1:◆NirOX0FMME 2009/03/04(水) 21:01:49.45 ID:YPALg/Mt0


「プロローグ」

 
 巡る

 浮かぶ現実

 世界を見渡して


 『神に会うために…』

 過去の夢。

 『やあ、ようこそ』

 今の道。

 『決着を付ける』

 未来のために。

 僕は……


3: 2009/03/04(水) 21:02:45.01 ID:YPALg/Mt0

 『それは、あんたに頼んだ』

 声が聞こえた。

 魔力溢れる世界を眼下に、螺旋階段を駆け上がる。
 外は闇に包まれていた。
 月光だけが、開け放たれた幾つもの窓から差し込む。
 月明りを踏みつけ、ただ走る。


 ―「君」は何故、ここにいる―

 ―理由はなんだ―


 外が移り変わる。

 景色が流れて行く。

 街、平原、遺跡……


 前に大きな扉が見えた。
 駆け寄り、手をかける。

 

4: 2009/03/04(水) 21:05:48.65 ID:YPALg/Mt0

 
 確かな意思がここにある



 ―全てが溢れているだろう―



 軋む音を響かせ、扉は開け放たれた。



 ―それでも真実を求めるなら、もう少し進めー

 ―君の「世界」には、何がある?―




 ―知っているべき事は、一つの事実でいい―






5: 2009/03/04(水) 21:08:53.64 ID:YPALg/Mt0



 この世界には魔法がある








( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです



6: 2009/03/04(水) 21:11:58.45 ID:YPALg/Mt0


 ここにあるのは一つの束

 始めるかどうかは、自分次第


( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです


序章 色付く景色  第一話「始まりの手」


―赤の国― 

―第五魔法大学―


( ^ω^)「………」

 快晴。
 窓から見えた空には雲の一つも無い。
 文句の付けようが無い、秋晴れ。

 僅かに目をずらせば、石造りの壁が眼に入る。
 部屋全体が長方形の白いレンガで造られている様な錯覚を受けるが、
 これは木材なども巧く利用されている新しい建物だ。
 と、目の前の教授が前に言っていた。

 前の席から回ってきた名簿から僕の名前を探す。

7: 2009/03/04(水) 21:15:36.62 ID:YPALg/Mt0
 ブーン=ホライゾン

 適当に印を付けて出席を示し、周りを見ながら名簿を流す。
 周囲には勉学に勤しむ学生たち。
 着ている物は全員黒いローブに僅かな赤い装飾。
 暖炉に揺らめく炎が、不均等ながらも定期的に視界に映る。

 眠い。
 
(-@∀@)「今日は世界の成り立ちについて軽く復習してからいきますね~。
      …そこ、知っていても復習です。
      私達のいる大陸にあるのは、赤、青、黄、緑、紫の五国があります。
      あ、黒の国は島国ですので除外です。
各国にはそれぞれ五色の魔法があり、生活を支えている訳ですね」

 誰だって知っているだろうに。
 最高学府とは言え、所詮は五流だ。

(-@∀@)「七年前の魔王大戦は記憶に新しいものです。
      現在は魔王も封印されていますが、
      私達が戦争を起こせば復活してしまうかもしれません」

 戦火は魔王を呼ぶ。
 教授が次に言いそうな事を想像しながら半開きの目で教卓を睨む。

( ´ω`)(マジで眠いお……)

 僕の睡魔との氏闘もつゆ知らず、講義は進んでいく。

9: 2009/03/04(水) 21:18:44.45 ID:YPALg/Mt0
 
(-@∀@)「まぁ、皆さん知ってますね。今日は前大戦の影響を…」

 少しだけなら目を瞑ってもいいか。
 そう決心した直後、講義は終わっていた。

(-@∀@)「と言う訳で次回は各地の特色から文化の違いを調べていきます」

( ^ω^)「……」

(-@∀@)「来週は小テストやるのでサボらないでくださいね~」

 寝過した。

(;^ω^)(単位大丈夫なのかお…)

