」

熊野「そう言えば聞いたことありますわね」

6~7回で攻略するハズが10数回になってしまい、

一部の提督から敵の体力ゲージの自然回復だと嘆きの声があったと噂だ。

鈴谷「不味いじゃん・・・」

泊地「アハハハハハハハハっ!!!」

鈴谷「くっ・・・もう三式弾もないし」

一体、いくつあるのか、泊地水鬼が繰り出す攻撃機が再び迫る。

だが、それは全て叩き落とされた。

泊地「!!!?」

287: 2015/06/28(日) 04:01:02.48 ID:SHAiQwwQ0
鈴谷「陸奥さん・・・?」

陸奥「皆、ごめんなさいっ!!」

大鳳「もう大丈夫なんですか?」

陸奥「・・・アイツを仕留める。援護頼めるかしら?」

鈴谷「・・・今更来て、どういうつもりですか?」

陸奥「それについては謝罪するわ。私は回りも、自分も見えてなかった」

陸奥「後で幾らでも謝る。だから・・・」

熊野「分かりましたわ。まずはあの厄介な敵を排除しましょう」

鈴谷「・・・分かった」

陸奥「それと鈴谷」

鈴谷「なんです?」

陸奥「私は諦めないから。欲しいのは全部手に入れる」

陸奥「貴女みたいに、他の皆みたいに。欲しいからもう躊躇わない」

陸奥「私は艦娘の戦艦陸奥。もう昔(まえ)とは違うから」

鈴谷「・・・へぇ。良く分からないけど陸奥さん。今良い顔してる」

そう言うと鈴谷は笑う。

陸奥もありがとうと返して笑う。

熊野「では陸奥艦隊、最終決戦・・・ですわね」

陸奥「陸奥艦隊?」

大鳳「旗艦は貴女ですよ?」

一瞬、呆気に取られたが、すぐに気を引き締める。

陸奥「陸奥艦隊、出撃!!」

陸奥は叫ぶ。過去の呪縛を打ち払うように。

大鳳も鈴谷も熊野も大声で「了解」と答える。

彼女達の感情もまた、一定の領域を超えた。

その気迫に泊地水鬼が押され始める。

295: 2015/07/03(金) 02:01:02.07 ID:mYbc1jwR0
陸奥「私だってぇぇ!!!!」

泊地水鬼の攻撃を掻い潜り、主砲で砲撃を加える。

提督を想う気持ちは皆に負けてない。

言葉にして叫ぶことで自信に変わり、それは陸奥の戦意を向上させる。

陸奥「好きなんだから!!! 大好きなんだからっ!!」

砲身が焼きつくんじゃないかと思うくらい連続で撃ち込み、

その全てを泊地水鬼に命中させる。

陸奥「だから諦めない!!  それに提督も愛してるって言ってくれた!!」

鈴谷・熊野・大鳳「「「はぁぁっ!!!?」」」

3人は詳しく問い詰めたい気持ちになったが、とりあえず今は黙ることにした。

泊地「痛い・・・痛いわ・・・アハハハ」

鈴谷と熊野は泊地水鬼の背面に回り、

残り少ない弾薬を全て使い果たす程の激しい砲撃を加える。

陸奥「再生する前に沈める!!!」

大鳳「せめて・・・カートリッジがあれば・・・」

そこへ烈風が飛来する。

大鳳「瑞鶴さんの・・・? あれは!!!」

烈風は大鳳に何かを投げ落とした。

それは艦載機のカートリッジだった。

大鳳「感謝するわ!!」

すぐに装填、航空部隊を展開する。

鈴谷と熊野には三式弾の補充が行われた。

鈴谷「やるじゃん瑞鶴っ!! これじゃもう、五航戦ってからかえないねぇ」

熊野「元々、からかう言葉じゃありませんわよ?」

鈴谷「自分だって使ってたくせにー」

泊地(私が押されている・・・)

296: 2015/07/03(金) 02:01:42.31 ID:mYbc1jwR0
自分が友の南方棲鬼を想うように、

艦娘達もまた大切な人を想い、それが力になっていた。

泊地(悔しいな・・・私の想いより彼女達の想いが勝るなんて)

