680: 2015/10/12(月) 03:40:53.39 ID:Ho1LqDbd0



最初から:【艦これ】提督「ウチは平和だなぁ」艦娘「表面上は」

前回:【艦これ】提督「ウチは平和だなぁ」艦娘「表面上は」第十五話

時間は金剛(提督)がレ級と戦闘になる少し前まで遡る。

陽炎「へぇ・・・面白いことになってんのね」

提督「バカ明石のせいでーす」

黒潮「でもネタになるで?」

提督「ネタでやってるわけじゃないよ!?」

初風「それで・・・どんな感じなの? 提督の体に入るって」

秋雲「詳しく聞きたいな。次の本のネタにするから」

提督「どうって・・・目線が高い・・・?」

浦風「そりゃそうじゃ。司令の方が背高いけん。皆だって聞きたいことはそこじゃないじゃろ?」

谷風「どんな感じなの? 男の体ってさ。それも好きな人の体じゃん?」

提督「そうですねぇ・・・上手く言えないけど、心はすごい穏やか・・・ですかね」

提督「すごい満たされてるというか・・・」

提督(大好きな人と一体になってるからなんですかね?)

雪風「ちょっと難しいです」

舞風「想像できないや」

提督「表現しようにも言葉が浮かばないでーす」

提督(他にあるとすれば、股間に違和感が・・・これが提督の・・・///)

野分「・・・どうしました? 顔が赤いですよ?」

浜風(提督のレア顔!!! カメラ・・・カメラ・・・)

浜風(って皆、無言でカメラ構えてる!? 出遅れた!!)

パシャパシャとカメラのシャッター音。いい加減疲れてきた。

天津風「ねぇ・・・ツーショットってダメ?」

提督「別にいいですよー」

自分達も好きなだけ写真を取ったので特に考えずに許可をだした。半ば投げやりに。

磯風「なに!? ツーショットはアリなのか!?」

雪風「しれーと写真取りたい!!」

時津風「いいの!? 撮る! 撮る!!」
艦隊これくしょん ‐艦これ‐ 艦娘型録 (カドカワデジタルコミックス)
681: 2015/10/12(月) 03:41:39.57 ID:Ho1LqDbd0
天津風「ちょっと!! 先に言ったのは私よ!?」

陽炎「まぁ、まぁ・・・ここは長女の私が先陣を切って・・・」

天津風「はぁ? なんで?」

陽炎「姉妹順に撮ればいいじゃない?」

その言葉に上の姉達は合意したが、下の妹達は反対した。

理由は時間である。

今現在、提督と金剛の入れ替わりは鎮守府全体に伝わっている。

金剛(提督)は海に出てみたいと言い、その随伴メンバーが決まり、今は海へ出ている。

随伴メンバーを決める勝負に敗れた者達はせめて提督(金剛)に面会し、普段は出来ないことをやろうとした。

その一つが写真だったり、好きな言葉を喋ってもらったり。

しかし、ほぼ全員が来たら何時終わるか分からない。なので姉妹艦や、よくコンビを組む同士等でグループを別け、

時間制限ありの交代制で面会をすることになった。

話を戻そう。

つまり、上の姉達が好き勝手に写真を撮れば、面会時間を過ぎて下の妹達まで順番が回らない可能性も出てくるのだ。

だから最初の順番である程、有利になる。

この鎮守府に所属する陽炎型は14人。

与えられた面会時間は陽炎型は人数が多いからと20分。

浜風「残り時間は!?」

瑞鳳「後12分30秒ですね」

野分「秒単位ですか?」

浦風「細かすぎるじゃろ・・・そんなんじゃ足らんけぇ・・・」

瑞鳳「今ので20秒経過しました」

天津風「とりあえず、早いもの勝ちでしょ? 私からね!」

黒潮「ちょい待ち!! こういうのは上からって決まってるで」

初風「・・・そうよね」

秋雲「それじゃ秋雲が最後じゃない!!」

舞風「私も下から2番目だよ!?」

浜風「そういえば・・・不知火は?」

682: 2015/10/12(月) 03:42:14.22 ID:Ho1LqDbd0
陽炎「そういえば・・・さっきから姿が・・・」

その時、ドアが勢い良く開いた。

浦風「なんじゃ不知火。その格好は」

雪風「お姫さま?」

陽炎「う・・・ウェディングドレスゥゥ!?」

ウエディングドレスに身を包んだ不知火がそこには居た。

純白のドレス。

女性の幸せの象徴、憧れとされる一生に一度は着たいと言われる結婚衣装。

皆の思考が一瞬固まる。

谷風「どうしたのそれ・・・」

不知火「夕張から借りました。こすぷれ用らしいですけど」

不知火「とりあえず、金剛、私を抱っこしてください。陽炎、写真を頼みます」

提督「え? ああ・・・分かりました」

陽炎「え・・・あっ ハイ」

皆唖然として、とりあえず不知火の言葉に従った。

黒潮(しかし・・・幸せの象徴なのに・・・)

陽炎(相変わらず眼光が鋭い・・・)

天津風(もっと幸せそうな顔すればいいのに)

表情の変化が少ない不知火ではあったが、実はかなりニヤニヤしていた。

最も、陽炎くらいしか気付いてなかったが。

不知火「ありがとうございます。では」

不知火が出て行った後、とりあえず皆でジャンケンした。

時間ギリギリで撮り終わった。

青葉「はーい時間ですよー 次の方どーぞ。 列は4列で進んでくださいねー!!」

廊下では青葉が列整理をしていた。

683: 2015/10/12(月) 03:42:45.47 ID:Ho1LqDbd0
提督「・・・疲れるでぇーす・・・」

瑞鳳「お疲れ様。はい、お茶をどうぞ」

提督「・・・ありがとねー」

金剛は何も考えずお茶をゴクゴク飲んだ。

瑞鳳が作ってきたフルーツジュース、他の皆からも差し入れでジュースを貰った。

だからだろうか、それは突然来た。

瑞鳳「どうしたの?」

提督「・・・ヤバイでーーす!!!」

瑞鳳「え? 何が?」

提督「あれが・・・シタくて・・・どうすれば」

瑞鳳「アレ?」

提督「小ですよ!! 小!!」

瑞鳳「トイレに行けば・・・」

そこで瑞鳳は気付く。

瑞鳳(あっ・・・今は提督の体だ!!)

提督「だって小って・・・アレを・・・見て触って・・・ですよね?」

瑞鳳「そうなりますねぇ・・・」

提督「NOOOOOOOO!!!! 冗談でしょ!?」

金剛は初めてはロマンチックに・・・そんな少女のような願望があった。

それがどうだろう。

『大好きな彼のアレを初めて生で見るのが、彼の体に入って尿をする時だった』というのは。

ロマンもへったくれもない。

瑞鳳「でも・・・出さないと・・・提督の体に悪影響が出るんじゃ・・・?」

提督「でも!! でも!!!」

初めて見るのがコレは避けたい。

瑞鳳「どうすれば・・・とりあえず明石さん呼んできます!!」

提督「それは一番呼んじゃダメな奴でーす!!!」

684: 2015/10/12(月) 03:43:12.98 ID:Ho1LqDbd0
すぐに明石が来た。事情を聞いた者を数人連れて。

明石「事情は分かりました。司令の体を守る為に、これより『尿作戦』を実行します」

瑞鳳(大事になってきた・・・)

長門「提督が使うトイレは執務室横にあるトイレだ。そこで用を足してもらう」

陸奥「一切、アソコを見ないで? どうやって?」

夕張「これを使います。金剛さんに装着させますね」

提督「目隠し? 何も見えませんよ?」

夕張「それとマイクを付けますね。腕にはこれを・・・」

長門「しかし、チ○コがなんだ。それくらい写真やレプリカ玩具を持っているだろ! 私だって所持している」

陸奥「皆持ってるだろうケド、それ口にしなくていいから」

提督「生は始めての時って決めてるでーす!!」

榛名(・・・最初に頂いて貰うのは榛名ですけどね)

榛名(金剛お姉さまじゃなく・・・)