 真っ白なノートを見つめながら頭をかかえた。
 だが、三回連続寝過した位で諦める訳にはいかない。
 近くを通りかかった知り合いを呼び止める。

(;^ω^)「あっ! ナオルヨ、ノート見せてくれお!」

('(゚∀゚∩「いいよ!」

 第一関門突破。
 後は試験だが、どうとでもなるだろう。

10: 2009/03/04(水) 21:21:49.83 ID:YPALg/Mt0

( ^ω^)「よし、帰るお」

('(゚∀゚∩「かえるよ!」

 そう言うとナオルヨは走って出て行った。
 彼はいつも元気に忙しそうだ。
 
 さて、今日は仕事もない。
 僕は少し悩んでいつもの散歩コースを行こうと選択した。
 少し歩いて昼食に備えるとしよう。
 
 学校の外へと出ると意外に寒い。
 さほど広くない敷地を抜け、そのまま真っ直ぐに歩く。
 国境の草原は近くにあるのだ。


―国境付近 草原―


( ^ω^)「おお、相変わらず誰もいないお」

 茶色の一本の道以外は木の一本も無い草原。
 冷えた空気に太陽の光が差し込む。

 眺めは悪くないが何故かいつも人がいない。
 これだけの天気なのだから皆来ればいいといつも思う。

12: 2009/03/04(水) 21:24:56.29 ID:YPALg/Mt0

( ^ω^)「?」

 いや、今日は誰かいる。
 黒いローブ姿だがフードを被り、真っ直ぐ歩いてくる。
 ローブのおかげで体形は分からないが背は高い。
 そして僕の横を通ろうとした。

 その時偶然、見えてしまった。

( ∴)「………」

 フードの下には顔全てを隠す妙な形の仮面。

( ^ω^)「…仮面?」

 思わず口に出した。

 
 次の瞬間に見えたのは刃。
 瞬時に頭を下げ、地面を蹴って距離を取る。
 剣の切っ先が自分の上着を掠めたらしく、切れていた。
 紫色の軌跡が空間に残る。

(;^ω^)「おおおおぉ!?」

14: 2009/03/04(水) 21:28:08.66 ID:YPALg/Mt0

( ∴)「…」

(;^ω^)「何ですかお!?」

 ローブから出している右手に握られているのは自身の半身より長い両刃の剣。
 剣自体が紫色の光を纏っている。
 目の前の仮面を付けた人物が【魔法使い】であるという証だ。

