723: 2011/05/27(金) 19:49:24.79 ID:IVbycCIz0

724: 2011/05/27(金) 20:05:47.54 ID:IVbycCIz0

「………そう、………うん、わかった。ありがとう、初春さん」

御坂美琴は携帯電話を閉じ、ポケットに入れる。

初春飾利から、『今日、白井さんは忙しいので帰ってこれない』という電話だった。


「…………そんなの、嘘に決まってるじゃない……」

恐らく、結標淡希とぶつかって戦ったが、敗けたのだろう。

「……………私のせいだ……。……ごめん黒子…」


ここは常盤台中学の女子寮の、美琴と黒子の部屋。美琴は自分の机の引き出しを開け、ゲコ太貯金箱を取り出した。


「これは、私が撒いた種。始末はきっちりとる………。覚悟していなさい…………結標淡希」


美琴は貯金箱の底についてあった蓋を取り、中に入ってあったゲームのコインを二十枚ほど取り出し、左右のポケットに入れた。

そして、貯金箱を机の上に置いたまま、美琴は部屋化から出て行った。


とある魔術の禁書目録 4巻 (デジタル版ガンガンコミックス)
725: 2011/05/27(金) 20:41:48.39 ID:IVbycCIz0



―――――――――――――――――――――――――――

その頃、虚刀流七代目当主 鑢七花は通学用に使われるサイズの小型バスの中にいた。


七花の他には、奇策士とがめと、この世界で知り合った能力者『アイテム』構成員 絹旗最愛と、同じく『アイテム』構成員 滝壺理后が一緒に乗っていた。


「なぁとがめ、あいつ…結標淡希って奴の攻略法はわかったのか?」

「……いや、これはやってみなくてはわからんものでな、おすすめできん。しかし、あの摩訶不思議な攻撃のタネがわかった」

「どんなのだ?」

「絹旗よ、結標淡希の能力、『座標移動』は物体を別の座標に移動するのであったな?」

「ええ、超その通りです。『座標移動』はA地点にある物体をB地点に超移動する事です」

「すまん、言っている意味が分からん」

七花が困った顔をした。

それをとがめは呆れた。

「しょうがないな。七花よ、例えるなら将棋の五の三にある駒を、七の二に移動させる感じだ」

「将棋はわからん」

「…………だめだ、座標どころか表もわからん奴に説明しても無駄だな」

「……面目ない」

因みにとがめは小学校の教科書から大学の参考書を全て読破した。その内容を頭の中に詰め込み、理解している。


「まぁ、超簡単に言ったら、物体を別の場所へ超飛ばすんです」

「ああ、なんとなくわかった」

「七花!なぜ私の説明がわからんで、絹旗の説明がわかるのだ!?」

「さあ?」

「さあじゃないだろう!?」

「まぁまぁ……」


と、車の隅の方でチビチビとお茶を飲んでいた滝壺理后がピクっと眉を動かした。


「………東北東から信号がきてる……。何者かが、戦闘を行っている模様…」

726: 2011/05/27(金) 21:00:29.19 ID:IVbycCIz0

「……超本当ですか?運転手、至急そこに行ってください!!」

絹旗は、ハンドルを握っていた運転手に指示をだす。

因みに運転手は『アイテム』の下っ端組織から派遣されたチンピラである。



「そこってどこですか!?」

と運転手は曖昧な注文にツッコみを入れる。

「滝壺さん、助手席に行ってください!」

「わかった」

滝壺は絹旗に言われた通り、助手席に移動する。



「で、結標淡希の、あの摩訶不思議な攻撃は何なんだ?」

「ああ、それはだな?」



その時、急に爆発音が響いた。


ドォォォォオオオオン!!



車が振動に、ビリビリと共鳴する。

「うぉ!なんだ!?」

「結構近いぞ!」

七花ととがめと絹旗は爆発した所を探す。

「!!ありました!七花さん、とがめさん、あそこ!!」

絹旗はあるところを指さす。


そこは、モクモクとビルの間から昇って行く煙をだった。


「あそこは……?」

とがめは運転手に訊く。

「ああ、あそこは建設途中の建物です。あそこは人がほとんど通らないから、隠れ家としてはちょうどいい所かと」

「そんなことはどうでもいい!!とにかくあそこへ進め!!」

「は、はい!!」



727: 2011/05/27(金) 21:57:57.86 ID:IVbycCIz0




煙がモクモクと上がっていく、きっと警備員がすぐにでもやってくるだろう。

そう、御坂美琴は思った。

ここはとある建設途中の建物を建てる工事現場。

その太い骨組みの陰に、五十人くらいの拳銃やマシンガンを持った者たちが身を潜めていた。


その中の一人が前に出て来て、拳銃を撃ってきた。

しかし、美琴は磁力の力で防ぐ。

そして、指でコインを弾き、超電磁砲を撃った。


「……ぐわぁぁああああ!!」

数人が吹っ飛んだ。

心配せずとも、頃してはいない。ちゃんと外した。


美琴は鉄骨の上にいる、ある人物に向かって叫んだ。

「ねぇ、出てきなさいよ卑怯者!!」

「なに?呼んだかしら、常盤台の『超電磁砲』さん?」

そこには、結標淡希が鉄骨の上に、足をブラブラさせながら座っている。

「しかし卑怯者とは心外ね。あなただって、あなたを慕ってくれる、可愛い後輩を私に当てさせて、ボロ雑巾にさせたじゃない……。まぁさせたのはあたしだけど」


「………あれは、私がアンタらを足止めしようと信号を止めたら、アンタらが走って逃げだした。黒子はたまたま風紀委員の仕事で来ただけよ」

「言い訳にしか聞こえないわね」

「アンタがどう思っているかは知らないわ……」


「それより、ちゃんと言ってあげなかったの?あの日、八月二十一日の事…。可哀そうに、大好きな先輩の事をなんにも知らないで……」

「アンタに私と黒子のなにがわかるっていうの!?とにかく、こっちに降りてきなさい!!」

「それは無理な相談ね、だってそこに降りたら『どうぞ私を頃してくださ~い(涙)』って言っているようなもんじゃない!私は自頃するつもりもないし、する予定もないわ!」

結標は哂いながら美琴に言う。

「あなた、怖いんでしょ!?七月二十八日に破壊された“樹形図の設計者”の残骸を組み立てられ、またあの『悪夢』を呼び覚まさせたくないんでしょ?」

結標は美琴を哂う。哂い続ける。美琴は手を握りしめる。強く握りしめすぎて、掌から血が、タラ…タラ…と流れている。

「だったら私を早く頃しなさいよ!そんなところでボーゼンと突っ立っているんじゃなくて!あなたは超能力者なんでしょ?第三位の常盤台のお嬢様なんでしょ?だったら私なんて雑魚、瞬殺じゃない!」

美琴は黙って結標の言葉…暴言を聞く。

「まぁ、私はさっき言った通り、ここには氏にに来たんじゃなくて、あなたを頃しに来たの。ねぇ、さっさと殺されてくれない?」


728: 2011/05/27(金) 22:18:28.90 ID:IVbycCIz0


結標淡希の言葉に美琴は……。



「あははははははははははははははははは!!」



大きく笑っていた。

「な…!」

さすがの結標も驚く。


「ははは……“樹形図の設計者”が組み立てられるのが怖いですって?あの『イカれた実験』が再開されるのが怖いって?」

美琴は何かを吐き出すように、思いっきり笑った。

「ははははははははははははははははははははははははは!!!!!!……………………はぁはぁはぁ」

美琴はようやく笑うのを止めた。

「な、何が可笑しいの!?」

結標が叫ぶ。


「……はぁ……そんなの、当たり前じゃない!!」


美琴は叫ぶ。


「なに?アンタ、私が怖くないって思っていたの!?っざけんじゃないわよ!!あんなの、怖いに決まってるじゃない!!アンタみたいな雑魚に、イチイチ確認されんでもわかっとるわ!!」


美琴の周りに高圧電流が流れる。彼女の髪は逆立ち、眩い光を放つ。


「黒子にそのことを話さなかったのは、この学園都市の“闇”の存在のことを隠すため。………あの子たちの平和を守るのが先輩の役目でしょうがぁぁぁぁあ!!!」


美琴はポケットからコインを取り出し、全力の『超電磁砲』を放った。



光と熱の矢は、爆風と爆音を伴って結標の頭まで飛んでいく。



矢は、鉄骨の建物を貫き、暴風で骨組みはバラバラになった。

ガラガラ…と鉄骨だけで作られた建造物は崩れていった。





729: 2011/05/27(金) 22:48:03.32 ID:IVbycCIz0

「はぁはぁはぁ」

美琴は荒い息を整える。


バラバラに崩れ、ただの鉄骨置き場となった工事現場に砂煙で覆われた。



「…………そんなモンで、氏んでなんかいないわよね!?」

美琴は遠くまで聞こえる様に話す。

誰に?決まっている。

「いや~凄いわ、流石♪。これが『超電磁砲』ね?凄い威力ね」

「次が外さないわよ?」

「ふふっ♪怖い怖い」

結標は哂う。

「でもねぇ?私にはこれがあるのよ!?」



結標は手元に『千刀 鎩』五百本を座標移動させた。



「ふふ♪あなた、串刺しと斬首……どっちがいい?」



結標はその内の二本を持ち、他を美琴の周囲に座標移動させる。


「―――――――――――…………………ッッ!!?」


美琴は辺りの刀を見る。


「………!!これってまさか!!」

「あら、あなたの耳にも入っていたの?………まぁその内、公で報道されるかもせれないわね……」


「アンタ、これで何をするつもり!?」




「ふふふ♪Let's showtime♪」

736: 2011/05/28(土) 13:14:12.76 ID:QKgj4iid0

一方その頃、鑢七花が乗るバスの中。


「なぁとがめ、結局結標淡希のあの、摩訶不思議な攻撃ってなんなんだ?」

「ああ、忘れておった」

奇策士とがめは、あっとした表情で応えた。

「よいか七花、絹旗。ちゃんと聞いておけよ?」

「ああ」「はい」

「まず、結標淡希の能力『座標移動』は他の『空間移動』の能力より自由度が高い。しかも始点と終点が固定されておらんため、物体に触れることなく移動ができる。それは先程の戦いで見たな?」

とがめの問いに二人はそれぞれ頷く。

「しかし、その超強力な能力の裏にはある欠点がある」

「欠点?」

と、七花は訊く。

「そうだ、欠点だ。奴の能力は確かに超強力で、自由度も高い。しかしそれ故に、演算による負荷が大きいのだ」

「と、言うと?」

「七花さん、超簡単に言うと、失敗する確率が超大きいんです。失敗すれば大惨事になる確率が超高くなるんです」

七花の問いに絹旗が答えた。

「うむ、まぁそういう事だ。結標淡希は過去に演算失敗で足の皮を剥いでしまったという大怪我をしてしまった経歴がある。これは滝壺が調べてくれた」

「おい、それが今回のことについて関係があんのかよ?」

「まぁそう焦るな……。あの戦いで、同じ空間移動系の能力者と戦っていたが、先にへばったのはどっちだ?絹旗」

「えっと…相手の方でしたね?」

「そうだ。じゃあ手数が多かったのはどっちだ?七花」

「断然結標の方だろう」

「そうだ。しかしおかしくないか?」

「なにがだよ」

七花はとがめの言っていることに疑問を持つ。

「結標の方が圧倒的に手数が多かったんだ、相手が反撃できずに、ただボロボロにされるほどだ。相手が先にへばってもおかしくないか?」

「いや、私が言っていることはそこじゃない」

とがめは七花の顔を見る。


「私が言いたいのは、手数が多い…即ちその分だけ能力を使っているのだぞ?演算負荷が大きくかかる能力のだ」

「…………!」

「わかったようだな」

とがめが言いたいのはこうだ。例えばボクシングの試合で長時間、全フルスイングのパンチを繰り出したら、絶対に相手より先にへばるはずだ。

と言いたいのだ、1500mをスタートから全力疾走したら、100m程でバテバテになるのと同じだ。

「普通、空間移動系の能力者は短時間に多く能力を使うと演算が雑になり、失敗する。または疲労で動けなくなる。相手の方はまさに後者だ」


「しかし、結標の方は相手より手数が超多いのに、超ピンピンしていたと…」

と絹旗は口を開いた。

「そういう事だ。さすがは大能力者、呑み込みが早い。……では、なぜ結標淡希は長期間戦っておって疲れなかったのか?」


737: 2011/05/28(土) 13:34:14.66 ID:QKgj4iid0

とがめは言う。


「簡単だ、奴は能力を使っていなかったのだ」



「………………は?」

「なに言ってるんですか、とがめさん」

「だから言っておろう、結標淡希は相手の半分も能力を使っていない」

「どういうことだよ、とがめ」

「超わかりやすく説明してください」


「いいだろう」

とがめは腕組みをして、説明する。

「いいか?結標淡希は最初、何本『鎩』を持っていた?」

「えっと…二本」

七花は、自分の記憶を辿って答えた。

「では、その内の一本をどうした?」

「相手に向かって投げた」

「じゃあ相手はそれに、どう対応した?」

「空間移動して避けた」

「そのあと、刀はどうなった?」

「相手の後ろの刀に当たった」

「絹旗よ、何か妙とは思わんか?」

「なにがです?超普通じゃありませんか?」

「わからぬか?自分と同じ空間移動系の能力者に『鎩』を投げたのだぞ?………空間移動で避けられるとわかってて」

「……あっ」

絹旗は気付く。七花はまだわかっていないようだが。

「では、なぜ結標淡希は刀を投げたのか?………実は結標の狙いは相手に当てることではなく、後ろの刀に当てることだったのだよ」



738: 2011/05/28(土) 13:45:49.38 ID:QKgj4iid0

――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ふふふ♪Let's showtime♪」

結標淡希はそう言って、右手に握られていた刀を、美琴に向けて……否、美琴の後ろにある三本の『鎩』に向けてブン投げた。


「……っぅお!!」

美琴は足元に飛んできたそれをジャンプして避ける。


「……っと、危ないわねっ!!」

美琴は叫ぶ。

すると結標の方はニヤニヤとした表情で言った。

「そんなこと言っている間があるの?…後ろがお留守よ?」


ヒュンヒュンと何かが風を斬る音が、後ろからやって来た。

「―――!!?」




ザクッ!!



「ぅあ!!」

美琴は振り返る前に、何かに斬られた。そして前に倒れる。

「????」

一体なにが起こった!?

背中が熱い。背中から何か熱いものが流れていく感じがする。


美琴はいきなり背中から、斬られたのだ。

三本の『鎩』に。


739: 2011/05/28(土) 14:13:52.24 ID:QKgj4iid0

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「いいか?まず、結標は刀を投げる。それを相手は飛ぶなり伏せるなり空間移動するなり、何らかの方法で避ける。すると相手の後ろの地面に刺さっていた『鎩』に当たる。当たる場所はちょうど刀身の地面に近いの所だ」

とがめは七花と絹旗に説明する。

七花に分かり易いように、ジェスチャーをしながらやっているので、幼い容姿のとがめは妙に可愛くみえる。

「そこに当たると『鎩』は回転しながら地面から抜かれ、避けた者を斬る。空間移動したなら、そこに投げた方か当たった方の『鎩』を座標移動させればよい」



740: 2011/05/28(土) 14:54:09.22 ID:QKgj4iid0

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「……??」

美琴はどこから攻撃されたかわからなかった。

彼女は投げられた『鎩』が後ろの『鎩』にあたって、それが美琴の背中を斬った…という事に気づいていない。


「なにやってんのよ?いつまでそこで寝ているつもり!?」

結標淡希は手を大きく振って美琴を挑発する。

「……こんのぉ!!」

美琴は立ち上がる。しかし…。

上空から、『鎩』の刃が美琴めがけて落ちてきた。

「…………ぅぅぅおああ!!」

美琴は間一髪で転がって避けるが、脇腹をかすめた。

「何やってんのよ!?早く逃げなさい?さもないと串刺しの刑よ!」

「……っく…。……って、ぉわ!?」

転がる美琴の首に、回転する『鎩』が襲う。

美琴は跳ね起きてそれを避ける!

「あ、やっぱり斬首のほうがお好き?」

相変わらず結標は哂いながら、美琴を眺める。

「……っくそぉ!」

美琴は結標を睨む。

しかし、そうしていると、『鎩』は美琴の体を貫かんと、斬り殺さんとしている。

今度は正面から『鎩』が顔に迫ってきた。

首を曲げて避ける。髪を少し斬った。

次は後ろから『鎩』が下から突き上げてきた。

『鎩』は美琴の背中の傷を抉る。

「…っぐぅ!!」

美琴は顔をゆがめる。

しかし美琴の状況を無視するかの如く『鎩』は後ろ上から、美琴の背中にまた、傷をつけた。

「ああああ?!」

(おかしい、確かに結標淡希は空間移動系の能力者だけど、こんなに能力を使ったらばてる筈)

美琴は悔しそうに、歯がゆい顔をする。

しかし、反撃しようにも、する暇が無い。

一瞬でも止まれば、串刺しまたは斬殺だ。

しかも、避けようとするも、そこら辺中に散らばる『鎩』が邪魔で、避ける場所が限定されている。

「…………まさか!!」

741: 2011/05/28(土) 15:35:25.12 ID:QKgj4iid0

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「結標淡希は、相手が『鎩』を避けても、避けた『鎩』が別の『鎩』に当たり、当たった『鎩』が相手を傷つける様にしておるのだ」

「…は?」

「七花には難しいか…」

困ったとがめの代わりに絹旗が説明する。

「七花さん、超簡単に言うと、投げられた『鎩』は別に相手に超避けられてもいいんです。その代り『鎩』は別の『鎩』に超当たって、超当たった『鎩』が相手を斬る。それで超斬られればそれでよし、超避けられても、また先ほどの過程を繰り返す」

とがめは絹旗の言葉を引き継いで説明する。

「それを繰り返していけば、相手は疲れ、足が動かなくなる。そこで止めをさす。………本当に残酷な頃しかただよ」

「でもよ、それじゃあ都合がよすぎないか?偶然当たったならまだしも、わざとそんなことが出来るなんて…」

七花は疑問符を頭に浮かべる。

しかしとがめは、

「いや、それができるのだよ」

と言った。

「七花、結標のあの地面ビッシリに刺した『鎩』の配置を見て、どう思った?」

「いや、避ける所が限定されるなって…………あ」

「気が付いたか。そうだ、あの『鎩』の配置にすべての鍵があったのだよ」

とがめは腕を組んで、七花と絹旗に説明する。

「あれはただ単純に地面に刺したのではない。相手の行動と回避を限定させるために、計算に計算を重ねられて配置させられたものだ」

とがめは今度は足を組んだ。

「例えば、正面からの攻撃に右に避けても、後ろから攻撃が来る。それを避けても、今度は左から攻撃がくる…それも繰り返しを延々と繰り返されるのだよ」

「将棋で言うなら、超最初っから詰みの状態で戦わせる様なものですか?」

「ああ、それに近い」

「じゃあ、どう対策をとれって言うんだよ?」

七花はとがめに問う。

「ああ、そんなの簡単だ。それはだな――」


742: 2011/05/28(土) 16:30:37.57 ID:QKgj4iid0

――――――――――――――――――――――――――――――


「ゼー……ゼー……ゼー……」


美琴は冷たく感じる肺からでる息を、辛そうに吐く。

何分たっただろうか、何時間も全力で走った気がする。

虚ろな目で結標を見る。



「ほら、まだまだ終わらないわよ!」



ああ、アイツはなんでこんなに元気なのかな…。

おかしいな、どうして私はこんなにバテバテになるまで走ってんのかな…。


あれ?何か飛んでくる…。あれってなんだったけ?

ああ、私あれを避けてたんだっけ…。なんでだっけ?

てか、あれってなんだったけ……。

あれって……。

ああ、そうだ。私、あの刀を避けていたんだっけ?

なんでだっけ?……ああ、そうか刀が当たったら私、氏ぬからか…。ああ、私、氏ぬのか…。

氏ぬんだ、私。

そういえば、氏ぬってなんだったけ?

ダメだ、ピンと来ない。

氏ぬ。氏ぬ。氏ぬ。氏氏氏氏氏………。



「って、氏んでたまるかぁ!!」


美琴は飛んできた『鎩』をマトリックスで避ける。


「…………ぬぬぬ…っぷはぁあ!!」

息を吹き返した美琴は次に来る攻撃に備えて構える。

どうやら結標は飛んでくる『鎩』を別の『鎩』に当てさせ、その『鎩』が自分を襲うようにしているようだ。

(まったく、最初っから詰まれている状態で将棋やってる様なもんよ!ややこし言ったらありゃしないわ!!)

前から『鎩』が回転しながら向かってくる。

「……でもアンタ…こんなことされるなんて、思ってもいないわよねぇ!!?」

美琴は向かってくる『鎩』を無視し、自分の後ろの…次に自分を襲う『鎩』を引っこ抜いた。

当たっただけで引っこ抜かれるほどの深さしか刺さっていないから、簡単に抜かれた。


743: 2011/05/28(土) 16:55:35.71 ID:QKgj4iid0

美琴はそれで向かってくる『鎩』を叩き付けた。

そして、その手に持った『鎩』を投げつけた。


ただ投げつけたのではない。刀身に電気を浴びさせて殺傷力を高め、しかも磁力の力で高速に投げた。


そうだ、この『千刀 鎩』でできた攻撃が延々に繰り返される無限の回路を断ち切ればいい。

そして、油断しまくりの結標淡希に攻撃すれば、形勢は逆転できる。


美琴の投げた『鎩』は結標へと、真っ直ぐに、高速に、確実に貫こうとしていた。


しかし、


「ねぇ、忘れていない?私は『座標移動』という、空間移動系の大能力者だってこと」


美琴の投げた『鎩』は、結標に届かずして消えた。



「……しまった!!」

「お返しするわ♪」


『鎩』は美琴の後ろに座標移動した。

それに美琴は気付いていない。



「―――――――バイバイ♪常盤台の超能力者さん♪」





744: 2011/05/28(土) 17:04:52.98 ID:QKgj4iid0

「―――――――……………ッハ!!?」

美琴は振り返り、飛んでくる『鎩』の存在に気付いた。


美琴はとっさに避けようとする。

「遅いわ!!」


ザンッ!!

「ぐああああああああああ!!」

美琴の右足に『鎩』が、履いていた革靴ごと貫いた。結標淡希が座標移動させたのだ。

これでもう動けない。万事休す。


もしこの『鎩』が頭に当たったら、まず頭は半分無くなるだろう。

ふと、美琴はそう思った。


いやだ、氏にたくない。氏にたくない。氏にたく……ない!!

助けて…誰でもいい!!誰か!!


『鎩』は高速で美琴の顔面に向かってくる。


もう…だめ…。






「……………あれ?」

おかしい、『鎩』が来ない。

ふと前を見ると、誰かが立っていた。


男だ、高校生くらいの。

彼はツンツン頭がトレードマークの少年で、美琴と、お互い、良く知る中である少年である。





上条当麻は『千刀 鎩』を美琴の鼻先寸前で止めていたのだ。


「テメェ……何しやがる…」

上条は『鎩』を投げ捨て、結標淡希の方を向いて、叫ぶ。


「御坂になにしたって言ってんだよ!!」

755: 2011/05/28(土) 20:49:10.82 ID:QKgj4iid0

―――――――――――――――――――――――――――――


いったん時間を遡る。


美琴が寮を出たとき、ミサカ10032号、御坂妹は走っていた。

どこへ向かっているかと言うと、上条当麻がいる学生寮。

ミサカネットワークを介して今の現状を聞き、病院をこっそり抜け出して来た。


(お姉さまの危機を回避してくれる方はあの方以外思い浮かびません、とミサカ10032号は心の中でその人顔を思い浮かべます)

御坂妹は寮の前まで来た。この寮に住む、とある人物の部屋まで、さらに走る。



入院で訛った体に階段ダッシュはキツイ。それでも御坂妹は走った。

「………はぁ…はぁ……。着きました…とミサカは荒れた息を…鎮めます」

大きく深呼吸する。

そして、インターフォンを押した。


『あ?誰だ?』

『いいからでなさぁい』

『ああ、わかってる』


「……?(女の人の声?とあのシスターの幼い声と真逆の声を聞いてミサカは疑問符を頭に浮かべます。…もしや、お姉さまという人がいながら、浮気しているのでは?)」


ガチャ…とドアが開いた。

「はいはい……あれ、御……坂……?」


「お願いがあります」

「ん、お前、妹の方か」

「とあなたの目を真っ直ぐに見て、心中を吐露します。ミサカとミサカの妹達の命を、助けてください」

「……どういうことだ?御坂妹」

と、上条はわからない顔をした。


と、その時奥から、例の女の人の声が聞こえた。

「………ねぇ、そこの女の子、こっちにあがってきなさい」

「?」

「いいから。お姉さん、今回のことにちょっと手伝いたくなってきちゃったから」

大人の女の人の声だな…と御坂妹は思った。

「??……わかりました、いいですよね?とミサカは家主であるあなたに確認をとります」

「ああ、別にいいが…」

「じゃあお邪魔します、とミサカは玄関で靴を脱ぎます」


756: 2011/05/28(土) 21:27:19.09 ID:QKgj4iid0

御坂妹は声が聞こえた、部屋に行く。

「こんばんは」

そこには、着物を身に纏った、金髪が綺麗な女の人が床に座っていた。

「あなたがミサカ10032号さんね?初めまして、否定姫よ?」

「どうして私のことを?とミサカはあなたに問います。あなたですか?とプライバシーの管理能力の低さに呆れます」

御坂妹は上条を睨む。

「な?俺じゃねーぞ?」

「安心しなさい、私が知っているのはあなたの名前だけよ?」

ふふふ、と面白そうに、否定姫と名乗る女性は、続けてこう言った。

「ねぇ、鑢七花くんは元気だった?」

「どうしてそのことを?とミサカはポケットに隠していた小型拳銃を、怪しい女性に向けます」

「わわわわわ!!御坂妹!仕舞え!それを仕舞え!!」

上条は御坂妹の手を持ち、下げさせる。

「ふふふ…大丈夫、七花くんとは知り合いよ?」

「そうですか…。ではあなたが『あの』否定姫さんでよろしいですね?」

「ええ、『あの』否定姫でいいわ」

「あの…話について聞けないのですが……」



「で、実は今日、七花くんとあなたのお姉さん、偶然にも戦う相手が同じなのよねぇ~」

「どういうことですか?とミサカは否定姫に問いかけます」

「お姉さんは後輩である白井黒子って子の敵討ちをしているの」

「ああ、あの変態ですか、とミサカは19090号から、MNW内に流れてきたミサカ20000号並の変態女朗の顔を思い出します」

「で、その敵っていうのが結標淡希っていう、空間移動系の大能力者なんだけだ……って説明いらないか」

「はい、すでにMNW内で他のミサカまで伝わっています」

「ついでに今いうことも流しちゃってぇ~」

「もう流れていますよ、とミサカは否定姫に答えます」

「うん、じゃあ言うけど、その結標淡希が所有している、『千刀 鎩』を七花くん達は回収しようとしているの。そこであなた達にそれの協力をしてもらいたいの」

「それが私たちに何のメリットがあるのですか?」

「私はその疑問を否定するわ~。あなたが知っているように、七花くんは恐らく、この街で一番強い人間…否“刀”ね。七花くんとお姉さんが共同戦線を張ったら、二人の目標は達成する…。損することはまずないわ~」

「わかりました。それではお姉さまと鑢七花氏を協力させる方向で……。あとこの人も連れて行きますと、ミサカこの人の腕を組みます」

御坂妹は上条の腕を組む。

「ええ、好きにしなさい」

「では借りてきます」

「え?おい!話が見えないんですけど!!」

757: 2011/05/28(土) 21:46:33.13 ID:QKgj4iid0

「ああそうそう、上条!あんたの携帯番号教えときなさい!」

「え?なんで?」

「一通り区切りついたら電話するから!」

「ああ、別にいいが…」

上条は台所に置いてあった固定電話の横にある、小さなメモ帳に自分の電話番号を書き、否定姫に渡した。

「ほいよ」

「よし、じゃあ行ってらっしゃい」

「ああ」

上条は御坂妹と一緒に出て行こうとした。

しかし、御坂妹は立ち止まった。

「?どうした御坂妹」

「はい、少々否定姫に二つ、言い残したことがありまして…とミサカは振り返り、否定姫を見下ろします」

「なぁに?」

否定姫は可愛らしく首を傾げ、笑っている。

「まず一つ目、あなたのその、人を馬鹿にしているような口調と態度、気を付けた方が良いと思いますよ、とミサカは警告します」

「そりゃどうも、でも、その警告を否定するわ~。だって私がいくら人を馬鹿にしたって、逆らえないもの~。そこの男みたいにね♪…で二つ目は?」

「はい、二つ目は、先程あなたは、『鑢七花氏はこの街で最も強い』とおっしゃいましたね?とミサカは確認を取ります」

「ええ、そうよ。間違いも変更も無いわ~」

「その考えでは今後、この街で痛い目を見ます。この街を甘く見ない方がいいとミサカはまた警告します」

「その警告も否定……しないわ。警告ありがとね、気を付けるわ」

最後の言葉はやけに真剣だった。

そのことに上条はわからなかった。

「それでは行ってきます、とミサカは手を引いて走りだします」

「おい、ちょっと待てよ。御坂妹!!」


トトトト…ガャチャン……。


そうして、二人は出て行った。

静かになった部屋に、否定姫は一人になった。


「ふふふ、本当に退屈しないわ~♪」

758: 2011/05/28(土) 21:54:00.99 ID:QKgj4iid0


「おい!場所わかってんのか?」

「ええ、すでに他のミサカも現場に集まってきてます。お姉さまは大変ピンチだそうです、とミサカは走りながら状況の説明を始めます…」







761: 2011/05/28(土) 22:52:19.71 ID:QKgj4iid0

「テメェ……何しやがる…」

上条は『鎩』を投げ捨て、結標淡希の方を向いて、叫ぶ。

「御坂になにしたって言ってんだよ!!」

「なにって見ればわかるでしょ?……………頃していたに決まっているじゃない」

「テメェ…」

とその時、美琴の体が傾いた。

「っおっと…」

美琴が倒れる寸前に、上条は彼女の体を受け止めた。

「…………!」

体が熱い…。しかも生傷だらけ…。息も今にでも止まりそうだ。

「御坂……」

ふと、上条は美琴の足元を見る。

「……なっ…!!」

そこには、一本の日本刀が美琴の足に革靴ごとザックリと刺さっていた。

足の甲から、血がドクドクと流れていた。

「……………~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」

上条の表情は険しく、目は大きく見開いた。


上条は足に刺さっていた『鎩』を、優しく、ゆっくりと抜いた。

「ぁああああ!!」

美琴は痛みで悲鳴を上げる。

「ごめん、御坂」

上条は美琴の体を抱き上げ、安全な場所へ移す。

「ごめん、御坂。遅くなった」

上条はもう一度謝る。そして立ち上がり、結標淡希の方へ体を向けた。

「すぐに終わらしてくる」

「だ…め…行ったら…」

美琴はゼィゼィと息を吐きながら、上条を止めようとする。

それを見た上条は、笑っていた。

「俺は大丈夫だ、それに周りには御坂妹達がいる。だから大丈夫だ。安心しろ」

上条は結標の方へ歩いて行った。

そう、『千刀 鎩』が乱立する場所へ。

「だめ…」

762: 2011/05/28(土) 23:06:16.45 ID:QKgj4iid0

「…もう一度聞く、……テメェ御坂に何をした…」

上条は吠える。

「……御坂に何をした!!?」

上条は鬼のような顔をして、額には青筋を立て、目を見開き、指が掌を貫くほど拳の握り、奥歯が砕ける程に歯を食いしばった。

そして、また上条は吠える。

「なんでだ!?どうしてだ!?御坂が何をしたって言うんだよ!!テメェに御坂をこんな風にボロボロにする理由があんのかよ!!?答えろ!!」


上条の叫びに結標は、

「…ぷっ…あははははははははは!!愚問ね、決まってるじゃない。私の計画には、そこの女がとっても邪魔なの…、それが理由…。わかる?」

「……一体、なんの計画だ!!」

「全貌は言えないけど…まあいいわ、なんでそいつが邪魔なのか…それだけは答えてあげる」

結標は手元にキャリーケースを座標移動させた。

「ねぇこれ知ってる?」

「ああ聞いたよ、『樹形図の設計者』の残骸なんだろ?」

「そう!で、これで何をしようかわかる?」

「組み立てようとしているんだろ?」

「ご名答!!……じゃあ話は早いわね。八月二十一日のこと、覚えてる?」

「ああ、忘れるわけねーだろ」

「ホント話が早いわね。恐らく彼女はあの『実験』の再開を恐れているのよ。それで私たちを襲い、敗れた…」

「それだけか……?」

「ええ、それだけの理由でよ?……なにか問題でも?」



「おおアリに決まってるだろ、大馬鹿野郎!!」



上条は吠える。

「そんな単純な理由だけで、人が殺されていいはずがねぇだろ!!テメェ、人の命なんだって思ってるんだ!!?」

「そんなの簡単よ?私は頃したいと思ったから頃しているの。ただそれだけ♪」

「テメェ……歯ぁ食いしばれ!!」

上条は結標の方へ走る。

「おぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!」

拳を握り、結標を殴りつけようと、走る。

763: 2011/05/28(土) 23:42:06.84 ID:QKgj4iid0


上条は拳をフルイングで振るう。

しかし、上条の拳は結標には届かなかった。

結標淡希は座標移動で消えた。


上条は派手に転び、奥の鉄骨に突っ込む。

ゴォォォォォォン!!

と金属と頭が奏でる音が結標の耳をくすぐる。

「ああ、いい音ね。あなた、わざわざ頭で鐘を鳴らしにここまでダッシュしてきたの?酔狂ねぇ」

あははははっと結標は哂う。

「…ッくっそ」

額から血を流しているが、上条は立ち上がる。

クラクラした頭を押さえつける。

結標はそんな上条に追い打ちをかけるように、近くにあった『鎩』を座標移動で上条の頭上に落とす。

「……ぉわ!!」

上条はそれを飛んで避ける。

結標は続けて、『鎩』と投げつける。

上条はそれを必氏に避け続ける。

「あはははははははは!!」

結標はそんな上条を哂う。

彼女はただ遊んでいるだけだ。

計算なんて全くしてない。

ただ『鎩』を投げて、遊んでいるだけだ。

「あははははは、本当に気持ちがいいわぁ!女が男をボコボコにしている時ってなんだか気持ちいい!!たまらなく気持ちいい!!」


765: 2011/05/29(日) 00:13:12.58 ID:nPqtTgWm0

「はぁ…はぁ…はぁ」

上条は避け続けた、しかしその分、体力は削られていく。


「テメェ…自分でかかってこいよ…」

「いやよ、だって殴られるの痛いんだもん♪」

「テメェ!!」

上条はまた、結標に向かって走り出す。

しかし走ろうとした上条の足元に結標は『鎩』を刺した。

「…ぅお!」

上条は危うく足を串刺しにされかけた。


そして、結標は大きく手を振って言った。

「ああ、もう飽きたから、これで終わりにするわね?」

と。


「……!?―――――――――………!!」

上条は驚いた。

なぜなら、周囲にあった『鎩』が全て、消えていたのだ。

「……な!?」

上条は周囲を見渡す。しかし『鎩』はない。

「ふふふ…」

と結標は嗤った。

「『鎩』がどこへ行ったか知りたい?…………上よ」

「――――――――――――……………………ッっっ!!?」

上条はとっさに上空を見た。


夜空に眩い星が光っている。

それはなぜか一カ所で固まっていて、大きくなってきているような……。

違う!それは星でなく、刀身が月明りに照らされて光っているだけだ!!


