688: 2012/10/15(月) 22:45:40.81 ID:ha/KjjCC0
こんばんわ。
短編が書きあがりましたので投下します。
今回は前後編となりますので、まずは前編となります。
それでは早速、始めます。
前回:【禁書目録】木山「(詠矢君?…見ない顔だな…)」

689: 2012/10/15(月) 22:46:37.98 ID:ha/KjjCC0
(とある学生寮 上条の部屋)

御坂「…」

御坂「…ヒマねー…」

上条当麻の背中にもたれかかりながら、御坂はつぶやいた。

上条「一人暮らしの男の部屋を見てみたいって言ったのは、どちらさんでしたっけ?」

床に胡坐をかいて座っている上条は、コントローラーを手にテレビの画面を見つめていた。

御坂「だってさあ…もっとすごい散らかってて」

御坂「片付けがいがあるのかなあって…思ってたのに」

御坂「意外と綺麗なんだもの…おもしろくなーい」

上条「上条さんの経済状態では…」

上条「そもそも、散らかるほどの物が買えないのですよ!」

軽口を叩きながらも、目線は外さず、指はコントローラーの上をせわしなく動いていた。
創約 とある魔術の禁書目録(10) (電撃文庫)

690: 2012/10/15(月) 22:47:26.95 ID:ha/KjjCC0
御坂「なによう…」

御坂「彼女ほっといてゲームしてる人が、偉そうに言わないでよ!」

上条「キリのいいとこまでやっときたいんだよ…もうすぐ終わるから待ってろって…」

御坂「んー…」

背中にもたれかかったまま、御坂は体を反転してテレビを覗き込む。

御坂「…なにこれ…シュミレーションゲーム?」

上条「ああ…もうすぐでボスが倒せるんだ…こいつは…こっちに配置して…(ポチポチ)」

上条「よしっ…これでいい。これで攻撃すれば…」

御坂「…あ…」

上条「…あ…」

御坂「なんか氏んじゃったけど?」

上条「何でここでクリティカルが出るんだよ!!」

上条「…また最初からやり直しじゃねえか…不幸だ…」

御坂「こういう確率の絡むゲームは当麻には向いてないわねえ…」

上条「そんなこと言ったら殆どのゲームが出来ねえじゃねえか!!」

御坂「まあ…さ、人には向き不向きってのがあるじゃない?」

上条「美琴…慰めになってねえよ…」

691: 2012/10/15(月) 22:48:49.25 ID:ha/KjjCC0
御坂「…ふーんだ…」

御坂「出来たばっかりの彼女をほっとくから、バチでもあたったんじゃないの?」

上条「へいへい…で、どうお相手すればいいのかな?」

首だけで振り返る上条。背中にのしかかっている御坂と目が合う。

距離が近い、極端に。

御坂「…!!」

上条「…!!」

二人は固まる。しばらく動けない。三すくみならぬ二すくみ状態である。

(ピンポーン)

呼び鈴に硬直が解かれた。上条ははっと扉を見る。

上条「あれ、誰だろ…なんか予定あったかな…」

上条「美琴、ちょっと待ってな?」

御坂「んー…」

入り口まで移動し、扉を開けると、その向こうには詠矢が立っていた。

詠矢「まいどー、上条サン配達だよー」

詠矢はコンビニ袋に入った荷物を上条に手渡す。

692: 2012/10/15(月) 22:50:03.57 ID:ha/KjjCC0
上条「お、わざわざ悪いな詠矢」

詠矢「いやなに、部屋に帰るついでだよ…。上条サンの取り分だよ」

詠矢「ん…と…」

詠矢は玄関に有る靴に目をやる。

詠矢「お取り込み中みたいだね…んじゃ、とっとと退散するわ」

上条「お、おう…んじゃまたな…」

上条は詠矢が去ったのを確認すると、扉を閉め部屋の中に戻ってきた。

御坂「誰だったの?」

上条「詠矢だよ。コイツを届けてくれたんだ」

御坂「…何よそれ」

上条「バイト先のコンビニの廃棄弁当だよ」

御坂「え…そんなもの食べてるの?」

上条「食べてるっていうか…いま上条さんの主食ですよ」

御坂「ちょっと!そんなものばっかり食べてると体壊しちゃうわよ!」

上条「っても…これが一番安く付くしなあ…」

御坂「ダメよダメよ!今までは仕方なかったかもしれないけど…」

御坂「今は私がいるんだから、ちゃんとしたもの作ってあげるわ!」

御坂「…まだ夕飯までには時間あるわね…」

御坂「買出し言ってくるから待ってて!」

上条「…あ…ありがと…」

飛び出していく御坂の背中を、上条は目で追うことしか出来なかった。

693: 2012/10/15(月) 22:50:56.83 ID:ha/KjjCC0
(とある学生寮 詠矢の自室)

詠矢「…やることねえなあ…」

ベットにもたれかかり、詠矢は空しく天井を眺める。

詠矢「バイトが早く終わったのはいいんだけど…」

詠矢「ヒマになっちまうのはどうもね…」

詠矢「メシどうすっかな…」

詠矢「コンビに弁当もいい加減飽きたしなあ…」

詠矢「食うたびに体が蝕まれていく感じがどうにも…」

詠矢「誰か誘ってメシでもいくかな…?」

詠矢「っても…上条サンはお取り込み中だし」

694: 2012/10/15(月) 22:51:43.24 ID:ha/KjjCC0
詠矢「土御門サンも今日は妹サンがどうとかで無理だったような」

詠矢「…」

詠矢「こっち来て友達が沢山出来たと思ってたのですが…」

詠矢「気のせいだったのでしょうか…」

詠矢「…」

詠矢「やめよう…考えると悲しくなる…」

詠矢「まあいいか、今月は余裕あるし」

詠矢「どっかでなんか食ってくるかな?」

詠矢「よっと…」

詠矢はゆっくり立ち上がると、ふらりと部屋を出て行った。

695: 2012/10/15(月) 22:52:33.79 ID:ha/KjjCC0
(とある学生寮 上条の自室)

