1: 2009/06/06(土) 19:16:43.59 ID:4T2+7kXJ0
門脇「本田。先週お前の師匠の所に打ちに行ったとき小耳に挟んだんだが…
   お前、ネット碁で負けたって?」
本田「ああ」
和谷「マジかよ本田さん」
進藤(…ネット碁?本田さんが負けた?)

本田「相手が物凄く強い奴だったんだ。
   地が確定したと思って手を抜いた所に
   これでもかってくらいキビシく打ち込んで来るんだぜ。
   結局相手の模様が強くなって、俺には全くイイトコなしさ」
門脇「その一局俺も見てみたかったな。
   一応プロの本田を負かすくらいだ。
   並みの打ち手じゃないだろ」
本田「一応は余計だって!門脇さん!」
和谷(ネットの…強い打ち手?)

進藤(…佐為!?)
けいおん!Shuffle 3巻 (まんがタイムKRコミックス)
2: 2009/06/06(土) 19:17:39.52 ID:4T2+7kXJ0
筒井「テストも終わって一段落したし、久々にネット碁でも打ってみようかな。
   『ミオ』…よし、この人に対戦申し込みだ」

カチカチ…

筒井「…強い。この人…圧倒的だ。
   僕の打ち込んだ手が、全ていなされてる。
   まるでたしなめられるかのように…。
   ヨセなんかで逆転する余地がまるでない。
   なんて強さだ。僕なんかじゃまるで話にならない!
   まるで…プロだ」

4: 2009/06/06(土) 19:18:24.17 ID:4T2+7kXJ0
飯島「聞いたか?奈瀬。ネットの強い打ち手のこと」
奈瀬「昨日2組の子たちが話してたわ。
   前にもちょっと話題になったわよね。ネットの強い人。
   あの塔矢アキラが負けたって」
飯島「それはSAIだろ。
   今回話題になってるのは『ミオ』。
   SAIもそうだったが、ミオも日本人だ。
   既に海外のアマチュア上位が何人も負かされてる。
   『日本じゃプロよりネット碁の打ち手のほうが強いのか』なんて
   騒がれてるらしいぜ。ハハ」
奈瀬「冗談じゃないわよ!プロより強いなんて!
   そんな奴、きっとプロよ!
   プロがネットで気晴らしに打ってるんだわ」
飯島「それがそうでもないらしいぜ。
   そいつ毎日のようにネットに顔を出して打ってるらしい。
   プロがそんなことするか?」

奈瀬「謎のネット棋士、かぁ…」
飯島「ま、人のことより自分のことだ。
   俺は大学受験に向けて勉強始めてるぜ。
   お前も来年こそは受かれよ。プロ試験」
奈瀬「ありがと。がんばる」
奈瀬(ネットの強い人…
   プロ試験なんか、楽勝で受かっちゃうんだろうな)

5: 2009/06/06(土) 19:19:12.88 ID:4T2+7kXJ0
門脇「どいつだよ本田」
本田「えーっと…」

カチカチ

本田「いた!こいつだ!『ミオ』!」
門脇「平日の夕方からログインしてるなんて…
   こいつ、学生かもな」
進藤(学生…)
和谷「SAIも学生だったんじゃないかと思ってたけど…
   ミオも学生?一体どうなってんだ!?
   こんなに強い学生が…」
門脇「よし。俺が対局を申し込む」

10: 2009/06/06(土) 19:21:04.59 ID:4T2+7kXJ0
本田「…白の形勢が有利だ」
和谷「なんなんだこいつ…
   門脇さん相手に、まるで遊んでるみたいだぜ」
門脇(右下の黒はツブレた。
   あとは上辺だが、守るだけじゃこいつには勝てない!
   中央にハネ出して…)

本田「終了、だな」
進藤「30目差…」
門脇「中盤、中央にハネ出した俺の甘い一手を見事にとがめてきやがった。
   だがコイツ、全然本気じゃなかったぜ。
   マジでやられてたら、50目差じゃ利かなかったろうな」

進藤(この打ち筋…間違いない!
   まさか…まさか本当に…佐為!?)

門脇(もしやと思ったがこの感覚、あの時と同じだ。
   二年前、プロ試験を受けようとしていた俺が
   たまたまその場にいたガキと打ってボロ負けしたあの時と…
   二年前の進藤と打った、あの時と!)

15: 2009/06/06(土) 19:22:57.44 ID:4T2+7kXJ0
筒井「奈瀬先輩。確か院生でしたよね」
奈瀬「そうよ。囲碁部の大会に出られなくてごめんね。
   院生は大会に出ちゃいけないことになってるから…」
筒井「知ってます。中学のころの友達もそうでした。
   …それより先輩。インターネットで…」
奈瀬「『ミオ』ね?」
筒井「知ってたんですか?」
奈瀬「もちろんよ。棋譜も見たわ。
   残念だけど私じゃ太刀打ちできそうにないわ。
   あの打ち筋…間違いなくプロの誰かね」
梓「何の話してるんですか?」
筒井「あ、中野さん」
奈瀬「囲碁の話よ。インターネットに強い人がいるの」
梓「筒井君よりも強いの?」
筒井「もちろんさ。僕も一回戦ったけど、ボロ負けしたよ」
梓「囲碁の強い人かぁ…
  そういえば、うちの部活の先輩が最近、囲碁を始めたんですよ」
奈瀬「へぇ、囲碁ブームも去って久しいのに、そんな人がいるのね。
   私としては嬉しいことだけど」
筒井「中野さん、どこの部活だったっけ?」
梓「軽音楽部」