 一度真横に振り払った剣の軌跡に紫色が残る。
 僕目がけ、一直線に駆けて来る。


(;^ω^)「…得意じゃないけど……仕方ないお」

 僕はだらりと垂れ下がった両手に力を入れ、握り拳を作る。
 そのまま右手を真横に振り払う。

( ^ω^)『ファイアグローブ!』

 赤い閃光が散る。

 【魔法】の発動。
 その瞬間、僕の両手に赤い光が宿る。
 僕の【魔力】を喰い、その名の通り両手を覆う。
 両手を覆った後も尚、光は消えない。

 正当防衛だ。罪にならないと思いたい。

15: 2009/03/04(水) 21:32:14.95 ID:YPALg/Mt0

( ∴)「…!」

 仮面の魔法使いが剣を振り上げている。そのまま僕の頭めがけて
 振り下ろす。

 こちらは左手を突き出す。真下から刀身に向かって手のひらを叩きつける。
 金属と金属をぶつけたかの様な音。
 赤と紫の光が散る。

(;^ω^)「くっ……!」

 再び距離を取る。仮面の魔法使いの方も離れてくれた。
 魔力で劣っている事がよく分かった。
 自分の左手を見ると、切れて血が滲んでいる。

 時間は無い。
 仮面が目の前に迫っていた。

 紫の斬撃を避ける。
 僕が学生だから戦闘の心得があったが、
 これで僕が魔法使いじゃなかったらすでに氏んでいただろう。



18: 2009/03/04(水) 21:35:30.82 ID:YPALg/Mt0


 (; ω )「はぁ…はぁ……」

 何度も斬撃を避けていると息が上がってきた。
 このままではいずれ殺される。
 一発逆転を狙う。

 七年前から随分と運が悪い。

 思考を打ち消し、左手を構えて仮面の魔法使いをなぎ払おうと一歩前に出る。

 仮面の魔法使いが同時に一歩下がる。左手はそのまま空振り、体
 の外側へと流れる。僕の体勢は崩れて前傾姿勢になった。
 この距離なら当たるはず。
 同時に構えていた右手を仮面めがけて打ち出す。

(;゚ω゚)「うおおおおおおぉッ!!」

( ∴)「…」

 仮面の魔法使いは体を斜めにずらした。突き出した右腕を掴まれ、
 そのままの勢いで向かい側に投げ飛ばされる。地面に背中から叩きつけられた。

(; ω )「がッ!?……!」

 まったく、大体こんな事したら捕まるだろうに。

 一瞬よぎった考えが今顔を向けている方向にある物を思い出させる。
 倒れているので真横の地面の草に隠れているが、この先には国境がある。兵士がいるはずだ。

20: 2009/03/04(水) 21:38:34.11 ID:YPALg/Mt0

( ∴)「……」

 仮面の魔法使いは剣を逆手に持ち、腕を頭上に構えている。
 このまま剣が落ちて来たら頭に突き刺さる。さっさと逃げなければならないが、体が動かない。
 さっき頭も打ったらしい。

 終わりか。

 どうせ戦争も無い今では、兵士達も気を抜いている。気付きもしないだろう。
 氏に直面しているというのに意外と冷静なものだ。
 体が動けば簡単に避けられる位にスローモーションだった。

 ぼんやりした現実が終わる。そう思った。

 剣はブーンの頭めがけて突き下ろされる。


(; ω )「!!」


 反射的に目を瞑った。

 そのまま剣が来るはずだったが、聞こえたのは金属音。

 恐るおそる目を開ける。

 少し離れた場所に折れた剣が落ちていた。
 仮面の魔法使いは剣を振りぬいたまま、僕に背を向けて佇む。

22: 2009/03/04(水) 21:41:37.86 ID:YPALg/Mt0

( ∴)「……」

( ゚∀゚)「昼間から物騒だな~」

 更にその先には一人の男が立っていた。
 白い法衣――を着崩している。スリットの入ったローブとも見られる位に原型を止めていない。
 包囲の下には自分と同じ黒いズボンが見えている。
 腰から下げている鞘には剣が収まっていなかった。
 