榛名(榛名です・・・)ハイライトオフ

提督(・・・榛名。貴女が考えてることは分かってるよ? でもさせるつもりはないでーす・・・)ハイライトオフ

陸奥「じゃあ目隠しさせて、私が誘導してあげるのは?」

全員『却下』

誰も自分以外の女に提督の陰部を最初に触って欲しくなかったのだ。

陸奥(チッ)ハイライトオフ

夕張「とりあえず、私達は作戦司令室に、金剛さんはこちらから指示に従ってください」

提督(金剛)を除く全員が作戦司令室に移動した。

夕張『ではまず右に10歩、小幅に歩いてください』

提督「わかりました」

言われたとおり指示に従う。

夕張達は司令室で指示を出している。

685: 2015/10/12(月) 03:43:44.21 ID:Ho1LqDbd0
提督『痛っ!?』

長門「どうした!?」

明石「壁にぶつかったようですね」

榛名「目隠しして視界を奪われて・・・大丈夫でしょうか?」

夕張「大丈夫ですか!?」

提督『はい・・・問題ないでーす』

夕張「では、トイレのドアを開けてください」

提督『ドアノブ・・・あった・・・』

夕張「では、中へ」

提督『了解』

照月「提督・・・金剛さん、トイレ個室に入りました!!」

秋月「ドア、閉まります!」

オペレーターをしている秋月、照月が叫んだ。

司令室のモニターはサーモグラフモードになっている。

サーモグラフとは、物体から放射される赤外線を分析し、画として出力する装置である。

モニターには提督の姿をした赤やオレンジ、黄色に青という熱分布図の動画がリアルタイムで表示されている。

これで、提督の陰部を誰も直に見ることが出来ない。

夕張「そこでズボンを降ろして、陰部を前に・・・照準は?」

照月「今、計算します!!」

提督『降ろしました! 多分、あそこを掴んでます!!』

夕張「感触は?」

提督「なんの感触もしませーん! このグローブのおかげでーす!!」

陸奥「金剛がはめているグローブって?」

夕張「あれは感触を遮断するモノです。今、陰部の感触を金剛さんは感じてないハズです」

照月「照準でました!!」

秋月「下に3cm修正!!」

686: 2015/10/12(月) 03:44:12.56 ID:Ho1LqDbd0
夕張「下に3cm修正!!」

提督『了解!!』

照月「これで確実に入るハズです」

長門「勝ったな・・・」

瑞鳳(何が・・・?)

そこで陸奥は気付いた。

陸奥「ねぇ、あそこって洋式よね?」

瑞鳳「そうですね・・・それが?」

陸奥「男性が用を足すときって立ったままよね?」

明石「普通はそうじゃないですか?」

陸奥「でも・・・洋式便器って、蓋があるでしょ?」

女性であれば、どっちも座ってするので、座る際に蓋が閉まっていれば嫌でも気付く。

だが、今の金剛に気付くだろうか?

恐らく、そこまで思考が回っていないだろう。

明石「あっ!! そうか・・・最初に蓋をあげなくては・・・」

瑞鳳「全部、蓋に跳ね返されちゃう!!!」

榛名「大惨事です!!」

長門「待て!! 金剛!! 撃つなぁぁぁぁ!!!!!」

誰もが思った『終わった』と。

照月「そんな・・・」

誰もモニターを直視出来ない。

負けたのだ。我々は・・・

そう思った。

だが、奇跡は起きていた。

照月「な!!? 便蓋が開いてます!!!」

長門「なにぃ!!!!?」

瑞鳳「・・・どういうこと?」

榛名「あっ!! そうだ!! そうでした!!」

明石「何? どうしたんです?」

榛名「あのトイレ、確か自動でカバーが開くんですよ!!」

687: 2015/10/12(月) 03:44:49.96 ID:Ho1LqDbd0
トイレの歴史は古い。

腰をかけるタイプのトイレは紀元前から存在していたらしい。

洋式トイレは大きく分けて3つのパーツに分類できる。

便蓋、便座、便器の3つだ。

このような現在の洋式トイレと言われるモノは、

西洋でおよそ100年程前に原型が出来た。

ちなみに便座には主にO型とU型が存在する。

最初に登場したのはO型であった。

だが、O型には欠点があった。

それは男性の陰部が接触してしまい、不特定多数の人達で使う場合は不衛生であると言うこと。

その為に、陰部が接触しないU型が開発された。

だが、U型にも欠点がある。それは強度だ。O型に比べると強度で劣っていたのだ。

日本では戦前は多くが和式トイレであったが、戦後のGHQ統治下に急速に洋式が広がった。

洋式トイレの普及率は和式を超えて、多くの家庭にあるのは洋式トイレである。

日本の場合は、O型の便座が今では一番の普及率を誇る。

理由は体格差。欧米人に比べて小柄な日本人はO型であっても、陰部が接触することはあまりない。

なので強度面でも優れているO型が多く普及しているのだった。

昨今ではトイレの技術が進み、洗浄機能のウォシュレット、自動で便蓋が開く機能まで付くモノもある。

かつては海外のトイレを模倣していただけに過ぎなかったが、今では日本のトイレは世界から賞賛されるレベルまで達していた。

商品として他国に売れるほどに。

執務室にあるのはそんな高性能トイレだった。

夕張「では・・・作戦は・・・」

提督『なんか無事に終わりました!!』

照月「せ・・・成功です!!!」

この瞬間、司令室は歓声に包まれた。

抱き合い、ハイタッチし、お互いを労う。

夕張「このように、私達で協力すればなんでも出来るんですよ!!」

夕張「だから私達はもっと協力しなくては行けないんです」

夕張「ですから・・・あの計画、もう少し真剣に考えて欲しいかな」

陸奥「・・・一夫多妻計画のこと?」

夕張「提督が言ってました。私達は皆家族だって・・・だから・・・争わないで・・・皆で」

榛名「・・・・・・」ハイライトオフ

夕張(やっぽり・・・榛名さんは・・・簡単には頷きませんか)

執務室では提督(金剛)は何か満たされた気持ちでいっぱいだった。

提督(天国でーす)

自分は全てから開放された、自由なんだ。そんな気分だった。

今なら空をも飛べる気がした。圧倒的な開放感に酔いしれていた。

698: 2015/10/16(金) 01:04:26.97 ID:vAMOfUC40
提督「・・・zzz」

瑞鳳「寝ちゃいましたね」

時雨「皆が色々と要求するから疲れたんだね」

海風「姉さんもお姫様だっことか、壁ドンとか、写真とかいっぱい要求したじゃないですか」

江風「順番待ちで3時間も列が出来てたからな・・・」

天城「でも中身が金剛さんだと普段は中々言えないことも出来ますねぇ」

葛城「はい。とても充実した時間でした」

鈴谷「そうだねー ね?」

霞「私に振らないでよ!!?」

鈴谷「滅茶苦茶要求したくせにー」

瑞鳳「しかし、何時も思いますけど、提督って一度寝ちゃうと中々起きないですよね」

飛揚「中身が金剛でも体は提督だし、疲れてるんじゃない? 体が」

潮(体・・・なんかいやらしいです・・・///)

名取(提督の体・・・)

羽黒(舐めたい・・・)