16: 2009/06/06(土) 19:24:03.86 ID:4T2+7kXJ0
律「おーっす!あれ?唯は?」
澪「ん?さわ子先生に用事があるって、さっき出て行ったぞ」
律「ふぅん…で、澪は何やってんの?
  それ…オセロ?」
澪「碁だよ碁。皆揃うまで棋譜を並べてんだ」
律「碁かぁ。私これでも10段だよ。勝負してみようか。
  澪が負けたら…メイド服で校内一周の刑~っ!」
澪「ルール知ってるのか?」
律「知らないからハンデ!ハンデくれ!」
澪「しょうがないなぁ…好きなだけ石置いていいぞ」
律「石置く?」
澪「囲碁は碁盤の線が交差してる所に石を置いて、陣地を作っていくゲームなんだ。
  囲まれた石は…こんなふうに取られる。
  基本的なルールを説明するからちゃんと聞くんだぞ」

律「なーんだ。簡単じゃん。
  よーし!田井中律十段の腕前を存分に見るがいい!
  あ、石は100個置かせてね」
澪「置きすぎだ!」

17: 2009/06/06(土) 19:25:32.55 ID:4T2+7kXJ0
パチ
律「澪はさ」
澪「んー?」

パチ
律「なんで囲碁始めようと思ったんだ?」
澪「んー」

パチ
澪「碁の神様に誘われて、かな」
律「なんだそれ?」

パチ
律「…」
澪「…」

パチ
律「これ、どっち勝ってんの?」
澪「私だな。律の石、全部氏んでるぞ」
律「うっそーん!!」

18: 2009/06/06(土) 19:26:37.34 ID:4T2+7kXJ0
律「まさか十段の私が敗れるとは!強いんだなー!澪!」
澪「全然だよ。はじめたばっかりだし」
律「普段どこで囲碁やってんの?」
澪「ん…師匠と打ったり、師匠がネットで打つのを見たり」
律「おーっと問題発言!師匠って誰!?
  男?男!?」
澪「う、うるさいな!
  色々…あるんだよ」
  
澪(…あれからもう一ヶ月にもなるか)

21: 2009/06/06(土) 19:29:11.03 ID:4T2+7kXJ0
一ヶ月前
澪「こんにちは。おじさん」
叔父「おう澪。よく来たなぁ。
   ま、上がれよ。今ソバを茹でさせるからな。
   おーい!澪にソバ茹でてやってくれ!」
叔母「はいはい」
澪「今日は息子さんは?」
叔父「あいつァちょっと喧嘩で怪我しちまってな…
   今は入院中だ」
澪「え!?あの強い息子さんが?」
叔父「まァいいじゃねェか。あいつのことはよ。
   それより澪よォ。お前、こんなものいらねェか?」
澪「これ…扇?」
叔父「知り合いの金持ちのジっちゃんからもらったんだが…
   オイラにゃ使い道ねぇしな。
   お前が持ってればオシャレになるんじゃねぇか?ほら。似合ってるぞ。
   江戸時代のオイランさんみてェだ」
澪「じ、冗談やめてよもう!」
澪(でも…結構いいかも、これ)

23: 2009/06/06(土) 19:31:22.33 ID:4T2+7kXJ0
澪「でも…本当にもらっていいの?
  こんな高そうなもの…」
叔父「なんでも平安時代の貴族が使ってたモンらしいぞ。
   俺が持ってたって仕方ねェだろ。
   貴族の扇がハゲオヤジに似合うと思うか?」
澪「プッ…」
叔父「あーっ、オメェ今笑いやがったな!」
澪「ごめんごめん、ありがたくもらっていくね!」
叔父「ま、ゆっくりしてきな。オイラぁこれから仕事だ」
澪「うん。怪我しないでね」
叔父「おう!じゃあな!」


澪「ただいまー!」
母「おかえり。あら、何それ?キレイじゃない」
澪「うん。叔父さんからもらったんだ」

澪「この扇、ほんとに素敵だなぁ…
  でもこんなの学校に持っていって律に見られたら、からかわれるかな」

25: 2009/06/06(土) 19:32:46.04 ID:4T2+7kXJ0
(私の声が…聴こえますか?)

澪「うーん…あと5分…」

(聴こえますか?私の声が…)

澪「ん、んーっ…今日は雨かぁ。
  …ん?今何か声がしたような
  
  …!!? あ、あなた誰!?」

佐為「私の姿が見えるのですか?」
澪「ど…ど…どろぼ…う?」
佐為「藤原佐為、と申します」
澪「藤原…佐為?」

26: 2009/06/06(土) 19:34:16.26 ID:4T2+7kXJ0
澪(…あの時佐為と出会ってから一ヶ月。
  そりゃ最初は驚いたけど、話してみるとイイ人だったし…
  平安時代、悪い奴に騙されて地位も名誉も失って
  囲碁に未練を残したまま自頃したなんて聞いたら
  ほっとけないしね…。
  それに囲碁も、やってみると面白いし。
  佐為が使ってた扇をプレゼントしてくれた叔父さんに感謝、かな)

律「澪ー。何ボーっとしてんだ?」
澪「え?あ、ああ」
律「大好きな師匠のこと考えてたのか?」
澪「バ、バカっ!」
佐為(私が大好きなのですか?澪)
澪(そ、そんなんじゃないわよ!)
律「何一人でボソボソしゃべってんだ?」
澪「な、なんでもないわよ。それで…何だって?」
律「囲碁って、師匠がいたほうがいいのか?」
澪「勿論だ。頼れる師匠がいるのといないのとでは、
  実力の伸びに雲泥の差が出る」
律「うんでーのさ?」
澪「圧倒的な差が開くってこと」
律「あー…じゃあ私も師匠見つけよ」
澪「は?」
律「私も囲碁始めるわ。澪にリッベーンジ!するために!」
澪「本気で言ってるのか?」