 落ちている剣は彼の物なのだろうか。

( ∴)「…! ……あなたハ、ジョルジュ=ロングヒルですカ?」

 初めて喋った。
 くぐもった声だ。仮面のせいなのだろうか。

( ゚∀゚)「ああ、よく知ってんな」

 ジョルジュと呼ばれた男も気の抜けた声で、
 しかし仮面の魔法使いを睨みつけながら応答する。
 顔からは余裕の様なものが感じられた。

( ∴)「…そうですカ。あなたヲ排除しまス」

 紫の閃光を放ち、剣に更なる魔力が注がれる。
 閃光はそのまま筋を残し、ジョルジュに向かっている。

23: 2009/03/04(水) 21:44:43.13 ID:YPALg/Mt0

( ゚∀゚)「…舐めんな」

 そして真上からジョルジュに切りつけた。

 一瞬の赤い閃光。

 紫の軌道がずれる。
 真上から降りた剣はジョルジュの斜め下の地面へと激突し、土ぼこりをあげる。

 直後、煙の中から赤色が仮面にぶつかった。
 仮面の魔法使いは吹き飛ばされるが、後方で体勢を立て直す。

( ゚∀゚)「……フレアガントレット」

 僕とは違う、腕から肘までを覆う赤い光が炎の様に揺らめく。
 煙から現れたジョルジュは魔法を発動していた。

( ゚∀゚)「あ。 発動した後に言っても意味ねぇ……」

(;^ω^)「……」

 魔法を宣言すると同時に発動する事は魔法の強化に繋がる。
 精神統一やら何やら言われているが、詳しい理屈は知らない。
 取り敢えず後から宣言を行っても意味は無い。

 ようやく体が動くようになった僕はその場から動かずに立ち尽くしていた。

24: 2009/03/04(水) 21:47:50.74 ID:YPALg/Mt0

( ∴)「…!!」

 吹き飛ばされた場所で立ち止まっていた仮面の魔法使いは地面に見ていた。
 仮面の下の体が突然痙攣したかの様な動きをした。

 直後、仮面の魔法使いの体が、消える。

( ゚∀゚)「!」

 消えた仮面の魔法使いがジョルジュの真上から迫る。
 素早く位置を変えたジョルジュが落ちてきた影に左拳を打ち出すが、空を切る。

 落ちてきた影は剣。
 仮面の魔法使いはジョルジュの背後に着地する

(;゚∀゚)(!?)

 左手を戻しきる前にジョルジュの脇腹を、紫を纏った足が捉える。

( ∴)「!」

(;゚∀゚)「ぐっ!」

 蹴りを受けてジョルジュの体が僅かに浮いた。
 剣を引き抜き、追撃される。


25: 2009/03/04(水) 21:51:18.07 ID:YPALg/Mt0


(;^ω^)「……」

 ジョルジュという魔法使いが押されている。
 だが、自分が介入する余地は無い。
 どうにかして仮面の魔法使いを追い払えないのか。

( ^ω^)「アレは使えるのかお?」

 忘れていた七年。
 何故、今思い出したのだろうか。
 使えるのかは分からない。
 実際使っていいものか迷うが、どうせ誰も見てないだろう。

 やってみるか。


( ∴)「……」

 一振りでジョルジュが空中に吹き飛ばされる。
 だが追わない。

 紫の剣がただの光となり霧散する。

 その場で右手を突き出し、剣だった光が巻きあがる。

26: 2009/03/04(水) 21:54:25.72 ID:YPALg/Mt0

( ∴)『ライトニングキャノン』

 再び紫の光が何かを形成していく。
 全体が透明な紫色の、長方形が円柱に幾つも張り付いたかの様な大砲。
 それが仮面の魔法使いの右肩から生えている。

(;゚∀゚)「高位魔法!? …マジで?」

 大砲の先に紫の光と雷が集まる。
 光は強さを増していく。

 依然として空中にいるジョルジュは身動きが取れない。

( ∴)「…!」

 大砲の紫の光が臨界を迎える。

(;゚∀゚)「チッ!」


 そこに向かう。

(  ω )『…ウインドダッシュ…』

 視界に緑の光が映り、体の周囲に風が流れて行く。
 視界が急激に変わる。
 一瞬で大きくなった大砲。
 僕の体は一陣の風と共に仮面の魔法使いに向かって吹き飛んでいた。