「『千刀 鎩』の内……五百本の刀の雨よ…これで終わりにするわ……避けれるのもなら、やってみなさい♪」


(ヤバい!これはさすがに避けられんっっ!!)


「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」



766: 2011/05/29(日) 00:38:43.98 ID:nPqtTgWm0


┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨………………………………………………………………………。



上空50mから落とされた『鎩』は上条を飲み込む。

そして、地面に深く、深く突き刺された。



「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

結標は大きく笑っていた。

「まさしく絶景ね!!こんなもん、滅多にお目にかかれないわぁはははははははは!!」

腹を抱えて笑う結標。

「んふふふ…んふふ…あははは………………」

ようやく笑いやむ結標。

「さて、砂煙の中にはどんなオブジェがあるのでしょうか……」

ワクワクと結標は上条の氏体を見る………が。


「……………な、し、氏体がない!?」


そう、氏体がなかった。

地面に刺さった『鎩』だけが、そこにあった。


「ど、どこへいった!?」

結標は辺りをキョロキョロと見渡すと



「こっちだ」



と声が聞こえた。

結標はその声がした方向を見ると、上条当麻を右手に御坂美琴を左手に抱える男がいた。


その男は長身で、着物を着ている。体は細いが痩せているのではなく、長い髪を後ろで縛っている。

そんな男、結標淡希は一人しか思い浮かばない。



虚刀流七代目当主 鑢七花が、そこにいた。

768: 2011/05/29(日) 01:09:48.98 ID:nPqtTgWm0

「……あ?なんだ?」

上条当麻は真の抜けた声を発した。

「お、気が付いたか…」

七花は上条に話しかける。

「うおっ!?なんだこれ!?どうなってんの!?俺浮いてる!?」

「おい、いったん落着け」

その時、初めて上条は七花の存在に気付く。

「ぅわ!あんた誰!?」

「安心しろ、俺は見方だ」

七花は工事現場の隅にいた御坂妹を見つけ、呼んだ。

「おい御坂妹、こいつらをあそこに車があるから、連れて行ってやってくれ」

「わかりました、とミサカは鑢七花氏の頼みを叶える為、お姉さまを受け取ります。あなたは自分で動けますよね?とミサカは確認を取ります」

「ああ、………ってこの人があの!?デケー…」

「さぁ、ボサっととせずにさっさと逃げましょう…とお姉さまを担いで逃げます」

「ちょっと待ってくれ。………おい、あんた」

上条は七花の方を向く。

「なんだ?」

七花は上条を見る。


「あんた、あいつを殺さなぇよな………?」

「………………」

「もし、あんたがあいつを殺そうとしてんのなら、俺は氏んでも止めるぞ!」


上条はわかっていた、いや第六感が伝えてきた。

この人は平気で人を[ピーーー]ことができる人間だと。


「………どうして、おまえを殺そうとしてきた奴を庇うんだ?」

逆に七花が問う。その問いに上条は。

「当たり前だ!俺の目の前で人が氏ぬんだったら、止めるのは当たり前だろ!!」

上条の答えに、七花は目を丸くした。

「っは、ははは!!」

「なんだ!」

「お前、面白れぇな」

そう言って、七花は結標淡希がいる方へある行ていった。

769: 2011/05/29(日) 01:12:29.60 ID:nPqtTgWm0

すいません、下げてなかったです。

なんで!?

770: 2011/05/29(日) 01:13:13.35 ID:nPqtTgWm0
「……あ?なんだ?」

上条当麻は真の抜けた声を発した。

「お、気が付いたか…」

七花は上条に話しかける。

「うおっ!?なんだこれ!?どうなってんの!?俺浮いてる!?」

「おい、いったん落着け」

その時、初めて上条は七花の存在に気付く。

「ぅわ!あんた誰!?」

「安心しろ、俺は見方だ」

七花は工事現場の隅にいた御坂妹を見つけ、呼んだ。

「おい御坂妹、こいつらをあそこに車があるから、連れて行ってやってくれ」

「わかりました、とミサカは鑢七花氏の頼みを叶える為、お姉さまを受け取ります。あなたは自分で動けますよね?とミサカは確認を取ります」

「ああ、………ってこの人があの!?デケー…」

「さぁ、ボサっととせずにさっさと逃げましょう…とお姉さまを担いで逃げます」

「ちょっと待ってくれ。………おい、あんた」

上条は七花の方を向く。

「なんだ?」

七花は上条を見る。


「あんた、あいつを殺さなぇよな………?」

「………………」

「もし、あんたがあいつを殺そうとしてんのなら、俺は氏んでも止めるぞ!」


上条はわかっていた、いや第六感が伝えてきた。

この人は平気で人を[ピーーー]ことができる人間だと。


「………どうして、おまえを殺そうとしてきた奴を庇うんだ?」

逆に七花が問う。その問いに上条は。

「当たり前だ!俺の目の前で人が氏ぬんだったら、止めるのは当たり前だろ!!」

上条の答えに、七花は目を丸くした。

「っは、ははは!!」

「なんだ!」

「お前、面白れぇな」

そう言って、七花は結標淡希がいる方へある行ていった。

772: 2011/05/29(日) 01:55:15.33 ID:nPqtTgWm0


鑢七花は結標淡希と対峙した。

「ふふふ」

「何がおかしい」

「ねぇ、あなたって、あの学園都市の侵入者さん?」

「まぁ、そう言われていた時もあったな」

結標は「ははは」とまた笑った。

「あんた、良く笑うな」

「いや、ごめんなさい。今日は本当に気分がいいわ♪」

「時に、その手に持っている『千刀 鎩』なんだが……」

「ああこれ?誰も聞いてこないし、地の文にも全く無かったかったから。私も忘れていたわ……これが何?」

「それ、ずっと持ってんのか?」

「ええ、これが無いとなぜか不安になるの。逆にこれがあると力が湧いてくるの!!これがあるからこそ、私は自分自身を座標移動できる!それにドクドクと血が走るような感じが、たまらいの!今本当に神様に感謝しているわ!神様ありがとう、こんなプレゼントをくれて!!」

「そうかい、残念だな。その刀、俺がもらって行くぞ」








「ふふふ♪そんなこと、させると思っているの?………しかし、あなた頃し甲斐がありそうね」



「それはどうも。………まぁ、ただしその頃には――あんたは八つ裂きになっているだろうけどな」







鑢七花

結標淡希


二人の間にピリピリとした空気が包む。


779: 2011/05/29(日) 14:57:53.24 ID:nPqtTgWm0


ピリピリとした空気が二人を包む。

上条はその空気に呑まれかけながらも、七花がいる方へ走って行き、肩を掴む。


「おい![ピーーー]なっていってんだろ!」

「…安心しろ、殺さねぇよ。命令で止められている」

「は…?」

「とりあえず、お前は車の中にいろ、そして中にいる奴等に話を聞け」

「………」

「早く」

「わ、わかった。……[ピーーー]なよ!?」


そう言って、上条は走って去って行った。



「さあ、邪魔者はいなくなったし、さっさと『千刀 鎩』を貰っていくか」

「邪魔者はどっちよ?折角、人が気持ちよく遊んでたのに……」

結標淡希は右手で頭を抑えて、困ったような顔をする。

「しかも、あなたと戦う理由もないし、私じゃああなたに敵わないわ」

「なんだ、戦う前から逃げ腰か?」

「違うわよ」

結標は声を高くして言った。



「戦力的一時撤退よ!」




780: 2011/05/29(日) 14:58:47.73 ID:nPqtTgWm0


(消えるつもりか!!)

「させるかよ!!」

七花は結標との間合いを一瞬で詰めた。


(速い!)


「―――虚刀流 『百合』!」

七花は結標に回し蹴りを繰り出す。

しかし、

「―――……!?」

結標は座標移動で消えていた。


「いきなり不意討ちとは卑怯ね」

「頃し合いに卑怯も糞もあるかよ。それにあんたの攻撃だって、十分卑怯じゃねーか」

「ふふふ、あれは私のスタイル♪あなたが卑怯と言おうがなんだろうが―――」


その時、結標の背後に絹旗最愛が拳を振るって襲ってきた。


「―――――――――――………………ッ!!」


結標はとっさに反応し、拳が当たる寸前で座標移動した。


拳は空振りし、地面を殴った。

地面は陥没し、周囲2mの地面にひび割れを作った。

「……っチ。外したか…」


「へぇいいパンチね。でもお姉さんに当たらなかったら、全く意味がないわね」

結標はニヤニヤと絹旗を見る。

「ふーん、あなたが絹旗さんね……。あなた、こんな小さい子をフルボッコにしたの?かわいそうね…」

「まぁ、それは両者の同意上でやったからな」

「それにあの敗戦があったからこそ、私は七花さんのもとで超強くなるって決めたんです」

「へぇ~、まるでどこかの功夫映画の師匠と弟子ね……。嫌いじゃないわよ?そういうの」

「それは超どうも」

「………………そして、それをぶち壊すってのも、最ッ高に楽しそうで失禁しそうだわ♪」

結標はあははは、と笑う。


782: 2011/05/29(日) 15:38:35.65 ID:nPqtTgWm0

「でも、とりあえず撤退するわ……。そこのお弟子さんは片手で潰せるけど、お師匠さんの方はここでは絶対に勝てないから――――」


その時、結標は体を反らした。

その直後、ダァンッッ!!と大きな音と共に、地面に穴が開いた。


銃痕であった。



結標は弾が飛んできた方向を見る。

そこはビルの屋上だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「…………ッチ…外したか……とミサカ17600号は舌打ちします。―――――…………ッッ!!?」


ミサカ17600号は体をライフルを手放し、体を起こす。

その直後、ライフルに『鎩』が三本刺さった。


「……なっ…!」

そのあと、『鎩』は消えた。


「……………クソッ…とミサカ17600号は悪態をつきます」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「それに、戦力の差が大きいからね♪」


その時、工事現場に二、三百人の妹達が入ってきて、結標達の周囲をグルリと囲んだ。


「へぇ~これが例の妹達って言う奴ね…初めて見るけど、ホントそっくりね。流石はクローンと言ったものか…」

「私達、ミサカ10032号から20000号までの妹達があなたの周りと、ここから半径10kmを包囲しています。まだ遅くはありません、とミサカ10032号は結標淡希に投降を薦めます」

「ふふふ、なに?どこの刑事ドラマよ。あんた達みたいなおもちゃの兵隊が私に敵うとでも!?」

「おもちゃではありません。人間です、とミサカ14768号は怒りを露わにします」

「その怒りを鎮めてください。今はこの標的を駆逐…げふんっ…捕獲することが先決です、とミサカ12446号はこのツインテールもどきに銃を構えながら14768号を宥めます」

「そう言うあなたも怒っているじゃないですか、とミサカ17544号は12446号が構える銃を下させます」

783: 2011/05/29(日) 16:14:51.43 ID:nPqtTgWm0

「そこの一角のミサカ三人、静かにしなさい、とミサカ10032号はその三人に銃を向けます」


「あんた達、私にコントでも見せに来たの?別にいいけど、そんなのはDVDの映像特典の中だけにしなさい」

「私達はコントをしに来たのではなく、あなたを捕まえに来ました。二度とこんな真似はさせないために、とミサカ10032号は結標淡希に言います」

ミサカ10032号は結標淡希に言った。。

「ふふ、まったく……自分達が氏にたくないから、こんなに頑張っているのね……。ホント、実験動物か家畜みたい。知ってる?稲作に良く使われる合鴨は、雛の時は人間に可愛いに可愛がられて水田に放されるの。でも稲刈が終わった途端に食用として扱われ、殺されていく……。その時の合鴨たちは『氏にたくない、氏にたくない』って足掻いて足掻くらしいの………。私から見れば、あんた達はそれと同じに見えるわ!!」

結標は哂いながら、クルクルと踊るように廻りながら、周囲を囲む妹達、全員に万遍なく話す。

それを見て聞いて、周りの妹達から殺気の様なものがジワジワと放たれた。

一番の年長者…いわゆる姉的存在のミサカ10032号 御坂妹は、殺気立つ妹達を代表して答えた。


「そうでしたか。しかしあなたがどう見ようがどう評価しようが、私達は合鴨でも家畜でもない……正真正銘の人間です、とミサカ10032号は冷静に対処します。………………ミサカ14768号とミサカ12446号、気持ちはわかりますが今は銃を下しなさい、とミサカは妹二人を言葉で抑えます」

ミサカ14768号は黙って銃を構える。隣のミサカ12446号はフーッフーッ鼻息を荒げて銃を構える。彼女らの殺気はこの集団の中でも一番だ。



「あら怖い怖い。まぁ、この戦力差で正面からドンパチやってもしょうがないから、逃げるわね?……………それでご機嫌よう、異邦人とそのお弟子さん?それと哀れなお人形さん達?」


「待ちなさい!!」

と、絹旗は飛んできて、結標の顔面めがけて拳を振るう。

しかしすでに遅かった。結標は座標移動で消えいた。いつのまにか、周りにあった五百本の『鎩』も消えていた。

784: 2011/05/29(日) 16:39:39.36 ID:nPqtTgWm0

「クソ…超逃げられました…」

絹旗は歯痒い顔をする。


とその時

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ………………


「あだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだっ!!」


ミサカ14768号とミサカ12446号は絹旗に向かって銃を乱射した。




「あ……間違えた…、とミサカ12446号はあのツインテールもどきではなく、味方のチビの方に銃を撃ってしまいました」

「おい、とミサカ14768号は隣にいた御坂12446号に釣られて撃ってしまったと、責任転嫁します」


「ちょっと待てぇえええええええええええ!!あんたら超ごめんさいって言えないんですかぁあああ!!?」


「ごめんなさい、とミサカ14768号は目を頭を下げて謝ります」

「すいませんでした、とミサカは12446号はこの目の前にあるチビ助に謝ります。ドーモスイマセンデシタ」

「テメェら超謝る気ないんですか!?…ってかあれ実弾ですよね!?もし私じゃなくって七花さんだったらどうするんですか!?」

「ああ、大丈夫です。私達みんなの銃の弾は全部ゴム弾です。向かいの妹達に当たったら大変ですからね?とミサカ14768号は自分の銃のマガジンを見せます」

「ああ、ゴム弾ですか。それは超よかったです。……………って、明らかに実弾の感覚があるものが混じっていた気が超するんですけど………っておい」

「ミサカ12446号、なんで顔を絹旗女子に合わせず、明後日方向を向いているのですか?とミサカ14768号は不審な目をミサカ12446号に向けます」

「………ちょっとマガジンを超見せてもらいましょうか」

「いやです、とミサカは断ります」

「いいから、超出してください」

「いやです」

「超出せって言ってンだよォ、コォラ」

「断固拒否します」

「私よりお姉さんなんですから、素直に出すべきですよ、とミサカ14768号はミサカ12446号に注意します。絹旗女子の顔が怖いです」

785: 2011/05/29(日) 17:11:27.27 ID:nPqtTgWm0

「それでも私はやっていない」

「あなたは痴漢の容疑者ですか、とミサカ14768号は絹旗女子の殺気に脅えながら早くマガジンを出すよう要求します」

「絶対に嫌です」

「……テメェ超イイ加減にしやがれェエエエエ!!」

「ぎゃぁああああああああ!!」






「あっ!やっぱり実弾を超ぶっ放してやがった!!」

「ああ……」

「なんで黙っていたんですか?とミサカ14768号はミサカ12446号を叱ります」

「だって……とミサカ12446号は歯切れの悪く言葉を発します」

「もし向かいの妹達に当たったりしたらどうするんですか?とミサカ14768号は向かい側のミサカは誰か見てみます………あ」


向かいにいたのは…………ミサカ10032号 御坂妹、いわゆる彼女らの姉であった。


御坂妹は無表情で、速足でこっちまで歩いてきた。


「あ、あの……、とミサカ12446号は……」




ガンッ!ゴンッ!










「どうも、先はミサカの妹達がご無礼を働いてしまい、申し訳ございませんでした、とミサカ10032号は頭を下げます」

「いえいえ、超終わった事ですから」

「ぅう…痛い……とミサカ12446号はミサカ10032号の拳骨を貰って、タンコブが出来たところを摩ります……」シュン…

「…イタタタ……なんで私まで…?とミサカ14768号は涙目でミサカ10032号を見上げます」

「連帯責任です。タンコブ程度で済んだことに感謝しなさい、とミサカ10032号は姉としての責務を全うします」

と御坂妹は額に青筋を作って、痛む右拳をフルフルする。

「絹旗さん、本当にすいませんでした。………ほら、あなた達も頭を下げなさい、とミサカ10032号は馬鹿な妹二人の頭を押さえ、下げさせます」

「イタタタタッ、そこタンコブのとこ!とミサカ12446号は悲鳴を上げます」

「我慢しなさい、と10032号はさらにミサカ12446号の頭をさらに下げさせます」

789: 2011/05/30(月) 17:40:10.09 ID:fCi/9/CC0

「……この車か…」

上条当麻は工事現場の外にヒッソリと泊めてあった小型バスを見つけた。

このバスに、御坂妹は御坂美琴を担いで行ったようだ。さっきこのバスからマシンガンを持って出て行ったのを覚えている。

「お邪魔しまーす……」

そっとバスのドアを開ける。

「おお来たか。…そなたが御坂の妹が言っていた上条当麻だな?」

そこには、ド派手な着物らしき服を着て、ショートカットにした白髪が目立つ女性が乗っていた。

上条はバスに乗る。

白髪の女性の隣の席…席を挟んだ席には、席をベッドの様に寝かせて、その上に御坂美琴が俯けで寝ている。……背中の傷は大丈夫だろうか。

と、その時

「あ、みこと来てたんだ」

上条の後ろからピンク色のジャージを着た、自分と同い年くらいの女の子がいきなり現れた。

「…っうわ!?」

「あ、あなたがみさかいもうとが言っていた、かみじょうくん?わたし、たきつぼりこう」

滝壺は手を差し伸ばして、左手で握手を求めてきた。

「え?、ああ、初めまして…」

上条も滝壺に挨拶をし、左手で彼女と握手をした。

「………ああそうそう、ちょっとみことの怪我の応急処置をするから、出て行ってもらえる?」

「ああ、手伝うよ!」

「え?」

と、滝壺は困った顔をする。

「?」

上条は首を傾げる。何か変な事でも言ったか?

と、白髪の女性が上条へと歩み寄ってきて、上条の腕を引いた。

「ほれ、さっさと出て行くぞ」

「え?なんで?」

と上条は言うと、女性は上条をキッと睨んで言った。

「そなた、そんなに女子(おなご)の裸が見たいか?」

「あ…、失礼しました」

そうだ、美琴の傷は背中にある。一旦上半身を裸にしなければ傷の応急処置は出来ない。

「ほれ、出て行くぞ」

上条は女性に襟首を掴まれて、バスから出て行った。

790: 2011/05/30(月) 18:42:31.74 ID:fCi/9/CC0

…バタンッ


女性は上条の顔を見て、言った。

「さて、そなたに話しておかなければならないことがある」

「いや、その前にあんた達は何者なんだ!?あのデケェ奴とか」

「ああ、申し遅れた、私は奇策士とがめだ。先程そなたを助けた男は鑢七花だ」

「……それだけ?」

「それ以外の事も話す。とにかく話を聞け、質問はそのあとだ」


奇策士とがめは、これまでにあった事から今の現状を、包み隠さず話した。


「………………という事だ、質問はあるか?」

「いや、別にないが…」

「そうか?私は質問の一つや二つぐらいあってもおかしくはないと思っておったがな…」

「ああ…、俺は頭が悪いからそういう難しいことを考えるのは嫌いなんだ」

(なんだ、こやつ七花と同じ頭の回路か…)

とがめはそう思った。

「そうか…。では、なぜそなたはこの命を懸ける戦いに来た?」

とがめは、ふと気になって上条に訊く。



「ああ?そりゃ…御坂妹が助けてって言ったから来ただけだけど?」

「…は?」

と、上条の答えにとがめは目を丸くした。

なんかさっきもこんな表情されたような…。と上条は思った。

「はははははは!!」

「……なにがおかしいんだ?」

「いや…ははは、ああ、悪い。…そんな考えだけで、命を懸ける奴がいたとはな……。ははは」

とがめはつい笑ってしまった。

なぜなら、上条は何の利益もなしに命を懸けるのだ、とがめから見れば馬鹿馬鹿しくて笑ってしまう。

そういえば、彼女の父もそうだった。改竄された歴史を本来の歴史に戻す為に一族諸共の命を捨てたのだ。金が欲しいのでなく、領地の拡大の為でも、天下をとらんとしたのでもなく。ただ歴史の為に氏んだのだ。

(なにか、父に似ておる…)


「どうしたんだ?」

「あ…いや、なんでもない」

791: 2011/05/30(月) 19:00:38.10 ID:fCi/9/CC0

とがめは笑って固くなった頬を緩め、真面目な顔で上条を見る。

「とにかく、そなたは私達に協力してくれるのか?」

そう、とがめは訊いたが、内心は…

(……御坂の妹が信頼に足る男だと言ったが、どうも強そうには見えんな…。だいたい一五、六歳程か…こやつに一体何ができる?ただの功名心で来ているのか?)


と、上条を軽く見ていた。

それはそうだ。上条当麻という人間は無能力者の、ただの高校生である。

「ああ、そのつもりだ。御坂があんなことになったんだ、このまま帰ってたまるかよ」

とがめの問いに上条はそう答えた。

「………………」

(………前言撤回だ)

とがめはそう思った。

確かに上条はただの無能力者の高校生だ。

しかし彼の眼はそれと違う。

ただの高校生はこんな眼はしない。

決意のある眼だ。氏に物狂いで何かと戦ってきた眼だ。


(この男には何かがある…)


とがめはそう、直感した。




792: 2011/05/30(月) 19:08:42.17 ID:fCi/9/CC0


夕飯の準備があるので、いったん終わりです。

八時か九時には戻るかも。

796: 2011/05/30(月) 21:22:10.45 ID:fCi/9/CC0




………ガラッ

とその時、バスの中から滝壺がドアを開けて顔を出してきた。

「終わったから入っていいよ」

滝壺が上条ととがめを手招きする。

「ああ、わかった。?どうした、とがめ」

「ああ、すまん。呆けておった」

「…?」


とがめが入ろうとしたとき、工事現場から先程、上条を『鎩』の雨から助けてくれた大男、鑢七花が走ってきた。

彼の後ろには、中学生くらいの女の子と御坂妹をはじめとする妹達が何人かがついて来ていた。


「すまねぇとがめ、逃がしちまった」

とがめに詫びる七花。

「うむ、そう簡単に捕まるとは思っておらんかったよ。とにかく皆は乗れ」

「わかった」

「わかりました」

「わかりました、とミサカ10032号はバスに乗車します」

と、ぞろぞろと七花たちは小型バスの中に入っていく。

しかし……。


「ちょっとまて」

その時、上条は口を開いた。

「このスペースにこの人数はいささか狭いのでは?」

と。


上条の言葉にとがめは、「ああ」と頷いた。

「……確かに…七花は体が大きいし、御坂の方は寝ておるし…どうしたものか…」

とがめは悩む。

このバスの定員人数は八人。

運転手はいるし、滝壺はそのナビ、寝ている美琴は二人分使っている。

運転手と滝壺は置いておいて、とがめや七花や上条ら六人の内から一人、

誰かこのバスから出なければならない。

「…………」

誰もが顔を見合わせた。

誰が出て行く?

その時、御坂妹が口を開いた。

797: 2011/05/30(月) 21:44:44.92 ID:fCi/9/CC0

「実は私、10032号以外の妹達はここまで冥土返しから借りてきた、これより一回り大きなバスで来たんですが、そこに誰かを乗せていく…というのはどうでしょうか、とミサカは提案します」

「でかした御坂の妹!じゃあそこに転がっている、お前らの姉を運んでくれ!」

と、とがめは御坂妹に指示した。

「わかりました、とミサカはさっそく仕事に取り掛かります」

とそこに、上条が口を出してきた。

「ちょっと待て御坂妹。お前免許どうした?そもそも運転できるのか!?」

「モチのロンです。私は先の実験の時、一緒に車の運転のスキルも手に入れていましたから、とミサカはお姉さまをおんぶして車から出て行きます」

「おい!免許は!?…………行っちゃった…」


「いいじゃないですか。超運転できるならそれで良しです」

と、七花の隣にいた女の子が上条に話しかけてきた。

「あの~、あなたは?」

「ああ、まだ自己紹介が超まだでしたね。私の名前は絹旗最愛っていいます」

絹旗は上条に、右手で握手を求めてきた。

「ああ、よろしくな」

上条は絹旗の右の手を、同じ右の手で握る。

その時、絹旗の『窒素装甲』が消えた。

「―――――………ッッ!?」

絹旗の表情がいきなり、驚きの表情に変わり、バッと手を引っ込める。

「どうした?」

「いや…超噂で聞いていた通りだなって思って…。流石は『幻想頃し』ですね。正直いって超気持ち悪いです」

「あれ?俺の右手の事知ってたの?」

「まぁ、そういう環境にいますから」

「どういうこと?」

「それは言えません」

「……そうか…」




798: 2011/05/30(月) 22:33:42.01 ID:fCi/9/CC0


ガラ……。

「ただ今戻りました、とミサカはバスのドアを開けます」

と御坂妹が帰ってきた。

「よし、さっそく乗れ」

と、とがめは御坂妹に命じた。

「では、隣良いですか?とミサカはあなたに訊きます」

と、御坂妹は上条がいいと答える前に隣に座った。

「あぁそれと、結標淡希が移動したとされる場所がわかりました、とミサカは指揮官の奇策士とがめに報告します」

と御坂妹がとがめに報告する。

「へぇ、あんた指揮官だったのか」

と、上条はとがめに言った。

「だから言っておるだろう、奇策士と。策を練らずに奇策を練り、皆が必ず勝つ方法を編み出すのが私の仕事だ。……で、場所は?」

「はい、ここから東北東8kmの地点、半径50mの範囲です。滝壺さん、その範囲なら大丈夫ですね?」

「あれ?滝壺さん体晶は?それがあれば滝壺さんなら、一発で超早く発見できるのに…」

と絹旗は助手席にいる滝壺に訊く。

「前の任務で使い切って、そのまま…今はないの。ごめんなさい、準備不足で……」

しょぼん…とした声で滝壺が謝る。しかしとがめはそんな滝壺をフォローする。

「いやいい、それは身体の負担が大きいのだろう?だったら使わんほうがよい」




「なぁとがめ、どうして結標の居場所がわかったんだ?」

と、七花は質問した。それにとがめは答える。

「ああ、それはだな?周囲10kmに妹達を配置させたのは知ってるな?」

「ああ」

「それは結標があの工事現場から逃げられないように包囲する為だったが、本当の理由がある。それがわかるか?七花よ」

ニヤニヤした顔のとがめ、それの表情は七花をイラッとさせた。

「わかんねぇから訊いてんだよ、勿体付けずに言ってくれよ」

「ふふふ、それはだな。もし結標淡希が座標移動して逃げたとしても、奴の一回の移動距離は800mだそうだ。だったらここを中心に800m毎に二人一組の妹達を配置させ、周囲を見張らせる。そして座標移動して移動している結標を見つけては報告する。そして最後に発見した所が奴の隠れ家だってわけだ」

「ああ、なるほど。そういうか。でもその範囲の外に出たらどうするんだ?」

と今度は上条が訊いた。

「いや奴はその範囲には出んよ。なぜなら『千刀 鎩』を五百本も一緒に移動させておるからな、相当目立つし、疲労も大きい。だから出ない、とりあえず近場に寄って、ある程度休んだらまた出るはずだ」

「で、その前に私たちが超速攻で叩くと…」

と絹旗。

「そういうことだ。……ふふふ、見ろ七花よ。久し振りにとがめちゃんの奇策が活躍したぞ!!」

「ああ、そうだな」

七花はブスーッとした表情で応えた。

「なんだその愛想無い態度は!!」

799: 2011/05/30(月) 22:54:43.24 ID:fCi/9/CC0

とその時、誰かの携帯が鳴った。


マヨラーソノテーヲ ヒークーモナードイナイ

カミガクダース ソノコターエハー

フコウダッタ

ソース ソレコッソ カーミカーラーノオクリーモーノー

ノリコエーナーキャ ミエテコナーイー

ダカライーマースーグー ノーパーンツ!


「ああ、悪ぃ悪ぃ。俺だ」

上条の携帯だった。

「…ピッ…はい、もしもし。………今取り込み中……、え?………おい、ちょっとまて……。ダァー!わかったよ!」

誰かと争っているようだ。

「はい!あんたに電話」

と上条はいきなりとがめに携帯を差し出す。

「は?私?」

とがめは自分を指さし、携帯を受け取る。

「……もしもし…?」

実はとがめにとって、電話で誰かと話すという体験は、これが初なのだ。緊張した顔で言葉を発す。

さて、いったい誰なのか…?



『はぁ~い♪ご機嫌よう、奇策士さん♪』



「……………」

とがめは黙って電話を切る。



800: 2011/05/30(月) 23:09:14.46 ID:fCi/9/CC0

マヨラーソノテーヲ ヒークーモナードイナイ

カミガクダース ソノコターエハー


ピッ!

「なんだ!やかましい!」

とがめは携帯に怒鳴る。

『なぁに~?なんで切るの~?新種の嫌がらせか何か?…………奇策士さん♪』

「お前が私とこうしてまた話をすること自体が嫌がらせだよ。…………否定姫」

とがめは本当に嫌な顔をする。

『ひっどぉ~い。……ところでそこに七花くんはいる~?』

テンションがバカみたいに高い否定姫の声に頭を痛めながらとがめは受け答えをする。

「ああ、いるぞ。それがどうした?」

『………いや、なんにも?気になっただけ』

「………?」

急に否定姫のテンションが低くなった。

「どうした?」

『い~や?なんにも』

と、さっきのテンションに戻った。

『そうそう、今頃は結標淡希の居場所がわからないかな~と思って、教えてあげようかな~っと思って』

「はんっ!そんなこと、奴の居場所何て大体は掴んでおる。残念だったな」

『あ、そうなんだ~。“結標淡希の居場所は、そこから東北東8kmにあるホテル”にいるってことは掴んでたんだ~。へ~わかったわ~ホントに残念だわ~。骨折り損ってこのことね~?』

「………………」

『……あれ、どうしたの?まさか、正確な場所は掴めなかったと?そんなまさかね~』

「………要件はそれだけか?」

『ああ、そうね。とりあえず、そこにいるツンツン頭の馬鹿に代わって?』

「上条、お前にだと」

と、震えた手で上条に携帯を渡す。

「あ、ああ……もしもし?」


801: 2011/05/30(月) 23:28:39.47 ID:fCi/9/CC0

「七花……」

「なんだ?とがめ」

とがめは隣にいた七花に話しかけた。

「さっきの…聞いておったか?」

「ああ、バッチリ音が漏れてた」

「………ろ……れろ…」

「あ?」

「忘れろ忘れろ忘れろぉぉぉ!!」

「!!」

「!?」

「!?」

「!?」


と、とがめは七花の体を両拳でポカポカポカッと叩く。

「忘れろぉぉぉ!頼む、忘れてくれぇ!恥ずかしい…恥ずかしいよぉお!!」

「おい、やめろよがめ!あまりにもお前の態度が豹変しすぎて、他のみんながビックリしてるぞ!!」

「「「「「「…………ポカァーン…………」」」」」

「おい、忘れろ!忘れるんだぁ!いいか!?この数分間の出来事!>>798から>>800まで、つるっと丸々忘れるんだぁあああ!!頼む!拝む!忘れてくれぇぇえぇええ!!」

とがめは涙を流しながら他のメンバーに訴える。………とても齢三十の女とは思えない。

「すまねぇなみんな。とがめは極度に興奮すると、心が子供に戻るんだ」


「ああ、どうですか……」

と、一同ドン引きしながら七花の腕の中で泣いているとがめを見ていた。



802: 2011/05/30(月) 23:52:25.47 ID:fCi/9/CC0





とがめが一同にドン引きされている時、上条は否定姫との電話していた。

『で、わかった?私の言った通りの事をしなさい?』

「ああ、でもとがめが別の指示出したらどうすんだ?」

『その時はあいつの指示に従いなさい♪』

「わかった。…あんたの心意はわからねぇが、とにかくやってみる。しかしそれで、あの一件の事を許してくれるんだな?」

『ええ、許してあげるわ~♪むしろ、それ以上の事をしてやってもいいわよ♪』

「いらねぇよ、そんなもん。じゃあ切るぞ」

『ああちょっと待って』

「なんだ?」

『言い忘れたことがあったわ。音声をみんなに聞こえる様にして♪」

「?……ああ」


上条は携帯電話を前に出した。

「みんな、この電話の相手が言い残したことがあるってよ…………………………………………………って、みんなどうした?」





とがめは号泣、他のメンバーはドン引きしていた。

上条はその光景にドン引きしつつ、携帯の通話設定をハンドレスモードにした。

「おい、いいぞ」

と上条は否定姫に合図を送る。

『はぁいどうも、声を聴くのは初めてって人もいると思うから、自己紹介するわね?私は否定姫。…まぁ私の事は知ってると思うから、詳しいことは省くわ。今はケータイを持っている馬鹿の家にお世話になっているわ~♪』

「おい、御託はいいから。さっさと話せ」

と、とがめは否定姫に文句を言う。

『そんなことわかっているわよ。…………時に今どこにいるの?』

「え?工事現場の前……ああ!!運転手っさっさと出発しろ!!」

と、とがめは運転手を怒鳴る。

『早くしないと逃げられちゃうわよ~』

そうだ、早くしないと結標淡希が逃げて行ってしまう。

『ああ、でもやっぱりいいかぁ~』

「どっちだ一体?」

と、とがめは今度は否定姫に怒鳴る。





『だって今、白井黒子とかいう、御坂美琴の後輩さんが、結標淡希と戦っているの♪これはいい足止めになるわぁ~♪まぁ彼女氏ぬけどね?』

803: 2011/05/31(火) 00:26:11.55 ID:JlqTFO0U0


「――――――――――――――………………なっ!!?」

上条はつい、言葉を上げてた。

「それを先に言えよ馬鹿野郎!!…………………おい運転手!さっさと出ろ!!」

「あ、ああ、わかった!」

ただの高校生であるの上条の怒声に運転手のチンピラはつい、従ってしまった。


『あなたは……御坂さんの……』


上条はとある男との約束を思い出す。

(やらせるかよ…絶対に…!!)