27: 2009/06/06(土) 19:35:36.64 ID:4T2+7kXJ0
澪「だって律…あんたほど囲碁が似合わなさそうな人は…」
律「フッフッフー。今のうちに言っときなさい。
  一ヶ月後には澪なんて足元にも及ばないほど
  強くなってるんだからね!」
澪「だけど…」
佐為(いいじゃないですか、澪。
   師匠と同じくらい、ライバルも重要ですよ。
   前に私が教えてた子にもライバルがいました。
   初心者だったその子は、今やプロなんですよ。
   ライバルがいなかったら、あそこまで伸びなかったでしょうね)
澪(ふーん…ライバルも重要なんだ)
澪「わかったよ律。一ヵ月後、また対局だ。
  少しは強くなってきてくれよ。」
律「へっ!吠え面かくなよ澪!」


律「囲碁が強くなるには、やっぱ囲碁部だろー。
  ごめんくださーい!」

30: 2009/06/06(土) 19:37:20.99 ID:4T2+7kXJ0
筒井「ようこそ囲碁部へ!新入部員かな?」
律「あ、いや私は…ちょっと囲碁を教えてもらおうと思って。
  二年の田井中律。よろしくっ!」
筒井「せ、先輩だったんですか。失礼しましたっ!
   一年の筒井です」
律「いーっていーって。
  囲碁部って何人くらいいるの?」
筒井「僕と一年生がもう二人と、二年生の先輩が一人だけです。
   そんなに大規模な部じゃないけど、皆一生懸命ですよ」
律「いいねぇ!私も時々通っていい?」
筒井「もちろん!歓迎しますよ!」
律「実は私にはライバルがいてねぇ。
  澪って言うんだけど、一ヵ月後の決戦まで教えてくれる
  師匠を探してるのさ」

筒井(…ミオ?)

31: 2009/06/06(土) 19:38:59.24 ID:4T2+7kXJ0
筒井「師匠なら、この学校には囲碁部より強い人がいますよ。
   三年の奈瀬先輩。プロの卵の『院生』なんですよ。
   こう言っちゃなんですけど、僕ら囲碁部じゃ歯がたちません」
律「おぉー!いいねいいね!その人に弟子入りしよう!
  ふっふーん。待ってろよ澪。師匠の差で私が一歩リードだ!」
筒井「その…澪さんっていうのはどういう人なんですか?」
律「真面目が服を着て歩いてるような奴だよ。
  澪もつい最近囲碁始めたらしいんだ。
  師匠と打ったり、師匠がネット碁やってるの見たりして勉強してるんだって」

筒井(師匠が…ネット碁?)

34: 2009/06/06(土) 19:40:00.99 ID:4T2+7kXJ0
筒井「その師匠のハンドルネーム、わかりますか?」
律「ハンドル…なんだって?」
筒井「ハンドルネームです。ネット碁で使ってる名前ですよ」
律「んーにゃ、知らないなぁ。
  澪の師匠のことまではよく知らないんだよ。あいつ隠すからさー!
  澪だったら糞真面目だから、本名でネットしたりするかもしれないけど」
筒井「そうですか…」
筒井(『ミオ』…まさかね)

35: 2009/06/06(土) 19:40:47.09 ID:4T2+7kXJ0
ふれあい囲碁パーク

澪「へぇー、囲碁ってこんな大きいイベントもやるんだ」
佐為(ええ。ヒカル…前の宿主ともこのイベントに来たことがあります。
   楽しいですよー。来てる人同士で囲碁やったり、大盤解説やってたり!
   あ、あっち!プロの指導対局やってますよ!
   見に行きましょう!澪!はやくはやく!)
澪「わかったわかった。今行くから」
澪(来てよかった、かな)

御器所「ダメですなぁこんな打ち方じゃ!
    せっかくのいい扇子が泣いてますよ、お客さん!」
客「うぅ…全滅だ」
澪(佐為!この碁…)
佐為(ええ。これは指導対局なんかじゃありません!
   上手の者が下手の者をいたぶるだけの碁…
   単なる憂さ晴らしの碁です!)
御器所「お、そっちのおじょうちゃん。
    お前も指導してやろうか?ほれ、座んな」
澪「えっ…わ、私は」
佐為(座って下さい澪。
   この者は前にもこのイベントで悪さをしていました。
   今再び…心身寒からしめる必要があるようです!)

36: 2009/06/06(土) 19:41:08.40 ID:BEJg9wN5O
けいおん!の舞台は女子校…。

40: 2009/06/06(土) 19:43:24.96 ID:t8rJIdh+O
>>36
こまけぇことは(ry

38: 2009/06/06(土) 19:42:59.89 ID:4T2+7kXJ0
御器所「おじょうちゃん。置石は何子がいい?
    5子?6子?それとももっと欲しいかい?」
澪「ぐっ…」
佐為(いいですか澪。今から私が言うとおりの事を
   この男に言ってやるのです)

澪「…それはこちらの台詞です。
  そちらが何子置いてもかまいません。
  ただし、負けたら二度とあんな碁は打たないで下さい!」
御器所「な…なんだと!?なめやがって!
    貴様みたいな小娘が、プロ相手に置き石をしろだと!?
    …上等だァ!!ほれ!ほれっ!25子だ!
    これで勝てるもんなら勝ってみやがれェ!!」
澪(25子!?こ、こんなの勝負になるわけ…)
佐為(少々キツいですが…心配は無用です。
   しっかり石を持って…行きますよ!16の八!)

43: 2009/06/06(土) 19:45:04.23 ID:4T2+7kXJ0
ざわ…ざわ…

「聞いたかい。あっちでプロが女の子相手に25子も置いて
 対局してるらしいぜ」
「なんでも女の子の挑発に乗って、ムキになったらしい。
 その子もかわいそうだよな。プロが25子置いて勝負になるわけないのに…」

緒方「何かトラブルですか?」
芦原「指導対局のブースで、プロの先生が女の子に
   石を25子置いて戦ってるらしいです」
緒方「何をバカな…一体どこのプロだ」
芦原「御器曽プロですよ。ホラ。
   株に続いて信託に手を出して失敗して
   ストレスが溜まってたんじゃないですか?」
緒方「やれやれ。そんなプロがいたんでは
   我々まっとうなプロの面子が丸つぶれだ。止めてくるか」
   

御器曽「…こんな…こんな!」
澪(すごい…最初のハンデはほとんど巻き返してる!
  まだ相手が若干有利だけど、ヨセでひっくり返る可能性が十分残ってる…!
  ここまで…ここまで強かったんだ。佐為…)

緒方「こ、この碁は…一体!?」

46: 2009/06/06(土) 19:47:06.51 ID:4T2+7kXJ0
御器曽「オ…オレの…負けだ」
澪(すごく細かいヨセで…
  負けてるのかもと思って…
  でも気がついたら半目勝ってた!
  これが佐為…!)
佐為(さあ、もう悪さはするなと言ってやるのです)
澪「や、約束です。もう悪さはしないで下さい!」
御器曽「ふ、ふざけるな!オレはこんな碁は認めない!
    プロに25子置かせて勝つだと!?ありえん!
    きっと何かイカサマをしたに決まっておる!」
緒方「見苦しいぞ。御器曽先生」
御器曽「お、緒方センセイ!?」
佐為(…この者は!かつて私の宿主がヒカルだった頃、私がネットで打った碁を見て
  『SAIと打たせろ』とヒカルに詰め寄っていた…
  私の影を追い続けていた…!)
緒方「途中から見ていたが、君とこの女の子の実力差は明らかだ。
   もういいだろう。指導対局は芦原に受け持ってもらう。帰りたまえ」
御器曽「ぐっ…ングゥ!!」

澪「わ、私も帰りますね。それじゃ!」
緒方「待ちたまえ。君には…聞きたいことがある」

48: 2009/06/06(土) 19:48:36.82 ID:4T2+7kXJ0
澪「な、なんですか?」
緒方「君の実力はアマチュアのレベルじゃない。
   …いや、プロにだってここまでは打てないだろう。
   いくら相手がやられごろの御器曽プロとは言え
   25子も置かせて勝つなんて芸当ができるのは
   塔矢元名人ぐらいのものだろう。
   …一体何なんだ君は?」
澪「わ、私は…」
緒方「まさか最近、ネットを騒がせているミオというのは君か!?」
澪「!!!」
緒方「君、名前は何ていうんだ!教えてくれ!」
澪「り、律です!」
緒方「律!ミオは君か!?もしかして2年前のSAIも…」
澪「し、失礼しますっ!!」
緒方「ま、待て!律!」

54: 2009/06/06(土) 19:50:52.15 ID:4T2+7kXJ0
佐為(なぜ律の名前を名乗ったのですか?)
澪「だって…本名名乗ったら、私がミオだってバレるじゃない。
  偽名を使おうとして、とっさに律の名前が…」
佐為(律に迷惑がかからなければよいのですが)
澪「うん、わかってる…でも、どうしよう。
  明日学校に行って、律の顔まともに見れないよ」
佐為(それにしてもあの者…まだ私の影を追いかけていたのか。
   あの者だけではあるまい。おそらくは塔矢アキラも、
   それに…神の一手に一番近い、あの者も…)
澪「佐為?」
佐為(…すみません。考え事をしていました)



緒方「律…十中八九あいつが『ミオ』…そしてSAIだ。
   ついに捕まえたぞ…SAI!」

57: 2009/06/06(土) 19:52:11.92 ID:4T2+7kXJ0
奈瀬「強くなったわね。律」
律「マジっすか~?奈瀬先輩の教え方が上手いからっすよぉ!」
筒井「これならライバルの澪さんにも勝てるんじゃないですか?」
律「対決は一週間後だから、それまでもっと強くなるよ!
  澪のやつ待ってろよ~。強くなった私を見て腰を抜かすがいい!」
筒井「あれ?外…黒塗りの高そうな車が止まってますよ」
奈瀬「ほんとだ。どっかのお偉いさんかな。
   …あっ!」
筒井「どうしました?」
奈瀬「あれって…緒方先生!!」
筒井「緒方先生って、プロの緒方九段ですか!?
   なんでこんな学校に…」

緒方「ついにつきとめたぞ。
   律という女生徒が通っている高校…
   この近くにはここしかない!」

59: 2009/06/06(土) 19:54:07.91 ID:4T2+7kXJ0
囲碁部顧問「筒井くん。部長はいるかしら?」
筒井「あ、先生。部長は今席を外していて…」
囲碁部顧問「そう。筒井君も大変ね。
      うちの学校が共学になって、転入してきた初めての男子だものね。
      どう?不便なことはない?」
筒井「い、いえ。周りが女子ばかりなのにも慣れましたから…
   それで先生。部長に何か用ですか?」
囲碁部顧問「ああ、実は…囲碁のプロの先生がお見えになっているのよ。
      先生。こちらが囲碁部です」
緒方「お邪魔するよ」
奈瀬・筒井「お、緒方先生!」
緒方「この学校に…特に囲碁部の部員に
   律という名前の女子生徒がいるね?」
律「ふぇ?」
奈瀬「律なら…この子ですけど」
緒方「なん…だと?」