27: 2009/03/04(水) 21:57:31.15 ID:YPALg/Mt0

(;゚ω゚)「おおおおおぉッ!!」

 強く赤い発光と同時に右腕が大砲に激突する。

( ∴)「!!」

 大砲は、ずれた。

 先端からはき出された、巨大な紫の光が空間を裂く。
 しかしジョルジュの真横を通って行く。

 僕は反動で弾かれた様に飛ばされた。

(;゚∀゚)「うおおおおおぉ!?」

 ジョルジュは驚きながらも体勢を立て直し、地面に着地する。
 着地と同時に地面を蹴る。

( ゚∀゚)「助かった!」

 ジョルジュは既に仮面の魔法使いの前にいる。
 直後、大砲が分解し吹き飛ぶ。

(#゚∀゚)「仮面のお前、危ねぇだろうが!!」

28: 2009/03/04(水) 22:00:40.53 ID:YPALg/Mt0

 大砲を貫いた左手で仮面の魔法使いの首を掴む。

( ゚∀゚)「…高位魔法を使えるのは、俺も同じだ」

 右手は胸に叩きつける。
 一瞬、赤の光が空と地面を埋めた。

(#゚∀゚)『エクスプロージョン!!』

 爆発。
 周囲に熱気が広まり、地面の草が燃え盛る。
 草原に火の粉が舞う。

(;゚ω゚)「……」

 仮面の魔法使いは炎に包まれ、ジョルジュの手の先にいる。

 初めて見る二つの高位魔法。

 何だって言うんだ。
 今さらだが、【高位魔法】が飛び交う戦場に来た覚えは無い。

( ゚∀゚)「まあ、これで治療するまで動けねぇだろ」

 炎の塊を投げ飛ばす。
 仮面の魔法使いだったそれは動かない。

29: 2009/03/04(水) 22:03:44.75 ID:YPALg/Mt0

(;゚∀゚)「やれやれ。 無事か~?」

 ジョルジュがブーンに歩き寄って来る。

(;゚ω゚)「…お?」


 この後の事をはっきりと覚えていなかった。
 完全に気が動転していた自分を呪うしかない。
 一般人なら混乱するとも思うが。

( ∴)『……ヴェズル…フェルニル…!』

(;゚∀゚)「…召喚?」

 紫色の鳥だろうか。
 巨大な紫の塊に乗っている仮面の魔法使い。
 体のローブは焼き切れ、その下に着ていたらしい鎧がヒビとススだらけになっている。
 一気に上空まで飛び国境に向かって飛んで行く。
 
 国中を探しても【召喚魔法】が使える者なんてほとんど見つからないはずなのだが。

(;゚∀゚)「…て言うか、動けんのかよ。一応直撃なんだけど…」

 国境から騒ぎを聞きつけた兵士たちが走ってきた。

(;・-・ )「ジョルジュ様! ご無事で!?」

30: 2009/03/04(水) 22:06:58.04 ID:YPALg/Mt0

 また、敵が。
 思い出したくもないが、僕は魔法で飛び出していた。

(;゚ω゚)「うおおおおおぉッ!!」

(;゚∀゚)「は? いや、落ち着け!」

 緑色の風が吹く。
 この国のものではない魔法を使い、直線を駆け、兵士を殴り倒す。

(;・-・ )「うあぁ!? 取り押さえろ!」

 鈍い衝撃。
 そこで、僕の意識は途絶えた。


序章 色付く景色  第1話「始まりの手」 完




31: 2009/03/04(水) 22:10:04.07 ID:YPALg/Mt0



 不意に得た自由

 さあ、どうする?


( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです


序章 色付く景色  第二話「正位置の『愚者』」

 赤、青、黄、緑、紫、そして黒。
 世界には六の国がある。

 【緑の国】に住む当時十二歳の僕は、避難時の混乱で【赤の国】に連れてこられた。
 災害孤児と言えばいいのだろうか。
 
 両親や友達は魔王の軍勢から逃げる中ではぐれて以来会っていない。
 あの地方で生き残ったのは、赤の国まで連れてこられた僕達数名だと聞く。
 両親達はほぼ確実に氏んでしまっただろう。

 そのまま、何の手違いか故郷である緑の国からこの【赤の国】に運ばれて、
 補助を受けたり仕事をしながら学生として生活していた。

 以上が僕の簡単な経歴だが、この境遇は特別な物では無い。
 どこの国でも似たような人はいるのである。

33: 2009/03/04(水) 22:13:10.75 ID:YPALg/Mt0

(;^ω^)「………」

 何故こんな事を振り返っているのかと言えば、数時間前の騒ぎが原因だ。
 やはり兵士を殴ったのがまずかった。

 縄で縛られて正座。
 目の前には石つくりの床、上に赤い絨毯、僅かな装飾の簡素な謁見の間。
 広間の壁には赤い炎が幾つも揺らめいていた。
 簡素だけに威厳を感じさせる、といった雰囲気だろうか。
 
 僕以外に、周囲には大臣達と兵士が順に整列していた。
 そして赤の国の王。
 
/ ,' 3「……」

 スカルチノフ=アラマキ王二世が僕の目の前、王座に座っている。
 僕は緑の国出身というだけのしがない一般人だ。
 いきなり王の前に突き出されれば緊張もする。

(;^ω^)(緊張ってレベルじゃねーお!)