そして、歯を食いしばり、拳を握る。




上条達を乗せたバスは、颯爽と夜を駆けてゆく。


804: 2011/05/31(火) 00:30:22.54 ID:JlqTFO0U0


さて、なぜ白井黒子が結標淡希の居場所が分かったかということを説明するには、少し時間を遡らなくてはならない。


時間は鑢七花が小型バスに乗った時まで遡る………。






805: 2011/05/31(火) 01:22:21.38 ID:JlqTFO0U0


「……………折角の冥土返し特性の麻酔銃が…とミサカ17600号は残念な表情で穴だらけになった可哀そうな麻酔銃を持ち上げます。あとで供養しなければ…」

と、ミサカ悲しそうな目で腕の中の銃を見つめる。

「まったく、酷いことをしてくれる…とミサカは相棒の一丁だったこのライフルをそっと抱きます」

ミサカ17600号はそっとライフルをそっと地面に置き、手を合わせる。

「いままでありがとうございました、とミサカは我が愛銃の氏を惜しみます」



ミサカ17600号は、銃やナイフなどの武器や道具を人一倍大切にする人間だ。

元々、彼女はミサカは狙撃銃を得意にしている。しかし、目標を狙撃するには確かに実力も必要だが、時には運も必要な時もある。

それは銃の故障や風の向きの急な変化、弾道に鳥が通って当たって目標を仕留め損ねたり、運悪くたまたま目的がこちらを先に見つけたり…。

狙撃手には必ず運というものがついてくる。

不運を寄せ付けない為には、こうした、道具を大切に思っている心と行動が必要なのだ。


また、ミサカ17600号は手を合わせる理由にもう一つ、理由がある。

以前に読んだ歴史小説で、主人公の男が言った言葉で『武器には命はないが、魂は宿っている。武器を神と崇めれば、それはいずれ自分を助けるであろう』と彼女はそれを読んでから、その主人公の言った通りのことをした。

すると数日後から、狙撃の失敗が無くなった。嘘の様に目標に直撃する。

以前、あの鑢七花の背中に二発も銃弾を直撃させたのは、それのおかげだと彼女は思っている。

それでミサカ17600号は銃に手を合わせるのだ。

他のミサカに理解されなくても、武器・道具の手入れと感謝の意を込めることはやめない。

そしてミサカはこの銃に語るのだ、――――いままでありがとうと。


数分たった。

すると、ミサカ10032号から指令が下される。

工事現場を見ると、もうバスの姿はなかった。



「…………………とりあえず、ミサカ17600号はそのホテルにいる、結標淡希を狙撃できる位置まで移動すればいいのですね?とミサカ17600号は確認をとります」


『はい、それでは各自行動に移ってください』

「了解、とミサカ17600号は早速行動に移します」


と、ミサカ17600号はビルの端に置いてあったザック(登山用のリュック)の開けた。

中から、闇夜に紛れられるように黒く塗ったハンググライダーと

自分が飛んでいるのが下にばれないようにするための、黒い上下のウィンドブレイカーを取り出した。


806: 2011/05/31(火) 01:47:40.85 ID:JlqTFO0U0




とその時!

(――――――――――………殺気っ!?)


ミサカ17600号はとっさにザックの中に入っていたリヴォルバーを取り出し、殺気を感じた方へ…後ろへ構える!


「……………(いない?とミサカは周囲を見渡します)」


ふと、急に肩を叩かれた気がした。


そして気が付くと、ミサカ17600号は床に倒れていた。


「(………こ、これは……!!)………………っふん!」

ミサカ17600号は素早く後転しながら立ち上がる。


立ち上がると、さっきまで寝ていたところにはダーツが刺さっていた。


「………やはりあなたでしたか…出て来てください。白井黒子さん、とミサカは屋上から下へ降りる階段がある部屋の陰に隠れている、あなたにい言いながら銃を構えます」

「……………」

ダァン!と、ミサカ17600号は一発、黒子が隠れているらしき壁に銃を撃つ。

「出て来てください、とミサカは二発目の弾を撃つため、ハンマーを上げます」



「………そんなに出て来てほしいなら、喜んで出て行きますわ」



と、上後方から声が聞こえた。

ミサカ17600号は前を向いたまま、腕を上に曲げ、銃口を上後方に向けた。

そして、そこにいた黒子に弾丸をブチ込む!


しかし外れた。


「空間移動能力者は……本当に厄介ですね、とミサカは悪態をつきます」

『ミサカ17600号、どうしたのですか?とミサカ10032号はミサカ17600号に訊きます』

「いえ、心配ご無用です、とミサカ17600号は答えます」


807: 2011/05/31(火) 02:45:20.89 ID:JlqTFO0U0

「何の用ですか?とミサカは問いかけます」

ミサカ17600号は黒子に訊く。


「その質問の前に、まずはこちらの質問に答えてもらいませんか?」

と、真正面から声が聞こえた。

白井黒子はミサカ17600号の正面に現れた。

「ああそれと、これは没収しますね?それとあなたを銃刀法違反で拘束します。風紀員として」

その手には先程ミサカ17600号が持っていたリヴォルバーが握られていた。

「(………いつの間に…)さすが風紀員ですね、しかしその銃は私が生まれた時から形見離さず持っていた、いわゆる私の分身です。返してください」

「だったら、私の質問に答えてくださいな。…………あなたは何者なんですか?なぜ、御坂美琴お姉さまと同じ格好でいるのですか?」

「いちいち質問が多いです。それとその質問たちには答えられません」

「だったらこれは返せませんよ?……まぁ質問の事は聞かせてもらいますわよ?」

「私のリヴォルバーは必ず帰してもらいます、と背中に隠してあったコンバットナイフ二本を両手に持ちます」







「「勿論、力ずくで」」










811: 2011/05/31(火) 17:54:13.67 ID:JlqTFO0U0

さて、今日も続きを書きます。


駄文で、しかも糞展開のストーリーですが、ついて来ていくれている皆様に感謝しつつ、

頑張って書いていこうと思います。


あと、感想や要望があったら、是非スレを書いて行っててださい。


812: 2011/05/31(火) 18:36:07.08 ID:JlqTFO0U0


ジリジリ……と二人は距離を詰める。


ミサカ17600号はナイフを逆手に持った左手を前に、順手に持った右手を体の側面に沿える。体勢は低くし、いつでも全力疾走できるような構えをとる。

黒子はミサカ17600号と名乗った女を拘束する為、太腿に隠してあったダーツを六本持つ。


ミサカ17600号は考える。きっと、自分が彼女より早く仕掛ければ、空間移動で攻撃を回避し、カウンターをとるように自分の体をあのダーツで拘束するだろう。

だから彼女が仕掛けるのを待つ。正面から走ってくればそれに対処すれば良し、空間移動で後ろに飛べば後ろに向いて、こっちがカウンターをとれば良し。

要は白井黒子の後手に回ろうと、ミサカ17600号は考えた。


黒子は予測する。きっと、自分が先に仕掛けたら、御坂美琴の偽物はカウンターをとりに来る。前から行こうが後ろに回ろうが関係無しにだ。

黒子の経験だが、銃やナイフに頼っている者に限っては、無能力者や異能力者だ。黒子の相手ではない。

しかし銃の腕は今まで相手にしてきた者たちの中でもピカイチだ。そこだけは注意しておこう。

そのみち大能力者の自分の相手ではないが、カウンターに警戒する必要がある。

だから、ミサカ17600号の後手に回れば勝てると、黒子は予測する。


「………………………」

「………………………」

針でも刺したような緊張感が、汗となって二人の頬から垂れた。

相手は動かない、いや動こうとしない。


(なるほど、白井黒子も私と同じく後手に回るつもりですか、とミサカは足をジリジリさせながら牽制します)

(……くっ…あちらも後手に回る方法をとってきましたか…しょうがないですね)



(ここからは、我慢比べですね、とミサカは歯痒い感情を隠しながら、無表情で相手との距離を詰めます。距離、およそ7,4m)

(……時間が無いって時に……。しょうがないですね、我慢比べと行きますか……)


813: 2011/05/31(火) 18:54:52.84 ID:JlqTFO0U0






数分たった。

二人の距離は、約5m。



ジリジリと二人は距離を詰める。

二人の汗は、額にある前髪を濡らし、頬を伝う。



黒子の額より、一滴の汗が額から流れ、頬を伝い、顎から滑る様に落ちた。



ポタッと滴は地面に落ちる。



とその時!

ジリジリ……ダッ!

地面を蹴る音がした。


音はミサカ17600号からした。



先に仕掛けたのはミサカ17600号だった。

いや違う!

我慢できずに仕掛けてしまったのはミサカ17600号だった。



颯爽と駆け、ミサカ17600号は白井黒子との距離を詰める。


ミサカ17700号は左手のナイフを黒子の腹めがけて突く!


(……貰いましたわ!)


白井黒子はナイフが腹を突く前に空間移動してミサカ17600号の後ろに回る。

(彼女の体に触れ、地面に伏せさせてから、ダーツを刺して拘束すれば、私の勝ち!!)

彼女はミサカ17600号の体に触れる!


814: 2011/05/31(火) 20:25:13.38 ID:JlqTFO0U0

しかし、おかしい。

おかしいのだ。

なぜおかしいのか?

それは……。


(なぜ彼女がこっちに向いているのですか!?)


そうだ、ミサカ17600号の体が黒子の方に向けられ、

が右手のナイフを前にして白井黒子に刺そうとしていた。


右のナイフが黒子の脇腹を刺そうとする。

黒子はそれを空間移動で避けようとする!

「…………痛っ!」

足に痛みが走る。

「……ッ!」

黒子は下を見てみれば、ミサカ17600号が黒子の左足を右足の踵で踏んでいる。

これは黒子が動けないようにする為ではない。

痛みで空間移動の演算をさせない為である。

(しまった…!)

黒子の右脇腹にナイフが刺さる。


いや、刺さっていない。

「甘いですわよッ!」

黒子がナイフを両手で挟むようにして取った。

「これで、お終いですわ!!」

黒子はナイフを右手に持ち替え、左手でダーツを握り、ミサカ17600号の顔に刺す。

(決まった!)

そう黒子は確信した。



「甘いのはそちらです、とミサカはあなたの攻撃を首を動かし避けます」

「……な…」

ミサカの頬に一閃の赤い線が走った。

そこから血がタラ…と出る。



それを

815: 2011/05/31(火) 20:58:24.75 ID:JlqTFO0U0

それをミサカ17600号は肩で拭う。

「これで終わりです、とミサカは決め台詞を言います」




バチィッ!!




………ドサッ。


黒子は倒れた。

「……な、体が動かない…?」

まるで、痺れているようだ。

「安心してください。ただあなたに電気を流しただけです、とミサカはあなたのポケットの中に入っていたリヴォルバーを探し当てます」

「……く…」

「この右手に持っていたコンバットナイフは私が改造したナイフで、私が電流を流すと刀身に100万Vで電流が流れる仕組みになっています。簡単に言うとナイフ型のスタンガンです、とミサカはそのナイフを見せます」

「………こ、のぉ……!」

「無理に立ち上がらない方がいいですよ。いくら御坂美琴お姉さまの二十万分の一しかないと言っても、一応5万Vで電流を流すこともできるんです、とミサカは立ち上がる白井黒子にその5万Vで電流を浴びせます」

「ああああああああ!!」

悲鳴を上げ、大人しくなった黒子は、地面に倒れる。


「はぁ…はぁ…はぁ………、あなたは何者…なんですの…?」

「それは言えません、とりあえず言えることは、御坂美琴お姉さまとは遺伝子が同じだということだけです」

「…………噂で聞いたとこがありますの……確か…常盤台の第三位のDNAマップを使って軍用クローンを作ったという……噂…」

「それだけ知っていれば十分です。詳しくは、お姉さま本人に訊くか、あの日の関係者に訊いてください、とミサカはここから立ち去ろうと、踵を返します」

「ちょっと待ってほしいのですの!!」

黒子はミサカ17600号の足首を掴む。

「他に何か、とミサカは振り返ります」

「……あと最後だけ………あなた達…結標淡希の居場所を知っているのでしょ?……だったらせめてそれだけでも教えてください…!!私はそのために来ましたの…!」

「今のボロボロのあなたに何ができるのですか?とミサカは足首を掴む手をほどきます」

ミサカ17600号は手をほどこうとするが…。

「手を放してください」

816: 2011/05/31(火) 21:42:43.55 ID:JlqTFO0U0

「嫌ですの!!このまま引き下がったら、私のせいで傷を負ってしまったお姉さまに合わせる顔がありませんの!!」

「…………見ていたのですか?下の戦いを、とミサカはお姉さまがピンチになっても助けに行かなかった、お姉さまの後輩を見下ろします」

「なんとでも言ってくれても結構です、私にはその責任があります。お姉さまがボロボロになっているのに、怖気づいて助けにも行けなかった私をなんとでも言ってくれても結構です」

「そんな人間が結標淡希の居場所を知ってどうするのですか?彼女の仲間に入りたいなんて言ったら、あなたをここで頃しますよ?とミサカは手にした我が愛銃をこの臆病者に向けます」

「……がい…ますの」

「聞こえません。大きな声で言ってください。とミサカはリヴォルバーのハンマーを上げます」



「……違いますの!!…結標淡希から!!お姉さまを助けたいに決まってるでしょう!?」



黒子の目には涙があった。

「…………」

「私はずっと、自分の事をお姉さまの後ろをついて行って、『お姉さま』『お姉さま』としつこく付き纏っていました。そして、お姉さまの隣には私しかいないと思っていました……しかし、今回の事件で思い知りました。私は弱い。体も心も…。お姉さまの事を何も知らず、いや知らな過ぎました!さぞかしお姉さまとしたら私という存在は重い錘だったでしょう…。だから、私は今度こそ!お姉さまんの不安を払拭させたいのです!払いたいのです!……だから……だから、どうか…結標淡希の居場所だけでも…教えてください…」


「…………結標淡希は今、ここから東北東、7kmの半径50mの範囲……」

『こちらミサカ10032号、目標 結標淡希は東北東に7kmのホテルにいる模様です、とミサカ10032号は全ミサカに報告します。繰り返します…』


「いえ、そこのホテルに身を隠している模様です、とミサカは独り言を言います」

「……え…?」

「なお、結標淡希はそこで休憩中だという事、ある程度たったら、また逃げるでしょう。そうなったらもう見つかりません、とミサカは足首から白井黒子をどかさせます」

ミサカはザックから出しっぱなしだった、黒のウィンドブレイカーを着て、そのあとハンググライダーを組み立てる。

「一応、警備員風紀委員に連絡しなくていいんですか?とミサカ17600号は妹達最年長であるミサカ10032号に訊きます」

『そうですね、一応保険として連絡しておいた方がいいですね。ではミサカ17600号は警備員と風紀委員に連絡を入れておいてください、とミサカ10032号はミサカ17600号に指示します』

「了解です。次いでに結標淡希と繋がっている外の組織と能力者がいることも伝えておきます、とミサカ17600号は答えます」

ミサカ17600号はグライダーを組み立てる。動力として自分が流す電気で動くプロペラがついている。

「……できた、とミサカは満足気にグライダーを見つめたあと、ザックの中にある、ある物を取り出します」

ミサカ17600号は『ある物』を黒子に投げた。


それはペットボトルに入った、液体だった。

817: 2011/05/31(火) 22:34:45.05 ID:JlqTFO0U0

「それは冥土返し…と言ってもわからないですか…あのリアルゲコ太特性の痛み止めです。その500mlのペットボトルに入ってある痛み止めを全て飲み干して2分後に効果が表れます。効果は1時間、その間はどんな怪我の痛みも感じない優れものです。しかし一時間経つと、体中に地獄の様な激痛が走るというものです、とミサカは要らなくなった道具を適当に投げました」

ミサカ17600号はハンググライダーを持ち、10mほど下がった。

「では、さらばです、とミサカは地面に這いつくばるお姉さまの後輩を見下します」

ミサカ17600号はそう言って、グライダーの動力源のプロペラを自分が流す電流で動かして、走る。



そして、ビルから飛び立って行った。






(少しずつですけど…痺れが治ってきましたわ…)

ビルの屋上に一人残された黒子はまだ少し痺れる体に鞭打って、なんとか立ち上がった。

黒子は、震える手でミサカ17600号が『捨てて行った』ペットボトルを掴み、キャップを開けた。

「……まったく、いくら遺伝子レベルで一緒だからって……素直じゃなところまで一緒なんだなんて…笑ってしまいますわね…」

そう呟いて、黒子は痛み止めを一気飲みした。

「ゴクゥ…ゴクゥ…ゴクゥ……ぷはぁ!」

痛み止めを飲み干した黒子はペットボトルを、近くにあったゴミ箱に空間移動して捨てた。

「………苦くて気持ち悪いですわ…。しかし、嘘のように痛みが引いていきますわ」

黒子は飛んだり跳ねたりする。

うん、まったく痛くない。

「さて、早速行きますか…………ん?」

黒子はその時気付いた。

「あの…ミサカ17600号とかいう女のザック…?」

そう、ミサカ17600号のザックが主人から見捨てられた様に、そこにちょこんと置いてあった。

その中を、黒子は覗く。……………その中には…。

「トランシーバー?」

黒子はザックの中に入ってあった、小型のトランシーバー(無線機)を取り出す。

これはイヤホンの様に耳に掛けるタイプのもので、いちいち手で持たなくても会話ができる型のようだ。



「まったく、素直じゃありませんの…」

そう呟いて黒子はそのトランシーバーを耳に掛ける。

そして黒子は真剣な顔をして呟いた。





「さあ行きますわよ白井黒子、必ず帰ってくるため。戦場の一番奥へと…」




818: 2011/05/31(火) 23:03:34.57 ID:JlqTFO0U0


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

みなさん、ワタクシ大事な事を書き忘れていました。

白井黒子VSミサカ17600号で、なぜミサカ17600号が勝ったかというと。



まずミサカ17600号(以下スネーク)が左手を前にして、半身の状態で突進してきます。

それを黒子はスネークの後ろに回り、拘束しようをしますが、いつの間にかスネークが黒子の方へ向いていて、ナイフを刺してきた。

というのが>>813>>814の黒子視線からの話。


ではスネークはどうして後ろに回った黒子を捕らえることができたのでしょう?


鍵は構えです。>>812の

『ナイフを逆手に持った左手を前に、順手に持った右手を体の側面に沿える。体勢は低くし、いつでも全力疾走できるような構え』

ようは半身の状態です。

スネークはその状態のまま突進して行きます。

この状態で、例え黒子が空間移動せずに左のナイフを避けても、接近戦で分のあるスネークは、すぐさま右のナイフで仕留めます。


しかし、黒子は後ろに飛びました。

スネークはどう対処しのかというと、実は最初から『白井黒子は空間移動で自分の後ろに飛ぶ』ということを読んでました。

まぁこれは読んでいたというより勘ですが…。




で、スネークは黒子が空間移動で飛ぶ間合を読み、

黒子が飛ぶ直前に『左(黒子がいた側)への進行方向』を『右(黒子が飛んで来る側)への進行方向』に切り替え、黒子にナイフを刺そうとしました。


この構えは、前後の攻撃に対処できる構えだったのです。




「な…あなたの強度は精々、異能力者……なぜ?」

といって倒れる黒子にスネークは決め台詞を言うのです。



「確かに私はあなたより強度は低い。しかし、能力の強弱は総合的な戦闘力には比例しません、とミサカはナイフを喉元に当てながら決め台詞を言います。……あと私は強能力者です」




これを書く予定でしたが、忘れていました。


……………惜しいことをしてなぁ…。

825: 2011/06/01(水) 17:13:23.04 ID:DqiQ9d4n0

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ここはとあるホテルの一室。

結標淡希はこの部屋のテーブル席で、休憩していた。

「はぁ…はぁ…はぁ……、流石に……この量の『千刀 鎩』を……ここまで飛ばし続けるのって……正直辛いわ……」

結標は頭から大量の汗を掻き、重たく感じる体の体重をを全てイスに預けるような体勢で座っていた。


「はぁ…はぁ…でもまぁ、あいつ等から何とか逃げ切れたし、追手が来るような気配はない。……しばらくここで身を隠して…。体力を回復させたら、……学園都市の外の組織と合流したら……。私の完全勝利ね…」


苦しそうに息をつく結標。

その顔は、とても嬉しそうに、そして怪しく笑っていた。


「ふふふふ、ふ、あはははははははははは……。ダメよ?結標淡希。まだ勝利した訳じゃないのだから、そんなに嬉しそうにしないの…。ああ、でも私、本当に嬉しい…♪だって、夢が叶うのだもの…。ああ、でも気を抜いちゃダメ……ふふふ………」


ふははははははは…





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「本当に気味の悪い人ですね、とミサカは目標 結標淡希の様子をライフルのスコープで覗きながら見ています」

一方、ミサカ17600号はホテルにいる結標淡希を見ていた。

「ああ、早くこの引き金を引いて、さっさとこの仕事を終わらせて帰ってご飯でもあり付きたいな、とミサカは待機命令を下したミサカ10032号を恨めしく思います。………ああ、お腹減った……」

彼女はハンググライダーを小さく畳み、黒のウィンドブレイカーを着て、耳には小型トランシーバーを掛け、大きな狙撃銃を女の子らしい小さな体で抱き締めるように、地面に伏せて構えていた。


ミサカ17600号がいるのは結標淡希がいるホテルから850mという、結標淡希が『座標移動』で一回に飛ばせる距離の範囲外にある、結標を少し見下ろしす程度の高低差があるビルの屋上にいた。

彼女が持っている銃は学園都市の最新型の対人用遠距離狙撃銃である。

この銃の特徴は反動が少ないし、こうした遠距離からの命中率が高いことだ。

これは最近彼女がバイトや任務で貯めた貯金を叩いて買ったもので、今日はデビュー戦だ。


「…………でも、このまま構えただけで終わり。なんてこともあり得ますね……、とミサカは呟きます」

826: 2011/06/01(水) 18:08:57.68 ID:DqiQ9d4n0




とその時、耳に掛けていた小型トランシーバーに声が聞こえた。


『…ガー…もしもし?聞こえていますの?』

「はい、もしかして白井黒子ですか?とミサカ17600号はトランシーバーから聞こえた声に反応します」

『そうですの』

「どうやらあの痛み止めを飲んじゃったようですね。しかも人のトランシーバーを盗むとは……風紀委員の風上にも置けないですね」

『何を言ってるのですか?私はただ、捨ててあった口もつけていないペットボトルをもったいないから飲んだだけですの。それにトランシーバーは落し物にあったものを借りているだけですわ?』

ミサカの耳に、白井黒子の声が聞こえた。その声は少々冗談混じりの声であったが、

『……………で、今はどこにいますの?』

と、その声は真剣な物になった

「今は目標から815m離れたビルの上で、目標を構えているライフルのスコープで監視しています、とミサカは教えます。そちらは?」

『こっちは今丁度、その目標がいるとされるホテルの目の前に来ています。目標…結標淡希は今どうしているか、わかりますの?』

「はい、目標…結標淡希は今、4階の道路側の部屋で休んでいます。彼女は今、油断していて、突入には持って来いです、とミサカは白井黒子に言います。……えっと、そこの部屋は……高級レストランのようです。今日は閉まっていますが、なかなか美味しいそうです、とミサカは手元にあったホテルの部屋と構造が書かれてある設計図とパンフレットを見て、報告します」

『そうですか、ではこの一件が終わったら一緒に食べに行きませんか?』

「冗談を、私よりもお姉さまと言った方が良いのでは?しかもそれは氏亡フラグです、とミサカは白井黒子の急な態度の変化に戸惑います」

『はぁ…連れないですわねぇ………では、そのお部屋はどこにあるか知りたいので、そのホテルの設計図を、携帯のメールアドレスを教えますので、送ってくださいまし』

「わかりました、ではメールアドレスをどうぞ」

『aa.oneesama.oneesama.watashi-no-oneesama@gkt.co.jpですわ』

「酷いアドレスですね、とミサカは白井黒子のセンスの無さに引きつつ、設計図のデータを送ります」

『非道いですわね、私のお姉さまへの“愛”がわからないのですか?』

「ミサカ17600号が最も嫌いなのはレOです、とミサカは吐き捨てます。届きましたか?」

『ええ、バッチリと………。で結標淡希は4階の道路側の高級レストランでしたわね?ここにいると…』

「そういう事です、とミサカは頷きます。もうすぐ他の妹達を始めとする味方がそちらに来ると思いますので、それまで何とかして持ってください、とミサカは白井黒子に言います」

『わかりました、何かあったらこのトランシーバーで連絡しますので』

「わかりました、御武運を祈ります、とミサカは柄にもなく、白井黒子が無事に帰ってこれるよう祈ります」

『ありがとうございますですの。ではまた…………ガー…」

「……………と言ったものの、嫌な予感がします。早く来てください、とミサカはあの日、約一万のミサカ達を助けてくれたあの人の顔を思い出します」

と呟いて、ミサカ17600号は声が聞こえないトランシーバーを切った。

829: 2011/06/01(水) 20:52:13.26 ID:DqiQ9d4n0

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「あはははははははははは!!」

結標淡希は笑っていた。


楽しそうに、嬉しそうに、喜ぶように。

自分の中から湧き出る感情の操作が出来ない。



「はははははははは……はぁ…」

数分経って、ようやく落ち着いた。

「はぁ、飛び疲れたと思ったら、今度は笑い疲れたわ……。どうしちゃったんだろ私、近頃感情が高まったらすぐこれだわ…。困ったものね」

結標はふと、目の前にある、『千刀 鎩』を見つめる。

「ねぇ、もしかして、これってあなた達のせい?まぁあなた達のおかげで強くなれたんだけど、この調子でテンション上げっぱなしだったら私、笑い過ぎて狂っちゃいそうよ…」


結標の目の前には、先程持ってきた五百本の『鎩』を始め、全ての『鎩』が床に山積みにされていた。

彼女は前に手を伸ばす。

その手に一本の『鎩』を座標移動した。

「でも…でも、落ち着くわぁ♪なぜかこの一本だけ持つと、本当に落ち着く……。他の『鎩』には悪いけど、この一本を持つとなぜか落ち着く………落ち着く?…いや、落ち着くじゃないわね。…なんて言うのかしら…これを持つと、体中の血が一斉に廻り出して、頭を覚醒させる感じ………。ふふ、まるでジャンキー(薬物中毒者)みたいね、私………」

結標はその『鎩』を抜き、刀身をうっとりと見つめる。

「この感じ、これで初めて人を斬った時からなんだけど………。もしかしてこれが、殺人中毒って奴?あら、どうしましょ………。まぁ、例え中毒だとしてもこの刀は私のもの♪誰にも渡さないわ♪………誰にもね…」

最後の言葉だけが小さく、殺意をもって呟かれた。

「……………さて、もう十分に休んだし、さっさと逃げますか…」

と結標は立ち上がったその時……。

830: 2011/06/01(水) 21:16:25.24 ID:DqiQ9d4n0


グサァ!っと何か、肉の様なものが刃物に刺されるような音が聞こえた。

「…………?」

ふと、結標は肩を見る。

そこには


ワインのコルク抜きが刺さっていた。



「……痛っ!!」

結標はとっさに肩を抑える。

抜こうと思ったが、抜けば一緒に肩の肉が抉れるから止めた。

くそ…痛い。誰だ、こんなことをする奴は!?

結標は一瞬で頭に血が上る。

いやそれよりこのコルク抜きには見覚えがある。

しかし結標は一旦落ち着く。

そうだ、このコイル抜きは……。

でも、ここに来れるはずが…。


タカッ……と音がした。

結標はビクゥ!と肩を跳ねさせる。

「………だ、誰だ!?」

「あら、あなた推理能力がありませんの?そんなの無能力者の小学生でもわかりますわよ?」

声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。

「……あなたがそのコルク抜きを使ったのは、私と戦っているとき…いや、その前ですわね?不意討ちとは小賢しくて卑怯な手を使った時の物ですわ」


そこでやっと、声の主が現れた。

結標淡希の前に、白井黒子が現れた。


「風紀委員ですの!」

「」

「銃刀法違反及び器物破損、殺人容疑で逮捕します!……さぁさっさとお縄についてくださいな」


黒子の右手にはダーツが四つ、左手には手錠が一つ。

それぞれ握られていた。


831: 2011/06/01(水) 21:53:27.61 ID:DqiQ9d4n0


黒子の登場に戸惑う結標。

しかし

「は、はは、あはははははははは!!」

いきなり盛大に笑いだす。

「なに?誰かと思っていたら、あなたじゃないの!!どうしたの?改まって…。さっきのカッコつけた台詞とか……ププッ…ははは!!」

「………」

黒子は哂う結標を見る。怒ったり反論はせずに。

「あなた、夕方の路地裏で分かったでしょ?あなたじゃ私に勝てない!!これは絶対の法則!!……しかもわかっているのよ?あなた、自分が大好きで大好きでたまらな~い先輩が、私にボッコボコにされている様子を、ただ黙って見ていたってことを!!もしかして白井さん、ビビッてチビって動けなかったの!?だっさ~い!………………良くそんなハンパな覚悟でここまで来たわね」

「半端じゃございませんの。しっかりと堅い覚悟を決めて、ここまで来たのですよ?」

「はんっ、チビっていたガキがいけしゃあしゃあと一丁前に………言ってんじゃないわよ!!」

結標は『千刀 鎩』の内、三十本を黒子のすぐ上に座標移動させる。

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ドドッ!!

三十本もの『鎩』が落下し、黒子を串刺しにせんと襲った。

敷いてあった絨毯は蜂の巣となり、床を刀畑にした。


しかし白井黒子の姿はなかった。


「……くっ…どこへ行った?」

「ここですわよ?」

黒子は結標のすぐ後ろにいた。


「…なっ……、舐めないで!!」

結標は手に持っていた『鎩』を、黒子を、ウザったい小蠅を払うかのように右から横一線で斬った。

しかし黒子はそのにはもういなかった。

「くそ…」

「あなたも哀れな物ですわね。こんな骨董品を持ち歩かなくては、自分の能力も発動できないなんて…」

「…なんのこと?」

「隠しても無駄ですわよ?『結標淡希 霧ヶ丘女学院二年生。能力は『座標移動』強度は大能力者。二年前のカリキュラムにおいて転移座標の計算ミスにより片足が壁にめり込み、それを不用意に引き抜いてしまったことで密着していた足の皮膚が削り取られるという大怪我を負った』合ってますか?一応私が所属している風紀委員支部の情報収集のスペシャリストが調べたことなんですけど、あってるか不安で…」

「何がいいたいの?」

「いや?ただこの情報が事実なのか疑ってまして………なんせ、あなたの様な強力な能力者がこんな初歩中の初歩の凡ミスをかますかと思いまして………で、あってますの?」

「……………」

832: 2011/06/01(水) 22:15:11.79 ID:DqiQ9d4n0

「あらまぁ!本当でございましたの!?これは失礼しました」

「あなた、本当に何が言いたいの?」

「…ふふ、さっきも言いましたでしょう?こんな骨董品なんかを持ち歩かなくては、ロクに能力が使えないって…。あなたにとってこの刀はおしゃぶりの様なもの、これが無いとだめなんでしょう?」

黒子はニヤニヤと笑い……いや、哂いながら言った。




「これが無いと、自分が飛ぼうとしても、ビビッてチビってしまうのではないんですか?」




ブチィ!と音がした。

結標淡希は鬼のような顔をして、額に青筋をつけながら叫んだ。


「あなた……人の台詞を盗るんじゃないわよ!!」



その時、床に置いてあった『千刀 鎩』消えた。

すべての『鎩』がだ。


「いいわ、頃してあげる。そんなに氏にたいなら………首チョンパして串刺しにして焼き鳥にしてやる!!」


その瞬間、部屋一面に、『鎩』が刺さった。

言われずとも結標の座標移動だろう…しかし、刺さっている『鎩』の数が半端ではない。

床は勿論、壁・天井一面にどころか、テーブルやイス、カウンター席や燭台やランプまでもに刺さっていた。


「今この部屋にいる『鎩』の数は千本よ!!そもそも『千刀 鎩』は千本あって一本の刀なの!!あの路地裏での三十本とは比べものにならないわ!!すぐにバラバラ氏体にしてあげる!!」


「そうですか…千本で一本ですか……本当に馬鹿みたいな話ですわね。…………まぁいくら数が増えたとて、私には勝てませんわよ?あなた」

「何を小癪なこと言ってんのよ!!あんたはたった……たった!!三十本に負けたじゃない!!」

「あれは単にあなたが刺したコルクをダーツの痛みで演算が雑になっただけですわよ。本気なんて全く使っていないですわよ?」

「はんっ!!」

結標は黒子の言葉を鼻で笑う。




「そんなの、子供の言い訳にしか聞こえないわよ。クソガキ!」


「いいえ?これは言い訳ではなくて、真実ですわ。現実を見ましょ?オバサン」





833: 2011/06/01(水) 22:44:03.28 ID:DqiQ9d4n0


お互い睨みあう。


結標は怒りの色で顔を染め、手に持っている『鎩』がカタカタカタ…となるほど柄を握りしめている。


一方黒子は、いつ攻撃が来るか注意しつつ、体内時計を見ていた。

(と言ったもののヤバいですわね。制限時間は大体あと十分ほど…それまでの間に終わらなけでばならない……)

恐らく結標は怒りに任せて、大きな技を連続で繰り出してくるはずだ。

大きな技には、その分だけ大きな隙ができやすくなる。

黒子はそこを突く!


だから散々、結標を挑発したのだ。

怒って大技を出してくる結標に隙を作らせて、突く!

黒子には時間がない。

もうじき痛み止めを飲んでから一時間が経つ。

『一時間経つと、体中に地獄の様な激痛が走るというものです』

ミサカ17600号の声が頭の中で木霊する。

恐らく、その時がしたら黒子は、痛みで悶え、決定的な、致命的な隙を与えてしまい、殺されるだろう。

それを防ぐため、黒子は相手の隙を突く、“短期決戦”と言う方法をとったのだ。



「…………………」

「…………………」



睨みあう二人。


黒子は額に汗を掻く。


相手の隙を突く戦法だ。

相手より先に手を出しては、警戒されて相手の攻撃が小さくなり、隙が小さくなる恐れがある。

それじゃあ本末転倒だ。

だから、相手から先に攻撃をさせなければならない。


しかし、結標淡希は攻撃を仕掛けてこない。

これじゃあ制限時間が来てしまう。

でも焦ってはダメだ、顔にも出してはダメ。感づかれてしまう。


しかし時間がない。早く、時間がないんだ。早く、動いてくれ早く………。

早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く…………



早く!!