いや、まだ終われない。終わるわけにいかない。

せめて一矢報わなくては・・・

だが武器弾薬を補充し、士気も高く、勢いづく敵のペースに

翻弄されて防戦一方になる。

泊地「なんだ・・・こいつらの気迫は・・・」

もう爆撃機も、そんなに残っていない。

鈴谷「私たちで道を作るから!!」

熊野「トドメをさしてくださいませんこと?」

迫り来る無数の敵爆撃機を三式弾で薙ぎ払い、

目前の航路上の敵は居ない。

まるで泊地水鬼まで繋がる一本の道のよう。

陸奥は一直線に泊地水鬼へ向かう。

泊地「まだっ!! ナンドだって!!!」

最後に残っていた爆撃機が陸奥に急接近する。

だが、烈風の攻撃により防がれた。

大鳳「行って!!!」

陸奥「ありがとう!!」

泊地「まだっ!!!まだぁっ!!!」

泊地水鬼はかろうじて動いた主砲を放つ。直撃コースだ。当たればひとたまりも無い。

熊野「陸奥さんっ!!」

艤装のエンジンがフル回転する。煙突からは音を立てて煙が噴出される。

陸奥「まだ・・・まだよ。持って、せめてアイツを仕留めるまでは!」

姉が大破させられた攻撃。当たる筈がない。あれは一度見た。

陸奥「ビックセブンを舐めないでっ!!!」

海面を蹴って、戦艦の馬力により宙へ舞い上がる。

泊地水鬼は空を見る。逆光で陸奥の姿はハッキリ見えない。

だが、太陽を背にした姿はとても美しく見えた。

敵だと言うのに見惚れてしまった。

泊地「綺麗・・・」

広がった陸奥の艤装がまるで鳥の翼のように見えた。

泊地「・・・大きな翼」

直後、放たれた砲撃は泊地水鬼に直撃、

遂にダメージが限界を超えて、海面に仰向けに倒れた。

297: 2015/07/03(金) 02:02:33.24 ID:mYbc1jwR0
泊地「まけた・・・ごめんね・・・」

陸奥「最後に言い残すことはあるかしら?」

泊地「・・・どうかしらね」

陸奥「沢山の人間を頃してきたんだから。当然の報いよね・・・」

陸奥は泊地水鬼に砲身を向けるが彼女は笑っていた。

陸奥「何が可笑しいのかしら?」

泊地「別に。私は人間なんて頃してないって思っただけよ。興味がないもの」

泊地「友の仇を討てなかったのは残念だけど、仕方が無いか。もう動けないし・・・疲れた」

陸奥「・・・友? 深海棲艦にも、そんな概念があるんだ」

泊地「・・・貴女達が頃した」

大鳳「誰のことです?」

泊地「南方棲鬼」

陸奥「・・・南方棲鬼? 頃してないわよ」

鈴谷「アンタの知り合いの固体か分からないけどね」

泊地「・・・生きている?」

大鳳「捕虜になってますよウチで」

泊地水鬼はその言葉に不快感を示す。

泊地「彼女に何をしたの? 捕虜にして酷いことを・・・」

298: 2015/07/03(金) 02:03:12.80 ID:mYbc1jwR0
熊野「何もしてなくてよ?」

陸奥「むしろアレを捕虜と言って良いものか・・・」

大鳳「長門さんと将棋して遊んだり」

鈴谷「駆逐艦と鬼ごっこやってたり・・・」

熊野「やたら食堂で美味しい美味しいと言って間宮さんも喜んでましたわ」

陸奥「捕虜と言うよりニート?」

鈴谷「一応監視ついてるし、行動に制限はあるハズだけど割りとフリーダムだよね」

泊地水鬼は混乱した。

何を言っている? そんなことあるハズが・・・

だが嘘を付くにしても、こんな嘘に意味はあるのか疑問だった。

陸奥「というかここに来てるわよ」

泊地「・・・え?」

一隻の艦が近づいてくる。

鈴谷「提督。良かった無事で・・・」

熊野「艦の方は大分損傷してますわね」

その近づいてくる護衛艦のデッキに見知った顔があった。

ずっと氏んでしまったと思ってた友が居た。

泊地「本当に生きて・・・た」

鈴谷(・・・一気に殺気が消えていく?)

泊地水鬼にもう戦う理由も、戦う意思もなかった。

それに影響されてか、海域を覆う瘴気が薄れて行った。

299: 2015/07/03(金) 02:03:59.88 ID:mYbc1jwR0
その頃、鎮守府は荒れていた。

長門大破の連絡があって以降、提督との通信が途切れた。

作戦海域の深海棲艦の瘴気が強く、通信が殆ど出来ないこともあり、

それ以降の情報が入ってこない。

多くの者はすぐに艦隊を編成し、海域に向かうべきだと主張した。

だが、鎮守府で提督の代行を務めていた金剛はそれを制する。

金剛「気持ちは分かりますが、今は待ちましょウ」

一番所属している時間の長い電も同じ意見だった。

電「辛いでしょうが、今は黙って連絡を待つべきだと思うのです」

これに対して一部が反発する。天龍を初め、数名が無断で出撃を試みたが、

事前に察知され、今は執務室に連れて来られていた。

天龍「なんでだよ!! 金剛さん、アンタは心配じゃねーのかよ!!」

金剛「心配に決まっているでショ?」

感情的になる天龍とは間逆で、金剛は非常に落ちついており、

それが天龍の感情を逆なでする。

天龍「じゃあなんで、そんなに澄ましてるんだよ? あ?」

金剛「ただ待つのは辛いデス。ですが、ここで感情的になっては、いらない犠牲を生みマス」

金剛「辛いですが、今は耐える時デス。提督を信じるのであれば・・・尚更」

霧島「失礼します! 朗報です! 提督と通信が回復しました! 全員無事です!!」

この報告で皆は安堵する。

天龍「・・・すまねぇ金剛さん。言い過ぎちまった。流石、提督代行だな」

金剛「やった!! 提ェ督ぅぅぅ!! 信じてましたヨー!!」

金剛は我を忘れてぴょんぴょんと飛び跳ねて大はしゃぎ。

先ほどの冷静だった人物と同一人物と思えないくらいの変貌振りに一同に笑みがこぼれる。

比叡「凛々しいお姉さまも良いですけど、金剛姉様はこうじゃないと!」ハァハァ

それを見ていて面白くない者が居た。

彼女は無言で執務室を後にした。

山城「・・・お姉さま?」

300: 2015/07/03(金) 02:04:49.41 ID:mYbc1jwR0
すぐに後を追う山城。

山城「どうしたんですかお姉さま?」

扶桑「・・・なんでもないわ。ちょっと悔しくて」

山城「悔しい?」

扶桑「金剛さんはずっと提督を信じていた」

扶桑「なのに私は、もしもの事態を想像して先走って海域へ向かおうとした」

山城「・・・仕方ないですよ」

扶桑「あの状況で最後まで信じていた金剛さんに・・・負けたって・・・」

扶桑「そう思うと劣等感を感じちゃってね・・・」

扶桑「あろうことか、憎悪を金剛さんに抱いてしまった」ハイライトオフ

扶桑「本当に嫌な女ね。私は・・・」

扶桑「だから・・・あの場に居れなかった。情けなくて。惨めで」

山城「姉様っ!!」

山城は扶桑を抱きしめる。強く、強く。

扶桑はただ自分が情けなくて泣いた。

そして誓う。

金剛には絶対負けない。

何時か、提督から代行を自分が言い渡されるくらい信頼されて、

彼女よりも活躍して・・・

戦いも、恋も、金剛には負けたくなかった。

頑張ろう。もっと・・・もっと、今よりも。

人を羨んで、嫉妬する自分とは決別しよう。

扶桑「ごめんなさいね、心配させて」

山城「大丈夫です! もっと頼ってください。姉妹なんですから・・・」

扶桑「山城・・・ありがとう」

山城「頑張りましょう。2人で・・・」

山城(でも・・・提督は一人・・・)

山城(もしも・・・私達姉妹が勝ったとして・・・)

山城(提督は私と姉様・・・どっちを選ぶんだろう・・・)