御坂「ただいま!」

上条「おかえりー、また大荷物だな…」

御坂「基本的なもの揃えるとね…」

御坂「じゃあ、やるわよ!当麻も手伝って!」

上条「あ、ああ…っても何すれば…」

御坂「お米研いでくれる?それくらいなら出来るでしょ?」

上条「そりゃまあ…いつもやってるからな…」

御坂「よろしくね…」

御坂「よっ…と」

御坂は鍋に水を張り、中に昆布を浮かべる。

上条「…なんだそれ」

御坂「出汁昆布よ。見たこと無い?」

上条「いや、そりゃ知ってるけど…使ったことねえし…」

御坂「ふふん…まあ見てなさいって…」

696: 2012/10/15(月) 22:53:20.73 ID:ha/KjjCC0
てきぱきと動く御坂を、上条は米の入ったボールを抱えたまま呆然と見ていた。

御坂「お米研げたら炊飯器をセットしてね。後は私がやるから」

言われたとおり炊飯器をセットする上条。そしてふと思う。

上条「(なんでしょうかこれは…)」

上条「(まるで新婚家庭ではありませんか…)」

御坂「ん?どうしたの?」

上条「え?いやいや…何も…」

御坂「終わったら休んでていいわよ…ゆっくりしてて?」

上条「あ…はーい」

大人しく移動し、居間でテレビを見る上条。

上条「…」

しばらくすると、御坂がお盆を抱ええて来る。

御坂「はーい、テーブル出して!」

上条「お、おう」

697: 2012/10/15(月) 22:54:11.59 ID:ha/KjjCC0
テーブルの上には、次々と料理が並べられる。

ブリの煮付け、ほうれん草のおひたし、大根の味噌汁、人参とじゃがいものきんぴら…。

どちらかというとありきたりな、純和食の献立だったが、上条にはそれら全てが輝いて見えた。

上条「はー…」

御坂「どうしたの?あ…嫌いなものでもあった?」

上条「いやいや、なんかこう…神々しくて…」

御坂「…ちょっと、いくらなんでも大げさじゃないの?…普段何食べてるのよ…」

上条「いや、内容というよりむしろこの状況がですね…」

上条「並んでるのが全部彼女の手料理なわけだよ!」

上条「上条さんは一品ずつ神棚に供えて拝みたい気分ですよ!!」

御坂「なっ…(カァ)」

御坂「もうっ…バカなこと言ってないで…さめないうちに食べましょ!!」

上条「おう、いただきまーす!」

上条は最初に味噌汁をすすり、一品一品と口に運んでいく。

698: 2012/10/15(月) 22:54:59.86 ID:ha/KjjCC0
上条「…」

御坂「…どう?」

上条「…美味い…幸せが口の中にひろがりますよ」

御坂「そう…良かった…」

偽りの無い上条の笑顔を見て、御坂もほっと表情を緩める。

上条「…しっかしすげえなあ…(モグ)料理とかどこで練習してんだ?(モグ)」

御坂「これくらい授業でやるでしょ?」

上条「え?授業って家庭科か?」

御坂「うん」

上条「はー、常盤台の家庭科って」

上条「料亭に修行でも行くのか?」

御坂「は?何言ってんのよ。そんなわけないでしょ…」

御坂「基本さえ押さえれば、これぐらいすぐ作れるわよ」

上条「いやいや、誰にもできるって訳じゃねえだろ。美琴って家事スキルも高いんだな」

上条「いいお嫁さんになるんじゃねーの?」

御坂「へっ!?…(カアッ)」

699: 2012/10/15(月) 22:56:14.43 ID:ha/KjjCC0
上条「へ…あっ…!いや…その…だな…」

御坂「…」

御坂「…お嫁さんって…」

上条「…」

上条「そりゃ…俺の…だろ…」

御坂「…!!(カァァッ)」

上条「…」

上条「…えーっと」

上条「そりゃまあ、今すぐは無理だけどさ…」

上条「予約って…ことで…」

御坂「…!!!(カァァァッ)」

御坂「……」

御坂「キャンセル…出来ないわよ…」

上条「お、おう…望むところだ…」

御坂「ありがと…」

部屋全体に桃色の空間を展開しながら、食事はつつがなく進んでいった。

700: 2012/10/15(月) 22:57:37.44 ID:ha/KjjCC0
(とある街角)

店員「ありがとうございましたー」

清算を済ませた詠矢は、ファミレスを出た。

詠矢「うー食った食った…」

詠矢「やっぱサラダバーはいいねえ。力の限り野菜を食ってやったぜ」

詠矢「さあて…ゲーセンでも行くかねえ…」

詠矢「…ソフィアサンの顔はあんまり見たくねえけどな」

詠矢「…あれ?」

詠矢「…御坂サンじゃねえの?」

詠矢「なんでこんなとこに…上条サンと一緒じゃねえのか?」

詠矢「おーい、御坂サン」

??「…?」

詠矢「…なんだよ、反応薄いな?俺だよ、詠矢だよ」

??「詠矢さん…?どちら様でしょうとミサカは率直に問いかけます」

詠矢「へ?…俺を知らんって…何の冗談だよ…」

??「なるほど、お姉さまのお知り合いですかとミサカは推測を立ててみます

701: 2012/10/15(月) 22:59:20.46 ID:ha/KjjCC0
詠矢「お姉さまって…御坂サンって妹いたのか?」

??「いえ、私は実の妹ではありません。絶対能力進化実験のために生み出された2万体のクローンのうちの一人…」

10032号「ミサカ10032号です、とミサカは懇切丁寧に説明します」

詠矢「…」

詠矢「…ちょ…ちょっとまって…」

詠矢「…あまりにも驚愕の情報で飲み込むのに時間がかかる」

10032号「…?」

詠矢「(クローン…って…それもまた2万人って…地方都市の人口レベルじゃねえの)」

詠矢「(それだけの人間を作り出すのって、どれだけの設備と資金が必要になるんだ)」

詠矢「(維持費も莫大になるだろう。それこそ国家規模のプロジェクトになるな)」

詠矢「(いくら規模がでかいとはいえ、学園都市が単独でそれを成し遂げたのか?)」

詠矢「(いや、さすがにありえんだろう…なんか俺が想像も付かないような力が働いてるのか?)」

詠矢「(…とか、俺が口に出して言うとこの娘たちは消えてなくなるんだろうか…)」

10032号「…?あの…とミサカは控えめに問いかけます」

詠矢「…あ、ゴメンゴメン、大丈夫。話は飲み込めた」

詠矢「(ま、流石にそれはねえか…。既に終わった事実を覆すほどの力は絶対反論にはねえわな)

702: 2012/10/15(月) 23:00:55.57 ID:ha/KjjCC0
10032号「人違いという認識でよろしいのでしょうか、とミサカは改めて質問します」

詠矢「ああ、確かにまあうなんだけどね…ナルホド…クローンねえ…」

詠矢「ってことは…御坂サン…じゃなくて、妹さんも電撃使いなのかい?」

10032号「詳細に関して、初対面であるあなたに話す義務はありませんとミサカは冷徹に言い放ちます」

詠矢「まあまあ、そう言うなよ。これでも『お姉さま』の友達なんだぜ?」

詠矢「もうちょっとお話しねえ?」

10032号「…時間的には余裕がありますが…と、ミサカは譲歩の姿勢を見せます」

詠矢「おうおう、妹サン話せるねえ…ちょっと興味がわいてきたぜ」

詠矢「んで、話を戻すが…能力に関してはどうなんだい?」

10032号「…電気操作系の能力を有しますが、お姉さまに比べればゴミクズ程度の能力です」

10032号「それゆえ、私たちの能力は欠陥電気(レディオノイズ)と呼ばれます、とミサカは自嘲気味に説明します」

詠矢「…へえ…そうなんだ…」

詠矢「でも、クローンてことは、遺伝子情報は同じわけだろ?それで能力にそんな差が出るのか…」

10032号「詳細は、作られた存在である私には知る由もありません、とミサカは言い放ちます」

詠矢「…」

703: 2012/10/15(月) 23:02:30.73 ID:ha/KjjCC0
詠矢「まあ確かに、そりゃわからんかもなあ…」

詠矢「だけどさ、遺伝子が同じってことは、基本同じ人間ってことだ」

詠矢「まあ、人間の成長は周囲の環境に大きく影響を受けるからさ」

詠矢「同じ遺伝子だからって全く同じ人間になるわけじゃないけど…」

詠矢「それでも、同じ遺伝子という事実は大きい」

詠矢「実際に、妹サンも電気操作の能力が使えるみたいだし」

詠矢「後はそのレベルが高いか低いか、の話っしょ?」

10032号「…」

10032号「…変わった人ですね。なぜミサカにそのような話をするのでしょうと、ミサカは疑問を投げかけます」

詠矢「ん?いや…こういう話しちまうのは性分かねえ…」

詠矢「ま、とにかくだ…遺伝子という素養があるなら」

詠矢「まだまだ上のレベルを目指せる可能性もあると俺は思うぜ?」

10032号「…」

704: 2012/10/15(月) 23:03:55.31 ID:ha/KjjCC0
詠矢「能力の基本はパーソナルリアリティだよな?」

詠矢「そいつは、個人の意識や自我、感情なんかに大きく影響を受けるみたいだ」

詠矢「見るところ、妹サンはそのうちの自我が弱いように見えるなあ…」

詠矢「そういうクールビューティなキャラもなかなかいいと思うけどさ」

詠矢「もし、自分の能力が低いことがコンプレックスになってるんだったら」

詠矢「それを解消するために、考え方とか気の持ちようとか変えてみてもいいんじゃないかな?」

10032号「…」

10032号「…考え方…気の…と、ミサカは一人…つぶやき…ます」

詠矢「うんうん」

10032号「やはり…おかしな方ですねと、ミサカは目の前の人物を評価します」

詠矢「変わってるってのは自覚してるけどねえ…」

上条「…お?」

御坂「…あら」

詠矢たちの傍を、かなり密着した状態のカップルが通りかかる。

上条「…詠矢…か?」

詠矢「お、上条サンじゃねえの。こいつは偶然…」

705: 2012/10/15(月) 23:04:36.48 ID:ha/KjjCC0
詠矢「御坂サンモ一緒で、何してんのかね?」

上条「何って…そろそろ門限らしくてさ…美琴を送ってるとこだけど…」

詠矢「おうおう、いいね…いい感じじゃねえの」

詠矢「そうそう御坂サン、ちょうど妹サンとお話してたとこさ」

御坂「妹?…あら…久しぶりね?」

御坂は妹の姿を確認すると軽く微笑みかける。

一方、声をかけられた妹は、なぜか激しく動揺していた。

10032号「…!!」

10032号「…お…お姉さま…その男性との密着した状態は…ど…どういう、とミサカは驚愕のあまり…」

御坂「え?どうゆうって…あ、まだ話してなかったわね…」

御坂「…まあ、その…いろいろあって…付き合ってる…の…よ」

御坂は耳まで真っ赤にしながら、少し目線を上げて上条に同意を求める。

上条「ん?…まあ、そういうこと…だな…」

詠矢「おーおー、初々しいねえ…」

10032号「…」

706: 2012/10/15(月) 23:05:27.94 ID:ha/KjjCC0
10032号「…そんな…お姉さま…抜けがけです…ずっこいです…とミサカは明確に非難します」