834: 2011/06/01(水) 23:00:07.81 ID:DqiQ9d4n0

と、黒子は何ともないように結標を睨んでいる内心、ものすごく焦っていた。


ポーカーフェイスを貫く白井黒子。

怒りで顔を歪める結標淡希。


黒子の手に持っているダーツと手錠。

結標の手に握られている『鎩』。


そして、部屋一杯に刺さっている『千刀 鎩』。


緊張感と焦りと怒りと殺意が、この部屋に奇妙な空間を作り出す。




「…………………」

「…………………」



呼吸を十、数えた時だった。




怒りで見開いていた結標の顔が急に

ふっと、真顔になった。


「!?」

一瞬驚く黒子。


そして結標は黒子でなく、別の何かを見ているように、顔をすーっと横に向けた。


黒子はなんだ?と釣られて首を横に向ける。






「…………あ」



違う、向けてしまった。


結標はわざと横を向いた。黒子を釣らせて、視線を横に移させる為に。


「…しまった!!」

835: 2011/06/01(水) 23:32:50.69 ID:DqiQ9d4n0

後ろから、刃物が空気を斬って向かってくる音がする!


黒子は顔を横に向けたまま、横にお辞儀をするように『鎩』を避ける。

何とか避けたが、ツインテールの左片方の髪留めが斬れ、髪が解ける。


すると前から一本の『鎩』が下から突き上げてきた。

それも紙一重で避ける。しかしもう片方のツインテールの髪留めも斬れて、髪が解けてしまった。


今度は横から来た、これは空間移動で避ける。

しかし、結標はそれを読んでいたらしく、空間移動した所へ『鎩』が三本、三方から飛んできた。

これも空間移動で避ける。

しかしまた移動場所で『鎩』に襲われる。それをまた、空間移動で避ける。

だんだん、『鎩』の攻撃が鋭く、多くなってきた。

それでも黒子は空間移動で避け続ける。


……黒子はもう、空間移動でしか避け切れないような猛攻にあっていた。


黒子は空間移動をし続ける。

大体1秒に2回はしている。



「ふふふ、あはははは!!なによ!あなた、あんなに啖呵切ってそのザマは何!?笑わせないでもらいたいわね!!」

そう言って哂う結標。

その言葉を避けながら聞いていた黒子はこう言った。

「30km」

「………は?」

「この数字は何の数字かわかります?」

「知らないわよそんなの」

「朝15km。昼5km。夜10km。あと筋トレや持久系のトレーニングと、大学レベルの演算練習をテキスト20ページ程をを毎日氏ぬほどやっているのですよ?わたくし」

「……」

「確かに空間移動系の能力は演算が難しいので、連続で使用すると疲労がたまり易いです、頭も体も。そこでわたくしは長時間連続して空間移動できるように、体力づくりから計算を早く正確にする訓練までをやっておりましたの」

「…………まさか」

「そうですの、わたくしは最長、30分程連続して空間移動できるのです。………風紀委員ともあろう人間が、自分の欠点を考慮しない訳が無いでしょう?」

836: 2011/06/01(水) 23:54:21.34 ID:DqiQ9d4n0

「そんな、そんな訳がないでしょう!?」

「では、実際にわたくしが行っているのは何ですか?こんな猛攻を受けているのにケ口リとして避けているのはなぜですか?」

「ははっ!も、もし、ほ、本当にそうだとしても、あ、あ、あなたはここまで来れない!!あなた、い、今、防戦一方じゃない!もしそんな余裕があったら、すぐにこっちに攻めているでしょう!!い、今あなたは細かく空間移動して避けているだけじゃない!!」


「……確かに今はこのようなみみっちぃ空間移動しかできませんが……それ、あなたとわたくしを見て言っているのですか?」

「」


結標は彼女が言っていることがわからなかった。

が、すぐにわかった。

「……あ」

黒子がいい事…それは。

「近付いてきている……」

そう、攻撃を始めた時は10m程だったのに、3分がたった今じゃ5mもない。


「その通り」

「む、無理よ!そんなことで、私を倒すのは無理!!だって、あなたがここに来る前に別の所に飛べば、いいじゃないの!!」

「しかし私はまた、あなたの所へこうして迫っていきますわよ?」

「だったらまた飛ぶまで!」

「しかし、それであなたは持つのですか?」

「持つわよ!だって私はこの『千刀 鎩』で自分を飛ばすことを克服しているんだもの!!」

「わたくしが言っているのは、そこではありませんの」

「」




「わたくしが言いたいのは、あなたがこの『千刀 鎩』とやらを私が力尽きるまで持続できるのですか?と言っているのです」




「」

「図星ですか?」

「ちが――

「じゃあその汗はなんですの?」

結標の顔から、汗が滝の様に流れていた。

「もしや、あまりにもわたくしの予想が当たっていたから焦っているのですか?、それとももう『千刀 鎩』の制御の持続の限界時間が来たのですか?」

837: 2011/06/02(木) 00:11:21.30 ID:G+nrIEm+0

「な…」

「ああ、両方ですか…。だってそうでうわよねぇ。最初、私と戦っていた時は三十本。お姉さまと戦っていた時は五百本…でしたわよね?」

黒子は連続空間移動で襲い掛かる『千刀 鎩』を避けながら、話す。まるで歌うように。

「あれ?おかしいですわね。確かあなた、この刀は『千本で一本』と仰いましたわよね?」

黒子は訊く。すぐそばで、顔を怒りで赤くしていたのに、急に真っ青になった結標淡希に。

「ではなぜ、わたくしの様な格下と、しかも狭い戦場での場面はともかく、御坂美琴お姉さまの時の様な、上位能力者との戦いで、しかも広い戦場での戦いで、あなたは『千本で一本』が特徴である『千刀 鎩』の千本すべてを持って行かなかったのですか?」

「…な……」

「もしかしてあなた、千本すべてを操作しきれないないのではありませんか?」

「」

「図星のようですわね。だったらわたくしにも勝ち目がありそうですわ……ああでも、いい加減に飽きて来たので、欠伸がでそうですわ」


最後に放った黒子の挑発に、結標は再度顔を真っ赤にして絶叫した。

「………こ、このぉ!!そんなに氏にたいなら!!頃してやる!!」


「その台詞、さっき聞きましてよ?」

「~~~~~!!」


とその時、部屋を縦横無尽に駆け回っていた『千刀 鎩』が消えた。


「」

驚く黒子。


「…………氏んでしまぇえええええええ!!!」


結標淡希は喉が裂けんばかりに叫んだ。

838: 2011/06/02(木) 00:18:44.81 ID:G+nrIEm+0

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ミサカ17600号はふと、ホテルの上空を見上げた。


そこには信じられない光景があった。


「――――――――――――…………!!」


ホテルの上空50mほどの所から、日本刀が…『千刀 鎩』が雨になって降っていた。


「な、なんなのですか?とミサカは呟きます」


そしてその雨はホテルに直撃する前に忽然と消えた。


「…………嫌な予感が当たりませんように、とミサカは白井黒子の無事を祈ります」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

839: 2011/06/02(木) 00:34:03.01 ID:G+nrIEm+0

刹那。


千本の刀が、『千刀 鎩』が、いきなり部屋に、黒子の頭上に現れた。



「!!!」





ダカァァァァァァァァァァァァァアアアアン!!




と爆発音の様な音が、周囲に広がった。












「あは、あは、あっははははははあっははははははははははは!!」


結標淡希は片手で顔を覆い、今までにないまでの大爆笑をした。


「すっごいわぁ!!本当にすごい!!あははははは!!すごいわ!だって!」


結標は床に指をさしてはしゃぐ。





「だって、床が無くなっているんだもの!!」







そう、彼女が指さしている方には、床などなかった。

ただの穴だった。



きっと『千刀 鎩』の数と重量に耐え切れず、床が抜けたのだろう。

「殺った。殺ったぁ!殺ったぁぁぁあ!!これであいつは氏んだぁ!!」

結標は、黒子の氏体を確認するため、床が抜けた所に行った。

840: 2011/06/02(木) 00:43:36.89 ID:G+nrIEm+0




「」

一瞬で彼女の顔が蒼白の無表情になる。

「奴の…白井黒子の氏体が無い!!」


そう、穴の下には白井黒子の氏体が無かった。

あるのは下で刺さっている『千刀 鎩』のみ。

「ど、どこへ行ったぁ!?」

手に一本の抜き身の『鎩』を両手で持って、

キョロキョロと黒子を探す結標。






「ここですわよ?」






と、後ろから声が聞こえた。

「」

結標はとっさに振り返る。



そこには脚があった。



バキィ!



結標の体が吹っ飛ぶ。

3m転がり、すぐに起き上がる。

すぐに蹴られたとわかった。

一体誰に?と思って前を見る。



目の前には氏んだはずの白井黒子がいた。



「」

841: 2011/06/02(木) 01:00:26.43 ID:G+nrIEm+0

「さすがにあれは危なかったですわよ?」

と笑って見せる黒子。


「あ…あ…な…なん…」

それに比べ、口をパクパクさせる結標。

「まるで幽霊でも見ているような顔は止してくださいな。ちゃんと足はついていますのよ」

「そうじゃなくて!どうして!!?」

「どうして避けれるかって?簡単ですわよ。わたくしの能力を何だと思っているのですの?空間移動能力者があんな隙のだらけの攻撃、避けられない訳がないせしょう?」

「」

「あの時、一旦この建物の外へ避難していたのですの。で、ある程度収まったから、ここに戻ってきた。それだけですわ」

「……」

「さぁ、もう降参の時間ですわよ!!観念しなさい!!」



「…………ふふふ、誰が。まだ終わってなんかいないわよ!!」

結標は絶叫し、座標移動して黒子を襲おうとしたが。


「遅い!」

黒子は手に持っていたダーツを、結標の足や腕に空間移動させた。

「うっ!!」

「この痛みで、座標移動の演算は難しくなりましたね?」

「……このぉ!!」

結標は黒子に手に持っていた『鎩』で斬頃しようと、黒子へ向かって走ってきた。

「ぅおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「特攻なんて、敗者のすることですわよ」

と言い残して、黒子は結標の後ろに空間移動し、彼女首根っこを掴み、窓に叩き付ける。

「ぐぁ!」

そして、結標の首を腕で抑えて叫ぶ。

いや、耳に掛けてあったトランシーバーに向かって叫ぶ。




「わたくしごと撃ってくださいまし!ミサカ17600号さん!!」




『了解』

842: 2011/06/02(木) 01:09:28.02 ID:G+nrIEm+0



『ああそうそう、突入前にお願いがありますの』

『なんですか?とミサカは問いかけます』

『わたくしが合図をしたら………―――――』




ちょうど結標の後方810m。

ミサカ17600号は白井黒子の合図を聞き、ライフルの引き金を引く。

白井黒子の計画通りだった。



弾丸は、ライフルの銃口から発射し、ビルとビルの間を潜り抜け、まっすぐと結標淡希の背中に向かって進んでいった。







パリィィィン!!





ガラスが砕ける音がする。


その瞬間、結標の体は白井黒子の体ごと吹っ飛んだ。



ゴロゴロと2,3m程転がった二人。

















「安心してください、麻酔銃です、とミサカは新入りの銃の性能に満足しながら、カッコつけます。今日もいい仕事したぜ」

843: 2011/06/02(木) 01:21:33.74 ID:G+nrIEm+0






「ぅう…」

黒子はうめき声を上げる。

どうやらミサカ17600号は自分が頼んでおいた通り、結標淡希の背中を打ち抜いたようだ。

黒子は起き上がる。

痛み止めのせいで痛みが無い。

自分の体をよく見ると、右肩や左脇腹の傷が開いているようだ。血がダラダラと流れている。



黒子は手錠を取り出した。

結標淡希を拘束するためだ。

「さて、さっさと仕上げの仕事を終わらせますか……」

よっこらせっと黒子は立ち上がり、結標淡希が気を失っていて転がっている方を見た。








黒子の目の前には、無表情の結標淡希が立って、黒子を見下ろしていた。






「」





彼女の右手には一本の『鎩』が握られている。

そのまま、黒子の顔面を『鎩』の鞘でぶん殴った。

メキィ!と頭蓋骨が歪む音がする。

5mほど吹っ飛ばされる。


「~~~~~~~~~!!」

鼻から血を流し、悶絶する黒子。

その目の前に、結標淡希が座標移動でやって来た。


『鎩』に全体重を乗せて、黒子の上に。

844: 2011/06/02(木) 01:45:09.00 ID:G+nrIEm+0

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

メキメキメキメキィ!!………バキバキッ!!と肋骨が何本か折れる音が部屋の中で響く。


結標淡希はすぐに降りて、すぐさま鞘で黒子を殴り続けた。

バキィッ!バキャッ!ボゴォッ!ドガッ!!………

「あなたは、………………」

結標淡希は無表情で呟いた。

「あなたは……あなたは…あなたは、あなたは、あなたは、あなたは、あなたは、あなたは、あなたは、あなたは、あなたは、あなたは、あなたは、あなたは、あなたは、あなたは、あなたは、あなたは、あなたは、あなたは、あなたは、あなたは、あなたは、あなたは………」



無表情のまま、機械の様に呟き、黒子を殴り続ける。


「私をこんな目に会わせた。逢わせた。遭わせた。遇わせた。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い!痛い!!痛い!!痛い!!!!」


結標淡希は大きく眼を見開いて、無表情で殴り続ける。


「怖い怖い怖い…能力…怖い……人を傷つける……怖い!………私を傷づける…………怖い!!!!」


結標淡希が黒子を殴る力がだんだん強くなってきた。


「だから排除。消去。デリート。削除。氏亡。殺害。撲殺。殺。殺。殺。殺。殺。殺殺殺殺殺殺!!!!!!!!!」


今度は笑いながら殴ってきた。

「あははははははははっは!!いい様、よき様、すごい様!!あっははははははは!!良いわねぇ♪ふふふ、あなたにやられた分を千倍返しで返してあげる……ふふふ」

結標淡希は手を止め、大笑いする。

「あははははははははははははははははははははははは!!」

「っがはっ!!」

と、黒子は口から溜まった血を吐き出す。

「あら、まだ息があったの?」

「まぁ、少しは頑丈にできていますの……」

「ああ、もしかしてあなた、痛み止め飲んできているの?ああ、だからそこまで動けたんだ、そして今でも何とか動けると……。なるほど、謎は解けたわ♪じゃああなたが氏ぬまで殴ってあげる♪ふふふ、あははは。ああ楽しい!」

ドガッ!

「ぐッ!……………ふんっ、止めてくださいましそんな顔。そんな重度のヤンデレ顔のあなたを見たら、世の中の男共が泣いて逃げ出さしますわよ?」

「うるさいわねぇ!」

バキッ!




845: 2011/06/02(木) 02:01:25.05 ID:G+nrIEm+0

「っう!!」

ぜぇー…ぜぇー…ぜぇー…と黒子は息を吸うのが辛くなってきた。

とその時、




ドクンッ!!





「!!」

急に心臓が暴れ出すように動き出した。

体が熱い。

頭が痛い。

血がグルングルンを高速に廻る感覚がする。


「ぐぅがああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


「!!」

いきなり悶えだした黒子に結標は戸惑った。

「………っは……?」


結標淡希はしばらく考えた。


「ああそうか、痛み止めの効力が切れたのか。なるほどね、納得したわ♪」


「がああああああああああ!!」

黒子の表情はまさに“苦悶”の一言。

いやそれだけでは現せられない。


眼は見開き、涙を溜め、口は開きっぱなしだった。

額には青筋が何本も立ち、体がビクンビクンッと水揚げされた魚のように跳ねる。



「~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」


「ふふふ、そんなに苦しいなら、もっと殴ってあげましょうか…♪」

バキィ!!

バキャ!!

ドスッ!!


「……………~~~~~~~~~~~!!」


痛みで声も上げられぬのか。

結標淡希は殴り続ける。

「あはははははははは!!!」

そして、結標は『鎩』を鞘から抜いた。

846: 2011/06/02(木) 02:13:50.14 ID:G+nrIEm+0

「もいいわ♪私にはまだ仕事があるから、これで終わりね?」


結標淡希は『鎩』の突き立てようと、黒子の首へと、思いっきり『鎩』を突き刺す!




とそこへ。



缶ビールの様な容器が転がってきた。



「??」


思わず手を止める結標。


と、いきなり缶から煙が出てきた。



「…………な!?煙玉!?」



と、結標淡希の背後から忍び寄る影があった。


「――――――………ッッ!!?」

それに気づいた結標はとっさに座標移動して、避けた。


さっきで結標がいた場所から、爆発が起きた。


「あなたたち、何者?」

結標は訊く。



そこにいたのは……。



「この人は一旦こちらが超預からせてもらいます」



絹旗最愛だった。


「」

(彼女がいるってことは……)


「すまねぇが絹旗、そいつを一旦、下まで運んでくれないか?」

「わかりました」

と絹旗をもう一人の会話を訊いた結標は覚悟を決めた。

(やっぱりいたか…。戦いはこっから本番ね!)

847: 2011/06/02(木) 02:19:32.24 ID:G+nrIEm+0

結標淡希の目の前には、身長200cmを超える大男、長髪に着物、体中の傷が特徴の男。

鑢七花がいた。



「で、七花さんは超どうするんですか?」

「こいつは俺に任せてくれ、そいつを任せた」

「超了解です」

こうして、絹旗最愛は部屋から白井黒子を抱えて出て行った。

851: 2011/06/02(木) 21:40:20.61 ID:G+nrIEm+0

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


数十分前。


「おい皆の衆、少し聞いてくれ」

そうとがめが言った。

「なんだ?とがめ」

そう言ったとがめに、鑢七花は訊いた。

他のメンバー…上条当麻・絹旗最愛・滝壺理后・御坂妹がとがめの顔を見る。

「皆に渡したいものがある」

とがめはどこからか、ダンボールをだした。

「これは何ですか?」

と絹旗。

「ああ、これはだな……」

とがめはダンボールに手を突っ込み、あるものを取り出す。


「これは…、トランシーバー?」

「そうだ。……しかしこの世界は楽になったものだな、遠く離れた人物を話ができるようになるとは……」

「どこでこれを?」

絹旗は浮かび上がった疑問をそのままとがめに訊いた。

「ああ、実は先程……上条が車に乗ってくる前、御坂の妹に頼んで取り寄せたものだ」

とがめはトランシーバの一つを手に取った。

それは耳に掛けるタイプのようだ。…………後にミサカ17600号が白井黒子に渡したものと同じものだ。

「結標淡希の能力で、もし皆がバラバラに飛ばされたら厄介だからな。皆に渡しておく。耳に掛けてみろ」

とがめは上条・七花・絹旗・御坂妹にそれぞれ、トランシーバーを手渡す。

それを受け取った四人は、さっそく耳に掛けてみる。………七花は苦戦したが。

「あー。あー。…聞こえるか?あー」


『『『あー、あー』』』


「ああ、聞こえるぞ」

「超聞こえます」

「聞こえます、とミサカはOKサインします」

「よし、私も皆の声は聞こえておるよ。……………………………で、どうした上条」

「………俺のだけ声が聞こえないんですけど……」

852: 2011/06/02(木) 22:10:23.24 ID:G+nrIEm+0

「はぁ?……ほれ、貸してみろ」

上条はとがめにトランシーバを渡す。

「……あれ?音が鳴らない…」

とがめはトランシ-バをコンコンを叩く。

でも鳴らない。

「…………」

今度はムキになってブンブンと振ってみる。

それでも鳴らない。


「貸してください、とミサカは手をだします」

と今度は御坂妹がトランシーバを見てみる。

しばらく、あちこちと調べてみると…。

「…………これ、不良品ですね…とミサカは検査結果を報告します」

「え!?」

「うわ…超縁起悪いですね…」

嫌な顔をする上条と絹旗。

「不良品か…まぁよい、代えのものがあるかなな」

と、とがめはダンボールから新たなトランシーバを取り出し、上条に渡した。

「ほれ、もう一回確認するぞ?あーあー」


『あーあー』


「ああ、聞こえるよ」

「よし、それでは各自に作戦の説明をする」

とがめは地図をメンバーそれぞれに配った。

「今から結標淡希がいる建物に突入する訳だが、突入するのはさっきトランシーバを渡したお前たちだけだ。滝壺と他のミサカは私達の援護だ。御坂妹よ、他のミサカにもMNWで伝えたか?」

「はい、すでに伝えています、とミサカは報告します」

「よし、まず最初に………絹旗」

「はい」

「お前は結標がいるとされる4階の高級食堂に、この煙が出る缶を投げて、絶対絶命であると見られる白井黒子を救出してくれ。それで彼女を安全なところまで運んだ後、またそこに戻って結標と交戦してくれ」

「わかりました」

「七花は絹旗と一緒に突入してくれ、お前はすぐに結標と交戦してくれ」

「あいよ」

「そして―――――――

853: 2011/06/02(木) 22:33:39.62 ID:G+nrIEm+0

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


煙が舞う。


結標淡希は、そんな煙たい空間の中にいた。

そしてもう一人…。


「よう、またあったな」

鑢七花がいた。


「言ったじゃない。あなたとはもう一度会えると思うって」


『ガー……どうだ七花、奴の感じは?』

耳に掛けてあるトランシーバから音がする。

とがめからだ。

「ああ、もう遅い。刀の毒に犯されているようだ」

『そうか……とりあえず、刀を回収してくれ』

「極めて了解」



結標は七花に笑いかける。

「ああ、そうだっけか?」

「まぁ、私としては会いたくない相手のトップ3には入るけどね♪」

「そりゃどうも。……でも俺らからすれば、とっても会いたい相手だよ」

「それは光栄ね。でもなんで?」




「それ決っているだろう………お前が持っている『千刀 鎩』を取りにだ」


「ふふふ、やっぱりそうよね。…………でも、させると思うかしら?」


「させるかさせないの問題じゃなくて、俺はただその刀を取りに来ただけだ」


「それをさせないと言っているの。………まぁその前にあなたを、串刺しにしてあげるわ♪」


「そうかい。それは別にいいんだけどよ……ただしその頃には――あんたは八つ裂きになっているだろうけどな」


854: 2011/06/02(木) 22:55:22.74 ID:G+nrIEm+0



ジリ…ジリ…




二人は睨みあう。


しかし、強さも経験も気迫も、全てが七花が圧倒的に勝っている。

結標は顔には出さないものの、背中には大量の汗が流れていた。


(……くっ…まるで喉に刀でも突き付けられているような感触ね……。敵ながらすごい気迫だわ…)


結標は感じている。

この男、鑢七花は、右手を軽く振り下ろすだけでも十分に人を殺せる人間だと。

この男は強い事は知っている。

しかし、超能力開発を受けていない人間がそんなに簡単に人を殺せるのもか……と思っていたが、直感がそう伝えている。

この男は危ない。

すぐに逃げるべきだと。


しかし、大能力者であるプライドと七花の気迫が、結標の足を床に縛り付ける。





とその時。


どかぁ!!

後ろから衝撃と、それに伴う音が聞こえた。

「ッッ!!?」

結標淡希は後ろからの衝撃で吹っ飛んだ。

「ぅぐぁああ!!」

大体4mほど吹っ飛んだ。

「な、なんだ!?」

結標は振り返る。しかし誰もいない。


「こっちです」

「!?」

ダダダダダダダダダ!!

なぜか上から銃声が聞こえる。

「っが、がぁああ!!」



『そして、御坂妹は七花が戦闘を始める前に突入し、七花に気を取られている結標淡希に奇襲を掛けてくれ』




「作戦通りです、とミサカは奇策士の策略…いや奇策がここまで上手く行ったことに感心しつつ、目標 結標淡希からマウントをとります」

855: 2011/06/02(木) 23:27:00.06 ID:G+nrIEm+0

「…なっ!?」

「そして、結標淡希に5万Vの電流を流します」

バリバリバリバリィッ!!

「ぎゃぁぁぁああああああ!!」

「それに続いて、手持ちのマシンガンでゼロ距離射撃を慣行します、とミサカはドロップキック→射撃→マウント→電気ショック→ゼロ距離射撃の外道コンボで目標を駆逐します」

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!

「ぁぁぁぁああああああああああああああああ!!」


御坂妹はとがめが言った通り奇襲をかけた。

彼女は屋上からロープをかけ、走って飛び降り、ブランコの要領で勢いよくこの部屋に侵入し、勢いをそのまま結標の背中にドロップキックを畳み込んだのだ。

そして彼女が言う『外道コンボ』で結標淡希を喰らわす。


『行け行けぇええ!!とミサカ12446号はミサカ10032号に応援します!』

『そうだそうだ!!とミサカ10420号はミサカ12446号と一緒にミサカ10032号を応援します』

『ミサカっ!ミサカっ!ミサカっ!とミサカ10771号は掛け声を出します!ミサカっ!ミサカっ!』

『おお、いいですね、とミサカ16084号も掛け声を出します!!ミサカっ!ミサカっ!ミサカっ!』

『この女朗ぉ…人様たちを散々侮辱しやがって!それの報いだ!!このブライアン=ホークめ!!とミサカ11111号は野次を飛ばし、ミサカ10032号にエールを送ります!ミサカっ!ミサカっ!』

『わぁ!面白そう!!ってミサカはミサカはみんなと一緒に叫んでいたり!!ミサカっ!ミサカっ!』

『『『『『『ミサカっ!ミサカっ!ミサカっ!ミサカっ!ミサカっ!ミサカっ!ミサカっ!』』』』』』


「うるさいです、とミサカ10032号はMNW内でどんちゃんやっている妹達に一喝します」

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!…………カチッ!

「ッチ、弾切れですか、とミサカは舌打ちします」

とその時、弾切れのマシンガンが結標淡希に掴まれた!

「」

「舐めてんじゃ……ないわよ!!」

結標は御坂妹の顔面に固く握った拳を叩き付ける。

「ぐっ!!」



856: 2011/06/02(木) 23:58:24.70 ID:G+nrIEm+0

ミサカは後ろに倒れる。

「流石に…ゴム弾では倒しきれないですか…とミサカは呟きます」

「イッテテテテ…まったく、なんてことをしてくれるのよ、あなたは。ゴム弾だけど、当たると痛いの…よ!!」

結標は御坂妹に追討ちをかけるかのように、右ストレートを御坂妹の右頬骨にお見舞いする。

「ぐわぁ!!」


『大丈夫ですか!?とミサカ19090号はミサカ10032号を心配します!』

『くそ、敵もなかなかやりよる!とミサカ17335号は悔しがります!!』

『小僧!怯むなぁ!!教えたとおりに前へ出ろぉ!とミサカ11111号は某ボクシング漫画の某会長の如く叫び、リバーブロー→ガゼルパンチ→デンプシーロールの完成系コンボに期待します。っていうかやってくれ!!』

『がんばれー!!ってミサカはミサカは応援してみたり!!』



『『『『『『『ミサカっ!ミサカっ!ミサカっ!ミサカっ!ミサカっ!ミサカっ!ミサカっ!ミサカっ!』』』』』』』



「みなさん五月蝿いです。ケツの穴増やしますよ?とミサカ10032号は先日見たマンガのセリフで吐き捨てます。…ミサカ11111号、台詞が厨二臭いですよ」

と呟きながらミサカは立ち上がる。

「意外とタフなのですね、とミサカはそう言いながら口に溜まった血を吐きます…ペッ」

「………ペッ」

と結標淡希も血を吐きだした。

「なに一人でブツブツブツブツ喋っているのよ。気持ち悪いったらありゃしないわ」

「これは失礼しました、とミサカは詫びながら、腰に隠していたデザートイーグルを構え、発砲します!!」

パン!パン!


しかし、結標はもういなかった。

「」

「ねぇあなた忘れていない?私が空間移動系の能力者だってこと…」

と、結標の声が御坂妹の背後から聞こえた。

「しまっ…!」

御坂妹は振り返り、銃を構えようとするが……。

「遅い!!」

結標は手に持っていた『鎩』で、御坂妹に斬りかかった。




「なぁ、お前も忘れていないか?俺がいること……」

「」

結標淡希の横には、鑢七花が待ち構えていた。

「…っ!」

結標淡希は顔を青ざめ、すぐに座標移動させようとするが。

「遅い―――虚刀流 『野苺』!!」

「がぁあああ!!」

857: 2011/06/03(金) 00:20:09.11 ID:7r0/uhbo0

結標淡希の体が10m吹っ飛び、壁に叩き付けられた。

「ガハァッ!!」

そしてズルズルと倒れた。

「………ひ、卑怯な……」

結標は頭だけ動かして七花を見て、非難する。

それを七花は何でもないように応えた。

「言っただろ、頃し合いに卑怯も糞もあるかって。それにこれも言った、あんたの技は全てが卑怯だってな」

「………はんっ…、それ…は…私の……スタイル……なの………よ………」

ガクッ…と結標の頭が落ちた。


「お亡くなりになられたのですか?とミサカは鑢七花に問いかけます」

「安心しろ、手加減しておいた」


どうやら、結標淡希は気絶しているようだ。



とその時

ダダダダダダダダダダダダダダダ………

誰かが走ってくる音がした。

「ん?」

「なんだ?」

バァン!

と勢いよく部屋のドアが開けられた。

「七花さん!超大丈夫ですか!!?」

と、絹旗最愛が大声でやって来た。


「絹旗遅かったな。もう終わったぞ」

と、一歩遅くやって来た絹旗に、七花はそう言った。

「ええ~。そんなぁ~。せっかく稽古の成果が超発揮できるいい機会だったのにぃ……(泣)」

「まぁそれは次の機会だな。刀はあと十一本あるんだし。それまで我慢だな?」

「………はい」



858: 2011/06/03(金) 00:51:25.00 ID:7r0/uhbo0

『ガー……もしもし、七花か?結標淡希はどうなった?殺ってはいないだろうな?』

「安心しろ、生かしてある」

『よし、それでは七花と絹旗よ』

「おお」「はい」

『とりあえず、そこら辺に散らばっておる『千刀 鎩』を運んできてくれ』

「ああ、わかった。………とがめ、もしかして二人だけでか?」

『ああそうだが…』

「」「」

『…なにか問題でもあるか?』

「大ありだ!!」

「そうですよとがめさん!!千本ですよ千本!!超どれだけの数だと思っているんですか!?」

「てか、ミサカ達に手伝わさせればいいじゃねぇか!なんで俺たち二人だけなんだよ!!」

『何を言っておる。いいか?『千刀 鎩』と言う刀はだな、千本で一本だ。即ち千本全て扱われなければ『千刀 鎩』はそれ本来の能力を発揮できない。と言う事は千本を扱って初めて『千刀 鎩』の毒は持ち主の体に巡る』

「それがどうしたんだよ」

『だから私がいいたいのは、そなたらは刀を一本しか…ましてや七花など、一本も使える人間だが…そなた達は一本一本扱えばなんの支障もない。しかし妹達は違う。あやつらの脳は全員と繋がっておってな、一人が一本持つと全員が一人一本持つことと同じになる。二人一本持つと全員が一人二本持つことになる』

「とがめの話は長い。もっと簡単に言ってくれ」

『要はだな、“彼女らが『千刀 鎩』を全て、一人一本持つと、全員が千本を一人で持つのと等しくなる”のだ!彼女ら約一万人がそなたらに襲い掛かってくるかもしれぬぞ?』

「……それは嫌だ」「超嫌です」

『だったら働け、さっさと働け。あと半刻したら夜が明ける。その時までになんとしてでも刀を回収しろ』

「はいはい、わかったよ」

はぁと溜息をする七花。

「人扱いが荒いですね、とがめさん」

「ああ、昔っからそうなんだ」

『聞こえておるぞ。さっさと働け』

「へーへー、じゃあしょうがないからやっちまおうか、絹旗」

「そうですね。さっさと片付けて、帰りましょう」

『そうそう、そっちに滝壺が結標淡希を運びに言っているから…』


ととがめはそう言いかけたその時…

859: 2011/06/03(金) 01:00:22.69 ID:7r0/uhbo0


『はぁ~い♪』


とがめとは別の、女の人の声だった。

しかし聞き覚えがある。



「…なっ」

「この声は…」


『何の用だ、否定姫』


『ふふふ~♪さすが奇策士♪一発でわってくれるなんて嬉しいわぁ~』


声はトランシーバから……違う、直接脳に語りかかってくるような感じだった。


『まぁいいわ、時間が無いのでちゃちゃっと行きますか』

『そうだ、要件を言って帰れ』

『まぁ!酷いわぁ!まぁ負け犬の遠吠えとして受け取っといて』

『な、何をぉ!?』

『……………上条当麻をちょっと借りているわ』

『は?』

『いやだから、あのウニ頭の馬鹿よ。ちょっと用事があるのを思い出したから、そこへ向かわせているわ。もうそっちには戻らないと思うけど、いい』

『別にいいよ。大して役に立たんかったしな』

『そう、だったらいいわ。では、御機嫌よう…♪』



そして、否定姫の声は途切れた。

860: 2011/06/03(金) 01:10:44.24 ID:7r0/uhbo0

「なんだったんだ?さっきの」

と七花はとがめに訊いた。

『さぁな、というかさっさと仕事始めんか!!』

「へいへい」

と七花は返事をする。


とその時。



「七花さん……」

絹旗は七花の袖をクィックィッと引っ張る。

「?……どうした、絹旗」




「結標淡希が…………超いないんですけど………」




「」

七花は先程まで結標淡希が倒れていたはずの所を見る。



しかし、そこには誰もいなかった。



「しまった!」

しかも、残骸が入ったキャリーケースも無くなっていた。

結標淡希は気絶したフリそしていたのだ!

「超一杯喰わされましたね……」

『…どうした』

「とがめ…すまん……実は……」

ゴニョゴニョ…

『そうか…だから…』

「追おうか!?」

『いやいい』

「どうして?」

「そうです。今なら超追いつけます!」

『落ち着け、私達の目標はあくまで『千刀 鎩』の回収だ』

「でも…残骸は」

『心配するな、策は練っておる。な、御坂妹』

「はい、とミサカは自信ありげに頷きます」

「「?」」

861: 2011/06/03(金) 01:33:36.86 ID:7r0/uhbo0

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ぜぇ…ぜぇ…」

結標淡希は、戦いのあったホテルから10km離れた場所にある路地裏に来ていた。

手に持っているのは、旧型のトランシーバーと残骸が入ったキャリーケース、そして鞘におさめられた『鎩』が一本。

「こ、こちらA001からN000へ、座標の確認のあと状況の確認に……」

『ダダダダダダダダダダダダダダダダ…………』

「……ッッ!!?」

銃声が聞こえた。

『子ども誑かせて安全席から御見学とは、いい御身分じゃん!!』

そして女の声が聞こえた。

『…ぅぁ…』『ぁあ』『がぁ…』

マシンガンの音とそれにに撃たれる自分の部下の悲鳴をBGMにして。

「…………」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


全滅だろう。

結標淡希はそう思った。

もう、学園都市内には自分の味方はもういないだろう。

そして、先程戦った者たちも、警備員も、風紀委員も、みんなが揃いに揃って自分を狙ってくるだろう。

連想ゲームの様に順々に最悪のシナリオが築き上げられていく。


「…………………最悪だ…」


結標は今、『鎩』を持ち、キャリーケースを引きながら街を歩いている。

デパートの壁に取り付けられている時計を見る。

午前5時前。

もうじき夜が明ける。


いつもなら、徹夜しても夜明けの時には眠気で頭がボーッとするのに

今日はガンガンと目が醒めている。


最悪のシナリオ。

それは『氏』

もしくは『それ以上の地獄』

862: 2011/06/03(金) 01:48:38.75 ID:7r0/uhbo0

十七年生きてきた。

後者の方はパッと思いつく。


『拷問』『凌辱』『実験台』………etc.