そう考えていくウチに心の奥底で思ってしまった。

姉が大好きなハズなのに、姉の幸せを願うハズなのに。

―――姉さまじゃなくて私が選ばれたら良いのに。

そんなことを思っている自分が居た。

山城「・・・・・・」ハイライトオフ

扶桑「・・・山城?」

山城「なぁに姉様?」

扶桑「どうしたの? 様子が変だったけど」

山城「・・・なんでもないわ。姉様」

今は考えないようにしようと山城は思った。

じゃないと、大好きな扶桑を今までのように見れなくなるから。

それは山城にとって、とても恐ろしいことだった。

301: 2015/07/03(金) 02:05:45.28 ID:mYbc1jwR0
護衛艦 雷電Ⅱは鎮守府に向かい帰路に付いていた。

提督「で? どうなんだクラインフィールドは」

明石「使えて後4~5回ですね。本家と違い、これは技術を一部利用した模造品ですから」

出来れば使うことなく居たかった。

群像は使い方に気をつけて欲しいと言った。

この技術を上層部に引き渡した結果、量産が可能であれば人類側に取って大きな力になる。

だが、人類側も一枚岩ではない。

その結果、面倒な騒動になりかねないし、深海棲艦との戦争が終わった後に

政治的取引で他国に渡り、他所の国で軍事利用され、最終的に人類同士の戦いに使用されるのも恐い。

明石「そもそもですけど、量産は多分不可能ですよコレ」

提督「使われている素材のせいか?」

明石「それもありますけど、制御コアも1個しかないですし、コアの複製は無理です」

提督「さて・・・どう報告すべきか・・・」

明石「しなくていいのでは?」

提督「そういうワケには・・・」

明石「提督、貴方は深海棲艦との戦争を終わらせると言いました」

提督「ああ、言った」

明石「その為には、これは必要だと思います。例え後、数回しか使えなくても切り札になる」

明石「ヘタに報告して、上に持っていかれるよりも、ここは利用しましょう」

明石「今までの世界を変えるんです、これくらいは持って置かないとキツイでしょうし」

提督「・・・・・・」

明石「それに、これは提督。軍ではなく群像氏から貴方個人に託されたモノです。でしたら最後まで責任を持つべきかと」

明石「他者の手に委ねるものではありません」

提督「・・・本音は?」

明石「もっと色々弄りたいし、工房に査察にでも来られたら色々まず・・・はっ!!?」

提督がジト目で見ていた。

明石「酷い!! 図りましたねっ!!?」

提督「勝手に自爆したんだろ」

明石「じゃあ、お詫びに結婚してください!」

提督「いや、まだレベルの限界値に達して無いだろう」

明石(カッコカリの方じゃないんだけどなぁ・・・勢いで言うのは無理そうですねぇ)

明石「おふざけはこの辺にして、言ってることは理解してほしいです。群像氏だって提督を信頼して渡したのですから」

提督「・・・そうだな。彼の期待を裏切るわけには行かないな」

結果、暫く霧の技術を保持していることは秘匿されることになった。

だが提督は知らなかった。艦娘の一部が超重力砲を勝手に保持してることを。

明石(色々上にバレたら面倒ですし・・・本当に)ハイライトオフ

302: 2015/07/03(金) 02:06:28.28 ID:mYbc1jwR0
護衛艦内の一室。

泊地「良かった。無事で居てくれて・・・」

南方「なんか悪いわね。心配させて」

泊地水鬼は既に戦闘意思は無く、望んで捕虜になった。

武装は解除され、現状戦う術は持たない。

南方棲鬼の心境は複雑だった。

かつての記憶が蘇り、艦娘だった頃の記憶はあるが、

南方棲鬼としての記憶も持ち続けていた。

泊地水鬼は深海で出来た友人であった。

あまり友人という概念が無い深海棲艦同士ではかなり異質な関係。

彼女のことは悪く思っておらず、素直に再開を喜んだ。

南方「じゃあ私は行くから、鎮守府に付くまで大人しくしててよ?」

泊地「りょーかい」

南方「じゃあまたね」

泊地「・・・また会いに来てくれる?」

南方「ええ、会いに来るわ」

その言葉に安堵して泊地水鬼は眠りについた。傷ついた体を癒すように。

長門「まさか奴も捕虜になるとはな・・・」

南方「複雑? 大破させられたものね」

長門「あれは私の油断からだ。情けない。次はこうはいかんぞ」

南方「頼もしいわね」

今回の泊地水鬼は様々な要素が入り混じり、偶発的に発生したもので、

通常のレベルの艦娘であれば勝ち目なんて無かった。

最初の一撃で轟沈し、さらに他の者も次々沈んでいただろう。

しかし全員戦い抜き、生き残っている。

長門達は気付いていない。自分達がとっくに艦娘の限界値を大きく逸脱した強さになりつつあることに。

南方(深海棲艦も進化している。しかし、艦娘もまた進化をしている)

現代の艦娘と自分が現役だった頃の艦娘では艦種は同じでも、性能は大きく異なっていた。

南方(これなら・・・アイツを倒す事だって・・・)