60: 2009/06/06(土) 19:55:55.24 ID:4T2+7kXJ0
緒方「本当に君が律なのか!?
   他に律という女子学生はいないのか!」
律「はぁ、多分私だけだと思いますけど」
緒方「ふざけるなっ!お前が律だと!?
   じゃああの女子は何なんだ!
   オレが追いかけてきたSAIは…どこだっていうんだっ!」
律「い、痛い!離して!」
奈瀬「やめて下さい緒方先生!
   一体どうしたっていうんですか!」
緒方「君は院生の…。
   SAIだよ。この学校にSAIがいるはずなんだ!
   長い黒髪の、囲碁が強い女子生徒が…!」
律「そ、それって…澪?」
緒方「ミオだと!?今ミオと言ったか!」

65: 2009/06/06(土) 20:00:49.33 ID:4T2+7kXJ0
律「澪は…囲碁部じゃなくて軽音楽部ですけど」
緒方「軽音楽部…では、そこに案内してくれ」
律「は、はぁ…こっちです」

律「澪ー。多分お前にお客さん」
澪「私に?…!!」
緒方「久しぶりだな。律…いや、本名は澪だったか」
澪「あ…あ…」
律「澪?どうしたの!?」
緒方「君の本名は澪。最近ネットで活躍している者のHNもミオ。
   そして君はこの間、御器曽プロに25子置かせて勝った。
   もう言い逃れはできないぞ!お前が…『SAI』だ!」
澪(佐為っ…!)
佐為(…)

69: 2009/06/06(土) 20:07:31.58 ID:4T2+7kXJ0
律「え?え?何言ってるの?
  プロに25子置かせて勝った?澪が?
  そんなわけないじゃーん!澪は私のライバルで…
  囲碁だって、つい二ヶ月近く前に始めたばっかりで…」
緒方「だが現にこの子は私の目の前で、プロに勝っている。
   そして律、君の名前を騙ってその場から逃げ出した」
澪「ゴメン、律…」
律「そ、それはいいけどさ…」
緒方「オレは進藤がSAIと繋がりがあるのだとずっと思っていた。
   あるいは進藤がSAI本人なのだと…
   だがここにきてそれは間違いだったと確信した。
   お前がSAIだということはもはや明らかだ。
   進藤繋がりがあるかどうかまでは知らないが…
   まさかお前、進藤の師匠か?」
澪(佐為…)
佐為(進藤というのは私の前の宿主、ヒカルのことです。
   その時私がネットで名乗っていた名前がSAI。
   この者の言っていることは本当です)
緒方「なぜ黙っている!答えろ!」
澪「きゃあ!」
律「や、やめろっ!!」

73: 2009/06/06(土) 20:12:16.55 ID:4T2+7kXJ0
律「お、お前!いくら囲碁のプロだからって、女子に暴力ふるっていいのかよっ!
  警察呼ぶぞっ!」
澪「律…」
緒方「…悪かった。オレは初めてSAIの対局を見たときから、ずっとSAIを追い続けていた。
   だからつい熱くなってしまってな。
   キミは…本当はSAIなのだろう?それとも違うのか?
   『ミオ』の棋譜を一通り見たが…SAIの打ち方とそっくりなんだ。
   まるで本因坊秀作が現代の定石を学んで、強くなったみたいな打ち方だ。
   倉田五段…今は六段か。彼もミオに挑んで負けた」
澪(佐為とネット碁をはじめてまもなくして、
  桁違いに強い相手と当たった…あれだ)
緒方「ミオが君であることは認めるだろう?
   SAIのほうはどうなんだ?…違うとは言わないよな?」

75: 2009/06/06(土) 20:18:30.16 ID:4T2+7kXJ0
澪(私…どうしたら…)
佐為(心配いりません。澪。私が言うように答えて下さい)
澪(う、うん…)


澪「ミオは私じゃありません。私の師匠です」
緒方「!」
澪「師匠…ある事情でネット碁しかできなくて。
  私の名前を使って、ネット碁を打ってたんです。
  SAIについては…私は知りません」
緒方「だが君は御器曽プロに」
澪「あれは…逆だったんです」
緒方「逆?」
澪「25子置いたのは…あの人じゃなくて私のほうだったんです。
  それがいつの間にか、プロのほうが置石をしたって噂が広まってて…
  私なんかがプロに置石させて、勝てるわけないですよ」
緒方「だが君が素人だとして、逆にプロに25子程度置いたところで勝てるはずがない」
澪「だから…相手も本気じゃなくて、指導碁だったんです」
緒方(…一応つじつまは合っているな)
緒方「わかった。今日は出直そう。
   後日改めて伺う。その時は…師匠のことを教えてくれ」
澪「…はい」


澪「…やっと帰ったな。さ、練習練習!」
律「澪…」
澪「ど、どうしたんだ?律」

律「嘘ついてるでしょ」

78: 2009/06/06(土) 20:22:54.73 ID:4T2+7kXJ0
澪「な、何言ってるんだ。ほら。練習するぞ」
律「何年の付き合いだと思ってんだ?
  澪が嘘をつくときは、顔に出るからな」
澪「律…私は…私は…」
律「…ストップ。本当のことはどうでもいいさ。
  それより…来週の勝負、忘れんなよっ!」
澪「!…ああ!」

緒方(囲碁は相手と自分が交互に石を置くゲームだ。
   つまり…)

パチン

緒方(盤面にある石の数と、相手に取られたアゲハマの数…)

パチン

緒方(…の合計が、自分が打った石の数だ。そしてあの対局)

パチン

緒方(私は途中からの棋譜を知っている。石の総数は…
   御器曽プロのほうが25個多い!
   あの時置石をしていたのはやはり御器曽!
   ということは…やはり…)