考えただけでも悍ましい。

いずれも人間として扱われず、家畜同然の運命が訪れているだろう。


「……~~~!」

思わず『鎩』とキャリーケースを握る手が震える。

カチカチと顎が震える。



怖い。




結標に恐怖の刀が襲い掛かる。


「で、でも大丈夫よ!!が、学園都市の外へ行けば………、そうよ!学園都市の外へ行けば、外の組織が私を匿ってくれる!!」


大声で、自分の勝利条件を確認する。

まるで恐怖を振り払うかのように。



しかし、今は『千刀 鎩』は手元にない。

あるのは形見離さず持っていた『鎩』の一本だけ。

もう、あの強大な力はない。



「ははは、大丈夫、大丈夫よ。簡単よ、たかがゲートを突破するだけじゃない……」


結標は首をフルフルと振る。


「はははは……そうよ、ゲートをくぐるだけ………。途中で誰かと……超能力者の七人の誰かと出会わなければ、大丈夫………」


結標はそう言って、横断歩道を渡ろうとした。

その時…

863: 2011/06/03(金) 02:13:01.94 ID:7r0/uhbo0


カッ…カッ…カッ…カッ…


大きな車道の奥から微かながらも、杖を突いて歩いてくる音がした。

結標はその音の正体を見るため、その方向を見る。


「―――――――………ぁ…ぁぁ…」



昔の人は言った。

言葉には魂があると。

口に出したことの魂はたまに、現実となると。

いや、彼女の場合は『なってしまった』の方が正しい。

まさに今起きている状況がそれだ。



「つーかよォ、ちっとばかし無理して出て来たってのによォ。なんだァ?このバカみてェな三下はよォ」

「…………まさか…」

呆然と立ち尽くす結標。

その目線の先には……。


白い男がいた。

白だ。髪の色から肌の色、服装に至るまで、真っ白な男だった。

華奢な体で杖を突いている。

眼は赤く。

そして、彼の身に纏う空気は狂気というものだった。

まるで氏者を集める氏神。地獄で人を焼く悪魔。人を喰らう鬼。

連想できるのはそれだ。


あとは恐怖と言う言葉しか出てこない。



そして、その男の名は

(……一方通行…………!?。超電磁砲ですら敵わないっていう学園都市最強の超能力者…!?)

結標は後ずさる。

864: 2011/06/03(金) 02:35:55.80 ID:7r0/uhbo0

「む、無理よ…!あんなのにまともに相対出来る訳……!」

白い男…一方通行は結標淡希に近づいてきた。

ただ、ただそれだけなのに、結標淡希はヒステリックに陥る。


「……ぁ…はっ…はは……知ってるわ!!」

「アア?」

「あなたは八月三十一日に力を失っているはず…。そ、そう、あなたにあの演算能力はもうない…かつての力なんてどこにもないのよ!!」

震える声で、脅える様に叫ぶ結標。

その格好悪い声を聴いた一方通行はと言うと、杖を突いていた逆の手を頭に当てて言った。

「哀れだな…」

「」

「本当に哀れだわ…本気で言ってンだとしたら、思わず抱き締めたくなっちまウほど哀れだわァ」

コキッコキッと頭を曲げる一方通行。

彼の赤い目は憐みの目だった。

「確かに俺はあの日、脳にダメージを負った。今じゃ演算も外部に任せてある」

しかしその目は、だんだん…

「だけどよォ…」

狂気に染まって行く。

「俺がいくら弱くなったところで、別にオメェが強くなったわけじゃァ…ねェだろォがよぉ!……アア!?」

一方通行は地面を軽く踏む。

すると、地面はたちまち地割れを起こし、結標を襲う。

結標はとっさに座標移動でその場から街頭の上に非難する。

と、移動したすぐあとに、後ろのビルの全てのガラスが砕けた。

「」

ガラスの破片から逃げるため、また座標移動する。

今度はビルより少し高い場所…しかし。

目の前には、一方通行がいた。

865: 2011/06/03(金) 02:50:35.65 ID:7r0/uhbo0

「ぎゃははははははははは!!」

狂気に満ちた目で、気が狂いそうな笑い声を発し、彼は拳を握って、襲い掛かってきた。


結標は思わず、守るべき残骸が入ったキャリーケースを盾に使ってしまった。

一方通行の拳はキャリーケースに触れた瞬間、

針を突いた風船のように爆発した。

残骸が四散する。


「―――――――……~~~っっ!!」



「悪ィがァ!こっから先は一方通行だァ!!」


一方通行は出した拳を引いた。


「大人しく尻尾巻きつつ泣いてェ、無様に元の居場所へ引き返しやがれェ!!」


そして、引いた拳を結標の鼻めがけて突き出した。


グシャア!!


鼻が潰れる音がした。


結標淡希は文字通り吹っ飛び、数十mのビルに激突し、そのまま落ちて行った。



彼女は落下し、ビルの玄関らしきものの屋根に墜落した。

彼女はピクピクッ…と蠢き、気絶していた。


866: 2011/06/03(金) 03:12:29.93 ID:7r0/uhbo0


整備されたコンクリートの車道が、戦争跡地の様になった中、一方通行は落ちていた杖を拾った。


「……まァ、確かにこのザマじゃア学園都市最強は引退かもしンねェなァ……」

拾った杖を持って、一方通行は歩き始めた。



「でもなァ、それでもあのガキの前じゃ最強を名乗り続けるって決めてンだ……………………………………………クソッタレが……」



そして、彼も元の居場所へ帰って行った。















とその時、


プリッキュア プリッキュア

プリキュア プリキュア プリキュア

プリキュア~……


携帯が鳴った。

一方通行は高速で携帯にでる。

知らない番号だ。一体誰からだ?

「…だれだ?」

『は~い♪』

「誰だテメェ!?ご立派に非通知で掛けてきやがって…しかもご丁寧に着信も弄りやがった。こンな着信買った覚えがねェンが何だが!?」

『非通知で掛けるのが基本中の基本よ?それに着信はお宅にいるオチビちゃんでしょう?』

「で、なンの様だァ?」

『ええ、あの女の子、ちゃんと出迎えてくれた?』

「ああ、あンたこのォ一件の依頼主だな?」

『正解!!…で、殺っちたたの!?』

「依頼通り、ちゃンと生かしてオイたよ」

『わかったわ、今回収部隊を向かわせているから』


871: 2011/06/04(土) 01:47:25.50 ID:4la+N9Nx0

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



コツッ…コツッ…コツッ…。





「………ぅ…………………」



目蓋を開けると、暗く、闇に呑まれていた空がが、東から青、紫、群青とグラデーションが奇麗に描かれ、

周りの景色は段々と、黒から薄い水色へと色が変わり、闇夜で奪われていた視界が明るく照らされた。

冷たくも無く、暑くもない、そんなこの季節の朝の風が、髪を揺らす。

視界一面に広がるビルの群れの谷間の一つが、やけに光っている。



もうじき夜が明ける。



コツッ…コツッ…コツッ…


さっきから足音がする。そして体がその音に合わせて揺れているのがわかる。


あれ?なんで体が揺れているの?



ふと気づき、前を見てみる。


目の前には、ツンツンとした人の後頭部があった。

それが顔に当たっていて痛い。

その人は男のようだ。

彼は白いカッターシャツを着ていた。所々土で汚れてはいるが。

その汚れたカッターシャツからは乾いた男の汗の臭いがする。

でも、彼のその背中がなぜか心地がいい。

サーッとそよ風が吹く。

自分たちが歩いている歩道の隅ににある並木や草が、それに撫でられた。


足…脹脛に感覚がある。

目線を下に向けると、背中の彼が自分の脹脛の下を外側から持っていた。

次に、目線を上にあげる。自分の両腕は、背中の彼の肩に掛けられていた。



あれ?私、おんぶされているのか……。




目覚めたばかりのボーッとしていた頭が、スーッと醒めていく……。

872: 2011/06/04(土) 02:29:00.87 ID:4la+N9Nx0

「………なに………?」

「お、気が付いたか。よかった」

彼は明るい声で言った。

「………あ、あなたは……?」

あれ?この声、聞いたことがある……。

背中の彼は、明るい声で言った。

「ああ、俺は……」

その時、彼はいきなりズッコケた。


ズサァアアア!!


「ギャァアアアア!!」「キャァアアアア!!」


二人は顔から転がる。


「イテテテテ……何すんのよ!?」

頭を押さえて悶絶する。

誰だ一体…。いきなりドジをかますなんて……。

彼を顔を見る。

「って、あああ!!」

「くっそ…なんだってんだ………、ってなんだ?」

「あなた!!工事現場にいた……!!」


上条当麻


結標淡希の目の前に、彼はいた。





874: 2011/06/04(土) 15:21:26.30 ID:4la+N9Nx0

「どうしてこんな事にいるのよ!」

「うるせぇ!気絶しているお前をここまで運んでやったのは誰だと思ってんだ!?」

「……な…!なんで!?」

「命令だよ!無理やり脅されてんだよ!!」

上条は怒鳴る。

「つーか、俺がお前を見つけて逃げたあと、いきなり軍隊つれた白衣着たオッチャンが登場してお前を探してたんだぞ!?そして今丁度、必氏こいて見つからずに逃げ切ったとこだ!!」

「…~~っ!」

恥ずかしい、敵に助けられるなんて。

その白衣を着た男、恐らく木原数多だ。軍隊とは猟犬部隊だろう。

この男に、あの刀を使った自分が実験動物として回収されるところを助けられたのだ。

「べ、別にあなたが助けなくても、なんともなかったんだから…」

「嘘つけ。あのオッサン、言ってたぞ『YAHAAAAAAAAA!!テメェらぁさっさと実験動物回収して帰って、早速生きたまま解剖しようぜぇえええ!!』って」

「………~~~~~っ///」

結標は顔を赤くした。



「まっ、まぁ、助けてくれて、ここま運んでくれたのは、か、感謝しているわ。……でもここからは一人で大丈夫」

と言って、結標は立ち上がる。

「おい、無理するなって。まだ体のダメージが抜けていない……」

と上条が止めた。

「うるさいわね……」

結標は上条の忠告を無視し、立ち上がる。

「きゃっ……」

しかし、結標の膝がカクンッ…と落ちた。

「ぅおっと…」

頭から崩れ落ちる結標を、上条は受け止める。

「ほら、言わんこっちゃない」

「……~~~///」

875: 2011/06/04(土) 15:52:42.80 ID:4la+N9Nx0

「う、うるさいわね!あなたになんの義理があってこんなことをしてんのよ!?」

結標は顔を赤くして上条を睨む。

彼女の問いに、上条は答える。



「そりゃ、お前を助けたいと思ったからだよ」



「………え…?」

結標はキョトン…とした表情になる。

「さっき言ったあのオッサン、お前を『実験動物』と言った。」

上条の声は低く、表情は真剣だった。

「俺は人を家畜みたいに実験するのを見たことがある。それを知っちまったから、お前が『あいつら』と同じ目に合わせたくないって思ったかからだ」

「」

どうしてこの、自分の目の前にいる男は、自分を殺そうとした人間に情けをかける?

私は、あなたを殺そうとしたのに。あなたの身内を殺そうとしたのに。

なぜ?

「それによ、お前あの時、なんだか自分の意志で動いていない感じがしたんだ。まるで操られていたように見えたんだよ、俺には」

「……どういう事?」

その時また、サーッとそよ風が吹いた。

「いや、俺は全然知らないけど」

二人の髪は、そよ風に撫でられる。

「ある奴が言ってたんだ。お前が持っていた刀……『千刀 鎩』っていうだっけ?それの『毒』に当てられたんじゃないか…って」

「『毒』…?」

「まぁ詳しいことは詳しい奴に訊けばいいさ………。とにかく、早く帰ろうぜ」

上条は結標に手を差し伸べる。

結標はその手を取った。

「あ…ちょっと待って、まさかまたおんぶ?」

「ああ、そうなるな…」

「は、恥ずかしいから、べ、別の奴にして!!」

「ああ?しょうがねぇな……」

876: 2011/06/04(土) 16:39:19.30 ID:4la+N9Nx0

やれやれ…と上条は掴んだ結標の手を肩に回す。

そして彼女の背中と両膝を持って抱える。

って、この体勢は……。

「ちょっと!これって、お、お、おひぇ様抱っこじゃない!!」

「お姫様抱っこな。悪いか?」

「ちょっ……顔が…近…い…から……///」

「?」

上条は顔をかしげる。

「っと…ちょっと掴まってろよ…」

「へっ?」

と、上条はいきなり背中に回していた手を離した。

「きゃっ!」

結標は上半身が落ちそうになるのを阻止するため、上条の首にしがみ付く。

上条は離した手を、結標の額に当てた。

「じっとしてろよ…お前の前髪にゴミついてる……」

「………(顔が…近いぃ!)」

その距離、わずか十五センチ。

「おし、やっと取れた」

と、上条は額に当てた手を背中に戻した。

(よかった、やっと解放される……)

結標が安堵したその時。

上条の足が地面の窪みに取られる。

上条は転びかけるが、なんとかそれには至らなかった。

が、上条の体勢は低くなった。


結標淡希と上条当麻との顔の距離が急激に近くなる。

お互いの鼻先がくっつくほど。

「…なっ……///」

あと数ミリ動かせば、キスができる。

上条の吐息が、結標の唇にあたり、くすぐったい。

「…ぁ…ぁ……///」

結標の頭がオーバーヒトするほど熱くなる。

「……は…は……」

「おお、悪ぃ。足元が見えないから躓いちまった」

「早く…離しなさいよぉ///!!」

877: 2011/06/04(土) 17:08:48.42 ID:4la+N9Nx0

上条は体を戻し、結標との顔の距離を離す。

「な…何すんのよぉ///!!」

結標は上条の頬にビンタする。

「あべしっ!」

「お、お、おんぶでいいから、おんぶでいいから、お姫様抱っこやめなさい!!」

「イテテテ…わかったよ」

上条は腰を下ろして結標を降ろし、代わりに背中で担ぐ。

(これ、背中に胸があたるから苦手なんだよなぁ…)

上条は溜息一つし、よいっしょっと立ち上がる。

「なによ、その溜息」

「いや、なんにも…」

上条は歩きだす。

数歩ほど歩いたところで、上条は何かを拾った。

「……よいっしょっと」

「あなた、それ……!」

「ああ、これか?」

それは、『千刀 鎩』の中の一本だった。

「俺がお前を見つけたとき、お前はこれを大事そうに持っていたからな。ついでに持ってきた」

上条はそれを後ろに回し、結標を支えるように尻に当てた。

880: 2011/06/04(土) 19:09:17.75 ID:4la+N9Nx0




200m程歩いた頃だろう。

上条が口を開いた。

「なぁ、お前は何をしたかったんだ?」
上条は静かに訊いた。

「……………」

結標は少し驚いた。

「それとなんでお前はこれを使ったんだ?」

「……」

「お前がそこまで一生懸命になってまでやらなくちゃならない事ってなんだったんだ?」

「…………」

黙っていた結標は呼吸を十ほどした後に答えた。

「私ね、この能力が嫌いなの」

その声はくっついている上条しか聞き取れないほど小さな声だった。

「私の能力…まぁ他の能力者の能力も、人間を傷つけてしまうものばかり……。時には人なんて紙屑みたいにバラバラにできるものもある」

上条の首に結標はぎゅっと抱き着く、恐いものを思い出した子供の様に。

「私はね、その超能力がなんで人間にしか扱えないのか。なぜ人間に近い脳を持つイルカやチンパンジーではなく、人間の年端のいかぬ子供なのか……。それが知りたかった」

結標の声が低く、悲しく声で話す。

「だからね?私はその可能性を確かめる為、最高のシュミレートマシンが欲しかった。すると七月二十八日に“樹形図の設計者”が何者かに破壊されたという極秘情報が耳に入った。私は十中八九、その残骸を米国や仏国を始めとする主要国がこぞって盗みに来る前に、学園都市が回収すると踏んだ私は、残骸を盗み、それを組み立てるための技術と知識を持つ、外の反学園都市組織に持ち出そうとする計画を建てた。私と同じ悩みを持つ同志がいて、それに喜んで賛同してくれたわ……」

上条は下がってきた結標の体を持ち上げた。

「でも計画は難航だった。国内にいる組織とは連絡は取れなかったの。なぜかと言うと、その組織はすでに学園都市の圧力で潰れていたの。そこで仕方なく、海の向こうの中国のマフィアと手を組んだわ。ハッキリ言って信用出来なかった。その中国マフィアは日本の学園都市とアメリカの学芸都市に負けない、新しい都市計画を建てていたの。そこで飛び込んできた私達の計画はまさに天の恵み、喜んで引き受けていたわ。でもきっと組み立てても、私達は使い捨てカイロみたいに捨てられ、殺されるか、よくて豚の如く扱わされる可能性があった。それでも……」

鼻を啜る音が上条の頭の上でした。

「それでも、私達は知りたかった。どんな危険が待ち受けても、知りたかった」

結標はそこだけ、力強く言った。

「……なんで私達がこんな化け物にならなくちゃいけなかったのか?どうして私達にした能力が与えられない?……私達は自分の運命を呪っていたわ」

結標の声は震える。

「動かなくても自問と後悔で身も心を食い荒らされる地獄、だからって動いても、失敗したら氏刑台に立つか手術台の上で寝るかの地獄、例え成功しても捨て犬のように銃で蜂の巣か拷問凌辱の悪夢の地獄、どの道私達には地獄しかなかった」

結標は腕の力を入れる。

「最後は迷った。私達はどの道に進んでも地獄は地獄だから……。でもどの道氏ぬのならば、願いを達成できる方を選んだ。………決断した夜は眠れなかったわ」

上条は街を抜け、階段を登る。階段を登りきったところには展望台があった。

881: 2011/06/04(土) 20:45:35.45 ID:4la+N9Nx0

「その夜、私は眠れないから外へ散歩し行った。まぁ気晴らしにコンビニに行くだけだったけど………好きな雑誌と紅茶を買ってさっさと帰ろうとしたの。でもその帰り道、ふと裏路地が気になったの。いつもなら気にもせずに通り過ぎるのに……」

上条は階段を登り切った。一息入れ、展望台の手すりに沿って歩き出した。

「ちょっと見るだけで、すぐに引き返すつもりだったけど…足が止まらなかった。まるで足が生きていて勝手に目的地に向かっているような感触だったわ………。裏路地ってほら、たまに広い空間があるじゃない?空き地みたいな……十分くらい歩くとそれがあったの。まぁ空き地自体はそんなに珍しくはないわ、だってどこにでもあるのだもの………。でもそこの空き地は違ったわ。………何が違うかですって?…………そこにはなぜか、日本刀が鞘ごと刺さっていたの。一本じゃないわ、だからって二本じゃない、三本でもない。………千本の日本刀が空き地の地面や壁いっぱいに刺さっていたの、敷き詰められているように。私はその内の一本を抜いた、興味本位でね。月夜に照らされていた刀身が、骨董や刀剣にまったく興味がない私でも、うっとりしてしまうほど奇麗に思えた。それがあなたが今持っている物よ」

その『鎩』は今は結標淡希の尻に敷かれている。

「すると、後ろからゾロゾロと無能力者のチンピラが…武装無能力者組織じゃなくて、普通のスキルアウトだったんだけど…そいつらが来たの。すると哂いながら私を襲ってきた。彼らは私を犯そうとして来たの。虚を突かれたからね、上半身を裸にされたわ。で、私は能力を使って脱がした奴をのしたんだけど、他の奴は怒って、奥からスピーカーを持って来て、何か不協和音を大音量で流してきたの。その音はどうやら強力な能力者の演算を邪魔する為にある様で、案の定、私は能力が使えなくなったわ。そして奴らは私を集団で…二十人くらいで襲ってきた……」

882: 2011/06/04(土) 21:31:04.59 ID:4la+N9Nx0

「例えば…豚の一匹を座標移動で壁に磔にして、生きたまま、蛙の実験よろしく腸を引きずり出したり……。手の指、手首、肘、肩、足の指、足首、膝、腰、胴、首…人間のパーツと言うパーツを全てバラバラのしたり…。眼を刳り貫いて眼が見えなくして、体のあちこちを『鎩』でバースデーケーキの蝋燭みたいに刺していったりしてた………ああそうそう、あの本物の豚の気持ちを体験させようとして、豚バラ・肩ロース・豚トロ…色々な部位に解体したりした……。一番楽しかったのは生きたまま四肢の肉を骨から削いだ奴かなぁ?………あの断末魔が耳の中で踊っているの。ああ、とっても心地いい音色だったわ……。あの豚共の恐怖と絶望に染まった顔なんて、世界のどこのコメディ映画よりも愉快痛快だったわ!!」

結標は上条の耳元で大声で笑う。



「数時間たって…すべての豚を惨頃し終えたとき…何もかも真っ赤だったわ……。豚も地面も壁も、『鎩』も裸の私も、なにもかもが!その時、私は気付いてしまった。………私は能力を使わなくても、十分化け物だったんだって……。人間をここまで惨殺できる私って、正真正銘の化け物だったんだって!!」

上条の肩がどこからか濡れていく。結標の目からだ。

「……じゃあ今まで私が建ててきた計画はどうなるの?私が最初っから化け物だったんだってことは、私達の計画を根本的に覆す事実なのよ!?超能力が使えなくとも、人は人を殺せる。その事実に気づいてしまった…。でも私はこの計画を止めることができない。だって止めるという事は今まで私に誠実にしたがってくれたあの子たちを自分から裏切る事になるのだから!!」

ひっぐ…ひっぐ…としゃっくりをしながら懺悔する。まるで上条が教会の神父かの様に。

「でももう止められない。私がこの殺人を起こしたことがバレタなら!学園都市は私を拘束し、氏刑にする!そして私が建てたこの計画のメンバーが解れば、あの子たちも拘束され、下手すれば全員仲良く絞首刑よ!!」

上条は涙で濡れる肩など気にせずに歩き、彼女の懺悔に耳を傾けた。

「だからもう計画は実行するしかない。一刻も早く計画を実行して、学園都市から離れなければ、私はともかくあの子たちの命が危ない!!………そう思った私は、できるだけ事件を隠すため、真っ赤になった体を近くにあった水道水で洗い、水滴を座標移動で飛ばして、服を着た。その次に氏体を血痕ごと、地下800mまで飛ばして逃げた……。『千刀 鎩』を持って…」


結標淡希はふぅと息をついた。

883: 2011/06/04(土) 21:51:23.73 ID:4la+N9Nx0


「これがあたなの質問の答えよ?どう思った?」

結標淡希はフフフッと笑う。

「これで私はあなたが助ける必要もない殺人鬼なの……わかる?私は化け物よ」

結標は声を低くして、耳元で言った。

「いい?助けないで。放っておいて。捨てて行って。さもないとあなたが持っている『鎩』を奪って、あの豚共と一緒な目に合わせるわよ?」


「……………なぁ」

彼女の脅しに、上条はボソッと答えた。

「お前…そんなことして楽しいか?」

上条が両手で持っている『鎩』を強く握った。『鎩』はカタカタカタッと鳴いている。

「そんなこと言って、嬉しいか?」

「何が言いたいの?私は人を惨[ピーーー]るのが楽しくて楽しくてしょうがないって思っている人間のクズなのよ?ヘンリー・リー・ルーカスよりも残酷な人間よ?」

「……ねーだろ……」

「…?」

「そんな訳ねぇだろが!!!」

上条は吠える。

「」

「そんな訳がねぇ!!テメェ、さっき散々泣いていただろうがっ!!」

上条は展望台の奥にあるベンチへ行き、そこへ結標を無理やり座らせた。

「…痛っ!」

結標は無理やり座らせた上条を睨む。

「なに?あなたには私が可哀そうで弱々しい、あたかもファンタジー小説のお姫様とか言うじゃないでしょうね!!?」

「ああそうだよ!!テメェのさっきの涙はその証拠じゃねぇか!!」

「」

「テメェの涙はなんだった?なんで泣いた!?」

「そ、それは…」

「怖かったんだろ!?自分の手が赤く染まるのが!!悔しかったんだろ!?それを止められない自分が!!後悔してんだろ!?そうしてしまった事実を!!」

上条は結標の肩を強く掴む。


「だったらお前はまだ化け物じゃねぇええ!!未だに可哀そうな女の子だ!!」


「…な…に…いって…」

結標の目は大きく見開かれる。

884: 2011/06/04(土) 22:08:48.54 ID:4la+N9Nx0


「泣いたっていいじゃねぇか!!恐がっていいじゃねぇか!!」

上条は結標の肩を揺さぶる。

「誰だって後悔する!!誰だって罪を背負う!!それが人間ってもんだろう!!?」

そして、上条は結標の頬を両手で持つ。

「俺の目を見ろ!!」

「」

「俺が、お前を化け物みたいに見る目か!?違うだろ!!お前を見ているのは上条当麻と言う人間の男で、俺が見ているのは結標淡希っていう人間の女の子だ!!その事実は誰にも変えられねぇ!!誰にも変えさせねぇ!!」

「………ぅ…ぅっ…!」

結標の眼に涙が浮かぶ。

「だからお前は泣いていいんだ!!涙を流していいんだ!!人間らしく!女の子らしく!!それは誇っていいんだ!!否定したらダメなんだ!!」

「…ぁ……ぁぁ……」

「もし誰かがお前の涙を哂う奴が現れたら!お前の泣き顔を蔑む奴が出てきたら!!この俺がぶっ飛ばしてやる!!!!!!!」

上条は結標を抱く。ぎゅっと抱く。強く、優しく。

「だから泣け!!ここで泣け!!俺は哂わない!!蔑まない!!俺はお前が泣き止むまで一緒に泣いてやる!!!!」

「…ぁ……ぁ…ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


結標は上条の体を強く抱き返した。

そして、眼に溜まった大粒の涙が一斉に溢れれ来た。

「わぁぁぁぁぁあああああぁあああああああああああああ!!わああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


そして、上条は結標が泣き止むまで、ずっと、ずっと、強く、優しく抱き続けた。

885: 2011/06/04(土) 22:40:22.51 ID:4la+N9Nx0

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

朝だ。

時刻は6時半。


上条当麻は、帰路についていた。

早く帰って、インデックスと否定姫に朝飯を作ってあげなければ…。

…っと、いけない、この子の分も作ってあげなければ……。


上条の背中には結標淡希という女の子が眠っていた。

泣き疲れたのだろう。

涙の痕を頬につけて、ぐっすりと眠っている。

顔でも洗ってやりたいが、生憎ハンカチは持ち合わせない質で、拭こうにも拭くものが無い。


もうじき家に着く。

帰って飯作ってから、すぐに学校に行かなければならない。

徹夜で走り回ってクタクタの状態で帰って、トンボの様に学校へ行くのは些か辛いものがある。


「ああ、そういえば始業式の日もそうだったっけ?」

あの日も散々だったな~っと呟き、やっとことで学生寮に到着した。

「お~っす、我が学生寮よ~ただいまぁ~。元気にしていたか~?俺はクラクラだ~」

と一人ごちながら足を進める。


(ああ、まったく、日常と非日常の掛け持ちみたいなこの生活ってホントにキツイな~。今日学校休んじゃおうかな~もう)

しかしそうボヤいていても、出席日数と成績が崖っぷちの上条に神は休息を許さない。

(まったく、神様っていうのは働き者の俺に休息という幸せをくれずに不幸というトラブルをくれるんだよな~)

「……ってぁあ!今日って七限の小萌先生の小テストがあんじゃん!!………下手すりゃ、また放課後のスケスケみるみるじゃねぇえか!!」

そしてもう一つ、上条は思い出す。

そうだ、しかも今日は七限終了後の30分後に卵の特売があるのだった。

(スケスケみるみるやってたら、貴重なタンパク源を買うチャンスが無くなる)

「…………不幸だ」


と、その時!

886: 2011/06/04(土) 23:10:14.68 ID:4la+N9Nx0

ダァン!!

足元に銃弾が撃たれる!!

「っうわ!!」

危うく足にトンネルが出来る所だった。

「なんだっ!?」

上条は後ろを振り返る。

そこには…。


「よぉ兄ちゃん。ちょっといいかい?」


男が立っていた。

白衣を着た、顔に刺青を入れた男が。

「テ、テメェ…」

その男の周りには鴉の様な漆黒の装備を着た軍隊がズラリといた。

「あん時いた…奴…」

上条は呟く。

そうだ、あの時……上条が結標を発見し、担いで逃げようとした時に、結標を実験台にしようと連れ去ろうとした男だ。


木原数多は、まるでニヤニヤと笑いながら言った。

「おいおい、あん時いたんなら、声の一つ掛けてくれれば良かったじゃねーかぁ」

木原はあたかも昔ながらの友人の様に上条に言った。


「まぁ、俺は今、お前さんには興味がねぇし、用もねぇ」

「どういう事だ?」

「用事があるのはお前さんの背中にいる、エリザベート・バートリーも真っ青になって裸足で逃げだして、崖からダイブしちまうような女にだよ」

「……テメェ…!!」

「そう怒るなよ!怖ぇな!実際にそこの女は何十人の男共を挽肉にしてんだぜ!?」

「テメェ…撤回しろ!!」

「はんっ…まぁ俺としちゃ…そこの女をおとなしーく渡してくれたら、命だけは勘弁してやる」

「馬鹿野郎ぉ…なんでテメェになんかこの子を渡してやんなくちゃならねぇんだ!!」

「……兄ちゃん…お前…そこの殺人鬼に肩ぁ持つのか?」

「この子は誰も頃しちゃあいねぇ」

上条は結標を降ろし、彼女の体を壁に寄り添わせる。

「すべての元凶はこの刀だ!!」

上条は持っていた『鎩』を木原に見せた。

887: 2011/06/04(土) 23:36:03.46 ID:4la+N9Nx0

「ほう…」

「こいつが全て悪いんだ!こいつが、これがお前の言う殺人鬼の正体だ!!」

上条は木原に吠える。

それを聞いた木原は……。

「……ぷはっ!……あははははははは!!」

爆笑した。

「そうかいそうかい…。それがねぇ…」

「なにが可笑しい!!」

「以前の俺なら、斬新奇抜なギャグかと見るが…。今の俺はちと違う」

「何が言いたい!」

「はは~ん、それが『千刀 鎩』か…」

「な!…なぜそれを!?」

「いや、正確には違う!それは『千刀 鎩』の内の一本で、残り九百九十九本は別の所にある……だろ?」

「」

「図星か!いよぉし!いいぞ!今日の頭脳は冴えてるねぇ!……まぁそういう事だ。大人しくそこのガキ残して帰んな」

「さっきから何言ってやがんだ、このクソ野郎!誰が見す見すこの子をテメェらみてぇのに渡さなくっちゃならねぇんだ!!そっちこそそのまま回れ右して帰れ!!」

「へぇ…お前さん、度胸あるねぇ…。いいぜぇそういう男、………風穴開けたくなる!」

木原はポケットから拳銃を取り出した。

「気ぃ付けな…こいつがドタマに当たると、風穴どころか潰した完熟トマトみたいになるぜ!?」

パァン!!


木原が放った弾は上条耳を掠り、壁を砕いた。

上条は瞬き一つもせず、怯まずに、木原とその周りにいる者たちを睨みつける。

そんな上条を見た木原はもう一度笑い、こう言った。

「はははは!!いいねぇ!その目つき!!何が何でも守り通すか…気にいった!!これからテメェは公開処刑だ!!」

木原の周りにいる者たちは一斉にマシンガンを構えた。

「女共々蜂の巣になってしまえ!!」

彼らの狙いは上条と結標だ。

「――――……ッッヤバッ!!」

「………テメェら!!撃てぇえ!!」


そして、彼らは引き金を容赦なく引いた。

888: 2011/06/05(日) 00:12:09.65 ID:hcrEhdIP0


上条はとっさに結標を庇い、地面に伏せる。

例え伏せても、銃弾は容赦なく二人を貫くだろう、しかし上条は万に一つの可能性を信じて伏せる。




しーん……。




「あ、あれ?」

隊員の一人がそう呟いた。

引き金は引かれたが、肝心の銃弾が出てこない。

「何をしてんだ!さっさと撃てぇえ!!」

木原は怒鳴る。

しかし銃弾が出ない。

「ええい!貸せぇえ!!」

隣にいた隊員からマシンガンを奪い取る。

そして容赦なく、上条に引き金を引く。



カチッ!