303: 2015/07/03(金) 02:07:18.47 ID:mYbc1jwR0
艦内の提督室。

南方「と言うわけで泊地水鬼は無力化されているので問題はないわね」

提督「そうか。ありがとう」

南方「捕虜に捕虜の監視させないでくれない?」

榛名「すいません、現状、人手不足でして」

提督「殆どが入渠中でな・・・」

艦内にある仮設の艦娘用の入渠ドックに、戦闘に参加してダメージを受けた者が入っていたことと、

無傷の者も戦闘で受けた艦内の損傷箇所の応急修理に追われており、

単純に人手が足りないこともあって、南方棲鬼を信頼して任せてしまった。

妖精の乗員は多々いるものの、流石に妖精にそのような仕事は割り振れなかった。

南方「あんまり無作為に信用するものじゃないわよ?」

提督「誰でも信用するワケじゃないさ。何度も会話をした貴女だから任せても良いと思った」

提督「これでも、人を見る目には、そこそこ自信があるつもりだ」

その言葉が堪らなく嬉しかったが、あえて感情を頃し、必要なことだけを述べる。

本当はすぐにでも抱きしめたい。すぐにでも自分の正体を明かしたい。

貴方の母であると。

貴方は大事な、大事な・・・私の息子であると。

愛しい我が子が、立派に成長した姿を見れると思わなかった。

なんていう偶然。こんなことがあるなんて。

でも、それを言うことは出来ない。

言ってはいけない。

提督「それと陸奥、よくやってくれた」

陸奥「艦娘として、貴方の部下として、当然のことをしただけよ?」

提督「・・・ふっきれたようだな」

陸奥「提督の声が、言葉が・・・私を押してくれた。貴方のおかげよ」

提督「いいや、元々の陸奥の力だよ」

陸奥「・・・ありがとう」

提督「大戦中の軍艦は殆どが損失している。つまり皆、一度氏んでいるんだ」

提督「だから誰だって程度の差はあれど、何かしらの葛藤、想い、恐怖を抱えている。トラウマって奴だな」

提督「けど君も、他の子も、新しい命を得て今を生きている。いくらでもこれから克服出来るんだ」

304: 2015/07/03(金) 02:08:26.10 ID:mYbc1jwR0
陸奥「うん。私はもう大丈夫。・・・前に進める力を貰ったから。」

陸奥は敬礼すると、部屋を後にした。

陸奥「それと・・・私も・・・愛してるから!」

と顔を真っ赤にして爆弾発言を残して。

榛名「・・・どういうことですか? 提督?」ハイライトオフ

南方(すごい・・・殺気・・・)ゾクッ

提督「・・・さぁ?」

提督は身に覚えはなく、なんのことか良く分からなかった。

その後、南方棲鬼は部屋を出て、割り当てられた自室へ向かう。

途中、窓に映る自分の姿を見て立ち止まる。

深海棲艦、南方棲鬼。

色白の肌。赤く輝く瞳。

人の姿をしているけど、人とは違う人外の姿。

南方「こんな姿になって・・・」

直接ではないが、結果として間接的には、

人を頃しに関わっていた。

かつて同胞だった艦娘を頃した。

沢山頃した。

南方「どうやって・・・」

あまりに血で汚れすぎた手。

南方「あの子を抱きしめればいいの・・・?」

再会出来たのは嬉しい。

だけど、名乗る資格も、勇気も無かった。

拒絶されるのが恐い。

南方棲鬼はただ泣いた。

それを自室に戻る途中だった榛名と明石が偶然目撃した。

榛名「・・・どうしました?」

明石「なんか深刻そうな顔してますけど、どうしたんで?」

南方「・・・・・・なんでもないわ」

305: 2015/07/03(金) 02:09:12.48 ID:mYbc1jwR0
榛名「・・・ひょっとして記憶が?」

南方「・・・」

南方棲鬼は無言で頷いた。

明石「本当ですか!?」

南方「でも言えない、言うワケにはいかない・・・」

榛名「すいません、かなりの自由を与えられて居ますが、貴女は捕虜だと自覚してますか?」

明石「話せる範囲で良いから後日、聞かせて頂けませんかね?」

艦娘が沈み、深海棲艦になる。多くの者がそうに違いないと考えているが未だ立証されてない。

それもそのハズ、過去一度も深海棲艦を捕虜として良好な関係を築き、会話をするに至った例はないからだ。

明石は南方棲鬼の生前の記憶を聞き、それを過去の記録と照らし合わせ

検証することに興味があった。

南方棲鬼は少し悩む仕草を見せるものの、話し始めた。

南方「そうね・・・少なくても榛名、私を打ち負かした貴女には聞く権利があるでしょうね。私を生かしたのは貴女だもの」

榛名「では聞かせて頂けるのですか?」

南方「だけど、あの子には・・・提督には言わないで欲しい。・・・って無理よね。貴女達は彼の部下なんだから」

明石「何故、提督に言わないで欲しいのですか?」

榛名「・・・内容によりますね。何か事情があるのでしたら検討はしますが・・・」

南方「それは・・・・私が・・・」

言うのか? 言っていいのか? 何度も踏み止まる。

知られたら・・・どうなる?

あの子の耳に入って真実を知ったらどうなる?

恐い。拒絶されるのが・・・

こんな姿になって尚、我が子を愛すのは罪でしょうか。

受け居られたいなんて甘い幻想を抱くのは罪でしょうか。

ねぇ・・・アナタ。

亡き夫に語りかける。

南方(私に力をください。ほんの少しの勇気を・・・)

恐怖や葛藤を飲み込んで、一歩を踏み出す。

南方「生前、私があの子の・・・提督の母だったからよ」

言った。言ってしまった。もう引き返せない。

榛名「・・・・・・え?」

明石「・・・その話、詳しく聞かせてもらえますか?」

南方棲鬼は頷くと3人で明石の割り当てられている部屋へ向かう。

彼女の部屋は、工作部屋も兼ねており、他の者の部屋と距離があって聞かれずに済むと思ったからだ。

だが、偶然通りかかって聞いてしまった者が居た。

瑞鶴(・・・どういうこと? あの深海棲艦が・・・提督さんの母親?)

306: 2015/07/03(金) 02:10:28.55 ID:mYbc1jwR0
艦内、明石部屋。

明石「結論から言えば、ありえない話ではありませんね」

榛名「提督のお父様も提督で、母親は元艦娘だった、それは皆知ってましたけど・・・」

明石「貴女から聞いた戦闘の場所、時間、敵の戦力、味方の戦力、喪失した艦・・・」

明石「証言の全てが過去の記録と一致してます」

南方「よく調べたわね・・・」

明石「提督は自身のことを多く語らないので、以前調べたことがあります。調べたのは青葉ですが」

南方「私の現役時代も青葉は新聞を作ったり、情報通だったけれど・・・」

榛名「時代が違えど、同じ艦種の艦娘だと行動パターンが似るんですね」

南方「でも、これは海軍の方で公開を規制してるモノよ? そんなことまで調べられるの?」

明石「ウチの青葉ですと、ハッキングとか普通にやるんで」

南方「・・・犯罪よそれ。でも電子化されてたかしら」

榛名「そういう場合ですと川内さんが青葉と連携して動いてます」

明石「そこに情報が確実にあって、提督に関してのことだとすれば法律とか関係ないですよ」

榛名「ですよね?」

南方(・・・なんなの最近の艦娘は過激と言うか・・・すごいわね)

何を当然のことを?とでも言うような感じでトンデモないことを言い出す2人に

南方棲鬼は開いた口が塞がらなかった。

南方「それにしても、川内が改2ねぇ・・・私の時代は無かったけど」

南方棲鬼の現役時代は、改2とは一部の艦のみに先行実装されていたモノであり、

皆の羨望を受ける特別な存在だった。

響、夕立、五十鈴とほんの一握りくらいしか居なかったものだ。

南方(それだけ技術が上がっていると言うことかしら)

明石「話を元に戻しますと、貴女の証言は、ほぼ間違いないと思います」

最も、もう少し詳細に調べたい所ですがと付け加えた。

榛名「・・・では本当に?」

明石「確定でしょうね。凄い偶然です。時を隔てて我が子と対面とは・・・」

307: 2015/07/03(金) 02:11:17.81 ID:mYbc1jwR0
榛名と戦い、捕虜となり、今回の戦闘で記憶を取り戻す。

それは天文学的な奇跡。

南方「私自身が驚いているから・・・」

榛名「そういう事情でしたら、提督には言いづらいですね。お義母さまの気持ちを察すると」

南方「・・・ありがとう」

南方(・・・うん? お義母さま?)

明石「それに、もうひとつの証拠がソレですよ」

明石は壁に固定されてるモノを指差す。

榛名「・・・艤装?」

明石「それは、元帥さんから提督が頂いたモノ。分かりますよね?」

南方「ええ、それは私の艤装。婚約を期に、人間になって不要になったモノね」

明石「貴女の鎮守府にあったもので処分されるハズだった・・・」

明石「しかし、元帥さんが独自に保管し、貴女の子供である提督に渡した。形見のつもりだったのか分かりませんけど」

榛名「それがどう、証拠に繋がるんですか?」

明石「同じ艦の艤装でも、持ち主本人じゃないと動かせないんですよ。それが動いた・・・」

榛名「なるほど。元、お義母さまの艤装だから反応して動かせたと」

明石「普通は解体処理された時点で認識出来なくなるハズなんですけどね・・・」

南方(・・・あれ? やっぱりお義母さまって呼ばれてる?)