 腰の辺りから震えが来ているが、気合いで抑える。

( ・-・ )「…以上が記録されているブーン=ホライゾンの経歴です」

( ゚∀゚)「孤児ねぇ。大変だなぁ…」

(;゚∀゚)「…じゃなくて! 話を聞け!」

35: 2009/03/04(水) 22:16:39.27 ID:YPALg/Mt0


 王の近くには先程助けてもらった魔法使い、ジョルジュ。
 そして現場にいたらしい兵士がいた。

( ・-・ )「彼が緑の魔法使いでも、現状で紫の国と関係が無いとは…」

 【紫の国】、赤の国の東に位置する大国だ。
 『関係』とは何だろう。

( ・-・ )「加えてジョルジュ様の言う仮面の魔法使い。
      紫の国が動き出した、と考えるのが自然では?」

 動きと言うと仮面の魔法使いの事だろうか。
 
/ ,' 3「うむ…緑の国が動いていない証拠も無いか」

(;^ω^)(……まさか…)

 嫌な結論に行き着きそうな所でジョルジュが割って入る。

( ゚∀゚)「確かに紫の国は最近妙だ。
     だが、緑の国は守護者からの連絡もある。何の関係も無いさ。
     それに俺が仮面の魔法使いと戦ってる時、コイツに助けられてんだ。 
     もしスパイだったら『守護者』は潰しにかかるだろ?」

 ジョルジュが助け舟を出してくれた。
 

36: 2009/03/04(水) 22:19:46.16 ID:YPALg/Mt0
 
/ ,' 3「どちらにせよ、兵士に危害を加えれば最低でも禁固五年だ」

( ゚ω゚)(ええええええぇ!?)

 自国の凄まじい法律に驚いているとアラマキ王が僕に向き直る。

/ ,' 3「ブーンとやら、ぬしからも話を聞こう。この兵士の報告に違いはあるか?」

 王自らが僕に話かけて来るとは。
 気分が悪くなる程の緊張を引きずり答える。

(;^ω^)「お、あ、僕は…いえ、違い…ありませんお」

 僕の言葉を聞いて、王は暫く僕の目を見ていた。

(;^ω^)「で、でも! 僕は、スパイとかじゃ…」

(#・-・ )「控えろ、王の御前だぞ!」

 近くの兵士に一括されてしまった。

/ ,' 3「よい。この者からは悪意は感じぬ」

(;・-・ )「ですが、現状で軽率な行動は…」

 大臣達とも問答が続いていた。

37: 2009/03/04(水) 22:22:51.06 ID:YPALg/Mt0

/ ,' 3「さて、ブーン。我が国の法は知っているな?
    それに現状は不確定な要素が多い。
    ぬしを何もせずに放置する事は出来ない」

(;゚∀゚)「相変わらず頭固てぇじじいだな」

 ぼそりとジョルジュが言った。

(;・-・ )「ジョルジュ様! いくら守護者でも…」

/ ,' 3「はっはっは、だが今回は仕方無いのだ」

 快活な笑いとは裏腹に、僕を見る目には確固たる意志が見えた。

/ ,' 3「決定を言い渡す…」

 広間が沈黙する。
 緊張が続く僕としては極めて長い時間だった。

/ ,' 3「事の次第が明らかになるまで赤の国からの追放…」





38: 2009/03/04(水) 22:26:03.50 ID:YPALg/Mt0

 謁見の間で追放を言い渡され、準備のために家に帰された。
 全体が木で作られた狭い部屋は所々壊れている。
 散らかった部屋を片付けながら使えそうな物を探す。
 一人で暮らしている部屋だが城から何故か付いてきた人がいる。