しーん……。




「なぜだ!なぜ弾が出ねぇ!!」

木原は怒鳴る。

「なぜだ!?なんで弾が出ねぇんだ!!」

木原は戸惑う。

889: 2011/06/05(日) 00:46:44.93 ID:hcrEhdIP0

「てめぇ!!何か小細工したのか!?」

木原は隣の部下の胸倉を掴む。

「し、しませんよそんなこと!第一俺たちになんのメリットがあるんですか!?」

部下は脅えた声で反論する。

そんな部下を地面に叩き付け、唾を吐く。

そして、上条に怒号を飛ばした。

「テメェ何をした!?何人様の銃に細工をしたぁあ!?」

無論上条は何もしていない。結標もだ、彼女はずっと眠ったままだし、上条は生まれてこのかた、マシンガンどころか拳銃も拝めた事が無い。

「ふざけんな!俺達は何もしていない!!」

「嘘をつけ嘘を!!テメェら以外に誰がいる!?」

とその時、いきなり声が聞こえた。


「はぁ~い♪おはよう。なんだか賑やかねぇ~、私よ好きよそういうの♪それと、あんたの言っていることを否定するわぁ~♪」


女の声だ。

「誰だ!?出てこい!!」

「そう怒鳴らないの、近所に迷惑よ?それともう出て来ているわ♪こっちよ、こっち」

「誰だテメェ!」

「ふふふ…」

声の主は、学生寮に植えてある木の太い枝の上に座っていた。

「私は否定姫。以後お見知りおきを……」

「何モンだ?…もしかして、そこで女ぁ抱いて寝ているガキの女か?」

「それを否定するわぁ~。そいつは私の下僕よ。安心しなさい」

「ああそうかい、だったらさっさと氏んじまいなぁ!!」

木原は否定姫に拳銃を向けた。


「汝、ソノ弓ヲ向ケルベカラズ。我、ソノ矢ニ当タラズ」


カチッ

しーん…。


「女ぁ、テメェ何をした?」

木原は問う。

「さぁ?例え言っても、あなたの様な岩石頭には、一千年かけてもわかんないかもね」

「ムカつくねぇ…あのクソガキ並にムカつくねぇ…」

一方、上条は知っている。

否定姫がしたこと、それは……。

「ま、魔術か…」

そうだ、否定姫はインデックスから魔術を教えられていた。

十万三千冊と言う魔導書を全て記憶している、魔導図書館にだ。

890: 2011/06/05(日) 01:13:36.57 ID:hcrEhdIP0

「ふふふ、他にもこんなこともできるわ♪」

否定姫は笑って呪文を唱える。

「汝、右ノ手デ自ラノ首ヲ獲リ、我ヲ、大イニ楽シマセヨ」

すると途端に木原以外の隊員の内、半数が一斉に自分の首を右手で絞め始めた。

「がぁぁあ!!」「ぁあああ!」「ぉぉおあ!!」

隊員たちは声にならない悲鳴を上げる。

「あはははははははは!!」

否定姫は楽しく笑う。

「テメェ…いい加減にしやがれぇ!!」

「いいわぁ~、やめさせてあげる♪」

と、否定姫は歌うようにまた、呪文を唱える。

「汝、手ヲ休メ、速ヤカニ地ニヒレフセ、我ヲ、退屈サセヨ」

と、それを聞いた首を絞めていた隊員たちは一斉に倒れた。

「……………」

それを見た否定姫は退屈そうな表情で木原に言った。

「ねぇ、もうわかったでしょ?今の内よ?さっさと帰ってお母さんのおっOいでも啜っていなさぁい♪」

「はっ!俺にはおかぁちゃんとかいうもんはとうの昔に仏さんよ!!そしてテメェもそれ倣って逝くんだよぉお!!」

木原の手にはロケットエランチャーが握られていた。

「汝、タダチニ打チアガリ、我ヲ、感動サセヨ」

「木端微塵になれぇぇええ!!」

ロケットが発射された。

しかしロケットは否定姫ぬ向かわず、上昇した。

「…なっ!」

ロケットは遥か上空で花火の様に爆発した。

ドォォォン!!

891: 2011/06/05(日) 01:50:34.70 ID:hcrEhdIP0

「奇麗な花火……」

否定姫は花火を見る。

「さて、程々にしないと氏人がでるわよ?」

「てめぇえ!!」

「そうねぇ…例えばあなたの後ろで使えない銃を握っている部下たちの首が圧し折れるわよ♪」

「やれるもんならやってみやがれぇええええええ!!」

後ろの部下たちは一斉に持っていた手榴弾を持った。


「………忠告しいたわよ」


と否定姫は冷たく言い放った。

すると、部下たちは手にしていた手榴弾を落として倒れた。

ドサドサドサッ…

彼らの首は有り得ぬ方向に圧し折られていた。

「……な…何が起った!?」

と、誰かがピンを抜いたのか、手榴弾が爆発し、他の手榴弾も一斉に爆発した。


大爆発を起こして、木原を吹っ飛ばした。

「ぎゃぁあああああ!!」

テーンテーンと木原はサッカーボールの様に転がる。

「あははははは!!」

否定姫の笑い声が聞こえる。

「ねぇ、あなた面白いわね。弥次さん喜多さんみたいよ?」

転がって行った木原はどういう訳か、生きていて、立ち上がった。

「うるせぇええ!!テメェなんざ、この俺がそのムカつく顔面を削ぎ落としてやる!!」

木原が吠えた。しかし



「不叶。その願いは叶わず。むしろ貴様が姫に触る事どころか、近づくことすらも叶わん」



と言う声が木原の背後から聞こえた。


892: 2011/06/05(日) 02:38:21.50 ID:hcrEhdIP0

男の声だった。

「誰だテメェ…」

「不答。その答えには答えぬ。貴様の様な野蛮な者に名乗る名は無い」

「いいから答えろ!!」

木原は後ろに振り返る。

しかし、

「な…消えた!?」

声の主は文字通り消えていた。


「不消。私は消えてはいない。」

また、木原の後ろから、声が聞こえた。

「いい加減にしねえと、怒るぞ!!」

木原は後ろにいる謎の男に前を見たまま、拳銃を突き、発砲する。

パァン!

「!!」

突然の発砲に男は驚いた。

しかし、

「不当。貴様の様な杜撰な奇襲では、私の眉間には当たらん」

ようやく、木原の目の前に男が現れた。

「なんだぁ?奇妙奇抜な恰好しやがって…」

木原の言う通り、その男は奇抜な格好だった。

昔の欧州の執事のような時代外れの洋装のような格好だ。

そして『不忍』と書かれた仮面で顔を隠していた。

まさに奇妙奇抜。

「不勝。貴様の恰好には流石に負ける」

「いや勝ってるだろっ」

893: 2011/06/05(日) 03:49:34.24 ID:hcrEhdIP0

その時、否定姫が口を挟んだ。

「ねぇあんた、もう退散したらどう?」

「なんだとぉ!?」

「まったく三下の台詞ね。このままいけば一分もかからずに首が飛ぶわよ♪」

「……~~~っ!!」

「不追。例え貴様が尻尾を撒いて逃げても私は追わん」

「…テメェら!!あんまり舐めてっとぶっ飛ばすぞ!!」

「不飛。貴様が姫に髪一本でも触れてみろ、その瞬間私や姫でなく、貴様が飛ぶことになるぞ」

「…くっ…。覚えてやがれぇ!!」

木原は踵を返し、彼らが乗ってきた車に乗り込んだ。

「転がっている奴らはテメェらで処分しやがれ!!」

木原が乗った車は颯爽と去って行った。

「その要求を私達は否定するわぁ~」

と否定姫。

「汝、直チニ起キ上ガリ、氏シテイル者共ヲ抱エ、我ヲ関心サセヨ」

否定姫の呪文で、倒れていた者達が一斉に立ち上がり、首を折られた者達をお姫様抱っこした。

「うん、関心するわ」

「汝、速ヤカニ先程去ッテ行ッタ者ヲ追ッテ姿ヲ消シ、我ノ、邪魔ヲスルベカラズ」

と、続けて呪文を唱える。

すると、彼らは走って木原の後を追った。

「さて、邪魔者は消えましたっと♪」

否定姫は背伸びする。そこへ謎の男は彼女がいる木の、下へと瞬きをする間もない瞬間で移動した。

「ご立派でした。そしてお久しぶりです、姫様」

「久しいわね、右衛門左衛門♪」

と言いながら否定姫は木から降りようとする。

右衛門左衛門と呼ばれた男は否定姫に手を差し伸べる。

「姫様、お手を……」

「あ、ありがとう…」

右衛門左衛門の手を否定姫は取り、彼の助けで木から降りる。

降りた否定姫は汚れた尻をパンパンと叩き、結標淡希を庇って倒れている上条当麻の向かって叫んだ。

894: 2011/06/05(日) 03:59:02.62 ID:hcrEhdIP0

「おーい、いつまで寝てんのよ?さっさとご飯作りなさい。私は今、お腹が減っているのよ!?」

「あ?あいつもう大丈夫か?」

「ええ、今日はもう大丈夫よ」

「そうか~。あ~氏ぬかと思った。それと一つ訊いていいか……?」

「姫様。畏れながら、一つお伺いしてよろしいでしょうか……?」



「こいつは誰だ?」

「この少年は何者でしょうか?」



両者ほぼ同時の質問。

彼らの質問に、否定姫は…。



「あ~、答えるは面倒だから、先にご飯にしましょ?」




それが彼女の答えだった。




899: 2011/06/05(日) 21:35:00.82 ID:hcrEhdIP0

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「で、お前は一体なんなんだ?」

上条当麻はちゃぶ台に、白米が盛られた茶碗を出した。

「不答。貴様の様な下賤な者に名乗るななど無い」

仮面の男、左右田右衛門左衛門は答えた。

「テ、テメェ……ッ!」

上条は頬をヒクヒクさせながら、作り笑いした。




上条たちはあの後、とりあえず朝食をとる為に部屋に行った。

その時からこの二人、上条と右衛門左衛門は仲が悪い。

右衛門左衛門はどうやら否定姫が上条の部屋で厄介になっている(文字通り上条にとっては厄介だ)のが気に入らないようだ。

突っ掛る右衛門左衛門に売り言葉に買い言葉で上条は喰いつく……そういう構図になってしまった。


先程も、上条が先頭にでて部屋に向かおうとしていたが、右衛門左衛門は

「貴様、姫様よりも先に出るとは何事か」

と叱責された。

それからだ、二人はつんけんしているのは。




上条はちゃぶ台に自分の茶碗を置いて座った。

彼の正面には否定姫が座り、その後ろに右衛門左衛門が座っている。

「なんだ?テメェ…朝飯抜きにすんぞ!」

「不困。そんなこと、私にとっては何も困らない」

「はぁ!?」

「私は隠密の任務を遂行するのは勿論、姫様が如何なる場合でも安全に且つ快適に過ごせるよう、日頃から一流の料理をお出しし、お着になされる物には染みを一偏も残さず洗濯し、床には針なんぞ一つも残さず掃除していたのだ。貴様の様な小童が居ろうが居まいが全く関係ない」

「………テメェがそんなに甘やかすからコイツ、こんなにワガママになったんじゃねーの?」

「不許。貴様、姫様に向かって此奴呼ばわりなど、その汚い舌を引抜いてやろうか」

「おお上等だバカ野郎。人様のウチにゾロゾロと上り込んでさっそく文句をタラタラ流すその口を針で縫ってやろうか!?」

二人は立ち上がり、メンチを切る。

「やめなさ~い。右衛門左衛門、座りなさい。そこの馬鹿もさっさと座りなさい」

「姫様の仰るとおりに……」

「…バ…カ…だと……?」

上条が怒りでフルフルと震えていると、彼の袖をクイクイッと引くものがいた。

「とうま…」

クイクイッ

「とうま…」

「なんだ!?今忙しい……とこ…」

「この人たち、誰?」

「インデックス……さん?」

上条の隣に“ずっと”“ずっと無視されていた”インデックスがいた。そして、彼女が纏うオーラはなぜか黒かった。

901: 2011/06/05(日) 22:43:11.27 ID:hcrEhdIP0



ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ……………!!




上条の悲鳴は、学生寮の外にまで響いていたという。


「とうま!なんでさっきから無視するの!?どれだけとうまのことを呼んでいたと思っているの!?」

「イタタタタタ!!インデックス!だから噛み付くな!!イッタタタタタタ!!つーかいつの間にいたんだよ!?」

「ああ、インデックスちゃんなら、この部屋に帰ってきた時からずっとあんたの隣にいたけど?」

と否定姫。

「………………」

「………………」

「……姫、それは真でございましょうか…」

と銀髪碧眼の姫に問う上条。

「そうなんだよ!とうまが帰って来たとき!おかえりって言ってあげたのに無視して!あげくの果てにはずっと、ずーっととうまを呼んでいたのに、無視を強行するし!!」

「ぎゃぁああ!!わかった、わかったから!すまんかった!あん時は頭に血が昇っていてお前の事忘れていたんだ!!」

「忘れていた!!とうま、それってどういうこと!?ひどい!ひどいよ、とうま!!」

「ぎゃぁあああああああ!!だから噛み付くなぁああああああ!!」



数分後…。

「二人とも、紹介するわね♪ この男は左右田右衛門左衛門。私の下僕よ♪」

と否定姫だ右衛門左衛門を指さして言った。

「左右田右衛門左衛門だ」

と、彼は少し頭を下げる。

「で、こっちの銀髪の子がインデックスちゃん。こっちのウニ頭の方が……なんだたっけ?」

「上条当麻だ!いい加減覚えろよ!!しかもウニ頭ってなんだ!?一応、俺流でオシャレしての髪型だ!!」

「……まぁいいわ。二人とも私を助けてくれたの」

「無視かい!」

否定姫は話を続ける。

「そうでしたか」

右衛門左衛門はインデックスの方へ向いた。

「我が主を助けていただき、礼を言う」

「いえいえ、教会に属する者なら当然のことをしたまで!」

なぜだろう、自分がこの部屋にいない気がする。

そう思った上条であった。

908: 2011/06/07(火) 22:33:53.11 ID:w2scWVrE0

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ねぇねぇひていひめ、その敵をどうやって倒したの?」

そう、インデックスが訊いた。

彼女の右手には箸が、左手には白米が入った茶碗が握られていた。

口の周りをご飯粒だらけにしていて、大変汚い。

しかし否定姫は嫌な顔をせずに、そのご飯粒達を摘まんだ。

「……ふふふ。知りたい?」

と、その時上条が「ごちそうさま」と合掌して立ち上がった。

「どうせまた魔術だろ?あの感じは十中八九そうだ」

上条は自分の食器を重ね、台所に持っていく。

「俺も馬鹿じゃない……勉強はできないけど……、感覚でわかる。伊達に今まで氏にかける程のケンカを多くしちゃいねぇよ」

食器を水につけて、今日の昼食の弁当を出す。

これから学校に行く上条の分は勿論、インデックスと否定姫、それと今日追加された右衛門左衛門と、今は上条のベッドで寝ている結標の分だ。

「俺は今から学校へ行く、昼はここに置いてある弁当を喰っておいてくれ。結標のは、目が醒めて喰えるかどうか様子見てから出してやってくれ。もし喰えなかったらインデックスが食べる。OK?」

「うん!わかったよとうま!」

とインデックスは食事が増えたとこが嬉しいのか、声を弾ませた。

「あと否定姫!帰ったら昨日のこと、ちゃんとすべて丸々報告してもらうからな!もちろん今朝のも!!」

上条は汗で臭くなった体を洗いに行くついでに、砂と埃まみれの制服を奇麗な制服に着替えに風呂場へ行く。

「ああそうそう、インデックス!早く食べ終わらないとその飯を取り上げるからな!!」

「ええ~とうまのイジワル~!」

「早く喰い終わらないお前が悪い!お前これで飯五杯目だぞ!?」

「いいじゃないとうまのケチ!!」

「そうよ?」

と否定姫。

「育ち盛りなんだから、いっぱい食べないとねぇ~?」

「ねぇ~?」

「「ねぇ~?」」

「『ねぇ~?』じゃねーよ!さっさと喰えよ!喰ってくれよ!!こっちとらスクールバスの時間にギリギリなんだよ!!」

「だったらさっさと着替えてきなさい?」

「ええいクソォ!!」

ダダダッ…。

バタンっ……!

909: 2011/06/07(火) 23:50:39.28 ID:w2scWVrE0
数分後……。


「じゃあ行ってくる!留守番頼むぞ?」

「はぁい、いってらっしゃーい」

「いってらっしゃーい、とうま気を付けてねぇ~?」

と満腹になって床に寝転ぶインデックスと、インデックスと並ぶように寝転がってテレビを見ている否定姫は上条を声だけで見送った。

「…ぅ…心無いない見送り…」

しかしもう慣れた、そのことにもなぜか悲しくなってきた上条はドアノブに手を掛ける。

その時、否定姫が声を掛けてきた。

「ああそうそう、上条!」

「あ?なんだ?」

「昨日のこと、今朝のこと、いずれも他言無用よ。それだけはお願いね?」

「ああ、わかったよ。そんなモン誰に言ったって信じちゃくれねぇよ……。じゃあ行ってくる」

バタン…。

と、上条は出て行った。

と思ったらすぐに引き返してきた。

「なに?忘れ物?」

「財布忘れるところだった」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



自分はつくづく不幸な人間だと思う。

先程、財布を取りに部屋まで行ったが、結局なかった。

そうだ、それはすなわち……。


「財布落としたぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」


今、上条当麻は走りながらダッシュしている。

財布を探していたせいで、バスはタッチの差で出てしまい。

と言うか、金など一銭もないのにどうやってバスに乗ろうとしたのだろう?


「…くっ…ポケットに奇跡的にバス代があったから良いものの…バスが無かったら意味無ぇじゃねぇかぁぁぁぁあ!!」


上条は走る。現在時刻八時〇五分。出席数・内申点・成績、全てがレッドとイ工口ーを混ぜたような色なのだ。

毎度の事件のせいで度重なる入院。

元々出来の悪い頭に追討ちを掛ける様に襲ってくる睡魔との激戦のせいで授業は頭に入らず。

しかしそれでも頑張って徹夜で勉強して臨んだ小テストは解答欄が一つずつずれていて結局赤点。

遅刻をせまいと早めに学校へ行こうとも、途中で鴉や野良犬の大群に追いかけられ、遅刻。


そして今、通学路の全ても信号に引っかかっていた。

そのことに弄らしいと近道を通ろうとするも、通る道々は道路工事で通行止め。

引き返しては進み、引き返しては進み……。

結局はいつもの正規の道を進めば一番速かったなんて、今は言ってられない。

910: 2011/06/08(水) 00:35:52.27 ID:FpnUJF7h0

「あははははぁ!あるある!あるよね!みんなあるよね!?そんなこと!あはははははははっ!!」

泣き笑いしながらいつもの通学路を突き進む。

周囲の怪しい目なんぞ気にする場合か。そんなことよりも遅刻の方が嫌だ。

とにかく今は走れ、メロスの如く走るのだ、上条当麻。

メロスは沈む太陽よりも速く走ったらしい。

そうだ、メロスになれ。メロスになるのだ。

走っている途中で山賊に襲われたり、川に落ちたり、服が破けて裸になったりはしたくないのだが。

というか実際にそうなってしまいそうだと思ってしまう自分がいるのが嫌だ。

「だっしゃぁぁぁぁぁぁあああ!!」

上条はその襲い掛かってくると予測できる“不幸”を追い払おうと、絶叫しながら……訂正する、ヤケクソに全力疾走する。


まぁ、某アニメOPで主人公が走っているシーンを、視聴者が何秒で走っているのか計算した所、

ジャマイカのボルトさんが真っ青になるタイムで走っていたことを、彼は知らない。


「ふふふふふ、あはは、あはははははは!!………不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!」


上条は顔の上半分は泣いて、下半分は笑い走っていた。

すれ違った人たちは気味悪そうな顔で上条を見る。

(あはははは!不幸だ、ああ不幸だぁ、こんちくしょぉぉぉぉぉおおおお!!)

とそこへ、一台のタクシーが上条の横へ追ってきた。

プププッーーー!

クラクションを鳴らし、タクシーの後部座席の窓が開いた。



「おうおう、朝っぱらからジョギングとは精が出るにゃー、上やん?」



と、後部座席に乗っていた奴が喋り掛けてきた。

「このふざけた喋り方は…土御門か!?」

「そうだにゃー?」

土御門元春は全力疾走の上条を、フザケタ顔で応援する。

「ほーれほれほれ、上やん頑張れにゃー」

「テメーこの野郎!!乗せてきやがれ!!一人でタクシーなんざ乗りやがってぇ!!」

上条はつっ走りながら土御門を睨みつける。

「………いくらだ?」

「…はぁ!?」

「いくらで乗る?」

「テメェ!金取んのかよ!!」

「当たり前ぜよ、これはタクシーだぜぇい?金を払ってタクシーだよなぁ、上やん?」

「あーくそ!!五〇〇円!!」

「………なにも聞こえないにゃー」

「七〇〇!!」

「え?なんだって?」

911: 2011/06/08(水) 00:44:25.26 ID:FpnUJF7h0

「あーもう!千!千円でどうだ!?」

「運転手さーん?もうHR始まっちゃうから飛ばしてくんないかにゃー?」

「あいよー」

「あああ!?わかった!!わかったから!!お前が望む条件でぇえ!!」

「よし乗れ!」

キキィッ!!

タクシーは止まる。

「ああ助かったぁあ!」

タクシーの後部座席のドアが自動で開き、上条はそこから突撃するかのごとく入る。


そして、タクシーは上条と土御門を乗せて走って行った。




914: 2011/06/08(水) 22:10:48.09 ID:FpnUJF7h0

「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ……あ~助かった」

上条は土御門の隣に座り、暴走する心臓を宥める。

「いや~助かったよ土御門。あそこでお前がいなかったら完全に遅刻だった」

上条は土御門に礼を言いながらカバンに入ってある水筒を取り出した。

「いや~お褒めにあずかって嬉しいにゃー」

土御門はヘラヘラしながら右手を胸ポケットに忍ばせている。

「そう言えば土御門、どうしてタクシーなんかに?」

「ああそれはちゃんとした理由があるからぜよ?」

「理由?」

土御門は胸ポケットから携帯電話を取り出し、上条に見せた。

「上やん、お前に一つ話しておきたいことがあったからだ」

「……」

土御門の声が低くなった。あのフザケタ口調は微塵もない。

どうやら真面目な話の様だ。

「どうした?」

土御門は携帯のワンセグでテレビ番組を見せてきた。

学園都市のテレビ局が毎朝やっているニュース番組だ。

「これを見てくれ」

「これは…?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『では、今日のニュースです。近頃学園都市に謎の“刀”のような物が現れたようです。数日前から各地で傷害事件が相次いで報告されていました。当時の捜査ではそれぞれの事件は関係ないと見られていましたが、昨日の夜、第七学区の三ヶ所で日本刀での傷害事件が発生した模様で、犯人はまだわかっていません。

また先日、同じ第七学区の裏路地で日本刀と大きな鎧を持った二人組のスキルアウトが傷害事件を起こし、そのまま逃走したという事件と、第十七学区では日本刀を持った大きな人形が人を襲うという事件があり、学園都市統括理事会はこれらの事件には何らかの関係性があると見て捜査しています。

生徒の皆さんはもし怪しい物を発見した場合は近くの警備員に通報し、絶対に近付かないようにしてください。

さて今日の解説は伊勢之守大学助教授 疋田景兼さんです。おはようございます』


『どうも』


『先生から見て、今回の事件は……』



「ふ~ん……やっとこの街は私達の……否、四季崎記紀が造りし完成形変体刀十二本の存在に気付き始めている……。ふふふ♪やっと面白くなってきた♪」

上条が土御門とタクシーに乗っている頃、上条宅にいた否定姫は寝っころがってテレビを見ていた。

上条達が見ているニュース番組だ。

915: 2011/06/08(水) 23:02:00.00 ID:FpnUJF7h0

「ひていひめ~、この子の傷を治す魔術の準備ができたよ!」

と否定姫の後ろのテーブルでインデックスは

上条のベッドで眠っている結標淡希の先の戦いで負った傷を治す魔術を

発動する為の神殿を作っていた。

「ああありがとう、インデックスちゃん。お礼に、ハイ!アメちゃん♪」

「わーい!」

インデックスは否定姫から飴玉を貰う。

完全に否定姫はインデックスの扱い方を覚えていた。

何か食べ物を与えれば何でもいう事は聞くだろうと。


否定姫はインデックスから数々の魔術を教えてもらった。(と言うより、お菓子で釣って教えてもらった)

今回はあの日、七月二十日でインデックスの傷を癒した魔術だ。

あの魔術は色々と危険だが、否定姫には問題ないだろう。

「ねぇ、ひていひめ」

「なぁに?インデックスちゃん」

「昨日何があったの?とうまは何も話してくれないし…。いつもそうなんだよ?勝手に私をスルーしてどこかに消えるし、見つければ大概は病院にいるし、怪我ばっかりしているし…」

「大変ね~、まぁ突っ走ってコケて怪我をしても何が何でも言わないってのが男って生き物だから……」


しかしそう言った否定姫はふと思った。

だったら、あの女はどうなのだろう…。

自分の復讐の為に、煮湯も泥水も飲んできていたのに、道半ばで格好悪く氏んでいったあの奇策士の女は何なのだろうかと……。

まぁいいか、そのあと虚刀流の男が代わりにその復讐をやってのけたのだから。


「それは後で言うわ。それよりこの子を治しましょ♪」

そして、結標淡希から『千刀 鎩』のことについて洗いざらい話してもらおう……。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「という訳だ、上やん」

昨日の事件のことのニュースが流れていた。

(やっべぇ~、昨日のことだ……。そういえば否定姫の奴、いずれ世間に知られるとか言ってたけど……そういう事か!)

上条の表情は平然を装うとしているが、顔中の大量の汗と、引き攣った表情がより、怪しく見える。

「へ~そんな事が起ってたんだ~。知らなかったよ」

「上やん、何か知らないか?」

「いや~上条さんは、な~んにも知りませんよ?」

「上やん、何か隠してないか?」

「いや?まったく」

「上やん、汗が凄いぞ」

916: 2011/06/08(水) 23:34:59.78 ID:FpnUJF7h0

「それはさっきメロスの如く突っ走ってたからじゃない?」

「上やん、顔が引き攣ってるぞ」

「それは相変わらずの土御門のファッションセンスに笑いを堪えているからさ」

「上やん、さっきから震えているぞ」

「実は昨日テレビで、激しい運動の後に貧乏揺すりをしたら、乳酸が取れるっていうのを見たから。それだよ」

「上やん、顔が真っ青だぞ」

「それはあれだ、このタクシーのクーラーが寒いからだよ。運転手のオッチャン、クーラーを暖房にして~」

「あいよ~」

「上やん、それはやめてくれ、そとは残暑で灼熱地獄だぞ」

「あそうなの?ごめん」

「上やん、最初っからずっと、台詞が棒読みなのだがどうしてだ?」

「………それはあれだよ、俺は……そう!ロボットの練習だよ!この前、吹寄に頼まれて第六学区の遊園地のマスコットのアルバイトを頼まれていて、それの喋りかたの練習だよ!!?」

「上やん、そこの遊園地のマスコットにはロボットはいないはずだが?」

「………行ったことあんの?」

「夏休みの最終日、舞夏と一緒に一日中そこの遊園地にいた」

「…………」

「上やん、もう一度聞く。何か隠していないか?」


『昨日のこと、今朝のこと、いずれも他言無用よ。それだけはお願いね?』


上条の脳裏に、あの女の声が聞こえてくる。

恐らく否定姫は魔術でこのことをずっと監視しているだろう。

もし、もしもだ、このグラサン口リコン軍曹にあの事を話したりしたら…。


上条家に俺の居場所がなくなる。


俺のウチなのに……。


(つーかコイツ、俺があの日散々な目に会っていたのに義妹と一緒に遊園地だとぉ?舐めやがってぇ…)

「お、俺はなんにも知らん!!何もしてないし、関係もない!!」

土御門はグイッっと上条に顔を近づけて来て、ドスの効いた声で訊いた。

「上やん……じゃあどうして、ウチの学生寮に軍隊が来んだ?」

「」

「そして、なんでお前は、結標淡希を担いでいたんだ?」

「……」

「そして、数日前からお前のウチに住み着いているのは、一体誰なんだ?」

917: 2011/06/09(木) 00:12:05.64 ID:gnZ7VfKm0

「ナ、ナンノコトデショ……」

「しらばくれんな、こちとらすべて丸々御見通しなんだよ。で、ヒテイヒメってだれなんだ?」

「………は、はぁ?ど、どどど、どこのお姫様なのかにゃー」

「人の口調パクってんじゃねーぞ。数日前から、お前の部屋からしゃべり声がずーっとうるさかったんだが」

「」

「あと、お前のウチから魔術を使ったような痕跡があったんだが…」

「し、知らねぇ…」

と上条が言うと、土御門はいきなり彼の喉にナイフを当てた。

「」

「上やん、お前、ふざけてんのか?これは学園都市の危機だ。もしもあんなモンがどっかの反学園都市組織に渡ったら、十中八九攻めてくる。ヘタすりゃ甚大な被害を受ける。氏人もでる」

「や、やめろ、つ、土御門!ほら、関係ない運転手のオッチャンがいるんだぞ!?」

「安心しろ上やん、このオッサンは俺の同僚だ」

「」

「マジ?」

「ああ、マジだ。大マジだ。……なぁ?」

と土御門は運転手のオッチャンに訊く。

「ええ、そうですよ。……しかし土御門の旦那、ここで人を脅すってぇのは別にいいんですけどねぇ?このタクシーを血の海にするのは頂けねぇや。この車には愛着があるし、掃除するのは私ですぜ?」

「そ、そうだ土御門!運転手のオッチャンに免じて、ここは勘弁してくれ!な?」

「安心しろ、金は払う」

「ならいい」

「ノォォォォォオオオオオオ!!」

薄情者め…。

「上やん、運転手のオッサンの許可も得た。あとはお前の意志だ。話してお前さんのお姫様に泣いて謝るか、話さずして喉を掻っ切られて一生声が出ない生活を送るか」

冷たいナイフの刃が、上条の首に当たる。

「……ヒッ…」

上条はグラサン越しの土御門の眼を見る。

「どっちだ、上やん」

この眼は…………殺る眼だ。

「わ、わかった!!話す!話すから!!」

「ならさっさと言え」

「その前にナイフをしまえ!!」

918: 2011/06/09(木) 00:41:55.54 ID:gnZ7VfKm0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「なるほど、そういう事だったのか」

「…………」

上条は昨日、今朝起ったことを洗いざらい話した………いや、吐かされた。

(こ、殺される……ぜってぇ殺される…)

顔を真っ青にして、地面にめり込むんじゃないかと言うくらいにテンションが下がった上条は、帰宅後になるだろう自分の現状を呪っていた。

「……なるほど…わかった。とりあえず、結標淡希はお前のウチにいるんだな?」

「ああ…そうだよ…」

「そんなにゲンナリすんなよぉ、上やん!」

バシバシッと土御門は上条の背中を叩く。

「まるで連敗中の阪神ファンだぜぃ?」

「うるせぇ、俺は横浜なんだよ…。今を時めくベイスターズなんだよ…。……つーかこのテンションはテメェのせいだ」

「いいじゃねぇか、毎度毎度の“不幸”だぜぇい?そんなもんいつものことじゃねぇですたい」

「あーもーうるせぇよ。………で、俺に何をしようっていうんだ?ただ話を聞くだけじゃないんだろ?」

「おお、察しがいいねぇ上やん。明日からの土日の話にゃー」

「おい、大覇星祭の準備はどーした」

「そんなもんサボっちまうにゃー、今はそれどころじゃねーんですたい」

「と、言うと?」

「実は学園都市に数人、この街の者でない輩がいる」

「」

「そいつらは妙な恰好をしているらしく、すぐに見つからないらしい」

「………おい、まさかそいつらの捜索じゃねぇだろうな」

「ピンポーン!今日はさっしがいいにゃー」

「いや、自分がこれから会うかなと思った不幸を言ったまでだ………不幸だ…」

「まぁそう言うなよ上やん、お前は数々の女の子を救ってきた英雄ぜよ?今度は学園都市を守るのだ!!それいけ上条当麻!今度はどんな女の子を落とすのか楽しみだにゃー」

「お前、実は遊んでいるだろう」

「はは~ん、何のことですたい?」

「………もういい。勝手にしろ」

「はいは~い。……っと上やん、学校に着いたぜよ」

とタクシーは学校の玄関に止まった、遅刻ギリギリなので、登校する生徒は少ない。

そんな中、上条は溜息をつきながら、土御門は笑顔でタクシーから降りた。

「はぁ~、不幸だ」

「オッサン、電話したらまた頼むぜぃ」

「はいよ~」

タクシーのドアは閉められ、颯爽と去って行った。

それを見送るこのなく、二人は校門を潜る、そしていつもの日常へと戻って行くのだ。

925: 2011/06/11(土) 16:49:45.84 ID:MnnJrEEq0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ここはどこ?」

「いつもの病院ですよ?お姉さま、とミサカ10032号はお姉さまにいいます」

御坂美琴はいつもの病院、そして前回と同じ病室で目を覚ました。

「またか……」

前回もこのような感じではなかったか?と美琴は思った。

「丸一日寝ていました、とミサカはお姉さまに報告します」

と言いながら、御坂妹は花を生けた花瓶を美琴のベッドの横の棚の上に置いた。

「入院しているのは私だけ?」

と美琴は聞く、まさか私ひとりじゃないだろうな…。

「いえ、心配せずともお姉さまの後輩の方もいらっしゃいます、とミサカはお姉さまの隣のベッドを指さします」

御坂妹が指さすベッドには、白井黒子が眠っていた。

しかしおかしい、美琴は疑問に思った。

なぜなら顔色が悪い。また、体中で掻いている汗は半端ではない量だった。

「どうして黒子が入院しているのよ?黒子の怪我は酷かったけど、入院しするような怪我じゃないって聞いたわよ」

「詳しくはわかりませんが、私から言えることは、この人はこの状態になるまで戦ったのです、とミサカは言います」

「どういうことよ?」

美琴は訊く。

御坂妹は、彼女の問いに答える為、美琴が倒れた後の状況を全て話した。

「……で、時は遅く、私たちが駆け付けた時には、彼女は酷くもがき苦しんでいました。恐らく痛み止めか何かで体の痛みを和らげて戦っていたのですが、途中で痛み止めが切れ、蓄積されたダメージが一気に押し寄せてきたのでしょう…とミサカは状況から予測したことを言います」

「そう…。で、黒子はどうなるの?」

美琴は心配そうな目で黒子を見た。

御坂妹はそんな姉を見て少し笑い、黒子のベッドに座り、彼女が掻いている汗で濡れた顔を拭いてあげた。

「命には別状はありません。ある程度のダメージと薬物の副作用が抜けたら目を覚ますと冥土返しが言っておられました、とミサカはお姉さままに言います」

御坂妹は立ち上がり、美琴の横の椅子に移った。

と、美琴は御坂妹の言葉の中にあった、気になるワードについて訊いた。

「副作用って何なの?」

美琴の問いに、御坂妹は真剣な顔で答えた。

「しばらくの間、体中の痛点が敏感になる事と、脳の痛みを感じるホルモンが大量に分泌されるそうです」

「ちょっ…それって覚醒剤の禁断症状じゃない!?」

「いえ、少し違います。確かにそのような類の薬物に近い種類の薬ですが、症状は一時的なもので、中毒性は無いようです。安心してください、目覚めたら違う人格になっていた…なんてことはとありません、とミサカはお姉さまを安心させます」

「そう…ならよかったわ」

「しかし心配なことが一つ」

926: 2011/06/11(土) 17:45:22.58 ID:MnnJrEEq0

「」

美琴はドキッとした表情をした。

もしかして、黒子の体に何か悪いものが……?