南方「それを動かしたのは私じゃないわ・・・恐らく・・・」

明石「・・・え?・・・いや・・・まさかっ!!?」

南方「多分、そう。どうしてかは分からないけど」

明石「でも人間が・・・半分は貴女の血が流れている・・・いや・・・でもっ」

榛名「・・・もしや提督が?」

南方「本来は絶対無理よ。認識すらしないでしょうね。でも、あの場で何かが起きた・・・」

明石「・・・一体何が?」

南方「分からない。あの子自身、動かした認識なんてないでしょうし」

榛名「でも、人と艦娘のハーフなんですよね? だったら何か特別な力があるのかも」

そんな提督もステキです!!と榛名は息を荒げて語るが話が進まないので明石はスルーした。

308: 2015/07/03(金) 02:11:57.44 ID:mYbc1jwR0
明石「そもそもですね、艦娘との間に子供を授かるってあまり実例がないんですよ」

体の構造は人間の女性と然程変わりは無い。艤装さえ装備しなければ人と変わらない。

だけど、出生率は恐ろしく低かった。

明石「それも生まれて、成人してるのは提督ただ一人・・・検証するにもデータ不足すぎます」

南方「とりあえず、信じてはくれたと取っていいのかしら?」

明石「はい、お義母様。明石は信じました。他言無用にしますのでご安心を」

南方(この娘もお義母さまとか言い出した・・・)

榛名「とりあえずは報告致しません。ですが、お義理母様、いずれは・・・」

南方「・・・もう少し時間が欲しい」

明石「そうですよね・・・」

榛名「分かりました。・・・誰ですか? そこに居るのは?」

明石「え!? 誰かに聞かれた!?」

榛名「5秒あげます。出てこない場合は敵と見なし攻撃します」

南方(艤装を瞬時に展開した? やっぱり、この娘・・・戦い慣れしすぎてる!?)

瑞鶴「待って!! ストップ!! 私!! ごめんなさいっ!!」

明石「・・・盗み聞きですか?」

瑞鶴「ごめんなさい。偶然、耳に入っちゃって・・・そんなつもりじゃ・・・」

榛名「このことは他言無用です。お義母さまが自分の意思で提督に話すまでは・・・」

榛名「提督の心を不用意に乱すようでしたら・・・」ハイライトオフ

瑞鶴「分かった!! 分かったから、主砲をこちらに向けないでっ!! なんか今、弾を詰める音がした!!」

明石「私も榛名さんも口は固いですけど・・・」

瑞鶴「もちろん誰にも言わない!! 私も!! 五航戦の名にかけて!!」

榛名「では、時期が来るまで他言無用ということで良いですか? お義母様」

南方「え? ええ、皆、ありがとう」

309: 2015/07/03(金) 02:13:17.72 ID:mYbc1jwR0
一方、陸奥と長門は自室で休養していた。

陸奥「ごめんなさい」

長門「ん? ああ、話は聞いた」

陸奥「私、ずっと貴女の影に隠れてただけだった」

長門「そんなことはないよ。よくやってくれた」

陸奥「もうさ、つまらないことに悩まないわ」

長門「自分なりの結論が出たみたいで良かったよ。それと何かあれば相談くらいしろ。姉だぞ私は」

陸奥「・・・そうよね。ごめんなさい」

長門「それ禁止な」

陸奥「何を?」

長門「謝ることだよ。自分が間違っていたと感じるなら・・・」

長門「これからの行動で示していけばいい。結局、起こした行動と、出した成果こそが周囲を納得させるものだ」

長門「提督の言葉だがな・・・」

陸奥「そうよね・・・ありがとう」

陸奥「もう迷いはないわ。戦いも・・・恋も・・・負けない」

長門「そうだ。それでいい」

陸奥「私が本気を出したら提督盗られちゃうかもよ?」

長門「それはどうかな?」

長門は不適に笑う。

長門「姉妹同士で盗りあうのも悪くない。容赦はしないぞ?」

陸奥「こちらこそ」

そして陸奥は言った。

陸奥「よろしくね? お姉ちゃん?」

長門「っ!!!」

その発言で長門は固まった。

普段は『長門』と呼び捨てにされていたので、突然のお姉ちゃん呼ばわりに非常に弱く、

たまにに陸奥に遊ばれることがある。

陸奥「・・・顔真っ赤よ長門。相変わらず、この呼び方に弱いわね・・・ふふっ」

陸奥はニヤニヤと笑う。

陸奥「お姉ちゃーん?」

長門「・・・なんか照れくさい」

長門(だが、陸奥も心に余裕が出来たということだ。良かったな・・・)