( ゚∀゚)「まぁ、部屋も残すし、大学も休学にしとくさ」

( ^ω^)「それはありがたいですお!」

 何の疑問も持たなかったがこの人は、なぜ僕の部屋に入ってきているのだ。
 高位魔法を使ったり、王に暴言を吐いたり、それなりの重役だとは思うが。

( ^ω^)「…で、その前にあなた何者ですかお?」

( ゚∀゚)「……それ知らずに俺と喋ってたのか?」

 守護者。
 魔王を封印し、前大戦を終結させた者達。
 大体は国で最大の魔力を持つ者が務めている。

 【炎の騎士】

 それがこの国の守護者の称号だ。

39: 2009/03/04(水) 22:29:15.57 ID:YPALg/Mt0

( ゚ω゚)「あなたが炎の騎士!?」

( ゚∀゚)「おうよ、そのジョルジュだ」

( ゚ω゚)「それがどこの馬の骨とも知れない紫の魔法使いに負け損なったのかお!?」

(;゚∀゚)「うるせぇ! 魔法器忘れたんだからしょうがねぇだろ!」

 そう言いながらジョルジュは自分の腕を指さす。
 そこには仮面の魔法使いと戦った時には無かった籠手を着けている。

 魔法器は魔力の増幅装置だ。
 良し悪しはあるが、極めて高価なので一般人で持っている人は少ない。
 高い能力を持つ魔法使い同士の戦いではこれが無ければ丸腰の様なものになる。
 要約すると魔法使いの武器だ。