御坂「え?なにそれ…どういうこと?」

10032号「ツンデレのお姉さまなら、急激な進展は無いだろうと思ってました…、とミサカは自分の読みの甘さを悔やみま
す」

御坂「…あんた…まさか…」

上条「…?」

詠矢「…(あー、これは…妹サンも上条サンのフラグ被害者だったのか?)」

10032号「…いやです…受け入れられません…」

10032号「ミサカは…ミサカは…(バチッ)」

言葉と共に彼女の全身が強く帯電していく。

10032号「オリジナルに…反旗を…ひるがえします!!」

その右手を振り下ろすと、雷が一本の槍となって飛翔する。

雷の槍は、そのまま高速で密着する二人の傍をすり抜けていく。

御坂「…!!」

御坂「…どうして…あのこが…こんなに強い電撃を…!!」

詠矢「…あ…(これって…もしかして?…やっべ…)」

724: 2012/11/17(土) 08:57:46.04 ID:HDIADz+S0
(とある街角)

詠矢「というわけで、とり合えず逃げてきたわけだが…」

御坂「何がというわけなのよ」

詠矢「まあまあ、あのままだと被害が広がる可能性があるからさ」

御坂「なんか無理やりまとめようとしない?」

詠矢「いや…まあ…そんなことは…」

上条「詠矢…さあ…さっきのあのこの様子って…」

上条「もしかして…お前の…」

詠矢「…」

御坂「…見た感じ、あの電撃はレベル4相当だったわね」

御坂「確か…あんた…っ…よ、詠矢さん…増幅がどうとか…言ってなかったっけ?」

御坂「レベル6実験に巻き込まれたのもそのせいよね?」

詠矢「…」

詠矢「…だってさあ」

詠矢「ああゆう自己評価の低いこってさあ…フォローしてあげたくならないか!?」

上条「まあ、気持ちはわからんこともないが…」

御坂「(ジロッ)」

上条「…(ビクッ)」

725: 2012/11/17(土) 08:58:26.87 ID:HDIADz+S0
詠矢「…まあ、なんていうかさ…」

詠矢「絶対反論(マジレス)って集中とか必要無いせいでさ」

詠矢「流れで能力が発動しちゃうことがあるんだよねえ…」

御坂「じゃあ何?あのこと話してる間に、成り行きで能力を増幅させたっていうわけ?」

詠矢「まあ…そうなるかな…」

上条「はー…はた迷惑な話だな…」

詠矢「ん、まあ、原因は…多分それだけじゃないと思うけど…ね…」

上条「他に何か理由があるってのか?」

詠矢「…あんな簡単な論証では、あそこまでの能力の増幅は起こらないだろう」

詠矢「問題は、俺が論証に使った『自我』って言葉…」

詠矢「それが膨れ上がる事態がタイミングよく起こったこと…恐らくはそいつがもう一つの原因だ」

御坂「…あ、やっぱりアレなんだ…」

詠矢「アレですな…多分」

御坂「わかってたことだけどさ…問題よねえ…」

726: 2012/11/17(土) 08:59:09.59 ID:HDIADz+S0
詠矢「問題ですなあ…。まあ、御坂サンはこれから苦労することになるかもしれんね」

上条「…なに二人で納得してるんだよ。説明してくれよ!」

詠矢「…説明ってもなあ…。上条サンがフラグ放置したのが問題です」

上条「…??フラグ?」

詠矢「…やっぱり説明しても無駄か…(ブブブ)お…電話?」

詠矢「…番号非通知…」

詠矢「ものすごい嫌な予感がするが…ま、出るか(ピ)」

詠矢「はい、詠矢ですが…」

理事長『やあ…久しぶりだね詠矢君』

詠矢「…!!!」

詠矢「…!!!!」

詠矢「…(す、すげえ!冷や汗の流れる音が聞こえる!!)」

詠矢「は…はいー、なんのご用でしょうかー…」

727: 2012/11/17(土) 09:00:07.29 ID:HDIADz+S0
理事長『君はもう少し聡明な人間だと思っていたのだが…』

理事長『私との約束をもう忘れてしまったのかね?』

理事長『今の状況は、君が提示した使用許可の条件とは合致しないと思うが…』

詠矢「…あっ…いやあ…あの」

詠矢「…不可抗力…でして…」

理事長『故意ではない、で済むほどあの約束は軽くはないよ』

詠矢「は…はい…素直に謝ります…ごめんなさい」

理事長『…まあ、いいだろう。悪意は無いようだし、今回は大目に見るとしよう…』

理事長『ただし、今の事態を収めることをその条件とする…というのでいいかね?』

詠矢「えー、はい…なんとかやってみます…」

理事長『では頑張ってくれたまえ…(ブツッ)』

詠矢「…」

上条「…どうした詠矢…真っ青だぞ?」

詠矢「上条サン、御坂サン…」

詠矢「俺が居なくなっても探さないでね?」

728: 2012/11/17(土) 09:01:00.93 ID:HDIADz+S0
御坂「は?何の話よ…」

詠矢「…えらい人から怒られた…」

上条「…だから何の話だっての…」

詠矢「…いや…まあ…いろいろあってだな…」

御坂「…っ!」

その接近に真っ先に気づいたのは御坂だった。

三人が隠れていた場所の周囲に、ありえない角度からの落雷が襲う。

上条「うおっ!…なん…だ?」

詠矢「…おいでなすったか」

10032号「電磁波出しまくりのお姉さまを追跡することなど造作もありません、とミサカは説明しつつ登場します」

詠矢「増幅の状態は維持したまま…みたいだな…」

10032号「なぜかわかりませんがいま私には力がみなぎっています、とミサカは誇らしげに主張します」

御坂「なによ…やるっていうの?」

御坂「いくら強くなってるからって、私にかなうとでも思ってんの!?」

10032号「いえ…」

御坂「へ?」

729: 2012/11/17(土) 09:02:25.73 ID:HDIADz+S0
0032「お姉さまに手出しをするつもりはありません、とミサカは殊勝に答えます」