「いえ、そうではなくて……」

御坂妹は少し、気まずそうな表情で、美琴にある事を報告する。

「この方……白井黒子さんは………、私達の存在を知ってしまいました……」

「」

「彼女は結標淡希との戦いの一部始終を見ていたようです。そのあとミサカ17600号とも一戦交えています」

美琴は自分にかかっていた掛布団を強く握りしめた。

「きっと、目覚めたら訊いてくるでしょう……とミサカは何とも言えない表情になります」

「………………」

「もしもの時があれば、ご覚悟してください。私達はお姉さまが決めたことに従うつもりです、とミサカはお姉さまの顔を真っ直ぐ見て、10032号から20001号までの妹達全員の総意を伝えます」

「……………」

美琴は顔を俯かせ、口を堅く結んだ。

「……………」

姉の言葉を待つため、御坂妹もずっと黙っていた。

数分経った頃だろう、美琴は口を開いた。

「ごめんね?少し時間を取らせて?考えたいから……」

相当動揺しているのだろう、言葉の語順がバラバラだ。

「わかりました。しかし時間がありません。冥土返し曰く、明日か早ければ今日にも目を覚ますそうです、とミサカは立ち上がりながら言います」

「わかった、ありがとう……」

「では、お大事に………。とミサカはお姉さまに一礼します」

ガラララ……バタン……

そう言って御坂妹は出て行った。

美琴は布団に顔を埋めた。

呼吸を三十回ほどし、ベッドから降りた。

すると、ある事に気が付いた。

『鎩』で刺された右足は、包帯でグルグル巻きにされていたのだ。良く体を見ると体中に包帯が巻かれている。

見るからに重症だ。一生傷が残る者あるかもしれない。

しかし、黒子はもっと重症だ。自分よりも苦しんでいただろう。

なんという事だ……。

美琴はベッドに眠る黒子の手を取って、それを額に当てた。

「ごめん…黒子……ごめん……ごめん……」

私は…黒子に、学園都市の“闇”を見せてしまった…。

「本当にごめん…」

美琴の懺悔は、そうして、ずっと続いていた。

928: 2011/06/11(土) 21:06:04.72 ID:MnnJrEEq0

その頃、地下の訓練所。



ドゴォォォォォォオオオン!!



爆発音が響く。

鑢七花と絹旗最愛は今日も稽古をしていた。

絹旗は七花に飛び掛かり、拳を振り落す。



ダァァァァァァァァアン!!



絹旗の拳が床を砕く、半径2mの窪みが出来た。

「超避けないでください!七花さん!」

「避けなかったら痛ぇだろ!?」

七花はそれを紙一重で避けた。

それよりも痛いじゃすまされないだろう……というツッコミはもう何十回もしたから誰もしないのだが…。

絹旗はめり込んだ拳を支点にして七花の足に向かって水面蹴りをする。

七花はジャンプして避けたが、絹旗はそれを読んでいたのか、すぐに立ち上がって七花のボディに右ストレートを突き出す。

七花は何とかガードしたが、奥の壁にまで吹っ飛んだ。


「…………強くなったな、絹旗」

壁から、声が聞こえる。

「そりゃ…毎日の様に超吹っ飛ばされちゃあ誰だって強くなりますよ!」

絹旗は自慢げに話す。

「それに、昨日は全く活躍が無かったですからね、今日は七花さんをボコボコにするまで終わらないですよ!?」

「そうか…じゃあこっちも、もう一段階上げて行こうか」

と、いきなり絹旗の目の前に七花が現れた。

「」

完全に虚を突かれた絹旗は半歩反応が遅れる。

七花はそれを見逃さない!

「―――『虚刀流 木蓮』!」

「ガハッ!」

今度は絹旗が吹っ飛んだ。

「舐めんなよ絹旗、俺は本気の一割も出してないんだからな。ほら、来いよ」

七花は手を前に出し、おいでおいでと挑発する。

「俺をボコボコにするんだろ?」

すると、壁に激突した絹旗は前に出てきた。

「そっちこそ舐めないでほしいですね……泣いて謝っても知らないですよ!?」



ドガァァァァァァァァァァァァァァァン!!




929: 2011/06/11(土) 22:45:34.47 ID:MnnJrEEq0

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

七花と絹は旗がドンパチしているのを、奇策士とがめは見学していた。

「いや~相変わらず元気にやっているねぇ?」

そこへ冥土返しがやって来た。

「ああ、まったくだ」

とがめは返事をする。

「絹旗も強くなった、しかし結標淡希との戦いで自信をつけさせたかったのだが、流れてしまったのが痛手だな」

「いいじゃないか、彼女はあんなにも楽しそうだ」

「それではないのだよ、私が彼女に求めているのは」

と、とがめは冥土返しに反論する。

「これは遊びではない。真剣にしてもらわらければ氏に関わる。麦野がいい例だ」

そうだ、麦野沈利は今も昏睡状態だ。

「今の絹旗には、“勝利”というものが必要だ。それがあれば彼女の『強くなろう』という向上心が高まる」

「だったら絹旗さんじゃなくて、鑢くんを白井さん救出に向かわせなかったんだい?」

「……そうなのだよ……あの時、七花が結標と戦いたいとかいうから、絹旗は『七花さんがそういうなら…』と言って、結局、作戦は絹旗が一番槍に行って白井を救出し、七花と御坂妹で結標を倒す…と言うのになってしまったのだ!」

「君も日本人なんだねぇ?周りの空気を読んでしまうところがそうだ」

「まぁあの時は結標を倒すのにそう時間がかからないと思ったのだが、実際は三分も経っていなかった…。これが私の誤算だよ」

「まぁ無事に『千刀 鎩』を蒐集できたんだ、結果オーライだよ」

「いや、あと変体刀は十一本ある、油断は禁物だ。それに物事は大局を見定めなければならない」

とがめは立ち上がった。

「しかし絹旗が始めの頃より段違いに強くなってきておる。それだけは評価できる」

しかし、ととがめは付け加える。

「もう少し、氏に物狂いでやってほしいな。あれでは私の奇策が氏んでしまう。何とかならぬものか…」

そんなとがめの言葉に、冥土返しは……。

「……君、わかってないね。わかっていない」

「…なっ!?」

冥土返しはそう、反論した。

「なにがわかっていないのだ!?私の奇策通りに行けば……」

「いや、わかっていないね?人が強くなる理由はそれだけではないよ?」

「な…?」

「まぁ、君はまだ若いんだから、その内わかるよ?……いや、若かった…だね?」

「………」

「じゃあ、僕は御坂さんと白井さんと麦野さんの容体見てくるからね?二人のことをよろしく頼んだよ?」

と、冥土返しは訓練所から出て行った。

「……………」

とがめは、出て行った冥土返しの背中を睨んで見送った。

937: 2011/06/13(月) 01:17:19.46 ID:/tjACWE70
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「………不幸だ…」


上条はそう、呟いた。

「上条ちゃん!聞いているんですか!?」

と、前方から上条を呼ぶ、小学生くらいの、幼い声がする。

「だって小萌先生、ワタクシ上条当麻は昨晩は徹夜だったんですよ?クッタクタの状態からの補修って鬼ですか?」

上条はその声に楯突く。

「今日の授業のほとんどを寝てて聴いていなかった上条ちゃんが悪いんです!」

「小萌先生~!今からスーパーの特売が~!!」

「だめです!しかも、この補修を受けているのは上条ちゃんだけですよ?」

上条の前方、教壇の上に立っていて、上条に説教をしている人物…月詠小萌は、上条へ近付いて行った。

「大体、上条ちゃんは開発の成績どころか、一般教科の成績も危ないんですよ?徹夜でゲームばっかりしていると、本当に落第しちゃいますよ?」

「……ぅ…」

上条は言葉を詰まらせる。

この上条の目の前にいる人物、月読小萌は上条の担任の教師である。

しかしこの人物、パッと見たらどうも小学生に見える。

ランドセルを担がせ、小学校の教室のど真ん中に座らせても、絶対に誰も“大人”とは気付けないだろう、そういう位の容姿なのだ。


と、その時、ガラッ…と教室のドアが開いた。

「月詠先生……ちょっと…」

「黄泉川先生!?どうしたんですか?」

廊下から顔を出してきたのは、隣のクラスの担任の黄泉川愛穂だ。警備員もしており、よく小萌先生と呑みに行っているらしい。(青髪ピアス談)

その黄泉川先生がどうしたんだろう?と上条は彼女の方を見た。

「今日の朝のニュースのことで、緊急の職員会議があるそうですので、至急に職員室に来てください」

「あ、はいわかりました!……しょうがないので、上条ちゃんは帰っていいです。黒板を奇麗に消してから帰ってくださいね?」

「え!?やったぁああ!!ラッキー!」

と上条は大喜びする。しかしそれを見た小萌は…。

「……………上条ちゃんは……私の授業が……面白くないんでですか……?」

と、今にも泣き出しそうな顔をする。

「……」

ヤバ…どうしよう…。

「上条、何しているじゃん。さっさと謝れ」

と、黄泉川が上条を睨む。

「は、はい!すいませんでした!!」

「それと?」

「これからは!一層日頃の学問に対する姿勢を改めたいと思います!!」

「……グズッ……本当ですか?」

「本当であります!!」

「ならいいです………行きましょう、黄泉川先生」

と、小萌は黄泉川を連れて、去って行ってしまった。

938: 2011/06/13(月) 01:51:43.84 ID:/tjACWE70

「気まずくなったな……」

上条は黒板を奇麗に消し、教室から出て行った。

スーパーの特売はもう、とうの昔に終わっているだろう。

「はぁ…」

上条は一つ、溜息をつく。

やっぱり、自分はダメな人間なのだろうか。いつもいつも誰かに心配を掛けさせてしまう。

インデックスであったり、さっきの様に小萌先生の様に、やっぱり俺はダメなんだろうか。

確かに今まで、“多く”とは言い難いが、不幸な人たちを助けてきた。

特殊な血を持ってしまった姫神だったり、とある実験に翻弄された御坂やその妹達だったり、ゴーレムに襲われた風斬だったり、呪いを掛けられた女性と彼女を助けようとした闇咲だったり、宗教裁判にかけられそうになったオルソラだったり、千本もの刀を持ってしまった結標だったり……。


しかし、人を悲しい気分にさせてしまった。

これは本当に気まずい。後ろ髪を引かれる思いだ。

「……不幸だ…」


「なにブツブツ言ってんだ?上条当麻」


とその時、後ろから声が聞こえた。

「?」

上条は振り向く。

「吹寄…」

「まったく、いつもいつも、口を開けば『不幸だ』とばかり言って……。本当に嫌な男だな」

「ははは…」

上条を吹寄に愛想笑いをする。

彼女の名は吹寄制理。上条のクラスメイトである。大きな胸とオデコがチャームポイントだ。

「お前、今から帰りか?」

と吹寄が上条の隣に追いつき、一緒にに歩く。

「ああ、そうれがどうした?」

「いや、今から私の家の近所のスーパーの特売があるのだが、そこは一人タマゴが一つまでなんだ。そこで、お前にも手伝ってもらいたい。……いいか?」

「ああ、むしろ助かる。ちょうど今日の特売に行きそこなったところなんだ………お前のウチの近くのスーパーって、今日は肉が安かったよな…?」

「ああそうだ。来てくれるか?」

「ああ、もちろん!」

傍から見れば、まるで恋人同士の会話なのだが………二人はまったく気づいていない。


と、そんな二人は階段を降りようとした、その時………。

942: 2011/06/14(火) 19:08:29.92 ID:jpyJX9vN0

二人は階段を降りようとした、その時………。



上条は足を踏み外した。



「ぅわ!」

上条は階段から落ちそうになる。

「な、何やってんだ!?」

吹寄は落ちないように上条の手を取る。

「!」

しかし吹寄は上条の体重に耐え切れず、二人一緒に階段を落ちる。


ズダダダダダダダダ……


派手に落ちた音がした。

(イタタタタタ…)

上条は大きな瘤を作った頭を押さえる。

「大丈夫か?吹寄………え?」

上条は固まる。

「…ぅん………どうした、上条当麻……イタタタタ……相変わらず、ドジな奴だ…」

「お前…」

「」


953: 2011/06/15(水) 16:31:08.86 ID:IDP7mpGt0

二人は階段を降りようとした、その時………。



上条は足を踏み外した。



「ぅわ!」

上条は階段から落ちそうになる。

「な、何やってんだ!?」

吹寄は落ちないように上条の手を取る。

「!」

しかし吹寄は上条の体重に耐え切れず、二人一緒に階段を落ちる。

眼を閉じ、吹寄を衝撃から守る為に彼女の体を抱きかかえる


ズダダダダダダダダ……!!


派手に落ちた音がする。


ドガッ!


と、上条が壁に激突する音もあとからした。




(イタタタタタ…)

上条は後頭部にできた大きな瘤から激痛がする。

クワンクワンとする頭を何とか抑え、上条は目を開ける。

「大丈夫か?吹寄………え?」

上条は固まる。

「…ぅ………」

吹寄は、そーっと目を開ける。

「……上条当麻……イタタタタ……お前は…本っ当に相変わらず、ドジな奴だ…」

どうやら吹寄は無傷のようだ。

「……」

「?」

固まっている上条を見た吹寄は、首をかしげる。

「どうしたのだ?」

返事がない。

上条はなんだか、吹寄の体を見ているようだ。

「…?」

吹寄は視線を下に下げる。

「……ヒッ…!」

954: 2011/06/15(水) 17:32:01.63 ID:IDP7mpGt0


自分は、本当に不幸な人間だ。自他ともにそれを認める。

マンホールに落ちたり、上空からカラスの糞が頭にテクニカルヒットしたり、空き缶を踏ん付けてせっかく買ったタマゴを全滅させたり……。

そして今、階段から落ちた。

(イタタタタタタ……)

頭がクワンクワンする。

「大丈夫か?吹寄………え?」

そして、上条は頭は真っ白になった。

「……」

上条と吹寄の今の状況……。

今は、吹寄が怪我をしないように上条は彼女を庇った状態だ。

即ち……吹寄の体は、上条の体に覆いかぶさるような体勢になっている。




上条の視線は、吹寄を…いや、吹寄の下半身へと向けられていた。

上条の立てられた膝が、吹寄のスカートを器用に上げて、純白の三角形(無地の白パンツ)を曝け出していた。

(……ぉふ…)

危ない……。危うく鼻の下を伸ばすところだった…。

そんなのを吹寄に見られたら、速攻でボッコボコにされて、犬の餌にされてしまう。

「……ヒッ…!」

吹寄は、珍しく女の子らしい悲鳴を上げる。

それも無理じゃない、彼女も女の子だ。他人に自分のパンツを見られたらそんな悲鳴の一つや二つ……。

(……って、…あれ?)

上条はある異変に気付いた。

(吹寄は……パンツの方を見てない…?)

彼はそう疑問をしたが、その答えはすぐにわかった。



(嗚呼、なんということでしょう……)



上条の両手は、吹寄の大きな胸を鷲掴みにしていた。


しかも…なんでこうなったのかはわからんが、右手だけが服の中に入っていた。

………あれ?なんだろう……右の掌になんだか、コリコリしたものが……。


「~~~~~~///」

吹寄の顔はカーッと紅くなっていった。

955: 2011/06/15(水) 19:03:36.24 ID:IDP7mpGt0
(………え!?…もしかして、生!?俺って吹寄のオッOイを生で触ってんのかぁ!?)

どうやら上条の右手は、どういう訳か吹寄のブラジャーの中に侵入していて、引っ掛かって取れないようなのである。

………そして、吹寄のオッOイを揉んでいるような形になってしまったのだ。

幻想頃しの右手は偶然にも、男の幻想(ユメ)を叶えたのである。

(……あ、柔らかくて……キモチイイ…)

と上条はつい、鼻の下を伸ばしてしまった。

「……ッは!」

上条は吹寄の顔を見る。

彼女の真っ赤の顔は俯かれていた。

ふるふるふるっ……と、吹寄の体が震えている。

「あ…あの吹寄さん!?……これは、ふ、不可抗力です!!」

上条は『怒』のオーラが立ち込める吹寄に、自分の潔白を訴える。

「……か……か……か………」

しかしその甲斐なく、彼女は潤んだ目で上条を捕らえた。

「上条…当麻……貴様……って、奴はぁぁぁあああああ!!」

吹寄は上条の顔面を殴りつけようとする。

「ぎゃぁぁああ!!止めろ吹寄ぇええ!!」

上条は両手で吹寄の拳をガードしようとする。

……グイッ!

と、上条の右手に引っかかった胸は引っ張られた。

「…へ?」

と吹寄が間抜けな声を出す。

直後、上条の右手とくっついている吹寄の胸は、そのまま上条の顔に『モフッ』と突っ込んだ。

「」「」

一瞬何が何だかわからなくなる二人。

(………な、なんだ、このシュチエーションは……スー…ハー…スー…ハー…。あ…やべぇ……いいにおいがする……)

顔を大きな(Fカップはいっているだろう)胸に突っ込んだ上条は、男の性に流されかけた。

「は…離れろ馬鹿野郎ォォォォオオオオ!!」

しかし、吹寄は上条の肩を掴んで無理やり離れる。

「正気に戻らんかい!上条当麻!!」

「…ッは!」

「なにを野生の猿みたいに発情してんだ!?」

「…す、すまん」

と、吹寄に罵倒される。

(……そういえば白井黒子は自分のことを『類人猿』とか言っていたな…)

「と、とりあえず…上条当麻!……この手を…は、放してくれないか……///」

と、紅い顔で上条を見下ろして頼んできた。

「あ、ああ。わかった///」

上条も顔を紅くした。

956: 2011/06/15(水) 20:59:28.52 ID:IDP7mpGt0
上条は早速、右手をブラから抜こうとするが……。

「……ひゃ……///」

吹寄は甘い声を出す。

「か、上条当麻!…も、もっとちゃんと出来んのか!?」

はぁ…はぁ…と、紅い顔で吐息を吐きながら、吹寄は言った。

「なっ、しょうがねぇだろ!?」

今の上条は冷静ではなかった。

それも仕方ない、なにせオッOイを直に見るのは色々とあるが、こうして思いっきり揉んでいるのは人生初だ。(記憶を失う前は知らないが)

吹寄にそれを言うと、赤面する顔を反らした。

「……す、少しは我慢するから……は、早く抜いてくれ……///」

ヤバい、本人は気付いていないが、『抜いてくれ』は別の意味に聞こえてしまう。

「わ、わかった…///」

上条は湧き出てくる感情をグッと堪え、右手をブラから抜こうとするが、吹寄はどうやら大きな胸なのに、なぜかわざと一回り小さなブラを着てきているようだ。

これでは抜けようにも抜けない。しかし、上条はそれでも、無理やり抜こうとする。

「……はぁ…ぃや……ぁぁああ……ぁん!///」

しかし、どうにも抜けない。むしろ上条の右手は吹寄の胸を激しく揉んでいるようになってしまう。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

吹寄の喘ぎ声が耳をくすぐる。心臓がバクバクバクとマッハで暴走しだす。

「上条…当麻……はぁ…はぁ………ま…だか…?……………ひゃう!///」

吹寄は暖かい吐息を上条に掛る。

その息が、上条の耳に当たっていた。

「(……やっべぇ…)………す、すまねぇ吹寄」

「は、早くしてくれ……はぁ…はぁ……///(……頭が真っ白になってきた)」

吹寄の体はビクッビクッと電流が流れたようになる。

無いのか、この状況を打破できる。奇策は無いのか。

(………えぇい!!ちきしょう!)

上条は左手を吹寄の左胸に当てて、一気に引抜こうとする。

でもまだ抜けない。

両手で胸を揉んでいる絵になってしまっているが、上条はそれでも湧き上がる野生を抑え、手を抜こうとする。

「…ぁあ///」

「ぅわ!す、すまん吹寄///(……がんばれ俺の理性…)」

吹寄は勝手に喉から出る喘ぎ声を我慢する為、右手の指を噛む。

「~~~~~!!///」

それは、健全な男子高校生の上条にとって、さらに野性を掻き立ててしまう表情だった。

「~~~~~~~~~///(ギャァアアア!抑えろ!!抑えるんだ俺も野生よ!!息子よぉぉぉお!!)」

しかしその上条の願いとは裏腹に、上条の下半身のとある一部は熱くなってきていた。

(ダメだ…吹寄の胸……柔らかすぎて気持ち良すぎる……。このまま押し倒したら………ダァァアアアアアア!!変な事を考えるなぁ!!何やってんだ俺の理性!!ちゃんと働けぇえ!!)

しかし上条の手は抜けない。

(そ、そうだ、吹寄と目を合わせなければいいんだ!!そうだ!下を見れば……)

と、上条は足ものに視線を向ける………と。

「」

958: 2011/06/15(水) 22:20:11.98 ID:IDP7mpGt0

吹寄の眼には涙が浮かばれていた。

「」

「上条当麻!!」

「はいっ!!」

「貴様はこの私を辱めた。だから貴様も同じ目に会わせてやる!!」

「……なっ!?///」

「赤くなるな!」

吹寄はガクガクガクッと震える足を抑え、なんとかして立ち上がる。

「お、覚えていろ上条当麻!」

そして、そのまま立ち去ろうとしたが……。

「っ痛ぅ!」

右足を抑えてしゃがみ込む。

「だ、大丈夫か吹寄!?」

どうやら、階段から落ちた時に足を挫いた様だ。

「く、来るな。この変態!」

「………ぅ、うるせぇよ!てめぇ、怪我してんじゃねぇか!」

「」

「怪我してんだったら無理すんな。お前大覇星祭の実行委員だろ?ここで大きな怪我なんかされたら、俺どころか、土御門や青髪ピアスや姫神が困る事になるんだ」

上条はそう言いながら、吹寄の肩を持ち、体をおんぶする。

「さっきのは俺が悪かったし、謝る。でも、これくらいはさせてくれ………よいっしょ」

「ぅ…うすさい、さっさと降ろせ!」

「やなこった」

「貴様~~~!!」

「どうと言え、首も絞めていい。でも降ろさねぇよ、絶対に。…………とりあえず保健室いくぞ」

「…………くそっ」

「なんか言ったか?」

「なんにもない!」


そうして、上条は吹寄を背負って保健室まで行った。

どうやら吹寄は軽い捻挫の様だったようだが、しばらくは歩けないだろう。

結局、吹寄は足に湿布を張って、衣服が色々と濡れていたため、保健室で体育のジャージに着替えた。

二人はそのまま帰った。


そうそう、その保健室で二人はもう一悶着していたのだが、

詳しい内容は読者の皆さまの御想像にお任せするとしよう。

967: 2011/06/17(金) 19:23:26.67 ID:RGBjMaEq0
上条は、背中に吹寄をおんぶして女子学生寮までの道のりを歩いていた。

そういえば今朝のことと既視感を感じる。

あの時と同じ道だ、無理もない。

あの時と同じ道、同じ風景。

あの時とは別人だが、あの時と同じ異性。

体重もあの子と同じ軽さで、あの子が髪を降ろしたら丁度、吹寄と同じ長さだろう。

背中に当たる胸の感触も……こっちの方が大きいか。

ただ、違っている点は……、二人とも顔が紅い事だ。

「…………」

「…………」

二人とも無言である。

無理もない、保健室であんなことがあったから……。

「………なぁ上条当麻…」

吹寄がこの重たい空気の中で、口を開いた。

「…な、なんだ?」

「…………明日の土曜日…暇か?」

「」

上条は驚いた、なにせついさっきまで女の子(特に吹寄)が嫌がる事し沢山してしまったからだ。

なんで急に吹寄はそんな自分に、こんなことを聞いてくるのか?

「………実は…最初から聞こうと思っていたんだ……」

「ああ」

「どうだ?たまには二人で……」

「すまねぇ吹寄、明日と明後日は土御門と一緒に出掛ける予定なんだ」

「………そうか……何しに行くんだ?」

「」

おっと、これは秘密事項だった。

「………遊びに…」

「……そうか…」

よし、何とか誤魔化せた……。

「じゃあ、私も行っていいか?」

「」

「………ダメか?」

「……(どうしよう…)ふ、吹寄、明日はきっとお前にはつまらないと思うぞ?」

「………そうか……」

「(よし、ひとまず、なんとか乗り切った…)………ホッ…」

上条はつい、ホッと息をつく。

「…上条当麻…さっきホッとしただろう…?」

しかし、吹寄はそれを見逃さなかった。

「ギクッ」

「ギクッってしただろう…?」

968: 2011/06/17(金) 21:23:03.41 ID:RGBjMaEq0
インデックス然り、美琴然り、否定姫然り…本当に女って生き物は、どうも鋭い。

なぜわかるのだろう……?

「そんなもの、見ればわかる」

「……吹寄さん……どうしてワタクシの考えていることがわかるのでしょうか?」

「そんなもの、見ればわかる」

「お前は読心能力者か!無能力者だろ!」

「……嘘を言う時は顔や体の筋肉が少し硬直する。それと、その嘘が通った時、少し安堵した表情になる」

「……」

「私はいつも、月詠先生に心理学を個人的に学んでいてな……。それでわかった」

「…ああ、なるほど。……でも、なんでそんなもん勉強してんだ?」

上条の問いに吹寄は一瞬、顔をグッと固くする。

しかし、上条はそんな吹寄の表情をおんぶしている為、見ることができない。

「…………私は…」

吹寄は、少し言葉を溜める。

そして、何か決意したような表情で、口を開いた。

「……私は、昔、心理系の……読心能力者になりたかったんだ……小さい頃の話だけどな」

「……」

「そこ頃、テレビのドラマで、読心能力者の探偵が事件を解決していくって番組があっただろう?」

上条は一瞬ヒヤッとした。記憶が無いから、そういう事は合わせるしかない。そこで、適当に「ああ」と答えたが…。

「……嘘だろ」

あっさり嘘を見破られた。そんなに分かり易い人間なのだろうか自分は。

「…仕方ないさ、小さい頃だったからな、4、5歳の子がドラマなんて見ているはずがない」

良かった、どうやら吹寄は『そのドラマを見ていない』と思っているようだ。

記憶喪失の事はばれていない。

「…あの頃はただ単純に憧れていた。だから私も学園都市に入学して、あの探偵みたいに活躍したい…って思っていたんだ。…まぁ子供考えだ、仕方ない」

「……」

「でも…実際は違った……。研究員の方はこう言った。『残念だが、君には才能がないって』とな。私は一晩中泣いたよ、悔しくて」

上条はふと思った。もしかして、記憶を失う前の自分もそう言われて、どういう気持ちだったのだろうかと、悔しかったのだろうなのかと。

「……まぁ無能力者が何を言ってもしょうがない、超能力者や大能力者には私達が何を訴えても、虫が鳴いているのと同じ扱いなんだろう」

「………」

「中学生の時は、能力を持っている奴はさぞかし、私達を馬鹿にした目で見ているんだろうなって……そう思っていたんだ。……本当の事を言うと今もそうだ。だから私は超能力じゃない、他の方向の『チカラ』が欲しくて、私は心理学を学んでいるんだ」

吹寄は首だけで空を仰いだ。

「私は負けず嫌いなのはお前も知っているだろう?」

そして、自分を嘲笑する様な顔をした。

「どうだ?情けないだろ?私は、嫉妬と自己満足で生きているんだ」

その時、吹寄は思った。

……そうして、私はこんな男に自分の話を…月詠先生ではなく、姫神でもなく、クラスでも最も素行の悪い男に話したのだろうか。

まぁいいか、もう遅いか。

969: 2011/06/17(金) 23:16:12.70 ID:RGBjMaEq0
きっと、上条当麻は私のことを嫌いになったのだろうか。……別にどうってことはない、私にとっては友人でもなければ家族でもない。ただのクラスメートだ。ただ、日頃からよく話しているだけの……。

試しに訊いてみようか。

「なぁお前、私が嫌いになったか?」

ああ、言ってしまった。きっとこいつは私を変なモノを見る目で見るのだろうか。



「………ふ…ふふ…あはははははははははははははははははははははは!!」



「」

上条はいきなり笑いだした。

「な、なにが可笑しい!?」

「ははは!……いや…ごめん…ははははははははは!!」

「~~~~!」

上条はお笑いしながら歩く。今、歩いているのは通学路にある展望台だ。

「ははは…すまんすまん……あまりにも言っていることが逆で……ははは!!」

「はぁ!?」




上条は立ち止まり、展望台から望む、ビルとビルの間に消える夕日を眺めた。

「なぁ、なんで今日、俺が残されていたかわかるか?」

「?……寝不足で月詠先生の授業中に居眠りしていたからだろう?」

「ああ…それはそうなんだが、じゃあなんで俺が寝不足だったかわかるか?」

「お前が月詠先生に怒られていたとき、夜中ゲームばっかしていたって言っていたじゃないか」

「実はそうじゃないんだ」

「」

「知りたいか?」

「……そこまで言われたら知りたいに決まっているだろう?」

「はは、それはそうか…」

上条は歩きだした…。

「実は…俺は昨夜、あるヤツを助けに行ってたんだ」

上条の言葉に、吹寄は驚いた。いつも自分を困らせる行為ばかりしてくる上条しか見ていなかった吹寄には新鮮だったからだ。

「詳しいことは言えないけど……、俺は助けに行った奴の為に行ったんだが……結局はそいつの敵だった奴をおぶって帰って行ったんだけどな…」

吹寄は上条の話を黙って聞く。

「その時、あの子が言っていたことが、お前がさっき言った事のまるいっきり逆のことを言ってんだ……これが」

「……どんなことを言っていたんだ?」

970: 2011/06/18(土) 00:11:38.31 ID:z36DEtpW0
「ん?……あの子は空間移動系の大能力者だったんだ」

「…なっ!?」

「驚いたか?……まぁその子は自分の能力は、人を容易に傷つけてしまうから怖いって言っていたんだ…。私はこの能力を持った時から、化け物になったんだって、そう言っていたんだ」

「………」

「その子は自分の能力を嫌がって、お前は自分は能力が欲しくて欲しくてしょうがない…………な?ホントに逆だろ?」

上条はまた立ち止まり、展望台の隅にあるベンチを顎で指した。

「ちょうどあそこのベンチだ。そこに座らせて、俺は言ったんだ。『お前は化け物じゃねぇ。ただの女の子だ』ってな」

上条はベンチから目を離し、再び歩き出す。

「………お前はお前だ。それ以上でもそれ以下でもない。吹寄制理は吹寄制理だよ。お前が今まで何をしてきても、これからどんなことをしてきても、もしお前が超能力者になっていたとしても、もしお前がこれからどんな『チカラ』を手に入れようとも……」

上条は夕日に体を向ける、吹寄は余りにもの眩しさで目に手を当てる。

「俺の友達の吹寄制理だ。そればっかりは変わらない。んで、俺もお前も無能力者だ。馬鹿にはできねぇよ」

「上条当麻……」

「それに、必ずしも超能力者や大能力者が俺達、無能力者を馬鹿にした眼で見ている訳じゃないさ」

「そ、そうなのか?」

「ああ、それにお前が日頃から頑張って心理学を学んでいるんだ。それはきっと将来役に立つよ」

「………ありがとう///」

上条は展望台の奥の階段を登る、そこを向けてしばらく歩いたら女子寮だ。

「上条……」

吹寄はぎゅっと上条の首を抱いた。

「!………どうした?」

上条は背中に当たる胸から来る鼓動を何とか抑えた。

「このことを言って、最初は嫌われると思っていた…。でも、今は言って良かったと思っている。…………ありがとう///」

上条はふっと笑った。

「どういたしまして」

「それともう一つ」

「なんだ?」

「お前の背中……暖かいな///」

「それもどうも」

「………本当に…ありがとな……」ボソッ

「?…何か言ったか?」

「いや、なにもない。気にするな」

「そうか…」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

979: 2011/06/19(日) 19:48:48.54 ID:RFIH4Chf0
「よっと…ふ~。やっと着いた…」

上条は吹寄をおぶって、無事に女子寮までたどり着いた。

「よし、もう少しだ…」

と、上条は女子寮へ入ろうとした。

しかしそんな上条を吹寄は止めた。

「あ、ここまででいい」

「え?いいのか?」

「ああ……降ろしてくれ」

「あ、ああ」

吹寄は上条にそう言って、上条の背中からゆっくりと左足から地面に足をつけた。

「じゃ、今日はありがとな」

と、吹寄は右足を引きずって寮の入口へと進む。

「おい!大丈夫かよ…その足で階段は…」

「ああ、いい、エレベータがあるからな」

「ああ、そうか…」

と、吹寄は上条の方へと体を向けた。

「……上条当麻」

「なんだ?」

「………今日はすまなかったな…」

申し訳ない。といった顔だった。

「…いや、それはこっちのセリフだよ。本当にごめんな」

「…いや、あれはもう過ぎたことだ、いいさ。……送ってくれてありがとう、この礼は後で返す」

吹寄は踵を返し、寮の中へと入っていった。

「……あ……。いっちゃった……」

上条は「まあいいか」と呟いて、自分が住む男子寮へと足を向けた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


どさっ……、とベッドが揺れる音がした。

吹寄制理が、ベッドに倒れ込んだ音だ。

「…………」

吹寄は帰ってきた後すぐにシャワーを浴びた。

シャワー上がりで濡れた髪で、ベッドのシーツが濡れる。

「…はぁ…」

顔が紅い。それは風呂上りだから…ではない。実は帰ってきてからずっと紅いのだ。

「上条…当麻…か…」

ずっと、男なんて唯の馬鹿としか見ていなくて、今日みたいに男…上条当麻をこんなに意識した時は無かった。

「………暑い…」

体が暑い…帰ってきてからずっと体が火照っている。

「なんなんだ……一体…?」

そう考えている間に、吹寄は眠りについた。

980: 2011/06/19(日) 20:34:40.44 ID:RFIH4Chf0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

夕方、第七学区のとある病院の一室…。

しんと静まり返った病室の中にあるベッドに座っていた御坂美琴は、隣のベッドで眠っている後輩 白井黒子をじっと見つめていた。

美琴は出された夕飯も手に出さず、黒子が目を覚ますのを待っていた。

「……黒子…」

と、そこへ、一人の人物がやって来た。

「おい、あまり無理すると、自分の怪我に響くぞ」

「アンタ…」

奇策士とがめだった。

「そなた…先程出された夕飯を口にしなかったそうだな、それでは治る怪我も治らんぞ」

「いいじゃないそんなの…自分の後輩がこうなっているのに、一人で呑気にご飯食べている場合じゃないでしょ…!」

「……そうか……まぁ、好きにすればいいさ」

とがめは黒子のベッドの横にあるイスに座った。

「……私達が『千刀 鎩』を蒐集できたのはこの者が戦ってくれたからだ…。そして、この様な容体になってしまったのは私達の責任だ……。本当にすまないと思っている。そして、言葉をいくら重ねても足りぬくらいに感謝しておる」

「」

とがめのその真剣な表情に、美琴は驚いた。

すると、とがめはスクッと立ち上がり、この部屋の出口へと出て行った。

「今のところはまだ目を覚ましていないようだし、また出直すとしよう。………私達はもう帰る、もし彼女が目を覚ましたら私達が礼を言っていた事を伝えておいてくれ………では」

バタン…

とがめが出て行って、また静かになった。

と、その時……。

「…………ぅ…ん…」

黒子の目蓋が動いた。

「……く、黒子!?」

「………お姉さま…?」

黒子は、うっすらと目蓋を上げた。

「大丈夫!?黒子…黒子!」

美琴は黒子に抱き着く。

「よかった……よかった……!」

美琴の眼には涙が浮かんでいた。

「お姉さま……?」

「心配したんだからね!?」

「お姉さま……」

美琴は黒子の体をギュッと抱き、黒子はそれに応える様に抱き返す。

「お姉さま…」

「黒子…黒子…」

「お姉さま……」

「黒子…!」

「お姉さま……」

「黒子……」

981: 2011/06/19(日) 21:58:30.98 ID:RFIH4Chf0
「お姉さま……ハァハァ…」

「黒子…!」

「お姉さまぁん……ハァハァ…」

「黒子…え?」

「お姉さまぁん♪やっとわたくしの“愛”に気付いてくださいましたの!!ああ、わたくし白井黒子、一生の至福!!お姉さま、ああお姉さま、お姉さま……愛しのお姉さまとこうして愛を語れるなんて……黒子最ッ高し幸せですの!!………さぁお姉さま、愛のキスを……ぅう~~~ん♪」

と黒子は口を尖らせ、美琴の唇へと顔を近付かせる。

しかし美琴はその気持ち悪い顔の両頬を両手でぱぁんと掴む。

「アンタ…人があんだけ心配してやって…ご飯も食べずに……一睡もせずに………なのに…なんでアンタはそんななのよ!!」

ビリビリビリビリ!!

ぎゃあああああああああああああああああ!!

美琴は黒子に電流を浴びさせた。

「ああ…お姉さまの電撃も……幸せなのですの~……」

顔を真っ赤にした美琴は松葉杖を持って、さっさと出て行った。

「………ふん!」

バタンッ!!

怒りが込められた、ドアを閉める音が黒子の耳を刺した。

「……………」

また再び、静寂が戻る。

と、黒子は起き上がった。

「……はぁ…まったく、酷い目に会いましたの…まさか副作用があんなに酷い者とは思いもしませんでした……」

黒子はベッドの傍にある棚の引き出しを引き、中を漁った。

「…………えっと……あ、あったあった…」

引き出しの中から小さなフォルムの、自分の携帯電話を取り出した。

そして、とある人物に電話を掛けた。

トゥルルルルルル…トゥルルルルルル…トゥルルルルルル……ガチャッ

『……はいもしもし?』

きっちり3コールで出た。

「あ、もしもし初春ですの?」

相手は、同じ風紀委員一七七支部所属の黒子の同僚に当たる、初春飾利だった。

『どうしたんですか?…パリッ……あ、白井さん大丈夫でしたか?いきなり入院するっていうからびっくりしました!……パリッ…バリバリ…』

「そんなことより、初春に調べて貰いたいことがありますの!」

『なんでふか?……パリッ…パリッ…ムシャムシャ……』

「………初春?さっきから変な物音がするのですが……」

『ああ、これですか?この前、新発売したパテチです!なかなか美味しいんですよ!?……白井さんもどうですか?……って、病人にはダメですね、失敬失敬ww』

「………退院したら覚えてくださいまし……」

『…で、調べてほしい事とは?』

「ああ、そうでした!…………まず、八月二十一日の十七学区の操車場で起こった事の全て。次に御坂美琴お姉さまの軍事クローンがいるという都市伝説がありましたわよね?それの真相と詳細を…。その次に昨日の九月十四日に起きた結標淡希が企てた騒動の原因と結果と今後の彼女らの処分についてを……これら三つを調べてほしいのですの!」

『…うっわ……いつもよりハードな依頼ですね……、報酬は?』

982: 2011/06/19(日) 22:33:29.37 ID:RFIH4Chf0
「学舎の園のポワソノルージュのケーキ食べ放題チケット」

『乗りました』

即答だった。

『じゃあ、調べがついたらこっちから電話しますね?』

「わかりましたわ、ではまた…」

黒子は電話を切った。

「………ふ~」

一つ、息を吹いてみる。

「………」

昨日の光景は一体なんだったのだろう……?

御坂美琴には、彼女のDNAサンプルを使って生みだされた軍用クローンが存在するという噂は一時期だが流行った。

昨日見た光景……それは結標淡希を取り囲む美琴そっくりの容姿の、銃を持った女の子たち……。

そして、『ミサカ17600号』と名乗った、あの人物……。

それに彼女が名乗った、“ミサカ”というのは……美琴に関連があるのだろうか……。

「…………わかりませんわ…?」

なぜ、御坂美琴のクローンがいる?

その目的は?用途は?

なぜ彼女らは武装している?

しかもなぜ何等かの訓練を受けたような動きをしている……?

「……………」

黒子は携帯を枕元に転がし、ゴロンと寝っころがった。

そして、そのままスーッと、睡魔に襲われ、眠りの中に呑まれていった。


985: 2011/06/21(火) 00:54:00.42 ID:9QD/NwBo0

「………クソッタレぇええ!!!」

ドンガラガッシャァアアン!!

テーブルがひっくり返された音がした。

「あのクソガキ共ぉ…!!」

木原数多は自分の研究室に帰ってきた時から荒れていた。

「必ずぶっ頃す……!!」

木原はドカッと自分専用の牛革の高級そうなチェアーに座った。

「クソ…『毒刀 鍍』があれば…あんの雑魚共…」

そう、今の木原には『毒刀 鍍』を持っていなかった。

そこへ、一人の部下……木原が指揮をしている暗部組織 猟犬部隊の一人がドアを開けてやって来た。例に倣って勿論、黒尽くめだ。

「木原さん、お帰りなさいませ…」

「なんだ、何か用か…バース」

バースと呼ばれた男―――バースというのはコードネームなのだが―――は数枚の書類を出してきた。

「先程調べがついた、完成形変体刀十二本の内の一本の在り処がわかりました」

「……そうか…どれ、見せてみろ」

「はっ」

バースは書類を出す。それを木原はパラパラと速読する。

「………ハッ……そうか…なるほど、こんなもん俺が出る幕じゃねーな…。おいバース、お前が指揮をして、その『なんでもよく斬れる刀』とやらをよぉ、いっちょ取って来いや。……明日からでいい」

「ラジャー」

とその時、また一人の黒尽くめの男がやって来た。

「どうした、ウィリアムス」

ウィリアムス(勿論コードネームだ)は木原のすぐ後ろまで歩み寄ってきた。

「木原さん、お客さんです」

「誰だ?」

「『博士』と名乗る方が…」

それを聞いた木原は、スクッと立ち上がった。

「やっと来たか!よし、客室に通せ!!」

木原がそう、ウィリアムスに言った時……。


「その様な事はしなくて良い、木原少年」


そう、ドアのから声が聞こえた。

「よう、クソジジィ」

木原は『博士』と呼ばれる男をそう呼んだ。

「相変わらず、口のきき方がなっておらんな、木原少年」

「テメェこそ、いつまで人をガキ扱いしてんだ」

「ふん、君に科学のいろはを教えたのは誰だと思っている?……その時はまだ12、3の可愛い少年だったのに……今じゃもう……美しくない…」

「うるせぇよクソジジィ、山に捨てて行くぞ。つーかいつの話してんだボケジジィ、テメェに教鞭振るわれたのはたったの一年だけだったじゃねぇか、しかもロクなモン教えねぇ…。だからテメェのとこなんざ、さっさと辞めて行ったんだよ」

「あの時は本当にショックだった…。……特にショックだったのは去っていく時に暴走能力者を数人置いて行って、研究所を壊滅状態にして行く……、まったく仕方の無い子供だ」

「子供だった…だろ?」

「今でも子供だ。……やっていることはあの時から、てんで変わっていない」

986: 2011/06/21(火) 03:03:43.89 ID:9QD/NwBo0

「おっと、こんな無駄な会話などをしている間など無い…」

と博士は何か思い出し方の様に、ある物を取り出した。

「ほれ、前から預かっていた物だ」

と、桐の箱を木原に投げ渡した。

木原はそれを片手で掴み取った。

「君がいきなり連絡寄こしてくるんだかから、吃驚したよ」

「へっ」

木原は一つ鼻で笑った。

そして、その手で掴んである箱を開けた。

その中にあるのは……。

「しかし、それは不思議なものだったよ。その柄を掴んだ瞬間…この刀から脈々と、まるで血が流れてくる様な如く、新たな力……新たな法則……新たな情報………それらが手へと流れてきたのだよ」

「ああそうかい」

その箱の中に入っていたのは…。

『毒刀 鍍』だった。

「木原少年よ、私は感謝しておるよ。その刀…『毒刀 鍍』とか言ったか、それを私に一時期だけだが預けさせてもらって、本当に感謝しておる。その刀のおかげで、私の限界を軽く超えさせてくれよった」

「そいつはどぉも」

木原は『鍍』を鞘から抜いた。

博士は木原に数枚の紙を手渡した。

「…君が言っていた通り、その刀から得た知識は、この学園都市の技術では解明不可能の知識が詰まっておった…。……礼として、その知識を使って、強大で、斬新な、美しい、武器を造ってくれ…という君の要求を呑もうと思う」

「ヘっ、そうでこなくっちゃあ面白味がねぇからな……。テメェが武器を造り、俺が使う。そして、そいつの欠点をテメェが改善し、俺がそれを使う……。こんなもんか」

「いいだろう…。ギブ&テイクという奴だ」

銀縁の眼鏡をクイッと上げた博士と『鍍』を肩に当てた木原は、握手をした。

「とりあえず、共同戦線だ。よろしくなぁ博士」

「ああ、よろしくな木原少年…」

ふふふ…あはははははははははははは………。

二人は笑いあう。

数十秒くらいか笑いあった。

その後は、二人ともふ~と息を吐いた。

と、そして…。



「…………つーか、その呼び方止めてくんねぇかな…?」



木原が本当に迷惑そうに言った。

987: 2011/06/21(火) 14:15:05.26 ID:9QD/NwBo0


「では、早速帰って作業に取り掛かるとしよう」

博士はそう言って、踵を返した。

「物が出来るまでには時間がかかる。……それまでに、残りの刀を集めているがよい」

「ああ、そのつもりだ…全部で十二本ある、精々頑張るわ」

木原は博士を一つも見ずに、ずっと『鍍』を見ている。

それを見た博士は呆れたような表情をした。

「……じゃあな、武運を祈っておるよ」

「ああ、楽しみに待っているぞ」

バタン…。

「………」

木原は立ち上がり、あらかじめ沸かしておいたコーヒーメーカーからコーヒーをいれた。

「……で、どうだった、あのクソジジィは…」

『ああ、最高に頭のネジが弾け飛んだ爺さんだったぜ……テメェと同じくらいにな…』

「ああ、そうだろう?ガキの頃はよく人体実験なんかをさせられてよぉ……やっぱし、一番ヤバかったのは確か洗脳器の性能の最終テストだったっけか……。洗脳させたガキに自分の妹をいかに残酷に殺せるかって実験をやったなぁ……、ああ懐かしい…」

『ははは、それをお前さんにやらせる爺さんも爺さんだが、それを爆笑しながらそのガキを操っていたお前さんも、本当に鬼みたいだったぜ?お前さん方、いつかは地獄に落ちるぞ?』

「はん…、それを言っちゃあ。テメェもそうじゃねーか」

木原は『鍍』に向かって……いや、四季崎記紀に向かってそう言った。

『木原よ、今の俺はその『毒刀 鍍』の中にはいないぞ?今の俺はお前の中にいるんだ。刀に喋っていても無駄無駄……』

「そうだったな…悪ぃな」

『…つーかおいおい、お前さんさっき、俺も地獄に落ちるとか言ってくれたな…。人聞きの悪い事を言うなよ兄弟!俺は生まれてこの方、この手で人なんざ頃した覚えはねぇよ』

四季崎は木原に語りかける。

『人を斬るのは剣客の仕事だ。俺は刀鍛冶だぜ?刀鍛冶は刀を打ってなんぼの商売だ、人を斬るのは専門じゃねぇ』

「おいコラ、俺が見たテメェの記憶にはフツーに人体実験やってたじゃねーか」

『俺がやったのは、ただ俺が打った刀を同じ釜の飯を喰ってきた二人の兄弟剣士に持たせて、一方が氏ぬまで延々と戦わせたくらいだよ。言っただろ?俺は生まれてこの方、“この手で”人なんざ頃した覚えはないってな』

「はははっ…そうかいそうかい」

木原は笑う。やはりこいつは俺と同類だ。と、四季崎はある事を訊いた。

『時に木原よ。なんでお前さんは俺の記憶を読んで、変体刀の精製方法を知っているくせに自分で刀を造らないんだ?』

木原はコーヒーを啜りながら答えた。

「俺は確かに猟犬部隊を持っているが、専門はあくまで能力開発だ、武器の開発じゃねぇ。だから、おのクソジジィに依頼したんだよ。あいつはあの手のことなら大好きな変態ジジィだ、変体刀の精製方法を知ったらすぐさまにマネをしようとすると踏んだんだが……予想以上だ」

『ああ、まさかあんなにノリノリで引き受けてくれるたぁ、思ってなかった』

989: 2011/06/21(火) 18:09:04.75 ID:9QD/NwBo0

「ああ、あのジジィは前から超能力とは別の法則の力に興味があったからな」

『しかし、この時代の技術を駆使してでも俺の刀を超えられんか…』

「そうガッカリすんなよ。もうじき越えられるさ…きっと……」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


その頃、博士は木原の研究所から出て、タクシーを拾って自分の研究所へと向かって行った。

そのタクシーの運転手は、ビクビクしている。

なぜなら、乗せたお客さんが、ニヤニヤと不気味な笑顔で後部座席に座っているからだ。

(……ふふふ…楽しみだ……早く研究室に戻り、早速作業に取り掛からなければ……)

「ふふふふふふ………」

不気味な笑い声が車内を不気味な色に彩る。

(この世のどこに、絶対に折れず曲がらず、刃毀れもしない刀がある?)

『絶刀 鉋』の様な、象が乗っても折れない頑丈な刀は造れないだろう。

(この世のどこに、どんなものでも否応なく一刀両断できる刀がある?)

『斬刀 鈍』の様な、全てを真っ二つにする鋭い刀は造れないだろう。

(この世のどこに、材質・質量・切れ味…。千本全てが同じ刀がある?)

『千刀 鎩』の様な、同じ物質の刀を千本も量産することはできないだろう。

(この世のどこに、刀身を透かせれば向こう側が見える刀がある?)

『薄刀 針』の様な、薄く、脆弱な、脆い刀はできないだろう。

(この世のどこに、絶対の防御力を持つ鎧…刀がある?)

『賊刀 鎧』の様な、巨大で、どんな攻撃も効かない刀はできないだろう。

(この世のどこに、落としただけでも地面にめり込むほどの重い刀がある?)

『双刀 鎚』の様な、大の大人が何十人で持ち上げても上がらぬ重い刀はできないだろう。

(この世のどこに、己を刺せば、決して氏なぬ体になる刀がある?)

『悪刀 鐚』の様な、活性力に溢れた禍々しい刀はできないだろう。

(この世のどこに、人間を見つけしだいに殺戮を延々と繰り返す刀はある?)

『微刀 釵』の様な、全自動で人間を殺害していく、美しい人形の様な刀はできないだろう。

(この世のどこに、あの持っただけでも王道を貫くという刀がある?)

『王刀 鋸』の様な、まったく毒気の無い刀はできないだろう。

(この世のどこに、自分の戦闘能力の全てを防御に回せる刀がある?)

『誠刀 銓』の様な、誠実な刀はできないだろう。

(この世のどこに、毒々しく、且つ持った人間を乗っ取ってしまう刀がある?)

『毒刀 鍍』の様な、毒気に溢れている刀はできないだろう。

(この世のどこに、絶対に狙った標的を打ち抜く銃の様な刀がある?)

『炎刀 銃』の様な、最高の連射性と精密性を兼ね備えた、銃の様な刀はできないだろう。


「ふふふふふふ……」

博士は笑う、楽しそうに、残忍に。

(ああ、頭の中にアイディアが湧水の様に湧いて出てくる……。これが泡のように消える前に、早く、新たな刀を、あの十二本を超える刀を造るのだ………。ふふふ…木原め…この為に私を呼んだか…気に食わんが、私のこの消えかけた野望の火をもう一度付けようでわないか。おお、煮え滾る血が血管を走る走る……)

「ふふふふ…ふはははははははははは!!」

990: 2011/06/21(火) 18:43:37.21 ID:9QD/NwBo0


「……!!」

ここはどこだ?

白井黒子はそう思った。

「………?」

黒子は地面に仰向けで寝ていた。

「…?」

黒子は起き上がる。

………なにかおかしい、頭の中で何かが引っ掛かる。

「………」

黒子は辺りを見渡す。

どうやらここは、第七学区のとある本屋の裏路地だった。

………なんでこんなところで寝ていたのだろう?

黒子はそう思った。

でも、それは他愛のない事かと考え、さっさと寮に帰ろう……。

そう思った、その時。


ダダダダダダダダッ!!


「!!」

―――銃声っ!!。

風紀委員である黒子は条件反射で、銃声がなった場所へ向かう。

ダダダダダダダッ!!

マシンガンを乱射したような銃声が辺りに響く。


「なンだァ?どの逃げ腰は…愉快にケツ振りやがってェ、誘ってンのかァ?」


と、銃声と硝煙の臭いが立ち込める場所に、男の声が聞こえる。

誰かいるか?

その時、また銃声が聞こえた。

それが鳴りやんだ直後、女の子の悲鳴が聞こえた。

これは間違いない、男が銃で女の子を撃っている。

黒子は風紀委員の仕事を成し遂げる為、現場に飛び込んだ。

「風紀委員ですの!!」

と、黒子は叫ぶ。……がしかし、

「」

二人は全く振り返らなかった。

黒子はもう一度叫ぶ。しかし二人は振り返らない。

まるで、自分が二人には見えないかのようだった。

991: 2011/06/21(火) 19:21:12.91 ID:9QD/NwBo0
いや、それよりも。被害者の女の子が肩から血を流して倒れている。

「ちょっそこの人、止まりなさい!!」

と叫ぶ…が、案の定二人には聞こえていないようだ。

「……ちょっと!!」

……ふと、黒子は思ってしまった。

もしかして、今の自分は声が出ていないのでは?…と。

黒子は喉に手を当てて叫んでみる。

やはり、声が出ていない。

「……!!」

その時、男は喋りだした。

「問題です。この俺、■■■■は果たしてナニをやっているでしょう?」

なぜだか、一部分だけうまく聞こえない。

と、黒子は前を見た。女の子は大丈夫だろうかと…。

「」

瞬間、黒子は唖然とした。

女の子が銃を持っていたのだ。

男が銃で女の子を撃っていたのではない。

女の子が男から逃げる為に銃を撃っていたのだ。

(………な…!)

その時、倒れていた女の子が、持っていた銃を男の顔面に向けて撃った。

しかし、男はなんとしなかった。しかも、撃った方の女の子の眼につけていた分厚いゴーグルに銃弾が掠る。

銃が効かないとわかった女の子はすぐに持っていた銃を男に投げつけた。

しかし、銃は男の体に当たるや否や粉々に砕け散った。

その光景に驚く黒子は呆然とした。一方、女の子は黒子の様に呆けず、鼠のように逃げて行った。

男はそれを追いかける。黒子もそれを追いかける。

女の子は曲がり角を曲がった所で立ち止まり、追ってきた男に向かって、電撃を放った。

(………お姉さまと同じ、電撃使い!?)

しかし、女の子が放った渾身の一撃は男に届かず、壁に当たったテニスボールの如く跳ね返った。

「ああああああああああああああああ!!」

悲鳴を上げ、転がり回る女の子。

「………反…射?」

女の子は男にそう訊く。

「残念、惜しいけどォ、俺の本質とは違うンだよねェ…」

男は女の子に歩み寄りながら、笑って女の子の回答を解説する。

「正解は『向き変換』。……運動量・熱量・電気量…あらゆる力の『向き』は俺の皮膚に触れただけで変換可能……デフォじゃァ反射に設定しているけどなァ………。それでは敗者復活戦の問題です…」

と、男は女の子の肩の傷に指を突っ込んだ。女の子の痛そうな声がする。

「俺は今、血液の流れに触れている……。これを逆流させるとォ…どォなっちまうでしょうォか!……フヒィ!」

血液…逆流……。まさか!!

黒子は叫ぼうとする。しかし声が出ない…。もどかしさに怒りを覚える黒子。

とその時、黒子は倒れている女の子の顔を見た。

「」

992: 2011/06/21(火) 20:01:37.32 ID:9QD/NwBo0
黒子は唖然とする…。

だって、あの顔は…あの容姿は……。

黒子は叫ぶ、早く逃げろと。

しかし、そんな黒子を無視して、男は笑う。

「正解者には………安らかな眠りを……」

そして、女の子は赤く弾け飛んだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「お姉さま!!」



白井黒子は、第七学区のとある病院のベッドの上で目を覚ました。

ハァハァハァ……と落ち着かない息と、バクバクバク……と暴走する心臓をどうにかして宥めようとする。

「夢……ですの……?」

なんと質の悪い夢だろう。

「………あれ?どんな夢を見ていたのでしたっけ?」

さっきの悲鳴で、何の夢は忘れてしまったのだ。

「……なんだったのでしょう……?」

夢の内容を忘れることなんて、いつもなら良くあるし、忘れても気にしない質の自分なのだが、なぜか気になった。

とその時、枕元に置いていた携帯電話が鳴った。

ピピピピピピッという無機質な音だ。よく友人の佐天涙子にそう言われる。

「はいもしもし」

『もしもし、白井さん?初春ですけど』

初春飾利だった。

「ああ、初春ですか」

(そういえば、昨日の事件についてと、美琴お姉さまの噂について捜査を依頼していたんでしたっけ)

「で、どうでしたの?」

『はい、まずは今日の事件の原因と結果、それと結標淡希の処分についてです』

初春は事件の内容を淡々と報告する。

『事件の発端は結標が人間以外の生物に超能力が扱えるかのシュミレートをさせる為に残骸を奪った事でした。

結局、結標たちの計画は失敗、結標の計画に参加した生徒たちは全員捕らえられ、少年院行きとなりました。

また、計画に協力していた中国マフィアというのは『三合会(トライアド)』という組織でした。その組織の人間を尋問したところ、結標たちを回収した後、タイのとある港町へ飛ばして島流しにする計画だったようです』

「そうですか……。結局、計画が成功してもせずとも、彼女たちの夢は叶わなかったようですわね」

『それと、首謀者の結標淡希の行方なのですが、未だにわかっていません。………しかも、学園都市上層部は彼女の処分はお咎め無しにしたようです』

「…な!?なぜですの!?」

『そればかりはわかりませんが、恐らく何か裏があるのでしょう……。まぁ結標淡希を所属していた霧ヶ丘女学院は退学にしたようですけど…』

「そうですか……。まぁいいです、それよりあと二つの件は?」

『はい……。あの…白井さん……?』

「なんですの?初春」

『私の口から言うのがちょっと言いづらいので……、資料をメールで送りますので、それを読んでください』

「……わかりましたの…」

と、黒子の頬に、冷や汗が一筋垂れた。

993: 2011/06/21(火) 21:22:05.06 ID:9QD/NwBo0
すぐに初春からメールが来た。

資料が、二つある。

パンドラの箱が二つ。


片方のパンドラの箱を開けるように、メールフォルダの中にある、片方のメールを開く。


それは『量産型能力者計画』という資料……。

黒子は一つ唾を呑んだ。

その内容とは……。

「…………な……なんなんですの?これは………!?」


それは、御坂美琴の毛髪から摘出されたDNAサンプルを用いてクローンを作り、超能力者の量産を計ったものだった。


「ふ……ふざけているのですの?こ、国際法で禁止されているクローンを……?」

携帯を握る黒子の手がフルフルの震える。

黒子はベッドの上で立膝を立てて、資料を読み続けて行く。

そして、最後の一文は……。

“……理論を確立し、量産体制を構築しようとした計画最終段階で、樹形図の設計者の予測演算により、 『妹達』の能力は超電磁砲のスペックの1%にも満たない欠陥電気であることが判明。遺伝子操作・後天的教育問わず、クローン体から超能力者を発生させることは不可能と判断された為、すべての研究は即時停止し、研究所は閉鎖、計画は凍結する。”


その一文を見た黒子はヘタン…と座りこんだ。

「……………なんだ……このイカれた実験は失敗だったのですの……」

黒子はハァァアと息をつく。


さて、今度はもう一つの資料だ……。

ふぅと一回息をつく。

メールフォルダの中に入っていた、残りのメール。

もう一つのパンドラの箱を、黒子は見る。


その資料は『絶対能力者進化計画』と書かれていた。

黒子は、キッと目を見開いて、書かれた文章を読んでいった。…。

「………………~~~~~~~ッ!」

そうか、そういう事か。

その内容は、樹形図の設計者の算出したプランに従い、学園都市最強の超能力者、一方通行を絶対能力者(レベル6)へ進化させる実験だった。

実験というのは『二万通りの戦闘環境で同じ超能力者である御坂美琴の量産能力者を二万回殺害する』というとても正気の沙汰とは思えない内容。


「…………これが、学園都市の闇…」

どうしてこのような実験が行われていたのか。

どうしてこの実験が公式に採用されたのか。

黒子はメールフォルダを閉じ、初春へ電話を掛ける。

「…初春」

『はい、見ました?』

「ええ……。少し、この街が嫌いになりました」

『ええ、私もです。…………白井さん、白井さんはその欠陥電気と呼ばれる人達と会ったことがあるのですか?』

「ええ…、一度手合せしました」

『実は、白井さんが入院している病院に、その一人がいるようなのです』

994: 2011/06/21(火) 22:08:52.27 ID:9QD/NwBo0
と、その時。

ガラッと病室のドアを開ける音がした。

誰かが入ってきた。

「…!!………初春、後で電話しますの!」

『…え?……ちょっと!!……白井さん!?』

黒子は電話を切り、枕の下に隠した。

「………(いったい誰ですの?)」

人が一人、入ってきた。…が、暗くて顔が見えない。

黒子は入ってきた人物の顔をジッと見る。


そこにいたのは、御坂美琴だった。


「……っはぁぁ……なんでしたの、お姉さまでしたの……いきなり入ってくるものですから、ビックリしましたわ」

「……………」

美琴は無言だった。

「………」

黒子も口を閉ざす。

数秒たった。

「…………あの…一つ、お伺いしてよろしいでしょうか?」

黒子は、一つ尋ねる。


「あなた……御坂美琴お姉さまではありませんわね?………恐らく、欠陥電気と呼ばれる人達の一人……なのでは?」

黒子はベッドから降り、目の前にいる人物にそう尋ねた。


「はい、御察しの通り、私は御坂美琴お姉さまではなく、お姉さまのDNAマップから生み出されたクローン、妹達です。因みに私は検体番号10032号です。……とある方からは御坂妹と呼ばれています、とミサカはお姉さまのご友人に挨拶します」


「ふん、顔から背格好、髪型……おまけに恰好も常盤台中学の制服ですか……。一見本当にお姉さまと見違えますの。………ところで、何か用ですの?」

「………もう、あの実験の全てを知ってしまったのですね?とミサカは問いかけます」

「………ええ、全てバッチリと……。ちょうどいいですわ、あの日、八月二十一日のことを……!」

黒子は御坂妹の眼を真っ直ぐ見て言った。

「………わかりました、昨日は色々と私の妹がお世話になったお礼に、あの日の…あの事と、八月三十一日の事をお話ししましょう…、とミサカは話が長くなるので、お姉さまのベッドに座ります。……どうぞ、おかけください……」

と、御坂妹は黒子にベッドに座るように促す。

「そうですね……まず、ある方が私達と出会う所から話しましょうか、とミサカはあのツンツン頭の少年の顔を浮かべて語り始めます……」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

995: 2011/06/21(火) 22:32:24.84 ID:9QD/NwBo0


「……という事だったのです、とミサカは今日までの経緯を全て話しました」

「………」

どれくらい経っただろうか…。

きっと小一時間は経っているだろう。

「………御坂妹さん?」

膝に肘を置いて俯いた体勢の黒子は御坂妹に、訊く。

「…………もう、終わっっていたのですね?」

「ええ、もう終わっていました」

「もう、お姉さまは、この学園都市の闇に泣かなくてもいいのですね?」

「ええ、泣かなくてもいいです」

「そうですか……」

黒子は顔を上げ、天井を仰いだ。s

そして、立ち上がった。

「わかりました。今日はありがとうございました」

黒子は一礼をする。

それを見た御坂妹は一瞬目を丸くし、微笑みながら立ち上がり、礼を返した。

「いえ、どうも、とミサカは礼をします。……これからも、お姉さまをよろしくお願いします」

と、御坂妹は一礼した後、病室の出口へと歩いて行った。

「ああそうそう、この事は他言無用でお願いします、とミサカは忠告します……なにせ、クローンは国際法違反なので」

「わかりました。でも、あの実験を知ってしまった、私の友人がいますの。信頼できる人物なので、話してもよろしいでしょうか…」

黒子は俯いたまま、そう訊いた。

「ええ、いいですよ?しかし、その方にも他言無用だと、固く言っておいてください、とミサカは再度忠告します」

そういって、御坂妹は病室から出て行った。

それから数分、黒子は天井を仰いだ。

それから、思い出したように携帯電話を取り出し、連絡を今か今かと待っているだろう初春飾利の番号をかける。いつもならキッチリ3コールで出るはずの初春だったが、今回は1コールで出た。

『…もしもし!?白井さん!?』

「もしもし、初春ですの?」

『どどど、どうしたんですか!?大丈夫でしたか!?』

「そう焦らなくてもよろしくてよ、わたくしは大丈夫ですの。………時に初春、少し物語を聞かせましょう…、とある少年と少女達の物語です」

『……はい?』

黒子は窓へ向かい、閉まっていたカーテンを開いた。

「そうですわね……、とあるツンツン頭の少年が、とある少女達を出会うところから始めましょうか……」

窓から眺める空には、満月が昇っていた。

黒子は珍しく、この月が奇麗だと思った。

そして、黒子の眼から一筋の滴が垂れた。

しかし彼女の表情の穏やかで笑っていた。


――― 第一章 終 ―――

996: 2011/06/21(火) 23:13:48.91 ID:9QD/NwBo0
こんばんは、やっと序章・第一章が書き終りました。

そしてみなさんごめんなさい。駄文な上、お粗末なストーリー、あげくの果てに中途半端な終わり方……、お詫びの言葉しか出てきません。

しかも、最後の木原クンと博士の件は、本ッッ当につまらない物ですいませんでした。

さて、続きも書いて行きたいと思っています。

感想・要望をお待ちしております。

文章能力が無いワタクシですが、よろしくお願いします。


―――――――――――――――――――――
次回予告

海だ。

船の上から、二人の幼い少年と少女が海を見下ろす。

少年の方はショートカット、少女の方は腰まで下がるロングヘアー。髪の色は二人と銀髪だ。

二人とも黒い高そうな子供用の洋服を着ていて、外国語…英語ではない、どこかの国の言語だろうか、歌を楽しそうに歌っている。

「おい坊ちゃん、嬢ちゃん、その歌はなんて曲なんだ?」

と、煙草を吹かした中年の水夫が、奇麗な歌声に釣られてやってきて、そう尋ねて来た。

「ふふふ、教えないよ、おじさん」

そう、男の子の方が答えた。奇麗な、愛らしい顔つきだった。

「じゃあ、その言葉は何語だい?」

「ふふふ、ルーマニア語よ、おじさん」

今度は女の子の方が答えた。こっちも奇麗な愛らしい顔つきだった。

そして、二人とも同じ顔だった。

「……君たち、もしかして双子かい?」

水夫はそう訊く。

「「うん、生まれた時から一緒だよ」」

この可愛いらしい二人の回答に、水夫はつい微笑んでしまう。

「二人とも、この船でどこまで行くんだい?」

「「東京、学園都市」」

「へぇ~、何しにいくの?」

「「遊びに」」

「そうかそうか。そういえばもう大覇星祭だったね?……っと、そうこう言っている間に着いたよ?さっさと降りないと、船がこのまま乗せて行っちゃうよ?」

「「は~い!」」

可愛らしく返事をした二人は、甲板に置いてあった自分達の荷物を手に取った、男の子の方は大きな旅行鞄。女の子の方は長い筒の様なものを可愛い布でくるんだ物、クマのストラップが着いている。

二人は、船が港に着いた瞬間に飛び降りた。

「「じゃーねーおじさーん!!元気でねーー!!」」

可愛い双子が先程の水夫に手を振る。その可愛らしい姿を見た水夫は手を振りかえす。………とその時。

ドカァァァァァァァアアアアアン!!!

船が大爆発した。

「ふふふ…姉様…学園都市って、とっても面白い所なんでしょう?」

「ふふふ…そうよ兄様。そこの超能力者のお兄さん、お姉さん達と一緒に楽しく、お遊びしましょ?」

と、可愛く、奇麗に、…そして悪魔の様に笑う双子は、燃え盛る船を全く見ずに、去っていった。


“嘘”次回予告。―――ヘンゼルとグレーテル、学園都市に荒ぶる―――

998: 2011/06/21(火) 23:55:46.41 ID:9QD/NwBo0

真 次回予告
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここは学園都市内のとある繁華街…。

「はぁ~」

溜息をつく声がする。

「困りました…。いきなりこんな異世界に飛ばされるなんて…」

そういって、困り果てた表情でボヤいている影が一人。

「鳳凰様や、他のみんなは何処へ行ったのでしょう……」

真庭人鳥は、真昼間の繁華街で彷徨っていた。

「右を見ても左を見ても、知らない土地、知らない人ばかり……とほほほ…」

人鳥はトボトボ…と歩く。

「……ここは何処だろう…」

辺りを見渡す。

擦れ違う人たちは皆、奇怪な目で彼を見る。

それもそうだ、真庭忍軍の装束は、いささか特徴的だ。

ヒソヒソヒソ……。と声が聞こえるのがわかる。きっと自分を白い目で見ているのだろう。

(別にいいさ!人のことなんか気にしている場合じゃない!!)

人鳥は心で決意する。

(わたしはあの時、間違いなく氏んだ。……だからここは、きっと氏後の世界だ!!………だから他のみんなもいるはず!!)

人鳥はそう心の中で推理した。でも実際(鳳凰様は寂しいけど、氏んでいてほしくないな…)と思っている。

実際には鳳凰は氏んでいるし、この世界は氏後の世界ではない。

彼の推理は外れているが、ただ一つ合っているのは、『他のみんながこの世界にいる』ということ。

人鳥はただ一つの希望を胸に、街を歩く。


と、その時、怪しい影が人鳥を狙っていた。

その者はニヤリと邪悪に笑っていて、両手をまるで獲物を狩る梟の様に広げていた。

まるで、人攫いの様だ。

人鳥は、その存在にまったく気付いていない。

彼のその様子を見て、その怪しい人物はさらに邪悪に笑った。


――――――そして、その者の手は人鳥の体を襲った。


引用: 鑢七花「・・・どこだ?ここ」麦野「学園都市よ!」