80: 2009/06/06(土) 20:30:02.50 ID:4T2+7kXJ0
進藤「緒方さん」
緒方「!進藤っ!それにアキラ君」
アキラ「こんにちは」
進藤「緒方さん、今そこの学校から出てこなかった?
   っていうかあそこって、筒井さんの学校じゃ…
   ついこないだまで女子高だったっていう」
緒方「ちょうどいい。話がある。
   少し時間いいかな?喫茶店にでも入ろう」


進藤「緒方さん…今、なんて」
緒方「SAIの正体を突き止めた、と言った」
アキラ「SAIの正体…ですって!?」
緒方「ああ。間違いない。SAIの正体は桜高校の軽音楽部、秋山澪だ」
アキラ「秋山…澪…。
    まさかネットのミオ?」
緒方「ああ。君も知っての通り、SAIとミオはほぼ確実に同一人物。
   そしてたった今、御器曽プロに25子置かせて勝った秋山澪に会ってきた所だ。
   間違いない。奴がSAIだ」

進藤(秋山澪…まさか…佐為はそこに!?)

82: 2009/06/06(土) 20:33:44.89 ID:4T2+7kXJ0
緒方「近いうちにオレはもう一度桜高校に行く。
   SAIの正体を確認してきてやるよ。アキラ君)
アキラ(SAIは進藤だとばかり思っていたが…
   違ったというのか?)
緒方「…桜高校に車を停めてきたのを忘れてたな。
   どうやら相当舞い上がってるぜ…。
   結果がわかったらお前達にも報告する」
アキラ「よろしくお願いします!緒方さん」
緒方「ああ」
進藤「…よろしくお願いします」
進藤(SAI…お前、本当にそこにいるのか?)



秀英「永夏。珍しいじゃん。パソコン?」
永夏「ああ。ネットに強い日本人がいるらしい。
   腕前のほどを見てやろうと思ってな」

88: 2009/06/06(土) 20:41:54.00 ID:4T2+7kXJ0
秀英「『ミオ』…そんなHNの奴見当たらないけど」
永夏「今はログインしてないのかもしれん。
   北斗杯の中国の団長の話じゃ、国名は確かにJPNだったそうだが」
秀英「そんなに強い奴なら、日本のプロなんじゃないの?
   日本の一柳とかいうプロがネット碁を打ってるって聞いたことがあるけど」
永夏「いや、そんなもんじゃない。
   棋譜を見たが、あれは並大抵のプロじゃない」
秀英「並大抵って…一柳だってタイトルホルダーだよ」
永夏「あの強さは…そう、塔矢行洋にすら匹敵する。
   日本にそんな棋士がいるとは思えん。
   塔矢行洋本人なのか?それとも…」
   
永夏(本因坊…秀策?)

90: 2009/06/06(土) 20:44:50.55 ID:4T2+7kXJ0
進藤母「ヒカルーっ!今日は手合があるんでしょ?
    はやくご飯食べちゃいなさい」
進藤「わーってるよ!」
進藤(桜高校…澪がいる高校か…
   もしかしたらそこに…そこに佐為が…!)
進藤「…行ってきます」
進藤母「あら、ご飯はいいの?気をつけてね」


進藤(ここだ。桜高校…)
筒井「進藤くん!進藤くんじゃないか!」
進藤「!筒井さん」
筒井「一体どうしたんだい?
   こないだ緒方先生が来たと思ったら、進藤君まで…」
進藤「ここの軽音楽部に用事があるんだ」

94: 2009/06/06(土) 20:50:01.51 ID:4T2+7kXJ0
筒井「澪さんかい?」
進藤「な、なんで筒井さんがそれを…」
筒井「こないだの緒方先生も、澪さんに会いに来てたみたいだった。
   一体澪さんって何者なんだい?」
進藤「わからねェ…でも…」
進藤(佐為…)
進藤「そこに…オレがずっと探してたヤツがいるかもしれないんだ!」
筒井「あ!進藤くん!待ってよ!」


進藤(音楽室…)
筒井「軽音楽部が活動してるのは、この部屋だよ。
   …おじゃましまーす」
梓「あ…筒井くん」
筒井「中野さん。澪先輩は?」
梓「まだ来てないみたい…そちらの方は?」
筒井「囲碁のプロの進藤君。
   中学校のときの後輩なんだ」
梓「なんでそんな人がここに…?」
進藤「碁の神様に会うため…かな」
梓「?」

97: 2009/06/06(土) 20:55:05.06 ID:4T2+7kXJ0
筒井「中野さん。澪先輩が来るまでここで待たせてもらってもいいかな」
梓「う、うん…大丈夫だと思うけど」

唯「おぃーっす!あずにゃん!
  あれ?この人たちは」
筒井「囲碁部の筒井です。こっちは囲碁のプロの進藤くん」
唯「ほえーっ。りっちゃんとみおちゃんが囲碁を始めたって聞いたけど、
  こんな人たちと戦ってるのか~」
進藤「いや、俺は…」
唯「すごいなすごいな~。プロか~。
  私も教えてもらおっかな~」
進藤「…」

律「こんちゃーっす。あ、筒井君と…誰?」

103: 2009/06/06(土) 21:00:27.93 ID:4T2+7kXJ0
律「へー、プロの進藤君かぁ。
  私より二コ下でプロなんて、とんでもない世界だなー」
進藤「オレより年下のプロもいますよ。
   テレビに出てる囲碁のプロも大抵二十歳前からプロになってます」
梓「すごいんですね…」
筒井「でも進藤君は碁を始めてからまだ4年ぐらいしか経ってないんです。
   それでとっくにプロで活躍してるってのは、すごいことなんですよ」
律「そんなすごい人が来たんだから、澪にも会わせてやりたいなー」
進藤「オレもそのつもりで来ました」

唯(…あずにゃんあずにゃん)
梓(なんですか)
唯(もしかして進藤君ってさ。みおちゃんの…コレ?)
梓(?コレってなんですか?)