御坂「…じゃあ…何しに…あ、まさか…」

御坂「当麻に手出しするって言うなら…それこそ…!」

10032号「いえ、上条さんにも同様です、とお姉さまの言葉を遮って答えます」

上条「…じゃあ…、何しにここまで来たんだ?」

10032号「お姉さま、ひとつお聞きしたいことがあります、とミサカは端的に提示します」

御坂「…何よ…」

10032号「…なぜ、お二人は急接近されたのでしょう」

10032号「姉さまと上条さんの相性では、その距離が縮まることは永遠になかったはずです」

10032号「と、ミサカは失礼を承知で問いかけます」

御坂「…え?…って…それは…」

上条「まあ…なあ…」

仲良く同じスピードで振り返った二人は、ほぼ同時に詠矢の顔に目線を送る。

詠矢「…はい?…って俺かよ!」

730: 2012/11/17(土) 09:03:14.80 ID:HDIADz+S0
御坂「…だって…そうじゃない…」

上条「…詠矢が居なかったら…こうはなってない…よな」

10032号「…なるほど…どんな方法を使ったかは知りませんが…」

10032号「お二人を結び付けるとは相当な手腕ですね、とミサカは一定の評価を与えます」

10032号「と同時に、私のわずかな希望を撃ち砕いた人物として…」

10032号「このやり場の無い感情を打ち付ける対象になってもらいます、とミサカは一方的に通告します」

詠矢「…いやいやいやいや、ちょっと待ってくれよ」

詠矢「ムチャクチャだな、俺なんぞ痛めつけたところで何の解決にもならんだろ?」

10032号「解決など必要ありません。ただ、このままでは私の気が済みません、とミサカは理不尽な感情を吐露します」

詠矢「理不尽とわかっててあえて…か…」

上条「なんだよそれ…全然わかんねえよ!!」

上条「詠矢は何も悪くねえだろ!何だよ気が済むとか済まねえとか!」

御坂「そうね…いくらなんでも酷い言い分ね…」

御坂「やっぱり…私が相手してあげようかしら…(バチッ)」

詠矢「…」

731: 2012/11/17(土) 09:04:22.47 ID:HDIADz+S0
詠矢「…いや、お二人さん…俺がやろう」

上条「…え?なんでだよ」

詠矢「彼女がああなった直接的な原因は俺にある」

詠矢「その点では責任持って対処する必要があるだろ…」

詠矢「それに、自分がかけた効果をどう収束させるか…試してみるのも悪くない」

御坂「…またそんなこと言って…そのうち好奇心に殺されるわよ?」

詠矢「ま、それは大丈夫だろ。流石に殺意までは感じねえし…」

御坂「でも…何かの間違いでも食らったら…やばいレベルの電撃よ?」

詠矢「ま、その辺は何とかなると思う。逃げるのは得意だしね…」

上条「おい、本気なのか詠矢…」

詠矢「まあね。それに今回の話は、上条サンが絡むと余計ややこしくなるぜ?」

10032号「どうやら…お相手していただけるようですね…」

732: 2012/11/17(土) 09:05:07.10 ID:HDIADz+S0
10032号「では早速…、とミサカは戦いの火蓋を勝手に…切ります」

言い終わらないうちに、彼女は詠矢の鼻先に雷槍を打ち込んだ。

詠矢「おっ…ととっ!!」

詠矢は思わずのけぞる。

詠矢「妹サン気が早いねえ!!」

詠矢「んっと…ここじゃ回りに迷惑がかかる。とりあえず逃げるかねえ!(ダッ)」

そう言うと、詠矢は突如走り出す。

10032号「逃がしません…、とミサカは即座に追跡を開始します(ダッ)」

上条「お、おい…お前ら!」

御坂「どこ行くのよ!!」

二人の呼びかけには答えず、走りながら詠矢は考えた。

詠矢「(どこって、そりゃ…決闘って言ったら…アレだろ)」

733: 2012/11/17(土) 09:06:06.73 ID:HDIADz+S0
(とある河原)

詠矢「夕闇迫る河原ってはいい雰囲気だねえ…」

詠矢は、沈みかけてる太陽を見ると、軽口をたたく。

10032号「ずいぶんと余裕ですね、とミサカは半ばあきれつつ問いかけます」

数メートル離れて立つ彼女は、あきれると言いつついつもの無表情で言葉を返す。

詠矢「まあ、命までとられる訳じゃないしね」

詠矢「(上条サンたちははぐれちまったか…)」

詠矢「(いざとなったら頼るって手が使えなくなるが…)」

詠矢「(まあいいや、とりあえあずお二人さんは居ない方がやりやすいし)」

詠矢「(ヤバくなったらまた連絡して助けてもらうか…)」

詠矢「さあて、妹サンのみなぎる力ってのを、存分に見せてもらいましょうか?」

10032号「その余裕が焦りに変わる姿を見れば、きっと私の気も晴れるでしょう、とミサカは嗜虐的な台詞を吐きます」

詠矢「そうか…ならまあいいさ。どっちにしろ事態は解決できるわけだからな」

734: 2012/11/17(土) 09:06:47.08 ID:HDIADz+S0
10032号「…やはり、その態度、気に入りませんと…ミサカは戦闘態勢に入ります」

先ほどと同じく、右手を水平に引いて構える。

詠矢「あー、ダメだよそれ。ダメダメ」

10032号「…?」

詠矢「空気は絶縁体だ。ここまでは届かない」

10032号「…」

10032号「…そんなことは小学生でも知っていますが、とミサカは淡々と答えます」

詠矢「…え?」

躊躇無く振り下ろされた右手から、雷が放たれる。

詠矢「うおっ!!…とっとと!!」

一瞬早く、詠矢は横っ飛びで逃れる。

詠矢「(あっぶね…。一瞬早く動いて助かった…)」

詠矢「(落雷なんぞ見てから避けるのは無理だっての)」

735: 2012/11/17(土) 09:07:34.59 ID:HDIADz+S0
10032号「よく避けましたね、とミサカはあなたの身体能力に驚愕します」

詠矢「って、俺の言ったこと聞いてなかったのか?」

10032号「聞こえていたから答えました…バカにしてますか?、と怒気を含んだ声で答えます」

詠矢「(聞いてたって…どういうことだ?効果がねえ…)」

10032号「無駄話をしている暇がありますか?とミサカは苛立ちを覚えます」

詠矢「いや、ちょっと待って…」

10032号「まだ音を上げるには早いですよ、とミサカは躊躇無く追撃を…加えます」

詠矢「っとっとっとと…おぉ!!」

続けざまに襲う落雷を、詠矢は走り回って避ける。

詠矢「なあ妹サン…、腹へってねえか?」

10032号「…??」

詠矢「妹サンが発電を行っているとして、電気を発生させているのは体細胞だ」

詠矢「だとすれば、発電のために大量のエネルギーが必要になる。細胞活動のエネルギーは糖。血中の糖だ…。」

10032号「…だからどうしたと言うのでしょう」

詠矢「…はい?」

736: 2012/11/17(土) 09:08:16.58 ID:HDIADz+S0
10032号「私は電気を発生させてるのであって、体細胞で発電しているわけではありません、とミサカは攻撃の手を止めて説明します」

詠矢「…なんだその妙に説得力のある矛盾した説明は」

詠矢「でもそれだと、エネルギー保存の法則に反して…」

10032号「パーソナルリアリティは物理法則を書き換えます」

10032号「説明はそれで十分でしょう、とミサカは諭すように答えて…」

10032号「攻撃を再開します」

水平と垂直方向から続けざまに落雷が襲う。

詠矢「どぉうわっ!!…っとと!!」

やはり走り回って逃げるしかない詠矢。そして同時に考える。

詠矢「(これって…まさか…)」

詠矢「(感情の動きが少ないってのは…居直ってるのと同じ…ってことか!?)」

詠矢「(冗談じゃねえ…勝ち目ねえぞこれ!)」

次々に焦がされていく下草を踏みしめつつ詠矢は逃げる。

737: 2012/11/17(土) 09:09:09.24 ID:HDIADz+S0
10032号「余裕を見せていた割りには逃げるしか出来ないのですね、とミサカは攻撃の手を緩めません」