( ゚∀゚)「じゃ、外で待ってるぜ」

 守護者という者も暇なのだろうか。
 たかが一般人について回るのも変だ。
 そんな事を考えながら準備を終えて、七年過ごした部屋を出る。

( ^ω^)「終わりましたお」

( ゚∀゚)「荷物少ねぇな。案外旅慣れてるのか?」

( ^ω^)「持ってく物がありませんお」

40: 2009/03/04(水) 22:33:11.52 ID:YPALg/Mt0

 背負っているバックは大きくない。
 使えそうな物など僕の部屋には無かった。

 住んでいた家の外。
 国境へと続く道に沿って、ぽつりぽつりと石造りの白い家が並ぶ。
 国の中心へと向かえば家は増えて住宅街へとなっていく。

 国境への道。
 対照的に家は少なくなり草原へと続いていく。

( ^ω^)「まさか追放されるとは思わなかったお」

 頭上には雲ひとつない青空が広がる。

( ゚∀゚)「お前、楽しそうだな」

 真横を付いてくるジョルジュが前を向いたまま話しかけてくる。

 楽しそう、か。
 
 良い機会と思っているのかもしれない。
 変わらない生活に飽きていたのか。
 何もできない自分に嫌気がさしていたのか。


41: 2009/03/04(水) 22:36:57.38 ID:YPALg/Mt0

 仮面の魔法使いとの戦いで、情けない事を考えていた自分に苦笑し道を歩く。

 やがて兵士たちのいる国境に辿り着いた。
 木製の柵の間に兵舎と検問が設置されていた。
 ジョルジュが付いている事で何も言われずに素通りして進む。

 赤の国を出た。

( ゚∀゚)「ふぅー、久々に国外に出たぜ。いい空気だ!」

( ^ω^)「いい空気は結構ですが、ここで解散ですかお?」

 追放されたのだから、それでも文句は言えない。
 これからどうすればいいのだろうか。
 どうせ時間はあるのだ。好きに歩き回ってみるか。
 そう思ってはいた。

 僕の決心とは裏腹にジョルジュの一言は僕の行先を決めた。

( ゚∀゚)「…どうせアテも無いだろ?」

(;^ω^)「そりゃそうですお」

( ゚∀゚)「ならここからは馬車だ。青の国に向かうぜ」

 ジョルジュは平地の先を指さした。
 あの先から馬車が来るのだろうか。

42: 2009/03/04(水) 22:41:37.81 ID:YPALg/Mt0

( ^ω^)「? 怪しい奴を他国に連れ込んでいいんですかお?」

( ゚∀゚)「じじいの言った事はほっとけ。
     青の国に知り合いがいるんだ。そこで仕事でもしながら待ってろ。
     王にかけ合って追放を解く」

 学生を休んで仕事。いい経験かもしれない。
 だが一国の守護者が見送りまでしてくれるのは疑問だ。

( ^ω^)「…ジョルジュさんもついて来てくれるんですかお?」

( ゚∀゚)「ん~まぁ途中までな、まも用で違う街に行くんだ。つっても後から行くが。
     お前の方は国境まで馬車が連れて行ってくれる」
     
 ジョルジュは適当な岩を見つけ腰掛ける。

( ゚∀゚)「あ~あ。馬車遅せぇ…」

 悪態を言いながら、両手を後ろにつき足をばたつかせている。
 威厳も何もあったものでは無い。

( ^ω^)「……」

 しかし、なぜ僕なんかを助けてくれるのだろう。
 気になっていた事をジョルジュに聞いてみる。

44: 2009/03/04(水) 22:45:44.75 ID:YPALg/Mt0

( ゚∀゚)「ん? 仮面の奴と戦ってる時の礼だ。
     ま、俺も大戦の時いろんな奴に助けてもらったからな。
     困った時はお互い様ってヤツ?」

 そんな答えが返ってきた。

 大戦か。
 この人も世界を旅したのだろう。

 守護者の旅を思い浮かべながら、視線を南へと続く道へと向ける。
 緩やかに風が流れた。

( ^ω^)「……いい天気だお」

 再び空を見上げると青が視界を埋めた。
 穏やかな太陽の光が降り注ぐ。

 やはり、いい天気だ。
 空を暫く眺めていた。

 そう言えばもう冬になる。

 目の前にはどこまでも続く平原、霞む山々。
 まばらな山に囲まれた国である事を思い出した。 

 遥か彼方に映る【塔】が空の先までに細い一本の線を引いていた。
 いつから存在するかなんて誰も知らないが、毎日確かに存在している。
 天に向かって、どこまでも続く。いつもの様に。

45: 2009/03/04(水) 22:48:56.63 ID:YPALg/Mt0

 道に佇む。

 一筋の光が空を走り抜けていくのが見えた。
 こんな昼間に流れ星だろうか。
 空を走り、途中で別れ、霧散していく。
 随分前にもこんな流れ星を見た気がする。

( ゚∀゚)「…またあの流れ星か。最近多くね?」

( ^ω^)「え? 僕は久しぶりにみましたお」

 下らない会話をしながらこれまでの毎日を思い出し、
 今の状況と照らし合わせる。
 何が起こるか分からないものだ。
 先程から何度も思っていた事だった。

46: 2009/03/04(水) 22:52:19.69 ID:YPALg/Mt0

( ゚∀゚)「お、馬車来たぜ! 準備しろ」

 背負ったバッグから茶色いマントを取り出して羽織る。
 息を吸い込み、吐き出す。
 近くに馬車が止まった。

( ^ω^)「さて、行くかお」

 これから少しの間、国を離れるのだ。
 自分の意思ではないし、帰ってこられるかも分からない。
 
 その中に変化があると、理由なく思った。

 軽い足取りで一歩を踏み出した。


序章 色付く景色 完  第二話「正位置の『愚者』」 完



47: 2009/03/04(水) 22:54:18.61 ID:YPALg/Mt0
以上で今回の投下は終了します

49: 2009/03/04(水) 23:05:26.66 ID:FlFZd50kO
>>1


引用: ( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです