1: 2024/03/14(木) 23:43:11 ID:g4SJb.N.00
今日思い付いて時間の無い中、頑張って作ったお粗末SSですがよければどうぞ

2: 2024/03/14(木) 23:45:12 ID:g4SJb.N.00


──コンコン

部屋の扉がノックされているのに気づいた

「今開けるわ」トコトコ

ガチャ

「あら……」

部屋の前に立っていたのは綴理だった

「どうしたの?」

『こずにお願いがあるんだ』

「お願い?」

うん、と彼女は首を縦に振ると話し出した

要約すると、
いつもさやかさんにお世話になっている
お返しをしてあげたい、とのことだった

正直、驚いた

失礼かもしれないけれど……
彼女が、人のために何かをしたい、なんて
いうのなんてとんでもなく珍事だから

だが、その相手がさやかさんなら
何となくだけれど納得はできる

今日はホワイトデーだ
だからこそ、今日綴理は相談に来たのだろう

本音を言えば当日とかではなく
せめて前日とかには言ってほしかったけれど……

せっかく綴理がやると言っているのだ
それは心の奥に仕舞っておく

3: 2024/03/14(木) 23:46:59 ID:g4SJb.N.00

「それで、何を作りたいのかしら?」

──え?

「も、もう一回言ってもらえるかしら?」

………

貴女ね……


綴理の返答は『分からない』だった


詳しく話を聞くと、どうやら慈の入れ知恵
らしい

バレンタインに何かもらったら
ホワイトデーに何か返さなければ
ならない
いつもお世話になっているのだから
なおさらだ、と

そう、聞いたようだ

全く……あの娘は私の仕事ばかり増やして……

とはいえ断るのも寝覚めが悪くなるので
引き受けることにした

私も何か軽く作ろうと思っていたし、ね……
(花帆が『あたし以外の人にお返し
作っちゃだめです!』と一週間も前から
部室で叫んでいたもの……
とはいえ何も無しというのも流石に……
という訳だ
もちろん花帆用のお菓子は既に作ってある)