詠矢「ぐおぅわっ!!…って容赦ねえな!!」

詠矢「(どうする?まともな論証は通用しそうにねえ…。何か別の切り口を…)」

詠矢「(でも切り口っても…、感情が動かないんじゃ…どうしようも…)」

詠矢「(感情?…そういやあ…『増幅』が起こったきっかけって…)」

詠矢「…」

詠矢「…よし」

詠矢「なあ妹サン!!」

10032号「なんですか?まだ無駄口を叩く余裕がありますか、とミサカは律儀に返答します」

詠矢「俺も上条サンと知り合ってしばらく経つんだが…」

詠矢「その間、妹サンに会ったこと無かったよな?」

10032号「それがどうかしましたか?と、ミサカは口数が増えて動きの鈍った瞬間を狙います…」

詠矢「うおっ!!」

言葉通り狙い済ました雷槍が詠矢の袖先を掠める。

どうにか体を反らして避けたものの、上着の一部が一瞬で炭化したていた。

詠矢「うおっ、焦げた焦げた!」

738: 2012/11/17(土) 09:09:45.07 ID:HDIADz+S0
詠矢「…で、めげずに話を続けるぜえ!」

詠矢「要するに、妹サンは上条サンと会おうとはしていなかった…」

詠矢「積極的にアプローチはしてなかった…そうなるよな?」

10032号「…」

10032号「…何が、言いたいのでしょう…とミサカは、端的に聞きます」

詠矢「俺も、まるっきり朴念仁って訳でもないんでね」

詠矢「妹サンの態度を見てれば、上条サンをどう思っていたかはわかるさ…」

相手の反応を見つつ、詠矢は足を止め、正面に向き直る。

10032号「観念…しましたか?…とミサカはあなたの覚悟の程を問います」

詠矢「いや、そういうわけじゃねえが…逃げるのはヤメだ」

詠矢「ちゃんと話せそうな雰囲気になってきたからね…」

10032号「甘いですね…と…」

彼女は静かに右手を振り上げる。

詠矢「…」

黙って動かない詠矢。

739: 2012/11/17(土) 09:10:24.10 ID:HDIADz+S0
10032号「ミサカは…ミサカ…は…!」

放たれる雷槍。それは、詠矢の頬から少し離れた位置を通過し、飛び去っていった。

10032号「なぜ…逃げないのです…と…ミサカは…」

詠矢「最初から殺意は感じなかったからね…」

詠矢「今までだって本気で当てに来てたわけじゃねえっしょ?」

10032号「…あなたは…いったい…とミサカは…問います…」

詠矢「俺のことなんかどうでもいいさ」

詠矢「なあ妹サン…」

詠矢「あんたが怒ってるのは誰にだい?」

詠矢「御坂サンでも上条サンでもねえよな?」

詠矢「じゃあ、二人仲を取り持った俺かな?」

詠矢「多分違うと思うんだよな…」

詠矢「妹サンが許せないのは…」

詠矢「自分から何も動こうとしなかった自分自身に…じゃないかな?」

10032号「…(ビクッ)」

740: 2012/11/17(土) 09:11:08.26 ID:HDIADz+S0
10032号「…それは…そんなこと…私に出来るわけ…、とミサカは…言葉が…出ません…」

詠矢「御坂サンの思い人に手を出すわけにも行かない」

詠矢「だから自分は身を引いて、進展しない二人の関係に安住していた…」

詠矢「だろ?」

10032号「…」

詠矢「なら、もう結論は出てるわけだよ」

詠矢「御坂サンは勇気を持って自分の殻を破り、思いを伝えた」

詠矢「それが上条サンに届いて、二人はああなったんだと…思う」

詠矢「もう既に、妹サンはわかってるはずだ…」

詠矢「今自分に出来ることは一つだけ…」

詠矢「あの二人を祝福してやること…じゃないかな?」

741: 2012/11/17(土) 09:12:03.88 ID:HDIADz+S0
10032号「…」

10032号「…わかっています…」

10032号「…そんなことは…わかっています…」

10032号「でも、いくら理解しようとしても…この体の奥底の感情が…消えないのです…」

10032号「と、ミサカは…ただ…迷います…」

詠矢「うん、それでいんじゃね?」

詠矢「人間、そう簡単に割り切れるもんじゃねえしな」

静かに歩みを進めると、詠矢は相手の目の前に立つ。

詠矢「つうわけで、話を戻そう」

10032号「…?」

詠矢「妹サンが暴れてたのは、やり場の無い感情のぶつけ先が必要だったからだろ?」

詠矢「じゃあさ…」

詠矢「物理的な事でいいなら、それで少しでも妹サン気が晴れるんならさ」

詠矢「俺にぶつけてもらっていいぜ?」

詠矢は相手の手を取り、自分の肩の上に置いた。

742: 2012/11/17(土) 09:12:56.19 ID:HDIADz+S0
詠矢「俺が二人の背中を押したのは事実だ」

詠矢「正当かどうかは別にしてだな…、一応妹サンに恨まれる根拠はあるわけだ」

10032号「…」

詠矢の肩に置かれた彼女の手に、わずかに力が入る。

詠矢「ま、適当にやってくれ」

詠矢「ただし、氏なない程度に頼むぜ?。ああ、大怪我もカンベンかな?」

軽口を叩いて笑う詠矢だが、その表情に余裕は無い。

詠矢「(自我の暴走が能力の上昇を引き起こしてるのは間違いない)」

詠矢「(なら、それを解消してやれば絶対反論の影響は限りなく小さくなるはずだ)」

詠矢「(俺なりに説き伏せたつもりだが…さあ、どう出る!?)」

10032号「…」

10032号「…わかりません」

10032号「…私は…」

10032号「…どうしたらいいか…」

10032号「…私は…っ…」

その手が詠矢の肩を強く掴む。

743: 2012/11/17(土) 09:13:33.22 ID:HDIADz+S0
詠矢「…!」

同時に放たれる電流。それは詠矢の体を通って地面に流れた。

詠矢「ぐ…がっ…!!!…っ…」

詠矢「…つっ…」

詠矢「…」

詠矢「…んっと…?」

詠矢「どう…かな?」

10032号「…」

10032号「…ありがとうございます」

10032号「少し楽になりました、と…ミサカは素直にお礼を申し上げます」

詠矢「そっか…そいつはよかった…」

詠矢「俺もこの程度で済んで助かったぜ」

詠矢「まあ、メチャメチャ痛かったけどな…」

詠矢「ぐっ…」

詠矢はたまらず膝をつく。

744: 2012/11/17(土) 09:14:10.16 ID:HDIADz+S0
10032号「…!大丈夫…ですか?とミサカは心配…します」

詠矢「走り回ってちょいと疲れたかな…」

詠矢「妹サンの力の方はどうだい?」

10032号「まだ…力を感じます…ですが…」

10032号「先ほどよりは、ずいぶんと弱くなりました…とミサカは冷静に分析して答えます」

詠矢「…そっか…」

詠矢「(まだ完全に効果は消えてないか…)」

詠矢「(ってもこれ以上手がねえ…どうすりゃいいんだ…)」

上条「…詠矢ー!!」

河原に続く土手を駆け下りる姿が、詠矢の目に映った。

詠矢「お、上条サンか…」

詠矢「よくここがわかったなあ…」

御坂「そりゃそうよ」

詠矢「お、御坂サンもいっしょか」

745: 2012/11/17(土) 09:15:01.41 ID:HDIADz+S0
御坂「だいぶ派手に電撃を撃ってたみたいね…」

御坂「場所を特定するのは簡単だったわ」

詠矢「ああ、そっか。妹サンに出来て御坂サンに出来ねえわけねえもんな」

上条「…で?どうなった?」

上条「見たところ、だいぶ収まってるみたいだが…」

詠矢「まあ、なんとか、危なくない程度にはね」

御坂「…」

10032号「…お姉さま…」

御坂と対峙し、彼女は低くうなだれる。

そんな姿を、御坂はじっと見つめる。

御坂「…」

10032号「…」

御坂「ゴメンね?」

10032号「……え…」

746: 2012/11/17(土) 09:15:52.44 ID:HDIADz+S0
御坂「あなたの気持ちには気づいてあげられなかった…それは謝るわ…」

御坂「でも…それを知っていたとしても、私は何も変わらなかったし、ためらわなかったと思う」

御坂「だって…当麻は一人しかいないんだから」

10032号「…」

御坂「でも…あなたにも辛い思いはして欲しくなかった」

御坂「だから、ちゃんと気づいて、ちゃんと話をするべきだったと…思う…」

御坂「それは…ほんとに…ゴメン…」

10032号「…いえ…」

10032号「…いいんです…」

10032号「…その言葉だけで…ミサカは…十分です…と…」

御坂「ほら、当麻!!」

上条「はいっ!なんでしょう…?」

御坂「こっちきて、アンタも謝るのよ!」

上条「へ?なんで…俺が…」

747: 2012/11/17(土) 09:16:33.33 ID:HDIADz+S0
御坂「いいのよ!アンタにも原因はあるんだから!」

御坂「わかんなくてもなんでもいいから!…何か言ってあげて」

上条「…わかった」

上条は歩いて近づき、御坂の隣に立つ。

上条「…なんか、俺がしなきゃいけなかったことがあるみたい…だな?」

上条「まだ、ちょっとわからないとこもあるんだけどさ…」

上条「ゴメンな?」

うなだれる彼女の頭に、上条はそっと右手を置いた。

(キュイーン)