111: 2009/06/06(土) 21:07:54.22 ID:4T2+7kXJ0
筒井「澪先輩、遅いですね」
唯「いっつもなら真っ先に来てるんだけどねぇ」



奈瀬「…驚いたわ。澪ちゃん。あなた強いわね」
澪「そんな…奈瀬先輩には完敗でした」
奈瀬「律ちゃんがライバルだと言ってたあなたが
   どれほどの腕か見たくて呼び止めたけど…
   囲碁部の大会だったらいいとこまでいけるわよ。あなた。
   軽音楽やめて囲碁部に入ったらどう?」
澪「せっかくですけど…私は軽音部の皆と練習したり遊んだりするのが楽しいんです。
  だから…」
奈瀬「わかってるわよ。言ってみただけ。呼び止めてごめんね。いい碁だったわ」
澪「ありがとうございます。部のみんなが待ってるんで、そろそろ行きますね」
奈瀬「ええ。また打ちましょうね」


澪「どうだった?佐為。さっきの碁。負けは負けだったけど…
  私は満足いく碁が打てたと思ってる」
佐為(ええ。本当にいい戦いでしたよ)
澪「ありがと。後で検討よろしくね。
  さ、気持ちを切り替えて練習練習…」
  皆おまたせー…って、あれ?知らない人がいる」

進藤(秋山澪!)

佐為(………ヒカル!!!)

117: 2009/06/06(土) 21:12:55.49 ID:4T2+7kXJ0
進藤「…佐為?」
澪「えっ!?」
佐為(…澪。彼がヒカル。進藤ヒカルです)
澪「し…進藤さん?」
佐為(…)
澪(佐為、私どうすれば…)
佐為(…ヒカル!!)
澪「!!」
佐為(ヒカル!!私はここにいる!!
   私は…私はここにいる!!)
澪「佐為…」

澪「…進藤さん。二人で外に行きましょう」
進藤「!」
澪「皆ごめん…もうちょっと待っててね」

126: 2009/06/06(土) 21:20:24.47 ID:4T2+7kXJ0
唯「どうしようどうしよう!
  二人で出て行っちゃったよ!
  これはひょっとするとひょっとしますぞ~!あずにゃん!」
梓「な、何を言ってるんですか。
  あと抱きつかないで下さい」
筒井「進藤君…」
律「…」



澪「…もうお察しかもしれませんが…
  私には、佐為がついてます」
進藤「!!佐為!!」
佐為(ヒカル!)
澪「進藤さんが佐為の前の宿主だったんですよね…
  佐為から聞いてます。進藤さんのこと色々と…
  小学生のころ、佐為が進藤さんについたことも
  囲碁部に入って筒井君達とがんばったこともことも
  ライバルのアキラさんを追いかけてプロに入ったことも、
  名人と佐為が打った碁の中からただ一人、最高の一手を見つけ出したことも…」
進藤「佐為…オレは…オレは…」
澪「…佐為の言葉は私が伝えます。
  進藤さん。佐為と話をして下さい」

澪「久しぶりですね。ヒカル。元気でやっていましたか?」

131: 2009/06/06(土) 21:28:53.53 ID:4T2+7kXJ0
澪「久しぶりですね。ヒカル。元気でやっていましたか?」
ヒカル「佐為…佐為…!
    バカヤロウ!!お前がいなくなって、俺、俺…!」
澪「ごめんなさい、ヒカル。
  私だって…私だってずっとあなたの傍で碁を打っていたかった。
  …でも限られた時間には逆らえなかったのです」
ヒカル「なあ佐為!お前がいなくなってから、いろんなことがあったんだぜ!
    伊角さんも中国行って滅茶苦茶強くなって帰ってきたし、
    ほら、お前と戦った門脇さんもプロ入りしたんだぜ!
    和谷だって、越智だって…プロで頑張ってるぜ!」
澪「そうですか…。色々な事があったのですね。
  でもヒカル。一番成長したのはあなたではありませんか?」
ヒカル「何言ってんだ!
    俺なんて何にも変わってねーよ!
    佐為!お前がいなくちゃ俺なんて何にもできねーんだ!
    帰ろう!佐為!さっそく北斗杯の棋譜を並べてやるぜ!
    すごかったんだぜ!韓国の永夏にあと一歩の所で負けちまってさぁ!」
澪「ヒカル…ごめんなさい。私はあなたの元へは戻れないのです」
ヒカル「な…何言ってんだよ!佐為!
    オレが囲碁を始めてから…俺達ずっと一緒じゃねーのかよっ!!」

澪「ヒカル…一局打ちましょう」

136: 2009/06/06(土) 21:38:21.61 ID:4T2+7kXJ0
ヒカル「佐為…?」
澪「ヒカル。あなたは私の碁を超えていかなければならない…。
  私を超えていかなければならないのです」
ヒカル「オレはお前を超えたいなんて言ってねぇ!
    またお前と一緒に…」
澪「ヒカル。あなたは昔、塔矢アキラにこう言いましたね。
  『オレの幻影を追っているようじゃ、いつか本物のオレに足元すくわれるぞ』と。
  塔矢アキラが私を超えようとしたように、
  あなたが塔矢アキラを超えようとしたように…
  私もまた、あなたに超えられるべきなのです」
ヒカル「…わかった。わかったよ佐為。
    筒井さんに碁盤を借りてこよう」



ヒカル「佐為。お前が黒だ」
澪(佐為…)
佐為(澪。この一局をよく見ておきなさい。
   さあ石を持って…)

佐為(右上隅、小目!)