4: 2024/03/14(木) 23:47:57 ID:g4SJb.N.00

──さて、何を作るかだけれど……
定番なのはクッキー、マカロン、焼き菓子
あたりだろう

とはいえ、綴理は料理初心者だし
型抜きクッキーあたりがいいかしら?
多分少しは材料が残っていたはず……


「クッキーを作りましょうか?」


分かったー、
そう言ったのを聞き、材料を冷蔵庫から
取り出す


「じゃあ私は薄力粉をふるうから
 綴理は──」


言いかけた直後だった


待って、と声がかかった

『こずが手伝ってくれるのは嬉しいけど
 ボク一人で作りたいんだ』、と


!!!???、まさか綴理が
そんなことを言うなんて……
正直、驚いたというより感動した

ところで、いくら火を使わないとはいえ
綴理に全て任せて大丈夫なのだろうか
そう思った

けど、綴理を見ると、その瞳の奥には
『自分でやり遂げる』という確固たる決意が
見てとれた

5: 2024/03/14(木) 23:48:54 ID:g4SJb.N.00

「……分かったわ」

綴理の意を汲み、私は手順を伝える
だけに徹することにした


「じゃあ、まずは──」


ーーーーーー


綴理が生地を練っている時に私は聞いた


「ねえ、綴理、料理で一番大事な材料って
 なんだと思う?」


???、と綴理は首を横にかしげた


「一番大事な材料、それは『愛』よ」


愛?、と綴理は聞き返してきた

「ええ、どんなに高級な材料を使っても、
 どれだけ綺麗に梱包したとしても
 どれだけ素晴らしい見た目だとしても、
 味を決めるのは気持ちよ」

極論かもしれないが、
愛情が入っていて不味い料理など
この世に存在しないと私は考える


「分かった……! ボク、頑張る!
 さや……好きだよ」コネコネ

6: 2024/03/14(木) 23:50:15 ID:g4SJb.N.00


ーーーーー



綴理 「──できた!」

梢  「……」


オーブンからクッキーを取り出す

できたクッキーはお世辞にも美味しそうには
見えず、ボロボロだったし、少し焦げ目も
ついてしまっていた
おまけに……いや、これ以上はやめておこう

料理に慣れない綴理が一生懸命作ったものだ
それを否定するのは違うと思うし、
私だって最初はあんな感じだったのだから


「後は……ラッピングね」

らっぴんぐ?、と綴理は聞いてきた

「ええ、このままクッキーを渡すのも
 いいけど、せっかくならお洒落な
 袋に入れた方がいいでしょう?」

なるほど~、と綴理は納得していた

引き出しから色々、小袋やリボンを出し、
机の上に並べる

「綴理はどれがいい?」

せっかく綴理が1から10まで作ったのだ
ラッピング選びも彼女に任せるべきだろう

『うーん……』

──かなりの時間、綴理は悩んでいた

『じゃあ、これとこれかな』スッ

7: 2024/03/14(木) 23:51:32 ID:g4SJb.N.00

綴理が選んだのは赤いリボンと
青色の小袋だった

独占欲が強いわね……と思ってしまうのは
先入観が強すぎだろうか


クッキーがある程度冷めてきたら
割れないように小袋に入れるよう指示した
これで準備完了だ

「今から渡しに行ってくるの?」

うん、と綴理は答えた

『せっかくなら少しでも作りたてを
 さやに届けたいし』、と綴理は続けた

「そう……頑張ってね」

何を頑張るんだ、そう突っ込まれたら
返答に困るが、今の綴理にかけるなら
その言葉が一番いいだろう

『うん、ありがとう、こず
 行ってくる』ペコッ


綴理は私に軽くお辞儀をして
さやかさんの部屋へと向かっていった


貴女が私の傍から離れてしまうのは
正直ちょっと……いや、ほんの少しだけ
寂しいけれど……


──けど、もう大丈夫

8: 2024/03/14(木) 23:52:19 ID:g4SJb.N.00


コンコンコン、と扉が叩かれたのを聞く

この音は、──花帆だ

がちゃり、と扉を開ける


「梢センパーイ♡」

そこにはどんな花よりも満開の笑顔を
咲かせた最愛の後輩がいた

「これ、バレンタインのお返しです♡!」ニコッ

貴女にとってのお姫様が隣にいるように、
私にとっての王子様はもう隣にいるのだから

9: 2024/03/14(木) 23:53:13 ID:g4SJb.N.00
ここまで、第一部

ここから第二部(第二部で終わり)

10: 2024/03/14(木) 23:53:50 ID:g4SJb.N.00


ーーーーーー


~さやかの部屋~


綴理先輩がわたしの部屋に来ました

一体何だろう、
とは思いませんでした

隠さずに手に持っているその小袋からは
香ばしい匂いがしてきていたからです

そして今日はホワイトデー、
検討はついています

それでも敢えてわたしは聞きました
「どうされたんですか?」、と

『さやのためにクッキーを作ってきたんだ』
 と、綴理先輩は言いました

分かってはいましたが、言葉にして
『わたしのため』と言われると
ちょっとキュン、としてしまいます…♡

『ボク一人で作ったんだ』と綴理先輩は
続けて言いました

「……」

「えぇぇぇ!!!!????」

『!?』ビクッ!

衝撃は心の中だけに留めておくはずが
知らぬ間に口から漏れていました

11: 2024/03/14(木) 23:55:02 ID:g4SJb.N.00

だ、だって……え……?

「ほ、本当にご自身で作られたのですか?」

失礼だと分かっていても聞かざるを
得ませんでした

即座に、ボクなんなの……、と最早定番台詞を
いただきました

『うん、手順とかはこずに教えてもらったけど
 最初から最後までボクだけの力で
 作ったんだ』

「」ポカーン

最後なら最後まで綴理先輩が……!?
綴理先輩、ご立派になって……

今度こそ心の中だけで感動に泣いていると
綴理先輩から声が掛かりました

『さやのことだけ考えて作ったんだ
 ちょっと失敗しちゃったけど……
 食べてほしい』

「……!」

こ、こんなの食べるしかないじゃない
ですか!!!!
こんなわたしのために……

『……? さや、泣いてる?』

「!?」ポロポロ

駄目だったみたいです……
どうやら涙は臨界点を超えていたようでした

「い、いえっ!
 ではいただきますね!」ガサゴソ

『……』ドキドキ

12: 2024/03/14(木) 23:56:04 ID:g4SJb.N.00

丁寧に結ばれたリボンを手解き、
小袋の中に入っていたクッキーを
取り出しました


大きさも不揃いで、不格好な形をした
そのクッキーは、しかし
今まで食べてきた料理の中で
圧倒的な美味しさを誇っていました


『どう、かな……?』

少し不安そうな表情をしながら
綴理先輩は聞いてきました

「そうですね……」

わたしは少し考えた後、伝えました

「100点満点でつけるなら
 50点、いったところでしょうか」

『がーーん……』ウルウル

「ああっ!! 冗談ですっ!!!」

わざと本音を言わせてもらいましたが
綴理先輩が泣きそうになってしまったので
即座に訂正します

「100点満点なら100万点です!!!」、と

ほんと……?、と綴理先輩は今にも泣きそうな
顔で聞いてきました

「はい」

確かに……見た目とか考慮すると50点では
ありますが、そんなもの味が全部
吹き飛ばしていました

「……綴理先輩からの想い、しっかりと
 伝わりました」

100万点の味はまごうことなき綴理先輩
からの『愛』の味でした


──とっても、とっても甘い

13: 2024/03/14(木) 23:56:38 ID:g4SJb.N.00

『そっか、良かった……』ホッ……

綴理先輩は胸を撫で下ろしていました
……流石に意地悪しすぎちゃいましたかね?

『んー……』

しばし綴理先輩はわたしを見ていました

「何ですか?」と聞こうとした矢先でした




『……』チュッ♡

……ッ///!!!??

キス、されました

完全に不意打ちでした

『さや、美味しい♡』ニコッ

途端に身体中が熱くなるのを感じました

「も、もうっ///!!!
 なんなんですか、なんなんですか///!?」
 カァァ///

『さっき意地悪されたお返しだよー』ピース✌️

そう綴理先輩はピースしていました

全く……この先輩には敵いませんね……♡

14: 2024/03/14(木) 23:57:51 ID:g4SJb.N.00
終わりめぐ

ハッピーホワイトデー♡

これ書くのに2時間ちょっと……
骨が折れるめぐ……遅筆……

15: 2024/03/15(金) 00:01:40 ID:c/eQgYUk00
乙、さやかの涙が完全にお母さんポジで草

引用: [SS]梢 「ハッピーホワイトデー」