10032号「…!?」

詠矢「…え!!」

上条「…なんだ…今の…」

詠矢「上条サンの右手が何かに反応した?」

748: 2012/11/17(土) 09:17:26.52 ID:HDIADz+S0
上条「って…何にだよ!」

詠矢「…あ…絶対反論(マジレス)だ!」

詠矢「妹サンにかかってた増幅の効果が、解除されたんだ!」

御坂「…それって…もしかして…」

上条「最初からそうしてれば…」

詠矢「大騒ぎする必要は…」

御坂「…」

上条「…」

詠矢「…」

10032号「…?」

10032号「…先ほどからなんでしょう…増幅とか…、とミサカは説明を求めます」

詠矢「…いいやもう…」

10032号「…?」

詠矢「今日は解散!!」

詠矢「おのおの帰るべき所に帰る!以上!!」

749: 2012/11/17(土) 09:18:23.23 ID:HDIADz+S0
10032号「あの…私の質問は…と…」

詠矢「それは答えられません!!」

詠矢「世の中、知らない方がいいこともあるんだよ!!」

御坂「そうしときなさい…」

上条「だな…」

10032号「…は…はあ…、とミサカは力ない言葉を返します」

詠矢「うい…んじゃ、またな!!」

きびすを返して詠矢は歩き出す。

詠矢「(ったく…なにやって俺は…走り回ってバカみてえじゃねえか…)」

詠矢「(まあ、理事長サンにアピールは出来たかもしれないけどさ…)」

詠矢「(俺も肝心なところで頭が回らねえなあ…)…(ブツブツ)」

750: 2012/11/17(土) 09:19:07.14 ID:HDIADz+S0
10032号「…あの…」

詠矢「ん?」

呼び止められ、詠矢は一瞬足を止める。

10032号「最後に、もう一度お礼を言わせてください…」

10032号「ありがとうございました…とミサカは深々と頭を下げます」

説明通り頭を下げる彼女の姿を見ると、詠矢の表情も少し緩む。

詠矢「ほいほい、ごくろーさん!」

詠矢「(妹サンの気持ちを少しは救えたのかねえ…)」

詠矢「(ま、いろいろと無駄になってないんなら…いいけどね…)」

歩きながら詠矢は、一人そんな事を考えていた。

751: 2012/11/17(土) 09:19:57.41 ID:HDIADz+S0
(数日後 ジャッジメント177支部)

詠矢「(ガチャ)こんちわー。お久しぶりー」

初春「あ、詠矢さんこんにちわ」

詠矢「お、初春サン一人かい?白井サンは?」

初春「今パトロールに出かけてます」

初春「詠矢サンこそ何のご用ですか?」

詠矢「いやなに、ちと遊びに来ただけなんだけどさ…」

初春「…そうですか…」

詠矢「ん?どした、元気ねえな?」

初春「あー、いや…ちょっと…」

詠矢「なんかお悩み事なら相談に乗るぜ?」

初春「んー、えーっとですね…私の友達から…」

初春「相談を受けてまして…それに上手く答えられないんですよ」

752: 2012/11/17(土) 09:21:35.07 ID:HDIADz+S0
詠矢「ほうほう…相談の内容って、差し支えなければ聞かせてもらえるかい?」

初春「なんか…好きな人がいるらしくて…」

詠矢「あー、恋愛相談か…」

初春「そうなんですよ」

初春「なんでも、上手く思いを伝えられないらしくて…」

初春「どうすればいい?とか聞かれるんですけど…」

初春「私そういう経験がなくて…どう答えていいものか…」

詠矢「なるほどねえ…まあ、状況を聞かないと答えようがねえけど…」

初春「あ…そうだ詠矢さん」

詠矢「なんだい?」

初春「詠矢さん、なんかいいアドバイス考えてくれませんか?」

詠矢「俺に?」

753: 2012/11/17(土) 09:22:20.84 ID:HDIADz+S0
初春「だって、ほら…御坂さんって…あれだったでしょ?」

詠矢「まあ、関わってたのは事実だけどね」

初春「同じように、上手く気持ちを引き出せてあげたらなあ…って」

詠矢「んー、まあ、俺で役に立てるんなら…いいけどね…」

詠矢「…あ」

初春「…なんでしょう?」

詠矢「…その娘ってさあ…」

詠矢「クローンの妹とか…いねえよな?」

初春「………はい?」

754: 2012/11/17(土) 09:23:10.09 ID:HDIADz+S0
以上となります。
この話はこれで完結です。
ありがとうございました。

756: 2012/11/17(土) 09:35:40.62 ID:2T9LX2uco
乙です

詠矢さんはキャラとしてもポジションとしても良い塩梅してるよなあ
動ける、使える、戦えるの三拍子揃ってるし何よりも出しゃばりすぎない
原作なら第四の主人公か他の主人公を食っちまうサブキャラになれるぜい

766: 2012/11/28(水) 22:41:53.48 ID:cBDZEWvD0
こんばんわ。
短編が一つ書きあがりましたので投下します。

767: 2012/11/28(水) 22:42:44.40 ID:cBDZEWvD0
(とある学生寮 佐天涙子の自室)

佐天「よし…これで、最後!!」

今日は週末の朝、洗濯物を干し終えた佐天は、ふうと息をついてベットに腰掛ける。

佐天「さて…用事は済んだし、今日はどうしよっかなー…」

一日家にいることが殆ど無い彼女だが、今日は珍しく予定も無い。

佐天「…さあて、暇そうなのはだれか…な」

鼻歌交じりに携帯のアドレス帳をチェックする。

佐天「…あ…」

その指が『や』の行で止まる。

佐天「(詠矢さん…そういえばアドレス交換してたんだっけ…)」

佐天「(そういえば…ジェラート食べにいく約束してたなあ)」

佐天「(でも『また今度』っていつなんだろ。詠矢さん連絡くれないしなあ…)」

佐天「(そういえば…あれから会ってないような…)」

佐天「…」

768: 2012/11/28(水) 22:43:28.01 ID:cBDZEWvD0
佐天「(…電話しちゃおうかな?)」

佐天「(でもなあ…いきなり連絡したら迷惑かな?)」

佐天「(どうかなあ…悩むなあ…)」

佐天「…」

佐天「よし…例えば、で考えてみよう」

佐天「もし私が連絡したとしても」

佐天「もし用事があったり都合が悪かったら」

佐天「詠矢さんなら普通に断ってくるよね?」

佐天「じゃあ、連絡するだけなら迷惑にならない…かも?」

佐天「…」

佐天「それって…よっぽどヒマじゃないと会えないってことじゃない…」

佐天「そもそも…詠矢さんが私のために時間を割いてくれるかな…?」

佐天「(…あれ?…なんで私こんなに考えてるんだろ)」

佐天「(初春や他の友達なんかだと、相手の都合なんか考えずに連絡しちゃうのに)」

佐天「(…詠矢さんの考え方がうつっちゃったかなあ…)」

佐天「(考え方…)」

769: 2012/11/28(水) 22:44:22.84 ID:cBDZEWvD0
佐天「(でも…よく考えたら私、詠矢さんのこと何も知らないんじゃない?)」

佐天「(印象に残ることは多いけど、そんなに回数会ってないし)」

佐天「(それに詠矢さんって、私といるときあんまり楽しそうじゃないよね…)」

佐天「(なんか、気を使われてるっていうか…扱いに困られてるような…)」

佐天「…」

佐天「じゃあ、何でそんな人のこと考えてるんだろ?」

佐天「…もしかして…アレ…かな?」

佐天「…」

佐天「まっさか…ねー…」

佐天「…うーん…」

佐天「で…どうしよう…」

じっと携帯の画面を睨み付ける佐天。

佐天「…」

佐天「…よし!」

何かを決意したのか小さく叫ぶと、その指をキーの上に滑らせた。

770: 2012/11/28(水) 22:45:07.04 ID:cBDZEWvD0
(とある学生寮 詠矢の自室)

詠矢「あー…」

ベットにもたれかかりつつ、詠矢は一人天井を仰いでいた。

詠矢「ヒマだな…」

詠矢「相方のいる友人の方々はなかなか誘いにくいしねえ…」

詠矢「特にまあホヤホヤの上条サンは特になあ…」

詠矢「バイト先でもノロケ話が増えたし」

詠矢「この期に及んで独り身の寒さを実感するわ」

詠矢「んと…」

詠矢「どうせ予定もねえし…こないだ木山先生に借りてきた本でも目を通しとくか…」

詠矢「まあ、読んでも殆ど意味なんぞわからないんだが…」

詠矢「なんか論証のヒントでも見つかればね…よっと…」

机の上に積んであった本を一冊とると、適当にページを開く。

(ピンポーン)

詠矢「あれ?誰だろ…」

771: 2012/11/28(水) 22:45:59.46 ID:cBDZEWvD0
詠矢「また勧誘かな?…いまどき新聞なんぞ読まねえってのに…」

誰が来たのかはわからない。対応しないわけにもいかず、詠矢は玄関まで移動して扉を開ける。

詠矢「はいはい、新聞ならいらん…」

佐天「こんにちわー!」

そこには、見知った少女が立っていた。

その姿に、詠矢の思考は数秒間停止する。

詠矢「…こんちわ」

佐天「あれ…どうしました?」

詠矢「いや…ちょっと驚いて硬直してた」

佐天「あ…もしかしてご迷惑でした?」

詠矢「いやいや…そういうわけじゃないんだけど…」

詠矢「あれ?そういえば…俺の部屋よくわかったね?」

佐天「えっと…御坂さんから聞きました。彼氏さんと同じ寮だって…」

詠矢「…あー、そうなんだ…うん…」

詠矢「えっと…で、なんのご用でしょうか?」

772: 2012/11/28(水) 22:47:08.90 ID:cBDZEWvD0
佐天「それがですねえ…これです!!じゃーん!」

佐天は持っていた紙袋を差し出す。それは、詠矢にも見覚えがあった。

詠矢「あ、それ、あのジェラートか…」

佐天「そうです。ほら、こないだ食べ損なったんで…約束してたじゃないですか?」

詠矢「あー、うん…そうだったね…」

佐天「詠矢さんお忙しいみたいなんで…買ってきちゃいました!」

詠矢「…おお…って、わざわざ持って来てくれたのかい?」

詠矢「そいつはご苦労さんだねえ」

佐天「いえいえ、どうしたしまして!」

佐天「で、ですね…一緒に食べません?」

詠矢「…」

詠矢「(…これは…アレか…)」

詠矢「(他に選択肢は…ねえな)」

773: 2012/11/28(水) 22:48:05.97 ID:cBDZEWvD0
詠矢「…ん、いいぜ…上がるかい?」

佐天「はーい。おじゃまします…」

何か薄ら寒いものを感じつつも、詠矢は彼女を部屋へ招き入れた。

佐天「わあ…綺麗に片付いてるんですねえ…」

詠矢「どうせほっといたら散らかるんで」

詠矢「最初から物を増やさないようにしてるだけさ」

佐天「そうなんですか…たしかに、ちょっと殺風景かもですね」

詠矢「そうかねえ…なんかその手の感性が無くてねえ…なに並べていいもんだか」

詠矢「ああ、そうだ。溶けないうちに食べないとな…えと、スプーン…はい」

佐天「ありがとうございます。じゃ、これ…」

佐天は袋に入ったカップを一つ手渡す。

詠矢「ありがと…お、バニラか」

佐天「ええ、お好きなのがわからないので、シンプルなのにしてみましたけど…?」

詠矢「ん、いいよ。バニラが一番好きだし…」

774: 2012/11/28(水) 22:48:50.41 ID:cBDZEWvD0
詠矢「また美味いんだよなあ…ここのが…」

佐天「あれ…詠矢さん食べたことあるんですか?」

詠矢「うん…あるよ…?」

佐天「一人で食べにいったんですか?」

詠矢「いんや…一人じゃないよ。厳密に言うと食べに行ったわけじゃないんだけどね…」

佐天「…そう…ですか…」

詠矢「…」

若干、空気が重く感じられる。理由は詠矢にもわからない。

詠矢「…いや…ちょっとお世話になった人のお土産にね…」

詠矢は必要の無い説明を始めた。なぜ説明を始めたかは詠矢にもわからない。

佐天「あ、そうだったんですね…」

詠矢「美味しいのは間違いないんで、喜んでもらえたけどねえ」

佐天「よかったじゃないですか」

佐天「じゃあ、頂いちゃおうかな…」

佐天「私は食べるの初めてなんですよねー」

詠矢「…」

775: 2012/11/28(水) 22:49:26.63 ID:cBDZEWvD0
詠矢「(いやいやいや、何だこの微妙な罪悪感は)」

詠矢「(ちょっと待て、まずは冷静にだな…落ち着いて状況を分析しよう)」

詠矢「(確かに、あらためて食べに行こうと約束はしてた)」

詠矢「(まあ、なんとなく誘いにくくて連絡はしてなかったが)」

詠矢「(お互いにそれまでは食べないでおこうと確約したわけじゃない)」

詠矢「(つまり、俺が気負う要素は何も無いわけだ)」

詠矢「(よし、それを前提として話を進めよう)」

詠矢「うん、俺も味とか詳しい訳じゃねえんだけどさ」

詠矢「かなり美味いと思うぜ、ここのは」

佐天「…あ、ほんとだ。おいしいですねえ(パク)」

詠矢「うんうん、だろ?(パク)」

佐天「…(パクパク)」

詠矢「…(パク)」

佐天「…」

詠矢「…」

佐天「…(パク)」

詠矢「…な、なあ…佐天サン」

776: 2012/11/28(水) 22:50:05.05 ID:cBDZEWvD0
佐天「はい、なんでしょう?」

詠矢「ジェラートの件はわかったんだけどさ」

詠矢「用件って…そんだけ…かい?」

佐天「え…用事無いと居ちゃダメですか?」

佐天「それとも…お忙しいですか?」

詠矢「いやいや、そういうわけじゃないんだけどね…」

佐天「なるほど、詠矢さん的には何か理由があったほうがいいんですね…」

佐天「じゃあ、何かお話しません?」

詠矢「ん…お話…かあ…」

佐天「難しい話じゃなくてですね…、何でもいいんですよ?」

詠矢「んー…逆にそういわれると難しいなあ…」

佐天「いつも難しいことばっかり考えてるからですよ…」

佐天「じゃあ、私から…いいですか?」

佐天「詠矢さんのこと、ちょっと聞いてみたくて…ですね…」

詠矢「俺のことかい?…まあ、いいぜ。答えられることなら」

777: 2012/11/28(水) 22:50:51.98 ID:cBDZEWvD0
佐天「いいですか?じゃあ…お休みの日とか、なにしてるんですか?」

詠矢「休みは、なあ…殆どバイト入れちゃってるかな?長時間入れるしね」

詠矢「バイトが無いときは…図書館行ったりネット見たりとかで、調べ物かな」

佐天「へえ…やっぱりいつも勉強されてるんですねえ…」

佐天「お友達とか遊びに行ったりしてるんですか?」

詠矢「行くよ。上条サンとかバイト帰りに飯くいに行ったり。部屋にも良く行くなあ」

詠矢「最近は、ほら、アレだろ?ちょっと行きにくくなってるかな…はは」

佐天「ふふっ…ラブラブみたいですもんね…」

佐天「やっぱり自分からは誘いにくいですよねえ?」

詠矢「そりゃまあ…ねえ…」

佐天「…うーん…」

詠矢「どしたね…?」

佐天「えと…ですね…。詠矢さんって」

佐天「距離を、感じるんですよね…」

詠矢「」

778: 2012/11/28(水) 22:51:37.47 ID:cBDZEWvD0
詠矢「…え?」

佐天「ほら…どんなに親しい人でもさん付けですし…」

佐天「誰にでもほとんど同じ態度じゃないですか?」

佐天「…なんかそこに、縮まらない距離を…感じるんですよねえ…」

詠矢「…」

詠矢「…ぐは」

佐天「あっ!…ごめんなさい、勝手なこと言って!!」

詠矢「いやいや…、自覚はあったし…今のままでいいって思ってるわけでもないし…」

詠矢「すごく真っ当な指摘だよ…」

佐天「…そう…なんですか?」

佐天「じゃあですね…気にされてるんなら…」

佐天「ちょっと…距離を縮めてみませんか?」

詠矢「…距離…って?」

佐天「まず、目の前に居る私と…」

にっこりと、他意無く笑う少女。その姿に詠矢の思考は再び停止する。

779: 2012/11/28(水) 22:52:26.07 ID:cBDZEWvD0
詠矢「…まあ…佐天サンとなら…願っても無い…けどね」

佐天「わあ…よかったです!。じゃあじゃあ、もっと聞いちゃいますね?」

佐天「詠矢さんて…好きな人とか…いるんですか?」

詠矢「…」

詠矢「(これって、フラグ…だよな…?)」

詠矢「(思い人が居るかどうか聞くってのは)」

詠矢「(相手に精神的な『空き』があるかどうか確認する為だ)」

詠矢「(それを確認するのは、自分がその位置に入りたいという意思がある人だけ・・・)」

詠矢「(話の流れから言って確定的な台詞だ)」

詠矢「(…)」

詠矢「(…いやいやいや、ちょっと待て、調子に乗るな)」

詠矢「(ここはクールダウンだ、落ち着け詠矢)」

詠矢「(こないだまでぼっちだった俺が)」

詠矢「(いきなり女の子とフラグ立てられる訳ないだろ。常識的に考えて)」

780: 2012/11/28(水) 22:53:05.36 ID:cBDZEWvD0
詠矢「(興味本位で聞いてるという可能性も十分にある)」

詠矢「(有る意味俺をからかうつもりで、いたずら半分の言葉である可能性も高い)」

詠矢「(とりあえず、ここは無難に返しておこう。突っ込むと火傷する…うん)」

佐天「…えと…詠矢…さん?」

詠矢「ん?あ、いやゴメンゴメン…」

詠矢「いやあ…そういう人は…いねえなあ…」

佐天「わ、そうなんですか?…じゃあ、好きなタイプとか…どんな人ですか?」

詠矢「…まあ、自分から選べる立場でもないんでさ…あんまり考えたことないんだけど」

詠矢「俺のこと好きでいてくれれば…」

詠矢「ついでに理想を言えば…家庭的な子ならなおよし…かな…」

佐天「…なるほどなるほど…」

佐天「ええっと…でもその条件なら…」

佐天「私でもいいわけ…なんですよね?」

詠矢「…」

詠矢「……」

781: 2012/11/28(水) 22:54:05.42 ID:cBDZEWvD0
詠矢「いやいやいやいや、ちょっと待ってくれよ。なんだその論理の飛躍は」

詠矢「今の話の流れじゃ、その結論には至らんでしょう…いやホント」

佐天「…え…」

佐天「詠矢さん、私のこと…嫌い…ですか?」

詠矢「そりゃあ…嫌いなわけねえけど…?」

佐天「じゃあいいじゃないですか、好きで!!」

詠矢「うわっ…なんでそこで二択かな」」

詠矢「普通どっちでもないっていう選択肢があるっしょ!?」

佐天「…」

佐天「…むう…」

佐天「…強情ですねえ…」

詠矢「強情とか…そういう問題なのか?」

佐天「ダメですよ、これじゃあ!!」

佐天「距離が全然縮まってません!!」

詠矢「え…あ…すいません…」

782: 2012/11/28(水) 22:54:54.73 ID:cBDZEWvD0
詠矢「っても…急に神速で接近されても…ねえ…?」

佐天「…仕方ありませんね…」

佐天「物理的に…縮めます」

佐天は立ち上がらず、座ったままじりじりと詠矢との距離を詰める。

詠矢「お…おい…ちょっと…」

佐天「逃げないで下さいね?」

詠矢が躊躇している間に、あっという間まにその距離はほぼゼロとなる。

詠矢「ちょ、ちょっとマズイよこの距離は!!」

佐天「わたしは平気です」

佐天「まだまだいきますよ!!」

ぎゅっと、佐天は詠矢の腕にしがみつく。

詠矢「ちょ…」

彼女の体の正面が、詠矢の腕に密着する。

783: 2012/11/28(水) 22:56:24.46 ID:cBDZEWvD0
詠矢「ちょ…ちょちょちょちょっと待ってって!!」

佐天「…」

佐天は、にやりと笑う。それは実に女性らしい、小悪魔的な笑顔だった。

佐天「…おもしろーい、詠矢さんが慌てるの初めて見ました…」

詠矢「いや、面白がってる場合じゃなくてですね、この体勢はマズイ…」

佐天「えい(ムギュ)」

更に強く密着する感触。詠矢の心拍数が一気に跳ね上がる。

詠矢「うおっ!!っとっと…ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!っての!!」

佐天「…ダメですか?」

詠矢「そりゃダメっしょ?今二人っきりなんだし…」

佐天「うりゃ(ムギュ)」

詠矢「だから、ダメだっての!!ヤバイヤバイヤバイ!!!いろいろと限界だから!!」

佐天「…詠矢さん」

佐天「…私じゃ嫌ですか?」

784: 2012/11/28(水) 22:57:33.80 ID:cBDZEWvD0
詠矢「い…嫌とか…そういうことじゃなくて…さ…」

詠矢「俺も…男だし、なんか…間違いでもあったらだなあ!!」

佐天「…いいじゃないですか、間違いましょうよ」

詠矢「……へ…?」

その言葉の威力は絶大だった、詠矢の全身は弛緩する。

預けられた重心を支えきれず、二人は重なり合うように倒れた。

佐天「間違いでも気の迷いでも、いいですよ…」

佐天「だってそうじゃないと…詠矢さん…なにも始まらないでしょ?」

詠矢「佐天…サン…」

パチンと音を立て、詠矢の中の何かがちぎれた。

詠矢の両腕が反応する…それは立ち上がり、すぐ上にある佐天の背中に手を…

回そうとした刹那

詠矢は目覚めた。


785: 2012/11/28(水) 22:58:40.25 ID:cBDZEWvD0
詠矢「…!!!」

全身の筋肉が躍動し、ベットの上で跳ね起きる。

詠矢「…」

詠矢「……」

詠矢「…おい」

詠矢「…夢オチ…って…反則…だろ…」

考えのまとまらないままの頭を振って、周囲を確認する。

詠矢「…そっか…遅くまで調べ物してて…いつ寝たっけかな…」

夜更かしした記憶は定かではない。ただはっきりと記憶に残るのは、さっきまで見ていた甘美な夢。

腕に当たっていた感触まで、まざまざと思い出される。

詠矢「(夢の中で起こったことは、全て俺の記憶の中から構成されている)」

詠矢「(あの佐天サンの言葉は、俺が自分に対して問いかけたもの)」

詠矢「(そして、彼女の行動は…、俺の妄想と欲望の産物…)」

詠矢「…」

詠矢「(だとすれば…そいつは…かなり…痛い…)」

詠矢「(最低…だな…)」

詠矢「…?」

786: 2012/11/28(水) 22:59:17.43 ID:cBDZEWvD0
ベットから離れて置かれたスマートフォンに、なんとなく目が行く。

詠矢「…メール…2件…、着信履歴も…あるな…」

詠矢「…佐天サン…から…って…」

詠矢「おい…何でこのタイミングで…」

詠矢「…(ポチ)…『おはようございます、佐天です。えっと、お約束してたジェラート、もしよろしければ今日食べに行き
ませんか?』」

詠矢「…」

詠矢「二件目…(ポチ)…『えっと、お忙しかったですか?ご都合が悪ければご返事頂ければ幸いです』」

詠矢「んで…着信履歴か…」

詠矢「待たせちまってる…な」

詠矢「…」

詠矢「……」

詠矢「いや…今の精神状態で…会えん…な…」

詠矢「…とりあえず…別に用事があることに…するか」

詠矢「佐天サン…ゴメンな…」

詠矢「…(ポチポチ)」

787: 2012/11/28(水) 22:59:58.62 ID:cBDZEWvD0
(とある学生寮 佐天の自室)

佐天「(返事無い…なあ…)」

佐天「(気づいてないのかな…)」

佐天「(それともまだ寝てるのかな?)」

佐天「…あ…」

佐天「メール来た!」

佐天「…」

佐天「…『ゴメン、今日は体調が悪いので寝てます。また今度連絡するのでそんときに…』」

佐天「…」

佐天「…ダメ…か…」

佐天「病気なら…しょうがない…よね…?」

佐天「…なんか…寂しいなー…」

佐天は携帯の画面を眺めたまま小さく息を吐き、少しだけ何かを考える。

佐天「ま、いっか…連絡してくれるの待とう…」

佐天「えい…(ポチポチ)」

佐天「…」

佐天「…あ、初春?ねえねえ、今からジェラート食べにいかない?」

788: 2012/11/28(水) 23:01:40.35 ID:cBDZEWvD0
以上となります。この話はこれで終わりです。
ありがとうございました。

現在、完全にネタ切れです。次回の投下は未定です。
それではまた。

789: 2012/11/28(水) 23:04:29.40 ID:b33vkGCXo
乙乙
佐天さんと詠矢さんまでくっついたら俺の精神が耐えられないのでこの距離感のままでいて欲しい

引用: 絶対反論(マジレス)こと詠矢空希(ヨメヤ ソラキ)は落ちていた。