陸奥を見つめる長門の目はとても優しかった。

310: 2015/07/03(金) 02:15:08.83 ID:mYbc1jwR0
それから何事も無く、無事に鎮守府に戻った。

鎮守府から護衛艦、雷電Ⅱが目視で確認できると、

艦娘達は皆喜んだ。

だが、次第に近づいてくる護衛艦の損傷具合を見て一同は唖然とする。

さらに、提督が怪我をしたという事実は艦娘全員に取って衝撃的なことであった。

その怒りは現在、ステビア海、奥地に展開する深海棲艦へ向けられた。

金剛「出撃するヨ?」

その言葉に皆頷いた。

海域の瘴気が薄れ、問題なく戦地との通信が回復した今、

提督がわざわざ前線に出向く必要はない。

鎮守府内から指揮を執ってもらえばいい。

金剛「たっぷり・・・お礼して・・・あげるデース」ハイライトオフ

時雨「・・・血の雨は何時か止むさ」ハイライトオフ

『ころせ!!』『みなごろしにしろー!!』『ほうふくだー』

最終攻略目標への出撃は連合艦隊での出撃になる。

選抜されたメンバーは皆、喜んだ。

嬉しかったのだ。提督を酷い目に合わせた深海棲艦を叩き潰せるのが。

報復する権利を得たことを・・・・・・

ともあれ、色々あったが、

アンズ環礁泊地攻撃作戦は味方に大きな損失なく、作戦を完了させたのだった。

323: 2015/07/04(土) 16:11:46.58 ID:gvHX4Jev0
ステビア海・・・

ここでは、今回の軍事行動の責任者である、

戦艦水鬼が部隊を展開させていた。

周囲に展開していた部隊は次々壊滅し、彼女はとてもイライラしていた。

戦艦水鬼「まったく!! どいつもこいつも!! 役に立たないガラクタどもめ!!」

その時、誰かが叫んだ。

『艦娘だ!! 艦隊が!!』と

ここ数日、何度も戦闘があったので珍しくも無い。みんな追い返したじゃないか。

むしろ、何故そんなことで叫ぶ?と疑問に思った。

『・・・奴らだ!! あの鎮守府の連中だ!!!』

『落ち着け!! 陣形を乱すな!!!』

途端にパニックになる。

先だっての戦闘で撤退した残存勢力も合流し、使っていたのだが、そういった者達から

恐怖が伝染していったようだ。

戦艦水鬼「何を慌てている!! 敵が誰であろうと関係ない! 殲滅しろ!!」

『撃ってきた!!!』

『応戦しろ!! おい!! うわぁぁぁ!!?』

『ああああ!! 腕が!! 私の腕が!!』

『バカ!! 後ろだ!!!』

『援軍を!! 至急援軍を!! もう持たない!!』

ギャー ワー ニゲロー

『白い奴だ!! 奴を落とせ!!』

『はっ・・・はははっ榛名だ!! 舞鶴の戦艦榛名だ!! にっにげろーーー!!!』

『せっ戦艦が飛んだっ!!?』

『いや、ジャンプしてるんだ!!』

『バケモノめっ!!』

『あれが・・・航空戦艦・・・ぎゃっ!?』

『第3艦隊全滅、第4哨戒班、連絡途絶!! 全滅です!!』

聞こえてくる通信は悲壮なものばかり。

第一艦隊は利根を旗艦とした榛名、扶桑、山城、金剛、加賀、

第二艦隊はビスマルクを旗艦とした時雨、初霜、大井、木曾、川内、

の12名からなる連合艦隊だ。

一同、異様に士気が高く、深海棲艦の部隊は一方的に殲滅され続けた。

提督の負傷が艦娘達に衝撃を与え、その怒りを今回の作戦にぶつけていたのだ。全力で。

324: 2015/07/04(土) 16:12:16.14 ID:gvHX4Jev0
扶桑、山城も先日の思うこともあり、金剛に負けじと奮戦した。

扶桑「行くわよ。山城・・・」ハイライトオフ

山城「ええ、姉さま・・・」ハイライトオフ

航空戦艦は伊達ではないとばかりに空を敵を殲滅。

今回の出撃は、まだ護衛艦の修理が終わってないこと、

提督が負傷していることから作戦の一時中断を考えたが、

金剛が提督に出撃を具申した。

最初は渋ったものの、海域を覆う瘴気が薄れ、通信が回復したこともあり、

最終的に出撃が許可された。

南方棲鬼の意見では、海域を覆っていた瘴気の元は泊地水鬼にあり、

彼女の異常は収まったので、瘴気が薄れたのでは?とのことだった。

そういうわけで現在は、提督が鎮守府の医務室から指揮を執っている。

金剛「たっぷり・・・報復しないとネー」レベル150

榛名「そうですよね! 提督を傷つけたんですから!! 命で償って貰わないと」レベル148

時雨「うん・・・確実に仕留めないと。絶対沈めてあげるからね」レベル150

中でも、この3人は特筆して戦闘レベルが高く、一部の深海棲艦は戦う前から戦意を喪失していた。

3人とも目に光が宿ってなかった。あるのは徹底した殺意。

榛名と金剛の姉妹の連携による砲撃を受けた者は姿を完全に消滅させた。

特に恐れられたのが時雨。

駆逐艦であるにも関わらず、彼女は一部の深海棲艦から恐怖されていた。

あれは何時だったか・・・そう、2月ごろ。

出撃した時雨はちょうどバレンタインの時期でありチョコレート作りの最中だったので

ろくに武装も持たず、チョコをかき混ぜながら戦闘に参加していた。

無論、提督はそんなこと一切関知していない。

深海棲艦側は最初、その姿に憤怒し、執拗に攻撃を加えたが一切を通さず、

恐ろしい強さで当時のボスが瞬殺されて心が折れたと言う。

お菓子作りの片手間に沈められる。じゃあ彼女が本気で武装して戦闘したら?

それを想像すると当時生き残った深海棲艦達は皆震えだした。

325: 2015/07/04(土) 16:14:12.60 ID:gvHX4Jev0
加賀「余所見をしてていいんですか?」ハイライトオフ

加賀の放つ攻撃隊は栄光の一航戦。

空戦の実力は他の追随を許さない。

初霜の対空能力も敵の航空戦力を確実に削っていく。

初霜「よくも!! 提督を!! 沈みなさいっ!! シズメ・・・」ハイライトオフ

大井と木曾による先制魚雷は戦闘開始と共に敵の戦力の大半を無力化した。

大井「ころしてやる・・・」ハイライトオフ

木曾(姉貴こえぇ・・・)

川内(改2)のトリッキーな戦法も深海棲艦側を大混乱に陥れた。

川内「ホントは夜戦したいけどさ・・・今は・・・」

『ニンジャ!! ナンデ!!』 『タスケテー!!』

川内「さっさと頃したいんだよね・・・提督を傷つけてさ・・・ゆるさないよ?」ハイライトオフ

縦横無尽に海上を駆け抜け次々に仕留めていく。

川内が駆けると、その通り道に居た深海棲艦の首が宙を舞う。

切り離された頭がポチャポチャと海面に落ち、少し遅れて体が倒れ、沈んでいく。

大井「なんだ。ただの夜戦バカじゃないんだ」

川内「なに? アンタも沈みたいの?」

大井「・・・やってみる?」

川内「・・・良い度胸じゃん」

大井「・・・来なさいよ」

木曾「やめろって!! 姉貴も!!」

326: 2015/07/04(土) 16:14:48.93 ID:gvHX4Jev0
これを機と一斉に襲い掛かる深海棲艦。

3人「「「邪魔」」」

しかし、攻撃は届かず、全て轟沈した。

あちこちから深海棲艦の悲鳴と、爆発音だけが響き渡る。

『うわぁぁぁ!?』『溶ける!!体が!!』『なんだ!? 化学兵器か!?』

ビスマルク「次っ!!!」

放つは特殊弾頭。夕張から拝借した。

比叡のカレー、磯風のクッキー(自称)が弾頭に仕組まれていた。

ビスマルク「恐ろしい威力ね・・・使用を禁止されただけはあるわね」

初霜(無許可で持ち出して良かったのかしら)