139: 2009/06/06(土) 21:41:12.39 ID:4T2+7kXJ0
パチ

ヒカル「…」

パチ

佐為「…」

澪(凄い…すごすぎる。
  進藤さんが妥協した一手を、佐為が見事に捌いた…!
  それに対し進藤さんは、守るどころか相手の石をキっていった…)


佐為(ヒカル…)

パチ

佐為(強くなった…本当に)

パチ

進藤(佐為…)

パチ

進藤(今のオレは…どうだ!)

142: 2009/06/06(土) 21:48:29.05 ID:4T2+7kXJ0
澪(終局…)

進藤「オレの…7目半負けか」

進藤「やっぱ…強えーや佐為!
   お前を超えるなんてまだまだ…」

澪「いいえヒカル。あなたは私に全力で挑んできた。
  また私と共に過ごしたいという思いを捨て、精一杯勝ちに来た。
  あなたは私の存在を超えて、次へ向かって歩みだしたのです」
進藤「佐為…!」
澪「実を言うとヒカル。あなたと全力で打つのは、これが初めてだったのですよ。
  その結果が7目半…ヒカルは予想以上に強くなっていました。
  あなたにはもう、私は必要ない…」
進藤「佐為…佐為っ…!
    わかったよ佐為…オレ、お前を超えていく!
    次に向かって、お前を超えていくよ!!」
澪(進藤さん…)

澪「大丈夫ですヒカル。私は澪と一緒にいます。
  打ちたいと思えばいつでも、私と打てるのですよ
  だから…涙を拭いて」
進藤「そっか…そうだよな。
   ありがとう、佐為。それに…澪さん」
澪「あっ…わ、私は別に」
進藤「へへ…また遊びに来るぜ。
   また打とうな佐為!それに澪さんも!」

145: 2009/06/06(土) 21:53:35.61 ID:4T2+7kXJ0
澪「行っちゃったね。進藤さん。さびしくない?佐為」
佐為(…さびしくないと言えば嘘になります。
   でもヒカルの成長した姿を見られて、私は幸せです)
澪「…そっか。よし。
  じゃ、早速さっきの碁の解説をお願い。
  皆をさらに待たせることになっちゃうけど、この熱が冷めないうちに…」

佐為(ごめんなさい澪。私はもう…)
澪「…えっ?」
佐為(また『時間』が来てしまった。
   私はもう行かないといけないのです)
澪「…嘘」
佐為(嘘ではありません。本当です。
   二ヶ月の付き合いでしたが…楽しかったですよ。澪)
澪「待って!行かないで!
  行かないで佐為!佐為ーーっ!!」

私は氏んでから三度、この世に舞い戻った。
一度目は囲碁に未練があったから…
二度目は神の一手を極めるために…
そして三度目は…そう。ヒカルと再び碁を打つために…

147: 2009/06/06(土) 21:56:16.29 ID:4T2+7kXJ0
澪「佐為!佐為!待って!
  私はまだ教えてほしいことがたくさんあるんだよ!?
  進藤さんともたくさん打ちたいでしょ!?
  ネットで世界中の強い人たちともたくさん打ちたいでしょ!?
  いかないで佐為!私は、私は…っ!!」

佐為(澪…あなたにはライバルの律がいる。師匠になってくれる奈瀬がいる。
   私がいなくてもあなたはやっていけます。どうかお元気で…)

佐為(さようなら)



澪「佐為ぃ…うっ…うっ…」

150: 2009/06/06(土) 22:00:01.60 ID:4T2+7kXJ0
筒井「澪さん遅いですね」
唯「部活ほっぽりだして、進藤くんとデートに行っちゃってたりして!」
梓「そんな…唯先輩じゃないんですから」
唯「なぁんだってー!?」
梓「ひっ、す、すいません~!」

澪「ただいま」
唯「あっ!澪ちゃん!おかえりー!」
澪「待たせてごめんな。さ、練習練習!」
梓「…澪先輩、目が真っ赤ですよ」
筒井「泣いてたんですか…?」
澪「えっ!?あ、あはは…これはね、別に…」
唯「みおちゃんさては、進藤さんにフラれたり…」
澪「ち、違うって!そんなんじゃないから!
  さぁ皆、気合入れて練習だ!」
律「練習の前に澪!やることがあるだろう?」

152: 2009/06/06(土) 22:06:41.33 ID:4T2+7kXJ0
澪「練習の前にやること?」
律「そう!私と澪の、因縁の対局第二段っ!!」
澪「あ…」

澪(そういえば今日が、約束の対局の日だっけ…)

律「何があったのかは聞かないよ。澪。
  さあ、決着をつけようではないかっ!!」
梓「何言ってるんですか!
  練習はどうするんですか?」
唯「いいぞー!二人ともやれやれーっ!」
梓「そ、そんな~…。私と澪先輩以外、いっつも練習ほったらかしにするんだから…
  澪先輩からも言って下さい!」

澪「…」
澪(ライバル、か)

澪「悪いな梓。ちょっとだけ待っててほしい」
律「おー!やる気だな澪!さあ座れ座れ!
  ギッタギタにしてやるからなっ!」
澪「望むところだ律!」


澪(見ててよ佐為。私も…先へ進んでいく!)


先手 4の十六 星



154: 2009/06/06(土) 22:08:08.78 ID:4T2+7kXJ0
読んでくれた皆さん乙でした

155: 2009/06/06(土) 22:08:32.34 ID:fs7mjRUFO
右上隅小目じゃないのかwww

157: 2009/06/06(土) 22:09:33.32 ID:H4zWQXw0O
乙!面白かったです

引用: 澪「藤原…佐為?」