明石「・・・」

天城「どうしたんです?」

明石「ちょっとね・・・この場合、金剛さんはどっちの夢を見るのかなって」

天城「・・・?」

明石「意識は金剛さんだから、自分の意識下の夢を見るのか・・・」

明石「それとも体に影響されて提督の意識の夢を見るのか・・・」

鈴谷「意識は金剛なんでしょ? じゃあ自分の夢見んじゃないの」

明石「例えばですけど、臓器をドナーから提供された患者さんは、見たことも無い風景をみることがあるそうです」

海風「それは臓器提供者の記憶を見ているってことですか?」

明石「はい。でも科学的には立証出来てないのでオカルト話になっちゃうんですけどね」

眠る提督(金剛)を見る。

彼女がどんな夢を見ているのか興味があった。

明石「貴女はどんな夢を見ているんですか?」

明石は金剛が目を覚ましたら聞いてみようと思った。


金剛は夢を見る。

金剛「ここは・・・どこです?」

見慣れない場所。

写真でしか見たことが無い人物が居た。

金剛「あれは提督の・・・お父さん?」

提督の父と、妻と思われる女。

金剛「お義母様が南方棲鬼になる前の・・・姿?」

2人は微笑んで、その視線の先に幼い子供が居た。

金剛「提督? 提督なんですか!? 可愛いデース!!」ハァハァ

699: 2015/10/16(金) 01:04:56.12 ID:vAMOfUC40
仲睦まじい家族の風景。

提督父「さっきから何を書いているんだ?」

提督「これは、ゆうしゃだよ」

クレヨンで画用紙に絵を描いている。

それは御伽噺に出てくるような、剣を持った甲冑の騎士。

提督父「勇者か。そう言えば先日、長門がそんな絵本を読んでくれてたな。色々世話をしてくれて助かるよ」

提督母「ちょっと、この子を見る目が犯罪的ですけどね」ハァ

提督「ゆうしゃって皆を助けてくれるんだよ。正義のヒーローなんだって。長姉も青姉も言ってた」

提督父「そうか。確かに勇者は最後は魔王を倒すのがお約束だからな」

提督母「そうなんですか?」

提督父「まぁ、そういうのが多いな。それで世界を救うみたいな感じかな?」

提督「ボクは大きくなったら、ゆうしゃになるんだ! 困ってる人や、弱い人を守ってあげるんだ!」

提督父「そうか。英雄になりたいか。良い夢じゃないか」

提督「えいゆう?」

提督父「勇者と同じだよ。大義を成して世界を救う。それが英雄だよ。まだ難しいか」

提督「よく分からない。けど・・・」

提督母「けど?」

提督「ボクが大きくなって、お父さんも、お母さんも守ってあげるから!」

提督父「ハハハ・・・ありがとう。気持ちは嬉しいけど、オマエが大きくなるまでには平和な世の中にしたいな」

提督母「そうですね・・・カイスイヨク?でしたっけ? 海が平和になれば家族で行きたいって言ってましたね」

深海棲艦出現以来、海辺は危険なので一般人の立ち入りは厳しく制限されている。

例外は軍関係者か、許可を得て決められた海域で漁業等を行う者等とほんの一部。

一般人にとって海は危険であり、夏の水遊びと言えば内地に作られたプールが常識になっていた。

海を奪われたことで、海水浴への需要を満たす為に、国内には海水まで再現した人工の海水浴場が幾つか存在する。

実際の海で遊んだことの在る世代は自分の子供を本物の海に連れて行ってあげたい。そう考える者も少なくなかった。

提督父「そうだな。俺が子供の頃、一度だけ行ったんだが・・・この子も連れてってやりたいな。平和な海で遊ばせてあげたい」

提督母「そうですね。早く平和を取り戻さないと」

金剛「ここは・・・提督の記憶の中ですか?・・・」

自分の姿は提督ではなく、普段の姿になっていた。

700: 2015/10/16(金) 01:05:38.77 ID:vAMOfUC40
場面が変わる。

鎮守府の施設だろうか? 提督が泣いていて、壁に穴が空いて、近くには戦艦の艤装があり、砲塔からは煙が出ている。

金剛「一体何が・・・?」

提督父「どうした!? 一体何事だ?」

長門「それが・・・艤装が突然動き出してな・・・」

提督父「どういうことだ?」

青葉「もうしかしてですけど・・・」

青葉の説明を受けて信じられないと返す。

提督父「何? 艤装を動かしたのが息子?」

青葉「多分。この子に反応して動いたように見えました」

提督父「・・・まさか」

また場面が変わる。

今度は提督が妖精と遊んでいた。

どうやら幼い提督にとって、父の鎮守府は遊び場でもあるようだった。

提督「まけた・・・」

妖精「だるまさんが転んだって遊びはおもしろいね」

妖精2「人間は面白い遊びを沢山思いついてすごいね」

提督「そう?」

人類の殆どが妖精と意思疎通が出来ない。

それどころか、その存在を感知出来ない者が大半だ。

提督になれる者の条件の一つに妖精を認識できることが挙げられるが、

艦娘を通さず完璧な意思疎通を出来る者は殆ど居なかった。

金剛「妖精と会話をしているんですか・・・?」

妖精「キミは良い子だね。『混ざってる』せいなのかな? 一緒に居て、とても安心するよ」

提督「混ざってる?」

妖精2「でもキミはそのまま行くと氏んじゃうよ」

提督「え? 氏ぬ?」

701: 2015/10/16(金) 01:06:08.74 ID:vAMOfUC40
妖精3「艦娘の力は人間には強すぎるから・・・未成熟な体では耐えられないんだね。すぐに艦娘の力がキミを食い頃す」

提督「ごめん。むずかしくてよく分からないよ」

妖精1「キミが女の子なら適合出来て問題なかったんだろうけどね」

金剛「そう言えば艦娘との間に生まれた子供は多くが長く生きれない・・・聞いたことがありますね・・・」

妖精4「折角出来た友達に氏んで欲しくないな。キミも氏にたくないでしょ?」

提督「うん。嫌だよ。大人になって、英雄になって、みんなを助けるんだもん」

妖精1「夢があるんだね」

妖精3「ならボク達がキミを助けてあげるよ」

妖精2「キミの体が完全に成熟して、艦娘の力に耐えられるまで」

妖精4「その力を抑制するんだ」

妖精2「そして君の体も艦娘の力に負けないようにしないと」

妖精1「君が寝ている間に体を少しづつ変化させよう」

妖精2「普通の人間として、力を持ったままでも生きていけるように」

妖精1「すごい時間が掛かるんだけどね」

妖精3「キミは少し普通の人より眠りが深くなるかもしれない」

妖精1「副作用って奴だね」

妖精「何年掛かるか分からないけど、そうすることでキミは普通の人間として不自由なく生きていけるよ」

提督「よく分からないけど・・・お願いします」

妖精達『じゃあね。また何時か、どこかで遊ぼうね』

提督「みんなとはもう会えないの?」

妖精達『また何時かどこかで会えるよ。ボク達と人間とでは時間の概念が違うから何時かは分からないけど・・・きっとまたどこかで会えるから』

提督「あれ・・・? なんだか・・・眠く・・・」

金剛「これが・・・提督が一度眠ると中々起きない原因ですか・・・」

702: 2015/10/16(金) 01:06:42.58 ID:vAMOfUC40
また場面が変わる。

今度は葬式のようだった。

金剛「これは・・・提督のご両親が無くなった時の?」

青葉「皆・・・氏んじゃいましたね」

飛揚「・・・まるで悪い夢ね。早く覚めないかしら」

陸奥「本当にね。提督の安否の確認で海域調査に向かった長門達も戻らなかった」

飛揚「大体、友軍は何をしていたの? 最終的にウチだけじゃなく佐世保からも艦隊が来る手筈だったでしょ?」

青葉「なんでも、護衛艦の機械トラブルで推進力を失って修復に時間が掛かったらしいですけど」

那智「・・・本当かどうか怪しいものだな」

青葉「聞いた話だと、その件は佐世保の提督が司令に連絡して居たらしいです。通話記録もありました」

陸奥「でも共同作戦に変わったのに、単身でウチの艦隊だけで突っ込むかしら? 提督が・・・」

那智「普段の奴の行動を見る限り、未知の敵であるなら慎重に行くハズだしな」

青葉「ただ、佐世保の提督が憲兵に連れて行かれていて接触は困難、それ以上は情報が隠匿されているのか拾えませんでした」

川内「頑張ったけどね・・・情報は得られなかったよゴメン」

飛揚「何かあって故意に隠されてるってこと?」

陸奥「わからないわよ。情報が少なすぎるもの」

青葉「あの海域で何が・・・私は・・・絶対に許せません。今回のこと。司令を頃し、友を頃した奴を・・・」

飛揚「アンタは特にやま・・・奥様と仲が良かったものね。彼女が結婚するまでは」

陸奥「新種の深海棲艦・・・恐ろしい相手ね。私達、艦娘も、もっと強くならないと・・・」

明石(そうだ・・・私達艦娘はもっと強くならなくては・・・改を超えた強さを・・・)

那智「この後どうする? 一部の鎮守府の提督達は私達を欲しがってるようだぞ」

青葉「ここの戦力は充実してますからね。生き残りを分散させて戦力として自分の艦隊に組み込みたいんでしょ」

陸奥「生憎・・・提督以外の下に付くつもりはないけどね」

青葉「司令官の氏が確定した時点で、後を追うように命を絶った娘も数人居ますし、今の残存した娘達も心が乱されてますし・・・」

那智「この状況で知らない鎮守府にバラバラで飛ばされるのは避けたいな」

飛揚「そうね。どうするつもり?」

青葉「信用できる人に連絡していますが・・・彼が間に合うか」

那智「ああ、提督のご友人だったか」

陸奥「階級的にも発言力はあるからね彼は・・・提督とは親友同士だったし、妥当な扱いで落ち着くんじゃないかしら」

青葉「それよりも・・・心配なのが・・・あの子です」

提督は泣いていなかった。年齢に似合わず落ち着いていた。

それが周囲を心配させた。あの歳で突然父と母を・・・家族を失ったんだ。普通は泣き喚いてもおかしくない。

金剛「・・・提督」

703: 2015/10/16(金) 01:07:12.40 ID:vAMOfUC40
場面がまた変わる。

どこだろうか? 鎮守府の建物が見える。

金剛「鎮守府の施設の裏庭?でしょうか?」

提督以外誰も居ない。

提督は泣いていた。

ここならば人目を気にしないで済むと思ったのだろう。

提督「泣いちゃダメなのに・・・」

提督「皆だって辛いのに」

提督「父さんも母さんも氏んでない・・・生きてるよ」

提督「こんなのウソだよ。だって良い子にしてればすぐ帰ってくるって言ってたもん」

提督「ボクは良い子にしてた。みんなの言う事を聞いて勉強もしたし、お手伝いもした」

提督「ずっと良い子にしてたよ?」

一人なのに、誰かに語りかけるように話す。

提督「神様。ボクは悪い子ですか? ずっと良い子にしてました。返してください」

提督「父さんと母さんを・・・返してください・・・返して・・・」

何度も「返して」と言葉を吐いて泣く提督を見るのに絶えられなかった。

金剛「提督っ!!」

抱きしめようとしても、体をすり抜ける。

金剛「なんでですか!!」

なんで。

こんなにも大好きな人が悲しんでるのに、

こんなにも胸が苦しいのに、

金剛「なんで抱きしめてあげることすら出来ないんですか・・・」

これは深層心理に残る、提督自身ですら忘れてしまったかもしれない記憶の残滓。

触れることなんて出来ない。

そんなことは分かっている。

だけど、それでも・・・抱きしめてあげたかった。

だって好きだから。

愛しくて愛しくて堪らないから。

704: 2015/10/16(金) 01:07:42.29 ID:vAMOfUC40
やがて提督は泣き止んで呟いた。

提督「もっと良い子にならないとダメなんだ。誰よりも正しく」

提督「正しく、正しく、正しく・・・正しくないと英雄(ヒーロー)じゃないから」

提督「正しい人間になって・・・助けるんだ。皆を、父さんも母さんも」

提督「正しくしていればきっと帰ってきてくれる。そう約束したもん」

提督「正しく・・・正しく生きて・・・誰よりも・・・誰よりも・・・」ハイライトオフ

提督「・・・戻らないと・・・お姉ちゃん達が心配しちゃうよね。 それは正しくない・・・正しくない・・・ただ・・・」

それが今尚続く提督の原点。

やがてその理由も目的も、悲しみで心が壊れないようにする為か自分でも忘却し、

ただ正しくあるべきだという考えのみに突き動かされる。

父と母の氏を提督は受け入れられなかった。

その姿が痛ましくて、見てられない。

金剛は泣いていた。声をあげて。何も出来ないことが悔しかった。

それからもどんどん場面は変わる。

金剛「・・・元帥?」

後に元帥になる男の所で面倒を見てもらっている提督の

およそ子供らしくない落ち着いた様子に元帥配下の艦娘達は関心していたが、

元提督父の部下だった艦娘と、親友だった元帥は少し悲しそうに見ている。

金剛もまっすぐ見つめることが出来なかった。

ただただ悲しくて、何も出来ずただ見ているのが辛かった。

716: 2015/10/19(月) 02:02:12.31 ID:RiRvnqxf0
―――金剛さん!!

誰かが呼んでいる。

―――起きてください!! 外の様子が・・・

体がどこかへと引き寄せられる。

金剛「っ!! 待って!! 待ってください!! 提督が・・・提督が・・・」

所詮は記憶の中。

過去の出来事。

金剛「私は・・・私はまだ・・・」

自分には何も出来ない。

それでも・・・そばに居てあげたかった。

瑞鳳「あっ起きました」

時雨「どうして泣いているんだい?」

提督「え? 私、泣いてます?」

時雨「提督の姿で泣かれると・・・痛まれない気持ちになるね。涙を舐めてもいいかい? テイトクニウムが不足してきたんだ」

大淀「売店で提督水を買ってきてください」

時雨「生の方が魅力を感じるだろ?」ハイライトオフ

大淀「確かに・・・」ハイライトオフ

瑞鳳「すいませんが話が進まないので、少し黙っててくれます? 気持ちは痛いほど分かるけど」

時雨「ごめん。少し興奮していたみたいだ」

大淀「失礼しました」

瑞鳳「それで・・・なにか嫌な夢でも見たんですか?」

提督「・・・分からないです」

意識が覚醒すると何も覚えていない。

でも、確かに何か悲しいものを見た気がする。

それが何かが分からないのが、とてももどかしい。

瑞鳳「まぁ夢なんて目が覚めると忘れちゃったりしますしねぇ」

提督「・・・そうですね」

717: 2015/10/19(月) 02:02:41.78 ID:RiRvnqxf0
何を見たかは覚えていないけど、アレは忘れては駄目なことである気がした。

心はどこか悲しくて、切なくて、自分でも表現に困る感情が湧き出してくる。

提督「・・・ただ、今は」

瑞鳳「今は?」

提督「提督を抱きしめてあげたいです・・・」

何時もなら、そんなことを言えば周囲が牽制しあったり、最悪の場合は砲弾が飛ぶのだが、

金剛の雰囲気が何時もと違い、なにやら深刻そうだったので周囲は何かを感じて黙認した。

提督「で? 何があったんです?」

瑞鳳「何やら鎮守府近海の様子がおかしくてですね・・・」

提督「おかしい? 提督から何か通信は?」

大淀「それが通信が繋がらず、確認が取れない状況です」

瑞鳳「最初は提督(金剛)達が艤装のテストをしていると思ったんだけど」

時雨「単にテストをしているにしては砲撃音がすごくてさ、ただならぬ空気なんだ」

大淀「念の為、部隊の編成は終わってますが、出撃は原則、提督の許可がないと出来ないので待機中です」

提督「確かに砲撃音が聞こえますね。ここからでは確認は無理でした?」

一応は鎮守府から見える距離での練習だったハズだ。

双眼鏡を使えば見えるのではないかと思ったが、それもハッキリとは視認出来てないらしい。

砲撃音と水柱が戦闘のように見えたことで異常事態の可能性も視野に入れているみたいだった。

状況がハッキリしない。提督と連絡がつかないことが一同を不安にさせる。

この状況、電ならどうする?

電は最初期から提督と、この鎮守府に居た。

その付き合いの長さは鎮守府着任前からだと聞いた。

経験を沢山積み、駆逐艦でありながらも、艦種を問わず多くの艦娘に『艦娘』としての指導を行った。

提督不在時でも、提督ならどうするかを的確に判断して、指示を出した。

提督と心から信頼し合えている。それが自分が着任した当初は羨ましく、妬ましかった。

こんな小さな子に嫉妬なんてと、内心思いながらも、電を見る度に自信を失ったものだ。

だから努力した。頑張った。

昼は普段通りに過ごしながらも、夜は過去の戦闘記録を見たり、提督の指揮を思い出しては、

頭の中で何回も反復する。毎日毎日。

提督が大好きだから、電のように提督から信頼されたいから、だから頑張る。提督に認めてもらえるように。

金剛は普段の言動からは誰もそうとは思わないが、かなりの努力家だった。

718: 2015/10/19(月) 02:03:13.91 ID:RiRvnqxf0
今では提督不在時には代理を任されるまでになっている。

それでも、まだ電に勝った気はしない。

何時になったら追い越せるのか? 永遠に無理なのだろうか?

一緒に居た時間で全てが決まるなら勝ち目は無い。だけど諦める気はない。負ける気はない。

電だけじゃない。鈴谷だって、初霜だって・・・榛名だって・・・皆、皆、皆・・・

名前を挙げればキリが無い。ライバルは多い。その誰にも負けたくない。

勝てないなら努力すればいい。もっと頑張ればいい。

提督(私は待ってるだけの女じゃないでーす!!)

どこまでも喰らい付いてやる。

私は私。電じゃない。金剛だ。

私のやりかたで、提督を支える。

だから考えろ。今の状況を。

提督(これは明らかに、動く『標的』を狙って砲撃している音・・・)

提督(通信が繋がらないのも敵が妨害しているから・・・その方がしっくりきますね)

提督(敵だと仮定した場合、こんな近海まで敵の侵入を許した? 何故? 天龍が確か哨戒任務に・・・それを突破した?)

提督(天龍達の安否は分かりませんが、電が居るので大丈夫でしょうね。あの彼女達を抜けてここまで侵入してきたとしたら・・・)

提督(恐らく、敵は少数精鋭、もしくは単機の可能性が高い・・・?)

提督(何の為に? 鎮守府の強襲、直接攻撃が目的であるなら、そんな少数で来るのは・・・)

提督(となると目的は? お義母様も泊地水鬼も捕虜になっていることは秘匿しているから奪還に来たとは考えにくいですね・・・)

提督(だとすれば・・・目的は鎮守府の責任者である・・・提督?)

提督(・・・頭を潰すことを目的にしている?)

提督「今、待機している艦隊は?」

大淀「第三艦隊が。神通を旗艦とした水雷戦隊です」

提督「直ちに艦隊を再編成します」

瑞鳳「再編成?」

提督「第三艦隊は扶桑を旗艦に、山城、加賀、赤城、時雨、夕立、目的は戦闘地点への援軍です」

719: 2015/10/19(月) 02:03:43.53 ID:RiRvnqxf0
大淀「足の速い水雷戦隊ではなく?」

提督「敵が居ると仮定し、状況から考えると、かなりの脅威である可能性が高いです。空母と火力は欲しいですね」

大淀「軽巡ではなく駆逐2隻ですか?」

提督「正面海域内部にまで侵入された場合を考えると駆逐艦の方が追撃しやすいですし・・・それに」

時雨「それに?」

提督「時雨と夕立なら、敵にガッチリ喰らい付いてくれるでしょ?」

挑発するように時雨を見る。まだ大所帯になる前から幾度も戦闘を共にしてきた仲だ。

女としては警戒してるし、気に入らないが仲間としては信頼していた。

それは時雨も同じだった。冗談めかして軽口を返す。

時雨「・・・そうだね。ここはボクと提督の家みたいなものだから。土足で敵を入れるわけには行かないからね」

最も言ってることは本心からではあるが。

大淀「では金剛さんは戦闘が行われていると考えるんですね?」

提督「杞憂かもしれませんが、その可能性は非常に高いと思います。何事も無ければ、それに越したことはありませんけどねー」

大淀「・・・ですね」

提督「今から、提督達が敵と交戦中と言うことを前提に考え、話を進めます」

大淀「分かりました。正式な命令として通しますのでサインを」

提督「わかりました。時雨、頼みましたよ?」

時雨「了解。じゃあボクは行くよ」

提督「提督の保護を最優先に動いてください」

時雨「もちろん。そうしない艦娘はここには居ないよ。誰一人ね」

その言葉に皆頷いた。

時雨は準備をする為に執務室を出て行った。

提督「続いて第四艦隊は蒼龍を旗艦に飛龍、瑞鶴、雲竜、秋月、初霜。鎮守府前を警戒、万が一こちらに敵機が来た場合は速やかに排除してください」

瑞鳳「第四艦隊も応援に向かわせたほうが確実に提督を助けられるんじゃない?」

提督「だからと言って本陣の防衛を疎かにするワケには行きません。実は正面の敵が囮で別の奇襲部隊が出現する可能性もありますし」

提督「敵の目的がハッキリしない以上は、全ての可能性を考慮すべきです」

提督「他の艦娘も臨戦態勢で鎮守府の警護に。民間の漁業組合にも危険だから海から退避するように言ってください」

大淀「それは先程済ませています」

提督「流石ですね」

大淀「提督なら、まず民間への被害を出さないようにするハズですしね」

赤城「失礼します!」

珍しくノックもせずに赤城が入ってきた。余程、慌てていたのだろう。

だとすると提督達に関することだと察して一同の顔が強張る。

提督「どうしました?」

赤城「先程、翔鶴から艦載機が・・・」

瑞鳳「連絡が来たの!?」

提督「状況は?」

赤城「敵は戦艦レ級1隻、戦闘状態に入っていると。また、近海で天龍の部隊がレ級の部隊と交戦中と」

提督「やっぱり・・・」

大淀「確定ですね」

提督「第三艦隊の出撃を急がせてください!!」

720: 2015/10/19(月) 02:04:25.73 ID:RiRvnqxf0
提督達が戦っている海域から少し離れた位置で、天龍を旗艦とする第二艦隊が戦闘に入っていた。

敵は5隻。イ級、ロ級の駆逐2隻に軽巡ホ級、ヘ級、重巡リ級だ。

天龍「うらぁぁぁっ!!!」

天龍の振るう剣は敵に避けられ届かない。

避けたリ級に龍田のヤリが迫る。

姉妹故の息のあった波状攻撃。

龍田(肉を削った感覚がない・・・)

上体を逸らし、紙一重でかわされた。

軽巡ヘ級、ホ級が砲撃を加えて来る。

電(・・・攻撃が緩いのです)

暁「暁の出番ね!! 改2にぱわーあっぷした力をみせてあげるわ!!」

響「一人で先行しないでほしいな・・・」

暁と響はイ級、ロ級に喰らい付くが、イ級もロ級も、ちまちまと撃ち返すだけで、基本的に逃げ回るように距離を開ける。

天龍「どうしたぁ!! 俺が恐いか? 恐れるな。所詮はこの世に在らざる存在。その魂を浄化し輪廻の輪へと・・・」

最後まで言い終わる前にリ級が発砲する。

天龍「あぶねっ!? おい! 最後まで聞けよ!!」

雷「天ちゃん邪魔!!」

天龍の横すれすれを雷が通り過ぎる。

雷「貰ったわ!!」

主砲を放つ。それも当たらない。

電(やっぱりこれは・・・)

天龍「ちょこまか逃げてばかりいやがって!! 勝負しろ!!」

電「相手は戦うつもりはないようですね」

天龍「あ? どういうことだよ?」

電「単刀直入に言うと時間稼ぎなのです。敵の目的は電達をなるべくここに引き止めることだと思うのです」

響「・・・どうする?」

電「敵を無視して鎮守府に向かう場合は背中から狙われるのです。だから却下・・・」

電「だからと言って、このままでも敵の狙い通りに足止めされてしまうのです」

龍田「当たりさえすれば殺れるのにねぇ」

天龍「糞!! こういうチマチマした戦いは嫌いだぜ・・・」

電「突破されたレ級も気がかりですが・・・今はここを抜けるしかないのです」

暁「どうやってよ! 向こうは逃げてばかり居るのに!!」

電「逃げているなら、逃げた先で迎撃すればいいのです。簡単とは言えませんが不可能ではないのです」

雷「何か考えがあるの?」

電「それには、皆の息のあったコンビネーションが絶対に必要なのです」

一同はその一言に素直に頷いた。

729: 2015/10/24(土) 03:18:43.18 ID:F/zDaFwo0
リ級は気分が高揚していた。

レ級に言われたことはただ一つ。

「時間を稼いで、足止めをしておいて」

その為、今回の作戦で集められた者達は「逃げる」ことが上手い者のみ。

戦闘では戦果を挙げることも少なく、非武装の民間人を頃す時くらいしか

優位に戦ったことが無い。

仲間からも臆病者と言われ続けた自分達が、バケモノだ、出会えば氏ぬと

一部で言われている鎮守府の艦娘共を翻弄している。

普通に戦えば、まず勝てないハズの存在。

そいつらの悔しそうな顔を見ていると、自分が高位の存在に感じた。

それが最高に気分が良い。

ただ逃げて、適当に撃ち返して時間を稼ぐ。

自分達にぴったりの仕事じゃないか。

逃げることだけは自信がある。それは他のメンバーも同じ。

敵の天龍が突っ込んでくる。

刀を振り回すが、それを交わす。交わし続ける。

リ級(くっ!?)

右腕を刀の先がかすめた。今のは少し危なかった。

リ級(こいつら・・・)

最初より的確にこちらの動きを捉えてきている。

リ級(この短時間で・・・こちらを動きを掴んできている?)

それは他の艦娘達も同じだった。

最初より動きが早くなっている。

龍田なんか特に。確実に獲物を殺そうとする殺意に満ちた目を見て、ゾクリとしたが

恐怖心を無理やり押さえ込む。

天龍の口から出る言葉は理解し難く、何を言っているか分からない。

リ級(長引くと不味いかもな・・・)

だが未だペースはこちら側。負ける要素は感じない。

ただ時間いっぱい逃げていれば良い。

合図があれば、撤退する。それで終わりだ。

730: 2015/10/24(土) 03:19:19.89 ID:F/zDaFwo0
だが、ここで少しづつ艦娘側の動きが変わる。

深海棲艦側は、まだ誰も気付かない。

前面に出るのは龍田と天龍、電。

雷、暁、響の駆逐艦3隻は速度が落ちており、逃げるように距離を開けて行く。

リ級(・・・なんだ?)

3隻共、動きが鈍くなっており、それが疲労によるものだと深海棲艦側は感じた。

先程と違い、今度はこちらが艦娘達を攻撃する。

イ級は砲撃を加えながら雷に迫る。

雷は必氏に避け、反撃しようとして主砲をこちらに向けるが撃たない。

イ級(弾切れ?・・・それとも温存しているのか?)

何度も攻撃し、確かめる。

敵の残弾は0。もしくは殆ど残っていないと判断した。

そうなると途端に深海棲艦達は強気になる。

それは武器もまともに持たない敗残兵を追撃するような感覚。

自分達は武器を温存している、今なら・・・勝てるかもしれない。

こいつらを倒せるかもしれない。

リ級(こいつらを沈めれば・・・)

仲間内から賞賛され、周囲の見る目も変わるだろう。

リ級は天龍との距離を開ける。これで近接武器である刀は意味を成さない。

1発。2発。砲撃を加える。天龍は交わすばかりで反撃してこない。

リ級(やはり、弾が底をついたか)

距離を詰めれば刀にやられる。ならば一定の距離を保ち砲弾の雨を浴びせてやれば良い。

動きも鈍っているし今なら自分達でも倒せる。

深海棲艦側は本来の「時間稼ぎ」の任務を忘れ、艦娘を追う側に変わる。

殆ど反撃されない。いや、出来ないと思い込む。

それがさらに深海棲艦側を増長させた。

手柄の為と、手柄は自分だけのものだと、争い、競い合うように艦娘を追う。

コロス。コロス。ワタシがコロス。それしか頭にない。

深海棲艦の誰もが興奮状態に陥っていた。

731: 2015/10/24(土) 03:20:01.70 ID:F/zDaFwo0
イ級「ぐっ!?」

雷を追うイ級の体を弾がかすめた。

イ級(こいつ・・・まだっ!!)

砲撃を加えたのは電。

イ級は怒りを覚えた。舐めるな、今追い詰めているのはこちらだぞと。

雷を追うのを止め、すぐに電を追撃する。

背を向けて、逃げる電を追うのは自分が絶対的優位者だと感じさせた。

逃げる獲物と狩人。どちらが優位かは明白だ。

だが、どんなにイ級が砲撃しても当たらない。

それどころかチマチマ撃ち返しては当ててくる。

直撃ではない。かすったりした程度で、ダメージは殆ど受けていない。

避ける自信はある。そんなもの、当たるものかとさらに怒りを倍増させた。

こちらを見てニコリと笑う笑顔が自分を馬鹿にしている気がした。

さらに電は逃げ回りながらも、イ級、ロ級、ヘ級、ホ級に当てる。

4隻とも怒りで頭がいっぱいになり、氏に物狂いで電を追う。

電「龍田さん!」

イ級「何?」

そこに乱入する軽巡龍田。

龍田「ごめんなさいね。弾切れでもう近接戦しか出来ないわ」

電「こっちもなのです」

そのやり取りで敵は弾切れだと知る。

今までの戦闘で、温存しつつ撃ち返していたと判断していたので、

それを全く疑わずに信じた。

イ級(敵は弾切れ・・・この場合狙うなら・・・)

軽巡。駆逐艦と軽巡なら、軽巡を倒したほうが手柄になる。

龍田「電ちゃんは逃げてね~」

緊張感のない声。

ロ級「あっちの駆逐艦はどうする?」

イ級「アンタが行けば? 私が狙うのは軽巡だ」

それは誰も同じ。

イ級、ロ級、ホ級、ヘ級は手柄を争うように龍田に向かう。

欲望に目をギラつかせながら。

龍田は逃げながら応戦。

深海棲艦4隻はそれを追従する。

電(・・・思惑通りなのです)

732: 2015/10/24(土) 03:21:13.64 ID:F/zDaFwo0
天龍はリ級と戦闘中だった。

リ級(貰った・・・)

この一撃で決まる。そう確信した。

そこへ、イ級が背後から突っ込み、接触。

激しい衝撃がリ級を襲う。

リ級「貴様!! どこを見ている!!」

イ級「いや、そっちこそ気をつけてよ!」

さらにロ級、ヘ級、ホ級も突っ込んできた。

リ級「貴様ら!!何をしている!!」

せっかくの手柄を!! とリ級は憤慨する。

敵を追う事に集中しすぎて、衝突とはマヌケも良いとこだ。

龍田「天龍ちゃん」

天龍「応っ!!」

天龍、龍田は深海棲艦が衝突してバランスを崩した瞬間に高速で離脱する。

距離を取ると体を反転させた。

そこで気付く。

6隻の艦娘に全方向から囲まれていることに。

電「攻撃を避けられるなら、避けられないようにすればいいのです」

リ級「・・・え?」

突然のことで頭が理解出来ない。

電「・・・ごめんなさい。さようならなのです」

そこで、ようやく気が付いた。

リ級(こいつ等・・・!!!)

一箇所に誘い込まれた。

天龍と龍田、電を囮にし、駆逐艦3隻が自分達を囲い込むように展開していた。

何たる迂闊。

電(・・・喰い付いたのです)

733: 2015/10/24(土) 03:21:54.24 ID:F/zDaFwo0
まずは弾薬が切れたかのような芝居をすることで敵に攻撃手段が低下していると思わせた。

敵に自分達が優位だと思い込ませる。それが最初の作戦。

そして、敵に自分達が優位であると錯覚させた上で挑発し、指揮系統を麻痺させた。

敵の動きの連帯感の無さから、即席の部隊だと予想ができた。

その為、一度連携が崩れてしまえば立て直すには時間が掛かる。

さらには敵が欲する手柄をチラつかせる。

「敵を轟沈させた」という手柄を。

時間稼ぎが目的であっても、敵が弱っていて、倒せる状況になったらどうするだろう?

当然、沈めようとしてくるに決まっている。

そして駆逐艦と軽巡。手柄を狙うなら?

それは軽巡だろう、自分が手柄を挙げるという欲望を利用した。

深海棲艦からすれば、目の前には疲労して動作が鈍った極上の獲物がある。

面白いように喰い付いて、深海棲艦達は『自分達が追い詰めている』と思い込んで我先にと軽巡2隻に殺到した。

誘われているとも知らずに・・・

リ級(・・・無様だな)

6隻の艦娘の放つ放射状に展開された魚雷が迫る。

とても逃げ切れない。

だがいい。時間は十分稼いだ。そう思った。

リ級(いや・・・まだだ、まだ終われない!! このままやられてたまるか!)

ホ級「な・・・何を!?」

リ級「五月蝿い!!」

魚雷の直撃を受けて、大きな爆発音と水しぶきを上げて、深海棲艦5隻は全てが轟沈したように見えた。

響「・・・撃ち損じはない・・・みたいだね」

一番気がかりだったのは、6隻で囲い込むように撃ち出す場合に、

敵に当たり損ねた魚雷が通り過ぎて、周囲を囲んでいる仲間に直撃することだったが特に問題なく終わった。

龍田「電ちゃん、私達よりワンテンポ早く撃ったでしょ?」

電「はい。先に命中させれば爆発で他の魚雷も爆発させられると思って・・・」

雷「最初はどうなるかって思ったけど、上手くいって良かったわね」

734: 2015/10/24(土) 03:22:36.32 ID:F/zDaFwo0
笑顔だった電の目が険しくなる。

電「いえ、まだなのです」

暁「あっ!!」

視線の先、リ級が居た。ダメージを受けていたが辛うじて浮いている。

天龍「あいつ・・・味方を盾に!?」

リ級は盾代わりにしたホ級を海面に投げ捨てる。

ホ級は既に活動停止しており、海底へと沈んでいく。

憎悪の篭った目を向けて、主砲を構える。

リ級「コロス!! コロス!! コロス!!!」

怨念と怒りが、リ級の破損した体組織を少しづつ修復し始める。

天龍「チッ・・・やるか・・・」

距離はかなり離れている。一撃で命中は難しい。

ならば、砲撃を避けながら、接近して叩けばいい。

あのダメージでは最初のように攻撃を避けることも難しいだろう。

だが、天龍が向かうより早く、背後より砲撃音がした。

電「今度こそ、安らかに眠って欲しいのです・・・」

電の放つ主砲の一撃は、リ級の頭を吹っ飛ばして、今度こそ敵は殲滅された。

天龍(え?・・・この距離で当てたのか!?)

雷(・・・まだ私は電に勝てないのね。私だってもうレベルカンストしているのに)

電「・・・作戦終了なのです」

響「成功してよかったよ」

電「そうですね。被害も無くて良かったのです」

暁「最後のリ級は少しびっくりしたけどね」

電「時として、生への執着は想像以上の力を引き出すのですよ・・・」

龍田「それにしてもよく、こんな作戦を思いついたわね」

電「昔、似たようなことをしたのです」

735: 2015/10/24(土) 03:23:17.98 ID:F/zDaFwo0
電は敵が沈んだ場所を見る。

悲しみを感じないと言えばウソになる。

敵であっても、命を奪うのは辛いという気持ちはある。

だが、罪悪感は無かった。仕方が無い。これは戦争。

自分達がやらないと、巡り巡って誰かが傷つく。

半端な優しさは甘さだ。

そして、その甘さは味方を頃すこともある。

電「戦争は悲しいのです」

暁「・・・? そうね」

自分は艦娘。

兵器ではあるが、人でもある。

君は人間だと提督は言った。だから人間だ。

悲しむし、怒るし、笑う。生きているから。

誰もがそんな、人として当たり前のことを、当たり前に出来る世界。

平和を享受し、戦争と言う理不尽に誰かの命が奪われない世界。

電(それが司令官さんと約束した未来・・・)

何時の日か、戦争を終わらせて、それを当たり前にさせる。

もう誰も悲しい目に合わせない様に。

それが昔、2人でした約束。

たった2人から始めた鎮守府が動き出した日から追い続けた夢。

かつては誰もが夢物語と言っていた事が、今では現実味を帯びてきている。

鎮守府の仲間達もそれを信じている。

2人の夢が今では鎮守府の仲間共通の目的になっている。

電(もう少し・・・もう少しなのです)

それが叶うまで、自分は甘さを捨てる。

もう失敗はしない。

736: 2015/10/24(土) 03:23:58.22 ID:F/zDaFwo0
だから今は悲しまない。敵を討つ。未来の為に。夢のために。そして・・・

電(大好きな・・・司令官さんの為に・・・司令官さんと私の敵は・・・全て・・・)ハイライトオフ

今は敵を殺さないとダメなんだ。

そうじゃないとまた・・・

雷「どうしたの? さっきから黙り込んで?」

電「なんでもないのですよ?」

雷「・・・そう? ならいいけど」

天龍「さーて・・・鎮守府の応援に向かうか」

天龍はレ級に抜かれたのが余程気に食わないのか、ヤル気満々だった。

龍田「もう誰か倒しちゃったんじゃないかしら?」

電「・・・ダメなのです。やっぱり、通信がまだ回復していないのです。ということは妨害しているのはレ級・・・」

響「みたいだね」

暁「早く戻らないと!」

電「いいえ、まずは鎮守府ではなく民間の漁港に行くのですよ」

天龍「は? 鎮守府に敵がいるのにか?」

電が前進すると天龍を残して全員が進みだした。

天龍「ちょっと待てよ!」

慌てて天龍も追いつく。

雷「どういうこと?」

電「現状、鎮守府とまだ連絡が取れていないのです。まず必要なことは?」

先生が生徒に答えさせるように天龍に話を振る。

天龍「え・・・と・・・連絡を取ること?」

電「そう。まずは状況の確認。そして、こちらの状況を知らせるのです。全員無事だと」

暁「なんで漁港なの?」

提督の方針で、舞鶴では若狭湾での漁を許可していた。

無論、安全の為にルートの指定や、細かいルールは設けているが・・・。

それでも、この時代に海での漁を可能にさせてくれた提督に漁師や市民は感謝し、

指示には全面的に従っている。中には崇拝している者が居るほどに。

見返りを求めず、市民の生活に必要なことだと判断して行ったことではあるが、

結果として真摯な対応が市民の信頼を勝ち取り、さらには魚を少し別けて貰う恩恵も受けている。

これは軍属が民間から賃金を貰って、何かをするのが問題なので、提督は金銭の受け取りを断わったことから始まった。

猟師たちは仲間内で相談し、漁で取れた魚を鎮守府にお裾分けした。

最初は断わっていたが、最終的には提督が折れて、食べきれる量で、

あくまで自分達の生活利益を優先することを前提に受け取ることになって、それが今でも続いている。

少し前にも艦娘が護衛として付き合い、秋刀魚を大量に捕まえてきて、旗まで貰っていた。

この漁港は若狭湾と舞鶴湾の境に存在し、舞鶴鎮守府に戻るには必ず通過することになる。

737: 2015/10/24(土) 03:24:59.88 ID:F/zDaFwo0

電「今、電達が居る場所から鎮守府と漁港だと、どっちが近いですか? 漁港なのです。そして漁港には・・・」

響「ああ、有線の回線があるね」

電「鎮守府に連絡できる可能性が高いのです」

そっちまで遮断されて使えない可能性もあるが、

艦娘の通信のみを妨害しているのであれば、通常の回線は生きている可能性は高い。

電「そして後2つ、理由があるのです」

暁(・・・なんだろ)

雷「・・・一つは民間人の保護よね?」

暁「あ・・・暁もそう思ったわよ」

響「多分、それは既にやってると思うよ」

電(そう、司令官さんなら、まずは民間人の安全を最優先にする。なら既に指示は出ている・・・)

だが突然、敵が鎮守府付近まで攻め込んだ為に、こちらに護衛を回している余裕が無い可能性が高い。

ならば状況を確認した後、必要であれば漁港付近に展開し、民間人を守る必要もあるかもしれない。

一般人に犠牲が出れば、それは提督の責任問題にも繋がる。

下手すれば日本各地からバッシングを受けるだろう。

守ろうとした事実は無視されて、何故犠牲を出したのかと一点のみを取り上げて悪者にされる。

特に市民から反感を持たれることは避けたい。

そうなれば、立場も危うくなり、今後の活動に制限が掛かる可能性もある。

最悪、責任を取り、鎮守府を去らなければ成らない事態も考えられる。それだけは絶対に避けたい。

そんな計算を頭の中でしている自分が少し嫌になる。

電(・・・いえ。そうじゃないのです。それもあるけど・・・人を守るのが・・・電達の仕事なのです)

響「そしてもう一つの理由は、これ以上の敵の侵入を許さないことだよね?」

電「はい、舞鶴鎮守府に向かうには海路は一つしかないのです」

738: 2015/10/24(土) 03:25:26.77 ID:F/zDaFwo0
舞鶴湾は周囲を陸に囲まれている為に、入るのも出るのも1つの海路しかない。

つまり、敵が侵入するなら必ず通る場所。

完全に制圧している海域に敵が現れた。

それを考えると別働隊が存在し、さらなる強襲をかける可能性もある。

なので連絡を取った後は自分達が防衛し、これ以上の侵入を防ぐ。

皆、説明に納得したようだった。

電(鎮守府には司令官さんがいるのです。心配だけど、電はこれでいいのです)

今は自分が出来ることをやる。

何時からだろう。戦うことに恐怖を抱くことが無くなったのは。

敵を倒すことに罪悪感を感じなくなったのは。

その代わり、提督に失望されるのが恐かった。別れるのが怖かった。離れ離れになるのは嫌だった。

電(司令官さんはそんなこと・・・思わないのです)

あの提督が自分達に失望するとは思わない。あるとすれば自分自身を責めること。

電(それはもっと嫌なのです・・・)

だから正しい行動をする。今出来ることで最も正解だと思うことを。

指に嵌めているケッコン指輪を優しく撫でる。

心が満たされる。

それだけでなんでも出来る気がした。

電「少し速度をあげるのですよ」

雷「分かったわ!」

天龍「ちぇっ・・・レ級と殺りあいたかったぜ・・・俺一人で行っていい?」

少し不満気に呟いたが答える者は居ない。

天龍「へいへい。分かったよ。黙って付いてくよ。つか旗艦は俺じゃね? なぁ? 聞いてる?」

彼女なりに場を和ませようとしたのだが、皆、鎮守府に居る提督のことが不安で軽口を返せる気分じゃなかった。

天龍なりの気づかい。それが分かったから電は少し優しい気分になる。

電「天龍ちゃんは良い子なのです」

天龍「うっせーよ・・・バカ」

照れくさそうにそっぽを向く。

電「・・・言葉遣いが乱暴なのですよ?」

ギ口リと睨まれて慌てて天龍は「うっせーです」と言った。

その変な口調に皆が笑い、少し気持ちに余裕が出来た。

779: 2015/11/12(木) 06:14:15.68 ID:ll+xaQdu0
伊勢「提督!! 早く!! ここは私達が!」

金剛「・・・っ」

情けなく思うが、借り物の体で戦闘に介入した所で

皆の足を引っ張ってしまうことは明白だった。

通信は電波妨害により使えない。

金剛(やはり、一度戻るしかないのか・・・)

鎮守府から離れてしまったので、戻るにしても最短でも20~30分は掛かる。

そこから増援がくるまでどれ程掛かるだろうか?

その間、皆にレ級を任せることが不安であった。

レ級は元々厄介な相手ではあるが、最近では特に脅威になっておらず、

遭遇しても大きな被害も出さずに倒すことが出来ていた。

だが、アレは何やら普通の固体とは違う。

強い。恐ろしく強い。

翔鶴「早く鎮守府へ!」

金剛「・・・すまん」

今は彼女達を信じるしかない。一刻も早く鎮守府と連絡を取り、すぐに応援を呼ばなくては。

金剛(チクショウ・・・)

自然と拳に力が入る。

金剛(頼む、皆・・・耐えてくれ!!)

レ級「邪魔だよ!!」

伊勢「そりゃそうだよ、邪魔しているんだもん。航空戦艦を舐めないでよね!!」

レ級「へぇ! 面白いね! 戦艦なのにヒコーキ飛ばすんだぁ!!」

尾「それはこちらもでしょうに」

レ級の尾が淡々と返した。

尾はまるで生物のように顔があり、言葉を発する。

伊勢「翔鶴!!」

翔鶴「はい!!」

伊勢と翔鶴の航空隊の息のあった攻撃。

レ級「おっとっ」

艦載機から投下された爆弾をまるでダンスでも踊るように回避する。

レ級「ほ~らお返しだよっ!!」

780: 2015/11/12(木) 06:14:49.77 ID:ll+xaQdu0
翔鶴「魚雷!? くっ!! 迎撃!!」

正面から喰らいそうになるが、翔鶴の直掩機が迎撃に成功し、大きな水柱を上げた。

まるで水で出来た壁のように、それはレ級と艦娘達の間を遮る。

その一瞬のスキを付いて伊勢が主砲を撃つ。

伊勢「喰らえぇぇぇ!!!!」

レ級の位置は掴んでいた。

重力で再び水面に戻る水の壁を砲弾は切り裂いて、レ級に命中。いや、命中すると確信していたが・・・

伊勢(居ない!?)

直後、水中から水しぶきをあげてレ級が飛び出す。

能代(なっ!! 水面を潜って!!?)

レ級「ハイ、おしまい」

一切無駄な動作をせず、流れるような動きで伊勢へ発砲。

伊勢「終わらないっての!!」

飛行甲板を盾の様に使い弾く。砲弾の衝撃が腕に伝わった。

伊勢(くっ・・・)

弾かれた砲弾は海面へ着水して爆発した。

水しぶきが雨のように降り注ぐ中、レ級は楽しそうに、

両手を広げて落ちてくる水滴を全身に浴びながら鼻歌を歌う。

伊勢(コイツ・・・遊んでいるの?)

腕の痺れを落とすように腕を左右前後に振りながら、レ級を睨む。

レ級「へぇ・・・ザコだと思ったけれど意外と強いね。そこらの艦娘なら最初の攻撃で氏んでいるのに!! すごい!! すごーーい!!」

何が面白いのか、楽しそうに笑う。

これには艦娘達全員が怪訝な顔をする。

卯月「なんか、アイツおかしいぴょん」

弥生「・・・うん」

レ級「でも、今回はキミ達が目当てじゃないから・・・そろそろ消えてね?」

先程までは楽しそうに笑っていたのに、急に能面のように無表情になる。

空気がピリピリした。

能代「・・・凄い殺気ですね」

伊勢「少し・・・ヤバいかもね」

レ級「いくよ?」

能代「!!!?」

凄まじい加速力。

砲撃で応戦するが当たらない。

能代(あっ・・・)

レ級と目が合った。突出して前にいた自分に狙いを付けたのだろう。

明確に氏をイメージ出来る。回避が間に合わない。

まるでスローモーションの映像を見ているように、レ級の動きが見えた。

だけど、体は動かない。まるで自分だけが時間から取り残されたように。

レ級「まずは一隻。運がよければ仲間になれるよ。良かったねー」

781: 2015/11/12(木) 06:16:26.94 ID:ll+xaQdu0
時間は、ほんの少し前に遡る。

金剛「・・・」

後ろを見る。

砲撃音が鳴り響き、爆発の炎が見える。

5対1で数の上では優位なハズなのに、劣勢であることが分かる。

金剛(本当にいいのだろうか)

仕方が無いのは分かる。

判断的に指揮官である自分が、

アクシデントで入れ替わってしまった艦娘の体で戦うなんて自殺行為だ。

下手したら氏ぬ。

金剛(今ここで俺が氏ねば・・・金剛まで氏なせてしまう・・・)

この体は金剛の物。氏んでしまえば彼女をも頃してしまう。

それに自分が氏んだら・・・残された者達は?

無責任な行動は取れない。

金剛(今はこれが正しい、正しいんだ・・・)

早く連絡を取り、艦隊を編成、すぐに救援に向かう。

そう、それが一番ベストな判断だと分かる。

金剛(なのに・・・何を考えているんだ俺は・・・)

気が付くと反転し、戦場へ戻っている。

これは間違い。

正しい判断ではない。戻るな。

金剛(うるさい。黙れ。黙れ。黙れ・・・)

この行動は間違っていると頭の中に行動を否定する声が響く。

金剛(分かっている、分かっているんだ。だけど・・・)

見えた。敵の姿が。

折角、皆が自分を逃がす為に戦っていたことを無駄にする愚かな行為。

金剛「だけど、俺は――――俺は―――」

レ級の主砲が能代を捉える。避けられない。

能代(・・・すいません提督。さようなら・・・みたいです)

金剛「―――もう家族を誰一人、失いたくないんだよぉぉぉぉっーーーー!!!!!」

782: 2015/11/12(木) 06:17:07.42 ID:ll+xaQdu0
轟音と共に放たれた砲弾はレ級に直撃する。

レ級「がっ!!?」

直撃をまともに喰らい、レ級は吹っ飛ばされた。

伊勢「え?」

翔鶴「・・・提督!?」

卯月「なんで戻ってきちゃうぴょん!?」

弥生「ひょっとして、もう応援を・・・?」

金剛「能代っ!!」

能代「・・・提督?」

金剛「良かった・・・無事だな?」

能代「え? はい!!」

伊勢「・・・提督、どういうこと? 連絡は取れたの?」

金剛「いいや。戻ってきた。お前達が心配だから」

翔鶴「なんでですか!! 提督にもしものことがあったらどうするんですか!!?」

金剛「ごめん。心配してくれてありがとう。でも散々悩んで・・・こうなった」

卯月「うーちゃん達が何の為に戦っていたか分かってるぴょん?」

金剛「全部、分かってやっているんだ。提督失格だな俺は。でもな・・・」

能代「あ・・・あう・・・」

安心したのか能代はよろけた。緊張の糸が切れたのだろう。

金剛「おかげで能代を助けられた」

よろけた能代を支えて、微笑んだ。

体は金剛なのに、その笑顔が提督と重なって能代は頬を染めた。

翔鶴「(私以外と)ラブコメ禁止ですよ」ハイライトオフ

弥生「(弥生意外と)禁止です」ハイライトオフ

卯月「何時までひっついているぴょん」ハイライトオフ

伊勢「・・・へぇ。余裕があるね提督?」ハイライトオフ

金剛「すまん、そういうつもりは・・・ごめんな?」

能代「いえ!!大丈夫です! むしろ嬉しいです!! ありがとうございます!!」

戦場に似つかわしくない雰囲気だった。

783: 2015/11/12(木) 06:23:13.60 ID:ll+xaQdu0
能代(提督が居るだけで、こんなにも心が落ち着くんだ・・・)

伊勢「それより、増援はどうするのさー」

翔鶴「アレを振り切って撤退は難しそうですよ?」

金剛「ああ、だがな・・・よく考えたら恐らく、もう増援は向かっていると思うんだよな」

伊勢「どういうこと?」

金剛「俺達から連絡が途絶えて、時間がたっていることがまず一つ、そしてもう一つは戦闘による砲撃音だよ」

鎮守府のある舞鶴湾から出てはいるが、陸地には近い。そんな場所でドンパチをやっていれば陸地に音が届く。

そうなれば嫌でも異常な事態だと分かる。

そして今、執務室に居るのは提督である自分の体に入っている金剛だ。

彼女ならすぐに動く。確かな確証はない。だが恐らく編成を済ませて増援を向かわせているだろう。

沖で戦闘になった第二艦隊にも電が居る。

彼女も、この状況下で最善の行動を取っているハズだ。

どれも憶測。だけど、それは同じ時間を共有してきて培った信頼から来る確信。

金剛「提督である自分が、艦娘として戦いに加わるのは間違いだと思う」

だけど・・・

金剛「やっぱり、皆を置いては行けないよ。我侭を許してくれ」

弥生「でも・・・もしも、氏んでしまったらどうするんですか・・・?」

皆それを一番恐れている。提督が氏ぬことを。

金剛「・・・氏ぬつもりはないし、皆を氏なせるつもりもない。絶対にな」

根拠はない。だけど、その言葉だけで自然とそうなると確信出来る安心感があった。

伊勢「提督としては失格だよね。でもだからこそ・・・私は貴方を愛しているし、戦える」

翔鶴「なっ!! 私も!! 私も愛してます!!」

金剛「ああ、俺もだ」

伊勢(家族として・・・でしょ? 私は違うんだけどなぁ)

弥生(良かった。司令官が鈍くて)

卯月(いつものパターン・・・)

能代(でも提督が自覚したら、きっと争いで氏人出ますし)

金剛「・・・どうした?」

伊勢「べっつにぃ~」

金剛「・・・?」

784: 2015/11/12(木) 06:23:46.74 ID:ll+xaQdu0
能代「しかし、電波妨害だけでも、どうにか出来ませんかね?」

金剛「それなんだがな・・・恐らく・・・」

その時、大きな音を立てて、何かが水中から飛び出して水面に着水した。

金剛「レ級・・・」

レ級「いやぁ・・・効いた。効いた」

尾「大丈夫ですか?」

レ級「少し落ちてたけどへーき 私は兵器」

尾「別におもしろくありませんよ」

レ級はケラケラ笑っている。

金剛「ダメージは軽微か・・・」

鎮守府との連絡が途絶えてからの時間を考え、そこから金剛が行動を起こし、艦隊を出撃させる時間を考える。

だとすれば、20~30分程、足止めすれば合流できるハズだ。

無論、金剛が事態に気付き、迅速に行動を取っていることが前提だが。

だが、今はそれを信じるしかない。

道は2つ。追撃困難な程の損傷を与えるか可能であれば撃破する、もう一つは増援が来るまで持ちこたえるか。

前者は手っ取り早いが、敵の戦闘力を考えると厳しいかもしれない。

金剛(ならば、損傷を与えつつも増援まで時間を稼ぎ、可能であれば倒す・・・どちらにしても難しいな)

だが、やらねばならない。誰一人失わず戻る為に・・・。

785: 2015/11/12(木) 06:36:59.70 ID:ll+xaQdu0
投下完了。
色々想定外のトラブルで遅くなってすいません。
感想何時もありがとうです。

以前もお伝えしましたが、
このSS一応全部終わりまで書いてあるんですよ。
だけどアレもしたい、コレもーとか
気が付くとスレ数がけっこう行ってて本スレで終わらないわってことで
継ぎ足したりしてまして当初の4倍近くに・・・
レ級の戦闘とかも割りと淡白な感じだったんですけど、
戦闘描写とか擬音を使わずに書きたくなって大幅に加筆しました。

本作品が初SSなんて色々実験的なモノも含んでいたりするのかなぁ・・・
同時刻に複数の場所で同時進行したり、戦闘描写だったり。
脳内のイメージをなんとか伝えようと色々頑張りました。エッヘン


突然停止する形で不安にさせてしまったことは大変申し訳ありませんでした。
繰り返しますが、加筆したり順番入れ替えることはありますが
基本的に既に出来上がってますので途中放棄したりすることはございません。
その点はご安心頂ければと・・・

投下当初に比べ、少し会社で偉くなったりして
自分が思っていた以上に生活環境に変化があって、時間取れないことも多々ありますが
きちんと完結しますよ。
本スレだけで終わらないくらい足されてるけど(汗

次回は土日どちらかの夜間くらいを予定してます。

では仕事行ってきます。

793: 2015/11/13(金) 01:33:21.50 ID:wqB3V55a0
乙でございます


引用: 提督「ウチは平和だなぁ」艦娘「表面上は」 その2