ビスマルク「でも容赦しないわ!! アトミラールのあだ討ちはさせてもらうわ!!」

利根「ふむ。順調すぎるの」

時雨「後ろだよ」

利根「分かっておる」

大きく迂回し、利根を背後から狙っていた敵の重巡2隻。

1隻は利根が振り返りもせずに砲撃して爆破、轟沈。

完全に奇襲のつもりでいたので足が止まる。

爆破して飛んで来た敵の破片の鉄屑を時雨が掴み、くるりと回転して勢いを付けて

足の止まったもう一隻に投げた。

鋭利な鉄の塊は敵重巡の腹部に刺さり、痛みに顔を顰める。

時雨「ばいばい」

魚雷が吸い込まれるように敵重巡に命中、轟沈した。

利根「あらかた片付いたか」

時雨「そうみたいだね」

327: 2015/07/04(土) 16:15:31.03 ID:gvHX4Jev0
先程まで鳴り響いていた砲撃音は消え、途端に静かになった。

戦艦水鬼「どうなっている? 戦況は?」

通信は返ってこない。

戦艦水鬼「おい! 応答しろ!!」

イ級「やられたのでしょうか」

不気味なほどの静寂。

何かが見えた。こちらに向かってくる艦影。

それは艦娘達。

戦艦水鬼「・・・まさか全部隊・・・全滅ぅ!!?」

慌てて部下に命じる。

戦艦水鬼「奴を連れて来い!!早く!!!」

利根「主がここの大将かの?」

戦艦水鬼「・・・そうだと言ったら?」

榛名「消えてもらいます」

一斉に攻撃態勢に入る。

戦艦水鬼「ちょっと待った!!!」

利根「なんじゃ? 命乞いか? 見苦しい」

戦艦水鬼「ヘタに動くとコイツを頃すぞ!!」

秋津洲「たっ助けて欲しい・・・かも・・・」

川内「・・・誰?」

大井「新しく見つかった艦娘かしら」

利根「見ない顔じゃな」

榛名「・・・・・・」

榛名は金剛を一度伺い、金剛は川内に視線を送る。それに対して川内は頷いた。

戦艦水鬼「偶然見つけてね。人質に取らせてもらった。動いたらコイツの命は・・・」

木曾(これは迂闊に動けない・・・どうすんだ・・・)

だが、泊地水鬼は最後まで言い終わらなかった。

戦艦水鬼「わぎゃっ!?」

秋津洲「きゃぁぁぁぁ!?」

榛名が泊地水鬼の顔面に向けて副砲で砲撃したのだ。

木曾「おぃぃぃぃぃぃっ!!!? なんで!? なんで今、撃ったの!!?」

金剛「川内!!」

川内「もう回収したよっ」

一瞬の隙をついて、川内が秋津洲を回収していた。

利根「艦隊、敵を殲滅するのじゃ」

328: 2015/07/04(土) 16:16:18.91 ID:gvHX4Jev0
木曾「え? そういう作戦?」

大井「いいから戦闘に集中しなさい」

木曾「あれ? 俺が変なの? 言わなきゃわからねーよ!」

川内「いや、目線で・・・気付かなかったの?」

木曾「気付くか!!」

秋津洲「え? あれ?」

初霜「大丈夫でした? すぐ済みますから待っててくださいね」

秋津洲は混乱した。

そして、彼女達が同じ艦娘なのに、とても恐ろしかった。

秋津洲の目には皆、目が異様にギラついて見えた。

その後、戦闘が始まる。 一方的な殲滅戦。

秋津洲「あ・・・あああ・・・」

砲撃の度に、深海棲艦が断末魔の悲鳴をあげてバラバラになる。

何かが飛んできて目の前にボチャンと沈む。

秋津洲「ひっ!!?」

秋津洲(今・・・敵の頭が・・・目があっちゃった・・・)

時雨「右翼の敵、任せて。行くよ扶桑、山城」

扶桑「分かったわ」

山城「目にモノ見せてあげるわ・・・」

轟音が響くたびに、数隻の深海棲艦が海の藻屑になる。

恐怖が伝染し、一部では既に敗走を始めていた。

戦艦水鬼「貴様ら!! 勝手に撤退するなっ!! 逃げる者は頃す!!」

秋津洲の顔に何かがベチャッと掛かった。

秋津洲「なに・・・これ・・・?」

手で頬を拭う。手に付くのはド口リとした液体。

それは深海棲艦だったモノの体液だろうか。

秋津洲「うわあああああああああーーーーーーっ!!!!?」

慌てて付着した汚れを振り払う。

木曾「何だ?・・・恐怖で錯乱したのか?」

砲撃の度に深海棲艦はグロテクスで歪なオブジェクトに変わる。

ここに居たら氏ぬ。私は氏ぬ。

そう感じるほどの地獄絵図。

気が付いたら海域に居て、敵に捕まり、人質にされて・・・

それで氏ぬ? 生まれてすぐに? 冗談じゃない!!

秋津洲「嫌だぁ!! 私、氏にたくない!氏にたくない!氏にたくない!氏にたくない!!」

リ級「オマエも艦娘か!! 逃がすか!!」

戦場から逃走を図ろうとして、右手を掴まれた。

329: 2015/07/04(土) 16:17:04.73 ID:gvHX4Jev0
リ級「どうせ氏ぬなら一人でも多く・・・がっ!?」

そこへ、クナイのような刃物が飛んできて、リ級の腕は切り裂かれた。

秋津洲「わきゃっ!?」

川内「危ないよ! 下がってて!!」

リ級「くそぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

川内「氏ね」

喉仏に刀を突き刺し、そのまま力任せに下へ切り裂く。リ級は息絶えて沈んだ。

川内「大丈夫だった?」

秋津洲「あ・・・はい・・・」

優しい笑顔を浮かべ、心配してくれる。良い人なんだろうけど・・・

笑顔で返り血を浴びている姿はどこか非現実的で、ただただ恐ろしかった。

秋津洲「なんだろう・・・腕に感触が・・・?」

腕に違和感を覚え、ふと目をやると・・・

そこには先程、腕を切り落とされたリ級の手だけが残り、秋津洲の腕をがっしり掴んだままだった。

秋津洲「ひっーーーー!!!?」

そこで秋津洲の意識は途絶えた。

秋津洲に取って幸いだったのは、艦娘であることだった。

生存し、艤装を装着している限り、気絶し、倒れても海中に沈むことはないからだ。

川内「気絶しちゃった・・・」

その後、戦艦水鬼は一方的に嬲られたが・・・

イ級「戦艦水鬼様!? 何を!?」

戦艦水鬼「うるさいっ!! 身代わりになりなさい!」

イ級「うわぁぁぁぁ!?」

後一歩で轟沈する所を部下を盾にして逃げ出した。

その姿は情けなくて自分でも涙が出た。

戦艦水鬼「覚えてろよ!! 後で沢山悪口言ってやるからな!! バーカ!!バーカ!!」

加賀「ああいうのを負け犬の遠吠えって言うんでしょうね」

榛名「追撃して始末します? それに、この距離ならまだ射程圏内です。当てられます、殺れます」ハイライトオフ

利根「ふむ・・・どうするかの」

金剛「私を伺わなくてもいいデスよ? 今の旗艦は利根でス」

加賀「提督から通信、追撃しなくて良いとのことです」

利根「そうじゃな・・・この海域の奪還という大本営の出した目的は達成されたし、これで良いと思うぞ?」

時雨「追撃はしない、了解。これで今回の作戦は全て終了したね」

戦艦水鬼「追ってこない? 助かった・・・なんだあいつ等・・・ヤバすぎだろ・・・」

自分の中では過去に類を見ない酷い敗北だった。

戦艦水鬼「見てろよ!! すぐに残存兵力を集めて戦うぞ! あいつ等以外の艦娘共とな!!」

半泣きで高笑いをしながら戦艦水鬼は戦線を離脱していった。

330: 2015/07/04(土) 16:18:03.80 ID:gvHX4Jev0
秋津州「ああああああ・・・あわわわ・・・」

利根「すごい震えておるの。顔が真っ青じゃ」

川内「どうしたの? やっぱり人質に取られて恐かったのかな?」

榛名「もう大丈夫ですよ」

秋津洲(言えない・・・貴女達が恐いなんて・・・)

帰る道中で起きた小規模な戦闘でイタリア艦のローマを保護して

艦隊は無事帰還した。

利根「戻ったぞ!」

戻ると執務室には明石、南方棲鬼、瑞鶴、長門、大淀が居た。

提督「お帰り。皆、お疲れ様」

金剛「何をしてたんデス?」

提督「この前の作戦の報告書を纏めてたんだ」

利根「なるほど。前回出撃していた者達じゃな」

ビスマルク「ねぇアトミラール、もっと私を褒めてくれてもいいのよ?」

提督「ビスマルクもお疲れ。怪我は無いな?」

ビスマルク「当然でしょ?」

提督「どうした? 頭を出して・・・」

ビスマルク「特別に撫でさせて上げるわ! 撫でなさい! さぁ!!」

提督「・・・なんで上から目線なの!?」

提督は苦笑しながら、優しく頭を撫でる。

外人特有の綺麗な金髪。

提督「・・・何時見ても、とても綺麗な髪だな」

ビスマルク「とっ当然でしょっ! ///」

とても脆く、壊れやすいものを触るように、優しく、優しく撫でる。

他の艦娘「・・・・・・」ハイライトオフ

331: 2015/07/04(土) 16:19:26.26 ID:gvHX4Jev0
ビスマルクは体をビクンッと震わせて恍惚の声を上げた。

大井(・・・イッたわねアレ)

南方(まさか・・・あの子、何時も艦娘にあんなことを・・・)

南方(しかも本人は自分に恋愛感情を向けられていることを自覚してない・・・)

南方(夫も鈍かったけどここまでじゃ・・・何時か刺されるんじゃないかしら)

南方(誰よ・・・ウチの子を教育したバカは・・・)ハイライトオフ

その頃、横須賀鎮守府では元帥が大きなクシャミをしていた。

南方(思えば、私も夫と恋人になるまで壮絶な戦いがあったけ)

南方(あの時は鎮守府が半壊したけど・・・この子達の場合はどうなるのかしら)

南方(歴史は繰り返す・・・か・・・)

南方「ふっ・・・」

瑞鶴「どうしたんですか? お義母さま?」

長門「・・・ん? お義母さま?」

榛名(なっ!!?)

明石(このっ大バカっ!!!)

瑞鶴「・・・え・・・あっ」

瑞鶴はしまった!と口を塞ぐ。背中に殺気を感じた。

榛名「・・・・・・」

明石「・・・・・・」

瑞鶴(うわぁ 2人共、人を頃しそうな目をしてるぅぅぅぅぅぅぅっ!!)

榛名「・・・瑞鶴さん、まだ寝ぼけてるんですか? 出撃前も私のことをお姉さまって言ってましたよね」

明石「私なんて妹呼ばわりされたんですよー」

瑞鶴「え? ああっそうなのっ! ちょっと疲れて、寝ぼけてたのかも。すいません、アハハハ」

大淀「まぁ・・・五航戦ですし」

瑞鶴「そうなの! 私ゴコーセンだからっ!! えへへへっ」

榛名(自虐・・・)

明石(本当に・・・瑞鶴さんに知られるんじゃなかった・・・不安すぎる)

南方(・・・ごめんね。気を使わせて)

332: 2015/07/04(土) 16:20:15.19 ID:gvHX4Jev0
提督「まぁ瑞鶴も疲れていたんだろう。仕方ないさ。この前は激戦だったんだから・・・所でそちらが?」

金剛「え?ハイ。海域で保護した娘達デース」

ローマ「貴方が提督ですか・・・お世話になります」

提督「ああ、よろしく。姉のリットリオが少し前に着任しているから後で顔を合わせるといい」

ローマ「姉さんが?」

提督「部屋は同室でいいか?」

ローマ「ありがとうございます」

提督「で? そっちの娘は?」

川内「なんか深海棲艦に人質に取られててね」

榛名「可愛そうに・・・恐かったんでしょうね」

秋津洲「いや・・・その・・・」

自分はここで何をされるんだろう。

恐怖で体が震えている。

提督「そうか。それは恐い思いをさせちゃったね」

提督が少し屈み、秋津洲の目線に合わせて優しく話しかける。

提督「もう大丈夫だから。これからよろしくね」

その屈託のない笑顔に心奪われた。

この人なら周りの恐い人たちから私を守ってくれる!!

そう、直感的に感じた。

まさに地獄に舞い降りた救いの神。いや、神様に違いない!!

秋津州「よろしくお願いします!! 神様!! 一生付いていくかも!!」

提督「え!? 神様・・・?」

大井(やっぱり敵に捕らえられた恐怖で頭がおかしく・・・)

新たな仲間を向かえ、今回展開されていた全ての作戦は無事終了した。

333: 2015/07/04(土) 16:26:41.75 ID:gvHX4Jev0
投下完了。
いつも感想ありがとうございます。
よーやくイベント編終了。長かった気がするけどキニシナーイ
E5と比べ、E6はアッサリでした。

1は社畜で、なんか夏は殆ど休みがなく生きるのに必氏なんで
更新が滞るかもだけど許して欲しいでち
特に8月から9月まで休みないってさ ハイライトオフ

次回以降は何時ものハートフルな日常話に戻ります
ではまた・・・







334: 2015/07/04(土) 16:37:35.27 ID:qYkHxIqeo
乙!
ハートフル…?

335: 2015/07/04(土) 16:52:50.20 ID:aBcsRS27o
乙!